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Channel: 極東極楽 ごくとうごくらく
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今日は朝から雨。

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         Still falls the Rain―
                   Dark as the world of man, black as our loss ―
                 Blind as the nineteen hundred and forty nails

            まだ雨は降っている
                  人間の世界のように暗く
                  われわれの損失のように黒く
                  十字架の上の
                  千九百四十の釘のように盲目
                 に  

                                               イーディス・スィットウェル   『一九四〇年』

  

                 

 

 

  レインコートの裾ひろがへし行くひとの未来は遙けく明かるからんか   尾崎 左永子

  五反田に立つ古書市にまぎれ入り知る人のなき朝のすがしさ       篠  弘

    ロックバンド・イエスこのごとき白頭青年は舞ふ潟上の鬼        米川 千嘉子 

   猛禽の脚のようなるコスモスの根がひび割れし地に立ち上がる      角宮 悦子

  大粒の雨垂れ一秒ほどの間を置きて何かを打てるその快さ        高久 茂 

  ジュラ紀よりスイスに立てるジュラ山に蝶とりにゆく人と酌む酒     馬場 あき子    


                             『現代短歌』(2015年9月号)  


   檜皮香つ社の元で釘さしつ戯むる子らに蝉は時雨れぬ          高山 宇宙 


 

  

 ● 折々の読書 『花火』4

お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷は、笑いの真髄について議論しながら、
後輩徳永に、「俺の伝記を書け」と命令するシーンを今回はたどる。

  僕の所属している事務所は小さな会社だった。僕が子供の頃からテレビに出ている有名な
 俳優が一人いて、あとは舞台を中心に活動している俳優が散人いるだけで、芸人は僕達だけ
 だった。学生時代に素人の漫才大会に出場した時、人のよさそうなおじさんに声をかけられ、
 それが今の事務所の社長だった,一組だけだと優遇されると思っていたが、そもそも仕事の
 散が少なく、もっぱら地方営業と小さな小屋でのライブがほとんどだった。

  ずっと、僕は先輩が欲しかった。様々な事務所の若手芸人が集うライブの楽屋などで、先
 輩と後輩という関係性を持つ芸人同士の楽しげな会話が羨ましかった。僕達には楽屋での
 居場所がなく、いつも廊下の隅や便所の前で目立たないように息を潜めていた。
  店員がラストオーダーを告げに来ると、「お姉さん、すまんけど、後一杯ずつだけいい?」
 と神谷さんが言った。

 「いいですよ、観光ですか?」と店員に質問された神谷さんが、背筋を伸ばして「土地の神
 です」と意味のわからないことを誇らしげに答えると、店員さんが声を出して笑った。

 「お前は本を読むか?」
 「あまり読まないです」

  神谷さんは眼を見開き、そう答えた僕のTシャツのデザインを凝視してから、僕の顔に視
 線を移し、深く頷いて「読めよ」と旨った。
  花火大会が終わったのだろう、店の戸を開けて店内を覗く人が何人もいて、その度に店員
 が今日はもう閉めるのだと断った。

 「こんな日なんて、何時までも開けといたら儲かんのにな」

  神谷さんはそう言ったが、店の奥で人の出入りがあったのでおそらく地元の住人達による
 打ち上げ会場にでもなるのだろう。
 「俺の伝記を書くには、文章を書けんとあかんから本は読んだ方がいいな」
  神谷さんは本気で僕に伝記を書かせようと思っているのかもしれない。
  僕は本を積極的に読む習慣がなかったが、無性に読みたくなった。神谷さんは早くも僕に
 対して強い影響力を持っていた。この人に褒められたい、この人には嫌われたくない、そう
 思わせる何かがあった。

  神谷さんは、コロッケを箸でつつきながら「俺は本好きなんやで」と嬉しそうに言った。
  小学生の頃、図書の時間に他の同級生達が「動物図鑑」や「はだしのゲン」の取り合いを
 している中、神谷さんは偉人と呼ばれる人達の人生が綴られた伝記を貪り読んでいたらしい。
  「絵はな、表紙とな途中に少しだけやったんちやうかな。あとは全部活字」
  神谷さんは、活字が多い本だったことを強調したいようだった。
  「新渡稲造が何者か知ってるか?」
  「五千円札の人ですよね?」
  「そうや、あの人も色々やった人やねんで。そんなんも書いてたわ」
  「そうなんですね。伺をした人なんですか?]
  「忘れたけど、読んだ時は感心したん覚えてるわ」

  神谷さんはいかに伝記が面白いか熱弁を振るった。神谷さんの言葉によると偉人が成し遂
 げたことは文章上でも凄いとわかるのだが、その人となりは大概が阿呆であるらしく、自分
 の伝記があれば皆が驚くと幼き頃に思ったらしい。
  神谷さんは、「お前は喋りは達者ではないけど、静かに観察する眼を持ってるから伝記を
 執筆する人間に向いているはずや」と言ってくれたが、僕の夢は漫才師として食べて行くこ
 とだった,それを仲谷さんに伝えると、「当たり前のことを言うな」と一笑に付された。僕
 は、その当たり前という辺りの有意を尋ねた。

 「漫才師である以上、面白い漫才をすることが絶対的な使命であることは当然であって、あ
 らゆる日常の行動は全て、漫才のためにあんねん。だから、お前の行動の全ては既に漫才の
 一部やねん,漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿
 を晒すもんやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分は真っ当であると
 信じている阿呆によってのみ実現できるもんやねん」

  神谷さんは目に落ちかかる前髪を、時折指で払った。
 「つまりな、欲望に対してまっすぐに全力で生きなあかんねん。漫才師とはこうあるべきや
 と語る者は永遠に漫才師にはなられへん。長い時間をかけて漫才師に近づいて行く作業を
 しているだけであって、本物の漫才師にはなられへん。憧れてるだけやな。本当の漫才師と
 いうのは、極端な話、野菜を売ってても漫才師やねん」

  神谷さんは一言ずつ自分で確認するように話した。人前で初めて語る話か、語り慣れた話
 かが、話す速度と表情でわかった。

 「神谷さんの説明は漫才師を語っていることにならないんですか?」
  僕は少し前から疑問に思っていたことを口にした。この人になら間いてもいいと思ったの
 だ。
  しかし、「その発言が、もし揚げ足を取ろうとして言ったのであれば師匠として、どつき
 回したろうと思うんやけど」と言われたので、本当に知りたいのだと伝えた。神谷さんは腕
 組みをして、一度大きく頷いた。

  「漫才師とはこうあるべきやと語ることと、漫才師を語ることとは、全然違うねん。俺が
 してるのは漫才師の話やねん」
 「はいI
 「準備したものを定刻に来て発表する人間も偉いけど、自分が漫才師であることに気づかず
 に生まれてきて大人しく良質な野菜を売っている人間がいて、これがまず本物のボケやねん,
 ほんで、それに全部気づいている人間が一人で舞台に上がって、僕の相方ね自分が漫才師や
 いうこと忘れて生まれて来ましてね、阿呆やからいまだに気づかんと野菜売ってまんねん。
 なに野菜売っとんねん。っていうのが本物のツッコミやねん」

  神谷さんは言い終わると同時に焼酎を一気に呷り、グラスを空中に掲げると十、九、八、
 七、六と数え始めた。神谷さんが、一を、「イーチ」と伸ばして言っている間に、店口が焼
 酎を持ってきて、神谷さんと僕の前に一杯ずつ置いた。僕の眼の前には二杯のグラスが並ん
 だので、グラスにロをつけると、神谷さんが「慌てんと呑みや」と微笑んだ。眼の前の人間
 が土地の神ではないにしろ、妖怪の類に見えてきた,

 「でもあれやな」
 そう言ったあと、神谷さんはしばらく黙りこんだ,いつの間にか僕達の他には客がいなかっ
 た,代わりに奥の小上がりに地元の人間が集まり始めていた。
 「そんなん、ほんまにやっても誰も笑わへんから、それくらいの本当の気持ちで、子供も大
 人も神様も笑わさなあかんねん。歌舞伎とかもそうやんな」

  歌舞伎や能の起源は神に捧げられる行事であったと聞いたことがある。確かに誰にも届か
 ない小さな声で、聞く耳を持つ者すらいない時、僕達は誰に対して漫才をするのだろう。現
 代の芸能は一体誰のために披露されるものなのだろう。
 「伝記って、その人が死んでから出版するんですよね?]
 「お前、俺より長生き出来ると思うなよ」と神谷さんは鋭い眼で僕を睨んだ。
  どのようなテンションで、この言葉を発しているのだろ。「生前に前編を出版して、死後
 に中編を出版やな」と一変して今度は楽しそうに言う,

 「後編気になって、文句出ますよ」
 「そんくらいの方が、面白いやんけ」

  神谷さんは伝票を持つと席を逞った。

  帰り際に、「握力が強過ぎるゴリラ同士の握手みたいやったな」と言われた。僕は先輩と
 呑む初めての経験に緊張していたのだが、呻谷さんも同じだったのかもしれない。
 「ごちそうさまでした」と僕が言うと、神谷さんは「全然、全然」と眼を合わさず恥ずかし
 そうにして、「俺、こっちやから、またな」と言い残し、どこかに走って行った。
 「お前の言葉で、今日見たことが生きてるうちに書けよ」

 という神谷さんの言葉を思い出すと、胸の辺りに温もりが満ちて行く感覚があった。書くこ
 とが楽しみなのだろか。情熱を預ける対象が見つかったことが嬉しいのだろうか。宿に帰る
 途中でコンピニに寄り、いつもより少し高いボールペンとノートを買った。涼しい風の吹く
 海沿いの道を歩きながら、どこから書き始めるかを考えていた,見物客は宿に収まりきった
 のか、人影はまばらで波音が静かに聞こえていた。耳を澄ますと花火のような耳鳴りがして、
 次の電柱まで少しだけ走った,

                                       又吉直樹 著『火花』(文藝春秋)

 

● 今夜の三曲 

 

 

 

 


武士は喰わねど高楊枝

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      わたしはサタンがすでに稲妻のように天から落ちたるのを見ていた。

                         ルカ伝 第10章18節

   ※ I saw Satan fall like lightning from heaven.  / Luke 10:18  
                    

 

 

【高画質大柄有機ELデイスプレイ工学論】

パナソニックは10月に欧州で、フルハイビジョン(FHD)の4倍の解像度を持つ「
曲面形状」の4K有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)テレビを発売する。パネル
は韓国LG電子製で65型。素子自体が発光する自発光型の特徴を生かした自然色に近
い画像とバックライト不要の薄い筐体で、最高位モデルとして訴求する。

価格は9000ユーロ程度(約125万円)になるもよう。欧州のみの展開。販売目標
は明らかにしていないが、品田正弘テレビ事業部長は「独自画像処理技術で、プラズマ
テレビの画質を凌駕した。プラズマ撤退の影響が色濃い欧州を高画質な有機ELテレビ
でもり立てる」と力を込める。

 

近年、1920画素x1080画素の解像度のフルハイビジョン映像を超えるる高解像
度・高フレームレートの映像を再生可能なシステムが普及しはじめている。例えば、フ
ルハイビジョン映像と比べて縦横それぞれ2倍の解像度を有する4K2Kの映像再生テ
レビが販売されている。また、フルハイビジョン映像と比べて縦横それぞれ4倍の解像
度をもつスーパーハイビジョン映像の撮影再生技術開発も進み、さらにフルハイビジョ
ン映像を120fpsや240fpsの撮影カメラや表示テレビが販売されている。

このような高解像度・高フレームレート映像処理する撮像システムでは、撮像素子や撮
像モジュールから読み出されるデータの情報量や、それらから転送されるデータの情報
量が膨大となる。その結果、転送帯域の拡大が必要となり、伝送周波数の高周波化やデ
ータ転送の並列化が行われ、特に小型化が要求される撮像素子や撮像モジュールにとっ
て、ノイズ増加の画質低下や、回路サイズ増加のコスト増大という問題が生じ、データ
転送量の削減が必要となる。

一方、3次元実装やThrough-Silicon Via(TSV)などの半導体実装分野の新しい技術発展
に伴い、チップ上でより高度な画像処理する撮像素子の開発が進み、圧縮符号化のデー
タ削減を、撮像素子上の実装技術が必要となる。

画像信号の符号化信号を出力する装置と、符号化信号を復号化する装置を備えた符号化
システムで、符号化装置が、画像信号取得部と、取得された画像信号のうち、複数録画
素の画像信号を非圧縮で符号化し、複数の赤画素信号と青画素信号を圧縮し符号化し、
それぞれを出力するR/B符号化部と、符号化信号の出力部を備え、復号化装置は、符
号化信号受信部と、復号化信号を生成するR/B復号部と、画像信号とR/B復号部で
生成された各復号化信号の誤差推定部と、推定誤差情報と色相関を利用し、画像復元す
る画像復元部と、復元された画像の出力する復号化信号出力部とで構成した符号化シス
テムで、人間の視覚感度特性を利用し、緑(Green)画素のみを圧縮、または低圧縮率で
符号化し、赤(Red)/青(Blue)画素は高効率に圧縮符号化し、さらに色情報の利用画
像復元処理を行うことで、簡単な処理で高効率の圧縮処理を実現する(チョッとこれは
持って回った表現だ)。

【参考:特開2015-018138 画像表示装置 】  

 

【要約】

上図の画像表示装置は、複数の画素16がマトリックス状に配置され、画素16に印加
する映像信号を出力するソースドライバ回路14と、ソースドライバ回路14が出力す
る映像信号を伝達するソース信号線18と、ゲートドライバ回路12aと、カソード電
圧とアノード電圧のうち少なくとも一方を発生する電圧発生回路とを具備し、ソースド
ライバ回路14は、ゲートドライバ回路12aの動作クロックを基準として、映像信号
の出力タイミングを制御する遅延回路204を有し、遅延回路204は、電圧発生回路
が出力する電流の大きさ、電圧発生回路が表示画面に印加する電圧の大きさ及び電圧の
変化率のうち少なくとも1つに基づき、出力タイミングを変更することで、一水平走査
期間が短くとも十分に目的の映像信号を画素行に書き込むことでき、また、電源変動の
影響を受けず高画質な映像表示を実現できる画像表示装置を提供する。

● 画質至上思考余談

フルハイビジョンで大型テレビが普及したいま、小さな事務室兼書斎で食事を取ること
がほとんだが、食事にふさわしくないニュース映像を目にしてしまうと、チャンネルを
切り替えたりスイッチを切っても、その残像のインパクトが尾をひくことがしばしばあ
る。ならば、デジタルサイネージや公共空間船用のディスプレの市場特化には理がある。
しかし、画質アップできる理もある。例えば、仲井眞弘多前沖縄県知事の顔相が時系列
に変貌していくことに驚いたものだが、そういえば橋元徹大阪市長の顔相も変貌してい
る。つまり、政治家にとっては怖いツールとなる。^^;!

