僖公二十三年:晋の文公、亡命十九年 / 晋の文公制覇の時代
※ 前七世紀末、天下の覇者となった晋の文公(重耳:ちょう
じ)には、即位するまえ、長い雌伏の時代があった。すな
わち、父献公の寵愛する驪姫の姦計(驪姫の禍)により出
奔を余儀なくされたかれは、諸国を流浪する。父に追われ、
異母兄弟にねらわれての逃避行のすえ、本国に帰って即位
したのは、嬉公二十四年のことである。その間の人間模様
がここに一括して記されている。この条、経文はない。
※ 非 礼:一行は曹国に着いた。曹の共公(きょうこう)は、
かねてうわさに聞く垂耳の一枚肋自分の眼でたしかめたく
なり、垂耳が浴みしているところをすだれ越しに覗き見た。
曹に僖負羈(きふき)という大夫がいた。かれの妻は、こ
の出来事を聞くと、夫に向って言った。「百の公子のお付
きの方たちを見ますに、どなたも一国の宰相にふさわしい
方ばかりです。あの方仁ちが公子をもりたててゆく限り、
公子はきっと本国にお帰りになれましょう。やがては諸侯
を抑えて覇者となられるにちがいありません。そして諸侯
をひきいて、むかし自分に無礼をはたらいた国々を討伐な
さるでしょう。そうなったとき、まっさきに槍玉にあげら
れるのは、これはどの無礼をはたらいたわが国です。いま
のうちに、誼みを通じておいたほうがよいと思います」僖
負羈はさっそく垂耳に贈り物をしようとした。人目を避け
るため、料理を器に盛り、その中に璧(たま)を入れて垂
耳のもとを訪れた。垂耳は料理だけを感謝して受けとり、
璧は返した。
★ 璧を返す:後世、人の贈物を返すことを「反璧」(はんぺ
き)というのは、この故事にもとづく。
【RE100倶楽部:太陽光発電篇】
● 「世界初」可視光で実現 水と太陽光で水素製造
5月29日、大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授らの研究グループは、黒リンを用いた光触媒を
開発。この光触媒を使用すると可視光・近赤外光の照射によっても、水から水素生成が効率よく起こ
ることを世界で初めて創製。従来の光触媒では、太陽光の3~4%にすぎない紫外光を利用するため、
水から水素への太陽光エネルギー変換効率は低いという問題があった。今回、同研究グループは、紫
外・可視光のみならず近赤外光にも強い吸収をもつ層状の黒リンと、層状のチタン酸ランタン(La2
Ti2O7)を数層の超薄膜とし、これらとナノメートルのサイズの可視光にも吸収をもつ金ナノ粒子と
の三成分からなる複合体を合成。この複合体の黒リンが可視光・近赤外光に応答する光増感剤として
働き、また、金ナノ粒子が可視光に応答する光増感剤として働き、励起電子がチタン酸ランタンに移
動し、プロトンの還元により水から効率よく水素生成する。新しく開発した黒リン、金ナノ粒子、チ
タン酸ランタンの複合体を光触媒として使用することで、太陽光からの広帯域波長光を利用し、水か
らの水素製造が実現する。
複雑な化合物ですが、耐久性・量産性を判断するにはもう少し要注目。
May 29, 2017
※ 黒リン:リンには、白リン(黄リン)・赤リン・紫リン・黒リンなどの同素体が存在する。黒リ
ンは層状構造で、紫外、可視、近赤外光領域に幅広い吸収をもつ。
※ Au/La2Ti2O7 Nanostructures Sensitized with Black Phosphorus for Plasmon-Enhanced, First published: 12
January 2017, DOI:10.1002/anie .201612315.
