告子(こくし)篇 / 孟子
※ くらべ方が問題:任(じん)の国のある男が屋廬子(孟子の弟子)
にたずねた。「礼とメシとでは、どちらが重要かね」「それは礼で
す」「性欲と礼とでは?」「もちろん礼ですよ」「では、礼を守っ
ていれば餓死するが、守らなければメシが食べられる、という場合
でも、やっぱり礼は守らなければならないのかね。結納をかわすの
であれば妻が娶れない。しかしやらなくてすむならば娶れるという
場合でも、やっぱり儀礼どおりにしなければならないのかね」
屋廬子(おくろし)は返答につまって、翌日郡に行き、孟子にたず
ねた。孟子は、「そんなことに答えられないのか。根もとを見ない
で先端だけくらべるなら、一寸の木切れでも高楼より高いというこ
とができる。金は羽毛より重いという場合、帯止めの金と車一杯の
羽毛とをくらべてそういうのではない。この場合、食事のほうは、
人の生死にかかわっている。ところが礼のほうは、とるにたらぬ例
だ。この二つを比べて、食事が礼より大切だということができるだ
ろうか。また、性欲と礼とをくらべる陽合には子孫を残すという重
要な問題と、とるにたらぬ儀式とをくらべている。これで、性欲が
礼より大切だということができるだろうか。
任の男にこういってやれ、『兄の腕をねじあげて食物を強奪すれば
よし、さもなければ食物にありつけないという場合、あなたは兄の
腕をねじあげるのか。隣の押板を踏みこえて娘をひきずりこめばよ
し、さもなければ妻を持てないという場合、あなたはひきずりこむ
のか』とな」
〈結納〉 駄文は説述。絹紬の当日、「新郎」が新婦を迎えに行く代
代である。妻を娶る場合、納采、同名、納言、細微、告則などを経
て、最後に親迎の礼に至る。もちろんその都度、礼物を持参しなけ
ればならない。
【解説】 原則を固執して特別の場合を認めないのは教条主我である。
特別の場合だけを見て原則を否定するのは経験士族である。仁政礼
智を高唱する孟子は、とかく原則一点ばりと受けとられがちである
が、実は柔軟な思考を持つ実際家でもあるのだ。
No.153
【ピエゾタイル事業篇:圧電素子を超える振動発電機能をもつクラッド鋼板】
● 出力がこれまでの20倍の磁歪複合材料
今月13日、東北大学らの研究グループは、冷間圧延鋼板(SPCC相当)とFeCo系磁歪材料の冷間圧延板
とを熱拡散接合させ。このクラッド構造――性質の異なる異種の金属を圧着した鋼板――で、FeCo 磁歪
材料単独の場合よりも数倍から20倍以上の振動発電出力が得て、電磁力学場の数値シミュレーションに
より増幅機構解明にも成功したことを公表。この成果は、身のまわりの生活振動や工場設備などの微小振
動を利用するIoT センサー用電源から、強靱で衝撃に強い材質を活かして、鉄道車両・自動車などの走行
振動や風力・水力などを利用する大型のエネルギーハーベスティングへの応用が可能となり、省電力が課
題のEV(電気自動車)での応用展開が期待されている。
尚、新開発のクラッド鋼板は、従来から振動発電素子として知られている圧電素子と比較すると、微小な
振動(加速度0.1G、振幅20µm、周波数50Hz)では25倍以上の出力が確認されており、IoTなどの無線センサ
ー用電源としては十分な電力が得られ、破損しにくいという点も特徴となっている。また、冷間圧延鋼板
をニッケル板におきかえたクラッド構造にすると、より大きな出力(圧電素子の50倍以上)が得られ、通
常の磁歪材料に比べ、磁場による形状の変化量が100倍程度大きな材料の超磁歪材料(Galfenol)に匹敵す
る発電性能をもつ可能性があり調査研究されている。
Feb. 12, 2018
東北特殊鋼は2016年から自社の鋼材工場設備の振動を利用したFeCo系磁歪材料による振動発電器を電源と
するIoTセンサーシステム(モーター監視)を試験的に運用。今回開発したクラッド鋼板による振動発電
器を利用することにより、これまで振動が非常に微小なためにセンサーノードが機能しなかった箇所にも
システムを拡大できる。将来の大型化を想定した試験として、クラッド鋼板の小片による振動発電器を、
自動車を模した台車に取り付けて走行させる実験では、数mW(ミリワット)以上の出力を確認しており、
実際の自動車ではW(ワット)級あるいは路面状態によっては、それ以上の発電量が期待できる。
Titol:Magnetostrictive clad steel plates for high-performance vibration energy harvesting Appl. Phys.
