楊 朱 ようしゅう
ことば---------------------------------------------------------------------
「すでに死すれば、あにわれに在らんや。これを焚くもまた可なり、これを沈むるも
また可なり、これを疸むるもまた可なり、これを露わすもまた可なり」
「万物の異なるところのものは生なり。同じきところのものは死なり」
「人婚宦せざれば、情欲半ばを失い、人衣食せざれば、君臣の道やまん」
「人人一毫を損せず、人人天下を利せざれば、天下洽まらん」
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四つの魔物
楊朱がいった───
万物が異なるのは生きている問のこと、死ねばみんな同じだ。生きている問こそ賢愚
人々があくせくするのは四つの事のためだ。第一に長寿、第二に名声、第三に出世、
第四に財貨。この四つにとらわれている者は鬼神をおそれ、人をおそれ、権威をおそ
れ、刑罰をおそれる。これを自然にそむく者とよぼう。この場合、その人を生かした
り殺したり、運命を支配したりするのは自分以外のものである。
天命にさからわない人は、長寿が羨ましくない。身分にこだわらない人は、名声が羨
ましくない。羽振りをきかせようとしない人は、出世が羨ましくない。金持になろうと
しない人は財貨が羨ましくない。こうした無欲の人を自然のままの者とよぼう。自然の
ままの者には敵がいない。理会を制するのけ口分自身である。だから行からいうでは
ないか。
「人間、結婚したり仕官したりしなければ、欲望の半分はなくなる。着たり食ったり
しなければ、君主と人民の関係もななる」
【小さな遺伝子の円滑転写する仕組みを科学する】
2月8日、理化学研究所らの研究グループは、真核細胞の遺伝子発現を担う「RNAポ
リメラーゼII(RNAPII)」が、ヒストンに巻きついたDNA(ヌクレオソームDNA)を
スムーズにほどきながら塩基配列を読み取り、RNAに転写する仕組みを解明したこと
を公表。この研究成果は、DNAを核内にコンパクトに収納しつつ、DNAをスムーズに
転写することが真核細胞でどのように両立しているのかという生物学上の大きな謎に
応えるものであり、今後、転写伸長の制御やその破綻による疾患メカニズムについて
の研究が発展するものと期待される。
生命の設計図の遺伝情報は、細胞の核内にあるDNA(デオキシリボース)に塩基の配
列として保存されている。生物は遺伝子、このDNA(デオキシリボース)上で遺伝情
報が記された領域を、適切なときに適切な器官や組織、細胞で働かせ、個体を形成し
生命機能を維持している。
遺伝子を働かせるためには、遺伝子のDNA(デオキシリボース)配列がまずRNA(リ
ボ核酸)にコピー(転写)される必要があり、DNA→RNAへの転写をつかさどるRNA
(リボ核酸)ポリメラーゼは、全ての生物にとって必須の酵素。ヒトを含め真核生物
には3種類のRNAポリメラーゼが存在し、そのうち「RNAポリメラーゼII(RNAPII)
」がタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を担当。RNAPIIに
よる転写は、1秒間に数十塩基のRNAを正確に合成する極めてダイナミックな反応で
ある。
真核生物のDNAは、核内では「クロマチン」と呼ばれる高次構造をとって収納されて
いる。クロマチンはDNAとタンパク質の複合体であり、その基本単位は、ヒストンタ
ンパク質の周りにDNAが約1.7回(145~147塩基対)巻きついた「ヌクレオソーム」
である。クロマチンの高次構造の変化は、転写制御に関わり、ヌクレオソーム構造そ
のものは転写の進行に対する大きな障壁となっている。事実、研究グループが試験管
内で再構成したヌクレオソームとRNAPIIを反応させると、DNAを転写する途中でRNA
PIIがヌクレオソーム上の複数の位置で停止する様子が観察された。
一方、実際の細胞核内にはRNAPIIの転写伸長を補助するさまざまなタンパク質(転写
伸長因子)が存在し、ヌクレオソームDNAのスムーズな転写を実現していると考えられ
ているが、転写伸長因子がどのようにヌクレオソーム障壁を解除し、ヌクレオソーム
DNAの転写を可能にしているかは、よく分からずにいた。そこで、研究グループは先行
