尽心(じんしん)篇 / 孟子
※ 心は活かして使え:伺かの機会に、ああ、かわいそうだと感じること
がある。そのときの心を、ふだん平気で見すごしていた事がらにまで
広めたもの、それが仁である。また、絶対によくないことだ、やるま
いと決心することがある。そのときの心を、いままで平気で行なって
きた事がらにまで広めたもの、それが義である。
たとえば、他人を不幸にしたくないと思う心を拡大するなら、かぎり
なく大きな仁となる。盗みははたらくまいと思う心を拡大するなら、
かぎりなく大きな義となる。他人から名を呼び棄てにされたくないと
いう気持を大切にし、自分にそれだけの実質を育ててゆくならば、行
なうことすべて義の道に適うのである。
盗みにもいろいろある。言うべきでないのに言い出すのは、何かを探
り出す魂胆なのだ。言うべきことを言い出さないのも、やはり沈黙で
何かを探り出す魂胆なのだ。これらも盗みのたぐいである。
No.166
【蓄電池篇:最新全固体蓄電池技術】
再生可能エネルギーこと自然エネルギーの世界的シフトの時代にあって、移動体用と定置用二次
電池の大容量化の有力候補として、全固体蓄電池による革命がはじまっている。このブログでも
不定期に関連情報とその深掘りを行ってきたが、今夜も最新特許事例を掲載することでわたし(
たち)の(タイムライン上の)立ち位置を確認しておきたい。
周知の通り、リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質
とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池。リ
チウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきたが、有機電解液は
液漏れを生じやすく、また、過充電または過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれも
あり、信頼性と安全性のさらなる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されお
り、全固体二次電池は負極、電解質および正極のすべてが固体からなり、有機電解液を用いた電
池の課題とされる安全性ないし信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になる
とされる。さらに、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすること
ができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べてエネルギー高密度化が可能となるの
で、電気自動車や大型蓄電池等への応用が期待されている。
❑ 特開2018-037230 全固体二次電池用負極シートおよび全固体二次電池の製造方法
【概要】
次世代のリチウムイオン電池として全固体二次電池の開発計画が進められている。❶例えば(下
図、特開2001-102066 参照)、活物質を酸化物ガラスで結着して成る正極と負極との間に酸化
物系無機固体電解質を介在させた発電要素を、グラファイトシートから構成した集電体を介し、
直列に積層/極群させたリチウム電池が、高エネルギー密度で、安全性と信頼性に優れる技術が
公開されて、全固体二次電池の開発の進行とともに、容量密度の向上やサイクル特性の向上等、
全固体二次電池の高性能化に対する要求が高まっており、上記の記載事例は、集電体をグラファ
イトシートの単層で形成することにより、集電体の重量を低く抑え、また電極と集電体との接触
抵抗も低減しているものの、❷グラファイトシートは、高分子フィルムを高温(例えば、2400℃)
で熱処理するため、ヘテロ原子を多く含有し、グラファイト構造とは異なり、リチウムイオンの
吸蔵量(容量密度)が不十分である。❸また、負極活物質がランダムに配置されていることによ
り、活物質の体積変化もランダムに発生し、充放電を繰り返すと、活物質間に間隙が生じ、サイ
クル特性が十分でなく、容量密度の向上およびサイクル特性の向上に対する要求に十全な対応が
困難である。このように、ヘテロ原子の含有量を特定量以下に抑えたグラファイトシートが、全
固体二次電池において、負極集電体として機能するだけでなく、負極活物質層としても機能する
