12 火 攻
篇名は「火攻」だが、後半は、別固の独立した箆であり、指河竹の感情的な行動を戒め、冷
静な判断を強調している。
感情で行動を起こすな
戦争には、目的があるはずだ。たとえ勝利を膜めたとしても、肝心の目的が遂げられなかっ
たとすれば、結果は失敗である。まさに骨折り損のくたびれ儲けというべきであろう。明君
名将は、つねに戦争の根本の目的を見失うことがない。だからこそかれらは慎重なのだ。有
利確実、かつ止むを得ざる場合にのみ兵を勁かして戦闘をまじえる。およそ一国の君主たる
者、一軍の将たる者は、怒りによって兵を起こしてはならぬ。戦いの結果がこのゆえに、明
君名将は慎重の上にも慎重を期す。かかる明君の下でこそ国の安全は保たれ、かかる名将の
下でこそ軍隊はその力を十分に発揮する。
【下の句トレッキング:千切れちぎれて痛走るまで】
ああ福島失いし森呼ぶ声の千切れちぎれて痛走るまで
味噌汁に試験操業の貝煮つつ灰汁の渦巻たぐりいるなり
虎落笛ふくしまの地に奏ずるを被曝七年のおもいならずや
セシウムに負けてたまるか競い立つ春一番にわが押さるるを
原発のそびらに在りて「波立」の波ひだ打つは警鐘なりし
ふくしまに森が戻るや飯泉の音符優しき楽奏ずるを
布引の発電風車回る回る空のあかねも巻き取るような
波汐國芳 『森を呼ぶ声』(「歌壇」2018年05月号)
※「波立」は故里いわき市の「波立海岸」を言う。
※郡山市湘南町の布引高原には風力発電の風車三十三基が立ち並ぶ。
波汐 國芳[ナミシオ クニヨシ]
1925年、福島県いわき市に生まれる。1947年、「潮音」に入社し、太田水穂・四賀
光子に師事。その後「新墾」「露草」「白夜」「環」にも関係する。2010年、地域文化
功労賞(文部科学大臣表彰)。現在、「潮音」選者。「白夜」選者。福島民友新聞歌壇選者。
現代歌人協会会員。日本歌人クラブ東北ブロック参与。福島県歌人会顧問。歌誌「翔」編集
発行人。
● 事件背景と告発の意味 12
第2章 信教の自由・プライバシーと監視社会-テロ対策を改めて考える
第10節 日本やEUの取り組み
Daisuke Igeta
監視に対する一番の抑制は監視
井桁 監視に対する監督という視点から、ヨーロッパの取り組みはどうなのでしょうか。
Hiroshi Miyashita
宮下 EUの28すべての加盟国には独立した監視機関があります。違法に個人情報を扱っ
ていないか捜査機関に対する立入検査も認めており、不適切な監視活動を行っていた場合、
独立した監督機関がチェックをすることになっています。こうした機関がEUにはあるので
す。EUと同様の機関を日本で作ろうとしたのが個人情報保護委員会です。ところが、重要
な部分が抜け落ちてしまっているというのが現状であり、これが今後の日本の課題になると
思います。
監視に対する一番の抑制は監視だと思っています。それが一番効率的で民主的な方法だから
です。これは捜査機関側にとってもプラスをもたらします。監視活動が常に第三者の監督の
下行われており、テロ対策のために必要最低限の監視しかしていないという説明責任を果た
すことができるからです。
Osamu Aoki
青木 まさにその通りなのだろうなと思うのですが、日本ではなかなかそういう議論になり
ません。個人情報保護法の際も、一番問題にされたのは民間業者による個人情報の収集問題
でわけのわからない業者からダイレクトメールが送られてくる現状はなんとかしろ、といっ
た議論に楼小化されてしまいました。現実にメディアの取材も相当不自由になりましたし、
何よりも国家や政府による個人情報収集に歯止めをかけよう、といった議論にはなかなかな
らない。最近は特定秘密保護法や盗聴法の強化などが図られる一方、マイナンバー法などと
いうものが導入され、これはいわゆる国民総背番号制ですけれど、警察が捜査のために使う
場白の歯止、めがここでもあまり効いていない。
そもそも諭でいえば、日本の警察機構に対する監視機関というのは、ないわけではないので
す。代表的なのが公安委員会制度でしょう。これは戦前戦中の中央集権的な警察機構が市民
弾圧の尖兵となってしまった反省を受けて導入された制度で、主にふたつの目的かおるとい
われています。まず、民間人主体の公安委員会が警察を民主的に統制しようという目的。と
同時に、政治と警察の間に公安委員会というクッションを置くことです。政治権力が警察組
織を恣意的に動かすことがないように設置されている面もある。
制度としては非常に優れているのですが、都道府県警察の公安委員会も、警察庁の国家公安
