穫を舎てて栗を拾う / 墨子
※ 取り入れをやめて落ち葉を拾う。「穫」は「原則」「義」の暗喩。
Filipinos, Vietnamese join anti-China protest
秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」
マイケル・ピルズベリー 著
野中香方子 訳
ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケ
ル・ピルズベリーが、自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえ
で、中国の知られざる秘密戦略「100年マラソン(The Hundred-Year Marathon)」の全貌を描い
たもの。日本に関する言及も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係、そして
ビジネスや日常生活を見通すうえで、職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。
マイケル・ピルズベリー(Michael Pillsbury)
45年米カリフォルニア生まれ。米スタンフォード大学卒業(専攻は歴史学)後、米コロンビ
ア大学にて博士課程を修了。69~70年国連本部勤務を経て、73~77年ランド研究所社
会科学部門アナリスト、78年ハーバード大学科学・国際問題センターのリサーチフェロー、
81年国務省軍備管理軍縮庁のディレクター代行、84年国防総省政策企画局長補佐、86~
90年議会上院アフガン問題タスクフォース・コーディネーター、92~93年国防総省総合
評価局特別補佐官、98~00年国防総省特別公務員(米国国防科学委員会)、97~00年
米国防大学客員研究フェロー、01~03国防総省政策諮問グループメンバー、03~04年
米中経済・安全保障検討委員会シニア調査アドバイザー、04年以降、現在も国防総省顧問を
続け、ハドソン研究所中国戦略センター所長を務める。米外交問題評議会と米シンクタンクの
国際戦略研究所(CSIS)のメンバー。米ワシントン在住。 著書に『Chinese Views of Future W-
arfare』『China Debates the Future Security Environment』などがある。
【目次】
序 章 希望的観測
第1章 中国の夢
第2章 争う国々
第3章 アプローチしたのは中国
第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
第5章 アメリカという巨大な悪魔
第6章 中国のメッセージポリス
第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
第8章 資本主義者の欺瞞
第9章 2049年の中国の世界秩序
第10章 威嚇射撃
第11章 戦国としてのアメリカ
謝 辞
解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)
序章 希望的観測
嘴天過海――天を欺きて海を過る
『兵法三十六計』第一計
2012年11月30日の正午、晩秋の澄みきった空のもと、用意された多くのカメラ
とマイクの前にスミソニアン協会会長、ウェイン・クローグが現れた。白いあごひげをた
くわえた気さくな人物だ。ナショナル・モールを冷たい風が吹きぬける。オーバーを着込
んだ聴衆が、クローグのスピーチに聞き入る。それが終わると、ヒラリー・クリントン国
務長官が、意味ありげに金色のメダルを高く掲げた。授与されるのは、著名な中国の現代
美術家、蔡國強である。前夜には、東洋美術を展示するスミソニアン博物館群のサックラ
ー・ギャラリーで祝賀パーティが開かれた。
わたしの妻スーザンも主催者のひとりだった。400人ほどの招待客には、下院民主党
院内総務のナンシー・ペロシ、マイケル・オブ・ケント王子妃、74歳になる故イラン国
王の夫人といったセレブリティーが名を連ねた。乾杯の時、客人たちは、2008年北京
オリンピック開会式の壮大な花火でその名を世界に知らしめた蔡に目で挨拶しながら、中
国とアメリカの連携を祝ってグラスを掲げた。蔡は中国の象徴をパフォーマンスアートで
祝うことで知られていて、万里の長城の終点から火薬と導火線を1万メートルにわたって
敷設し、順次爆発させていく「万里の長城1万メートル延長プロジェクト」を成功させた
こともある。その夜のパーティは・100万ドル以上の寄付金を集め、さまざまな新聞や
雑誌に取り上げられた※。
※ Susan Wattcrs,“NO Longer a Party Divided at Sackler Muscum,”Women's Wear Daily Deccm-
ber 3, 2012,http://www.wwd.com/eye/Parties/no -longer-a-Party-divided-6517532; Miguel
Bcnavidcs,“Arthur M. Sackler Gallcry CClcbratcs 25th Annivcrsary,” Studio International,Nove-
mbcr 2012, httP://www.studiointcmational.com/index.PhP/arthur-m-sacklcr-gallery-celcbrates-25
th-anniversary.
翌日、ナショナル・モールで紹介された蔡は、スーツにグレーのオーバー、オレンジ色
のスカーフといういでたちだった。白髪の、スマートでハンサムな彼は、ナショナナル・
モールを見渡し、自らの最新の作品であるクリスマスツリーに視線を注いだ。高さがビル
の4階ほどもあり、2000発の爆薬がしかけられている。蔡が小型の点火装置のスイッ
チをひねると、観客の目の前でツリーが爆発した。枝を厚い黒煙が覆う。蔡は再びスイッ
チをひねり、ツリーは再び爆発した。さらに3度目が繰り返された。この5分間のパフォ
ーマンスで広大な芝生一面にツリーの葉が散り、中国による火薬発明の象徴である黒い煙
幕が、スミソニアン博物館の顔ともいえる赤煉瓦の建物の正面玄関に押し寄せた※。この
爆発で出た破片や残骸をすっかり片づけるには2ヵ月はかかるだろう。
※ "Black Christmas Trce”は以下のサイトで動画が視聴可能。http://www.youtube.com/watch?
v=UeZyGnxTWXY.
