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反デフレパーシャルの加速度

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● 加速度を超広域・高分解能で検知可能なセンサを開発

東京工業大学とNTTアドバンステクノロジの研究グループは、0・1ミリG(
重力加速度)から20Gまでの広い範囲を高分解能で計測できる加速度センサー
を開発。5つの加速度センサーを1枚の基板にまとめ、それぞれ千分の1の分解
能を実現したことを公表。超広域・高分解な小型加速度センサの実現で、医療用
人体行動検知センサ――正確な人体行動解析に基づく医療診断やロボット開発な
どへ向けた新デバイス・システム開発につながる。

力が加わると電極間の距離が変わり、その静電容量の変化を計測する。片方の電
極がバネで宙に浮いた構造をMEMS加工技術で製作した。電極の重さやバネの
強さを変えることで検出できる加速度を調整する。0・1Gと1G、3G、10
G、20Gの加速度センサーを作り、4ミリメートル角の基板にまとめた。電極
を比重の重い金で作り、小さくても応答しやすくした。シリコン製電極に比べて
大きさを10分の1に小型化。各センサーは千分の1の分解能をもつ。0・1ミ
リGと微少な変化を計測できるセンサーの場合、呼吸のようなわずかな動きも捉
えられる。一方、車のエアバッグが作動する目安が約25Gであり、日常におけ
るほぼすべての加速度を検出できるという。 

今回の研究成果は、静電容量型MEMS 加速度センサの、加速度検出範囲が可動錘の
寸法と質量に強く依存するため、単一錘による加速度検出範囲の広域化は困難だ
った。また、従来の高分解能シリコンMEMS 加速度センサでは大きな錘が必要なた
め、異なる検出範囲を有する複数のセンサを1 チップに集積できなかったが、静
電容量型加速度センサの分解能が可動錘の質量に比例することに着目し、錘材料
をシリコン(室温時:約2.3 g/cm3)から金(室温時:約19 g/cm3)に置き換える
ことで、センサ寸法を約10分の1に小型化できたことが大きな成果である。


MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された各種セ
ンサやスイッチなどのを短時間で効率よく開発するため、ユーザのコンピュータ
上で動作する専用アプリケーションを用いてMEMS素子の機械特性や電気特性
をシミュレーションし、意図した挙動が示されることを確認し、シミュレーショ
ン結果をもとに、ユーザのコンピュータ上で動作するコンピュータ支援設計のア
プリケーションソフトを用い、MEMS素子製造用のフォトマスクを作製にパタ
ン配置しレイアウトパタンを作成し、このレイアウトパタンを用いてフォトマス
クを作製しているが、フォトマスクは、MEMS素子を作製するときのパターニ
ングにおけるリソグラフィーで用いられる。例えば、下図7は、MEMS素子設
計方法の説明図で、この設計方法では、MEMS素子の機械的特性と電気的特性
を解析する解析アプリケーション701と、フォトマスクパタンをレイアウトす
るためのCADアプリケーション702と、解析アプリケーション701のシミ
ュレーション結果をもとにシステム設計を行うシステム設計アプリケーション7
03である。

図8、9は、MEMS素子の設計方法の説明図で、図8は、MEMS素子の構成
を示し、図9は、当該MEMS素子の等価回路を示す。等価回路では、MEMS
素子の可動部801の質量M0を、電子回路のインダクタ901のインダクタンス
値、MEMS素子の可動部801を支えているばね部802のばね定数K0は、電
子回路の容量902の容量値C0の逆数、MEMS素子が受ける機械的な減衰係数
B0は、電子回路の抵抗903の抵抗値R0に置き換えているが、MEMS素子の
うち静電アクチュエータに特有の現象であるプルイン,リリースダンピングなど
を解析が困難である。 

そこで、電子回路データ生成部101および等価回路データ生成部102は、ユ
ーザが入力したデータに従い作製された電子回路設計データおよび等価回路設計
データを同じ形式のデータである例えば「ネットリスト」で生成する。すなわち、
電子回路データ生成部101および等価回路データ生成部102は、回路解析部
103で用いることができる同一のデータ形式で、電子回路設計データと等価回
路設計データを生成(下図1参照)。生成された同じ形式とされた回路設データ
を、回路解析部103が解析することで、従来に比較して手間をかけることなく、
より簡単に、迅速にMEMS素子を含む半導体装置の設計が行えるもので、研究
開発を円滑に迅速に行えるこのような、設計支援装置(アプリ)の開発が開発に
は重要な要件となっている。