  

【超高齢社会論 15: 下流老人とはなにか】  

   【目次】

  はじめに
  第1章 下流老人とは何か
  第2章 下流老人の現実
  第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
  第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
  第5章  制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
  第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
  おわりに   

   第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな
                    老後を迎えられるのか

 【意識の問題(対策編)】……そもそも社会保障制度とは何か

  生活保護に対する無理解をなくすには、制度に対する無知だけでなく意識の面か
 らも変革しなければならない。今もって多いのは、生活保護が「おめぐみ」や「恩
 恵」であるという意識だ。つまり余裕のある者がない者に対して、(なかば仕方な
 く)施してやっているという考え方である。

  だが、それは間違っている。これまで税を一度も納めたことがない人などいない。
 所得税であれ消費税であれ、社会に帰属していれば、意識的にも無意識的にも何ら
 かのかたちで税金を支払っている。
 「社会保障を受けることは権利である」ということは、学説上も揺るがないことだ。
 もう古典になってしまったが、社会保障理論を構築してきた小川政亮氏は著書『権
 利としての社会保障』の中で、学説上も社会保障は恩恵ではないことをはっきりと
 主張している。

  だから、生活保護を利用することに負い目を感じる必要はないのだ。国民年金や
 厚生年金などの支給基準が低く、老後に十分な収入が得られないことは、これまで
 にも指摘してきた。生活保護の利用を必要以上にナーバスにとらえず、いざとなれ
 ば気軽に収入の足りない部分を捕えるという意識でいてもらいたいと思う。介護保
 険制度やそのほかの社会保障制度についても同様である。

  しかし、これほどまでに社会保障制度に対する理解が広がっていないことは、憂
 慮すべき事態だ。政府は早々に申請主義から脱却し、社会保障に対する啓発活動を
 行うべきだろう。これだけ下流老人がいるにもかかわらず、いまだにどこにどのよ
 うに相談すればいいのか、制度を利用したらどうなるか、その告知が極めて少ない。
 自分たちの政策の有効性をPRするだけでなく、社会保障制度に関する情報を広く
 報じてほしい。テレピCMや新聞広告、インターネット広告などを使って、国民を
 救済するための情報を積極的に流すべきだし、わたしたちは政府にそのような対策
 をもっと求めてもよいはずだ。
 
 【医療の問題(対策編)】……今のうちから病気や介護に備える

  社会福祉と同列に、医療制度についてももっとよく知る必要がある。下流老人は
 経済的困窮から医療受診をせず、病気が重くなってから搬送されるケースが多いこ
 とは説明してきた。限られたお金しかなければ、医療費よりも生活費を優先すると
 いう事情もある。
  しかし、医療費の支払いが困難な人々がいることを、あらかじめ法律は想定して
 いる。社会福祉法は、医療にアクセスできない人々が生まれないように制度を構築
 してきた。それがいわゆる「無料低額診療事業」である。

 「無料低額診療施設」は、社会福祉法弟2条3項の九「生計困難者のために、無料
 又は低額な料金で診療を行う事業」に位置づけられた施設で、お金がなかったり、
 健康保険証がない方でも無料または低額で受診できる。
  病院に行くとお金がかかると思っている方は、まずその認識を変えてほしい。各
 都道府県の無料低額診療施設を探し、その病院の医療相談室のソーシャルワーカー
 に相談して、早い段階で受診していただきたい,そのほうが自身のためでもあるし、 
 医療機関や国の負担も軽くなる。下流老人に限らず、外国籍の方やホームレスの方、
 生活困窮が‥など、さまざまな人々が利用できるので、どんどん活用してもらいた
 い。

  また、以下は予防にも通じるが、心身が健康なときに「任意後見制度」を活用し、
 あらかじめ老後の世話を頼む人を選任しておくといいだろう。任意後見制度は、本
 人の希望で親族や弁護士、司法書士、社会福祉士などを選任しておき、公証役場で
 公正証書を作成して手続きを行う。選任された任意後見人は、本人の様子を見なが
 ら、後見が必要だと思った場合、権限を行使してその人の生活全般を保護して支援
 する,認知症と診断された場合に限らず、身体が弱ってきたと思ったら準備してお
 いてもいいだろう。

  これらの「防貧」や「救貧」の制度は、社会にいくつも用意されている,ぜひ今
 のうちから一つでも二つでもいいので、老後を見据えた制度活用の準備を進めてほ
  しいと思う。

  【意識の問題(対策纏)」……何よりもまず、プライドを捨てよ

  そして何よりも、個人のプライドを捨てて、目に見えない制約から自由になるこ
 とが必要だ。人様の世話にならないことが美徳だと思っている方は、その意識を変
 えてほしい。
  社会福祉では、一般的に自茫を「経済的にひとり立ちしていること」とは考えな
 い,そんな一面的な狭い範囲で自をを語らない。
  そもそも、すべての人々が何かに依存し、それゆえに生活を維持できている。そ
 の「依存する部分がどこか]によって議論になったりならなかったりしているだけ
 で、その内容は人それぞれだ。

  たとえば、料理ができない夫は妻に依存している。会社の社長は社員に依存して
 いる。水道をひねれば自治体や水道局の人々に依存している。政治家や行政職員は
 国民に依存している,依存せずに自立することなどあり得ない,依存しなければ社
 会生活などできるわけがない。
  だから、「自立していないことが恥ずかしい」と考えること自体が、ある意味で
 傲慢であり、その意識が問題を複雑化してしまう。あなたも、わたしも、誰も自立
 している人などいないし、すべての人々が環境に依存して生きていることに、無自
 覚であるへきではないと思う。


 【お金の問題(予防編)】……いくら貯めるべきか

  ここからは、老後にぢ一流化しないための事前策を取り上げていく。
  まず考えられるのは預金だ。身も蓋もない話だが、いざというときに最も頼りに
 なるのは自分の資産だ。早い段階から家計を管理して、可能な限り、少しでも貯蓄
 していくことは心がけていきたい。

  内開府の「平成26年版高齢社会白肌白」によれば、「世帯の高齢期に備えて必要
 と思う貯蓄額]は、1000万~3000万円が多い。「2000万円くらい」と
 する人が19・7%、「1000万円くらい」が19・5%、「3000万円くら
 い」が19・1%である,

  老後にどれくらい資産が必要かは人それぞれだし、ここで言及することが適切で
 もないので、気になる方は他の専門家の著書に触れていただけたらと思う,ただ検
 討するうえでは、わたしたちの高齢期は片と違い相当に長いこと、そして病気や事
 故で突発的にまとまったお金が必要になる可能性も高いことを考慮したい。

  資産形成や資産運用に関しては、個人年金や民間保険のほか、株や債券、投資信
 託など、さまざまな商品が出回っている。活用する際には、多くの情報と比較しな
 がら、自分に合ったものを選択してほしい。民間の保険会社や銀行にいるフアイナ
 ンシャルプランナーなどにm談して、老後の収入と支出をあらかじめシミュレーシ
 ョンしておくのもいいだろう。



ここで書かれていることはよく理解できる。「個人のプライドを捨てて目に見えない制
約から自由になることが必要だ」とは思考モードの切り替えだと了解できる。まず自立
条件とは(1)健常者であること、(2)経済的に自立していることとすると、(2)
は、年金受給額分がその分水嶺(社会的閾値)と置けば、その額の問題――平均的な生
活が送れる否かが議論となる――がクリアーできれば「自立」条件を満たせ、プライド
は残る。なので「武士は喰わねど高楊枝」はもはやは死語と、いや死語にしなければな
らない。あわせて、社会保障と税制との関係が明確でないことが不満である。このこと
は、次回以降でコメントしたい。

                           藤田 孝典 著『下流老人』

                                                  この項つづく

 

  

● 気温で透明度が変化するビニールハウス用フィルム

太陽光線の直射による葉焼け現象を防止する農業用フィルムとして、散光性フィルムが
ある。代表的なものとして、カレンダー法やTダイ法で製造され、エンボスロールによ
り表面が梨地状に形成された農業用塩化ビニル樹脂フィルムや、相溶性の低い2種類以
上の異なるポリオレフィン系樹脂からなる組成物より形成される梨地状農業用ポリオレ
フィン系フィルムが挙げられる。

また、25℃では光散乱が少なく透明であり、50℃では高い光散乱性を示す調光性シ
ートとしてエチレン-酢酸ビニル共重合体と架橋アクリル粒子からなる組成物より形成
されるシートの特許が提案されているが、散光性フィルムが展張された農園芸用施設で
は、日射の弱い冬には、作物に届く太陽光の量が少ないという問題や、農業用フィルム
に適した調光性能を示さないという問題がある。

二つのポリオレフィン系樹脂層の間に中間層を有するポリオレフィン系農業用フィルム
であって、前記中間層は、酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量が15~30重量%
のエチレン-酢酸ビニル共重合体(但し、エチレン-酢酸ビニル共重合体の重量を10
0重量%とする)と、平均粒径が3~15μmであるメタクリル酸メチル-スチレン共
重合体粒子とを含有する層であるポリオレフィン系農業用フィルムに係るもの。

ポリオレフィン系農業用フィルムは、日射の強い夏には光散乱性が高く、日射の弱い冬
には光散乱性が低いポリオレフィン系農業用フィルムである。



※ 樹脂フィルムに含まれ輻射線遮断剤は以下の特徴組成をもつ(特許 5709423) 

[(Li+(1-X)M2+X)(Al3+)2(OH-)6]2・(SiyO(2y+1)2-)(1+X)・mH2O 

式中、M2+は2価の金属カチオンであり、m、xおよびyは、0≦m<5、0≦x<1、
2≦y≦4という条件を満たす。


 

これらは、農業温室用樹脂フィルム専用で開発されているが、液晶を挟み込み室温同期
させることも、合採算性を前提として可能だ。また、ガラス温室専用に液晶フィルム挟
み込んでも可能でこれは、このブログでも提案しているが、後者は、異常気象対策とし
て強化ガラスも兼ねる。さても、環境リスク本位制時代にあって、地球温暖化の断末魔
が差し迫っている。ここは「変革が迫られる前に変革を」だ。

                                    

 ● 今夜の一品

出典:レーザーテック: 

ローム、炭化シリコンウエハ検査装置の最新機種を採用。



 

ビバ!たこ焼立国

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                  私が送金しなければ、3人は今も生きていたはずです。
           私の責任です。ごめんなさい。
                                  ティア・キディ

 

 


                                
 
                                     

 

 

● ビバ!たこ焼立国

このブログでもたこ焼きこと"ボールフード"は折々掲載してきたほど「たこ焼き」好き。
ところが、上写真セブンイレブンの冷凍「たこ焼」(178円-税込みで192円)を
彼女が小腹代用ランチメニューに大量に買い付け冷蔵庫にストックしている。調理は至
って簡単。(1)開封(2)ソーズとふりかけ鰹ぶしのポッケ袋を取り出し(3)その
まま電子レンジ(5百ワット)で3分加熱すれば完成する。味はとろっとクリーミーな
のが特徴。1袋でお茶請けで小腹は満たされるわけだから、すご~ぃいのだ。

そのスタイルは緑茶を飲みつつ――高温緩和対策なので温め――お気に入りの取手部が
木製の洋銀フォークでいただく。なので、最近はふりかけをアレンジするようにもなっ
てきた。ポッケ袋のソース、ふりかけ鰹節にさらにマヨネーズ(キューピー社製)を加
えたりするように変化してきている。この先どう変化させていくかを考えてた。

 

まず、トッピングと調味料。これはソースで決まる。醤油、ウスターソース、トンカツ
ソース、味噌、マヨネース、トマトケチャップをベースに、卵黄マスタードソース、オ
ーガニックオリーブペースト、バジルソース、ドライカレーペースト、ビーフレバーペ
ースト、白トリュフペーストなど。逆に、ソースボリュームとたこ焼ボリュームを大幅
に逆転増量すれば、ブイヤベース、和風あんかけ、シチュー、スープなどにアレン可能
だ。そう、たこ焼はボールフードなのだ。この言葉はわたしが造語したのだが、ボール
のなかの主役の「たこ」を変えて行けばいいわけで、ミートボールやコロッケ、天ぷら
などに"七変化"していく。中身はチョコレートペーストでも、アンチョビでも、魚介類
のむき身、鳥獣肉などその土地その土地に遭わせてアレンジできる(『透明スピーカー
とたこ焼き』2010.09.08、『今夜の3つのテーマ』2014.09.29、『量子ドットアレイ工
学』2014.10.04)。

 「黒船屋」(『日太縦貫高速道路』)のつづき。タコ焼きを世界市場の食品のど真
 ん中にすえるためのビジネスモデルを考えてみたが(1)具、ソース、味色合いに
 関わる表出概念を最上位におき、(2)店頭販売の条件を第2課題とし(3)調理、
 調達や製造方法を下部において考えてみた。形状が球状で柔らかく熱々であればい
 いわけで残りは見た目、つまりカラフルという点を重視した。

  焼き方のハード面での自動化はいくらでも設計できる。例えば振動を与えて焼く
 方法もモータ回転を扁平カムやバネ振動(超音波発振など)の組み合わせでなんと
 でもなり、よりシンプルで廉価であれば良い。カラフル仕上げるには、安全な天然
 食用色素と加熱退色風味減衰との調査研究が必要となる。

   「二段焼き」が鍵語。回転振動を与えて球状に仕上がったタコ焼きに高速回転させな
 がら少量の前述した液状色素風味食材を少量注入しまんべんなく薄くコートしなが
 ら(含浸層除き純粋な表層は1mm以下)風味・色彩を壊さないように加熱乾燥させ
 タコボール“ネオコン”を仕上げるというもの。具は海鮮類、ラクト製品、野菜な
 ど。例えばメニュー・イタリアンは緑・白・赤のバジル、チーズ、トマト風味に仕
 上げるというもの。装置と粉もの(ソースも部分的に含む)とビジネス・ノウハウ
 は日本から独占供給し、価格やバイオレーションは各国オーナの自由設定とするビ
 ジネス・モデル。年間の世界市場規模で3兆円となるというから一寸したもの。

                           『たこやきとネオコン』
                 (「透明スピーカーととたこ焼き」2010.09.08 )

