【オールソーラーシステム完結論 31】
● ナノ多孔質電極工学
過日、「オールソーラーシステム完結論 29」(『太陽光励起レーザ工学』)で掲載した
ように、水素製造の水電解法には、電極のコストが大きな技術隘路――次世代エネルギー
媒体として注目される水素の発生電極には高価な白金を使用――となっているが、これを
窒素と硫黄を導入し3次元ナノ多孔質グラフェンを素材にした水素発生電極――白金代替
のニッケルと同等の水素発生能力をもつ――を、東北大学らの研究グループが製造するこ
とに成功したことが公表され、これにより、従来の2次元構造の電極に比べ、3次元構造
を持つ電極を使用することで、より水素の製造効率を高めることができ、また製造コスト
を逓減できるものと期待されている。さらに、少量のニッケルを添加し白金を越える水素
発生能力を持つニッケル添加3次元ナノ多孔質グラフェンの開発やリチウム二次電池の電
極材料の研究がを進めていくことが可能となる。
この研究は、ナノ多孔質金属(下図参照)を用いた化学気相蒸着(CVD)法を用い、3次元水素電
極の開発。ピリジンとチオフェンをグラフェンの前駆体として採用し、ナノ多孔質金属の表面に窒素
と硫黄元素を含有したグラフェンを蒸着することにより、ナノ多孔質金属の幾何学構造(上図2(a))
/左)を維持した3次元ナノ多孔質グラフェンを作製。電子顕微鏡を用いて(上図1/左)のような
チューブ構造と鋭い回折スポットを持つ高い結晶性を持った構造であることを確認(図2
(b))、化学的にドーピングされた窒素と硫黄元素がグラフェン上で均一に混じってい
ることが明らかになり(図2(c))、このようなグラフェンは窒素と硫黄を含有しなが
ら曲面構造を作り、ナノ多孔質構造を形成していることを明らかにした。また、1グラム
当たり800m2と膨大な表面積を持ち、この表面積測定をもとに、単位触媒体積あたりの
表面積は従来の電極と比べ同体積で500倍程度増大することを明らかにした。
尚、ナノ多孔質金属は物質の内部にナノサイズの細孔がランダムにつながったスポンジ構
造体(ナノサイズの細孔を持つ多孔質構造体)のこと。例えば、図4の金の場合、ひも状
の構造体が連続してつながって穴が開いている状態である。ナノ多孔質を持つ物質では、
この穴とひも状構造が数ナノメートルサイズの状態で維持されている。また、ナノ多孔質
グラフェンの場合、ひも状構造の表面に薄皮1枚残して中が中空になっている構造体を持
つ。
今回開発に成功した3次元ナノ多孔質グラフェンでは硫黄周りにある欠陥構造が寄与し、
水素発生反応を促進したと思われ、また炭素、窒素と硫黄のみで構成されたグラフェン電
極は白金と比べて、水素発生効率が若干劣るものの、白金は高価(1グラム5千円程度)
なことを考えると、エネルギー利用効率や材料コストにおいて十分に利用価値が高くなる
と考えられるという。
低コストで水電解水素を安全に貯蔵できれば、再生可能エネルギーの貯蔵が可能となる。
北米大陸で沸き立つ、由来不詳の"シェールガス"(地下化石燃料)が地球温暖化ガスを当
面まき散らすリスクを考えれば、由来明確な再生エネルギーからの水素ガス利用社会のア
ドバンテージは当然高いものとなる。これは面白い。
農地に整備された太陽光発電施設。太陽の位置に合わせてパネルの向きが変わる太陽光発
電施設が完成し、8日に完成式が行われた。一般的な固定型より発電効率が高く、パネル
の影が農作物に与える影響も小さいという。農業収入の減少を売電で補える仕組み。同市
平下神谷の農地約1万5千平方メートルに、小型パネルを縦横5枚ずつ組み合わせた太陽
光パネルを支柱に取り付けた75基を建設。出力412キロワット、年間発電量75万キ
ロ・ワット時と見込み、9月末から稼働している。ほぼ全量を東北電力に売電し、約2億
円の工費を8~9年で回収する計画。
施設がある場所の緯度や経度、日時をコンピューターに入力すると、太陽光パネルの向き
が自動的に変わる「追尾型」。発電量は固定型の1・4~1・5倍になり、農業施設では
国内最大級という。設置面積は支柱部分のみのため、農地が広く使える。風が通りやすい
よう太陽光パネルは高い位置に設置され、小型パネルの隙間からも日光が入るよう工夫さ
れている。同法人は来年3月にイチジクの苗1500本を植えて栽培を始め、2年後に加
工業者に販売する予定だ。県内は耕作放棄地が多く、コメや野菜は価格が下落傾向にあり、
売電収入は農業の存続を期待している。
● 豪 3接合波長分散集光型化合物半導体太陽電池で超40%の変換効率
豪ニューサウスウェールズ大学の研究チームは今月8日、太陽電池パネルの効率を向上さ
せる画期的な技術を開発したと発表。将来的に、再生可能エネルギーの安価な供給源となること
が期待されている。研究チームは、太陽電池パネルに当たる太陽光の40%以上を電気に変える
ことに世界で初めて成功(今夜は下図の情報しか入手できなかったので残件扱)。
● Spectrum splitting concentrator system
【オールバイオマスシステム完結論 Ⅴ】
● 静かなエネルギーブーム、木質ペレットって?!
