彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救っ
たと伝えられる "招き猫”と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え
(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編
成のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
愛称「ひこにゃん」
17 陽 貨 よ う か
--------------------------------------------------------------
「性、相近し、習、相達し」(2)
「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん」(4)
「道に聴きて塗に説くは、徳をこれ棄つるなり」(14)
「ただ、女子と小人とは養い難しとなす」(25)
「年四十にして悪まるるは、それ終わらんのみ」(26)
--------------------------------------------------------------
13 道徳家ぷる者には、えてして品性下劣な人間が多い。(孔子)
子日、郷原徳之賊也。
Confucius said, "A fake gentleman who is popular in his village
ruins virtue."
14 ききかじったことを右から左へ受け売りして得意がる。これで
は徳は身につかない。(孔子)
★「道聴塗説」という成語は、ここから出たものである。
子曰、道聽而塗説、徳之棄也。
Confucius said, "If you teach something to others before you
understand it, you will spoil your virtue."
【ポストエネルギー革命序論 280:アフターコロナ時代 90】
♘ 現代社会のリスク、エネルギー以外も「分散の時代」
日本列島周辺配置
波力・風力・太陽光ハイブリッド浮体海洋発電システム事業
出典:Hybrid Floating Platform to Generate Wind, Solar and Wave
Energy(上図参照)
⧉ 地球全土の天体観測に人工衛星の生み出す「光害」
かつては夜空を見上げれば無数の美しい星々を眺めることができまし
たが、近年では家庭や会社、工場、街灯などの光害によって、肉眼で
星を確認するのは難しくなっています。光害の影響は人工物が存在し
ない地域で減少するため、「田舎では星がきれいに見える」という声
がよく聞こえてきますが、人類が打ち上げたスペースデブリや人工衛
星からの光害なしに星を観測できる地域はもはや地球上に残されてい
ないという研究結果が提出されている。
【概要】
地球を周回する人工衛星とスペースデブリの人口は、宇宙運用と地上
の光学および電波天文学の両方に無視できない制約を課す。2020年代
に進行中のいくつかの衛星「メガコンステレーション」の展開は、重
大な懸念を引き起こす追加の脅威。科学画像に現れる衛星縞による電
波干渉や情報損失など、その望ましくない結果の予想される重大度は
まだ調査中。このレターでは、宇宙オブジェクトによって生成される
新しいスカイグロー効果を報告。肉眼または低角度分解能で観察する
と、直接放射輝度が拡散成分である軌道物体の大規模なセットにより
反射および散乱される太陽光によって引き起こされる夜空の明るさの
増加する。予備的な見積もりによると、この追加の光害源の天頂輝度
はすでに約20μcdm-2に達している可能性がある。これは、自然の光源
によって決定される夜空の明るさよりも約10パーセント増加する。こ
れは、1979年に国際天文学連合によって採用された、天文台のサイト
での光害レベルを超えないための重要な制限となる。
⧉ クモ糸の構造を再現、人工合成の糸口に
芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』には、地獄に落ちた主人公のカンダタ
が、釈迦が垂らしたクモの糸をつかんでよじ登るシーンがあります。
この描写は極端だが、実際のクモの糸は意外に強く、引きちぎろうと
すると想像以上の力を必要とする。この糸を人工的に合成することが
できれば、建築物の構造材料をはじめさまざまな分野への応用が期待
