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スノーデンの返信 Ⅰ

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             宣公十二年(- 597) 邲(ひつ)の戦い   / 楚の荘王制覇の時代


                                                

    ♞ 晋軍敗走す

    ※ 楚の荘王は、二人の大夫唐狡および蔡鳩居を使者として唐(楚の属国)の恵俣に
      告げさせた。「わが軍がこのような大敵と戦う破目におちいったのは、わたしの
      不徳・貪欲のいたすところ、すべての責任はわたしにあります。しかし万一わが
      楚国が敵に勝てなかった場合は、同盟国たる貴国の恥ともなるわけ、恐縮とは思
      うが、わが軍の勝利のため、御助力をいただきたい」
      荘王は潘党に遊軍の兵車四十乗を授けて、救援に赴いた唐の恵公の下に付け、こ
      れを左拒(左翼)として、晋の上軍を迫撃させた。

       晋の上軍の副将駒伯(郤克の子郤錡宇)が、「断固迎え打つべきです」と言っ
      たが、隋季(士会、上軍の将)は、「楚軍の士気はいま絶頂にある。もし敵が全
      力を投じてわが軍にかかってくれば、わが軍の全滅は必至だ。それよりは兵をま
      とめて引き揚げた方がよい。敗走のそしりを友軍と分がちあい、戦わずに人民を
      生かすことにもなる。それもよいことではないか」と言って、自分のひきいる兵
      卒をもって殿軍とし、撤退した。かくて下軍だけは敗北を免れたのである。

      ところで撤退する晋軍のなかに、道の穴ぼこに落ちこんで動きがとれなくなった
      兵車があった。これを追って来た楚兵が、「軍の横木を抜け」 と教えた。言わ
      れた通りにすると、少し進んだ。だが、こんどは馬がどうどう巡りしてやっぱり
      進めない。すると楚兵がまた、「大旗を抜きとって、馬の頌の横木の上に投げる
      んだ」と教えた。その通りにして、ようやく穴ぼこから出ることができた。する
      と、兵車の兵士たちは皆兵の方をふり返って、へらず口を叩いた。「こちらは
      お国のように何度も負けて逃げた経験がないものだからね」

      さきに林の中に逃げこみ、戦況をうかがっていた趙旃は、持っていた二頭の良馬
      を自分の兄と叔父に譲って二人を逃がし、自分はほかの馬に乗って逃げていたが、
      途中で敵に遭遇し、これをふりきることができず、ふたたび林の中に逃げこんだ。
      逢大夫は二人の息子とともに兵車に乗って逃げる途中、趙旃の姿を認めたが、か
      れを乗せれば、二人の息子を降ろさねばならないので、「うしろを見るな」と二
      人の息子に言った。ところが、息子たちはうしろをふりかえり、「あっ、うしろ
      の方に趙老人(趙旃をさす)・・・」 と言った。逢大夫は腹を立てて二人を車から
            下ろし、一本の木を指差して、「お前たちの死骸をそこに捜しに来る」と言い、
      趙旃に車の握り綱をつかまらせて車に乗せ、難を免れさせた。あくる日、その木
      を目印にして二人の死骸をさがしたところ、兄弟折り重なって戦死していた。

      



● 彼は現代の英雄か悪漢か

昨日の昼、麦とろろ御膳を食べに行きましょうというので「美濠の舎」に出かけ、帰り道、珍しくレンタル
DVD『スノーデン』を借りて観賞する。ところで、1992年、米連邦議会が Scientific and Advanced-Techno-
logy Act(科学および先端技術法案、合衆国法典第42編第1862(g)条 42 U.S.C. § 1862(g))を可決し、Windows 3.1
for Workgroupが発売され世界的インターネットが普及することになるが、この技術が米国政府の監視下に入
ることは公知の秘密であったが、それから21年後、米国の一人の愛国青年の内部告発が世界が震撼させる
ことになる。

