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わが衣手に 雪はふりつつ

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      「兵は脆道なり」

 ※ 戦術の要諦は、敵をあざむくことである。例えば、できるのにできないふりをし、必要
   なものを不要とみせかける。遠ざかるとみせかけて近づき、近づくとみせかけて遠ざか
   る。有利とみせて誘い出し、混乱させて撃破する。充実している敵に対しては退いて態
   勢をととのえ、強力な敵とは正面衝突を避ける。また、敵を激昂させて消耗させ低姿勢
   に出て油断させる。敵が落ちついていれば、事をかまえて奔命に疲れさせ、団結してい
   る敵は離間させる。
   こうして敵の弱昧につけこみ、敵の意表をつく。これが戦術の背節であるが、その運用
   は状況の変化に応じて自在に駆使すべきものであるから、あらかじめ固定してかかるわ
   けにはゆかない。

   脆道と詐術のちがい 「兵は脆道なり」をめぐって、古来、中国や日本で是非の論争が
   展開されてきた。「脆道」は文字どおり読めば「脆わりの道」だが、否定論者は「孫子
   のいうところは仁義に欠ける」(王世貞)、「奇にすぎる」(戴溪)などと攻撃し、肯
   定論考は「脆も一つの遣である」(北条氏長)、「脆わりは本来、道とはいえぬが、そ
   のなかに道があることもある」(山鹿素行)と弁護する。が、両者いずれにしても、道
   義的な意昧での「道」にこだわりすぎているのではなかろうか。『孫子』の「脆道」は、
   単なる「詐術」ではなく、彼我の力を測定し、それがぶつかりあう場合、われに有利に
   作用するよう物理的な力でない最適なコントロールを加える。一種の弁証法的な運動法
   則といってよい。その有力な手段として心理操作があるのだ。

     事前の見通し

   戦争の見通しは、開戦に先立って立てられていなければならない。勝つか負けるかは、
   見通しのいかんにかかっているのだ。勝利の見通しが確実ならば勝てるが、あやふやで
   あれば勝利はおぼつかない。まして見通しを立てようともしない者が、勝てるはずがな
   い。この観点に立つならば、勝敗は戦わずして明らかであろう。

 

 

● 事件背景と告発の意味 Ⅸ

 第2章 信教の自由・プライバシーと監視社会-テロ対策を改めて考える  

   第5節 ヨーロッパにおける監視操作の状況

                  オーストリアの青年の訴えがセーフハーパー協定を無効にした

 宮下 昨年2015年10月6日、EU司法裁判所は、EUとアメリカの間で締結されてい
 たセーフハーバー協定(mワロ汐tF『ご呂『Fシy)を無効とする判決を下しました。こ
 の判決は、スノーデン・リークに基づき、二八歳のマックス・シュレムスというオーストリ
 ア人が使っていたフェイスブックをNSAが監視対象にしていたことが端緒となりました行
 つそうした安全でないSNSにより、アメリカとEUの間でデータ移転することはできない、
 ヨーロッパのユーザーデータをアメリカに移転することはできない、として協定を無効にし
 たわけです。これに伴いアメリカの4500社のグローバル企業はデータを移転することが
 できなくなりました。

 すなわち、ナショナル・セキュリティにおける監視の問題は、テロリストだけをターゲット
 にしていると思われがちですが実は違います。ここにいるみなさんひとりひとりがお使いの
 グーグルやヤフー、そしてフェイスブックといったSNSにも影響する問題なのです。
 スノしテン氏は、EU司法裁別所で勝訴した原告のマックスーシュレムスに対して「おめで
 とう、あなたは巨界を変えたね一とメッセージを送っております.

