6.雍 也 ようや
ことば--------------------------------------------------------------
力足らざる者は、中道にして廃す。いまなんじは画(かぎ)れり」(12)
「質、文に勝てば野。文、質に勝てば史。文質彬彬(びんびん)として然る
後に君子」(18)
「人の生くるや直し。これなくして生くるは、幸いにして免るるなり(19)
「これを知る者はこれを好む者にしかず。これを好む者はこれを楽しむ者に
しかず」(20)
「知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ」(23)
--------------------------------------------------------------------
26 宰我(さいが)が、「もし仁の人、つまり人格者が井戸の中に偉い人格
者がいると教えられたら、彼はその人に従うでしょうか?」 と尋ねた。
孔子は、「何故そんな事をせねばならんのだ? 人格者ならば井戸に近づいた
としても、井戸の中まで落ちていくはずがない。騙そうとする人の言葉を聞
いていも、騙される訳では無い。」と答えた。
宰我問曰、仁者雖告之曰井有仁者焉、其從之也、子曰、何爲其然也、君子可
逝也、不可陥也、可欺也、不可罔也。
Zai Wo asked,
"If a benevolent man was taught that there is a benevolent person in
a well, should he follow the person?"
Confucius replied,
"Why should he do that? A benevolent man is not caught in a snare
even if he approached the well. A benevolent man is not deceived even
if he listened to wicked person's words."
【ポストエネルギー革命序論40】
がん手術後の炎症を抑える粒子状の被覆材
些か古い情報だが7月30日、NIMSと鹿児島大学の研究グループは、消化管が
ん治療後の傷をふさいで組織の再生をうながす、新たな創傷被覆材を開発。こ
の被覆材は、接着性が低く効果が限定的だった市販の被覆材に比べて約10倍の
組織接着性を有し、がん組織切除後の炎症を抑える効果があります。消化管が
ん治療後の偶発症である狭窄や出血などを予防する医療材料としての応用が期
待される。食道や胃、大腸などの早期消化管がんを内視鏡によって切除する内
視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) が注目されている。ESDは、開腹せずに内視鏡を
用いてがん組織を切除するため、筋層など他の組織を温存できる。一方で、が
ん組織を切除することで露出した粘膜下層組織が強い炎症を起こし、狭窄が起
きてしまうことが深刻な課題となっている。現在、傷をふさぐためにシート状
の創傷被覆材が使用されているが、組織接着性が低く、分解に伴う炎症が生
じるほか、シート状という形状のため内視鏡で創傷部へ届けることが難しいな
どの課題があった。
同グループは、生体組織に強固に接着し、かつ内視鏡で簡易に運搬・噴霧でき
る粒子状の被覆材を開発。この被覆材は、ブタ由来ゼラチンを組織接着性が高
い疎水的な分子で化学修飾し、スプレードライ法を用いて粒子状にすることで
作製する(上図参照)。粒子径はマイクロメートルサイズと非常に小さく、内
視鏡用の噴霧装置で簡便に噴霧することが可能。ブタ胃粘膜組織を用いて接着
試験を行ったところ、開発した被覆材は、市販品の約10倍、疎水化していな
い未修飾ゼラチン粒子の約2倍の優れた接着強度を有す。さらに、ラット全血
と混合したところ血液凝固を促進したほか、人工潰瘍を作成したミニブタの胃
に噴霧することで、粘膜下層組織の炎症が軽減され、狭窄の原因となる粘膜下
層組織の線維化が抑制されることを見出しました。また、この被覆材は、体内
で分解・吸収されるため、組織の修復後に再手術をする必要はない。