研究において、RNAPIIとDNA、RNA、および3種類の転写伸長因子を組み合わせた「
転写伸長複合体」を試験管内で再構成し、その構造を解明する。さらに18年には、
RNAPIIがヌクレオソームDNAを転写する仕組みを世界に先駆けて発表した。今回は
それらを組み合わせ、再構成したヌクレオソームにRNAPIIと転写伸長因子を反応させ
細胞核内での転写伸長反応を正確に再現することを試みる。
☑手法と成果
研究グループはまず、再構成系におけるRNAの合成効率を解析した結果、転写伸長因
子であるSpt4とSpt5の複合体(Spt4/5)とElf1が共存したときに、ヌクレオソーム上で
のRNAPIIの停止頻度が低下し、ヌクレオソームDNAを最後まで転写したRNAの量が劇的
に増大することを突き止めた(上図1)。次に、ヌクレオソームDNAの転写における
Spt4/5とElf1の役割をさらに詳しく調べるため、転写伸長因子を結合したRNAPIIがDNA
を転写する際の構造を「クライオ電子顕微鏡」で観察しました。その結果、SHL(–5)
とSHL(–1)の2カ所において一時停止した状態の複合体の構造を捉えることができた。
このとき、Spt4/5とElf1は一直線に並んだ状態で、RNAPIIとヌクレオソームの間に割
り込むように位置していた(下図2)。
図2 転写伸長中のRNAPII、転写伸長因子、ヌクレオソームの立体配置
【解説】クライオ電子顕微鏡により観察された立体構造。上段はDNAがSHL(-5)まで(
約20塩基対)、下段はSHL(-1)まで(約60塩基対)ほどけた状態。左図はRNAPIIの位
置を基準にそれぞれの立体配置を示しており、右図はその90°回転図で転写伸長因子
の側から見た場合。転写の伸長に伴い、RNAPIIに対するヌクレオソームの角度が変化
している。またSpt4/5とElf1は一直線に並んだ状態で、RNAPIIとヌクレオソームの間
に割り込むように位置しているのが分かる。この構造により、スムーズな転写が可能
になる。
詳細な構造解析の結果、Spt4/5とElf1の存在により、①RNAPIIとヌクレオソームが直
接接触し、安定な停止状態に陥るのを防ぐ、②DNAとヒストンの間の結合を弱め、D
NAをヒストンから引き剥がしやすくするとともに再結合を抑制する、③ヌクレオソー
ムがRNAPIIに対して角度を変える動きを促進し、RNAPIIが転写の停止箇所を乗り越
えて前進するのを助けるなど、ヌクレオソーム障壁を低下させ、RNAPIIの進行を促
進する仕組みが明らかにした。
これにより、RNAPII転写伸長複合体やヌクレオソームのようなDNAとタンパク質から
なる巨大複合体は、細胞内の自然な環境を反映した構造解析の難度が非常に高く、こ
れまで取り残されていた創薬対象の一つです。この研究で得られた知見から、今後、
転写制御やクロマチン構造の破綻による疾患や老化のメカニズムについての研究が発
展するものと期待できる。
【クライオ電子顕微鏡法とは何か】
クライオ電子顕微鏡法は、生体内の構造を染色することなく生のまま凍らせて観察す
る方法。従って、「クライオ電子顕微鏡」という顕微鏡があるわけではなく、高性能
な透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission electron microscopy)に、低温(-160~-270℃)
のまま観察出来る装備(クライオホルダーや、試料汚染防止装置)を備えたもの。
日本電子株式会社の電界放出形クライオ電子顕微鏡 CRYO ARM™ 200は冷陰極電界
放出形電子銃とインカラム形エネルギーフィルター(オメガフィルター)、サイドエン
トリー液体窒素冷却ステージ、最大12個の試料を保管できる自動試料交換機構を装
備したクライオ電子顕微鏡。 新設計のオメガフィルターとホールフリー位相板を組
み合わせて使用することにより、生物系試料のさらなるコントラストの向上を実現す
る。
人間の体内には約10万種類のタンパク質がある。体の組織をつくるもの、酵素として
代謝を担うもの、細胞膜上で栄養素などをやりとりするもの、抗体として外敵を攻撃
するものなど、それぞれに役割があり、それはまさに生命活動そのものといえる。タ