それは、まさしく世界中に激震が走った瞬間だった。2013年6月、英国のガーディアン紙が報じたスクープ
で、米国カ政府が秘密裏に構築した国際的な監視プログラムの存在が暴露されたのだ。さらに驚くべきは、
ガーディアン紙に大量の最高機密情報提供者は、たったひとりのNSA(米国国家安全保障局)職員であり、
ごく普通の29歳の若者だった。匿名ではなく自らカメラの前に立ち、エドワード・スノーデンと名乗って
素性を明かしたその青年は、なぜNSAやCIAから得られる多額の報酬と輝かしいキャリア、恋人と築き上げ
た幸せな人生のすべてを捨ててまで重大な告発を決意したのか。はたして彼は英雄なのか、国家の裏切り者
なのか。ハリウッドきっての社会派の巨匠オリバー・ストーンが史上最大の内部告発“スノーデン事件”の
全貌に迫った問題作、映画『スノーデン』(参考:公式ホームページ|イントロダクション)。

2004年、9.11後の対テロ戦争を進める祖国アメリカに貢献したいと考えて軍に志願入隊したスノーデン
は、足に大怪我を負って除隊を余儀なくされる。失意のさなかCIAに採用され、ずば抜けたコンピュータ技
術を教官に認められ、2007年にスイス・ジュネーヴへ派遣される。そこで、米国政府が対テロ諜報活動の名
のもとでの世界中のメール、チャット、SNSを監視、膨大な情報を収集する実態を目にする。やがてNSAの
契約(情報システム管理)技術者(として東京の横田基地、ハワイのCIA工作センターへと赴任し、民主主
義と個人の自由を揺るがす政府不信を募らせたスノーデンは、恋人のリンゼイをハワイの自宅に残し、命が
けの告発に踏みきる。



映画は2013年6月,ハワイのオフィスで NSAの最高機密を盗み出したスノーデンが、香港の高級ホテルでド
キュメンタリー作家のローラ・ポイトラス、ガーディアン紙のコラムニスト、グレン・グリーンウォルドと
初めて対面するところから始まる。その密室での異様な緊迫感に満ちたやりとりは、アカデミー賞長編ドキ
ュメンタリー賞を受賞した『シチズンフォー スノーデンの暴露』に克明に記録されているが、本作はそこ
から9年前にさかのぼり、コンピュータのオタクであり、国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、恐る
べき現実に理想を打ち砕かれる。

※ Q&A:NSAのPrismインターネット監視計画, BBCニュース, 2013.07.01



米国の情報収集プログラムはテロリストだけでなく民間企業や個人におよび、日本を含む同盟国まで対象に
なっていた驚愕の事実の数々。加えて、スノーデン自身が私生活を監視される恐怖に襲われ、ストレスに蝕
まれていった極限心理が生々しいサスペンスとともに描かれる。テロとは何の関係もないインターネットや
携帯電話での発言、個人の趣味、愛情、友情さえも脅かされかねない現実はもはやSFではなく、スノーデン
が世界最強の情報機関に反旗を翻した動機もまさにそこにあった。

また、この作品では長年にわたってスノーデンのパートナーとして寄り添うリンゼイ・ミルズとの出会いと、
その後の軌跡を描き、思想や趣味はまったく異なるふたりが幾多の試練に直面しながらも、共に人生を歩ん
でいくことを確かめ合い、かけがえのない絆で結ばれていく。史上最大の内部告発者スノーデンが実は日本
のカルチャーに興味を持っていた意外な一面など、プライベートの領域にも切り込み観客者の共感を誘う。
『(500)日のサマー』『インセプション』『ザ・ウォーク』などで日本でも多くのファンを獲得する若き
実力派俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィットの渾身の役作りも見逃せない。スノーデン本人と見まがうほど
瓜ふたつの風貌、声色、仕種をマスターするとともに、内部告発者としての崇高な信念、ナイーヴなひとり
の青年の心の機微を表現したその演技は、あらゆる観客の目を釘付けにする。また、恋人リンゼイに扮する、
『ダイバージェント』『きっと、星のせいじゃない。』 でハリウッドの若きスター女優となったシャイリ
ーン・ウッドリー。『ザ・ファイター』 でアカデミー賞助演女優賞を受賞したメリッサ・レオ、『スター・
トレック』 シリーズのスポック役で知られるザカリー・クイント、『イン・ザ・ベッドルーム』 『フィク
サー』 でアカデミー賞にノミネートされたトム・ウィルキンソン、『ノッティングヒルの恋人』 のリス・
エヴァンスたちが脇を固め、ニコラス・ケイジがCIAの指導教官役で登場。

