彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。(戦国時
代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編のこと)の兜
(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
【再エネ革命渦論 176: アフターコロナ時代 177】
● 技術的特異点でエンドレス・サーフィング-
特異点真っ直中 ㊿+⑦
● 次世代太陽電池「ペロブスカイト型 2025年実用化」を表明
岸田首相は3日、「ペロブスカイト型」と呼ばれる次世代の太陽電池に
ついて、2025年の実用化を目指す考えを表明した。脱炭素社会の実現
に向けた投資促進策の一環で、年内にも具体的な戦略を構築する。首相官
邸で開かれた企業幹部との意見交換会で述べた。岸田首相はペロブスカイ
ト型を挙げ、「カーボンニュートラル(脱炭素化)の実現に重要な技術、
製品の開発、普及に向け、年内にGX(グリーントランスフォーメーショ
ン)に向けた投資戦略を策定する」と強調した。開発に取り組む企業からは
、政府の支援を求める意見が出た。ペロブスカイト型の太陽電池は、薄く
て軽く、曲げることもできる。車の屋根の形状に沿って設置でき、電気自
動車(EV)なでの活用が期待されている(via 読売新聞 2023.10.03)。
● 無害で安価な新規太陽電池材料を発見
10月4日、東北大学の研究グループは,アルカリニクトゲン(水素を除く元
素周期表1族元素(アルカリ金属)と15族元素(ニクトゲン)の化合物)が,
太陽電池材料として有望であることを発見。
【要点】
1.元素を置換する新たなエレメントミューテーション法(注1)と第一
原理計算(注2)を用いて、アルカリニクトゲン化合物(注3)が太陽
電池材料として有望であることを発見
2.その中でも無害で安価な元素で構成されるリン化ナトリウムを実験的
に合成しバンドギャップが計算による値と一致することを確認
【概要】
太陽電池の中核をなす光を電気に変換する材料には、主に元素周期表14族
(Ⅳ族)のシリコンが使われてきました。しかしシリコンは電気への変換
効率が低いため代替材料が長年望まれてきた。その中には、実用化に至っ
た13族-15族(Ⅲ-Ⅴ族)化合物のヒ化ガリウム、CIS系(銅、インジウム、
セレンを主な原料とする材料)、12族-16族(Ⅱ-Ⅵ族)化合物のテルル化
カドミウムや、最近ではハロゲン化鉛系ペロブスカイト(注5)が含まれて
いる。しかしながらそれらの材料は、ヒ素、セレン、カドミウム、鉛等の
有害元素を含んでおり、無害でさらに安価な元素で構成される太陽電池材
料が望まれていた。
図1. (左)固体セレンと、(右)アルカリニクトゲン化合物の結晶構造(
NaPを例として)。
● 世界初の水中フュージョンセンサ技術
わたしは何なの ⑪
今夜は、映画製作から離れ、アルゴリズミカルな人類社会を人工知能(AI
)の行方について、書籍から考察してみよう。
● 生成AIの可能性
この命題に答える知識人で先ず浮かんだのは松岡正剛。しかし、新型コロ
ナウイルス禍や<環境リスク本位制>高度消費社会の諸課題解決の考察作業
に追われ近況も分からず仕舞い、早速ネット検索に入る。
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松岡正剛(まつおか せいごう、1944年1月25日 -)は、日本の実業家、編
集者、著述家。株式会社松岡正剛事務所代表取締役、編集工学研究所々長、
ISIS編集学校校長、連志連衆會理事、角川武蔵野ミュージアム館長。京都
市出身。東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を歴任。雑誌編集書籍や
映像の企画・構成など多方面で活躍。各界の研究者と交流し、情報文化の
考察を深め、独自の日本文化論も展開。著書に『知の編集術』『日本数寄
』(2000年)、書評『千夜千冊』(2006年)など。
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「あっというまにChatGPTが話題になった。オープンAI社が開発
したチャットサービスで、リリース僅か2ヶ月で1億人のユーザーを突破
した。ユーザーが知りたいことについて質問を入力すると、まるで訳知り
のセミプロ・ライターかコンサル屋のように回答を作成してくれる。さっ
そく私の周辺の若いクリエイターやエディターが出来を賞味していたが、
そこそこのレベルに達しているので驚いていた。」との松岡正剛との感嘆
から入ってみよう(No58『生成AIの可能性』2022.05.15、館長通信|角
川武蔵野ミュージアム)。機構やしくみはとくに複雑ではない。
小説の自動生成ソフトやゲーム中の会話生成のためにつくられたGP
Tという言語モデルを応用したもので、もともとなめらかな日本語(
英語)を生成できるところへもって、ネット上の厖大な類似テキスト
例をAI学習した成果を反映できるようにした。 だから技能的には
生成的人工知能(ジェネラティブAI=生成AI)なのである。ただ、
操作をやけに簡便にした。ユーザーはプロンプト(命令)するだけで
いい。「リンゴって何? 成分は? リンゴの料理のベスト3は?
