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解析・想定展開及び実行

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彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救っ
たと伝えられる "招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。
(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編
のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。愛称「ひ
こにゃん」




 【ウイルス解体新書 127】


序 章 ウイルスとは何か
第1章 ウイルス現象学
第2章 COVID-19パンデミックとは何だったのか
第3章 パンデミック戦略「後手の先」



【概説】 新型コロナウイルスは世界の仕組みをどう変えるのか。 経
済発展に追いつかない中国の統治体制、バルカン化のリスク孕むアジ
ア、米国の社会的分裂、科学への過剰な自信、EUの決断等、顕わに
なった世界経済の危機を活写する。

終 章 「新冷戦時代」という神話 
世界経済への影響は
中央銀行から受け取った資金で公的支出ができる。つまり財政政策と
金融政策の垣根がなくなるのです。序章でも述べた通り、自国通貨建
てで国債を発行できる国と比べ、外貨建て、多くはドル建てで国債を
発行しなければならない新興国は大変です。ブラジル、インドなどの
新興国では新型コロナの打撃(死亡者数)も拡大しているので、打撃
は大きく、新興国の救済問題がいずれ大きく浮上するでしょう。
 世界の仕組みが今後どのように変化するか。とくに米中対立の行方
について議論する段階に来ました。新型コロナの死亡者救を、東アジ
アの国々が少なく抑えたことにより、「アジアの世紀ブが近づいたと
いう見方があると序論で紹介しました。必ずしもそうならないと考え
ています。私と同じ考えを述べた論文が、「フォーリン・アフェアー
ズ(Foreign Affairs)」7/8月号に掲載されています。シンガポ
ールのりI・シェンロン首相による「危険にさらされるアジアの世紀」
というタイトルの論文です(The Endangered Asian Century-American
China and the Peril of Confronaation)というタイトルの論文です。
 書き出しから引用します。
 「『最近、人々は次の世紀は、アジアと太平洋の世紀だろうという
意見を述べている。あたかもそれが当然のことであるかのように。こ
の意見には賛成できない』これは1988年に中国の郎小平が、インドの
ラジブ・ガンディ首相に語った言葉だ。それから30年以上が経過した
現在、鄙小平の先見の明か証明されている。数十年に渡る経済的成功
の結果、今日アジアは、世界でもっと高速な経済成長を実現している
地域である。ここ10年のうちに、アジア経済のGDPは、他のすべて
の地域の経済のGDPを足し合わせたよりも大きな規模になるだろう。
19世紀以来起こったことのない事態だ。それにもかかわらず、郡小平
の警告は今でも重要である。『アジアの世紀』は不可避でもなければ、
予定調和でもない。
 アジアの繁栄は、第二次世界大戦以来維持されてきた『パクス・ア
メリカーナ』が有利な戦略的環境を与えたことによって可能になった。
しかし近年、米中関係が動揺し始めたために、アジアの将来と新たに
生まれる国際秩序について、重大な疑問が浮上している。シンガポー
ルを含めた南アジアの国々にとっては、とくに心配が大きい。なぜな
らこれらの国々は、主要な超大国の利害が交差し、錯綜する地域に位
置するため、紛争に巻き込まれたり、米中のどちらにつくかという忌
まわしい選択を迫られたりする事態に直面しかねず、その事態を回避
するための努力をしなければならないからだ。
 アジアにおける『現状』が変化しなければならないのは確かだ。し
かし、新たな秩序はさらなる成功を許すものなのか、それとも危険な
不安定をもたらすものなのか? その答えは、アメリカと中国が、単
独または協力して行う選択に依存する。二超大国は、いくつかの領域
では競合する関係を認めると同時に、別の領域ではライバル関係が協
調を阻害しないような『生存形式』を生み出さなければならない。
 アジアの国々は、長期にわたる関係を持ち、この地域に深い利害を
持つ国としてアメリカを考える。それと同時に中国はドアの前に立つ
現実である。この二大国のどちらにつくかという選択をアジアの国々
は避けたい。しかし、どちらかがあくまで選択を迫るならば、たとえ
ばワシントンが中国の勢力拡大を抑えようとしたり、北京がアジアに
おける排外的勢力圏を求めたりするならば、アジアの国々はどちらか
との衝突につながる行動を余儀なくされ、長く謳われてきたアジアの
世紀の実現が不可能となる状況を生み出すだろう」
 本書の序章では、第T次世界大戦、大恐慌、第二次世界大戦と続く、
20世紀前半の不幸な歴史を振り返りました。世界の仕組みを不安定に
させ、その後に次々と不幸な出来事を生み出していったのは第二次世
界大戦でした。「力の均衡」に基づいた世界の安定装置が、ボスニア
ヘルツェゴビナの首都サラエボでの暗殺事件という突発事故により誤
作動を始め、欧州を二つに分けた上に、他の地域までを巻き込んだ大
戦争に結びついたのです。
 当時の政治指導者は、誤作動が始まるような突発事故がもし起こる
としたら、どこで起こるか見当がついていました。すなわち、オース
トリア帝国とロシア帝国の利害が交差し、錯綜するバルカン半島です。
そればかりではなく、不意の事故から欧州を巻き込む戦争が起こった
場合、それがドイツ、オーストリア対ロシア、フランスという形を取
ることも理解していました。

