● 分散型電力貯蔵システム
先回、【オールソーラーシステム完結論 27】に掲載したエンフェイズ エナジー社とエ
リーパワー社によるマイクロインバーターを備えた太陽電池モジュールと、双方向マイクロ
インバーター、蓄電池をパッケージ化した「分散型電力貯蔵システム」(上図)に関わる特許の掲載
が抜けていたので改めて掲載しておく。
● ソーラー兼業農家
天気次第で出力が大きく変動する太陽光発電が扱いにくい側面を持つのは確かだが、メガ
ソーラーだけではない。出力が10キロワット以上50キロワット未満で低圧扱いの太陽
光発電もある。今、注目を集めるのは農地に太陽電池を設置し、農業を続けながらFIT
(全量固定価格買取制)で売電する「営農発電」だという(日本経済新聞-1つの畑で野
菜も発電も「ソーラー兼業農家」に注目 2014.11.04)。
農地は農業以外で収益を得ることが禁じられているが、農林水産省が昨年3月末、再生エ
ネの普及を目指して規制緩和したが――植物の光合成は太陽光をすべて使い切っているわ
けでなく、光が十分に強くなると、それ以上いくら光を当てても光合成量が増えなくなる
「光飽和点」があり、この光飽和点の分を確保し、余った光を発電に回せば、影ができて
も作物の収量には影響しない。これが、「ソーラー営農法」の特徴――千葉県の例では、
売電で年220万円の収入 初期投資8年で回収できるある。また、農機販売子会社のヤ
ンマーアグリジャパンを通じて営農発電システムの販売に乗り出したことも掲載されてい
る。
勿論、同上の情報では蓄電池による出力の平準化についても紹介しているが(下図参照)
この分野の技術革新による品質向上とコスト逓減が急ピッチに進めば、近い将来、農業も
大変貌することになる。
【脱ロスト・スコア論Ⅱ】
● たまには熟っくりと本を読もう
高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」
先回につづき、「民営化」「規制緩和」を巡る話。ところで、「規制緩和」に対するわ
たしの立場は「産業政策」と同様に、「是々非々」である。それでは、読み進めていこ
う。
第2章 「第3の矢」成長戦略の罠
■ 対立する「産業政策派」と「規制緩和波」
1年ほど時間を戻す。
2013年10月15日に招集された第185回臨時国会は、”ねじれ”が解消されて
初めての本格的な論戦となったが、私は与野党の対立ではなく、与党内の対立に興味
を移していた。それは「産業競争力強化法案」(2013年12月4日成立)と「国家
戦略特区法案」(2013年12月7日成立)が、与党内の「産業政策」vs「規制緩和」
の構図となっていたからである。
産業競争力強化法案は、アベノミクスの成長戦略を具体化しようと目論む産業支援
策である。前述した官主導の「産業政策」の色合いが強いが、表向き「企業版特区」
という"規制緩和"盛り込まれている。
もっとも、企業板特区というが、農業、医療、教育、労働など、いわゆる「岩盤規
制」には手をつけていない。企業への優遇が中心で、経産省の言うことを聞けば優遇
措置が得られるという類の施策である。何しろ具体的なメニューが出ていなかった。
一方、国家戦略特区法案は地域限定で「規制緩和」をするものだ。全面的な「規制
緩和」では既得権の抵抗がある。そこで地域限定で行なおうというのだから、現実的
なアプローチだ。しかも具体的なメニューが出ており、当初の15項目のうち10項目で
成果が出ていた。すなわち、
①病床規制
②保険外併用診療
③医学部新設
④公設民営教育
⑤容積率緩和
⑥都市のエリアマネジメント
⑦賃貸マンション宿泊利用
⑧農業信用保険制度
⑨農地の利用拡大
⑩歴史的建造物
以上の項目では「規制緩和」の成果があるだろうと、1年前に私は踏んでいた。外
国医師の診察や雇用条件明確化、有期雇用でも一定の成果がある。
この2つの法案-産業競争力強化法案と国家戦略特区法案だが、マスコミの取り扱
いでも大きな差があった。
産業競争力強化法案は、礼賛の記事ばかりだった。経産省のレクチャーどおりであ
る。その一方、国家戦略特区法案の労働関係部分で、マスコミは「解雇特区」という
名称をつけた。この表現はひどいと思う。内容は「雇用ルールの明確化」にすぎず、
