そのときどきの社会総体のヴィジョンをじぶんなりに把握していないと
純文学ですら成り立たない。
Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012
【再エネ百パーセント時代:ナトリウム硫黄で蓄電池もトップランナー】
今年2月25日、電気設備・計装設備・情報通信設備・空調衛生設備・内装設備・土木設備などの
事業を営む総合設備工事会社のきんでんが、大阪市北区の本社ビルに定置型蓄電池と太陽光発電シ
ステムを導入した。出力180キロワット、容量約1メガワット時の日本ガイシ製NAS(ナトリウ
ム硫黄)電池と、出力30キロワットのシャープ製太陽光パネルを屋根上に設置。屋外型中容量の
NAS電池を導入は、国内では初めてのケース。このNAS電池は中小規模ビルに適した新型NAS
電池(出力:180kW)として同社が独自開発した制御システムと連携し、自社で運用すること
により、蓄電池と電力変換装置(PCS)の特性を検証、系統電源の安定化を図り、さまざまな技
術・ノウハウを蓄積し活用していく。また、同社は、新エネルギーに積極的に事業展開。風力発電
設備の建設工事に早くから取り組み、太陽光発電に関しても、工場やビル・庁舎、スタジアムなど
への設置を中心に全国で8百件以上、合計出力1400メガワット以上の納入実績があり、蓄電池
システムを含めた需要家の電源システムをトータルで提案する体制やノウハウの蓄積を目指し、今
後は、設置スペースに限りのあるビル向けに屋内型NAS電池の開発についても、日本ガイシと連携
して製品化していく方針である(新型NAS電池システムを本店ビルで国内初の運用開始蓄電シス
テムの特性を検証しお客さまの電源安定化のため蓄電池の普及を目指す 2016.03.23 きんでん)。
ところで、今年に入り国内でのNAS電池の設置導入事例――(1)世界初の「ハイブリッド蓄電池」
が隠岐に稼働、Liイオン+NAS電池で再エネ導入量を拡大(2016.03.09 日経テクノロジー)(2)
三菱電機、世界最大級の蓄電池システムを受注、30万キロワット時のNAS電池(2015.06.23 日経テ
クノロジー)が相次いでいる。ここで、NAS電池の細動原理・構造・特徴についてお温習いしてみ
よう。
そも、ナトリウム・硫黄電池(なとりうむ・いおうでんち、sodium-sulfur battery)とは、負極にナ
トリウムを、正極に硫黄を、電解質にβ-アルミナを利用した高温作動型二次電池である。NAS電
池(なすでんち)またはNAS(なす)とも呼ばれる。特に大規模の電力貯蔵用に作られ、昼夜の負
荷平準や、風力発電と組み合わせ離島での安定した電力供給などに用いられる。因みにNAS電池は
日本ガイシの登録商標で、日本がここでもトップ・ランナーなのだ。
ナトリウム硫黄電池は、活物質であるナトリウムや硫黄を溶融状態に保ち、β-アルミナ電解質の
イオン伝導性を高めるために高温(約300 - 350 ℃) で運転される。負極の溶融ナトリウムは、β-
アルミナとの界面でNa+に酸化され電解質を通って正極に移動する。正極ではNa+が硫黄によって還
元されて五硫化ナトリウム(Na2S5)となる。電池反応(放電反応)は次の通り。
負 極: 2Na → 2Na+++ 2e-
正 極: 5S+ 2Na+ + 2e- → Na2S5
全反応: 2Na + 5S → Na2S5
放電初期では上記の反応が進行するが、放電が進行して未反応の硫黄がすべて消費されると、Na2S5
は次第に、より高い原子価の硫黄の組成(Na2Sx, X=2~5)の多硫化物に転化していき、やがて二硫化
ナトリウム(Na2S2)となる。ただし、Na2S2は内部抵抗が高く充電特性が悪いため、通常はNa2S2を
生成しない範囲内で作動させる。充電反応は、上記放電反応の逆反応が進行する。
従来の鉛蓄電池に比べて体積・質量が3分の1程度とコンパクトなため、揚水発電と同様の機能を
都市部などの需要地の近辺に設置できる。また出力変動の大きな風力発電・太陽光発電と組み合わ
せ出力を安定化させたり、需要家に設置して、割安な夜間電力の利用とともに、停電時の非常時電
