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短歌を詠まむこどばを紡ぐ

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『呉子』
春秋戦国時代に著されたとされる兵法書。武経七書の一つ。『孫子』と併称される兵法書。前四
世紀楚の宰相であった呉子の言を集録したものという。

4.論  将(ろんしょう)
将には「死の栄」はあっても「生の辱」はない、とする法家・呉子のきびしい指導者論。それは
また敵の指導者を見抜くきびしい目でもある。

戦いのかなめ
戦争には四つのかなめがある。
一、精神的なかなめ 二、地形のかなめ 三、作戦のかなめ 四、力のかなめ
三軍の将兵、百万の軍が動くにせよ、その強弱はT人の大将の意気ごみにかかっている。これが
「精神的なかなめ」である。
道路が狭く険しく、名だたる山が行く手をふさいでいるような天険の地に拠るならば、たとえ十
人で守ろうとも、千人の敵を撃退し得るであろう。これが「地形のかなめ」である。
たくみに諜報活動を行ない、機動部隊を出没させて敵の兵力を分散させ、あるいは散の内部対立
をおこさせる。これが「作戦のかなめ」である。
兵車は、車輪の輔やくさびを堅固にしておき、舟は櫓や得をよく使えるようにしておき、士卒は
十分に戦闘の訓練をし、馬はよく走るよう調教しておく。こうした整備によってこそ、それぞれ
の力が発揮できる。これが「力のかなめ」である。
この四つのポイントを完全にわきまえて、はじめて将といえる。
しかし、これだけではなお足りない。威・徳・仁・勇をわが身に備えていることが肝要である。
これらによって部下を統率し、人民を安心させ、敵をおののかせ、問題が生じても的確な判断を
下すことができる。命令を発すれば部下は決して違反しようとせず、その将がいれば敵は決して
手向かおうとしない、その人を用いれば国が強くなり、いなくなれば国が滅亡してしまうような
指導者、こういう人物を良将というのである。

〈かなめ〉 原文は「機」。機とは織機の棒、弩を発射するときの留め金のことで、転じて物事
の勣く起点をいう。

 

【下の句トレッキング:短歌を詠まむこどばを紡ぐ】

どのやうな死に方するか解らねど母はわが手を握りて死にき    

生きる不安死ねる不安を抱きつつ八十四歳五月を迎ふ 

百歳を生きたる母のあど追はひ八十四歳戌年われは 

三歳に充たすに死にし三人の妹の寿命いただく思ひす 

認知症痴呆症などど言はれつつ短歌を詠まむこどばを紡ぐ 

生きてゐるだけでも辛き思ひする八十四歳衰ふる脳 

ちぐはぐな言葉連ねてゐたりけり老い衰ふる体力知力は

花田恒久/『老いを生きる』|歌壇 2018年6月号

☯ 第一首でめを惹きその慣性で七歌首を詠み流し、改めて超高齢時代を自問。第五首の下の句
をピックアップすることで座りの好さをえるものの、このようにさりげなく自作できない歯がゆ
さが尾を引くこととなった。しかして、繊細にて重畳ゆえなり豊饒なり。

 Apr. 20, 2014



【読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』No.5】  

 


カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』第1部/第1章

ベアトリスが差し出しているのは、ちょっとずんぐりした奇妙な形の蝋燭だった。鍛冶屋の後家
がそれをひったくろうとした。伸びてきたその手を、ベアトリスがぴしゃりと引っ叩いた。
「とって、あなた。あの子が、ノラが、自分で作ったのを今朝わたしに持ってきてくれたの。毎
晩毎晩、暗闇で過ごすのに飽きただろうって」
この言葉に刺激されたか、また怒号があがったが、一部には笑いも混じっていた。ベアトリスは
アクセルを見つめつづけていた。表情には夫への信頼と懇願があった。そして今朝、村の外のベ
ンチで夜明けを待っているとき、最初に戻ってきた記憶はあの表情だった………あれは、せいぜ
い三週間ほど前のことだ。そんな最近のことなのに、なぜこれほど忘れていられたのだろう。今
日まで思い出すことがなかったとは、いったいどういうことなのだろう。じつに不思議に思える。

