成公16年( -575) 鄢陵(えんりょう)の戦い / 晋の復覇刻の時代
※ 外患で内憂を防ぐ: 五月、鄭にむかう晋の軍勢が黄河を渡ったところで、
楚軍出動の報がもたらさ れた。范文子は退却を進言した。 「退却して敗戦
の形をつくることが、将来の困難を避ける道です。いまのわれわれには、わ
が君を天下の判者とするほどの力はありません。しかるべき人物の出現を待
つべきでしょう。われわれのつとめは、一致団結してわが甘を補佐していく
ことだと思います」。しかし、欒武子が異議をとなえ、この進言はとりあげ
られなかった。
六月、晋・楚両軍は 鄢陵の地(鄭、現在の河南省鄢陵県)に対峙した。范
文子は、ここでもなお退却を主張した。郤至が反論を加える。「韓の戦い(
僖公一五年、秦・晋の戦い)では、恵公は全軍を率いて帰ることができなか
った。箕の戦い(僖公三三、晋・狄の戦い)では、先斡が狄中におちいって
死に、復命することができなかった。邲の戦い(宣公-二年、晋・楚の戦い)
でも、荀伯(荀林父)が敗戦にこりて戦いを避け通した。これらはみな晋の
恥、あなたも十分承知なはずだ。この恥をすすごうとせず、ここで背を見せ
るとすれば、恥の上塗りというものだ」
范文子は答えた。「むかしは戦うだけの理由があったのだ。秦、狄、斉、楚がいず
れも強国で、もしわが国が戦いを避けて力を尽くさなければ、子孫の衰退は目に
見えていた。しかし今はちがう。かつて敵であった秦、秋、斉はわが国に服従し、
残るは楚一国となっている。完全に内憂外患をなくせるのは聖人だけ、普通は外
患がなくなってしまえば、必ず内憂が起こるものだ。この際は楚を外患として残し、
国内の団結強化に役立てるべきであろう」
● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり
第3章 年金に「消費税」はまったく必要ない
関係者のエゴむき出しで年金制度がゆがめられてきた
消費税が社会保障の財源になりかけだのは、小潮政権の一九九九年にさかのぼります。
当時は自自公(自民党、自由党、公明党)連立政権でしたが、自由党の小沢一郎党
首は財務省から「消費税を上げるために、社会保障に使うといってください」と持ちか
けられました。財務省が小沢氏を利用したことで、「消費税で社会保障をやろう」とい
うことになり、予算総則に「消費税収入を社会保障に使う」と記述されました。
年金に関心の高い高齢の有権者ほど、「消費税の社会保障目的税化」といわれると、
「それならば仕方がない」と受け入れてしまいます。
当時の大蔵省は、一九九〇年代に税調答申に「消費税を社会保障目的税にしている国
は存在しない」という一文を書き入れました。その後、この一文が必ず入っていました
が、二〇〇〇年代から消されてしまいました。
財務省は、社会保障を人質にとって、「消費税を上げないと、社会保障ができなくな
る」といっていますが、保険方式の社会保障が大変であれば、「保険料」を上げるのが
筋です。それでも足りなかったら、「所得税」の投入を検討するしかないでしょう。
しかし、なぜか日本は、年金に税金を役人する国庫負獄卒を増やしています。以前は
基礎年金に対する国庫負担率は三分の一でしたが、平成十六年(二〇〇四年)の法改正
で、平成二十一年度までに国庫負担率を二分の一に引き上げることに決まりました。国
庫負獄卒が三分のIでも多いと思いますが、国庫負獄卒が二分の一に達しています。
「保険料引き上げ」が本来のやり方であるのに、それができないのは、反対する勢力か
あるからです。それは、経済界です。
企業は、従業員の保険料の半額を負担しなければなりません。保険料の引き上げに
よって負担が重くなるので、保険料引き上げに反対しています。
保険料の引き上げができないのであれば、「法人税を上げる」といえばいいのです
が、これに対しても経済界は強硬に反対します。保険料も法人税も上げられたくないの
