【全農産物のダウン・スペーシング : 高密度栽培工学】
さて、古在豊樹 監修「図解でよくわかる 植物工場のきほん」 をベースに「新弥
生時代 植物工場論」の考察をすすめてきて、いよいよ佳境に入り、「オール人工
光型植物育種システム」の構想中、カレンダタイマによる自動的に受粉させるプロ
セスで、超音波発振器で育種培養ポッドに接触させ揺動させ受粉させる――栽培棚
の底部に伝導チェーンに各ポッドユニット間隔に扁芯カムを回転させ上下に揺動す
る機械方式などが特許公開提案されている――がネットで携帯タイプを調べてきた
が、タカラトミーアーツ社から丁度、「ビールアワーシリーズ」の新製品の超音波
できめ細かいビールの泡がつくれる「ソニックアワーポータブル」(下合成写真ク
リック)を見つける。振動数など最適化や接触条件や局部/全体振動などの検討は
いるがこれで充分と考え組み込むことにした。
周知の通り、「オール人工光型植物育種システム」の目的は、カロリー性植物や果
菜、果樹、大型根菜形の高密度栽培用の高速品種改良にある。例えば、イネ(稲)
の嵩高は80センチメートルから1メートルあるがこれを、収穫重量を変えずに、
半分の50センチメートル以下の品種に改良できれば、作付け面積(あるいは体積)
あたりの収穫量は相当小さくなる。このように米、小麦、大豆、ジャガイモなどを
品種改良するには、従来法では長時間と労力は膨大なものとなるが、完全植物工場
方式で育種開発できれば短時間にそれを実現でき、それを『オールソーラシステム』
+『オールバイオマスシステム』とのベストミックスすれば、(1)農薬使用の逓
減、(2)遺伝子の直接改変によるリスク回避、(3)原子力エネルギーに依存し
ない省エネ+省労力+稼働コスト逓減、(4)フードロスの逓減、(5)非合成医
薬品事業の創成(例えば漢方薬、強精薬、アンチエイジング薬など)、(6)食糧
の地産・地消促進、そして(7)食糧安定供給のメリットがもたらされる。
それを可能とするシステムとして、(1)長時間の観察画像解析システムや(2)
自動環境制御試験培養ユニットシステムの開発となる。そこで関連新規考案を調べ
てみると下図のような特許が開示されていて参考となるが、それ以外に、(3)ユ
ニットには画像データ取り込み定点カメラシステム(嵩寸法及び表面積などの自動
計測を含む)、(4)また、人工光を均一照射光学設計、(5)重量変化計測シス
テム、(6)嵩高に併せ高さ方向の関連機器移動システム、(7)自動受粉システ
ム(超音波式など)、(8)二酸化炭素濃度調節システム、(8)植物ホルモンな
どの微量成分検出システム、(9)ハンドリングシステム(わき芽除去、サンプリ
ングなど)、(9)遺伝子解析システム――「検体からのDNA抽出」→「遺伝子増
幅」→「遺伝子型判定」の全自動化による育種品種の比較判定の迅速化――などを
追加させたものを考案している。これにより育種改良を繰り返し、高栽培密度化を
実現できるだろう。
このユニットは相当高額なものとなるが、全ての農産物の育種に応用展開できもの
で、初期研究開発段階は農林水産省が直轄しシステム開発(プロトタイプ:αシス
テム→βシステム・・・)を支援することで政府がしっかりと担保することが必要
だろう。成功事例が出来ると、コンピュータ制御が基盤となるためコスト逓減は加
速される(『デジタル革命渦論』の基本特性)。
【新弥生時代 植物工場論 15】
「植物工場」とは、光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を
施設内で人工的に制御し、作物を連続生産するシステムのことで、季節や場所に
とらわれず、安全な野菜を効率的に生産できることから多方面で注目を集めてい
ます。その「植物工場」そのものにスポットをあてた本書では、設備投資・生産
コストから、養液栽培の技術、流通、販売、経営などを豊富な写真や図解を用い
て様々な角度からわかりやすく解説。また、クリアすべき課題や技術革新などに
よってもたらされるであろう将来像についても、アグリビジネス的な視点や現状
もふまえながら紹介、文字通り植物工場のすべてがわかる一書となっています。
古在豊樹 監修「図解でよくわかる 植物工場のきほん」
【目次】
巻 頭 町にとけ込む植物工場
第1章 植物工場とはどういうものか
第2章 人工光型植物工場とは
第3章 太陽光型植物工場とは
第4章 植物生理の基本を知る
第5章 植物工場の環境制御(光(照明)
第6章 CO2/空調管理
第7章 培養液の管理
第8章 植物工場の魅力と可能性
第9章 植物工場ビジネスの先進例
第10章 都市型農業への新展開
第11章 植物工場は定着するか
人工光型植物工場の専門品種開発
園芸植物の品種開発の現状
人工光型植物工場の技術が目覚ましい進展を遂げている一方で、人工光型植物
工場専用の品種開発は現状ほとんど行われていない。その理由は、露地栽培面積
と簡易園芸施設栽培面積が人工光型植物工場の面積に比較して圧倒的に大きく、
前者の種子の需要が多いからである。それゆえに、園芸植物の品種は今日に至る
まで、露地または簡易施設で栽培することを「前提」として開発されてきた。
露地または簡易施設での栽培を前提とした育種において重要なのが、「耐病性」
と「環境ストレス耐性」である。病原菌や害虫、低温、高温、乾燥、湿潤などの
各種ストレスに対する抵抗性を付与したうえで、収穫量、昧、食感、形態、色
などの特性が好ましい品種を開発・育成する必要がある。
耐病性・環境ストレス耐性が不要?
