アベノミクスを問う選挙であるというが、息子達の反応をみているとやはり消極的で
むしろ「無駄な選挙」程度ににしか受け取っていないようだが、このわたしは?とい
えば、直前まで支持政党は決まらないと考えていたが、比例区・小選挙区とも決まっ
ている。しかし、相変わらず財務官僚のを煽るかのようなマスコミの論調やテレビの
コメンテータの発言など目耳し気分を悪くしている中、あるテレビ討論で、維新の会
の橋元大阪市長の唐突な「ケインズ批判」に、経済政策の此彼を再確認しておかなけ
ればと思い、高橋洋一箸の『アベノミクスの逆襲』と菊池英博箸の『そして、日本の
富は略奪される』を熟っくり読み込み、『反財政危機論』としてまとめ記載していく
ことに。
「巨額の借金があるから金利が上がると破綻する」論の嘘
「日本は1,100兆円もの借金があるから、金利が上がると利払いで大変なことに
なる。財政が破綻する」というとんでもないことをいう人がいる。これは、ほと
んど言い掛かりである。
こういう破綻論者というのは、物事の片方しか見ていない。両サイドを見なけ
れば意味がない。
まず1100兆円の借金というのは、政府のバランスシート(貸借対照表)の右側
の「負債の部」の話。左側の「資産の部」には約 650兆円の資産がある。差し引
きすれば、450兆円であり、日本のGDP約500兆円で割ってみれば、その範囲内
に収まる。片側だけしか見ないから、1,100兆円の借金は大変だ。破綻する」とい
う破綻論になる。
それに加えて、もう一つ間違っているのは、金利についても片側しか見ていな
いことである。名目金利(長期金利)はだいたい名目GDP成長率とほぽ同じく
らいになる。片側の金利上昇しか見ていないから、バカげた破綻論になる。
名目金利が上昇するときには、もう一方で同じくらいの率の経済成長が起こっ
ている。経済成長が起こっているのだから、実体経済が良くなっているというこ
とだ。名目金利が上がっても何も問題はない。経済成長が起こらずに、名目金利
だけ上昇するというのなら問題だが、それはよほどのことがなければ起こりえな
い。
経済成長が起こると、税収が増えて財政収支が改善され、破綻どころかむしろ
健全化に近づいていく。金利上昇で破綻というのはまったくバカげた話である。
長期金利が上がっているときには経済成長が起こっていて国の収入も増える。だ
から、破綻することはないのである。
こういうバカげた論を真に受けていると、「財政を健全化して借金を返してお
かないと大変なことになる。それにはやっぱり増税しかない」というロジックに
偏されてしまう。
第2章 検証!「増税」を正当化するデタラメな議論
高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』
相も変わらず、単年度会計主義の財務官僚や米国の格付け機関(≒英米流金融資本主
義)などから財政規律重視の悪宣伝が、陰に微に入りマスコミを通じ愚民政策の常套
手段としバラまかれているが、わたし(たち)は、政府が行う財政投資である公共事
業を、土建建設偏重事業とは考えないし、国債発行を赤字国債ではなく未来国債と考
え、日本の付加価値(品格向上)を高める事業だと考えている。
「国債暴落説」は増税のためのデタラメにすぎない
2012年の2月2日付の『朝日新聞』に、三菱東京UFJ銀行が日本国債の急落を想
定したシミュレーションを内々に行なったという記事が載った。それによると、
2016 年にも10年物の長期国債の利回りが約1%(当時)から3.5%になり、国債
の急落が始まるという内容であった。
そもそも、この程度のことで「急落」だの「暴落」だのといった表現を使うほ
うがどうかしている。
このくらいのシナリオならリスク分析としてどの金融機関もやっていることだ。
金融庁もそうしたシナリオによるリスク分析を以前から求めている。『朝日新聞』
を読むかぎりでは、まるで、こうしたシミュレーションを他の金融機関では行な
っておらず、三菱東京UFJ銀行でも、あたかも初めてシミュレーションしたか
のようである。いかがなものかと思わざるをえない記事だ。
