苛酷がきざみこまれた路のうへに
九月の病んだ太陽がうつる
蟻のやうにちひさなぼくたちの嫌悪が
あなぐらのそこに這ひこんでゆく
黄昏れのはうへ むすうのあなぐらのはうへ
ぼくたちの危惧とぼくたちの破局のはうヘ
太陽は落ちてゆくように視える
はじめにぼくたちの路上が 羞耻が ちひさな愛が
つぎにぼくたちの意志が
かげになる
ぽくたちのさてつした魂は役割ををへる
あの悔恨に肉づけすることにつかひ果したこころを
あなぐらのそこに埋没させようとする
しづかに睡るのかあきらかに死ぬのか知らない
ぼくたちのつけくはへた風景は破壊されるのかどうか知らない
ぼくたちの根拠はしだいに荒廃し
ぼくたちの愛と非議と抗争とはみしらぬ星のしたに繋がれる
おう ぼくたちの牢獄
風が温度と気圧とをかヘ
戦火と乾いた夜が風景とその視線をかへ
ぼくたちの不幸な感情が女たちのこころをかへ
夕べごとに板のうへで晩餐がひらかれる
いっせいに寂しいぼくたちの地球よ
ぼくたちはいんめっされた証拠のために
盗賊と殺人者の罪状を負はなければならない
いんめっされた証拠を書きあらためるため
ぼくたちの不在をひつようとするものがゐる
そこに奪はれたものと奪はれないものとを
空しくわけようとするぼくたちの眼が繋がれてゐる
ぼくたちは九月の地球をを愛するか
おう ぼくたちけそれを愛する
ぼくたちは砲火と貨車(ワゴン)のうへの装甲車をこのむか
おう ぼくたちはそれをこのまない
ぼくたちは記憶と屈辱とになれることができるか
おう ぼくたちはそれになれることができない
ゆくところのないぼくたちの信号よ
とまどふひとびとの優しいこころよ
ぼくたちの路上はいまも見なれてゐてしかも未知だ
どんな可能もぼくたちの視てゐる風景のほかからやってこない
どんな可能もぼくたちの生を絶ちきることなしにおとづれることはない
ぼくたちはそこで刺し殺さねばならぬ
架空のうたと架空の謀議と
たしかなぼくたちの破局とを
ぼくたちはそこで嗤はねばならぬ
フイナンツ※の焦慮とその行方とを
おう さぴしいぼくたちの法廷
九月の太陽は無言だ
まるでぼくたちの無言のやうに
すべての小鳥たち すべての空のいろも無言だ
ぼくたちはぼくたちの病理を言葉にかへない
ぽくたちはぼくたちの病理を審判にゆだねる
なぜ 美しいものと醜いものとがわけられないか
なぜ 未来の条件のまへに現在を捨てきれないか
なぜ 愛憎をコムプレツクスによつておしつぶすか
なぜ 本能に荒涼たるくびきをかけるか
おう その威厳と法服とを歴史のたどられたプロセスからかりるだらう
ぼくたちの法定者よ
ぼくたちを裁くために嗤ふべき立法によるな
ぼくたちを裁くためにけちくさい倫理をもちひるな
ぼくたちはじぶんの無力に伝播性がなく
いつもひとりで窓をこじあけ
九月の空と太陽をみようとするのを知つてゐる
習慣以上のとがつた仕種で
世界のあらゆる異質の思想をののしらうとかまへてゐる
ぼくたちの苛酷な夢のはやさを知つてゐる
ぼくたちのこころはうけいれられないとき
小鳥のやうなはやさでとび去り
そのときぼくたちをとりまいてゐる微温を
つき破ってしまふのを知づてゐる
ぼくたちはすべての審判に〈否〉とこたへるかもしれない
そうして牢獄の夜が
どんな破局の晨にかはらうとも
ぼくたちはそれに関しないと主張するかも知れない
ぼくたちは支配者からびた一文もうけとらず
もつぱら荒諒や戦火を喰べて生きてきたと主張するかもしれない
「審 判」 /『「転位のための十篇」』 より
(「吉本隆明全著作集1 定本詩集」 勁草書房)
「『転位のための十篇』」 昭和二十八年九月一日、私家版詩集として発行された。
ユリイカ版『吉本隆明詩集』、思潮社版『吉本隆明詩集』、思潮社〈現代詩文庫〉