一定の人を対象として外資系企業を誘致するためのものである。
「解雇特区」を記事や見出しに掲げさせた。"抵抗勢力"は厚生労働省だった。「特区
の内外で労働規制に差をつけるのがまずい」というのが言い分である。ならば、全国
で雇用ルールを明確化すべきだろう。
日本の新聞は「たとえば、遅刻をすれば解雇と約束し、実際に遅刻したら解雇でき
る」などと書いていたが、公序良俗に反するし、特区ガイドラインにも反する話であ
る。外国紙では、労働の特区が正規と非正規雇用という労働の二重性を打破する可能
性などに触れていて、正確な理解をしていたのだが。
日本ではマスコミが役所のポチになっている。2つの法案をめぐる報道は、それが
露骨に表に出ていた代表的なケースである。
■「岩盤規制」にドリルで穴を開けられるのか
それでも国家戦略特区法案は、産業政策を推進するような産業競争力強化法案より
もまともであった。国会審議では、野党の一部から「今回の国家戦略特区法案の規制
改革項目は、小粒すぎて法案に値しない」という批判が出たが、「国家戦略特別区域
法」として成立を見た。
前述したように外国医師による診療、病床規制、医学部新設、雇用ルールの明確化、
公設民営学校、容積率規制の転換、農業委員会、農業信用保証など、いわゆる「岩盤
規制」で穴が開いた。これまでまったく前進できなかった分野であるから、一定の成
果である。
もちろん、こうした一定の成果に対して、漏れ落ちたり抜けたりしている点を探す
のは容易である。ただ1回の国会会期で、すべての岩盤規制を解決しきることはでき
るわけもなく、当然多くの課題が積み残された。安倍総理白身、規制緩和の追加項目
があることを認め、国家戦略特区諮問会議で「法改正を要しないものは遅くても20
14年の年内実施。法改正を伴うものは次期国会(秋の国会)に法案を提出する。ド
リルのスピードを一層増していきたい」と発言している(6月17日)。
整理しておくと、国家戦略特区に指定されたのは次の6エリアである。
①東京圈(東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大
田区、渋谷区と、神奈川県、千葉県成田市)
②関西圈(大阪府、兵庫県、京都府)
③新潟県新潟市
④兵庫県養父市
⑤福岡県福岡市
⑥沖縄県
これらの地域が、3月に「岩盤規制の突破口」として選ばれ、下表に掲げた規制緩
和(規制改革)項目を先行することになる(表は規制緩和の項目ごとに、「国家
戦略特区法」を○、△、×で評価したもの)。
■ 「第8条」が曲者だった
私は、規制は一気に解決しきれないという観点から、「岩盤規制」の穴が開いたか
どうかという「分野」に着目するよりも、まずは国家戦略特区法案に書かれた規制緩
和の「スキーム」を精査してみた。そのスキームやその運用次第で、今後の規制緩和
のさらなる拡大などが決まってくるからだ。
何度も述べたように規制緩和は、法律の取り組みで2年間、その成果が出るのに3
年間の合計5年くらいかかることが多い。つまり規制緩和は懐妊期間が長く、必ずし
も成果がすぐ出ないものばかりなので、永続的に取り組まないといけないのだが、今
回の国家戦略特区法では、一定分野について少なくとも最初の2年間はスキップでき
る。
そこで法案を精査すると、特区実現のためのスキームとして3つの仕組みがあるこ
とが分かる。[特区担当大臣」「特別区域会議」「特区諮問会議」である。
第一の特区担当大臣では、大臣のリーダーシップが期待されている。かつての構造
改革特区の初期には、たとえば農業へのりIス方式での企業参入など、大きな成果が
上がった。その時期には特区担当。ほぼ"専任"の大臣が置かれており、その成果が如
実に表われたのだろう。
ところが、その後、専任大臣ではなくなってしまった。そのため構造改革特区の成
果が鈍ってきたように思われる。それで特区担当大臣を専任にすべく、新たに創設し
たのである。
第二に特区会議だ。これは特区ごとに国・地方・民間の三者が一体となった。" 統
合推進本部"を設けることで、それを特区内におけるず "独立政府" にする効果があ
る。従来の規制改革や特区の運用では、現場レベルの規制改革ニーズが抑え込まれて
