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持続可能戦略電子デバイス製造論 ⑤

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彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと伝えら
れる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。(戦国時代の軍団編成
の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編のこと)の兜(かぶと)を合体さ
せて生まれたキャラクタ「ひこにゃん」。  
図1 メタマテリアル電極を装着した(A)メタマテリアル熱電素子と、カーボンブラック膜を塗布した電極を装着した(C)カーボンブラック熱電素子の模式図。(B)メタマテリアル表面と(D)カーボンブラック表面の電子顕微鏡図。
均一な熱輻射環境の   メタマテリアルは    熱電発電を最も高効率に駆動できる吸収体である理化学研究所(理研)と東京農工大学は,均一な熱輻射環境下における熱電発電において,極薄の構造でありながら高い熱輻射吸収特性を示すメタマテリアルが,最も効果的に熱電発電を駆動させることを実験的に明らかにした。車やパソコンなどの電子機器,道路や建物表層などに滞留する熱エネルギーなど
未利用熱は,日本が輸入した石油や天然ガスなどの一次エネルギーの約6割を占
め,本来のエネルギーの4割しか有効的に活用できていないことになる。そこで
熱を電気に変換する熱電変換素子が,この未利用熱の再利用に期待されているが,
その原理は,熱電変換素子内の温度勾配が電圧に変換されるゼーベック効果に基
づいているため,熱電変換素子内の温度勾配が消失してしまう,温水中や道路表
層などの均一な熱輻射環境では機能しないという課題があった。一方メタマテリアルは周囲環境の熱輻射をより大きな光吸収率と吸収断面積で吸
収・濃縮してそれを熱電変換素子に与えるため,均一な熱輻射環境においても熱
電発電を駆動することができる。今回,研究グループは,メタマテリアル(構造
厚さ0.31μm)の比較として広帯域吸収体であるカーボンブラック膜(構造厚さ
60μm)を熱電変換素子に適用し,それぞれの発電特性を評価。その結果,メタマテリアルは,広帯域吸収特性を示すカーボンブラックよりも低
い熱輻射吸収特性を示すにも関わらず,メタマテリアル熱電素子はカーボンブラッ
ク熱電素子よりも高い熱電特性を示した。これは,メタマテリアルに吸収された
熱輻射エネルギーが,メタマテリアルの薄い構造により効率的に熱電変換素子に
伝搬したことを示唆している。 すなわち,熱電変換システム全体で考えると,単に光吸収率の高低だけでなく,
吸収で得られた熱を効率良く熱電素子に伝導させる能力も重要であり,そのため
にはより薄い構造で高い光吸収効率を実現することが鍵となる。実際,メタマテ
リアルのように入射波長よりも1/10程度薄いにも関わらず高効率に光を吸収する
材料は自然界には存在せず,極めて薄い構造と,高い熱輻射吸収特性という2つ
の要求を同時に満たすことができるのは人工材料であるメタマテリアルのみ。こ
のように,今回の研究によって均一な熱輻射環境における熱電発電を高効率に駆
動するためには,メタマテリアル特有の性質が不可欠であることが確認された。
【展望】
極めて薄い構造と高い熱輻射吸収特性を両立するメタマテリアルの特性は、熱電
変換デバイスのみならず、他の光電子デバイスの高効率化においても活用できる
と期待でき、また今回得られた知見は、さらに高い発電特性を示すメタマテリア
ル熱電デバイスの設計指針につながると期待されている。メタマテリアル熱電変
換は既存の熱電デバイスが発電できない均一な熱輻射環境における熱電発電を可
能にするデバイスであることから、この成果は環境発電分野において直接的に活
用でき、その効果は、将来的の脱炭素社会の実現に寄与すると期待されている。
※論文タイトル:Metasurface absorber enhanced thermoelectric conversion
URL:https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/nanoph-2023-0653/html
※メタマテリアルとは,電磁波(光)の波長よりも細かな構造体を利用して,物 
 質の電磁気学(光)的な特性を人工的に操作した疑似物質

 