 

 

● 反デフレパーシャル共闘論

先回は、「偽装財政危機」という視点から読み込んでみたが、今回は『アベノミ
クスの逆襲』の「第3章 アベノミクスへの通信簿」から入り高橋流「身体検査」
法」を学び、結論から先に言うと、「反デフレ政策」では部分的に「反デフレパ
ーシャル共闘」できそうだ。

                       アベノミクスのメニューに「増税」は入っていない


 消費税増税が決まったのは2011年である。2012年8月に消費税法の改正法が
 成立している。このときの政権は民主党の野田佳彦政権である。その少し前
 の6月に民主党、自民党、公明党の間で消費税を増税する三党合意ができた
 が当時の自民党総裁は谷垣禎一氏で、幹事長は石原伸晃氏だった。
  安倍晋三氏は消費税増税には直接的に関わっていない。もちろん、自民党
 が賛成した法律であり、安倍氏も当時は衆議院議員として議決に加わってい
 るから責任逃れをするつもりはないだろう。しかし、当時の安倍氏は不遇の
 時代でもあり、増税法にはあまり関わっていないのは事実である。

  このときに成立した法律の中に増税の施行日も記載されている。「平成二
 十六年四月一日」と「平成二十七年十月一日」の期日が書き込まれているか
 ら、凍結法を通さないかぎり、回避することはできない。何もしなければ、
 法律どおりに施行される。これは安倍氏が首相に就任して以来推進してきた
 アベノミクスとは、関係のないものだ。(中略)安倍音三氏は、2012年9月
 の自民党総裁選に出馬し当選した。この自民党総裁選のときにデフレ対策と
 しての金融政策を主張したのは安倍氏だけだった。(中略)だが経済政策で
 は、安倍氏は金融緩和と財政出動を強く主張していたのに対して、石破氏は
 どちらかといえば金融緊縮と財政緊縮寄りの政策であった。総裁候補の中で、
 思い切った金融緩和と財政出動を主張していたのは安倍氏だけだった。ここ
 からアベノミクスはスタートしているのである。 


                    第3章 アベノミクスへの通信簿  
                   高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』



          増税前はアベノミクスの成功で経済が大幅に好転した

 2014年4月以降の景気悪化を受けて、評論家の中にはアベノミクスが失敗し
 て景気が悪くなったかのようにいう人がいるが、物忘れも甚だしい。まった
 くの間違いだ。アベノミクスによって経済が良くなり、消費税増税で経済が
 悪くなったのである。
  アベノミクスを図で説明しよう。図7は、総需要と総供給の曲線のグラフ
 だ。横軸はGDP、縦軸は価格である。この曲線に影響を及ぼすものとして
 三つの要素がある。①金融政策、②財政政策、③外的ショックである。金融
 政策は、金融緩和あるいは引き締めであり、財政政策は公共投資で財政を緩
 和したり、増税で財政を引き締めたりすることだ。外的ショックというのは、
 リーマン・ショックや大震災などを指す。

 2013年は、金融緩和によって「金融」はプラス要因、財政出動によって「財
 政」はプラス要因として働いた。「外的ショック」は特になかった。これに
 よって、総需要の曲線は右上に押し上げられた。総供給と交差する点が、そ
 の年のGDPと物価を表す。つまり、2012年はGDPが伸び、物価が上がっ
 た。
 2014年はどうかというと、金融緩和を続けているので「金融」はプラス要因
 として働く。ところが、消費税を増税したために「財政」はマイナス要因と
 なった。「外的ショック」は2014年も特になかった。

 総需要の曲線は2012年には右上に上がっていたのが少し左下に戻りつつある。
 総供給との接点が左下に下がる。つまり、物価は下落し、GDPは減少する
 ということだ。2014年は期が終わっていないが、何か手を打たないと、総需
 要曲線がどんどん左下に降りてきて、物価もGDPも大きく下がる可能性が
 ある。2013年と2014年の政策を比較してもらえばわかるが、違いは財政政策
 だけである。すなわち、消費税増税だ。