では、人工光型植物工場での栽培を前提とした場合はどうか? 人工光型植物
工場における植物1g当たりの生菌数(微生物の数)は通常300以下(温室植
物の100分の1以下、露地植物の500分の1以下)である。とくに病原菌の
数は、種子に病原菌が含まれていなければ「ほぽゼロ」だ。というのも、植物の病
原菌はおもに土壌(培地)または媒介昆虫によりもたらされる。ゆえに、露地ま
たは簡易施設での栽培では常にそのリスクが付きまとう。
一方、水耕(無土壌)で栽培を行う人工光型植物工場でも病原菌の数がゼロで
はない理由は、媒介昆虫が栽培室の出入り目および出入りする作業者の衣類や靴、
髪の毛などとともに侵入するからである。したがって、作業者の出入りを厳重に
管理すれば、病原菌の侵入機会を阻止することができる。
専用品種開発は人類の「新境地」
前述からもわかるように、人工光型植物工場での栽培を前提とした育種におい
ては耐病性と環境ストレス耐性がほぼ不要であり、収穫量、昧、食感、形態、色
などの特性を第一に考えることができる。より具体的にいえば、ストレスがない
栽培条件化においては高い収穫量と品質を誇るものの、露地や簡易園芸施設では病原菌
の感染によりたちまち枯死してしまうような植物を専用品種として開発し得る。
耐病性と環境ストレス耐性が不要な育種をこれまで経験したことのない人類に
とっては「未開の境地」であるが、今後その開発がすすめば、植物工場ビジネが
ひいては植物生産そのもののイノベーションとなり得る可能性を秘めている。
重量商品化率から考える新商品開発例
「結球前収穫」と「ミニ葉もの野菜」
生産者と消費者、双方にとって魅力的な商品を植物工場で開発するためには、
「重量商品化率」(収穫時の総重量に対して実際に商品になる重量の比率)が大
き なポイントとなる。それを物語る事例のひとつが、結球性野菜の結球前収穫
だ。レタスやハクサイといった結球性野菜の外葉は収穫後に畑で破棄されるため、
露地で栽培されるそれらの重量商品化率は40%程度である。一方、人工光型植
物工場でそれらを栽培し結球前に収穫すれば、重量商品化率90~95%と、露
地栽培に比べ収量損失を大幅に軽減することが可能になる。同時にそれらは、消
費者の個食ニーズを満たしており、消費者にとっても魅力 的な商品といえる。
実際、「手のひらサイズ」(草丈10~15メートル)の菜もの野菜の市場流
通量が東アジアで増えている。これらの小型葉もの野菜はおもに鍋料理やサラダ
に使われ、若年層を中心に人気を集めている。今後さらに需要が拡大していくこ
とが予想されるため、人工光型植物工場における「目玉商品」となり得る可能性
を秘めている。
高付加価値の「小型根菜」
コカブや二十日ダイコンといった小型根菜類も、今後、人工光型植物工場の主
要生産品目となり得る。根菜類の根は、葉の同化産物(光合成によってつくり出
されるデンプンやタンパク質などの有機化合物)の大きな吸収源となるため、人
工光型植物工場での匝施用や送風などによる光合成促進効果が根部の肥大として
現れやすい。また、人工光型植物工場の高度な環境制御によって「茎菜部もおい
しい根葉」の開発・生産がすすめば、高い重量商品化率(80~90%)を確保でき、
露地栽培とは異なる商品になる。
商品および品種開発の。秘訣々とは?
