【オールバイオマスシステム完結論 Ⅹ】
● 水中プラズマ技術と木質バイオマス発酵工学
『ようこそ!スマートキャンティへ』 では、木質バイオマスをメタン変換し、精製後、メタン燃料電池
(要改質工程)あるいは、ガスタービン発電するシステムを紹介掲載した。ここでは、木質バイオマスメ
タン発酵ガス発電システムの(1)水と原料バイオマスパウダーを混合し、高速発酵を実現する前処理工
程と、(2)(1)の工程で直接、バイオマススラリーから水素ガスを製造する工程で液中プラズマ処理
に導入することが可能であり、液中プラズマ技術の概要とその応用技術を考察してみた。
尚、この分野の専門知識を持っておられる方なら、前工程を必要とするウエット法より直接、木質バイオ
マスを燃焼あるいはガス化する方がエネルギー変換効率が高いと思われる方が多いことも承知の上で(下
図上/下をクリック)、高速で省エネ(=省二酸化炭素排出量)で廉価なシステムを前提として考えてみ
る。前処理でのボトルネックエンジニアリングは「リグニンの分解」にあり、前回では、リグニンが溶解
または分散した液体中にオゾンガスのマイクロバブルを供給し、30℃以上百℃未満の液温でリグニンを分
解する叩解(こうかい)処理方法(「特開2014-173198|リグニンの分解方法」)を紹介している。
● 液中プラズマとは
液中プラズマとは液体中の気泡中に温度数千K のプラズマを発生させる技術。この技術を使えば、油や廃
液などの有機溶媒を直接プラズマで分解し、水素を取り出すことができる。日本は水素社会の到来に向け
て、水素自動車を普及させるためにインフラを整備し、水素ステーションを設置中である。そこで、廃棄
物から安価な方法で水素を取り出し、内燃機関として利用することができれば,従来のエンジンを改良す
るだけで、水素自動車が実現できる。2011年、愛媛大学の液中プラズマプロセスの研究グループらは液中プラズ
マ技術で分解、回収された水素で、水素燃焼型自動車を動かす実験を行い,走行実験に成功している。
液中プラズマ法は,液体内に設置された金属電極に高周波やマイクロ波電力を効率的に投入し,継続的に
安定なプラズマを液体中の気泡の中に発生させる技術。液中プラズマを数10 kHz帯から2.45 GHzの範囲で
発生させる。尚、周波数が低い場合はプラズマ発生前後でのインピーダンス整合、周波数が高いマイクロ
波になると波長が短くなり、実験装置の形状の影響を強く受けるので要注意。高周波の周波数には、13.56
MHz,27.12 MHz,マイクロ波の周波数としては電子レンジに使われている2.45 GHz を利用でき、比較的
安価にプラズマを発生させることができる。電極に高周波やマイクロ波を投入すると、金属電極がジュー
ル加熱され,周囲の液体が気化し気泡が発生、その気泡中にプラズマが発生する(上図1は27.12 MHz の
高周波液中プラズマの様子――液体は左からエタノール,炭酸リチウム水溶液,塩化ナトリウム水溶液で
ある.プラズマが発生した後、電源を切らない限りプラズマは安定に液中で発生する。左から,青、赤、
橙色の発光が観察され、炎色反応のように色によってプラズマ内部の物質を予測することができる。)。
このように、液中プラズマは,気泡内部は気相プラズマであるが、周りを気液界面で覆われているのが最
大の特徴である。
液中プラズマによって生成される数千K(絶対温度)の化学反応場は、地球上に存在するほとんどの物質
を熱分解させる。この技術を使えば液体から水素を取り出せるが、何から水素を作り出すのかが問題にな
る。下表1は1モルの水素を得るために必要なエネルギーの比較である。水の電気分解による方法はクリ
ーンな水素製造方法として最も有力な方法であるが、水は非常に安定な物質であり、これを分離させるに
