第60章 小鮮を烹る
大国を統治することは、あたかも小魚を煮るに等しい。手を加えずに、煮ることだ。
「這」にのっとって、無為の政治を行なえば、神霊も霊験を示さなくなる。神霊が霊験を示さぬばか
りか、人民が神霊の存在を意識しなくなる。ひとり陣雲の存在のみならず、人民は聖人の存在をも意
識しなくなるのだ。
人民が神ぶのが在を認識せず、聖人の存在をも意識せぬ。かくてこそ神霊の恩沢と聖人の存在とが、
人民に及んだといえるのである。
<大国を統治する> 節理の上からいえぼ、大国である必要はなく国一般でよいわけである。下の「小
魚」と対比させて、対照的な効果を狙ったのである。
<神霊> は「鬼」。死者の霊魂のこと,人間に禍福吉凶を下すカか持つものとして、根強く信仰され
ていた。
鬼も神ならず 墨子は、人問に言語を下す神霊の存在を熱心に説き、政治を正す助けにしようとした。
老子は神霊の存在を真っ正面から否定しようとしないが、神霊を必要としなくなる政治説くことによ
り、暗にその存在を否定するのである。
第61章 「天下の牝」
大国は、川にたとえろなら、下流である,諸国はこれに合流しようとする。
換言すれば、天下における「女性」である。諸国はこれに慕いい寄る。
女性は、みずから手を下すことなく、男性を意のままにすえう。つねに受身であるからこそ、それは
可能なのだ。
大国が小国にへりくだろなら、小国はおのずと大国に帰服する。小国が大国にへりくだるなら、大国
はおのずと小国を受容する。
大国は、天下の人民を庇護して、養いと願っている。小国は、大国の庇護に頼って、自己の安全を保
ちたいと思っている。両者の願望は、矛盾するものではないのだ。
まず大国がへりくだるがよい。それでこそ、双方の願いは達成できる,
大なる者はよろしく下となるべし 老子は「弱」を高く評価する。それも、何が何でもただ弱いとい
うより、強者があえて弱者の在場を守ることに、強者があえて弱者の立場を守ることに、大きな意義
を見出していたようである。28章の「その雄を知りてその雌をを守る」ということばにも、こうし
たにおいが含まれている。
※アジア的な母系文化規範を超え、「すでに偉大な国アメリカ」はその所作を携えているはず。そう
であればこそ、小国、他国はそれを慕う老子の言説は、「分断」「疎外」の言説を戒めるであろうと
「移民大国アメリカ」にホンジュラスの小さな難民が問いかけている。どうするトランプ?
房なせるイイギリの実の高ければ日々過ぎ行きて紅きを知らず
【樹木トレッキング:イイギリ】
イイギリ(飯桐、学名:Idesia polycarpa)は、ヤナギ科(クロンキスト体系など従来の分類ではイイ
ギリ科とされていた)の落葉高木。和名「飯桐」の由来は、昔、葉で飯を包んだためといわれる。果
実がナンテンに似るためナンテンギリ(南天桐)ともいう。イイギリ属の唯一の種。 日本(本州以
南)、朝鮮、中国、台湾に分布する。イイギリは別名「アオイノキ」の他に、赤い実が似て「ナンテ
ンギリ」、桐に比して腐りやすく「イヌギリ」、古名「ケラノキ」など。
樹高8~21メートル、幹径50センチメートル程度で、樹皮は滑らかな灰緑色。シュートは灰褐色で太
い髄がある。葉は互生、枝先に束性し、キリやアカメガシワに似て幅広い心形で、長さ8~20センチ
メートル、幅7-~20センチメートル。表は暗緑色、裏は白っぽい。縁には粗い鋸歯がある。葉柄は
4~30cmと長くて赤く、先の方に1対の蜜腺がある(アカメガシワもこの点似ているが、蜜腺は葉身
の付け根にある)。4~5月頃開花する。花は小さく黄緑色で、香気があり、ブドウの房のように垂れ
下がった13~30センチメートルの円錐花序をなす。花弁はなく、萼片の数は5枚前後で一定しない。
雌雄異株で雄花は直径12~16ミリメートル、雌花は9ミリメートルで子房上位。雄花には多数の雄蕊
があり、雌花にも退化した雄蕊がある。果実は液果で直径5-10mm。熟すと橙色から濃い赤紫になり、
多数の2-3mmの褐色の種子を含む。果実は落葉後も長く残り、遠目にも良く目立つ。 果実は生食可で
加工して食べられることもある。
秋から冬に熟す多数の赤い果実が美しいので、観賞用樹木として、ヨーロッパ等を含む他の温帯域で
も栽培される。生け花や装飾にも使われる。白実の品種もある。「浦島草」の赤き実、黄金色の銀杏、