ンパク質はいわば生体内で働く"ナノマシン"。そんな小さな"機械"がどんな役割を持
って、どうやって動いているのか、興味は尽きない。
タンパク質はアミノ酸が数百から数千個連なった高分子だ。一部特殊なものを除き、
その材料となるアミノ酸は20種類しかない。それらがどう組み合わさるかで10万
もの種類が出現する。一連なりになっているという点では同じだが、鎖と決定的に違
うのは、タンパク質はそれぞれ固有の立体構造を持つ。長いアミノ酸の鎖が複雑に折
りたたまれるようにしてできており、同じタンパク質であれば、どれをとってもまっ
たく同じところで曲がり、その角度も同じになる。ただし、その折れ方がときに変わ
ることがある。興味深いのは、同じ分子構造でも立体構造が違うだけでまったく違う
性質を持つようになる。例えば、2000年代の初頭に大きな問題となり、飲食業界をパ
ニックに陥れたBSEの原因はウイルスでも薬剤でもなく、プリオンというタンパク質。
このプリオン、人間や牛の脳に存在していが、BSEの原因となった異常プリオンは、
立体構造が一部違うだけ。タンパク質の働きを知るには、分析装置でその分子構造を
知るだけでなく、何とかしてその立体的に観察しなければならない理由がここにある。
ところで、分子モータと呼ばれる一群のタンパク質は、あたかもモーターのように回
転運動をしたり直線運動する。ヒトの筋肉の場合、アクチンやミオシンといったタン
パク質が組み合わさって筋原繊維を形成し、これが直線運動することで筋収縮を起こ
す。よりモータらしいのは、バクテリアが持つ細長いしっぽのような形状をしたべん
毛を動かしている分子モータ。大腸菌やサルモネラ菌は数本のべん毛を持ち、移動す
るときはそれらを一筋に束ねて、スクリューのように回転させて推進力を得ている。
しかし、それらの構造は長らく不明のままだった。べん毛モータは"モーター"の名の
通り、リングや軸受け、回転子など30種類のタンパク湿の部品からなり、一般の電
気モータと非常似通った構造を持っている。筋繊維はアクチン繊維とミオシン繊維の
超精密で膨大な繰り返し構造でできている。モータは、人間が生み出した最大の発明
のひとつ。
モータとして運動するからには、どこからかエネルギー調達しなければならない。べ
ん毛モータは細胞膜を貫通する固定子のチャネルを通した水素イオンの流れ、筋繊維
はアクトミオシンのATP加水分解であるとわかっていたが、それだけではエネルギー
効率の高さが説明ができない。熱ゆらぎによるブラウン運動のエネルギーが使われて
いるのではとの考えもあるがその仕組みは不明。熱のもとは原子や分子の揺らぎのエ
ネルギーで、物体を原子レベルまで拡大して見れば、でたらめな向きやスピードで動
き回る原子や分子。熱による分子や原子のランダムな動きでは、分子モーターとても
一方向の推進力を作り出せないはずだが実際には一方向に動く。つまり、でたらめな
運動が整流されるしくみがあるように考えられる。筋繊維のアクトミオシンには一方
向にのみはずれやすく、他方向にははずれにくくなるラチェットのような構造がある
ことを発見された。タンパク質分子が立体構造を変化させながら、この巧みな動力シ
ステムを作り上げていた。
【関連特許】特開2018-129163 試料移動装置及び電子顕微鏡 日本電子株式会社
Feb.7, 2019
【飲むだけで自動インスリン投与 新型カプセル;S.O.M.A.】
2月7日、マサチューセッツ工科大学(MIT)らの研究グループは、糖尿病の治療に用
いられるインスリンはその性質上、普通の錠剤のように口から飲んでも十分な効果が
得られず、注射器で直接体内に投与していたが、飲むだけで投与できる新型カプセル
「S.O.M.A.」を開発したことを公表した。開発されたのは「Self-Orienting Millimeter-
Scale Actuator(自己志向ミリメートル単位作動装置、S.O.M.A.)」と呼ばれるカプセル。
S.O.M.A.1粒は非常に小さく、直径19.05mmの1セント硬貨と並べるとそのサイズがよ
くわかる。もちろん投与後のカプセルはそのまま腸から排出する。上部がとがってい
て底部が平らな形状は、ヒョウモンガメを参考にする。この形状にすることで、胃が
動いてS.O.M.A.が転がってしまっても重力によって必ず上下が正しい向きとなり、S.
