彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救
ったと伝えられる "招き猫”と、井伊軍団のシンボルとも言える赤
備え(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした
部隊編成のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
17 陽 貨 よ う か
--------------------------------------------------------------
「性、相近し、習、相達し」(2)
「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん」(4)
「道に聴きて塗に説くは、徳をこれ棄つるなり」(14)
「ただ、女子と小人とは養い難しとなす」(25)
「年四十にして悪まるるは、それ終わらんのみ」(26)
--------------------------------------------------------------
17 子曰く、巧言令色、鮮なし仁。
子曰、巧言令色、鮮矣仁。
言葉巧みに世辞を言い愛想笑いの上手い人間に人格者はいないものだ。
Confucius said,"People who use compliments and a put-on smile
have little virtue."
インドで「二重変異株」を確認
新型コロナウイルスの「二重変異株」がインドで確認された。1つ
のウイルス内で2つの変異が見られるもので、保健当局が感染力の
強さやワクチンの効力などについて調べている。二重変異株は、イ
ンドの18州で集められた計1万787のサンプルの中で見つかった。こ
のサンプルからは、イギリス型の変異株も736、南アフリカ型は34、
ブラジル型も1つ、それぞれ確認された。当局は、最近のインドで
の感染者数の急増と変異株には、関連がないとしている。インドで
は24日、新型ウイルスの感染者4万7262人と、死者275人が新たに報
告された。1日あたりの人数としては今年最大となった。ウイルス
学者シャヒド・ジャミール博士は、新型ウイルスのスパイクタンパ
ク質の主要部分で起きた二重変異は、リスクを高め、新型ウイルス
が免疫システムから逃れることを可能にするかもしれない」と話し
た。政府によると、西部マハラシュトラ州で集められたサンプルで、
昨年12月に比べ、「E484QとL452Rの変異が見られるものの割合増加」
が認められたという。保健省は、そうした(二重の)変異により(
新型ウイルスに)免疫逃避(免疫を逃れる能力)がついたり、感染
力が増したりすると声明で説明。ジャミール博士は、L452RとE484Q
の変異が同時に起きている新たな株が、インドで発生しているので
はないかと述べた。インドではこれまでに、新型ウイルスの感染者
が1170万人を超え、死者は約16万人に上っている。今月になって感
染がまた急拡大しているが、医療制度は過去1年にわたる新型ウイル
スとの闘いで限界状態にある。各州は、夜間外出禁止や断続的なロ
ックダウンなど、制限措置を再導入している。主要都市のデリーと
ムンバイは、空港や鉄道駅、ショッピングモールなど多くの人が行
き交う場所で、簡易検査をランダムに実施している。
二重変異は心配すべきか――スミサ・ムンダサド、BBC保健担当記者
「二重変異ウイルス」というのは、怖い言葉だ。要するに、1つの
新型ウイルス変異株の別々の部分で2つの大きな変異(または変化)
を、インドの科学者たちが確認したのだ。それ自体は驚きではない。
ウイルスは常に変異しているからだ。それよりも、この二重変異の
存在が新型ウイルスの行動を変えるのかが、問題となる。感染力は
強いのか、症状を悪化させるのか、そして現在接種されているワク
チンは効くのかなども、大事なポイントだ。科学者は今後、懸命に
解明に取り組むことになる。当局は、二重変異の比率は今のところ
低いことから、これが現在のインドにおける感染急拡大の原因では
ないとみている。はっきりしているのは、二重変異はこれまでと違
った響きをもつが、公衆衛生上の対策は同じということだ。検査を
増やし、濃厚接触者を追跡し、素早く隔離する。マスクと社会的距
離も大事だ。インドのオーバーヒート状態の医療制度から、負担を
軽減する必要がある。ワクチンについては、世界各地の多くの変異
株に対して、これまでのところ有効だとされている。ただ、当初対
象としていた新型ウイルスへの効果に比べると、有効性が落ちる場
合もある。必要となれば、現存するワクチンを新たな変異株に合わ
せて改良することは可能だと、科学者らは自信を示している。
出典:Coronavirus: 'Double mutant' Covid variant found in
India - BBC News(2021.4.25)
【ウイルス解体新書 ⑮】
第1章 ウイルスの現象学
第6節 エマージェンシーウイルスの系譜
6-1 人獣共通感染症とエマージング感染症
6-1-1 動物由来感染症
こうして、それまでは実験動物を使って行っていたウイルス研究に、