続くは落葉高木「イイギリ」の赤い実。飯桐の名は、その大きな葉で飯飯を包んだことから。「短歌
俳句植物辞典」をひくが、外来種じゃなかろうに不載なり。ならば同じ落葉高木の桐をひけば「桐の
花」「桐の実」「桐一葉(ひとは)」「桐の花」はある。しかし、桐はゴマノハグサ科で、飯桐はイ
イギリ科。イイギリの葉はハート型・葵型で別名「アオイノキ」。一方、桐はホームベース型で毛が
生えているゆえに飯は包めぬ。イイギリは赤い実だが、桐は大きな黄色の涙型。茶色に熟し実が割れ、
中の実が風に散る。イイギリの紅い実は渋いとかで、野鳥は目もくれない。やがて周囲の樹々が葉も
実も落ちて冬木立の景色へ。ここでやっと赤い実は熟し、それまで見向きもしなかったヒヨドリ、オ
ナガらが「これ以外に喰う実なし」とシブシブの呈で啄み始める。そんな光景が展開され始めると年
も終わりとなる。
”Anytime, anywhere ¥1/kWh Era”
【エネルギー通貨制時代 11】
☑ 風力タービン事業篇:欧州で海上風力発電の商用開始
10月31日、2つのヨーロッパの浮遊式海上風力発電プロジェクトの目標が達成された(下図参照)。
それによると、WindFloat Atlantic事業に対するEU支援は、急速な成熟技術に確信を獲得、事業開発体
はこの地域で最も有望な風力資源獲得に信頼を寄せる。WindPlus連合の推定によれば、欧州の利用可
能な海上風力資源の約80%は、固定基礎タービンが60m深の水域の海域に及ぼす。関係者(Banister)
によると、海洋風開発には、カリフォルニアや日本など世界の新しい市場開拓に及び。WindFloat
Atlantic事業は海岸から20キロ(12.4マイル)の距離で100メートルの深さに海底に固定されている。
10月の初め、Innogy SE、Shell、Stiesdal Offshore Technologies A / S(SOT)の支援を受け、欧州の浮遊式
海上風力事業が推進する3つの事業体は、ノルウェー沿岸のSOTのTetraSpar浮遊基盤コンセプトを実
証事業に合流する。事業パートナーは、TetraSparファンデーションのモジュール式レイアウト(管状
の鋼製主体構造物と懸架式キールを含む)が、既存浮動風力基礎技術よりも安価に構築できる特徴を
もつ。浮遊式洋上風力発電市場は進化しており、今まで浮体主体は高価だったが。この実証事業では、
コスト削減法をより深く理解できると、Innogy SEの再生可能エネルギー担当責任者(HansBünting)
は語る。
3.6メガワットのSiemens Gamesa海上タービンを配備する1800万ユーロ(2,000万ドル)の実証事業は、
2019年にノルウェーのスタヴァンゲル近海海洋エネルギー試験センタへ導入し海岸から10キロ(6.2
マイル)の場所にあり、深度200メートルの海域に海底に固定される。これとは別に、ノルウェー政府は
今年夏に発表された、海上風力発電所のための2つの新しいサイトが上期に公開すされ、エネルギー産業界
も、三菱重工の浮遊風力プロジェクトに注目されており、この浮体型海上風力の実績次第で米国に波及する
可能性が高い。今年の初めに、レッドウッド・コースト・エナジー・オーソリティーは北カリフォルニアの海岸沿い
の海洋風力発電事業企業連合も選択されている。
● 海上浮体技術を目指す欧州の2つの事業を決定
まず、ポルトガルの北海岸に浮遊式洋上風力発電所の商業化を目指す連合体は、EU革新基金から大
幅な融資を受ける。10月19日、欧州投資銀行(EIB)は、EDP Renewables、Repsol、Principle Power
合弁事業のWindPlusに、25メガワットの浮遊式風力発電所建設に6,000万ユーロの融資(6,800万ドル)
を決定 。この資金は、EIBエネルギー実証事業施設由来のもの、エネルギーシステム変革を進める事
業に対して、融資、融資保証、エクイティファイナンスを750万~7500万ユーロ(850万~8500万ドル)
を提供。追加プロジェクトの資金は、EUのNER300プログラム(2,990万ユーロ/ 3,400万ドル)とポ
ルトガル・カーボンファンド(6百万ユーロ/ 680万ドル)に由来。事業の3つのWindFloat製基礎建設
は、8月上旬にポルトガルとスペインの施設で開始されている。このWindFloatは、カリフォルニア州