委員会も、事務局の役割を警察組織が牛耳っているため、現在はほとんど機能しなくなって
しまっています。公安委員の人選も事実上、各警察組織が行っていて、すっかり名誉職的な
扱いになってしまっている。
しかし、今回のムスリムに対する監視の是非などを建設的に議諭しようとするのであれば、
公安委員会制度をもう少し復活、充実させるのは有効だと思います。せめて公安委員会の事
務局を警察から引き難し、数はさほど多くなくとも専門のスタッフを置いて機能させれば、
かなりのことができると考えます。もちろん、警察が相当に抵抗はするでしょうが。
井桁 確認したいのですが、テロ捜査に関する情報といえばかなりの機密情報ですよね。当
然、捜査されている側にとってもセンシティブな情報が入りますし、そうした捜査情報が流
出すればテロ予防の効果が薄れてしまうかもしれない。そういったことを理由として、テロ
捜査に関しては第三者の監督を及ぼすべきではないという議論はヨーロッパではなされてい
るのでしょうか。そうした議論を超えて実動的な監督が実施されてきた経緯などがあれば併
せて教えて下さい。
宮下 EUでは基本権憲章第八条第三項において、プライバシーや個人情報を守るため、独
立した監督機関で監督しなさいという規定があります。そこがまず立て付けの面で日本とは
違います。まず法律的なバックグラウンドがあるので、第三者機関が監視に対して監視を行
うというメカニズムが根付いております。もうひとつは先ほど話したナチスに由来する歴史
的背景もあります。
アメリカではかつてジェームズ・マディソンが、政府の活動の透明性を高めるために、この
ようなことを言いました。一政府が持っているすべての情報は国民の情報である。その国民
の情報にアクセスできなければ、それは茶番か悲劇、もしくはその両方の始まりである。知
識は永遠に無知を支配する」。
スノーデン氏も言っていましたが、企業に営業秘密かおるのと同じように国家にも特定秘密
というものは存在します。ただし、その情報は国民の情報であり、国民にどこかのタイミン
グで開示しなくてはいけないものです。個人的には、特定秘密保護法の趣旨には必要性を感
じています。ただし、運用面でのチェック機能、監視機能を今後充実させていくべきだと思
っています。
第11節 質疑応答
井桁 この監視に関する監督というテーマは論点が非常に多岐にわたるので議論は尽きない
のですが、ここでパネルディスカッションは終わりにして会場からの質問に侈りたいと思い
ます。
①性犯罪者が出所した後の監視について
「私は先日司法試験を受験してきました。憲法の科目で出されたテーマが、性犯罪者が出所
した後の監視についてでした。先ほど政府が持つ情報は国民の情報だというお話がありまし
たが、国家が性犯罪者の前刊を収集してこれを市民に対して公開することで、市民が性犯罪
の前刊を持つことを把握できるようになれば、それは一方で国民の知る権利には資するかも
しれないものの、他方で性犯罪者の更生の妨げになるという議論があると思います。そうい
う議論が日本やアメリカでもなされているのか、お聞かせ願えればと思います」
ヒロセ これは重要な問題です。このような情報収集が犯罪の抑止につながるという証拠は
ないのです。研究によれば、性犯罪の前科者は最も再犯率が低いグループのひとつであり、
再び同じ罪を犯す可能性は低いのです。この種の犯罪は、家庭内や知り合いの間で生じるこ
とが多く、政府が性犯罪者の情報を収集することは的外れだと考えられています。
②民間セクターに対する監督について
「監視プログラムの多くは民間企業により作られています。プライバシーに間する委員会が
世中にあっても、そのスボンサーの多くは民間企業です。政府に対する民主的な監視を求め
るだけでは不十分のように思えます。民間セクターに対する監督はどのように考えればよい
のでしょうか」
Ben Wizner
ワイズナー 今日のテーマは政府に対する監督でしたが、民間企業による監視についても3
時間たっぷり話すことができるテーマです。政府が人手する情報の多くは民間企業を経由す
るものです。政府白身が情報を収集しているのではありません。NSAにとって、自ら個人
情報を収集するよりもグーグルから収集する方がけるかに簡単です。
政府による収集と民間企業による収集は相互に絡み合っていますが、重要な違いもあります。
第一に、私たちと民間企業との関係は同意に基づくものです。A社を使うかB社を使うか選