内容を見ても、はっきりいって暴落でも何でもないシナリオだった。三菱東京
UFJ銀行は 200兆円の資産のうち二割程度を国債で保有しており、その平均的
な償還年限は3年程度であることは公開資料からわかる。1%から 3.5%への金
利上昇であれば、国債の価格低下は8%程度である。全体の資産から見れば、2
割×8%程度であり、せいぜい2%ほどだ。
大した問題ではないのに、『朝日新聞』が大げさに書いたのは、財務省が財政
危機を煽るためにりIクしたのではないかといわれていた。財政当局が、新聞を
使って、危機でもないことを危機であるかのように報道させている可能性がある
から気をつけたほうがいい。新聞の見出しを鵜呑みにしないことだ。
マスコミがいろいろなシナリオを想定することは勝手だ。だが、極端なシナリ
オを想定して、それを一般の人が読むことに、何かメリットがあるのだろうか。
たとえば「1ドル=50円になる」とか「百年デフレが続く」とか 「300%のハイ
パーインフレになる」とか、極端なシナリオをいう人もいるが、そんな話を聞い
て何の役に立つのだろうか。
さすがに「1ドル=50円」を信じる人はまずいないが、「300% のハイパーイ
ンフレ」は信じる人がいる。現時点で3%にも達していないのに 2桁も違う300
%のほうを信じてしまう。いったんインフレが始まると急激に進んで止められな
くなるなどというが、どこにその根拠があるのかまったくわからない。
第2章 検証!「増税」を正当化するデタラメな議論
高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』
なお、わたし(たち)は1990年初頭金融機関による過剰貸し付け運動(いわゆるバブ
ル)がはじけた1995年ごろ当面、円は110円±15円と考えていたから、現在進行
中の円安も想定内にあることを付け加えておこう。
「増税しないと国際的信認が失われる」は、まるで幽霊話
消費税増税派は、よく「国際社会に増税を約束したのだから、増税をやめれば国
際的信認が失われる」ともっともらしく主張する。だが、そういう人たちは、何
をもって国際的信認といっているのだろう。国際社会の実情を知っているとは思
えない。
よその国の人は他国の消費税になどまったく興味がない。そもそも税体系も知
らないし、税率がどうのとか、そんなことには何の関心も持っていない。国際会
議で消費税の税率のことを話しても、「そんなこと、オレたちには関係ないよ。
自分の国でやってくれよ」という反応になる。
逆の立場で考えてみれば容易にわかるはずだ。あなたは、よその国の税率に関
心があるだろうか。そもそも、よその国の税率を知っているだろうか。よその国
の税率がどう変わろうと、増税をやめようと、どうでもいいはずだ。
国際的信認うんぬんという話は、「外国の人はこういっている」といわれると
弱い日本人の心理につけ込んだ財務省のロジックである。増税したい財務省が、
「これは、国際的に約束したことだ。これを守らなければ国際的信認が失われる」
と言い張っているにすぎない。
IMF(国際通貨基金)には財務省の人間が出向している。日本のマスコミの
記者は英語があまりできないから、IMFの外国人に取材せず、財務省の人間に
日本語で取材をする。それを新聞に載せているだけだ。出向している財務省の人間で
あっても、一応IMFの職員だから、「IMFの意向はこうだ」という記事に
なる。日本の財務省から出向した人間に関いているのだから、財務省の都合のい
いことしか話さないに決まっている。その出向者が「増税は約束だ」と話せば、
「IMFは、増税は約束だといっている」という記事を書いても間違いとはいえ
ないわけである。こうして情報操作されている。
私はそのカラクリを知っているので、新聞に「IMFの意向」というような記
事が載ったときには、IMFの公表している英語の文章を確認する。そうすると、
「全然、違うじゃないか」ということがたくさんある。
もっとも、財務省はIMFの副専務理事を出しているので影響力はそれなりに
