尽心(じんしん)篇 / 孟子
※ 経典も全部は信用しない:言経』の記録をすべて信じこむなら、
『書経』など読まぬほうがよい。武成篇にしろ、わたしはその中
からごく一部を学ぶにすぎない。仁者には天下に敵がないはずだ。
最高の仁治者が極悪人を討伐したのだ。楯が血で洗われるほどの
激戦があろうはずがない。
〈書経〉 夏殷周の治世を述べたもの。百篇からなる儒家の経典の
一つ。
〈武成篇〉『書縁』の中の一篇。武正が訂正を討伐したときの血み
どろの戦闘が書かれている。ただし今日伝わっているの
は偽作とされている。
※ 戦わずして勝つ:「わだしは作戦に自信がある。獄叩得意だ」と
いう人は、大罪に値する。仁徳のある君主なら、天下に敵はない
はずである。南へ征伐に行けば北の蛮族から、東へ征伐に行けば
西の蛮族から「なぜ先に来てくださらないのか」と怨まれる。
武王が殷の討王を征伐し仁とき、兵車は三百台、戦士は三千人に
すぎなかったが、殷の人民に向って「安心せよ、救いに来たのだ。
危害は加えない」と呼ばわったと仁ん、殷の人民はひとり残らず
ひれ伏した。征伐の征とは正すという意味である。自分の国を正
してもらいたいと望まぬものはない。正すことを心がけさえすれ
ば、戦をしかける必要はないのだ。
【蓄電池篇:最新水性ハイブリッドキャパシタ技術】
● わずか20秒で充電 画期的な新エネルギー貯蔵装置Ⅱ
昨夜の、韓国先端科学技術院の特許事例を理解を深めるために下記に掲載。
❑ 特開2013-165267 薄膜型スーパーキャパシタおよびその製造方法
【概要】
本件は、薄膜型スーパーキャパシタおよびその製造方法に関するものであって、グラフェンある
いはグラフェン酸化物を使用して電極フィルムを製造する方法、グラフェンあるいはグラフェン
酸化物電極フィルムをパターニング技法によって独立した二つの電極に分離して、二次元電極を
形成する方法、二次元電極が有するインプレーン(in-plane)構造、集電体(current collecor)を電極に
形成する方法、および二次元電極に電解質を供給してマイクロメートル規模の厚さのスーパーキ
ャパシタを製造する方法を含む。小型化が依然として進行中である携帯電子機器は、超小型モデ
ルに次第に発展しつつあり、厚さが薄くなった機器の性能を極大化するために、携帯電子機器に
バッテリーが内蔵される傾向にある。今後、紙のように薄い携帯電子機器への進化は約束された
も同様で、これに歩調を合わせて電源供給手段(バッテリー)も非常に薄くならなければならな
いが、現在使用されているリチウムバッテリーの構造では、超薄型電子機器に適用するのは困難
である。
これを克服するために開発されたリチウム薄膜電池があるが、単位体積当たり充電能力が一般の
リチウムバッテリーより低く、製造原価は3倍も高く、リチウムを含む特性上、先天的な危険性
を含んでいる。そのため、主要応用分野である人工臓器およびマイクロロボットなどのバイオア
プリケーション分野に適用が困難である。リチウム電池に代替される未来のエネルギー保存手段
として急浮上しているスーパーキャパシタは、数秒で急速充放電が可能であり2次電池より10
倍ほど高出力で、50万サイクル以上の半永久的な寿命を示す次世代エネルギー保存装置である。
スーパーキャパシタの重量当たりエネルギー保存レベルは、従来のバッテリーの1/10レベル
であるが、体積当たりエネルギー保存レベルは、リチウム電池と類似して、最近の報告によれば、
体積当たりエネルギー密度および出力密度の両面において、むしろより優れた結果を示している。
絶対的重量が小さい超小型電子機器には、重量より体積当たりエネルギー保存レベルがより重要
であるので、薄膜型マイクロスーパーキャパシタは、超小型電子機器に非常に適した電源供給手
段である。また、希土類および重金属を全く含まないので、安価で環境に優しく、酸化還元反応
を伴わないので、爆発性の全くない安全な未来型エネルギー保存手段である。薄膜型マイクロス
ーパーキャパシタは、紙のように薄くて、アクセサリー形態の携帯電話はもちろん、マイクロロ
ボット、人工臓器、スマートカード、マイクロ電子機械システムMEMS、電子ペーパーなどの非