アジアは第2のバルカンか
 この時代の構図を、新型コロナの現代に当てはめると、アジアが置
かれた不安定な状況がよく分かります。まず、第二次世界大戦前のバ
ルカン半島に当たる地域が、現在どこかにあるでしょうか。答えはイ
エスで、その地域はアジアです。シンガポールのリ-首相の言葉を思
い出してみましょう。
 「しかし、近年、米未申関係が動揺してきたことにより、アジアの
将来と、新たに生まれる国際秩序についての重大な疑問が浮上してい
る。シンガポールを含めた南アジアの国々にとっては、とくに心配が
大きい。なぜならこれらの国々は、主要な超大国の利害が交差し、錯
綜する地域に生存するため、紛争に巻き込まれたり、米申のどちらに
つくかという忌まわしい選択を迫られたりする事態に直面しかねず、
その事態を回避する努力をしなければならないからだ」
 実際、南アジアだけではなく、アジア全域において、アメリカと中
国の利害は交差し、錯綜しています。かつてのバルカン半島の中でも、
オーストリア帝国の保護国でありながら、ロシアと軍事同盟を結ぶセ
ルビアの勢力が浸透していたボスニアヘルツェゴビナが、とりわけ重
大な危険が存在するウィークリンクでしたが、今のアジアを眺めると、
朝鮮半島における38度の軍事境界線とか、南シナ海の島々とか、台湾
海峡とか同じくらいの危険度を持つスポットが数多く見当たります。
                         この項つづく

✔ 「日銀論」或いは「金融論」に関するに触れられているがわたし
独自の考えを持っているのでコメントしない。


ホニグスバウム,マーク【著】
NHK出版(2021/05発売)
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 第10章 疾病 X ---- 新型コロナウイルス感染症

                「それはやって来て去っていった。大勢
                       の若者の命を奪うハリケーンだった」
                                    『タイムズ』紙、1921年
感染経路と封じ込め
ここまでは悪い話。ここからはいい話をしよう。アウトブレイクが始
まってはじめて、中国では 3月23日に新規感染者がゼロになった。こ
の傾向が続くなら、習近平は武漢その他の都市の封鎖を4月8日に解く
という。当初は隠蔽工作に出た中国だったが、その後はコロナヘの対
応ぶりに広く称賛が集まり、今やWHOに模範的な国と見なされている。
中国が感染者数を少なく見せかけたとか、指導者たちの言葉は信用な
らないといった疑惑は、習近平が新しい病院を建設し、COVID-19の検
査キットを開発した途方もない速度に対する敬意に取って代わられた。
これによって中国は感染経路を断ち、死者数を3270名に抑えられたの
だ。
 4月1日。私はかなり回復した。残念ながら、イタリアはそうでもな
さそうだ。パンデミックの震源地になっている。検査はまともに行わ
れていないし、他の医療行為もままならないようだ。死者数は1万2428
名に及ぶ。アメリカも同じく悲劇的な道を突き進んでいる。疾患モデ
ルのシミュレーションによれば、パンデミックが収束するまでにアメ
リカでは10万名から24万名が死亡するかもしれないという。この予測
には、CDCが2月に有効な検査キットを州、市、郡の公衆衛生検査室に
供給できず、あまりに楽観的な姿勢を崩さなかったことが大きく関与
している。現実には、現在の感染率と致死率が続くなら、死者数は50
万名を下らないだろう。トランプは2018年に国家安全保障会議(NSC)
のパンデミック対応ユニットを解散させたことで批判を浴びている。
ユニットの仕事は現在のような公衆衛生上の緊急事態に備えることだ
った。さらに大統領は、朝鮮戦争時代の法律(国防生産法)にもとづ
いて、アメリカ企業に強制的に人工呼吸器を製造させることを拒否し
た件でも批判を集めている----その結果、アメリカでは現在19万名の
感染者が出ていて、中国、イタリア、スペインを含めてどの国より多
く、その3分の1以上をニューヨーク州の住人が占める。これに対して
ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモはすべての不要不急の公
的サービスを停止した。またアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FE
MA)の支援を得て、マンハッタンにあるジェイコブ・ジヤヴィッツ・
コンベンション・センタを緊急医療ステーションに転用した(ロンド
ンのドックランズにあるエクセル展覧会センターの展示スペースも、
同様に4000床の病院に改装された)。今のところベッドや病室は空い
たままだ。しかし、疾患モデルの予測が正しければ、ニューヨークで
はまもなく大勢の患者が出て、市の公共病院の収容能力を超えるだろ
う(アウトブレイクが始まったとき、ニューヨークには4000台の人工
呼吸器があったが、クオモは次の六週間で少なくとも 3万台必要にな
ると推測している)。死者数が1000名を超えると、クイーンズとブル
ックリンの病院の看護師たちは病院を「戦闘区域」と呼ぶようになっ
た。3月30日、アメリカ海軍の1000床を誇る病院船「コンフオート」が
ニューヨーク市に応援に来たが、この船は新型コロナウイルス感染症
の患者向けにつくられていないので、COVID-19の隔離に成功するかど
うかは予断を許さない。

