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アドホックなキルケゴール

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  自分に同情するな。自分に同情するのは、下劣な人間のやることだ。

                                                              村上 春樹 / 『ノルウェイの森』

 

 

 


【バイオマス発電事業の正否】

2千キロボルト未満のバイオマス発電は、FIT価格単価=40円の値がついている。
また、雇用も割出し地方創生とも親和性が高い。しかし、時間がない中で明確な戦
略性を持たなければ大きな成功をつかむことは難しいと岸波宗洋事業構想大教授は
危機感をあらわにする(「地方剤生には、時間がない」環境ビジネス 2015年秋季号)。
現自公政権の掲げた「地方創生論」は、"財源移譲なき地方分権主義"への援用と早
々と見抜いたわたし(たち)の予想と著者の見識とどのようにクロスオーバーする
のかみてみよう。

 ● 戦略と優先順位、そして「構想」を

 地方創生は、観光、6次化産業等多様な切り□で語られているものの、真のベ
 ンチマークはなかなか現れない。市町村単位での経常収支比率が高まり、既に
 危険水域を越えた自治体では、未だにローカルキャラクターやアンテナショッ
 プ等、およそギャンブルに近い取り組みで一攫千金を狙い、イノベーションに
 必須の「継続性」や地域の「DNA」に対時することがない。これでは、いくら時
 間を費やしたところで本来的な成功はおろか、マーケティング事象としての売
 上の山を築くことすら叶わない。あえて否定から始めたのは、それだけ地方創
 生には時間がない、ということである。

 コンサルティング的に言うなら、本質的課題を見極め、それに基づいた戦略と
 優先順位、ひいては構想を定義づけることを早急に行わなければならず、それ
 が石破地方創生大臣の発する「総合戦略」であるべきだと考える。以下は、バイ
 オマスを前提としたエネルギー政策について、自治体が取るべき戦略と優先順
 位を列挙したものである。なお、ここでは紙面の関係上、そのDNAを「地域資
 源」と定義した。

  ①キャッシュフローを確保する戦略

 2千キロワット未満の設備において1キロワット時単価=40円の値がついて
 おり、再生可能エネルギーとしては最高値で取引されていることに注目する。
 さらに20年の買取期間が設定され、同価格でのインカムを保証されることに
 なる。

  ②雇用の継続性を確保する戦略

 地方創生=雇用であることは論を待たないが、「継続性を確保した雇用」をど
 れほどいるのだろうか。企業誘致と域ブランチ、特に小売等を多く誘致すれば
 労働生産性の低い人をいたずらに増やしてしまい、いずれは賃金の高い都市型
 企業への羨望と移行を促進してしまうことになりかねない。バイオマスは、 資
 源調達に組合や関係諸団体、物流、ペレット化加工、 発電プラントの保守等様
 に雇用を生み出し、しかもFITにおいて20年の継続性が担保されている。

  ③地産地消による永続性を確保する戦略

 20年を前提とした場合、そのうち10年程度はBEP(損益分岐点)を超えない
 ため、本来的な収益期間はおよそ半分程度である(プラント規模等により異な
 る)。だった10年を前提にリスクを負うことは本意ではなく、あくまで永続
 性を求めるべきだ。だとすると、電カシステム改革に基づく小売自由化を前提
 として、小売参入も当然見据えなければならない。ただし、巷を賑わせている
 ソフトバンク等大手企業の小売参入によってその参入戦略を明確にしなければ
 リスクが増えるばかりである。

 要は、地方でつくった電力は地方で消費する=明確な地域需要家便益を如何に
 保証するか、という課題を解決することで、真の地方創生にリーチするのだ。
 地域振興券やふるさと納税での電力購入も想定可能だし、既に地域でエネルギ
 ー市場を持っているLPガス事業者等は、新規参入の障壁=「信頼財としての
 エネルギー供給」を担保できている既存顧客の囲い込みからスタートすべきで
 ある。さらには17年からのガス自由化に際して、電力・ガスの併売事業を地
 域において実践することで、地域小売企業の収益性も併せて検討することが望
 ましい。ここまでの時系列的な戦略性をもつことが、すなわち「構想」であり、
 近視眼的・画一的思考では成し得ない効果を期待するものである。 