 
                異次元緩和では資金は供給されない」という議論の誤謬 

 一橋大学大学院経済学研究科教授の斉藤誠氏が、以前に「名目ゼロ金利にな
 ると金融政策が効かなくなる」と金融緩和を批判していた。この根拠となっ
 ているブラックホール論というのは数式のモデルだから、私にとって理解は
 容易である。
 斉藤氏のブラックホール論を間いて、文系の人たちは「そうだ。ゼロ金利な
 んだから、これ以上金利を下げられない。金融緩和しても効かない」という
 ことで斉藤氏の意見を鵜呑みにしたようだ。

 私は、斉藤氏が記事を載せていた経済雑誌の編集者に知り合いがいたので、
 「斉藤氏の計算が間違っている」と伝えたところ興味を持ってくれて、私が
 計算し直した記事を載せてくれた。私はまったく同じモデルを使い、数式で
 解いて「計算が間違っている」と指摘したにすぎない。斉藤氏が書いていた
 ように、ブラックホールになるときもあるが、数式を計算してみると、金融
 政策をきちんとした場合にはブラックホールにならないという答えが出る。
 数式上、そうなっているのだ。私の論考に対し、斉藤氏は何も反論していな
 い。また『週刊東洋経済』2014年8月2日号で、斉藤誠氏は「異次元緩和で資
 金は供給されない」というタイトルのコラムを書いた。

 斎藤氏はこのコラムで「民間銀行は13年度に日銀当座預金に69.2兆円を預け
 たが、その資金源は民間銀行が日銀に国債を売却した43.7兆円と、家計や企
 業から集めた預金のハ割に相当する25.5兆円」と指摘し、「異次元緩和は経
 済を好循環させるために資金を供給するどころか、日銀が国債市場と民間銀
 行の預金を囲い込んで民間から資金を吸い上げてしまっているのである」と
 した。これに対して私が『夕刊フジ』 (2014年8月7日付)で反論した。

 金融緩和を批判する人は、突きつめてみれば「信用乗数が下がるから金融緩
 和はけしからん」という趣旨の話をすることが多い。信用乗数とは、金融緩
 和をしたときにどのくらい効率的に市場でお金が使われるかという乗数だ。
 数式としては、

  信用乗数=マネーストック+マネタリーベース

 である。マネタリーベースというのは現金だと思ってもらえばいい。それに
 対して、マネーストックというのは預金に当たる。預金はその裏側には貸出
 しがある。銀行のバランスシートを見れば、右側に預金があって左側に貸出
 しがある。わかりやすくいえば、日銀が現金を増やしたときに、銀行の貸出
 しが増えるかどうかである。
 
 金融緩和というのはマネタリーベースを増やすことだ。金融緩和で現金を増
 やしたときに、その分だけ貸出しが増えれば、信用乗数は一定となる。現金
 を増やしても、貸出しが増えなければ、信用乗数は下がる。
  斉藤氏は、前段で、金融緩和をすると信用乗数が下がると述べているのだ
 が、それは当たり前のことである。マネタリーベースを増やしても貸出しは
 すぐには増えない。しかし、金融緩和をすると実質金利が下がるので、景気
 は良くなる。景気が良くなってGDP成長率が増えて失業率が下がる。信用
 乗数は下がるけれども、景気が良くなって失業率が下がるのだから何の問題
 もない。信用乗数のために金融政策をしているわけではないのだ。

 金融緩和で現金を増やしても、銀行の貸出しはすぐには増えず、信用乗数が
 下がることは、理論的に考えてもらえば、すぐにわかるはずだ。景気が良く
 なってきた際に、企業は最初は在庫で対応する。倉庫に在庫がまだたくさん
 残っているのに、「よし、設備を増やして増産しよう」と考える経営者はい
 ない。まずは在庫を売って対応しようと考える。在庫で対応しきれなくなっ
 たときには、設備をフル稼働させて増産する。それでも追いつかないときに
 は設備投資を考える。しかも、設備を増やすにしても、いきなり借入れをす
 るわけではなく、まずは手持ちのお金(内部留保)で設備投資をすることを
 考える。優良企業は内部留保をたくさん持っているので、外部資金を借りな
 いで内部留保でずっと回していく。それで足りなくなったら最後に外部資金
 を借り入れる。

 つまり、外部資金を借り入れるまでには時間が、これまでの過去データでは、
 二、三年もかかるということである。「在庫→生産増→内部留保で設備投資
 →外部資金で設備投資」の順番なので、景気が良くなっても銀行の貸出しは
 すぐには増えない。マネタリーベースを増やしても、マネーストックが増え
 るのは遅れるので、信用乗数は下がる。これは当たり前のことなのである。