インフルエンザウイルスを高い感度で検出するバイオセンサⅠ
バイオセンサは、特定の物質だけを認識する性質(「基質特異性」と呼ぶ)を
備えた分子(「バイオ分子」)を使う。バイオ分子と、バイオ分子が特定の物
質を認識したことを読み取って電気信号に変換する部分(「信号変換素子」)
で構成されていることが、バイオセンサーが通常のセンサーと大きく違う点で
ある。バイオ分子は、生物由来の材料であり、具体的には抗体、酵素、糖鎖、
蛍光色素、アプタマー、ペプチドアプタマー、分子インプリント、有機化合物、
無機化合物などがある。その多くは耐熱性が低く、またウエットな環境でない
と機能しないといった制約を抱える。取り扱いと保管は簡単ではない。バイオ
分子の製造には、生物学的なノウハウと化学的なノウハウの両方が要求される。
例えば代表的なバイオ分子である抗体の製造方法には、動物の免疫システムを
利用する方法と、遺伝子組み換えを利用する方法がある。また最近になって注
目されている製造方法に、「分子インプリント(MIP:Molecularly Imprinted
Polymer)」がある。MIPでは、検出しようとする物質(抗原)を高分子でくる
んだあとに抗原を抜き取ってバイオ分子を合成する。
バイオ分子と電気信号の間を結ぶ原理
ところで、バイオ分子と電気信号の間を結ぶ原理として、❶まず「表面プラズ
モン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)」を利用したバイオセンサであ
る。金(Au)の薄膜表面にバイオ分子を装着したガラス基板の裏面から、単一
波長の光を金の薄膜に斜めに照射する。このとき光によって金薄膜表面の自由
電子が集団となって振動(プラズマ振動)し、電界を発生させる。特定の反射
角の光は、プラズマ振動による電界と共鳴することで、強く吸収される。これ
が表面プラズモン共鳴である。ここでバイオ分子が目的の物質を取り込むと、
金薄膜表面の誘電率が変化し、表面プラズモン共鳴の発生する反射角が変化す
る。この違いを受光素子で検出し、電気信号に変える。
❷次は「水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)」
を利用したバイオセンサである。水晶の薄い板の両面に電極を設けて交流の電
界を加えると、一定の周波数(共振周波数)の振動が発生する。このような素
子を「水晶振動子」と呼ぶ。共振周波数は、水晶振動子の電極上に付着した物
質の質量によって変化する。付着した質量が極めて微量な場合、共振周波数の
変化は質量の変化に比例する。この原理を利用して電極上の物質の質量変化を
測定する方法を、「水晶振動子マイクロバランス(QCM)法」と呼ぶ。ここで
バイオ分子を電極表面に装着しておくと、バイオ分子が目的の物質を取り込む
ことによって電極上の質量が変化し、共振周波数が変化する。この周波数変化
を検出し、目的の物質を取り込んだ量を把握する。
❸続いて「電気化学インピーダンス測定(EIS:Electrochemical Impedance
Spectroscopy)」を利用したバイオセンサーを説明する。EISとは電解質溶液
中に置いた2本の固体電極の間に交流電圧を印加し、交流の周波数を変化させ
ながらインピーダンスを測定する方法である。測定したインピーダンスは、実
数成分を横軸、虚数成分を縦軸としたグラフに曲線としてプロットする。この
グラフを「ナイキスト線図」と呼ぶ。ナイキスト線図の曲線は、通常は半円を
描く。ここで電極表面にバイオ分子を固定しておくと、目的の物質を取り込む
ことで誘電率が変化し、半円の直径が変化する。直径の変化量から、目的の物
質を取り込んだ量を計算できる。
黒の革命
グラフェンFETのバイオセンサの応用
最近になって急速に注目を集めているのが、グラフェンFET(電界効果トラン
ジスタ)を使ったバイオセンサ。グラフェンは、炭素原子が六角形を構成しな
がら平面状に連なった単原子層の材料である。グラフェンは厚みに対する表面
の面積の比率が非常に大きいことから、周囲の環境変化に対して非常に高い感
度で性質が変化する。グラフェンは電気的には非常に高い移動度を備える。言