源を兼用できる。また構成材料が資源的に豊富かつ長寿命、自己放電が少ない、充放電の効率も高
い、量産によるコストダウンも期待できる[1]などの長所を併せ持つ(上下表を参照)。
常温では動作しないため、ヒーターによる加熱と放電時の発熱を用いて、作動温度域(300 ℃ 程度
)に温度を維持する必要がある。充放電特性が比較的長い時間率(6~7時間で設計されている。ま
た現状では、一定期間内に満充電リセットの必要がある。火災事故を起こした場合、通常の水系の
消火薬は金属ナトリウムと反応してしまうため使用できない(乾燥砂等を用いる)。このため一般
の消防では火災への即応が難しい。
国内では今までに2件の火災事故が発生。(1)10年2月15日午前7時440分ごろ、日本ガイ
シが製造し、高岳製作所小山工場に設置されたNAS電池で火災が発生、納入品が特別仕様だったた
め、さらなる安全性留意の上NAS電池の生産と販売を続けていた。(2)11年9月21日午前7
時20分ごろ、日本ガイシが製造し、三菱マテリアル筑波製作所に設置された東京電力所有のNAS
電池で2例目となる火災事故が発生。こちらは普及タイプの製品だったため急遽全納入先事業者に
連絡を取り「NAS電池利用の蓄電システムの使用停止」を要請、代替システムを持たない事業者に
は「運転中の厳重監視」付きでの継続使用をやむをえず認めた。第三者による事故調査委員会の火
災原因究明報告と事故対策がまとまるまで、日本ガイシはNAS電池の生産を当分停止する事となる。
12年6月から操業を再開。このように、事故原因は、製造不良の単電池(セル)が溶融し、それ
が隣接する単電池 → モジュール全体 → 隣接するモジュールへと延焼していったことにある。
このように、(1)ナトリウム硫黄電池の解放破壊による事故――「特開2014-090782 電力貯蔵シ
ステム」や、(2)ナトリウム硫黄の回収――「特開2015-230755 ナトリウム-硫黄電池からナト
リウムを回収する方法、ナトリウム-硫黄電池からナトリウムを回収する装置」には、下図のよう
な特許事例などがあり対策強化されてきているが、いまなおいっそうの知財結集が求められるとこ
ろである。
【符号の説明】 10:電力貯蔵システム 12:パッケージ 14:扉 16:架台 18:モジュール
電池 20:吸気ギャラリ 22:排気口 24:断熱箱 26:断熱蓋 28:ヒータパネル 30:
ナトリウム・硫黄電池 32:乾燥砂 40:発煙消火装置 42:噴出管接続口 44:噴出管 45:
エルボ 46:シース熱電対 48,77,78:信号線 50:噴出ヘッド 52:ケーブル 54:
筐体 56:蓋部材 58:噴出管接続口 60:消火剤収納ケース 62:固形消火剤 64,65,
66:支持片 68:点火回路部 70:ヒータ 72:コネクタ 74:プラグ 75:煙道 76:
電源線 80:火炎噴出防止部材 84:封止板 96:マルチプレクサ 98:アンプ 100:トラ
ンジスタ 108:リレー 110,112,114:常開リレー接点 115:プレート収納部
116:断熱プレート 118:切欠 120:消火用エアロゾル
特開2014-090782 電力貯蔵システム
【符号の説明】 10 ナトリウムの回収装置(NaS電池からナトリウムを回収する装置) 11 チャ
ンバ 12 処理液供給部 13 反応液回収部 14 還流処理部 21 ノズル 22 ノズル可動手段
23 処理液タンク 31 制御部 33 加水手段 34 冷却手段 41 処理液 42 反応液
50 NaS電池 55 固体電解質管(ナトリウム収容部) 65 ナトリウム
特開2015-230755 ナトリウム-硫黄電池からナトリウムを回収する方法、ナトリウム-硫黄電池
からナトリウムを回収する装置
このように、きんでんの実証プラントは以下の特徴持つ、これまでの大規模発電・蓄電システムで
はなく中小規模発電・蓄電システムで、再生エネルギー専用と既存系統電源供給との併用システム
の販売・運転保全・サービス事業として展開が期待されるものである。これは面白い。