卵という単純な宿主が利用できるようになった。孵化鶏卵を用いる方
法は、その後いろいろと改善され、多くのウイルスで利用されるよう
になった。現在でもインフルエンザウイルスの分離やインフルエンザ
ワクチンの製造には、孵化鶏卵が用いられている。
私が北里研究所に入って最初に行ったのは天然痘ワクチンの耐熱性の
改善であった。そしてそれと並行して、耐熱性の鶏痘ワクチンの開発
研究も行った。そこでは、この孵化鶏卵が重要な実験手段であった。
なおこの孵化鶏卵の方法はウイルス研究には非常に役立ったが、あま
りにも便利であったため、ウイルス増殖をほかの組織で試みる努力が
なされず、そのために培養細胞の実験系が生まれるのが遅れたともみ
なされている。
培養細胞でのウイルス研究の造を開いたのは、米国のジョン・エンダ
ースである。1949年、彼はヒトの胎児の腎臓などの細胞培養でポリオ
ウイルスを増殖させることに成功し、ウイルス感染細胞の破壊を指標
として、ウイルスの量の測定が可能であると発表した。
続いて1954年には、同じ方法で麻疹患者から麻疹ウイルスを分離した。
エンダースが分離した麻疹ウイルスがもとになって、その数年後、麻
疹ワクチンが開発された。エンダースは、組織培養によるポリオウイ
ルスの研究に対して、1954年にノーベル賞が与えられた。
ここで初めて、動物や孵化鶏卵ではなく、試験管内の培養細胞でウイ
ルスを研究できるようになった。一方、細菌を宿主とするウイルス(
バクテリオファージ。通常ファ-ジと呼ばれる)の定量法はすでに開
発され、広く利用されていた。ファ-ジは細菌を破壊するため、全面
に最近が増殖しているシャ-レにファージのサンプルを接種すると、
ファージの増えた部分では細菌が破壊されて穴(プラーク)があく。
このプラークの数から、バクテリオファージの量を測定するという方
法であった。
ウイルスを定量的に取り扱うという点では、ファージの分野のほうが
先行していたのである。この方法を、ダルベッコが培養細胞でのウイ
ルス感染に応用して、ウイルスの細胞破壊による細胞の穴(プラーク)
の数からウイルスを定量する方法を間発し、1952年に発表した。動物
や孵化鶏卵でのウイルスの量の測定に苦労していた私たちにとって、
この方法はまさに夢のような話であった。61年に米国カリフォルニア
大学に留学してからは、私自身もこの方法を用いるようになった。
6-2 マールブルグ病
6-2-1 ミドリザルからの感染
1967年夏、私たちウイルス研究者にとって衝撃的なニュースが飛び
込んできた。西ドイツのマールブルグとフランクフルトで、研究所
職員らがミドリザルから致死的出血熱に感染し、死亡したという。
それ以上の詳細はわからない。マスコミは原因不明のミドリザル病
として大々的に報道した。ミドリザルは、かねてから私たちの研究
活動に欠かせない動物であった。致死的感染が起きたとすれば、わ
れわれも同じ危険にさらされているのかもしれなかった。
当時、私は国立予防衛生研究所(予研・現在の国立感染症研究所)
で、麻疹ウイルス研究と麻疹ワクチンの国家検定に取り組んでいた。
サルはこれらの研究には不可欠な実験動物である。
サルを扱う研究者として、私たちはサルに由来する実験室感染につ
いてそれなりの心得も関心も持っていた。その中には、Bウイルス
病といった致死的な感染症も含まれている(コラム参照)。したが
って、感染予防の対策は踏まえていた。だが、西ドイツで起きた事
態は、私たち研究者にとってもそれが未知の感染症であることをう
かがわせるものだった。
現在とは違い、インターネットなどの国際情報網はない時代である。
WHOから発表される公式情報のほか、サルの輸入業者などからの
テレックスといった非公式情報を會めても、人手できる情報はごく
限られていた。事態を把握するのに苦労したことを思い出す。
8月8日の最初の発生から1ヵ月を経て、医学的データがしだいに
明らかになってきた。しかし、原因はまったく不明で、未知のウイ
ルスによるものであること、ミドリザルが感染源であるということ
以外、何もわからない。一方、ユーゴスラビアのベオグラードでも、
同じ輸入ルートのミドリザルから感染が起きていたことが判明した。
感染源となったミドリゲルについての詳しい情報が米国の疾病制圧
予防センタ(CDC)からもたらされたのは、11月になってから
であった。
当時、私のいた予研では、実験用のサルが輸入されると、ツベルク
リン反応による結核の検査、Bウイルス感染を疑わせるような口腔
粘膜のヘルペス潰瘍の有無、糞便についての赤痢菌の検査などを含
め、9週間にわたる検疫を行い、それを通過した後にはじめてサル
を実験に用いるシステムを採用していた。この方法は、その後WH
Oが1971年に決定した6週間の検疫よりも、さらに威しい検疫シス
テムだった。
しかし、もしもこのミドリザル病に感染したミドリゲルが輸入され
たなら、この検疫を行うシステムそのものが実験者を危険にさらす
ことになる。
私がまとめ役を務めていた実験動物委員会のサル部会で、さっそく
緊急対策が検討された。西ドイツのケースでは、感染源となったミ