リンゴが出てくる昔話・小説・オペラは?」というふうに聞いていけ
ばいいだけなのだから、らくちんだ。 しかもこれらについてテキスト
ライクに答えてくれる。実際には答えたのではなく、類似知をGPT
モデルの起承転結に合わせて、そのつど即刻合成しているのだが、こ
の程度でもふだんの会話をはるかに超えるスピードと説得力になるの
で、ついつい驚いてしまうのである。
なぜ賢く感じられるのかというと、GANとGPTという二つのフレ
ームが競争学習するように構成されているからだ。 GAN(敵対的
生成ネットワーク)は、新しいデータサンプルを作成するネットワー
クとそのサンプルが本物か偽物かを判定する識別ネットワークからで
きていて、これらの経緯をGPT(生成的事前学習トランスフォーマ
ー)が参照しながら、より「もっともらしい」組み合わせに向かう。
GPTがそうなれるのはGPTの基体が大規模な人工ニューラルネッ
トワークでつくられているからで、おまけにラベル付けのないテキス
ト群を集積させて巨大データセットであらかじめ訓練されているせい
だった。
と、このように述べプロの文筆家や作家や編集者が身につけている技能に
近い。また作曲家や画家の曲づくりや絵づくりのしくみとも近い。実際に
も作家の習作プロセスにはGANやGPTが動いていたとみなせる。たと
えばバルザック、横山大観、高浜虚子、クィンシー・ジョーンズ、宮尾登
美子、坂本龍一は、アナログかデジタルかはべつにして、自分なりのGA
NやGPTを工夫して、表現力を磨き、ただ作家や作曲家や画家はプロン
プターになりたくて、文章に挑んだり曲を工夫しているのではない。また
いつまでもGANやGPTに頼るわけでもない。AIは役に立つ優秀な学
習ツールやアプリだとは思うが、そのAIからいつ離れるかということこ
そ、愉快なことなのであると結んでいる。
人工知能は人間を超えるか
ディープラーニングの先にあるもの
松尾豊のパワポ・レクチャーをユーチューブで見た。ディープラーニング
をめぐる瑞々しい解説だった。1975年生まれの世代だからというので
はない。人工知能の濃い薄い、機械学習の得手不得手などについてリアル
タイムで経験してきただろうことを、AI史のセミドキュメントをまぜて
実況する説明力に長けていて、そこが瑞々しかった。
本書はそのレクチャー内容とほとんど変わらない。だから口語的なところ
が効いている。きっとライターの田中幸宏がうまくまとめたのだと思う。
ただし、機械学習とディープラーニングの啓蒙を意図したためだろうが、
きっと鋭い洞察力を秘めているだろうにそこをあまり突っ込んでいないの
で、全体としてはややまんべんないものになった。ソフトバンクがフラン
スのアルデバラン・ロボティクスに頼んで作らせた「ペッパー」のことな
ど、これっぽっちも褒める必要なんてなかったはずである。
人工知能の揺籃期は、人間の思考や行動の判断を司っている「脳」が、基
本的には電気回路に似たニューロンのネットワークの中で「さまざまな計
算」をしているはずだという予測に始まっている。
そうだとしたら、「計算」が得意なCPUをもったコンピュータは脳のや
っている思考や判断を少しは代行できるのではないか、かなり模倣できる
のではないか、脳の知能を外在化するシステムとして取り出せるのでは
ないか。コンピュータ科学者や認知科学者はそう考えた。
このとき原点となったのが、アラン・チューリングの「ユニバーサルマシ
ン」とフォン・ノイマンの自己複製オートマシン「ユニバーサル・コンス
トラクター」だった。そしてここを出発点にして、人工知能の研究と開発
が始まった。
ユニバーサル・コンストラクターの原理は、ぼくが端的にまとめて言って
しまうと、①構築できるものは何でも構築する、②しかし何が構築できる
かをあらかじめ教えるようなマシンは作れない、③どんなプログラムも論
理的代用でいく、というものだ。
人工知能はこの原理の上にのっている。ただしそこには改良しがたい不文
律がある。人工知能が複製できるのは、情報(知識)を与えてもらったも