ある。財務省の人間が英語でIMFの文章を書いていることもあるから、見破る
のは簡単ではない。昔は日本の出資額は二位で、今は中国に抜かれて三位だが、
出資額が多いことも影響力の強さにつながっている。そして出資している窓口は
財務省である。
国際機関の中にOECD(経済協力開発機構)というのがあるが、こちらはあ
まり出資は関係ない機関だ。だから、財務省も人を送り込むことができず、代々、
外務省が人を送り込んでいる。最近は事務局長含みで財務省から財務官を送り込
んでいるが、財務省があまり影響力を行使できなかったので、OECDのほうで
はわりと自由に財務省の意向と違うことをいっている出向者もいた。
国際機関といっても、特徴が違うし、意見もバラバラだ。税金に関して国際的
信認などというものは、まるで関係がないとしかいいようがない。国際会議の場
で、単に英語で「スピーチ」したというだけである。誰も「約束」などと思って
いない。 海外の投資家は、増税には関心がない。彼らの関心は、日本の経済状
態が良いかどうか、景気が良いかどうかだけである。日本の景気が良くなりそう
だと思えば、日本へ投資をする。アベノミクスが始まったころも、海外投資家は
「日本経済が良くなる」という期待感で日本に投資したのである。増税しないと
彼らが日本から逃げていくなどという話は、まったくありえない。逆に、増税し
て景気が落ち込むと思えば、さっさと投資を引き揚げるだろう。
小泉政権時代は増税していないから、国際的信認がなかったのかというと、そ
ういうこともない。小泉政権では、民営化の話が出ていたから、海外の投資家が
ビジネスチャンスと見て日本に投資をした。その国の経済状況を見ながら、儲け
るチャンスがあるかどうかを判断するのが投資家であって、増税するかどうかは
彼らにとってはどうでもいいことなのである。
逆にいえば、投資家は必死だから、「減税して景気を回復させて税収を増やす」
という常識的な経済政策手法も十分にわきまえている。「減税=破綻に直結」な
どという単純な話に乗る人など少ない。
では、「国際的な信認」というのは、誰に対する信認なのだろう? 聞けば聞
くほど、幽霊話のような不思議な話である。ついでに、「国際公約だから、消費
税増税を」もデタラメだ。
国際公約は「international commitment」というので 「international commitment」と
「tax」という言葉でグーグルを使って検索すると膨大な数がヒットするが、その
中身は、税の回避行動について各国で協力して対処しようという内容が多い。そ
のために、情報交換などで、各国で協力する責任・義務を求めているのだ。
ここで、「tax」の代わりに「consumption tax(消費税)」として再び検索する
とヒット数はガクンと減少する。しかも、その内容のほとんどは日本の新聞記事
の英訳だ。そこには、日本の消費税増税が国際公約になっていると書かれている。
つまり世界では、日本の消費税増税が国際公約になっているという意識は、まず
ないのだ。
第2章 検証!「増税」を正当化するデタラメな議論
高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』
消費税を「社会保障」目的税とする国は世界にはない
消費税増税についての根本的な問題を指摘しておきたい。「なぜ消費税を増税す
るのか」という点である。多くの国民は「このままだと年金が払えなくなる。年
金を払うために消費税を使う」といわれて、消費税が社会保障に必要だと思わさ
れている。これこそが最大のまやかしである。
増税の理由として、「財政破綻を防ぐため」といわれても一般国民にとっては
ピンとこない。しかし、「年金のため」といわれれば、「増税は必要だ」と思っ
てしまう。これは増税派の巧妙な手である。
多くの国民は、消費税は社会保障のために使われると信じており、それが最も
良い方法だと思わされている。しかし実は、世界の先進国で社会保障の目的税と
して消費税を充てようという国は、日本を除いて一つもないのだ。「北欧諸国の
