【遺伝子組み換え作物論 34】
解説
日本でも広がる遺伝子汚染と試験栽培
日本の各地でも遺伝子組み換えナタネが確認されている。市民による「遺伝子組み換えナタネ全
国調査」が2005年から始まっているが、2012年の調査ではこれまでで最高の15都道府県
で遺伝子組み換えナタネが確認された。過去の調査と農水省の発表を発表を合計計すると20府県
に達する。こうした遺伝子組み換えナタネの多くは、海外から輸入されたナタネが港から工場に運
ばれる途中でこぼれ、道端で自生したものと推定される。
さらに2011年4月には沖縄県において、台湾産種苗「台農5号」という未承認の遺伝子組み
換えパパイヤか栽培・流通されていたことが判明し、8000本が伐採された。ところが翌201
2年に、民家の庭先や道端で生育していたパパイヤを腹水省と環境省が調査したところ、696本
のうち、59本(8・5%)か遺伝子組み換えだったのである。
ところが問題はそれにとどまらない。実は日本各地で、遺伝子組み換え作物の試験栽培が行なわ
れているのだ。2000年代前牛までは、「JT(日本たばこ産業)」などの大企業や、農業試験
場(愛知農栗試験場、全農平塚農業試験場Jが熱心だったが、目本の消費者の反発と採算に合わな
いことを考慮して、多くが撤退した。現在は海外のバイテク企業と大学が中心になっている,
日本国内で商業栽培は開始されていないとはいえ、全国各地で遺伝子組み換え作物の試験栽培が
行なわれているのだ、以下は2012年度に実際に行なわれた試験栽培の一覧である(参照「有機
農業ニュースクリップ」2012年8月12日、539号)。
■ 日本モンサント
茨城県河内町(遺伝子組み換え・大豆、綿、ナタネ、トウモロコシ)
栃木県那須塩原市の畜産草地研究所(遺伝子組み換え・低リグニン・アルファルファ)
■ デュポン
栃木県宇都宮市清原工業団地(遺伝子組み換え・トウモロコシ、ナタネ)
■ シンジェンタジヤパン
静岡県島田心神座の同社中央研究所(遺伝子組み換え・除草剤耐性大豆)
■ ダウ・ケミカル日本
福岡県の同社小郡開発センター(遺伝子組み換え・除草剤耐性大豆、綿)
■ バイエル・クロップサイエンス
宮崎県宮崎市・宮崎大学(遺伝子組み換え・綿)
■ 農業生物資源研究所
茨城県つくば市の同研究所(遺伝子組み換え・複合病害抵抗性イネ、遺伝子組み換え・スギ花
粉症緩和米)
■ 筑波大学
茨城県つくぱ心(遺伝子組み換え・耐冷性ユーカリ)
■ 東北大学
宮城県大崎心鳴子温泉の複合生態フィールド教育研究センター(遺伝子組み換え・紫外線抵抗
性イネ、紫外線感受性イネ)
問題はこれらの試験栽培が、外部から遮断された温室内ではなく、野外の「隔離圃場」で栽培が
行なわれていることにある。「隔離圃場」とは、植物によって花粉の飛距離が異なるため、植物ご
とに「隔離」距離が定められている一般の田畑である。フェンスや防風網で囲んでいるだけで、鳥
や虫の出入りさえ自由であり、花粉が飛散しないように外界と完全に遮断されているわけではない
農水省が2004年に設定した隔離距離は次の通りである。しかしその後、北海道などの栽培試
験によって、この隔離距離を超えての交雑か確認された。このため、北海道の栽培規制条例は、北
海道独自の隔離距離を2005年に設定した。()内が北海道の条例が規制している距離である。
トウモロコシ 600m(1200m)
ナタネ 600m(1200m)
ダイズ 10m(20m)
イネ 30m(300m)
テンサイ 1000m(2000m)
さらに風による花粉の拡散対策として「開花期の屯‐均風速が毎秒3mを超えない場所を選定して
行なうものとする]「台風等の特段の強風が想定される場合には、防風ネットによる抑風又は除雄
(花粉飛ばないように雄しべを取り除く作業)を行なうものとする」との交雑防止措置が追加され
ている。だが、遺伝子組み換え作物の花粉や種子をコントロールできないことは、すでに世界中で
明らかになっている。日本で商業栽培が始まらなくても、試験栽培が各地で増えるほど、一般の作
物との遺伝子汚染や交雑は増え続けるだろう。そしてそれこそがバイテク企業の狙いなのである。
TPPに破壊される「遺伝子組み換え表示」
私たちにとってさらに取要な問題は、米国のバイテク企業やアグリビジネスの狙いが世界市場の
拡大にあることだ。むろん日本も例外ではない。その突破口かTPPである。かつては米国流の自
由貿易を推進する中心の機関がWTO(此県貿易機関)だったが、世県全体の統一ルールをつくる
ことは容易ではない。本書の第10章で指摘しているように、1999年に米国のシアトルで開催さ
れたWTOの閣僚会議は途にに国と10万人のデモ隊のカによってとん挫し、以降、2001年か
ら開始された「ドーハラウンド」は膠着状態に陥っている。そこで新たな交渉手段として打ち出さ
れたのが「自由貿易協定(FTA)」や、「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」などの数ヵ
