魅力とは、はっきりした返事を求めなかったのに、イエスの返事を得る方法である。
アルベール・カミュ
Charm is a way of getting the answer
“Yes” without having asked for clear answer.
● 自分を"かくまう"罪
墨子に師事する青年がいた。その青年が墨子に向かって、
「鬼神はたしかに存在し、人の行為を判断して禍福をくだす。行ないの正しい者には福を与え、正し
くない者には、わざわいをもたらす、というのが先生の持論です。
ところで、このわたしは長い囲先生に師事していますが、いっこうにうだつがあがりません。先生
のおっしゃることがまちがっているのか、それとも鬼神には禍福をくだす力などないのか、二つにひ
とつであると思います。うだつのあがらないわけを教えてください」
「わたしがまちがっているのでもなければ、鬼神に禍福をくだす力がないのでもない。
おまえは、罪人をかくまうと、罰せられることを知っているか」
「いいえ、知りません」
「ここにおまえより十倍もすぐれた人がいるとする。おまえは、その人にくらべて自分がその十分の
一の価値しかないことを認めるかね」
「それは、むりです」
「おまえより百倍もすぐれた人がいれば、全面的にその人の実力を認めて、自分を無にすることがで
きるかね」
「とても、むりですに
「人をひとりかくまうだけでも罪になる。ところがおまえは、こんなにたくさんのものをかくまって
いる。こういう罪を犯していれば、幸運がめぐってこないのは、当然ではないかに
本の整理野中には洋書も少しあり、たまたまヒラリークリントンの06年に購入した『ヒラリー・ロダム・
クリントン自伝』を拾いあげ処分しようかと迷う。この本もご多分にもれず積んどくだけであったが翻訳
することに決め焚書を免れる。和書は漢字をコード認識し読み飛ばせて日本語は楽だが、英文はそれがな
く、それでなくても慢性的な眼精疲労に悩まされているのにと、変なところで頑張ってしまう"旋毛癖"が
働いた。次期大統領候補として有力視されている彼女だが、共和党などの政敵を融和・懐柔・打開をする
手腕が乏しいとか、戦争屋ロックフェラー(デイヴィッド)の影響が大きく、彼女が就任すれば戦争が起
きる――最近の中東情勢を見る限り誰が大統領になろうとその可能性は大木だろうが――とかの情報が飛
び交う魑魅魍魎の世界もあってなかなか面白いが、これも眼精疲労を助長する。
さて、彼女は47年イリノイ州シカゴ郊外で、織物工場を経営する父と専業主婦の母の間に生まれる。名
門女子大ウェルズリー・カレッジを卒業後、イエール大学ロースクールを修了。その後、弁護士として子
供、女性、社会的弱者の権利擁護に力をそそぎ、ニクソン大統領弾劾の司法委員会にも参加。75年イエ
ール大学時代に知り合ったビル・クリントンと結婚し、アーカンソー州に移住。司法長官の妻、州知事夫
人をへて93年大統領夫人に。医療保険改革や女性の地位向上のために尽力し、新しいファーストレディ
像を築きあげた。99年ニューヨーク州から上院議員選に出馬し、翌2000年当選を果たす。現在、アメ
リカ大統領の椅子にもっとも近い女性として、全世界の注目を集めるが新鮮味がないとかで離反する支持者
も出ている。本書せは、「彼女自らが、子供時代、夫ビル・クリントンとの結婚生活、ホワイトハウスの内幕、上院選
の勝利に至るまでを綴った感動のメモワールである。母として、妻として、政治家として、全世界がもっとも注目する
女性が、21世紀という困難な時代に生きるすべての人に贈る“人生賛歌”」と紹介されたりしている。
また、読売新聞特別編集委員の橋本五郎(五郎丸ではない)は、「ホワイトハウスは全米刑務所の中で最
も光り輝く刑務所である」。アメリカ第33代大統領、ハリー・トルーマンの至言である。ヒラリー自伝
は、大統領だけでなく、その夫人にとっても時に牢獄と化す“刑務所”を根拠地にして戦う女性の記録で
もある。既成の観念や陋習(ろうしゅう)と戦いながら、立ち止まることなく前進しようとする張り詰め
た姿が全編にみなぎり、読むものに畏怖の念さえ呼び起こす。大統領夫人とは「立場」ではあるが「仕事
」ではない。この立場を使ってどう夫を助け、自身の声を失わずに国家に奉仕できるか。そう考える彼女
は、女性の地位の向上を求め、子供の人権を守り、医療保険改革に取り組んだ。そして、どんな時でも自
分自身であろうとした。幾多の試練が待つ彼女の支えとなったのは、歴代ファーストレディーだ。穏やか
で毅然としたエレノア・ルーズベルトの写真を眺めていると、エレノアの言葉がよみがえる。「女性はテ
ィーバッグみたいなもの。熱湯に入れられるまで、その強さにだれも気づかない」「政治の世界に身を置
く女性たるもの、サイのように皮を厚くしなくてはならない」。ヒラリーはこれらの言葉を呪文のように
唱えて危機を乗り切るのだった。皮を厚くしすぎて温かみのない人間になることを恐れながら。その彼女
にとって最大の危機は、夫がモニカ・ルウィンスキーとの「不適切な関係」について自分を欺いたことだ
