根藩の当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる招き猫と井伊軍団のシンボルとも言える赤備え(戦国時代
の井伊軍団編成の一種、あらゆる武具を朱りにした部隊編成のこと)
と兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ-。
【季語と短歌:3月25日】
ごみだしの乙女椿や春ならひ
高山 宇(赤鬼)
OAMード多重伝送装置
✳️140Gbps 時代
日本電信電話株式会社(NTT)、株式会社NTTドコモ、日本電気株式
会社(NEC)は3月24日、71GHzから86GHzのミリ波帯において140
Gbpsのリアルタイム無線伝送に成功したと発表した。3社によれば、
これは従来技術の2倍以上の速度であり、100GHz未満の周波数におい
て世界最速となる。3社は6G時代の無線需要に備えた大容量無線伝送
の実現を目指した取り組みを進めており、今回の成果は、軌道角運動
量(OAM)を用いた新しい空間多重方式を用いた取り組みにより得ら
れた。
図1:実環境でのリアルタイム無線伝送技術(100GHz未満)に対する
本成果の位置づけOAMモード多重伝送装置
OAMとは電波の性質を表す物理量の1つで、送信電波の同一位相の軌
跡が進行方向に対して螺旋状を描くように、送信アンテナから送信さ
れる信号の位相差を設定することで生成される。受信側では、受信ア
ンテナで受信した信号の位相を送信とは逆回転して合成することで受
信でき、異なる螺旋構造を持つ複数のOAMモードに対応する無線信号
を重ねても、互いに干渉することなく分離できることが特徴。これに
より、複数の異なるデータを空間上に多重し、限られた帯域で多くの
データを送れるようにする技術を「OAMモード多重伝送技術」といい、
これにより、帯域が広く確保できない100GHz未満のような周波数帯
においても、大容量の無線伝送が可能となる。
図5:無線バックホール/フロントホールへの適用例
【展望】
今回の成果により、OAMモード多重伝送を用いて双方向で合計毎秒
100ギガビットを超える大容量のリアルタイム無線伝送を実証した。
このような大容量無線伝送技術は、バックホールの回線を光ファイバ
だけでなく無線接続とすることを可能にし、柔軟なバックホールの構
築、イベント時の移動基地局との無線接続への適用や災害発生時の臨
時のバックホール回線への適用など、6Gやそれ以降における無線通信
需要を満たす無線通信システムに貢献できると期待できる。
今後、リアルタイムの大容量無線通信を利用した中継伝送など、OAM
モード多重伝送技術を用いた無線バックホール/フロントホールへの
適用などのユースケースの検討を進め、6G時代のVR/AR(仮想現実
/拡張現実)や高精細映像伝送、コネクティッドカー、遠隔医療など、
将来の多様なサービスを支える基盤技術となるよう、ミリ波以上の周
波数帯における無線伝送の大容量化、長距離化の検討により、無線需
要を支える柔軟なネットワークの構築に取り組むという。
⛑️ イマイチ理解できていないので、再考察する(笑)。
図2:OAMモード多重伝送のイメージ
✳️ 特開2024-043265 バリア層構造の製造方法およびバリア層構造
国立大学法人山形大学: 硯里 善幸・佐々木 樹(審査前)
【要約】Si-Nを主骨格とするポリシラザン化合物を含む溶液を対
象物に塗布または印刷する工程1と、窒素雰囲気下に、波長230nm
以下の紫外光を対象物上のポリシラザン化合物に照射し、窒化ケイ素
系層を形成する工程2とを有することを特徴とするバリア層構造の製
造方法。ポリシラザン化合物に波長230nm以下の紫外光を照射す
ることにより、バリア性の高い窒化ケイ素系バリア層構造を製造する
方法およびバリア層構造を提供する。【0013】
図10、実施例4で作製した有機EL素子の層構造
【発明の効果】
本発明によれば、対象物にポリシラザン化合物を含む溶液を塗布また
は印刷し、窒素雰囲気下で、波長100~190nmの真空紫外光を
照射し、6000~24000J/cm2の積算光量でポリシラザン化
合物被膜に照射することで、水蒸気透過度10-4~10-6g/m2/day
の高いバリア性能を有する窒化ケイ素系バリア層構造を得ることがで
きる。波長100~190nmの真空紫外光は、その多くが層表面で
吸収されるため、層内部に比べて表面が高密度化するが、波長200~
230nmの紫外光でさらに照射することで、層内部が高密度化し、
層構造全体が均一に密度化したバリア層構造を得ることができる。本
発明によれば、ポリシラザン化合物を用いた塗布型の高純度シリコン
