● 蒲焼食文化の継承
江戸前に のたをうたせる 女あり
このころ、女の鰻さきがいたことが詠まれているほどに、この時代(宝暦)でも珍しい
ことなんだろうと思う。元々「江戸前」とはウナギの代名詞だったとか。つまり、「江
戸前と唱へ候場所は、西の方、武州・品川州崎一番の棒杭と申場所、羽根田海より江戸
前海へ入口に御座候。東の方武州深川州崎松棒杭と申場所、下総海より江戸へ入口に御
座候」(三田村鳶魚「江戸の食生活」)とあるように、品川の州崎から深川の州崎の内
が江戸前の海をさし、現在よりかなり狭いとされ、江戸前以外の鰻を「旅鰻」と呼び差
別していたともいう。
丑の日に籠でのり込む旅うなぎ
日本には、土用の丑の日に鰻を食べる慣習があるが、土用とは古代中国で生まれた五行
説(万物は木、火、土、金、水の5元素からなるという思想)上の季節の分類の一つで、
各季節の終わりにおける約18日間のことである。土用の中で十二支の丑の日にあたる
のが「土用の丑の日」である。暑い盛りである夏の丑の日に精力をつけ、厳しい夏を乗
り切ろうというこの慣わしは、江戸時代中期に活躍した平賀源内(1728~1779)は、蘭
学のみにとどまらず、発明家、江戸浄瑠璃作家、陶芸家、画家、本草(薬学)家など多
くの顔を持ち、様々な分野でその才能を発揮した。この奇才なる源内こそが、今に続く
この風習をつくったと言われている。当時は土用の丑の日に、うどんや梅干し、瓜とい
った『う』の字のつくものを食べると夏負けしないという俗信があり、その部分をつい
たキャッチコピー「土用の丑の日に鰻を食べると滋養になる」が当たったその源かもし
れないとも。
さて、話は ニホンウナギ(Anguilla japonica)の絶滅危機回避策の現状について。ニホンウナギ
の養殖は天然のシラスウナギに百%依存しているが、シラスウナギの来遊量は近年激減
し、養殖産業に大きな影響を与え続けている。ニホンウナギの生態には不明な点が多く、
産卵場や回遊経路は謎にあるが、産卵場がマリアナ海域にあることが解明されており、
水産総合研究センタらが、2008年に産卵場で親ウナギの捕獲したが、回遊中の行動や産
卵場に至るまでのルートは未解明にあった。今回はさらに、ニホンウナギの遊泳生態の
調査を行う。
● ニホンウナギ成魚は深海でも日出・日没を感知
それによると、深度データを発信する超音波発信器を装着したニホンウナギの成体を産
卵場であるマリアナ海域や日本近海で放流して追跡。その結果、日出と日没などに関連
した規則的な浅深移動が捉えられ、深度データから日出と日没時刻――日出の約1時間
前に潜行を開始し、昼間は500から800メートルの深度帯を遊泳、日没時に浮上を開始し、
夜間は150から300メートの深度帯を遊泳することを、さらに、昼間には太陽の照度によ
り遊泳深度が変化し、800mといった深海でも太陽光を感知していること、また、夜間に
は月齢、月出、月没と遊泳深度が関連、150から300メートルいった深度で月光を感知す
ること――を突き止める。
Light-Sensitive Vertical Migration of the Japanese Eel Anguilla japonica Revealed by Real-Time Tracking and
Its Utilization for Geolocation, PLOS ONE April 15, 2015
この日周行動は非常に規則的であり、遊泳深度データの変化から日出・日没時刻を特定
できることから、遊泳地点の緯度経度が推定できるため、今まで謎であった日本からマ
リアナ海域への産卵回遊ルート解明への応用が期待されている。
ところで、日本は、世界のウナ半生産量の70%を消費。国内の漁獲ではまかないきれ
ない需要に対応するため、これまで世界各地から二ホンウナギ(ジャポニカ種)、ヨー
ロッパウナギ(アンギラ種)、アメリカウナギ(ロストラ-タ種)の3種が日本市場へ
隼められて含たが、その結果、現在2つの種が国際的に絶滅危惧種に指定されるなど、
いずれも著しく資源状態を悪化させている。日本のウナギ市場はその穴を補おうと世界
各地で「代替ウナギ」を探しているが、数あるウナギ種の中でも特に日本で注目を浴び
ているのが、東南アジア周辺に生息し、特にインドネシアで漁業・養殖が盛んなビカー
ラウナギ(ビカーラ種)だ。大手商社の丸紅が現地で大規模な生産を行い、最大手スー
パーマーケットのイオンが国内で広く販売されているが、資源乱獲によりウナギの絶滅