以上から要約すると(1)小売等を誘致すると、労働生産性の低い人を増える→賃
金の高い都市型企業へ移行促進する、(2)20年の買取期間と"安定価格"設定で
インカムを保証すること、(3)地方でつくった電力は地方で消費する→明確な地
域需要家便益を保証することの3つを踏まえた「構想」が重要だと指摘する。ここ
で、「①キャッシュフローを確保する戦略」に関連して、潤沢なキャッシュフロー
を担保するのは、中央政府の援用金(補助金)に期待依存では駄目で、応益税であ
る消費税を地方自治体に完全移譲の法整備を実現が先決であることを指摘しておき
たい。

現在の最大の危機は、人為的地球温暖化による大規模気象変動――例えば、世界の
平均気温が1℃上昇で、大気中の水蒸気成分は4%増加し、乾燥地帯ではより大き
な干魃が、湿潤地帯では大規模洪水が多発する(ノーベル平和賞受賞者・元米副大
統領のアル・ゴア)――時代であり、そのための持続可能な社会への移行政策のそ
の一部の、再生可能エネルギーの「バイオマス発電の普及」であることを踏まえ、
「地方再生には、時間がない」と、とらえ直す必要がある。
 
  

 
※ ルテニウム-カルボキシラートを触媒の原型とするカルボン酸の自己誘導型水素化)

【世界最強のカルボン酸のアルコール変換触媒】

カルボン酸をアルコールに変換する反応は難しく、副生成物が多いという問題を抱
えていたが、斎藤進名古屋大学教授らの研究グループが開発した、カルボン酸を副
生成物が少なく、多くの種類のカルボン酸をアルコールに変換する水素化触媒(ル
テニウム錯体)――水素化反応をしやすくする触媒構造を発見――で、(1)水素
化できるカルボン酸の種類が大幅に増えた。(2)カルボン酸と類似構造を持つエ
ステルやアミドが共存しても、カルボン酸のみ反応する特徴を利用することで(3)
バイオマス資源に含まれるカルボン酸をアルコール変換でき、(4)さらに、二酸
化炭素から合成したカルボン酸をアルコール変換でき、資源利用に貢献できるもの
と期待される。

 

 

 

特開2015-124156 
カルボン酸化合物及びエステル化合物の水素化によるアルコールの製造方法

【発明の効果】 

カルボン酸化合物に対し、高温高圧を必要とせず、緩和な条件ても、効率的に水素
化を進行させ、アルコールを得られ実用性及び利便性が高い。また、基質、錯体及
びアルカリ金属塩の選択により、非常に高収率にアルコールを得られる。この場合、
アルコールの選択性も高いので、省エネ法になる可能性が高い。さらに、室温及び
空気中での取り扱いが容易で、合成が容易な触媒を使用しているので経済的・実用
的で利便性が高い。

 

【時代は太陽道を渡る 11】

● 日本の切り紙で 高効率太陽電池

米国のミシガン大学の研究グループは、日本の切り紙細工で七夕飾りの「網」をヒ
ントに、ガリウム・砒素(GaAs)半導体化合物系薄膜太陽電池を開発。従来の太
陽追尾型とはことなり、太陽の動きに合わせこの太陽電池を引っ張り、太陽光を効
率よく集光する。前者の追跡システムは、複雑な機構を要し、このため馬鹿でかく
重く、従って高コストとなるが、後者は屋根に設置しておくだけで、切り紙の網状
の薄膜太陽電池の片側をわずかの力で伸縮させるだけで受光角度を変化させること
で、太陽の動きを約120度にわたって追跡できる(下図クリック)。 



上図(a)は平面太陽電池パネルの仰角(φ)に対する結合効率(ηC)。パネル
投影面積はcosφに伴って減少する。(b)は、延伸時、同時にシート仰角を変化
させる切り紙追尾構造。この構造に薄膜太陽電池を組み込み、従来の単軸パネルの
追尾機構の代替に使用できる。(c)は、傾斜方向(時計回りまたは反時計回り)
ひずみ処理前から、シートの一端を持ち上げるか(ステップ1)、下げるか(ステ
ップ2)で制御する。

