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ゴールドリング構想考

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                           挑戦することで、初めて見えてくる景色がある。

               挑戦する者にのみ未来は拓かれる。

                             困難に出会った時は全て正面突破。

                             坂道は、いかに苦しくても登っている時が一番楽しい。


                                                           孫 正義 

                                                                  
                                                                    Aug. 11, 1957 -         
                                              

                                                  ぼくはきみたちの標本箱のなかで死ぬわけにはいかない
               

                                   
                               Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar,2012   

 

  

● 孫氏が苦言 自然エネルギーの国際連携

昨夜のつづき。9月9日に開催された自然エネルギー財団設立5周年記念シンポジウム――「世界中
の電力網に自然エネルギーをつなぐ~脱炭素の時代へ急転換する世界ビジネス~」をテーマに、自然
エネルギー関連の有識者、国内の地方自治体首長をはじめ米国、中国、韓国、ロシアの電力事業関係
者らが参加――の話(孫氏が苦言「電力はなぜつながらない」、自然エネルギーの国際連携、スマー
トジャパン 2016.09.13)。

孫会長が、11年9月に発表した「Asia Super Grid」当時に比べて、現在はソーラー、風力発電所の数
は急激に増え、発電量も大幅に拡大している。ただ、これを各国の電力網をつないで送電することは
政治的にも難しい状況にあった。こうした厳しい中で、孫氏は16年中国国家電網(SGCC)前会長の
劉振亜に出会う。孫氏と中国国家電網の前会長は「国々はお互いにつながりあうことが必要だ」とい
うビジョンで意気投合したという。さらに、モンゴルから日本まで送電するにはその他の国の協力も
必要となることから、ロシア(ロシアグリッド)、韓国(韓国電力公社)へも声掛けして、4社は1
6年3月に事業開始に向けての調査を開始するMOU(了解覚書き:Memorandum of Understanding)を締結。
孫はこの北東アジアを結ぶGridを「ゴールデンリング:金環」と名付けている。

  June 29, 2016

この4か国を合わせるとアジア全体の発電量の76%、電力消費の77%を占め、「これをつなげる
ことは世界の希望となる」(孫)とこの送電ルートを位置付けている。採算面でもロシアルート、中
国~韓国ルートともに試算によると日本での石炭での火力発電よりも低コストになる可能性がみえて
きており、孫は「これはいけるのではないか」と現実味が帯びてきていることに自信をみせ、最後に
「20年の東京オリンピックのころには、聖火ランナーのようにこのゴールデンリングがつながれば」
と述べ「情報や通信という業界では、既に世界がつながっているが、電力はなぜつながらないのか」
と述べあいさつを締めくくったという。

 Jan. 1, 2012

この記事に対し、わたし(たち)は、(1)地球規模のエネルギー需要拡大を前提とすれば「この構
想の実効性や付随する政治・経済効果は膨大だろうと考える。(2)日本一国レベルで考えれば、前
者の「エネルギーの需要拡大」を「省エネ対策を同時に進行させたエネルギー需要拡大抑制」を前提
として、「水力・風力・太陽光・バイオマス」の再エネ技術革新を同時進行させれば一国だけでも実
現可能であるということ(こちらの方が、関係国の政治権力の思惑に依存せず、研究開発の速度に依
存し実現が早い)を前途とし、(3)その上で、エネルギー需要の多寡の国際的調整(プール)機構
としての「Asia Super Grid」と考える。そこが差異であるが(2)の抵抗力(守旧派)をどうするか
の配慮も不可欠となる。と、そんなことを考える。

 



※ 非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)

脂肪性肝疾患とは、肝細胞に脂肪(中性脂肪)が沈着して肝障害を引き起こす病態の総称。明らかな
飲酒歴がない(エタノール換算摂取量男性30g、女性20g/日未満)脂肪性肝疾患を、非アルコール性
脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)と言う。近年、NAFLDは最も多くみられる慢性
肝疾患であり、先進国では人口の約30%が罹患し増加傾向にある。NAFLDは、予後良好な単純性脂肪肝
と進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分かれる。NASHはNAFLD全体の10-20%を占め、肝臓の脂
肪化に加えて炎症や線維化を伴い、進行すると肝硬変や肝細胞がんに至る。

