彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救
ったと伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備
え。(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした
部隊編のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
超臨界二酸化炭素とは、温度が31℃以上、圧力が73気圧以上の二酸
化炭素のことで、気体並の高い流動性・浸透性と液体並の強い溶解
力を合わせ持っている。従って、木材のような材料に対して、気体
のように速やかに内部まで浸透し、液体に近い溶解力で成分を抽出
することができる。また、二酸化炭素は無毒・不燃性・不活性・安
価であり、使用後も回収して再利用できることから、環境や人体に
有害な有機溶媒に代わる環境低負荷型反応溶媒として注目されてお
り、食品や香料などの分野では超臨界二酸化炭素を利用した商用プ
ラントがすでに稼働している。
先回に続き、「バイオマス原料乾燥」と「オールバイオシステム」
のビシネス・マッチング基本構想」の「完結論」をファインル展開
する。
尚、短い期間だったわたしも半導体の「超臨界二酸化炭素洗浄装置」
の開発をしていた経験がある(選択と集中が要請される「資本の論
理」に事業開発を見通せずに離脱)ので、再度、「超臨界二酸化炭
素乾燥」をメイン・プロセスとして遡上する。ここまで、森林資源
現場での「原材粉砕・切断」、「樹木遺伝子編集」(ポフラの低リ
グニン含有化)、「超臨界二酸化炭素処理」の最新技術動向を調査。
因みに、森林資源の樹木は基本的には廃材(ウエイスト)はさせず
有効利用させる「ゼロ・ウエイスト」として構想する。
【超臨界二酸化炭素乾燥の特徴】
1.界面張力フリーで微細構造体を乾燥
2.乾燥中に働く応力(物資の密度や細孔構造を変化)による材料形
状や物性への影響なしに乾燥を実現
補足すると、溶液プロセスを用いる材料合成等により得られる生
成物(微細構造体、多孔体等)は、溶媒を含む湿潤状態のため、通常、
乾燥工程を不可欠とする。最初溶媒に完全に浸された状態にある微
細構造体等は、
1.柔軟性のある場合は、乾燥の初期段階では溶媒の蒸発の進行に
より溶媒の減少分が補填されずに構造体が収縮する、
2.乾燥が進行し構造体の表面が露出すると構造体内部に気相と液
相の界面が生じ、界面の接線方向に向かって界面張力に起因する
毛管力が生じ、構造体を収縮させる方向に応力を与える。
等の現象が起こり、物質の密度や微細構造変化し、材料の形状や物
性に大きな影響を及ぼし、微細構造体の倒壊や亀裂/割れが発生し
やすくなるが、超臨界乾燥は、通常の乾燥法と異なり、微細構造体
内の液体溶媒(液相)が気相となる条件への移行過程(気液共存領域)
での毛管力を発生させ、液相から超臨界状態を経由して気相に移行
させる事により、毛管力や溶媒の減少による収縮等を起こさない特
異な乾燥方法。
例えば、①半導体の微細レジストパターンの乾燥、②MEMS(Micro
Electro-Mechanical System)の 犠牲層除去後の乾燥、③シリカエアロ
ゲル等の多孔体材料の乾燥に適用ができる。
※万能ではないので要注意。
【参考情報】
1.超臨界二酸化炭素を用いた高含水率木材の高速脱水
【概要】
樹木から切り出されたばかりの木材(生材)は多量の水分を含んで
おり、住宅用材などに用いる前にあらかじめ木材を適切な水分量ま
で乾燥が必要。木材の乾燥法として古くから行われてきた天然乾燥
は数ヶ月間程度の長期間を要するため、現在では蒸気式加熱乾燥機
等を用いて乾燥するのが一般的であるが、それでも7~9日程度の日
数を要し、乾燥過程における木材の熱変性など、改善すべき問題点
も多く抱える。
【実験方法】
生材のスギ心材試片で 試片寸法は、(1)木口面15×15mm、繊維方向
100mm、(2)木口面40×50 mm、繊維方向100 mmの2種類を用意。 試
片を容量900mL のバッチ容器に入れて密閉し、超臨界二酸化炭素中
で所定時間保持した後、容器のバルブを開放し常圧まで急速に減圧。
処理の温度/圧力/保持時間は、試片(1)で120℃/17MPa/20min、試片
(2)で40,90,120℃ /10,17,30 MPa/20min 。また、実験にかかる消費
電力量の測定。処理後の試片はすぐに取り出し質量を測定した後、
室内に放置して24時間後までの質量変化を測定した。その後、試片
を105℃で24時間乾燥して全乾質量を測定し、乾量基準で含水率を算
出した。
【実験成果】
試片(1)では、処理前含水率81.7~122.9%の生材が処理直後には52.