こと、充放電に伴う体積変化の方向を膜厚方向に規制でき、電池の長寿命化にも寄与する。
下図のように、全固体二次電池の負極として用いることにより、優れた容量密度およびサイクル
特性を実現できる全固体二次電池用負極シートおよび全固体二次電池を提供にあって、周期律表
第1族また第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)を含有する固体
電解質層を、ヘテロ原子 質量%以下のグラファイトシート(B)上に有する全固体二次電池用
負極シート及び全固体二次電池を提供する。
【符号の説明】
1 負極集電体兼負極活物質層(負極) 2 固体電解質層 3 正極活物質層 4 正極集電体 5 作動
部位 10 全固体二次電池 11 2032型コインケース 12 全固体二次電池用シート 13 イオン伝
導度測定用治具または全固体二次電池
【表4 電池評価】
【特許請求範囲】
(A)を含有する固体電解質層を、ヘテロ原子1質量%以下のグラファイトシート(
B)上に有する全固体二次電池用負極シート。 前記固体電解質層が、分散剤(C)を含む請求項1に記載の全固体二次電池用負極シ
ート。 前記分散剤(C)が下記一般式(1)で表される請求項2に記載の全固体二次電池用
負極シート。 式中、αは環構造を示し、R1は環α構成原子と結合している置換基
を示し、mは1以上の整数を示す。mが2以上の場合、複数のR1は同じでも異なっ
てもよい。隣接する環α構成原子に結合するR1同士は、互いに結合して環を形成し
てもよい。 前記グラファイトシート(B)が複数の孔を有し、真密度(g/cm3)>前記無機
固体電解質(A)が硫化物系無機固体電解質である請求項1~4のいずれか1項に記
載の全固体二次電池用負極シート。に対する見かけ密度(g/cm3)の割合が60
~98%である請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体二次電池用負極シート。 前記無機固体電解質(A)が硫化物系無機固体電解質である請求項1~4のいずれか
1項に記載の全固体二次電池用負極シート。 正極活物質層と、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池用負極シート
とを具備する全固体二次電池。
❑ 特開2018-037341 全固体電池の製造方法
【概要】
下図のように金属アルコキシドを原料としたLAGP が含まれる正極層と負極層を備えた全固体電
池の製造方法を提供にあって、一体的な焼結体からなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方
法であって、非晶質のLAGPと正極用の電極活物質、および非晶質のLAGPと負極用の電極活物質
を混合した正極材料、および負極材料を作製するステップと、層状の正極材料と負極材料との間
に層状の固体電解質材料を挟持してなる積層体を焼成して積層電極体を作製するステップ(s6b)と
を含み、正極材料と負極材料の作製ステップでは、水系ストック溶液と金属アルコキシドを含ん
だ有機系ストック溶液との混合溶液に粉体状の電極活物質を混合し(s1a、s1b、s2、s10)、混合溶液
と電極活物質との混合物を不活性雰囲気で焼成よりも低い温度で熱処理し(s6a)、焼成ステップで
は、不活性雰囲気で650℃以下の焼成温度で積層体を焼結させる技術を提供する。
積層電極体の製造方法としては金型を用いて原料粉体を加圧して得た成形体を焼成する方法(以下、
圧縮成形法とも言う)や周知のグリーンシートを用いた方法(以下、グリーンシート法)などがある。
圧縮成形法では、金型内に正極層、固体電解質層、および負極層の各層の原料粉体を順次層状に
充填して一軸方向に加圧することによって得た成形体を焼成して積層電極体を得る。
グリーンシート法は、正極活物質と固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、負極活物質と固
体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の固体電解質層材
料をそれぞれシート状(グリーンシート)に成形するとともに、固体電解質層材料のグリーンシー