 金融緩和の批判者は、だいたい2タイプに分けられる。1つめのタイプは、
 「信用乗数が一定だ」と思い込んで批判をする人。もう1つのタイプは、「
 信用乗数が下がるから金融緩和は効果がない」という人だ。私の書いた『夕
 刊フジ』の記事に対するものではないが、斉藤氏は2014年8月8日付、8月10
 日付でホームページ上にコメントを発表しており、8月10日付のほうで(略)
 式の背景について注意深く言及しないままに、標準的な教科書の説明に安易
 に乗りかかった面があったことは確かです。深く反省しています」というコ
 メントを発表されたので、それ以上の議論とはならなかった。


                    第3章 アベノミクスへの通信簿  
                   高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』

 
 ※ 黒木玄のウェブサイト「ブラックホールとハイパーインフレ



       金融政策の最終目標は「失業率改善」だと言い切ってもいい

 私は金融緩和について「信用乗数が下がる」と批判する人には、「でも、失
 業者が減るから、それでいいでしょ」と答えている。それ以上に答えようが
 ない。信用乗数が下がるのは事実だが、そもそも信用乗数など、マイナスに
 なったら政策の方向性を間違うので大変になるが、プラスであれば小さくな
 っても、どうでもいい数字だ。 

 金融政策の目標を明確に認識していないから、どうでもいいことに目を奪わ
 れてしまう。金融政策の最終目標は、「失業率」だ。失業者が減ることが金
 融政策の目標であると言い切ってもいい。「金融政策の目標はGDPと失業
 率の改善」といってもいいのだが、GDPと失業率は連動しており、GDP
 が増えれば、失業率は下がる。どちらを追い求めても答えは同じになるので、
 一つに絞って、失業率の低下が金融政策の最終目標ということにする。
 失業率が下がっていれば、GDPは増えている。

 世の中の人は、何でも難しく考えすぎる傾向がある。私は、もともと理学部
 数学科出身だから、いつも数式を頭に入れていて、できるだけ数学的にシン
 プルに考えるようにしている。そうすると物事がスッキリと見えてくる。G
 DPと失業率という二つの数字があって、両方が連動しているのだから、両
 方を追い求めなくても、どちらか一つでいいと考えるわけである。だから、
 「金融政策の目標は失業率」とシンプルに言い切っている。
 もちろん、金融政策から失業率の改善に辿り着くまでの間にいろいろなプロ
 セスがある。それらが全部連動して、最後の段階で失業率が変化する。その
 プロセスは数式で記述した経済理論で全部説明できる。この失業率の低下に
 水を差すのが、消費税増税である。

                    第3章 アベノミクスへの通信簿  
                   高橋洋一著 『アベノミクスの逆襲』



つぎに、菊池英博の『そして、日本の富は略奪される―アメリカが仕掛けた新自
由主義の正体』に移ろう。少し読み進めると、ちょっと古めいた国民国家主義的
な論調に気付くが、「新自由主義論Ⅰ-新たな飛躍に向けて-新自由主義からデ
ジタル・ケイジアンへの道」(『デジタルケインズと共生・贈与』)で考察した
デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義――その歴史的展開と現在』(作品社、20
07年)の訳者の渡辺治のような開放的な国民福祉主義とは異なるものを感じてい
る。

                       国民の期待にどう答えるのか

 ところが、日本は対外的に世界殼大の純債権国であり、官民介計で 296兆円
 の対外純債権がある。国民一人あたりで見れば、233万円に達する( 2012年
 末現在、財務省発表)。このように世界一の金持ち国家であるのに、国民の
 世帯所得で見ると、アメリカに次ぐ貧困国なのだ。
  国民の所得の総合計である名目GDP(名目国内総生産)で見ると、過去
 15年間で日本の凋落ぶりは目を覆うばかりである(図表 0-2「名目GDPの
  国際比較」参照)。この図表でわかるように、日本のデフレが始まる直の
  1997年を基準(100)として、 その後の成長を見ると、2012年にアメリカは
  190、イギリスは 184、ユーロ圈は162と、どの国も成長(増加)しているの
 に、日本だけがマイナス成長である。基準の 1997年の日本の名目GDPは
 513兆円であるから、もし日本がこの間、アメリカ・イギリス並みに成長していれ
  ば、GDPは950兆円前後、ユーロ並の成長であれば830兆円前後になってい
 るはずだ。そうすれば国税ペースで 90~100兆円上がっており、消費税増税
 なしで、社会保障費は十分に賄えたのだ。