コーティング材を提供することができる。
図1、PHPS膜厚とVUV積算光量とバリア性能との関係を表す棒
グラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Si-Nを主骨格とするポリシラザン化合物を含む溶液
を対象物に塗布または印刷する工程1と、
窒素雰囲気下に、波長230nm以下の紫外光を対象物上のポリシラ
ザン化合物に照射し、窒化ケイ素系層を形成する工程2と
を有することを特徴とするバリア層構造の製造方法。
【請求項2】 前記ポリシラザン化合物が、パーヒドロポリシラザン(
PHPS)であることを特徴とする請求項1に記載のバリア層構造の
製造方法。
【請求項3】 前記波長230nm以下の紫外光が、波長100~19
0nmの真空紫外光であり、
照射する紫外光の積算光量が6000~24000J/cm2であるこ
とを特徴とする請求項1に記載のバリア層構造の製造方法。
【請求項4】
波長100~190nmの真空紫外光に加えて、波長200~230
nmの紫外光をさらに照射することを特徴とする請求項3に記載のバ
リア層構造の製造方法。
【請求項5】前記工程1および工程2に加えて、さらに、紫外線硬化
性ポリシロキサン、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる
一種を含む溶液を、対象物上の窒化ケイ素系膜に塗布または印刷し、
光または熱により硬化させて樹脂層を形成する工程3を有することを
特徴とする請求項1に記載のバリア層構造の製造方法。
【請求項6】 前記工程1~工程3をこの順に複数回行い、窒化ケイ
素系層と前記樹脂層とを交互に積層させることを特徴とする請求項5
記載のバリア層構造の製造方法。
【請求項7】 前記工程2において、波長230nm以下の紫外光を
15~40℃の温度下に照射することを特徴とする請求項5に記載の
バリア層構造の製造方法。
【請求項8】 前記工程1に先立ち、対象物を真空紫外光またはUV
オゾン洗浄により表面改質することを特徴とする請求項1に記載の
バリア層構造の製造方法。
【請求項9】前記バリア層構造の膜厚が150~250nmであるこ
とを特徴とする請求項1に記載のバリア層構造の製造方法。
【請求項10】対象物上に形成された窒化ケイ素系層構造において、
対象物に近い部分の屈折率が1.50~1.6であり、
対象物から遠い部分であり、窒化ケイ素系層の表面付近の屈折率が
1.6~1.9であることを特徴とするバリア層構造。
【非特許文献1】ACS Appl. Mater. Interfaces 11 (46), 43425-43432
(2019)
[実施例1]
<屈折率の測定>
洗浄したシリコンウエハー上に、パーヒドロポリシラザン(PHPS
)の20wt%ジブチルエーテル(DBE)溶液(信越化学工業(株)
製)をスピンコート法により成膜した。表1に示すように、膜厚は、
溶液濃度およびスピンコート回転数を調整して制御した(実験例1~
24)。溶液の調製およびスピンコートは、窒素を充填したグローブ
ボックス(水および酸素の濃度は<10ppmとする)内で行った。
さらにグローブボックス中に設置したエキシマランプにて窒素下172
nmの真空紫外光(VUV光)を照射して、光緻密化したPHPS層
をシリコンウエハー上に形成した。エキシマランプには、浜松ホトニ
クス(株)製 FLAT EXCIMER(照射強度20mW/cm2)ま
たは(株)エム・ディ・コム製 MEIRHA-MS-1-152-H
(照射強度85mW/cm2)を使用した。VUV照射量は、紫外線積
算光量計(浜松ホトニクス(株)製 C9536-センサヘッドH95
35-172)を用いて算出した。
分光エリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)製
VASE32)により、シリコンウエハー上の光緻密化されたPHPS
層の膜厚方向における屈折率分布を測定した。エリプソメトリー測定
では、入射光の角度を45°から75°まで5°刻みで変化させた。実験
的エリプソメトリックパラメータ(ΨとΔ)で表される光の偏光状態を、
SiO2を含む4層光学モデルとガウス振動子を含む3つの単層モデル
を用いて解析した。なお、屈折率測定では、バリア層(SiN層)と
なる光緻密化したポリシラザン層の屈折率を厳密に測定するため、シ
リコンウエハー上にポリシラザン層を1層だけコートし測定した。
【0038】
<バリア膜の作製とバリア性能の測定>
ポリイミドフィルム(PIフィルム:Xenomax、Ra:~0.