択することができます。他方で、政府の監視に間しては、選挙あるいは民主主義的な監督を
通して統制するしか私たちに選択肢は与えられていません。
第二の違いは、グーグルは私を牢屋に入れることもドローン・ミサイルを撃つこともできな
いということです。他方で政府は私たちの自由や権利をはく奪することができるわけです。
つまり、両者の違いは、消費者として被害を受けるか、市民として被害を受けるかという性
質の違いです。この質問は極めて重要です。今日のテーマが政府による監視とその監督であ
ったために詳細にコメントできていませんが、無視することはできません。
青木 ひとつ、補足しておきたいと思います。警視庁外事三課によるムスリム監視について
いえば、日本の大手企業などもかなり積極的に協力していることが流出データから浮かび上
がりました。たとえば、ある日本最大級の都市銀行は、中東の国の大使館員の口座記録を警
視庁に提供していました。大使、大使館員、大使館付き運転手に至るまでのデータです。
もちろん警察ですから、令状を取ってデータを出させることはできるでしょう。しかし、こ
のような令状を鼓判所が出すわけがありません。刑事訴訟法の手続きに則って警察が捜査関
係事項照会書を出し、銀行側にデータ提出を求めることはできますが、これはあくまでも任
意の手続きで、しかも特定の事件捜査を目的としなければならないと定められています。特
定の大使館員全員の銀行口座データを提出させるような事件など想定できませんから、おそ
らくは警察の依頼を受けた銀行側がひそやかに協力し、顧客データを渡してしまっているの
でしょう。
このほか、都内のレンタカー会社は顧客データを警視庁に提供しているという記述も流出文
書にありました。ひどい話ですが、複数の都内の大学は、自分の学校に留学にきているムス
リムのデータまで提供してしまっている。日本だってまったくひどい状況なのです。
宮下 2015年10月に、アムステルダムで行われたプライバシー・コミッショナー国際
会議において、トランスペアレンシー(透明往の報告書に関する決議が採択されました。捜
査機関からインターネット企業等に情報提供の要求が何件あり、何件の情報を渡したのか、
個人情報の無差別な監視が行われていないことを示すために、これらの情報提供の件数を記
載した透明性に関する報告書を各民間企業は作り公表しなさいというものです。この決議が
アムステルダムでのプライバシー規制当局の国際会議で採択されたわけです。日本の特定情
報保護委員会から堀部先生も出席されました。こういったシステムを日本でも導入していく
のが望ましいのではないかと思います。
もう一点あります。昨年、総務省において、捜査機関が携帯電話事業者から特定人の位置情
報を本人に通知することなく取得することができるというガイドラインの改正がありました。
これは、英文でもニュースが出されたのですが、そのニュースを間いてすぐに私のところに
海外から問い合わせが来ました。日本ではなぜこのようなことが許されているのか、そして
これに対して透明性レポートはあるのか、といった内容でした。民間事業者から捜査機関へ
の情報提供が不透明な状態では、日本企業の海外進出をさせることはできないとまで議論さ
れています。ビジネスを成功させるためにも、透明性を高めること、監視に対する制御装置
を設けることというのは民間企業にとって重要になってくると思います。
③なぜニューヨーク市警はラザ事件の和解に応じたのか
「ラザ事件について伺います。和解においてニューヨーク市費は、宗教に着目する監視捜査
が憲法に違反することや、市民代表法律家を警察内部に設置し監督させることを約束したよ
うですが、日本の警察がこのような和解に応じるとはとても想像ができません。なぜニュー
ヨークの警察はこのような和解に応じたのでしょうか」
ヒロセ大変いい質問だと思います。監視に関する解決策は監視を監視すること、すなわち監
視活動に対する監督を行うことであるとこれまで述べてきました。
本来であれば、すでにハンチュー事件の和解に基づいて構築された監督システムにより適切
な監督がなされているはずでした。しかし、ハンチュー事件の弁護士たちが、ムスリムに対
する監視プログラムがハンチュー合意に違反していると指摘した通り、この監督体制はうま
く機能していませんでした。そのため、より改善されたシステムが必要なことは明らかであ
るとして今回のニューヨーク市費との合意に至ったのです。
