『呉子』
春秋戦国時代に著されたとされる兵法書。武経七書の一つ。『孫子』と併称される兵法書。前四
世紀楚の宰相であった呉子の言を集録したものという。
2.治 兵(ちへい)
統率の原則はなんであろうか。部下が戦いやすいような条件を作ってやることであり、必死の気
持をおこさせることだ。
「教戒を先となす」
討死したり敗北したりするのは、それなりの原因がある。すなわち、能力が足りないために討死
し自由がきかないために敗北するのだ。
したがって、兵を用いるには、まず教育訓練が大切である。万人が戦い方を学んで十人を教育す
れば、その十人が百人を教育し、百人が千人、千人が一万人となり、こうして全軍を教育できる
のだ。こちらは遠くへは出かけずに遠くからくる敵を待ち、余裕をもって敵の疲労を待ち、味方
は十分に食べて敵の飢えるのを待つ。そして、円陣を張ったかと思うと方形陣になり、坐したと
思えば立ち、進んだと思えば止まり、左したとみれば右し、前進したとみれば後退し、分散すれ
ば乗合し、乗合すれば散開する。このような変化に応じた戦い方をすべて訓練する。これが将の
任務なのである。
教育訓練 短い表現だが教育訓練に関する三つの示談な命題が示されている。①部下の管理は
教育から出発すべきであるということ。②教育訓練は集団全員の同時教育よりも、ネ
ズミ算式の拡散方式が有効であるということ。③基本的な技術を身につけてこそ変化
に応ずる運用が可能であるということ。
適材適所
戦闘の教育には、能力に応じた方法がある。すなわち、背の低い者は白兵戦に有利であるから矛
と戦を持たせる。背の高い者は遠くを望めるから弓矢を持たせる。力の強い者は旗じるしを持た
せる。
勇気のある者は合図の鳴物を持たせる。力の弱い者は戦闘より雑役に役立てる。智者は参謀とす
る。
そして、同郷の者か二つにまとめ、さらに部隊と部隊が肋けあうようにする。
さて、一たび合図の鼓を打って兵器をととのえ、二たび打って隊形を訓練し、三たび打って食事
をさせ、四たび打って武装を点検し、五たび打って戦列につく。こうして合図が行動と一致する
ようになったならば、はじめて進軍の旗をあげるのである。
May 30, 2018
【脱人為的温暖化事業:超臨界二酸化炭素サイクル発電】
● 革新的なゼロエミッション発電所が一連の試験を開始
5月30日、新しい炭素除去貯蔵技術開発を行っている米国のNET Power社はテキサス州ラ・ポ
ルトのエンジニアグループは、超臨界二酸化炭素サイクル発電試験を実施していことを公表(上
写真参照)。ノースカロライナ州ダーラムのNET Power社が開発したゼロエミッション技術が成
功すれば、化石燃料のクリーンパワー時代の幕開けを先導することになる。同社は2016年3月に
1億4000万ドルを投資し、約25メガワット規模の発電所を建設し昨年竣工。計画では東芝製燃
焼器と発電タービンを接続し今年後半に発電を開始する。
超臨界二酸化炭素サイクル発電の原理
超臨界CO2サイクル発電システムは、下図1のように基本サイクルが説明される。燃料には天然
ガスや石炭ガス化ガスなど、ガス燃料であれば適用可能で、この燃料をO2製造装置で空気から分
離した02で燃焼させる。燃焼は基本的に量論混合比(43)で行い、発生した高圧高温のCO2とH2Oの
混合ガスが作動媒体としてタービンを回転させて,発電機を駆動する。タービンを出た混合ガス
は再生熱交換器を通過後,冷却器で冷却されてH2Oを分離し,残りのCO2はポンプなどで高圧に
された後再生熱交換器を通過して高温ガスとなり、再び燃焼器に供給される。大部分のCO2はサ
イクル内を循環しているが,燃料に含まれるCから生成されるCO2をサイクル外に抽出しながら運
転を行う。CO2を抽出する方法はサイクル内を循環するCO2をロスなくCO2回収が可能である。
