第75章 為政者の悪
人民の生活が苦しいのは、為政者が租税を取りすぎるからだ。これでは、生活できるはずがない。
人民が反抗するのは、為政者が強制手段に出るからだ。これでは、服従するはずがない。
人民が生命を大切にしないのは、為政者が欲望をそそりたてるからだ。これでは、長生きできるは
ずがない。
人民を愛する政治とは、作為せず自然にまかせる政治のことである。
民の死を軽んずるは、上の生を求むることの厚きゆえなり まさに現代の社会悪を射抜いたとも
いうべき痛烈な批判である。「人民を無欲ならしめよ」(3章)という主張は、一見愚民化政策の
感をあたえるかも知れぬが、その実、人間の生命を愛惜してやまぬヒューマニティの発露だったの
である。
第76章 「兵強ければ滅び、木強ければ折る」
人の体は生きている問は柔らかい。だが、死ねば堅くこわばる。草本は生きている間は柔らかい。
だが、死ねば堅く・ひからびる。堅く強いものは、死のともがらだ。柔らかく弱いものは、生のと
もがらだ。武力を誇る者は滅び、堅い木は折れるではないか。
弱小は強大に勝つ。これが自然の法則である。
Nov. 6, 2018
”Anytime, anywhere ¥1/kWh Era”
【エネルギー通貨制時代 17】
【蓄電池篇:40年のエネルギー貯蔵システム投資1兆2千ドル】
11月6日、Bloomberg New Energy Finance (BNEF)は、世界のエネルギー貯蔵市場が、40
年までに累積942GW / 2,857GWhに増加し、今後22年間に1兆2千億ドルの投資が見込まれると
報告した。それによると、❶40年には全世界の設置電力容量の7%に相当するところまでエネル
ギー貯蔵量が増加。❷中国、米国、インド、日本、ドイツ、フランス、オーストラリア、韓国、英
国が主要国となり、❸これらの9つの市場は、40年までに設置容量の2/3に相当。近い将来、韓
国は市場を支配し、20年代初頭には米国が追い越されるが、20年代~40年代は中国支配する
と予測。残念ながら日本は停滞した格好に。
【風力発電篇:極寒冷地仕様風力発電機実証運転スタート】
11月8日、NEDOは、ロシア極東に極寒冷地仕様の風力発電機3基を完成させ、風力発電システム
の実証運転を開始したことを公表。本実証事業は、北極圏に位置し、ロシア極東でも特に寒冷な地
域、サハ共和国内のティクシ市で実施する。それによると、今後、風力発電システムに加え、ディ
ーゼル発電機、蓄電池などを組み合わせて、極寒冷地に適応した電力系統の安定化を実現するエネ
ルギーマネジメントシステム「ポーラーマイクログリッドシステム(Polar Microgrid System)」を
構築。その後19年12月から低コストで安定的なエネルギー供給の本格的な実証を行う予定。
ロシア極東地域は、大規模な電力系でなく、ディーゼル発電機依存する独立系統地域が多数存在。
これら地域では、燃料輸送コストのために、発電単価が極めて高い状況となっており。ロシア極東
地域の地方政府は、電力価格を電力系統に接続地域との同等補完措置のため財政負担を強いられ、
また、ディーゼル発電機の老朽化によるエネルギー安定供給が危ぶまれていた。このような背景の
もと、今年2月27日にモスクワ市で、サハ共和国政府およびロシア国営電力会社ルスギドロとの
間で、風力発電システムを含むエネルギーインフラ実証事業に関する協力覚書(MOC)を締結。実
証地のサハ共和国のティクシ市は、北極圏に位置し、ロシア極東でも特に寒冷な地域であり、独立
系統地域。
尚、極寒冷な気候に適した運転制御システム仕様はは、マイナス30℃以下での運転を可能とし、
300キロワットの風力発電機3基をサハ共和国のティクシ市内に設置。それにしても、厳寒のロ
シアの風力発電のノウハウがどれほどのものか見届けたい思いが強くなる。
【オールバイオマスシステム事業:木質ペレットを貯蔵サイロに「空気」で搬送】
11月9日、特装車製造やリサイクル施設施工などを手掛ける極東開発工業は、空気を用いて木質
ペレットを搬送するエア搬送ユニット「JETCUBE(ジェットキューブ)」を開発したことを公表。
高所作業が不要になり作業者の負担を大幅に軽減できる(11月13日に発売)。それによると、バイ