される。
クモ糸は軽量、強靭、生分解性
1本に見えるクモ糸(牽引糸)は、実はタンパク質が一列に連なった
とても細い糸が50本ほど束ねられてできている。しかし、クモの体内
で細い糸がどのようにでき、どのように束ねられるのか、その仕組み
は明らでなく、人工合成や大量生産の課題である。
図1 液-液相分離状態と微小繊維
中性でrMaSp2にリン酸カリウムを添加すると液-液相分離状態になる
(左図)。これを酸性にすると、網目状の微小繊維が形成される(右
図)。
繊維化に必要なのは「液-液相分離」という現象
まず牽引糸を構成するタンパク質と性質が似た遺伝子組み換えシルク
タンパク質(rMaSp2)を大腸菌につくらせ、その力学物性を解析しよ
うと考えた。しかし、その中で偶然に液-液相分離(えきえきそうぶ
んり)という現象を見つけた。水と油が自然と分離するように、液体
の中で、ある物質が集まって部分的に高濃度な状態になり、液相が二
つに分離する現象だ。調べてみると、天然のクモ糸のタンパク質でも
この現象が起こる。タンパク質の凝集が原因と考えられている神経変
性疾患において、タンパク質が凝集する機構は非常に重要です。近年
では、多くの神経変性疾患に関連するタンパク質が液-液相分離を起こ
し、凝集することが明らかになる。このように疾患の研究ではよく知
られた現象だが、クモ糸のような構造タンパク質で液-液相分離が起き
ることは知られていない。タンパク質はアミノ酸が連なってできてお
り、タンパク質の両端はC末端、N末端と呼ばれている。解析の結果、
rMaSp2のC末端にある特定のアミノ酸の繰り返し配列によって液-液相
分離を起こすこと、さらに酸性にするとN末端にある構造によって網目
状の微小な繊維が形成されるが解明される。
この微小繊維を引っ張ると、牽引糸のように繊維が束ねられた構造に
なることも分かった。液-液相分離が起こらないと微小繊維ができない。
また、クモが合成する天然のシルクタンパク質を使った実験でも、液
-液相分離が確認されている。つまり、クモがつむぐ天然のクモ糸も
液-液相分離を経由する仕組みである可能性が高く、この現象がクモ
糸の人工合成に重要であることが示されたのだ。今回の発見が元とな
り、クモ糸の人工合成が実現すれば、自動車のフレームに使われる強
化材やシートのクッション材、生分解性の樹脂やフィルム、ファッシ
ョン向けの繊維などに活用できると期待されている。
⧉ 人生をスムーズにするために役立つネゲントロピー
「エントロピー」は熱力学において断熱条件下での不可逆性を表す指
標として導入されたものであり、熱の出入りがない系の内部変化では、
常にエントロピーが増大する方向に起きる(エントロピー増大の法則)
と説明されています。さらに近年では、組織や人生にエントロピー増
大の法則を適用する動きがあり、「組織は時間と共に乱雑さを増して
いく」といった説明にエントロピーが持ち出されることがあります。
アメリカ・デイトン大学の教育学者であるアリソン・A・カー=シェル
マン氏は、エントロピーに対応する概念である「ネゲントロピー」を
考えることで、組織や人生の混乱状態を改善できると述べています。
人生はさまざまな決断の連続であり、「脱いだ靴下を拾うかどうか」
「庭の手入れをするかどうか」「壊れた蛇口を修理するかどうか」と
いった選択を日常の中で繰り返しています。それぞれの問題に対処す
るために必要なエネルギーは少ないものの、全ての問題を放置してし
まうと、「脱いだ靴下が散らかり、庭が荒れ、蛇口が壊れている」と
いったカオスな状況が生み出されてしまいます。これらの問題を全て
解決するにはかなりのエネルギーが必要であり、生活の質が下がって
しまいます。
そこで社会システムを研究するカー=シェルマン氏は、エントロピー
に対応するネゲントロピーという概念を用いることで、生活の中で増
大するエントロピーに対処できるのではないかと考えました。ネゲン
トロピーとはエントロピーが低い状態に保たれていることを指す用語
で、エントロピーを減少させる物理量としての意味でも使われます。
たとえば、生命は環境に対して開かれているため、呼吸や代謝を通じ
て環境にエントロピーを排出することで体内のエントロピーを低く保
っており、このような作用をネゲントロピーと呼ぶとのこと。
カー=シェルマン氏は、物理学と社会システムの両方でエネルギーは
仕事をする能力として定義できると指摘し、多くの学校や企業、非営
