その異なるものよりこれを視れば、肝胆も楚越(そえつ)なり、
その同じきものよりこれを視れば、万物もみな一なり
徳充符(とくじゅうふ)
※ 静止した水はいっさいを包む:あらゆるものは違うという点から見れば、
どれ一つとして同じ物はない。たとえば、すぐ近くにある肝臓と胆嚢(た
んのう)でさえ、楚の国と越の国ほどのへだたりがある。これに対し、あ
らゆるものは同じだという点から見れば、万物はすべて一つである。
※ 徳充符:荘子にとって徳の充実とは、いっさいの固定観念から脱却し、お
のれを虚にすることにほかならない。"徳充ちたる符"は、いっさいをある
がままに受けいれていく人間にのみ与えられる。
【DIY日誌:中断と再会】
● 開店休業中スリーディプリンタ屋
すっかり掲載しなくなった「スリーディプリンタ」。言い訳じみているが、ハードの組み立ては簡単
で、デザイン/ソフトの考案/習得に時間が掛かるのは常識、環境工学研究所WEEF の仕事にを抱え
ていてはとても時間が割けないというのが実情で、プリンタは収納庫に放置で断念。
● シロアリ駆除は、考案の燻煙法のテスト
第1回目の試作機をテスト。不具合5項目――❶天板厚み不足、❷と出ノズル口径変更、❸注水ノズ
ル口径変更、❹ノズル材質変更、❺逆止弁追加。尚、駆除方法はマル秘。このトライは、この夏に従
来法(散布法)との時間差併行テストを実施(予定)。
● 完全な2次元のナノマテリアルプリントトランジスタ
―― 複合ナノシートと電解質の併用で実現
Apr. 07, 2017
今月7日、ダブリン大学のJonathan Coleman教授らの研究グループは、完全な2次元のナノマテリアル
プリントトランジスタを製作。これらの材料は、新しい電子特性と低コスト化の可能性を組み合わせ
ている。この画期的な新機能は、デジタルカウントダウンを表示警告する食品包装、ワインの最適温度を知ら
れるラベルなどモノ情報(IoT)などの新しい未来的な機能付加を実現する。また、ICT(情報通信技術
)や製薬業界、太陽電池からLED にわたり、電子デバイスを安価にプリントし、インタラクティブな
食品/薬などのスマートラベルから次世代紙幣セキュリティや電子パスポートなどラベル、ポスター、
パッケージなどの広範囲の用途が想定される。このプリントされた電子回路は、消費商品の情報を収
集/処理/表示/伝達を実現する(例えば、上写真のミルクカートンのように)。この様に2次元ナ
ノマテリアルは、従来のプリンタブルな電子デバイスで使用されている材料と競合できると考える。
また、研究グループは、このプリンタブルな電子デバイスは、過去30年間、グラフェンベースは研
究開発されてきた。これらの分子はプリンタブルなインキに容易に変えることができるが不安定であ
った。カーボンナノチューブや無機ナノ粒子などの代替材料を用いて、克服しようとする試みが数多
く行われてきたが、これらの材料は性能や生産性に難点を抱えていた。プリントされた2次元デバイ
スの性能は、高度なトランジスタとだ比較できるほどではないが、プリンタブルトランジスタの性能
向上できると考えている。
このインクを作るため、研究グループは2008年にColeman 研究室で開発された「液相剥離」を利用し
て層状結晶を剥離する。これにより、溶液中に分散した2次元シートが大量に生成され、インクジェ
ットプリンタで印刷できるが、当初の大きな課題は、ナノシート・ネットワークの電流をオン/オフす
る方法を探し出す必要があった。スイッチングのために十分な電流レベルを得るためには、より厚い
ネットワークが必要とされるだけでなく、スイッチングの効率も低下する。そこで、従来の誘電体材