版『吉本隆明詩集』などに収められた。
『転位』発表時の著者は、年齢にして二十代の終りにあたり、東洋インキ在職中の
技術者であったが、この詩集は当時、文学として形骸化し得る極限の表現形式を成
立させることとなった。『転位のための十篇』は、時代と個的精神史の対応から生
まれた根源的運命的な詩として、詩そのものの本質的存在として、いつまでもナイ
ーヴな若い魂に問いかけるだろう。この詩集を手にするとき、われわれは時と人と
の、還らざる歌に接するのである――と川上春雄は解題で付記しているように「真
夏の体験」(第二次世界大戦)を「九月の太陽」(敗戦後)世界認識の方法を獲得
するための思想的格闘を孤独に進めることになる。わたし(たち)が、この「戦後
70年」を振り返る時、これを献歌し、決意を新にしたいと考える。
※ ドイツ語で「金融」(Finanz)を意味する。
帰らざる日々 久石讓 (映画「紅の豚」の挿入曲)
「植物工場」とは、光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件
を施設内で人工的に制御し、作物を連続生産するシステムのことで、季節や場
所にとらわれず、安全な野菜を効率的に生産できることから多方面で注目を集
めています。その「植物工場」そのものにスポットをあてた本書では、設備投
資・生産コストから、養液栽培の技術、流通、販売、経営などを豊富な写真や
図解を用いて様々な角度からわかりやすく解説。また、クリアすべき課題や技
術革新などによってもたらされるであろう将来像についても、アグリビジネス
的な視点や現状もふまえながら紹介、文字通り植物工場のすべてがわかる一書
となっています。
古在豊樹 監修「図解でよくわかる 植物工場のきほん」
【目次】
巻 頭 町にとけ込む植物工場
第1章 植物工場とはどういうものか
第2章 人工光型植物工場とは
第3章 太陽光型植物工場とは
第4章 植物生理の基本を知る
第5章 植物工場の環境制御(光(照明)
第6章 CO2/空調管理
第7章 培養液の管理
第8章 植物工場の魅力と可能性
第9章 植物工場ビジネスの先進例
第10章 都市型農業への新展開
第11章 植物工場は定着するか
効果的な二酸化炭素施用・冷房法は?
ゼロ濃度差二酸化炭素施用法
太陽光型植物工場での服施用においては、換気窓が全開でも効果的に施用で
きる方法の開発が望まれる。その「糸口」となり得るのが、「ゼロ濃度差二酸
化炭素施用法」だ。
これは、晴天時は窓が全開でも植物が光合成していれば室内服濃度が室外二
酸化炭素服濃度よりも100ppm前後低くなるので、二酸化炭素を施用して室内
濃度を室外濃度とほぽ等しくなるまで上昇させる二酸化炭素施用法である。二
酸化炭素が換気窓から室外に漏れるのは室内濃度が室外濃度より高い場合のみ
であり、この方法であれば施用した服のほぼすべてが植物の光合成活動により
吸収され、換気窓が全開でも服利用効率は100%近くになる。
変動する日射条件下でこの施用法を実現するための装置が最近市販された。
この装置は、低くなった室内二酸化炭素を外気二酸化炭素と同じ400ppmに
なるように自動施用するものである。
細霧冷房法の利点と欠点
室内外の二酸化炭素濃度がほは等しく、かつ適温・適温の環境下では、光強
度が高いほど光合成速度は高まる。すなわち、日射が強い夏場の昼間に気温を
適切に制御できれば、ゼロ濃度差二酸化炭素施用法でより高い効果が得られる。
そこで、換気や遮光だけでは室内温度が高すぎる場合には、直径が約0.01ミ
リメートル前後の水滴の集合を室内散布する「細霧冷房法」を試みるケースが
日本では多い。夏季の晴天時に室内で細書が蒸発すると、蒸発(気化)冷却に