5nm、厚み:38μm、サンプルサイズ:50mm×50mm、ゼノ
マックスジャパン(株)製)上に、応力緩和層となる、UV硬化型ポ
リジメチルシロキサン(PDMS)のオリゴマーと架橋剤(信越化学
工業(株)製 X-34-4184 A and B)と低分子環状デカメ
チルシクロペンタシロキサン(D5)(信越化学工業(株)製)とを、
オリゴマー:架橋剤:D5=1:1:16(重量比)の割合で自転公
転ミキサー(2000rpm、4分)にて混合し、PDMS-D5溶
液を調製した。グローブボックス中で窒素雰囲気下、PDMS-D5
溶液を6000rpm、30秒でポリイミドフィルム上にスピンコー
トし、高圧水銀灯を用いてUVを1分間照射し、UV硬化型PDMS
層を硬化させた。その後、VUVを窒素下3分間照射し、PDMSの
表面をSiO2化させ、膜厚約150nmのPDMS硬化体層を形成
した。
PDMS硬化体層の上に、20wt%PHPSのDBE溶液を窒素下
でスピンコートし、VUV光照射して、バリア層となるPHPS硬化
体層を得た。PHPS硬化体層の形成方法は<屈折率の測定>におけ
るPHPSコートと同様である。
ポリイミドフィルムおよびPDMS硬化体層の上に形成されたバリア
層をガス透過率測定装置((株)MORESCO製Super-De
tect)にて性能評価した。測定条件は40℃/90%RHとした。
バリア層の性能評価としては、サンプルをセットし、水蒸気透過率が
定常状態になった値をそのバリア層構造の水蒸気透過率(WVTR)
とした。【0039】
<バリア膜表面の観察>
バリア層構造の表面観察を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子
(株)製JSM-IT100)にて行った。帯電防止のため、イオン
コーターにてPtをバリア層の表面に薄く(<2nm)コートした。
結果を表1に示す。【0040】
<バリア膜表面の観察>
バリア層構造の表面観察を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子
(株)製JSM-IT100)にて行った。帯電防止のため、イオン
コーターにてPtをバリア層の表面に薄く(<2nm)コートした。
結果を表1に示す。
【0040】【表1】
表1中、PHPS膜厚(nm)は分光エリプソメトリーにより求めた
総厚である。 VUV積算光量(mJ/cm2)は、VUV光量×時間に
よって求めた。 バリア性能(WVTR)は40℃/90%RHにおける
水蒸気透過率である。 バリア性能が~10-4g/m2/dayを〇とし
、~10-3g/m2/dayを△とし、>10-2g/m2/dayを×とした。
屈折率(MAX)には分光エリプソメトリーにより得られた4層モデ
ルにおいて最も高い屈折率を表記した。組成が同じ場合、屈折率は密
度と相関することから、屈折率が高いことは密度が高いことを示す。
クラックの有無は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示し
ている。クラックは無い方が、水蒸気を透過し難いといえる。【00
41】 実験例1~24の結果を三次元の棒グラフにまとめたものを図
1に示す。X-Y軸はPHPSの膜厚(nm)とVUV光の積算光量
(mJcm-2)であり、Z軸は水蒸気透過率WVTR(g/m2/day
)である。【0042】
水蒸気透過率WVTR(g/m2/day)が小さいほど、バリア性能
は高い。 図1より、最も高いバリア性能を示すのはPHPS膜厚が
200~250nmかつVUV積算光量が12,000mJ/cm2の時
であることがわかる。このときバリア性能は2×10-4g/m2/day
である。【0043】 この理由を各種分析から明らかとした。
膜厚約350nmのPHPS膜にVUV光を照射したときの屈折率分
布(膜厚方向)を図2(a)に示す。本来はVUV光の吸収によりP
HPSの光緻密化は連続的に起こるが、屈折率および膜厚を高精度に
得るため、バリア層を4層に分け、4層でのフィッティングを行った。
【図2】
図2(a)は、各層の平均的な屈折率とその膜厚を示している。また
SIMS分析から、最表層はSiO2層が形成されていることが明らか
であるため、最表層に関してはSiO2層としてフィッティングした。
VUV光を照射することで、特に表面(Top)の屈折率が向上した。
照射なしの屈折率1.54から72,000mJ/cm2のVUV光照射
で1.76まで向上している。この屈折率向上は密度上昇を示している。
またTop層ほどではないが、バリア層の中間部にあるMid層にお
いても、屈折率が向上した。72,000mJ/cm2照射時に1.65
まで向上している。一方で、シリコン基板の表面にあるBot層では
ほとんど屈折率の向上が見られなかった。これは表面層でVUV光