料の代わりに新しい形態の固体電解質を開発し電気化学的克服法を考え出す―――窒化ホウ素ネット
ワークの細孔をイオン液体で充填し、固体のような構造を与え、電荷を蓄積してスイッチングを起こ
すためのイオン移動度を伴うというものである。
下図の構造説明図のように、イオン液体中で ❶アルミナ被覆PET上に、❷グラフェン電極、❸窒化ホ
ウ素誘電/絶縁体、❹セレンタングステン超伝導チャネルナノシートで構成する2次元ナノ材料を作
製。これらのナノシートは、数ナノメートルの厚さで、数百ナノメートルの幅を有する平坦なナノ粒
子。重要なことに、異なる材料から構成したナノシートは、導電性、絶縁性または半導体性の電子特
性を有し、電子工学のすべての構成要素を含むものである。液体処理は、インクに加工するのが容易
な形態で高品質の2次元材料を大量に生成できるのが特徴で、非常に低コストで回路印刷できる。ア
ニメーションポスターからスマートラベルにわたる広範囲の用途を実現するが、一方で、移動性、オ
ン/オフ比、スイッチング速度を向上させるなどの、パフォーマンスを大幅改善する課題が残る。
All-printed thin-film transistors from networks of liquid-exfoliated nanosheets, Science 07 Apr 2017:
Vol. 356, Issue 6333, pp. 69-73 DOI: 10.1126/science.aal4062
16.比較的良い一日
免色が電話を切ったすぐあとに、人妻のガールフレンドから電話がかかってきた。私は少し驚
いた。夜のこんな時刻に彼女から連絡があるのは珍しいことだったからだ。
「明日のお昼頃に会えないかな?」と彼女は言った。
「悪いけど、明日は約束があるんだ。ついさっき予定を入れてしまった」
「他の女の人じゃないわよね?」
「違う。例の免色さんだよ。ぼくは彼の肖像画を描いている」
「あなたは彼の肖像画を描いている」と彼女は繰り返した。「じゃあ、明後日は?」
「明後日はきれいそっくり空いている」
「よかった。午後の早くでかまわない?」
「もちろんかまわないけど、でも土曜日だよ」
「それはなんとかなると思う」
「何かあったの?」と私は尋ねた。
彼女は言った。「どうしてそんなことを訊くの?」
「君がこんな時刻にうちに電話をしてくるのは、あまりないことだから」
彼女は喉の奥の方で小さな声を出した。呼吸の微調整をしているみたいに。「今はひとりで車
の中にいるの。携帯でかけている」
「車の中でひとりで何をしているの?」
「車の中でひとりになりたかったから、ただ車の中でひとりになっているだけよ。主婦にはね、
そういう時期がたまにあるの。いけない?」
「いけなくはない。まったく」
彼女はため息をついた。あちこちのため息をひとつにまとめ、圧縮したようなため息だった。
そして言った。「あなたが今ここにいるといいと思う。そして後ろから入れてくれるといいなと
思う。前戯とかそういうのはとくにいらない。しっかり湿ってるからぜんぜん大丈夫よ。そして
思い切り大胆にかき回してほしい」
「楽しそうだ。でもそうやって思い切り大胆にかき回すには、ミニの車内は少し狭すぎるかもし
れない」
「贅沢はいえない」と彼女は言った。
「工夫してみよう」
「そして左手で乳房をもみながら、右手でクリトリスを触っていてほしい」
「右足は何をすればいいのかな? カーステレオの調整くらいはできそうだけど。音楽はトニー・
ベネットでかまわないかな?」
「冗談で言ってるんじやないのよ。私はしっかり真刻なんだから」
「わかった。悪かった。真剣にやろう」と私は言った。「ところで今、君はどんな服を着ている?」
「私か今、どんな服を着ているか知りたいわけ?」と誘いかけるように彼女は言った。
