さて、この連載も今夜で終わるとなる。どのようなまとめになるかわからないが、
ここまで概ね期待に沿った内容となっている。
【新弥生時代 植物工場論 18:ダウンスペーシング工学】
「植物工場」とは、光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を
施設内で人工的に制御し、作物を連続生産するシステムのことで、季節や場所に
とらわれず、安全な野菜を効率的に生産できることから多方面で注目を集めてい
ます。その「植物工場」そのものにスポットをあてた本書では、設備投資・生産
コストから、養液栽培の技術、流通、販売、経営などを豊富な写真や図解を用い
て様々な角度からわかりやすく解説。また、クリアすべき課題や技術革新などに
よってもたらされるであろう将来像についても、アグリビジネス的な視点や現状
もふまえながら紹介、文字通り植物工場のすべてがわかる一書となっています。
古在豊樹 監修「図解でよくわかる 植物工場のきほん」
【目次】
巻 頭 町にとけ込む植物工場
第1章 植物工場とはどういうものか
第2章 人工光型植物工場とは
第3章 太陽光型植物工場とは
第4章 植物生理の基本を知る
第5章 植物工場の環境制御(光(照明)
第6章 CO2/空調管理
第7章 培養液の管理
第8章 植物工場の魅力と可能性
第9章 植物工場ビジネスの先進例
第10章 都市型農業への新展開
第11章 植物工場は定着するか
食べる人への認知拡大
「直売所」ではまとめ買いも
近頃、野菜の値段が高い。とくに露地もののレタスなど、菜もの野菜で目立つ。
これは梅雨時期の豪雨や、夏から繰り返し上陸する大型台風のせいで、畑に苗を
植え付けるのが遅れたため。長雨では病気が多発し出荷量も減る。
そんななか、「植物工場野菜」の直売所に買いに来る人が増えている(千葉県
流山市・採れたてやさい直売所「やさいばこ」)。一番人気の「グリーンリーフ
」は、まとめ買いする人もいて、早くから売り切れになることが多いという(グ
リーンリーフは、鮮やかな美しい葉で料理に映える。かすかにほろ苦く大人の昧
)。
まとめ買いするのは、長くおいても傷まず、いつまでもシャキシャキと元気だ
から。植物工場の野菜は付着した生菌数がごく少ないため日もちし、洗わずにそ
のまま食べられる。
買った人・食べた人の感想は
実際に買ってくれた顧客の感想はどうだろうか。店舗が集めたアンケートでは、
工場産野菜を選んだ理由の1位は、昧・品質がよい、2位が、安全性が高い、3
位は、野菜の種類(好みの野菜がある)だった。
個別の感想(自由回答欄による)をみると、「やわらかくておいしい」「新鮮
で歯触りがよくおいしくいただきました」「安全な野菜なので安心して毎日食べ
ています」「洗うのがカンタンでいいです」「(ほかの店では)夏しか買えない
スイートバジルが鮮度もよくおいしかったので感激!」などがあった。一年中新
鮮で品質のよい、好みの野菜が手に入る店があれば、確実にリピーターは増える。
とくに一人暮らしや老人夫婦だけの家には、少量に小分けされた「長もち・安心
野菜がピッタリだ。
まだ知られていないよさをアピール
次頁に、植物工場野菜のもつアピールポイントを挙げてみた。「洗わずに食べ
られる」と自信をもっていえるだけの清浄な野菜であること。農薬・害虫の心配
がないことは、とくに女性への大切な訴求点である。硝醜態窒素が少なく、「い
やな苫昧がない」こと、「日もちがしていつまでも新鮮」なことも大事な特長だ。
こうしたよさを消費者はまだまだ知らない。食べてみないとよさはわからない。
生産者の側も、試 食の機会を増やすなどして、そのよさを実感させる必要があ
るかもしれない。
小さな植物工場を家庭へ
育てる楽しみ、食べる楽しみ
「植物工場」という21世紀型の農業を、家庭やオフィス内でやってみたいと思
う人たちもいる。植物工場のプラント関連企業が、家庭用のミニプラントを開発
し、さまざまな形と機能をもつ製品が急増している。
そのなかのひとつに、「水耕栽培器・グリーンファーム」がある。高さ約30m
幅約54m、奥行26mで、電子レンジを少し横長にしたような大きさ。室内専用で
、栽培数はレタス・菜もの野菜で10株、ベビーリーフ系・ハーブ系で20株。栽培
ケースには培養液が約4L入る。光源は省電力な白色LED照明で、消費電力は
排気ファンを含めて30W。点灯時刻・時間は、タイマーで自動調節できる。
気流の発生で野菜を健康に
次頁の図が、「水耕栽培器・グリーンファーム」の基本的なしくみである。次
の3つの装置(機能)が付いている。
①LED照明(省電力の光源)
②ファン(気流発生・光源からの熱の排除と除湿)
③エアポンプ(養液への酸素供給)
②のファンは、外の空気から二酸化炭素を取り入れ、気流で葉に送って光合成