0~57.7%と約1/2 にまで減少し、ごく短時間の処理で木材からの脱
水が可能であることが示された。木口寸法を大きくし、複数の処理
条件で実験した試片(2)でも、処理前含水率71.3~125.3%が、処理
直後には47.0~84.4%に減少し、室内放置2 時間後には39.7~72.7
%まで減少(図1)。
また、40℃処理の試片では、処理後の数~十数分間、試片から水分
が気泡と共に放出する様子が見られた。含水率の減少幅は、高温・
高圧処理であるほど大きくなる傾向にあった。割れについては、40
℃処理ではほとんど確認されなかったが、120℃処理では 複数箇所
で発生する試片が多く存在した。ポンプよる昇圧。ヒータによる昇
温・温度保持にかかる消費電力量は、40℃処理は120℃処理の約1/4。
本処理では、超臨界二酸化炭素が生材内部に素早く浸透して材内部
の自由水(細胞内腔や細胞間隙などの空隙に毛管力によって保持さ
れている水)に一部溶解し、その後圧力を解放することで、気化し
た二酸化炭素が水分を強力に木材外へ押し出し、高速脱水の効果が
生じていると推察される(図2)。また、木材が高密度でより多く
自由水に溶解していたと予想されることや、割れの発生による試片
表面積の増加がなかったことなどから、圧力開放時に二酸化炭素が
排出しきれず、室内放置の間も材内の水分を押し出し続けていたと
推測される。
最新木質バイオマス直接メタン発酵技術開発 さて、わたし(たち
)は、使途選別した木質バイオマス(破砕機で乾燥処理したパウダ
ーをさらに選別処理)を原料とした高速・高品質直接メタン発酵技
術開発を構想している。
【木質(植物)バイオマスを直接メタン発酵の問題点】
木質バイオマス由来、メタン発酵ガス発電買い取り価格が非常に高
い問題に直面する。
木質バイオマス発電とメタン発酵ガス発電が大規模化できFIT価格
を削減できないかわらない。
1.特開2023-4656 廃棄物処理プラント及び廃棄物処理方法 新和
産業株式会社
【概要】
下図1のごとく、廃棄物1Aの一部、即ち、高含水の被メタン発酵
処理物10Bをメタン発酵して熱や電気等のエネルギに変換できる
バイオガスGを生成すると共に、メタン発酵後のメタン発酵残渣物
110を、廃棄物1Aの残り、即ち、低含水の固形状の選別残留物
10Aと、嵩密度調節材2及び微生物付着体3と混合してまとめて
被好気発酵処理物100とし、それを好気発酵させて乾燥させるこ
とにより、固形燃料原料210及び/または堆肥原料220を生成
することで、エネルギコストを抑え、廃棄物をバイオガス及び資源
化物に有効利用できる。
図1.実施の形態に係る廃棄物処理プラントにおける廃棄物処理工
程のフロー
図2.実施の形態に係る廃棄物処理プラントの前処理工程、メタン
発酵工程の概念図
図3.実施の形態に係る廃棄物処理プラントの混合工程、好気発酵
乾燥工程、排気調節工程、及び脱臭工程の概念図
図4.実施の形態に係る廃棄物処理プラントの後処理工程の概念図
【符号の説明】 1A,1B 廃棄物 2 嵩密度調節材 3 微生物付
着体 21 メタン発酵槽 10A 選別残留物 10B 被メタン発酵
処理物 33 コジェネレーション設備 100 被好気発酵処理物 1
10 建屋 120 好気発酵乾燥装置 130 エアプレナム室 14
0 生物脱臭装置 142 バイオフィルタ 150 メタン発酵残渣
171 第1の循環水設備 181 第2の循環水設備 200 好気発
酵乾燥処理物 210 固形燃料原料 220 堆肥原料 Y3 混合
ヤード(混合作業部) G バイオガス
2.特開2011-115120 リグノセルロース系バイオマスからメタンガ
スを生成するための微生物担持担体の作製方法 財団法人電力中
央研究所
3.特開2016-145716 放射性セシウムを含む植物バイオマスの処理
方法 国立大学法人広島大学他
【概要】
下図1のごとく、放射性セシウムを含む植物バイオマスから、糖質
を含み且つ放射性セシウムの50%以上が移行した液相部と、固相
部とを得る分解工程S1と、放射性セシウムを含む液相部を発酵さ
せて、放射性セシウムを含む液相部廃液と、放射性セシウムを含ま
ない第1気相部とを得る液相部発酵工程S2と、固相部を発酵させ