具体的には、切り紙形状(カットパターン)は、傾斜面を±1度以内に制御する。
従来の太陽電池モジュールは、太陽仰角の余弦に比例し、投影面積の減少により光
変換をロスする(上図a)。これらのロスを軽減し、最大電力出力を得るため、平
坦な太陽電池パネルは、日・月・年にわたり太陽追跡できるよう傾斜でき、従来の
太陽光パネルより30%多くエネルギーを集めることができるが、その反面、設置
面積は伸縮可動のため約2倍広くなる。

上図(a)は、カプトン(ポリイミドテープ)切り紙構造の軸方向の延伸(εA)
に応じたサンプル幅の減少(εT)と特徴角度(θ)変化を伴う。また無次元パラ
メータ、R1及びR2で表す切り紙構造、横方向(X)および軸(Y)方向の切り込みの
間のカット長さ(LC)との間隔を規定する幾何学的パラメータを示す。
(b)は、4つの切り紙構造の概略図。ここで、R1= R2=3、5、10、20 に対応す
る単位セルは同一。
(c)は、(b)の種々の切り紙構造の R1= R2=3、5、10、20に対応する軸方向
の延伸量εA、特徴角度θ、サンプル幅εTの関係図。式あたりの理論的予測値(1)
と(2)の実線で図示。塗り潰し記号は、厚さ50μmのポリイミド(カプトン)試料
形状の実験データを図示。R1とR2が大きくなると、より大きな横方向歪みを増加す
るが、特徴角の変化は、切り紙形状とは無関係である。

上図(a)は、試験用のポリイミド(カプトン)基板上に冷間接着の実装集積型薄
膜Gガリウムヒ素結晶太陽電池。ここでは、LC=15 mm、X = 5mm、Y== 5 mm(R1=
R2= 3)。 
(b)は、二つのサンプルの正規化された太陽電池の短絡電流密度JSC(φ)/ JSC
(φ= 0)(塗り潰し記号)。ただし、R1= R2= 3、R1= R2 = 5の場合。また、
図示の式(4)(実線、白抜きの記号)から得られる結合効率(ηC)がシミュレー
トされたデータ。
(c)は、アリゾナ州フェニックス(33.45°N、112.07°W)の夏至の一日の平面
パネル、種々の切り紙構造固定パネルと、単軸追尾システムパネルのそれぞれの太
陽電池の電力密度変動図。なお、挿入図は、各パネルの曲線積分値。切り紙型追尾
システムは、従来の単軸追尾型のエネルギー密度の実積に漸近している。



Max Shtein
University of Michigan
chemical engineering, materials science, lighting, solar cells, OLEDs

ここまで、”アドホックなキルケーゴール” な研究に敬意を禁じ得ないが、25
年間に渡る材料など耐久性、極端な高温や低温への耐候性、システムの堅牢性とい
った問題はクリアできるだろうかというクエスチョンは残る。研究担当したマック
ス・シュタイン自身(上写真)、太陽電池パネルを引っ張るのに必要なエネルギー
は非常に小さいが、実用化にはさらなる研究が必要だと認めた上で、紙幣の半分ほ
どの大きさだった今回の実験から、もっと大きい装置での検証を考えている。また
切り紙式太陽電池のアイデアは、長期的には屋根の上の太陽電池の効率を大きく向
上させる可能性があるが、航空宇宙向け小型太陽電池を優先させたいという。

このようなダイナミックなソーラパネルの研究に対し、日本では下図のようなスタ
スティクな高効率な集光技術(東芝のW採光両面受光セル方式)の改良が主流であ
る。ミシガン大学の「切り紙式セル」あるいは「傾斜リボン式セル」をパネルにサ
ンドウィチする非追尾式太陽電池パネルも考えられないこともない。ここは思案の
しどころかもしれない。この件は残件扱いとして、今夜はこの辺で切り上げよう。

 

  


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