ドリザルがすべて2週間以内に発病・死亡していることから、輸人
後最初の4週間は給餌などの最低限の作業にとどめ、ミドリザルと
の接触の機会をできるだけ減らすことにした。もしも感染したサル
がいれば、その間に発病するはずである。この威重な観察期間を終
えた後に、ツベルクリン反応など通常の検疫を行うことになった。
つまり、ウイルス感染のチェックを経てから通常の検疫を行うとい
う、二段階の検疫システムを導入したのである。
西ドイツで起きた未知のウイルス感染は、その後、経緯や詳細が明
らかとなり、さらに原因ウイルスの分離も行われた。致死的出血熱
という第一報も衝撃的だったが、新たに判明したいくつかの事実も
また、さらなる波紋や関心を呼んだ。詳細を以下に紹介する。
感染発生の舞台となった西ドイツの二つの研究所、マールブルグの
ベーリング研究所とフランクフルトのエールリヒ研究所は、いずれ
もポリオワクチンの製造と検定を行っていた。そのため、1960年代
初めから5年間にわたって、アフリカ産の野生のミドリリサルが犬
量に使用されていた。その輸人数は、ベーリング研究所では毎週約
100頭、エールリヒ研究所では1週間おきに約20頭に上ってい
た。
感染源となったミドリゲルは、ウガンダ産であった。その足取りを
たどると、まずウガンダのエンテベ空港から英国航空でひとまずロ
ンドンに空輸され、そこでいったん王立動物虐待防止協会の管理に
よる動物保護室に入れられた。ここで貨物の積み替えが行われ、ひ
とつはデュッセルドルフ経由でフランクフルトとマールブルグヘ、
もうひとつはミュンヘン経由でベオグラードヘ運ばれていた。こう
したルートで1967年7月末から8月上旬にかけて、四回にわたって
輸入されたものであった。同じ時期、実は東京にも500頭が運ば
れていたのだが、幸い日本に輸入されたサルで感染しているものは
いなかった。
これら3ヵ所の研究所では、サルが輸入されてから3ヵ月の間に、
合わせて31名の関係者が感染し、そのうち7名が死亡。致死率は
23%になる。感染はサルの血液や組織を直接取り扱った者だでな
く、腎臓の細胞培養に用いたガラス器具の洗浄に携わった者でも起
きた。症状は突然の発汗に始まり、続いて激しい頭痛と筋肉痛が、
さらに吐き気、下痢、胞痛が起きた。もっとも特徴的な症状は発病
5日目くらいから出てくる発疹で、最初は針先程度の小さな赤黒い
斑点が生じ、のちに赤い斑点となり、3、4日で消滅する。死亡し
た人の場合、ウイルスが血管壁の内側の細胞を確壊し、全身の血管
の中で血液凝固が起こったため、内臓出血が引き起こされたとみな
された。これが主な死因と考えられている。
31名の患者のうち、サルからの1次感染は25名、あとの6名は
2次感染であり、この6名はすべて回復している。二次感染者の多
くは、1次感染者の家族に発生している。たとえば、第6番目の二
次感染者は女性だが、感染から回復した夫の精液中にウイルスが残
っていたため、性交を通じて感染した。これは、発病後83日目に
行った感染者の精液の検秀でウイルスが検出されたことから確認さ
れた。
西ドイツでの事件から8年後の1975年、こんどはアフリカのジンバ
ブエで二度目の発生が起きた。ヒッチハイクで旅行中の20歳のオ
ーストラリア人の青年が、ある朝川の近くの道端で腰を下ろしてい
た時に右足に鋭い痛みを感じた。赤く腫れていたことから、何か虫
に刺されたらしいと思ったという。6日後、急にはげしい汗が吹き
出し始め、強い倦意慾に襲われた。その四日後、激しい内臓の出血
で青年は死亡した。現在では、コウモリに咬まれて感染したと考え
られている。
彼が死亡した二日後、一緒に旅行していた19歳の女友達が続いて
発病し、さらに、青年の看護にあたっていた看護師も発病したが、
彼女たちは2人とも回復した。この看護師の場合は、患者の青年が
死亡した際に、同伴者の女友達の涙をぬぐったテイッシユペーパー
の始末を手伝っており、涙を介しての感染が疑われている。それ以
外に、看護師が青年や女性の排泄物や分泌物と接触した機会はなか
った。
原因ウイルスは、前述の回復後の患者の精液と同様に、眼にも長期
間存在し、涙の中に出てくる。この看護師は、回復からニカ月後に
片方の眼がブドウ膜炎にかかった。ブドウ膜とは、結膜の下から眼
球の内側を覆っている膜である。その際に前眼房水(これが眼から
あふれると涙になる)を検査したところ、ウイルスが検出された。
[コラム1]Bウイルス----健康なサルが保有する致死的ウイルス
Bウイルスの名は、われわれ研究者を除くと、一般的にはあまり知
られていないかもしれない。だが、マールブルグ、ラッサ、エボラ
と並ぶ高度危険ウイルスであり、また、動物由来感染症の典型的な
例でもある。もともとBウイルスはサルに由来する感染症であるが、
サルからヒトヘ感染する病気としてもっとも古くから知られ、また、
その高い致死率ゆえに恐れられてきた。
Bウイルスは、次のような経緯で見つかった。1932年10月、ニュー
ヨーク市衛生局のポリオ研究部長を務めていたカナダ出身のウィリ
アム・ブレブナーが、実験中にアカゲザルに指を咬まれた。18日
後、彼は急性進行性髄膜脳炎による呼吸困難で死亡した。ニューヨ