Lett. 112, 073902 (2018); https://doi.org/10.1063/1.5016197
❦ どこが違うのか 特開2017-163119 複合強化型の磁歪複合材料及びその製造方法
【概要】
この複合強化型の磁歪複合材料及びその製造方法に係り、より詳細には磁歪合金フィラーを埋め込んだ、
ロバスト(強靱)かつ軽量性を具えた自己発電型スマート複合強化型の磁歪複合材料及びその製造方法に
関し、その原理は、磁歪合金が外力(応力)を受けると、ひずみエネルギーが材料内部に及び、その結晶内
のミクロ的な磁気モーメント領域(以下、磁区または磁気ドメイン(Magnetic Domainと表示)の発生や移
動挙動に影響を及ぼし、ついには、試料表面から応力に対応した形で漏れ磁束が発生する、いわゆる“逆
磁歪現象”を利用する。 そのような機能を有す磁歪合金を薄板や細線に加工して、ポリマー、金属、セ
ラミックスからなる母材(マトリックス)に適切に埋め込み、複合強化と同時に逆磁歪効果(漏れ磁束現
象)を増強して、外力センサや振動発電機能を高めた、複合機能型でスマートな複合材料を提供―― その
ような機能を有す磁歪合金を薄板や細線に加工して、ポリマー、金属、セラミックスからなる母材(マト
リックス)に適切に埋め込み、複合強化と同時に逆磁歪効果(漏れ磁束現象)を増強して、外力センサや
振動発電機能を高めた、複合機能型でスマートな複合材料を提供するものである。
磁歪材料は,エネルギー回収を可能とするため,高い磁歪特性を有し,大量生産可能で,低コストな材料
が要求される。テルビウム,ジスプロシウムおよび鉄から成るTerfenol-Dは,巨大な磁歪(800-1600ppm)
と低い磁気異方性のため,重要な磁歪材料として認められている。様々な応力と磁場下でTerfenol-Dロッド
の磁歪・磁気特性を検討し,最大の磁気弾性定数が比較的低い圧縮プレストレスとバイアス磁場で達成で
きることを示す。また,交通からエネルギーを回収するTerfenol-D電力発生子の設計手法も提案されている。
さらに,森ら[非特許文献6]は,Terfenol-D板を利用した共振調整機能を有するカンチレバーの動的曲げと
環境発電特性に関する研究を理論・実験両面から行っている。Terfenol-Dはエネルギーハーベスティング材
料として有望であるが、脆性や,有効な周波数領域を制限する高い渦電流の発生など,いくつかの問題に
より,圧電材料の代替材料としての使用が制限されている。これらの問題がきっかけとなり,複合材料を
利用して上記問題を解決する検討が行われてきている。最近,Terfenol-D粒子をポリマー母材に分散させた
磁歪複合材料が,高い引張強度と小さな渦電流損失のために注目され、Terfenol-D粒子分散エポキシ樹脂
の応力誘起磁束密度に及ぼすTerfenol-D粒子の分散量とサイズの影響が解明されている。また、Terfenol-D粒
子分散エポキシ複合材料の外力誘起磁場の新しいモデルも提案されている。さらに、Galfenolとして知ら
れているFe-Ga合金は,400ppmの磁歪を示し,一部の研究者はGalfenol振動電力発生器のエネルギーハー
ベスティング特性を研究されているが、しかしながら、それらも生産・加工が難しい、高価などなどの欠
点をもち、本格的な環境発電材料とては不完全で適期事例も少なく、製品化には至っていない。
以上から、従来技術の米国製(特許)の磁歪合金素材2種の問題点と利用限界は以下の通りとなる。
1)鋳造材料は脆く、難加工性で2次加工(線材、板材強加工(圧延、線引き)は“不可能”であった。
2)この2種類の磁歪合金の剛性は鉄系よりも半分以下であり柔らかく、2次加工(強加工)に伴い、内部
に(結晶配向性変化、内部欠陥(われ、転位密度の不均質性、内部応力不均質性)が発生して、磁気/磁
歪特性が大幅に低下してしまう。それゆえに、2次加工材から得られる圧延薄板や絞り込み細線の入手
は不可能であり、それを用いた工業製品は皆無であった。
一方、2011年になって,Fe1-xCox磁歪(x=50-90 at%)合金が鍛造・冷間加工によって開発され
様々な合金組成と熱処理の影響が検討されている。また、高いCo含有量のFe-Co合金に対する熱処
理の影響も研究されている。Fe-Co合金は,高強度,延性,優れた加工性を示し,Fe-Co合金繊