O.M.A.に内蔵された針が下を向く。凍結乾燥したインスリンで作られた針が、生分解
性のバネと共にカプセル内に収納され。針は糖で作られたストッパーによって固定さ
れ、胃の中の水分によってストッパーが溶解すると針が飛び出し、胃壁にインスリン
を注入するという仕組み。胃壁そのものには痛覚受容体が存在しないため、針で刺さ
れても痛くないという。また、S.O.M.A.は飲み込んでから1秒で胃に到着し、1分で
注射針が飛び出し、1時間ですべてのインスリンが血流に完全放出されるように設計
されている。
さらに、既にブタを対象にS.O.M.A.の投与実験が行われていて、300マイクログラム
のインスリン投与に成功しているそうです。インスリンの投与用量は5ミリグラムま
で増やすことができ、これは2型糖尿病の患者に投与される量にも匹敵するため、十
分実用が期待できるとのこと。また、血中インスリン濃度と血中グルコース濃度の変
化を見ると、S.O.M.A.で投与した場合も皮下注射で投与した場合と同程度にインスリ
ンの効果が確認している。同研究チームは、S.O.M.A.を利用することでインスリン以
外にもワクチンやDNA製剤、酵素、ホルモン剤、免疫抗体などさまざまな医薬品を簡
単に経口投与できるとのこと。
【エネルギー通貨制時代 53】
”Anytime, anywhere ¥1/kWh Era”
Mar. 3, 2017
【蓄電池事業篇:スパコンがリチウムイオン電池開発に貢献】
スーパーコンピューティングは二次元材料の研究に役立つ
昨年、11月28日、Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorfの研究グループ(Arkady
Krasheninnikov博士)は、2枚のグラフェンシート間に置いたリチウム原子の挙動/グ
ラフェンシート(1原子の厚みの)で2次元材料を。透過型電子顕微鏡(TEM)でリ
チウム原子挙動観察に成功したことを公表。。ガウスセンタ(GCS)のスーパーコン
ピューティングで、同研究グループは、2層グラフェン間ののリチウム原子の挙動を
リアルタイム観察することに成功。高温超伝導体であり、液体を完全に吸収し曲げる
ことができるエネルギー貯蔵デバイスであることを観測した。これにより、固体の原
子の相互作用の状態変化を観測できことを確認した。☈
図2.その場TEM測定a~c、リチウム化中に二層グラフェンの内部に形成されるLi結
晶の伝播前面(白い破線)を示すTEM画像。上に示すように、画像は同じサンプル
領域で連続した時間に取得される。非晶質炭化水素吸着質は、二層の上または下に位
置し、幅数ナノメートルの小塊として見える。 aの挿入図はそのフーリエ変換である。
パネルd~gは、パネルbに関する詳細な情報を提供します。 d、bのフーリエ変換。
赤、緑、青でマークされた3組のスポットは、3つの異なるLi結晶粒から生じるため、
互いに回転する。十字形の縞はフーリエ変換からのエッジアーティファクトである。
e、dからのカラーコーディングを使用したb内のLi粒子の空間分布。 fのフォンハン
フーリエ変換b。フーリエ変換は点対称であるため、左側のマークは情報を隠しない。
二層グラフェン(Li)からのシグナルはシアン(緑色)でハイライトされている。モ
アレアーチファクトの起源は太字のマゼンタで強調。Li信号の異方性の不鮮明化は
鋭い伝播面によるものである。
☈ 多くの炭素同素体は、可逆的リチウム取り込み1,2のホスト材料として作用する
ことができ、これによって既存および将来の電気化学エネルギー貯蔵の基礎を築くこ
とができるが、リチウムがこれらのホスト内でどのように配置されているかについて
の洞察は、稼働中のシステムから取得するのは困難である。例えば、軽元素(特にリ
チウム)6,7を探査するためのその場透過型電子顕微鏡 4、5の使用は、衝突電子に対
するそれらの低い散乱断面積およびノックオン損傷に対する感受性8によって厳しく
妨げられている。ここではントラストと解像度を要求されるレベルまで向上させるの
に、球面収差補正と色収差補正9 の両方を使用してin situ 低電圧透過型電子顕微鏡に
より、二層グラフェンへのリチウムの可逆的インターカレーション(Intercalation)を
確認。また、顕微鏡法は、電子エネルギー損失分光法および密度汎関数理論計算に
より説明される。長くて狭い二層の一端を覆う電気化学セルからのそれらの遠隔挿入
に関して、リチウム原子が2つのカーボンシートの間の多層最密秩序をとっているこ
と確認した。この超相に関連するリチウム貯蔵容量は、LiC6の形成から予想よりもは
るかに超えていた。これは、通常の条件下でバルクグラファイトカーボン10 内のリチ
ウムインターカレーションで知られている最も密な構造である。したがって、この発
見は、それらのバルク親化合物と比較して、二次元層状材料中のイオンの明確な貯蔵
配置の存在の可能性を示すものである。
図3. DFT計算から得られたAB積層グラフェンシート間のLi結晶の原子論的モデル a、b、
「従来の」C6LiC6
の脱リチウム化中の原画像のデジタル暗視野バージョンの時系列。 時間はパネルの
上部に表示される。面内配向の異なる結晶粒は、赤、緑、青に着色されている。増加
した量の非晶質固定化残基(灰色の領域)。
この場合、Krasheninnikovらは、材料中の粒子の位置は安定していないことを発見。こ
材料が量子力学の法則に反する。シミュレーションデータを使用し異なる原子構造を
提案、2つのグラフェンシートの間にリチウム原子が配置されたときにリチウム原子
がどのように振る舞うかをリアルタイムで観察することができ、シミュレーションの
助けを借りて、原子がどのように配置されるかについて洞察を得ました。 そのような
配置では、リチウムは単一原子層として構造化されると以前は想定されていたが、シ
ミュレーションはリチウムが少なくとも2層グラフェンで2層または3層を形成でき
ることを示し。 バッテリー効率を向上させた。
Chet Baker Almost blue