 井桁 SNSや我々が普段使っている便利なテクノロジーがそのまま監視のツールになりか
 ねないという点が、現代型の監視の特徴ということですね。

 第6節 NSAの監視は違憲なのか

 ここからは、各国で実施される監視捜査の適法性を中心に議論します。初めのテーマはスノ
 ーデン・リークによって明らかとなったNSAによる監視捜査の違憲性の問題です。光ファ
 イバーケーブルに直接アクセスをしたり、インターネットサービス会社に提出を命ずるなど
 して利用者の通信情報を大量に集めることが、アメリカ合衆国の憲法に違反しないのかとい
 う問題です,
 アメリカ海栗国の監視がアメリカ白票国の憲法に違反しないのかというある意味ローカルな
 テーマですが、アメリカに本社を置くインターネットサービス会社は世界中にユーザーがい
 るため、アメリカ政府による監視は世界中の市民に影響を及ぼします。また最先端のテクノ
 ロジーを用いた監視捜査が、自由主義国の代表であるアメリカの司法でどのように議論され
 るのかという点で、今後の監視捜査の在り方を占う問題であることは間違いありません。

     スノーデン・リークが監視プログラムの違憲性を問うことを可能にした

 井桁 これまでお話しいただいた監視の実態を前提として、市民社会はどのように監視のリ
 スクをコントロールしていくべきかという点についてお話しいただきます。
 まずワイズナー氏に伺います。スノーデン氏が明らかにしたアメリカ政府による監視はアメ
 リカの憲法には反しないのでしょうか。NSAによる監視はアメリカの憲法に違反する無効
 なものだと断言することはできるのでしょうか。

 ワイズナー その質問に答える前に、これまでのほかのパネリストの発言を踏まえてコメン
 トさせて下さい。ほとんどの監視技術は戦争のために開発されました。深刻な危機が存在し、
 これに対応するために監視システムが作られるわけです。他方で、監視システムが存在する
 から危機を演出するということもあります。危機が去った後にも大規模なシステムの存在を
 正当化するために、新たな危機を生み出すわけです。ムスリムの監視に関して日本で行われ
 ていることはこのようなことかもしれません。テロを防止するという目的のために監視が始
 まり、その後、監視を継続するために正当化を必要とするわけです。

 さて、ご質問に対する答えですが、私は違憲だと思います。そしてより重要なことは、つい
 に裁判所をこの問題に向き合わせることに成功したことです。スノーデン以前は証拠の不在
 が最大の障壁となり、裁判所に監視の違憲性について判断を求めると、裁判所は「帰りなさ
 い。

 あなたが主張する監視があなたに影響を与えているという証拠がないので、あなたにはその
 裁判を提起する権利かありません」と門前払いにされていたのですI詞月。
 監視プログラムの存在が国民に知らされないまま行われていたために、訴えが退けられると
 いう不当な状況でした。スノしデン氏が証拠を提供してくれたため、政府官僚ではなく裁判
 官にプログラムの違憲性を判断してもらうことができるようになりました。

 私たちは、政府が監視を行うには正当な理由が必要だと考えています。監視は正当な事由に
 基づき行われるべきです。政府の監視プログラムの問題は、スノーデン氏が牧えてくれたよ
 うに、後に役立つかもしれないという理由であらゆる情報を収集していることです。これは
 違憲であると私たちは考えていますが、裁判所ではこの点が争われるでしょう(※19)。

  テロの危険は、諜報機関という装置が自らの存在を正当化するための「燃料」

 青木 ワイズナー氏に質問があります。アメリカには強大な情報機関が複数存在し、NSA
 という組織自体も以前からあったわけですね。その活動が9・11以前と9・11以後では
 まったく変わってしまったのでしょうか。9・11の発生以後、予算や権限を増やしたこと
 によって活動内容が化物のように肥大化してしまったと考えるべきなのでしょうか。

 ワイズナー9・11後、大きな変化かありました。NSAは外国に対する諜報機関として設
 立され、その技術を本国においてアメリカ人に対して利用することはできないと考えられて
 いました。しかし一九セ○年代、NSAやCIA、FBIが、国内で大規模な監視活動を行
 っていたことが発覚しました。市民権運動のリーダー、女性運動、黒人の学生団体、反戦活
 動家などが対象でした。これは大スキャンダルとなりました(※20)。その結果、NSAが
 アメリカ国内で監視を行うことは、法律で厳しく制限されました。