て固相部残渣と、固相部廃液と、放射性セシウムを含まない第2気
相部とを得る固相部発酵工程S3とを備えている。分解工程は、植
物バイオマスに糖化酵素を添加して粉砕する湿式ミリング処理を含
む、放射性セシウムを含む植物バイオマスを、有効活用しつつ減容
化する処理方法を提供する。
図1.放射性セシウムを含む植物バイオマスの処理工程の一例を示
すフロー図
図2.分解工程の一例を示すフロー図
植物バイオマスから糖化液と固形残渣とを得る分解工程は、図2に
示すように、糖化酵素を添加した湿式ミリング処理により行うこと
ができる。湿式ミリング処理は、植物バイオマスを媒体中に懸濁さ
せたスラリ状態として粉砕する。スラリの体積は、バイオマスの種
類及び処理装置の構成等の種々の要因によって変動するが、一例と
して元の植物バイオマスの体積の200%~300%程度となる。
処理装置には、例えばボールミル又はビーズミル等を用いることが
できる。効率良く粉砕するために、植物バイオマスは処理装置に投
入する前に5mm程度以下に粗粉砕しておくことが好ましい。 湿
式ミリング処理の際に添加する糖化酵素は、植物バイオマスの細胞
壁に含まれるセルロース及びヘミセルロース等を糖化する酵素であ
り、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼを挙げること
ができる。セルラーゼとは、β-1,4-グルカンのグルコシド結合を加
水分解する酵素である。セルラーゼには、セルロースの分子内部か
ら切断するエンドグルカナーゼ、セルロースの還元末端又は非還元
末端から分解しセロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ、及び
セロビオースのグルコシド結合を切断しグルコースへと変換するβ
-グルコシダーゼ等が含まれる。ヘミセルラーゼとは、植物体の細
胞壁を構成する多糖類のうちセルロース、ペクチン以外の多糖類を
分解する酵素である。ペクチナーゼとは、ペクチンを分解する触媒
機能を持つ酵素であり、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、
ペクチンエステラーゼ、及びペクチンメチルエステラーゼ等が含ま
れる。これらの酵素は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
分解工程において、植物バイオマスに含まれる放射性セシウムをほ
ぼ完全に液相部に移行させ、固相部に含まれる放射性セシウムを既
定値以下とすれば、固相部は放射性セシウムを含まない通常のバイ
オマスとして処理することができる。この場合には、固相部廃液及
び固相部残渣は放射性セシウムを含まない通常の廃棄物として処理
することができる。
植物バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含
む植物由来のバイオマスであり、主に樹木等から生じる木質バイオ
マス(ハードバイオマス)、及び主に農産物等から生じる草本系バ
イオマス(ソフトバイオマス)等が含まれる。木質系バイオマスの
具体例としては、杉及び檜等に代表される針葉樹に由来するもの、
ポプラ及び白樺等に代表される広葉樹に由来するものが含まれる。
草本系バイオマスの具体例としては、稲、麦及びトウモロコシ等に
由来するものが含まれる。また、植物バイオマスには、建築廃材及
び農産廃棄物等も含まれる。
植物バイオマスに含まれる放射性セシウムは、セシウム137であ
っても、セシウム134であっても、その両方であってもよい。
植物バイオマスから糖化液と固形残渣とを得る分解工程は、図2に
示すように、糖化酵素を添加した湿式ミリング処理により行うこと
ができる。湿式ミリング処理は、植物バイオマスを媒体中に懸濁さ
せたスラリ状態として粉砕する。スラリの体積は、バイオマスの種
類及び処理装置の構成等の種々の要因によって変動するが、一例と
して元の植物バイオマスの体積の200%~300%程度となる。
処理装置には、例えばボールミル又はビーズミル等を用いることが
できる。効率良く粉砕するために、植物バイオマスは処理装置に投
