わたしたちの最大の弱点はあきらめることにある。 トーマス・エジソン
Thomas Alva Edison
February 11, 1847 – October 18, 1931
● 現代の錬金術:新元素発見
新しい元素を発見したということで昨年末の27日話題となっている。それによる
と、理研仁科加速器研究センタの森田准主任研究員らの研究グループが、8月12
日、3個目の113番元素の同位体「278113(質量数278)」の合成を確認――04
年、05年に続く発見――したとのこと、前の2個とは異なる新しい崩壊経路をた
どったことが大きな意味をもっという。これまで観測してきた2個の113番元素
は、連続4回のアルファ崩壊を起こし、その後2つの原子核に分裂(自発核分裂)。
ところが、今回はさらに2回、合計6回の連続したアルファ崩壊を起こしたというの
だが、もう少し詳しく説明することによると、今回、3個目の113番元素の確認に成
功しただけでなく、6回のアルファ崩壊により既知の原子核であるボーリウム、ド
ブニウム、ローレンシウム、メンデレビウムに時系列的に到達し、ドブニウムがア
ルファ崩壊する様子も観測している――うぅ~ん、脳が疲れているときにこんなこ
と理解しようとしても、完全にギブアップ状態――というのだが、先に進もう。
元素の起源を探る
それで、新元素の合成を証明するためには、その元素が崩壊した後、既知の原子核
に到達することが証明条件となるため、多くの観測数が求められ、研究グループは、
2個目の合成を確認した時、国際機関に113番元素発見の優先権(日本の)を主
張したが認められなかった。また、4回目のアルファ崩壊でできた原子番号105
のドブニウム(262Db)は、自発核分裂かアルファ崩壊することが分かっていました
が、2個とも自発核分裂しか観測できなかった経緯や、今回の合成にたどり着くた
めに、実に7年もかかっていて、実験開始からこれまで、元素合成のために原子を
衝突させた回数は百兆回を超えていたというから、そちらの方が話題となりそうだ
が、元素の存在限界を見極めるため、各国が周期表の拡大を目指して超重元素の探
索研究競争が展開されているという。そして、理化学研究所では、未知の核種の崩
壊の解析が、超重元素の構造の理解に貴重な知見をもたらため、未報告である11
9番以上の原子番号を持った新元素の探索に挑戦し、超重元素探索の研究分野をリ
ードしていきたいという。
原子番号が大きいほど陽子同士の電気的な反発が大きくなり、不安定になって核分
裂を起こしやすくなります。自然界にウランより重い原子が存在しないのは、それ
以上の原子番号の原子核は地球の寿命より短い時間で崩壊し、安定な別の原子核に
変化していくため、ウランより重い超重元素の合成は、原子番号が大きくなるほど
困難だという理屈だ。80年代後半から超重元素合成の準備研究を始め、03年、
原子番号30の亜鉛(70Zn)のビームを原子番号83のビスマス(209Bi)に照射し、
新元素である113番元素を合成する実験を開始。ここでは、優先権の認定は省略。
知りたいのは、どのようにして「錬金」したか?だ。研究グループは、理研仁科加
速器研究センタの重イオン線形加速器(RILAC:ライラック(下図))で亜鉛(70
Zn)ビームを光速の10%に加速し、平均すると毎秒2.8×1012個もの亜鉛原子
を、標的とする厚さ約0.5μmのビスマス(209Bi)に照射して融合反応を引き起こ
したが、この照射では、亜鉛とビスマスの衝突で発生する熱がビスマスを溶かして
しまうため、直径30cmの円板にビスマスを取り付けて(上写真)、毎分3,000 ~
4,000 回転。融合反応でできる超重元素核はビームと同じ方向に放出されるため、
ビームと目的核(278113)をいかに効率よく分離するかが実験の成否を決める。研
究グループが開発した気体充填型反跳分離器(GARIS:ガリス(下図))は、ビーム
そのもの(70Zn)や、ビームによって弾き出される標的核(209Bi)、目的としな
い核反応生成物などを除去し、278113を含む超重元素核のイオンだけをGARISの下流
に設置した位置感応型半導体検出器(PSD: Position Sensitive Semiconductor Detector)
に導く(下図)。
12年8月12日、3個目の278113の合成に成功し、これまでの4回のアルファ崩
壊に続き2回のアルファ崩壊を観測、最後は原子番号101のメンデレビウム(質
量数254の254Md)になったことを確認。ここで、とくに4回目のアルファ崩壊でで
きる262Dbは、約33%の確率で自発核分裂し、約67%の確率でアルファ崩壊する
ことが知られている。これまでの2個の278113は262Dbの自発核分裂で、今回確認し
た3個目の278113はアルファ崩壊し、どちらの現象も確認できた(下図)。さらに、
5回目と6回目のアルファ崩壊では、崩壊を始める時間とそのとき放出される崩壊
エネルギーが、89年~99年に報告された262Dbと258Lrの崩壊にそれぞれよく一
致した。これらは、理研が合成してきた3個の原子核が、確かに278113であったと
いう証拠を与える。また、3個の278113の崩壊の様子から、113番元素の平均寿命は
2ミリ秒であることも分かった。
● 113番元素合成の立役者たち
まず、世界最高のビーム強度を誇る線形加速器ライラック(RILAC)。1秒間に2.
4兆個もの亜鉛原子を光速の10%まで加速、ビスマスの標的に照射する。もしビー
ム量が10分の1だったら?113番元素を3つ作るのに百年を要し発見は出来な
い。このビームは、強力過ぎて、厚さ1万分の5mmのビスマス標的に穴を開ける。
そこで、同じ場所にビームを当て続けないよう、標的を円盤上に並べ毎分3千回転
以上で回すことで解決する(下図クリック)。113番元素が合成できるのはも稀で、
折角出来ても、大量の亜鉛ビームに混じってしまう。その中から113番元素だけを
選り分けるのが気体充填型反跳分離器(GARIS)。あたかも浜辺の砂の中から一粒の
ダイヤモンドを探し出すようなもの。あれっ!このフレーズ仏教の「一握の砂」に
似ている。
さて、GARISは電磁石で粒子の進路を曲げて選り分ける。粒子の質量と電荷によっ
て曲がり方が決まるので、標的で作られた113番元素の質量は一種類、電荷はバラバ
ラなので、曲がり方もバラバラ。これでは貴重な113番元素を集められない――電子
が113個付いてれば電荷0価、電子が110個(3個取れている)なら+3価―――そこで
重要なのが ARIS 詰めてあるヘリウムガス。113番元素がガス中を進む際、ヘリウ
ムと衝突を繰り返しながら電子のやり取りをし続ける。この変化し続ける電荷の平
均値が一定の値に定まる(平均平衡電荷:この実験では+11.9価)。113番元素
はこの値で決められる一定の軌道上を生成当初の電荷とは関係なく進み、もれなく
検出器に集めることに成功する。
ここまできて、すごいことが理解できた。鍵語は「量子ビーム」、。量子ビームは
原子や分子のようなナノレベルでモノを観る・創る・治すことができる先端技術。
現代の錬金士とは「量子を操る技」をもつ匠たちのこと、それじゃわたし(たち)
「ネオコンバーテック」の仲間ではないかと腑に落とす。