「知りたいな。それによってこちらの手順も変わってくるから」
彼女は着ている服についてとても克明に電話で説明してくれた。成熟した女性たちがどれくら
い変化に富んだ衣服を身につけているか、そのことは常に私を驚かせる。彼女は口頭でそれを一
枚一枚、順番に脱いでいった。
「どう、十分硬くなったかしら?」と彼女は尋ねた。
「金槌みたいに」と私は言った。
「釘だって打てる?」
「もちろん」
世の中には釘を打つべき金槌があり、金槌に打たれるべき釘がある、と言ったのは誰だったろ
う? ニーチェだったか、ショーペンハウエルだったか。あるいはそんなこと誰も言っていない
かもしれない。
私たちは電話回線を通して、リアルに真剣に身体を絡め合った。彼女を相手に――あるいは他
の誰とも――そんなことをするのは初めてだった。しかし彼女の言葉による描写はずいぶん細密
で刺激的だったし、想像の世界で行われる性行為はある部分、実際の肉休による行為以上に官能
的だった。言葉はあるときにはきわめて直接的になり、あるときにはエロティツクに示唆的にな
った。そんな言葉のやりとりをひとしきり続けた末に、私は思いもよらず射精に至った。彼女も
オーガズムを迎えたようだった。
私たちはしばらくそのまま、何も言わずに電話口で息を整えていた。
「じやあ、土曜日の午後に」と彼女はやがて気を取り直したように言った。「例のメンシキさん
についても、少しばかり話したいことかあるの」
「何か新しい情報が入ったのかな?」
「例のジャングル通信をとおして、いくつかの新しい情報が。でも直接会って話すことにする。
たぶんいやらしいことをしながら」
「これから家に帰るの?」
「もちろん」と彼女は言った。「そろそろ家に戻らなくちやならない」
「運転に気をつけて」
「そうね。気をつけなくちや。まだあそこがひくひくしているから」
私はシャワーに入って、射精したばかりのペニスを石鹸で洗った。そしてパジャマに着替え、
その上にカーディガンを羽織り、安物の白ワインのグラスを手に持ってテラスに出て、免色の宮
のある方を眺めた。谷間の向こうの、彼の真っ白な大きな宮の明かりはまだついていた。家中の
明かりがしっかりついているみたいだった。彼がそこで(おそらくは)一人で何をしているのか、
私にはもちろんわからない。コンピュータの画面に向かって、直観の数値化を探求し続けている
のかもしれない。
「比較的良い一日だった」、私は自分に向かってそう言った。
そしてそれは奇妙か一日でもあった。そして明日がどんな一日になるのか、私には見当もつか
なかった。それからふと屋根裏のみみずくのことを思い出した。みみずくにとっても今日は良い
一日だったろうか? それから私は、みみずくの一日はちょうど今頃から始まるのだということ
に気づいた。彼らは昼間は暗いところで眠っている。そして暗くなると森に獲物をとりに出かけ
る。みみずくにはたぶん朝の早い時刻に尋ねなくてはならないのだ。「今日は良い一日だったか
い?」と。
私はベッドに入ってしばらく本を読み、十時半には明かりを消して眠りに就いた。朝の六時前
までそのまま一度も目が覚めなかったところを見ると、たぶん真夜中に鈴は鳴らされなかったの
だろう。
♞ There are horrible people who, instead of solving a problem, tangle it up and make it
harder to solve for anyone who wants to deal with it. Whoever does not know how to
hit the nail on the head should be asked not to hit it at all.
