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緑茶と玉葱皮

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   経済のルールが変わったのではない。経済の競技種目が変わったのだ。
                       
                                                      堺屋 太一 

 

【技術進歩と倫理】

例の近所のストーカー事件への情報提供云々の件について、警察関係者が2、3度該当賃貸住宅
を監視捜査していたようだがいまは平常状態に戻っている。

ところで、携帯電話の衛星利用測位システム(GPS)情報を犯罪捜査に活用しやすくするため、
総務省は通信事業者向けの指針の見直しを進めている。6月にも運用開始するという。現行は情
報を取得する際、捜査機関が情報を得ていることを相手に通知しなければならないが、新指針で
はこの手続きが不要となり、本人に気づかれずに居場所を特定できるようになる。犯罪と無関係
の行動も常時把握されかねない。こんな重要なことが指針の見直しだけで行われていいわけがな
い。野放図になる可能性がある限り、認められないとの批判が起きている(北海道新聞 2015.06.
06)。

GPSの発信器をこっそり車に取り付け、捜査対象者を監視する手法は各地で行われている。愛
知県では県警のこうした捜査でプライバシーを侵害されたとして、県に損害賠償を求める訴訟が
起こされている。今年3月には大阪地裁が窃盗の刑事裁判の判決の中で、同様の捜査手法を適法
と判断。しかし一部専門家からは、令状なしに詳細な位置情報を無断で把握するのは行き過ぎだ
との批判も出ている。新指針は問題の多いこうした捜査手法をさらに拡大するのだという。

そてによると、裁判所から令状を取り、携帯電話会社などに捜査対象者の携帯番号を伝えれば、
携帯所有者の位置情報を知ることができる。特殊詐欺や誘拐など、犯人の居場所が分からない事
件の捜査に役立つ。現行の指針では裁判所の許可を取った上で、情報取得を本人に知らせなけれ
ばならなかったため、容疑者が逃げたり証拠を隠したりする恐れがあり、現実の捜査には活用し
にくいのも理解できる。総務省は「裁判所の許可が必要なため、捜査機関の乱用に歯止めがかけ
られる」としていが、思想信条など犯罪と無関係のプライバシーまで侵害される恐れは拭い切れ
ないとし、北海道新聞の社説では、「捜査手法を認めるならば、刑事訴訟法でしっかり規定すべ
き」と指摘し、その上で「(1)対象となる犯罪の種類や(2)情報取得の期間、(3)事後で
あっても本人への通知を義務化することなど、厳格なルール整備を求める」と結ぶ。

この問題は、技術進歩と犯罪防止方法と人権侵害のトライアングルの変容であり、デジタル革命
の基本特性の第3則の「ボーダーレス」に該当するものであるが、本質的には、成熟した福祉国
家の質が問われているのだ。「年金情報流出 中国・米国のサーバー経由か」(2015.06.04 日
本テレビ(NNN))、「<年金情報流出>安倍首相が陳謝 菅官房長官は職員処分検討」2015.06.
05 毎日新聞)など新しい時代の経済把握枠組みプラットフォームに関する問題が生起し、その
構築と関連する行政の法整備が急がれている。


※  「プラットフォーム競争と垂直制限―ソニー・コンピュータエンタテインメント事件を中心
  に―要旨」2009.04.07
※  「平成24年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究(プラットフォーム関
    連事業に関する理論分析)」 2013.02.28



【緑茶と玉葱皮】

一昨夜の話。農研機構のホームページの『機能性成分ケルセチン配糖体が特に多い茶品種「そう
ふう」「さえみどり」』の「お茶はカテキンだけじゃない ! ケルセチンも多い品種があります
!」のプレスリリースのキャッチ・コピーに目がとまった。既存緑茶品種の中から「そうふう」
と「さえみどり」の2品種が、主力品種「やぶきた」に比べてケルセチン配糖体を特に多く含む
品種であることを発見しましたという内容で、緑茶のカテキンに加えて機能性フラボノイドの一
種であるケルセチン配糖体を多く含む茶品種で、健康機能性の高い品種として需要拡大が期待さ
れるというもの。