より周囲の空気の気温が、5℃以上低下する(相対湿度の変動は20~30%)。
ただ、①細霧が十分に蒸発せず植物上に落下する、②葉が濡れることで病原
菌類が発芽・繁殖しやすくなる、など欠点もある。これらを補うべく、現状で
は、たとえば細霧の散布を1分間行い、その後2分間は散布を停止するなど、
細霧の散布を間欠的に行っている。
新しい細霧冷房法の開発も
間欠噴霧による絹霧冷房法による温湿度の変動と植物の濡れ・乾燥などの連
続は、一般的には植物成長にとって好ましくない。そこで現在、開発がすすん
でいるのが、絹霧の発生速度を噴霧圧力の連続的制御によって、この欠点を解
決する試みだ。この細霧発生方法は、絹霧冷房だけでなく、室内の空気が乾燥
気味の際の加湿にも応用できることが実験的に示されている(次頁)。また、
夜間の無人時に窓を閉じて農薬散布することへの利用も試みられている。
ヒートポンプの活用法①(資源面)
ヒートポンプの基礎知識
ヒートポンプとは、ある場所の熱エネルギーをほかの場所に熱媒体を用いて
運搬する装置のことで、圧縮機、蒸発機凝縮機、膨張弁、四方弁、冷媒配管な
どからなる。圧縮機の駆動を電気エネルギーで行うものを電気ヒートポンプと
呼ぶ。
いまいちイメージがわきづらいかもしれないが、ヒートポンプをおもに室内
の冷暖房に用いたものを「エアコン」と呼び、また、「冷蔵庫」や「製氷機」
飲料の「自動販売機」などもヒートポンプの別名である。さらに最近では、洗
直物乾燥機や浴室乾燥機、食器洗浄機など、私たちの身近なものにもヒートポ
ンプが用いられている。 ここでは、太陽光型植物工場におけるヒートポンプ
(エアコン)の活用法を紹介する。
結露水を養液原水として利用
太陽光型植物工場において、換気窓を閉めた状態で昼間中ヒートポンプ冷房
した場合、室内機に凝縮する結露水(作物からの蒸散水および床面からの蒸発
水)の量は床面積1ヘクタールで1日当たり10~50トンに達する。
この結露水の回収に加え、植物工場および関連施設の屋根面への降雨も回収
して水耕養液原水などとして用いれば、井水を利用する必要が大幅に減少する。
1ヘクタール当たり1000トン程度の集水タンクが水で満たされていれば、
1カ月に必要な水をほぽまかなえる。
ちなみに、室内機で回収された水や雨水には無機イオンがほとんどなく、養
液の原水としては井戸水よりも好適な場合が多い。
昼間の余剰熱を暖房熱源に
さらに、日本は冬季といえども、晴天時の昼間には太陽光型植物工場室内に
余剰な熱が発生する。この余剰熱を換気で外に逃がすことなく、夜間の暖房熱
源とする方法は実用化し得る。とくに、明け方の気温低下がはげしい夜間放射
冷却(晴れた日の夜、太陽からの放射がなくなって地表面からの長波放射量が
大気からの長波放射量を大きく上回ることで、地表面が冷却していくこと)が
起きるときは、その前日の昼間は晴天の場合が多いため、昼間にその余剰熱を
たくわえやすい。
ただ、蓄熱を要する日数が多くなるほど必要な蓄熱槽容量が大きくなるため
長期蓄熱の実用化には慎重な検討が必要である。
ヒートポンプの活用法②(コスト面)
多目的利用で初期コストを合理化
電気ヒートポンプ(エアコン)普及における現時点での欠点のひとつに、ヒ
ートポンプを暖房機としてだけ使用していることによる初期コストの高さがあ
る。ヒートポンプは、太陽光型でも、暖房だけでなく冷房・除湿にも使いたい。
通年運転で冷房・除湿に使用しても、年間の基本料金は増えず電力消費量に
比例する料金が増えるだけである。
一般に、ヒートポンプで夏季夜間の室温を外気温より数℃低く維持すること
で、果菜類や葉菜類の収量と品質が数10%向上し、また除湿することで多湿