あのとき、アクセルは腕をいっぱいに伸ばしたが、人々にさえぎられてあと少しのところで届か
ず、蝋燭を受け取れなかった。それでも安心させたくて、大きな声でベアトリスに語りかけた。
「心配いらないぞ、お姫様。心配しなくていい」――だが、そう語りかけながら、自分の言葉の
無意味さを意識してもいた。だから、人々が急に静まり、鍛冶屋の後家が一歩後ろへ下がったと
きは、かえって驚いた。もちろん、それが自分の言葉の効き目ではなく、背後から司祭が近づい
てきたことへの反応であることはすぐにわかった。

「主の日に何たることだ、これは」司祭はアクセルの横を通り過ぎ、いまは静かになった村人を
にらみながら言った。「誰か説明を
「ベアトリスさんのせいです、司祭様」と鍛冶屋の後家が言った。「蝋燭を持ってるんです」
ベアトリスの顔はまた無表情の仮面に戻っていた。司祭の視線が自分に向けられても、避けよう
ともしなかった。
「なるほど。私にもそのように見えるぞ、ベアトリスさん」と司祭が言った。一あなたとご主人
は部屋で蝋燭を使うことを禁じられている。村会でそう決まったことをお忘れではなかろう」
「これまでの生活で、二人とも蝋燭を倒したことなど一度もありません、司祭様。毎晩、暗闇の
中で暮らすのはいやです」
「決まったことは決まったこと。村会で別の決定が下されるまでは、それに従っていただく」
ベアトリスの目に怒りが燃え上がるのが見えた。「それは不親切というものです」ベアトリスの
言葉は静かで、ほとんどささやくようだったが、目はまっすぐ司祭を見つめていた。

「蝋燭を取り上げよ」と司祭が言った。「私の命令だ。蝋燭を取り上げよ」
何本もの手がベアトリスに伸びてくる。妻は司祭の言っていることを理解できているだろうか、
とアクセルは思った。いま怪冴そうな表情で混乱の真ん中に立っている。蝋燭をしっかり握りし
めたままなのは、本能のなせる業なのだろうか。だが、不意にパニックにでも襲われたかのよう
に動き、またアクセルの方向に蝋燭を突き出した。体のバランスが崩れたが、押し寄せる人の圧
力のせいで、倒れずにすんだ。足を踏みしめ、再度アクセルに向けて蝋燭を突き出した。アクセ
ルは受け取ろうとしたが、誰かの手がそれを奪いとった。司祭の声が響きわたった。

「やめよ。ベアトリスさんから離れよ。誰もご婦人に乱暴な口をきいてはならん。老齢で、して
いることの意味がよくわかっておらんのだ。やめよ。主の日にふさわしい行いと思うか?」
アクセルはようやくベアトリスのそばに寄り、妻を両腕に掻き抱いた。村人がしだいに引いてい
った。あのときの騒ぎを思い出すたび、アクセルには二人が長い間そうやって抱き合っていたよ
うに思える。見知らぬ女が村に来た日のように、ベアトリスは頭をこの胸にもたれさせていたよ
うな気がする。ただくたびれただけ、ただ息を整えているだけ……そんな感じで押し当てていた。
司祭が村人に解散を命じている間も、夫婦は抱き合っていた。ようやく体を離して周りを見渡し
たとき、すでにあたりに人影はなく、牛の故牧場と閂(かんぬき)のかかった木の門の横に二人
だけが取り残されていた。

