5 兵 勢
十の力を持つ者をただ十人集めただけでは百の力にしかならないが、これに「いきおいを
つければ、二百にも三百にもなるであろう。静を勣に、「形」を「勢」に転化させるに
はどうすればよいか?
正攻法と奇策の組合せ
たくさんの兵士を、小人数のようによく管理するには、いくつかの部隊に分けることだ。
たくさんの兵士を、小人数のように一体となって戦わせるには、指揮系統を確立すること
だ。さらに、全軍が敵の出方に対応して絶対不敗の優位を保つのは、変幻自在の戦術あれ
ばこそである。石で卵を砕くように、戦えばかならず勝つという戦闘の要諦は、「実」す
なわち充実した戦力をもって「血」すなわち手薄な敵を撃つことに尽きる。
実をもって庖に勝つのが、戦争の常道(正)である。そしてこの常道は、個々の場面に応
じた縦横の戦術(奇)となってあらわれなければならぬ。このような変幻自在の戦術は、
天地のように終わりがなく、大河の流れのようにつきることがない。日月のように況して
はまたあらわれ、四季のように去ってはまた訪れる。
音階の基本は、宮・商・角・徴・羽の五つにすぎないが、これをいろいろに組み合わせれ
ば、数えきれぬ変化が生ずるではないか。色彩の基本は、青・赤・黄・白・黒の五つにす
ぎないが、これをさまざまに組み合わせれば、数えきれぬ変化が生ずるではないか。味の
基本は、辛・酸・鹹(かん)・甘・苦の五つにすぎないが、これをとりどりに組み合わせ
れば、数えきれぬ変化が生ずるではないか。同様に、勝敗の帰趨を決定する要囚は「正」
と「奇」の両者があるだけだが、その変化は無限である。「正」は「奇」を生み、「奇」
はまた「正」となり、円環さながらに巡なってつきないのが、奇正の変化なのである。
奇正の変 基本の応用による無限の変化という考え方は、創造の本質をついているといっ
てよかろう。
❦ なぜ、かまぼこ屋がエネルギーのことを考えたのか ❦ No.26
● 対談6 新しい現実をつくる
『地域の再生エネルギー資源を活かし、地に足のついた経済力を育む』
1964年神奈川県小田原市生まれ。京都大学法学部卒業。経営戦略コンサルティング会社
民間教育団体、農業、漁業、商業ビル企画管理、地域シンクタンク代表などを経て、200
8年5月より小田原市長。小田原の「恵まれた資源を活かし、地に足のついた経済力を育み
たい」とし、市民と事業者との意見交換会を行ない、お互いの理解を深めながら、さまざま
な再生可能エネルギーの導入促進事業の立ち上げを目的とし、取り組み全体を小田原市がバ
ックアップする官民協働の組織団体である「小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会」
を立ち上げた。
もっと節電できる
加藤 普通に考えたら明らかですけれどね。ですから、たとえば、ここの空調にしても、電
力を使って劾かすいろんなメカニズムにしても、少なくとも20年ぐらい前まではなかったも
のです。それを思えば、節電の効率とかは格段に上がってますよね。原始時代に戻るとかと
んでもないことがいわれてますけど、2割、3割くらい電力を使わない状況であっても十分
にやっていける。ちょっと我慢すればよいだけです。その代わり生活の工夫をしていく、そ
れも楽しみながらやっていくというなかでクリアできると私は思っています。
鈴木 この間、目本の電気の需給の数字を時系列的に見ていたんですね。そうすると、いま
から20年ほど前、1991年か、92年くらいの、バブルがはじけるころですね、あのときか
ら比べると’日本の電気の需要量は3割増えているんです。じゃ、その時代に電気がなくて
困っていたかというと、皆さん、ジュリアナ東京で踊ったり、バブルで浮かれていたわけで
すから、けっして電気が足りなかったということはないわけで、それではなんで電気の使用
量が増えたのかということをもう一度考えてみる必要があると思います。
そういうふうにしていくと市長さんがおっしゃるように、まだまだ電気を含めたエネルギー
の賢い使い方があると思いますし、私どもの工場も去年の夏に15パーセントの節電をしな
さいという義務を負わされたんですが、15パーセントなんていっていないで20パーセン
トとか、25パーセントをやってみようというのでやってみました。そうしたら、ピークの
電力使用量と総電力使用量と両方の目標が見えてきて何とかできたんですね。そこで実感し
たのは、企業ですから電気はコストで、それまでにも「節電、節電」といってきたのに、ま
だまだ甘かった。もっと節電できるなということを感じました。
といっても、中小企業の私たちのような会社はなかなかやりづらい。大企業の場合は社員に
そういう専門のスタッフがいたり、専門の部署とかがあって節電や省エネが進んでいるので
すが、中小企業だとそういうスタッフを置いたり部署を設けたりはできないからやりづらい。
半面、やってこなかったから節電・省子不の余地は大きいわけで、家庭を含めると、皆さん
が知恵を出してやったらI割、2割の節電は割合たやすくできてしまうと思います。
加藤 今度、事業化していく再生可能子年ルギー協議会は3つの柱を掲げていて、メインの
桂が再生可能エネルギーを限りなく自給できるようにする。つまりエネルギーをつくること
ですね。2つ目がエネルギーを賢く使っていく、節電ですね。これは発電とセットでやって
いかなければ意味がない。セットでやっていかないとエネルギーのほんとうの意味での重要
さというのは、なかなか私たちにはわからない。あとで反省して節電するくらいなら最初の
段階でやったほうがほんとうの意味での節電じゃないかという発想で、2割、3割の節電は
可能だと私は思っています。
3つ目が発電と節電の双方を市民が主役になって進めていく。小田原電力に投資するもよし、
