● 花燃えて豊穣 諸君!狂いたまえ。
書斎での作業は、付け流のテレビと、電子書籍閲覧、そしてインターネット検索の3種のメディア利用
が常態化しつつある。そんな環境のなか、また、明治維新ものかと食傷気味に思っていたが、同放送の
『花燃ゆ』の予告ダイジェスト版に伊勢谷友介扮する吉田寅次郎のセリフ『諸君!狂いたまえ』がグサ
ッと腹に刺さる。あまりにも『龍馬伝』の印象が深かった彼だ。即座に、これは必見とUターン。
NHK大河ドラマの『龍馬伝』は島津斉淋・井伊直弼・吉田松陰時代からいよいよ佳境の高杉晋作・
坂本龍馬・沖田総司の時代に。舞台は長崎丸山、伊勢谷友介扮する高杉晋作の登場に思わずカッコ
イィ~! と大声を発してしまいそうな「リアリティ」だ。申し分ない。そう「バーチャル・リアリ
ティ」を「実際の画像ではないが、限りなく実際に漸近させようとする映像編集とその体系」と定
義するとそのように言えるが、なぜ龍馬より晋作に惹かれるのか? 彼自信が季語なのだ、龍馬よ
り四歳短く、熱くそして夏の青春の太陽、オー・マイ・サン。(「散切り頭の夏休み」2010.07.19)
当の伊勢谷は、「松陰先生は人を一人も切らずに、哲学的なことを考えている方なので、お話をする機
会が多く、せりふがこれから大変だなと思っていますが、その想い、志をしっかり持ったせりふを話せ
ることが、役者としても個人的にも非常にうれしく思っています」「この時代は、どんどん変わらなき
ゃいけない局面で、誰かが狂わなきゃいけないという風な時代だと思っています。私が演じる吉田松陰
先生も『諸君、狂いたまえ』という言葉を発せられましたし、私自身もそうあれたらいいなと思ってお
ります」と気持ち新たに、「このドラマをきっかけに、見た方々が、ちょっとでも今の常識におしつぶ
されずに、狂って、新しい未来、自分なりの未来を提供できるようなドラマになっていったらいいなと、
頑張っております」と使命感をにじませたことが報じられている(「『花燃ゆ』長崎ロケ開始 伊勢谷
“松蔭”使命感語る」 2014.08.19 オリコンスタイル )。
このドラマは、幕末の長州藩士で思想家の吉田松陰の妹・文(井上真央)――天保14年(1843年)、杉
百合之助(常道)の四女として誕生。文と名付けられ、これは叔父であり松下村塾の創立者である玉木
文之進から一字をとって与えられた。兄に梅太郎、寅次郎(吉田松陰、この頃すでに吉田家へ養子に出
て家督を継いでいた)、姉に千代、寿、艶、弟に敏三郎がい艶は文の生後すぐに夭折し、長女の千代は
児玉祐之に、次女の寿は小田村伊之助(後に楫取素彦)のもとへそれぞれ嫁ぐ。文は久坂玄瑞の妻とな
るが、死後、彼の遺稿や、文に宛てた書簡21通をまとめて「涙袖帖」と題したのは次姉・寿の夫であっ
た小田村伊之助。1876年(明治9年)に楫取素彦が群馬県令となっていたが、1881年(明治14年)1月30
日、次姉の寿が胸膜炎を併発し43歳で死去。2年後の1883年(明治16年)、素彦の身辺と二人の孫の行
く末を案じた母・瀧子の勧めがあり、文は楫取素彦と再婚する。晩年は山口県防府市で過ごし、1921年
(大正10年)に79歳で死去――の生涯を描く。
さて、吉田松陰の死生観は 「17、18の死が惜しければ、30の死も惜しい。80、90、100になってもこれ
で足りたということはない。半年と云う虫たちの命が短いとは思わないし、松や柏のように数百年の命
が長いとも思わない。天地の悠久に比べれば、松柏も一時蠅(ハエのような存在)なり。」によく表れ
ているが、念頭に当たり、今年の指針を一言で表せば、「時代はAKB48と嵐」とかってブログ掲載
したが、"嵐"は「地球温暖化の大規模気象変動による世界動乱到来」の比喩で、外部環境が"嵐"ならば、
主体的な言葉として、"狂"を対置させたいと考えていたから、『諸君!狂いたまえ』が衝撃をもってシ
ンクロナイズした。と、まぁ~、左様なことで、「ルート66」を松陰の志と強引に重ね合わせてみる。
国土交通省と林野庁は、昨年11月11日クロス・ラミネイテッド・ティンバー(直交集成板、CLT)の普
及に向けたロードマップを公開した。2015年度に燃えしろ設計の告示を、16年度には基準強度と一般的
な設計法の告示を公布することを目指す。CLTの本格的な普及を促進するためには、(1)建築基準(基
準強度・設計法)の整備、(2)実証的な建築事例の積み重ね、(3)CLTの生産体制の構築、といった
施策を総合的に推進することが必要で、林野庁と国土交通省は、こうした施策を計画的に進めるととも
にその具体的内容と想定するスケジュールについて供給側や需要側などに対して幅広く周知し、関係者
の取組を促進するため、「CLTの普及に向けたロードマップ」を取りまとめた。
しかしながら、森林ジャーナリスの田中淳夫は以下のような批判や疑問を投げかけている。