つまり、ケルセチンは野菜や果物に豊富に含まれるポリフェノール成分であり、そのままで、あ
るいあは配糖体(ルチン、クエルシトリンなど)の形で、柑橘類、タマネギ、ソバ、エンジュ等
の種々の植物に含まれているという化合物だというのだが、玉葱の皮にたくさん含まれるのでお
茶にして摂取することが話題(いつごろから?)になっているという。ケルセチンは、強力な抗
酸化活性の他、血小板の凝集抑制および接着抑制作用、血管拡張作用、抗ガン作用等、多彩な生
理機能をもつことが知られている。そんなに効果があるのなら食品資本や医薬品資本が放ってお
く手はないはず。と、いうわけでお茶にする以外の動きを至急追ってみたが、サントリーホール
リングスに注目する。 

 

経口で摂取するには腸内吸収促進工学が必要になるが、そして、ケルセチン配糖体に関しては、
(1)結合するグルコース数が1、2、3と増すにつれて、経口吸収性が高くなり、グルコース
数(n)が4つになると経口吸収性が低下することが分かっている。また、(2)飲料中のナト
リウム濃度を調整することで、ケルセチン配糖体特有の収斂味(苦味)が低減され、茶本来の良
質な香気香味が得られるようになったというから(下図の新規考案参照)、このわたしでも、新
しい健康食品もつくれそうな気がしてきた。お金に困ったらこの情報を元に地域興して稼ぐこと
にしよう考えた。甘いってか?やってみなきゃわからないでしょう!?^^;。

※ 
水抽出コンドロイチン硫酸とケルセチン配糖体を含有する経口投与用製剤 WO 2010013551 A1

 
※ JP 2015-91221 A 2015.5.14

 
※ 特開2009-155312
 

   

【日本の政治史論 26:政体と中枢】  

「古賀の乱ってなんだ  "I am not ABE"」(『進撃のヘーリオス Ⅱ』2015.04.04)で 触発され
るように、積んでおいた本を取り出し読みはじめた。そして、この国の政体を考えみよう。その
結果、どのようになろうとも未来志向できる手がかりを明らかにしたという動機から掲載してい
きたい。まずは第5章から読み進める。

  福島のメルトダウンは必然だった…政府閉鎖すら起こる2013年の悪夢とは!?家族の
 生命を守るため、全日本人必読の書。「日本の裏支配者が誰か教えよう」。経産省の現役幹
 部が実名で証言。発電会社と送電会社を分離する発送電分離。このテーマについて本気で推
  進しようとした官僚が何人かいた。あるいは核燃料サイクルに反対しようとした若手官僚も
  いた。しかし、ことごとく厚い壁に跳ね返され、多くは経産省を去った。私も十数年前、発
 送電分離をパリのOECDで唱えたことがあるが、危うく日本に召喚されてクビになるとこ
 ろだった。その理由とは何だったのか――。(「序章」より)。改革が遅れ、経済成長を促す
 施策や産業政策が滞れば、税収の不足から、政府を動かす資金すらなくなる。そう、「政府
 閉鎖」すら起こりかねないのだ。いや、そうした危機感を煽って大増税が実施され、日本経
 済は奈落の底へと落ちていくだろう。タイムリミットは、ねじれ国会を解消するための参議
 院議員選挙がある2013年、私はそう踏んでいる。(「まえがき」より)      

                            古賀 茂明 著『日本中枢の崩壊』   

 

    目 次     

  序 章 福島原発事故の裏で
  第1章 暗転した官僚人生
  第2章 公務員制度改革の大逆流
  第3章 霞が関の過ちを知った出張
  第4章 役人たちが暴走する仕組み
  第5章 民主党政権が躓いた場所
  第6章 政治主導を実現する三つの組織
  第7章 役人―その困った生態
  第8章 官僚の政策が壊す日本
  終 章 起死回生の策      

 

 第3章 霞が関の過ちを知った出張

                           経産省と大企業の美学が作った高コスト体質

  彼のいわんとするところはこうである。ベルトコンベアから始まり、空調システムまで、
 独自の仕様を要望すれば、当然、コストは高くつく。設備投資に余計にかかった分は、製
 品価格に転嫁される。つまり、「擦り合わせ」という企業文化が日本の製造業の高コスト
 体質につながり、結果的に日本の製造業の国際競争力を削いでいるのだ。