オマス燃料に利用される木質ペレットでの輸送および貯蔵用サイトへの搬送には、従来、木質ペレ
ットを詰めたフレキシブルコンテナバッグをクレーンでサイロ上部に運んで荷ほどき作業を行う必
要があり、危険な高所作業を伴うほか、非効率な点が課題になっていた。
今回開発したジェットキューブは、地上からサイロ上部の搬入口まで木質ペレットをエア搬送する。
粉粒体搬送車で培ったエア搬送のノウハウを活用した。木質ペレット1tあたり約11分で供給可能
で作業者の負担を大幅に軽減できる。ユニットサイズは一般的なパレット1枚分の大きさで、トラ
ックのデッキに搭載しても木質ペレット配送用のフレキシブルコンテナバッグや資材を十分に積み
込めるほか、定置式としても利用できる。また、既存のトラッククレーンとフレキシブルコンテナ
バッグをそのまま利用できる。ジェットキューブ本体の希望小売価格は300万円(税別)。ホース類
や排気ダクト、排気ブロワー、バグフィルターなどのシステム付属品は参考価格50万円。販売目標
は年間30台。
● 読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』 No.19
第5章
一行は朝の多くをきつい上りに費やした。だが、流れの速い川に行く手をさえぎられ、しかたなく、
びっしりと木が生えそろった森の中を少し下って、本道を探すことにした。本道を行けば、きっと
橋があって、川を渡れるだろうと思った。
そのとおり橋はあったが、そこには兵隊がいた。ただ、一見したところ、橋の監視に遣わされた兵
隊ではなく、馬を休ませて、ついでに自分たちも滝の前でのんびりしているだけのように見えた。
これならきっとすぐに立ち去るだろうと予想し、一行は松林で一休みしながら待つことにした。だ
が、もうかなりの時間が経つのに、兵隊は一向に動く気配を見せない。代わりばんこに腹ばいにな
り、橋から手を伸ばして川の水をばしやばしやはね飛ばしてみたり、橋の上に腰をおろし、木の手
すりに背中をもたせかけて、さいころ遊びを始めたりした。そこへさらに四人目が馬でやってきた。
慌てて立ち上がった三人になにやら指示を与えて、また去っていった,
木の上のエドウィンほどではないにせよ、木の背後から様子をうかがうアクセルとベアトリスと戦
士にも、橋の上で起こっていることはよく見えた。馬で乗りつけた四人目がまた去っていくのを見
て、さてどうしたものかと顔を見合わせた。
「ずっといつづけるのかもしれませんね」とウィスタンが言った。「だが、お二人は修道院に急い
でおられる」
「できれば日暮れまでには」とアクセルが言った。「あのあたりには雌竜のクエリグが徘徊すると
聞きます。賠くなって出歩くのは愚か者だけだ、とも。あれはどんな兵士たちだとお考えになりま
すか、戦士殿」
「ここからではよくわかりません、ご老人。この上地の服装についてはまるで無知なもので。たぶ
んブリトン人だと思いますから、ブレヌス卿の兵隊でしょうか。むしろ、奥様の考えをお聞きした
い」
「老いた目には遠すぎて……」とベアトリスが片った。
「でも、たぶんそうでしょう、ウィスタン
様。ブレヌス聯の兵隊がああいう黒っぽい制服を着ているのをよく見かけましたから」
「とすると別に隠すようなこともないか」とアクセルが言った。一説明すれば、すぐ通してくれる
のではないかな」
「できれば日暮れまでには」とアクセルが言った。「あのあたりには雌竜のクエリグが徘徊すると
開きます。賠くなって出歩くのは愚か者だけだ、とも。あれはどんな兵士たちだとお考えになりま
すか、戦士殿」
「ここからではよくわかりません、ご老人。この上地の服装についてはまるで無知なもので。たぶ
んブリトン人だと思いますから、ブレヌス郷の兵隊でしょうか。むしろ、奥様の考えをお開きした
い」
「老いた目には遠すぎて……」とベアトリスが言った。
「でも、たぶんそうでしょう、ウィスタン様。ブレヌス卿の兵隊がああいう黒っぽい制服を着てい
るのをよく見かけましたから」
「とすると別に隠すようなこともないか」とアクセルが言った。
「説明すれば、すぐ通してくれるのではないかな」
「そうだとは思いますが……」
戦士はそう言って、橋を見下ろしながらしばらく考えていた。