まず建設業者は期待を持っているかもしれない。コンクリートよりも軽くて輸送が便利。木造ゆえ
にコンクリートの養生期間が必要なく工期が短くなる。またコストも安くなることが見込まれてい
る。太い柱がなくなる(ツーバイフォーやCLTは壁で建物を支える)ために内部の間取りにも余
裕ができる。設計の自由度が広がるだろう。またツーバイフォー材やCLTを生産する木材加工業
者、あるいは輸入業者も、新たな需要開拓になるのだから喜ぶだろう。
木材の使い道は、これまで住宅資材が大半だったが、今後は先細りだし1軒当たりの使用量もそん
なに多くない。ビルディングに使われるとなると、これまでの数倍の需要が生み出されるからだ。
では、林業関係者は。「これで木材需要が伸びる」と期待しているのだろうか。
まず考えるべきは、建材価格だ。ツーバイフォー材は、ホームセンターでも並んでいるのを見たら
わかるが、非常に安い。これらは輸入材だが、国産材で作ったからと言って高くすることはできな
いだろう。CLTは日本ではまだつくられていないが、作り方や材料の性質を考えれば、合板CL
Tのフォーラムのために来日したイタリアの関係者は、CLTの立米単価は約2万円だと言ったそ
うだ。為替などの変動もあるが、極めて安い。これから材料価格を想定すると、だいたい10分の1
くらいではないか。つまり1立米2000円。高くても3000円までだろう。
となると、国産材製のCLTも似たような価格になるのではないか。外国製CLTと競合するから
である。常にCLTも国際価格に連動するだろう。となると、国産材も高く買い取ることは無理で
ある。もし、本当に立米2000円の材が求められるとしたら、もはや合板どころかチップ価格である。
とても山主は木を出せない。これを機に国産材価格の暴落を誘う可能性も否定できない。
そして、もう一つ考えておくべきことがある。この手の工法による建築に、大工はいらないことだ。
もとからパネルにしたツーバイフォーなりCLTを組み立てるだけである。そこで必要なのはクレ
ーンだ。工場で生産した部材を吊り上げて、つないでいくだけだから、大工の出番はなくなるのだ。
最後に消費者(木造ビルの使用者)はどうだろう。工期が短くてよいなら、建設費用は安く済むか
もしれない。それは歓迎だ。ただ、ツーバイフォー材もしくはCLTは構造材だから、その上から
外装や内装をする必要がある。その素材が、石膏ボードとかクロス、あるいは新建材などだったら
木肌を感じることはない。木材使用感もあるまい。つまり、そのビルディングが木造か否かなんて、
どうでもよいことになる。(逆に言えば、コンクリートであろうと鉄骨であろうと、内装・外装材
が木質だったら、木製に見えるわけだ。)
『木造ビルを建てて喜ぶのは誰だろう』
013.12.06 田中淳夫|森林ジャーナリス
さて、誰が木造ビルを喜ぶのだろう。そして、どんな木造ビルが喜ばれるのだろう。と似たりよっ
たりの材料で間に合う。木目は気(木)にしないでよいし、傷や曲がりが少々あっても構わない。
つまり価格も合板用のB材と変わらないだろう。
だが、ここで問題となるのは、里山の資源は都会や大生産地のような質や量を備えていないことだ。
ロット(量)が少なくアイテム(種類)が多い、しかも洗練されていず原石のような里山の商品は、
売買の対象になりにくい。それゆえ、今の自由主義経済では、脱落する。それが里山の地盤沈下を
もたらした。
それでも維持したいと思うなら、誰かがどこかで不利益分のコストを負担しなければならない。い
くら万一に備えたバックアップ、あるいはインキュベーション装置として里山が必要だと唱えても、
非効率のために生じるコスト負担がなければ維持は難しい。里山の雑木を薪にして炊事に使おうと
いうのも、薪は買えば高いし自分で調達しようにもその場所(山)を確保して、伐採したり薪割り
する労力がかかる。燃焼後の掃除など手間もかかる。それはなかなか面倒なコストだ。
事実、高価な薪ストーブを設置したものの、ほとんど使わず、隣に置かれた灯油ストーブを愛用し
ている例がいっぱいある。米や野菜の自給も甘くない。片手間に真似で耕作してもうまく育たない
し、病害虫や獣害にあって全滅することもしばしば。ひん曲がって生長した農作物は、不味いこと
が多い。肥料や耕作道具の購入などを考えると、結局、購入するより高くつく。
そして田舎暮らしそのものが、そんなに甘くない。田舎に移り住んだものの、人間関係やら社会の
インフラの問題、さらに仕事や収入面で悩んだり落胆している人が少なくない。田舎の生活は、意
外と高くつくのだ。里山資本をもう少し大きく、林業という産業で見てみよう。国産材が外材に押
されがちなのは、国産材はロットが揃いにくく、効率的な販売網も確立できていないからである。
だから消費者の手元に届くまでには高くなる。(素材としての価格は、国産材と外材に差はなくな