 アメリカ国外での監視(※21)について言えば、NSAはこれまでも長きにわたって、あら
 ゆる情報を収集してきました。その理由はテロリズムではありませんでした。長期にわたり
 正当化事由は冷戦といういわば外部の脅威でした。照準を定めた核兵器が世界中に配備され
 ているという事態が例外的な監視権限を正当化していたのです。冷戦後9・Hが起こると、
 突然、テロ対策が巨大な予算のための新たな正当化事由となりました-詞『。確かに脅威が
 存在しないわけではありません。しかしスノーデン氏が指摘する通り、テロリストによって
 殺される確率よりバスタブで溺れる確率の方が高いのです。テロの脅威は、政府が毎年80
 0億ドルを費やして対策すべきほどの脅威なのか、改めて考えるべきです。

 情報当局にとってはテロの危険は大きければ大きいほど良いわけですが、私はこれをズ貿威
 という燃料〃と呼んでいます。諜報機関という装置が自らの存在を正当化するために必要と
 する燃料です。

 第7節 アメジカにおける政府の監視をコントロールする仕組み

 アメリカ政府が実施してきたテロ対策としての監視は、膨大な個人情報を集めること自体が
 自己目的化した問題の多いものであることが語られてきました。他方で、オバマ大統領の説
 明にもある通り、監視が常に許されないわけではありません。国家の安全を守るため、監視
 技術が有用に働く場合があることは否定できません。重要なことは、劇薬である監視技術を
 いかに適正に用いるか、そのコントロールの方法です。
 スノーデンは法律を破ることで民主的な監視の監督制度を再活性化した。

 井桁 アメリカでは、プライバシーなどの人権と監視による安全のバランスを取るためにど
 のようなシステムを導入しているのでしょうか。法律や裁判所の監督、議会における監視シ
 ステムなどいろいろとあると思いますが、まず、地元警察の監視を監督するシステムについ
 てマリコーヒロセ氏に伺い、その後に連邦政府についてワイズナー氏に伺います。

 ヒロセ 前提として、監視と日常的な法執行は異なることを意識する必要があります。地元
 警察の主な活動は発生した犯罪を解決することです。犯罪を捜査し、検察官に事件を送致し、
 最終的に事件が裁判所で審理されるという一連のシステムに基づくものです。うまく機能し
 ないこともありますが、少なくともこの確立したシステムが警察に対する監督としても機能
 しています。

 監視はまったく異なります。警察が解決すべき犯罪は発生していません。監視プログラムに
 終わりはないわけです(※23)。そのため、地元警察が行う監視プログラムに関しては、監
 督のメカニズムに大きな問題が生じています。日常の法執行のためのシステムが、監視のメ
 カニズムの文脈では必ずしもうまく機能しないからです。

 ワイズナー アメリカには連邦政府の諜報機関を監督するメカ平ズムがあります。議会には
 独立委員会(PCLOB)が存在し、NSAとCIAを監督しています(※24)。また、法
 執行目的ではなく海外における諜報活動のための監視を承認することのみを職務とする諜報
 監視裁判所司(Feign llltelligelKe Surveillance Court)という特別裁判所も存在します。
 スノーデン氏は、これらのメカニズムがまったく機能していないことを敦えてくれました。
 1970年代に、当時発生した先ほど述べたような問題の解決策としてこれらのメカニズム
 が創設されたのですが、40年後の現在、このメカニズムがむしろ足かせとなってしまって
 います。これらのメカニズムには期待できません。今必要なことは、NSAの活動について
 市民が十分に理解することです。