常に小さい電源供給装置を必要とする超小型電子機器分野において、既存のバッテリーに代替され
て使用されるものと期待されている。
スーパーキャパシタは、リチウムを全く含まないので、安全性確保の側面で最も優れた電源供給
装置として評価されている。しかし、既存のスーパーキャパシタは、一般的なバッテリーと同一
な構造を有するので、超小型化するのが容易でない。言い換えると、従来のスーパーキャパシタ
は、二つの電極、電流集電体、分離膜がサンドイッチ状に積層されるスタック構造であるので、
MEMSに使用されるように、非常に小さくて薄い形態に製造するのが困難である。特に、スー
パーキャパシタとしてグラフェンを使用する場合、スタック構造では、イオンの移動が難しく、
効率が大きく低下することもある。
上記の課題を解決するために、本発明は、基板に付着された電極フィルムの両側に集電体を形成
する段階、および前記電極フィルムをインプレーン構造にパターニングして、分離された2つの
電極を形成する段階を含む薄膜型スーパーキャパシタの製造方法を一様態として提案。また、本
件は、電極フィルムの両側に集電体が形成されていて、電極フィルムは、インプレーン構造にパ
ターニングされて、分離された二つの電極を形成している薄膜型スーパーキャパシタを他の一様
態として提案。この実施例の薄膜型マイクロスーパーキャパシタは、マイクロ電子機械システム、
電子ペーパー、スマートカードなどの非常に小さい電源供給装置が必要な超小型電子機器分野で、
バッテリーを代替または補完でき、超小型電子機器のためのマイクロエネルギー保存装置への応
用される。
図 スーパーキャパシタの構造図
【符号の説明】
10 基板 12 電極フィルム 14 スパッタリングされた金 16 電気メッキされた金
❦ なぜ、かまぼこ屋がエネルギーのことを考えたのか ❦ No.12
● 対談2 新しい現実をつくる
『エネルギーは集中型か分散型かではなく、ミックスでいく』
藻谷浩介 日本政策投資銀行特任顧問
1964年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。アメリカ・コロンビア大学経営大学院修了。M
BA取得。88年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)人行後、2012年から現職。特定非営利
活動法人ComPus地域経営支援ネットワーク理事長,2011年度内閣官房「東日本大震災
復興構想会議専門委員会」委員、内閣府・財務・経産・国交・総務二厚生労働・文科省等の委員
を務める。海外59カ国を巡歴(米国についでは50州すべてを訪問)している。人口成熟問題、中
心市街地、産業振興、市町村合併、地域金融、観光振興、地域再生などをテーマにしている。著
書に『里山資本主義」一(角川書店/2013)『デフレの正体』(角川書店/2010)『実
測!ニッポンの・地域力』(日本経済新聞出版社 2007)など多数。
日本の国際収支改善は省エネと自然エネルギーから
鈴木 エネルギーに関して、地域でできることの可能性もすごく大きいということがわかり
ましたし、それによって地域の自立にもつながっていく。
それで、ちょっとここで地域の話から国全体の話に視点を変えると、一つの議論が「石炭、
石油を買うから日本は貿易が赤字になって厳しくなる。だから、原子力でいくんだ」という
ものですが、かなりマクロ的にグローバル経済のなかで財政収支を切り口にしたときに、わ
が国のエネルギー政策はどういう方向になるのでしょうか。
藻谷 まず事実を確認しておかないといけないんですが、現時点で最新の2014年4月ま
での国際収支データを見る限り、日本の輸出は震災直後の2カ丹を除いて、それ以前と比べ
まったく減っておりません。ちなみに今年の3月の輸出はリーマンマンショック以降では最
高を記録しました。それなのに震災以降貿易収支は赤字になっています。なぜかというと、
化石燃料の輸入が増えたためです。震災後には1ドル70円台の超円高になりましたから、
その分輸入額が下がったはずなのですが、それを打ち消すくらい化石 燃料の価格高騰が大
きかったのです。
よく、原発をとめたせいで化石燃料輸入が増えたといわれますが、正確には「原発事故によ