参画するもよし、ただ、それで終わててしまうのではなく、暮らしの中で節電していく。飯
田哲也さんは「子不ルギーについての自治力」といっていますが、まったく同感です。食べ
物を自分たちでつくるようにエネルギーも自分たちでつくっていく。食べ物を地産地消する
ように子不ルギーも地産地消する。いのちを支える自分に必要なものは自分の手の届く範囲
で私たちがコントロールできる手段で置いておくというのが、一番よいやり方だと考えてい
ます。
鈴木 いま、市長のいわれたことは、原発事故があって電気が足りなくなったから、地元で
つくるんだという、そういう単純な話ではなくて、地域を構成する要素がいろいろあるなか
で、エネルギーもその1つという考え方で一貫していると理解しました。そうしますと、あ
るべき地域の姿というのが描き出せると思います。
加藤 おっしゃるように、そこは構想がはっきりしていまして、もともと、このあたりは江
戸時代は小田原藩、小田原を含めた神奈川県西部ということで、丹沢、箱根、富士山の地下
水、そして酒匂川という水でつながった水系の地域圈として、ある意味独立していたわけで
すね。結論からいうと、私はこの地域をエネルギーを含めていのちを支えるのに必要なもの
を自給できる地域圈にしていきたいわけです。そういった自給地域圈で日本を構成していく
かたちが一番安全だと私は考えます。
鈴木 たくさんの小さな地域圈がつながっていく、そういうイメージですね。
加藤 そうです。いま、日本の自治体は平成の大合併などのために1700~1800くら
いに数が減っていますが、自治体の境目でとらえるという意味ではなくて、人が生きていく
ために必要な素材をまとめて持っている地域をつくっていく。小田原の場合は酒匂川、箱根
山、丹沢山塊、その周辺に展開する農地とか、なりわい、そういった、人が生きていくうえ
で必要なものをすべてこの地域で持っている。厳密にいうと地域の田圃で人口40万人を養
えるかという問題があるわけですが、気持ちとしてはそういうつもりで、このなかで、いの
ちを支えるのに必要なものは地域のなかで自分たちでしっかりつくっていく。これが持続可
能な社会の一番の根本だと考えます。
小田原の取り組みを「日本再生のさきがけ」にしたい
鈴木 お話をうかがっていますと、そういう食べ物とか、エネルギーとか、いわゆる物質的
なものだけではなくて、自分のふるさとというか、自分のふるさとへの思いとか、そういう
ものを言葉の端々から感じるんですが、そのへんをもう少しくわしくお聞かせ願えますか。
加藤 私は市長になる前から「自主独立、自給自足の経済文化圏」というフレーズを使って
いました。食べ物とか、エネルギーとか、暮らしを支えるものだけではなくて、私たちは自
分たちのマインドであったり、アイデンティティであったり、地域への思い、こういうもの
があって生きてきたわけでして、こういった精神的基盤は自分たちが必要とするだけでなく、
次の世代を育てるうえでなくてはならないものだと思っています。ですから、教育において
も、福祉についても、自給的に自分たちでやっていくんだという思いで私は取り組んでいま
す,
鈴木 ということは、そういったことがよくいわれる持続可能な社会、いのちをつないでい
くふるさと、それらを次の世代につなげていく使命を担った日本人でありたい、そういうこ
とになるのでしょうかね。
加藤 結局、こういう時代になって、国の財政は言うに及ばず地方の財政も逼迫して、硬直
化しています。いわゆる「公」がすべてを単独でやれるという時代は完全に終わっているわ
けです。いろんな課題を前向きに乗り越えていくには、どうしても一人ひとりの国民や市民
が動いていかないといけない。やむにやまれずやるというよりも、もっとプラスの思考で自
分がやって当然のことというマインドがなければ、これまで万人ひとりのなかで眠っていた
力を引き出すことはできないだろうと思いますね。そういう意味でもエネルギーの自給はけ
っしてハードルは低くないので、それを前向きに受けとめて、これまで一人ひとりのなかに
眠っていた力を引き出すのにとても適したテーマだと思います。ハードルが高ければ高いほ
ど乗り越えたときに備わる力は傑出したものになるはずですから。
鈴木 みんなが成長する絶好のきっかけになりますよね。そのなかで地方というか、地域の
問題としてはお金がない、だから何かやるときには国とか、県とかから補助金、交付金をも
らわないとできないという、そういうことがよく見受けられます。たとえば原発の仕組みを
みても、電気料金とか、税金から吸い上げられて何かよくわからないところに使われていく。
地域はお金が欲しいからやりたくないことも引き受けていく。そういうことがあったような
気がするんですよ。
原発が一つの典型かもしれないし、それ以外の関係でも国が上にいて、地方が下にいてとい
うパターンを崩していかないと、市長がおっしやるようにほんとうに地域が自立して元気に
なるときはなかなかこないような気がします。だからといって、国と喧嘩をする必要はあり
ませんが、これからどうしていくかという観点からみて、国と地域の関係はどうあるべきな
んでしょうか。
加藤 ここ最近の政治の局面がまさにそのあたりの問題を露呈しているわけですけれども、
かつて、お上が強かった時代、すなわち封建時代には自治を各藩のお殿様、幕府でいうと将
軍がやって、領民は年貢を納めていたわけですけれども、日本の場合はそういう関係がずう
っと続いてきて、結局、国も地方に対しては上位意識が非常に強く、地方のなかでも役所は
市民に対して上位意識を持つ、そういう構造だったような気がします。
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