い換えると抵抗率を極めて低くできる。そこでグラフェンをチャンネル材料と
するFETを作成し、グラフェンの表面にバイオ分子を固定することでバイオセ
ンサーに応用する研究が進められてきた。グラフェンFETのバイオセンサーで
は、例えばグラフェンのチャンネルを電解液(検体液)で覆う。電解液にはゲ
ート電極を接続しておく。ここでバイオ分子をグラフェン表面に装着する。電
荷を帯びた目的の物質がバイオ分子につながると、電荷によってチャンネルの
電流(ソース・ドレイン間電流)が変化する。この変化量は非常に大きいので、
グラフェンFETは極めて高感度なバイオセンサへの応用が期待されている。実際、
インフルエンザウイルスを高感度で検出するバイオセンサが、グラフェンFETと
バイオ分子(糖鎖)の組み合わせによって試作され、グラフェンにつなげる糖
鎖を変更で、ヒト感染型ウイルスを模したタンパク質とトリ感染型ウイルスを
模したタンパク質を選択的に検出できることが、実験で確かめられた。現在は
研究段階だが、将来が大いに期待できる。
この項つづく
8月19日、奈良先端科学技術大学らの研究グループは、水素エネルギーの利
用に不可欠な水素分子を分解したり、合成したりする反応を高効率で可逆的に
触媒する酵素(ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ)について、触媒反応のキーポイ
ントとなる水素イオン輸送のメカニズムを初めて明らかにした。❶この酵素に
含まれるニッケル原子に結合したシステインというアミノ酸の残基や、❷その
近傍のグルタミン酸(アミノ酸)の残基、❸さらに酵素内部に固定化された水
分子の3つが協同して水素イオンの輸送を行っていた。この酵素による触媒反
応の効率は、現在の燃料電池に使われている白金等の希少金属触媒を上回る。
今回の成果は、新たな方式の燃料電池や水素合成触媒の開発につながる研究と
期待されている。
ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼは微生物が持つ水素分解・合成酵素である。酵素
中の触媒反応を司る中心部分は、ニッケルと鉄原子からなる金属錯体といわれ
る結合パターンで、ニッケル-鉄活性部位と呼ばれる。触媒反応が起こる時、
水素分子の分解反応では2つの水素イオンと2つの電子が生じ、逆に水素分子
の合成反応では2つの水素イオンと2つの電子が消費され、電子については鉄
硫黄クラスターという原子の集まりを通って外部のタンパク質分子とやり取り
されることは分かっていたが、触媒反応に関わる水素イオンの輸送経路は不明
のままであった。
同グループは、フーリエ変換赤外吸収分光法という分子構造を調べる方法を用
い、これまでにない超高感度で幾つかの中間体の赤外吸収スペクトルを測定し、
ニッケル原子に結合しているシステイン残基の硫黄原子に水素イオンが結合し
たり、逆に解離したりする様子を初めて観測することに成功。さらに、グルタ
ミン酸残基に水素イオンが付加する現象や水素分子から生じる水素イオンを取
り込んだ水分子も観測した。これにより、分解の時は、水素分子から生じる水
素イオンが反応部位(ニッケル-鉄活性部位)からその外へ(水素分子を合成
するときは水素イオンが反応部位内へ)輸送されるメカニズムが明らかとなる。
このことで、人工触媒系の設計に寄与できる情報が増えた。また、本メカニズ
ムは水素分解・合成を行う化合物合成にも有用な情報となる。
※ Cysteine SH and Glutamate COOH Contributions to [NiFe] Hydrogenase
Proton Transfer Revealed by highly sensitive FT-IR spectroscopy
既存モーターと同サイズでトルク密度2倍・出力密度3倍
テキサス州フォートワースに本拠を置くスタートアップ「Linear Labs」が、
既存のモーターと同じサイズで2~5倍のトルクを出せる「ハンステーブル電
気タービン(Hunstable Electric Turbine:HET)」を搭載したモーターを開発。
Linear LabsのHET搭載モーターは既存モーターと同じ性能で小型化が可能で、