ポリートミスト

 
年間3兆円規模の売上げとは、自分で書いて自分をわrってしまうが、それから5年た
ってもそのような動きは見られないのはわたくしの不徳のいたすところであります ^^;。
因みに、この間変わったの「3・11東日本大震災と福島原発事故」であり、電子レン
ジと冷凍食品の普及だ。これで屋台の世界は大きく変化する。ソーラー塗装した屋台専
用電気自動車の中で、電子レンジで解凍し加工した"ボールフード"が3分でできるわけ
で、作り置きすれば、おでんや、ラーメン、焼きそば、イカ焼き、ホットドッグも即座
に提供することも可能で、もう、ガス爆発や化石燃料への引火の心配も、排気ガスや騒
音とも無縁のニッサン、ホンダ、ヒノ社製の屋台電気自動車が世界に展開しているわけ
だから、これを加算すると年間4兆円の市場規模の事業が誕生する。 

  

ふりかけは日本にはたくさんある。例えば、ごま、広島菜、京菜、大根葉、にんじん、
かぼちゃ、マッシュポテト、青のり、黒のり、トマト、ほうれん草、とうもろこし、鰹
削り節、グリンピース、じゃがいも、昆布、赤しそ、煎り米、黒のり、乾燥鶏卵、たら
こ、大豆、わかめ、黒豚、甘辛醤油煮、肉そぼろ、牛肉しぐれ煮、煮穴子、とりたまご
そぼろ、ちりめん山椒、さけ、豚みそそぼろ、ほぐし貝柱山椒、たらこ、しょうが、高
菜、ツナ、明太子、ひじき、玉ねぎ、ベーコン、唐辛子、玉ねぎ、また、香辛・調味料
・ペーストもあふれている。例えば、トマトケチャップ、マッシュルーム、チキンコン
ソメ、カレースパイス、レーズン、しょうゆ、食塩、豚脂、こめ油、チーズ、アミノ酸
ドライカレーペースト、砂糖、コーンスターチ、ガランガル、大豆油、唐辛子パウダ、
乾燥エビパウダ、レモングラス、ターメリックパウダ、コリアンダーシードパウダ、ビ
ーフレバーペースト、イタリアンテバジルソース、白トリュフペースト、オリーブペー
スト、ジェノベーゼペースト、トマトペーストなどだ。あとは「食感」をカテゴリに創
作すれば好い。 

 

たこなどの頭足類は、3億年以上前、古代の海の捕食動物として出現。頭足類は、地球
上で最初の知的な生物だった。その寿命は短く、多くの種は1年程度。産卵の時期によ
ったり、ストレスのない状態ではは1年半から2年生きる。また 陸に打ち揚げられても
30分程度は生きることができる。箱釣り、壺釣りを基本とするが、わたし(たち)は
山間部のストレスの少ないところで完全養殖でき、その周辺にタコの加工工場を隣接さ
せ、例の「スマートキャンティ構想」に組み込めばエネルギーフリー(オール再生可能
エネルギー利用)で生産できると考えている。

ところで、今年に入り、「築地銀だこ、明石だこ、そして実現に近づいたタコの完全養
殖」(2015.01.26,アルケミストは考えた)で「銀だこ」を運営するホットランド社長・
佐瀬守男氏が話題となっているので、そのニュースを追ってみた。それらを参考にする
と、タコの乱獲でピンチだという。そこで、世界中の漁場で、漁法・加工法・養殖技術
を広め、安価な漁業コストと安定した漁獲高を実現し、タコを世界中で食べられる食材
として普及させたいという同社々社長は、価格高騰の原因は大型のトロール船による海
底環境の破壊が影響し、主に西アフリカで行われ始めたトロール船による網漁は、海底
のタコの棲息環境を破壊、結果として漁獲高が徐々に減少し、需給バランスが崩れたと
指摘。西アフリカでタコ漁が始まった70年代からで、それまでは、壺漁法での水揚げ
で漁獲高も価格も長く安定していた。 

このツボ漁を大切にし、養殖技術と組み合わせることによで、タコを漁場から安定的に
安価に調達したいと考えているという。これにより、雇用や食糧問題解決に繋げるが、
たこ焼のことばかり考えているわけでなく、例えば、タコを煮る煮汁を捨てずにタウリ
ンを回収し付加価値に転化させ またタコは高タンパクで低カロリー。ビタミンEも豊
富で、食材としの価値は高い――つまりタコの完全養殖を山間部で行うことで、医療薬
剤まで集約生産可能というのだ――が、世界中でタコを食べているのは日本、スペイン、
イタリアの三カ国だけだが、他の国(40カ国)でたこ焼の大試食会をやったこと40
か国中39カ国の方に10点満点中10点の評価が得られている。調理法を伝えられれ
ば、タコは全世界で食べられる可能性を秘めた食材だと力説する。これは面白い。

特開2013-174564

※ 関連新規考案 

特開2013-174564  頭足類の健康状態測定方法 国立大学法人旭川医科大学 他
特開2006-198363  土産用タコ壷。 笹原 忠臣
特開平10-262488  タコ養殖用システム クラウディオ エベレシュ 他
特開平08-080139  マダコ魚礁 海洋建設株式会社
特開2015-130826  養殖篭 金八神漁網株式会社
特開2014-054195  陸上養殖システム 株式会社ノア
特表2012-501673  タコの孵化手順および孵卵器 ウニベルシダット ナシオナル アウト
         ノマ デ メヒコ

 

● なぜ難民はドイツをめざすのか 

内戦が続くシリアやアフガニスタンなどから難民や移民がヨーロッパに殺到している問
題で、6日までに、1万2千人を超える難民らがドイツに到着した。定員を超える受け
入れ施設も出ており、EU(=ヨーロッパ連合)全体での対応が急務となっている。難
民らの多くがドイツを目指す背景には、豊かな経済に加え、充実した保護制度がある。
難民申請をした人には、住まいや食事が無料で提供されるほか、生活費も支給される。
この制度は、過去にユダヤ人の迫害によって多くの難民を出した苦い記憶などをもとに
作られた。5か月前に難民申請したというシリア出身の男性も、こうした制度を知って
ドイツを目指したという。この男性は「月336ユーロ(約4万5千円)支給されてい
る。渡航前から、テレビなどでドイツは良いと知っていた」と話す(NNN 2015.09.07)




● 第二次世界大戦戦勝国はなぜ難民を受け入れないのか 

20日の「世界難民の日」を前に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日
世界の難民や国内避難民が1年で830万人増え、2014年末に過去最多の5950
万人になったと発表。特に深刻なのが、400万人近くに急増したシリア難民。国連は
各国に受け入れを要請しており、ドイツのように約2万人を受け入れているが、日本が
これまでに難民として認定したシリア人は3人のみ。UNHCR駐日事務所のマイケル
・リンデンバウアー代表は「日本を含む各国に受け入れを求めており、連帯をお願いし
たい。シリア難民はかつてない規模で増え、周辺国だけではまかないきれない」と、日
本に協力を訴えているという(朝日新聞デジタル 2015.06.19)。

第二次大戦にユダヤ人虐殺したドイツは、19世紀以降の植民地は、欧米列強国の中で
は、ニューギニア、ナミビア、タンダニア、ルワンダ、ブルジン、カメルーン、トーゴ、
ガーナ東部、ケニア(一部)、青島などと英国、フランス、スペイン、ポルトガル、オ
ランダなどと比べ格段にその支配地域は小さく、戦後のドイツ連邦軍の派兵史(下表ク
リック)やドイツ帝国植民地史をみても中近東・北アフリカ地域での軍事力行使は武器
輸出史を除き、先進国においても甚だ小さいく、同じ欧州の英国・フランス両国の武力
行使力(=ニトログリセリン換算トン数+戦費+被害総額+殺傷者数)は比べものにな
らないだろう。なのに、米国・英国・フランス・ロシア・中国は難民対策に積極的でな
いのは、こころない仕儀と映るのをとどめようもない。ひるがいえって、日本政府も積
極的に国連を動かしい、難民対策に乗り出す気配もないのは誠に情けないことだと思う。

 

※ 「域外派兵で何がおきたのか ~ドイツ連邦軍・アフガニスタンでの13年~」 2015.
   09.20 NHK BS放送
※ ドイツ連邦軍 Wikipadia
※ 難民が2百万人と推定されているが、米・英・仏・露・中・日・西・加・蘭・韓・豪・
  伊・印などの13カ国+7国の20カ国で1万人の難民を引き受けても20万人と
  10分の1にすぎないが、国連議長が中心となり、難民受け入れ指針を早急にとりま
   とめ行動すべきだと考える。特に、国連議長は緊急アッピール行うべきである(さも
  なければ、高級国際官僚の堕落との誹りは免れない)。 


 

 

 

 

限りなくブルーな木曜日

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            「きたねーよ、ばばあ。」 / 神奈川県川崎市の老人ホーム職員

 

 

 

  【現代人への道】

  現生人類(ホモ・サピエンス)と同じ属(ホモ)が出現したのは、250万
 年前のアフリカで、華奢なタイプのアウストラロピテクスから分岐したと考え
 られている。初期のホモは何種かいたようで、今のところ、ルドルフェンシス
 ハビリス、エルガステルの3種が知られている。小型で脳容量もやや小さめ(
 680cc)で四肢も原始的なのはハビリス、やや大型で脳容量も少し大きい(
 800cc)のはルドルフェンシス、長身で脳容量が大きく(850cc)全身骨
 格が最も現生人類的なのはエルガステルである。

  

  これらの3種と頑丈型のアウストラロピテクスの1種ポイセイは、190万
 ~180万年前の東アフリカで共存していたらしい。このことから人類の進化
 は複線的であったことがわかる。現生人類に連なる系統はエルガステルで、こ
 こから分かれて200万~150万年前に、アジアにわたったものはエレクト
 ス(ジャワ原人、北京原人など)となった。



  アフリカに残ったエルガステルはハイデルベルゲンシス(またはそれに近縁
 の種)に進化し、これがヨーロッパに渡ってネアンデルタール人になり、アフ
 リカに残ったものは現生人類(サビエンス)に進化した。
  知られる限り最古のサピエンスの化石は南アフリカから出土した26万年前
 のものであり、最古のネアンデルタール人の化石はスペイン出土の80万年前
 のものだ。ミトコンドリアDNAの解析から、現生人類とネアンデルタール人
 の分岐年代は60万年前と推定されており、すべての現代人の共通祖先は14
 万年前と推定されている。



  すなわち、すべての現代人は14万年前のアフリカに起源し、エレクトスや
 ネアンデルタール人は現代人に連なることなく絶滅したと思われる。サピエン
 スがアフリカを出たのは10万年前ごろだと推定されている。
  現代人を特微づけるのはネオテニー(幼形成熟)と脳の巨大化と前頭葉の発
 達であるが、これらは自然選択ではなく、発生システムの変更により生じたの
 ではないかと思われる。

 
                   池田清彦 著『新しい生物学の教科書』



 

【超高齢社会論 15: 下流老人とはなにか】   

   【目次】  

  はじめに
  第1章 下流老人とは何か
  第2章 下流老人の現実
  第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
  第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
  第5章  制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
  第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
  おわりに    

  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな
                    老後を迎えられるのか

   【心の問題(予防纏)】……地域社会へ積極的に参加する

  また、「プライベート・コミュニティ」を充実させておくことも、下流化を
 防ぐ手段となる。
  プライベート・コミュニティとは、個人レベルでつくる相互扶助のための
 コミュニティだ。高齢期に孤立する前に、なるべく多くの人と助け合いの関係
 性を築いておければ、生活困窮に陥ってもさほど苦しくはならない。

  生活を支え、豊かにするものは、お金などの物質的なものだけとは限らない。
  たとえば、家族や親族とこまめに連絡をとっておくだけでも、コミュニティ
 は充実する。いざといときには助けてもらったり、経済的な援助はなくても精
 神的な支えになってもらったり、入院や制度利用時の連絡先になってもらった
 りと必要なことを頼める関係性は保持しておきたい。、

  さらに、地域の人々との交流も重要だ,地域のつながりの希薄さや自治会の
 脆弱さが指摘されて久しいが、隣近所との関係が生活に与える影響は、高齢期
 になるほど大きくなる。
  気軽に相談できる友人や仲間、お茶飲み友達が周囲にどれだけいるだろうか。
  近所で関係性をつくるのが難しければ、地域の自治会などが催すサロンや老
 人クラプなどに参加するのも手だろう。
  参加するのは恥ずかしい、面倒くさいと思われる方もいるかもしれない。た
 しかに人付き合いにはある種の煩わしさが伴うが、それはお互いが相手の生活
 や行動に干渉しあっている証拠であり、この干渉こそがいざというときの発見
 や援助のきっかけともなるのだ。

   同じ貧困に苦しんでいても、幸せに過ごしている人もいれば、悲惨な生活送る人も
  いる。この違いは、どこから生まれるのか。
  わたしが相談支援の現場で常に実感するのは、「人間係の貧富の差」が幸福度を決
 定するということだ。生活が貧しくとも、友人同士で料理を持ち寄ったセンターでおしゃ
 べりを交わしたり、老人クラブで踊ったりと、楽しく暮らす場面によ く出会う。そのような
 高齢者は、比較的支援もスムーズに進み、貧困に陥らない、もしくは貧困に陥っても生
 命が脅かされる危険性は低い。

  また、可能な限り働くことも、人間関係の貧困を防ぐ。間違っても、高齢明
  に身体に支障をきたすまで無理に働くべきということではない。職場の仲間と
  の出会いや交流を主眼に置きながら、楽しみながら働くということである。
  生活基盤を支えるという理由以外に、咬かな人間関係の形成に目を向けるこ
  とで包後に働くことの意味もだいぶ変わってくるとjえるだろう。


  【居場所の問題(予防編)】…地域のNPO活動にもコミットしておくこと

   また、セーフティネットになり得る人間関係の強化という面では、地域のN
  PO活動や市民活動への参加も効果的だ。
  多くの地域で、環境やスポーツ、政治や宗教、文化や芸術、福吐やボランテ
  ィア活動など、多鮪多様な市民活動が行われている,このような地域活動にコ
  ミットしてできれば地域社会の一員として、一緒に暮らしていく意識を持って
  もらいたじつは、わたしのもとには生活困窮に陥ってから”突然"相談に来られ
  る方が多い,全国津々浦々からさまざまな理由で生活相談に来られるが、それ
  らの方が暮らしていた地域にも
 NPO活動や市民活動は存在している。このような活動にあらかじめコミット
  しておき、そこでさまざまな相談ができるような人間関係を構築しておいてほ
  しいのだ。