り世界中の化石燃料価格が上がった」ことが最大の要因です。さらには、緊急にLNG(液
化天然ガス)を調達しなければならなかった電力会社が、非常に高い単価で契約を余儀なく
されたことも大きく響いています。
鈴木 量の増加以前に価格が相当上がったわけですね。
藻谷 そうです。世界的な上昇に、いわゆるジャパンプレミアムが加わっています。そもそ
も日本が輸入しているLNGの価格は、「原油価格に連動する」というおかしな契約になっ
ている。その結果、一説には国際相場より十数倍も高い価格でLNGを買わされているとい
われます。
そこで、早く原発を再稼働しようという意見が出るわけですが、確かに手持ちの核燃料を使
えばその分、化石燃料の輸入は減りますし、足元の貿易赤字にも若干の改善効果はあるでし
ょう。ですが、発電用は化石燃料輸入の一部です。そもそも重油も軽油もガソリンも灯油も
値上がりしているわけで、赤字そのものを何とかしたければ、日本全体のエネルギー消費を
見直すしかありません。ましてや、いま、極端に円高に振れているのが円安に戻っていくこ
とにでもなれば、ますます、電力関係以外での化石燃料輸入額も増えることになります。
加えて原子力発電は、それ自体が高くつくものです。仮に手持ちの核燃料を使う分石油輸入
が減って足元の国際収支にプラスでも、国内のエネルギーコスト全体に関してはマイナスで
す。実際問題、アメリカでは、原発はコスト高なので多年新設がなされていません。そのう
え今回の福島の事故で保険料が上がり、しかも技術革新でシェールガスが採取できるように
なって、ますます原発はペイしなくなりました。使用済み核燃料の再処理で無限にエネルギ
ーを取り出すという話も、日本ではプラントの故障の連続で実現の気配がなく、実用化まで
いっていた英国では一部で撤退が決まっています。
さらには、日本では核廃棄物の最終処分方法がまったく固まっておりません。各原発の構内
で使用済み核燃料を冷やして一時的に保存しているわけですが、今回の福島第一原発4号機
をみてもわかるとおり、これはたいへん危ない状態です。さらにこれからは、廃炉関連の廃
棄物もどんどん出てきます。それらの最終処分場はどうかというと、どこも引き受けてくれ
ない。金を払うからだれか引き受けませんかと言えば言うほど、危なそうだからだれも手を
挙げない。この使用済み燃料や廃炉に関する費用まで織り込めば、原発のコストは非常に高
いわけです。これにさらに、実際に起きてしまった福島の事故のコストを織り込めば、天文
学的なことになるわけですが、仮に事故がなかったとしても、あるいは今後二度と事故が起
きなくても結論は同じで、再稼働をすれば、さらに日本人の将来の負担が増え続けます。原
発が金部とまっているのはいい機会ですので、将来の世代へのツケ回しは、ここでやめてお
くべきです。
そもそも電力会社の購入しているLNGはなんでそこまで高いのか。しかも、なぜ近隣のロ
シアや東南アジアではなく、中東屋が多いのか。総括原価方式で電力料金に転嫁できるから、
一説に国際市場価格の18倍とも聞く契約をしてきたのかもしれませんが、いずれにせよ、そ
の水準の高さ自体が、「原発は安い」といってそちらに誘導しようとしてきた政府にとって
も、都合のいいものだったわけです。
鈴木 原発というのはコスト計算をきちんとするとまったく安くないわけですよね。それな
のに国際収支を安定させるためには化石燃料よりも原発だと、国内で将来発生するコストに
触れずに誘導が行なわれているということですか。
藻谷 政府も一枚岩ではありません。この間、経済産業省の石油資源課長に偶然お会いしま
したので、「この状況でさらに円安になったらどうするんですか」と聞いたんです。国際収
支が大赤字になっちやいますからね。すると彼は「まったくご懸念の通り」と言うわけです。
「われわれぱ不眠不休で必死にやってます。あの手この手を使って、わけのわからない石油
連動価格のLNG調達契約を変えるために全力を尽くしています」と話していました。まっ
たく正しい行動だと思いますが、彼らをここまで苦労させている石油連動価格などというも
のが存在してきたこと自体、原発に誘導したい向きには好都合だったわけです。