価を取得 ● 実証設備の利用方法 災害時のBCP電源の確保 災害などで停電した際は、非常用電源として低出力運転を行うことで最大72
時間の電力供給が可能。なお、水害対策として大阪市ハザードマップの想定水
害(過去発生の豪雨の2倍の降雨量)でも水没しない高さ3mの架台上に設置。
さらにこの架台は阪神淡路大震災相当の地震発生時にも倒壊しない強固な構造
とし、非常用電源としての堅固さを確保する。 通常時のピークシフトの実施 電力需要の少ない夜間に充電し、その電力を需要の多い日中に使うことで、電
力使用のピークシフトを実現。 再生可能エネルギーの系統安定化 新設の太陽光発電設備(30kW)と組み合わせて発電変動を蓄電池で平準化
し、電力系統の安定化を図る。 電池特性データ等の収集および解析
【帝國のロングマーチ 31】
● 折々の読書 『China 2049』49
秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」
ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・
ピルズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の
知られざる秘密戦略「1000年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。
日本に関する言及も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日
常生活を見通すうえで、職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。
【目次】
序 章 希望的観測
第1章 中国の夢
第2章 争う国々
第3章 アプローチしたのは中国
第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
第5章 アメリカという巨大な悪魔
第6章 中国のメッセージポリス
第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
第8章 資本主義者の欺瞞
第9章 2049年の中国の世界秩序
第10章 威嚇射撃
第11章 戦国としてのアメリカ
謝 辞
解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか 森本敏(拓殖大学特任教授・
元防衛大臣)
第11章 戦国としてのアメリ力
釜底抽薪――釜底の菱底の薪を抽く
『兵法三十六計』第十九計
把柴火从锅底抽掉,才能使水止沸。比喻从根本上解决问题。(お湯が沸いている釜の底から薪を抜
けば、釜の湯はいずれ冷める。そうなれば簡単に処理できるという理。)
extracting the firewood from under the cauldron
競争が始まったことを知っているのが自分だけという状況で、勝つのは簡単だ。中国はそう
やってアメリカから覇権国としての地位を奪い、現在とは異なる世界を作り出そうとしている。
しかし、結果が必ずしもそうなるとはかぎらない。中国は、アメリカが対峙した中で、極めて
危険で戦略的に優れた国かもしれないが、それは中国だけではなかった。
それほど遠くない片、アメリカは、世界支配をもくろむ別の大国がもたらす脅威を撃退して
いる。ニ大政党の支持を得た数々の計画や戦術によって、冷戦に勝利を収めた。同様の方法で、
中国の桁外れの野望を打ち砕くか、少なくとも抑制する戦略を固めることができるかもしれな
い。そのための一案は言うまでもなく、政策立案者が中国占来の知恵と戦略を学び、中国が何
をしてきたかを知ることだ。古代中国の国政術に関する教えのいくつかは、強国に立ち向かう
弱国に向くものだが、中国の戦略文化の知恵の中には、さらに広く、国と国の関係に応用でき
るものもある。ドイツ人でなくとも、プロイセンの将軍で軍事戦略の泰斗、クラウゼヴィッツ
の戦略を用いることはできる,同様に、アメリカも中国の戦国時代の考え方を学び、中国の得
意分野で中国を打ち負かすことは可能なのだ。
【第1段階】問題を認識する
