学 而 がくじ
ことば-------------------------------------------------------------------------
「学びて時にこれを習う、また説ばしからずや。朋あり遠方より来たる……」(1)
「巧言令色、鮮なし仁」(3)
「過ちては、すなわち改むるに憚るなかれ」(8)
「三年父の道を改むることなきは、孝と謂うべし」(11)
「人のおのれを知らざるを患えず。人を知らざるを患う」(16)
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9 上に立つ者が、親の葬礼に心をこめ、また先祖の祭りをゆるがせにしない気風を示す
ならば、一般社会の慣習もおのずと醇化されよう。(曽子)
10 子禽が兄弟子の子貢にたずねた。わたしたちの先生は、どこの国へ行っても政治の
相談にあずかりますが、先生のほうから働きかけてそうなるのですか、それとも相手から
招かれるのですか」
「先生の場合は、あの温良でつつしみ深いお人柄が、自然にそうさせるのだ。つまり、働
きかけるやり方がほかの人だちとはちがうというわけだ」
〈子禽〉 孔子の弟子。姓は陳、字は子亢几、または子禽。陣の人。孔子より四十歳の年
少。子貢の弟子だともいわれる。
〈子貢〉 孔子の弟子。姓は瑞木、名は賜。衛の人で、孔子より三十一歳年少であった。
才子肌で弁舌にすぐれ、魯の外交交渉に活躍したことが『左伝』『史記』などに記されて
いる。
11 父の在世中は、何事につけ父の意志を尊重し、父が亡くなってからも、喪中の三年
くらいは生前のしきたりに従う。これでこそ子として孝養をつくしたといえよう。(孔子)
12 礼は厳格なものだ。しかしそれを行なうには和の心が根本になければならない。古
代の聖王の道がすぐれているのも、この和の心あればこそだ。とはいえ、どんな場合でも
和の心さえあれば十分だというのではない。いかにも和は大切だが、一方で礼による折り
目がないと、せっかくの和もうまくゆかぬことがある。(有子)
12 礼は厳格なものだ。しかしそれを行なうには和の心が根本になければならない。古
代の聖王の道がすぐれているのも、この和の心あればこそだ。とはいえ、どんな場合でも
和の心さえあれば十分だというのではない。いかにも和は大切だが、一方で礼による折り
目がないと、せっかくの和もうまくゆかぬことがある。(有子)
13 約束は、道義にかな゜ていてこそ最後まで履行できる・恭敬はヽ礼に正しく従って
こそ卑屈から救われる。交際は、相手をよく見定めてこそ永続きする。(有子)
14 君子は飲食や住居など、安楽を求める肉体の欲望に負けてはならない。やるべき仕
事はてきぱき片づけ、発言には責任をもつこと。さらにその道の先達に師事して、独善性
から脱却すること。こうあってこそ学問を愛するものといえるだろう。(孔子)
15 子貢が孔子にたずねた。
「貧乏でも卑屈にならない、富んでいても傲慢でない、こういう人間はえらいと思います
が」
「まず立派だろうね。だが、貧乏でも人生を楽しみ、富んでいてもすすんで礼を守る、こ
ういう人物には一歩譲るね」
「つまり、詩経のなかの。いやがうえにもみがきをかけよ〃という一句、あの心ですね」
「そのとおりだ、それでこそ詩がわかるというものだ。ほかのことで話しあっているうち
に、連想がすぐ詩の再発見の方向へゆくのだから
〈子貢〉 かれの鋭敏さはしばしば語られる。
〈いやがうえにも……〉『詩経』衛風、洪漢篇にみえる。以後、『詩経』についてたびた
び語られるが、これはその最初。詩は、音楽などとともに、支配階級に属する者(君子)
の文化的教養として必須であった。
16 他人が一向に自分を認めてくれない、と不平をかこつのは筋違いだ。自分こそ他人
の真価を理解できずにいないか、それを気にすべきである。(孔子)