利団体、地域社会のコミュニティなどでエネルギー損失が見られると
主張。たとえば、「次の会議を計画するための会議」や「電子メール
を送れば済む内容の会議」を開くことは、関連する人々にとってエネ
ルギーの損失をもたらすだけでなく、最終的に欲求不満がたまった従
業員の離職などを引き起こします。
そこで、エントロピーの増大を抑えるネゲントロピーの考えを念頭に
置き、エネルギー損失を制限または逆転させるシステムの構築をカー
=シェルマン氏は提唱しています。脱いだ靴下をちゃんと拾ったり無
駄な会議をなくしたりすることで状況を改善することが、将来のエネ
ルギー損失を避けることにつながるとのこと。
実際にカー=シェルマン氏が同僚と共に開発した「ネゲントロピーを
成功させる5つのステップ」が以下の通り。
◆1:エントロピーが増大する場所を見つける
まず、日常生活や社会システムの中でエネルギー損失が起きている場
所を特定。「キッチンの整理が不十分で物が見つけにくい」「新入社
員用のシステムが不十分で混乱を招く」といったものが、エネルギー
損失を招く部分に当たる。
◆2:対処するべき損失を特定する
次に、見つけたエネルギー損失箇所の中から最も気になるか、または
厄介なものを特定。
◆3:計画を立てる
最優先で対処する事項を特定したら、エネルギー損失を抑えたり逆転
させたりする方法を計画。問題によっては、「靴下を拾う」といった
簡単な解決策であるケースもあれば、「会議のやり方を変える」とい
った比較的大がかりなケースもあります。
◆4:対処した後も注視する
問題解決のアイデアを実行に移した後もエネルギーの損失に目を向け
続け、対策が機能したのか、どれだけの労力を費やしたのか、今後も
ネゲントロピーを実現する新たな対策があるかを考える。
◆5:単なる修理とメンテナンスにとどまらない
エネルギー損失を抑えるために働いている中で、「どれほど損失を減
らしても根本のシステムに問題があるため、どうしてもスムーズに働
くことができない」という現実に直面する場合もあります。ネゲント
ロピーの考えを社会システムに適用するには、小さなプロセスの改善
にとどまらず物事の全体像を捉え、エネルギー損失の対策に乗り出す
ことが重要。
カー=シェルマン氏は、「ネゲントロピーのレンズを通して物事を見
ることは、悪い人間関係を改善したり嫌いな仕事を愛したりする役に
は立ちません。これらは複雑な問題です。しかし、あなたが人生のど
こでエネルギーが失われているかに気付き始めたら、周囲の社会シス
テムを改善するために優先順位を付けて行動することが容易になりま
す」と述べている。
🞂 ネゲントロピー (negentropy) は、生命などの系が、エントロピ
ーの増大の法則に逆らうように、エントロピーの低い状態が保たれて
いることを指す用語である。単に、エントロピーを減少させる物理量
という意味でも使われる。
⧉ 世界的な半導体不足は2021年中続く
2021年第1四半期における半導体の供給は需要を大きく下回っており、
3月8日にはSamsungが「世界規模で深刻な半導体不足が発生している」
と警告を発しす。こうした状況の中、Intel・NVIDIA・TSMCという世界
を代表する半導体メーカーの重役が「半導体不足はいつまで続くのか
?」という質問に答えており、最悪のケースでは「2023年まで続く」
という予測も飛び出している。Ars TechnicaやThe VergeなどのIT系
ニュースメディアが報じたのは、Intelのパット・ゲルシンガーCEO、
TSMCのC・C・ウェイCEO、NVIDIAのコレット・クレスCFOの三者がそれ
ぞれ受けたインタビューの中から、「半導体不足」に関する質問への
回答のみを抽出して比較するというもの。この世界的半導体メーカー
の重役3者の予測にはそれぞれ差異があるが、「2021年中は続く」とい
う点で共通している。Ars TechnicaやThe VergeなどのIT系ニュースメ
ディアが報じたのは、Intelのパット・ゲルシンガーCEO、TSMCのC・C・
ウェイCEO、NVIDIAのコレット・クレスCFOの三者がそれぞれ受けたイ
ンタビューの中から、「半導体不足」に関する質問への回答のみを抽
出して比較するというもの。この世界的半導体メーカーの重役3者の予
測にはそれぞれ差異がありましたが、「2021年中は続く」という点で
共通している。
【速報】大阪で新たに1220人の感染確認 過去最多