自然光下における結球レタスの結球条件は比較的知られており、人工光型植物
工場でもすでに結球レタスの生産が行われている。ここで重要なのは「自然光下
の結球環境条件を人工光型植物工場で再現する」ことではなく「結球の真の因果
関係を生理学の基礎から明らかにする」ことだ。そうすれば、人工光型植物工場
においてのみ実現可能な結球促進条件を見出し得る。さらに、少ない枚数の外葉
で結球を開始する品種の開発や結球を促進する栽培法などの開発にもつながる。
このように、自然光下での栽培法、商品化、利用法を踏襲するのではなく、新
しい生産法、商品化、利用法などを見出すことが、今後の人工光型植物工場の発
展に寄与するだろう。
高度な環境制御で高付加価値作物に
環境制御の今後の課題と展望
人工光型植物工場の大きな特長は、栽培環境を自在に制御できることである。
今後の人工光型植物工場においては、成長促進や高収量だけでなく、たとえば同
じ「葉もの野菜」であっても、人工光下でビタミンCやポリフェノールなど特定
の機能性成分を露地栽培のそれよりも多く含む(あるいは含有量の低い)品種の
開発や、その品種を生産するための、より高度かつ低コストの環境制御法の開発
が重要性を増すと考えられる。
安全・安心から健康機能性ヘ
前述のような品種開発および生産のための環境制御法は、その難易度と普及度
合によっていくつかのレベルに分けられる。たとえば、植物の成長に欠かせない
成分である一方、健康への影響が懸念されている硝醜態窒素(短)濃度が低い葉
もの野菜や、微生物に汚染されていない(傷みが少なく日もちがよい&洗わずに
食べられる)野菜の開発および環境制御(生産)法はすでに実用化されている。
これらの品種および環境制御法をレベル1(=すでに実用化されている)とした
場合、レベル2(=開発中または普及中)に該当するのが、特定の機能性成分(
ビタミン、カロテン、ポリフェノールなど)が高い、あるいは活性酸素(ガンな
どの生活習慣病の原因のひとつとしても知られる)の消去能力が高い品種および
環境制御法の開発である。
そしてレベル3(=研究中)には、鉄イオン濃度が高いホウレンソウなど、特
定の成分が豊富な品種および環境制御法の開発が該当する。
高鉄分・低カリウム野菜の生産も
これらの品種および環境制御法の研究・開発には、具体的にどのような意義や
実用性があるのか? たとえば195年~2000年の間に、露地栽培ホウレン
ソウ百gに含まれる鉄分が13mgから2mgに低下し、淡い味になっている(ほか
の野菜にも同様の傾向がある)。
それに対し、人工光型植物工場の特定環境条件下で培養液に微量ミネラルを加
えると、野菜のミネラル成分や抗酸化能が増加して食味と食感も増すと期待され
ている。
また、同じホウレンソウでもカリウムイオン濃度が低い品種の開発・生産が実
用化すれば、腎臓病患者向けの「低カリウムホウレンソウ」として商品化が期待
できる。
植物工場におけるその他の可能性
採種と育種の期間短縮へ
日本の種苗会社は、販売用種子の採種のほとんどを海外(おもに発展途上国)
で行っている。その大きな理由としては、日本の気候条件が採種に適切ではない
こと、人件費が高いため採種コストが上がってしまうことなどがある。ただ、海
外での採種には人件費が安いという利点はあるものの、一方で社会的基盤が整っ
ていない、政治経済的にやや不安定である地球温暖化や異常気象に起因して良質
な種子の安定的な確保が困難になりつつある、などさまざまな問題を抱えている
のも事実だ。
その対策として、人工光型植物工場で効率的かつ安定的な採種を行うという選
択肢が将来的には考えられる。とくに、播種から採種までが半年以内で終了する
園芸植物に関しては、育種作業を人工光型植物工場内で実施することで、通常5
~7年間を要する育種年数を半減することができる。さらに、播種→開花→結実
→採種のサイクルを年間数回繰り返すことができる葉もの野菜においては、育種
期間のさらなる短縮が期待できる。現状、このような試みはほとんど実施されて
いないが、植物工場における低コストの採種方法が確立できれば、世界的にも価
値ある知的財産となるだろう。
薬用植物の安全生産の場に
漢方を含む東洋医学および代替医学一般の治療薬の処方効果をより確実なもの
にするためには、高品質な薬用植物の安定的な生産と供給が必要不可欠である。
ただ、近年の生薬、漢方製剤、サプリメント、健康食品、保険機能食品の世界
的な需要増に伴い、薬用植物資源の枯渇や生薬の価格上昇、さらにそれに起因(
関連)した植生地域の環境劣化(生物多様性の減少など)が問題となっている。
そこで今後は、高品質・高収量と省資源・環境保全を両立させ、経営的にも採
算がとれる薬用植物の栽培法の開発・実用化が必要になる。薬用植物は、重量当
たりの価格が高いものもあり、薬効成分の量と濃度が環境条件に大きく影響され
るという点で、植物工場での生産に適している場合が多い。
薬用植物の生産における課題と解決策
薬用植物は遺伝的特性の遺伝的特性に起因する発芽・生育の不揃いが多く、育
種・採種技術に関する研究・情報公開も少ない。加えて、遺伝子マーカーによる
品種または遺伝子特性の同定に関する研究が少なく、今後は優良個体の選抜と交
雑による品種改良が有効と考えられる。
この項つづく