「いいじやないか、お姫様」とアクセルは言った。一なんのために蝋燭がいる。住み慣れた部屋
だ。蝋燭などなくても動き回るのに不自由はない。蝋燭があろうがなかろうが、二人で話ができ
れば十分楽しいじやないか」
アクセルはベアトリスを注意深く見つめた。とくに取り乱した様子はなく、ただ夢見心地のよう
に見えた.
「ごめんなさいね、アクセル。蝋燭をなくしてしまった。二人だけの秘密にしておけばよかった。
でも、あの子がお二人のために作りましたって持ってきてくれて、あんまり嬉しかったものだか
ら。ああ、なくなってしまった。でも、もういい」
「そうさ、お姫様」
「わたしたち、だめな夫婦って思われてるのよ、アクセル」

そう言って、一歩前に出て、また頭をアクセルの胸に押し当てた。そのときだったと思う、
ベアトリスがあれを言ったのは。開き間違えそうなほどくぐもった声だった。
「息子よ、アクセル。息子のこと、覚えている?さっきみんなに小突かれているとき、息子を思
い出したの。いい子だった。強くて、まっすぐで。わたしたち、なんてこんな場所にいなくちや
ならないの。自乙子の村へ行きましょうよ。きっと二人を守ってくれる。むごくは扱わせない。
まだあなたの気持ちは変わらないの、アクセル? これだけの年月が経っても?まだ息子に会い
に行かないって言うの?」

ベアトリスはアクセルの胸でそうつぶやいた。それはアクセルの心を騒がせ、多くの記憶の断片
をあふれさせた。あまりの量の多さにアクセルは気を失いそうになった。抱いたまま倒れて妻を
道連れにすることが怖くて、妻を抱く腕を緩め、一歩下がった。
「よくわからないな、お姫様。自乙子の村への旅を、わたしがいやがっていたと言っているのか
い」
「だって、そうでしょう、アクセル?あなたはいやがった」 
「わたしがいつ旅に反対したのだったかな、お姫様」
「ずっと反対だと思っていたけど……でも、あなたにそう言われてみると、よく思い出せない。
それに、わたしたち、なぜここに立っているの。催かにいい天気だけど」

ベアトリスはまた混乱しているように見えた。アクセルの顔を見つめ、周囲を見わたし、気持
ちのいい日差しに目をやり、もうそれぞれの仕事やら遊びやらに戻っている村人たちを見やった。
 しばらくそうしていて、「部屋に戻りましょう」と言った。「しばらく二人だけになりましょ
う。とてもいいお天気だけど、なんだか疲れてしまった。中に戻りましょう」
「それがいいな、お姫様。日差しを避けて、中で少し休もう。すぐに気分もよくなるさ」
 ようやく、あちこちで村人が目を覚ましはじめたようだ。羊飼いはもうとうに出発しただろう。
出かける物音を開かなかったとは、よほど深く考えごとをしていたと見える。部屋の反対側で、
ベアトリスがむにやむにやという音を立てた。何か歌うまえの発声練習のようだ。そして、毛布
をかぶったまま寝返りを打った。そろそろ起こしてもいいだろうか。アクセルは黙ってベッドに
近づき、その瑞に注意深く腰をおろして、目覚めを待った。

ベアトリスは仰向けになり、薄目を開けてアクセルを見た。しばらくして、「おはよう、あなた
」と言った。「わたしが眠っている間に、あなたがお化けに連れていかれないでよかった」
「お姫様、ちょっと話したいことがある」

ベアトリスは依然仰向けのまま、半分ほど開けた目でアクセルを見土げていたが、やがてベッド
の上に起き直った。さきほど蜘蛛を捉えていた日の光がその顔に当たった。くしやくしやに乱れ
た灰色の髪が肩の下まで垂れている。アクセルは朝日に照らされた妻の姿を見て、心の内に幸福
感が沸き立つのを感じた。

「話ってなんですの、アクセル。目にまだ眠気が残っているわたしに話って?」
「まえに話したよな、お姫様。ほら、旅に出ようって話。もう春だ。そろそろ出かけてもいい時
期じゃないか」
「出かけるの、アクセル? いつ?」
「できるだけ早く。ほんの数日留守にするだけだ。村も人手不足にはなるまいよ。ただ、司祭に
は言っておかないとな」
「息子に会いに行くのね、アクセル」
「そうだ。自乙子に会いに行こう」