(λ=172nm)が吸収されるため、Bot層までVUV光が届いて
いないことを示している。【0045】
ここで、屈折率が向上するTop層とMid層の膜厚に着目する。
Top層+Mid層の総膜厚は160~170nmである。図2(c)
にVUV積算光量12,000mJ/cm2におけるPHPS膜厚とW
VTRとの関係を示す。このグラフから明らかなように、膜厚が150
nm以下では高いバリア性能は得られない。これは高密度化するPH
PS膜厚は160~170nmであるため、膜厚が足りないためと考え
られる。図2(c)のグラフより、200nm前後が最も特性が得ら
れる膜厚であることがわかる。
【0046】 一方で、VUV積算光量が増えるほど屈折率(密度)が
上昇することから、バリア性能は単調増加すると予想される。図2
(b)にPHPS膜厚200nmにおけるVUV積算光量とWVTR
の関係を示す。VUV積算光量は12,000mJ/cm2を境として
さらに照射することで、バリア性能が低下することがわかった。
図3.代表的な条件におけるクラックや剥離のSEM画像と水蒸気透過率
【0047】 その理由を明らかとするために、走査型電子顕微鏡(SE
M)による表面観察を行った。代表的な結果を図3に示す。図3中の
Region(iii~v)は図1のi~vを表している。SEM画像からわか
るように、表面にクラック(ひび割れ)もしくは剥離が起こっていた。
条件によって異なるが、クラック幅や剥離サイズは、水蒸気透過率(
WVTR)に相関があることが見て取れる。すなわち、クラック幅や
剥離サイズが大きい場合には、そこからの水蒸気の浸入があるため、
バリア性能は低い。表1にクラックの有無のみを記載している。クラ
ック幅が小さい場合にはバリア性能の低下は少ないので、高いバリア
性能を得るためには、クラックが無いバリア層構造を作製する必要が
ある。【0048】
これらクラックや剥離が起こる理由であるが、PHPSの光焼成反応に
起因する。以下にPHPSのVUV光反応を示す。VUV光によりP
HPSのSi-HやN-Hが光開裂を受け、水素が脱離する。すなわ
ち、PHPSのVUV光反応は体積収縮の系である。
VUV光を照射することで、PHPSの高密度化が進行するが同時に
内部応力が発生し増大する。そのため、強照射条件では、クラックが
発生したと考えられる。またクラックは膜厚や下層との密着性にも依
存する。特に厚膜の条件である膜厚500nmの条件では、下層との
界面までVUV光が届かないために低密着性であることに加え、PH
PS層の内部でも応力の大小があることから、クラックが起きやすい
条件になったと思われる。【0049】
これらのことから、PHPS層の膜厚は200~250nm、VUV
積算光量は12,000mJ/cm2近辺がバリア性能として最適である
ことがわかった。【0050】
[実施例2]
VUV照射源として、172nmのエキシマランプに加え、222n
mのエキシマランプも併用し、屈折率測定と表面観察を行った。用い
た装置は(株)エム・ディ・コム製MEIRHA-MS-1-152
-Hであり、172nmと222nmのランプが併設された装置であ
る。それ以外は、実施例1と同様である。分光エリプソメトリーによ
る屈折率分布の結果を、222nm照射を図4に、172nm照射を
図5に示す。【0051】
図5 波長172nmのエキシマランプで照射した時の分光エリプソ
メトリーによる屈折率分布の結果
図4 波長222nmのエキシマランプで照射した時の分光エリプソ
メトリーによる屈折率分布の結果
図4および図5から、222nm照射では、172nm照射と比較す
ると、PHPSの中央(Mid層)の屈折率が向上することがわかる。
これは各波長における吸光度に大きく影響することを示している。す
なわち、222nmの吸光度は172nmの吸光度に比較して低いた
め、表面で光が吸収されず、内部まで光が進入し高密度化する。172
nmと222nmの光源を組み合わせることで、膜内部まで高密度化
することが可能となる。
そこで、172nm光照射後、222nm光照射した。その結果を
図6に示す。図6から、Top層とMid層に同程度に高い屈折率を
有した構造を作製できることがわかる。さらにこのサンプルのSEM
観察では、クラックを見つけることができず、高いバリア性能が達成さ
れると考えられる。
[実施例3]
実施例1および2では、グローブボックス内で窒素下に、応力緩和層
であるPDMS層とバリア層であるPHPS層とをスピンコート成膜
し、VUV光照射を行ったが、実施例3では、PDMS層の形成は、
全てのプロセスを大気下(酸素、水蒸気存在下)で行い、PHPS層
の形成は、ウェットコートプロセスを大気下、VUV光照射プロセス
を窒素下で行った。
応力緩和層であるUV硬化型ポリジメチルシロキサン(PDMS)の