大阪府で18日、新たに1220人の新型コロナウイルス感染が確認されま
した。1日に確認された感染者数としては、16日の1209人を上回り、
過去最多となる。1日の感染者数が1000人を上回るのは、6日連続。
検査件数は1万2467件で、陽性率は9.8%。これまでに大阪府内で確認
された感染者数は、計6万7972人となる。重症者数は286人で、重症病
床数248を上回っています。重症者42人は、軽症中等症患者受け入れ医
療機関等で治療を継続している。大阪府内では、感染者3人の死亡が
確認された。
【ウイルス解体新書 ⑬】
第1章 ウイルスの現象学
第2節 ウイルスとは
2-3 免疫とウイルス感染との関わり
ところで、ウイルスに対する免疫には全ての細胞で働く自然免疫とい
わゆる免疫細胞による獲得免疫の2種類があるという。①自然免疫は
ウイルス感染を受けた細胞においてインターフェロン産生などにより
細胞内でのウイルスの増殖を抑える。②また、感染を受けた細胞から
分泌されたインターフェロンなどにより免疫細胞が活性化する。
活性化した免疫細胞はウイルスを攻撃する抗体を産生し、感染を受け
た細胞を攻撃し排除する。通常、抗体が十分にできると体内でのウイ
ルス感染拡大は収まり治癒に向かう。感染から十分な IgG抗体ができ
る期間には個人差がありますが1~2週間と考えられている。
2-3-1 重症化に免疫は関与するのか
ウイルス感染を受けた細胞から分泌されたインターフェロンなどによ
り免疫細胞が活性化する。活性化した免疫細胞はウイルスを攻撃する
抗体を産生し、ウイルスや感染を受けた細胞を攻撃し排除しようとし
まう。免疫細胞の活性化には様々なサイトカインと呼ばれる物質が分
泌されるが、その量が過剰になるサイトカインストーム(サイトカイ
ンの嵐)と呼ばれる状態になると、活性化した免疫細胞が正常な細胞
にもダメージを与えるようになり新型コロナウイルスの重症化に関与
しているとの説が有力です。なぜサイトカインストームが起きるかは
よく分かっていないが、主要な炎症性サイトカインであるIL-6の血中
濃度が高い人では肺炎が重症化しやすいと報告されている。
IL-6の働きを弱めれば肺炎の重症化を防げるのではないかとの考えに
基づき、治験が行われています。関節リウマチ治療薬トシリズマブ(商
品名アクテムラ)はIL-6受容体に結合しIL-6が働かなくする抗体薬。
中国では、この治療薬を使った複数の医師主導治験では有効性を示唆
する症例報告が複数あり、中国では2020年3月から新型コロナウイルス
患者への投与が認可されている。日本では、大阪はびきの医療センタ
がトシリズマブを重症患者に使ったところ、4月13日時点で7人中5人の
症状が改善しています。有効性を検証するため、中外製薬の親会社で
あるスイスの製薬会社ロシュが全世界で330人の患者を登録し4月25日
までに第3相試験を開始し有効性を検討すると発表されいる。
注.IL-6受容体に結合しIL-6が働かなくする抗体薬については後ほど
考察・記載する。
2-3-2 一度免疫ができたら二度と感染しないか
ウイルス感染後に抗体ができると同じウイルスに対する記憶をもつ免
疫細胞が残り、2回目以降の感染や重症化を防ぎます。2回目の感染
を防げる期間はウイルスごとに異なり、麻疹(はしか)ウイルスのよう
に感染するとほぼ生涯続く(終生免疫と呼びます)ものから数か月し
か続かないものまである。今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に
ついてはまだ分かっていない。強力な化学療法などによって免疫力が
落ちると潜伏感染しているウイルスが再活性化や、新たなウイルスや
細菌による感染が起きやすくなる。新型コロナウイルスについて明ら
かな潜伏や再感染の報告はないといわれている。
PCR検査で一旦陰性と判断された患者がその後再び陽性となって症例が
報告されていないが、これがPCR検査の偽陰性(本当は感染が続いてい
るのに検査で陰性になること)なのか、微量に体内に残っていたウイ
ルスが再増殖したのか、抗体ができにくい特異体質だったのか、治癒
した後再感染したのかなどいろいろな可能性が考えられ、いずれが正
しいかは分かっていないという。
出典:一般社団法人日本癌治療学会 癌治療の案内板(2020)
第3節 発見までの道のり
人類は気付かないままに、長い間ウイルスと共生してきた。その長い
歴史の中で、ウイルスの実体は、人間の目にはなかなかとらえられな
