52 動かざる山々 / 艮為山(ごんいさん)
※ 昨日の「震」を逆にした卦であり、卦の持つ意味も全く逆である。
「震」は動いてやまぬ雷であったが、「艮」は泰然として動かぬ山
である。沈思黙考して、軽挙妄動を慎しむべき時である。軽率に進
めば、山また山の難儀がひかえている。卦の形は、各爻とも正応す
るものがない。協力者は期待できず、ひとりわが道をゆく覚悟が必
要である。依頼心は禁物。地味な努力で、現在の地位、境遇を守っ
てゆくことが大切である。「艮」は、「夬」や「咸」と同様、身体
の各部を例にとり、足から頭へ順に昇ってゆく。
【RE100倶楽部:海洋エネルギー発電】
ひょんなことから、海洋エネルギー発電を考えようと、思い立ち、一日かけてあれこれと思索にふ
ける。結論は、これまでの、太陽・風力・バイオマスと同じ再生可能エネルギー(あるいは自然エ
ネルギー)の4つめのシステムとして海洋エネルギーを集約し「オールマリーンパワーシステム」
とすることに決める。ここでいう、「オールマリンパワーシステム」とは、①海流発電、②潮流発
電、③波力発電、④塩分濃度差発電、⑤海洋温度差発電をさし、⑦海上風力発電を除いた発電シス
テムのことである(下図表ダブクリ参照)。
● 国内事例:奄美大島の水中浮遊海流発電システム
鹿児島県の奄美大島では古い小水力発電所が5倍以上の規模で復活し、石油火力発電に依存する離
島の中で二酸化炭素排出しない電力を供給。近隣の島の沖合では海流発電の実証試験を計画中であ
る。本土側では原子力発電所の周辺地域にメガソーラーが広がり、新しい地熱発電所の建設も進む。
奄美大島の北側にはトカラ列島の島々が点在している。その中で最も北にある口之島(くちのしま
)の沖合では、世界でも最大級の海流発電プロジェクトが進行中。ガスタービン発電機などを得意
とするIHIが東芝と共同で実証試験の準備に入っている。実証試験に使う海流発電システムは水中に
浮遊させる方式だ。発電システムの両端に、2枚の羽根が回転して発電するタービンをペアで備え、
1枚の羽根の長さは11メートルあり、2基のタービンを合わせて発電能力は百キロワットになる。
システム全体の大きさは横幅が20メートルで、長さも20メートルに及ぶ。
この海流発電システムを海面から50メートル程度の深さに浮かべる。海底に沈めた重りからケー
ブルでつなぎ、空を飛ぶ凧(たこ)のように浮遊させながら海流を受けて羽根を回転させる。海底
にはケーブルの接続箱も設置して、発電した電力を海底ケーブルで島へ送る。口之島を含めてトカ
ラ列島には東シナ海から黒潮が流れ込み、海流の速い場所が島の近くに広がり、実証試験は口之島
の沖合55キロメートルの海域で実施する予定。発電量や漁業に対する影響を評価して実用化を目
指している(「小水力発電と海流発電が離島に、天候に左右されない電力を増やす」 スマートジャ
パン 2017.03.14 )。
水中浮遊式の海流発電システムは同じ海域に数多く並べて設置できるため、発電能力を効率的に増
やせる点が特徴だ。日本の太平洋側には百キロメートル程度の幅で黒潮が流れている。海流発電を
実用化できれば、陸地に近い海域で大量の電力を生み出すポテンシャルがある。尚、海流には世界
中では年間数百テラワットアワーのエネルギーが存在するとされ、黒潮に関しては、東経139度(伊
豆半島沖)、北緯32.5~34度(約150キロメートル)、水深50メートルの断面におけるエ
ネルギーポテンシャルは、2.1ギガワットという見積もりがある。
● 海流発電のタービンは風力/水力と共通:
【水中浮遊式海流発電システムとは何か】
海底に係留索を介して繋がれた水中浮遊体にプロペラを取り付け、黒潮等の海流によってプロペラ
を回転させて発電するようにした水中浮遊式海流発電システムが提案されている。このような水中
浮遊式海流発電システムは、水温の変化や海流の強弱等の外乱要因により、水中浮遊体の深度が設
定深度から外れる事態が考えられる。例えば、海流が強くなった場合、係留索と海底との角度が小
さくなって水中浮遊体が沈降し、逆に、海流が弱くなった場合、水中浮遊体が浮上する。また、海
流の水温が高くなった場合、海水の比重が小さくなるので水中浮遊体が沈降し、逆に、海流の水温
が低くなった場合、水中浮遊体が浮上する。
これは新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「海洋エネルギー技術研究開発-海洋