 「われわれの努力が、得意先に貢献しているどころか、むしろ足を引っ張っている。こん
 な報われない不毛な努力をしているかと思うと、空しくなる」というのだ。
 「擦り合わせ」文化がすべて悪いわけではない。製品の品質・性能に直接関わる部分につ
 いて他との差別化をはかるのは、確かに雨要だ。たとえば重要部分の1千分のIミリの調
 整によって製品に決定的な差が出てしまうというケースはままある。

  しかし日本の製造業は、ただ「擦り合わせ」を金科玉条として、取るに廻らないところ
 まで使い勝手の良さを求める。そのため、高コスト体質から抜け出せなくなっているのだ
 から、本末転倒である。
  結果、日本人は汗水垂らして長時間働いても一向に報われないという、まるでギリシャ
 神話に描かれたシシュフオスに科された罰のような生活を強いられている。「擦り合わせ」
 文化はすべてなくす必要はないが、絶対的価値だという先入観は捨て、見直すべき時期に
 来ているのではないか。

  日本の大手製造業の『擦り合わせ」絶対に義は一種の宗教のようになっている。経産省
 もことあるごとにこれを賛美してきた。しかし、中小企業でも、海外の実情を目の当たり
  にすれば、その愚かさにすぐに気づくのである。
  経産省かもし、日本の産業の振興を本気で考えているのなら、このような悪しき企業文
 化の払拭に肴手すべきだろう。ところが、困ったことに、経産省の最高の美学かいまだに
 「擦り合わせ」なのだ。

  経産省では、日本企業の細やかな「擦り合わせ」こそ、他国がまねのできない特有の文
 化で日本の競争力の原動力、との解釈がまかり通っており、「日本の技術力を守れ」とば
 かり、むしろ、「擦り合わせ」文化を奨励してきた。日本企業に「擦り合わせ」文化が定
 着した一因は、経度省の感覚のすれた価値観にあるといっても過言ではない。


                大きなチャンスを阻む大企業の囲い込み

  涙の6000キロの旅では、経度官僚かいま果たすべき役割も痛感した。ある金型部品
 メーカーを訪れたとさのことである。
  事前の情報では、訪問先は成型技術に秀でている企業で、日本を代表する大手メーカー
 からもその技術は高い評価を受けているということだった。実際に訪れてみると、想像し
 ていた以上の優良企栗だった。
  職人集団の色合いが強い地方の中小メーカーはどこも高齢化していて、その例にもれず
 経営者の方はご高齢だったが、管理が実に行き届いていて、24時間の操業体制か整えら
 れており、金型を作る機械が常に動いていた。しかも、説明を間くと、その技術は世界の
 トップを走っているらしい。

  数年前から自動車の新素材として炭素繊維に注目か集まっている。炭素繊維は鉄よりも
 強度がありながら、それでいて重さは4分の1とはるかに軽く、炭素繊繊維なら従来のス
 チール製の車より20パーセントも軽量化できるという。つまり、炭素繊維を使えば、燃
 費が良くて環境にもやさしく、しかもいまよりも頑丈な夢のエコカーの実現が可能となる
 のだ。モのため、世界の自動車メーカーは炭素繊維単の量産化に向けて開発合戦を繰り広
 げている。

  その近未来型車の分野で、いち早く市販仕様車の生産に踏み切った大手メーカーの高級
 スポーツカー。ドライバー垂涎の的となっているこの車の開発・生産を陰で支えているの
  か、私が訪問した企業だった。炭素繊維は、彫らかにカットしたり精密に成型するのに極
 大していく。どんどん宣伝すれば、世界中の自動中メーカーから注文か殺到するじやあり
 ませんか」

  応対してくれた経営陣の一人に率直に疑問をぶつけると、彼はいいにくそうに口を開い
 た。
 「そうでしょうね。実は、これ内緒なんです.理由はいえませんが……」
  察するに、発注元の自動車メーカーとの契約条項に、この技術を公表しないという取り
 決めか入っているようだった。そう考えたのは、前々から私は日本の大企業のやり方を苦
 々しく思っていたからだ。

  日本の大手メーカーを世界屈指の超優良企業にまで押し上げた原動力は、悪くいえば大
 企業か構築した利益を独り占めする、ある意味、こずるいシステムにある。日本の大手メ
 ーカーは、下請け企業を囲い込み、本来なら下請けが得る利益まで、すべて吸い上げる仕
 組みを考え出した。
  こうした構造を前提に考えれば、炭素繊維車に必須の技術を独占するためのなんらかの
 制約項目を契約に入れてあるだろうことは、容易に想像できた。