で、「保険料ではなく消費税で」ということになっています。
「社会保障は消費税で」というのは、まったくロジカルな話ではなく、関係者たちのエ
ゴむき出しで、恥ずかしくなるようなレベルです。こうした政治力学の積み重ねで保険
料引き上げができずに、制度がどんどんゆがめられていきました。
第3章4節 関係者のエゴむき出しで年金制度がゆがめられてきた
税金の仕組みを知れば、スッキリとわかる
税金のことを詳しく知らない方も多いと思いますので、ここで税金について簡単に説
明をしておきます。税金の体系がわかると、年金に使うべき税金の種類がわかると思い
ます。
税金は、何種類あると思いますか。
いろいろな名前の税金がありますので、たくさんの種類があると思っている人もいま
すが、もっとも単純化していえば、
1 所得税
2 消費税
の二つしかおりません。
所得税は所得源泉で、消費税は消費源泉(支出源泉)です,個人の財布に入る入り口
で税金を取るか、財布から出ていく出口で税金を取るかどちらかです。割り切っていえ
ば、この二つしか税金はありません。ただし、所得税の中には資座視を含めています。
「法人税はどうなの?」と疑問に思う人がいるかもしれません。実は、法人税は、所得
税をきちんと取ることができれば、取る必要のない税金です,
そもそも法人というのは、架空の「人」であり、存在しない「人」です。法人が得た
所得は、最終的には給与と配当になり、実在の「人」に渡ります。給与は従業員の手元
に渡り、配当は株主の手元に行きます。ですから、給与所得と配当所得をきちんと「捕
捉」することができれば、法人税はゼロにしてもいいくらいなのです。しかし日本で
は、長年、クロヨン(サラリーマン九割、自営業者六割、農林水産業者四割)、トー
ゴーサン(サラリーマンー○割、自営業者五割、農林水産業者三割)といわれてきたよ
うに税金の補足率が低いままなので、それができないのです。
給与所得、配当所得という名が付いていることでわかるように、どちらも「所得税」
です。
企業が内部留保したらどうなるのか。その企業の株の価値が上がります。株主に対し
て資産課税をすれば、税金を取ることができます。
つまり、「法人の所得」はすべて分解できて、「個人の所得」に還元できます。個人
の所得をきちんと捕捉できれば、所得税ですべて取ることができます。実在の「人」か
ら税金を取れば、法人という存在しない「人」から税金を取らなくてもいいのです。こ
れが基本的なロジックです。
よく「法人税を下げないと、国際競争力が下がる」という人がいます。「鶏と卵」的
な議論としてはわからなくはありませんが、しかし、本来のロジックとしては間還って
います。
他の国は「労働所得(給与所得)も配当所得も資産所得もきちんと捕捉できるように
なって、所得税で取れるようになったから、法人税は下げてもいいよね」というロジッ
クで法人税を下げています。所得を完全に捕捉して所得税で取ることができれば、法人
税を取ると二重課税になってしまいます。本来、法人税下げの趣旨は、「国際競争力強
化のため」ではなく、「二重課税をなくすため」です。
個人所得の完全な捕捉はできませんから、法人税は少し残りますが、所得税の捕捉率
が高まれば、「二重課税排除」の趣旨から法人税を下げるのが世界のセオリーです。
捕捉率が高まれば、法人税はゼロに近づいていき、所得税だけになります。ゼロになる
税金を保険料の穴埋めに使うことはできません。その意味でも、法人税は保険料の穴
埋め候補から外されます。
第3章5節 関係者のエゴむき出しで年金制度がゆがめられてきた
読めば読むほど、眼から鱗の、驚きの連続。いったい政治家は何をしていたのだと愕然とする。
この項つづく
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』
Pablo Picasso - Guernica
第48章 スペイン人たちはアイルランドの沖合を航海する方法を知らず