【大阪大学の2つの研究成果】

● 怖い脂肪肝が治るかもしれない:脂肪肝の発症メカニズムを解明

 Jul. 8, 2016

13日、大阪大の吉森保教授(細胞生物学)らの研究グループは、肝臓に中性脂肪がたまる脂肪肝が、
脂肪などの分解作用を抑えるたんぱく質の増加によって引き起こされることを解明したと発表した。
脂肪肝の治療薬の開発につながる可能性を秘める(「脂肪肝 大阪大メカニズム解明 治療薬に期待」
毎日新聞 2016.09.13)。

 Sep. 09, 2016

それによると、脂肪肝は、栄養やアルコールの取りすぎで起こる生活習慣病。日本では4人に1人が
患っているとされる。重症化すると肝がんや肝硬変になるが、生活習慣の改善以外に有効な治療法は
ない。脂肪肝の肝臓では、脂肪など細胞内の不要物を分解する「オートファジー(自食作用:細胞内
の分解機構)」の働きが弱まっていることが知られていたが、詳しいメカニズムは分かっていなかっ
た。吉森教授と大阪大の竹原徹郎教授(消化器内科)らのグループは、オートファジーを抑える働き
を持つたんぱく質「ルビコン」に着目。マウスに脂肪の多い餌を与えたところ、肝臓でルビコンが増
えることを確認した。また、遺伝子操作でルビコンが働かないようにしたマウスは、脂肪を取り続け
ても肝臓に脂肪がたまりにくいことを解明する。

doi:10.1038/nature18628




● 実用的な熱電変換素子設計:鉄化合物における巨大な熱電効果の起源解明

6日、萩原政幸教授らの研究グループは、鉄を主成分とする化合物FeSb2が示す極低温における巨大
な熱電効果の起源を解明し、低温での熱電変換素子の新たな設計指針を提唱。そえによると、熱電変
換材料は、電気エネルギーと熱エネルギーを直接変換することができるため、廃熱を利用した発電や、
フロンガスを用いない冷凍装置(ペルチエ式クーラー)として用いる。室温近傍で動作する熱電変換
材料としては、ビスマス系化合物が知られており、ワインクーラーなどに使われる。一方、超伝導リ
ニアなどの動作に必要な極低温を実現するための熱電変換素子は実用化されておらず、低温熱電材料
の新たな設計指針の提案が望まれていた。

鉄化合物FeSb2は、-260℃の極低温でビスマス系熱電材料に比べては百倍以上の巨大な熱電効果を示す
ことが報告され、低温で動作する熱電材料として期待されているが、この巨大な熱電効果の起源は分
かっていなかった。今回、FeSb2の超高純度単結晶を育成し、その結晶サイズを大きくすることで、
(1)実際に熱電効果が巨大化すること、(2)またその起源が結晶格子の振動(フォノン※2 )と
電子の相互作用に起因することを解明。(3)また、このフォノンと電子の相互作用(フォノンドラ
ッグ効果)が電子の有効質量が大きい場合により顕著に現れることを発見。これにより、極低温で高
い性能をもつ熱電材料の新たな設計指針を担保するものと期待されている。

    doi:10.1038/ncomms12732

この研究では、FeSb2の超高純度単結晶を合成し、サイズが異なる5種類の単結晶(0.08mm~0.27mm)
を用い、電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導率の測定。その結果、結晶サイズを大きくすることで、
熱伝導率とゼーベック係数が増大し、サイズが最大の結晶において高い熱伝導率(770W/mK)と巨大な
ゼーベック係数(-27mV/K)が実現することを発見。この熱伝導率とゼーベック係数のサイズ依存性か
ら、熱を運ぶフォノンが結晶境界により散乱されることを解明、さらに、電子-フォノンの相互作用を
介し高温から低温へ移動するフォノンが電子を運ぶフォノンドラッグ効果で巨大なゼーベック係数が
観測されることを発見。そして、サイクロトロン共鳴実験により電子の有効質量が自由電子の質量に
比べ5倍程度大きくなり、この大きい有効質量を持つ電子がフォノンによって運ばれることで、ゼー
ベック係数が増大する。したがって、FeSb2で観測される巨大なゼーベック係数と出力因子が、結晶
境界で散乱されるような平均自由行程の長いフォノンと有効質量の大きい電子の相互作用に起因する
ことを実証するに至る。