社会保障を支えているのは消費税」というのも、厳密にいえば誤解である。
社会保障は、給付と負担の関係が明確な保険料方式でやるのが筋である。とは
いっても、保険料を支払えない人もいるから、その人たちに対しては何らかの手
を打だなければならない。高額所得者から累進課税で所得税を多く取って、低所
得者の保険料に充てる。これで社会保障の話は終わりである。消費税など出てくる余
地は一切ない。社会保障論と税理論からいえば、財務省が主張するような消費税
を社会保障目的税にするのはおかしなことである。なぜ、こんなおかしなことが
日本で起こったのかというと、1999年の自自公連立時に、大蔵省が小沢一郎自由
党党首(当時)に「消費税を上げるために社会保障に使うと書いてください」と
入れ知恵したからだ。政治上の取引として与党に了解されたものである。大蔵省
と与党の「政治的な取引」であったので法律に書き込むことはなく、予算総則に
書かれることになった。
2000年の税制改正に関する答申(政府税制調査会)の中には「諸外国において
も消費税等を目的税としている例は見当たらない」との記述がある。私自身が関
係していたからよく覚えている。何年かはその記述は続いた。
ところが、いつのまにかその記述は一切書き込まれなくなった。
消費税を社会保障に使うという理屈は、消費税を上げたい人たちの国民向けの
ごまかしである。「社会保障目的税」といわれたら、国民は反対しにくくなる。
その後、民主党がマニフェストに「最低保障年金は税方式」と書き込み、この
時点から本格的におかしくなった。現行制度の社会保険料方式でも税が投入され
ているので、税方式はその割合を高めることだという民主党議員もいたが、まっ
たくの認識の間違いである。世界の先進国で、社会保険料方式から税方式に移行
した国もない。移行にコストと時間がかかり、メリットは少ないためだ。税財源
の役人は、給付と負担の関係を不明確にして、社会保障への信頼を失いかねない。
しかし、その民主党が政権を取って、社会保障目的のための税であるかのよう
に見せかけて、増税を決めたのだ。法律の名前は「社会保障の安定財源の確保等
を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」で
ある。
第2章 検証!「増税」を正当化するデタラメな議論
高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』
なお、わたし(たち)の”未来国債構想”の「安全保障国債」の社会保障関連の投資
事業には、いわゆる"国土強靱化事業"のような防災事業や高齢者の "ターミナルケア
事業" あるいは、食糧・エネルギー・防衛などの安全保障事業もその対象にイメージ
しているが、具体的にどのようなものでパッケジー化し、評価是正しているかは、今
後の議論待ちである。
さてこのように、高橋洋一は小泉政権のブレーンでもあった構造改革派(≒ネオ・リ
ベラリズム)と "アベノミクス擁護派"をミックスした立ち位置のようにみえるが、
これに対し、ブログ紹介してきた三橋貴明(ハンドルネーム)は、それよりラジカル
な批判を行っているが、バックボーンにはいわゆる"ケインズ主義"があるのではと推
測している、それでは、国民国家主義とケインズ経済主義からの立ち位置から発言し
ている専門家の書物を探してみたのがここで初めて掲載する菊池英博の『そして、日
本の富は略奪される』である。
まずは、「まえがき」から刺激的である。そてによると――2012年12月、民主党から
自民党政権に代わり、再び日本では、小泉構造改革で強行された新自由主義・市場原
理主義的な政策がとられつつある。実は、この「新自由主義」というのは「悪魔のご
とき思想」であり、このイデオロギーを具体的に実行していく経済的手法が「市場原
理主義」である――「悪魔のごとし思想」と言うのだ。新自由主義批判はすでにこの
ブログでも掲載してきたことだが、日米間の歴史的経緯など、これまで深く触れなか
ったからなおのことであった。