トを正極層材料と負極層材料のグリーンシートで挟持した積層体を焼成して焼結体にすることで
作製される。なお正極層および負極層(以下、電極層とも言う)に含まれている固体電解質は、粉
体状の正極活物質および負極活物質の表面に被膜されつつ、電極活物質の粒子間に介在すること
で電極層でのイオン伝導性を発現させる機能を担っている。
正極活物質や負極活物質(以下、総称して電極活物質とも言う)としては従来のリチウム二次電池
に使用されていた材料を使用することができる。また全固体電池では可燃性の電解液を用いない
ことから、より高い電位差が得られる電極活物質についても研究されている。固体電解質として
は、一般式LiaXbYcPdOeで表されるNASICON型酸化物系の固体電解質があり、このNASICON型酸
化物系の固体電解質としては、以下の特開2013?45738号公報に記載されているLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3
(以下、LAGPとも言う)がよく知られている。そしてLAGPの作製方法としては、金属アルコキシド
を原料とした周知のゾルゲル法があり、非特許文献1(Masashi Kotobuki, Keigo Hoshina, Yasuhiro-
Isshiki, Kiyoshi Kanamura、「PREPARATION OF Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3 SOLID ELECTROLYTE BY
SOL-GEL METHOD」、Phosphorus Research Bulletin 、Vol.25(2011)、 pp.061-063 )にはゾルゲル法に
よるLAGPの作製方法について記載されている。また非特許文献2(大阪府立大学 無機化学研究グ
ループ、"全固体電池の概要"、[online]、[平成28年8月1日検索]、インターネット<URL:http://w
ww.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka2/research/battery_li.pdf> )には全固体電池の概要について記載さ
れている。
む固体電解質層、および負極用の電極活物質と固体電解質を含む負極層がこの順に積
層されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって 一般式Li1.5Al0.5
Ge1.5(PO4)3で表されるLAGPを前記固体電解質として、非晶質状態の前記
LAGPと前記正極用の電極活物質とを混合した正極材料と、非晶質状態の前記LA
GPと前記負極用の電極活物質とを混合した負極材料を作製する電極材料作製ステッ
プと、層状の前記正極材料と層状の前記負極材料との間に、前記LAGPを含んだ層
状の固体電解質材料を挟持してなる積層体を焼成することで前記積層電極体を作製す
る焼成ステップと、を含み、前記電極材料作製ステップでは、前記LAGPのリチウ
ムとリンの起源となる原料を含んで水を溶媒とした水系ストック溶液と、前記LAG
Pのゲルマニウムとアルミニウムの起源となる金属アルコキシドを含んでアルコール
を溶媒とした有機系ストック溶液との混合溶液を用いたゾルゲル法によって前記LA
GPを作製するLAGP作製ステップと、前記混合溶液に粉体状の電極活物質を混合
する活物質混合ステップと、前記混合溶液と前記電極活物質との混合物を不活性雰囲
気で前記焼成ステップにおける温度よりも低い温度で熱処理して非晶質の前記LAG
Pを生成させるガラス化ステップと、を実行し、前記焼成ステップでは、不活性雰囲
気で650℃以下の焼成温度で前記積層体を焼結させる、ことを特徴とする全固体電池
の製造方法。 請求項1において、前記LAGP作製ステップでは、前記有機系ストック溶液を露点
-40℃以下の乾燥雰囲気で調合することを特徴とする全固体電池の製造方法。 請求項1において、前記LAGP作製ステップでは、前記有機系ストック溶液を露点
140℃以下の乾燥雰囲気で調合することを特徴とする全固体電池の製造方法。 請求項1または2において、前記焼成ステップでは、200℃/h以上の速度で前記
焼成温度まで昇温させることを特徴とする全固体電池の製造方法。 請求項1~3のいずれかにおいて、前記LAGP作製ステップでは、前記水系ストッ