【南極が溶ける】
● 離脱目前の南極の巨大氷床
6月1日、南極の棚氷(あるいは氷棚)の崩壊により、ここ1、2日のうちに最大級の氷山を作り出
すだろうと科学者たちは話す。5月の最後の6日間で、氷の淵から13キロに位置するラーセンC棚
氷の裂け目は17キロメートルに広がり、最近までの裂溝は棚氷の淵に平行に走っていたが裂け目の
方向性が変化。裂け目先端部は氷の表面に向かって大きく変化していことから、ここ1、2日後に氷
山が誕生するだろうが、それを防ぐ手だてはない。さらに、裂け目の方向転換と氷山の大きさから棚
氷全体が崩壊する可能性もあるとし、この氷山の分裂は、劇的で先駆的な現象であると懸念する。棚
氷が崩壊すると、氷河からの氷が、海面まで急速に流れだし海面上昇させる。これは、棚氷のラーセ
ンCに隣接する棚氷であるラーセンBが、2002年に棚氷から離氷し、数百万個に粉砕した事例から推
測されるとのこと。この氷山の大きさは米国デラウェア州に匹敵する約5千平方キロメートルで、こ
れまでに記録された最大の氷山となる(CNN 2017.06.01)。
June 1, 2017
ラーセンCが裂け氷山をつくるとその面積の10%以上を失うことになり、南極半島の景観を根本的
に変化し、
その結果、氷河は加速し速く流れ、棚氷の崩壊がますます大きくなる。これらの要因は、亀裂の発達
を加速し氷山形成で失われた氷の再成長を低下させる。大きな棚氷を不安定化させないためにも二酸
化炭素排出削減する必要があり、何百万人も何百万人もの人々に影響を及ぼす潜在的な海面変動が起
こると科学者らは指摘する。
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』
34.そういえば最近、空気圧を測ったことがなかった
居間に入ると、秋川章子とまりえは二人でソファに腰掛けて私たちを待っていた。我々が入っ
ていくと、二人は礼儀正しくソファから立ち上がった。私は披女たちに簡単に免色を紹介した。
ごく当たり前の日常的な人の営みとして。
「免色さんにも絵のモデルになってもらったことかあります。肖像画を描かせていただきました。
たまたまご近所に往んでおられたので、以来おつきあいがあります」
「向かい側の山の上にお往まいとうかがっていますが」と秋川里子が尋ねた。
家の話が出ると、免色の顔は目に見えて蒼白になった。「ええ、何年か前から往んでいます。
何年になるかな。えーと、三年でしたっけ。それとも四年になるかな?」
彼は問いかけるように私の顔を見たが、私は何も言わなかった。
「ここからお宅が見えるのですか?」と秋川笙子が尋ねた。
「ええ、見えます」と免色は言った。それからすぐに言い添えた。「でもそんな大した家じやあ
りません。山の上のひどく便の悪いところですし」
「不便なことにかけてはうちだって同じようなものです」と秋川里子は愛想良く言った。「買い
物ひとつにしたって一仕事ですから。携帯電話の電波も、ラジオの放送もうまく入りません。そ
れになにしろ急な坂なので、雪が積もるとつるつる滑って、怖くて車を出すこともできません。
まあそれほど雪が積もったことって、ありかたいことに五年くらい前にコ伎あっただけですが」
「ええ、このあたりはほとんど雪は降りませんから」と免色が言った。「海からの暖かい風のお
かげです。海の力というのは大きいんです。つまり――」
「いずれにせよ、冬場に雪が積もらないのはありかたいですね」と私は口をはさんだ。放ってお
いたら太平洋の暖流の仕組みまでいちいち説明しかねないような、切羽詰まった雰囲気が免色に
はうかがえたからだ。
秋川まりえは叔母の顔と免色の顔を交互に見比べていた。免色に対してはとくにこれという定
まった感想は抱いていないようだった。免色はまりえの方にはまったく目をやらず、じっと叔母
の顔ばかり見ていた。まるで彼女の顔だちに、個人的に心を激しく惹きつけられたみたいに。
私は免色に言った。「実は今、こちらのまりえさんの絵を描かせてもらっているんです。モデ
ルになってもらいたいとお願いして」
「それで私が毎週、日曜日の朝に車でここまで送ってきているんです」と秋川里子が言った。
「距離からすれば、うちからすぐ日と鼻の先なんですが、道路の関係でかなり回り道をしないと
ここまで米られないものですから」
免色はようやく秋川まりえの願を正面から見た。しかしその両目は、彼女の願の周辺のどこか
に定着できる場所を見いだそうと、落ち着きのない冬の蝿のようにせわしなく動き回っていた。
しかしそんな場所はとこにも見つけられないようだった。
私は助け船を出すように、スケッチブックを持ち出して彼に見せた。「これがこれまでに描い
た彼女のデッサンです。まだデッサンを終えたばかりの段階で、本当の絵には取りかかっていな
いんですが」
免色は長いあいだ、食い入るようにその三枚のデッサンを見つめていた。まりえ白身を見るよ
りは、彼女を描いたデッサンを見ることの方が、彼にとってはずっと意味深いことであるみたい
に。しかしもちろんそんなはずはない。彼はまりえを正面から注視することができないだけなの