七時過ぎに私は秋川笙子に電話をかけてみた。電話にはすぐに彼女が出た。まるで.電話機の
前でベルが鳴るのをじっと待ち受けていたみたいに。
「まだ何の連絡もありません。行方はわからないままです」と彼女は最初に言った。
おそらくほとんど(あるいはまったく)限っていないのだろう。その声には疲れが滲んでいた。
「警察は動いてくれましたか?」と私は尋ねた。
「ええ、昨夜のうちに警察の方が二人うちに来てくださって、お話をしました。写真を渡したり、
服装の説明をしたり・・・・・・。家出をしたり、夜遊びをしたりするような子供ではないことも話し
ました。情報があちこちに送られて、たぶん捜索が行われているはずです。今のところもちろん
公開捜査のようなことは控えてもらっていますが」
「でも成果はあがっていないのですね?」
「ええ、今のところは何の手がかりもありません。警察の方々も熱心に動いてくださっているよ
うですが」
私は彼女を慰め、何かわかったことがあったらすぐに教えてほしいと言った。そうすると彼女
免色はすでに目を覚ましていて、洗面所で時間をかけて顔を洗っているところだった。私が用
意した客用の歯ブラシで歯を磨き、それから食堂のテーブルの私の向かいに座って熱いブラッ
ク・コーヒーを飲んだ。トーストを勧めたが、彼はいらないと言った。ソファで眠ったせいだろ
う、彼の豊かな白髪はいつもより少しだけ乱れていたが、それもいつもに比べればという程度の
ものだった。私の前にいるのは、例によって冷静で身だしなみの良い免色だった。
私は秋川笙子が電話で話したことをそのまま免色に伝えた。
「これはあくまで私の勘ですが」と免色はそれを聞き終えて言った。「今回の件に関して、警察
はあまり役に立たないような気がします」
「どうしてそう思うんですか?」
「秋川まりえは普通の女の予ではないし、これは普通のティーンエージャーの失踪とは少しわけ
が違うからです。そして誘拐というのでもないと思います。ですから警察のとるような通常の方
法では、彼女を見つけるのはむずかしいでしょう」
私はそれについてはとくに意見を述べなかった。でもたぶん彼の言うとおりだろう。私たちが
直面しているのは、関数ばかり多くて、具体的な数字がほとんど与えられていない方程式のよう
なものだ。何よりもひとつでも多くの数字を見つけ出さなくてはならない。
「もう一度あの穴を見に行ってみませんか?」と私は言った。「何か変わりがあるかもしれませ
ん」
「行きましょう」と免色は言った。
ほかにやるべきこともないし、というのが我々のあいだの共通の、そして暗黙の認識だった。
留守をしているあいだに秋川里子から電話がかかってくるかもしれない、あるいは騎士団長の言
う「誘いの電話」がかかってくるかもしれない、と私は思った。でもたぶんまだかかってはくる
まい。そういう漠然とした予感があった。
我々は上着を着て外に出た。よく晴れた朝だった。昨夜空を覆っていた雲は、南西からの風に
すっかり吹き払われていた。そこにある空は不自然なほど高く、どこまでも透き通っていた。空
をまっすぐ見上げていると、透明な泉の底を上下逆にのぞきこんでいるような気がした。ずっと
遠くの方から、電車の長い車両が線路を進んでいく単調な音が聞こえてきた。ときおりそういう
目がある。空気の誼み具合と風向きによって、いつもは聞こえない遠くの音が妙にくっきりと耳
に届く。そういう朝だった。
我々は雑木林の中の小径を、無言のうちに祠のあるところまで歩き、それから穴の前に立った。
穴の蓋はまったく昨夜の通りだった。その上に並べた重しの石の位置も変化していなかった。二
人で蓋をどかせると、梯子はそのまま壁に立てかけてあった。そして穴の中にはやはり誰もいな
かった。兎色は今回は底に降りてみようとは言わなかった。明るい目差しで穴の底は隅々まで見
渡せたし、昨夜と変わったところは何ひとつなかったからだ。明るい昼間に見る穴は、夜中に見