現在25MWクラスのパイロットブラントの設計製造を2016年の運転開始を目指して進めていた。
高温高圧タービンと燃焼器では、蒸気圧力が31MPaの超々臨界蒸気タービンの設計製造技術と最
新鋭ガスタービンの設計製造技術を融合し、設計を進めている。超高圧に耐えるためケーシング
は超々臨界蒸気タービンの技術を、タービン部はガスタービンの耐熱材料と冷却技術を用いるこ
とで,信頼性を確保している。
超臨界CO2サイクル発電システムにおけるガスタービン燃焼器の特徴は,100%負荷運転時の燃焼
器入口圧力が30MPaと高いことである。空気を吸入し加圧して燃焼させる通常の発電用ガスタービ
ン燃焼器では,最新鋭のものでも入口圧力は2MPa程度である。30MPaで1,150℃いう高温超高圧状
態で作動する燃焼器はロケットエンジンなどで見られるが,ガスタービン燃焼器としては世界初
となる。
開発課題:この高圧燃焼器の主要な開発課題として次が挙げられる。
❶30MPaの超臨界二酸化炭素2雰囲気での燃焼特性の把握(着火点や吹消えなどの燃焼可能範囲、
未然排ガス成分、量、圧力変動量など)
❷燃焼器壁の冷却特性の把握
前述のように通常のガスタービン燃焼器入口圧力は2MPaで、かつ空気中での燃焼であるため、
今回の30MPaで超臨界二酸化炭素雰囲気中の燃焼は未知の部分が多い、したがって、実際のガス
を用いて実際の圧力条件で燃焼試験を実施することが不可欠で、実際と同じ条件での燃焼試験に
より燃焼可能範囲や排ガス成分などの基本的な燃焼特性を把握可能となる。また、金属筒の燃焼
器による空冷効果の確認を行う(下図2、3参照)。
さらに、従来の発電所では、化石燃料を燃焼させてタービンを駆動する蒸気を発生させ、副生成物
の二酸化炭素を排出するが、NET Power社は熱い加圧二酸化炭素の循環でタービン運転。 最初の
ステップでは、システムを二酸化炭素を充填し、天然ガスと酸素と混合物燃焼しタービン駆動し
二酸化炭素を加熱、システム・バランス維持用に二酸化炭素を必要とする。また、余剰二酸化炭
素はアミン系溶剤で吸収させ回収する。また、余剰回収二酸化炭素は油田汲み上げに使用した後、
循環使用する工程で窒素、アルゴンなどの有用ガスとして分離/精製し販売も可能。
経済的側面
このように、すべてがうまくいくならば、NET Power社は、従来の現代ガス火力発電所と同じくら
い安価かつ効率的に電力を生産し、他の手段で追加収益を獲得できる。その結果、無償で、大気
よりもむしろパイプラインの精製二酸化炭素のストリームが得られる。これは、従来の発電所の
排気ガスから二酸化炭素除去の既存技術をはるかに効率的でプラント電力の約20%を節約しな
がら利益が得られると予測している。同社は、2021年までに操業可能な3百メガワットのプラン
トを始めとして、炭素キャプチャー/隔離事業に、米国政府の税額控除を利用。すでに海外の顧
客や製造パートナーを探している。また、すぐに安価な化学原料の二酸化炭素2の潜在的な市場を
調査研究を開始している。
【特許事例】
❑ 特開2016-186387 ガスタービン燃焼器およびガスタービン 株式会社東芝
【概要】
二酸化炭素を発生する発電設備において、二酸化炭素の削減は、喫緊の課題である。ガスタービ
ン設備においてもこの課題は解決すべきものである。そのため、ガスタービン設備において、シ
ステムの高効率化を進めるとともに、二酸化炭素の回収技術、二酸化炭素の回収効率の向上、燃
料の多様化などが進められている。 図8は、従来のガスタービンの燃焼器200の断面を示し
た図である。この燃焼器200は、天然ガスを燃料とするものである。燃焼器200は、燃焼器
ライナ210と、パイロット燃料噴射部220と、予混合ダクト230とを備えている。燃焼器