ク溶液の溶媒である水のモル数を、前記有機系ストック溶液の溶媒であるアルコール
のモル数で割った比が0.1以上5未満となるように前記混合溶液を調合することを
特徴とする全固体電池の製造方法。 請求項4において、前記LAGP作製ステップでは、前記水系ストック溶液と前記有
機系ストック溶液との混合溶液に、さらに前記アルコールを追加することで前記比が
0.1以上5未満となるように当該混合溶液を調合することを特徴とする全固体電池
の製造方法。 請求項1?5のいずれかにおいて、前記LAGP作製ステップでは、前記水系ストッ
ク溶液の溶媒である水のモル数を、前記有機系ストック溶液中の前記ゲルマニウム
の起源となる金属アルコキシドのモル数で割ったときの比が170以下で、前記水の
モル数を、前記アルミニウムの起源となる金属アルコキシドのモル数で割ったときの
比が523以下となるように前記混合溶液を調合することを特徴とする全固体電池の
製造方法。
以上、今夜は2つの事例しか掲載しなかったが、要注目情報である。眠れぬ夜が続く。実に面白い
時代だが、健康管理が大事で「インフル花粉症」「虫歯」「膀胱炎」などなど対策もある。凄い
時代だね、だよねぇ。
❦ なぜ、かまぼこ屋がエネルギーのことを考えたのか ❦ No.15
● 対談3 新しい現実をつくる
『3・11以降は、この国のありようを変えるチャンス』
河野太郎 衆議院議員・現外務大臣
自民党所属。1963年神奈川県生まれ。慶臆義塾大学経済学部中退。アメリカ・ジョージタウ
ン大学卒業。アメリカ滞在中、ワシントンで政治活動にもかかわり、アメリカの大統領選挙に立
候補したアラン・クランストン上院議員の遺財本部の財務部門でボランティアをしたり、リチャ
ード・シェルビー下院議員の下でインタjンを務めた。帰国後、富士ゼロックスに入社。2年間
のシンガポール勤務などを経て、日本端子に入社。1996年に衆議院選挙で初当選。核燃料サ
イクルには明確に反対しており「原子力は経済採算性は合わない≒原子炉の新設はしないという
ことを政治主導で決めるべき」と語っている。著書に『私が自民党を立て直す』(洋泉社新書/
2010)『原発と日本はこうなる南に向かうべきか、そこに住み続けるべきか』(講談社/2
011)『「超日本」宣言わが政権構想』(講談社/2012)、共著に『「原子カムラ」を超
てポスト福島のエネルギー政策』(NHKブックス/2011)などがある。
中小企業ができること、守りたいこと
鈴木 私どもエネ経会議は地域の中小企業の経営者の集まりですが、いわゆる電気エネルギ
ーを使わせてもらっている立場からすると、前もって15パーセントを数時間ということを
言ってくれれば、いくらでも事前に手は打てるんですね。24時間ずうっと15パーセント
ということだとなかなか難しいかもしれませんが、ちゃんとした活か何ヵ月か前に出てくれ
ば十分に対策はできるんです。あとは総電力使用量を節電しながらどうやって減らしていく
かということをじっくり考えていくだけです。 それにつけても、もったいないと思うこと
があります。中小企業のオヤジというのは機械を買うと長く使うにはどうしたらよいか、耐
用年数が10年のものでも15年、20年使うにはどうしたらよいかを考えるわけです。ところが、
冷蔵庫や冷凍庫は技術革新が進んで、10年前に比べると電気の使用量が2割、3割少なくて
済むわけですね。それなのに替えない。心のどこかにスケベ心があって、そのうち原発が動
いてしまって電気代が下がってしまったら投資しただけ損してしまう、そういうソロバンを
はじくためです。
逆に考えれば、とりあえず原発なしでやってみようということがきちんとした方針として打
ち出されれば、私たちは別のソロバンをはじいて、新しい設備に替えれば3年、5年で元が
取れるなと思ってコ介に動くわけです。そうすると、結果的に新しいビジネスチャンスが生
まれてきますし、技術革新が一層進むでしょうし、さらに電力使用量が減るという、よりよ
い循環が生まれると思うんです。それなのに、このチャンスをなんで逃しちゃうのかな、何
を言ってもダメなのかな、そう思えてしまうのが残念でなりません。
ただ、純粋に考えてみれば、私たちに日本の国民の力を信じて、経営者のそういうたくまし