 名目GDPの成長がマイナスになったため、当然、日本国民の賃金は低迷し
  ており、1997年に比べて2012年には平均B%も低落している。なおこの間、
  日本はデフレで物価が下がっており、この下落分を賃金ヒ昇とみなせば、実
  質賃金はその分だけヒ昇することになる。しかし、デフレ分を調整した実質
  賃金でみてもマイナスであり、国民生活に与えるマイナスのインパクトは極
  めて人きく、これが税収を減らす原因になっている。

  一人あたりの国民所得を国際比較すると、日本は1994年には3位(主要国で
  は1位)であったのに、1997年から凋落し始めた。しかし、1996年の橋本財
  政改革が招いた金融危機1988年)を解決した小泉首相の積極財政政策が実っ
  て、2000年には3位に回復した。ところが2001年からの小泉構造改革による
  デフレ政策によって、日本は坂道を転げ落ちるように順位を下げ、2007年に
  は19位まで転落した。その後、円高となりドルベースでは若干順位が上昇し
 たとはいえ、2011年で14位である(図表 0-3「日本の一人あたり名目GDP
  の推移」参照)。




 2007年に放映されたNHKスペシャル「ワーキングプア」では、苦境にあえ
   ぐ若者は「この国は豊かな国だと思っていた」と嘆いていた。事実、国家全体として
 は豊かな国なのに、その富が99%の日本国民のために(とくに社会的弱者の
 ために)配分されていないのだ。日本の政府が、われわれ国民の預貯金を日
 本国民のために使う政策をとって名目GDPを増やし、財政政策でその再分
 配を図れば、間違いなく国民は豊かになれる。  

 私は過去15年間、時には孤軍奮闘して「デフレ解消を優先すべきである」「
 新自由主義・市場原理主義は悪魔の経済学であるから決別すべきである」と
 主張してきた。2012年3月2日の衆議院予算委員会では、「デフレ脱却のため
 に『5年100兆円の緊急補正予算』」を提案した(拙著『日本を滅ぼす消費
 税増税』講談社現代新書、終章参照)。だから、安倍普三首相と麻生太郎副
 総理が「15年も継続するデフレ解消を優先させたい」と宣言したとき、「よ
 く言ってくれた、あきらめずに辛抱強く主張してきた甲斐があった」と歓喜
 に絶えなかった。

 しかし、万歳するには早すぎる。安倍首相と自民党政権が、新自由主義・市
 場原理主義という悪魔と決別して、日本型資本主義を確立させないと、日本
 経済は成長路線に戻れない。私はこの方向をしっかりと注視し、愛国的で善
 良な同志と協力して真摯な活動を継続していきたい。

                    序章 1%の悪魔が日本を襲う」
                        菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』

 
           「国家からの自由」を求めるユダヤ出身学者の思想

 新自由主義・市場原理主義という思想(イデオロギ士の創始者はミルトン・
 フリー・ドマン(1912~2006)という経済学者である。その思想的源流をア
 ダム・スミス(1723~1790、『国富論』の著者)やフリードリッヒ・ハイエ
 ク(1899~1992)という経済学者に求める意見もある。しかし、若干の類似
 点があるとしても、その中身は先人たちの思想とは似て非なるものだ。新自
 由主義は単に経済学、経済思想にとどまらず、その思想と理論(理屈)をベ
 ースとして、富を一部の富裕層に集中しようとする政治経済行動の理論的骨
 格で、その目的のためには政治権力と結託して行動を起こし、手段を選ばず
 目的を貫徹しようとする執念を持っている。新自由主義思想は、政権を狙う
 政治家が一国の富を富裕層に集中する経済政策をとるときに利用する経済理
 論であり、さらに時の権力に迎合するレントシーカーや学者に利用されてい
 る。新自由主義の経済政策上の手法が市場原理主義である。

 新自由主義思想と市場原理主義をわかりやすく説明した好著として、『悪夢
 のサイクル』(内橋克人著、文瓶春秋)と『経済学は誰のためにあるのか』
 (内橋克人編、岩波書店)がある。これらの文献を参考にしながら、ミルト
 ン・フリードマンの考えを浮き彫りにしてみよう。