維も容易に作製可能である。高アスペクト比による磁歪連続Fe-Co合金繊維は,様々な特色(低反磁
界係数,強い磁気結晶異方性など)を示すため,Fe-Co繊維をポリマー中に分散させることで,高い
磁歪特性を有する複合材料の開発が期待される。さらに,ポリマー複合材料は,軽量で,作製時にプレス
トレス効果が付与されるなど、Fe-Co繊維の特徴を生かした高品質の複合材料設計が可能となる。
以上をふまえ、ロバスト高強度、大発電力、応力負荷に耐える“自立発電型”スマート材料として多方面
に展開することが可能な複合強化型の磁歪複合材料及びその製造方法を提供するにあたり下図のように、
こと母材と硬化剤をある比率で混合して、FeCoファイバを型の中で一方向に配列し,重りにより応力を負
荷した状態で,母材を型に流し込む。その後,室温にて,24時間硬化させ、さらに,硬化したFeCoファイ
バ強化複合材料を恒温炉内に入れ,80℃に加熱後3時間保持して後硬化させることにより、引張残留応力の
入った高発電力の磁歪繊維強化型複合材料を製造する。FeCoファイバを熱処理することにより、さらに高
性能な磁歪繊維強化型複合材料を製造することもできる。さらに、理論解析を併用し、複合材料を最適化
することもできる。
【図5】複合材料の製造手順
このような複合強化型磁歪複合材高出力圧電素子の研究開発に対し、No.151の「フィルム型ピエゾタイル
事業篇:微風あるところなら自由に設置可能」で紹介したように、低出力ながらフィルム圧電素子(国内
特許事例として紹介した下図の「特開2015-002607|振動発電体(株式会社ビスキャス)もあるが)の2種
類を建造物の表面に配置し、それぞれに好適な表面形状に加工した風圧振動体と一体形成させたモジュー
ルでソーラー/サーモタイルと同様にタイリングが可能だと考えているが、新しい風力発電モジュールが
生まれ、可住面積を損なうことなく発電機能を付加できる。
【日本初発のペロブスカイト年内にも実用化】
2月11日、産経ニュースは日本発の次世代太陽電池が注目を集めている。フィルム状で柔軟に曲げるこ
とができ、低コストで透明化も可能だ。光エネルギーの変換効率は現在主流のシリコン系に迫る水準に向
上し、年内にも実用化が始まる見通しで、太陽電池の用途を大きく広げそうだと報じている。「太陽光か
ら電気を作り出す太陽電池は現在、半導体の基板材料にシリコン(ケイ素)を使うタイプが主流だ。これ
に対して次世代型の本命といわれるのが「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な結晶構造の材料を使うタイ
プだ。鉛を中心に有機化合物、ヨウ素、臭素などが規則的に並ぶ構造で、光を吸収しやすい。太陽光を浴
びると電気的にマイナスの電子とプラスの「正孔」が生じ、光エネルギーが電気エネルギーに変換される
。この原理を桐蔭横浜大の宮坂力(つとむ)特任教授が2005年に発見し、太陽電池に利用する可能性
に道を開いた」と。
❦ どこが違うのか
ここから再確認ということで同社の報道内容を引用する。「宮坂氏は翌年、ペロブスカイト構造を持つフ
ィルム状の物質を2種類の材料でサンドイッチ状に挟み、電子と正孔を逆方向に分離して動かすことで電
流が生じる太陽電池を世界で初めて学会で報告し、09年に論文を発表した。太陽電池の基本性能である
光エネルギーの変換効率は当初、わずか2・2%で、シリコン系の26%台に遠く及ばなかった。だが、
元素構成の改良などで急速に向上し、昨年12月には韓国の研究チームがシリコン系に肉薄する22・7
%を達成した。ありふれた元素を使うため原料費は安い。製造が簡単なのも利点で、ペロブスカイト物質
を含む溶液をガラスやプラスチックの基板にペンキのように塗って乾かすだけで「中学校の理科室でも作
れる」(宮坂氏)。真空ポンプなどの大規模な製造装置が必要なシリコン系に比べ、製造コストは半分以
下という」。
❦ 歩きながら発電
「最大の特徴は薄く柔軟なことだ。シリコン系は固く割れやすいため、最低でも0・1ミリ程度の厚さを持たせる必要
がある。ペロブスカイト物質は重い鉛を含むため比重は2倍だが、100分の1以下の厚さで軽く作れる。太陽電池
の軽量化は設置場所や用途を大きく広げそうだ。シリコン系は重さに耐える平らな場所にしか設置できないが、フ