専門家たちの傲慢
欧米諸国に新型コロナウイルス感染症が広まった速度は、科学の専門
家の自尊心を粉々に打ち砕いた。証拠に反して、アメリカのドナルド・
トランプ大統領は、「COVID-19は魔法のように……消えるだろう」、
「ただの風邪と変わらない」と口走っていたが、COVID-19はこうした
ポピュリスト政洽家たちの傲慢さをズタズタに引き裂いた。SAARS‐
COVID-2は季節性インフルエンザより速く広がり、致死率が 10倍から
20倍高く、確定例の約 2%が死亡している。この数字はスペイン風邪
の致死率に匹敵する。2020年2月に中国へのWHO派遣団を率いた医師ブ
ルース・エイルワードが、SARS-CoV-2を「ウイルス界のウエイン・グ
レツキー」と呼んだのも無理もない。グレツキーはカナダの殿堂入り
したアイスホッケー選手で、白い手袋とスピードの速さから「白い竜
巻」の異名を持つ。中国にはもっと多くの軽症者や無症状感染者がい
るのではないかと考えられていたが、エイルワードは確定例が大きな
水山の一角に過ぎないという証拠はないと述べた。「私たちの目に見
えているのはピラミッドです。大半が地上に出ているのです」。エイ
ルワードの洞察は重大だった。というのも、COVID-19では軽症や無症
状の患者ではなく重症患者の割合が考えられていたより高く、大勢の
患者を収容できる病院の準備が不可欠であることを意味していたから
だ。しかしイギリス政府の科学顧問たちはこの言葉に耳を傾けていな
かった。それどころか、3月3日、のちにCOVID-19で入院することにな
るポリス・ジョンソン首相は、イギリス国民に朗らかにこう言った。
「イギリスの検査体制はすばらしい」。したがって「準備万端整って
いる」。
 アメリカでは、専門家が同じような傲慢の罪を犯した。これを書い
ている時点で、ニューヨーク市は4万名の感染者を記録している。こ
の数字は中国湖北省の感染者数を超え、ニューョーク市はアメリカに
おけるアウトブレイクのグラウンド・ゼロになった。アウトブレイク
の脅威によって公共施設やブロードウェイの劇場は閉鎖され、クオモ
知事は外出禁止令を発して高齢者や社会の弱者を守ろうとした(この
措置は知事の88歳の母親にちなみ「マチルダ法」と呼ばれる)。「こ
れは目に見えない野獣だ。油断ならない野獣なのだ」と、彼はジェイ
コブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センタでの洞察に満ちたスピ
ーチで述べた。おかげで、彼を民主党の大統領候補に推す声が高まっ
た。一方、トランプはアメリカを「中国のウイルス」(彼はCOVID-1I
をこう呼んだ)から守るには、中国その他の外国人のアメリカヘの入
国を禁止すればすむと考えた。またクオモは14万人のニューヨーカー
が感染し、最大で 4万人が人工呼吸器を必要とするだろうと予測した
が、トランプは聞く耳を持たなかった。「私はみなが挙げる数字の多
くは大きすぎると思う」とフォックス・ニュースに語った。この野獣
は残酷でもあった。COVID-19の感染リスクのために、患者は家族にも
看取られず一人で死んでいくしかないのだ。
 しかし、この言葉がトランプの口から出るか出ないかのうちに マ
ンハッタン病院がカイアス・ケリーという名の初の医療従事者の死を
発表した。マウントサイナイ病院ウエストの48歳の副看護師長ケリー
は、3月7日にCOVID-19の検査結果が陽性となった。その7日前に、感
染患者の世話をしていた別の看護師の手助けをしたためだった。しっ
かりした防護服の代わりに病院管理者から与えられた薄いプラスチッ
クのガウンを脱ぐのを手伝ったのだ。ケリーの死後、「この病院には
もうガウンがありません」というキャプションとともに、マウントサ
イナイ病院の他の看護師たちが黒いゴミ袋を着た写真がソーシャルメ
ディアに投稿された。それは李文亮がグループチャットにアウトブレ
イクが起きていると警告した投稿に、プロメドのポラックと彼女の同
僚たちが気づいた3か月後のことだった。残念だが、その3か月の大半
を政治家たちはほとんど無為に過ごし、もうウイルスは警告通りやっ
て来ていた。
               *  *  *

100年前、世界がやはり悲惨な疫病に襲われたとき、世界は戦争中で、
スペイン風邪は不思議なことに社会の集合的意識にさほど影響を与え
なかった。「アメリカ人はパンデミックにほとんど注目しなかった」
と環境歴史学者のアルフレッド・クロスビーは書いた。「それに、何
かに注目したとしても、すぐに忘れ去った」
 同様に、ロンドンの『タイムズ』紙は、このパンデミックが人びと
にもっと感情的な影響を与えていないことに困惑した。「その悲劇は
あまりに大きく、どこを向いてもスペイン風邪だったため、戦争の恐
ろしさに慄いていた私たちの心はもうそれ以上の悲劇に耐えられなか
ったのだ」と、1921年2月の論説は述べた。「それはやって来て去っ
ていった。大勢の若者の命を奪うハリケーンだった。あとに残された
のは、30年経っても消えることのない病気と後遺症だ」