電気自動車やマイクロモビリティ、ロボット工学、空調システムなどが用途。
360度 全方向撮影ドライブレコーダ
防犯・防災カメラシステムもそうだけれど、上記のドライブレコーダの200
万画素級で17000円台で販売されていることに改めて驚く(安ければいい
というものではないが)。
※ イベントデータレコーダも参照
第3部 ガウェインの追憶-そのI 第13章
❦
アクセルの努力の甲斐あって、床の中央で火がふたたび勢いよく燃え上がり、
同時に小屋の中のすべてが影に沈んだ。アクセルは衣類を乾かそうとして、一
つ一つを火にかざした。そばではベアトリスが敷物を何枚も並べ、その上で安
らかに眠っていた。だが、不意に上体を起こして、あたりを見回した。「火が
熱すぎるかな、お姫様」ベアトリスはしばらく混乱しているように見えた。や
がて溜息とともに、また敷物のベッドに樹になったが、目を開いたままだ。そ
れを見て、アクセルがいまの質問をもう一度繰り返そうとしたとき、ベアトリ
スが静かな声で言った。
「いま、昔の夜のことを思い出していたの。わたしを独りぼっちのベッドに残
して、あなたが出ていった夜のこと。戻ってくれるのかしらって悩んでいまし
た」
「お姫様、どうした。川の小妖精からは逃れたが、まだ呪文が効いているんじ
やなかろうな。だから、そんな夢を見るのか」
「夢じやありませんよ、あなた。記憶が一つ二つ戻ってきただけです。いつも
と同じ暗い夜でしたけど、あなたは若くて美しい誰かのところに行ってしまっ
て、わたしは独りぼっちのベッドで嘆いていました」
「わたしを信じてくれないのかい、お姫様。あの小妖精の仕業だ。わたしたち
にいたずらを仕掛けているんだよ」
「そうかもしれません。それに、ほんとうにあったとしても、ずいぶん昔のこ
とですものね。でも・・・」そのまま静かになり、また眠ったのかな、とアク
セルは思った。だが、言葉がつづいた。「でもね、あなた、あれを思い出した
せいで、いまのわたしはあなたから尻込みしてしまう,少し休んでまた遠に出
るときは、わたしを先に行かせて。あなたは後ろから来て。これからはそうや
って旅をしましょう。あなたと朧に並んで歩くのは、いまのわたしにはいや」
アクセルは、最初、何も言わなかった。乾かしていた服を火から遠ざけ、ベア
トリスに向き直った。妻の目はまた閉じられていたが、まだ眠ってはいないこ
とはわかっていた。アクセルはなんとか声を絞り出したが、それはほんのささ
やきで、どうしてもそれ以上にはならなかった。
「こんな悲しいことはないよ、お姫様。道の都合でもなんでもなくて、おまえ
と別々に歩かなくてはならないなんて」聞こえたのかどうか、ベアトリスの様
子からはわからない。だが、すぐにその呼吸が長く、規則正しくなっていった。
アクセルはいま乾かしたばかりの衣類を着込み、妻からあまり離れないように、
だが直接触れ合わないように、注意して毛布に横になった。どっと襲ってきた
疲れに圧倒されながら、アクセルはふたたび目の前に群がる小妖精を見た。弧
を描いて群れの真ん中に落下する鍬を見た。遠くで子供たちが遊んでいる声を
聞いた。自分がどう戦ったかを思い出した。戦士のように雄叫びをあげていて、
その声には強い怒りがこもっていた。
なのに、いまのベアトリスの言葉は………アクセルの心に一枚の鮮明な桧が浮
かび上がった。二人で山道を歩いている。頭上に広がる灰色の空の下で、ベア
トリスが数歩前を歩いていく。アクセルの心は悲しさでいっぱいになった。二
人は歩きつづける。老いた夫と妻はともに頭を垂れ、前後に五、六歩も離れて
歩く。目を覚ますと、火がくすぶっていた。ベアトリスはもう起きていて、立
って、石の壁に間いた小さな隙間から外をのぞいていた。こういう小屋の窓は
みなそんなものだ,最後のやり取りがよみがえってきた。三角形の日の光を顔
に浴びながら、ベアトリスが振り返り、元気のいい口調でアクセルに話しかけ
た。
「さっきね、日が高くなっていくからよほど起こそうかと思いましたけど、で
も、川でびしょ濡れになったあなたを思い出したらうとうとくらいでは足りな
いだろうなと思って」
アクセルが笞えられずにいると、ベアトリスがつづけた。「どうしたの、アク