ライナ210の周囲は、ガスタービン外筒240で覆われている。燃焼器ライナ210とガスタ
ービン外筒240との間には、圧縮機(図示しない)からの空気245が流れる空気通路250
が形成されている。燃焼器ライナ210は、筒体で構成されている。燃焼器ライナ210の内部
は、天然ガス223と空気245を燃焼させる燃焼室211を構成する。
パイロット燃料噴射部220は、燃焼器ライナ210の頭部側の中央に設けられている。パイロ
ット燃料噴射部220は、図8に示すように、中央に、燃焼室211内における保炎を確保する
ための拡散燃焼用燃料噴射部221を備えている。拡散燃焼用燃料噴射部221からは、出口の
直上流側に設けられたスワーラ222を通過する空気245に噴出された天然ガス223が燃焼
室211内に噴射される。拡散燃焼用燃料噴射部221の外周には、スワーラ224を通過した
空気245に天然ガス223を噴出して形成された予混合気を燃焼室211内に噴射する予混燃
焼用燃料噴射部225を備えている。
予混合ダクト230は、筒体で構成されている。予混合ダクト230は、空気通路250に、燃
焼器ライナ210の軸方向に沿って延設されている。また、予混合ダクト230は、燃焼器ライ
ナ210の外周の周方向に複数備えられている。予混合ダクト230の下流端は、燃焼器ライナ
210の側部に形成された開口に接続されている。予混合ダクト230の上流側の入口開口23
2から、空気245およびメイン燃料噴射部260から噴出された天然ガス223が予混合ダク
ト230内に導入され、予混合気が形成される。この予混合気は、予混合ダクト230の出口開
口231から燃焼室211内に噴出される。このような従来の燃焼器200では、NOx排出量
を低減するために、拡散燃焼用燃料噴射部221からの燃料流量は、できる限り小さく設定され
る。運転条件によっては、拡散燃焼用燃料噴射部221からの燃料流量を「0」とすることもあ
る。この場合、火炎が不安定となることがある。
従来のガスタービンの燃焼器200では、天然ガスを燃料とするため、石炭や他の炭化水素燃料
と比べてCO2の発生量が少ないが、さらなるCO2の発生量の低減が求められている。そこで、
近年、燃焼によってCO2を発生しない水素が注目を集めている。水素は、天然ガスに比べて断
熱火炎温度が高く、NOxの生成を助長しやすい。また、水素は、天然ガスと比べて、燃焼速度
が数倍大きいため、水素と空気の予混合気を燃焼させる構成においては、逆火などの問題がある。
そのため、水素を燃料とする従来のガスタービンの燃焼器においては、純水素(水素100%)
を燃焼領域に噴射する拡散燃焼方式が採用されることがある。しかしながら、この方式では、火
炎温度が高くなり、安定した燃焼は維持されるが、NOx排出量が増加する傾向にある。
また、発電設備などにおけるガスタービンの燃焼器においては、多くの燃料を消費量する。しか
しながら、燃焼器における燃料を水素のみとする場合、現状の水素供給インフラでは、多くの発
電設備に必要な水素量を供給することは困難である。安定した燃焼を維持しつつ、二酸化炭素お
よびNOxの排出量を抑制することができるガスタービン燃焼器およびガスタービンを提供する。
下図2のように、実施形態のガスタービン燃焼器は、燃焼室を形成する筒状の燃焼器ライナと、
燃焼器ライナの頭部の中央に設けられ、燃焼器ライナ内に炭化水素燃料を噴射するパイロット燃
料噴射部とを備える。さらに、ガスタービン燃焼器は、前記パイロット燃料噴射部の出口の外周
に設けられ、燃焼器ライナ内に水素燃料を噴射する水素燃料噴射口と、燃焼器ライナの外周に燃
焼器ライナの軸方向に沿って延設され、炭化水素料と空気からなる予混合気を形成し、出口開口