入する前に5mm程度以下に粗粉砕しておくことが好ましい。
湿式ミリング処理の際に添加する糖化酵素は、植物バイオマスの細
胞壁に含まれるセルロース及びヘミセルロース等を糖化する酵素で
あり、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼを挙げるこ
とができる。セルラーゼとは、β-1,4-グルカンのグルコシド結合
を加水分解する酵素である。セルラーゼには、セルロースの分子内
部から切断するエンドグルカナーゼ、セルロースの還元末端又は非
還元末端から分解しセロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ、
及びセロビオースのグルコシド結合を切断しグルコースへと変換す
るβ-グルコシダーゼ等が含まれる。ヘミセルラーゼとは、植物体の
細胞壁を構成する多糖類のうちセルロース、ペクチン以外の多糖類
を分解する酵素である。ペクチナーゼとは、ペクチンを分解する触
媒機能を持つ酵素であり、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアー
ゼ、ペクチンエステラーゼ、及びペクチンメチルエステラーゼ等が
含まれる。これらの酵素は単独で用いても、組み合わせて用いても
よい。
糖化酵素の添加量は、処理する植物バイオマスの種類及び量、糖化
酵素の種類、装置の構造等により適宜決定すればよい。例えば、稲
わらの場合、植物バイオマス1g当たり200U~20000U程
度とすることができる。
湿式ミリング処理に用いる媒体は、添加する酵素を失活させること
なく粉砕対象物をスラリ状態で保持できる液状のものであればよい。
例えば、水(塩等の添加物が含まれていても構わない)、有機溶媒、
及びイオン性液体などが挙げられる。pHを一定に保つために緩衝
液としてもよい。 湿式ミリング処理の実施条件は、粉砕対象物によ
り適宜選択すればよい。例えば、ビーズミルを用いる場合、媒体の
pHを2.0~11.0、媒体と粉砕対象物の重量比を1:1~
100:1、粉砕機のビーズ径を0.1mm~20mm、ビーズ周
速を0.3m/秒~50m/秒、スラリ流速を0.1L/分~10
L/分の範囲内で適宜選択すればよい。湿式ミリング処理の温度は、
酵素反応に適した温度とすればよく、10℃以上が好ましく20℃
以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。そして100
℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下がさら
に好ましい。
湿式ミリング処理の時間は、経時的に粉砕物の粒度及びスラリ粘度
を測定しながら、任意の数値(平均粒度1μm以下が望ましい)と
なったところで終了すればよい。処理時間は、糖化率を高くする観
点から10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、60分
以上がさらに好ましく、100分以上がよりさらに好ましい。効率
の観点からは300分以下が好ましく、240分以下がより好ましく
180分以下がさらに好ましい。
粉砕終了後、固液分離手段により液状の糖化液と固形残渣とに分離
する。固液分離手段として、遠心分離等を用いることができる。固
形残渣は洗浄してもよい。洗浄で生じた残渣洗浄液は糖化液と共に
液相部として次の液相部発酵工程に回すことができる。洗浄操作は
複数回行ってもよい。
湿式ミリング処理により得られた固形残渣は、そのまま固相部とし
て固相部発酵工程に回すことができるが、再糖化処理することもで
きる。再糖化処理は、固形残渣にさらに糖化酵素を加えて行えばよ
い。再糖化処理の際に添加する糖化酵素は、湿式ミリング処理の際
と同じであっても、異なっていてもよい。糖化酵素の添加量は特に
限定されないが、元の植物バイオマス1g当たり、200U~20
000U程度とすることができる。処理温度は酵素反応に適した温
度とすればよく、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好まし