ーク・ベルビュー病院のインターンであったアルバート・セービン
が剖検を行ってウイルスを分離し、患者のイニシャルをとってBウ
イルスと命名した。別名、サルヘルペスウイルスとも呼ばれている。
なお、セービンは後に、経ロポリオワクチン(通称セービンワクチ
ン)を間発している。
Bウイルスは、日常的にサルを扱うわれわれ研究者にとって最大の
注意を払うべき動物由来感染症であった。がってはBウイルス病の
治療方法がまったくなかったため、感染すればほぼ致命的であると
考えられていた。70年代までは、感染・発病して助かった人はほ
とんどいなかった。幸いなことに、サルによるヒトヘのBウイルス
感東側は、ほかのウイルスと比べればそれほど多くはない。1932年
の最初の報告事例から1994年までの発生件数は、全世界で40例以
下であった。感染例の大半は研究室感染で、患者の多くは研究者や
動物飼育員である。言うまでもないことだが、これは実験動物とし
て多数のサルを扱う機会が多いことによる。個別の発生状況を見る
と、まず1950年代後半に12例の感染が起きていた。これは、ポリオ
ワクチンの検定が始まり、多数のサルが実験に使用されるようにな
った時期と一致している。
1987年3月から4月にかけて、米国フロリダ州にある空軍宇宙医学研
究所で、一週間の間に立て続けに3例の感染が起こり、さらに1例
の二次感染が起こった。つまり、ヒトからヒトヘの感染が起きる。
1989年6月には、米国ミシガン州の研究所で、3人の動物飼育員が
サルから感染した。
2019年11月には、鹿児島の医薬品研究開発会社の動物実験施設で1
名の患者が発生していたことが明らかになった。その際に過去の事
例を調べたところ、以前に勤務していた元社員1名も感染して治療
を受けていたことが判明した。
サルにおけるBウイルス感染は、東南アジア産のサルでは普通に見
られるもので、アカゲザル、カニクイザルでもっとも頻繁に見つか
っている。ニホンザルやタイワンザルでも感染が見出されている。
Bウイルスは、自然宿主であるサルに対しては、ヒトの単純ヘルペ
スウイルスと非常によく似た方法で共存している。ウイルスは、サ
ルに感染すると神経細胞の中に潜在する。この状態ではウイルスは
排出されず、これといった症状も出現しない。サルはまったく正常
で、ウイルスはサルと-生共存する。ただし、サルが強い寒さやス
トレスなどにさらされると、ウイルスは神経繊維を伝わって口腔粘
膜に運ばれる。
そこでウイルスが増殖すると口唇潰瘍ができ、この時にはウイルス
が唾液の中に放出されている。このようなサルに咬まれたり、接触
したりすることで、ヒトヘの感染が起きる。
1997年、全国の国立大学医学部の動物実験施設で飼育されている約
千頭のサルについて、Bウイルスの抗体調査の結果が発表された。
それによると、約40%がBウイルスに感染していた。そのうちニ
ホンザルに限ると、約33%が感染していた。Bウイルスは当初、
レベル4(226頁参照)に分類されていたが、抗ヘルペス剤のアシ
クロビルなどの有効性が明らかになったことから、現在はレベル3
に分類されている。不思議なことにペットのサルから感染した事例
はない。医学実験用のサルのようなストレスが少ないためかもしれ
ない。しかし、Bウイルスの危険性があることは認識しておくべき
であろう。
6-2-2 メディアが描写したウイルス像
ジンバブエでの発生から五年後の1980年、こんどはケニアで三度目の
発生が起きた。死亡したのはケニア在住のフランス人エンジニアであ
る。病院の集中治療室で彼の治療にあたったシェム・ムソキという若
い医師も感染し、数週間生死の境をさまよったがなんとか回復した。
なお、この医師から分離されたウイルスは、彼の名前をとってムソキ
株と名づけられ、その後もマールブルグウイルスの代表株として研究
に広く利用されている。さらに1987年、同じケニアで四度目の発生が
起きた。この時の患者は、ケニアに住んでいる両親を訪ねてきたデン
マークの少年であった。
80年、87年のケニアにおける二度の発生は、ベストセラー『ホット・
ゾーン』の中でも詳しく描写されており、80年の発生で死亡したエン
ジニアは、同書にシャルル・モネの名前で登場する。
ただし原著では病気の恐ろしさが誇張して描かれている。日本語訳で
は独特の表現によってさらに恐怖が増幅されており、患者が死亡に至
る場面では「"人間ウイルス爆弾"はついに爆発する」「患者が"炸裂し、
放血した"」といった具合である。同書を読んで、マールブルグ病への
恐怖を印象づけられた人も多いかもしれない。なお、「炸裂」や「放
血」という表現は医学領域では聞かれない。原著では「the victim
has "crashed and bled"とあり、"すっかり血が出尽くした"といった
ニユアンスである。作製とか放血という言葉に訳しかことで、原著以
上に恐怖を煽っていると言えようか。なお邦訳の2020年版では、この
表現はご朋壊し、大出血したこと改められている。
マールブルグ病の異常さは、小説『悪魔のウイルス』で、ソ連の生物
兵器戦争に結びつけた物語にもなった。マールブルグ病の症状は、医
学的には前に述べたようなものである。私が、マールブルグ病の対策