【エネルギー通代 64】
”Anytime, anywhere ¥1/kWh Era”
読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』
第2部 第8章
エドウィンは、機会を狙っていた泥棒のようにさっと前に出て、草にしやがみ込むと、結
び目を引っ張りはじめた。紐は細く粗く、少女の手首に容赦なく食い込んでいた。対照的
に、広げられ、重ねられた手のひらは、小さくて、柔らかかった。最初、結び目はびくと
もしなかった。だが、エドウィンは気持ちを落ち着かせ、紐の通っている道筋を注意深く
調べた。
もう.度やってみると、結び目に緩みができた。エドウィンは自信をもってほどきはじめ
た,ときおり柔らかい手のひらに目をやると、それはおとなしい二匹の生き物のようにじ
っと待っていた。
ようやく紐を引き抜くと、少女は起き直り、エドウィンと向かい合うようにすわった。突
然、二人の距離が近すぎるように感じられ、エドウィンはどぎまぎした。少女のにおいは
ほかの人と違う、と思った。古びたうんこじやなくて、湿った薪を燃やしたときのにおい
だ………
「あいつらが帰ったら、葦の茂みを引きずり回されて、半殺しにされるわよ」と少女はそ
っと言た。一行きなよ。付に戻ったほうがいい」少女はおずおずと───自分の命令どお
り動くか不破かのように手を伸ばしし、エドウィンの胸を押した。「行って,早く」
「ぼく、怖くないよ」
「うん、あんたは怖くない。でもね、怖くなくてもやられるの。あんたは助けてくれた。
でも、もう行って。早く、早く」
エドウィンは夕暮れ前にその池に来てみた。少女が寝ていた場所は草が倒れたままだった
が、それ以外に少女がいたことを示すものはなかった。
ただ、不気味なほど静かな場所に思えた。エドウィンはしばらく草の上にすわり、風に揺
れる蒲を見ていた。
エドウィンは少女のことを誰にも話さなかった。すぐに悪魔だと騒ぎ立てる叔母はもちろ
ん、少年たちの誰にも話していない。だが、その後の数週間というもの、思いがけないと
きに少女の面影が鮮明によみがえってくることが何度もあった。ときには夜、夢の中で。
だが、多くは昼目中、たとえば地面を掘っていたり、屋根修理の手伝いをしていたりする
とき。そんなとき、決まって股座に悪魔の角が生えてくる。最後に角は消えるが、あとに
恥の感覚が残る。少女の言葉がよみがえってくる。「なんでここに来たの,お母さんを助
けにいけばいいのに」
でも、母さんのところへどうやって………少女自身も、エドウィンのことを「まだ子供じ
ゃない」と言っていた。その一方で、「もうほとんど大人でしょ」とも言っていた。その
言葉を思い出すたび、恥ずかしさが戻る。先へどう進めばいいのか、道はなかなか見えず
にいた。だが、ウィスタンが納屋のドアを開け放ち、そこから目もくらむような光が押し
入ってきたとき、すべてが変わった。使命を果たすべく選ばれた男ウィスタンはエドウィ
ンをそう呼び、そしていま、二人はここにいる。これから国中を旅してまわる。きっと母
さんとも連からず出会えるだろう。そのとき、母さんと一緒に旅をしている連中は震え上
がる。
だが、ぼくはほんとうに母さんの声でトンネルに導かれたのだろうか。
ただ兵隊が怖かっただけではないのか……。衿い僧の後ろについて、流れ下る小川沿いに
まだ人の足で踏まれたことなどないような小道を歩きながら、エドウィンはそんな疑問を
もった,目が覚めて、古い塔の周りを兵隊が走りまわっているのを窓から見た。あれで怖
くなっただけではないのか。違うとはっきり言えるのか………だが、いますべてを注意深
く思い出してみて、自分に恐れはなかったとエドウィンは確信した。それに、もっ
カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』