オリゴマーと、架橋剤(信越化学工業(株)製 X-34-4184 A
and B)と、低分子環状デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)
(信越化学工業(株)製)とを、オリゴマー:架橋剤:D5=1:1:
16(重量比)の割合で自転公転ミキサー(2000rpm、4分)
にて混合し、PDMS-D5溶液を調製した。大気中または窒素中で
PDMS-D5溶液を6000rpm、30秒で基板上にスピンコー
トした膜に高圧水銀灯にてUVを1分間照射し、UV硬化型PDMS
層を硬化させた。その後、VUV光を大気下または窒素下で3分間照
射した。【0054】
分光エリプソメトリーにより測定した各プロセス条件での屈折率およ
び膜厚を表2に示す。PDMS層には、PHPSのような屈折率分布
は見られなかった。表2から、ウェットプロセス条件(ウェットコー
ト・UV硬化)とVUV条件を酸素・水蒸気が存在する大気下で行っ
ても、屈折率および膜厚に大きな違いは見られなかった。なお、大気
下は温度25℃、湿度50%のクリーンルーム中で行った。
表2
【0055】
さらに、大気下および窒素下のプロセスで得られたPDMS表面の水
の濡れ性を接触角計にて測定した(図7)。大気下プロセスでは水の
接触角が大幅に小さくなり、表面自由エネルギーが大きくなっている
ことがわかる。これは上層にあたるPHPS層のウェットコートが行
いやすいことを示している。上層のPHPS層をウェットコートしや
すいことは、PHPS層がコートできなかったピンホールの抑制につ
ながることから、高いバリア性能を達成できる。【0056】
ここで、PHPSはSi-N結合を主鎖に有するポリマーであるため
、大気中の酸素および水蒸気と反応しSiO2化する。またVUV光照
射を大気下で行うと、かなり早い反応でSiO2化することも知られて
いる。そこで、PHPSのウェットコートのみ、大気下に行い、VU
V光照射を窒素下に行うことが可能か検討を行った。
その結果を図8に示す。大気下および窒素下でコートした際のPHP
Sの屈折率は全く変わらなかった。なお、エリプソメトリー測定は
15分以内で行った。すなわち、PHPSは大気中の酸素、水蒸気と
反応する反応性ポリマーであるが、短時間では酸化反応は起こらず安
定である。さらに大気下、窒素下でコートしたPHPS薄膜を、両方
とも窒素下でVUV照射を行った。その結果、4層モデルにおける屈
折率分布にはほとんど違いが見られなかった。このことから上述の通
り、PHPSは短い時間であれば安定であり、仮に表面に水蒸気や酸
素が吸着されていたとしても、ほとんど膜質には影響がないことが示
れた。これらのことを総合すると、本発明では、全てのプロセスを窒
素下で行ってもよいし、VUV光照射プロセス以外は、低コストな大
気下で行ってもよいことがわかる。
[実施例4]
実施例1~3では、PDMS層のウェットコート条件は、UV硬化
型ポリジメチルシロキサン(PDMS)のオリゴマーと、架橋剤(信
越化学工業(株)製 X-34-4184 A and B)と、低分子環
状デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)(信越化学工業(株)
製)との溶液を用いるが、実施例4では低分子環状シロキサンに対す
る検討を行った。デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)は、室
温で蒸発する溶剤としての機能を有するが、その沸点は210℃と高
いため、若干PDMSに残り、シリコーンゲルを形成することがある。
そこで、以下の環状シリコーン(D4~6)および直鎖シリコーン
(L4~6)を用いて、各種低分子シリコーンの検討を行った。
【0059】【化2】
【0060】大気中にて、UV硬化型PDMSのオリゴマーと、架橋
剤と、6種類の低分子シリコーンとを表3に記載の割合で自転公転ミ
キサー(2000rpm、4分)にて混合させ、グローブボックス中
にて6000rpm、30秒でシリコンシリコンウエハー上にその混
合物をスピンコートし、UVを1分間照射してその膜を硬化させた。
その後、VUVを3分間照射した。得られた膜の膜厚を分光エリプソ
メトリーにて測定した(表3)。それぞれの低分子シリコーンの沸点
や粘度が異なることから、膜厚は異なったが、屈折率は1.42~1
.45でほぼ同じであった。各種低分子シリコーンを用いた時のPD
MS層の膜厚を表3に示す。
表3
これらのPDMS層とPHPS層との交互積層構造のバリア性能を
確認するため、有機EL素子の上部にバリア層構造を作製し、有機E
L素子の発光像から、バリア性能を確認した。有機EL素子は、特に
有機層/電極界面において水蒸気からの酸化を受けやすい。界面酸化が