から燃焼器ライナ内に予混合気を噴出する予混合ダクトとを備えることで、安定した燃焼を維持
しつつ、二酸化炭素およびNOxの排出量を抑制することができるガスタービン燃焼器およびガ
スタービンを提供する(下図1は、第1の実施の形態の燃焼器を備えるガスタービンの子午断面
図)。
第4章 濃縮トマト輸出トップの会社
第2節 中国・北京
リウ将官は、1994年にカルキスを立ち上げ、20年近くこの会社を切り盛りしてきた敏腕経
営者だ。ところが2011年、突然一線を退いた。業界から忽然と姿を消してしまったのだ.こ
のとき、多くのメーカーや商社は、リウ将官は業界から消されたのだと聯した。あまりに急だっ
たので、汚職に手を染めて失脚したと思われたのだ。
そうした噂はしばらく続いていた。2016年10月18日、国際食品見本市のシアル・パリで
会った、あるトマト加工品大手商社の代表はこう言っていた。
「リウ将官はパスポートを押収されたんだ。中国当局の捜査対象になったんだよ」 この人物は
リウ将官と親交が深かった。彼の会社は、かつてカルキスから大量に濃縮トマトを仕入れており、
カルキスにとって晨大のクライアントのひとつだった。2014年には、10年間カルキスの傘
下にあったル・カバノンの買収もしている。互いによく知り尽くしているビジネスパートナーだ。
その人物がそう言っていたのだ。だが、その言葉を裏づける証拠はどこにもなかった。
わたしは今回の取材中、食品展示会や天津で会った業界関係者たちに、リウ将官の退任をどう思
うか尋ねてみた。すると、ノーコメントか、あからさまに喜ぶ人が多かった。どうやらリウ将官
は、この業界であまり好感を抱かれていないらしい。少なくともライバルは多かったようだ。予
想していたことだったが。
リウ将官とは何者か、いったい今どうしているのかと、わたしはずっと考えていた。政治上の理
由で失脚したのか。それとも、ほかの多くの中国人のように、取引先から賄賂を受けとったこと
が発覚し、就任したての習近平国家主席によって離職させられたのか。
Oct. 24, 2016
中国では今、中国共産党による「反腐敗運動」という腐敗撲滅キャンペーンが実施されており、
百万人以上の官僚や公務員が捜査の対象になっていた[1]。とりわけ、加エトマト業界のよう
に関係者同士がしのぎを削りあう匪界では、何かあってもおかしくない。リウ将官が誰かに密告
された可能性は大いにありうるだろう。しかし、だからといって立ち往生しているわけにはいか
ない。どうにかしてリウ将官に会って、ぜひとも話を間かなければ………
そして念願かなって、今わたしはリウ将官の目の前にいる。だが、一番知りたいのは、将官のプ
ライベートな事情より、謎に包まれた中国の加エトマト業界の実態だ。中国はどうして加エトマ
ト産業に着手することになったのか?どのようにして世界一の濃縮トマト輸出国になれたのか?
知りたいことは山のようにある。答えを知るには、中国の加エトマト産業を実際におこした人物
に尋ねるのが一番いい。
1990年代以降、中国は加エトマト産業で頭角を現しけじめ、2000年代初頭には濃縮トマ
トの晟大の輸出国になった。そして2016年現在、生産量ではアメリカのカリフオルニアにト
ップの座を譲ったものの、今も世界一の輸出国でありつづけている。
だが、中国の国内では、トマト加工品はほとんど消費されていない。国内市場はほぼゼロに等し
い。いったいなぜそういう国が、濃縮トマトのようなやや特殊な商品を作りはじめたのか?なぜ
新疆ウイグル自治区なのか?どうして極東のあの地で加工用トマトを栽培しているのか?中国
人民解放軍と新疆生産建設兵団は、この産業にどう関わっているのか?そして、中国のトマト加
工メーカーのツートップ、中糧屯河(コフコ・トンハー)とカルキス(中基)は、なぜ対立する
ようになったのだろうか?