また、今回の合意には、ニューヨーク市費の懸念に対応するための制限も設けられています。
選ばれる市民代表者は身元調査が行われ、守秘義務に同意しなければなりません。検討内容
は公開する前にニューヨーク市管内で報告しなければなりません。このような仕組みも設け
られているのです。
ワイズナー 少し追加させて下さい。法と政治は重なり合うことがあります。ラザ事件が提
訴された時点と和解の時点とでは市長と警察のトップは入れ替わっていました。新しい責任
者はさまざまな関係者に機敏に対応していました。ニューヨーク自由人権協会は、裁判所で
弁論を行うだけでなく、市民にも働きかけており、これにより社会の雰囲気が変わりました。
市民がこの事件を気にかけるようになり、新聞の編集委員が記事にするようになりました。
政治的な圧力が生まれ、新たに選出された市長が訴訟を続けるのではなく和解で終わらせる
動機となりました。人権問題を扱う弁護士は、裁判所だけでなく世論も考慮しなければなら
ないのです。
④国民、国民を代表する議員による監督を可能とするための制度構築について
「日本にはたとえば会計検査院があるのですが、アメリカのGAO(Government Accountabil-
ity)とは違います。日本の会計検査院は行政府の了解がなければ検査できません。国政調査
権も決議がなければ行使できません。教育委員会や公安委員会と同じく、システムはあるも
のの肝心なところで機能しません。行政府がシステムに反することをしても、それを止める
ことはできないのです。
情報活動の予算について、権限をしっかりと持ち、行政の情報や予算についてチエックをす
ることができ、国民あるいは国民を代表する国会議員による監督を可能とするための制度を
洗いなおしていくことが必要なのではないでしょうか。そのことが、行政の透明性を高め、
基準を設けて実効性が確保されることにつながるのだと思います。こうした点について、宮
下先生からお話しいただけますでしょうか」
宮下 ご質問の趣旨に全面的に賛同するところです。一点最近のアメリカの動向についてお
伝えしますと、2016年2月9日、オバマ大統領がホワイトハウス内に、FederaI Privacv
Council)という新しい組織を作りました。これは、独立した委員会をそれぞれ行政の別々の
場所にぶら下げるというものではありません。プライバシー保護に関する政権の政策を反映
するための大統領直下の組織で、なおかつ、各省庁に対して指示できるような強大な権限が
付与されています。日本であれば、特別委員会が官邸の中に置かれているようなイメージで
す。今後運用を見守っていく必要があるのですが、ひとつ参考になる事例かと思います。
ワイズナー アメリカの教訓は、この問題に恒久的な解決策は存在しないということです。
現在世代の解決策は次の世代の失敗の原因となり得るのです。民主主義というのは答えがど
こかにあるものではありません。戦い続けなければならない闘争です。つまり私たちは改善
し続けることができるのです。より良い組織を作ることは可能ですが、時が経つにつれ、こ
うした組織は陳腐化します。監督機関で働く人々は、監督の対象者に厳しい質問を役げかけ
る代わりに親しくなっていきます。これは、世界中の議会で私たちが経験していることです。
アメリカでは、軍を監視する委員会が軍の契約相手から最大の寄付を受けています。農業担
当の委員会は農業関連企業から政治献金を受け、監視を担当する委員会はスパイ活動にかか
おる企業からの寄付を受けています。組織を作るだけでは不十分です。組織を機能させるた
めには、市民に情報が行き渡る必要があり、市民が情報を持つためには、不幸なことに政府
関係者が法を破り、政府が情報を関示しようとしない場合においても、ジャーナリストに何
か起きているかを伝え報道を可能にすることが必要です。
アメリカで大きな改革がなされる時はいつも、勇気と信念を持った内部者が、情報を市民と
共有し、市民がこれに怒り、これによって変化が起きるのです。組織も必要ですが、情報こ
そ重要です。そして情報は組織からもたらされるわけではありません。
⑤スノーデンはアメリカに戻れば訴追されてしまうのか
井桁この濃密なシンポジウムもそろそろ時間が追ってきました。最後に私からスノーデン氏
の代理人のワイズナー氏に伺いたいことがあります。スノーデン氏はアメリカに戻れば訴追
されてしまうのでしょうか。無罪あるいは恩赦になる可能性はどのくらいあるのでしょうか。