リーダーとして活躍したルドルフ・ジーゲルト敦授から直接聞いた表
現と、『ホット・ゾーン』に描写された表現とでは、大きく隔たった
印象を受ける。医学的表現と小説的表現の違いなのであろうか。長年
このようなウイルス性出血熱患者の標本の病理検査を米国CDCと共
同で続けてきた倉田毅は、「ウイルス性出血熱」と題した論考の中で、
エボラ出血熱について次のように述べている。
"恐怖""身が溶ける""全身のすべての穴から血が吹き出す"との表現で、
マスコミ用語が先行し、多くの誤解が生まれている。現在存在するす
べての標本を見た限りでは、そのような誤解を招く症状はまったくな
い。ウイルスが血管内皮細胞〔血管の内側の細胞〕を標的とするの
で、消化管出血がはじまり、これが死に直結することが多い。これ
は、同じグループのウイルスで起こるマールブルグ病にもあてはまる
指摘である。
6-2-3 限られた設備でのウイルス分離
センセーショナルに描かれることの多いマールブルグ病だが、その原
因ウイルスの検出についてはさほど諧られていないようである。マー
ルブルグウイルスの分離は、1967年秋に、患者の血液を接種したモル
モットにより成功した。感染モルモットからさらに培養細胞でウイル
スが分離された、翌年になってからである。
この成果をあげたのは、マールブルグ大学公衆衛生研究所所長である
ルドルフ・ジーゲルトとヴェルナー・スレンツカたちのグループであ
る。1975年にジーゲルト教授を訪問した際、彼らがモルモット接種実
験を行った研究室が、今世紀初めにエミール・ベーリング(北里柴三
郎の共同研究者)が使っていた当時そのままの建物であることに驚か
された。古いレンガ造りの研究室は大学のキャンパスの中心にあり、
すぐ後ろにはエリザベート教会の塔がそびえている。ドイツには中世
から続く古都が多いが、マールブルグもその例にもれず、この教会が
街の広場であり、現在も市の中心となっている。このような都市の中
心の、しかも半世紀以上を経た古い建物の中で、マールブルブウイル
スは分離されたのである(図4 ツーゲルトと研究所の建物。後ろに
エリサベート教会の塔が見える)。
実験は、マスク、白衣、手袋といった古典的な防護手段のみで注意深
く行われた。モルモットがまず発熱し、その血液の中から電子顕微鏡
でウイルス粒子が発見された。現在のようなバイオハサード(微生物
災害)対策がまだ確立されていなかった時代の、最後の成果であろう。
現在、マールブマルグウイルスの取り扱いは、エボラウイルスと同じ
く最高度隔離のレベル4実験室においてでなければならない。だが当
時、未知の危険な感染症が発生した状況のただ中で、ほかに方法があ
っただろうか。研究者にとっては、与えられた状況の中でのぎりぎり
の選択ではなかったかと推察する。
ハンブルク大学医学部教授であった友人のレーマングルーベは、ちょ
うどこの分離実験が行われていた際、ジーゲルト教授の研究室でマー
ルブルグ病の対策にかかわっていた。後日、彼が語ったところによれ
ば、やはり当時としてもこの実験にはかなりの批判があり、しかし結
果的に実験者の感染がまったく起こらず、ウイルス分離に成功したこ
とで問題にならずにすんだのだという。
6-2-4 自然宿主の解明
1998年10月、コンゴ民主共和国北東部のダーバ村の廃棄された金鉱で
不法採掘を行っていた人々の間でマールブルグ病が発生した。154名
が発病し、致死率は83%に達した。2000年9月に終息したが、これ
は金鉱が洪水にさらされた時期に一致しており、分離ウイルスはいく
つもの遺伝子系列に分かれていた。ヒトからの直接感染ではこのよう
な変異は起きないため、採掘を行っていた洞窟に生息する自然宿主か
らの感染が疑われた。2007月7月と9月、ウガンダのキタカ洞窟の銅鉱
山でマールブルグ病の発生が起こり、四名が発病し一名が死亡した。
洞窟に自然宿主がいることを示唆されたため、CDC、WHO、ウガ
ンダ・ウイルス研究所などの合同調査チームがキタカ洞窟に入って、
そこに生息する約1300匹のコウモリを捕獲した。そのうら、5匹のエ
ジブトルーセットオオコウモリからエボラウイルスが分離された。こ
れらのコウモリには症状は見られなかった。ほかに、611匹のうちの
31匹(5・1%)からウイルス遺伝子が検出された。遺伝子の塩基配
列は一様ではなく、20%も異なるものまであり、さまざまな遺伝子
型のウイルスが同じ地域に存続していたことが明らかになった。患者
から分離されたウイルスの遺伝子の塩基配列ともかなりよく一致して
いた。
2008年には、キタカ洞窟の近く、クイーン・エリサベス国立公園内の
ファイトン洞窟を訪れた観光客が相次いでマールブルグ病にかかり、
死亡者も出た。この洞窟にも、4万匹以上のエジプトルーセットオオ
コウモリが生息している。1622匹を捕獲して調べた結果、7匹からウ
イルスが分離された。肺、腎臓、腸、生殖器でウイルス遺伝子が検出
されたことから、唾液、尿、糞便、交尾でウイルスがコウモリの間で
受け継がれていると推測されている。
6-2-5 最大の致死率を示したマールブルグ病の発生
2004年10月。最貧国のひとつであるアンゴラで出血熱が発生した。当