起こった場合、電荷注入・輸送が起こらないため、非発光エリアが増
大する。この非発光エリア(シュリンケージ)の増大を観察すること
で、バリア性能を確認することが可能である。
有機EL素子として、3cm×3cmガラス基板上にパターニングさ
れた透明電極ITO上に図10に示す有機EL素子を作製した。以下
に示す有機材料を真空蒸着法により成膜し有機EL素子を作製した。
有機EL素子の発光エリアは2mm×2mmである。PDMS/PHP
Sの交互積層膜によるバリア構造をTFE(Thin Film Encapsulation:
薄膜封止)と呼ぶ。作製した有機ELの上にスピンコートにてPDM
S/PHPSの交互積層膜TFE構造を作製した。作製は窒素下で行っ
た。PHPS層の膜厚は150nm(VUV照射6,000mJ/cm2)
であり、PDMS層の膜厚は表3に示す膜厚である。PDMS/PHP
S層のユニットを1ユニットとし、トータル3ユニット(計6層)形
成した。【0064】
【化3】
【0065】 得られた有機EL素子を恒温恒湿槽(60℃/90%R
H)に保管し、有機ELの発光像を光学顕微鏡により観察した。図9
にその結果を示す。
図9は、60℃/90%RH下に保存した有機EL素子の発光曲線(
倍率50倍、視野2mm×1.5mm)を表す。
ここで、Bare OLEDはTFE構造が無いものである。作製直後
(0時間)では、全ての素子で均一な発光を示しているが、TFE構
造が無いBare OLED素子では、67時間後も発光が得られなか
った。これは水蒸気による界面酸化が素子全面で起こった結果と思わ
れる。各種シリコーンで保存性能は異なるが、D5だけでなく、L5、
L6、D6で高い性能が得られた。D5においては504時間で発光
が得られなくなった。その中でも特にD6、L5において高い保存性
能を示した。すなわち、PHPSバリア層は同一であっても、応力緩
和層として機能するPDMS層によってバリア性能が異なることが示
された。この理由としては被覆特性に関連していると考察している。
PDMS層の膜厚だけであれば、表3に示す通り、D6、L6が優位
であるが、結果的にはそれだけでは説明できない。有機EL素子の上
には凹凸や異物が存在するが、この凹凸や異物に対して、D6やL5
を用いたPDMS層ではきれいに被覆された結果であると考えている。
本発明においては、ウェットプロセスによるバリア層構造が、水蒸気
に弱いとされている有機EL素子に有効に働くことが示され、加えて
応力緩和層であるPDMS層の希釈溶液である低分子シリコーンの種
類においても被覆特性の面から影響があることが示された。特にD6
やL5において高い保存性(1,300時間以上、60℃/90%RH)
を達成した。
以上
✳️ 水素ロータリーエンジン解体新書 ⓷
1️⃣ 特開2023-78692 ロータリーエンジン マツダ株式会社
(第1凹部の詳細)【0070】
例えば図6に示すように、リセス7の断面積は、第1底面71aに対
応する第1範囲R1では略一定となり、第1連接面71bおよび第2
連接面71cに対応する範囲(第1範囲R1の紙面左右に隣接する範
囲)では相対的に急峻に減少するようになっている。【0071】
また、第1底面71aは、前述のように、ロータ外周面2aの長手
方向に沿って、所定の長さ範囲(第1長さL1)にわたって延びてい
る。長手方向に沿って見たとき、この第1長さL1は、図3に示すよ
うに、第2底面72aの長さ範囲(第2長さL2)よりも短く、かつ
第1連接面71bおよび第2連接面71cの長さよりも長い。
【0072】 具体的に、第1長さL1は、第2長さL2の4/10
以上8/10以下であることが好ましく、さらに好ましくは略2/3
である。また、第1長さL1は、外周面中央Cからロータ外周面2a
のL側の端までの長さLaの2/10以上4/10以下であることが
好ましく、さらに好ましくは略1/3である。【0073】
(第2凹部の詳細)
一方、第2凹部72は、上記第2底面72aに加えて、該第2底面
72aを上記L側リセス端部7lに接続する第3連接面72bを有し
ている。図3に示すように、第2底面72aは、ロータ回転方向にお
いて第3連接面72bよりも長く延びている。第2底面72aおよび
第3連接面72bは、T側からL側に向かってこの順番で連続してい
る。【0074】
第3連接面72bは、第2底面72aから上記L側リセス端部7l
に向かって徐々に浅くなるように傾斜した傾斜面として構成されてい
る。一方、第2底面72aは、第3連接面72bと比べて平坦な平面
をなす。このことは、第2底面72aにおける断面積が、第3連接面
72bにおける断面積よりも緩やかに変化していることに等しい。
【0075】 例えば図6に示すように、リセス7の断面積は、第2
底面72aに対応する第2範囲R2では略一定となり、第3連接面