による病害が抑制される。
ヒートポンプの多目的利用により、暖房機経費の節減だけでなく、増収や品
質向上、病害予防に役立てば、その初期コストの償却年数は、ヒートポンプと
暖房機を併用して暖房だけに利用する場合の償却年数に比較して半減する。
また、外気温か低いときは、室温設定値を2~3℃低くする、保温カーテンの
断熱性を増す、室内気温分布のムラを改善するなどで、初期コストと運転コス
トの両方を削減できる。
家庭用エアコンを利用する利点
小型の家庭用エアコンは性能が年々向上し、成績係数(消費エネルギー効率
・COP)は業務用に比較して約1・5倍高い。この特長を活かし、複数の家
庭用エアコンを業務用エアコンと組み合わせて太陽光型植物工場で利用する研
究が行われている。その利点は、上記のほかに次の6つがある。
①今後10年間は、COPと価格性能比の着実な向上が期待できる。
②多数の小型ヒートポンプをネットワーク化して制御することで、室内空気の
ムラをなくす制御性能を高められる。
③設置時の作業コストや保守コストが業務用よりもかなり安く、専門家による
保守がほとんど不要。
④故障や取り替えが近所の家電店に依頼できる。
⑤「家電リサイクル法」により廃棄システムが確立している。
⑥秋まで売れ残った家庭用エアコンが、大幅値引き価格で購入可能(大量購入
の値引き率も高い)。
エアコンの必要設置数は
暖房能力3・2キロワットの小型ヒートポンプ(家庭用エアコン)で床面積
1000平方メートル(300坪)の太陽光型植物工場を暖房するには40台
程度必要になる。この程度であれば、大部分を四周の側壁に設置することで解
決できる。
それ以上の場合、2段に積むなどの工夫が必要だ。
大分西部に位置し、くじゅう連山を望む久住高原。そのなかで農業を営む久
住高原野菜工房は、日本ではじめてスウェデポニックシステムを導入した植物
工場だ。スウェデポニックシステムはスウェーデンで開発されたシステムで、
太陽光と人工光を併用し、生育させるラインの幅が作物の成長に伴って広がっ
ていくのが特徴。
導入した当時栽培していたのは、レタス、ホウレンソウ、パセリの3種類で
あったが、露地野菜との競合などにより経営的に苦しくなり、おもな生産物を
ハープに切り替えた。
久住高原野菜工房のハープは、ポットごと食べごろのものを出荷している。
また、収穫したハープを使ったドレッシングやソースなどの加工品も販売し
ており、大分県内の観光地のほか、ホームページから購入することもできる。
ここで、スウェデポニックシステムが掲載されたので、新しいビジネス・モデルを
書いておこう。勿論、これは「人工光型植物育種システム」の派生ビジネスモデル
だが、その特徴は、(1)栽培種を選択しユニットサイズ及び仕様を決定、(2)
顧客向け植物栽培ユニットをリース、(3)選択種のポットを顧客に送り、(4)
ネットで栽培状態の遠隔診断をサービスし、(5)継続/中止を確認の上、不用と
なったポット(栽培土壌+植物+ボッド)を回収。(6)継続の場合は新しいポッ
ドを配送するというもの。尚、嵩張るものは、予め決めておいた規格サイズ(スペ
ース)以下ならポット宅配対象として、規格外のサイズ(スペース)は工場側で栽
培し、ネットで顧客は遠隔操作(ドローンな飛行体での確認も可)で確認でき、成
果物を配送する(例えば、大形の野菜・ハーブ、大形フルーツ、胡椒・コ-ヒーな
どの果樹)。尚、工場見学はネット予約で自由参観(収穫体験も可)というもの。
ユニットはメーカ回収するので、廃棄負荷は大幅軽減される上に、登録アイテム以
外の育種希望者には共同開発にもフリー参画可能である。
この項つづく