鈴木 驚きますね。
藻谷 いずれにしても再稼働をすれば10年以内に各原発の構内の使用済み核燃料プールが
満杯になります。しかも、福島の事故で一時的に下がっているウラン価格も、今後はまた上
がっていきます。日本がこうなっても、中国もインドも経済成長には石油依存だけでは無理
で、原発をやめられませんから。
幸い、米国内でのシェールガス採掘の本格化で、米国の化石燃料輸入は減っていき、中東産
やロシア産はだぶつきます。玉突きで日本の輸入するLNGも安くできるチャンスですから、
この際調達先を多様化してバーゲニングパワーを得なければなりません。
とはいえ、現在の極端な円高が円安方向に戻るようなことがあれば、少々の価格低下は打ち
消されてしまいます。だから、鈴廣さんがやったように電力使用量を総量として下げるとい
うようなドラスティックな技術革新という方向へ、日本の産業全体が行かざるを得ないと思
います。
鈴木 まだまだ賢いエネルギーの使い方があるはずです。前よりもっとドラスティックに舵
を切っていくことによって、省エネルギー化も進むでしょうし、技術革新も捗るでしょうし、
結果として電気の使用量が何割か下がれば、「原発はいらないよね」という話になります。
藻谷 事態は石油ショックのときとよく似ています。当時も石油がドラスティックに値上が
りしましたが、それを機会に日本中の企業が省エネ技術の開発に走ったから、日本の産業が
その後30年以上も競争力を保ったのですブこれに対していま、原発再稼働にに一人当たりG
DPが世界最高だったのが、最近は17位と多くの国に抜き返されています。ですが、GD
Pが縮小したわけではなく、ゆとりや便利さが失われているわけではないのですがこの間に
15から64歳の現役世代は6パーセント減り、65歳以上の高齢者は2倍以上に増えてい
ますから日本経済はダメでも何でもないどころか、大健闘しています。
そもそも、日本のように急速に人口成熟の進む国の経済が、若者ばかりだったころのような
成長に戻るというのは非現実的です。それでもへたに成長を狙えば、労働力不足を袖うべく
機械を増やし、化石燃料輸入でどんどん貿易赤字になるかもしれない。いま日本は中国だと
か、韓国だとか、インドだとか、アジアの新興国すべてに対して貿易黒字です。もちろんア
メリカに対しても黒字、ヨーロッパに対してもトータルで黒字。ではどこに対して赤字かと
いうと、アラブの産油国をはじめとする資源国です。結局、日本は欧米アジアからお金を集
めてアラブに貢ぐ、真空掃除機のホースのようなことになってしまっているわけです。
だから、活路は明らかです。省エネと自然エネルギー活用を進めれば、豊かさが国内に残る
ようになります。GDPの総額を増やすより先に、子不ルギー購入を減らすことを考えるべ
きなのです。日本にはたいへんな省エネ技術があるのだから、スマートグリッドを含めて、
各地域ごとにエネルギー効率を上げるようにしていけばいい。単に目先の金勘定だけ考えて
いるのではダメで、バックアップシステムもちやんと持つことですよ。
鈴木 今度の事故でわかったことで、原発そのものが不安定なもの、危ないものなんだ、い
つか何かあったら大変だ、それをわれわれは知ってしまったわけですね。それを知りながら
知らんぷりをして安心・安全な暮らしはないと思うし、豊かさがあるんだろうかと思うわけ
です。
藻谷 ありえません。これは、国債を発行しながら景気対策ばかりやっているのとまったく
同じ構造です。将来に大きなツケが発生していることを内心わかっていて、それでも目先の
利益に走っていると、人間だんだん刹那的で虚無的な気分になってくるもので、心の平安も
失われていきます。極端な成長を追い求めるという建前をそろそろおろして、ほどはどの安
定、ほどはどの成長を目指すという本音で語ってはどうなのでしょうか。横ばいでいいから
豊かさが昧わえる社会にする。そうして消費者が安心すると必ず消費が伸びます。
鈴木 そう思いますね。安心・安全な暮らしがあって、いろんな物を買おうとか、何か食べ
に行こうということになるわけですね。そういう意味でも地域でエネルギーを見直していく
必要がありIます……。
藻谷 経済人がそういうことを言うのは極めて垂要で、現実にエネ経会議の人たちがこれを