72bに対応する範囲(第2範囲R2の紙面右側に隣接する範囲)で
は急峻に減少するようになっている。【0076
】
また、第2底面72aは、前述のように、ロータ外周面2aの長手方
向に沿って、所定の長さ範囲(第2長さL2)にわたって延びている。
この第2長さL2は、図3に示すように、第1長さL1、第3長さL
3および第3連接面72bの長さよりも長い。【0077】
第2長さL2は、外周面中央CからL側リセス端部7lまでの長さ
Llを2分したときの中央値(=Ll/2)よりも長い(L2>Ll
/2)。第1凹部71と第2凹部72との境界を示す第1連接面71b
の位置は、上記中央値よりも外周面中央Cよりに設定される。【0078】
(第3凹部の詳細)
また、第3凹部73は、上記第3底面73aに加えて、該第3底面
73aと、上記T側リセス端部7t、を接続する第4連接面73bを
有している。図3に示すように、第3底面73aは、ロータ回転方向
において第4連接面73bよりも長く延びている。第3底面73aお
よび第4連接面73bは、L側からT側に向かってこの順番で連続し
ている。【0079】
第4連接面73bは、第3底面73aからT側リセス端部7tに向
かって徐々に浅くなるように傾斜した傾斜面として構成されている。
一方、第3底面73aは、第4連接面73bと比べて平坦な平面をな
す。このことは、第3底面73aにおける断面積が、第4連接面73
bにおける断面積よりも緩やかに変化していることに等しい。
【0080】
例えば図6に示すように、リセス7の断面積は、第3底面73aに
対応する第3範囲R3では略一定となり、第4連接面73bに対応す
る範囲(第3範囲R3の紙面左側に隣接する範囲)では急峻に減少す
るようになっている。
【0081】また、第3底面73aは、前述のように、ロータ外周面
2aの長手方向に沿って、所定の長さ範囲(第3長さL3)にわたっ
て延びている。この第3長さL3は、図3に示すように、第1底面71a
および第2底面72aの長さの和(=L1+L2)よりも短く、かつ
第2連接面71cおよび第4連接面73bよりも長い。
【0082】 具体的に、第3長さL3は、外周面中央CからL側リ
セス端部7lまでの長さLlの18/100以上36/100以下で
あり、好ましくは略1/4である。【0083】
(断面積のさらなる詳細)
このように、本実施形態に係る第1底面71a、第2底面72aお
よび第3底面73aは、底面同士を接続する第1連接面71b、第2
連接面71c、第3連接面72bおよび第4連接面73b等と比べて
平坦に構成されているため、それぞれ、第1連接面71b等と比べて
略一定の断面積を有する。【0084】
そのため、上述した(A)の関係は、長手方向における第1底面71
a、第2底面72aおよび第3底面73aの略全域で満足されること
になる。より詳細には、リセス断面積は、第1底面71aに対応する
第1範囲R1(原点0からL側に+10~+30mmの範囲)が最も
大きい。この範囲からL側に向かって第1凹部71の全長の1/4程
度の長さまでに、リセス断面積は、第1範囲R1におけるリセス断面
積の1/3以上1/2以下の大きさになるように漸次減少している。
そこから、リセス断面積は、L側に向かって第2範囲R2を通過する
までは、第1範囲R1におけるリセス断面積の1/3以上1/2以下
の大きさのまま略一定であり、その後、第2範囲R2の全長の1/5
程度の距離でL側リセス端部7lに到達し、リセス断面積がゼロにな
っている。【0085】
また、T側では、第1凹部71のT側に第3凹部73が位置してい
ることから、リセス断面積は、第3範囲R3を通過するまでは、第1
範囲R1におけるリセス断面積の1/9以上1/4以下のまま略一定
であり、その第3範囲R3を通過した後は、T側リセス端部7tに至
るまで漸次連続的に小さくなっている。
図7
【0086】 <作用効果>
図7は、TDC前の点火時期におけるロータ2とロータハウジング
3との関係を示す断面図である。また、図8は、TDC前の燃焼前半
におけるロータ2とロータハウジング3との関係を示す断面図であり、
図9は、TDC後の燃焼後半におけるロータ2とロータハウジング3
図8 図9
との関係を示す断面図である。【0087】
エンジン1の運転に際し、点火プラグ9は、TDCよりも早いタイミ
ングで、第2凹部72周辺の混合気に対して点火するようになってい
る(図7参照)。この点火によって生じた火炎は、点火プラグ9からL
側に向かって吹き出すことになる。【0088】
その後、ロータ2の回転に伴って、第2凹部72に対してT側に位置
する第1凹部71から上記火炎に混合気が供給されて、その混合気を
燃やすことで火炎が成長していく(図8参照)。
【0089】 その後、第1凹部71よりもさらにT側に位置する第
3凹部73を通じて混合気が供給されて、その混合気を燃やし尽くす