さを信じて号令かけてくれれば、われわれがコ介に努力しますから、今年の夏を乗り切るの
くらいわけなくできると思います。実際に2011年の夏はやりましたから。
河野 やりましたねえ。あれを毎年やれと言われてもなかなか、きびしいけれども、ひと夏
きちんと計画を立てて節電をやりましょうよといえば、かなりの節電ができると思う。去年、
あれだけ節電してバブル時の電力使用量に戻りました。バブルのときから電力使用量が相当
伸びていますから、抑えようと思ってやれば抑えられると思うし、税制をうまくするとか、
規制緩和をやるとか、償却期回を変えるとか、後押しをすることは可能だと思います。
鈴木 中小企業の経営者として、日々、売り上げをどう上げるかとか、今月の給料を社員に
払えるかなど、切った、張ったに明け暮れているわけですが、心のどこかでふるさとをどう
やって先へ渡していくか、そういうことを考えています。私たちは小田原でかまぼこをつく
っておりますが、万がI、小田原でやれなくなってしまったとき、どこかへ行ってやろうと
しても難しい。それを考えると、小田原というふるさとは未来から借りたものだから未来に
どう返していくか、そういう思いが深まってきます。そうはいっても目の前のソロバンは犬
切なので、両方が成り立つように考えていくと、いま、よりはるかにいいでしょう。そうい
うやり方を選択するにはやっぱり分散型の再生可能エネルギーが向いています。地方の活性
化の切り札にもなりえるでしょう。
この国を変えていくターニングポイント
鈴木 今回の原発の問題、エネルギーの問題は、それだけにとどまらず、地域のあり方、地
域の独立、地域と国の関係ということもクローズアップされたように思います。
河野 ありようを変えるチャンスですよ。
鈴木 いい意昧での最後のチャンス、大震災の直後で難しいかもしれませんが、チャンスで
あることは間違いないと思います。日本人は戦争をして原爆を経験してと、いままで何度も
危機を乗り越えてきていますし、今度も乗り越えられると思います。鍵は私たち自身が腹を
くくれるかどうかではないでしょうか。
河野 政治家がビジョンをちゃんと見せて、向こうにはこういう日本があるよという具合に、
具体的に示すことが大事だと思いますね。
鈴木 ところが、なかなかそうなっていかない。カベはやはり利権の構造でしょうか。それ
とも電力会社の問題もあるのでしょうか。たとえば、経営に変更が利かない何か特有の難問
を抱えているとか。
河野 でも、いまの総括原価方式だと、よっぽどヘマをしないかぎり赤字にはならないわけ
ですから、こんな楽な経営方法はないと思いますよ。
鈴木 結局、そこなんでしょうかね。だから、会社のトップに立つと俺の代で変えるような
ことは言えないという……。
河野 東京電力の荒木浩さんという社長、会長、相談役をやられた方は電力会社を普通の会
社にしないといけない、電力業界を普通の業界にしないといけない、これが私の使命だとお
っしやった。東京電力のスキャンダルで責任を取らされてしまったのが残念です。
ところで、電力会社の中は原子力をやっている部局だけではないので、たとえば六ケ所村の
再処理工場をどうするかというようなとき、たぶん、電力会社としては後ろ向きだったと思
うんですよ。それなのに原子力をやっている部門がもう前のめりになっちやった。「産道に
出てきた赤ん坊はとめられない」みたいな東電の南直哉元栓長の名言があって、実は、みん
ながおかしいと思っているけど、とまらなかった。いまだに六ケ所村の再処理工場は問題だ
らけで動かない。あれだって何月に竣工しますといって、直前になって延期を19回している
わけだから、それも、ぎりぎりまで間に合うふりをしてです。
鈴木 究極の責任の先送りという気がしますよね。よくダーウィンの進化論を持ち出してき
て、生き残る者は大きいとか小さいとかに関係なく、いかに変化に対応するか、その術を心
得ているからだといわれます。マネジメントの教科書にそれがよく出てきます。
確かに現実に世の中がどのように変わっていくか、的確に早めに読んで、それに合わせてい
くというこどが大切なんですが、どうも日本の企業を見ていると、特に大企業になればなる
ほどそればかりやってきているような気がしてなりません。
たとえば、原発をやってきた3栓は巨大企業じやないですか。世界的にも影響力のある企業
でありながら、トップが「これからの世界の子不ルギーはこうあるべきだ。その中でわが栓