の危機に瀕している言われている。
薄利多売が乱獲を助長 ? 完全養殖を実現するしかないか。
このように考えていくと「江戸前」「蒲焼」の食文化をいままでとおり保守するには、天然ウナギ
の乱獲を防ぎ、絶滅の危機を回避するには、天然のニホンウナギの生態の解明と同時に、世
界市場に対する管理手法・法整備を議論し保護しつつ、完全養殖技術の確立追求も進めて行
かなければならないだろう。それにしても、深海で太陽の動向を感知する能力に驚かされるニ
ュースだ。これは面白い。
ここ数年新しい農業について考えてきたことを、独自に事業化の基本イメージを確定さ
せておきたいという思いに駆られ、上記の本をそのたたき台として、時宜、読み進めた
いと掲載を開始した。独自の事業化イメージはできあがっている。この本にもすこし紹
介されている。時々の気付いた点を添え書きとしてここに記載していく。通読された方
に理解できるだろう。それでは読み進めることに。
「植物工場」とは、光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を施
設内で人工的に制御し、作物を連続生産するシステムのことで、季節や場所にとら
われず、安全な野菜を効率的に生産できることから多方面で注目を集めています。
その「植物工場」そのものにスポットをあてた本書では、設備投資・生産コストか
ら、養液栽培の技術、流通、販売、経営などを豊富な写真や図解を用いて様々な角
度からわかりやすく解説。また、クリアすべき課題や技術革新などによってもたら
されるであろう将来像についても、アグリビジネス的な視点や現状もふまえながら
紹介、文字通り植物工場のすべてがわかる一書となっています。
古在豊樹 監修「図解でよくわかる 植物工場のきほん」
【目次】
巻 頭 町にとけ込む植物工場
第1章 植物工場とはどういうものか
第2章 人工光型植物工場とは
第3章 太陽光型植物工場とは
第4章 植物生理の基本を知る
第5章 植物工場の環境制御(光(照明)
第6章 CO2/空調管理
第7章 培養液の管理
第8章 植物工場の魅力と可能性
第9章 植物工場ビジネスの先進例
第10章 都市型農業への新展開
第11章 植物工場は定着するか
「人工光型」の課題と展望
「人工光型」がまだ少ない理由
生産者にも消費者にもメリットがあり、かつ環境にもやさしい……。となれば、
「街中にもっと人工光型植物工場があってもいいのでは?」「スーパーやレストラ
ンなどでもっと人工光型植物工場野菜を目(口)にする機会があってもいいのでは?
」と疑問に思われる方も少なくはないだろう。
この章で述べてきたとおり、たしかに人工光型植物工場に開する研究開発はかな
りすすんでいる。ただ、産業化に至るにはまだいくつかの課題が残されているとい
うのが実際のところである。設備と栽培における課題と展望を次に示す。
設備面の課題と展望
設備面の課題としては、①現状では初期投資が大きい、②電気の利用効率が低く
運転経費が高い、③光源の有効な利用法が確立していない、という3つがある。
ただ、①については過大な初期投資や不適切な設備の選択による面も大きく、今
後の設計が最適化されることによって半減し得る。
②も同様で、現状では不適切なランプやエアコンの運転法によるむだな運転費の
支出が多いため、今後、運転法が改善されていくことで同じく半減し得る。
そして、③も照明電力の時刻別消費の平準化、照明システムやスペーシングによ
る植物受光率の向上、さらに蛍光灯やLEDのランプ効率と照明技術の向上によっ
て今後大幅な電気使用量の削減が見込める。
2025年までにはコスト・パフォーマンスを現状の4~6倍に上げることが実
行可能な目標として示されており、人工光型植物工場の設備面における展望は明る
い。
栽培面の課題と展望
栽培面の課題は、①栽培法が確立していない、②適切な品種が少ない、という点
にある。
①は、未だに太陽光下の養液栽培法の影響が色濃く残っていることがネックであ
る。ゆえに、植物種や品種によっては環境と植物成長の関係に未解明な点も多く、
人工光型植物工場の長所を最大限に生かしきれているとはいいがたい。今後の研究
の進展が待たれる。
②については、人工光型植物工場ならではの商品の開発や販売がすでにはじまり
つつある。さらに今後、人工光型植物工場専用の品種なども開発されれば、採算性
は大きく改善されるだろう。
「人工光型」に適した植物とは?