セル。なぜそんなふうに見るの」
「いや、ただほっとしたやら、嬉しいやらでね、お姫様」
「ずっと気分がよくなりましたよ、アクセル。休めばよかっただけでした」
「そのようだ。では、出かけようか。おまえが言うとおり、日が高くなってい
るからな」
「いま、あの子供たちを見ていたのよ、アクセル。わたしたちが来たときのま
ま、まだあの溝の縁に立っていますよ。あの下に何かあって、気になってしか
たがないみたい,きっと、いたずらね。だって、大人に見つかって叱られたら
いやだという感じで、ちらちら振り返っているもの。親御さんはどうしたのか
しらね、アクセル」
「わたしたちには関係のないことだ。それに、三人とも衣食はちゃんと足りて
いるみたいじゃないか,さよならを言って、行こう」
「アクセル、わたしたち、さっき喧嘩をした? 二人の間に何かあったような
気がして……」
「忘れてならないことは何もないよ、お姫様。ま、一日が終わるまでにはまた
話し合うことがあるかもしれないが、そのときはそのときだ。さて、寒さとひ
もじさにまた襲われないうちに、出かけよう」
ひんやりとした日差しの中に出ていくと、草のあちこちに氷が張っているのが
見えた,大きな空と山々が遠くに行くほど薄くなって、ついには消えていく。
囲いの中では山羊がまだ食べている。足元に泥だらけのバケツがひっくり返っ
ていた。三人の子供たちは、相変わらず小屋に背中を向けて溝の縁に立ち、中
を見下ろしていた。なにやら口論しているようでもあった。アクセルとベアト
リスが近づいていくと、最初に女の子が気づいた。くるりと振り返ったとき、
その顔にはもう明るい笑いがあった。「ご老人方」と言い、弟二人を引っ張り
ながら溝から離れると、急ぎ足で 二人のほうに向かってきた。「祖末な家です
けど、よくお休みになれましたか」
「とてもよく休めたよ、お嬢さん,ほんとうにありがとう,これで元気いっぱ
いでまた出かけられる。だが、君たち三人を放っておいて、家の方々はどうし
ているのかな」
少女は、左右に立っている弟二人と顔を見台わせ、少しためらいがちに「わた
したちだけでも何とかやっていますから、おじいさん」と言った。そして弟た
ちの肩に腕を回した。
「その溝の何かそんなに気になるのかしら」とベアトリスが尋ねた。
「うちの山羊です、おばあさん。うちで一番の山羊だったんですけど、死にま
した」
「なぜ死ぬようなことになった、お嬢さん」とアクセルがやさしく尋ねた。
「あそこの一匹はとても元気そうなのに」
子供たちはまた顔を見合わせた,何かの合意ができたようだ,
「よければ、ご覧になってください、おじいさん」少女はそう言うと、弟だち
から手を放し、一歩わきへ寄った。アクセルが溝に向かって歩き、ベアトリス
が横に並んできた。半分ほど行ったところでアクセルが立ち止まり、「まずわ
たし一人で行かせておくれ、お姫様」と小声で言った。
「死んだ山羊くらい、わたしたって見たことかありますよ、アクセル」
「確かにそうだが、いまはここで少し待っておくれ、お姫様」
溝には人の背丈ほどの深さがあった。太陽はいまこの溝にまっすぐ射し込むほ
どの高さに昇っていて、そこにあるものが何であれ、当然はっきり見せてくれ
るだろうと思えたが、実際には違った。複雑な影をつくり、一つの水溜りや一
枚の氷を千枚ものきらきらと光る表面に変えていた,とてつもない大きさの山
羊がいた。すでにいくつにも解体されていて、あそこに後ろ脚があり、こちら
には首と頭がある。顔の表情はなぜか穏やかだ。上向きに転がっている腹部は、
それとわかるのに少し時間がかかった。というのも、黒い汚泥の中から巨大な
手が現れて、その腹に突き込まれてい たからだ。そしてアクセルは気づいた。
溝の中にあるものの全部が一匹の山羊ではないのではないか。山羊と絡み合う
ようにもう一つの生き物がいて、多くはそちらの体であるらしい。ほら、あそ
こにこんもりしているのは肩だろう。あっちには硬直した腫らしきものがある。
しかも動いている。溝に横たわるその生き物はまだ生きていた。
「何か見えるの、アクセル」
「来てはいけないよ、お姫様。気持ちが晴れるような代物ではない。鬼だと思
う。かわいそうに、じわじわと死につつあるようだ。この子供たちは、愚かに