く、30℃以上がさらに好ましい。そして、100℃以下が好ましく、
80℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。処理時
間は、必要とする糖化率に応じて選択すればよいが、糖化率を高く
する観点からは1時間以上が好ましく、10時間以上がより好まし
く、20時間以上がさらに好ましい。そして効率の観点からは50
時間以下が好ましく、40時間以下がより好ましく、30時間以下
がさらに好ましい。
再糖化処理の後、固液分離手段により、再糖化液と固形残渣とに分
離する。固液分離手段として遠心分離等を用いることができる。再
糖化液は、湿式ミリング処理により得られた糖化液と共に液相部と
して次の液相部発酵工程に回すことができる。固形残渣に含まれる
放射性セシウムの量をさらに低減するために、再糖化処理した後の
固形残渣を洗浄してもよい。洗浄で生じた残渣洗浄液は糖化液と共
に液相部として次の液相部発酵工程に回すことができる。洗浄操作
は、複数回行ってもよい。再糖化処理した固形残渣は、固相部とし
て次の固相部発酵工程に回すことができる。
再糖化処理は必要に応じて行えばよく、糖質の分離、及び固形残渣
側に残存する放射性セシウムの量の減量を湿式ミリング処理におい
て十分にすることができれば、行わなくてもよい。また、再糖化処
理は1回でもよく、2回以上行ってもよい。
植物バイオマス中に含まれる放射性セシウムは、主に土壌中に含ま
れる放射性セシウム が植物の生長の際に植物の組織内に取り込まれ
たものである。従って、植物組織と結びついており、単に粉砕した
り、洗浄したりしただけでは植物バイオマスから取り除くことはで
きない。本実施形態においては、植物バイオマスを糖化酵素を添加
した状態で粉砕しており、植物組織を酵素により分解して糖化して
いる。このため、植物組織中の放射性セシウムを液相部側に移行さ
せることができる。放射性セシウムの除去処理を考えると、固形分
の中に含まれているよりも液状分に含まれている方が容易である。
従って、放射性セシウムをできるだけ液相部側に移行させることが
好ましく、放射性セシウムの50%以上を液相部側に移行させるこ
とが好ましく、70%以上移行させることがより好ましく、75%
以上移行させることがさらに好ましい。固相部側に含まれる放射性
セシウムを検出限界以下とすることが最も好ましい。
分解工程により得られる液相部の体積は、バイオマスの種類及び処
理装置の構成等の種々の要因によって変動するが、一例として元の
バイオマスの体積の160%~260%程度となる。放射性セシウ
ムを含む液相部を発酵させる液相部において、液相部に含まれる糖
質等の有機物が微生物により分解され、メタンを含む気相部と、糖
質が消費された液相部廃液とが発生する。液相部発酵工程は、どの
ような方法としてもよいが、湿式のメタン発酵法が好ましく、例え
ば上向流式嫌気汚泥床(UASB)を用いて行うことができる。具
体的には、図3(掲載せず)に示すように、嫌気性微生物の集塊作
用を利用して活性の高い菌体をグラニュール(直径2mm~3mm
の粒状汚泥)として反応槽に大量に保持し、反応槽の下部から放射
性セシウムを含む液相部を注入し、嫌気状態で液相部中の有機物を
分解させればよい。液相部の供給量及び液相部中の有機物の濃度は
装置の処理能力に応じて適宜調整すればよい。
反応槽内部に注入された液相部は、下部に沈殿しているグラニュー
ルの層に均一に拡散される。液相部中の有機物は分解され、メタン
ガス及び二酸化炭素等を含むバイオガスと、液相部廃液とが生成さ
れる。バイオガスが表面に付着したグラニュールはエアーリフト効
果で処理水と共に浮上するため、上部に設けられたセトラーにより
バイオガスを捕集することができる。液相部廃液とグラニュールと
を分離することにより、有機物をほとんど含まない液相部廃液を回
収できる。液相部廃液の体積は、処理装置の構成等の種々の要因に
よって変化するが、一例として元の植物バイオマスの150%~2
50%程度となる。液相部に含まれる放射性セシウムは、ほぼその
まま液相部廃液に移行する。有機物をほとんど含まない液相部廃液
は腐敗しにくいので所定の処理を行う前に長期保管することができ