第3節
リウ将官は、シャツのフロントボタンを開けたままの姿で現れた。金のネックレスが胸元に輝い
ている。チェーンスモーカーで、ひっきりなしにタバコを吸い、次々に鳴りつづけるたくさんの
携帯電話を器用に操っている。デスクの上には、アフリカ経済の推移に関する市場調査資料が山
のように積まれていた。
わたしがリウ将官の北京の自宅を訪れたのは、2016年8月21日だ。この日の取材中、将官
は2011年にカルキスを去った理由をどうしても話してくれなかった。だからといって冷淡だ
ったわけではない。むしろ、自分がいた時代にどうやってカルキスが繁栄していったかを熱心に
話してくれた。
同世代の中国人と同じように、リウ将官も中国語しか話さない。これまで長期にわたって外国で
仕事をし、フランスで暮らしたこともあったはずなのだが。ル・カバノンを買収したあと、新疆
生産建設兵団はパリのシャンゼリゼ大通りにオフィスを構えた。リウ将官は毎月フランスを訪れ、
ヤニック・メザドリと親しくなった。フランス最大のトマト加工品商社の経営者で、カルキスが
プロヴァンス地方の協同組合からル・カバノンを買収する際に仲介役になったという。現在は、
業界誌《トマト・ニュース》の発行人を務めるかたわら、プロヴァンス地方のタラスコンという
町で、フランス晨大のトマト加エメーカーを経営している。そして今も、商社代表として中国で
生産された濃縮トマトを世界中に輸出しつづけている。
2000年代、リウ将官にはフランス政府から正式な滞在許可が下りていた。わたしの目の前で
財布から許可証を取りだし、笑いながら見せてくれた。裏面の住所欄には、ル・カバノンの住所
が記載されていた。ヴオクリューズ県、カマレーシュルーエーグ、ピオラン通りだ。
「わたしは新疆生産建設兵団の子どものようなものだ。兵団で育てられ、兵団のおかげで成長し
た。だから兵団のために働いたんだ」
第4節
ここで、新疆生産建設兵団について説明しておこう。この政府組織がどのように加エトマト業界
に関わっているかを理解するには、まずは基本的なことを押さえておかなければならない。
新疆生産建設兵団(XPCC、略して「兵団」)は、中国西部の新疆ウイグル自治区に駐屯する
組織で、この地域の経済開発と防衛に携わっている。中央政府と新疆ウイグル自治区の両方の指
部下にあるが、地域の行政は兵団が行なっている。超巨大な組織で、総人員は260万人以上。
パリ市の人口より多いので、もはやひとつの都市と言えるだろう。
2011年に首府のウルムチでわたしが極秘人手した内部映像によると、兵団内には14の師団
があり、それらがさらに175の農牧団場と呼ばれる農場に分かれている。農業は兵団における
重要な産業なのだ。兵団は14の企業を経営しており、カルキスはその花形のひとつだ。カルキ
スのライバルである中糧屯河(コフコ・トンハー)は中国政府が経営する国有企業だが、兵団が
経営するカルキスは国有企業ではない。2社とも中国の大手トマト加エメーカーだが、その成り
立ちは大きく異なるのだ。兵団は、国のなかのもうひとつの国のようなものだ。フランス国土の
3倍の面積の新疆地区において、この地域の耕作地の3分の1を管理し、地域産業の生産量の4
分の1を手がけている。
Aug. 2009, Le MONDE displomatique
兵団が軍事・農業・工業の各分野で発展してきたことは、新疆の歴史と大きく開わっている。
新疆は中国の5つの自治区のひとつで、現在の正式名称を新疆ウイグル自治区という。場所は中
国国土の最西部だ。もともと、テュルク(トルコ)系ムスリムのウイグル族が多く暮らす地域で、
現在もおよそ900万人のウイグル人が住んでいる。
歴史的に見ると、新疆が初めて中国の支配下に置かれたのはIハ世紀半ば、清朝のころだ。
原住民のウイグル人や回族(漢人ムスリム)は中国の統治に抵抗して何度も反乱を起こしたが、
清朝は同化政策を謁げて彼らと戦った[2]。その後、1864年から1877年までのわずか