を盛んにし、蒸散による過剰な湿度上昇を抑えてくれる大切な機能である。
この栽培器には冷房・暖房の装置はない。室内のエアコンからの空気(室温15~
30℃)を使うことになる。
理解者・支援者を増やす
野菜の種子(23種類)と液体肥料はオンラインショップから購入。苗床パネル
に種子をまいて、野菜やハーブなどの育ちを観察し、約30日で収穫が楽しめる。
利用者の感想をみると、「植物栽培のおもしろさ、不思議さを子供たちと楽し
みました」「清潔で安心、インテリアにもなり、友人たちとのサラダパーティが
楽しみ」「診療室にもおけるくらい清潔感がある」などがある。
野菜とともに暮らし、働く、新しいライフスタイルが広がっている。
学校でも「食農教育」のツールとして、千葉県の浦安市などで「小型植物工場
装置」を導入する動きが出てきた。野菜を健康に育てるには何か必要なのか。光・
空気・水・養分・温度・湿度・風の基本を学ぶなら、室内の装置がわかりやすい。
こうして学んだ子供たちは植物工場のよき理解者・支援者になってくれるだろう。
この頁の「小さな植物工場を家庭へ」に関して、【新弥生時代 植物工場論 Ⅸ】(
『還らざる『転位のための十篇』』 2015.04.23)の「スウェデポニックシステム」の
紹介の補足注釈として「人工光型植物育種システム」の派生ビジネスモデルとして考
察していることを書き留めておく。
新規参入への課題
人工光型植物工場の特徴を最大限に活用
人工光型植物工場ビジネスヘの新規参入を目指すとき、どんな検討課題がある
のかを考えてみたい。
何よりのポイントは、人工光型植物工場の特徴をつかむこと。その特徴を端的
にいえば「場所を選ばない閉鎖空問のなかで、品質のよく揃った農産物を周年生
産できる」こと。しかも「一年中、春のような快適な労働環境である」こと。こ
の特徴を最大限に生かすことがいちばんの課題である。
植物工場事業は、付加価値の高いものをつくらない限り、基本的に薄利多売の
ビジネスモデルであるといわれる。そのためにも、照明器具や空調設備、栽培ベ
ッドなどにむだな設備投資を行わないこと。また、常に9割に近い稼働率を維持
することが、赤字経営に陥らないための大前提である。この前提を踏まえて、こ
こではおもに市場開発・経営の面から課題をまとめてみよう。
人工光型植物工場定着への課題
【何をつくるか】露地畑と同じものをつくったのでは、既存の農業と競合するこ
とになる。一般の畑ではできない、やらないものを出荷するすみ分けが必要であ
る。たとえば、食べればとてもおいしいのに露地畑では捨てていた間引き菜(葉
つきの小さいニンジンなど)を商品にして回転を早める。植物工場なら、上の汚
れを洗う必要もなく、きれいな室内環境のなか、立ったままで収穫・出荷作業が
できる。
新規参入者としては、ニッチな品目を周年生産することで消費を定着させ、市
場シェアを高めることが王道である。
【どこでつくるか】工業製品と比べて単価の安い農産物では、物流コストの占め
る割合が大きい。流通コスト低減は、売り先に近い場所での生産が基本である。
たとえば、流通センターや外食チェーンのセントラルキッチンに併設すれば、
流通コストはOになる。レストランや小売店併設の「店産店消」型も、流通コス
トはゼロになるの利点を生かした取り組みといえる。
【誰とつくるか】人工光型植物工場の特徴のひとつは、夏でも冬でも変わらない
快適な労働環境にある。しかも軽労働であり、雇用不足が問題になっている障が
い者の働き場所として自立を支援できるのも植物工場の役割である。地域の高齢
者の生き甲斐づくりの場にもなる。
【誰と組むか】同業他社間の連携で、人口需要者の要求量に応えること。「植物
工場協同組合」を設立し、販路を確保したい新規参入者の受け胤とすることは、
植物工場の裾野の拡大に大きく寄与することになるだろう。
世界的に高まる植物工場の需要
都市人口の増加が植物工場を求める
いま世界では、食料を取り巻く国際環境の構造的変化が起きており、植物工場
の需要が国内外で高まっている。その大きな要因は、世界人口の増加が続くなか
で、開発途上国を中心に都市人口が急速に増えていることにある。
2014年前後から、農村人口と都市人口が逆転しはじめた。
農村から都市への人口の流入がすすんで農村人口は世界的に減少し、同時に高
齢化している(次頁)。
世界的に減少がすすむ農村人口は、増大する都市人口の食料を提供し続けられ
るのか。これが問題の焦点である。
これまでの自給的な食生活から、購入依存の食生活へと、都市化は食生活のあ
り方を変える。教育のレベルも向上して、食と健康への理解もすすみ、健康志向
から生鮮野菜の消費が増える。品質の落ちた輸入ものを食べていた野菜輸入国で
は、「植物工場」を開設することによって、トマトなどの新鮮な野菜を国内で自