  誤解して欲しくはないのだか、私は決して日本のメーカーを非難しているわけではない。
 むしろ、立派だと思っている。企業が自社にとってもっとも効率的に利潤を上げられるや
 り方を考えるのは、当然の行為である。そうした経営手腕が卓越していたからこそ、世界
 のなかで競争していけたのだと評価している。だが、われわれ官僚の立場は一企業の経営
 者とは違う。経産官僚は、国全体の産業、経済の発展を考えなければならない。そういう
 観点からすれば、このような構造にはいささか問題がある。

  私は、「もし、発注元からなんらかの縛りを受けているのなら、次に契約するときは、
 宣伝してもいいという条項を入れるよう交渉してはいかかですか。それを受け入れなけれ
 ば、契約しないと突っぱねてみては。それがお宅の会社にとっては得だと思いますよ」と
 提案してみた。
  表情から推測するに、どうやら図星だったようだ。「確かにおっしやる通りですね。経
 産省の力がそういってくださると、われわれもその気になれます」といいながら、手帳に
 私の提案をメモしていた。

  私は、これまで、世界でも有数の技術力を誇るという中小企業を数多く訪問した経験が
 ある。話を聞くと、これからどんどん成長して、すぐにも大企業になりそうな気がしたも
 のだ。

  しかし、その多くはその後も中小企業のままである。

  そういう企業でよく間く話として、『発注元がわれわれの技術を高く買ってくれていて、
 わざわざ本社から取締役がお見えになって、従業員にまで声をかけてくれました.あれは
 私たちにとって大きな励みになりました」というのかある。
  役員室には、発注元の社長名の喪形状があったりする、地方の方は純朴である。わざわ
 ざ世界に冠たる企業の重役が訪問して、自分たちの技術を貧めてくれただけでヽ大きな喜
 びを感じる。大手メーカーの凄いところは、そんな地方の経営者の純真無垢な気持ちをう
 まく利用し、取り込んで離さない術を知っている点である。これほど安上がりな技術独占
 方法はない。
  しかし一企業が、世界に一通用し、しかも大きなピジネスにつながる可能性を秘めた技
 術を有する企業を囲い込んでいるのは、国家全体の経済からいえば、多大な損失である。

                    県庁にも対抗できない経済産業局

  いま触れた企業のように、ワールドワイドなビジネスに育つ可能性がありながら、様々
 な理由から芽を出せずにいる企業は他にもたくさんあるに違いない。そうした埋もれた技
 術や隠れた有望企業を発掘し、世の中に送り出し、世界の企業への端緒を開く。もちろん、
 それが市場によって達成できれば素晴らしい、だが、必ずしもそうした機能が十分に発揮
 されているようには見えない。こういうときこそ経産官僚の出番ではないかと思う。

  だか、残念なから現在の経産省ては正直、荷が眠い。現場の最前線にいる各地の経済産
 業局でさえ、その地の企業に関して熟知しているとはいいがたいのが現状だからだ。
  北海道から九州・沖縄までブロックごとに設置されている九ヵ所の経産局には、エネル
 ギー、中小企業、消費者保護など、業種・分野ごとに職員か配置されており、平均的には
 200名前後が働いている。彼らがサボタージュしているわけではない。構造的に生の情
 報が入りにくいのだ。

  経産局の職員が、担当業種の情報を得るために真っ先にすることは、県庁での情報収集
 である。いまどき、地力の中小企業といえどもグローバル化していて、中国をはじめとし
 て世界を股にかけビジネスを展開している。各県は、これに対応するため、海外にスタッ
 フを派遣している。
  たとえばある県は、JETRO(日本貿易振興機構)上海事務所に県の職員を数年交代
 で出向させているので、中国語に堪能で現地の事情に詳しいスタッフか県庁のなかに何人
 もいる。

  また県によっては、自前の現地事務所を設置しているという具合で、生の情報をもとに
 企業に適切なアドバイスができるシステムが整備されているのだ。
  対して地方の経度局はどうか。ある局の職員の嘆きを開いて、彼らが置かれている状況
 が分かった。
 「どこの県も海外に人を送っているのに、うちは去年も今年も海外出張旅費はゼロ。予算
 がない。これじやあ、到底、県には太刀打ちできません」