 ミルトン・フリードマンは1912年にニューヨークで生まれた。両親はハンガ
 リー出身のユダヤ人で、ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害を恐れてニューヨ
 ークに渡り、厳しい下積みの仕事をして生計を立ててきた。フリードマンも
 苦学して奨学金を受け、ラトガーズ大学(アメリカのニュージャーシー州)
 を卒業し、シカゴ大学で修士号、コロンビア大学で博士号を取得した。その
 後、コロンビア大学や連邦政府で働いたあとに、シカゴ大学教授となった。
 彼が修士号を取得した頃のシカゴ大学には、フランク・ナイト、ジェイコブ・バイナー、
 フリードリッヒ・フォン・ハイエクといった自由主義思想を持つ経済学者が在籍してい
 た。とくにハイエクは、徹底した自由主義者として知られており、これら学
 者の集団はシカゴ学派と呼ばれている。こうした環境のなかで、特異な思想
 を打ち立てたのがフリードマンである。彼が1950年代に来日したときに案内
 した経済学者・伊東光晴氏は、著書『21世紀の世界と日本』(岩波浬店)の
 なかで、フリードマンが長洲一二氏(経済学者)との対談で語った言葉を紹
 介している(『悪夢のサイクル』より引用)。

 「実は私はユダヤ人である。ユダヤ人がスターリン治下のソビエトにおいて
 どういう待遇を受けたか、特に東欧の人間たちがどういう待遇を受けたか。
 またヒトラー治ドにおいてユダヤ人がどのような残酷な死を招いたかという
 ようなことはいまさら申し上げるまでもないでしょう。私が自由な市場に委
 ねるのがいちばんいいということを主張するところには、国家も制度も民族
 も一切力を持だない、一つのメカニズムが人間社会を結ぶということが最も
 幸福であるという、ヒトラー治下の、スターリン治下のユダヤ人の血の叫び
 である」フリードマンの考えは、自由な市場をつくり、そこに「人間の自由
 」を実現していくことになる。自由主義はもともと「国家からの自由」「国
 家は個人に一切干渉すべきではない」というものであり、これが彼の考えの
 基本になっている。ここで、極端な自由主義者であるフリードマンの人とな
 りと、新自由主義の特徴を表すエピソードを2つあげておこう。

                    第1章 新自由主義という悪魔の誕生」
               菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』


  ※この節のつづきは → こちら


                   福祉型資本主義で「貧困・不況・格差」は過去のもの

 第二次世界大戦に勝利したアメリカは、大恐慌の反省から自由放任資本主義
 がもたらした弊害を除去し、安定した資本主義を継続させて、経済成長と経
 済的平等を両立させることに成功した。資本主義の下で資本家の富を労働者
 とも公平に分かち合い、まさに福祉型資本主義時代に入ったのである。経済
 学者であるジョン・ケネス・ガルブレイス(1908~2006)は多くの著書のな
 かで、「自由放任の古典的資本主義がもたらした貧困・不況・格差(不牛等
 )はもはや過去のものになった」「こうなったのは、大恐慌によって破壊さ
 れた資本主義から多くのことを学び、破綻を避けるためのビルトイン・スタ
 ビライザー(安定化措置)を経済の中に取り付けたからだ」という趣旨の見
 解を述べている。

 こうして、1950~1960年代のアメリカでは、中産階級と呼ばれる社会的中間
 層が大幅に増え、ベビーブームを起こし、新規投資が雇用と所得を生んだ。
 消費の拡大が投資を増やすという好循環で経済が成長し、累進課税と政府投
 資による官民協調で、安定した社会を形成してきたのである。まさに福祉型
 資本主義であり、日本でも1970年代後半から1980年代初頭までは「一位総中
 流」という理想的な資本主義社会が形成されていたのだ。
 このような繁栄を支えてきたのが、ケインズ学派の経済学である。市場主義
 を維持しながら、政府が総需要管理を適切に行う政策をとって市場に介入し
 ていけば、景気変動を調整でき、税制を含む分配政策によって国民を平等に
 し、幸福にできる。それによって、さらに経済を発展させるという政治経済
 思想である。

                    第1章 新自由主義という悪魔の誕生」
               菊池英博箸 『そして、日本の富は略奪される』

                             この項つづく

 

 


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