「人工光型」向き植物の条件
現在の人工光型植物工場において、栽培できない植物はほとんどない。ただし、
それは「経営収支を無視すれば」の話であり、当然、向き不向きはある。では、ど
んな植物が「人工光型」向きなのか? その条件が、次に示す2つである。
①比較的弱い光でも成長し、苗を植えてから収穫までの栽培期間が短い(15~30日)
②高裁植密度で生産が可能かつ重量当たりの価値が高い
具体的にあげれば、各種の接ぎ木苗・挿し木苗・実生苗、菜もの野菜・ハーブ・
香草類、草本性薬用植物、小型根菜類などがこれに該当する。
なお、播種から苗になるまでは必要なスペースが小さいので、日数が多くても生
産性への影響は少ない。
向き不向きの見極め方
前に羅列した「人工光型」向きの植物に共通しているのは、「草丈が短い」とい
う点である。人工光型植物工場では、多段棚の利用が前提になる。ゆえに、草丈が
30センチメートル(植物の先端から根の基部までの長さが40センチメートトル)
程度以下であることが人工光型植物工場での生産では好ましい。むしろ、これらの
植物を温室または太陽光型植物工場で生産した場合、高さ1メートル前後のベンチ
を利用して栽培するにしても植物から屋根までの数メートルは空気層、つまり「デ
ッドスペース」となる。それを差し引きしてもあまりあるほどの利点が太陽光下で
の栽培にあるのか、検討してみる価値は十分にあるといえるだろう。
そして、もうひとつの共通点が「強光を好まない(弱光を好む)」という点だ。
いわずもがなだが、照明(人工光源)を使用する人工光型植物工場では、強い光が
必要であればあるほど電気料金が過大になる。とくに、強い光と長い栽培期間が必
要で、しかも栽培密度の低い果菜類(トマト、キュウリ、パプリカ、ナスなど)は
経営的に利益を出すことが非常にむずかしく、生産の対象にはなり得ない。
「人工光型」と「太陽光型」の併用が増加
2005年以降、果菜類の育苗を「人工光型」で行い、栽培は「太陽光型」で行
う方式が増えている。周年にわたり高品質な苗が大量に必要なトマトの低段密植栽
培や菜ものの養液栽培において、これは非常に有効である。「人工光型」と「太陽
光型」お互いの長所短所を理解したうえで使い分けることも大切だが、それらを組
み合わせることでより有効な生産方式を見出していく視点や発想も重要だ。
ここで、大切なことが掲載されている。つまり、人工光型は、①栽培法が確立していな
い、さらに、②適切な品種が少ないの2点とし指摘し、生産に適するのは機能性植物の
み(上図/上)としてこの節以降、詳細概説に移っているが、その対象から外れた「カ
ロリー性植物」「果菜・果樹・大型根菜」に関して、「環境と植物成長の関係に未解明
な点も多く・・・」(「栽培面の課題と展望」)と述べていることもあり、該当植物の
育種改良法で栽培可能だろうと個人的に考えている。そのために、例えば(1)長時間
の観察画像解析システムや(2)自動環境制御試験培養ユニットシステムの開発は欠か
せない。具体的には、イネの育種改良:高栽培密度化=ダウンサイジング=ダウンスペ
ーシングのための環境自動制御(土壌環境を含める)を予めカレンダータイマー制御す
る条件をプログラミングし育種試験結果を集約し、環境と植物成長の関係に解明し、品
種改良することで、全てを人工光型栽培可能できるようにするというものであり、この
時点で高付加価値をはらむ特許出願事案となる(環境工学研究所WEEF「オール人工
光型植物栽培育種システム」)。
「人工光型」運営のポイント
生産能力当たりで初期コストを考える
人工光型植物工場の産業化における障壁のひとつが。初期コストの高さ々である
ことは40頁でも述べたとおりである。
一方で、人工光型植物工場に対する知識の浅さや誤った解釈が、その印象を過大
化させている側面があることも否めない。
たとえば、温室(ハウス)と人工光型植物工場の初期コストを。土地面積当たり
で比較した場合、人工光型植物工場のコストの高さに驚くだろう。しかし、土地当
たりの生産能力で考えた場合はどうか? 同じ土地面積であっても、棚が4段であ
れば人工光型植物工場の生産能力は温室の約10倍、20段あれば50倍またはそ
れ以上になる。つまり、人工光型植物工場の必要床面積は棚が4段なら温室の約10
分の1、棚が20段なら約50分のIですむ。また、天井の高さが3~6メートルの
場合、建物容積は30分の1から300分の1になる。さらに、床面積が10分の
1から50分の1になれば作業者の歩行(運搬)距離が大幅に減り、作業時間を30
%以上減少し得る。
初期コストは、生産能力当たりで比較・検討すべきである。
重量商品化率は90%以上を目指す
人工光型植物工場の運営においては、「いかにロスを少なくできるか?」が重要
なポイントになる。たとえば、露地で栽培した結球レタスの場合、収穫時に13枚
前後の外葉が畑に残される。また、芯が太く長いため、実際に商品となるのは収穫
時の畑での重量の半分以下(約40%)である。
それに対し、人工光型植物工場で結球性レタスを栽培し、結球前に収穫すれば、
外葉を破棄する必要がないうえに芯も短く小さいため、収穫時の重量の90%以上
を商品化することができる。見かけが異なるが、同じ昧、食感の新商品である。
重量商品化率90%以上。人工光型植物工場の運営を成功に導きたいのであれば、
この数値をめやすとすることが望ましい。
人工光型植物工場マーケットを創造するには?
前述のレタスの結球前収穫は、重量商品化率90%以上であるうえに「カット野
菜にしたものがほしい」「1人で食べきれる分だけほしい」という消費者の個食ニ
ーズにも応えた非常に有意義な事例のひとつである。このように、人工光型植物工
場の特性を生かして生産者・消費者双方にとってメリットのある商品を生み出すた
めの発想や視点が、人工光型植物工場の運営には必要不可決といえる。
この項つづく