  たとえ海外に人を派遣できないとしても、百聞は一見にしかずである。企業に足を運べ
 ば、生の情報は得られる。実際、訪問してみて初めて知る事実は多い。
  中小企業庁に勤務していた当時、この出張と同様に地方の中小企業の実態調合を行った
 ことがある。このとき訪れた社に、自動車部品メーカーかあった。例によって経産局の触
 れ込みは、「某大手自動雁メーカ’‐のトランスミッションの○割を納入している」だっ
 た。
  ところが、実際に話を聞いてみると、経産局で聞いた謳い文句とは違っていた。初めは
 経営陣とトランスミッションの話に終始し、様々な議論を戦わせていたが、ちょっとした
 きっかけで、「それで儲かりますか」と私が尋ねると、先方が「いや、それか大して儲か
 らないんですよ。毎年、自動車メーカーからはコストダウンを迫られるので、安定はして
 いても利益はほとんど出ないんです」という。

  このやり取りをきっかけに話題は思いもしなかった方向に逸れた。この会社では、あま
 りにも自動県部品の利益率が低く、自動車産業とつき合っていては将来が展望できないの
 で、新たな分野の開拓を考えていたそうだ。そのとき、目に留まったのが、医療の人工関
 節である。
  精密トランスミッションの技術を転用すれば人工関節の製造はむずかしくない。しかも、
 人工関節の分野は人の生命に関わるだけに、規制が複雑で手間かかかるので、大手の同業
 他社はまだ進出を暗譜している。ならば、ライバルは少ない。自行の技術力に自信を持っ
 ていた社長の決断により、医者との綿密な打ち合わせを重ねて人工関節の試作品を作ると
 評判がいい。

  そこで、思い切って人工関節の分野に本格参入してみると、利益率は自動嘔のトランス
 ミッション製造とは比べようもないほど高かった――。
 
  経営陣の一人は最後にこう語っていた。

 「いまは自動牡部品が売り上げの7割を占めていますが、5年後にはこれを2割まで下げ
 る計画です。現在の最大の課題は、いかに自動車部品からうまく撤退するか、なんです」
  私の経験からも、直接、企業を訪問して「じっくり」話をうかかえば、収穫は多いはず
 である。だが、現在の経産局にはそんな余裕はない。200名前後のスタッフがいるとは
 いえ、業務は業界の規制から商店街の振興、消費者保護までと幅広く、企業を一軒軒訪ね
 て歩けるほどの時間はない。勢い、県庁に出向き「どこか、いい企業はありますか」と尋
 ね、教えてもらうという手っ取り早い方法を取りがちになる。

  かといって専用スタッフを配しても、恐らくうまくは機能しないだろう。中小企業の経
 営者から本音を引き出すには、それ相応の感度が必要だからだ。先ほどの自動巾部品メー
 カーを例にすれば、余計なことを役人に喋って自動車メーカーに聞こえでもして、睨まれ
 たくはないと警戒する。この壁を崩すには高感度のアンテナが便る。
  ところか、現在の官僚に決定的に欠けているのがこの『感性にである。霞が関にいても、
 耳を澄まし、目を擬らせぱ、地方の企業がいま置かれている現実に気づく機会はいくらで
 もある。しかし、霞が関の官僚の多くは、目は曇り、耳は遠くなっている。聞こえてく
 るのは、政府に頼って生き長らえようとするダメ企業が集まった団体の長老幹部の声や、
 政治家の後援者の歪んだ要請ばかりだ。

  政府に頼らず本当に自分の力でやっていこうとしている企業は経産省などにはやってこ
 ない。さらに、経産省を批判する声に耳を傾けようという姿勢を持つ幹部もほとんどいな
 い。
  
  かくして、これからの日本を引っ張るポテンシャルを持った企業のニーズに応えるため
 の改革、たとえばゾンピ企業の積極的淘汰のための政策転換などはできない。そして常に
 「危機的状況」を叫んで、ばら撒きの「緊急支援」を続けることしかできなくなっている
 のだ。
  しかし、それよりも深刻なのは、自らの問題に目を向けて自己改革する心を失っている
 ことかもしれない・・・・・。

                                                    この項つづく 

 




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