しまい、なかなか表に浮かび上がってこないということもあった。これを防ぐため、
特区担当大臣、首長、民間代表で構成する統合本部を設け、これまでの弊害を防いで
いる。
第三に、特区諮問会議。
過去の歴史を振り返れば、規制改革における最大の難関は、やはり規制を所管する
省庁の壁をどう突破するかという一点である。
そのため特区諮問会議は、特区担当大臣と規制担当大臣、および民間有識者も交え
て議論し、そのうえで最後は総理が決定する、という経済財政諮問会議スタイルを可
能にしている。
以上のスキームは、よい。
しかし法案の細部には、このスキームを台無しにしかねない"気がかりな条項"も合
まれていた。それがそのまま可決したのである。「国家戦略特別区域法」第8条(区
域計画の認定)から、2点を指摘する。まずは第6項だ。
《6 区域計画は、国家戦略特別区域会議の構成員が相互に密接な連携の下に協議
した上で、国家戦略特別区域担当大臣、関係地方公共団体の長及び前条第二項に規
定する構成員(注・政令に基づき選ばれた特区会議の構成員のこと)の全員の合意
により作成するものとする》
特区会議において、計画作成は「特区担当大臣、関係地方自治体(地方公共団体)
の長など構成員の全員の合意」とされているが、関係地方自治体とはどこまで含むの
か。あまり関係のない人まで構成員となると、迅速な意思決定ができなくなる恐れが
ある。
次に気がかりなのは第9項。
《9 内閣総理大臣は、認定(注・計画の適合認定)をしようとするときは、区域
計画に定められた特定事業に関する事項について、当該特定事業に係る関係行政機
関の長の同意を得なければならない》
特区諮問会議での審議を経て、総理が意思決定を行なう際、関係大臣(関係行政機
関の長)の同意を得なければならないとされている。
もちろん、総理大臣の意向で関係大臣は罷免することもできるので、私はさほど心
配していないが、"抵抗勢力が関係大臣に反対させて、規制緩和を進めない"という事
態が出てこないとも限らない。そのとき責任を負うのは、言うまでもなく総理である。
ここで言う「抵抗勢力」とは、ズバリ官僚のことだ。各種の規制イコール役所によ
る許認可事項だから、規制が緩和(撤廃)されれば官僚の仕事がなくなる。規制は官
僚の権力の源泉なのである。だからこそ、特区担当大臣や特区諮問会議の人選が重要
になってくる。官僚に丸め込まれない人を選ばなくてはならない。人なくして重要政
策なし、である。特に特区諮同会議の役割は大きい(メンバーは下覧を参照)。
■ なぜ東京が特区の "問題児" なのか
その特区諮問会議が槍玉に挙げ、 "問題児扱い" している特区があると「日本経済
新聞」が記事にした。問題児とは、6ヵ所ある国家戦略特区のうち、他ならぬ首都・
東京のことである。ようやくこのような報道が出てきたかと私は感心したものだ。
編集委員の瀬能繁氏による署名記事で、見出しは「小粒すぎる東京特区、霞が関も
驚く都官僚の逃げ腰」。官僚(ここでは霞が関の官僚ではなく都の官僚だが、その性
質においては同根である)に丸め込まれると、政策がうまく実現できないということ
が如実に表われている。
記事は特区諮問会議民間議員であるハ田達夫氏(大阪大学招聘教授)の「東京都は
あんまりだから、これは外したほうがいいのではないかという議論さえありました」
との発言を紹介し、以下のように続く。
《東京都の提案が不十分だった理由とは何か。
1つは「外国企業・投資家も注目する雇用・労働分野を含めての提案が全くなかっ
た」(八田氏)ことだ》
《もう一つは、入院ベッド数などを基準にした「病床規制」の緩和だ。特区法に盛
り込んだ。ところが、都が提案したのは、「都内高度専門医療機関の治験共同実施
における規制の適用除外」。国の医療保険がきかない自由診療(保険外診療)の場
合は病床規制の対象から外してほしいという内容だが、国の関係者は「いまでも自
由診療なら病床規制の対象外のはず。これは規制緩和でも何でもないのでは」と首
をかしげる》
《話はこれで終わらない。
「特区にするのは都内23区のうち8区か9区にとどめたい」。3月中旬には都から