十数年間だけ中国支配から免れたものの、1884年に再び併合され、省制が敷かれて新疆省と
なった。
時代は下り、1933年にウイグル人による民族国家、東トルキスタン共和国が建設されたが、
わずか数カ月(1933年11月から1934年2月)で崩壊。1944年から1949年に
かけては、中華民国に支配されたり、一部地域をソ連に支配されたりし、1949年にとうと
う共産党による一党独裁国家、中華人民共和国に統一された。新疆ウイグル自治区が設置され
たのは、1955年のことだ。
長い戦いの歴史を経て、今、新疆は中国の一部となっている。では、中国はなぜこれほどまで
にこの地域にこだわるのだろうか? ひとつには、この地に石油、天然ガス、石炭、ウラン、金
といった天然資源が豊富だからだ。それに加えて、新疆の広大な大地は軍事訓練を行なうのに適
している。実際、新疆のタクラマカン砂漠では、1964年から1996年にかけて、核実験が
45回(うち大気圏内が23回)行なわれている。
Mar. 18, 2012
だからこそ中国政府は、新疆統一後の1952年、中国人民解放軍をこの地に派遣して開墾と防
衛をさせたのだ。新疆を漠族の植民地にするために。そして二年後の1954年、解放軍は新疆
生産建設兵団と命名された。漢族の人口は、統一当時はわずか20万人だったが、いまや110
0万人近くにふくれあがっている。
現在、中国政府は一帯一路(ワンベルト・ワンロード)」という一大プロジェクトを進めている。
別名「新シルクロード」と呼ばれるこの構想は、中国を起点に、道路、鉄道、港湾、発電所、ガ
スパイプラインなどのインフラを整備し、アジア、中東、アフリカ、欧州を結ぶネットワークを
築くものだ。経済外交の活発化と地政学的戦略の意味合いがあるとされる[3]。
とりわけロシア、カザフスタン、パキスタンなどの周辺諸国、中近東、アフリカ、ヨーロッパヘ
つながるルートを築くのに、新疆ウイグル自治区は重要な拠点になる。新疆の重要性は、中国政
府にとっていっそう増していると言えるだろう。
その一方で、新疆ウイグル自治区では、今でも漢族とウイグル人の紛争がたびたび発生している
。2009年7月5日から8日にかけても、首府のウルムチでウイグル人による大規模な暴動が
起きた。公式発表によると、死者197人、負傷者1684人を出したという。だが、こうした
大惨事があったときは別として、新疆の情報はほとんど外国に流れてこない。現地では緊張状態
が続き、外国と連絡を取るのも容易ではなく、厳しく監視される。インターネットの利用も北京
以上に管理され、厳しい検閲がある。
わたしがウルムチのホテルに宿泊したときは、外国からの電話を受信するのにあらかじめ許可を
取らねばならなかった。多くのホテル、レストラン、ショップでは、人店するのにゲート式の金
属探知機をくぐらされる。車で新疆内を移動すると、どこへ行っても頻繁に検問所にぶつかるの
で、そのたびに車を止めて検査を受けなければならない。ウルムチの町中を歩けば、通りの角を
曲がるごとに、暴動抑止のためのトラックと警官隊の姿が目に入る。そもそも飛行機でウルムチ
地高堡国際空港に着いた途端、軍用ヘルメットをかぶって完全武装した男たちが大勢いてギョッ
とさせられるのだ。こうしたものものしい雰囲気は、中国のほかの地域とはまったく異なってい
る。
だが、新疆がほかの地域と異なる点けほかにもある。それこそが新疆生産建設兵団だ。さて、こ
こでようやく本題に戻ろう。兵団が軍事・農業・工業の各分野で発展してこられたのはいったい
どうしてか?前述したように、兵団のもともとの使命は、新疆を漢族の植民地にすることだった。
そのために、国境を警備し、農地を開墾し、街を築き、あらゆるものを管理下に置いた。病院、
学校、大学、農場、工場……あらゆる施設を経営するようになった。
新疆生産建設兵団は、地域の経済開発と社会安定のために、まるでタコが四方八方に足を伸ばす
ように活動分野を広げてきた。たとえば、自分たちが所有する鉱山から石炭を発掘すると、それ