ィルムのように薄く軽ければ、それほど強度のない壁面や、曲面に取り付けることもできる。ペロブスカイト物質は
赤褐色だが、薄くすれば透明化も可能だ。東京大の研究チームは昨年、半透明の太陽電池を開発。住宅やビル
の窓ガラス、自動車のスモークガラスや天井から光を取り込むサンルーフなどへの応用を想定している。
理化学研究所は衣類に張り付けることができ、洗濯しても変換効率が大幅に低下しない超薄型の太陽電池
の開発を検討している。れらが実用化すれば、自動車のバッテリーや家庭用電力の補助に役立つ。衣類や
かばんに張って外出しながら発電し、携帯電話などのモバイル機器の充電もできそうだ。ペロブスカイト
太陽電池は当初、ほとんど注目されなかった。変換効率があまりに低かったからだ。だが12年に10・
9%を達成してからは開発競争が一気に激化。宮坂氏の09年の論文は、これまでに世界で5千回以上も
引用されている。開発初期は耐久性も数カ月にとどまり、20年以上に及ぶシリコン系と比べ大幅に短い
ことが大きな欠点だった。しかし、有機化合物の変更などの改良が続いた結果、最近は10年以上に向上
したことが実験で確認されている」と。
❦ 課題は安全性
「残る大きな課題は、劣化した際に有害な鉛が漏れ出し、環境を汚染する懸念だ。このため無害な代替物
質の研究が活発化している。理研は昨年、世界最高水準のスーパーコンピューター「京(けい)」による
シミュレーションで、有害物質を含まないペロブスカイト構造の候補物質を一挙に51個も発見した。宮坂
氏は「量産ラインの整備を急いでいる企業もあり、年内にも実用化が始まるだろう。今後はシリコン系を駆逐するの
ではなく、用途や環境に応じた使い分けや組み合わせで共存していくだろう」と話している」と。
※ 『ソーラータイル事業篇:ペロブスカイト型ソーラーの躍進』(2018.02.13.「エネルギーフリー 社会を
語ろう! No.150」)も願参照。
【省エネ篇:世界初SiCパワー半導体で洋上風力の高圧直流送電を高効率化】
2月14日、三菱電機は、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体モジュールを適用することで、洋上風力のHV
DC(高圧直流)送電を効率化する新技術にめどを付けたと発導体モジュールを適用することで、洋上風力
のHVDC(高圧直流)送電を効率化する新技術にめどを付けたことを公表。それによると、SiCパワー半導
体を適用したMMC型HVDC変換器セルの技術検証を実施した。MMCとは、変換器セルを多段に直列接続
した構成の変換器で、洋上風力発電などの長距離・大容量送電に使われる。この変換器の大幅な電力損失
低減と小型軽量化を実現、また、長距離・大容量送電の高効率化や設置面積の制約が大きい洋上プラット
フォームの省スペース化に貢献。
3.3kV SiCパワー半導体モジュールをMMC型HVDC変換器セルに適用し、さらにモジュールを並列化するこ
とで変換器セル内部の抵抗を抑えた。電磁界解析を用いて変換器セル内部の電流分布を可視化し、並列化
したSiCパワー半導体モジュールに電流が均等に流れるように部品を配置することで、電力損失を従来比、
50%に抑えた。SiCパワー半導体モジュールを適用することで、スイッチング周波数を上げられ、周辺部
品であるコンデンサ容量を低減。また、電力の低損失化によって冷却装置の小型化を実現し、変換器セル
の体積を21%、重量を14%低減した。スイッチング周波数は、従来の約150Hzから約350Hzに高めた。
洋上風力発電で得られる電力は、長距離・大容量送電に適したHVDC送電により電力使用地域に送電される
が、そこで既存の交流系統に接続するため、交流と直流の変換器が必要になる。同変換器セルを用いるこ
とで、長距離・大容量送電の大幅な効率化が期待される。また、変換器設置場所の省スペース化による設
置コスト削減にも貢献する。NEDOが管理法人を務める内閣府プロジェクト「戦略的イノベーション創造
プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス」の一環。同プロジェクトでは、シリコン(Si)に代
わるSiCなどの新材料パワー半導体デバイスを製品へ適用するための技術開発を推進し、電力機器の大幅な
高効率化と小型化を目指す。ここでも小さな巨人は働き者だ。