っている。)国産材を使おう、という木づかい運動も、割高なコスト負担を消費者に求めることに
なる。
木質バイオマス発電も、本気で導入するには熱利用も含めて莫大なインフラが必要だ。そのための
コストがかかる。現在でも再生可能エネルギーはFIT(固定価格販売制度)によって割高な電気
料金にしようとしているのは、コスト負担を求められているためだ。それでも、里山はサブシステ
ム=保険である、と思うなら、必ずしも返って来ない保険の掛け金を払わねばならない。生命保険
や損害保険は、死んだり損害を受けたときに備えて掛けるものだが、いざという時が訪れるまで払
い続ける掛け金は、結構な負担だ。収入に余裕がなければ払い続けられない。
このように見ていくと、里山資本主義を実践するには、結構大きな掛け金を払い続ける覚悟がいる
わけだ。リスクに備えるためコストを支払い続けられて、初めて「里山資本主義」の世界は築ける。
さて賛同者は、その覚悟と余裕はあるだろうか。
『里山資本主義の実践には、高いコストを覚悟すべし』
2014.05.09 田中淳夫|森林ジャーナリス
世間には木材に対する誤解が多くあるが、最大のものは価格だ。とくに国産材は高いと思われてい
る。よくニュースでも「安い外材に押されて……」と語られたり、「国産材で家を建てたら高くつ
く」と思い込んだ声が流布している。
だが、実際の価格は驚くほど安い。通常のスギなら、立米単価は1万円前後だ。1本当たり4千円
もしない。少し曲がっていたり傷があろうものなら半値になる。とくに最近は、円安で外材価格は
上がっているから、外材より安いものも少なくないのだ。
問題は流通や製材・加工の過程で価格が上がってしまうことである。だから柱や板材になった時点
で、北欧など地球の裏側から届いた製材品と比べて高くなってしまいがちだ。それでも、1割高と
か2割高のレベル。あとは大工の加工賃だが、これは人によって違いがありすぎる。そもそも木材
の価格は、その材質や使い道によって大きく変動するから、十把一絡げに外材と国産材の価格を比
べることに意味はない。
一般的な木造住宅を建てる際、全体の建築費のうち木材価格が占める割合はどれくらいか知ってい
るだろうか。通常なら10%程度、ハウスメーカーのものには5%以下の住宅もある。思いっきり木
材を使いました! という家でも2割に届くケースは稀なのである。仮に木材価格のシェアが10%の
住宅で、外材より1割高い国産材の製品を使った場合、全体の建築費に与える影響は1%という計
算になる。建築費が2000万円なら20万円程度だ。そのくらいは交渉の中で揺れ動く範囲ではないか。
つまり、よほど特殊な木材を多用した数寄屋建築でもないかぎり、木材価格が建築費を圧迫するこ
とはないはずだ。それなのに家を建てる際は、なんとか安くしようとすると、まず木材部分を削り
がちになる。世間は、妙に木材を買いかぶっているところがあって、非常に高いものと誤解してい
る。そしてその誤解に便乗する者もいる。建築業者が国産材を使いたがらないのは、流通が整備さ
れていず手間が増える、製品アイテムが少ない、仕入れ先を変えるのが面倒などが隠れた理由であ
るケースが多い。しかし、施主の国産材を使ってという希望を回避する理由に「高いよ」と口にす
るという。(中略)意外と価格は安いというだけでなく、木材はさまざまな姿に変わって、価格以
上の魅力があると伝えてくれることを期待する。
『吉野杉の「おすぎ」を買った女・・・木材の値段は誤解だらけ』
2014.12.11 田中淳夫|森林ジャーナリス
しかし、環境リスク(カーボン・リスク)の主課題に対する、地域経済の成長、コスト削減や競争力な
どの従属(あるいは説明)課題の関係が曖昧――例えば、石油と木質バイオマスの直接燃料効率の経済
性の比較など――という印象は拭えない。また、木質バイオマス発電導入などのインフラ整備も批判に
挙げているが、政府が長期・継続的に財政出動(未来国債)すれば解決できる問題である。寧ろ、ペレ
ットの輸入に際しては、カーボン・トレーサビリティの脆弱性をどう克服するのかの課題が大きい。従
って、オールバイオマスシステムを構築ための政府のプラットフォームの定義が大前提――ドイツでは、
半径50キロメートル経済圏(『今夜はグリーンの話』2013.12.18)――といているように地産地消の
経済圏を設定し、同じ経済圏相互運用ルール整備などが必要である。
もうひとつ、「クロス・ラミネイテッド・ティンバー・パネル(CLT):直交集成板」への依存と集成板
の多様化という課題である。難癖を付けるわけではないが、下図のような木材の組み合わせで光を透過
させることができるように、副次(従属)的な課題のように金属・非金属などの他の複合化による強度
向上や意匠性の自由度拡大なども考慮しておく必要もある。さらに、個人的には木質バイオマスの先進
的なパウダーの技術開発に興味がある。この件は残件扱いとする。