橋の上では兵隊がまたすわり込み、さいころ遊びを再開していた。「そうではあっても、兵隊の目
の前を通って橋を渡るのであれぼ、せめてこうさせてください、アクセル殿」と戦士はつづけた。
「あなたと奥様が先に立って、男たちをうまく丸め込んでください。少年が馬を引いておニ人につ
づきます。わたしは少年の横を行きます-こうやって、口をだらしなく開け、目は落ち着きなくき
ょろきょろと。あれは唖者で白痴だ、と兵隊には言ってください。わたしと少年は兄弟で、借金の
かたにお二人に貸し与えられたということでどうでしょう。剣とベルトは馬の荷物の底に隠してお
きますが、もし見つかったら、あなたの剣だと言ってください」
「そのお芝居、ほんとうに必要でしょうか、ウィスタン様」とベアトリスが言った。
「兵隊ですから態度が荒っぽかったりしますけど、これまでは出くわしてもとくに何事もありませ
んでしたよ」
「なるほど、奥様。しかし、武器を持って、指揮官から遠く離れている兵隊というものは油断でき
ません。そのうえ、わたしは異国の人間ですから、からかうには恰好の相手に見えるかもしれませ
ん。少年を呼び下ろして、いまの方法でいきましょう」
*
一行は、橋から少し離れたところで森から出た。兵士たちが目ざとく見つけ、立ち上がった。
「それではだめです、ウィスタン様」とベアトリスがそっと言った。「いくら間抜け面をよそおっ
ていても、いまのあなたは、一目見るだけでやはり戦士です」
「大根役者はわかっていましたが:・・:。奥様、ご助言を。何をどうすればもっとうまくできま
すか」
「まず歩き方です」とベアトリスが言った。「いまのままでは間違いなく戦士です。もっとちょ
こちょこと。そして、つまずいて転びそうになる感じで、ときどき大きな一歩を」
「ははあ、なるほど。いいご助言をどうも、奥様。では、唖者のわたしはもうしゃべりません。ア
クセル殿、あとはよろしく。うまく切り抜けてください」
水が岩を流れ落ち、一行を待ち受ける三人の兵士の下を流れていく。橋に近づくにつれ、その水音
が強くなってきて、アクセルはそこに何か不吉なものを感じた。苔むした地面に馬の足音が響く。
それを背後に聞きながら先頭を進み、兵士らまで声が届く距離に来たとき、足を止めた。
兵士たちけ鎖帷子も着ず、兜もかぶっていなかったが、全員が同じ黒っぼいチュニックを着て、右
肩から左の腰へ革綴を下げていた。そこに剣を吊るしていろとあれば、身分は疑いようがない。い
まのところ剣は鞘に収まったままだが、一行の前に立ちはだかる二人は柄に手を置いている。その
うちの一人は背が低く、大くて、筋肉質。もう一人は年齢がエドウィンとさほど変わらないような
若者で、やはり小柄だ。どちらも髪を短く刈り込んでいる。その二人とは対照的に、三人目の兵士
は背が高い。髪は灰色で、肩まで届く長さがあるが、頭にぐるりと巻いた綴で後ろにまとめられて
いて、手入れも行き届いている。ほかの二人とは外見が違うし、見るからに態度が違う。背の低い
二人人は橋の通行を止めようと身を硬くして立っているが、長身の兵士は数歩後ろにひかえ、のん
びりと柱に体を預けて、胸の前で腕を組んでいる。
まるで、夜、焚き大の前にすわって、そこで交わされる話を聞いている者の風情だ。
ずんぐりした兵士が一歩前に踏み出した。アクセルがその兵士に向かって話しかけた。
「ご苦労様です、兵隊さん。怪しい者ではありません。どうぞ通してください」
ずんぐりした兵士は何も答えなかったが、一瞬、顔に迷いの色が浮かんだ。パニックと侮蔑の混在
する表情でアクセルをにらみつけると、助けを求めるように後ろの若い兵士を見やった。だが、と
くにいい知恵がもらえそうにないと見て、視線をアクセルに戻した。
どうやら勘違いしているらしい、とアクセルは思った。この兵隊たちが待ち受けていたのは誰か別
人だ。だが、間違えていることにまだ気づいていない………そこで、「わたしたちはただの農夫で
す、兵隊さん」と言った。一息子の村へ向かう途中です」
ずんぐりした兵士は気を取り直し、むやみに大きな声でアクセルに言った。
「同行の者は何者だ、百姓。見たところ、サクソン人ではないのか」
「わたしたちが預かることになった兄弟です。これから仕事を仕込んで、役に立ってもらわねばな