初は密かに広がっていたが、翌年になって発生が急増し始め、2月、
NGOのアフリカ医療援助組織のメンバーのイタリア人医師、マリア・
ボニーノと国連の児童保護専門家マトンド・アレクサンドルがラジオ
放送で警告を発した。これにより、アンゴラ政府とWHOは深刻な事
態に陥っていることを初めて認識した。ボニーノは出血熱にかかり死
亡した。アレクサンドルは魔法使いとみなされ、彼の叔母は地元で迫
害を受けたと伝えられた。
3月には死亡者は100名に進した。3月21日、CDCは12人の出血熱患
者のうち、9人のサンプルでマールブルグウイルスの存在を確認した。
この発生は2005年7月に終息した。370人以上の患者が発生し、致死率
は90%近かった。アンゴラでは2002年まで27年間続いた内戦のために
医療環境が最悪の状態にあり、医師不足や注射器の使い回しなどによ
りウイルス伝播が促進され過去最大の発生になったと考えられている。
CDCとカナダ公衆衛生局の調査で、患者だちから分解されたウイル
スのゲノム(全遺伝情報)の塩基配列はほぼ同一であり、最大でも
0.07%しか異なっていなかったことが明らかになった。ヒトからヒト
に直接感染が広がっていたことが、この成績からも推定された。マー
ルブルグウイルスは、アフリカの密林に生息するコウモリに潜んでい
たものが、輸入された野生動物(ミドリザル)を介して先進国に持ち
込まれたことで発見された。そして、きわめて危険なエマージングウ
イルスの存在を、われわれが初めて認識するきっかけとなったのであ
る。
6-3 ラッサ熱
6-4 エボラ出血熱
6-5 ハンタウイルス病
6-6 ヘンドラウイルス病
6-7 ニパウイルス脳炎
6-8 ウエストナイル熱
6-9 エマージング感染症はなぜ繰り返し現れるのか
出典:
第7節 嗅覚障害
7-1 新型コロナウイルスと嗅覚障害Ⅰ
新型コロナウイルス感染(COVID-19)の症状として、匂いの消失や低下
という嗅覚障害の報告が増加。ドイツではPCRで感染確定された3人の
うち2人以上が嗅覚障害を示し、韓国では PCR陽性患者で比較的軽症
な患者の30%が嗅覚障害を訴えている。このように軽症で他の症状が
ほとんどない患者で、嗅覚障害を示した患者数の報告が急速に増加し
ている。
一般的に感冒やインフルエンザなどのウイルスによる上気道感染後の
嗅覚障害は、成人における匂いの障害のもっとも主要な原因であり、
約40%がウイルス感染によるという。200 種類以上のウイルスが上気
道感染を引き起こし、その多くが感染後嗅覚障害の原因となる。この
ようなウイルス性上気道感染症では鼻粘膜の浮腫やうっ血、鼻汁など
により、鼻からの通気が障害され、鼻の深部~脳底部に位置する嗅細
胞(嗅神経の末端)に匂いが到達できないため、嗅覚障害が起こるこ
とが多い。しかし、COVID-19のようなコロナウイルスは神経親和性、
神経浸潤性があることが知られ、このウイルスによる嗅覚障害は嗅覚
システムをターゲットとするウイルスの神経毒性の特徴に由来すると
考えられる。
嗅覚機能検査として一般に行われるのは、静脈性嗅覚検査(アリナミ
ンテスト)。アリナミンR注射液(アリナミンFRはにおいの強度を弱
めており、本検査には適していない)を左上肢正中静脈から20秒かけ
て注入し、ニンニクまたはタマネギ臭が感知されるまでの時間(潜伏
時間:正常者平均8秒)と消失するまでの時間(持続時間:背右上者
平均70秒)を測定する。潜伏時間が延長し、持続時間が短縮している
場合に嗅覚低下、全く反応がない場合を嗅覚脱失と診断する。実際の
臨床現場では、COVID-19疑いの患者さんが来られた際に、血液検査と
ともにアリナミン検査を行うことが勧められている。
嗅覚障害を有する患者は塩味や甘味のような異なった味覚を感じるこ
とができ、すぐに味覚障害を示すことは少ないのですが、香りと味と
あわせた風味(flavor,フレーバー)が認識できなくなるので、香りが
しないと「風味が落ちて」しまう。したがって、嗅覚障害の患者は味
覚も低下していると診断されることが多い。
米国の耳鼻咽喉科医、Yan 女史の報告では、嗅覚障害および味覚障害
を有した場合は、他の原因よりCOVID-19感染の可能性が10倍以上高い。
嗅覚・味覚障害がCOVID-19の初期症状として重要であり、倦怠感とと
もに患者診断の共通の第一症状と考えている。この嗅覚障害の程度は
かなり重症な場合が多いのですが、幸いにも感染から回復する2-4週
後にはほとんどの患者(70%以上)がこれらの感覚障害からも回復す
ると報告されている。(出典:新型コロナウイルスと嗅覚障害 〜そ
の1〜- つくば難聴めまいセンタ)
7-2 新型コロナウイルスと嗅覚障害Ⅱ
7-3 新型コロナウイルスと嗅覚回復
7-3-1 4種のアロマを1日2回嗅ぐことで嗅覚回復
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の初期症状の1つに「嗅覚障害
」があるが、COVID-19から回復しても、人によっては失った嗅覚を取
り戻すのに非常に長い時間がかかる。そんな COVID-19 由来の嗅覚障
