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可愛い名残雪

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    54  着道ならぬ恋  /  雷沢帰妹(らいたくきまい)  

                              


      ※ 帰妹、若い女が帰(とつ)ぐことである。ところが、この卦の
        示すものは正常な結婚ではない。若い女(兌)の方から積極的
        に年とった男(震)に働きかけており、女は待つべきものとい
        う常道に反している、また陰爻が陽爻を押さえつけている形で
        あり、男働きて(震)女悦ぶ(兌)、つまり、肉体関係だけで
        結ばれ、愛情の裏づけに乏しいのである。易の中には男女関係
        を示す卦が四つある(咸、恒、漸、帰妹)が、この卦だけが不
        吉な運命を告げられているのはそのためである。精神的なもの
        を充実させて、末長い結びつきまで高めることが必要である。
        ごれは一のたとえであって、結婚に限らずすべてのことに言え
        ることである。

 

    
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』 

   3.ただの物理的な反射に過ぎない 

  その二日後の昼過ぎに、カロ土フ・ワゴンを運転して広尾のマンションまで行って、身の回り
 のものをまとめた。その日も朝から休みなく雨が降っていた。マンションの地下の駐車場に車を
 停めると、いつもの雨の日の駐車場の匂いがした。

  エレベーターで上にあがってドアの鍵を開け、ほとんどニケ月ぷりにマンションの部屋に入る
 と、なんだか自分か不法侵入者になったような気持ちがした。そこは六年近く拡が生活を送り、
 隅々まで見慣れたはずの場所だった。しかし今では、ドアの内側にあるのはもう私か含まれてい
 ない風景だった。台所のシンクには食器が積み上げられていたが、それはすべて彼女の使った食
 器だった。洗面所には洗催物が干してあったが、干してある衣服はすべて彼女のものだった。冷
 蔵庫を開けてみたが、その中に入っているのは見覚えのない食品ばかりだった。多くはそのまま
 食べられる出来合いの食品だ。牛乳もオレンジ・ジュースも、私か買っていたメーカーとは遂う
 ものだった。冷凍庫には冷凍食品が詰まっていた。私は冷凍食品というものをまず買わない。二
 ケ月足らずのあいだに実に多くのものごとが変化を遂げてしまう。

  私は流しの中に積まれた食器を洗い、洗濯物を取り込んで畳み(できればアイロンをかけ)、
 冷蔵庫の中の食品をきれいに整理したいという強い衝動に駆られた。でももちろんそんなことは
 しなかった。ここはもう他人の往まいなのだ。私が手を出すべきことではない。
  荷物のうちでいちばん嵩張るのが画材だった。イーゼルやキャンバス、絵筆や絵の具類を放り
 込んだ大きな段ボール箱がひとつ。それから衣服。私はもともと衣服の数を必要としない人間だ。
 いつも同じような服を着ていても気にならない。スーツもネクタイも持だない。厚い冬用のコー
 トを別にすれば、だいたい大型スーツケースひとつに収まってしまう。

  まだ読んでいない何冊かの本と、1ダースばかりのCD。愛用していたコーヒーマグ。水着と
 ゴーグル、スイミング・キャップ。とりあえず必要なものと言えば、せいぜいそれくらいだ。そ
 れらだってなければないで、とくには困りはしないのだが。
  洗面所には私の歯ブラシや髭剃りのセットや、ローションや日焼け止めやヘアトニックがその
 まま残されていた。封を切っていないコンドームの箱がそのまま残っていた。でもそんな細々し
 たものをわざわざ新しい往まいに遂ぶ気にはなれなかった。適当に処分してくれればいい。

  それだけの荷物を車の荷室に積み込んでしまうと、私は台所見戻ってやかんに湯を彿かし、テ
 ィーバッグで紅茶をつくり、テーブルの前に座って飲んだ。それくらいのことはしてかまわない
 だろう。部屋の中はとて心しんとしていた。沈黙が空気の中に、微かな重みを与えていた。まる
 で一人きりで海の底に座っているみたいだ。