りませんが、ご覧のとおり一人はまだ子供。もう一人はおつむに難のある唖者とあって、仕込み甲
斐となると、なんとも・・・・・・・・」
アクセルがそう言ったとき、長身で灰色の髪の兵士が、突然、寄りかかっていた柱から体を隨した。
何かを思い出したかのように、首をかしげてじっと考えている。一方、ずんぐりした兵士は、怒り
の表情でアクセルとベアトリスの背後を見ていたが、剣の柄に手を置いたまま二人のわきをすり抜
け、後ろの二人に近づいた。エドウィンは馬の手綱を持ち、近づいてくる兵士を無表情で見ていた。
ウィスタンは目をきょろつかせ、だらしなく口を開けて、けたけたと笑っていた。
兵士は何か手掛かりでも探すように、二人を交互に見ていた。そして、ついにいらいらに堪えきれ
なくなったのか、ウィスタンの髪をつかみ、怒りにまかせて引っ張った。
「髪も切ってもらえないのか、サクソン人」戦士の耳元でそう怒鳴ると、もうI度引っ張った。引
き倒すか、せめてひざまずかせたいという勢いだったが、ウィスタンはよろめきはしたものの倒れ
ず、代わりに哀れっぽい悲鳴をあげた。
「しやべれないんです、兵隊さん」とベアトリスが言った。「ご覧のとおりばかな子で、少しくら
い手荒く扱われても気にしませんけど、順順を起こすと手に負えなくなります」
ベアトリスがしやべっているとき、どこかで何かが動いたような気がした。アクセルは振り返り、
橋の上の兵士たちを見た。背の高い灰色の髪の男が腕を持ち上げていた。五本の指で何かを指し示
す形を作りかけ、寸前でその気をなくしたのか、結局は無意味な手の動きで終えて、最後には腕そ
のものを下ろした。だが、男の目は不承知の色をたたえ、同僚の兵士をじっと見ていた。アクセル
はその様子を見て、灰色の髪の男の気持ちがわかった。既視感があり、男の気持ちの動きが読めた
と思った。あの男は腹を立て、たしなめようとしたのだろう。言葉が口から出かかったが、直前、
ずんぐりした同原に指図する立場にないことを思い出した………かつてどこかで自分も同じような
経験をしている、とアクセルは思った。だが、その思いを強引に払いのけ、なだめる口調で言った。
「お仕事で忙しいみなさんをお騒がせして申し訳ありません。ここを通していただければ、すぐに
この目障りな姿を消しますので」
だが、ずんぐりした兵士はまだウィスタンを痛めつけていた。
「おれに向かって癩廂など起こしてみろ。どんなことになるか思い知らせてやる」と怒鳴った。
兵士はようやくウィスタンを放し、また橋の上の持ち場に戻っていった。何も言わず、怒りながら
も、その怒りの原因をすっかり忘れてしまったように見えた。 張り詰めた空気が、流れ落ちる水
の音でさらに張り詰めたものになった。ここで回れ右をし、全員で森の中に退散したら、丘ハ隊た
ちはどう反応するだろうか、とアクセルは思った。そのとき、灰色の髪の兵士が他の二人の横に並
んで、初めて口をきいた。
「この橋は板が何吹か壊れていてね、おじさん。おれたちがここに立っているのは、たぶん、あん
たら善良な通行人に注意するためだと思う。気をつけて渡らないと、流れに落ちて山腹をまっさか
さまだぞ、とねI
「どうもご親切に、兵隊さん。では、注意して渡ります」
「さっきから見ていると、あんたのその馬、歩き方がおかしいようだ、おじさん」
蹄を一つ傷めておりまして、ひどくないことを願っています。ですから、ご覧のとおり、人は乗
せません」
「橋の板が水しぶきで腐っていて、危険だからここで見張っている。ただ、そこにいる同僚はもっ
と重大な任務でここにいるはずだと言ってきかない。そこでお尋ねするんだが、おじさんと奥さん、
ここへ来る途中で怪しい者を見かけなかったかい」
「わたしたちもこの辺は初めてなんですよ、兵隊さん」とベアトリスが言った。「ちょっと見ただ
けで怪しいかどうかなどわかりませんけど、この二日間、とくに変わったことはありませんてした」
ベアトリスを見て、灰色の髪の兵士の目が和み、笑ったように見えた。
「女の足で、しかもお年なのに、息子さんの付まで長い道のりを歩くのはたいへんだね、奥さん。
道中、どんな危険にさらされるかわかったもんじやないのに。いっそ息子さんと一緒に暮らして、
毎日、苦労がないように面倒を見てもらったほうがいいんじやないかな」