る。
液相部中に含まれる放射性セシウムは、嫌気性微生物によるメタン
発酵にほとんど影響を与えず、放射性セシウムを含んでいても放射
性セシウムを含んでいない場合と同様にメタン発酵させることがで
きる。メタン発酵は、30℃~60℃程度の温度で行うことができ
る。このため、液相部に含まれる放射性セシウムが気化するおそれ
はほとんどなく、生成されるバイオガスに含まれる放射性セシウム
は検出限界以下となる。従って、得られたバイオガスは通常のプロ
セスにより得られるバイオガスと同様に、燃料等として用いること
ができる。
分解工程により得られる固相部の体積は、植物バイオマスの種類及
び処理装置の構成等の種々の要因により変動するが、一例として元
の植物バイオマスの30%~70%となる。糖化液である液相部を
分離した後の固相部は、まだ多量の有機成分を含んでいる。このた
め、次の工程である固相部発酵工程において,バイオガスを発生さ
せることができる。固相部発酵工程は、例えば乾式メタン発酵処理
とすることができる。乾式メタン発酵処理は水分含有率が80%以
下の条件で行うことができる。例えば、液相部を分離した後の固相
部を高温嫌気消化汚泥と混合し、嫌気性条件においてメタン発酵さ
せることができる。発酵温度は、45℃~60℃程度とすることが
できる。固相部の供給量及び発酵時間等は 、装置の構造及び処理能
力等に応じて適宜調整すればよい。例えば、固相部と汚泥とを1:
10~1:3程度の比率で混合することができる。発酵時間は20
日~50日程度とすることができる。
固相部発酵工程においても液相部発酵工程と同様に、発生するバイ
オガスに含まれる放射性セシウムは検出限界以下となる。このため
通常のバイオガスと同様に燃料等として利用することができる。
固相部発酵工程において発生する残渣は、固液分離により固形分で
ある固相部残渣と、固相部廃液とに分離できる。固相部に含まれる
放射性セシウムの5%~20%程度が固相部廃液に移行し、残りは
ほぼ全て固相部残渣に移行する。固相部廃液は有機物をほとんど含
まないため、腐敗しにくく長期に亘り保管することができる。また、
固相部残渣は腐敗しにくいリグニン等を主成分とするため、長期に
亘り保管することができる。固相部残渣を保管する場合は、水分量
が10%程度以下となるまで乾燥させることが好ましい。固相部廃
液及び最終的に乾燥した固相部残渣の体積は、元のバイオマスの種
類及び処理装置の構成等の種々の要因により変動するが、一例とし
て固相部廃液は元の植物バイオマスの20%~50%、固相部残渣
は乾燥状態で元の植物バイオマスの3%~10%程度となる。
液相部廃液及び固相部廃液に含まれる放射性セシウムは、物理化学
的な手法又は生物化学的な手法により除去することができる。例え
ば吸着剤を用いて除去することができる。放射性セシウムの吸着剤
として、ゼオライト、プルシアンブルー及びイオン交換樹脂等を挙
げることができる。メタン発酵により液相部廃液中の有機物は大幅に
低減されているため、吸着剤による放射性セシウムの除去を効率良
く行うことができる。また、重金属を吸着する光合成細菌等を用い
て放射性セシウムを除去することもできる。この場合、液相部廃液
に残存している有機成分を光合成細菌等の栄養源として用いること
ができる。放射性セシウムを検出限界以下又は規定値以下にまで除
去した後の液相部廃液は、通常の廃液として所定の処理をして廃棄
することができる。
液相部廃液と固相部廃液とを混合して放射性セシウムの除去を行う
ことができる。また、別々に放射性セシウムの除去を行うこともで
きる。また、液相部廃液及び固相部廃液の少なくとも一部を、分解
工程、液相部発酵工程又は固相部発酵工程にフィードバックしてリ
サイクル使用することもできる。
【実施例】
以下に実施例を用いて本開示の放射性物質を含む植物バイオマスの
処理方法をさらに具体的に説明する。以下の実施例は例示であり本
発明を何ら限定しない。
<放射性物質を含む植物バイオマス>
放射性物質を含む植物バイオマスとして、稲わら及び杉材チップを
用いた。稲わらに含まれる放射性セシウムの量は7000Bq/kg、