✺          高熱起電力の分子熱電変換デバイス
2月13日、名古屋大学と韓国高麗大学は,分子素子としては最高の熱起電力を持つ
熱電変換デバイスを新たに開発。ゼーベック効果を利用した熱電変換素子の毒性や資源の希少性の問題を解決する
分子熱電素子として,Ru錯体の可能性が示唆されていたが,長く大きな分子を電
極間に挟むことが難しく検証されていなかった。今回研究グループは,安定な自己組織化膜を電極で挟み,温度差をかけることで
実験的に熱起電力を測定した。測定された熱起電力は分子鎖長に比例して増加し,
Ru錯体の5量体に相当する10nmの長さで1mV/Kを超えた。第一原理伝導計算により,分子軌道がフェルミ準位近くに位置し,さらに分子と
電極の波動関数の混成が小さいことで高い熱起電力が得られていることを明らか
にした。Ru錯体分子ワイヤーに代表される,分子鎖長が増大しても電気伝導度の減衰が緩
やかな分子の電気伝導機構は,電子が散乱を受けずに伝導するトンネル伝導なの
か,分子振動を伴って伝導するホッピング伝導なのか議論になっていたが,実験
でトンネル伝導によって伝導していると考えられた。さらに詳細な伝導機構の解明のため,電流によってどのような分子振動が励起さ
れるかの指標を光量子アルゴリズムによって計算した。ホッピング電流が流れる
際,今回は熱起電力が正であることからホール伝導であるため,分子は非常に短
い時間,電子が1つ抜けた状態になり,再び電子が入ってきて安定な状態に戻ると
いう過程を繰り返す。電子状態によって安定な構造は異なるため,電子の状態変化前後で変わる分子振
動の重なりの大きさはフランクコンドン因子と呼ばれ,この因子が大きいほど分
子振動が励起されやすい。このフランクコンドン因子を,光量子コンピュータ上
で動作するガウシアンボソンサンプリングによって計算した。電子状態の変化に
伴う分子振動の変化を干渉などの光子への操作へ置き換えることで,そこを通過
する光子が確率的に,実際の振動遷移に伴うエネルギーに出力されやすくなる。将来的に電流―電圧曲線の2階微分が高精度で測定された際,フランクコンドン因
子の大きな振動モードと一致するエネルギーにピークが現れると考えられる。【成果/展望】ガウシアンボソンサンプリングは光量子コンピュータによって古典計算機よりも
高速に実行できるとされ,計算量が大きくなるにつれて光量子コンピュータの優
位性が増すと期待される。研究グループは,熱起電力の測定が伝導機構の決定に
重要な役割を果たすことが示されたほか,複雑な電気伝導機構の解明に光量子コ
ンピュータを応用できる可能性の一端を示すことができたとしている。

6G通信向け周波数チューナブルフィルタ開発
2月19日、東北大学の研究グループは,シリコン製のサブ波長格子で構成される機
械式の屈折率可変メタマテリアルを新たに開発し,ファブリペロー共振器内の屈
折率を制御することにより,狙った周波数域の電波を通過させる周波数チューナ
ブルフィルタを開発。
【要点】
1.次世代の第6世代移動通信システム(6G)(注1)通信帯で利用できる周波数
のチューナブルフィルタ(注2)を開発。
2.シリコン製の機械式屈折率可変メタマテリアル(注3)をファブリペロー共
振器内に搭載することで優れた光学特性(高透過率)と機械特性(機械的信頼性)
を兼ね備えている。
3.6Gをはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分
野での応用が期待されます。
【概要】
 国内では2020 年3 月に第5 世代(5G)移動通信システムによる商用サービスが
始まる。一方、米国、韓国、欧州、中国、日本を中心に2030 年代の実用化を目指
して5Gの次の世代「6G」を見据えた研究開発が始まり、テラヘルツ波が使用され
ることが明示されている。6G では0.3THz 近傍の周波数帯の電波が用いられるこ
とが想定されており、ノイズとなる不要な周波数の電波を除去し、必要な周波数
の電波を選択的に通過させる周波数チューナブルフィルタが必要となる。ファブ
リペロー共振器は、2 枚の高反射ミラーで構成される、よく知られた周波数選択
性フィルタです。ファブリペロー共振器を通過する透過波は、共振周波数で最大
強度になり、共振周波数から離れると急激に減衰。また、ファブリペロー共振器
で従来採用されてきた周波数の動的制御法である、2 枚のミラー間の距離を調整
する方式や、共振器内に液晶を充填する方式では、ノイズ除去性能が低いことや
電波の減衰という課題があった。
研究グループは,機械式の屈折率可変メタマテリアルをファブリペロー共振器内
に搭載した周波数チューナブルフィルタを実現し,6Gに向けた新たなチューナブ
ル・テラヘルツ波制御技術の開発に成功した。この周波数チューナブルフィルタ
は,シリコン製の機械式屈折率可変メタマテリアルを2枚のシリコンミラーで構成
されるファブリペロー共振器内に搭載している。どちらも高抵抗シリコンで構成
され,制御対象とする周波数0.3THz近傍の電波吸収損失はほぼ無く,高いピーク
透過率を実現する。周波数チューナブルフィルタに入射した電波は,不要な周波数の電波が除去され
て,必要な周波数の電波のみ透過する。伸縮機構を備えた機械式屈折率可変メタ
マテリアルを機械的に変形させることで透過周波数をチューニングする。機械式
屈折率可変メタマテリアルは,バネにより自己支持されたサブ波長格子構造が固
定端と可動端に連結されており,可動端を動かすことでサブ波長格子の周期を変
えることができる。サブ波長格子の周期が変わると機械式屈折率可変メタマテリアルの屈折率が変化
する。ファブリペロー共振器の透過スペクトルは,機械式屈折率可変メタマテリ
アルの屈折率変化に応じてシフトするので,ファブリペロー共振器内の屈折率を
人工的に精密制御して狙った周波数の電波を透過させることができる。製作した
サブ波長格子構造のサブ波長格子はシリコンで構成され,空隙は空気で満たされ
ており,周期を100μmから150μmまで可変させることができた。周期制御による
屈折率と周波数のチューニング特性は,100~150μmの周期変化に応じて,メタ
マテリアルの屈折率を1.50~2.08の範囲で変えることができ,ピーク周波数を0
.303~0.320THzの範囲で制御できることが示された。また,周波数0.303THz付
近で,従来技術よりも高いピーク透過率87%が得られた。
【展望】シリコン半導体微細加工技術を用いて作られるため小型・量産性に優れるという
利点を活かし、将来は電子回路や半導体と組み合わせてテラヘルツ波の高度な制
御が実現できると考えられます。6Gの通信技術をはじめ、テラヘルツ波を利用し
たスキャニングやイメージングへの応用展開が期待でき、医療・バイオ・農業・
食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での活用が期待される。