エネルギー発電システム実証研究」の共同研究予定先として採択、2011年より研究開発。黒潮など
ので海流は昼夜・季節などの変動が少ないため安定供給でき、四方を海に囲まれた日本では最も大
量に利用できる自然エネルギー源とされる。水中浮遊式海流発電システムは、対向回転する双発式
タービンをケーブルで海底に繋留、海中を凧のように浮遊して発電を行う。東芝は発電機や変圧器
の製造、IHIはタービンや浮体を担当。海流発電としては海底から塔を立ててプロペラを回す固定型
の実証実験も各所で行われているが、浮遊型は大規模な海底土木工事が要らず、メンテナンスのた
めに海中から引き上げるのも容易という利点がある。
また、NEDOのプロジェクトにおいては大島造船所とサイエンスリサーチによる「垂直軸直線翼型
潮流発電」も実証研究が進められる。垂直式の風力発電機(ダリウス・サボニウス型風車)と同様に
潮流の方向に合わせて向きを変える必要がなく、低速でも回転するのが特徴。浮体型海流発電/直
軸直線翼型潮流発電はともに2016年以降の事業化に向け、発電コスト40円/kWh以下を目指す。
● 事例研究:特開2017-013721 水中浮遊体の浮力調整装置及び海流発電装置
しかし、ここで、水中浮遊体の深度が設定深度よりも深くなり過ぎると、水圧で水中浮遊体の耐圧
殻が破損したり、プロペラが海底に接触したり、海流が弱く発電効率が低下する等の不具合が発生
する。逆に、水中浮遊体の深度が設定深度よりも浅くなり過ぎると、水中浮遊体やプロペラが漁船
の漁網や船舶と干渉する等の不具合が発生する。一般に、水中浮遊体の深度は、例えば、海面下数
十~数百メートルに設定され、水中浮遊体の浮力を調整して、水中浮遊体の深度を一定深度範囲内
に保つ必要がある。
浮力調整袋に作動流体を注入/排出には、ポンプ等の圧送機器を水中浮遊体に搭載、それを作動さ
せるためのエネルギーも必要で、水中浮遊体に設けたプロペラにより発電した電力等の一部を、水
中浮遊体の深度調節(浮力調整)のエネルギーに使用せざるを得ず、その分だけ外部への電力供給
量が減少してしまうこととなる。外乱要因によって水中浮遊体の深度が変化した場合であっても、
エネルギー消費量を低減しつつ、水中浮遊体の浮力を調整可能な、水中浮遊体の浮力調整装置/海
流発電装置(下図ダブクリ参照)が提案されている。
【符号の説明】
1,1a,1b 浮力調整装置 2 海底 3 係留索 4 水中浮遊体 5 海面 6 索体 7 浮
体 7a 端末浮体 8 プロペラ 9 アンカー 10 海底接続箱 11 海底ケーブル 12 ア
ンテナ 13 地上基地 14 人工衛星 15 目印 16 第一巻取装置 17 ガイド 18 第
二巻取装置 19 錘用索 20 錘体 20a 端末錘体 21 第三巻取装置
新しいホーズで見参
2.みんな月に行ってしまうかもしれない
私が初めて妻に出会ったのは、三十歳になる少し前たった。彼女は私より三つ年下だった。四
谷二丁目にある小さな建築事務所に勤めていて、二級建築士の資格を持っており、私が当時付き
合っていたガールフレンドの高校時代の級友だった。髪がまっすぐで長く、化粧も薄く、どちら
かといえば穏やかな見かけの顔立ちだった(見かけほど穏やかな性格ではなかったことがやがて
判明するが、それはあとの話だ)。ガールフレンドとデートをしているときに、どこかのレスト
ランでたまたま出会って紹介され、私はほとんどその場で彼女と恋に落ちた。
彼女はとくに際たった顔立ちではなかった。これという欠点も見当たらないが、はっと人目を
惹くようなところもなかった。まつげが長く、鼻が紹く、どちらかというと小柄で、肩脛骨のあ
たりまで伸びた髪は美しくカットされていた(彼女は髪にとても気を遺った)。ふっくらした何
の右端近くに小さなほくろがあり、表情の変化に合わせてそれが不思議な動き方をした。そうい
うところがほのかに肉感的な印象を与えていたが、それも「よく注意して見れば」という程度の
ものだ。普通に見れば、私がそのときつきあっていたガールフレンドの方がずっと美人だった。
それなのに私は一目見ただけで唐突に、まるで雷に打たれたみたいに彼女に心を奪われてしまっ
た。どうしてだろう? その原因に思い当たるまでに数週間がかかった。でもあるときはっと思
い当たった。彼女は、死んだ妹のことを私に思い出させたのだ。とてもありありと。
二人が外見的に似ていたというのではない。もし二人の写真を見比べたら、人はたぶん「ちっ
とも似てないじやないか」と言うだろう。だからこそ私も最初のうち、そのことに気づかなかっ