COVID-19の過ちを忘れずに
 COVID-19のパンデミックが始まってまだ3か月も経っていない現在
ですら、今回のコロナウイルスが同じように忘れられるとはとても思
えない。新聞のコラム執筆者たちは、すでにこのパンデミックを「新
たな歴史的分水嶺」と呼び、AC(コロナ後「After Corona」)元年を
待ちわびる。だが、それがいつのことになるのか知る人はいない。
 インペリアル・カレッジ・ロンドンの最新の疾病モデルによれば、
仮に効果的な制圧措置が見つかったにしても、パンデミックはあと一
年続くだろうし、ことによると18か月続くかもしれないという。中国
内外の死亡者数について得られるあらゆるデータにもとづいて、同大
学のデータ解析者たちは平均致死率を1.4%と見る。世界総人口の 80
%が感染したと仮定すると、これは世界全体で 8,700万人程度の死者
が出ることを意味する。注1) この数字は、人口増加を考慮に入れて
調整するとスペイン風邪の死者数には遠く及ばないが、それでも悲惨
であることに変わりはない。大きな未知の要素は 人ロ 14億人のイン
ドである。ケララ州には3万8,000もの公立病院があるが、他州の保健
施設は資金繰りが苦しく、検査はほとんど行われていない。したがっ
て、小説家のアルンダティ・ロイの言葉を借りれば、「インドにおけ
る危機の真相は永遠に知り得ないかもしれない」のである。
 パンデミックの今後を大きく左右するのはワクチンだ。現在のとこ
ろ、43種のワクチン候補が挙がっている。しかし、臨床試験と承認手
順の複雑さを考えると、ワクチンが2021年になる前に提供される可能
性は低い。パンデミックを早期に収束させ、世界全体の死者数を減少
させるもう一つ別の要素は、SARS-CoV-2の感染が再感染を防いでくれ
るのかどうかにある。だが、今のところ、発病して治癒した人が多少
なりとも免疫を獲得するのか知る人はいないし、まして免疫がどれほ
ど長く続くのか知る人はいない。
 いずれにしても明らかなのは、大勢の命がすでに失われている理由
が知識の欠如ではないということだ(警告はたくさんあった)。不遜
な政治家にいいように操られてこれらの警告を信じず、ウイルス学者
や他の専門家がかならず出現すると予測したパンデミックの準備を私
たちすべてが怠った結果なのだ。COVID-19後には、同じ過ちを犯す愚
かな人がいないことを祈ろう。
注1)2022年6月23日現在、新型コロナウイルス感染死者数632万人
(累計感染者数53,912万人)と当時の試算数の1/10程度であるが
現在も毎日1,400人程度が死亡し続けている。

終章 パンデミツクの世紀

        「みなさん、最後に生き残るのは微生物なのです」
                      ルイ・パスツール

 サメが北大西洋で海水浴客を襲うことはない。インフルエンザは細
菌による病気で、幼児や高齢者はかかるが、人生を謳歌している若者
はかからない。エボラ出血熱は赤道アフリカの森林地帯の風土病だ。
西アフリカの大都市で流行することはないし、まして北アメリカやヨ
ーロッパに到達するなどありえない。コロナウイルスは面白くない。
「ウイルス界のシンデレラ」でたいしたことはないからだ。病院やク
ルーズ船など閉じた環境では脅威になるかもしれないが、コロナウイ
ルスが世界的なパンデミックを起こすことはありそうにない。
 1918年に始まったパンデミックの世紀が終わった今、私たちはこん
な専門家の断定的な意見を信じるという愚かな頁似はしない。感染症
の致死性アウトブレイクを何度も予測し損ねたことで批判されてきた
専門家は、医学による予測には限界があることに気づいた。微生物や
ウイルスはきわめて変異しやすいのみならず(このことはパスツール
の時代から知られていた)、私たち自身がそれらの繁栄に手を貸し続
けているからだ。私たちは微生物が新たな生態学的地位(ニッチ)を
発見し、たいていあとでそれと知れるような方法で新天地に広がる手
助けを何度もしてきた。
  最近のパンデミックとエピデミックの激増ぶりから判断すれば、こ
のプロセスは加速している。HIVやSARSが警告だったとすれば、エボラ
ジカ熱、CIVID-19は最後通牒だったのだ。「医学は大きな進歩を遂げ
てきたが、感染症の脅威を見くびってはいけない」と、全米医学アカ
デミーは2016年に発表した有名な報告書で述べた。「感染症の生起率
は増加傾向にあると思われる」