『プラトーン』『7月4日に生まれて』で二度のアカデミー賞監督賞に輝き、『JFK』『ニクソン』『ブッシ
ュ』というアメリカ大統領をテーマにした3本の問題作を発表してきたオリバー・ストーン監督が、今回映
画化に挑んだ原作はルーク・ハーディングのノンフィクション「スノーデンファイル 地球上で最も追われ
ている男の真実」。“自由な世界”への純粋な信念に突き動かされ、命がけで国家権力に立ち向かうスノー
デンの生き様を力強く描き上げている。『スラムドッグ$ミリオネア』『ラッシュ/プライドと友情』の撮
影監督アンソニー・ドッド・マントルが、ドキュメンタリーの手法を交えた臨場感あふれる映像も必見。

”自分のすべての発言や行動、仕事、表現、愛情や友情が監視される世界に住もうとは思わない。”

【スノーデン事件】

 




● プリズム(監視プログラム)とは

PRISM(プリズム)とは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が2007年から運営する、極秘の通信監視プログ
ラム。正式名称はUS-984XN。コードネームは名前の通りプリズムにちなむ。マイクロソフトの「So.cl」(
ソーシャル)、Google、Yahoo!、Facebook、Apple、AOL、Skype、YouTube、PalTalkの、合わせて9つのウェブサ
ービスを対象に、ユーザーの電子メールや文書、写真、利用記録、通話など、多岐に渡るメタ情報の収集を
意図している。2013年6月6日、ガーディアンとワシントン・ポスト両紙が、当時NSA勤務者だったエドワー
ド・スノーデンからの内部告発調査報道により、極秘プログラムの存在が明らかとなり、米国政府筋もこの
機密計画の存在を認めている(Wikipedia)。 




● 実話と映画の相違点

映画では、未だ全貌が明らかになっていない事件を扱っているため創作された部分がある(Wikipedia)。

スノーデンが告発する動機は、映画の中ではNSAの監視の目的が国防ではなく世界を支配することであ
り、スノーデン自身への身辺調査の延長として同居している女性まで監視されているとされているが。
実際は、違法となる米国人の通信までをも、NSAが盗聴監視していたことに対する告発である。 スノーデンがマイクロSDカードで情報を盗み出したと描くが、実際には膨大な量を持ち出しており、
さらに、高度な方法を使わないと持ち出せない(盗み出した方法は、スノーデンもNSAも未公表)。 映画では、FISA(外国情報監視法)秘密裁判所の暴露をメインで描かれるが、実際はプリズムの告発が
メインである。 映画の中では、NSAが主要IT企業のサーバーに直接侵入されているが。実際の「プリズム」においては
NSAにIT主要企業は協力している。

 

● 事件背景と告発の意味   

早速、上図『スノーデン 日本への警告』を買続。これをもとに事件背景を読み解く。

   2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件により、世界は一変しました。
   テロの恐怖が世界を覆い、テロ対策と名がつけばあらゆる監視が許されるようになりました。
   テクノロジーが飛躍的に進化したことと相まって、SFの中でしか見られなかった技術が現実
   のものとなり、想像を絶する監視政策が進められています。安全・安心の旗印のもとプライバ
   シーなどの市民の自由は後退を余儀なくされる一方、政府は秘密のベールに包まれたままほと
   んどフリーハンドで情報を集めて利用するという非対称な社会が実現しつつありました。
    そこに登場したのがエドワード・スノーデン氏です。2013年6月、彼がリークした機密
   資料をもとに、イギリスの「ガーディアン紙」やアメリカの「ワシントンポスト紙」などが連
   日にわたり、アメリカ連邦政府の監視捜査の実態を白日の下にさらしました。光ファイバーに
   直接アクセスして膨大なインターネット通信を取得していたこと、グーグルやフェイスブック
   といった世界に名だたるインターネット会社に顧客の個人情報を提供させていたこと、議会や
   裁判所の監督が実質的に骨抜きとなっていたことなどが、次々に暴かれていきました。自由で
   オープンで民主的な国家というアメリカの理念は、根元から崩れつつあったのです。