は表1に示すように多くのエネルギーを必要とする.天然ガスの水蒸気改質法は大量の水素を製造する方
法として商用向けに確立された技術であり、以下の2つの反応の組み合わせ表記する。
(1)式が吸熱反応で、(2)式が発熱反応である。総合的には165 kJ/mol の吸熱反応となるので、外
部から熱を加える必要がある。1モルのメタンガスと2モルの水から、4モルの水素と1モルの二酸化炭
素が生成するので、1モルあたりの水素製造エネルギーが水の電気分解と比べて格段に低くなる。都市ガ
スや液化天然ガスなどから改質器を用いて水素を取り出し、これを酸素と反応させて発電する。このとき
の反応熱を給湯として利用する家庭用燃料電池コージェネレーションシステムがすでに市販されているが、
水蒸気改質反応では最終段階で二酸化炭素を排出するので何らかの配慮が必要となる。もしこれを固形化
するエネルギーまで含めて考えると、電気分解と比べて同程度か、それ以上のエネルギーが必要になる。
このため、水素エネルギー社会を実現させるためには低コストで二酸化炭素を排出しない水素製造法の開
発が望まれる。
二酸化炭素を排出しない方法としてメタンガスからプラズマによる熱分解によって水素を取り出す方法も
あるが、熱分解に投入するエネルギーが大きく、分解によって得られた水素は次の分解エネルギーとして
使われる程度であり、そのままでは何も生み出さないのが現状である。民生用のシステムとして熱分解法
を普及させるには,製造コストを低くするか,副生成物として高付加価値の物質を生み出す必要がある。
一方,液中プラズマ法は,様々な液体中で発生させることができるので,油などの有機溶媒を直接プラズ
マ分解する、分解エネルギーのみの比較では最も少ないエネルギーで水素を製造できる。(3)式は n‐
ドデカン(灯油の主成分)がすべて水素とグラファイトに分解する反応である。
1モルのドデカンから13モルの水素が生成されるので、1モルの水素を生成するのに必要なエンタルピ
は 27 kJ/molになる.このように,油(炭化水素系の液体)は多くの水素を含み、灯油などを用いた改
質法も提案されているが、液中プラズマ法では炭素成分を一気に固形化までもっていくことができるのが
特徴。また、液中プラズマ法は電気分解と水蒸気改質の問題点を克服できる。同グループ液中プラズマを
発生させる装置として電子レンジを用いる方法を開発している。電子レンジは一般家庭に普及し、将来分
散型電源としての応用が期待でき、上図(下)は電子レンジを使った液中プラズマ発生装置である.マイ
クロ波(2.45 GHz)の発生源はマグネトロンであり、マグネトロンから照射されたマイクロ波をアンテナ
で受信することにより、アンテナ先端でプラズマが発生して溶液が分解される。
n-ドデカンでは、プラズマ分解によって約89%の水素と,低級炭化水素であるメタン、エチレン、アセチ
レンなどの可燃性ガスが発生する(上表中の各ガスの割合は発生ガス中に含まれる各成分ガスの体積割合
を示している)。エンジンオイルや食用油を使った実験では、アセチレンの割合が高くなるが、発生ガス
のほとんどは水素ガスである。食用油には酸素が含まれるために一酸化炭素や二酸化炭素が検出される。
食用油およびエンジンオイルでは、それらの廃液を使っても実験を行ったが、発生ガス中に含まれる水素
純度の測定を行い、65~75%の水素純度を得た。若干水素純度が低くなるが、問題なく液体をプラズ
マで分解することができる。今、n-ドデカンの分解について、1モルの水素生成に必要なエネルギーを計
算する。生成された気体成分を下表に示す4種類のみとした場合、以下の化学反応式が仮定される。
これを水電解法のそれと比較すると、単位投入エネルギーあたりの水素量は v / P に生成気体の水素割