のPrinciple Power社が開発した3列半水中タービン基礎であり、この事業は、WindStar社とベスターズ
・ウィンドシステムズA / Sと三菱重工業との合弁会社であり、MHI Vestasから供給される3つの8.4メ
ガワットのタービンとWindFloat基礎の結合をめざす。Vestas 164タービンは現在まで浮動主体を搭載
する最大/最強なタービン。Principle Powerの開発責任者(Kevin Banister)によると、この事業は2019
年第3四半期に委託される予定。
● 海上風力の商業化を押し進める
WindPlusパートナーの場合、WindFloat Atlantic事業は、海上風力発電事業者が固定風力発電の海上風力
発電技術とのコスト競争を可能にする次の計画を発表。第1段階では、WindFloatの基礎と2メガワット
のタービンを装備したプロトタイプが、2011年から16年までポルトガルの海岸で稼働。この事業の2
メガワットのタービンは、オフショア用途向けには小さすぎたため技術実証を目的とする。これは完
全に成功。それによりシステムの技術的性能確立できた。次は最大規模の海上風力発電所と規模とコ
ストで競争事業プロジェクトの構築にある。次の段階で、大規模なアレイ、300メガワット以上の大
規模な事業構築能力があり、エネルギーコストをさらに下げて商業競争の激しい領域にスケールメリ
ットを事業が実際に活用できる(Banister)と語る。また同担当責任者は、WindFloat設計のインスピ
レーションは世界中の何百もの半潜水構造を展開してきた石油・ガス業界からもたらされたと語り、
達成した真の技術革新は、海上風力タービンの浮遊構造との結合であり、タービンの空気力学と浮動
主体の流体力学の知見がどのように一致するかを理解することにあると語っている。
【社会政策トレッキング:バラマキは正しい経済政策である 23】
Yutaka Hrada, Wikipedea
第3章 ベーシック・インカムは実現できるのか
第25節 震災復興も一律給付で可能となる
一律給付が効率的であることは、2011年の東日本大震災からの復興でも同じである。政府が何か
をしようとすることがとてつもない無駄を生んでいる。例えば仮設住宅である。そのコストは、寒冷・
豪雪地仕様だと撤去費用も含めて500万円かかる。1995年の阪神・淡路大震災時での仮設住宅
のコストは238・7万円であった。しかし、2004年の新潟県中越地震で、その仕様で建てたと
ころ、断熱材もなく、雪によって雨漏りがし、居住者は大変な苦労をした。そうならないように建て
ると500万円かかる。さらに、資材の高騰もあって、600万から820万という数字もある。仮
設住宅に住めるのは2年間だから、820万円なら月に34万の支援を被災家族にすることになる。
2年間ではすまないので、4年にしても月7万円の支援ができることになる。
それなら、4年間家賃補助をしたほうが安上がりである。地方であれば、月5万できちんとしたアパ
ートに住める。10万もあれば、仮設住宅よりずっと快適で広い家に住める。もちろん、被災地には
物理的に家がないのだから、家賃補助は意味がない。しかし、阪神・淡路大震災では、住み慣れた場
所から遠くに仮設住宅を建てたために入居希望者が少ない仮設住宅もあった。今回の東日本大震災で
も同じことが起きている。待望されていた仮設住宅だが、入居率は岩手が80・7%、宮城が86・
7%、福島が58・1%である(『朝日新聞』2012年7月7日)。市町村単住でみると3割台の
ところもある。仮設住宅が通勤・通学に不便な場所にあることと、賃貸住宅への補助金が出ているか
らだ。
仮設住宅の面積は30平方メートルにすぎないから、820万円なら坪90万円のコストがかかる。
坪60万円出せば、立派に普通の家が建つ。90万円といえば、スターの豪邸の坪単価である。自宅
が全半壊した被災者の新しい住宅の頭金として820万円渡したほうがずっとよいのではないか。住
宅ローンの頭金というメニューがあれば、多くの人がそちらを選ぶだろう。新たに恒久住宅を建てる
のでは間に合わないという批判かおるだろうが、仮設住宅でも、震災から5か月以上たって、4万戸
弱しか建っていなかった。
普通の家も、3か月で建つ。間に合わないというのなら、最初に住宅頭金を受けた人は、6か月の間、