害にはアロマによるリハビリが有効であるという研究報告が届いた。
嗅覚や味覚の消失は、新型コロナウイルスの感染を高確率で予測でき
るといわれる。COVID-19によって嗅覚が消失するメカニズムは不明だ
が、一説には「神経周辺にある嗅細胞の支持細胞などへの障害により
て、嗅神経の機能が阻害されている可能性」が指摘されている。
【概要】
2019年のコロナウイルス病(COVID-19)と嗅覚機能障害との頻繁な関
連により、嗅覚喪失の治療に対する前例のない需要が生まれている全
身性コルチコステロイドは治療の選択肢と考えられてきたが、現在の
文献は、COVID-19関連の初期の嗅覚機能障害にこれらの治療法を使用
には要注意。以下理由は次のとおり。
(1)それらの有用性を裏付ける証拠が弱い。
(2)COVID-19関連の嗅覚機能障害の自然回復率が高い。
(3)コルチコステロイドにはよく知られた潜在的な副作用がある。
この適応症における全身ステロイドの有効性を調査するランダム化プ
ラセボ対照試験を奨励し、強力な証拠ベースによってサポートされ、
既知の副作用がない匂いトレーニングの検討法の最初の提案になるだ
ろう。
⛨ Systemic corticosteroids in coronavirus disease 2019 (COV
ID‐19)‐related smell dysfunction: an international view,
First published: 16 March 2021, https://doi.org/10.1002/alr.
22788
同研究グループの嗅覚障害の治療として、アロマを使った嗅覚のリハ
ビリテーションを推奨。2021年1月に発表された、嗅覚障害を訴える
COVID-19患者1363人を対象にした研究は、アロマを1日2回嗅ぐ嗅覚
のリハビリテーションを行った患者の95%が半年後に嗅覚を取り戻し
たことが報告されている。なお、使われたアロマは①クローブ・②ロ
ーズ・③レモン・④ユーカリの少なくとも4種類。そのリハビリー方
法は、①数カ月行う必要がある、②副作用なしに嗅覚障害から回復す
ることが期待できる。③香水・レモンの皮・バニラ・コーヒーなど、
なじみのある匂いに焦点を合わせ、それらを嗅ぎながら思い出を振り
返るのがいい。④最良の結果を得るには12週間ごとに匂いを変える必
要がある」と報告している。
⛨ Prevalence and 6‐month recovery of olfactory dysfunction:
a multicentre study of 1363 COVID‐19 patients. First publis-
hed:05 January 2021 https://doi.org/10.1111/joim.13209
出典:新型コロナで失った嗅覚を取り戻すには「4種のアロマを1日2
回嗅ぐこと」が有効、GIGAZINE(2021.4.28)
第8章 新型コロナウイルス
第1節 コロナウイルスの特徴
第2節 最初のコロナウイルスの発見
第3節 重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス
第4節 中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス
第5節 「次の新型コロナウイルス」に備える
第6節 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の出現
第9章 人類はどのような手段を持っているのか
第11章 ウイルスとともに生きる
第1節 バイオハザード対策の発展史
第2節 高度隔離施設の現場へ
第3節 病原体の管理基準
第4節 根絶の時代から共生の時代へ
環境にやさしい養豚業事業へ
4月27日、OISTの生物システムユニットの研究チームは、養豚原
水と曝気処理水の両方を処理する装置を開発。同装置では、細菌群
が養豚原水に含まれる有機物と曝気処理水に含まれる硝酸とリンを
除去。同装置は容易に組み立てられ、メンテナンスが少なくて済む。 -
実験室および沖縄の養豚場の両方で行われた実証実験で、同装置が
機能する。現在畜産農家で利用されている典型的な排水処理施設で
は曝気装置によって主に排水中の有機物処理を目的としており、ま
た排水中のアンモニウムを硝酸に変換しますが、硝酸をさらに分解
がない。また、硝酸は、人が摂取すると亜硝酸に変換され、血液の
酸素運搬能力に影響をきたし、メトヘモグロビン血症やブルーベビ
ー症候群を引き起こすが心配はなくなるという。さらに、長期実験
の結果、硝酸を除去する細菌の中で最も多くみられた脱窒菌は、電
子を受け取って増殖できる種であることがわかる。排水処理中に電
極に-0.4V〜-0.6Vの範囲で電圧を印加すると、その細菌が活性化さ
れ、より効率的に排水処理を行うことができた。これらの細菌は、
カソードチャンバー内の細菌群の60%以上を占め、その後も強い活
性を維持して高い硝酸還元率を達成した。また、養豚排水に含まれ
る有機物、特に揮発性脂肪酸が分解されることで悪臭が緩和され、
病原菌の数が減少したことも大きなメリットとなる。これまでの成