国・多国間における自由貿易体制の構築だった。
TPPは知的所有権や保険分野など日本の経済と社会を大きく変えてしまうことが予測される。
とりわけ影響を受けるのか農業食料分野である。「例外なき関税の撤廃」によって日本の農業は壊
滅的な打撃を受けるだろう。TPPには国内法や条例よりも優位になる「投資家・国家控訴(IS
D条項」がある。ISD条項は、米国企業が進出先の国・自治体の政策や規制によって不利益を受
けた場合、世界銀行傘下の仲裁機関に提訴できる規定である。そのため日本がTPPに参加すれば、
地産地酒を推進する条例、遺伝子組み換えの栽培を規制する条例、遺伝子組み換え食品の表示を義
務づけた法令などが、米国企業から「自由な競争を阻害する」として訴えられる可能性が高いので
ある。
「TPPに参加すると日本に遺伝子組み換え作物・食品が大量に輸入される」といった噂がある。
ところが残念なことにある意味で、これは誤解である。なぜならすでに日本には、大量の遺伝子組
み換え作物・食品が輸入されているからである。
日本は1600万トンのトウモロコシを輸入しているが、ほとんどが米国産であり、その米国で
生産しているトウモロコシのうち、88%か遺伝子組み換えである。大豆、ナタネ、綿、甜菜、ア
ルファルファも米国では遺伝子組み換えに切り替わっており、大量に輸入している。2012年9
月25日現在、日本で流通が承認されている遺伝子組み換え食品や飼料用原料は190品目もある。
トウモロコシ(119品種)、大豆(11品種)、ナタネ(18品種)、綿(27品種)、甜菜(
3品種)、アルファルファ(3品種)、パパイヤ(1品種)、ジャガイモ(8品種)などである。
これほど輸入されているにもかかわらず、日本の消費者に「遺伝子組み換え食品を食べている」
実感がないのは、日本の表示制度が。ザル法‘だからである。つまり、例外規定・が多すぎるの
で、ほとんどの食品には表示しなくてよいことになっているのだ。
第一の例外規定が、検査で検出できない食品である。原料に遺伝子組み換え作物を使用していて
も、加工後の製品から、組み換えDNAやそこから生じたタンパク質か現在の技術で検出できなけ
れば、表示の対象外とされる。そのため、トウモロコシやナタネ、綿実を原料とする「食用油」や、
大豆を原料とする「醤油」、あるいは「コーンフレーク」など多くの加工食品が表示対象外となる。
結局、大豆製品で表示義務があるのは、豆腐、納豆、味噌である。トウモロコシ製品であれば、コ
ーンスナック菓子、トウモロコシ缶詰程度しかないのだ。
第二の例外規定は、表示の対象か、上位3品目に限られていることだ。加工食品は多種類の原料
からつくられている。ところか重量で”上位3品目”だけか表示の対象であり、4品目からは表示
する必要がないのだ。
第三の例外規定は、5%までの混入を許容していることだ。つまり、全体の重量に占める割合が
5%に達していない原料は、表示しなくてもよいのである。
リーズ、アンディ 著 『遺伝子組み換え食品の真実』
この項つづく
【血中循環腫瘍細胞スキャン工学】
順天堂大学大学院の十合晋作准教授は、創薬ベンチャーのオンコリスバイオファーマとの共同臨床研究
により、がんの最も初期段階「ステージIa」にある非小細胞肺がん患者の約3割で、血中を浮遊する
微小ながん細胞(血中循環腫瘍細胞=CTC)の検出に世界で初めて成功したことを公表。CTCは、
がん治療後にも血中を循環することで他の部位に転移して再発する要因。約50人の非小細胞肺がん患
者を対象に、7・5ミリリットルの血液を採取。オンコリスバイオファーマが開発した遺伝子改変アデ
ノウイルス「テロメスキャンF35(OBP―1101)」と混ぜて検出した。 CTCの検出では、
非小細胞肺がん患者の約3割から検出したという最先端の報告があるが、がんが最も進んだ「ステージ
IV」と呼ばれる段階での事例。今回成功したステージIaでは、がんがほとんど進行していないため、
通常は胸部CTで発見しても、炎症なのかがんなのかの判別が難しといわれるもの。
細胞のがん化でテロメラーゼ酵素が作用し活性化されがん細胞が増殖。オンコリスバイオファーマ社の
開発した癌細胞を破壊することができるように遺伝子改変された5型のアデノウイルスであるOBP-301
(テロメライシン®)は、がん細胞特異的に増殖がん細胞を溶解する抗腫瘍剤――正常な細胞には機能し
ない――であるが、このOBP-301(テロメライシン®)にクラゲの発光遺伝子を組み入れたものがOBP-401
(テロメスキャン®)で、炎症性細胞などのテロメラーゼ陽性細胞で特異的に蛍光発光を促す検査用ウイ
ルスである。 これを応用展開すれば、少量の採血で様々ながん腫瘍の早期発見の検査が可能になるばか
りか、がん腫瘍以外の炎症性細胞の検査ができそうだ。 そうすれば、ネガティブな評価が先行する遺伝
子組み換え食物とは異なり、遺伝子改変ウィルスを使用した腫瘍性・炎症性細胞スキャン工学では、ポ
ジティブな評価になるだろう。