米国南部の森の奥深く、樹木の屑が静かな、けれど論争的なエネルギーブームの火付け役
となっている。木質ペレットと呼ばれるバイオマスエネルギー。同国北東部で長いこと家
庭用暖房燃料として利用されてきた木質ペレットは、最近になって新たな市場で急速に需
要が高まっているという(2014.12.10「ナショナルジオグラフィック ニュース」)。再生可能エネ
ルギーの拡大を模索するヨーロッパが、発電に利用するために木質ペレットをかつてないほど大
量に輸入し始めた。おかげで米国のペレット産業は大きな変貌を遂げ、昨年のバイオマス輸出量
は2倍に増加する。 輸出量の半分以上はイギリスへ向かう。イギリスの電力会社ドラックスは、6
ヵ所の発電所のうち3ヵ所を、石炭に代わって木質ペレットの燃焼に使えるよう改装した。
また、米国に支社を置き、本国の発電所へ送るペレットを製造するために、ルイジアナ州
とミシシッピー州に2つの製造工場を建設、来年操業を開始する予定だという。
しかし、産業界と環境保護団体がペレットの気候変動への影響を巡って対立している。産
業界は、本来なら廃棄されるはずの木材の副産物を利用していると主張するが、環境団体
は、製造量が増加すれば森林破壊につながり、環境にもよくないと反論。石炭や石油のよ
うな化石燃料と違い、木は再生可能な燃料である。1本切れば、もう1本植えることがで
きるが、気候変動を食い止めてくれる木を大量に切り倒して大西洋の反対側へ運搬するだ
けではカーボン・バランスやカーボン・リスクは東電ながら評価されない。皮肉にも、木
質ペレット産業の成長による経済的および生態的影響は、その需要が横ばいになるか低下
するまでは明らかにはならないという。それは、新しい木を育てるのには何年もかかり、
森林研究もそれだけ時間がかかる。「まだ分かっていないことが多すぎる。はっきりとし
たことが言えるには20年はかかるだろう」と米国林野局の関係者が話す。
とはいえ、数年前までは、米国で製造されていた木質ペレットの80%が国内で消費され
ていたが、そのほとんどは、個人住宅の暖房燃料として使われ、厳しい冬が続く近年、石
油価格の高騰と安価な天然ガスの不足から、北東部では木質ペレットへの需要が記録的に
上昇している。この先10年間で世界的な需要は倍増。ペレット業界は米国南東部での事
業拡大を推し進め、南部には国内森林の40%が集中し、長い間、製材用材、パルプ、紙
の原料として木材が生産されてきた。ペレットの製造に使われるのは木の先端や細い枝、
破損した木材など低品質の副産物製材用だけであり、高品質には回らず、残りかすを拾い集める
のが精いっぱいだという。さて、ここから読み取れることは カーボンリスクとカーボンバランスシ
ートの機動的な視える化とその経済空間の確定だろうと考ええている。
※"Science clear on biomass: EPA shouldn't make same mistake as Europe" http://thehill.com/blogs/
congress-blog/energy-environment/221027-science-clear-on-biomass-epa-shouldnt-make-same
● 大豆品種こぼれ話
小腹が空くと、冷蔵庫をあけ絹豆腐1/4丁を皿に取り、ガーリックパウダーとオリーブオ
イルと醤油と食酢をかけ頂いているが、その大豆の地道な品種改良、育種が行われているこ
とを2つの研究成果報告を知り改めて驚く。その1つが豆腐や豆乳、しょうゆ、みそなど多
様な加工製品の原料に適した大豆新品種「こがねさやか」を育成した。種子中の酵素リポキ
シゲナーゼを品種改良によって欠失させたのが特徴で、豆腐や豆乳にしたときに青臭さがな
く、中粒でたんぱく質の含有率も高いため、しょうゆの原料にも向くというもの(下図、上
/左)。近畿中国四国地域の大豆は豆腐用の「サチユタカ」や「フクユタカ」が主力だが、
豆腐以外の大豆加工製品に適した品種は少なく、地場産業振興の悩みになっていた。しょう
ゆ醸造に用いる場合、サチユタカは粒が大きく原料に向かないため、中粒のタマホマレを用
いていたという。このタマホマレは、しょうゆ醸造に必要なたんぱく質の含有率が低い欠点
がある。新品種のこがねさやかはたんぱく質の含有率が高いため、うまみ成分のもとになる
窒素分が高くなり、しょうゆ原料に向く。青臭みの発生原因となるリポキシゲナーゼを含ま
ないため、豆乳を製造したときに青臭さがなく、飲みやすい味にできるという。
もう1つが、大豆を畑で収穫する時、豆が畑に落下するのを防ぐ遺伝子を発見し、この遺伝
子を導入してコンバインなどの機械収穫に対応した脱粒しにくい大豆品種の開発もつなげる
というもの(上図、上/右、下/左右)。落下を防ぐ遺伝子は「pdh1」と名付けた。大
豆は成熟すると乾燥によってさやがはじけ、収穫前や収穫作業時に脱粒するため、農家にと
っては大きな損失になる。pdh1はさやのねじれを抑えて、さやがはじけて脱粒するのを
防ぐ。国内の主要品種にはpdh1がほとんどなく、海外大豆生産国の大半の品種はpdh
1が導入していることも判明。農研機構ではpdh1とDNAマーカーを利用して、脱粒し
にくい大豆新品種開発を推進。さやが裂けやすい品種では収量の30%の豆を失うケースも
報告されており、新品種ができれば国産大豆の競争力向上につながるということだ。
それにしても、たくさんの研究報告をみて、何か、地道な努力に頭が下がる思いだ。これか
らは湯豆腐の季節だ。