を原料にして自分たちで製鉄用コークスを生産する。畑で栽培された綿花は、自分たちで収穫し
、兵団が経営する紡績工場で綿糸や綿織物にされる。飼育された家畜は、兵団の食肉工場で解体
され、兵団の食品工場で加工される。広大な農地で収穫されるさまざまな農作物も、兵団の工場
で食品にされる。化学産業分野も同様だ。
つまり、兵団は、栽培、飼育、発掘、加工などをすべて自分たちで行ない、自分たちの生活必需
品を作ったり、よそに販売して利益を得たりしている。トマトに開しても、兵団の畑で栽培され
た加工用トマトを兵団の加工工場でドラム缶入り濃縮トマトに加工したり、一部を缶詰工場でト
マト缶にしたりしている。
1954年、中央政府の命令を受けて、中国人民解放軍の士官や兵士たちがこの新疆ウィグル自
治区に集まり、新疆生産建設兵団が結成されました」
軍歌をBGMに、ナレーションがそう告げる。前述した、ウルムチでわたしが極秘入手した映像
だ。団員向けに活動内容を紹介したもので、当然外部には公開されていないが、USBメモリに
入れてこっそり国外に持ちだした。兵団がいかに素晴らしい活動を行なってきたかを資料映像と
ナレーションで伝えている。軍事パレードと戦車の列。広大な畑を農業機械が並んで進む様子を
上空から撮った映像。まるで天安門広場での戦車パレードのように、複数のコンバインが対角線
を描きながら畑のなかを進んでいく。殺虫剤を空中散布する飛行機、巨大な工場で大型機械がフ
ル回転する様子、建設中の高層ビル、海上のコンテナ船・・・・。そうやって団員たちが必死に働い
てきたおかげで、今の繁栄があるというわけだ。
「こうして兵団は、この辺境の地とタクラマカン砂漠に、数百万ヘクタールの畑を作りだしまし
た。ただの砂漠を緑豊かなオアシスに変えたのです。そして、近代農業と近代産業を実現させま
した。何もない土地に町を築きました。兵団は、中国共産党、軍隊、企業の集合体です。中央政
府と新疆ウイグル自治区委員会の指揮下で活動を行なっています」
どうやら新疆生産建設兵団にとって、集約農場と対外貿易は戦争の延長であるらしい。違いは
武力に頼るかどうかだけだ。われわれ欧米人が見ると、過剰なまでの生産第T王義を手放しで賞
賛するその姿は、こっけいにすら見える。だが本人たちはいたってまじめに、この映像を団員た
ちに見せているのだろう。2011年、兵団が手がけたすべての生産品の年間販売額は968万
8400元132億ユーロ)だった。
「2011年、兵団はトマトの生産量と輸出量でアジア第一位になりました。われわれは多くの
血と汗を流しながら、国境を警備し、国を発展させています。兵団は栄光の集団です。今後、
われわれは世界へと活動の場を広げていきます。新疆の兵団は世界の兵団になるのです」
そうナレーションが入ると、ウラン鉱山、原子力発電所、トマト収穫の様子、いかにも社会主義
的な記念碑などが映しだされる。ラストシーンは、町がみるみる都市化していく様子を上空から
眺めた早回し映像だ。それはまるで、都市経営シミュレーショングームの画面のようだった。
[1]La croisade anti-corruPtion de Xi Jinping au sein du Parti communiste chinois 、Le Monde, 24 october
2016.
[2]Martine Bulard, Quand la fievre montait dans le Far West chinois, Le Monde diplomatique, août 2009、
(『新禧ウイグル、2009年』 マルティーヌ・ビュラール、ル・モンド・ディプロ7ティーク日本語・電子版、2009
年8月号)
[3]Pierre Rinlbert, Le Porte-conteneurs et le dromadaire, Maniére devoir, n 139, février-mars 2015.
【下の句トレッキング:誰も座らぬベンチの横に】
静かなる抗議の一首。