のだけだということだ。逆にいえば、その“所与の一件”さえあれば、あ
とは「計算」に徹すればよい。
では、お手本は何になったのか。それが「脳」(ニューロンの計算モデル
)だったのである。 人工知能は脳をお手本にした。しかし脳は「計算
」ばかりしているわけではない。多様なニューロトランスミッター(脳内
物質)をシナプスで放出したり制御したりして、さまざまな化学的プロセ
スを“解釈”しているだろうし、かつてロジャー・ペンローズ(4夜)が
仮説したように微細な量子現象によって「意味」を“解読”しているのか
もしれない。ペンローズは麻酔医学のスチュワート・ハメロフと組んで、
脳のマイクロチューブル(MT)がニューロンたちの接続を助け、学習や
理解の推進にかかわっていると見た。マイクロチューブルを構成するタン
パク質が変性するからだという仮説である。 最近はジュリオ・トノー
ニの『意識の統合情報理論』に出てくる「Φ」(ファイ)が注目されて、
脳の情報活動の活性度のようなものを確率的に計算できるのではないかと
も言われている。トノーニの仮説についてはそのうち千夜千冊するつもり
だ。 しかし、こういうことはいまのところ確証できていない。ぼくの父
は胆道癌と膵臓癌を併発したとき年齢退行をおこし、最期は3~4歳の言
葉づかいで幼児記憶を放出していたが、こんな「脳の奥の出来事」がどの
ようにおこっているのかは、ほとんど見当がついていないのだ。が、それ
はそれとして、脳とコンピュータに共通する「計算」のプロセスやパター
ンに注目することは、脳科学にとってもコンピュータ科学にとってもなん
らかの共通有効性をもつだろうことは、それでも成立する。そしてそこに
自動的自己学習をする人工知能という「ありかた」が生まれてくることも
、ありうる。コンピュータがそういうことを成立させるだけのべらぼうな
器量をもってきたからだ。 こうして人工知能という研究と開発にも、
いろいろな“器量よし”が出てくるようになった。 その本質を一言で
言いあらわすのは難しいが、スチュワート・ラッセルらの有名な教科書『
エージェント アプローチ 人工知能』(共立出版)の言い方を借りれば
、ずばり「入力によって出力が変わるエージェント」が人工知能なのであ
る。松尾はこの見方にもとづいて、今日の人工知能のレベルを4段階にま
とめた。わかりやすいものになっている。
レベル1「単純な制御プログラム」
エアコン、掃除機、電動シェーバーなどの制御工学あるいは システム工
学が装填されているもの。情報家電製品には「人工知能搭載」と謳ってい
るものが多いが、これらは実際には 人工知能とは言えない。
レベル2「古典的な人工知能」
将棋やチェスのプログラム、お掃除ロボット、パズル対応ソフト、質問対
応ソフト、診断プログラムなど。ふるまいのパターンが多彩なものに対応
した人工知能。知識ベースが入っていることも多い。
レベル3「機械学習ができる人工知識」
検索エンジンに内蔵されたり、ビッグデータをもとに自動的な判断をする
ような人工知能。機械学習のアルゴリズムが使われる。機械学習とはサン
プルとなるデータ群をもとにルールと知識を自分で学習できることをさす。
レベル4「ディープラーニングを採り入れた人工知識」
機械学習をするときのデータをあらわす変数(特徴量)自体を自己学習す
る人工知能。いわゆるディープラーニングできる人工知能。松尾はディー
プラーニングのことを「特徴表現学習」とも名付けている。
本書が言及する人工知能は主としてレベル3とレベル4の機械学習レベル
のことである。(1603夜 『人工知能は人間を超えるか』 松尾豊 − 松岡
正剛の千夜千冊)
人工知能
人類最悪にして最後の発明
この1週間(2016年3月)、ソウルからのニュースで世界は沸き返った。
イ・セドルは唸っていた。セドルだけではない。井山裕太も唸った。井山
は囲碁史上初の6冠を達成した極め付けのチャンピオンである。こんなに
もあっさりとプロの碁打ちが負けるとは思っていなかったのだ。
グーグル傘下ベンチャー企業が開発した「アルファGo」が韓国の囲碁チ