この結果、従来の電子とフォノンを独立に制御する熱電材料設計の常識とは異なり、(1)電子とフ
ォノンの相互作用を利用→(2)高い熱伝導率に打ち勝つ巨大なゼーベック係数を実現→(3)無次
元性能指数を向上→(4)電子の有効質量が大きい材料を選ぶことで、実用可能な熱電変換効率を実
現できる。という見通しが立った。これは大変、面白い成果だ。

 

【折々の読書 齢は歳々にたかく、栖は折々にせばし】   

   

 ● 又吉直樹 著 『火花』15 

  何日か連続で神谷さんを誘ってみたが、このところ忙しいようだった。思い切って、夜中に電
 話をかけてみたが応答がなかった。その次の目、神谷さんから昼間に連絡が入り、吉祥寺に呼び
 出された。色々と相談したいことがあったので、嬉々として僕は出向いて行った。だが、その日
 は、何一つ自分の話をすることが出来なかった。

  午後11時頃、待ち合わせ場所に現れた神谷さんは薄っすらと笑みを浮かべていたが、何かい
 つもと様子が違う。
  神谷さんの一言目は、「ちやうねん」だった。
 「どうしたんですか?」
 「あのな、貞樹の家に俺の荷物取りに行きたいからついて来て欲しいねん」と神谷さんは伏し目
 がちに言った。
 「全然大丈夫ですけど、喧嘩したんですか?」神谷さんが酔って真樹さんに絡むとこは何度か見
 たことがあったが、真樹さんが神谷さんに怒っているとこは見たことがなかった。

 「真樹な、男出来てん」
 「嘘でしょ?」

  まさかの言葉だった。真圈さんは、傍から見ている限り、紬‥谷さんのことを心底愛している
 ように見えた。拍‥谷さんも、色々と御託を並べたところで真樹さんに強く依存しているように
 見えた。いずれニ人は結婚するものだと僕は勝手に思っていた。

 「びびってもうたわ。真圈な、占祥寺のキャバクラで働いてるって言うてたやろ?」
 「はい」

  なんだろうか、嫌な予感がする。

 「あれな、実は風俗やってんて。上京してすぐに吉祥寺歩いてたら、キャバクラのスカウトに声
 かけられて、ほんで、後日面接行ったらな、幽霊の格好してサービスする風俗やったらしいわ。
 あいつ、そういうの断られへんやろ? それで働いてたんやて」
 「そうなんですね」

  この話を僕はどう捉えればいいのか。

 「幽霊の格好してサービスするとか、そんな説明いる? 想像してまうからディテールまで聞き
 たくなかったわ」

  こういう時、想像力というのは自分に対する圧倒的な暴力となる。

 「ほんまに勝手な話やねんけど、なんか心臓が痛いねん。好きやったんかもな。めっちや好きや
 ったかも。多分な」

  精彩を欠いている神谷さんを見るのは辛かった。曖昧な言い方を選んでいるのは、僕の前で感
 傷に流されたくないからだろう。

 「徳永、なんでお前が泣いてんねん?」

  そう言って、神谷さんは笑った。僕は未だ泣いているつもりはなかった。僕は真樹さんといる
 時の神谷さんが好きだった。

 「泣くにしても早くない? 夜、酒でも呑みながら一番泣き浴びようと思ってたのに」
 「風呂みたいに言わんといて下さい」

  つらい。

 「お前、かけ泣きもせんと、いきなり泣き舟に浸かるって常識ないんか」
 「だから、風呂みたいに言わんといて下さいよ」

  つらいと感じることは、こんなにもつらいことだったのだ。

 「せめて、チンコとケツくらい泣いてから、泣き舟に入れや」
 「文法おかしなってますやん。チンコとケツくらい泣くって、なんですの」

  つらいという言葉や概念を理解しても、つらいことの強度は減らない。

 「しやあないから、泣きタブに泣きの実入れて入ろ、今日は泣色にしよかな」
 「もう、なんのこと言うてるんかわかりませんわ」

  こんな時でも、僕達は笑わなくてはいけないのだろうか。

 「俺よりも先に泣くとか、ひくわあ。泣くタイミングなくなったやんけ」

  神谷さんは強がっているものの、どこか頼りない口調だった。どこにも辿り着きたくないよう
 な速度で吉祥寺通りを北へ歩く僕達の横を小学生の団体が笑顔で通り過ぎていった。大人が涙す
 るのが珍しいのか、子供達が僕の顔を不思議そうに眺めていた。