他の家族を無料で下宿させるとしてはどうだろうか。150平方メートルの普通の家(地方ではこの
程度が普通であろう)に2家族で住むほうが、30平方メートルの仮設住宅に住むより快適なのでは
ないか。不便なところにある仮設住宅は人気がないにもかかわらず、宮城県では、仮設住宅を退去し
た被災者のために、1・5万戸の災害公営住宅を整備するという(県の震災復興計画)。岩手県でも、
同じ事業を県の予算に盛り込むことを検討している。災害公営住宅も、人気のない仮設住宅の二の舞
になるのではないか。
避難所に行って、仮設住宅に行って、災害復興公営住宅に行くといくらかかるのだろうか。京都大学
の高田光雄敦授によると、仮設住宅に360万円、災害公営住宅の建設費に1500万円以上かかり、
その他の費用も合わせると両者で2000万円かかり、さらに公営住宅用地の取得費も入れると全部
で3000万円かかるという(高田光雄「検証テーマ『住宅復興における取り組み』」、兵庫県・復
興10年委員会「復興10年総括検証・提言報告」報告書、2005年、http://web.pref.hyogo.jp/wd33/doc
uments/000038701.pdf)もちろん、生活できない人を国が面倒を見るのは当然である。しかし、自立で
きる人には仮設住宅の820万円を援助したほうがずっと安上がりではないか。
さすがに政府もこれまでの愚かさを認めて、内開府の有識者会議は、「自治体が建設するプレハブ仮
設は、1戸あたりの整備費用が600万~820万円……また、民間住宅を借り上げる「みなし仮設」
では自治体が借り主になるため、契約作業に職員の手が図らず、被災者が入居を待たされる例が相次
いだ。……(そこで)現金やクーポン券を被災者に給付して家主と契約してもらう方法も検討すべき
だとする。……I戸あたりの費用は、……年間74万~150万円」となると提言している(「被災者
に家賃直接給付仮設建てる原則、転換」『朝日新聞』2014年7月29日)。
第26節 高台移転のコスト
どの県の計画でも災害に強いまちづくりが謳われ、住民の高台移転が提案されている。高台移転とは
高台を造り、住民を移転させる計画だ。しかし、三陸の急峻な山を何百メートルも切り崩して盛り土
するのは大変な工事である。盛り土した部分は、高さはあっても地盤が弱い。仙台郊外の丘陵地の谷
を土砂で埋めた住宅地でさえ今回の地震で地滑りが発生して大きな被害が出ている。三陸の住宅地の
地価は、坪5万円以下のものである。畑や田園を宅地にすれば、さらに安くてすむ。しかも、人口は
減少している。新たに高台の住宅地を造るなど、到底見合わない投資である。
宮城県は2011年6月10日に、東日本大震災で甚大な被害を受けた沿岸12市町で、住宅の高台
移転など改鋳まちづくりを進めた場合のコストを政令市の仙台市、高台移転の計画がない利府町、松
島町を除く沿岸七市五町を対象に試算している。それによると、高台移転は772ヘクタール、1万
3900戸が対象で、総事業費は4250億円となるという(『河北新報』2011年6月11日)。
4250億円を1・39万戸で割ると、1戸当たり3057万円となる。4250億円を772ヘク
タールで割ると、1平方メートル当たり5・5万円になる。772ヘクタールを1・39万戸で割る
と、一戸当たり555平方メートルになる。1戸555平方メートルとは168坪の敷地(もちろん、
道路や公園用地などで三割以上の土地を確保する必要があるので、1戸当たりの敷地は100坪程度
となる)ということになる。これほどの巨額のコストをかける必要があるのだろうか。しかも、その
ようにして造られた上地に、人々が住むかどうかもわからない。生活の基盤となる住宅や漁業のため
のお金は回ってこないからだ。
巨大な公共事業でかかるのはお金だけではない。時間がかかる。今回被害が激甚だった地域は、農業
と漁業と政光が中心産業である。個人の生産手段や住宅の復旧を援助すれば、素早い復旧が可能にな
る。五年も時間をかければ、働ける人は仕事のある場所に移勤してしまい、地場産業を復興すること
はできなくなる。
実際には、政府も、ある程度は個人に給付する方向で動いている。阪神・淡路大震災を契機に、個人
の住宅の被災に対しても援助がなされるようになった。被災者生活再建支援法によって全壊世帯に最