なぜ「悪魔のごとき思想」かというと、「自由」という名の下で、国民の富を吸
い上げ、社会や生活基盤を破壊していくものだからだ。新自由主義的な政策が進
んだアメリカでは、「1%の人(悪魔)だけが富み、99%は貧困になる」という
格差社会が生じている。それに加え、そこには日本の富を密かに狙う、アメリカ
の対日戦略も隠されている。アメリカは1994年から日本に「年次改革要望書」を
送り、日本の社会経済体制をアメリカ型に変更するように要求してきた。この新
自由主義・市場原理主義(グロしバリズム)の理念をベースとして、日本の社会
経済を破壊・停滞させ、成長を抑制させる。その結果、発生する余剰資金を海外
へ流失させ、アメリカの国債や金融市場・商品市場に資金を供給させるわけであ
る。
さらにアメリカは、わずか4カ国で始まっていた地域内自由貿易協定を衣替え
し、日本を標とした大がかりな国際条約に組み替えてきた。それがTPPである。
その内容には、日本に「関税の撤廃」「資本取引の完全自由化」「規制の緩和・
撤廃」を要求するだけでなく、アメリカの進出企業が絶対に有利になるよう仕組
まれた「ISD条項」、一度決めたらアメリカに不利になる改訂はできない「ラ
チェット条項」など、多くの不平等条項が盛り込まれている。
すでに2013年初頭に、「日本政府がファンドを創設して米国債50兆円を購入す
ることを検討している」というニュース(2013年1月14日付けブルームバーグ)
が流れており、「1%の悪魔」に牽引されるアメリカが、政府ベースで目本の富
を収奪する計画が表面化している。
こうしたアメリカの要求を受け、それを実行していくのが、日木の中央政府の
官僚と与党の政治家、野党でもアメリカの対日改革要求に賛成する政治家、新自
由主義によって利益を得る大企業である。それに、大マスコミ(全国紙、NHK、
民放)はほとんどが新自由主義・市場原理主義を礼賛する。さらに政府の審議会
や諮問委員会に招かれる学者や識者には、多くの新自由主義者が加わり、国民を
洗脳しようとしている。
菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』
本書では、すでにイギリスとアメリカの実験で答えが出ている新自由主義政策の
実態を指摘し、1%の悪魔しか豊かになれない社会の危険性を指摘したい。さら
にデフレ解消と経済成長を取り戻そうと、自民党の経済政策が始まっているとは
いえ新自由主義的な政策では、日本は一段と弱体化し、国家破滅の危機に瀕する
ことを解き明かす。
こうした「悪魔の侵略」に対抗して、どのようにすれば日本を防衛できるのか。
それには、日本が新自由主義・市場原理主義と決別して、目本の伝統を重んじる
「日本型資本主義の理念」を確立することであり、同時に対外純債権を296兆円
(2012年末現在、すべて国民の個人預貯金が原資)も保有する世界一の金持ち国
家として、その資金を日本国民のために使い、15年も継続する恐慌型デフレから
脱却するための長期戦略を樹立し、経済成長を取り戻すことである。これが最大
の財政基盤強化と財政再建の道であり、国家再興の出発点である。ここでは、そ
の長期的な道筋を具体的に示していく。
菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』
次の、「序章 1%の悪魔が日本を襲う」では、「再び悪魔に犯される日本」として
――2001年4月の自民党の総裁選挙で、小泉純一郎氏は「自民党をぶっ潰す」「構造
改革なくして成長なし」と絶叫して当選し、首相に就任した。当初の支持率は歴代の
内閣で最高の80%に達し、多くの日本国民が、小泉氏が日本を変革し、経済が好転す
ることで、自分たちの生活が豊かになるものと期待した。ところが、「規制緩和」「
不良債権処理」「公共投資不要論」「財政は緊縮・金融は緩和」という新しい政策は
デフレ政策であり、デフレは解消するどころか一段と進み、日本経済は低迷した(上
図の2つのグラフ参照)。円安ゼロ金利政策で輸出は伸びても国民の所得は減る一方