る穴とは別のもののように見えた。そこには不穏な気配はまるで感じられなかった。
それから我々は再び穴に厚板の蓋をかぶせ、その土に重しの石を並べた。そして雑木林を抜け
てうちに帰った。家の前の車寄せには、免色のしみひとつない寡黙な銀色のジャガーと、私の埃
だらけのつつましいカローラ・ワゴンが隣りあって駐車していた。
「払はそろそろうちに引き上げることにします」と兎邑はジャガーの前に立ち削まって言った。
「こにに腰を据えていても、あなたのお邪魔になるだけだし、今のところあまりお役に立てそう
にありませんから。かまいませんか?」
「もちろんです。うちに帰ってゆっくりお休みになってください。何かあったら、すぐに逓信し
ます」
「ええ、今日はたしか土曜日でしたね?」と免色は尋ねた。
「そうです。今日は土曜日です」
免色は肯いて、ウィンドブレーカーのポケットから車のキーを取り出し、しばらくそれを眺め
ていた。何かを考えているようだった。心を決めかねているのかもしれない。私は彼が考え終わ
るのを待っていた。
免色はようやく口を開いた。「あなたにお話ししておいた方がいいことがひとつあります」
私はカローラ・ワゴンのドアにもたれて、彼の話の続きを待った。
免色は言った。「あくまで個人的なことなので、どうしようかとずいぶん述ったのですが、い
ちおう礼儀として、あなたにお知らせしておいた方がいいように思いました。無用の誤解を招く
のは好むところではありませんし……。つまり、私と秋川笙子子さんとは、なんと言えばいいの
だろう、かなり親密な間柄になっています」
「男女の関係ということですか?」と私は単刀直入に尋ねた。
「そういうことです」と気色は一瞬間を置いてから言った。頬が微かに赤らんだようだった。
「ずいぶん迷い展開だと思われるかもしれませんが」
「速度はそれほど問題にはならないと思います」
「そのとおりだ」と気色は認めた。「たしかにおっしゃるとおりです。問題は速度じゃない」
「問題は――」と払は言いかけてやめた。
「問題は動機だ。そういうことですね?」
私は黙っていた。しかし払の沈黙が意味するものがイエスであることは、彼にはもちろんわか
っていた。
免色は言った。「わかっていただきたいのですが、払は何も最初から計算をして、そういう方
向にものごとを進めたわけではありません。あくまで自然な成り行きだったのです。自分でもよ
く気がつかないうちに、そうなってしまっていたのです。すんなりとは信じてもらえない
かもしかませんが」
私はため息をついた。そして正直に言った。「ぼくにわかるのは、もしあなたが最初からそう
しようと計画していたとしたら、それはとても簡単なことだったに違いないということくらいで
す。皮肉で言っているわけじやありませんが]
「たぶんおっしやるとおりでしょう」と免色は言った。「それは認めます。簡単というか、それ
ほどむずかしいことではなかったかもしれない。しかし実際にはそうではありませんでした」
「つまり、あなたは秋川生子さんを一目見て、ただ慨純に恋に落ちてしまったということなので
すか?」
免色は困ったように少しだけ唇をすぼめた。「恋に落ちたか? 正直、ぼって、そこまでは、
私には断言できません。払が最後に恋に落ちたのは たぶんそうだったと思うのですが 大昔の
ことです。それがどんなものだったか、今となってはうまく思い出せません。しかし一人の男と
して、女性としての彼女に強く心を惹かれているのは間違いのないところです」
「秋川まりえの存在を抜きにしても?」
「それはむずかしい仮説です。そもそもの出会いがまりえさんを勤賎にしたものですから。でも
もしまりえさんの存在がなかったとしても、私はおそらく彼女に心を惹かれたのではないでしょ
うか」
どうだろう、と払は思った。免色のような深く込み入った意識を抱えた男が、秋川笙子のよう
な、どちらかといえばあまり屈託のないタイプの女性にそこまで強く心を惹かかるものだろうか?