高300万円を支給する制度も創立された。今回の対応として、被災者に直接現金で手渡す被災者生
活再建支援金の増額、被災者の住宅取得にともなう二重ローン(破壊された家と新しい家の二重のロ
ーン)の負担軽減、被災者が破産したとき手元に残せる資産を充すること(現預金400万円まで。
2011年3月31日各紙報道)、一部公的金融機関の被災企業への債務放棄(「日本経済新聞』2
011年4月5日)などが議論されている。結局のところ、個々の被災者に対して援助をしたほうが
効率的なのである。
結語
会社ではなくて、国家が、社会の安心を直接保障すべきであり、貧困そのものも解消すべきである。国家は、
すでに、その上うな力を持っている。現在、国家がなしているさまざまな業務をBIの支給に置き換えれば、国
家は貧困を解消することができる。資本主義の矯正をもっとも効率的に行えるのがバラマキであり、究極のバ
ラマキとしてのBIである。
日本が達成した豊かさによって、究極的に、すべての貧しさを解消することができる。それがBIである。現在の
雇用維持政策、福祉政策の非効率、寛大すぎる生活保護制度を改めれば、すべての人々に最低限の健康で
文化的な生活を保障することができる。
おわりに 国家は貧困を解消できるか
貧しいとは、大部分の人にとっては単にお金のないことである。日本では、990万人の人が、年に
84万円以下の所得で暮らしている。この人々が、84万円以上の所得が得られるように追加的に給
付する費用は2兆円にすぎない。84万円か安すぎるという議論かおるとして、それを100万円に
引き上げても、給付に要する費用は3・7兆円にすぎない(第3章の12兆円とインセンティブのた
めの費周一の項を参照)。
すなわち、貧困とはたかだか3・7兆円の問題にすぎないのである(日本のGDPは約500兆円で
ある)。であるにもかかわらず、日本は社会保障に100兆円以上の予算を投入している。もちろん、
100兆円役人しているから、残りの問題がせいぜい3・7兆円の問題になっているのだが、それで
も100兆円投入して解決できていない3・7兆円の問題が残っているとはおかしなことである。
多くの人は、貧困はお金ではなく、貧しい人々が正しい生活習慣を身に付けていなかったり、社会に
適応できていなかったり、十分な綜得能力がなかったりするという問題だから、政府が正しい生活習
慣や社会に適応することを教えたり、職業訓練で椋得能力を身に付けさせたり、公共事業などで無理
やり仕事を作ったりする必要があると考えているようである。しかし、本書で繰り返し説明したよう
に、それは成功していない。確かに、貧困を社会不適応の問題と考えるべきケースはある。しかし、
貧困とは1000万人の人々の問題である。1億2700万人の日本の人口で、それほど多くの人が
社会に不適応を起こしているはずはない。そもそも、1000万人の社会不適応の人々を政府が指導
して、その生活習慣を改善することなどできるはずがない。そうするためには、政府は強権を発動す
るか、とてつもない数のケースワーカーを雇うしかない。そもそも問題の捉え方が間違っているので
ある。
貧困とはお金がないという問題なのだから、お金を給付すれば貧困を解消できる。しかし、人々の所
得を把握し、給付が人々の働くインセンティブを歪ませない上うにする(正確には歪みを極力小さく
する)ために、給付の仕方に工夫がいる。その工夫が、すべての人々に基礎的所得、ベーシック・イ
ンカム(BI)を与えることなのである。
BIに対して考えられる反論のすべてに、本書はすでに答えを書いているが、それでも繰り違される
であろう反論は、次のようなものだろう。
①貧困は単にお金のないことではなく、教育、職業能力、社会適応力の不足、家庭内暴力、児童虐待、
疾病、傷害などの問題であり、現に、その面から対処しなければならない事例が多数ある。
②BIで得られる所得は不十分なものであり、それは人々を貧困から救い、健康で文化的な最低限度
の生活を保障するものではない。
③貧困は人々の努力、相互の助け合いで解消するべきもので、国家の一方的な恩恵によって解消され
るべきものではない。国家が登場すれば、それは家族や地域の相互扶助、労使の協力による保険制度、
労働者の団結による救済など、人々の助け合う力を弱めてしまう。
以上の反論に対する答えは簡単である。①については、そのような事例には、福祉官僚が適切に対処