ことで、一作動室8における1サイクル分の燃焼が完了する(図9参
照)。【0090】
ここで、図5等を用いて説明したように、相対的に断面積が大きい
第1凹部71は、単に第3凹部73よりもL側に位置しているばかり
でなく、外周面中央CよりもさらにL側に位置している。そのため、
この第1凹部71は、TDC以前のタイミング、つまり点火直後の燃
焼前半のタイミングで上記火炎に混合気を供給することができる。
【0091】 図5の(a)および(b)の比較、ならびに、同図の
(b)および(c)の比較から見て取れるように、一般に、TDCに
近づくに従ってロータ外周面2aとロータハウジング3との隙間が狭
くなってくる。しかしながら、上記実施形態のように第1凹部71の
断面積を相対的に大きく形成したことで、これを小さく形成した場合
と比較して、未燃混合気の流動性を確保しつつ、より多量の混合気を
火炎に供給することができる。点火直後のタイミングに際し、より多
量の混合気を燃焼させることができる。【0092】
加えて、第1凹部71の断面積を相対的に大きくしたことで、混合
気のスキッシュ流の流動を弱め、その流速を抑制することができる。
すなわち、燃焼前半のうちに多量の混合気を燃焼させながらも、その
燃焼を緩慢に進行させることが可能になる。その結果、急峻な熱発生
を抑制し、燃焼音、ガス漏れ、および、冷却損失の増加に伴う燃費性
能の悪化等を抑制することができる。【0093】
また、第2凹部72の断面積を第1凹部71よりも小さくしたこと
で、第2凹部72付近の混合気は、第1凹部71付近の混合気よりも
高圧になる。これにより、未燃混合気への点火に際し、その着火性を
高めることができる。
【0094】 また、第3凹部73の断面積を相対的に小さくしたこと
で、該第3凹部73からL側へと押し出されるスキッシュ流の流動を
強め、その流速を高めることができる。これにより、TDC以後の燃
焼後半に際し、残りの混合気を火炎へとスムースに供給し、これを効
率的に燃やし尽くすことが可能になる。未燃混合気の供給をスムース
に進めることで、いわゆる二段燃焼の発生または規模を抑制し、ひい
ては冷却損失を抑制することができる。【0095】
また、第1凹部71の断面積を大きくすることは、第2凹部72およ
び第3凹部73の断面積を相対的に小さくすることに等しい。そのこ
とで、燃焼を緩慢にしながらも、エンジン1の幾何学的圧縮比を維持
して熱効率を確保することができる。【0096】
このように、上記実施形態によれば、第1凹部71から多量の混合気
を供給しながらも、その燃焼を緩慢に進行させることで、燃焼音、ガ
ス漏れ等を抑制しつつ、冷却損失を抑制して燃費性能を向上させるこ
とができる。また、第2凹部72および第3凹部73の断面積を上述
の如く設定することで、燃費性能の向上にさらに有利になる。【0097】
また、図3等に示すように、点火に際して点火プラグ9を向かい合
わせるべく構成された第2底面72aが、そのT側に連続する第1底
面71aと比べて長く延ばされることになる。これによれば、EGR
の導入等、エンジン1の運転状態に応じて点火時期が変化したとして
も、第2底面72aから外れた位置に点火プラグ9を臨ませることな
く、点火時に点火プラグ9と第2底面72aとを向かい合わせること
ができるようになる。これにより、点火時期の変化を許容し、プラグ
位置まで至る混合気の通り道を確保することが可能になる。【0098】
さらに詳細には、第1底面71aの長さL1は、L側リセス端部7
lの長さLlの2/10以上に設定される。これにより、第1凹部71
の容積を拡大し、混合気のスキッシュ流の流速を弱める上で有利にな
る。また、第1底面71aの長さをL側リセス端部7lの長さLlの
4/10以下に設定することで、第2底面72aの長さを最低限確保
し、点火プラグ9を第2凹部72に臨ませた状態で点火することがで
きるロータ2の回転角度の範囲が広くなって点火時期の進角に有利に
なる。【0099】
また、図3等に示すように、第3長さL3を、第1長さL1および
第2長さL2の和よりも短くしたことで、外周面中央Cに対してT側
からL側へと未燃混合気をより迅速に供給することができるようにな
る。【0100】
さらに詳細には、第3長さL3は、外周面中央CからL側リセス端部
7lまでの長さの2/10以上5/10以下に設定される。これによ
り、二段燃焼及び燃焼音を抑えつつ点火時期を大きく進角させること
が可能になる。【0101】
また、外周面中央CからL側リセス端部7lまでの長さLlは、外周
面中央Cから該外周面のL側の端までの長さLaの7/10以上9/
10以下に設定される。これにより、点火プラグ9を第2凹部72に
臨ませた状態で点火することができるロータ2の回転角度の範囲が広
くなり、点火時期の進角に有利になる。
この項了