った。とめどない怒りに我を忘れた。「妻としてはビルを絞め殺してやりたかったが、彼はわたしが支援
したいと思うようなアメリカと世界の指導者だった」ことで踏みとどまる。そのもがき苦しむ様が赤裸々
に綴られていると評価しているほどだが、米国初の女性大統領が誕生するなんて素敵ではないかと、ミー
ハーなことしか言葉として浮かばない。
今夜は技術の話題を3つ4つ拾ってみる。
● 世界初 スーパーグロース・カーボンナノチューブの量産工場が稼働
産業技術総合研究所が開発したスーパーグロース(SG)法を用いたカーボンナノチューブ(CNT)の世界初
の量産工場を日本ゼオン(株)が完成させ稼働を開始(2015.11.04)。SG法は高速・大量合成――従来の
CNT合成法と比較して、数百倍の成長効率を示すとともに、合成したSGCNTは基板から容易に分離できるた
め、品質を損なうことなく炭素純度99%以上の純度でSGCNTを簡便に回収することができることから、触媒
使用量および製造コストの大幅な削減――が可能であり、SG法で得られるCNTは、従来と比較して、高アス
ペクト比、高純度、大表面積といった特長を有し、従来にない機能や特徴を持つ新機能性材料、次世代デ
バイス等への応用が期待される材料です。高性能キャパシタ、高機能ゴム材料、高熱導電材料等の革新的
材料やデバイスへ応用できることから、その需要拡大が見込まれます。
これは、大きな『マテリアル革命』になる。現在の電気配線、銅を中心しているが、他の天然・プラスチ
ック繊維樹脂とのコンビネイションで銅より強くて軽量で優れた導電率をもつ配線材料となるばかりでな
く、薄くて軽い大容量のキャパシタ型蓄電器やフローリング材とコラボすることで薄くて軽いヒートシー
トにもでき、道路の融雪舗装、あるいは、薄くて丈夫な大面積の熱電素子として世界展開できる商品にと
なる。これは大変愉快だ。
シャープが開発した「採光フィルム」で、窓に設置することで太陽光などの外光を効率良く取り込め、同
社が実施した実証実験で、この採光フィルムを導入し年間4割以上の照明電力の削減効果を確認。それに
よると、同社が開発したオフィスビルなどの照明用電力の削減に貢献する「採光フィルム」。同社は同フ
ィルムの節電・省エネ効果を実証するため、研究所の実験室に採光フィルムを設置し、1年間(15年9
月1日~8月31日)にわたり室内の照度測定を行った。その結果、室内照明の消費電力量が年間で約4
割の削減につながったという。これは、液晶ディスプレイの開発で培った光学制御技術を応用。太陽の年
周/日周運動を考慮した光学設計に基づく独自の技術を採用している。表面に微細加工を施すことでフィ
ルムの片側よりさまざまな角度から入射する光を、反対側から一定の角度で出すことを可能にしている。
このフィルムをガラスに張り付けるなどし、窓の上部に設置することで、季節や時間帯に応じて変化する
入射角度にかかわらず、太陽光を効率的に天井方向に取り込み、不快なグレア(まぶしさ)を抑えながら
室内全体を明るくすることができるのが特徴。シャープでは採光フィルムをサッシに納めた「自然採光シ
ステム」として製品化し、オフィスビルをはじめ、学校、病院、コンビニなどをターゲットに展開してい
く方針。
● ビームスプリット式ペロブスカイト色素増感太陽電池で変換効率21.5%達成
東京大学の瀬川研究会のグループは 、ダイクロイックミラーを用いた(通常のハーフミラーではない、波
長スプリット:上図/左上)ペロブスカイトと色素増感太陽電池のタンデムセルで効率 21.5% を実現。
手段を問わなければハイブリッド(有機)系太陽電池だけでもここまで達成ことを実証。使用した色素は
新開発の Ru系 DX3。
太陽電池の変換効率を上げるには、光吸収には近赤外領域はかかせない。エネルギー変換効率を高めるこ
とが重要。太陽電池ペロブスカイト鉛ハロゲン化物の進歩が顕著で20%以上の高い変換効率が達成され
ているが、長波長サイドの吸収限界は~800ナノメートル。さらに、ペロブスカイト型太陽電池の変換
効率を向上させるには、近赤外太陽電池とハイブリット色素が有用。ここでは、近赤外に幅広い応答を示
すパンクロマチック増感剤(=DX3:~1100ナノメートル)で、AM1.5で30ミリアンペア/平方
センチを超える光電流密度をえる。可視光吸収するペロブスカイトセルとともにDX3系色素増感型太陽電
池を使用し、ハイブリット色素増感太陽電池は、スペクトル分離し21.5%の高変換効率を達成した。
※ AM(エアマス)1.5とはエアマスの頭文字で、太陽が地表に到達するまでに通過する大気の量を表す。
地表面に垂直入射で届く場合をAM1とし、AM1.5とは、垂直入射に対して大気を通過する距離が1.5
倍であることを示し、日本も含め世界中でAM1.5を基準としている。
● 米国で進むコミュニティー・チョイス・アグリゲーション(CCA)制度
コミュニティー・チョイス・アグリゲーション(Community Choice Aggregation: CCA;自治体選択集約制