はこういう役割を演じたいと思っています。だから、こうします」と、なんでそういう言い
方が出てこないのかと不思議に思います。極論ですが、あれで会社の経営をやっていておも
しろいのかなと思ってしまいます。
河野 われわれが地方へ行くと、地方の経済界を背負っているのは必ずその地域の電力会社
で、みんなそこを向いちゃっています。この地域の経済はこうやろうぜという前にもう最初
から電力会社を筆頭に序列ができていて、そこがエスタブリッシュメントで、枠外みたいな
のが騒いでいるというようなパターンをよく見受けます。それが中央へ行くと経団連があっ
て、IT企業やら何やら新興企業が騒いでいる。そうじゃないと思うんですよね。やっぱり、
会社だって寿命があって変わっていくなかで、どうやって老舗の地位を守っていくか。うち
は社会にこういう貢献をしている、そこで利益をもらっている。老舗には老舗の行持がある
と思います。
鈴木 大きな上場会社というのは社会貢献という面でもものすごく能力が高いだろうと思い
ます。だけどスタンスというのが、自分が社長の間はいかに株価をきちっとキープするか、
そういうことが優先されてしまって、「もしかしたら直近の時点では会社にとってマイナス
かもしれないけれども、近い将来のことを考えたらやるべきだ」という会社としての決断が
なかなかしにくい。
政治の世界も同じようなことではないかと思いますが、総理大臣になってもこの国は物事が
決められない、変えられない。私たちはけっして政治をあきらめてはいけないと思いますが、
それはそれとして自分たちにこれならできるというところから始めて、小さいことから動か
していく。自分の会社とか、地域とかでやれるところで変えていく。
小さいからできるということがあるはずなので、それを無数に連ねていけば、ゆくゆくは大
きな力になるのではないかというのが私たちの考えです。
とりあえず再生可能エネルギーに関しては、日本ではまだ数パーセントなので、あんなもの
は頼みにならないという議論がありますが、「自分の会社は20パーセントやっている」「
自分の地域はやっと5パーセント」とか、そういう規模であればできますよね。きなり30
パーセント、50パーセントやろうとしてもできませんが、自分の影響力の及ぶ範囲で始め
る、その仲間を無数に全国規模で連ねることができたら、おのずと20パーセント、30パ
ーセントという規模に達するのではないかと思います。いまの経済界にいくら言っても変わ
らなければ、自分たちでやれることから連やかに着手して新しい現実をつくっていこうとい
うことなんです。
市民が参加する政治ヘ
河野 本当は政治がもう少しきちんと対応しないといけないんでしょうけど、大企業の取締
役会が機能していないのと同じことで、政治も予定調和というか、表で議諭しないから、与
野党で裏で協議して結論が出てから表に出てくるというかたちだから、なかなか真剣に議論
できない。国民の前で本音で議論して決めるのが本当なのに、大企業も、国会も、オープン
にして真剣な議論ができない。特に大企業は中から選ばれてきているから、どこを向いてい
るかというと中を向いているような気がするんですよね。政治もそうやってなんとなく押し
出された人がとりあえず中を見て、外を顧みない。それを変えないといけない。
鈴木 日本人にそれがやれるんだろうかと、最近、私は懐疑的になりかけているんです。
河野 それこそ学校から自治会から神社の総代会まで阿吽の呼吸が幅を利かせていることが
確かに事実としてあって、そこで何か言うと「空気が読めないヤツだ」なんていうことにな
っちゃう。みんながボランティアでやっている神社の総代なんかはみんなで気を遣いながら
やらなきやいけないと思うけれども、世の中で選ばれて仕事でやっている政治は別物だと思
うし、企業だって会社を背負って指揮命令系統で動いているわけだから、「仕事だろ」とい
う部分がある。それがなんとなく混同されて一体化してしまっているところに問題の根があ
るように思います。
鈴木 いま、一つの政治のスタイルとして、いわゆるプロの政治家にお任せするのではなく
て、自分たちの問題として街のことも考えて、自分たちの意見として直接いってやっていく
という、そういう市民参加型の政治がこれからの姿だという見方もあると思うんです。日本
にふさわしいのはどっちなんでしょうか。