政府にこんな意向が伝えられていた。東京圈のうち東京都は23区だけでなく多摩地
域を含めた全域を対象にしようとしていた政府は「そんなバカな!」と焦った》
《「特区法で用意した初期メニューを使い切らないばかりか、特区の場所すら限定
しようとする。質的ふ囲的に特区を楼小化しようとする動きだ」。舞台裏を知るあ
る霞が関の官僚は都の姿勢に憤る》
(「日本経済新聞」2014年4月28目付。振り仮名と傍点は引用者)
霞が問の官僚も都の官僚に呆れ、怒っていると書いてあるが、私に言わせればどっ
ちもどっちである。それはともかく、この東京都の対応はお粗末だ。いや「お粗末」
の一言よりも、英語表現のシャビー(多芸邱古臭い、みすぼらしい、汚らしい、卑劣
な)という形容詞がぴったり来る。
そもそも国家戦略特区法の下で指定された「東京圏」で、なぜ東京23区全域ではな
く、千代田、中央、港、新宿、文京、江東、晶川、大田、渋谷の9区しか特区に定め
られなかったのか、疑問を持つ向きも少なくなかっただろう。そのカラクリは「アジ
アヘッドクォーター特区」という東京都の政策で解ける。
アジアヘッドクォーター特区とは、東京都が政府の国家戦略特区に先行して進めて
いたプロジェクトで、グローバル企業の誘致を目的に2011年、野田伸彦民主党内
閣時代の国に申請し、「国際戦略総合特別区域」として指定されたものだ。この指定
区域が前述の9区から文京区を除いた8区だったのである。つまり今回の国家戦略特
区は追い風になるはずなのに、文京区I区を加えただけに終わった。だから政府が
「そんなバカな!」「特区を楼小化しようとする動きだ」と憤慨したというわけであ
る。
23区はおろか、多摩地区も含めた東京都全域を国家戦略特区に指定しようとしてい
たという政府に対し、なぜ東京都は逆行するような挙に出たのか。「日本経済新聞」
の記事は《都議会や23区、業界団体との調整に時間がかかることで二の足を踏んだの
だろうか。あるいは「国の官僚よりフットワークが重い」といわれる都官僚の癖が出
ただけ、なのだろうか。真相はいまひとつはっきりしない》としているが、そんなと
ころだろう。要は都知事が官僚に「丸め込まれた」のだ。
猪瀬直樹氏の辞職を受けて新都知事に就任した舛添要一氏は、 "収革派" のように
目されているが、白身が東大法学部卒ということもあり、官僚へのシンパシーは抜き
がたいものがあると言われる。そのため、都の政策の最終承認者として「(手続きが
面倒だから)従来の8区プラスー区で行きましょう」とする都官僚に乗ってしまった
のではないか。
2020年には東京オリンピックが開催されるのだから、国家戦略特区の指定を生
かそうと思えばオプションはいくらでもあるはずだ。しかし、そのオプションはきわ
めて限定的なものになりかねない。舛添氏にとっては格好のチャンスであるはずなの
に、このまま官僚任せでは寂しいかぎりだと言わざるを得ない。
ここは、労働者(連合東京)の応援を受け、都官僚の天下り問題も後ろ向き(詳し
くは後述)……といった舛添知事への批判はひとまず控えておこう。
舛添知事は「東京都を金融特区にしたい」と言った。そのために、もっとも有効な
手段を講じてもらえれば、知事のやる気が評価される。それは東京都が保有する莫大
な都財産の証券化である。
東京都の平成24年度一般会計の貸借対照表を見ると、資産が29兆8809億円、
負債が7兆8389僚円。国が債務超過であるのに対して、22兆420億円の資産
超過となって「超」優良財政である。この資産の一部でも証券化すれば、東京が世界
の金融ビジネスの中心になることは間違いない。と同時に、東京都の資産を都民のた
めに有効活用することもできるので、一石二鳥である。この政策を行なえば、舛添知
事が都官僚の天下り問題に消極的であるとの一部の批判も回避できる。
高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』
それにしても、東京都の優良財政ぶりには驚かされるが、この"一極集中の謎"?の解析結
果を知りたいと思うとともに、「本社機能と事業税負担の分離(公正化)」による是正と
いう "仮説 テーマ"が閃いた。これについては残件扱いとしておく。
この項つづく