言うのは非常に価値がありますね。金融界をも含めて金勘定の立場からもどんどん本音を言
っていいんだぞ、という流れをつくりたいですね。
鈴木 そうありたいと思います。
-小田原箱根コンソーシアム | 湘南電力
原発再稼働を唱える声の背後にあるもの
鈴木 ところで、歴史を振り返ってみると、どこから原発が発達したか、まず、そこに目が
いくわけですが、やはりオイルショックですか。
藻谷 オイルショックで加速したんです。
鈴木 そうすると、スタートはもっと前ですか。
藻谷 前です。日本も原子力を扱う一等国になるぞというところからスタートしているわけ
です。被爆国として、敗戦国として、おまえらは原子力を扱うなといわれかねなかった時期
に、そんなこといわないで人並みに原子力を扱わせてくれという、戦後復興をやった人たち
の血の叫びから始まっていることなのです。あの世代の人たちはいまだに敗戦のショックを
引きずって生きていますから、ここで日本が原発を放棄するのは大きな後退だ、と受け止め
る人もいるでしょうね。さらには、使用済み核燃料の再処理で精製されるプルトニウムを待
っていることが、日本に潜在的な核武装力を付与しているわけで、
日本も核兵器を待つべきだという認識の人にすれば原発は重要な存在なのです。最初に原発
を推進した顔ぶれのなかにも、そういう層の人たちがいます。
鈴木 原発の裏には、戦後日本の方向を巡る思惑があったわけですね。
藻谷 いま、原発の再稼働を唱える向きには4種類あると思います。
第1は、足元の経済成長のためには原発が必要だと、マクロ経済掌上の機械的な計算から単
純に信じ込んでいる人。財界などの大多数はこれでしょう。とはいえ、現役世代の人口がど
んどん減少している日本で仮に今後経済成長が加速したとしても、一人当たり電力需要がよ
ほど増えない限り、電力の総需要は増えないわけです。ですが、それはありえないでしょう。
日本でこれから資源多消費型の製造業がどんどん伸びるというのは非現実的ですし、他方で
省エネ技術が進展しますから、経済成長と発電能力を結びつけて論じるのは、マクロ経済学
を中途半端に理解している人が陥る短絡です。
第2は、私かお話ししてきたような日本の国際収支の現実、アラブに治代を貢ぐために経済
活動しているような状態を理解し、あるいは日本のCOご排出量を真剣に憂慮し、化石燃料
依存を減らさねばならないと思っている人。これは論理的な考え方ですが、だからといって
原発を継続し、輸入ウランヘの依存を高め、使用済み核燃料間速などの後年度負担を増やす
というのは、経済的にはやはりナンセンスです。お金は省エネと自然エネルギーにまわすべ
きなのです。
鈴木 なるほど。私たちの方向性は、経済的にも間違っていないのですね。
藻谷 そうです。そして第3が、戦後復興の経緯を踏まえて、世界の一等国としてせめて核
技術の平和利用は続けたいと願っている層。第4がさらに進んで、核武装能力を保持したい、
あるいはいずれ核武装したいと願っている層。高齢の財界人の場合には、感情としてこのい
ずれかにとらわれている人も多いでしょうね。ですが、この第3、第4の層はいかがなもの
か。同じく敗戦国ですが欧州の柱石としてプレゼンスを高めているドイツは、脱原発の方向
に連んでいます。しかし、それで彼らのプライドが傷ついているという話は聞きません。
そもそも、今回の福島原発の事故で国土が損なわれたことに、国のプライドにこだわるよう
な連中があまり・にも鈍感ではないかと、ぼくは情っているんです。中国が相手の尖聞問題
ではあんなに怒っている連中です。仮に福島原発の事故原因が北朝鮮のテロだったりしたら、
頭が沸騰しかねないでしょう。ところが、今回は日本人自身の失敗だったために、連中はだ
れも怒っていない。先祖が営々と耕してきたあれだけの面積が損なわれていることに対して
だれも怒りをぶつけない。だれも責任を取っていないし、裁かれてもいない、そこに暮らし
ていた人たちのことにまで考え及ばない、国益といった抽象的なものしか考えない人であっ
たとしても、子孫の幸せよりいまの繁栄が大事という人であったとしても、ここまで国上が
損なわれたことについて、せめて国土や先祖に対して申し訳ないという感情が湧いてこない