 例を挙げさせて下さい。2013年、スノーデン・リークの直後、オバマ大統領は「心配な
 い。NSAの活動は、三権、すなわち行政府、議会、裁判所のすべてによって承認されてい
 ます」と述べました(※25)。確かにその通りです。そしてそれこそが問題なわけです(※
 26)。人々の間で議論が深まると三権のいずれもが立場を変えました。大統領は、これらの
 プログラムの一部は不要かもしれないと言い出しました。裁判所は、これらのブログラムの
 一部は違法かもしれないと言いました。議会は、諜報監視活動を制限するための法案を通過
 させました。政府の監視権限が制限されるのは1978年に監視権限が認められて以来初め
 てのことです。皮肉なことに、スノーデン氏は法律を破ることで、三権それぞれに本来の仕
 事に取り掛からせて、民主的な監督制度を再活性化したのです。

    スノーデン以前、諜報監視裁判所のチェック体制は機能していなかった 
          
 井桁 ワイズナー氏のお話は、三つの国家機関がそれぞれ監督に失敗しており、そのことが
 スノーデンーリークによって暴かれたという話だと思います。具体的にどのように失敗をし
 ていて、それがどのように暴かれて今修復をされつつあるのか、宮下先生に補足いただけれ
 ばと思います。

 宮下私は、2012年から2013年にかけてアメリカのボストンにおりまして、私が帰国
 した直後にボストン了フソンのテロ事件がございました。アメリカにおける監視活動のチェ
 ック機能を見てきましたけれども、アメリカにおいては先ほどお話がありましたように、一
 般には、司法がまず大きな役割を果たしていると思います。ところが残念なことに、諜報監
 視銃判所ではチェック体制がほとんど機能しておりませんでした。令状がくれば右から左に
 それを許可していたのです。アメリカ司法省の統計では、2012年に1789件の電子監
 視の令状請求が来たものの、一件だけしか却下しなかったというような調査結果もございま
 す(※27)。

 また、先ほどスノーデン氏も指摘したPクラブ(編集部註:PCLOBのこと)という独立
 監視機関がありますが、これは大統領に直接進言できる機関です。ところが、この機関も監
 視プログラムがここまで大規模になされていたことを事前に知らされておらず、結局事後的
 な報告書を提出したにとどまるという状況でした。

          外国人を対象とした監視プログラムはいまだに続いている

 井桁 スノーデン・リーク以後は少しずつ改善されつつあるという話がありました。どのよ
 うに改善されつつあるのでしょうか。
 宮下 第一に、215条プログラム、すなわちアメリカ国民を対象とした電話のメタデータ
 収集プログラムについては、2015年6月に成立したフリーダムアクトという法律(編染
 部註:アメリカ自由法のこと)により停止になったということを先ほどワイズナー氏にも確
 認しました。

 ただ一方で、私たち日本人が気を付けねばならないのは、702条プログラム、これは外国
 人を対象とした別のプログラムなのですが、こちらはいまだに続いているということです(
 ※25)。だからこそ、EUではセーフハーパー決定の無効判決という厳しい形で、外国人を
 監視の対象とするブログラムを止めるというような判決を出したという経緯があります。日
 本では残念ながら、立法府、司法府のいずれにおいても、日本人も対象となっているこのア
 メリカの監視ブログラムについての活発な議論や審理がこれまでなされていません(忠29),

  自由な社会がこれまでに生み出した唯一の有用な解決策は、独立のメディア

 井桁 今まさに、アメリカ政府においても改善の途上だとは思いますが、ワィズナー氏から、
 監督のためのシステムのあるべき姿、あるいは重要な視点についてお話しいただければと思
 います。

 ワイズナー これは民主主義における難問です。正当な秘密というものが存在することを前
 提とし、他方で民主主義においては重要な決定は市民のインフオームド・コンセントに基づ
 いて行わなければならないとすると、衝突が生じます。たとえば戦争は、政府が秘密とする
 ことに確固たる理由がある一方、市民の名の下に政府が何をしているかについて市民が知ら
 なければならないことの最たるものです。