クリスマスまでIカ月を切ったこの日に、自分はなぜ、アメリカの首都の真ん中で中国
人アーティストがキリスト教のシンボルを吹き飛ばすのを見ているのだろう、と考えた人
がゲストのなかにいたかどうかは定かではない,わたし自身、爆発の瞬間に、その破壊行
為を正しいことだと思ったかどうかは覚えていないが、他の観客と一緒に拍手したのは確
かだ。政治的な論争が起きることを予見したのだと思うが、博物館のスポークスマンはワ
シントン・ポスト紙に「作品自体は必ずしもクリスマスに因むものではない」と語った※。
※ MauraJudkis,“Sackler to Celebrate Anniversary with a Daytime Fireworks Display,’ Washinton
Posr, November 29, 2012,http://www.washington post.com./entertainment/museunls/sackler-to
-cclebrate-anniversary-with-a-daytime-fireworks-display/2012/H/29/7fdf2104-3a35-He2-8a97-363
bofgaoab3_story.html.
実際、博物館は蔡のパフォーマンスをただ「花火」と呼んだ。蔡が自らのウェブサイト
で「黒いクリスマスツリー」と呼んだのに比べると、曖昧な呼び方だった。※。
クリントン国務長官の側近がマスコミの一団に見えるように金メダルを掲げると、蔡は
控えめに微笑んだ。蔡が受賞したのは、アメリカ国務院芸術勲章だ。芸術分野で活躍した
個人や団体にアメリカ政府が贈る最高栄誉の賞で、このようなパフォーマンスに贈られる
のは初めてである。メダルはクリントン長官から、アメリカの納税者の厚情による25万
ドルの賞金とともに蔡に授与された。長官によると、受賞理由は、蔡が「理解と外交の前
進に貢献した」からだ※。蔡も同じ考えのようだった。
※ The Art in Embassics Fiftieth Anniversary Luncheonでのヒラリー・ローグム・クリントン国
務長官による発言。Novembcr 30. 2012,httP://m.state.gov/md201314.htm.
「すべてのアーティストは外交官のようなものです」と彼は言った。
「芸術はときに、政治にはできないことを可能にします※」
※ “Medal of Arts Conversation,”U.S.DCPartmcnt of State,Novcmbcr 30, 2012,httP://art.state.gov/
Anniversary.asPX?tab=images&tid=106996.
わたしはいくらか疑いを抱き、翌日、中国から亡命してきた元高官と秘密裏に会った際
に、蔡のことを話題にした。元高官は、賞についても、ツリーの爆破についても、信じが
たいといった面持ちだった。わたしたちはインターネットをくまなく探した。蔡とその芸
術作品について、さらに知りたいと思ったからだ。それも蔡の才能を讃える英語の記事で
はなく、中国人が中国語で、最も称賛される自国民について書いているサイトに目を向け
た。
蔡には中国国内に非常に多くのファンがいることがわかった。間違いなく彼は、かつて
も今も、中国では艾未来についで最も人気のある芸術家だ。蔡のファンの多くは、ナショ
ナリストで、蔡が西洋人の目の前で西洋の象徴を壊したことに喝采を送った。
中国のナショナリストは自らを「タカ派」と呼ぶ。タカ派の多くは陸海軍の将官や政府
の強硬派で、彼らに会ったことのあるアメリカ人はごくわずかだ,しかし、わたしは彼ら
のことをよく知っている。と言うのも、1973年以来、アメリカ政府の指示で、彼らと
ともに仕事をしてきたからだ。アメリカの同僚の中には、タカ派を変わり者扱いする人も
いるが、わたしに言わせれば、彼らの言葉こそが中国の本音なのだ※。
※ 同様の見解については Yawei Liu and Justine Zheng Ren‘An Emerging Consensus on the US
Threat: The united States According to PLA Officer, "Journal of Contemporary China 23, no.86
(2014):255-74. タカ派の役割のより懐疑的な見解については Andrcw Chubb,"Arc China’s
Hawks Really thc PLA Elitc Aftcr AII?[Rcviscd],” southseaconversations blog, posted Dcccmbcr
5, 2013,(2014年4月7日アクセス)。http://southseaconversations.wordPress.com/2013/12/05
/are-chinas-hawks-actually-the-Pla-elite-after-all/.Chubbは次のように言う。「タカ派は人民解
放軍の考えを代表する場合もあるが、それを公にするのは賞賛されるときだけだ」(傍
点は原著者による)。
蔡とタカ派は、「アメリカの凋落と強い中国の台頭」という物語を強く支持していると