一そうできれば、とは思いますよ、兵隊さん。自乙子に会ったら、夫とわたしで話してみます。
でもね、最後に会ってからずいぶん経ちますし、すんなり受け入れてもらえるものかどう
か……」
灰色の髪の兵士はベアトリスにやさしい目を向けつづけ、
「それは取り越し苦労かもしれないよ、奥さん」と言った。「おれも両親とは遠く離れていて、ず
いぶん長く会ってないな。一度や二度、激しい言葉のやり取りだってあったかもしれない。けど、
もし明日、両親がお二入みたいに長い道のりを歩いて訪ねてきたら、おれはきっと飛び上がるほど
に嬉しいと思うな。お二人の息子さんがどんな男か知らないが、奥さん、きっとおれと同じだと思
うよ。賭けてもいい。お二人を見た瞬間、喜びの涙を流すんじやないかな」
「兵隊さんは親切な方ですね一とベアトリスがI.一眉った。「きっとそうでしょう。夫ともいつ
もそう言っているんですけど、人様から、それもご自分でも家から遠く離れている方からそう言っ
ていただけると、安心します」
「よい旅を、奥さん。万一、反対方向からおれの両親が来るのに出会ったら、やさしく声をかけて
やってください。何も心配せずそのまま進め、と。がっかりする旅にはならないから、と」灰色の
髪の兵士はそう言って、わきによけ、一行に道をあけた。
「危ない板があることを忘れずに、おじさん。馬は自分で引いていったほうがいいよ。子供やその
男には無埋だと思うから」
ずんぐりした兵士は不満そうに見ていたが、仲間がかもす自然の威圧感には逆らえないようだった。
くるりと全員に背を向けると、ふてくされた様子で手すりから身を乗り出し、水面を見ていた。少
年のような兵士はしばらくためらっていたが、灰色の髪の男の横に立った。アクセルがもう一度礼
を言うと、二人して礼儀正しくうなずいた。アクセルは馬を引き、下が見えないようその目を覆い
ながら橋を渡った。
カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』
黄色い太陽と深い霧の"古代イングランドに迷い込み言葉の迷路を彷徨っている。あきらめず彷徨す
るしかないか、ここは。"
この項つづく
バラの主要な香り成分「フェニルエタノール」に抗うつ効果があることを、川崎医療福祉大医療技
術学部の上野浩司講師(神経生理学)らの研究グループが突き止めた。フェニルエタノールを吸わ
せたマウスは、ストレス環境下でうつのような状態になりにくいことを確認。精神疾患の新しい薬
や治療法の開発につながる成果として期待される。
これまでにもバラの香りが人間のストレスホルモンの分泌を抑える働きを示す研究成果が報告され
ているが、上野講師によると、どの成分が作用しているかは明らかになっていないため、グループ
は香水や化粧品などに使われるフェニルエタノールに着目し効果を確かめた。
実験では、密閉空間で15分間フェニルエタノールを吸わせたマウスと、何もしていないマウスの
しっぽをそれぞれテープで固定し、逆さづりのような状態にして10分間放置。うつ傾向を示す行
動で、あがくのをやめて動かなくなる「無動時間」の長さを調べた。10匹ずつ計20匹を比較し
たところ、通常のマウスは動かなくなる時間が平均して約8分間あったのに対し、フェニルエタノ
ールを吸わせたマウスは2分~1分半短かった。ループは「フェニルエタノールがストレスを緩和
させ、抗うつ作用を発揮することを示した実験結果」と分析している。
研究は、川崎医科大精神科学教室などの協力を得て4月から実施。成果は8日、仏科学雑誌電子版
に掲載された。 上野講師は「メントールやかんきつ類の果皮に含まれるリモネンなど、バラ以外
の香り成分についても、精神状態にどう影響を及ぼすか調べたい」と話している(山陽新聞 2018.
11.09)。
真向ひに寒オリオンや湖の闇
● 今夜の一曲
『オリオンの炎』 唄 徳永英明 Music Writer:徳永英明
雄もが皆この地球に生まれて来て
同じ道を歩仁ことが運命ならば
君と僕は何故あんなに悲しんで
違う道を選び別れたのだろう
果てしないこの空に
とうにもならない現実を叫んでも…
あの才りオンに君と肩寄せ合い
叶えると君に誓ったはずさ…あの日
昔ならばもうこの場で諦めて
逃げるように僕は帰っただろう
枯れる程涙して