給しようとする動きが強まっている。
耕作放棄地活用の選択肢として
日本ではどうだろうか。農業就業人口は2015年から2050年までの35年
間でほぽ半減し、さらに65歳以上の高齢者の比率が60%から70%に上昇する
と推定されている。高齢化によって重労働を伴う農業はできなくなり、耕作放棄
地は 2010年には39.6万ヘクタール(放棄率10.6%)まで広がってい
る。そうした状況のなか、軽労働でできる植物工場が注目されていくだろう。
現在、植物工場建設市場にはさまざまなメーカーが参入し、価格競争が生じて
きた。今後10年以内に、人工光型植物工場の設置コストも、運転コストも、とも
に半分以下になると予測されている。そうなれば、農家の人が自力で人工光型の
経営をはじめてもおかしくない時代となるだろう。
地域に根ざした植物工場ヘ
都市農業の新たな展開として都会で植物工場が増え、農村でも施設園芸の先端
として気象災害に強い植物工場が建てられる。個々の農家がはじめてもよいが、
まずは地元のJAが植物工場の事業主体となって、高齢者などの「遊休人材」に
生き甲斐の場を提供する活動が期待される。地域の保育所学校・養護老人施設な
どに、給食として地産地消の新鮮で安心な植物工場野菜が周年で提供されるよう
になるだろう。
「農業」の復興を通じた地域の活性化へ、地域に根ざした植物工場ビジネスの取
り組みに注目したい。
以上、考察をし終えたが、この著書にあるように、(1)価格安定(=供給力)と、
(2)高付加価値化の2つに目標が収斂される。前者は、食品の安全保障と直結し、
後者は、多様なユーザの要望(期待)に迅速に応える市場に直結する。そして、その
問題解決のコアシステムが、わたし(たち)がここで提案した『オール人工光型植物
育種システム』であり、読者諸氏に多少なりともご理解いただけたかと考える。そこ
での鍵語が、「高密度栽培:ダウンスペーシング」である。その技術目的の一例が、
有用な花、芽、茎、葉、根、根ひげなどの部位の肥大化やその部位に含有される機能
物質の高密度化にあり、その他の部位は生育を阻害しない程度に栽培するという生物
(生体・生命)工学である。また、その他の例としては、色素(色合い)やフレーバ
ー(風味、香味)などの改変を、(1)環境制御のみ(場合によっては、後述する紫
外線、電波、X線なども使用し変異を促すことも含めることも可)で自然変異を期待
して淘汰圧(選択圧)をかけることで選抜する選抜技術(生物の遺伝的性質を改良)
方法。
さらには(2)ハクサイとキャベツの雑種「ハクラン」やホウレンソウとコマツナの
雑種「千宝菜」のように植物の個体から組織を取り出し、培養して増殖させる細胞培
養技術、(3)オレンジとカラタチの体細胞雑種「オレタチ」のように2つの細胞を
接着、融合させ核の融合により生殖過程を経ずに雑種細胞を作製する細胞融合技術、
あるいは、(4)2個体間の生殖活動――受粉、接合、受精を意味し、両個体が同一
の遺伝子型をもつ場合も含み、遺伝子型が異なり雑種が形成される場合を特に「交雑」
と呼ぶが。遺伝形質が全く同一の個体間の交配は品種改良にはなりにくいが、交配に
伴って生じる突然変異による品種改良が起こり得るが一般には交配と交雑は混同して
使用される交配技術、
また、(5)2個体間の生殖活動、すなわち受粉、接合、受精を意味し、両個体が同
一の遺伝子型をもつ場合も含む。遺伝子型が異なり雑種が形成される場合を特に「交
雑」と呼ぶ。遺伝形質が全く同一の個体間の交配は品種改良にはなりにくいが、交配
に伴って生じる突然変異による品種改良が起こり得る。一般には交配と交雑は混同し
て使用される変異技術、(6)種なし西瓜のように染色体は通常1対の染色体(ゲノ
ムが2セット:2倍体)が増加させた生物(倍数体)を作製する倍数体形成技術、最
後に、(7)遺伝子を人工的に改変する技術――クローニング(単離)、遺伝子の導
入(細胞への導入)、遺伝子の発現(遺伝子が暗号化している蛋白質を生産させるこ
と)等からの遺伝子操作技術は、安全性が確認された場合を例外として基本として使
用しないものとする。
湖岸をドライブしようと急遽、湖北野鳥センタ(湖北みずどりステーション)まで出かけるが、道
沿いにはプチソーラーの建設ラッシュを目撃するが、目的地を散策すると、ソーラーシュアリン
グされている農地を発見、早速デジカメする(バックの山は山本山/上写真(下))。エネルギー
革命はこんなところにも波及したのかと感心する。
● 今夜の一輪
裏庭にピンク色の八重の椿が毎年春先から咲き始め彩りを添えてくれる。千重~列弁咲
き、小~中輪。1~4月に咲くという。品種はジェシーコーナー(米国産)らしい。母
が植えたものでいまは形見となったが、うす桃色の美しい花である。