    スノーデン氏の登場は、9・11同じように社会を大きく変える画期的な出来事となりまし
   た。テロに怯えるあまり国家の理念を放り投げてしまってよいのか、最先端のテクノロジーを
   用いた監視はどこまで許されるべきなのか、現代においてプライバシーにはどのような意義が
   あるのか-スノーデン氏のりークにより議論の土俵が変わりました。世界は新しいフェーズに
   入ったのです。
    日本ではともするとスノーデン・リークが対岸の火事のように扱われます。日本政府の監視
   政策はアメリカほどひどくないと信じられているのかもしれません。しかしそのように考える
   ことはふたつの点て間違いです。
    第一に、日本の監視政策は世界に類を見ないほど秘密主義的です。全貌が明らかにされるこ
   とは皆無です。顔認証技術、DNA型データベース、Nシステムなどの強力な監視技術が秘密
   のベールに包まれたまま日常的に用いられています。そして、単発的に白日の下にさらされる
   事実をつなぎ合わせてみれば、日本政府が他国に引けを取らないほど強力な監視捜査を実施し
   ていることが明らかになります。2017年1月31日には、政府が10年以上にわたり捜査
   にGPS装置を利用しながら、捜査資料にはGPSに関する事実を一切記載しないよう日本中
   の警察に徹底させていたことが明らかになりました。組織ぐるみで監視の事実を完璧に隠蔽す
   ることに成功していたわけです。2016年8月には、大分県の警察が野党の選挙事務所に監
   視カメラを違法に設置していたことが明らかになりました。2010年10月には公安資料が
   インターネットに流出し、警察が日本に住むすべてのムスリム(ィスラム教徒)を秘密裏に監
   視していたことも明らかになりました。
    他国でこのような事実が明らかになれば、世論の後押しを受け、メディアや議会が検証を求
   めたことでしょう。しかし日本では、これらの事実が明らかにされても、捜査機関自身が内部
   調査を公開することも、議会に検証委員会が設置されることもなく、月日が経てばなかったよ
   うにされていきます。依然として情報公開は進まず、制度を変革しようという動きもありませ
   ん。
    結局、偶発的な事情によって氷山の一角が明らかにされても、氷山がどれほどの大きさなの
   かうかがい知ることすらできないため、現時点において、日本政府の監視政策がアメリカのも
   のよりも緩やかである保証はどこにもないのです。

    第二に、たとえ現時点ではアメリカほどの監視技術が用いられていないとしても、近い将来
   には現実のものとなる可能性があります。一般にテロ対策は各国の連携が求められがちな分野
   です。実際、先述のムスリム捜査の流出資料の中には、アメリカの捜査機関が日本政府に監視
   捜査の実施を委託したとみられるものが含まれています。アメリカ政府から、アメリカ政府が
   実施するものと同レベルの監視捜査を実施し、相互に情報を共有するよう要請されることが予
   想されます。また、仮に2017年3月現在国会で議論されている共謀罪が成立すれば、共謀
   の事実を立証するための重要な捜査手法として、近い将来にSNSや電子メールの内容を傍受
   する監視捜査の合法化が求められるでしょう。
    スノーデン・リークは決して対岸の火事ではありません。これからの日本の監視政策を考え
   る際に、スノーデン・リークを基礎として積み重ねられている議論の理解は不可欠です。そし
   てそのためには、オルタナティブーファクトやポスト真実といった言葉が世間をにぎわせてい
   る今だからこそ、正確な事実を議論の土台としなければなりません。
    スノーデン氏の言葉には正確な事実が満ち溢れています。日本における監視政策の議論を実
   りあるものとするために、スノーデン氏の警告に耳を傾けることが必要です。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                                   イントロダクション