ものなのでしょうか。抽象的な国というものだけを愛していて、具体的な国土は愛していな
いというのは奇妙です。
小田原箱根エネルギーコンソーシアム
ちなみに戦争のときにも同じことが繰り返されました。戦災で日本国中の主な町がみんな丸
焼けになって、先祖から伝わったものすごい数の文化財を焼失してしまったのに、ほとんど
の日本人がそのことについてまったく痛みを覚えていません。仮に、日本を含むアジア中で
尊い人命が失われたことについては痛みを覚えないような冷血な人だったとしても、仮にも
国を愛するというのであれば、文化財の喪失くらいは惜しんでほしいものです。そのような
事態を招いた責任者は日本人自らの手で裁くべきだったでしょう。
ところが、われわれには責任はなかった、東京裁判はけしからん、そんなことばかりしか言
わない。やられたのが悔しい、そんな思いしかない。これは子どもの論理で、大人とはいえ
ません。
鈴木 それは政権の中枢にいる政治家にもいえることではありませんか。
藻谷 中枢から路地裏まで日本中に、戦争やら事故やら不景気やら、「悪いことは何でも、
自分のせいではなく他人のせいだ」と考えるこの子どもの論理は蔓延しています。「他国並
みにならないと侮られる」と思って必死に背伸びするのも、同じく子どもの論理ですね。
鈴木 そうした論理に支えられた、原発は何かあっても持ち続けたいという、大きな圧力が
あるということですね。
藻谷 圧力は直接はないけれど、そういう思いがあるであろうということに、お互いにおも
んぱかって行動しているわけです。
鈴木 何か見えないものにみんながみんなおびえている気がしますね。
藻谷 だれからも指示は出ていない。だけど、こういうふうに指示がくるに違いない、とい
う読みで動いている人が多い。結果としてだれかの。指示に従ったのと同じことになってし
まう。権力を行使している奴は実はいないのに、皆が同じ方向に動く。そういう怪談話めい
た現実があるのは確かです。
鈴木 お互いにおもんぱかっているとおっしゃいましたが、だれかの意思というのがその根
底にあるということではないんですか。藻谷 ずっと捜しているんですが、発見できない。
つまり、ないのでしょう。
鈴木 ないんですか?
藻谷 私は最近、日本人というのはイワシの群れに似ていると感じています。水族館の太水
槽で見ていますと、リーダーはいないのに瞬時に群れ全体が方向を変える,それぞれが自分
の横のイワシについていく習性を持っている結果、先頭あたりの個体の些細な動きが、群れ
全体の動きとして増幅されてしまうのです。太平洋戦争もそうだったのでしょう。日本人全
員が死を覚悟するところまで追い詰められたのに、終わったときに「これは俺の責任だ、腹
を切らなければ」と思った人が中枢にはだれもいなかった。実はだれも全体を誘導したわけ
ではないのです。東条英機はなぜ自分の責任だとは思わなかったのか。彼の認識では、彼の
意思で戦争を始めろと指示を出したわけではないからです。だれかがそう指示するであろう
とおもんぱかっただけなんです。
鈴木 実は、この間、上智大学でシンポジウムがありまして、政府がこれからのエネルギー
をどうするか、エネルギー・環境会議が去年の7月から20回ぐらい議論をしてから20な
いし25パーセントの範囲で選択肢を出すことになっていたんですが、本当は2012年春
の3月くらいに笞申しないといけなかった。最終的に決めるのは8月ですが、8月までの間
に国民的議論をしますというシナリオで勤いていたのが、いまだに選択肢が決まらずに、6
月29日に、ようやく ……。
藻谷 国民的議論なんか全然されていないですよね。
鈴木 ええ。8月に決めるということは7月からの1カ月で国民的議論をするという話にな
っていて、実はこのシンポジウムというのは25人くらいの委員のうち4人が参加して、委員
会でどのような議論がなされたか、どのような議論が足りないと思っているのか、そういう
ことを話してもらったんです。私も第2部でパネリストに呼ばれたんですが、委員会に入っ
ていない人から委員の人たちに質問をしました。そのとき、強く感じたのが、こういうふう
に日本の将来に関係する犬切なことが決められていくのか、これはえらいことだ、というも