  下流化してから相談に行くよりも、下流化する前から身近な市民民活動やN
  PO活動に参加しておけば、その仲間や関係性のなかで、援助を受けることが
  可能な場合もある。そうすれば、あてのないNPOや市民団体のもとへ生活支
  援の相談にけくといったハードルの高い行動をとる必要もなくなるだろう。
  参加できるうちはボランティアや市民活動を、できなくなったら相互に助け
  合いを、という関係を築ければ安心である。

                        藤田 孝典 著『下流老人』


ここでは、著者が指摘する、「なるべく多くの人と助け合いの関係性を築いておければ、生
活困窮に陥ってもさほど苦しくはならない」あるいは「参加できるうちはボランティア
や市民活動を、できなくなったら相互に助け合い」は少しは参考になるだおう。
            
                                               この項つづく  

  

【DIY日誌: 雨漏りと浴槽水位】 

 

● 台風18号に敢えなく雨漏り

台風18号は我が庵にもチョットした騒ぎを残していった。雨漏り工事をDIYを
すませ問題がなかった思っていたやはり、強風に呷られ朝方敢えなく雨水がぽたぽ
たと天井から落ちてきた。幸いにそのうち台風の影響もなくなり大事にならずに済
んだもののこんどの土日は再点検修理をスケジュールに割かざるをえない。

● ”浴槽があふれそうだ”騒動  

彼女が浴槽の水位が異状だと”ブルーマンデー”にそういって騒ぎはじめた。自動
で設定した通常のレベルを超えているというのだが、火曜日の夜に取説などをダウ
ロードし資料を調べていたが、オーバーワークで作業を中断。その間も業者との電
話連絡や確認操作を繰り返していたみたいだが、「水洗センサ」異状なんだと言い
だしたので、(1)電子回路ソフト、(2)センサと注湯電磁弁のハードの不具合
だろうと応えていた。台風18号の動きから大丈夫ろうちことで業者を呼び、点検
修理をさせていたが、リセットを3回繰り返し、通常状態に復元できたというので、
その方にセンサの方式はどのようなものですかと尋ねてみたが、要領の得ない返事
が戻ってきたので話はそこでおわった。つまり、いつものように見切った。



支払いを済ませた彼女がしばらくしてやってきて「あなたが言っていた通り、注湯
電磁弁から漏水していたことも考えられていっていましたよ」と経過報告した。
「特許技術を調べていたら、電磁弁の開閉に水撃現象(ウォーターハンマー)が掛か
り、過剰に注水され増量されるので、それを修正するプログラムが追加する特許が
出願されているから、対処前の製造品か、あるいは、何らかの理由で一時的に細か
いゴミなどが弁に付着していたんではないだろう」と返事しこの件は、部品交換な
ど大きな出費をせず済んだ。

そこで、ワンポイント・レッスン:これからは、面倒くさがらず、ゴー・ツゥ・フ
ロント!と総括する。


● 限りなくブルーな木曜日

今日も朝から大雨特別警報の連発だ。
「百年に一度の大雨」という指標は「毎年一度の大雨」と捉え返し国土交通省は、
土木設計の抜本的緊急見直しが必要だ。東京オリンピックやリニアモーターカーな
ど"レス・ザン・セカンド・プライオリティ"もの。少し想像力をはたらかせば、地
方の荒廃必至。大都市をめざし国内難民が流れ込むだろう。ことはこれだけでない。
何もかもが崩れ落ちていきそうな不安を感じるのはわたしだけだろうか。


 ● 今夜の一曲

「夢のカリフォルニア」に続いて1966年にリリースされた曲。同年5月に3週連続で
全米シングルチャート No.1を記録。リーダーのジョン・フィリップス以外の3人
はこの曲が気に入らずにいたので、ジョンが説得しレコーディングにこぎ着けたと
いうエピソードがある。このように月曜日は「Rainy Days and Mondays 雨の日と月
曜日は」というカーペンターズの曲があるほど、月曜は洋の東西を問わずブルーな
マンデー。そんな気鬱さ忘れさせる、美しいメロディラインの名曲。

 

マイナンバー導入怪奇劇

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    私が小説を書く理由はひとつだけです。
             個人的存在の尊厳をおもてに引き上げ、
             光をあてる事です。

                     村上 春樹

 

  

 

● 散乱光でアルツハイマー病を解明

愛媛大学の座古保教授らの研究グループは、ナノサイズの金粒子を利用しアル
ツハイマー病の原因物質を高感度で検出手法を開発。同病の原因と考えられて
いる「アミロイドベータたんぱく質(Aβ)の塊」に、直径40ナノメートル
の金粒子を結合し光照射し観察。1リットル当たり7ピコモルの低濃度でAβ
の塊を検出したと発表。
 

従来技術は、抗原抗体反応を利用したエライザ(ELISA)法が今回の測定
法と同程度の検出感度を持つものの、Aβの濃度が分かるだけで、Aβの単体
分子か塊かを見分けられなかった。そこで、光照射の散乱光から微細な構造を
鮮明に観察できる「暗視野顕微鏡」で、金ナノ粒子を使い観察できるようにな
った。この方法は、Aβだけ結合する抗体を表面に修飾した金ナノ粒子を作製
することで、ヒト由来のAβの塊に金ナノ粒子を添加させると、Aβの塊の大
きさに応じた強度の散乱光が検出できる(上図クリック)。

   カーテンレンズで暗視野顕微鏡の説明


● マイナンバー導入怪奇劇 

財務省案は、マイナンバーの個人番号カードを、還付金を受け取るために必須
とし、軽減税率対象品目を購入する際、マイナンバーカードの個人認証を必要
とし、すべての食料品購入をクレジットカード決済と同じ仕組にする。

(1)17年4月から10%へ消費再増税を行う。
(2)その際、「酒類を除く飲食料品」の消費増税分に相当する給付金を事後
  的に払う。
(3)購入の際にマイナンバーカードを提示されたものだけを還付対象(年間
  で4千円)とし上限を設ける。

還付方法には、(1)簡素な給付金、(2)領収書(インボイス)(3)ナン
バーカード管理の3通りのうち、世界標準は(2)のインボイス方式、(3)
は管理コストが一番高いとされている上、「軽減ポイント蓄積センタ(仮称)」
という天下り機関で管理されようとしている。わたし(たち)の主張は、(1)
低所得者への戻し税方式であり、(2)マイカードの納税者番号制化―課税完
全把握、(3)カード情報保護の法整備(折々に、ブログ掲載してきているの
で参考)。補足しておくとカード取扱管理業務は民営委託。また、金融関係等
の取引相手方は登録制(→悪用防止・ブラック企業の排除)。こう考えていく
と「消費税引き上げ隠し」(財務官僚=霞ヶ関)と「マイナンバー潰し」(富
裕層有権者=永田町)の双方が複雑に錯綜しているようにも見えるし、中途半
端な制度のように見えるため、摩訶不思議、政治不信。

 



● 折々の読書 『職業としの小説家』1

「これは村上さんが、どうやって小説を書いてきたかを語った本であり、それ
はほとんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しい。だから、小説を
書こうとしている人に具体的なヒントと励ましを与えてくれることは言うに及
ばず、生き方を模索している人に(つまり、ほとんどすべての人に)総合的な
ヒントと励ましを与えてくれるだろう――何よりもまず、べつにこのとおりに
やらなくていいんだよ、君は君のやりたいようにやるのが一番いいんだよ、と
暗に示してくれることによって。」と翻訳家で東京大学教授(昨年退任)の柴
田元幸が本書の帯でこのように述べている――紀伊国屋書店から村上春樹の新
著『職業としての小説家』が届いた。早速、読み始める。


  小説について語ります、というと最初から話の間口か広くなりすぎてし
 まいそうなで、まずとりあえず小説家というものについて語ります。その
 方か具体的だし、目にも見えるし、比較的話か進めやすいのではないかと
 思います。

  僕か見るところをごく率直に言わせていただぎますと、小説家の多くは
 ――もちろんすべてではありませんが――円満な人格と公正な視野を持ち
 合わせているとは言いかたい人々です。また見たところ、あまり大きな声
 では言えませんが、賞賛の対象にはなりにくい特殊な性向や、奇妙な生活
 習慣や行動様式を有している人々も、少なからずおられるようです。そし
 て僕も含めてたいていの作家は(だいたい92パーセントくらいじゃない
 かと僕は踏んでいるのですか)、それを実際に口に出すか出さないかは別
 にして、「自分がやっていること、書いているものかいちばん正しい。特
 別な例外は別にして、他の作家は多かれ少なかれみんな間違っている」と
 考え、そのような考えに従って日々の生活を送っています。こりした人々
 を友人や隣人として持ちたいと望む人は、ごく控えめに表現して、それほ
 ど数多くないのではないでしょうか。

  作家同士が篤い友情を結ぶという話をときどき耳にしますが、僕はそう
 いう話を聞くと、だいたい眉に唾をつけます。そういうこともあるいはあ
 るのかもしれないけれど、本当に親密な関係はそんなに良くは続かないん
 じゃないかと。作家というのは基本的にエゴイスティクな人種だし、やは
 りプライドやライバル意識の強い人か多い。作家同士を隣り合わせると、
 うまくいく場合より、うまくいかない場合の方かずっと多いです。僕自身、
 何度かそういう経験をしています。



  有名な例ですが、1922年にパリのあるディナー・パーティーで、マ
 ルセル・プルーストとジェームズ・ジョイスか同席したことかあります。
 でも二人はすぐ近くにいたにもかかわらず、最後までほとんどひとことも
 口をきかなかった。まわりの人々は、20世紀を代表する二人の大作家か
 どんな話をするんだろうと、固唾を呑んで見守っていたのですか、きれい
 に空振りに終わってしまいました。お互い自負心のようなものが強かった
 のでしょうね。よくある話です。
  しかしこれにもかかわらず、職業領域における排他性ということに関し
 ていえば――簡単に言えば「縄張り」意識についていえばということです
 が――小説家くらい広い心を持ち、寛容さを発揮する人種はほかにちょっ
 といないのではないかという気かします。そしてそれは小説家か共通して
 持っている、どちらかといえば数少ない美点のひとつではあるまいかと、
 僕は常々考えています。

   もう少しわかりやすく具体的に説明しましょう、
  仮にある小説家か歌がうまくて、歌手としてデビュ-したとします。あ
 るいは絵心かあって画家として作品を発表し始めたとします。その作家は
 まず間違いなく、行く先々で少なからぬ抵抗を受け、また揶揄嘲笑の類を
 浴ぴせられることになるでしょう。「調于にのって場違いなことをして」
 とか「素人芸で、それだけの技術も才能もないのに」みたいなことをきっ
 と世間で言われるでしょうし、専門の歌手や画家からは冷たくあしらわれ
 ることになりそうです。ひょっとしたら意地悪くらいされるかもしれませ
 ん。少なくとも先々で「やあやあ、よく来たれ」みたいな暖かい歓迎を受
 けることはほとんどないはずです。もしあったとしてもそれはきわめて限
 定された場所における、きわめて限定されたかたちのものになることでし
 ょう。

  僕は自分の小説を書く傍ら、これまで三十年ばかり積極的に英米文学の
 翻訳をしてきましたか、最初の頃は(あるいは今でもまだそうなのかもし
 れませんが)けっこう風当たりがきつかったみたいです。「翻訳というの
 は素人か手を出すような簡単なものじゃない」とか「作家の翻訳なんては
 た迷惑な道楽だ」みたいなことをあちこちで言われたみたいです。


小説家が賞賛の対象にはなりにくい特殊な性向や、奇妙な生活習慣や行動様式
をもつ人々が92%もいるというこの数字に取り憑かれ、村上春樹の『色彩を
持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の五角数を、あるいはジョンソンの立
体やウランの原子番号や伏見天皇などついつい連想するほど唐突であり、以降
の表現の深さに寄り道ほどに時間を費やしてしまう。さて、残りはまたの日の
楽しみに。

                            この項つづく     

 

 

 

個性的な線状降水帯

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    どんなに壁が正しくて、
            どんなに卵がまちがっていても、
            わたしは卵の側に立ちます。


                 村上 春樹

 



● 個性的な線状降水帯

台風17・18号のダブル台風は甚大な大雨をもたらした。だが、避難指示・
方法・避難施設の瑕疵などをのけば、これはあくまで限定的だが、『デジタ
ル革命渦論』に象徴される科学技術の進歩により刻々と変化する状況を正確
に伝たえることで、かってない人的被害の防止に成功しているようにみえる。
上下の海外メディアの報道写真と報道などにその一端をみることできるだろ
う。心配ななことは福島県飯館村の河川氾濫により除染袋が散乱したとのニ
ュース。福島第一原発周辺の汚染水の拡散の有無も心配だ。



記録的な大雨をもたらした直接の要因は、関東地方の上空に南北に延びた「線
状降水帯」と呼ばれる雨雲の連なり。昨年の広島で土砂災害の大雨もこの線状
降水帯が原因だが、今回の規模は広島の土砂災害を上回る――通常の降水帯は
幅が5キロ程度だが50~100キロに渡る。降水帯が大きくなった最大の原
因は、温帯低気圧に変わった台風18号が日本海上で停滞し低気圧の東側に南
からの湿った空気が流れ込み、東に位置する台風17号の東風が 南風とぶつか
り、南北に雨雲が挟 まれる形で長時間にわたり停滞。加えて、日本列島 の西
の上空に広がる寒気団も停滞たことで、積乱雲を長時間発達させ線状降水帯が
形成させた。なお、98年8月に栃木・福島で大きな被害を出 した豪雨以来
である。このように、線状降水帯と地球物理学、気象物理学が錯綜する現象学
であり、余りにも迷惑な話だが、個性的な気象現象だ。

 

※ この線状降水帯は、軌道衛星気象観測や気象レーザー工学の進歩により次
   々と解析検出できるようになったことが大きく貢献している(上3つ図クリック)。 
 



● 折々の読書 『職業としの小説家』2

「これは村上さんが、どうやって小説を書いてきたかを語った本であり、それ
はほとんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しい。だから、小説を
書こうとしている人に具体的なヒントと励ましを与えてくれることは言うに及
ばず、生き方を模索している人に(つまり、ほとんどすべての人に)総合的な
ヒントと励ましを与えてくれるだろう――何よりもまず、べつにこのとおりに
やらなくていいんだよ、君は君のやりたいようにやるのが一番いいんだよ、と
暗に示してくれることによって。」と翻訳家で東京大学教授(昨年退任)の柴
田元幸が本書の帯でこのように述べている――紀伊国屋書店から村上春樹の新
著『職業としての小説家』が届いた。早速、読み始めた。

   
  ところかその逆の場合、たとえば歌手や画家か小説を書いたとして、あ
 るいは翻訳者やノンフイクション作家が小説を禽いたとして、小説家はそ
 のことで嫌な顔をするでしょうか?たぶんしないと思います。実際に歌手
 や画家が小説を書き、翻訳者やノンフィクショソ作家が小説を書き、モれ
 らの作品が高い評価を受ける場合も少なからず見受けられます。しかしそ
 れで小説家が「素人か勝手なことをしやがって」と腹を立てたというよう
 な話は聞きません。悪口を言ったり、揶揄したり、意地悪をして足をすく
 ったりするようなことも、少なくとも侠が見聞きした限りにおいては、あ
 まりないようです。それよりはむしろ、専門外の人に対する好奇心かかき
 たてられ、機会があれば顔を合わせて小説の話をしたり、時には励ました
 りしたいと思うのではないでしょうか。

  もちろん陰で作品の悪口を言ったりする程度のことはあるかもしれませ
 んが、それは小説家同士でも日常的にやっていることであり、言うなれば
 通常営業行為であって、異粟種参入とはとくに関係かありません。小説家
 という人種には数多くの欠陥が見受けられるけれど、誰かが自分の縄張り
 に入ってくることに関しては概して鷹揚であり、寛容であるみたいです。

  それはどうしてでしょう?