だ。デッサンはあくまでその代替物に過ぎない。実物のまりえのすぐ近くに寄ったのはこれが初
めてなので、気持ちの整理がまだうまくつかないのだろう。秋川まりえは免色のそんなとりとめ
のない顔の動きを、まるで珍しい動物でも観察するみたいに眺めていた。
「素晴らしい」と免色は言った。そして秋川笙子の方を見て言った。「どのデッサンもすごく生
き生きとしている。雰囲気がよく捉えられている」
「ええ、私もそう思います」と叔母はにこやかに言った。
「でも、まりえさんはずいぶんむずかしいモデルです」と私は免色に言った。「絵にするのが簡
単じゃない。顔つきが刻々変化していくので、その中心にあるものを把握するのに時間がかかり
ます。だからまだ実際の絵に取りかかることができずにいます」
「むずかしい?」と免色が言った。目を細め、眩しいものでも見るみたいにあらためてまりえの
顔を見た。
私は言った。「その三枚のデッサンは、それぞれずいぶん表情が違っているはずです。そして
ちょっとした表情の変化で、全休の雰囲気ががらりと違ってきます。一枚の絵に定めて彼女を描
くには表面的な変化ではなく、その中心に存在するものをつかまえなくてはなりません。それが
できないと、全休のほんの一面しか表現できなくなってしまいます」
「なるほど」と免色は感心したように言った。そしてその三枚のデッサンと、まりえの顔を彼は
何度も見比べていた。そうするうちに、それまで蒼白だった彼の顔に徐々に赤みが差してきた。
その赤みは最初は小さな点のようだったが、それがピンポン球くらいの大きさになり、野球のボ
ールくらいの大きさになり、やがては顔全体に広がっていった。まりえはその顔色の変化を興味
深そうに眺めていた。秋川笙子は失礼にならないように、その変化からうまく目を逸らせていた。
私は手を伸ばしてポットを取り、自分のカップにコーヒーのおかおりを往いだ。
「来週からは、本格的に絵に取りかかるうと思っています。つまり絵の具を使って、キャンバス
の上にということですが」、私は沈黙を埋めるためにそう言った。とくに誰に向かって言うとも
なく。 「もう構想はできあがっているのですか?」と叔母が尋ねた。
私は首を振った。「まだ構想はできていません。実際のキャンバスを前にして実際の絵筆を持
たないと、具体的なことは何ひとつ順に浮かんでこないんです」
「免色さんの肖像画をお描きになったんですね」と秋川笙子は私に尋ねた。
「ええ、先月のことですが」と私は言った。
「素晴らしい肖像画です」と免色は勢いを込めて言った。「しばらく絵の具を乾かす必要がある
ので、まだ順装していませんが、うちの書斎の壁に飾ってあります。でも〈肖像画〉というのは
正しい表現ではないかもしれない。そこに描かれているのは、私でありながら私ではないからで
す。うまく言えませんが、とても深い絵です。見ていて見飽きることかありません」
「あなたでありながら、あなたではない?」と秋川笙子は尋ねた。
「つまりいわゆる肖像画ではなく、もう一段奥深いところで描かれた絵画なのです」
「それを見てみたい」とまりえが言った。それは居間に移ってから彼女が口にした最初の言葉だ
った。
「でもまりちゃん、失礼ですよ。よそのお宅にそんなに――」
「そんなことはちっともかまいません」、叔母の発言の語尾を鋭いなたできっぱりと断ち切るよ
うに免色が口を挟んだ。その語気の鋭さに全員が(免色自身をも含めて) 一瞬息を呑んだ。
彼は一息置いて続けた。「せっかくご近所にお往まいなのですし、是非うちに絵を見にいらし
てください。私はひとり暮らしをしていますから、気兼ねはいりません。お二人ともいつでも歓
迎しますよ」
そう口にしてしまってから、免色の顔がいっそう赤くなった。おそらく自分自身の発言の中に
過度に切迫した響きを聴き取ったのだろう。
「まりえさんは絵が好きなんですか?」と彼は今度はまりえの方を向いて尋ねた。声のトーンは
もう普通に戻っていた。
まりえは黙って小さく肯いた。
免色が言った。「もし差し支えなければ来週の日曜日、今日と同じくらいの時刻にここにお迎
えにあがります。それからうちにいらして、絵をご覧になりませんか?」
「でもそんなご迷惑をおかけしては――と秋川笙子が言った。
「でもわたしはその絵が見たい」、今度はまりえが有無を言わせぬ声できっぱりと言った。
この項つづく
パリ協定離脱!馬脚を現すトランプというか、はじめからわかっていたけれど、トランプ政権はどう
みても中間選挙までもたない。ところで、この語源は、馬の脚役を演じる役者が芝居中にうっかリ姿
を現すことから、隠してあいたことが明らかになることを言うようになった。隠しておいたことが表
に出てしまったことをいう言葉なので、悪事が明らかになるといった悪い意味で用いる。中国元代の
古典劇『元曲陳州躍米、第三折』によると、「露出馬脚来」(マーチャ才ライ)」といわれるらしい。
「露になる(あらわになる)」ことが原義なので、「あらわす」の漢字は「露わす」と表記されるが、「あら
わす」の漢字は「表す」「現す」「著す」「顕す」しか用いられないため、使い分けの用法から「馬脚を現す」
とも表記される。ということらしい――なるほど。アマーチャ才ライは自分への戒めと心得る。