思われる(偶然にも、蔡の「國強」という名は、中国語で「強い国」という意味だ)。蔡
の初期の展覧会は、趣向はさまざまだが、テーマは一貫してその物語だった。たとえば、
アメリカ人兵士がアフガニスタンやイラクでIED(即製爆弾)の攻撃にさらされていた
時明に、蔡は自動車の爆破をシミュレートし、見る人に、「テロリストの兵器と攻撃がも
たらす一種の贖罪的美」を味わうことを求めた※。また彼は、9・11テロ攻撃について、
それが芸術であるかのように、世界の観衆にとって「見物」だと、眉を上げて言った。ま
もなくして、オックスフォード大学のある教授が、蔡國強の愛読書が「超限戦:全球化時
代戦争或戦法(制限のない戦争:グローバル時代の戦争と戦略)』であることを明かした
そうだ※。それはふたりの中国人大佐による軍事分析の書で、「テロを含む非対称な方法
(訳注*正規の軍事カではない思いがけなぃ方法)でアメリカを攻撃する」ことを中国政
府に提唱している※。そしてツリーが爆破された今、中国のプロガーは、アメリカ連邦議
会議事堂の目と鼻の先で彼らのヒーローがキリスト教のシンボルを破壊したことを喜んで
いた。このジョークはわたしたちへの強烈な当てつけだと思われた。
※ William A.Callahan,“Patriotic Cosmopolitanism: China's Non-omcial lntcllcctuals Drcam of
thc Futurc,"British Inter-University China Center(BICC) Working Paper Series 13(Octobcr 2009)
:9,httP://www.bicc.ac.uk/nlcs/2012/06/13-Callahan.pdf.
※ 同上
※ 同上。Callahan は同書について8~9ページで次のように書いている。「(本書は)ふたり
の人民解放軍の陸軍将官が、アメリカヘの攻撃に、テロを含む非対称兵器を利用すること
を中国政府に提案するためのものだ」以下も参照。Qiao Liang and Wang xianghui,Choxia-
nzhan: Quanqiuhua Shidai Zhanzheng Yu Zhanfa [Unrestricted Warfare: War and Strategy in the
Globalization Era](Beりing: Social Scienccs Press, 2005[1999]).
わたしも後になって知ったのだが、蔡に賞金を贈ることに尽力したアメリカの高官は、
彼の背景やその芸術の疑わしい戦略について何も知らなかったそうだ。妻もわたしも騙さ
れたような気分だった。わたしたちは、目の前で繰り広げられている破壊的なパフォーマ
ンスの意味を知らずにはしゃぐ、のん気な未開人そのものだった。そして大きな目で見れ
ば、アメリカの対中政策も同様の愚を犯しているのだ。中国の指導者は西洋諸国の人々に、
中国の台頭は平和的になされ、他国に犠牲を強いることはないと信じさせた,しかし彼ら
が進めている戦略は、それを真っ向から否定するものだった。
「序 章 希望的観測」
マイケル・ピルズベリー 『China 2049』
昨夜の「今夜の一曲」のつづきなるが、たまたま、BS放送を観ていると、マイケル・ピルズベ
リーが生放送に出演、同氏の近著(同上)の宣伝も兼ね?対中政策のインタビューを放映。も
ちろん、同氏の著書や履歴などは全く知らないが、尖閣列島や南沙諸島での紛争の対抗策とし
て、同氏が中国政府の弱点を突く「ボイコット」(=不買運動)は考えたことはないのかと、
フジテレビジョンのアナウンサーとコメンテイタに反質するも、日本では政経分離で、まった
く考えていないという風な受け答えを行っていたが、わたし同じことを考えている(『国際的
不買運動の準備』2015.06.20)――ボイコット運動には(1)中国が反日でやるような官製運
動と(2)非政府団体が行う国際連帯運動の2通り考えられる、後者を想定―――のではない
と興味を惹き、早速、伊国屋書店へオンライン発注し目を通す。
同著の概要はネット上で紹介――小平が、天安門事件で西側諸国による制裁を受けて出した
外交方針「韜光養晦(とうこうようかい)」は、これまで「中国は、経済発展を最優先するの
で、海外との摩擦は最小限に抑え平和を求める」方針だと理解されてきたが、「それは誤った
解釈」で、「韜光養晦の本質は『野心を隠す』」時間稼ぎ策で、これこそ中国の長期的な野望
を象徴し、中国共産党には、中華人民共和国を設立した時から「再び世界の覇権国としての地
位を奪還する目標に従いその実現のために百年に及ぶ戦略を実行している――されている(日
経ビジネスオンライン 2015.09.18)。それによると次のようになる。
(1)米中国交正常化は中国からの働きかけにより実現
(2)新興国は覇権国に潰される運命にある
(3)「韜光養晦」は中国の戦略を象徴する言葉
(4)毛沢東の愛読書『資治通鑑』が起源の覇権戦略
(5)習近平は「強中国夢」のゴールを2049年であると公言
なんぼ抽斗が多いと言っても、外交分野はずぶの素人ここは熟っくりと読み進めようと決める。
この項つづく