過密状態というリスク
 もし、それが事実なら、その理由は進行中の研究や仮説が教えてく
れるだろう。もちろん、都市化やグローバル化は重要な要因だ。大勢
の人が狭くて不衛生な場所に集中すれば、アジア、アフリカ、南アメ
リカの大都市は、トゥキディデスが生きた時代のアテネのように、新
しい病原体の増殖と拡散に理想的な場所になる。ときにはテクノロジ
ーや環境の改変によって、病原体がヒトにうつる過密状態のリスクを
緩和できる場合もある。だが1924年にロサンゼルスのメキシカン・ク
ォーターで実施されたペスト対策は、残忍で倫理的に問題があるかも
しれない。今日のカリフオルニアの環境保護論者やコミュニティ活動
家が、マイノリティの居住地区全体の破壊や、リスの大量殺戮を黙認
することなど想像もできない。とはいえ、これらの対策はロサンゼル
スのダウンタウンと港からペストを排除するのに効果的ではあった。
同様に、エアコンや近代の空調システムは、高層ビルやスラム街など
で増殖する蚊を人に近づけない点においては効果的ではある。だが、
レジオネラ症のアウトブレイクが証明し、SARSが追認したように、
ホテルや病院などの閉じた環境では給水塔や送風機は新たな疾患のリ
スクをともなう。 
                         この項つづく



河出書房新社(2021/09発売)
サイズ 46判/ページ数 320p/高さ 20cm
商品コード 9784309228303 NDC分類 345.1 Cコード C0022
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第20章 ユートピアの設計

      私はどのような状況下であれ、可能なときはいつでも
      なんらかの口実や理由をつけ、減税に賛成するだろう。
              ミルトン・フリードマン(2003年)