2016年6月4日、東京大学のキャンパスで200名以上の聴衆者の前で、「これから国家のナショナル・
セキュリティとプライバシー」についての講演がエドワード・ジョセフ・スノーデン氏とのインタビュー形
式で行われ次のように答えている(聞き手=金晶浩)。

    権限が拡大するなかで、国に貢献するとは一体どういうことなのだろうと疑念を持ち始めま
     した。トップ・シークレットとされる情報にアクセスできるようになり、政府が公表する内容
   とかけ離れた活動に従事していることに気付くようになったのです。政府は国が定めた法律に
   反しているのではないかと。国が掲げる価値観と正反対の活動がなされていることに気付いた
   のです。
    これで悩みました。そして国民の義務とは何か、民主主義とは何を意味するのかを考えるよ
   うになったのです。
    民主主義とは政府の正統性の根源です。国民は、国のあるべき方向を選択して選挙で投票し、
   結果として統治される国民の総意として選ばれたという事実が政府の正統性の由来です。
   もし投票するために十分な情報が開示されていなければどうでしょうか。さらには政府が実施
   する施策について情報を隠し、嘘をついているとなればどうでしょうか。このことは国の民主
   主義の将来にとってどのようなことを意味するのでしょうか。
    私は、私たちが内実を知り理解する政府こそが良い政府であると強く信じています。とはい
   え政府はあらゆる情報を公開するべきだと言っているわけではありません。マフィアのボスや
   やくざの親分、テロリストに開する捜査情報を公表するべきだなどと言っているわけではあり
   ません。
    しかし、オープンで自由な民主主義社会において、市民が政府と対等の当事者として社会に
   関与し、公的・私的・政治的問わず何らかの役割を果たすためには、政府が求める権限の概要
   と外延は少なくとも知らされなければなりません。
    政府の中にこのことに反対の人がいるならば、それがトップの安倍首相であれ、自衛隊や防
   衛省の事務方であれ、地方自治体の職員であれ、協力企業の職員であれ、社会福祉法人の職員
   であれ、この民主主義の原則を信じていない人がいるならば、そこから政府の腐敗は始まるの
   です。2013年のリークが投げかけたテーマは監視だけではないと考えています。問われて
   いるのは民主主義の問題です。
    捜査のためにあるいは世論を形成するために、国民の名の下に実施しつつ、大衆としての国
   民を対象としていたアメリカ政府の広範な監視政策について、私たちはどこまで知る必要があ
   るのでしょうか。このことを私たちが制御できなくなれば、監視の方法について民主的な統制
   を及ぼすことができないとすれば、市民と政府の関係は根本的な変容を迫られていることにな
   ります。

                
                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                          イントロダクション:NASの活動の疑念

    機密情報を私の手で一方的に外部に公表したことはありません。公表する情報に自分自身の
   政治的な信条の影響が及ばないようにするために、常にジャーナリストを通じ
   て公表してきました。これは私の確固たる方針です。どの情報を公開しどの情報を公開しない
   かという問題は、道徳的に考えられなければならなりません。
    このインタビューにはジャーナリストを関与させていませんから、この質問に答えるにあた
   り現在公開されている情報以上のものをここで提供することはできません。しかし、すでに知
   られている情報をもとに申し上げたいことは、アメリカと日本が、ほかの国々と同様に、イン
   テリジェンス情報を交換する関係にあるということです。
   「ニューヨークタイムズ紙」とProPublicaが公表した記事によって、アメリカ政府がAT&Tな
   どの通信会社を経由して実施するマス・サーベイランスの方法が明らかにされています。記事
   によると、フェアビューというプログラムに基づいて、たとえば、ヨーロッパとイギリス、あ
   るいはヨーロッパとアメリカといった国同士・大陸同士が、光フアイバーによってつなげられ
   ています。みなさんのインターネットのコミュニケーションは、海底地下ケーブルを使って伝
   達されていますが、ここを経由したほとんどの情報は最終的にはアメリカを通ることになりま
   す。アメリカの通信事業会社はこうした情報に関して、NSAに対し収集・利用などのあらゆ
   る権限を与える無制限のアクセスを許可しています。通信事業者は、データを無許可でコピー
   し、監視目的で使用しているわけです。