果にとても満足している。この装置は、予想していたよりもはるか
に効率的。さらに拡張性があり、低コストで組み立ても容易で、メ
ンテナンスも少なくて済みます。今後数年のうちに、県内の農家を
はじめ、日本本土や東南アジアの農村部など、同様の問題を抱える
地域で活用されることを期待できるという。
【要約】
この研究では高硝酸塩レベルと低有機炭素下で曝気ブタ廃水を使用
した生物電気化学システム(BES)のカソードチャンバーでの硝酸塩
除去の強化を脱窒経路に関与する窒素と細菌群集の関係に焦点を当
てて調査した。 陰極印加電位が-0.6V対AgCl / AgCl参照電極下の陰
イオン交換膜(AEM)を備えたBESは、99±2 mg L-1d-1の除去率を示
しました。 さらに、未処理の全強度廃水からの有機化合物は、0.46
g COD L-1 d-1の除去率でアノードチャンバー内で同時に除去され、
約5gのCODの初期濃度から61.4±0.5%の効率が達成した。 L-1、7日
間にわたって測定。 最高の微生物多様性は、-0.6 Vの電位下のBES
で検出された。これには、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus
などの独立栄養性脱窒菌が含まれる。
【要点】
①生および曝気されたブタの廃水は、生物電気化学システムを使用
し同時処理した。
②バイオカソード脱窒は、安定した長期操作のために最適化した。
③陰イオン交換膜は、陽イオン交換膜よりも優れた性能を示した。
④カソードを-0.6V(Ag / AgCl)に設定すると、最速の硝酸塩除去
実行した。
⑤独立栄養性脱窒細菌は、カソードで高度に濃縮された。
出典:排水から価値あるもの?新技術で環境にやさしい養豚業が可
能に、EurekAlert! Science News(2021.4.27)
TSMC次世代5nm➲&3nmプロセスは2022年に大量生産へ
AppleやAMDに半導体を供給している世界最大の半導体ファウンドリ
「TSMC」は、2020年6月から5nmプロセスによる半導体製品の製造を
正式に開始する。そんな中、TSMCのC・C・ウェイCEOが、次世代5nm
プロセス&3nmプロセスの大量生産開始時期や2nmプロセスの研究開
発状況について語っている。
●5nmプロセス「N5」
TSMCは、2020年6月に世界で初めて5nmプロセス「N5」での半導体製造
を開始した。すでに、N5は量産から2年目に入り、当初の計画よりも
優れた歩留まりを実現。2021年のN5の売上は、TSMCの半導体製造によ
る収益の20%に達すると予想しているN5製造の順調さを強調する。技
術系メディアのAnandTechによると、TSMCは生産した半導体の用途は
非開示だが、AnandTechは「N5はAppleのM1やApple A14 Bionicに使わ
れていることが分かっているという。N5がTSMC最大の顧客であるApple
が開発するSoCに用いられる。また、スマートフォンやHPCアプリケー
ションの需要の増加によって、N5の需要は今後数年間成長し続けると
予想している。AnandTechはたHPCアプリケーションには、CPU・GPU・
FPGA・AIアクセラレータ・ゲーム機に搭載されたSoCなど、さまざま
な種類の製品が含まれている。N5がどの製品に採用されいているかは
分からないが、HPCアプリケーションにおけるN5の採用が進んでいる
ことは重要な事実であると言う。
香港に拠点を置く金融企業「China Renaissance Securities」のアナ
リストは、TSMCのN5が1平方mm当たり約1億7000万のトランジスタを備
えていると推測。これに対してSamsungの5nmプロセスは1平方mm当た
り約1億2500万~1億3000万、Intelの10nmプロセスでは1平方mm当たり
約1億のトランジスタを備えているとのこと。AnandTechはTSMCのN5を
「2021年4月時点で利用できる最も密度の高いテクノロジー」と評価
する。さらにAnandTechによると、TSMCは記事作成時点から数週間以
内に省電力版5nmプロセス「N5P」による半導体製造を開始する予定。
TSMCは「N5PはN5と同じ消費電力で動作周波数を最大5%増加させ、同
じ動作周波数で消費電力を最大10%削減できる。半導体設計企業はN5
からN5Pへの移行をスムーズに行えるという。
●性能強化版5nmプロセス「N4」
TSMCは「N4」による半導体の製造を2021年下半期に開始し、2022年に
は大量生産を開始する予定。N4はN5と同様の設計ルールや製造機器を
採用しつつ、N5よりもPPA(性能・消費電力・トランジスタ密度)を向
上させ、製造段階でのEUVリソグラフィの使用をN5よりも拡張すると
のこと。ウェイCEOは「N4は、N5と互換性のある設計ルールを用いて
います。N5で培った強力な技術基盤を活用し、5nmプロセスファミリ
ーを拡張する。
表 TSMCの各プロセスノード
風蕭々と碧い時代:ミスタームーンライト
唄 桑田佳祐
唄 The Beatles
● 今夜の寸評:霧の中の変異株
油断大敵!