で、所得格差は拡大し、日本の経済力が減退していった――ところが、米国のバブル
もあり対米輸出の好景気もあり 小泉構造改革の時点では、政府もマスコミも公表し
なかったので、多くの国民は気づくこともなかった。構造改革」という政策は、1994
年から米国が日本に送付してくる「年次改革要望書」に沿い、日本を米国型の社会に
改造し、デフレ政策をとらせ、日本の富を米国に吸い取らせるものであったと主張し、
米国の対日要望書の基本理念は、新自由主義・市場原理主義であり、この政策理念に
基づく政策をとっていけば、日本国民の富をアメリカの一部の富裕層と大企業に集中
させることができるように仕組まれたと主張する。まさに構造改革は、新自由主義・
市場原理主義という恐ろしい悪魔の襲来だった。そもそも、このイデオロギー(思想)
と策略を組み立てたのは、ミルトン・フリードマンという経済学者であった(第1章
参照)という。これはすでに「新自由主義論Ⅰ-新たな飛躍に向けて-新自由主義か
らデジタル・ケイジアンへの道」(『インフレーションを説明する』)で学習してき
たことである。
そして、次節「悪魔を追い払おうと二度も政権交代が起こった」ではつぎのように主
張している。
2009年8月30日、戦後の日本では衆議院選挙という国民の意志によって、事実上
初めての政権交代が実現した。自公政権から民主党・社会民主党・国民新党の三
党連立政権の成立である。このときのスローガンは「国民の生活が第一である。
構造改革という改革は国民の生活を豊かにするものではなく、国民の富をどこか
に吸いLげるものであることに国民が気づいたのだ。さらに、郵政民営化によっ
て、国の財産が二束三文で叩き売られ、新たに利権を得た人物が多額の富を吸い
上げている実情にも、国民は疑惑を持った。
このときの選挙で国民に約束した三党の共通政策を見ると、「過度の競争を煽る
市場原理主義を排し、国民全体の共同意識を鼓舞する。過度の円安による輸出増
加よりも、内需拡大によって経済成長を促進する。国民一人ひとりの生活を豊か
にするために、デフレからの脱皮を優先する。郵政民営化は見直す。社会福祉に
重点を置く」などを謳い、「国民の生活が第一」のスローガンでまとめたのであ
る。この政策はまさに「反新自由主義・反市場原理主義」であり、「共存共栄資
本主義」を取り戻そうという国民の意思の表れであった。こうして三党連立政権
が成立した。
当初、鳩山由紀夫内閣のときには、デフレ脱却の政治姿勢が示され、景気回復の
補正予算を組む政策をとった。しかし、普大間基地問題に関する党内の混乱によ
って、鳩山内閣は総辞職し、小沢幹事長も検察による冤罪で辞任せざるをえなく
なり、国民の期待は頓挫した。鳩山首相の退陣で、小泉構造改革・市場原理主義・
新自由主義からの脱皮を期待した国民の夢ははかなくも消え去った。
2010年6月に就任した菅直人首相は、財務省のデフレ政策継続の要請(表向きは
財政規律を維持するため)を受けて、就任後初の閣議で基礎的財政収支均衡策(
2020年に基礎的財政収支を均衡させるという典型的なデフレ政策で、税収の範囲
内でしか財政支出をしないという目標)を決め、小泉構造改革を上回るデフレ政
策を取り入れた。さらに2011年9月に就任した野田桂彦首相は、新自由主義者・
市場原理主義者の理念に従って、大企業の利益になる法人税減税を実施し、さら
にデフレが15年も継続しているというのに、消費税増税を提案し、野党の自民党・
公明党と談合して成立させてしまった。
国民の「反」新自由主義・市場原理主義の要望を担って政権の座に就いた民主党
の党首でありながら、手の平を返して国民を裏切ったのである。加えて、アメリ
カから21世紀の帝国主義と言われている「TPP(環パシフィック・パートナー
シップ)」への参加を要求されると、野田首相自身、あまり理解もせずに、参加
する方針を表明した。ここで国民は再び動いたのである
「序章 1%の悪魔が日本を襲う」
菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』
この項つづく