  三十分ばかり私は一人でその部屋の中にいた。そのあいだ尋ねてくる人心いなければ、電話の
 ベルも鳴らなかった。冷蔵庫のサーモスタットが一度切れ、一度入っただけだ。私は沈黙の中で
 耳を澄ませ、水深を測るおもりを垂らすみたいに部屋の気配を深った。それはどのように見ても、
 一人暮らしをしている女性の部屋だった。日々の仕事が忙しく、家事をこなしている暇もほとん
 どない。雑用は週末の休みにまとめて片付ける。部屋の中をざっと見渡してみて、そこに見受け
 られるものはすべて彼女自身のものだった。ほかの人物の気配は見当たらない(私の気配さえ既
 にほとんど見当たらない)。ここに男が訪ねてくることはないのだろう。私はそう思った。彼ら
 はたぶん別のところで会うのだろう。

  その部屋に一人でいるあいだ、うまく説明はできないのだが、自分か誰かに見られているとい
 う感触があった。隠しカメラを週して誰かに監視されているような気がした。でももちろんそん
 なことがあるはずはない。妻は機械類にはおそろしく弱い。リモコンの電池の交換さえ自分では
 できない。隠しカメラを設置したり操作したり、そんな器用な真似ができるわけがない。私の神
 経が過敏になっているだけだ。

  それでも私はその部屋にいるあいだ、架空のカメラで逐一行動を記録されているものとして行
 動した。余計なこと、不適切なことは何ひとつしなかった。ユズの机の抽斗を開けて、中にある
 ものを調べたりもしなかった。彼女がストッキングなどを入れたタンスの抽斗の奥に、小さな日
 記帳や大事な手紙を保管していることも知っていたが、それに心手を触れなかった。ノートパソ
 コンのパスワードも知っていたが(もちろんまだ変更していなければだが)、蓋も開けなかった。

 そんなことはすべて、私にはもう関わりのない事柄なのだ。私は自分の飲んだ紅茶カップだけを
 洗い、布巾で拭いて食器棚にしまい、明かりを消した。そして窓際に立って、降り続く外の雨を
 しばらく眺めた。オレンジ色の東京タワーがその奥にほのかに浮き上がっていた。それから部屋
 の鍵を郵便受けに落とし、車を運転して小田原に戻った。おおよそ一時間半の道のりだ。でもま
 るで日帰りで異国に行って戻ってきたみたいに感じられた。



  翌日、担当エージェントに電話をかけた。そして東京に帰ってきたのだが、悪いけれどもうこ
 れ以上、肖像画を描く仕事を続けるつもりはないと言った。

 「もう二度と肖像画は描かない、ということですか?」
 「たぶん」と私は言った。

  彼は私の通告を言葉少なに受け入れた。とくに苦情も言わず、忠告らしきことも口にしなかっ
 た。私がいったん何かを言い出したらあとには引かないことを、彼は知っていたから。
 
 「でも、もしまたこの仕事をやりたくなったら、いつでも連絡してきてください。歓迎します」
 と彼は最後に言った。

 「ありがとう」と私は礼を言った。

 「余計なことかもしれませんが、どうやって生計を立てていくんですか?」
 「まだ決めていません」と私は正直に答えた。「一人暮らしで、そんなに生活費はかからないし、
 今のところまだ多少の蓄えはあるから」 

 「絵は描き続けるんでしょう?」
 「たぶん。ほかにとくにできることもないし」

 「うまく行くといいですね」
 「ありがとう」と私はもう一度礼を言った。それからふと思いついて、それに付け加えるように
 質問した。「何かぼくが覚えておくべきことはあるでしょうか?」

 「あなたが覚えておくべきこと?」
 「つまり、なんていえばいいのかな、プロのアドバイスのようなものです」

  彼は少し考えた。それから言った。「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間が
 かかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます」

  ローリング・ストーンズの古い歌のタイトルみたいだ、と私は思った。
  彼は続けた。「そしてもうひとつ、私が思うに、あなたにはポートレイトを描く特別な能力が
 具わっています。対象の核心にまっすぐに踏み込んで、そこにあるものをつかみ取る直観的な能
 力です。それはほかの人があまり持ち合わせていないものです。そういう能力を手にしながら使
 わないままにしておくのは、いかにも惜しい気がします」

 「でも肖像画を描き続けるのは、今のところぼくのやりたいことじゃないんです」
 「それもよくわかっています。でもその能力はいつかまたあなたを肋けてくれるはずです。うま
 くいくといいですね」

  うまくいくといい、と私も思った。時間が私の側についてくれるといい。

 Route 271

  最初の日、家の持ち主の息子である雨田政彦がボルボを運転して、私をその小田原の家まで運
 れて行ってくれた。「もし気に入れば、今日からでもそのまま柱めばいい」と彼は言った。