たのだ。彼女が私に妹を思い出させたのは、具体的な顔立ちが似ていたからではなく、その表情
の動きが、とりわけ目の動きや輝きが与える印象が、不思議なくらいそっくりだったからだ。ま
るで魔法か何かによって、過去の時間が目の前に蘇ってきたみたいに。
妹はやはり私より三つ年下で、生まれつき心臓の弁に問題があった。小さい頃に何度か手術を
受けて、手術自体は成功したのだが、後遺症がしつこく残った。その後遺症が自然治癒していく
ものなのか、それとも先になって致死的な問題をひき起こすものなのか、それは医師にもわから
なかった。妹は結局、私が十五歳のときに亡くなった。中学校にあがったばかりだった。短い人
生の中で、妹はその遺伝子的な欠陥と休みなく闘い続けてきたわけだが、それでも明るく前向き
な性格を失わなかった。最後まで愚痴や泣き言を口にせず、いつも少し先のことを綿密に計画し
ていた。自分か死ぬということは彼女の計画の中に入ってはいなかった。生まれつき聡明で、学
校の成績はいつも優秀だった(私よりずっと出来の良い子供だった)。意志が強く、決めたこと
は何かあっても曲げなかった。兄妹間で何か揉めごとがあっても――そんなことは希にしかなか
ったが――最後にはいつも私が譲ることになった。最後の頃は、ずいぶん身体がやせ細っていた
が、それでも目だけは変わりなく瑞々しく、生命力に溢れていた。
私が妻に惹かれたのもまさにその目だった。目の奥にうかがえる何かだった。その一対の瞳を
最初に目にしたときから、私の心は激しく揺さぶられた。といっても、何も彼女を手に入れるこ
とによって、死んだ妹を復元しようと思ったわけではない。そんなものを求めても、その先にあ
るのは失望だけだということくらいは、私にも想像がついた。私が求めたのは、あるいは必要と
したのは、そこにある前向きな意志の煌(きら)めきだった。生きるための確かな熱源のような
ものだった。それは私にとってお馴染みのものだったし、またたぶん拡に不足していたものだっ
た。
私はうまく彼女の連絡先を聞き出し、デートに誘った。彼女はもちろん驚いたし、躊躇した。
なんといっても私は、彼女の友だちの恋人なのだから。でも拡は簡単には引き下がらなかった。
ただ会って話をしたいんだと言った。会って話をしてくれるだけでいい。それ以上は何も求めて
いない。我々は静かなレストランで食事をし、テーブルを挟んでいろんな話をした。会話は最初
のうちはおずおずとしたぎこちないものだったが、やがて生き生きしたものになった。彼女につ
いて知りたいことが私には山ほどあったし、話題に困ることはなかった。彼女の誕生日は、妹の
誕生日と三日しか違わないことがわかった。
「君のスケッチをしてかまわないかな」と私は尋ねた。
「今、ここで?」と彼女は言ってまわりを見回した。我々はレストランのテーブルで、デザート
を注文したところだった。
「デザートが運ばれて来るまでに終わるから」と私は言った。
「じやあ、かまわないけど」と彼女は半信半疑で言った。
私はいつも持ち歩いている小型のスケッチブックをバッグから取り出し、2Bの鉛筆で素早く
彼女の顔をスケッチした。そして約束通りデザートが運ばれてくる前にそれを描き終えた。大事
な部分はもちろん彼女の目だった。私かもっとも描きたかったのもその目だった。その目の奥に
は時間を超えた深い世界が広がっている。
私はそのスケッチを彼女に見せた。彼女はその終が気に入ったようだった。
「とても生き生きしている」
「君自身が生き生きしているからだよ」と私は言った。
彼女は長い間そのスケッチを感心したように眺めていた。まるで自分か知らなかった自分自身
を目にしているみたいに。
「もし気に入ったのなら、君に進呈する」
「本当にもらっていいの?」と彼女は言った。
「もちろん。ただのクロッキーだ」
「ありがとう」
それから何度かデートをして、結局我々は恋人の関係になった。その流れはとても自然だった。
ただ私のガールフレンドは、親友に私を奪われたことに、ずいぶんショックを受けたようだった。
彼女はたぶん私と結婚することを視野に入れていたのだと思う。腹を立てるのもまあ当然のこと
だった(いずれにせよ、私が彼女と結婚することはまずなかっただろうが)。また妻の方にも当
時交際している男がいたし、そちらもそう簡単に話は収まらなかった。ほかにいくつかの障碍は
存在したものの、半年ほどして私たちは夫婦になった。友人たちだけが巣うこぢんまりとしたお
視いのパーティーを開き、広尾にあるマンションに落ち着いた。彼女の叔父がそのマンションを