合を乗じたもの。一方、水から水素1モルを生成させるのに必要なエンタルピは286 kJ/mol なので,ア
ルカリ水電解法のエネルギー効率を約80% とすると,6.27×10-2 mL/J となる.両者の比をとして上表
2に示す。出力が小さいときはアルカリ水電解法と同程度であるが、出力が増加すると投入エネルギーの
大部分が液体の液温上昇に消費されてしまい、ηは小さくなる。表1で示したように、油分からの水素生
成は,水から作るよりも理論上は1/10 程度のエネルギーで同量の水素を取り出せるが、水温上昇から求
められる電力の14%以下しか化学反応に使われず、水素生成に限れば現状システムでは水の電気分解程
度しかない。実際の電子レンジの消費電力基準では、化学反応に消費されるエネルギーは表2のεの値の
さらに70%程度だから、熱の解散を防ぐなどの装置構成の改良でシステム全体の効率向上させるのかが
課題となる。
また、同グループらは、表3のように、100 kW の太陽電池を設置して,そのうち半分の 50 kW が出力と
して得られた場合に、100 kg のセルロースが何時間で分解できるのかを概算で求めた値である。50 kWの
電力で10時間駆動するとセルロース100 kg が分解でき、そのとき発生する水素で35 MPa タンク搭載の
水素自動車に 2.5 台充填可能となる.このとき同時に20 kg の炭素成分が固形化できる。35 MPa の水素
タンクを搭載しているロータリエンジン車が水素のみで走行できる距離は約 150 km である。プラズマ発
生に電力が必要なので、エネルギー収支を考えれば自然エネルギーでプラズマを駆動させる方法が現実的
であるとする。
この愛媛大学の研究グループは、下図(特開2014-177387「水素化合物分解水素回収装置及びその方法」)
の、水素化合物を水素化合物貯留タンク2から廃熱により加熱し、水素分解装置3に供給し、液中プラズマ
で分解し、分解された水素を含むガスと分解液を水素化合物貯留タンク2に戻し、水素化合物貯留タンク
で水素を含むガスと反応生成物を分離することで、水素化合物の反応加熱時の熱や環境廃熱を再利用して
高効率に水素化合物から水素ガスを安定的に回収し、他の化合物を回収できる実用プラントとしてシステ
ム構成が可能な水素化合物の水素回収装置及びその方法を提案していることから、木質バイオマスの粉体
スラリーから直接、水素製造できるかも知れない。この場合も、(1)熱システム設計と(2)経済的な
バイオマス原料のミーリング設計が重要となりそうだ。
特開2014-1出来る77387
【符号の説明】
1 水素化合物供給タンク 2 水素化合物貯留タンク 3 熱交換器 4 反応器(水素発生装置) 5 脱
塩素タンク 6 差圧フイルター 9 水素貯留手段 10 電源 11 ソーラパネル 12~19 配管
20 ポンプ 21 隔壁 22 バルブ 30 アルゴンガス供給手段 31 窒素ガス供給手段 32、
33 バルブ 34 流量計 40、50 反応容器 41 超音波発生装置 42 電磁波発生装置 43
気泡 44 真空ポンプ 45 分解ガス排出管 46 分解液排出管 51 液保持タンク 52 ポンプ
53 バイパスホース 55 恒温槽 56 銅管 57 反応容器流入ホース 59 液体排出ホース 60
気液分離器 61、62、63 バルブ 65 フイルター
また、下図(特開2012-101140「粉体可溶化方法及び粉体可溶化装置」)は、攪拌部材4の終端部5を液
中電極14の対向電極として、両電極間に高電圧高周波パルス発生装置17の合成電圧Vが印加される。
合成電圧Vの印加により、水面32近傍のCNTあるいは水面32に浮遊するCNT11が粉体電極とな
って、液中電極14との間で液中プラズマ放電27を発生させる。液中プラズマ放電27により液中電極