ャンピオンのイ・セドル9段をあっさり連破したのである(#その後、セ
ドルが一矢を報いた。「人類の叡知の歴史を築いた」という感想には、剣ヶ
峯に立たされた人知の悲壮感が漂っていた)。半年前までは人工知能はチ
ェスや将棋には届くが、複雑な囲碁にはまだまだ届かないと言われていた
のだが、グーグルが4億ドルで買収したブレイン集団ディープマインド・
テクノロジーズがやすやすとその壁を突破してみせたのだ。デミス・ハサ
ビス(ディープマインドCEO)は「エキスパートシステムなんかじゃない。
機械学習のディープラーニングが一挙に進んだのだ」と誇った。ディープ
マインドは「AIのアポロ計画」を標榜した集団で、2015年の10月
には欧州囲碁チォンピオンのファン・フイも破っていた。 ディープラー
ニングでは、あらかじめ想定されるできるだけ多くの「問題」と「答え」
とをコンピュータに入れておくのだが、その「解き方」は入力しない。そ
こはコンピュータが自分で考える。それが人工知能なのである。しかも囲
碁にはチェスや将棋のように「ポーン・クイーン」「歩・飛車」といった
駒の特性がない。「キング」「王将」のように守らなくてはならない駒も
ない。すべての戦況と作戦は石のアドレスの相互位置関係から判断する。
「アルファGo」はこれらの難問も約3000万にのぼる既存のプロの棋
譜から判断できるようにした。いまじわじわと人工知能をめぐる一部の研
究が“お化け”をめざそうとしている。一言でいえばAGI(人工汎用知
能 Artificial General Intelligence)に向かっているように見える。
さまざまな知的機能をもつAIなら、すでに家電製品、ケータイ、スマ
ホ、クラウドコンピュータ、産業用ロボット、自動車、お掃除ロボット、
電子ゲーム、将棋ソフト、医療診断装置、遺伝工学解析、環境変化測定、
金融工学、航空制御システム、戦略兵器などに、多寡の大小はあるものの
あれこれ備わっている。世の中の目ぼしいハイテクシステムや製品でAI
がかかわらないもののほうが少ない。 実際にも、AIをもっと賢くも
っと強力にもっと使いやすくしようとしているR&Dは企業や研究所の中
で鋭意驀進中だ。目立つところでいえば、たとえばIBM、サイコープ
、グーグル、DARPA(国防高等研究計画局)、ノヴァメンテ、NAR
S、Cyc、ヌメンタ、セルフアウェア・システムズ、AGIRI、SO
AR、ヴァイカリアス・システムズ、NELL(カーネギーメロン大学)、
Sentience、AIXItlなどは、そうしたAI進化の開発に余
念がない(#正確には認知アーキテクチャの研究開発だよね)。
AIがAGIをめざし、そのAGIがエクサバイトクラス(1エクサバイ
トは10億文字の10億倍)の知識を学習していけば、そのうち科学者たちが
冗談めいて“ビジーチャイルド”と揶揄してやまないASI(人工超知能
Artificial Super Intelligence)に向かうことになる。
原理的にはASIは自分自身の複製をいくらだってつくるだろうから、人
間が電源を抜かないようにいくつもの自身の延命のための選択肢をふやし、
感染力の高いプログラムをいくつも用意したり、外からの介入を利用して
逃げ出せるワーム(#ASIが自己複製して増殖するプログラムをマシン自
身が予定する)をつくったり、自身のソースコードを圧縮して暗号化し、
人間社会のソフトウェアや音声ファイルの中に隠れることもするだろう。
そういうAGIがあれば、そいつは『2001年宇宙の旅』のHAL90
00の二の舞や『ターミネーター』のスカイネットの“暴走”と“失敗”
を回避してしまう(#AIが人間さまの魂胆をすばやく察知するわけだ)。
すでにAGIの機能を部分的にもつシステムは情報軍事戦略の各所に用い
られているという。SCADA(監視制御データ収集システム)、スタッ
クスネット、マルウェア(悪意のあるソフトの蔑称でもある)、デューク
ー、フレームなどと名付けられている戦略的電子送電網がそうなっている。
他方、各国のインテリジェント(諜報)機能システム、正体不明のハッカ