【論文情報】
タイトル:Tunable Fabry–Perot interferometer operated in the terahertz range based on 
an effective refractive index control using pitch-variable subwavelength gratings
著者: Ying Huang, Yangxun Liu, Taiyu Okatani, Naoki Inomata, and Yoshiaki Kanamori
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 金森義明
掲載誌:Optics Letters Vol. 49, Issue 4, pp. 951-954 (2024)
DOI: 10.1364/OL.515504
URL: https://doi.org/10.1364/OL.515504
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OLEDマイクロディスプレーで大河内記念生産賞
ソニーセミコンダクタソリューションズら
一般的に、ミラーレスカメラは、EVFを通して撮影画像をリアルタイムで確認で
きることが特長。今回受賞の対象となった当社のOLEDマイクロディスプレイは、
オンチップカラーフィルターやオンチップレンズ、輝度バラつき補正画素回路な
どの独自技術により、EVFの高輝度、高精細、広色域、高速応答を実現。これに
より、プロフェッショナル用途も含めたミラーレスカメラの普及拡大を促進した。
今後大きな市場が期待されるAR/VR/MR向けヘッドマウントディスプレイにも貢献。
(2月16日ソニーセミコンダクタソリューションズグループ)
※大河内賞は、故大河内正敏博士の功績を記念して設けられ、わが国の生産工学、
生産技術の研究開発、および高度生産方式の実施などに関する顕著な功績を表彰
する権威ある賞。  
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図2.a. 実験光学系 b. スペックルパターン c. 従来の脳外科内視鏡と本手法
による内視鏡の比較 d1.計測に用いた試料 d2.脳外科内視鏡による画像 d3. 本
方法で得られた画像

今月16日,大阪大学,埼玉医科大学,宇都宮大学は,直径0.1mmという髪の毛の太
さほどの光ファイバー1本からなるレンズレス内視鏡を開発。 これまでの細径な 
内視鏡は,1mm角ほどの小型CMOSカメラを用いたものや,直径400nmの光ファイバ 
ーを5,000本束ねた直径数mmの内視鏡が臨床にも使用されてきた。しかし,これ 
らはいずれも結像するためのレンズが必要。このレンズの大きさが内視鏡の極細 
径化を阻んでいた。レンズレス・シングルファイバー・ゴーストイメージングは, 
単一の光ファイバーで光拡散場の中にある物体をイメージングするためにゴース 
トイメージングと呼ばれるイメージング技術を用いる。 ゴーストイメージング法 
は,あらかじめ座標が登録された光(スペックルパターン)と,その光が物体を 
照らした散乱光の信号強度の相関関係から測定対象物体をイメージングする。 研究グループは,光学系を作製し,すりガラス状の拡散板を回転させることで
レーザーのスペックルパターンを制御した。3万枚のスペックルパターンをCMOS 
カメラで事前に記録し,同じスペックルパターンを測定対象に照射した。測定対 
象の散乱光は,光ファイバーを介して記録する。
従来の光ファイバーバンドル内視鏡と比較すると,今回開発した内視鏡は極めて
細く,従来の内視鏡と比較してもエッジが鮮明になっている。このように光フ
ァイバー先端から10mmの位置にある測定対象を1本の光ファイバー(光ファイバ  
ーの全長2m)でイメージングすることに成功した。また,光ファイバーと測定対
象の間に光散乱場の一つとして拡散板を入れて実験を行なった。測定対象は一辺
が1mm角の正方形とした。拡散板がない場合,脳外科内視鏡の分解能が低いため
像はぼやける。 一方で,今回の方法を用いると測定対象の拡散光との相関関係から画像化するこ
とができるので,測定対象をうまく復元することができた。このように血液によ
る光散乱場においても堅牢なイメージングが可能になることを,シングルファイ
バーイメージングで初めて実証することができた。 使用する光源の波長や偏光,波面といった光の性質を精密に制御することで,測 
定対象の吸光度や異方性,形状なども取得できるという。研究グループは,極細 
径の光ファイバーからなるレンズレス内視鏡の実現により,患者の生体深部の病 
態の直接観察が可能になるとしている。  

● 今夜の寸評 : 鈍すれば貧する
             賢明でなければ豊かになれない。



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