度)は、地方自治体などが住民、ビジネス、さらに公共施設用の電力需要をまとめて購入できることを規
定したもので、02年に成立。この法律により、地方自治体は、自ら電力を発電、または発電事業者から
電力を調達する、コミュニティーが自由に選択できる公共事業形態の一つ。米カリフォルニア州では2000
年~01年に発生した電力危機が原因で小売全面自由化が保留になった。民間電力会社の地域独占が継続
され、家庭用電力消費者は電力購入の「チョイス(選択)」の機会を失うが、同州北部マリーン郡とその
周辺の消費者は、電力の購入先を大手電力会社から地方自治体に乗り換え、太陽光発電などの再生可能エ
ネルギーを選択、乗り換えで、今年は1,060万ドル(約12.6億円)の電気料金と、6万トン以上の温室効果
ガス削減を見込まれるほどになる。
「再エネ比率56%」でも料金は割安
NPO 法人マリーン・クリーン・エネルギー(Marin Clean Energy: MCE)の電力プランを選択した需要家は、
従来と変わらず PG&E から請求書を受け取るようになっている。ちなみに、電気代の内訳は、MCEにより
調達・供給される電気の料金、PG&E (パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー)からの送配電料と
その他の料金になっている。本来、MCE とPG&E は、小売り販売先獲得で競争相手になるわけだが、CCA
の仕組み上、MCE が発電、PG&E が送配電と顧客サービスを行う、パートナーシップというユニークな形
にもなる。
カリフォルニア州は当時、「再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(Renewable Portfolio Standard:RPS
)」により、20年までに州内の電力販売量の33%を再生可能エネルギーで賄うという目標を制度化し
ていた(現在は30年までに50%に引き上げられた)。RPS遵守義務のあるPG&Eを含む民間電力会社は、
電力販売量の約20%は再生可能エネルギーで満たしていたものの、MCEはさらに多くの再生可能エネルギー
を調達できている。MCEは、現在3つのプランをコミュニティーメンバーに提供する(下図)。(1)「ラ
イトグリーン」は再生可能エネルギーの占める比率が56%、(2)「ディープグリーン」は百%再生可能エ
ネルギー、そして、(3)「ローカルソル」は100%地元の太陽光発電の電力からなる。
PG&Eの電力プランは、現在、再生可能エネルギー比率が27%であり、月平均の家庭用電気料金は111.26
ドルである。これに対し、MCE の「ライトグリーン」は再エネ比率が2倍の56%に高まるうえに、月々
の電気料金はわずか1.58ドルだがPG&Eより安い、109.68ドルとなっている(下図)。一方、PG&Eと比べ、再
エネの比率が約4倍(再エネ百%)の「ディープグリーン」と、「ローカルソル」では、PG&E より割高に
なっている。月平均の割高額(プレミアム)は、「ディープグリーン」ではわずか3.5ドルだが、「ローカ
ルソル」では28.89ドルとなっている。
「自動乗り換え」で顧客を獲得
マリーン郡のコミュニティーのために立ち上がったMCEだが、現在は近辺の地方自治体も参加し、顧客ベー
スを広げている。今年はワインで有名なナパバレーのあるナパ郡の他に4市が新しくMCEに加入した。家庭
用顧客が総数の約60%、ビジネス用の顧客が約20%を占めるが、電力需要量では家庭用とビジネス用顧
客は約半々となる。このプログラムで驚くべき特徴は、コミュニティーのメンバーの80%以上が従来の地域
独占の民間電力会社からMCEに乗り換えた。この高い乗り換え率の背景には、CCAを優遇する仕組みが法律
設けられている。それは、CCAに限り、MCEなどのCCA プロバイダーが自動的にディフォルト(初期状態
)に設定――普通だったら PG&E のような地域独占電力会社からMCEへの乗り換え手続きが必要になるが、
CCA のプログラム開始と同時にコミュニティーの顧客は自動的にCCA に乗り替わるようになっている。
発電料金の単価は、再エネ百%でも大手電力より安い
CCAは、地域で発電した再生可能エネルギーをコミュニティーで消費するという「地産地消」モデルを目標
にしている。MCEは、再生可能エネルギー比率56%の電気を地域独占の大手電力会社(ここではPG&E)
に比べて安い価格で提供している。再エネ56%のプランは「ライトグリーン」と呼ばれ、発電料金は8.2
セント/kWh。「ディープグリーン」と呼ばれる再エネ百%プランの発電料金は「ライトグリーン」に1セン
トを上乗せした9.2セント/kWhで提供する。これらの発電料金は、PG&Eの再エネ比率27%(9.745セント
/kWh)より低価格になっている。
地方自治体が、大手電力会社より再エネ比率が高いのに低価格で提供できるのか?