ー集団の未公開システムなども、すでにどこかがAGIめいているはずだ。
これがAGIだというものはまだ登場していないけれど、AGIなんて夢
のまた夢だという時期はちょっぴり過ぎたようだ。アダプティヴAIとい
う会社をやっているピーター・ヴォスははっきりと「うちの会社はAGI
をめざしているんだ」と言っているし、ペイパル社を創業したピーター・
ティールはAIに専念する3つのステルス企業にけっこうな投資をしてい
ると聞いた。一番あやしいのはどう見てもグーグルだが、『エージェント
アプローチ 人工知能』(共立出版)の共同著者で、グーグルの研究責任
者でもあるピーター・ノーヴィグは「わが社はAGIなんてやっていない
よ」と話題をそらし、広報担当のジェイソン・フリーデンフェルズも「A
GIは想像上の思考マシンであって、われわれはあくまでパターンマッチ
ングのための統計的モデルを研究しているにすぎない」と言っているのだ
が、さあ、どうか。 そもそも共同創業者のラリー・ペイジが「究極のサ
ーチエンジンをつくるのが目標だ」と断言してきたのだし、いまや話題の
グーグルX(#AI専門のセバスティアン・スランが立ち上げた自律走行自
動車の開発主体)はあきらかにステルス企業のはずなのである。スタンフ
ォードの人工知能研究所の元所長アンドリュー・ン(ロボット工学者)
も加わっている。 おそらくグーグルは2012年にレイ・カーツワイ
ルを技術役員に迎え、ディープラーニングの第一人者ジェフリー・ヒント
ン(トロント大学教授)が立ち上げたDNNリサーチを買収したあたりか
ら、AGIまっしぐらになっていると思われる。「アルファGo」のディ
ープマインド・テクノロジーズ社の買収など、そのごくごく一部の計画だ
ろう。
元DARPA長官のレジーナ・ドゥーガンもいっとき招聘雇用されてい
たと聞くし、とくに社員が数十人ほどのディープマインド・テクノロジー
ズをフェイスブックと競り勝って4億ドル(約420億円)で落としたのは、
その魂胆が奈辺にあるかをあからさまにした。はたして人工知能がこんな
ふうに熟達していっていいものか。人間は有能な機械に支配されるのではな
いか。そのうちどこかの国が“AGI不拡散条約”(!)なんてものを呼
びかけることになるのではないか。そんな心配や懸念を科学者や技術者が
あちこちで表明するようにもなった。先頭を切ったのは不可知論者のステ
ィーヴン・ホーキング(192夜)やスチュワート・ラッセル(コンピュ
ータ科学者)、ノーベル物理学者のフランク・ウィルチェック、破竹のベ
ンチャー起業家イーロン・マスクたちである。ついでオックスフォードの
倫理学者ニック・ボストロム、生命未来研究所の所長マックス・テグマー
クらが、人工知能のAGI化に「待った」をかけた。
人工知能が仕事を奪うというつまらない議論もやかましい。経済学者のタ
イラー・コーエンは「AIによってホワイトカラーの仕事がかなり失われ
るだろう」と危惧し、リサーチ屋のデロイト社はイギリスの仕事のうちの
35パーセントが20年のうちにロボットに置換されると予想した。
最近はビル・ゲイツ(888夜)もAGI反対派に入る表明をしたが、こ
れはグーグルへのやっかみ半分なので、どこまで本気なのかはわからない。
AIの危険性を研究する機関もいくつかできた。バークレーの機械知能研
究所(MIRI)はそのひとつで、所長のマイケル・ヴァッサーは年に一
度の「シンギュラリティ・サミット」を主宰する。 ヴァッサーはMB
Aを取得し、オンライン音楽のライセンスで一儲けして(サー・グルーヴ
ィー社)、さてどうするかというとき、2003年にエリエゼル・ユドカ
ウスキーに会った。ユドカウスキーはAIボックスの実験をしていた。A
Iがどこで人間の認知を裏切るのかをテストする装置だ。そのヴァッサー
とユドカウスキーに、さらに応用合理性センター(CFAR)が加わった。
いまやAIをどう監視するのかという時代に同時突入しているのである。
(1602夜 『人工知能』 ジェイムズ・バラット − 松岡正剛の千夜千冊
2016.03.16))