  小田原厚木道路を終点近くで降り、長道のような狭いアスファルトの道路を山に向かった。道
 路の両脇には畑かおり、野菜を育てるビニールハウスが並び、ところどころに梅の林が見えた。

 そのあいだほとんど人家も見えず、ひとつの信号もなかった。最後に曲がりくねった急な坂道が
 あり、ギアを落としてそこを延々と上っていくと、道路の突き当たりに家の門が見えた。立派な
 門柱が二本建っているだけで、扉はついていない。塀もついていない。門と塀をつけるつもりで
 作り始めたのだが、思い直してやめたみたいに見えた。そんなものをつける必要もないと途中で
 気がついたのかもしれない。門柱の片方に「雨田」という立派な表札が、まるで看板のようにか
 かっていた。その先に見える小ぶりな家は洋風のコテージで、色あせた煉瓦造りの煙突がスレー
 トの屋根の上に突き出ていた。平屋建てだが、屋根は意外に高かった。高名な日本画家の住まい
 ということで、私は当然のことのように古い和風の建物を想像していたのだが。

    Eurasian jay

  玄関の前の広い車寄せに車を停め、ドアを開けると、カケスのような黒い鳥が何羽か鋭い声を
 上げ、近くの本の柱から空に飛び立っていった。彼らは私たちがそこに侵入してきたことを、快
 く思っていないように見えた。家は周囲をほぼ雑木林に囲まれ、西側だけが谷に面して、眺望が
 広く開けていた。

 「どうだ、見事に何もないところだろう」と雨田は言った。

  私はそこに立ってあたりを見回してみた。たしかに見事に何もないところだった。よくこんな
 寂しいところに家を建てたものだと感心した。よほど人と関わり合うのが嫌いだったのだろう。


心の奥を見抜く、対象の核心を掴み取る直感が鋭いのは才能ではあるが、対象にされた人物側に立て
ば的外れな突っ込みに耐える寛容さや、厄介(過剰)ではないかと想像してもみた。

                                     この項つづく  



【RE100倶楽部:温水バイナリー発電システムⅠ】

今月10日から、洞爺湖町(とうやこちょう)は札幌市から南西へ100キロメートルほどの距離にある
風光明美な場所――湖の北西側に沿って町が広がり、近くには活火山で知られる有珠山(うすざん)
や昭和新山がそびえる、豊富な地熱資源を生かした発電事業が湖畔の温泉街で開始。火山地帯の北海
道・洞爺湖町で地熱発電。温泉組合と町が事業者になって、100℃以下の温泉水を利用できるバイナ
リー方式の発電設備を稼働させた。二酸化炭素を排出しない電力を生み出し、周辺のホテルや旅館ま
で温泉水を配湯、環境を重視する温泉町の魅力で観光客を増やす狙いだといいう(「100℃以下の温
泉水で地熱発電、温泉の町が二酸化炭素フリーの電力を地産地消」スマートジャパン、2017.03.15)。

  Aug. 30, 2013

KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 63 No. 2(Sep. 2013)

それによると、地元の洞爺湖温泉利用協同組合と洞爺湖町が2013年度から地熱資源の開発を進めてき
た。開発の対象になった場所は湖の南西の端にある金比羅山(こんぴらやま)の周辺で、湖畔に広が
る温泉街からも近い。国の支援を受けて地下1100メートル地点まで掘削したところ、99.8℃の温水が
毎分505リットル(30トン/時)も湧き出ることを確認できた。さらに既存の温泉に対する影響もな
かったとのこと。

地熱発電の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は標準で90%に達することから、72kWの発
電能力で年間に57万kWh(キロワット時)の電力を供給できる見込みだ。一般家庭の使用量(年間3600
kWh)に換算して158世帯分に相当する。

バイナリー発電システムを収容した施設は町の一角にあり、冬のあいだは一面が雪に覆われる。この
施設で発電した電力は周辺地域のホテルや旅館に温泉水を配湯するためのヒートポンプの動力として
自家消費する方針。洞爺湖町で導入したバイナリー発電システムは70~95℃の温水を使って発電でき
る。通常の地熱発電では100℃以上の蒸気を取り込んでタービンを回転させる方式だが、バイナリー
発電は100℃以下の低温でも蒸発する沸点の低い媒体を利用する。神戸製鋼所のシステムはオゾン破
壊係数がゼロのフルオロカーボン(HFC245fa、沸点15℃)を媒体に使って環境負荷を低減している。