かった。では、ウイルスはいつどのようにして発見されたのであろう
か。ウイルスがさまざまな生物から発見されるまでの、研究者たちの
貢献を見ていくと、ウイルスの発見に先行して、まず細菌の発見があ
った。19世紀の最後の25年間は、「細菌の狩人の時代」である。
1873年のらい菌の分離に始まり、淋菌(1879)、腸チフス菌
(1880)、結核菌(1882)、コレラ菌(1883)、ジフテ
リア菌(1884)、大腸菌(1886)、破傷風菌(1889)と、
多くの細菌が次々と分離され、それまで原因不明であった伝染病の本
体が明らかにされてきた。
これに続いて20世紀直前から、「ウイルスの狩人の時代」が始まっ
た。すでにジフテリア菌の分離で有名になっていたドイツのフリード
リヒ・レフラーは、パウル・フロッシュとともに、家畜の急性伝染病
である口蹄疫のワクチンを開発するため、原因菌の分離を試みていた。
これは、名前の通りウシなどの口と蹄に潰瘍病変ができるのが特徴で、
致死率はそれほど高くないが、これにかかると乳が出なくなるため、
産業動物としての価値はゼロになる。非常に強い伝播力をもつため、
現在でも家畜伝染病の中で国際的にもっとも重要視されている。日本
でも2010年に宮崎県で発生し、約30万頭のウシやブタが冊処分
された。
口蹄疫は畜産における大きな脅威であったため、19世紀末、ドイツ
政府レフラーをリーダーした研究班を組織して、流行防止対策の研究
にあたらせた。彼らは、ウシの口と乳房の水疱から採取した新鮮な液
作物を、直接子ウシに接種する実験を行っていた。その際、この液体
物を細菌を通過させないフィルターを用いて濾過しても、子ウシに病
気を起こすことを見出した。
考えられるあらゆる可能性を検討した結果、彼らはこう結論した。細
菌フィルターを通過することのできる細菌よりも小さい濾過性ウイル
スが、体重200キロもある子ウシを発病させる驚異の活性を示す、
と考えたのである。これが、ウイルスの最初の発見である。1898
年のことであった。さらに彼らは、天然痘、牛疫、麻疹なども同様に
濾過性のウイルスによるものであるという推論まで行った。このよう
な明白な結論が得られたのは、口跡疫が家畜の急性伝染病で、実際に
牛の感染実験を行うことができ、しかも非常に特徴的な水底の病変を
作る病気であることによっていた。
レフラーらによるウイルス発見の前、実はて1892年に、同じ結果
を得ていた研究者がいた。タバコモザイク病の研究を行っていた、ロ
シアのイワノフスキーである。タバコモザイク病はタバコの葉に斑点
ができる病気で、これにかかるとタバコの葉としての商品価値がなく
なるため、栽培者から恐れられていた。イワノフスキーは、病気にな
ったタバコの葉をすりつぶした液体が、細菌フィルターを通してもタ
バコに病気を引き起こせることを発見していた。そのため、彼が最初
のウイルスの発見者であるという見方もある。しかし、彼はフィルタ
ーを通過したものは病原体そのものではなく、細菌の毒素であると考
えていたため、これがウイルスの発見とはみなされていない。
ウイルスの発見をめぐってはもうひとり、記憶されるべき人物がいる。
やはりタバコモザイク病の研究に取り組んでいた、オランダのベイエ
リンクである。彼は、病気のタバコの葉から絞った液が、細菌を通さ
ない素焼きのフィルターで濾過したあとも、健康なタバコに病気を起
こせることを見出した。1898年、口蹄疫ウイルス発見と同じ年の
ことである。この時、彼はイワノフスキーの研究は知らなかった。ベ
イエリンクはこの病原体をウイルスと呼び、これが増殖するのは植物
の細胞内であるという、ウイルスのもっとも基本的な性質も見抜いて
いた。だが、このような細脳内での増殖は、拡散する性質があるため、
すなわち液状であるためと考え、「可溶性微生物」と表現した。ウイ
ルスは液体ではなく、粒子の形で存在し自己増殖するものなので、今
日のウイルスに相当する概念とは異なる解釈をしたことになる。
これはどの業績にもかかわらず、彼らが同時代のパスツールやコッホ
ほど有名でないのは、研究対 象がタバコの病気で、ヒトや家畜の病気
のように人目を引くものではなかったためと言われている。ともかく、
濾過性の病原体であるウイルスの存在は、家畜と植物の世界でまず発
見された。これは、動物や植物に病気が起こるかどうかを、実験とい
う科学的な方法によって実際に確かめることができたためである。す
なわち、病気を起こす能力こそが、ウイルスの存在の唯一の目印であ