Friedrich Nietzsche
17 どうしてそんな大事なことを見逃していたのか
私が家を出ていくとき、妻が最後に口にした言葉を忘れることができなかった。彼女はこう言
った。「もしこのまま別れても、友だちのままでいてくれる? もし可能であれば」と。私には
そのとき(そしてその後も長いあいだ)、彼女が何を言おうとしていたのか、何を求めていたの
か、うまく理解できなかった。何の昧もしない食物を口にしたときのように、途方に暮れてしま
っただけだった。だからそう言われたとき、「さあ、どうだろう」としか答えられなかった。そ
してそれが私が彼女に面と向かって口にした最後の言葉になった。最後の言葉としてはずいぶん
情けないひとことだ。
別れたあとも、私と彼女とは今でもなお一本の生きた管で繋がっている――私はそのように感
じていた。その管は目には見えないけれど、今でも小さく脈打っていたし、温かい血液らしきも
のが二人の魂のあいだを僅かに行き果していた。そういう生体的感覚が、少なくとも私の側には
まだ残っていた。でもその管もいつかそう遠くない日に断ち切られてしまうことだろう。そして
もしいずれ切断されなくてはならないのなら、私としては二人のおいたを結ぶそのささやかなラ
イフラインを、なるべく早く生命を欠いたものに変えてしまう必要があった。その管から生命が
失われ、ミイラのように干からびたものになってしまえば、鋭い刃物で切断される痛みもそれだ
け耐えやすいものになるからだ。そしてそのためにはユズのことをできるだけ早く、できるだけ
多く忘れてしまう必要があった。だからこそ私は彼女に連絡をとらないように努めていた。旅行
から帰ってきて、荷物を引き取りにいくときに一度だけ電話をかけた。私はあとに残してきた画
材一式を必要としていたから。それが今のところ、別れたあとにユズと交わした唯一の会話であ
り、その会話はとても短いものだった。
我々が夫婦関係を正式に解消し、それからあとも友だちの関係でいられるとは、私にはとても
考えられなかった。我々は結婚していた六年の歳月を連して、ずいぶん多くのものごとを共有し
てきた。多くの時間、多くの感情、多くの言葉と多くの沈黙、多くの連いと多くの判断、多くの
約束と多くの諦め、多くの悦楽と多くの退屈。もちろんお互いに口には出さず、自分の内部に秘
密として抱えていることもいくつかあったはずだ。しかしそのような隠しごとがあるという感覚
さえ、我々はなんとか工夫して共有してきたのだ。そこには時間だけが培うことのできる「場の
重み」が存在した。我々はそのような重力にうまく身体を連合させ、微妙なバランスを取りなが
ら生きてきた。そこにはまた我々独白の「ローカル・ルール」のようなものがいくつも存在した。
それらを全部なしにして、そこにあった重力のバランスや「ローカル・ルール」を抜きにして、
ただ単純に「良き友だち」なんかになれるわけはない。
そのことは私にもよくわかっていた。というか、長い旅行のあいだ一人でずっと考え抜いた末
に、そういう結論に私は達していた。どれだけ考えても、出てくる結論はいつも同じだった。
ユズとはできるだけ距離を置き、接触を断っていた方がいい。それが筋の通ったまともな考え
方だった。そして私はそれを実行した。
またその一方で、ユズの方からも連絡はまったくこなかった。一本の電話もかかってこなかっ
たし、一通の手紙も届けられなかった。「友だちでいたい」と口にしたのは彼女の方であるにも
かかわらずだ。そしてそのことは思いのほか、予想を連かに超えて私を傷つけた。いや、正確に
言えば、私を傷つけたのは実際には私自身たった。私の感情はそのいつまでも続く沈黙の中で、
刃物でできた重い振り子のように、ひとつの極端からもうひとつの極端へと大きな弧を描いて行
き来した。その感情の弧は、私の肌にいくつもの生々しい傷跡を残していった。そして私がその
痛みを忘れるための方法は、実質的にはひとつしかなかった。もちろん絵を描くことだ。
この項つづく
✪ 滋賀の隠れた名産品「笹寿しセット」 (有)仲よし(道の駅 藤樹の里あどがわ)
彦根市長選挙の連呼を逃げるかのように湖西へ車を走らせる。途中、海津大崎~管浦間の土砂崩れ
事故で不通。折り返し国道を通り高島の安曇川へ向かう。「道の駅 藤樹の里あどがわ」で二人で「
鰊そば」を頂きドライブを折り返す。途中、ハードトップの左ループジョイント金具が脱落のトラ
ブルに見舞われ(修理)、木之本から北陸高速自動車道に入り、開設された小谷城趾スマートイン
ターチェンジを下り、長浜バイパス道を経由し国道8号線を走る。途中、マツダ自販店により故障
を伝え帰宅する。早速、買ってきた、アドベリークッキーを食べ、「笹寿しセット」と白い金麦を
食べまた飲み干す。