杉材チップに含まれる放射性セシウムの量は500Bq/Kgであ
った。
<分解工程>
粗粉砕した植物バイオマス50g、蒸留水445mL、及びpH
5.5のリン酸バッファー5mLを混合してスラリとした。これに、
糖化酵素としてセルラーゼであるOPTIMASH BG(GENENCOR社製)を
5mL(59225U)、ヘミセルラーゼであるOPTIMASH XL(GENENCOR
社製)を5mL(35650U)添加した。糖化酵素を添加したスラリー
を、ビーズミルを用いて所定の時間湿式ミリング処理した。ビーズ
ミルは、容量が0.15Lのセラミック製(アシザワファインテッ
ク社製、ラボミニスターLM2015)とし、直径0.5mmのジルコニ
ア製ビーズを用いた。湿式ミリングの処理温度は50℃とし、ミル
の周速は14m/sと した。
湿式ミリング処理の後、回収したスラリを固液分離し、1次糖化液
と固形残渣とを回収した。固形残渣に蒸留水を200mL~400
mLと、酵素液としてOPTIMASH BG(GENENCOR社製)を5mL(592
25U)及びOPTIMASH XL(GENENCOR社製)を5mL(35650U)とを添
加して50℃で保温しながらゆっくりと攪拌し、24時間糖化反応
を継続する2次糖化処理を行った。2次糖化処理の後、再び固液分
離し、2次糖化液を回収し固形残渣は蒸留水を加えて再懸濁し、再
度固液分離をした後に回収した。上清は残渣洗浄水として回収した。
稲わらについては1次糖化液、2次糖化液、洗浄水、固形残渣の計
4サンプル、杉チップについては1次糖化液、2次糖化液、固形残
渣の計3サンプルのそれぞれに含まれる放射能を計量し、湿式ミリ
ングによる放射性セシウムの移行性を調査した。放射能の計量は、
100mL容器に試料を充填し、ゲルマニウム半導体検出器により
行った。
植物バイオマスとして稲わらを用いた場合、120分の湿式ミリン
グ処理により、51%の放射性セシウムが1次糖化液に移行した。
120分間の湿式ミリング処理により得られた固形残渣をさらに2
次糖化することにより、放射性セシウムの18%が2次糖化液に移
行した。2次糖化後の固形残渣を洗浄した残渣洗浄水に放射性セシ
ウムの4%が移行し、最終的な固形残渣に含まれる放射性セシウム
は、元の稲わらの27%であった。
植物バイオマスとして杉チップを用いた場合、120分の湿式ミリ
ング処理により75%の放射性セシウムが1次糖化液に移行した。
120分間の湿式ミリング処理により得られた固形残渣をさらに2
次糖化することにより、放射性セシウムの25%が2次糖化液に移
行した。2次糖化後の固形残渣に含まれる放射性セシウムは検出限
界以下であった。
<液相部発酵工程>
放射性セシウムを含む稲わらから調製した液相部を図3に示すよう
な上向流式嫌気汚泥床(UASB)反応槽を用いてメタン発酵処理
した。液相部は、湿式ミリング処理により得た糖化液、2次糖化処
理により得た2次糖化液及び洗浄水の混合物とした。嫌気汚泥床は、
グラニュールを700mL~800mLとした。液相部は、化学的
酸素要求量(COD)が1200mg/Lとなるように希釈して嫌
気汚泥床に供給した。温度は35℃、滞留時間は6.0時間で運転
をした。
まず、放射性セシウムを含まない糖化液をUASB反応槽に供給し、
メタン発酵が正常に生じることを確認した。この場合のバイオガス
の生成量は約1400mL/L/日~1500mL/L/日であっ
た。放射性セシウムを含まない糖化液により約20日間運転をした後、
放射性セシウムを含む糖化液の供給を開始した。放射性セシウムを
含む糖化液(56Bq/L)の供給を開始した後も、バイオガスの
生成量に大きな変化は認められなかった。放射性セシウムを含む糖
化液の供給を開始して約24時間後に、UASB反応槽からの供給
液と廃水との放射能がほぼ同値になった。バイオガスに含まれる放
射性セシウムの量は、放射性セシウムを含む糖化液の供給を開始し
て24時間以上経過しても検出限界以下であった。廃水のCODは、
131mg/Lであった。
<固相部発酵工程>
放射性セシウムを含む稲わらから調製した固相部を乾式メタン発酵
処理により安定化及び減容化した。固相部は、二次糖化処理を行っ