った。ゆえに、ヒトのウイルスの存在を明らかにすることは容易では
なかった。では、ウイルスがヒトに病気を起こす能力があるかどうか
は、どのように確かめられてきたのだろうか。20世紀に入って間も
ない1902年、ひとつの人体実験が遣を開くことになった。きっか
けは黄熟である。黄熟は熱帯病の中でももっとも恐れられていた病気
である。とくに猛威を振るったのは中南米とカリブ諸島だが、米国の
海岸地帯へも侵入した。1790年から1900年の間に、米国では
少なくと も50万人の患者が出たと言われている。1898年、キュ
ーバ独立問題にからんで米国とスペインの間に戦争が起きた際には、
キューバに駐留した米軍兵士に1575名の患者が出て、231名が
死亡した。この事態に対して、1900年、陸単車医学校の細菌学教
授ウォルター・リードをり-ダーとする研究班がワシントンからキュ
ーバに派遣された。流行の状況を観察した結果、蚊が媒介している可
能性が高いことが突き止められ、患者の血を吸った蚊に健康者を剌さ
せるという人体実験の必要性が指摘された。この実験には、初めに研
究班員のひとりだった昆虫学者が志願し、続いて研究班から7名の志
願者が参加したが、この段階では何事も起こらなかった。しかし、そ
の次に志願した細菌研究者は発病し、瀕死状態にまでなったあと回復
した一方、この間に最初の志願者であった昆虫学者が発病し、死亡す
る事態が起きた。この発病は実験によるものではなく、野外から飛ん
できたカに剌されたことが原因と考えられた。実験はテントとバラッ
クでできた仮設の施設で行われていたため、自然感染が起きた可能性
もあったのである。
そこで、自然感染を確実に起こしていない、健康な兵士での実験が必
要であることがわかり、当局はこの危険な実験への志願を呼びかけた。
報酬は200ないし300ドルという、当時としてはかなりの額であ
った。こうして志願者の兵士による実験が4ヵ月にわたって繰り返さ
れ、翌年、黄熟がネッタイシマカによって媒介される伝染病であるこ
とが報告された。
当時、黄熟は細菌によるという説が根強かったが、2、3年前に発表
されていた口蹄疫の研究成績を参考に、ひとつの実験が行われた。黄
熟の患者の血液を細菌フィルターで濾過したのち、3人の志願者に皮
下注射したところ、このうち二名が黄熟になった。このことから、黄
熟が濾過性の病原体によるものであることが初めて示された。190
2年のことである。しかし、一回だけの人体実験では科学的証明とは
受けとめられず、黄熟がウイルスによる伝染病であることが認められ
たのは、1929年、ストークスが発表したアカゲザルでの実験成績
に薬づいてのことであった。しかし、彼自身はその論文が世に発表さ
れる前に、黄熟に感染して死亡していた。
その間に、黄熟の病原体を追って34名が実験室内感染を起こし、そ
のうち6名が死亡している。わが国の野口英世もそのひとりである。
彼は、黄熟は梅毒と同じくスピロヘータによるものと信じて研究を続
け、アフリカのガーナで黄熟に感染して死亡した。
動物の病気の世界では、レフラーの発見に続いて、1902年にウシ
の急性伝染病である牛疫が、ついで狂犬病がウイルスによるものであ
ることが明らかにされた。1908年にはニワトリに白血病を起こす
ウイルス、1911年にはニワトリの肉腫の原因ウイルス、が分離さ
れ、後者は発見者の名前をとってラウス肉腫ウイルスと命名された。
このウイルスは、癌ウイルスの研究の進展のもととなったが、当初は
ウイルスによって癌が起きるという考えは受け入れられず、ラウスが
ノーベル賞を与えられたのは半世紀以上も後の1966年であった。
ヒトの伝染病においても、動物実験によってウイルスが発見されてき
た。1908年、ラントシュタイナーは、たまたま梅毒の実験で使い
残していたサルにポリオで死亡した少年の脊髄の乳剤を注射して、サ
ルにポリオを起こさせることに成功した。翌年には、細菌フィルター
を通過させても同じ結果になることを見出し、ポリオを起こす病原体
がウイルスであることを明らかにした。ウイルス発見のこうした初期
の時代を経て、ヒトを含めた数多くの動物のウイルス、植物のウイル
スが次々と見出されてきた。さらにまた、細菌を宿主とするウイルス
も発見されるようになった。細菌も自前の代謝系をもつ細胞であり、
ウイルスの増殖の場になるためである。
出典:山内一也著『ウイルスの世紀』(2020年8月17日)
この項つづく
風蕭々と碧い時代:
● 今夜の寸評: