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不死と寿命

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          一人で見る夢はただの夢だ。でも皆で見る夢は現実になる。
                  
                                 雫井彗菜 / 『学校のカイダン』

 

 

   【寿命と進化】

  2nの染色体数をもつ二倍体の体細胞からなる多細胞生物の個体は
 死を免れない。一方、アメーバのような決して二倍体になることのな
 い一倍体の原生生物やバクテリア(原核生物)の個体すなわち細胞は、
 無限に分裂する能力を有しており、原則として死すべき運命にはない。

  多細胞生物のすべての個体が死ぬことができるのは、生命の連続性
 を生殖細胞系列にまかせることができたからである。この意味で、体
 細胞と生殖細胞の区別が生じ、それに伴い有性生殖が生じたことと、
 体細胞が死すべき運命になったことは起源を同じくする。

  体細胞が自発的に死ぬ能力を獲得したことにより、多細胞生物の個
 体は複雑な形態とシステムを開発することができた。この能力はアポ
 トーシスと呼ばれる。アポトーシスは遺伝的なプログラム死のことで
 ある。アポトーシスは不必要な細胞を計画的に殺して形態形成を遂行
 するとともに、がん細胞や自己と反応するT細胞を殺してシステムを
 維持する。    

  しかし、この能力は個体の死を不可避にもたらすものでもある。多
 細胞生物の個体はどうしても免れない寿命をもつ。分裂する体細胞は
 ヘイフリック限界と呼ばれる分裂回数までくるとそれ以上分裂できず
 に死んでしまう。染色体の末端にはテロメアと呼ばれる構造があり、
 分裂のたぴに少しずつ短くなり、テロメアがなくなったところで、ア
 ポトーシスによリ死ぬらしい。ヘイフリック限界は種によってほぽ一
 定しており、寿命の長い種では高く、寿命の短い種では低い。

  もはや分裂できなくなり完全分化した神経細胞や心臓の細胞は固有
 の寿命をもち、最後はやはりプログラムされた死を免れない。すべて
 の細胞は、代謝の結果不可避的に生ずる活性酸素により徐々に損傷し
 ていき、損傷が闇値を超えたとごろで、アポトーシスのスイッチが入
 ると考えられる。老化と寿命は酸素呼吸をする多細胞生物個体の宿命
 なのであろう。

               池田清彦 著『新しい生物学の教科書』



この章は「不死と寿命の相克」の見出しで二度目の掲載となるが(『不死
と寿命の相克』 2015.07.19) 、結びの「老化と寿命は酸素呼吸をする多
細胞生物個体の宿命なのであろう」の "宿命" が印象的で、何ともここち
よく、腑に落ち、さすがと感心したので再掲載する。さて、今回はもう少
し話を広げてみよう。下グラフのように、補酵素、つまりコエンザイムQ
10(CoQ10)は、60兆個といわれる人間の全ての細胞に存在し、生きる
ために必要なエネルギーをつくる手助けをし体になくてはならない成分だ
とされ、体内の各機能部位の老化を防止に役立つことが認知されてきてい
る。多細胞な人間のカラダに寿命があるなら、できるだけ長く丁寧に使お
うという欲が"自然"もたげるというわけで、薬の開発が懸命に行われてい
る。


このコエンザイムには、還元型補酵素Q10(I)と酸化型補酵素Q10
(II)の2種類あり、人の生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電
子伝達系構成因子で、酸化的リン酸化反応における電子の運搬子として働
くことにとでATP(アデノシン三リン酸)の生成に関与するらしいが、
酸化型補酵素Q10は、各種疾病に対し優れた薬理と生理効果を示す物質
として医薬品以外にも栄養補助食品や化粧品に使用されている。ところが、
一方の還元型補酵素Q10は、あまり注目されていなかったが、酸化型補
酵素Q10――別名ユビキノンまたはユビデカレノンは、鬱血性心不全薬
として医薬用途に、また医薬用途以外でも、ビタミン類同様、栄養剤、栄
養補助剤として経口剤および皮膚用剤として広く用いられている――より
も有効――優れたコレステロール低下作用を有する抗高コレステロール血
症剤、抗高脂血症剤や動脈硬化症治療及び予防剤――だと認知されている。
さらに、人間だけじゃなく、食用動物やペットの食餌などに含ませて、よ
り高品質で安定量産や高付加価値を目的とした栄養補助食品などに応用展
開されてきている。


最新コエンザイム製造工学

さらに、話を広げてみよう。

株式会社カネカなどがコエンザイムの製造法を研究開発するなかで、微生
物によるリグニン関連物質からのポリヒドロキシアルカン酸(PHA)=生分
解性ポリエステル型ポリマーの製造方法を発明する。

この生分解性ポリエステル型ポリマーのポリヒドロキシアルカン酸(PHA)
を微生物で生産する方法――地球温暖化の要因物質のひとつである二酸化
炭素の発生抑制に、植物由来の糖や油を原料としたバイオプラスチック、
バイオエタノールなどの生産が試みられている一方、芳香族化合物のリグ
ニンは安定な化合物なためほとんど利用されず、①自然界のリグニンは白
色腐朽菌によりリグニン誘導体に分解→②微生物細胞内で芳香族カルボン
酸を経て、ピルビン酸、オキサロ酢酸、コハク酸に変換→③ピルビン酸か
ら誘導されるアセチル-コエンザイム (補酵素A/上の「アセチルCoA」) は、
天然の微生物の一部が栄養制限下で細胞内にエネルギー貯蔵物質として蓄
積するPHAの前駆体の一つとされる。

特開2015-077103

このPHAは包装材料や医療分野での熱可塑性、生分解性、生体適合性を有
す高分子材料であり、未利用原料のリグニン関連物質を利用したPHAの微
生物生産は、未利用なバイオマス資源の活用という点で重要であるにもか
かわらず、これまで報告されてこなかった――が多数報告されているが、
PHAを生産する多数の微生物が知られているが、リグニン関連物質からの
PHAの生産については知られていない。それじゃ、つくっちゃおうという
ことで、上図の新規考案――リグニン誘導体とあるいはそのポリヒドロキ
シアルカン酸生合成中間代謝物に資化性を有するカプリアビダス(Cupri-
avidus)属、ラルストニア(Ralstonia)属又はアルカリゲネス(Alcaligenes
)属に属する微生物を、リグニン誘導体とそのポリヒドロキシアルカン酸
生合成中間代謝物の群から少なくとも1つの物質を炭素源として含有する
培地で培養し、この微生物菌体からポリヒドロキシアルカン酸を回収する
ことを含む、微生物によるポリヒドロキシアルカン酸の生産方法――が提
案されている。

つまり、『新しい生物学の教科書』の「寿命進化」から「コエンザイム」
を介し『オールバイオマスシステム』(OBS)に収斂させてみたという
ことにつきる。^^;。

 

 

 
【最新低コスト・高効率太陽電池工学】

● 長波長光変換可能な薄膜ペロブスカイト系

物質・材料研究機構の研究グループは、800ナノメートル以上の長波長
の太陽光が利用できるペロブスカイト材料の製造法を開発。従来の方法と
比べ、太陽光に対する感度が40ナノメートル広く、高変換効率を実現し
たと発表。

これまで、長波長領域の光も吸収できる2種類のカチオン(MAとFA)を混
合したペロブスカイト材料((MA)xFA1-xPbI3)の開発されていたが(1)
混合比率の制御が困難、(2)結晶温度の制御が困難、(3)混合結晶相
で、単一結晶相の高純度ペロブスカイト材料による作製法が未確立であっ
た。

この問題解決のため、(1)まず、作製温度を変えながら純粋な単一結晶
相の前駆体FA1-xPbI3材料を作り→(2)この材料をMAI(ヨウ化メチルア
ンモニウム)と反応→(3)生成ペロブスカイト材料(MA)xFA1-xPbI3 が、
単一結晶相で、蛍光寿命が長く、材料中の電子再結合が少なく、電子寿命
が長いことが判明。

したがって、従来型のペロブスカイト材料(MA3PdI3)より(1)太陽光
の感度が40ナノメートル広く、(2)840ナノメートルまで伸び、従
来より短絡電流が1.4ミリアンペア/平方センチメートル高い。

上図/左下(a)に示すように、まず、PbI2とFAIの混合溶液を基板上に塗布
し、130-140℃の熱処理することにより、FA1-xPbl3の純粋な単一結晶膜を
形成。その層の上にMAI(ヨウ化メチルアンモニウム)の入ったイソプロパ
ノール液を塗布してMAI層を設け、加熱により2つの層の材料を反応させ
て 高品質なペロブスカイト材料(MA)xFA1-xPbl3材料を得る。上図右下(b)
には各種方法で作製したペロブスカイト膜のX線回折パターンを示す。
今までよく用いられた一段浅漬法 (One-step method) やニ段浅漬法(Two-
step method)   より、今回開発した新規方法で得られたペロブスカイト太陽
電池 は前駆体 Pbl2やFA1-xPbI3等の不純物を含まず、純度が高いこと判明。




今回の作製方法で純度の高いペロブスカイト材料を得られた理由は、上記
の第一段階における熱処理による純粋なFA1-xPbl3の結晶膜の形成条件を見
つけたことにある。Pbl2とFAIの混合溶液を基板上に塗布した後、熱処理
温度が130℃以下では、不純物を含めたδ-FAPbI3膜(Ⅰ)、130-140℃では
純粋なFA1-xPbI3膜(Ⅱ)、140℃以上では不純物を含めたa- FAPbI3膜(Ⅲ
)が得られることが分った(上図/左上)。このうち、前駆体 FA1-x、PbI3
膜(Ⅱ)を使用することで、単一結晶相で高品質なペロブスカイト膜の作製
が可能となった。さらに、この方法で得られたペロブスカイト膜は、蛍光
寿命が長いことがわかった(上図/左下(a))。 他の2つの前駆体(ⅠとⅢ)
に比べ、蛍光寿命が長いことは、ペロブスカイト材料中の電子再結合が少
なく、電子寿命が長いことを示唆。さらに、この材料を用いた太陽電池は
MA3PbI3より太 陽光に対する感度が40ナノメートル広く、840ナノ
メートルまで利用可能な波長領域が伸びていることが分かった(上図/右
下(b))。より幅広い波長の太陽光を利用できるため、高い短絡電流が期
待できる。従って、今回開発した新しい方法は、ペロブスカイト太陽電池
の高効率化に有効な方法と考えられる。

今回、この材料において、混合カチオンの比率および太陽電池デバイスの
作製条件は必ずしも最適化されていないため、変換効率は13%に留まっ
ている。今後は、この成果をベースに、カチオンの比率を調整することで、
より広い波長領域の太陽光が利用できる高品質材料を開発し、同時に、太
陽電池デバイスの作製条件の最適化で、より高い変換効率を目指す。また、
これらの成果の実用化研究を民間企業と共同で推進することで、火力発電
並みのコスト(7円/キロワット時)を実現すると共に、太陽電池普及に
貢献していくという。

しかし、目標の7円/キロワット時は既に米国で4.8円/キロワット時
が既に達成されており(『時代は太陽道を渡る。』2015.07.15)、この数
年のうちには米国の太陽光発電の平均的な電力費として達成しているので
はと考えられる。なので、この時点で、目標としてはスケールが小さ過ぎ
るのではないだろうか。



原子1個の厚みの二酸化チタンシートの作製

東北大学原子分子材料科学高等研究機構の研究グループは、「原子1個の
厚み」の二酸化チタン(TiO2)シートの作製に成功したことを発表。10
年のノーベル物理学賞の対象となったグラフェンは、原子シートの中の電
子が非常に高い速度で移動するため、超高速電子デバイスやディスプレイ
などへの応用研究が精力的に進められてきた。他にも、レーザーや発光素
子等へ展開ができる興味深い光学的性質を持つ原子シートも知られている。
新たな物質の開発競争が激化。そのひとつの「金属酸化物」は、強磁性、
強誘電性、超伝導や触媒効果などの多彩な性質をもつ魅力的な材料だが、
今まで「高機能性を有する金属酸化物原子シートを作製し、特異な機能を
創出する技術」は確立されていない。


本研究グループは、原子レベルで構造がわかっているチタン酸ストロンチ
ウム(SrTiO3)の基板表面上にアルミン酸ランタン(LaAlO3)を堆積させ
超高分解能走査型トンネル顕微鏡と走査型透過電子顕微鏡で観察。その結
果、「LaAlO3薄膜表面に原子1個の厚みの二酸化チタン(TiO2)2次元シー
ト材料が自発的に形成される」新事実を発見。このTiO2原子シートは、金
属酸化物の多彩な物性を活用した電子デバイスや触媒材料など「新たな酸
化物原子シート」としての機能が期待されている。

これですぐに事業展開できるとは考えにくいが、逆に考えれば、開発主体
のやりたい放題も可能だろう。これは面白い。



● 今夜の1枚のグラフ

これも申し分ないと考えるのか、逆に、この数値が低すぎるのかは主体に
精神だ。わたし(たち)は後者の立場だ。かって世界をリードしたシャー
プは、本社を売却するというから、皮肉な話だが、どこかヘンテコに思う。


  


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