  僕の思うところ、答えはかなりはっきりしています。小説なんて――「
 小説なんて」という言い方はいささか乱暴ですが――書こうと思えばほと
 んど誰にだって書けるからです。たとえばピアニストやバレリーナとして
 デピューするには、小さな子供の頃からの長く苦しい訓練か必要です。画
 家になるにも、ある程度の専門知識と基礎的な技術か必要とされます。だ
 いたい材をひととおり買い揃える必要があります。アルピニストになるに
 は人並みではない体力とテクニックと勇気か要求されます。

  しかしなから小説なら、文章が害けて(たいていの日本人には奔けるで
 しょう)、ボールペンとノートが手元にあれば、そしてそれなりの作話能
 力があれば、専門的な訓練なんて受けなくても、とりあえずは書けてしま
 います、というか、いちおう小説というかたちにはなぅてしまいます。大
 学の文学部に通う必要もありません。小説を肖くための専門知識なんて、
 まああってないようなものですから。

  少しでも才能のある人なら、最初から優れた作品を書くことだって不可
 能ではありません。自分のケースを実例として持ち出すのはいささか気が
 引けるのですが、たとえばこの侠にしたって、小説を書くための訓練を受
 けたことなんてまったくありません。いちおう大学の文学部映画演劇科と
 いうところに行きましたか、時代的なこともあって、ほとんど何ひとつ勉
 強せず、髪を長くして、髭をはやして、汚いかっこうをして、モのへんを
 ふらふらしていただけでした。作家になろうというつもりもとくになく、
 習作を害き散らすこともなく、ある日ふと思いついて『風の歌を聴け』と
 いう最初の小説(みたいたもの)を書き上げ、文芸誌の新入賞をとりまし
 た。そしてよくわからないまま職業的作家になってしまいました。「こん
 なに簡単でいいのだろうか?」と自分でも思わず首をひねってしまったく
 らいです。いくらなんでも簡単すぎる。 

  こういうことを書くと、「文学をなんと心得る」と不快に思われる方も
 おられるかもしれませんが、僕はあくまでものごとの基本的なあり方につ
 いて語っているだけです。小説というのは誰かなんと言おうと、疑いの余
 地なく、とても間口の広い表現形態なのです。そして考えようによっては、
 その間口の広さこそか、小説というものの持つ素朴で偉大なエネルギーの
 源泉の、重要な一部ともなっているのです。だから「直にでも書ける」と
 いうのは、僕の見地からすれば、小説にとって誹膀ではなく、むしろ褒め
 言葉になるわけです。

  つまり小説というジャンルは、誰でも気か向けば筒単に参入できるプロ
 レス・リングのようなものです。ローブも隙間か広いし、便利な踏み台も
 用意されています。リングもずいぶん広々としています。参入を阻止しよ
 うと控えている警備員もいませんし、レフェリーもそれほどうるさいこと
 は言いません。現役レスラーの方も――つまりこの場合は小説家にあたる
 わけですか――そのへんのところは初めからある程度あきらめていて、「
 いいから、誰でもどんどん上かっていらりしゃい」という気風かあります。 
 風通しかいいというか、イージーというか、融通が利くというか、要する
 にかなりアバウトなのです、

  しかしリングに上かるのは簡単でも、そこに長く留まり続けるのは簡単
 ではありません。小説家はもちろんそのことをよく承知しています。小説
 をひとつふたつ書くのは、それほどむずかしくはない。しかし小説を長く
 書き続けること、小説を書いて生活していくこと、小説家として生き残っ
 ていくこと、これは至難の業です。普通の人間にはまずできないことだ、
 と言ってしまっていいかもしれません。そこには、なんと言えばいいのだ
 ろう、「何か特別なもの」か必要になってくるからです。それなりの才能
 はもちろん必要ですし、そこそこの気概も必要です。また、人生のほかの
 いろんな事象と同じように、運や巡り合わせも大事な要素になります。

  しかしそれにも増して、そこにはある種の「資格」のよ5なものか求め
 られます。これは備わっている人には備おっているし、備わっていない人
 には像わっていません。もともとそういうものか備わりている人もいれば、
 後天的に苦労して身につける人もいます。
  この「資格」についてはまだ多くのことは知られていないし、正面切っ
 て語られることも少ないようです。それはおおむね、視覚化も言語化もで
 きない種類のものだからです。しかし何はともあれ、小説家であり続ける
 ことがいかに厳しい営みであるか、小説家はそれを身にしみて承知してい
 ます。


ある種の「資格」とは? これはこの後に触れることとして、『風の歌を聴け』
は"さわやかな青春"として記憶にとどめているが、この「さわやか」の形容詞
に埋め込めたメタファについては改めてここで書くほどのものではないだろう。
ただこの歳になって、この本との出会ったのは、誠に幸運であったと改めて思
い直したところだ。


                            この項つづく

 

   ● 今夜の一冊・一巻

「ガリレオ」シリーズとはまた一味違った、圧巻の社会派ミステリーとなって
います。ぜひ映画と合わせてご覧ください――とは、紀伊国屋書店の「注目の
本・書評でよむ」の受け売り。ならば、近くの映画館で鑑賞しましょう。




 


 

水害と再エネ

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    一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。

                                        村上 春樹

 




【水害と再エネ: 安全第一・生産第二】

8月11日、吸収電力川内原発1号機が再稼働した。これをきっかけに原発時
代に戻るのではないかという不信が日本列島を覆っているかのようにかにも見
えるが、そのようなことはないとわたし(たち)は確信している。忙殺される
毎日ではあるが、本日から適時関連特集としてブログ掲載していく。

 

 化石燃料への依存増大

 既述のとおり、日本の一次エネルギーにおける海外からの化石燃料依存度
は、震災直前(10年)の81.8%から12年には92.2%となり、化石燃
料の輸入増加は、エネルギー分野にとどまらず、我が国の経済上の問題となっ
ている。原子力発電の停止分の発電電力量を火力発電の焚き増しにより代替
していると仮定すると、海外に流出する燃料費は、13年度で約3.6兆円と
試算される。原油、LNG、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は近年上昇し、
13年の輸入額は約27兆円となり、震災前(10年)と比べ、額にして約10
兆円、率にして約6割の増加になる。

 世界の温室効果ガス排出量の増大

 温室効果ガスについてみると、京都議定書の基準年の90年には世界全体の
エネルギー起源二酸化炭素排出量は203億トンだが、11年には3百億ト
ン(約1.5倍)に増加した。この間 中国、インドでは それぞれ3.5倍、
3.0倍に二酸化炭素排出量が増加。今後も新興国を中心とするエネルギー
需要の増加により、世界全体のエネルギー起源二酸化炭素排出量は増えてい
く傾向にある。

 我が国では、温室効果ガス排出量削減のための様々な取組が行われていが
今後、地球温暖化問題を本質的な解決へと導くためには、世界全体の温室効
果ガス排出量を大幅に削減することが急務となっている。 

原子力発電再開により、火力発電向け燃料コストが削減される→収益が改善
すれば、電気料金値下げへの環境が整う。従って、原発再稼働によって収益
が好転した場合、いつ料金値下げするかどうかは電力会社の判断となる。

政府は、現行の料金を認可する際、玄海3号機が12年1月、同4号が13
年12月、川内1・2号機が13年7月からそれぞれ再稼働されることを仮
定した(上表クリック)。その認可原価(13~15年度平均)は1兆46
63億円で、改定前収入に対する不足額1209億円。この不足額が値上げ
分であり、それは川内1号機、川内2号機、玄海3号機、玄海4号機が認可
時の予定通りに再稼働した場合の話。今の時点で川内1号機が2年以上遅れ
てやっと再稼働したわけだが、他の3基のうち川内2号機は来月再稼働の見
通しではある一方で、玄海3・4号機の再稼働見通しは全く立っていない。
川内1号機が再稼働したからと言って九電がすぐに料金値下げできない理油
はこうした点にある(下図クリック)。

さらに、改定前の料金水準にまで料金値下げするには、この4基の正常化が
実現してから相当期間が経ってからということになる。原発事故への不安は
重々理解できるものの、①福島事故は稼働中の事故ではなく、停止中の事故
であったこと、②福島事故時に稼働中の原発は、浜岡4・5号機を除き、そ
の後の定期検査時まで通常稼働していたこと、③原発停止に伴う代替火力発
電向け燃料コストは莫大であること(214年度は3.7兆円、11~14年
度の累計で13兆円)などを総合的に踏まえ、原子力新規制基準への適合へ
の対応については適切な猶予期間を設定しながら、直ちに発電再開をしてい
くことが緊要であるとは(BLOGS「州電力:原発再稼働により5年ぶり
黒字化~電気料金値下げがすぐにできない理由」 石川和雄 2015.09.05)、
元経産省、現社会保障経済研究所代表で原発推進派の見解である。

 

原発の再稼動について、各種世論調査の結果は、反対が賛成の2倍前後に達
している。また、高浜、伊方、大飯など、複数の原発で稼働反対の訴訟が起
こっている。国民が反対する最大の理由は、(1)福島第一の事故がまだ収
束しないこと。原発は必要、と考える人の中にも、「福島が収束しないうち
はダメという声は少なくない。(2)核のゴミの最終処分場の目処が立たな
いことだである。現在、建設が具体化しているのは、フィンランドとスウェ
ーデンの2国だけ。フィンランドの「オンカロ」では、放射性廃棄物を10万年
間貯蔵するが、それだけの長期間安定した地盤は日本にはほとんない。

30年には、発電に占める原発の比率はゼロにしたいところだが、二酸化炭素
削減から難しい。政府は、20~22%と想定しているる(3・111以前は
30%前後)。原発比率低下を補うのが自然エネルギーであり、その大部分を
占めるのが太陽光。

日本の太陽光発電は、14年の1年l間に9百万キロワット超の新設があり、
14年末現在の累計設置容量は2千3百万キロワット達し、年間の総発電量
に換算して230億キロワット時、14年度の日本の総発電量9千百億キロ
ワット時の2.5%に相当。また、今年は動向について、日本太陽エネルー
協会は8月31日、第一四半期(4~6月)の太陽電池モジュールの国内出荷
量が、前年同期比14%マイナスの161万2139キロワットたと発表。
買い取り価格の低下(27円)などの影響で、全体で、は多少減速するが、これか
らも伸びるとしている(地域密着の震電力に期待」村沢義久立命館教授 環
境ビジネス2015年秋季号)。



その理由の一つがソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)。農地の上に太
陽光パネル展開し、発電と農業を同時にやろうというアイデア。日射量を確
保するために、パネル間隔を空けて設置する。日本には450万ヘクタールの
農地があり、その3分の1の面積に、通常の3分の1の密度でパネルを設置
するだけで、総発電量の3分の1を賄うことができる。

「高い」と言われてきた発電コストもすでに1キロワット時当たり16円程度
まで下がっている。逆に家庭用の電力料金は30円程度まで上がっているか
ら、その半額になる。米国のテキサス州とネバダ州のメガソーラー発電コスト
は30円は15%の4.8円以下を記録している。

一方、「安い」と言われる原発のコスト(最近の政府の見直しでは10円程度)
は、テロ対策や、避難所の建設、最終処分場建設にかかる費用などを考えると、
実際には30円を超えると、30年の発電量に対する太陽光の比率について、
政府は7.4%と想定しているが、10%以上を達成できると村沢義久立命
館教授は考えている。


● 地産地消はバッテリーが鍵

また、太陽光発電の最大の弱点が、発電が不安定で、蓄電池との併用が重要。
晴れた昼間に余剰電力を蓄え、夜間や悪天候時には蓄電池からの放電で賄お
う。群馬県上野村では、福祉施設「いこいの里」に災害時の電力確保に71
キロワットの太陽光発電システムと85キロワット時の蓄電システムを設置
した。また、家庭用蓄電池を装備した住宅も現れ始めている。問題は、まだ
コストが高いこと。日本の太陽光発電のコストは16円程度だが、蓄電池を
併設すると、すぐに2倍以上になる。従って、大幅なコスト提言が必須だと
村沢氏は指摘し以下のように論理展開する。

そこに、すごい製品が現れた。アメリカの電気自動車メーカー、テスラから
発表された、家庭用蓄電池システム「パワーウオール」。壁掛けタイプで、
容量10キロワット時のものが、3500ドル(約42万円)。国産品の4分
の1という安さだ。今後、パネル、パワコン共々さらなる価格低下が期待で
いるので、蓄電池込みでも 家庭用電力料金より安くなるだろう。そうなれ
ば電力の地産地消が実現する。

 

 ● 風力、バイオ、水素には疑問

太陽光の次に期待する自然エネルギーは小水力だ。風力は、日本では風況の
悪さと環境問題などの点で難しい。政府も一時は太陽光以上に期待していた
が、現在では、大幅に下方修正している。また、最近、木質を中心としてバ
イオマス発電が注目されているが、20年間にわたる燃料の安定調達と、熱
の安定販売に難がある。また、資源量としても、太陽光より一桁小さなレベ
ルだ。それから、水素関係にもあまり期待はできない。トヨタは14年12
月、燃料電池車「MIRAI(ミライ)」を発表した。「究極のエコカー」とし
て期待する声もあが、水素供給インフラの整備が追いついていないかない。