    ここで重要なことは、この問題が合法かどうかではありません。一部の捜査活動は完全に合
   法です。けれども非道徳な活動です。つまり政府は合法的に非道徳的な活動に従事することが
   できるのです。今回のスキャンダルにおいて最も重要な問題は、政府が法律を破らなくとも権
   利を侵害する活動ができてしまうことにあるのです。
    日本も、こういった国際的な光ファイバーをアメリカと共有しています。日本側の通信は、
   NTTコミュニケーションズなどによって管理されています。アメリカの通信会社はアメリカ
   を経由する通信を傍受しNSAに提供しているわけですが、日本の通信事業会社も日本を経由
   する通信については同じように傍受することができます。では日本の通信会社もこうした情報
   を政府と共有しているのでしょうか。私にはわかりません。具体的に知っていることはありま
   せん。しかしこういうことがありました。

    ハワイでNSAの仕事をしていた時に、Xキースコアいう大量監視ツールを用いていました。
   このツールを用いると特定の調査対象の通信をすべて把握することができます。
    たとえば私の担当国は中国で、中国のハッカーなどを追跡するという仕事がありました。追
   跡によって得られるIPアドレスから、通信がどこからどこへ接続しようとされていたかを把
   握することができます。IPアドレスとは、完全に正確な比喩ではありませんが、大まかにい
   うとインターネットの世界における住所のようなものです。IPアドレスを見ればどこからど
   こに向けて接続されたかがわかります。NSAでは、通信ごとにフラグをつけて、アメリカの
   IPアドレスから来た通信、中国のIPアドレスから来た通信、といった形で分類しています。

    NSAが保管する通信の中には、日本のフラグがつけられたものが多数ありました。こうし
   た情報はどのように入手されたものなのでしょうか。アメリカ政府が日本政府に知らせずに一
   方的に情報を得ていたのでしょうか。それとも、このような監視活動に関して、両国政府は情
   報を交換していたのでしょうか。十分にありうることですが、断言はできません。
    ただ横田基地という、アメリカと日本の情報機関の橋渡しをする施設で働いた経験から申し
   上げると、アメリカの情報機関は、常時、日本の情報機関とアメリカにおける情報を交換して
   いますし、日本もしばしばアメリカに対して日本に関する情報を交換しています。政府同士
   が、潜在的なテロの脅威や軍事上の脅威、敵対的な行動の兆候や警報といった情報を交換する
   ことは、正常かつ適切なことです。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
              イントロダクション:監視活動に関するアメリカと日本の協力関係
   

    2013年6月、私は政府による違法な情報収集に関するトップ・シークレットの機密情報
   を暴露しました。政府はこの行為を犯罪だと主張しています。しかし、ここで重要なことは、
   政府にはこのような事態を回避するチャンスがあったということです。
    政府には、こうした違法な情報収集活動を廃止する機会がありました。私が情報を暴露する
   数カ月前の2013年2月、監視プログラムの違法性を争う訴訟について連邦最高裁判決が出
   されました。この訴訟はACLU(アメリカ自由人権協会)が原告の代理を務めており、アメ
   リカでは大規模な監視捜査が行われていると指摘する多くのジャーナリストの調査報道をもと
   に、NSAが憲法に違反する無差別な監視を行っていると主張していました。原告はこのプロ
   グラムが提起する憲法問題は非常に重要であると主張しました。これに対し政府は、国家機密
   を理由として、ジャーナリストであれ市民団体であれ自らが監視の対象であるという事実を立
   証することは許されないから、裁判所にはこれらのプログラムの違憲性を判断する権限がない
   と主張しました。最終的に最高裁は、政府の主張どおり監視プログラムが現に実施されている
   か否かを立証すること自体が禁止されていると判断しました。このプログラムは法の支配の枠
   外、裁判所による監督の対象外に置かれてしまったのです。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                イントロダクション:秘密主義は政治の意思決定のプロセスや
                                 官僚の質を変えてしまう



                                         この講つづく


   


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