 スマートジャパン

温泉組合と町が地熱発電に取り組む背景には、長年にわたって町が抱えてきた深刻な問題があった。
町に隣接する有珠山が1977年と2000年に噴火して、町内の住宅や温泉街にまで噴石が飛び散り、一時
は立ち入りができないほどの甚大な被害を受けた。観光客は激減、地域の農業にも影響が出た。人口
の減少にも歯止めがかからない。

町の活性化に向けた取り組みの中で、大きな契機になったのが「洞爺湖有珠山ジオパーク」の誕生だ
(下図)。2009年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が認定する「世界ジオパーク」に日本で初め
て登録されて以降、国内と海外から観光客が増え始めた。

ただし課題として残ったのが電力の問題である。温泉組合では源泉から取り込んだ温泉水をホテルや
旅館に供給するために、ヒートポンプを使って温泉水を沸かしてから配湯する必要がある。寒冷地の
温泉街ならではの対策だが、大量の電力を使うために電気代がかさんでしまう。

しかも電力の消費に伴って二酸化炭素を排出することになる。北海道電力は二酸化炭素排出量の多い
石油火力に依存する割合が大きく、全国の電力会社の中でも二酸化炭素排出係数(電力1kWhあたりの
二酸化炭素排出量)が高い。世界ジオパークの認定地では自然環境を重視した街づくりが求められる。
温泉水を加温するために大量の二酸化炭素を排出する状況を変える必要があった。

豊富にある地熱資源を生かして電力の安定供給と温暖化対策を図るため、2014年度から国の地域再生
計画の認定を受けて「洞爺湖温泉『宝の山』プロジェクト~地熱エネルギー利用による環境・観光活
性化~」の取り組みを開始した。地熱発電によるCO2フリーの電力を地産地消して、環境を重視する
温泉の町としてアピールする狙いだ。今後は学生を対象にした環境教育にも地熱発電施設を利用して
いくとのこと。

 
● 温水バイナリーと木質バイオマス燃料との融合発電システム

冷泉(あるいは地下水)を原泉としてそれを木質バイオ燃料で加熱し給湯及びガス化し発電するシス
テムは、最大{(100℃-水温)+蒸発潜熱}×水量分だけのエネルギーを木質バイオ燃料にて加熱
する部分を除き、基本的に低温バイナリ発電システム(熱媒体循環システムを使用しない従来システ
ムとするかはオプション)と同じである。豊富な地下水を使い発電+給湯+温泉とする事業――田園
城郭都市構想34、第9章「湖の碧い四つの古城」構想)」(彦根市民の飲み水を守る会、2017.
03.12
)を構想している。

 

この事業構想と融合できれば全国的波及すれば、エネルギーの地産地消できれば、地方創生と地球環
境保全の両立の有力なプラットフォームが形成できる。まずは、モデルシステムで実験する必要があ
る(この件は残件扱い)。

  ● 今夜の一曲

 悲しいことかあると開<革の表紙
 卒業写真のあの人はやさしい目をしてる

 街でみかけたとき何も言えなかった
 卒業写真の面影がそのままだったから

 人ごみに流されてかわってゆく私を
 あなたはどきどき遠<で叱って

 話かけるようにゆれる柳の下を
 通った道さえ今はもう電車から見るだけ

 あの頃の生き方をあなたは忘れないで
 あなたは私の青春そのもの

 人ごみに流されてかわってゆ<私を
 あなたはどきどき遠<で叱って

 あなたは私の青春そのもの

                     『卒業写真』 作詞/作曲 荒井由美




可愛い名残雪

異常気象でも、春休みの季節に入り、雪がちらつくこともあっても積もることはないだろう。現に今
日はお彼岸(パーラミター)で夢京橋はキャッスルロードにも多くの観光客が思い思いに歩いていた。
家に戻り、息子たちの写真をみせる。あまりに可愛いので、長男(撮影:1984年1月)の積雪の
ときの写真を一枚、スキャンしアップする。勿論、この当時はデジカメはなかったのだから、科学技
術進歩の早さに改めて驚くとともに、この当時はもっと雪深かったんだと懐かしく二人で回想する。

                                           

           

 


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