外では鳥たちの合唱が始まっていた。ベアトリスは視線を窓に向け、覆い布をすり抜けてくる日
の光を見た,

「息子をはっきり思い出す日もあるの」と言った。「でも、次の日になると記憶に函がかかる。
でも、息子はいい子、立派な男ですよ。それだけは確か」
「息子はなぜここに、わたしらと一緒にいないのかな、お姫様」
「わたしにはわからないわ、アクセル。長老だちともめて、ここを出るはめになったのかもしれ
ない。尋ねてみたけど、誰も覚えている人がいないの。でも、自分の恥になるようなことだけは
する子じゃない。それは確かよ。あなたは何も覚えていないの、アクセル?」
「さっき目が覚めて、少し外に出ていた。静かなところで、なんとか思い出そうと思ってな。で、
いろいろと思い出したが、息子のことはだめだった。顔も声も思い出せない。だが、まだ小さか
ったころの息子なら、ときどき見えるような気がすることもある。自乙子の手を引いて、川沿い
の道を歩いているんだ。あるいは、息子が泣いていて、わたしが慰めようと手を伸ばしていると
ころとかな。だが、いまの顔形や、住んでいる場所となると、まったく思い出せない。息子に子
がいるのかどうかもだ。お主えが覚えていてくれると期待していたんだがな、お姫様」
「わたしたちの息子よ。だから、はっきり思い出せなくても、手触りは残っています。息子だっ
て、わたしたちにこの村を出てほしい、早く来てほしいと思っているはずですよ。おれが守って
やるから、って」
「息子はわたしら二人の血であり肉だ。一緒に暮らしたがらないわけがないよな?」
「ええ、そう。でも、いざここを去るとなると、それも寂しい気がするわね、アクセル? この
小さな部屋と、この村。生まれ育った場所を去るのは、そう軽いことじゃない」
「何の考えもなしにそうしようってわけじゃないよ、お姫様。さっき外で日の出を待ちながらい
ろいろ考えた。やはり、息子の村まで旅をして、息子と話さねばならん。ただ、確かにわたした
ちは母親であり父親だが、だからといって、ある日突然現れて、一緒に住まわせろって言うわけ
にもいかんだろう」
「そうね、あなた」
「もう一つ困ったことがあるんだ、お姫様。おまえの言うとおり、息子の村まではほんの二、三日
かもしれない、だが、どうやって見つければいいI
ベアトリスは黙り込み、宙を見つめたまま、呼吸に合わせて肩を揺らしていた。ようやく口を開
き、「道はわかると思いますよ、アクセル」と言った。「息子の村の正確な位置はわからないけ
ど、わたしは、ほら、蝉蜜や錫の交換で、近くの村にはほかの女たちと一緒に何度も行っている
もの。大平野なら目隠ししていても歩けるし、それを越えたところにあるサクソンの村なら、と
きどき休ませてもらいにお邪魔したこともある。息子の村が、あそこよりうんと遠いなんてこと
はないはずでしょう?だったら、さほどの困難もなく見つけられるはずですよね、アクセル、ほ
んとうに行くの?」
「行くとも、お姫様。今日から準備を始めよう」
                                     この項つづく

 

  

第5章 イタリアの巨大トマト加エメーカーのジレンマ
第4節 イタリア、トスカーナ州。マレンマ自然公園、アルベレーゼ
翌日は、バスクワーレ・ペッティのインタビューと撮影をさせてもらう予定だった。ところが、
広報部の女性ふたりがやってきて、急速中止になったと告げられた。相次疋外のトラブルが起き
て、その対処に忙しいのだという。同行したカメラマンのグザヅィエ・ドゥルーは、社内を撮影
することさえ禁じられた。突然、すべてが白紙に戻されたのだ。いったい何か起きたのか。昨夜
の一件の影響で、広報部が中止を決断したのか?それとも、本当に工場でトラブルが起きたのだ
ろうか?