15年末までに百ヵ所、という目標を立てているが、電気自動車用充電拠点
は1万6千ヵ所(急速6千+普通1万)に上るので比較にならない。エコカー
競争の勝者はバッテリー使用の電気自動車であると考えている。

● 電力自由化を控えて

日本の電力自由化は3段階に分けて行われる。第1段階は「広域的運営推進機
関の設立」で、今年4月より「電力広域的運営推進機関」が業務を開始している。
第2段階は「電気の小売業への参入の全面自由化」で2016年4月に施行される
予定。第3段階として、法的分離による発送電の分離および電気の小売料金
の全面自由化で、20年4月の実施を目指している。自由化を控えて新電力の
入が加速している。8月12日現在、登録されている新電力は734社。全国
展開を目指すものもあるが、太陽光中心の分散電力を支える、地域密着型の新
電力であると述べている。 

ところで、記録的な豪雨で鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市の高杉徹市
長は本日、甚大な被害が出た同市三坂町・上三坂地区の住民に堤防の決壊前
に避難指示を出さなかったことについてミスだったと認め、「そこが決壊す
るとは思っていなかった。大変申し訳なかった」と謝罪している(時事通信)。
また、未確認情報だが、決壊箇所では太陽光ハネル設置工事でトラブルがあ
ったやに流されている(下写真クリック)。



出典:2015年09月10日15:33 | カテゴリ:国内ニュース |「保守情報」

ネットでは「(常総市)5月定例会の議事録が公開 都市計画税/鬼怒川沿
いの太陽光発電所」ここら辺から広がったようだが、デマなのか真実なのか
判明はクエスチョン(要観察)。

太陽光発電協会(JPEA)は9月11日、太陽光発電設備が水害によって被害
を受けた場合の対処について、注意を促した。台風18号の影響による豪雨
で、関東や東北において、大規模な水害が発生している状況を受けたもの。
まず、太陽光発電システムが水没したり、浸水した時の注意として、パワー
コンディショナー(PCS)や太陽光パネルと送電ケーブルとの接続部に、接近
したり接触した場合、感電する恐れがあり、近づいたり触れたりしないこと
を強調している。

漂流物などにより、太陽光パネル、集電箱、PCSが破損したり、接続している
送電ケーブルが切れたりしている場合、水没・浸水時に近づくと感電する恐
れがあるため、近づかないように注意を促している。被害に対処する際の連
絡先として、出力50キロワット未満の太陽光発電システムの場合は販売施
工事業者に、出力50kW以上の場合は選任されている電気主任技術者に連絡し
対策をとるように求めている。

水害の被害を受けた太陽光パネルは、絶縁不良となっている可能性がある。
接触すると感電する恐れがあるという。 復旧作業などで、やむを得ず取り
扱う場合には、素手は避けるようにし、感電対策(ゴム手袋、ゴム長靴の使
用など)によって感電リスクを低減することを求めている。複数枚の太陽光
パネルが、接続されたまま飛ばされたり、流されたりした場合には、接続活
線状態であれば、日射を受けると発電し、高い電圧・電流が発生する可能性
がある。その周辺にロープを張るなど、関係者以外が不用意に立ち入らない
ような対策が必要になる。

浸水したPCSは、直流回路が短絡状態になる可能性がある。太陽光パネルが活
線状態の場合には、PCSに短絡電流が流れることでショート、発熱する可能性
がある。PCSがショートしている状態が見える場合には、販売施工事業者に連
絡し、対応してほしいという。取り扱いにあたっては、安全のため感電対策
を取るとともに、PCSの遮断器を解列することを推めて勧めている。

以上、原発にしろ再生エネルギーにしろ、安全をおろそかにしもうけ主義に
走ると思わぬところで、しっぺ返しを被ることになる。そのとき、施工主や
施工業者はいうに及ばずそれを許可した組織あるいは資本投下した組織や個
人に責任が及ぶことを肝に銘じておかなければならない。わけても、今回、
川内原発を再稼働させた九電経営者などの組織犯罪は、未来永劫忘れ去られ
ることはない。「安全第一・生産第二」である。

                            この項つづく  

 

 

 

 

 

ステラ電池旋風

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  忘れたいものは絶対に忘れられないんです。 /  村上 春樹

 

  

【超高齢社会論 16: 下流老人とはなにか】   

    【目次】

  はじめに
  第1章 下流老人とは何か
  第2章 下流老人の現実
  第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
  第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
  第5章  制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
  第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
  おわりに   

   第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな
                    老後を迎えられるのか

  【いざというときの問題(予防編)】……「受援力」を身につけておく

  予防編の最後は、「受援カ」の育成である。
  受援力は、災害分野でよく聞く概念だ。たとえば災害が発生すると、各地からボラ
 ンティアが被災地に支援に入る,そのボランティア、つまり支援を提供する人々の意
 思や知識、ノウハウを生かすためには、被災地や被災者側がボランティアを上手に活
 用することが重要だと言われている。
  すなわち受援力とは、「支援される側が支援する側の力をうまく生かし、生活の再
 建に役立てる能力」である。

  これは前述のブライドを捨てようという提案にも通じる,じつは支援したいと思っ
 ている人は地域に意外と多くいるが、それらの力を活用して、自分の生活をよりよく
 できるかは、受け手の意識にかかっていると言える。
  事実、10年以上生活相談を受けてきて感じるのは、支援を「しやすい方」と「し
 にくい方」がいるということだ。支援しやすい方の特徴は、話しやすかったり、プラ
 ス思考だったり、自分から積極的に問題の解決にあたったり、自分の問題を把握して
 いたり、ある程度の支援方法や制度を学んでいたりする,気軽に相談に来てくれて、
 問題が複雑化する前にアドバイスできる。

  一方で、支援が困難な方は、かたくなに心を閉ざしていたり、自暴自棄になってい
 たり、マイナス思考で問題解決に対して消極的だったりする。また、問題の所在が把
 握できずにやみくもに行動してしまう場合もある。これらが何よりも問題なのは、支
 援者との間に信頼関係が築けないということだ。するとたいてい、支援はうまくいか
 ない。受援カが弱い事例の特徴である,
  貧困に陥り精神的にショックを受けたとき、普通なら当たり前の感情が失われてし
 まうのもやむを得ない。しかし、専門家や支援者のノウハウを最大限活用して、その
 力を引き出せるか否かは、当事者の方たちの「貧困から立ち直ろうとする前向きさ」
 にかかっている。支援者が即座に支援をはじめられるか、あるいは信頼関係の構築か
 らはじめなくてはならないかによって、問題解決までの時間や道筋も異なってくる。

  問題が発生したら早めにに相談し、速やかに支援を受けられるような体制と心構え
 を自分のなかで整備しておく必要があるだろう。

                      幸せな下流老人の共通点

  ここまで下流化への対策と予防策をいくつか列挙してきた。これらを踏まえて準備
 しておけば、むやみにおびえたり、不安に思う必要はないだろう。
  じつはわたしが知っている貧困高齢者にも、幸せな人はたくさんいる。不幸せな人
 との違いは明らかに「人間関係」にある。現状において、わたしたちが下流老人にな
 らないための具体的な対策は、貯蓄や制度の知識を得ておくことぐらいだ。しかし、
 実際には貯蓄があっても、下流になるときは、なる。それは第2章、第3章でも示し
 たとおりである。人生とはそういうものであり、思い通りには進まない。

  だから、豊かな老後を送るためには、お金以外の部分、すなわち豊かな人間関係を
 築いておくことが大切だ。
  20~50代前半の人は仕事中心、経済優先の生活がある。家庭や友人関係などを
 省みることなく、ひたすらに働いているという人も多いかもしれない。
  だからこそ、老後が見えてきた50代後半からは、配偶者や子ども、家族、友人など
 の周囲の人間関係を大切にしたい。要するに、経済優先の生活から人のつながりを中
 心にした生活に、価値観をシフトチェンジしていく必要がある。それがやがて、自分
 自身を救うセーフティネットとして機能することになるだろう。そして、楽しみや生
 きがいを共有する心強いパートナーを得ることにもつながるのだ。

  人生は長いし、苦難が多いと思っている,その苦難を一緒に乗り越えるためにも、
 一人よりは二人、二人よりは三人と、自分の苫しみを理解してくれている人がいれば、
 下流老人の問題にも立ち向かえるだろう。
  わたしは本書において、「関係性の貧困」を克服することが重要だと繰り返し述べ
 てきた。関係性の貧困がなくなれば、誰かしらが声をかけ、手を差し伸べ、日常生活
 を充実させられる。

  わたしが知る限りでも、たとえば72歳の貧困男性が、中小企業の社長と居酒屋で
 知り合って仲よくなり、それ以降飲み友達になったという楽しそうな例がある。また、
  68歳で女性とお付き合いを始めた男性もいる。肢はファミリーレストランで、一
 人で食事をしている50代後半の女性に話しかけたそうだ。彼らはお互いに寂しさを
 抱えており、話し相手がほしかったという。いつもファミリーレストランで、お茶を
 飲んだり、おしゃべりをしたりと、日々の生活を楽しんでいるという。

  これらの事例をいくつも見ると、「幸福」をどう捉えるかは個人次第であると感じ
 る。最低限度の生活保障は必要だが、それと同時に、文化的な暮らしを維持できるか
 は、老後の人間関係が大きく左右する。
  あなたは、老後になっても付き合いたいと思う人、またはそばにいてくれる人が、
 身近にいるだろうか。そのような人々との出会いは、今からでも遅くないと思うし、
  そのような人々が身近にいてくれたら、きっと絶望や寂しさを分かちあえるだろう。
 そしてこの「分かちあい]が、人生の幸せや満足度に大きく影響することは、言うま
 でもない.

   第7章 一億総老後崩壊を防ぐために

  最後に、わたしなりの下流老人に対する提言をまとめておきたい。
  下流老人の問題が、人間のつくった社会システムの不備から派生しているものであ
 るなら、その社会システムを変革できるのもまた、人間である。これからのあるべき
 社会のビジョンを示しながら、わたしたちの社会をどのように構築し直していけばよ
 いのか、やや挑戦的、試行的に述べたいと思う。
  これらの提言がいくつかの議論を起こし、これからの社会保障や社会システムの発
 展にとって、建設的なものとなれば幸いである,

                   下流老人は国や社会が生み出すもの

  まずは政治ができることだ。「一億総老後崩壊」を防ぐためには、どんな政策が必
 要か考えてみたい。わたしは政策によって、下流化はある程度抑制できると思ってい
 るが、一億総老後崩壊時代の足音はすぐそこまで追っており、対策は「待ったなし」
 だ。

  まず、貧困は見えないのではなく、見ようとしていくこと。すでにわたしたちの周
 囲にあるという前提で制度を考える必要がある。そして、下流老人の問題を「自分事」
 として考えるよう意識を変えていくことから始めたい。
  しつこく繰り返してきたとおり、下流老人を生み出すのは国であり、社会システム
 である,下流老人やその家族だけの問題ではない。したがって当然ながら、対策を行
 う主体も国や政府であるべきだ。日本に貧困があることを認め、格差是正や貧困対策
 を本格的に打ち出すことが何よりも必要だと言えるだろう,

  貧困に対して真剣に向き合わない国に、未来はない。貧困による悲惨な現実を直視
 し、当事者の声から社会福祉や社会保障を組み立て直していくことが求められる。

                      日本の貧困を止める方策は?

  下流老人の問題が、今後ますます進行する理由の一つに、若年層や子どもの貧困が
 ある。ワーキングプアや非正規雇用の増加に伴い、働く世代の貧困も顕著に増加して
 いる。OECDが発表した「対日審査報告書(2012年版ごによると、日本の相対
 的貧困率は、16・1%(2012年)に達し、過去最悪の高さを更新し続けている。
 これはOECD加名国34か国のうち、6番目に高い数値だ。また、子どもの貧困も
 16・3%(2012年)と高い水準にある。

  これは多くの専門家も指摘しているが、若者の貧困、子どもの貧困は、その後の世
 代においても格差を固定する。家庭の経済事情によって十分な教育を受けられず、生
 涯低所得の仕事にしかつけない人々が繰り返し生み出される危険性がある。
  そしてこれは低年金や無年金問題、無保険問題の要因となり、将来の下流老人を生
 み出すことにもなるだろう。要するに、これ以上相対的貧困率が上がらないように抑
 制しなければ、社会が持続可能性を失ってしまう,速やかに貧困率の削減数値目標を
 設定し、そのための具体的な施策を行う必要がある,
  
  具体的には、貧困対策基本法の法制化をし、国民の防貧や救貧対策を国家戦略とし
 て強化する方向に議論を進めたい,課税対象については、資産や所得を総合的に含め
 て議論し、取れる層から徴収することで所得の再分配機能を高め、社会保障を手厚く
 していくことが不可欠だ。下流老人がいる一方で、金持ち老人が大勢いるのもまた事
 実であり、再分配による支えあいが必要なことは言うまでもないだろう。

  しかし、社会保障を手厚くするために再分配機能を高めれば、資産家や高所得者は
 海外に逃げてしまう、もしくは労働意欲が減退して課税効果が上がらないといった指
 摘もある,これについては引き続き、高所得者の逃げ場である「タックスヘイブン」
 の対策も含め、グローバルな睨点での議論が求められるだろう。

                    制度をわかりやすく、受けやすく

  また、下流老人になってしまったら、生活保護制度を中心に社会保障を利用する必
 要があるが、これまでに述べてきたとおり、生活保護には根強いスティグマ感(恥辱
 感)が植えつけられてきた。生活保護を受けるのは恥だと言わんばかりに、制度があ
 るにもかかわらず、利用しない(できない)人々は相変わらず多い。

  だが一方で、年金をもらうことに対しては何のためらいもないし、ごく当たり前の
 権利として受け取っている。介護保険も近年では徐々に一般的になってきて、ヘルパ
 ーやデイサービスなどを利用する高齢者も多い。
  介護保険制度を抵抗なく利用できる理由の一つは、介護保険料を支払っているとい
 う「権利意識」である。これまで保険料を払ってきたのだから、利用して当然(ある
 いは、利用しないと損する)と思うわけだ,しかし年金も介護保険も、保険料以外に
 一定金額の税が役人されている。もし生活保護受給者を一方的に批判するなら、年金
 の相当な減額や介護保険のサービス劣化も覚悟しなければならないはずだ。

  一方、生活保護は保険料拠出によらない「無拠出型」の社会保障であり、100%
 税が役人されている。だから反感が強いのだろうか。しかし、児童手当や児童扶養手
 当にしても、保険料を払わなくとも給付されるものだが、それらを受給している子育
 て世帯に、生活保護受給者ほどのスティグマ感があるようには思えない。なぜ生活保
 護だけに厳しい目が向くのか。ここからも貧困に対する特別の偏見や差別の目が垣間
 見られる。

  このような状況を打開するには、何よりも生活保護を受けやすく、わかりやすく広
 報していくことが求められる。政府や自治体は下流老人に対して、生活保護で救済で
 きることをちゃんと知らせ、窓ロヘ申請に来させる必要があるだろう。
 下流老人の「オカミ」意識は強い。「オカミ]から呼びかければ、生活保護申請に至
 る人々も増え、多くの人が救われるように思う。

  2016年からは、すべての国民の所得や税の納付状況などを、原則一元的に把握
 するため「マイナンバー制度」が本格実施される。これにより政府や自治体は、生活
 困窮者や下流老人の存在をよりはっきりとつかめるはずだ,納税や保険料徴収作業の
 効率化のためだけでなく、最低生活費に満たない状況で生活している高齢者への生活
 保護の広報や情報告知にも活用してほしい。

                           生活保護を保険化してしまう!?