 「おい、お前が泣いてるせいで、俺がいじめてると思って、学年主任のおっさんにめっちゃ睨ま
 れたやんけ」

  神谷さんは、無理に笑おうとしているように見えた。普段はこんなにも状況説明的な言葉は使
 わない。

 「ほんでな、その男っちゆのがな、風俗の客やねんて。そいつが何度も店に通ってきて、何度も
 告白されて、徐々に真樹も好きになったらしい」

  神谷さんは、こんなことは何でもないことだと思いたいのか、とぼけるような表情をした。真
 樹さんは美人で優しいので、付き合いたいと思う人は沢山いるだろう。

 「なんて言うたらいいのかわからないですけど、真樹さん神谷さんのこと、ほんまに好きやった
 けど、どこかで曖昧な関係を終わらせなと思ってたんでしょうね」

 「まあ俺も、真樹に好きな人が出来たんなら文句ないけどな。年齢的なこともあるし、俺がなん
 とかしたかったけど、間に合わんかったな。ここで、ごちゃごちゃ言うのも校いしな。他の選択
 肢はなかったんやろなとも思う」
                               
  神谷さんは両手をポケットに突っ込んで、足の裏を地面に擦りつけるようにゆっくりと進んだ,
 僕達は、ほとんど全ての信号に引っかかっていた,

 「荷物全部出すんですか?」
 「いや、まだ家決まってないからそれは無理やねんけど、明日、劇場の出番あるから漫才衣装と
 着替えだけ取りたいねん。一つ問題があってな、実はその男がもう家におんねん」
 「そうなんですか?」
 「俺のことは居候って説明してるらしいねんけど、そんな部屋に気まずくて一人で行かれへんや
 ろ?」
 「そうですね」

  相手の男は全て知っているのではないか。長期にわたって金を搾取する最低な男から真樹さん
 を救おうと思っているのだろう。そういう意図がないなら同居人がいる部屋に上がり込んだりは
 しない,ずるずると真樹さんが神谷さんを許して元の生活に戻ることを阻止しようとしているの
 だろう。そこには、真樹さん自身の意志も幾らか含まれているのかもしれない。

 「荷物一人で取りに行ってな、万が一そいつに文句言われたら殺してしまいそうやから、ついて
 来て貰いたいねん」
 「ニ人の方が殺しやすいですもんね?」
 「とめろ!とめろ!とめんかい!」

  発言の重要度と、声の大きさが全く合っていなかった。「たいして面白くない言葉に対するリ
 アクションは、それに見合った小声で対応しろ」というのが神谷さんの教えだった。
  上石神井まで歩く問、神谷さんは、僕と同じ名前の表札を指差し、「徳永やって、ここお前の
 家ちやうんか?」と言ったり、サイレンの音を聴いて、「救急車と思ったらパトカーかい!」と
 叫んだり、普段からは考えられないほど、面白くなかった。

 「徳永、すまん」
 「なんですか?」
 「部屋行くの怖い]
 「僕、一人で行きましょうか?文句言われたら殺しますけど」

  僕の英雄を傷つける奴はたとえ正義でも憎悪の対象だった,ただ、真樹さんを傷つけることは
 最も避けたいことでもあった。

 「いや、俺も行く。ほんで男に何言われても真樹のためやと思って黙っとく。でも、哀しいのも
 惨めなのも嫌やねん。だから、すまんけど真樹の部屋入ったら、ずっと勃起しといて欲しいねん。
 感情的にやばくなったら、お前の股間見るわ」

 「勃起ですか?」 

  この人は何を言っているのだろう。

 「先輩の大変な時に、こいつ勃起してるやん。と思えたら笑えるし、平常心保てるから」

  神谷さんは、いつになく真剣な表情だった。

 「それ、僕のリスク高くないですか? その男に気づかれたら、問答無用で殴られませんかね」
 「殴られる理由としては珍しいから、顔面に傷でも残ったら、後々クイズで出題出来るで」
 「しませんよ。このタイミングで言うのもあれですけど、僕あんまり下ネタ好きちやいますから
 ね」
 「よう俺と遊んでくれてたな。頼むわ。挑戦だけでもしてみて」
 「わかりました」