ていない湿式ミリング処理後の固形残渣とした。乾式発酵処理には
汚泥攪拌機能を有する実容量が約10Lの混合攪拌型攪拌槽を用い
た。汚泥には、広島県内の水処理センターから供試された余剰活性
汚泥の高温嫌気消化汚泥を使用した。本汚泥の含水率は78.5%、
強熱減量(volatile solids; VS)は0.857g/g-DWであった。
発酵温度は55℃とし、汚泥滞留時間は約30日とした。100g
の稲わら粉末から得られた固形残渣を1Lにメスアップして発酵槽
に投入し た。投入した試料の含水率は90%~95%、密度は
1050kg/m3、粘度は100000mPa・sであった。3
日毎に試料の投入と引き抜きとを行いながら85日間発酵処理を続
けた。
発酵処理後に引き抜いた試料を遠心分離により上清である固相部廃
液と、固形分である固相部残渣とに分離した。固相部廃液の質量は
600g、湿潤状態の固相部残渣の質量は390gであった。固相
部廃液及び固相部残渣について放射能量を測定した。放射能の計量
は、100mL容器に試料を充填し、ゲルマニウム半導体検出器に
より行った。
バイオガスの生成量は湿式ガスメータにより測定した。湿式ガスメ
ータは、液面上部から3~4室に別れた計量室と、スパイラルドラ
ムとを有し、入り口から入ったガスによるドラム軸の回転運動をメ
カカウンタにより積算して積算流量値を測定した。
処理期間中における稲わら1g当たりに換算したバイオガス生成量
は217mL/gであり、そのうちメタンの生成量は114mL/
gであった。湿式ガス流量計内の水について放射能量を測定するこ
とにより、バイオガス中の放射性セシウムの量を評価したが、検出
限界以下であった。100gの稲わらの体積は約800mLであっ
た。分解工程において、約1700mLの液相部と、約360mL
の固相部を得た。固相部を固相発酵処理することにより、約160
mLの固相部廃液と、約205mLの固相部残渣とが発生した。固
相部残渣を水分含有率が約10%となるまで乾燥したところ約48
mL(約36g)となった。元の稲わら100gの放射能量は70
0Bqであり、最終的な固相部残渣(36g)の放射能量は311
Bqであり、固相部廃液の放射能量は27Bqであった。従って、元
の稲わらに含まれる放射性セシウムの約44%(311Bq/70
0Bq)が固相部残渣に移行した。本実施例においては2次糖化処
理を行っていないが、2次糖化処理を行うことにより、固相部残渣
に移行する放射性セシウムの割合をさらに低減することができる。
植物バイオマスの減容化率(%)は、以下の式により表すことがで
きる。
減容化率(%)=(バイオマス体積-固形廃棄物体積)/バイオマス
体積・・・式
本実施例の場合には固形廃棄物体積は、固相部残渣の体積となる。
厳密には、液相部廃液及び固相部廃液から放射性セシウムを除去す
る際に放射性セシウムを含む廃棄物が発生するが、固相部残渣と比
べて量が少なため、バッチが小さい場合には無視することができる。
従って、本実施例においては固形廃棄物体積は48mLとなり減容
化率は、94%となる。この結果を基に、1バッチ600kgのバ
イオマスを処理するプラントの収支をシミュレーションすると、植
物バイオマスの体積は約4800Lとなり、約290L(220kg、
水分含有率10%)の固相部残渣が発生する。液相部廃液及び固相
部廃液の体積は、約12000Lとなり、放射性セシウムを除去す
る際に発生する固体の廃棄物の割合を0.5%とすると約60Lと
なる。従って、固形廃棄物体積は、290L+60L=350Lと
なり、減容化率は、93%となる。
【産業上の利用可能性】
本開示の放射性セシウムを含む植物バイオマスの処理方法は、有効
活用しつつ減容化できるようにすると共に、その放射性セシウムを
容易に除去できるような形態にでき、放射性セシウムを含む植物バ
イオマスの処理方法等として有用である。
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続・オールバイオマスシステム完結論 ②
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