も山羊を投げ与えたのではないかな。食べたら生き返るとでも思ったのか……」
アクセルがそう言っている間にも、毛のない大きな頭とぽっかり開いた穴のよ
うな目が、泥の中でゆっくりと回転した,だが、すぐに貪欲な泥に吸い込まれ
て消えていった。
カズオ・イシグロ 『忘れられた巨人』
この項つづく
【男子厨房に入る:電子レンジで即席麺用焼豚】
昼食つくりは面倒なことはブログ掲載済だが、簡単に即席麺は使い勝手は良い
がてるが、ボリューム(腹持ち)が悪い。したがって、卵でオムレツを電子レ
ンジで調理しトッピングしてみたりしていいのが、やはり、ボリューム欠ける
のでチャーシューを電子レンジで造り貯めることを思いつき早速準備すること
に。
手間のかかる焼き豚を、電子レンジで簡単に調理。タレを作って肉と一緒に電
子レンジに入れるだけで簡単にしっとりと美味しい焼き豚が作る。そのままで
も、ラーメンのトッピングに。
材料(二人前)
①豚肩ロース (ブロック) 320g ②長ねぎ 1/2本 ③タレの材料: 酒 大さじ3
しょうゆ 大さじ2 みりん 大さじ2 みそ 大さじ1 砂糖 大さじ1 ごま油 大
さじ1 すりおろし生姜 小さじ1
※この成果は後日掲載する。
「びわ湖が恋する野菜たち」通販サイト開設
県産無農薬野菜を販売する通販サイト「びわ湖が恋する野菜たち」。旬の野菜
や果物8~10種類の詰め合わせを1回4320円で、週1回~3カ月に1回
の4コースで定期販売。「環境に配慮した栽培に取り組む農家を応援したい」
と守山市の山内健さんが5月に開設。命名の理由は「環境負荷が少なく、琵琶
湖が恋をしてしまうような野菜を販売したい」という思いから。山内さんは会
社員だった10年前、県主催の琵琶湖保全に関するワークショップに参加。琵
琶湖を通じて農林漁業者が一体となり、環境活動に取り組んでいる姿に「これ
こそが滋賀の魅力と確信した」。昨年2月に退社後、県内を巡って出会った無
農薬にこだわる3軒の農家と提携し、サイトを立ち上げた。無農薬栽培は農家
にとって苦労が絶えない。毎日の世話が欠かせず、作付けしても病気や害虫の
影響で全滅することもある。農薬をまけば水質汚染につながる。琵琶湖に近い
農場だからこそ湖のために、食べる人のために低価格以外の価値を提供したい
一心と熱意を込める。だからこそ、消費者との出会いは一番のモチベーション
になると喜ぶ。農場を訪れた主婦は自分の与えたもので子どもが成長すると考
えたら無農薬のものを買いたいと話す。ただ、まだまだ無農薬を基準に野菜を
買う人は少ない。自身もかつては安さだけで野菜を選んでいたが、生産者の思
いに触れて変わった。だから通販にもかかわらず、農業の現場に出かける機会
を作るため、農家で受け取ると1500円分の食事券がもらえるという特典を
付ける。作り手の思いや苦労に触れることが、滋賀の1次産業や無農薬野菜の
魅力について知る第一歩。休日に農家を訪れ、野菜を受け取る。そんな使い方
をしてもらえればと願う。(「びわ湖が恋する野菜たち」 滋賀で通販サイト
開設: 京都新聞 2019年08月20日)
● 今夜の寸評:煽る時代とドラレコ
茨城県守谷市の常磐自動車道で起きた「あおり運転事件」が日本中を騒がせて
いる。テレビ映像を見て不愉快な思いに駆られのは当然で加害者の弁明の余地
は少ない。ところで、50年前米国出張していた同僚が、彼らの車のバンパー
はやフェンダーが凹み傷ついているのが当たり前で、前を走る車が鈍いと、車
をぶつけ早く行け(邪魔をするなと)と煽る光景は日常的に眼ににする光景だ
と聞かされ文化の違いに驚いた記憶がフラッシュバックする。そのように考え
れば日本が後追いしているとももとれるが、「人命軽視」の反動を助長するわ
けにはいかない。まぁ、米国は大統領がフェイクや煽動、あるいは、銃規制や
気候変動激化を黙認し、煽り運転さながらの政策運営で、ちょうど、弥次郎兵
衛で"煽る時代”の象徴とも揶揄できるか。とまれ、「あおり運転」には「ド
ライブレコーダ」と「自動事件発生通報(位置情報を含む)アプリ」と「法規
制」の追加で「安全・安心」を担保できるはず。ところで、トランプ、プーチ
ン、習近平の三大国の危険な煽り行為には民衆の罷免が"ドラレコ"に対応する
といえるかも。