 しかし、これはユートピアだ。自分の好きにできる。マイホームを
所有する人は何もしないのに、次世代に犠牲を払わせることでその家
の価値が上がるような社会を、われわれは求めていない。われわれが
構想するのは、生産性が高ければそれだけ見返りのある社会、労せず
得た富には見返りのない社会だ。
 ジョン・スチュアート・ミルのいう「労働も、冒険も、倹約もせず、
眠っているあいだにいっそう金持ちになる」地主たちならば、このユ
ートピアに受け入れることはできない。彼にいわせれば、共同体金体
の努力によって地価が上昇すれば、その分は共同体のものである----
たとえ所有権を持っていても、その個人のものとはいえない。
 その仕組みはつぎのようなものだ。国内の土地のすべての区画につ
いて、未改良時賃貸価格を算出する----つまり、未改良の状態を想定
したその土地の価値をもとに賃料を算出する。建物も、農場も、工場
も建っていない状態----つまり、更地の状態での価値を基準にするの
である。ハロッズだろうがブルーミングデールズだろうが、上物のこ
とはおいておき、その下の土地の価値のみを考える。だから、賃料に
関しては、土地の面積よりも立地のほうが重要になりがちである。辺
鄙なところにある、誰も欲しがらないような雑木林で、建築許可も出
ないとなれば、賃料はあってないようなものだろう。一方、インフラ
がきちんと整備されている都市部の一等地ならば、賃料はきわめて高
くなるはずである。
 土地管理局は各区画の所有者の記録を保管する。そして土地所有者
は、年に一度、未改良時賃貸価格に一定の割合を乗じた金額を納付す
る。その割合はどれはどか? それは、あなたの求める社会のあり万
しだいである。大きな政府と大きな支出を求めるならば高く、小さな
政府と小さな支出を求めるならば低くする。この割合については、各
政党がそれぞれに討議し、有権者の投票により決定するという方法も
考えられる。ミルトン・フリードマンは、いってみれば減税主義者で
あったため、この制度を「悪いとはいえ、まだましな税」だといった。
理由はすぐわかる。LUTは生産性に課税するのではなく、労せず得
た富を奪取するからだ。この制度は運用するのも容易である----いっ
たん整備してしまえば、あとは毎年、土地の評価を改定するのみなの
だ。脱税は不可能である。土地を隠すことはできないからだ。オフシ
ョアに移すこともできない。所有者の氏名は土地管理局に登録されて
いる。土地は差し押さえの対象になる。
 この税制は透明性が高い。債務、インフレなどの目につかないステ
ルス税とは異なり、政府支出は納税者がその多少をじかに感じとれる
ので、政府は説明責任を果たすことを強いられる。これは、形を持た
ない多国籍デジタル企業からどう税金を徴収するかの問題に対する、
理想的な解決策である。たとえば、あなたのソフトウェアの知的所有
権がパナマの企業に管理されていても、あなたのサーバーがアイスラ
ンドに置かれていても関係ない。あなたが国内の土地をデータセンタ
として使用しているとか、国内の帯域幅を使用しているとか、国内の
一等地に本社を構えているなどという場合には、あなたが独占的使用
の対象としている、共同体の自然的財産であるところの富の、未改良
時の価値の何%かを分ちあうことになる(LUTは、土地のみに適用
されるわけではなく、自然環境からもたらされた資産ならばなんにで
も適用される----空間でも、鉱物資源でも、放送波のスペクトルでも。
 それに、この税制は土地の有効活用を促す。地価の値上がりを狙っ
て未開発地を保有している人びと----この手法をランドバンキングと
いう----は、その土地をただちに使用しはじめるか、ほかの誰かに売
却するか、どちらかを選ぶ必要に迫られる。またこの税制は、昔から
何度か経済恐慌の原因になってきた不動産のおもわく買いを抑制する。
 土地はもっとも基本的な富である。また、もっとも不平等に分配さ
れている富でもある。世界のどこであれ、社会の最上層に属する一握
りの個人、企業、政府機関が、過度に多くの土地を所有している都市
にも、地方にも。とりわけブラジル、スペイン、イギリスは、土地の
分配がたいへん不平等な国である。広大な土地を所有する人びとが、
使用している土地の税金を納めていないばかりでなく、その土地のお
かげでなんらかの助成金をもらっている。とくにイギリスとヨーロッ
パ大陸の国々ではそうである。その助成金の財源は、労働者によって
納められた税金がほとんどだ。土地所有者になりたい労働者も多いは
ずだが、なかなか購入できず、納める税金は土地所有者に支払われる
助成金の一部になっている。労働者は資産所有者に、間接的に資金を
供給しているわけである。両者の格差がこれほど大きくなっているの
も不思議はない。
 LUTの導入は、われわれの土地および土地所有者に対する考え方
を変えるばかりでなく、一つの社会の考え方や動き方までも変えてし
まう。どうしてかといえば、見返りとインセンティブは別のものだか
らである。ユートピアでは、努力すればそれだけ見返りを得られる。
だが、ランドバンキングをしても見返りは得られない。
 LUTと同様の税を導入し、その他のすべての税を廃止した国は存
在しない。ただし、この税を導入し、その他のいくつかの税を廃止し
た国や地域は存在する----香港、台湾、韓国のほか、デンマーク、ニ
ュージーランド、ボツワナ、エストニア、それにオーストラリアの一
部もそうだ。これらの国々には著しい経済成長が見られる。
 ユートピアでは、政府収入の約3分の1をLUTから、残りを所得
税、VATを始めとするその他の脱から哨うのがよい。その他の税には
前述のピグー税も含まれる。だが、ある地方政府がそう希望するなら
ぱ、LUTのみを徴収し、それ以外の税を廃止してしまっても構わな
い。ユートピアでは、地方政府がそれぞれの税率を定めることができ
る。中央集権ではなく、地方分権とするのである。
 これはスイスや北欧のモデルを参考にしている。地方ごとに比較的
高税率の税が設定され、徴収されている国々である。この方式では、
税金を徴収し、使用する組織は説明責任をよりいっそう徹底しなけれ
ばならず、納税する人びとは税務のよりいっそうの透明性を期待する
ことができる。税金が中央のふところに入るのをただ眺めるのではな
く、どう使われるかを監視することができるに見られるのである。ユ
-トピアでは、都市および地方の政府がそれぞれの税政策と税率を定
めることができる。税務の権限の多くを地方が引き受けることになる
のだ。
 結果、各地方はそれぞれの税政策によって競争をくりひろげる。つ
まり、アダム・スミスのいう見えざる手によって、地方政府には競争
、説明責任、選択肢がもたらされる。税率を過切に定めた地方は生き
残る。うまくいった税政策は模倣され、そうでないものは放棄される。
ある地方は高税率・高支出を望み、別の地方はそれを望まない場合に、
そういう結果になることが考えられる。時間の経過とともに、どの政
策がもっともよく機能するかがわかってくる。説明責任を負う地方政
府は、中央政府よりもうまく変化し、適応することができるだろう。
 さらにユートピアは、現代のビジネスモデルの一つ、サブスクリプ
ションをも取り入れる。