ワイズナー恩赦されることを期待します。時間がかかるでしょうが。彼が指摘した通り、今
週、連邦政府の前司法長官が、彼は公的役割を果たしたのだと述べています。2年前にはあ
り得なかったことです。大統領は、スノーデン・リークに瑞を発する一連の議論がアメリカ
をより強くしたと言いました。これも、2012年には言われませんでした。裁判所が声を
上げ、議会は法律を変えました。数週間2012年に東京で公開される「シチズンフォー」
は彼の物語を伝えています。彼の動機が真摯なものであり、個人的な目的ではなく、私たち
の自由社会を強くするために彼が行ったことがわかるでしょう。いつの日か、彼は戻ること
ができると思います。ただ、それにどのぐらいかかるかはわかりません。
第12節 まとめ
最後にそれぞれのパネリストの方々に監視捜査を制御・監督するために一番重要だと考える
ことをお話しいただきました。
青木 僕はメディアの世界ですでに30年くらい仕事をしてきました。今日スノーデン氏や
ワイズナー氏もおっしやっていましたが、一番強力な監視機関はマスメディアなのだという
言葉を狗に刻んでおきたいと思います。フリーランスの記者にできることなど限界はありま
すが、所詮はそうした記者の努力の積み重ねでしかメディア状況は改善しません。スノーデ
ン氏と、それを受け止めた記者たちの奮闘に心からの敬意を表し、僕も足元の仕事をこつこ
つと続けていきたいと思っています。ありがとうございました。
宮下 9・11後、監視の在り方が変わりました。事件が起きてから事後的に捜査をするの
ではなく、事前に監視をするようになりました。そして、特定の容疑者を狙い撃ちするので
はなく、不特定多数の一般市民を含め、無差別的に監視をするようになりました。また、監
視の対象は、人物ではなく、データになりました。このように監視の仕組みが変わってきて
おります。9・11後の15年間で大きな変化があったわけです。他方、監視の側面につい
てはこのように大きな変化がありましたが、プライバシー権などの人権に関する議論はそれ
ほど大きな変化は見られません。我々は両者のバランスを考えなければなりません。どちら
か一方を取るのは不可能なわけです。安全だけ、あるいはプライバシーだけを取るというの
は不可能なことです。両者のバランスをしっかりと考えていくことが必要であり、監視に対
する有効策は監視であるということを今一度考えておく必要があると思います。
Jun. 4, 2016
Mariko Hirose
ヒロセ 繰り返しこのパネルで議論されてきたことは、透明性と監督だと思います。ニュー
ヨーク市費の監視捜査については、ラザ事件によって和解が成立し、市費に対するひとつの
監督の仕組みが確保できました。しかしながら、問題は残されています。
たとえば、透明性の問題についてはまだ戦い続けなくてはなりません。スティングレイを例
に携帯電話の監視の技術についてお話しましたが、ニューヨーク市費などは、秘密裏に新し
い技術を用いて監視捜査を行っています。
監督のメカニズムを強化し、こういった技術に対しても目を向けていかなければいけません。
強力な技術を用いているという情報について透明性を高め、コミュニティの人たちや市民が
認識していけるようにならなけれぼなりません。こういったことについてはさらに議論をし
ていくことが必要です。お招きいただきありがとうございました。今後も議論を続けましょ
う。
ワイズナー ジェームズ・マディソン大統領の話がありました。そのさらに数百年の昔にさ
かのぼりますが、アリストテレスは次のように言っています。「人々が政府のことについて
すべてのことを知っていること、これが民主主義だ。政府が多くのことを知っているが人々
が政府のことを知らない、これは専制政治である」。
これは非常に古い問題であるわけです。何百年にもわたって同じような議論が続いてきまし
た。ここで申し上げたいことは、この課題は急を要するということです。技術の進歩によっ
て、政府は誰を監視するかを自由に決められるようになりました。あらゆる情報を収集して
おいて、それを保存したうえで、ずっと後になってから必要なものを取り出して確認すると
いうことができるようになりました。このような状況は前例のないことであり、これまでは
必要としなかった新たな法的保護が必要とされるかもしれません。技術は法より早く進化す
ると言います。これが、スノーデン氏からの教訓であり、こうした議論が市民による参加の
ために重要だと思います。ありがとうございました。
この項了