結局、いくら交渉しても駄目だった。どうやらあきらめるしかないらしい。「バスクワーレはト
ラブルを自分で解決したがっているので」とのことだ。あれほど一生懸命にペッティのよいとこ
ろを紹介してくれた女性たちが、今は商品見本が並べられた会議室にわたしを閉じこめようとし
ている。時間つぶしに、部屋の窓から外を撮影することさえ許されなかった。なぜトマトを連ぶ
トラックを撮ってはいけないのか? いったい何か起きたのか?だが、理由はいっさい説明され
なかった。

わたしに許されたのは、ここを発つ前にもう一度パスクワーレ・ペッティに会って、別れの挨拶
をすることだけだった。そのときに、どうにかして父親のことを話さなければ。南イタリアのカ
ンパニア州にいる、どうしても会いたいあのアントニオーペッティのことを,バスクワーレ・ペ
ッティは予定より二〇分遅れてやってきた。昨日よりさらに気が立っているようだった。わたし
は別れの挨拶の前に、今回の取材について説明を繰り返した。加エトマト産業の歴史について書
くために、業界の大物に会って話を聞いている、と。そして、本物の取材であることを証明する
ために、これまでに会った大手メーカー経営者、イタリアの商社代表たちの名前をあげた。さら
に、今後はパスクワーレの父親、アントニオ・ペッティにも会うつもりだと述べた、

それを聞いたパスクワーレは、「なんだって!嘘だろう、信じられない!」と、急に怒りだした。
そしてわたしの顔から数センチまで近づいてきて、大声で怒鳴りちらした。
「トマトの歴史を書きたいんだな?じやあ、うちで書いてやる!」
そして、広報部の女性のひとりに向かってこう言った。
「この人にトマトの歴史について書いてやれ。いいな?」
それからまた、こちらへ向きなおって言った。
「わかったかな?うちで書いてやる。いいか、うちをあいつらと一緒にするなよ。きみがさっき
並べたのは中国と取引してるやつらだ。ちいさな子どもが畑で働かされても平気な連中ばかりだ。
うちはそんなのとはまったく関係ない!ここではトスカーナのトマトを使ってソースを作ってる
んだ。父親がしていることと、ぼくがしていることを一緒にしないでくれ!ぼくのイメージが台
なしだ。わかるだろ?」

「広報部の女性たちのほうをちらりと見ると、ふたりとも顔面を蒼白にしてその場に凍りついて
いた。わたしは彼女たちのプロフェッショナルな仕事ぶりを思いだした。有機栽培された美しいト
マトがたわわに実るトスカーナのエデンの園で、会社のイメージをよくしようと本当に一生懸命
だった。そんな素晴らしいPR活動が、逆上した経営者のせいで水の泡になろうとしているのだ。
突然、パスクワーレはトマト缶を手に取り、またしても怒りを爆発させた。

「おい、見えるか?この缶詰が見えるか?ぼくの父親はこれと同じような缶のなかに、3つの国
からやってきた3種類の濃縮トマトを詰めこんでる。とりわけ中国からは大量の濃縮トマトを買
っていろ。父親がしていることと、ぼくがしていることを一緒にするな!安心しろ、トマトの歴
史については、こっちで書いて送ってやるから」

第6章 中国産トマトも「イタリア産」に
第1節 イタリア、カンパニア州。サレルノ港 

ひとりの男が埠頭を歩いている。頭上には、さまざまな色のコンテナがケーブルでいくつも吊る
されている。男は右手に地図を握りしめていた。地図の上には10台のコンテナの位置が記され
ている。停泊中の貨物船を通りすぎ、右に曲がると、そこに積まれていたコンテナの山の前でし
やがみこむ。金属製のコンテナは強い日差しを浴び、さわると火傷しそうなくらい熱くなってい
た。淡いオレンジ色の二枚の扉は、金属製のボルトシールでしっかり封印されている。男は扉の
上のコンテナ番号に目をやり、手元のリストと照らし合わせた。合っていることを確認してから、
おもむろに立ち上がる。その30メートルほど後方を、コンテナ用の巨大なフォークリフトが、
けたたましいサイレンを鳴らしながら通りすぎていった。