サブスクリプションの公的サービスヘの応用
  1990年代まで、新聞、音楽ソフト、映像ソフトは物理的な形のある
ものとして購入するしかなかった。デジタルヘの移行により、メディ
アは質を落とすことなく迅速かつ安価に複製できるようになった(レ
コードからカセットに録音、あるいはテレビからVHSに録画する場
合とは、質がまったく異なる)。複製後、簡単に、また即座に配布す
ることもできるのである。やがて、人びとは新聞、CD、DVDなど
の「物理的な」メディアを購入しなくなっていった。ところが、奇妙
なことになってきた。コンテンツの消費は増えた人びとはかつてなか
ったほど多くの記事を読み、楽曲を聴き、映像を観るようになが、ク
リエイターの収入は劇的に落ちこんだのだ。コンテンツの価値は下落
し、ゼロ近くまで下がるものも出てきた。多くの事業者を救ったのが
サブスクリプションだった。
 2010年、『タイムズ』微はイギリスの主要微では初めて一部コンテ
ンツの有料化を開始した。その直後、同微のウェブサイトの閲覧者数
は90%以上減少した。同微は嘲笑された。だが2014年、『タイムズ』
は2014年以来となる黒字を計上した。イギリスの主要高微微のなかで、
コンテンツをすべて無料にしているのは『ガーディアン』のみである。
同微の記者たちは、自分の名前をより広く宣伝できる無料のプラット
フォームを気に入っているのかもしれないが、『ガーディアン』は何
年も赤字続きである。2019年、人員を大幅に減らし、読者に寄付とサ
ブスクリプションを呼びかけたことで、ようやくわずかに黒字となっ
たのだ。フェイスブックやグーグルのせいで広告収入を失った分は、読者
からのサブスクリプションの申し込みによって補うことができた。比
較的規模の小さい出版物にはサブスクリプションモデルのおかげで潤
っているものも多い。とくに有料のアドバイスを提供するものがうま
くいっている。
 音楽業界もリモデルの必要がある。ライブコンサートは生き残りを
助けた(ライブイベントは多くの新聞にも毀重な収入源になっている)
が、サブスクリプションもその一助になっている。ユーチューブチャ
ン不ルであれ、スボティファイのようなストリーミング配信サービス
であれ、顧客はひと月分の料金を払い、幅広い楽曲の配信サービスを
受けられる。
 サブスクリプションはテレビ放送の領域でもっともうまく機能して
いるのではないだろうか。まずスカイとHBOが先行すると、ネットフリ
ックス、アマゾンプライム、BT、ナウTVがそのあとに続き、小さ
なテレビ画面にハリウッドの映画作りの水準を持ちこんだ。今日、数
ある映像作品のなかでも際立って優れたものが、テレビ番組の制作現
場から世に送りだされている。
 約20年におよぶ期間に、これらの産業は「有料」から出発して「無
料」、「危機」、「サブスクリプション」にたどり着いた。ジャーナ
リストのアンドリュー・ウィルシャーは、公的サービスもまた同じ道
筋をたどりつつあることを示唆している。
 1911年の国民保険法の制定と第一次世界大戦の勃発まで、教育と医
療にかかる費用は個人によって、たいていは共済組合を通じて支払わ
れていた。慈善事業と教会の協力のもと、最貧困層向けの助成金制度、
福祉制度、教育制度が運営され、誰もができるだけの金額を納めるこ
とになっていた。医療および教育のサービス提供の責任を国が引き受
けるようになると、個人がお金を払ってサービスを受けるという流れ
は断ち切られた。「有料」から「無料」に移行したのである。今日、
これらのサービスの需要は大きく、その水準に対する期待は高い。そ
のどちらも、課税によって費用を調達している政府の可能な範囲を大
きく逸脱している。増税を求める者は(少なくとも、納税者のなかに
は)ほとんどいないが、ほとんどの公的サービスは大幅な資金不足に
おちいっている。なんらかの公的サービスが危機的状況にあることは、
毎週のように報道されているように思える。公的債務がとんでもない
金額にのぼっていることから、解決策はまだ見えていないようである。
われわれは現在、ウィルシャー・サイクルでいう「危機」の段階にあ
る。他の経済領域では、サブスクリプションはありふれた手法である。
われわれは、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどでフ
ォローしたいアカウントを選んでいる。また、視聴したいテレビ番組
やポッドキャストを選ぶこともできる。プロバイダーを選び、月々の
スマートフォン使用料、ブロードバンド使用料、テレビ視聴料、楽曲
再生料、ニュース購読料、スポーツジム利用料、保険料などを支払う。
その月にそのサービスを利用しなくても、たいてい返金してもらおう
などとは考えない。サブスクリプションはいまや珍しい制度ではない。
人びとの行動が変わってきているのだ。サブスクリプションには、定
額料金で基本サービスを受けられるタイプのものが多い----プランが
無料であるケースも少なくない。その上で、オプションを追加できる
ようになっている。スポーツジムであれば、定額料金のみならばオフ
ピークの時間帯に利用できるが、込みあう時間帯に利用する際には追
加料金を支払う。スマートフォンであれば、ある月に使用するデータ
量を追加したいときや、特定のスポーツの試合を視聴したいときなど
に、少々の追加料金を支払う。ときには、サプライヤーの負担するコ
ストがわずかであるとしても、その「少々の追加料金」がかなり高額
なこともある。その好例は、飛行機や列車のエコノミー料金とファー
スト料金の差だ。たいていの場合、この追加料金が利益の大部分の源
である。
 以上がサブスクリプションモデルの仕組みである。ここからは、サ
ブスクリプションモデルをユートピアに取り入れる方法について説明
しよう。
 所得税は、あらゆる種類の所得----配当、給与、家賃----を足しあ
わせ、一律15%を乗じた金額を徴収する。∵奉化した単一所得税なら
ば、管理するのも容易である。税率が低いので、租税回避は減ると思
われる。所得税控除はすべてなくす。そのかわり、ベーシッツインカ
ム制度を取り入れる。ベーシックインカムも単一所得税の対象になる。
これで、福祉サービス事業も税務も単純になる。
 単一所得税からの収入は複数のサブスクリプションに分け、特定の
税からの収入を特定の支出に充てることとする。経済学ではこれを「
特定用途税」という。「このお金はあのサービスの費用になる」こと
がわかっているから、公的支出の透明性はたいへん高くなる。配分は
財務大臣によって決定され、政党間で討論が行なわれたのち投票によ
って賛否が問われる第一のサブスクリプションは「社会構成員の資格
」で、政府の基本的なコスト----国防、インフラ整備、治安維持など
----に充てられる。第二は再分配----福祉、年金である。第三は教育。
第四は医療および関連社会サービスに充てられる。
 これらの一つ一つについて、国民に提供されるものは明示されなけ
ればならない。たとえば、軍の規模、NHSの治療内容や薬剤、学校
の授業内容などである。基本の提供物として規定されているものに何
かを付加してもらう場合には、追加料金を支払う。透明性の高い納税
申れぞれのサービスに同一の金額を支払っていることが明記される。
ただし、低所得者は事実上、助成金の給付を受けている。高所得者は
どれだけ追加料金を支払っているかもはっきりわかる。
 サービスにはいくつか段階があって、利用時に料金を支払うよう促
されることになる。余分に税金を支払うと思うと嫌な気持ちになるか
もしれないが、自分自身や友人や家族が、たとえば入院のときに個室
を選べるとか、食事の質を上げられるとなれば、喜んで追加料金を出
すだろう。追加料金による政府収入は同じサービスに還元される。ウ
ィルシャーはこれを「共同負担金」と呼んでいる。うまく機能させる
には、提供する追加サービスの料金をコストよりも高く設定しなけれ
ばならない。たとえば、鉄道や飛行機のファースト料金はエコノミー
料金の二倍以上にのぼることがしばしばだが、鉄道会社や航空会社の
提供のコストが二倍になるわけではない。だから、それを選ぶ人びと
(金持ちであることが多い)は、自発的に料金を支払うかわりに無形
の利益を手にする一方、その他の人びとが受けるサービスのために補
助金を出すことになる。共同負担金による政府収入が大きな金額にな
れば、単一所得税の税率を引き下げることも可能になるかもしれない。
こうして自発的累進課税制が成り立つというわけである。
 共同負担金の制度は、多くの公的サービスから失われている売り手
と買い手のダイナミクスを復活させもする。現在、NHSの利用者は、
たとえば予約時間に来なかったり、スタッフに無礼を働いたりしても、
しっぺ返しを受けることはほとんどない。一方、医師のほうは、最適
なサービスを提供しなくても責任を問われることはない。
 これを商業セクターと比較してみよう。たいていの商店やレストラ
ンで、顧客に食事を提供し、手早く給仕してくれるのは、お客に喜ん
でもらいたい誰かである。サービスの提供者は顧客に対して責任を負
っている。製造業者ならば、売上を仲ばすため、できるだけいい商品
をつくろうとする。顧客は、サービスや商品の質の低い店には二度と
足を運ばない。悪い内容のレビューを投稿したりもする。一方、店棚
の立場に立った場合、態度の悪い顧客がいれば、その人物をいつでも
歓迎するというわけにはいかない。苦情が来たり、店の評判が悪くな
ったりするからだ。このダイナミクスにより、当事者たちはよい態度
を強いられる。買い手は売り手を制御し、売り手は買い手を制御する。
これは自然に起こることであり、それによって継続的な改善が促され
る。
 サブスクリプションと共同負担金の制度は、慈善団体や民間セクタ
ーからの協力の余地をつくりもする。地方の慈善団体が障碍者のため
の共同負担金を提案したり、保険公社が追加サービスのコストのため
に保険を販売したりといったことも考えられる。柔軟性が高いので、
大きく変化化しているはずの未来の世界にも適合できるに違い。その
ころには、政府の現行の公的サービスはITに奪われていると思われる。
 サブスクリプションモデルは税務と福祉サービスの仕組みを単純に
し、政府の透明性を高める。高所得者からより多くの金額を集めるが
、支払うかどうかは本人が選択する。だから、累進課税制度を押しつ
けられるというよりも、自然に受け入れる形になる。