しかし私にはなんとも.dえなかった。人の心というものは予測のつかない良き方をするもの
だから。とくに性的な要素が加わった場合には。
「わかりました」と私は言った。「とにかく正直に言ってくださって、ありがとうございました。
正直であることは結局はいちばんよいことだと思います」
「私もそうであることを願っています」
「実をごうと、秋川まりえは既にそのことを知っていました。あなたと笙子さんがそういう関係
になっているであろうことを。そしてぼくにそのことで相談をしてきました。何日か前に」
免色はそれを聞いて少し驚いたようだった。
「勘の鋭い子だ」と彼は言った。「そういう気配はまったく見せないようにしていたつもりなの
ですが」
「とても勘の説い子です。でも彼女がそのことに気づいたのは叔母さんの言動からであって、あ
なたのせいではありません」
秋川生子はある程度感情を抑制できる、育ちのよい知件的な女性だが、強固な仮面までは持ち
合わせていない。そのことはもちろん兎邑にもわかっていた。
免色は言った。「それであなたは……まりえさんがそれに気づいたことと、今回の失踪とのあ
いだには何か関連があると思っている?」
私は首を振った。「そこまではわかりません。ただぼくに言えるのは、あなたは笙子さんと二
人でよく話し合った方がいいだろうということです。まりえさんがいなくなったことで、彼女は
今とても混乱し、不安を感じています。たぶんあなたの助力と励ましを必要としているはずです。
かなり切実に」
「わかりました。家に帰ったらさっそく彼女に連絡をとってみます」
免色はそう言ってから、またしばらく一人で考え込んでいた。
「正直に言えば」と彼はひとつため息をついてから言った。「私はやはり恋に落ちたというので
はないと思います。それとは少し違う。私はそういうことにはもともと向いていないようだ。た
だ私には自分でもよくわからないのです。もしまりえさんという存在がなければ、笙子さんにそ
んなに心を惹かれていたかどうか。そこにうまく線を引くことができません」
The Hollow Men
私は黙っていた。
免色は続けた。「でもそれは前もって計算したことでもありません。それだけは信じてもらえ
ますか?」
「免色さん」と私は言った。「どうしてそう思うのか自分でも説明はつかないのですが、ぼくは
あなたは基本的に正直な人だと思っています」
「ありがとう」と鬼色は言った。そしてほんの少しだけ微笑んだ。いかにも居心地の悪そうな微
笑みだったが、まったく嬉しくないというのでもなさそうだった。
「もう少しだけ正直になってかまいませんか?」と免瓦は言った。
「もちろんです」
「でも私は自分のことがときどき、ただの無であるように感じられます」と免色は打ち明けるよ
うに言った。談い微笑みはまだ彼の目元に残っていた。
「無?」
「からっぽの人間です。こんなことを言うといかにも傲慢に聞こえるかもしれませんが、私は自
分のことをずいぶん頭の切れる有能な人間だと思って、これまで生きてきました。勘も優れてい
るし、判断力も決断力もあります。体力にも恵まれています。何を手がけても失敗する気がしま
せん。実際、望んだものはだいたいすべて手に入れてきました。もちろん東京拘所所の件は明ら
かな失敗ですが、あれは数少ない例外です。若い頃は、自分にはどんなことだって可能だと思っ
ていました。そして将来、自分はほぼ完璧な人間になれるはずだと考えていました。世界をそっ
くり見下ろせるような商い場所にたどり着けるだろうと。しかし五十歳を過ぎて、鏡の前に立っ
て自分自身を眺めてみて、私がそこに発見するのはただのからっぽの人間です。無です。T・S・
エリオットが言うところの藁の人間です」
どう言っていいのかわからなかったので、私は黙っていた。
A penny for the Old Guy
I
We are the hollow men
We are the stuffed men
Leaning together
Headpiece filled with straw. Alas!
Our dried voices, when
We whisper together
Are quiet and meaningless
As wind in dry grass
Or rats' feet over broken glass
In our dry cellar
Shape without form, shade without colour,
Paralysed force, gesture without motion;
Those who have crossed
With direct eyes, to death's other Kingdom
Remember us-if at all-not as lost
Violent souls, but only
As the hollow men
The stuffed men....... この項つづく