北京の指導者がアメリカに見せたい中国は、真の中国ではない。アメリカの政治や肘論をリ
ードする人々は、中国人から送られる「メッセージ」と、根底にある事実を見分ける必要があ
る。孫武と孔子はどちらも、見かけと現実を区別することの大切さを説いている。傑出した軍
事思想家である孫武は、抜け目ない敵国の策略にはまらないように、と警告した。孔子は、物
事を正しい名前(孔子はこれを正名と呼んだ)で呼ぶことが極めて重要であり、それが正しい
戦略の礎だと主張した。簡単に言えば、敵がこちらにどんな人間、あるいは国だと思わせよう
としているかを知り、それを額面通りに受け取ってはならない、ということだ。
成長をはばむ圧倒的な障害を抱えているという中国の話を鵜呑みにして、1997年から2
007年の間だけで中国経済が3倍に成長したことに気づかなかったのは愚かなことだが
(注1)、貿易の自由化を推し進め、知的財産泥棒と闘い、通貨の操作をやめるという、中国
政府が繰り 返す主張を信じたのも、同様に愚かなことだった。さらに、言えばえば、中国の
指導者から、中国はアメリカとの協力関係を模索していると繰り返し聞かされ、アメリカを悪
者扱いするのを中国政府が認めたり助長したりするのを顧みなかったことや、中国が北朝鮮や
イランに対抗する支援を約束しながら、逆にその両国を支援していたことを後になって知った
のも等しく愚かなことだった。
もし、アメリカがマラソンで中国と競うつもりなら、中国に対する考え方を根底から改めな
ければならない。それは、中国が生活保護受給者ではなく競争相手であることを認め、勢や戦
国時代や覇権国を倒すための戦略について学び、中国の指導者の考え方を知るということだ。
そして、中国政府がそれらの考えを行動に移す方法を理解するということでもある。政策や戦
略を記した長いリストの分析が必要ろう。
【第2段階】己の才能を知る
毎年、アメリカの税金のかなりの額が、中国の発展を支援するために使われてい。この支援
のほとんどは、目立たないように遂行されているため、メディアや国民は気づいていない。意
図的にそうしているからだ。2005年に議会で証言した国務省の外交官は、これまで知られ
ていなかった中国支援の多くを明らかにした。例えば、労働省は、中国の生産性を高めるため
に、多くの専門家を派遣したそうだ。財務省と通貨監督庁は、銀行業務の向上を支援し、連邦
航空局は、航空機製造会社を支援した。他の政府機関も、中国で数百もの科学援助計画を促進
したという。
公聴会の後、その外交官は、わたしを傍らに呼んだ。わたしが米中関係に詳しく、また、議
会のメンバーであることを知っていたからだ。彼は、「毎年恒例のこの証言要求をなくすこと
はできるでしょうか?」と聞いた。なぜ彼は、翌年以降の証言をなしにしたいと思うのだろう。
彼はこう続けた。「この件がますます公になり、広く知られるようになると、中国に批判的な
議員が支援をやめさせようとしはじめるでしょう。支援が打ち切られたら、米中関係は30年前
に逆戻りしてしまうのです」
現在でも、アメリカ政府が中国の支援にトータルでいくら使っているかはわかっていない。
アメリカは最大の敵国を財政支援しているばかりか、どれだけの額が使われているかというこ
とさえ把握していない。
マラソンで中国に対抗するには、中国を支援する機関や省のすべてに、毎年の報告務を負わ
せるべきだ。こうした計画が公表されれば、三つの有益な結果が得られるだろう。第一に、米
中のつながりをより用心深いものにしようとする人は、十分な情報で武装し、中国政府への支
援強化を主張する多くの研究者、アナリストや政府機関のエリートたちに立ち向かうことがで
きる。第二に、アメリカが中国を支援している分野がわかれば、政策立案者は、中国政府の行
動にアメリカがどのような影響を及ぼしているかをよりはっきり理解できるようになる。そし
て第三に、この支援リストによって、アメリカ人は(第5章で述べた)中国の歴史の教科書に
載っている主張に反論することができる,その主張とは、ジョン・タイラー以降の米大統領が
中国を封じ込め、痛めつけてきたというものだ。
この項つづく