河野 もともと日本はみんなのことはみんなで決めてきたわけです。多少、空気を読みなが
らというところはあるかもしれないけれども。ところが、最近、市役所なんかへ行くと「5
番の番号杜をお持ちのお客様」と言う。市役所が市民を「お客様」と言っています。あなた
はお客で、われわれは行政をやる、そりゃ違うだろと思います。みんなでやっていくことが
大事なのに、それを「俺はお客様だから、これこれやってくれ」と言い、やっている側も「
税金をもらっているんだからやりましょう」みたいなかたちにしてしまうと、その代わり税
金もどんどん高くなりますよ。でも、それはお客様のニーズですからみたいな話にしてしま
いかねない。
鈴木 そのうち、言うこと聞かなくなってしまうわけですよね。勝手なことを言うヤツだか
ら、ほっとけみたいな。
河野 そうです、そうです。お客様の言ってることは信用できないから、とりあえず聞いて
おけで済まされてしまう。
鈴木 とりあえず聞きましたで、何も変わらない。
河野 この情報を出すとお客様が騒ぐから「SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネッ
トワークシステム)」は隠しておきましょうみたいなことにだんだんなっていく。執行する
側は役所かもしれないけれども、そこはみんなでいろんな議論をしたうえで決める、そうし
ないといけない。
鈴木 この間、地元の商工会議所でアメリカのオレゴン州ポートランドヘ視察旅行に行って
きたんです。全米で一番住みたい街だといわれている都市で、毎週500人くらい人口が増
えている。それほど人気のある都市なんです。地産地消も進んでいる。そこの市の仕組みを
聞いてびっくりしました。人口が60万人くらいいるのに、市会議員が4人しかいないんで
す。当然、4人では細かいことまで手がまわらないので、100とか、200とかの委員会
があって、その全部に市民がメンバーになって参加して直接やっている。だから、街のこと
を他人事ではなくて自分事として考えるということでした。ある意味、理想的だという気が
しますが、日本ではどうかなとも思ったんです。市議会は機能しているのでしょうか。
河野 市議会は大統領制みたいなものですから、一人ひとりが一つひとつの議案に関して「
賛成しました」「反対しました」というのが出ないといけないわけですが、それなのに賛否
を会派でしか出さないみたいなところがあったり、市議会の議事録が次の日に出ていないと
いうところがたくさんあって、結局、どういう議論をしたのか見たくても見ることができな
い。議事録は市議会が閉会してから掲載されますみたいなところがあって、そうやって市民
をだんだん遠ざけていく。
鈴木 遠ざけられてしまうから、市民も市会議員を垂く見なくなってしまって、市長に陳情
ばかり集まってしまうわけですね。そういう意味で、今回、エネルギーのこと、特に原発を
どうするのかとか、日本のこれからの行く末を決めていく大切なタイミングにさしかかって
いる、そういう思いを強くしているんです。日本の問題点を一人ひとりが考えないといけな
いと思います。
あとはこの国の目指すべき姿として子不ルギー、原発を論じるうえで必ず出てくる言葉が、
「そうはいっても原発をとめたらそこの人たちが食えないじやないか」というのと、「日本
が原発から手を引いてしまうと、国家安全保障上、非常に危ない。だから、日本は原発をや
っていかないといけない」というこの2つです。まず前者ですが、原発をとめても仕事はな
くなりませんよね。
今回も、特に異論はない、次回は「原発をとめても仕事はなくならい」に移る。
この項つづく
● 今夜の一曲
「スマイル」(原題:Smile)は、1936年のチャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』
で使用されたインストゥメンタルのテーマ曲で、チャップリンが作曲した曲。数多くの音楽家に
よりカバーされているが、ナット・キング・コールが1954年にリリースしたカバー版が追憶の歌
として今も色褪せることはない。1954年にジョン・ターナーとジェフリー・パーソンズが歌詞と
タイトルを加えた。歌詞では、歌手が聴衆に対して笑っている限りは明るい明日が常にあると元
気付けている。「スマイル」はチャップリンの映画で使用されて以来、スタンダードとなる。