所有していて、比較的安い家賃で我々に賃してくれた。私は挟い一室をスタジオにして、そこで
肖像画を描く仕事を本格的に続けた。私にとってそれはもう腰掛けの仕事ではなくなっていた。
結婚生活には安定した収入が必要だったし、肖像画を描く以外に私がまともな収入を得るすべは
なかったから。妻はそこから地下鉄で四谷三丁目にある建築事務所に週った。そして当然の成り
行きとして、家に残った私が日常の家事を引き受けることになったが、それは私にとってまった
く苦痛ではなかった。家事をこなすのはもともと嫌いではなかったし、絵を描く仕事の気分転換
にもなったからだ。少なくとも、毎日会社に週勤してデスクワークを押しつけられているよりは、
うちで家事をしていた方が遥かに楽しい。
最初の何年間かの結婚生活は、それぞれにとって穏やかで満ち足りたものだったと思う。ほど
なく日々の生活に心地よいリズムが生まれ、我々はその中に自然に身を落ち着けた。週末や休日
には私も結の仕事を休み、二人であちこちに出かけた。美術具に行くこともあれば、郊外にハイ
キングに出かけることもあった。ただあてもなく都内を歩き回ることもあった。親密な会話の時
間を持ち、お互いについての情報を交換し合うことは、二人にとっての大事な習慣になった。そ
れぞれの身に起こったたいていのことは包み隠さず、正直に語り合った。そして意見を交換し、
感想を述べ合った。
ただし私の側にはひとつだけ、彼女にあえて打ち明けなかったことがある。それは妻の目が私
に、十二歳で死んだ妹の目をありありと思い出させ、それが彼女に心を惹かれた最大の理由だっ
たということだ。もしその目がなかったら、私があれほど熱心に彼女を口説き落とすようなこと
もなかったはずだ。でもそのことは言わない方がいいと私は感じていたし、実際最後まで一度も
口にしなかった。それが私が彼女に対して持っていた、ただひとつの秘密だった。彼女が私に対
してどんな秘密を抱えていたのか――たぶん抱えていたのだろうが――私にはわからない。
妻の名前は抽といった。料理に使うゆずだ。ベッドで抱き合っているとき、私は冗談でときど
き彼女のことを「すだち」と呼んだ。耳元でこっそりそう囁くのだ。彼女はそのたびに笑い、で
も半分本気で腹を立てた。
「すだちじやなくて、ゆず。似ているけど違う」と。
いったいいつからものごとが悪い方向に流れていってしまったのだろう? 車のハンドルを握
り、ドライブインからドライブイン、ビジネス・ホテルからビジネス・ホテルヘと、移動のため
の移動を続けながら、私はそのことについて思案し続けた。でもその潮目の変化のポイントを見
定めることができなかった。我々はうまくやっていると私はずっと思い込んでいた。もちろん世
間のすべての夫婦がそうであるように、いくつかの実際的な懸案は抱えていたし、それについて
たまに口論をすることもあった。具体的には子供を作るか作らないかということが、我々にとっ
ていちばん大きな懸案だったと思う。でもそれを最終的に決定しなくてはならない時期が到来す
るまでには、まだしばらく時間の猶予はあった。そういう問題(言うなればまだしばらく棚上げ
にしておける議題)を別にすれば、我々は基本的に健全な結婚生活を送っていたし、精神的にも
肉体的にもうまくお互いを受け入れ合っていた。私は最後の最後までおおむねそう信じていた。
どうしてそんなにも楽観的になれたのだろう? というか、どうしてそんなにも愚かしくなれ
たのだろう? 私の視野にはきっと何か生まれつきの盲点のようなものがあるに違いない。私は
いつだって何かを見逃しているみたいだ。そしてその何かは常にもっとも大事なことなのだ。
何かを見逃しているみたいだ――この箇所が妙にひっかかる。つまり、見逃していいるのではなく、
意識して見逃していることもあるのだ、それも数多くあるのだと、自分の体験からそう思った。これ
は本筋とは関わりのないのだろうが。それにしても、この時間帯になると脳疲労が酷い。さて、この
作品(全二巻)が読み終えるのはいつになるのだろうか。
この項つづく
【常在戦場:迷惑な自滅/自爆 北朝鮮】
金正恩時代に入りミサイル発射/核実験の回数や規模が急増している。米国の軍事的プレゼンスの変
革(あるいは変遷)に入り、トランプ政権と中国の無知、無能、茶番ぶりがわたしたちを不安にさせ
る。単なる火遊びに終われば問題がないが、金正恩がもし核ボタンを押したとたん、体制崩壊すると
ともに、関係国への国家による最大級の大量テロ/環境破壊が起きる。冗談でない。