  また、これはやや挑戦的になるが、そろそろ「生活保護の保険化」を検討してもい
 いのではないかと思っている。家族以外の誰かの手を借りることをとくに嫌う日本人
 が、なぜ介護保険制度のサービスは利用するのか、何が利用のインセンティブにつな
 がるのかを検討すると、ひとつの要因は、やはり保険料拠出にある。だったらいっそ
 のこと生活保護も保険化してしまえば、年金や介護保険などと同じように、「保険料
 を払ったのだからサービスを受けて当然」といった発想を持ちやすくなるだろう。
  生活保護の財源は、すべての国民が月額100円(建前的金額)でも拠出するよう
 にすればいい。大切なのは、この保険料を支払うという行為を通じて「施し意識」か
 ら「権利意識」にシフトさせ、もっと気軽に受給できるようにすることである,

  本来、生活保護など救貧制度は、無拠出型の給付であることが大原則であり、社会
 保障の鉄則である。しかし、ここまで根強い差別感情にさらされてしまうと、制度を
 しっかり機能させるには、並大抵の改善では効果が見られない。生活保護の財源拠出
 化・保険料化による制度利用の促進政策を進めることに議論の余地はあるだろう。
  生活保護への偏見や差別を残したまま、団塊世代や次世代の高齢者に対する新たな
 施策を打ち出さない状況が続けば、近い将来、孤立死や餓死はさらに拡大していくこ
 とになろう。団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に突入するころには、生活保護制度
 を今よりも確実に機能させないと、多くの高齢者や下流老人の生活が破綻し、命が失
 われろ。
 「生活保護制度のごく一部保険化」というのは奇策であることに注意しながらも、生、
 何が必要かを検討すべき時期にある。


                                            藤田 孝典 著『下流老人』

                                                   この項つづく

 

【エネルギー政策: ネクスト・ディケイド】

この10年は、誰も予期しなかった、世界史的なエネルギー変革が進展してきており、そ
の変化は加速している。世界全体で5千万キロワットだった風力発電は、14年だけで同
規模が増え、累積では原発の発電容量と肩を並べた。世界全体でわずか300万キロワッ
トだった太陽光発電は、14年だけで4千キロワット増え、累積で原発の発電容量のほぼ
半分に遠した。14年に世界で新設された電源の6割が自然エネルギーで、その投資額も
約36兆円と記録を更新。今や自然エネルギーは、エネルギー供給、地球温暖化対策、産
業経済投融資機会、雇用創出、地域活性化などで中心を占め、この間に国際自然エネルギ
ー機関も誕生したと述べ、日本の、国営・独占・大規模集中型の「エネルギー1.0」から、市場・
規制緩和の「2.0」へ、分散型でオープンな自然エネルギーの「3.0」へと移行し、確実なトレン
ドや変わらない要因を踏まえ、不確実で影響の大きな2つの要因外部的なコンチンジェンシ
ーと自らの挑戦を変数にし、次の「エネルギー4.0」を考察する(「加速する世界のエネルギ
ー変革」飯田哲也 環境ビジネス 2015年秋季号)。

そこでは、ジーメンスも2011年に原子力事業を売却し再エネをエネルギー事業の中核
に位置づけ、世界最大級の電力会社エオンは214年末、今後の事業の軸を再エネにする会
社分創案を発表。対照的に原子力は、世界的に新設は数えるばかりでいずれも遅延と高騰
のため金融機関に敬遠されつつある。アレバは建設中の原子力事業の損失などで14年に
6千億円規模の赤字を計上しEDFに事業売却。日本でも東芝、日立、三菱重工業とも原子
力事業の苦戦を指摘する。

● 逆走と混迷の日本

日本は、そうした世界の潮流に背を向けてきた。OECDでは例外ともいえる電力地域独
占が今なお続き、エネルギー市場や政策、政治にも大きな影響力を持っ続けている。エネ
ルギー政策もパワーエリートに閉じた中央集権で、06年の「原子力立国戦略」に象徴され
る原発と石炭中心の大規模集中独占型で、部分的に自由化された「エネルギー1.5」に留ま
るとして、福島第一原発事故以後、日本のエネルギー政策は混迷の時代に入った。安倍政
権誕生後は脱原発を望む多くの国民の声を無視し、原発輸出、エネルギー基本計画(14年4
月)、「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)」(15年6月)と鮮明な原発回帰
を打ち出し現実離れすると指摘。 

15年12月のパリ気候変動サミットで京都議定書に代わる新しい長期的な枠組みが決まる
など、気候変動の制約が強まり、自然エネルギーは、温室効果ガスの抑制とエネルギー安
全保障、さらに産業経済の成長の3挙両得の中心的な施策であり、十分なコスト競争力だ
けでなく、コンピュータと同じく「ムーアの法則」(技術学習効果)に今後も継続的に性能の
向上と価格低下が続く。もう一つの重要な原動力は、地域コミュニティで地域資源の自然
エネルギーを活用し、自立する動きとまた、インテリジェント化の流れが世界を席捲して
いる。

デンマークやドイツ、スペインで風力や太陽光などの変動する自然エネルギーが50%や
時には百%を超える比率で入る電力系統運用では、もはや「ベースロード電源」という概念
が消え、代わって「柔軟性」がクローズアップ、市場活用、リアルタイム気象予測、需要側
の応答などを活用して「柔軟性」を高め、デンマークは「第4世代地域熱供給」というコン
セプトで、コージェネや地域熱供給が電力市場へ柔軟に参加。同上飯田氏は、新たに「共
有経済」や「脱物質経済」の――かつてのシンプルライフや里山の暮らしが現代の情報通信を
駆使してアップデートされ――新しい社会モデルになりうる流れを加える。 

● 日本は跳躍できるか
                          
片や日本は、ムーンウォークのように、既得権益の抵抗と官僚主義が「拘束衣」とで変革が
止まった状態と指摘する。公開され傍聴できるが形式張った「審議会方式」の実態は閉鎖的
で形式主義で硬直し原発・石炭中心主義、国家市場主義で、2~3年のローテーションで
着任官僚が全権で担当のエネルギー政策や施策を定めていくため、とても知を積み重ねる
エネルギーインテリジェント化は期待できず、むしろ官僚のご都合主義で歪められる期待
できないときわめて悲観的で、それでも閉鎖プロセスをオープン・イノベーションの場に
転換できるかにかかっていると結んでいる。 

 
【ステラ電池旋風】 

テスラ・モーターズは、家庭・法人・電力会社向けの蓄電池「テスラ・エナジー」を発表。
マスク最高経営責任者(CEO)が、カリフォルニア州ホーソンにあるテスラのデザイン
スタジオで記者会見。同CEOは「われわれのゴールは、世界がエネルギーを利用する方
法を根本的に変えることだ。世界のエネルギー・インフラを完全に変えることだ」と強調。そのう
ち、家庭用の蓄電池の名称は「パワーウォール」。設置業者向けの販売価格は、10キロワット時
モデルが3500ドル(42万円)、7キロワット時のモデルが3000ドル(36万円)(インバーターや
設置費用は除く)。テスラは、蓄電池事業の粗利益率は第4・四半期は低水準にとどまるが、着実
な成長を続け、来年には採算性が好転すると予想する。調査会社IHS・CERAによると、世界の
蓄電池産業は12年は2億ドル規模だったが、17年までに190億ドルに成長する見通しだ。 

ただ、その実力はというと、国内メーカーとの比較資産では、大幅なメリットは期待でき
ないとの報告がある。例えば、テスラの家庭用蓄電池パワーウォール(7キロワット時)
の費用対効果計算では、導入環境消費電力月平均:270キロワット時/蓄電池を使って
毎日3.7キロワット時を昼夜電力融通/月額電気代で約2千円削減との前提で、以下の
様となる。

 

ただし、系統連携をせずテスラのパワーウォールで自給自足(オフグリッド)生活をした
場合のコストをシミュレーションした例では、月の平均消費電力5百キロワット時の家庭
が太陽光発電9キロワット時と、パワーウォール3台(21キロワット時)を総額約22
8万円で設置を前提とすると以下の通りとグリッドパリティが達成さる。

 

ステラモーターズの技術開発経過を見てみると、メーカならではの技術蓄積があるようだ。したが
ってステラの価格の1/2以下に圧縮することも可能だと考えている。これは面白い。
 


 
特開2013-243913 高電圧バッテリパックの二次サービスポート

 

※ 関連米国特許  

9,083,064 Battery pack pressure monitoring system for thermal event detection 9,046,580 Battery thermal event detection system utilizing battery pack isolation monitoring 9,045,030 System for absorbing and distributing side impact energy utilizing an integrated battery pack 9,043,623 Host initiated state control of remote client in communications system 9,040,184 Battery pack dehumidifier with active reactivation system US 9030063 B2 Thermal management system for use with an integrated motor assembly 9,020,771 Devices and methods for testing the energy measurement accuracy, billing accuracy, functional performance and safety of electric vehicle charging stations 8,970,237 Wire break detection in redundant communications 8,970,182 Fast charging of battery using adjustable voltage control 8,970,147 Traction motor controller with dissipation mode 8,968,949 Method of withdrawing heat from a battery pack 8,965,721 Determining battery DC impedance 8,963,494 Charge rate optimization 8,940,446 Solid state lithium-air based battery cell US20130196184 Battery module with integrated thermal management system 8,899,492 Method of controlling system temperature to extend battery pack life


 

 


逆行するエネルギー政策

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     インターネットで「意見」があふれ返っている時代
                         だからこそ「物語」は余計に力を持たなくてはならない。

                                                                             村上 春樹

 



【ネクストディケイド:逆行するエネルギー政策】

● 原発か再エネか それが問題だ

ハムレットの台詞が似合いそうな日本のエネルギー政策の10年だが、欧米先進国
の動向を俯瞰すると見えてくるものがある。上グラフ参照――図は主要先進国の電
源構成各電源のキロワット時の割合の変遷であり、90年を基準として現在までの
各電源がどれだけ増減したかを示す。主要先進国全体の傾向としては(1)石油火
力と石炭火力を減らしながら(2)再エネ(とりわけ風力)とガス火力を増やすとい
うトレンドがある。その理由は (1)二酸化炭素削減、(2)ロシア・中東依存の
軽減などエネルギー安全保障に、(3)北海油田の枯渇に伴う海洋産業の産業転換
など、国家戦略に依存していると分析 (出典:「次の10年は冷静国際情報分析か
ら」」・安田 陽 環境ビジネス 2015年秋季号)。

これに対して日本は 「再エネを増やさず石炭を大きく増やしている」ことが、明
らかであり、主要先進国の動向と逆行する。また、再エネを増やすということは、
日本ではあたかも国民負担を増やし経済を疲弊させる主張が多いが、海外での認識は
真逆――再エネは経済の牽引役であり、電力インフラ投資の起爆剤とみなされてい
る――を行く。90年代にバブル経済がはじけて以降、電力需要が伸び悩み電カイ
ンフラヘの投資が20年以上冷え込みデフレに悩んでいる。欧州でもGDPや電力
需要の伸びは劇的に増えていないが、近年、海底ケーブルをはじめとする電カインフ
ラの投資が突出している。

下図は、欧州送電系統事業者ネットワ-ク(ENTSO-E)による「系統10ケ年計画」
(TYNDP)の一例であるが、ここでは陸上送電線および海底ケーブル両者とも
実に1万8千キロートル近くの新設が計画されている。電力需要が増えていないに
も関わらず、なぜ送電インフラの投資が活況になる理由が、電力自由化後の"適切な
市場設計・制度設計"だと指摘する。 



それによると、送電部門は発送電分離後も引き続き独占部門として規制機関の強い
監視下に置かれることになる。現在の日本では、このような独占部門に対して総括
原価方式が適用されているが、この方式は経営効率やイノベーションに対するイン
センティブが低いとされている一方、欧州や北米ではプライスキャップ方式やレベ
ニューキャップ方式と呼ばれる新たな規制方式が作られ、規制下でも企業努力により
収益が増えたり、努力を怠れば減益するという張感が生まれる。また、電力市場取
引により再エネによる電力を長距離輸送する国際連系線の利用が活発になり、投資
回収が速まり、再エネは燃料費が無料で、電力市場価格を押し下げる働きがあり、電力消
費者にとってもメリットがあるが、化石燃料のように価格変動リスクに悩まされるこ
とはもないため投資家にとっても資金回収しやすく堅実な投資対象――コストをか
けてもメリット(便益)があることが実現可能性研究(FS)や費用便益分析(CBA)
などの手法で裏付けられ――となっている。

● 日本はなにをするべきか

日本では、政策決定者やジャーナリスト、技術者や投資家に至るまで冷静な海外情
報分析がされず、一般国民に公平公正な情報がもたらされないという「情報鎖国」の
状態にあると言われる。日本にもたらされる欧州の情報は「うまくいっていない」
情報が圧倒的に多いが、実は送電インフラ投資のように「うまくいっている」こと
も当然ながら多数ある。もちろんその過程で試行錯誤もあり、例えばドイツの国内
送電線の建設の遅れなどもあるが、それらの問題を着実に克服してきている。
   i
次の10年、日本のエネルギービジネスには、(1)まず、先入観のない公平公正な
海外情報すること、(2)次に科学的な実現可能性研究や費用便益分析を行い、再
エネ大量導入や送電線建設の意義を確認することである。(3)再エネは、もはや
技術的問題ではない。制度や政策の問題であり、人々のマインドセットの問題であ
ることを確認しておくことが大切である。

※ プライス・キャップ方式とは、電話料金などで採用されている料金査定制度で、提供す
  るサービスごとの収入の上限だけを規制し、上限以下での価格設定は自由に行えるよ
  うにした方式。インセンティブ規制の一種で、設定価格に一定の自由度を与えることで、
  事業者の経営効率化の促進が行われることを目的としている。

 


JP 5555848 B2 2014.7.23


● 基板を加熱せずITO透明電極膜を作製!