すればよいだけだと答えたい。政府の資源に制約がある以上、宮原機構は、貧困の大部分を占めるお
金がないこと以外の問題に真摯に対処すればよいだけである。しかし、政府は、教育、職業能力、社
会適応力の不足に効果的に対処していない。児童虐待や家庭内暴力にも対処できていない。中央と地
方の政府のするべきことは無限にある。
②については、社会的に利用することのできる富に限度がある以上、いかなる福祉制度も財政的な制
約があると答えたい。超高齢化に向かう日本では、高齢者への社会保障支出を削減するしかない。B
Iであろうが、これまでの社会保障制度であろうが、いくらでも給付できるわけではない。また、B
Iは制度であって、制度自体が、どれだけの給付をすべきかを決定できるわけではない。給付水準を
決定するのは納税者である国民である。BIの利点は、同じ財政支出でより効果的に貧困を解消でき
ること、福祉の網の目から落ちる人がいなくなることである。BIは、福祉宮原の恣意性から脱却し
て、すべての人々が最低限の、しかし、健康で文化的な生活ができるようにするものである,
③については、BIは人々の自助努力や自発的な助け合いを阻害するものではないと答えたい。現行
の生活保護制度は、働けば保護給付をほぼ100%削減されるという仕組みによって自助努力を妨げ
ている。また、生活保護水準が高すぎることによって(生活保護を受けている世帯は全世帯の1・6
%なのに、その水準以下の所得で生活している人々は13%である。第1章の「最低賃金の問題では
なく生活保護の問題」「日本の生活保護水準は高い」の項を参照)、むしろ、生活保護制度は、福祉
に頼る人々への反感を生み出し、人々の助け合いを妨げている。BIはすべての人に与えられろもの
であるから、それを得ている人への反感が生まれることはない。BIはむしろ人々の自ら助ける力、
助け白う力を高めるものである。
ベーシックーインカムによって国家は貧困を解消できる。また、他の方法によって貧困を解消するこ
とはできない。
本書を構想したのは、「中央公論」2010年6月号にベーシック・インカムについての小論こベー
シック・インカムが貧困を解消する」)を掲載したときである。これを充実させて一冊の本にしたい
と思いながら、すでに4年がたってしまった.その間、多くの方と議論を重ねることができ、それら
は本書に反映されている。本書が完成するまでには、多くの人々の助力を得た。そのすべての方々の
お名前を書くことはできないが、金融アナリストの吉松崇氏、大和総研の鈴木準氏、是彼俊吾氏、早
稲田大学大学院政治学研究科の安中進氏には、本書の未定稿を読んでいただき、有益なコメントをい
ただいた。特に鈴水準氏の詳細なコメントに心から感謝する。もちろん、残る誤りはすべて著者の責
任である。中央公論新社の小野一雄氏は、本書をわかりやすく、読みやすくするために尽力してくだ
さった。以上すべての方々に心から感謝申し上げる。
原田 泰著 『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるいか』
10年前にリフレ派宣言し、百年国際、成長戦略「双頭の狗鷲」論をブこのログ展開してきたわたし
(たち)とって"バラマキは正しい経済政策”は違和感なく、ベーシック・インカム制の理解するこ
とができたと思っているが、世間に流布されてしまった「赤字国債」「バラマキ」の2つの性悪説は
根強く残っている(刷り込まれいている)。今後はこの著書をふまえ、この制度の理解を進めていく。
この項了
● 今夜の一曲
『万里の河』唄 チャゲ&飛鳥 Music Write:飛鳥涼 チャゲ
タイトルは万里の長城から採った。中国の長江をイメージし、河の遥か彼方へ行ってしまった恋人を
想い続ける女性を描いた物語風の楽曲。同曲によって、1980年11月27日のTBS系『ザ・ベストテン』
に「今週のスポットライト」コーナーで初出演。その後、同番組で12月18日には第8位で初ランクイ
ン。一旦10位圏外にランクダウンするも、翌1981年1月8日は第4位まで再上昇。同年2月26日まで通算
9週ランクイン。また同年1月15日の生中継放映時(第6位)では、まだ当時開通前だった東北新幹線
の小山駅(栃木県小山市)構内のレール上で、停車中の新幹線をバックに歌を披露。さらに、フジテ
レビ系『夜のヒットスタジオ』でも大胆な演出で出演。