税制を正し、社会を正す
 税、あるいは税制は、ありとあらゆる要求を満たすというわけには
いかない。だが私は、香港を参考にしたこのユートピアの制度は、そ
れに近いところまで行くと思っている。
 思うに、われわれは税というテーマに改めて目を向けることが必要
不可欠である。啓蒙時代の人びとがそうしていたように、税について
学び、話しあい、意見を出しあうのだ。本書で提案したアイデアが未
来につながるものであるよう願っている。
 税とは、われわれの子供たちが暮らす未来を形づくるための手段で
ある。歴史上のいくつかの事例から、見当違い、思慮不足、あるいは
時代遅れな税法は悲惨な結果をもたらしうることがよくわかる。われ
われは、二十一世紀の新しい経済の形を反映した、これまでにない、
よりよい税制を構築しなければならない。
 政治家にとって、世界を大きく変えうる二、三の手段のうちの1つ
が税制改革である。税制を正し、社会を正す。税制はただちに手当て
するべき患者なのだ。
 さあ、すぐに始めよう。
                          この項了

風蕭々と碧い時代

 
via YouTube
⮚Total Siege: Ukrainian army use 4 US M142 HIMARS to destroy Russia
in Donbas


Imagine Jhon Lennon

● 今夜の寸評:解析・想定展開及び実行

    


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