 自由な社会がこれまでに生み出した唯一の有用な解決策は、独立したメディアです。自由な
 社会であれ権威主義的な社会であれ、政府は自らに都合の悪い情報を隠蔽する傾向がありま
 す。情報を公開すると困ったことになったり、説明責任を問われたりするので、情報を隠す
 傾向にあるのです。これは宮原が悪者だからというわけではありません。それが人間の性で
 す。

 ここにこそメディアの役割があります。政府による情報の管理に対抗し、適切な形で情報を
 市民に伝えるという役割です。スノーデン氏が述べていた通り、すべてを公開すればよいと
 いうことではありません。肢は、日本に関するいくつかの質問に答えませんでした。それは
 メディアの仕事だからです。メディアは何か公益に責するかに関する専門家です。政府の利
 益と市民の知る権利のバランスを図るのに最も適した人たちです。
 もちろん国家の統治機関も必要です。より効果的な議会、より効果的な司法も必要です。そ
 れはもちろんですが、しかし強力で独立したメディアがなければこれらの組織は効果的に活
 動できないでしょう。

                                   この項つづく

 

     

❦ なぜ、かまぼこ屋がエネルギーのことを考えたのか ❦ No.18       

     ● 対談3 新しい現実をつくる  

   『原発廃炉には、政府から会計上のサポートが必要』     

 Jan. 17, 2013 

         小宮一慶(こみやかずよし) 株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役

1957年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、アメリカ・
ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報シ
ステムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役。この間、93年にはUNTAC(国連 
カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。94年には日本福祉サービス(現在
セントケア)企画部長を経て、95年に小宮コンサルタンツを設立、現在に至る。著書に『財務
諸表を読む技術わかる技術』(朝日新書/2010)『問題解決の教科書リーダーのための仕事
力 向上講座』(PHP研究所/ 2011『社長の教科書』(ダイヤモンド社/2010)な
ど多数。

  再生可能エネルギーをつくる技術を育成していく

  小宮 そうです。産業の空洞化がいわれますが、国内でどういう産業を育成していくかとい
 うことを考えないといけないわけですね。航空宇宙だとか、精密機械だとか、そういう分野
 はもちろんですが、一番有望なのは再生可能子羊ルギー、それも最先端の再生可能エネルギ
 ーをつくる技術を育成していく。こうしたチャレンジは日本にとってすごくいいことだと思
 います。それには2つのことがいえます。1つは、日本に資源がないばかりに、いま、LN
 G(液化天然ガス)の輸入が急増していて貿易赤字の大きな原因になってしまっています。
 再生可能エネルギーはエネルギーを輸入する必要がないわけですから、そういった意味では
 貿易収支の改善につながります。
 2つ目は、再生可能エネルギー関連の製品を輸出できるようになれば日本の貿易収支は改善
 します。それを世界中に輸出できれば、きれいなエネルギーをつくり出す技術を世界中に提
 供できるわけですから、私はほんとうに素晴らしいことじゃないかなと思います。

 鈴木 再生可能エネルギーで新しいエネルギーをつくっていく、電気をつくると同時に、そ
 れとはまた別にエネルギーを、電気を賢く使うという方法があるように思いますが。
 小宮 3月11日の、震災があった直後から、関東地方はみんな節電したじゃないですか。
 駅なんか暗くなりましたが、慣れるとこれでいいんじゃないかと思いました。私は仕事柄よ
 く地方へ行くのですが、地方によっては「いやあ、ずいぶん明るいなあ」と思うことがあり
 ます。だから、企業もそうですが、ある程度慣れということが大事だと思います。

 鈴木 私ども中小合祭の経営者は、既械を買いますと、ものにもよりますが、財用年数が10
 年としますと、それを15年、20年、どうやって長く使うかと考えるのが習い性になっている
 わけですね。ところが、技術革新が進んでいるので、10年前の冷蔵庫に比べると3割くらい
 少ない電気で勤いてしまう、だったら、それを入れて節電すればいいはずなのですが、どう
 しても、ここでソロバン勘定しちゃうんです。つまり、どこかで「原発勣くんじゃないの?」
 「そうしたら電気代が下がっちゃう」「それでは損しちゃう」とい うようなことでようすをみて
 しまうんです。

 小宮 この近くに四ツ谷駅がありますが、このごろ、少し明るくなったと思うんです。
 それはね、節電をやめたわけじゃなくて、照明をLEDに替えたんです。明るくなったうえ
 にかなりの節電になっているとうので、そういう前向きな設備投資をしていくということも、
 企業にとってすごく大事 なことだと思いますよ。

 鈴木 経営者の立場からすると、そういうインセンティブというのがもっとあると、たぶん、
 流れが一気にそっちへいくような気がします。
 小宮 だから、エネルギーを節約できる新しい技術に対しても、政府から補助金が出るとか、
 そういうのがあればいいですよね,

 鈴木 原発は使わないと決めたら、みんな真剣になって新しい冷蔵庫に動く。たとえば30
 0万かけたら3年、5年で元を取ると考えるようになります。結果として電力使用量が下が
 るわけです。新しいビジネスチャンスが生まれてお金がまわっていきます。
 小宮 そうですね、その通りだと思います。それによって、そういうものをつくっている会
 社がよくなるわけですからね。当座のエネルギー使用量も減るということですよね。が働い
 ているような気がしますね。

 小宮 そもそも経済学的に独占を許しだのは、大規模に発電したほうが経済的にスケールメ
 リットがあるからなんですね。もちろん、安定供給もありますけれども、独占を許したのは
 50年も、60年も、場合によっては戦前の話みたいなものじやないですか。それから一層技術
 革新が進んでいるのに、まだ独占を許して、その独占によって得られた過剰な利益が、電力
 会社の待遇改善に使われているというのはたいへんばかげた話ですよ。それでいてね、電力
 が足りないから電気料金を土げますという、それもまたおかしな話で、もうちょっと供給体
 制に対して工夫するとか、そういうことが大事だと思います。

 鈴木 国の経済の貿易収支とか、マクロ的な視点で子不ルギーを取り上げて、そのなかで原
 発とか、再生可能エネルギーとかは、どういう位置づけになるのでしょうか。
 小宮 いま、貿易赤字になっていて、2011年度で4兆4000億円、名目GDPの1パ
 ーセント弱の貿易赤字なんですね。2010年は、円高で輸出が伸びなかったこともあるん
 ですが、やっぱりLNGの輸入が増えたという部分がけっこう大きいのです。

 私はエネルギーの専門家ではないのでよくわからないのですが、産業を成り立たせるために
 燃料がある程度必要なのは問違いないんじゃないですか。もちろん、節電するということも
 大切だけれども、それでも足りるかどうかわからない。
 やはり、LNGを使うのは火力発電ですから、排熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し
 総合エネルギー効率を高めるコジェネレーションとか、そういうことをやっていかざるを得
 ないのではないでしょうか。LNG自体がBTU(英熱量)だと結構高いレベルですよ。B
 TU16ドルとか18ドルぐらいで買っているんですね、アメリカでシェールガスが出て、同じ
 ものがBTU2ドルくらいで売られている、そういうことを考えると、いろんな条件がある
 んですが、LNGの価格が下がっていく可能性がかなり高いような気がします。

 再生可能エネルギーがもっとも理想的ではあるんですが、シェールガスを輸入していくうえ
 で問題になっているのは何かというと、一つは米国には日本に輸出するための液化基地がま
 だないことなんです。液化してタンクに詰めて待ってくるわけですから船に積めない。もう
 一つはアメリカはエネルギー戦略上TPPに加入しない国には売らないとしていること。だ
 けど、日本はアメリカにとって最大の同盟国の一つですから交渉でクリアできると思うし、
 逆に交渉しなかったら政府の存在意義がなくなってしまいます。



 結論をいうと、当面、数年間とか、5年間くらいは値段が下がってくるLNGの火力発電で
 まかないながら、原発のある立地のところに再生可能子不ルギー、風力でもいいし、地熱で
 もいいし、太陽光でもいいから、再生可能子不ルギーをつくっていくことによってある程度
 カバーしていくのがいいんじやないか、というふうに思っているんです。もちろん、技術的
 な問題はありますが。
 そうすると、LNGの価格が下がってきて、再生可能子不ルギーの発電量が増えてきて、貿
 易黒字を確保できるんじやないかと思うんです。

 鈴木 時間がかかるけれども、原発よりもいいというわけですね。
 小宮 原発のもう一つ大きな問題は、日本では核燃料の最終処理の問題がまったく手つかず
 だということですね。だから、そのことを考えても、この先も長期間数多くの原発を稼働し
 つづけるというのは、将来の私たちの子どもとか孫の世代まで迷惑をかける可能性があるの
 で、できるだけ早く原発はやめたほうがいいんじゃないかとは思います。

 鈴木 使用済み核燃料が処理できないという状況がありながら、まだ、政府のなかに将来的
 に原発比率を30バーセント維持するという声があるというのは、普通に考えてもおかしいと
 思うわけですが、どうしてこんな論理が生まれてくるのでしょう。
 小宮 政府の考え方としては2つあると思うんですよ。一つは電力不足に対応したいという
 こと、もう一つは既得権益を守りたいということだと思います。
 原子力行政に携わっている人だとか、原発の技術者は職を失うわけですし、政府機関に関係
 する学識者などの人たちにしても立場を失うわけですから、必死で抵抗したくなるんじゃな
 いでしょうかね。ぼくらから見ると、他のことをすればいいのではないかと息いますけど、
 自分の存在意義を失うというのは個人としてはきびしいでしょうねえ。

 鈴木 たとえば再稼働にしても、リスク了不ジメントという観点からすると、大飯原発にし
 ても、どこにしても、とにかく原発を動かして、万スまた福島原発のような事故が起きたら、
 どうなってしまうのだろうかと思います。
 いま、実際に稼働しようとしているところは実は「3・H」のときと状況はまったく変わっ
 ていないわけです。このように改善しますというプランが示されただけですからもし万一の
 ことがあれば、大飯原発であれば琵琶湖の水が使えなくなるといったことが現実に起こりえ
 るわけです。
 浜岡原発であろうと、泊原発であろうと、もう一回、福島第一原発のような事故を起こして
 しまったら、その周辺だけの問題では済まないことになり、国際的な信用も地に堕ちてしま
 います。
 だから、年内で二番電力を使う夏に、少しがんばってみんなで工夫してやろうよと努力して
 みるリスクと、どっちを取るか。笞えは言うまでもなく明らかではないですか。

 小宮 そうした観点からすると、私はさっきから再三申し上げているように、ほんとうに安
 定性の高い原発を2年間ぐらい稼働させるというのが現実的じゃないかなと思うんですね。
 この夏がんばろうということで、また上目会社に出て働くという選択肢もあると思うんです
 が、2年の間に再生可能エネルギーなり、LNGの火力発電なりを役人して、2年間で原発
 をやめてしまう。もちろん、その2年間にリスクはある、地震があったら、テロに遭ったら、
 そのときどうするんだというのはあると思います。10基になるか、5基になるかはわかりま
 せんが、産業を維持できるくらいの最低限を2年とか3年とか限って稼働させるのです。

 いずれにしても、口本国政府にとって大事なことは、「原発はやめる」と決めることだと思
 うんです。いますぐかどうかは別として、とにかくやめることを決めて、2年後か、3年後
 かはわかりませんが、その間に必死に知恵を出す。先ほどいわれたようなリスクを最小限に
 しながら、変えていくというのが大事かなと思います。

 鈴木 ちょっと、また、観点を変えますと、この国の経済の発展のためにはどうしても原発
 が必要だという方がたくさんおられます。その大前提が経済というのは未来に向かって成長
 していかないとダメ、経済が成長することによってみんなが幸せになる、こういうような、
 思い込みのようなことが語られているわけですが、歴史を見ると経済が成長したことが必ず
 しもみんなが幸せになることに結びついていません。逆の場合もあったでしょうし、特に日
 本という国はこれから人口が減少するわけですから、そういう中でGDPで表現される経済
 の規模というものも、もしかしたら縮小していくのかもしれないと思うのです。
 小宮 縮小しますよ、このままいったら。



  原発がなくても経済は成長できる

 鈴木 経済というのは成長していかないといけないという神話みたいなものと、それと原発
 の話がセットで語られているんですね。経済ってほんとうに、成長しないといけないものな
 んでしょうか。
 小宮 結論からいうと、今の目本の状況であれば、成長させないとダメなんです。ただし、
 私は原発がなくても成長させられると思っています。では、なぜ成長させないといけないか
 というと、日本政府は膨大な債務を抱えていて、それが対名目GDP値でギリシャが170
 パーセント、イタリアが120パーセント、日本は200パーセントなんですよ。電力危機
 云々というよりも、このままでは日本は国内でデフオルトが起きる。そのことを非常に恐れ
 ているんです。ギリシャで起きていることが日本でも起きるんじゃないかと、それをすごく
 恐れています。 

 そこで調べたところ、過去20年間に主要60カ国でまったく経済成長していない国は日本だけ
 なんです。その間に政府の債務だけがどんどん増えていってしまいました。実はアメリカと
 同じだけ成長していれば何も問題はなかったんです。アメリカは平均3パーセント程度成長
 しているんですが、それでしたら20年で倍ぐらいにはなりますよ。それが自然なんです。
 債務の問題がなければ、日本は人口が減少していくわけですから、一人当たりの豊かさが変
 わらないんだったら、GDPはそれほど伸びなくてもよかったわけです。しかし、人口が減
 っていくなかで累積債務だけがどんどん増えていくから、子どもたち、孫たちが、すごく大
 変な目に遭う可能性が生じているのですね。

 それからもっと言うと、雇用という観点からも、ある程度の経済成長というのは必要だと思
 います。ただし、これも原発がないと成長しないというのは、あまりにも知恵のない話です。
 なぜなら、原発のない時代でも経済は成長していたわけですから。電力がないと経済成長し
 ないということは少しはいえるかもしれませんが、原発がないと成長しないというのはいた
 だけません、鈴木さんが言われたように再生可能エネルギーに変えていくだとか、節電を工
 夫するとか、その工夫のなかにまた新たな産業が生まれるわ発電で全体の20パーセントをま
 かなっている<風力発電のいいところはまず燃料を輸入しないでいいことです。デンマーク
 というのはおもしろい国で自動車の消費税が180バーセントなんです。コペンハーゲンで
 も通動している人の80パーセントは自転車なんです。デンマークには自動車産業がないの
 で、車を買うとしたら輸入車ですから、結局、貿易赤字をいかに避けるかということがデン
 マークの高福祉の原点の1つなんです。
 だから、いかに外貨を稼ぐかということが日本においても、経済を維持するためにすごく大
 事だと思うんです。そういう観点から国内産業を育成して、強い産業をつくって、輸入を減
 らせるような産業構造をつくっていくことが大事なんじやないかと思います。 
 強い産業をつくってそれを世界中に広めていくというのは目本にとってはすごくいいことだ
 と私は思っています。

                                   この項つづく



【下の句トレッキング:わが衣手に 雪はふりつつ】

  

     君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ 光孝天皇

                              
あなたに差し上げるために、春の野原に出て若菜を摘んでいる。その私の着物の袖に雪がしきり
に降りかかっている。

I have come to the spring meadows to pick herbs for you. The spring snow falls endlessly on my kimono
sleeve.

 ● 今夜の一曲
『春一番』

   Bougainvillea

 


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