14の周囲が沸騰状態に達し、H+やOH-等のラジカルを含む活性水蒸気28が生ずる。活性水蒸気
28及び液中プラズマに接触することにより、浮遊CNT(カーボンナノチューブ)粉体はCNT周囲に
水和層が形成され親水化されることで、CNM等の難溶解性粉体の表面修飾処理を高速化して、大量の表
面修飾処理を低コストで行うことのできる粉体可溶化方法及びその粉体可溶化方法に基づき粉体可溶化処
理を行える粉体可溶化装置が提案されているが、メタン発酵原料の木質バイオマスパウダーの表面改質(
細胞壁を分解し、接触面積を広げ、反応速度を向上させる(叩解処理)ことができそうだ。このように実
用段階に到達するには、反応槽(容器)の設計や微生物(コンテンツ)設計のための様々な実験が必要と
なろうが大切な技術であることは間違いない。
特開2012-101140
【符号の説明】
1 溶媒槽 2 蓋体 3 筒体 4 攪拌部材 5 終端部 6 CNT搬入部 7 CNT 8 搬入管 9
CNT導入口 10 CNT 11 CNT 12 開閉蓋 13 CNT 14 液中電極 15 絶縁カバ
ー材 16 接続線 17 高電圧高周波パルス発生装置 18 接続線 19 回転軸 20 導電性リン
グ 21 駆動モータ 22 連結部材 23 接続線 24 CNT投入検知センサ 25 ねじ部 26
シール部材 27 液中プラズマ放電 28 活性水蒸気 29 修飾CNT 30 修飾CNT 31 水
32 水面 33 修飾CNT 40 CNT表面修飾処理制御部 41 高電圧高周波パルス発生回路 42
発振器 43 RF電源 44 重畳装置 45 起動SW 46 キー入力装置 47 液晶表示装置 48
稼働状態表示器 50 溶媒槽 51 水 52 水面 53 筒部 54 回転軸 55 攪拌部材 56 対
向電極 57 駆動モータ 58 DLC導入口 59 DLC搬入路 60 高電圧高周波パルス発生装置
61 接続線 62 接続線 63 接続線 64 接続線 65 接続線 66 導電性リング 67 DLC
68 修飾DLC 69 修飾DLC 70 蓋体 71 液中電極 72 絶縁カバー材 73 漏水防止シ
ール材 74 液中プラズマ放電 75 活性水蒸気 76 連結部材 77 DLC 78 DLC 79 誘電体
Dmitri Shostakovich - Symphony No. 7 in C major, "Leningrad", Op. 60
作品完成直後の1941年12月27日に、疎開先クイビシェフでショスタコーヴィチ家のパーティーに招かれた
隣人フローラ・リトヴィノワは、作曲者の次のような発言を回想している。「ドミトリー・ドミトリエヴ
ィチは言った。『ファシズム、それはもちろんあるが、ファシズムとは単に国家社会主義(ナチズム)を
指しているのではない。この音楽が語っているのは恐怖、屈従、精神的束縛である』。その後、ドミトリ
ー・ドミトリエヴィチは、第7番ではファシズムだけでなくソビエトの全体主義も描いたと語った。」
ショスタコーヴィチ 『交響曲第7番』 Wikipedia
朝から悲しいニュースに接し、国なき乾いたナチズム(目的なき破壊運動)のようなイメージが浮かんだ。
合掌
●
嫌気性メタン発酵というテーマといえば、もう30数年前、工場排水の設計時考案していた頃だから、随
分前の記憶になるが、専門知識は殆ど消えかかっていたから、再学習で神経的なダメージも大きい。まぁ、
なんとかなったと、自己満足するしかないが、こんなことを彼女には分からないものだから、わけのわか
らぬ愚痴も耳に残ってしまう。そんな意味では"内も外も敵ばかり"ということになる。ならば、恵方巻き
を頬張り、"一騎当千とて、吾千里を翔る"と開き直る。