のでした。国民的議論をこれからやるとおっしゃっているんですが、1カ月でどうやってや
るのか、委員の人たちが何十回も議論してまとまらないのに。
藻谷 そりゃ、まとまらないでしょうね。
鈴木 これまでパブリックコメントやりました、タウンミーティング何回かやりました。一
応、これで国民の皆さんの意見を聞きました。これが原発にかぎらず、すべてのテーマにつ
いてのこれまでの国民的議論だったようですが、そうすると目本には民主主義があるのかと
疑問を感じてしまうし、だれが委員会をコントロールしているのか、だれがどういう意思で
どういう方向に持って行こうとしているのかまったく見えないわけです。
藻谷 多くの委員は、お互いにおもんぱかっているだけで、確たる意思はないのです。先ほ
ど4種類の思惑を挙げましたが、経済成長のために、あるいは貿易赤字脱出のために原発は
必要という程度の抽象論では、原発にはコストがかかりすぎるという具体論すらはね返せな
い。一等国として原子力を持ち続けたいと思う人も、所詮「他国に侮られたくない」という
感情にとらわれているだけで、「原子力を続けてくれ、何かあったら俺が全責任を取る」と
いうような、大人としての意思までは示さない。
他方で経団連も何を考えているかまったくわからない。原発を再稼働するよりも、国全体と
して省子不機器とか省子不建築、自然子不ルギー開発のほうヘシフトしかほうが、絶対に儲
かる会社が多い。原発を推進しても、ごく一部の会社しか儲からない。なのに、なんとなく
おもんぱかって、経済成長のためには原発は必要というような抽象的な文句だけを唱えてい
ます。
鈴木 電力会社はどうですか。
藻谷 彼らの本音は「すでにある原発に関する責任だけ押しつけられて、経済産業省からハ
イ、サヨウナラされてはかなわない」ではないでしょうか。それから東電以外の各社には「
東電と一緒にされてはかなわない」という思いもあるんです。確かに閃電以下、東電以外の
各社は、東電よりはずっと慎重に原子力を取り扱ってきていて、これまでの事故件数も少な
いのです。だから、ひたすら既定の方針の維持を主張する。
神奈川新聞 Dec. 19, 2016
鈴木 まっとう.という言い方が適当かどうかわかりませんが、私たちが電力会社に期待し
ているのは、まっとうな考え方です。「わが社ってこういうふうになりたいね」とか、もっ
といってしまうと、将来、自分の子どもに対して「われわれの世代の努力でこういう世の中
にしてきました」とか、理想と現実にはギャップがあるけれども、自分の会社は理想へ向か
って努力してきた、といいたいと考えるのがまっとうな経営者だと思うわけですが、電力会
社はどうなんでしょうか。
藻谷 高品質の電力を大量に安定的に供給する、という理想に向かって努力してきたと考え
ているのです。確かに料金は高いが、諸外国にあるような大規模停電はないし、災害時の復
旧も早い。応対もサービスも丁寧です。ですが、これまではそれで十分たったけれども、こ
れからもその延長でやっているだけでは、日本はエネルギーのコストで沈んでしまう。化石
燃料輸入継続、原発再稼働、いずれもコストアップの地雷原です。そこにきて人口は減って
いるし、最初にお話ししたように、そろそろ集中型システムに分散型システムをミックスし
ていったほうが、長期的な利益にかなう情勢になってきている。高度成長期のままのやり方
は改めるべき時期なのです。
ところが電力会社がそうした新たな時代認識の下に、新たな理念を持ってやっているかとい
うと、経営幹部は「自分が辞めるまでは既定路線のままでいてほしい」という意識です。職
員も、個人個人は地域を愛する、意欲もある人が多いんですが、組織全体としては銀行と似
ていて、自分たちが仕事をすることによって地域が大きく発展するとか、そういうことは念
頭にありません。何とか売り上げを増やして目先のコストを下げようとばかり考えているん
です。
累積国債発行数と累積核リスクを同次元で喩えることには首をかしげたが対談内容に異論はない。
この項つづく
● 今夜の一曲
ポロネーズ第11番ト短調、フレデリック・ショパンの1817年の作曲したピアノ独奏曲、作曲者が
わずか7歳(8歳)の作品