  弟子として、一世一代の援護をしようと思った。僕は携帯電話でインターネットから、女性の
 陳の画像を検索し、いくつか目ぼしいものを保存した。
  緊張しながら、真樹さんの部屋のドアをノックした。耳を澄ませ、汚れた水色のドアを見てい
 ると、いつもと同じ真樹さんの家なのに、うまく息を吐くこともままならなかった。部屋の中か
 ら真樹さんの声がしてドアが開いた。

 「ああ、徳永君。ありがとうね」

  真樹さんは、いつもと変わらない笑顔で僕達を迎えてくれた。部屋に入ると、自分が着ている
 上着から冬っぽい匂いがした。部屋の奥の、いつも神谷さんが座っていた場所に、作業服を着た
 男が座っていた。男は顔に髭を生やし、肉体労働者らしい体躯をしていた。胡坐をかき再放送の
 ドラマを眺めて泰然とはしているが、静かに殺気立っていた。男は僕達が来ることを真樹さんか
 ら聞いていただろう。あるいは複数で来るとは思っていなかったか。

 「お邪魔します」と僕が言うと、男は無言でこちらを一瞥した。その据わった目には僕達と刺し
 違える覚悟が見えた。この男は信用出来ると思った。神谷さんは、しきりに真樹さんに謝りなが
 ら、大きな鞄に荷物を放り込んでいた。僕はスーツケースだけ手に持ち、男と神谷さんの線上に
 立っていた。神谷さんを男から隠しているのか、その反対か自分でも判然としなかった。真樹さ
 んが、お茶を出そうとしたが、神谷さんが辞退した。

 「大体必要な物は詰めれたし、すまんけど後は捨てといて」と神谷さんが真樹さんに言った。思
 わず叫びだしたくなった。僕は神谷さんの優しい声に弱い。
 「うん。整理して送れる物は送るね」

  頁樹さんは少し髪が伸びたように感じたが、下ろしているだけかもしれない。
  神谷さんの方を恐る恐る見た。神谷さんが、僕の股間を見ていた。この人は本当にあほんだら
 である。僕は携帯電話をポケットから取り出し、あらかじめ保存していた粗い陳の画像を選択し
 精一杯興奮しようと試みた。だが、それは僕にとっては単なる匿名の裸に過ぎなかった。人間達
 が交錯し各々の人生を燃焼する、この風景には到底及ばない。神谷さんは、まだ僕の股間を見て
 いた。あの男の覚悟を、真樹さんの想いを、神谷さんなりの下手糞な優しさを、この美しい財界
 を僕は台なしにしなければならない。どのような情熱からか微かに僕の股間は反応した。それを
 見た神谷さんが、思わず吹き出した。

 「ほな行くわ」

  神谷さんは、そう言って立ったまま自のオールスターを履いた。「お邪魔しました」と言って
 僕が先にドアから出た,
 「色々すまんな。ありがとう」と神谷さんが言うと、真樹さんは無言で寄り目にして、舌を出し
 た。
  神谷さんは、「なにしとんねん」と笑いながら言って、ドアから手を離した。そのドアを笑顔
 の真樹さんが受け取って、「身体に気をつけてね」と言うと、静かにドアを閉めながら最後に、
 また変な顔をした。神谷さんが「もうええわ]と言い終わるのと同時にドアは静かに閉まった。
 冬の風に吹かれながら、僕は世界の外に放り出されたような気分になった,歩きだすと同時に神
 谷さんは腹を抱えて笑った。

 「お前、なに勃起しながら泣いとんねん,性欲強い赤ちゃんか」
 「自分が命令したんでしょ」

  もう二度と、このアパートに来ることはないだろう。上石神井に来ることもないかもしれない。
 この風景を大切にしようと思った。

 「お前、真樹の部屋でちょっとだけ自分のチンコ触ったやろ? あれせこいぞ!」
 「しょうがないでしょう。尊敬してる兄さんと、優しくしてくれたお姉さんのお別れですよ。そ
 んな状況で画素の粗い画像だけでは無理ですって」

  僕は神谷さんの役に立てただろうか。


この描写は、なんだろう?アルゼンチン北部のチャラタ付近発見された巨大な隕石のような大きなイ
ンパクトをもつ。「乾坤一滴」という言葉が似合いそうなのだが、著者は存外、さらりと書いていた
りして。

                                      この項づづく

   Sep. 13, 2016

 


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