男の名はエミリアーノ・グラナート。サレルノ港で不正取引の取り締まりをしている税開戦員だ。
グラナートは、うしろで待機していた男に手で合図を送り、後ずさりをする。うしろの男はサレ
ルノ・コンテナ・ターミナルの従業員だ。コンテナに近づいていき、専用のシールカッターでボ
ルトシールを切断する。銀色のボルトシールが、そばで見ていたわたしの足元に転がり落ちる。
ギイギイときしむ音を立てて、コンテナの扉が開けられた。プラスティックと古い木の匂いが漂
ってくる。わたしはコンテナに近づいた。なかには、中国から来た3倍濃縮トマトのドラム缶が
ぎっしりと詰めこまれていた。



中国で加エトマト産業が誕生してから、南イタリアは長い間ずっと濃縮トマトの最大の輸出先だ
った。のちにアメリカにその地位を譲ったものの、今でもナポリとサレルノは重要な拠点であり
つづけている。

サレルノ港はナポリほど大きな港ではないが、それでも濃縮トマトを積んだコンテナが、一日平
均10台以上到着する。週にだいたい70台から80台、多いときは200台になることもある
という。2014年、サレルノ港で陸揚げされた中国産の3倍濃縮トマトは約9万2000トン
で、金額にして6900万ユーロ分だった。2015年には、9万8000トン、9100万ユ
ーロ分に増加している。では今年、つまり2016年はどうだろう、少しは減少したのだろうか
?わたしの質問に、グラナートはこう答えた。

「いえ、そんなことはないですよ。たとえば、2016年6月15日は、中国から到着した濃縮
トマトがサレルノ港に350トン陸揚げされています。6月16日は、最初に487トン到着し
第2便で505トン到着しています。6月22日は384トン、6月23日は496トン、6月
28日も496トン、6月29日は計2便で最初が378トン、2度目が543トンとかなり多
く、これはおよそ390万ユーロ分です。とまあ、今日までずっとこんな調子ですよ」

1990年代終わりに中国の加工トマト産業が急速に発展し、さらに2001年に中国が世界貿
易機関(WTO)に加盟してからというもの、サレルノ港を通してヨーロッパに入ってくろ中国
産3倍濃縮トマトのほとんどは、南イタリアの食品メーカー3社によって輸入されていた。[1]

[1] lnformation du Procureurde la Répuublique italienne de Noceralnferiore,octobre 2010,in Mara Monti et
Luca Ponzi,Cibo Criminale, Rome, Newton Compton,2013.

 Giaguaro 2017 ITA Intro

そのうちのひとつが、サレルノとナポリの間にあるアングリを拠点とする、ARインドゥストリ
エ・アリメンターリ、通称ルッソ。ARは創業者アントニーノ・ルッソの頭文字だ。ふたつめが、
アングリから数キロメートル東のノチェーラ・スペリオーレにある、アントニオ・ベッティーフ
ーパスクワーレ、通称ペッティ。そして3つめが、ノチェーラから数キロメートル北のサルノに
あるジャグアーロだ。3社とも、ヴェスヴィオ山の麗の内陸部、サレルノ港とナポリ港の双方か
ら40キロメートル圏内に位置している。

 Jul. 6, 2017

これら3社はいずれも、過去数十年間にわたって、ヨーロッパのほとんどのスーパーマーケット
にトマトベースト缶を供給している。また、ヨーロッパのみならず、アフリカ、中近東、アメリ
カにもトマトベースト缶を輸出している。
3社が輸出しているのは、トマトペースト缶だけではない。ホールトマト缶とカットトマト缶で
も、世界市場をほぼ独占している。2015年、トマト缶の世界貿易量160万トンに対して、
イタリアの輸出量の占める割合いは77パーセントたった。これは金額ベースで10億ドル以上
に相当する。続いて、スペインが10パーセントで、アメリカ、ギリシャ、ボルトガル、オラン
ダの4ヵ国合わせて10パーセント未満成っている。[2]