特定非営利活動法人なので、株主に支払う報酬がなく、大手電力会社は株主に12%の投資リターンを保証
しなくてはならない。そうしたリターンを求められることがなく、運営は効率的で、無駄がないので、あま
り経費もかからく、電気調達で迅速に決断する。プロジェクトディペロッパー、銀行、投資家が無駄に時間
を費やさずに済み、結果的に経費が低く保て、最近では再生可能エネルギーを含む電気の発電コストが大幅
に下がるので、競争的価格で調達できる。MCEの顧客は小売会社とし発電コストを払い、送電網を運営する
PG&Eに送電コストを支払う。送電コストは電力をMCEまたはPG&Eから購入しても同じ単価の12.164セン
ト/kWhになっている。
FIT活用し、顧客の住む地域での再エネ開発を強化
MCEのCCAプログラムはエコな電力を低価格で販売するだけではなく、再エネ固定価格買取制度(FIT)、
太陽光発電の余剰電力買い取り、省エネプログラムも手掛けている。これらの施策は、コミュニティー内で
雇用を生み出し、環境を保護し、地域を支える効果がある。「ディープグリーン」の収入の一部がこれらの
プログラムの資金にあてられる。運営当初、「グリーンな電力」と「低価格」でPG&Eと差別化するため、
比較的低コストな州外の風力、バイオマス、水力発電所などから電力を調達してきた。だが、「ローカル」
を強調すべく、現在は州内、さらに顧客が住む地域での再生可能エネルギーの調達と開発に力を入れている。
MCEのFITプログラムは1メガワット未満の再エネ発電設備が対象で、買取期間は20年、買取価格は3つ
の発電電源タイプとプログラム全体の認定発電容量で決まる。つまり、買取価格が年度ごとに決まるのでは
なく、発電設備の出力規模を基準にした変動方式で、具体的には、認定容量が2メガワット増えるごとに、
買取価格が低減する仕組みになる(下図)。
3つの電源タイプは(1)ピークエネルギー、(2)ベースロードエネルギー、(3)断続的エネルギーにな
っている。ピークエネルギーの定義は、一日における発電総量の90%が午前66から午後10時の間に発電、
送電されるエネルギー。太陽光発電や太陽熱などのこの定義にはまる。ベースロードエネルギーは、バイオ
マス、バイオガス(廃棄物)、燃料電池など通常運営時の設備利用率が75%を超えるエネルギー。断続的
エネルギーはピークとベースロードエネルギーに当てはまらないエネルギーとして、風力が挙げられている。
例えば、認定容量が2メガワット以内では、太陽光発電のようなピーク時に電力を供給する電力の買取価格
137.66ドル/MWh(13.77セント/kWh)。総設置認定量が12メガワットに達すると買取価格が90ドル/MWh
(9セント/kWh)になる。
先月末、MCEは新しいサービス内容を発表した。それは25年までに「ライトグリーン」の再生可能エネル
ギーの比率を現在の56%から80%まで上げることだ。今年は99メガワットの風力と、州内に建設され
た20メガワットと23メガワットのメガソーラー(大規模太陽光発電所)からの調達も始まった。さらに
現在同州のサンフランシスコ、ベイエリア(サンフランシスコ湾の湾岸地域)で2番目に大きい10.5メガ
ワットのメガソーラーを現在、建設中。パリで11月30日から開かれる第21回国連気候変動枠組み条約
締約国会議(COP21)に参加する予定という。これは面白い動きだ。