[2] Architecture mondiale des échanges en 2015 ,Tomato News, janvier 2017.
                                     この項つづく

  

    
 

   Jun. 8, 2018
【海洋風力発電事業:次世代浮体式洋上風力発電システムのバージ型浮体が完成】

日立造船(株)らのグループは、次世代浮体式洋上風力発電システムのバージ型浮体を完成させました。
ことを公表。どれによると、本事業で採用しているバージ型浮体の特徴は、一般的なセミサブ型と比
較して小型・軽量で、水面下に沈む構造物の深さ(喫水)が浅いため、水深50m程度の浅い海域で
も設置が可能。今後、北九州港響灘地区において、風車搭載、設置海域での係留や電力ケーブル
接続を行い、今夏から北九州市沖に実証機として設置し、今秋頃からの実証運転を開始する予定。




❦ 海洋発電発(自然エネルギー)開発だけでなく、海洋・海底資源、水産資源発。海洋浮体空
港などのメガフロート開発、海洋都市開発などの基礎/応用知財資するものとして要注目。これは
面白い。、

 Jun. 6, 2018

【単一分子絶縁体によるムーアの法則の拡張】

コンピュータの処理速度を向上させるためには、トランジスタの微細化が不可欠。70年代以降、エ
レクトロニクスの進歩は、これらのコンポーネントがより小さくより強力になってきたが、その速
度に陰りがみえてきている。コロンビア大学らの研究グループは真空障壁よりも効果的にナノメー
トルスケールの絶縁する分子の合成に成功する(上図参照)。これは電子の波の性質を利用し、包
括的で破壊的干渉シグネチャを示す1ナノ以下の堅いシリコンベース分子設計し、ナノスケールで
トンネル伝導を阻止する技術を考案。この量子干渉ベースのアプローチは、短い絶縁分子の新しい
基準を設定します。理論的には、干渉であり、分子中の絶縁成分が少ないことを示していると研究
担当者は話す(要観察)。

  Quantum tunnelling


 

【リード プチ圧力調理:バッグ電子レンジがさらに便利に】

ライオン株式会社が、“「ちゃんと」をかんたんに”の『リード』ブランドから、材料と調味料を
入れて電子レンジで加熱するだけで、じっくり煮込んだようにおいしい一品が短時間で「かんたん
」に作れる調理バッグ『リード プチ圧力調理バッグ』を販売していることを昨日知る。販売動機は
は簡単。共働き世帯は1,100万世帯を超え、有職主婦は増加(内閣府男女共同参画局)。特に、子育
て中の有職主婦では、約7割が「調理」を負担に感じ、中でも「帰宅後の夕食作り」をストレスと
して感じています。「調理はちゃんとしたい」と回答する人は子育て中の有職主婦の9割以上にの
ぼり、実際には時間や手間はかけられず「かんたんに」したいとのニーズに応えたというす(当社
調べ、2017年、n=258名、WEBアンケート調査)。時間をみてチャレジすることに。

 



それにしても、界面活性剤の開発でお世話になったことがあったが、こんなこともやるのかと驚く。

 ● 今夜の一曲

『真夏の太陽』作詞/作曲:桑田佳祐 唄/鄧麗君

マイナス百度の太陽みたいに 
身体を湿らす恋をして 
めまいがしそうな真夏の果実は 
今でも心に咲いている 
遠<離れても黄昏時[たそがれとき]は
熱い面影が胸に迫る・・・・・ 

❦ 通勤帰りのカー・ステでよく聴き流し疲れを癒していた。1990年7月25日に発売され
たサザンオールスターズの28枚目のシングルだが、鄧麗君のカバーがほとんど。勿論、ロング
ドライブ時はサザンバージョンがほとんど。ところで「マイナス百度の太陽」の対象となる彼女
を数えると両手で余るぐらいになるか?


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