 

山口大学の諸橋信一教授は独自開発のスパッタ(成膜)装置で、基板を加熱するこ
となく低抵抗率・高透過率の「インジウム・スズ酸化膜(ITO)透明電極膜」を
作製した発表。LEDや太陽電池用の電極膜が高額で複雑な設備を使わずに作製で
きる。 

LEDなどの薄膜材料は、硬くて重いガラス基板から薄くて軽いポリエチレンテレ
フタレート(PET)フィルムなどにシフトが進む。一般的なスパッタ装置では数
百度Cに基板を加熱する必要があるが、高温や処理剤で基材が損傷するなど作製過
程で課題が多い。諸橋教授のグループは方式が異なる2種類のスパッタ装置の原理
を応用した。ハイブリッド対向スパッタ」と名付けた装置は、内部の可動棒磁石を
左右対称・非対称に移動させることで対向ターゲット間の磁場分布を変化させ、薄
膜作製に最適な磁場分布やプラズマ状態を形成する。基板の水冷は不要。レジスト
の損傷もなく「毎分142ナノメートルの速度で堆積可能なITO透明電極膜が形
成できる。将来は、山口ティー・エル・オーを通じ民間企業に量産装置として技術
移転したい考えという。

わたしが、減圧ドライ成膜方法に調査研究を開始したのが15年前ごろであり、同
上教授は90年はじめから富士通で半導体素子の研究開発従事、10年後に減圧薄
膜装置の開発を開始しているから同じような時期に当たるが、ダメージ問題とスル
ープットが遅いという課題をそのように克服するか調査研究していた頃が懐かしく
思い出すが。

さて、スパッタは、基板材料の種類を問わずどんな材質の膜でも有毒なガスを使用しない
で安全に比較的簡単な装置で薄膜を堆積できることから、各方面において広く使用されて
いる。 この技術開発は、 より高密度プラズマ状態でのスパッタを実現するため、自発と誘
発電子ビーム励起プラズマを利用した薄膜作製装置で、磁束漏洩問題解決のため、回転
できる多面体型の回転軸に平行なそれぞれの面にターゲットを配置した多面体ターゲット
ホルダー一対が対向する配置し、多面体ターゲットホルダーのそれぞれのターゲット裏面
に配置する磁石の作る磁束線が、多面体ターゲットホルダー内面において完全に閉じるよ
うに、磁石の極性が交互に変わるように配置することで(下図参照)、 高速・低温スパッタ
が可能な従来の対向ターゲット式スパッタの特長を持ち、磁束漏洩防止に大型化するう
構造問題を解決し、構造の小型化、マルチターゲット化と真空装置の小型化により、コスト
逓減に有利な多層薄膜構造もち、より高密度プラズマ状態でのスパッタを実現し、
In-situで多層薄膜構造の高真空・高速・低温スパッタを可能とするものである。

高速・低温スパッタが可能な従来の対向ターゲット式スパッタの特長を持ちながら、
磁束漏洩の防止のために大型化するという構造上の問題を解決し、構造の小型化、
マルチターゲット化及びそれに伴う真空装置の小型化により、コスト的に有利な多
層薄膜構造を作製でき、更に、対向するターゲット間の誘発電子ビームに自発電子
ビームを上乗することで、より高密度プラズマ状態でのスパッタを実現し、In-situ
で多層薄膜構造の高真空・高速・低温スパッタが可能な薄膜作製装置を提供できる
効果がある。

 

  特許5688664
膜厚方向に組成比が連続的に変化した薄膜の製造方法

また、一対のターゲットホルダーが対向して設けられ、各ターゲットホルダーには
それぞれ異なる材料よりなるTiターゲットとSiターゲットが配置され、各ター
ゲット上には、それぞれ磁束線のループを形成可能であり、また、両ターゲット間
にも磁束線形成可能である磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、各対向するタ
ーゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線
の強度割合を連続的に変化させつつスパッタリングすることを特徴とし、基板上の
厚さ方向に組成が連続的に変化した傾斜型組成薄膜(グラデーション)の製造方法
を実現することで、厚さ方向に組成の変化する薄膜、例えばルゲートフィルタ等を
容易に作製し得る薄膜の製造方法を提供する新規考案である。

以上、今朝ざっくりと俯瞰してみたものをまとめた。この装置がどれほど実用に耐
えうるかはユーザ次第ではあるが、大変、面白い技術だ。


● オランダ・ズンデルトの花の山車2015

 

 

 

ゴッホが生まれた地として知られるズンデルトにて、年に一度の花パレードを開か
れた。花を使って作られた山車が町の中を練り歩いて、魅力的ですばらしい。ゴッ
ホひとりでこれだけ盛り上がるというのか、これは驚きだが、百年後には" 聖ゴッ
ホ・ディ"と呼ばれているのではないだろうか。

 

次世代電力のフロンティア

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     人は原理主義に取り込まれると、魂の柔らかい部分を失っていき
                        ます。  そして自分の力で感じ取り、考えることを放棄してしまう。

                                                                                    村上 春樹

 

 

 

【ネクストディケイド:縮小する電力市場】

● 今後、電力市場は縮小傾向に

日本のエネルギー分野では半世紀に一度と言われる大きな制度改革が進み、30兆
円と言われる巨大な市場の変革に関心を寄せているが、ビジネスチャンスには、市
場動向を冷静に見極める必要がある。

まず、市場規模について考えると、日本の電力市場は縮小傾向にある。これまで民
生分野のエネルギー消費は増加傾向にあったが、住宅やオフィスの規模、電力消費
機器の数、世帯数等の増大はピークを越え、今後は省エネルギーや人口減少の影響
が徐々に顕在化し産業分野では、円高の是正で国内回帰の動きがあるとはいえ、製遺
業が収益の中心を海外に据え地産地消の生産体制を整備していく方向性は変わらな
い。産業分野でも省エネルギ-は着実に成果を上げる。日本国内で電力消費が増え
る要素は見当たらないという(「電力市場のフロンティアを目指せ」井熊 均 環境
ビジネス 2015年秋季号)。
 |
つまり、電力市場への新規参入者は、市場規模が減退する中で、電力会社に挑むこ
とになる。現状では、PPS が電力会社より安い単価を示すことで顧客を獲得できる
が、いくつかの理由で、電力会社のコスト競争力を回復する。(1)一つは、原子
力発電所の復帰である。九州電力の川内原子力発電所が再稼働を果たしたことで、
原子力規制委員会が示した基準をクリアした原子力発電所は順次復帰することにな
る。国が行ったコスト検証によれば、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け
て、原子力発電所のコストは大幅に上昇したが、中には損益に直接反映されないコ
ストも含まれているため、原子力発電の復帰によるコスト効果は見た目以上に大き
いことを挙げている。(2)2つめは、火力発電でも電力会社のコスト改善が効果
を上げる。電力自由化を控えてコスト競争力の高い石炭火力が次々と建設されてい
るが、多くは電力会社に電力を供給することになる。LNG火力については 東京電
力と中部電力の提携等によりLNGの調達力が向上し、発電単価を押し下げる。さ
らに、原子力発電の停止と安定供給に関する責任意識で稼働させてきた老朽火力が
順次停止され、発電効率の低い発電所ヘリプレース(置き換え)される。

● 新規参入者が目指すべきもの 

こうした観点から、10年後の電力会社のコスト競争力は今よりも格段に高くなる
と考えるべきだ。再生可能エネルギーを除くと、新規参入者の電源の殆どはLNG火
力になるから、対抗するのは容易ではない。電力取引等監視委員会が設立され、公正
な電力市場が作られている。くが、公正で中立的であるほど、電力市場の勢力は集約
されていく。電力に限らず力のある者が勢力を拡大し、少数の強力な事業者が影響
力を持つのが市場の姿だ。そこで不自然に事業者を増やすことは、必ずしも国民視
点に敵った政策にはならない。電力市場における新規参入者の政策的な存在意義は、
少数の電力会社による過度の寡占を防ぐことに尽きる。一方で、強力なエネルギー
関連企業が誕生することは、エネルギー資源の調達力の向上、新興国等におけるエ
ネルギーインフラ市場での競争力の向上などにより、日本経済に貢献できる。産業
政策の観点に立てば、国際市場で競争力のある強力な事業者の輩出を目指すことは
妥当なのだ。

● 三つのフロンティア

このように既存の電力市場での競争は新規参入者にとって厳しいものになる。その
中で、新規参入者が目指すべきなのは電力市場ヘフロンティアであるべきだ。電力分
野では3つのフロンティアを挙げている。(1)第一に、当然のことながら、再生
可能エネルギーである。しかし、今後の再生可能エネルギーの投資は限られたもの
にならざるを得ない。当面重要なのは、過大な買取価格によって認定さた7千万キ
ロワットもの太陽光発電をいかに有効に活用するかだからだ。固定価格買取制度が
歪んだ形で運営されたことは、持続性のある再生可能エネルギービジネスの芽を摘
むことになったのだ。その他の電源については、技術開発と地道な導入に焦点が当
てられるだろうからバイオエネルギー、地熱などを中心に地域密着型で持続性のある
モデルの立ち上げに力を入れるべきだ。

(2)第二に、需要制御だ。ITの飛躍的な進歩によりあらゆる場所で安価に電力
需要の管理・制御ができるようになった。エネルギー業界から目を広げれば、lndus-
try 4.0, 1ndustriaU lnternet、loT  などの言葉で指摘されるように施設、設備のデジタ
ル制御は最も注目される事業分野である。社会基盤におけるエネルギーの重要性を
考えると、エネルギー分野で事業モデルを築いた事業者はこうした成長分野でビジネ
スを拡大できる可能性がある。エネルギーを次世代ビジネスの起点にするという考
え方だ。

(3)第三に、分散型エネルギーだ。10年代になって、家庭用燃料電源勁く、大
幅な性能アップと価格低減を実現しつつある。自動車分野ではトヨタの燃料電池自
動車ミライが画期的な価格で市場投入された。燃料電池のブレークの背景には大き
な技術革新のトレンドがあるから分散型エネルギーシステムは今後も価値を高める。
東日本大震災以降、自立的なエネルギーシステムヘの関心を高めた需要家の意識が
合わさって分散型エネルギーーがエネルギーー供給のでのシェアを拡大するのは間違
いない。エネルギー自由化の議論では、既存の電力市場の分け前にあやかりたいと
いう意識が垣間見えた。しかし、本来、新規参入者はイノベーションによってフロ
ンティア市場を切り拓くことで存在感をアピールして欲しい。上述したように、市
場動向を整理すれば、目指すべき市場が見えてくるはずだ。以上が日本総研の井熊
均氏の論点である。 

 

読み進めているうちに、『環境ビジネス』の記事なのかと疑ってしまった。つまり、
「総括原価方式」「ベースロード」の至上主義の「原発再稼働先にありき」という
露骨な経理上のご都合で、「再生可能エネルギーが入りこむ余地をなるべく限定さ
せておきたい,可能なかぎり閉め出したい電力会社の経営姿勢」の代弁者ごとき発
言のように受けとれる。九州電力の川内原発とその黒字化発言の「証拠・根拠;evi-
dence」等の資料を持ち合わせていないので、明確に反論できないの残件扱いとして
おく。参考までに下表(出典:「東京電力の料金原価に基づく原子力発電の費用」
竹濱朝美)と関連部分の抜粋を参考に掲載しておく。


  原発は再生可能エネルギーより大きな負担 電力会社と原子力を推進する人
 々は、2012年7月から開始した再生可能エネルギー電気の固定価格買取制
 (以下,買取制と略す)が電力料金を高くすると批判している。しかし実際に
 は,原子力発電にかかる原価は,太陽光発電余剰電力買取制(以下,太陽光余
 剰買取制と略す)や再生可能エネルギー買取制の賦課金よりも、大きな負担に
 なっている。これについて説明しよう。

  前述のとおり、東京電力の原子力発電にかかる費用は新料金原価の11.7
 %であったから(表4、6),電力消費1 kWhあたり2.96円、1月で88
 8円になる(電力消費が300kWh/ 月のモデル家庭)。他方、太陽光余剰買
 取制の付加金は1 kWhあたり0.06円,再生可能エネルギー買取制の賦課金
 は、0.22円である(表7)。再生可能エネルギー賦課金は、原子力発電に
 かかるし、残りの半分は50年間の貯蔵後,再処理を行う場合でも、使用済み
 核燃料の処理費用は、1.3~2.2円/kWh必要とされている。原子力発電に
 は、現在の料金原価に加えて,使用済み核燃料処理の追加負担が1.3~2.2
 円/kWh発生する。これらを考慮すると,原子力発電に経済的優位性があると
 いう原発推進派の説明には重大な欺瞞があるだろう。

                 「5‐4 原発と再エネのコスト比較」
           (『東京電力の料金原価に基づく原子力発電の費用』)

※ http://e-shift.org/wp/wp-content/uploads/2013/04/130416_oshima.pdf                                  

 
 

原則をここで述べてみても有効でないが上下図に考え方の原則を掲載。著者の「ベ
ース電源の推移」を参考に書き換えてみた。蛇足だが、脱原発派の旗手でもある広
瀬隆氏が、石炭火力発電――高性能で二酸化炭素除去付属――システムにご執心な
のでおや?メカ屋さんなのかと思ってしまったほどで、かといってクリーンエネル
ギーの伸長には期待しているようだが、個人的には、高性能小形水力発電に興味が
あるが、これは、超伝導や高性能磁石などのマテリアルイノベーションに加え、温
暖化を背景とし治水政策に組み込んだシステムを考えている(最近)。そう、「次
世代電力は俺にまかせろ!」と。
                                 

 

 

● 折々の読書 『職業としの小説家』3

 「これは村上さんが、どうやって小説を書いてきたかを語った本であり それはほ
とんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しい。だから、小説を書こうと
している人に具体的なヒントと励ましを与えてくれることは言うに及ばず、生き方
を模索している人に(つまり、ほとんどすべての人に)総合的なヒントと励ましを
与えてくれるだろう――何よりもまず、べつにこのとおりにやらなくていいんだよ、
君は君のやりたいようにやるのが一番いいんだよ、と暗に示してくれることによっ
て。」と翻訳家で東京大学教授(昨年退任)の柴田元幸が本書の帯でこのように述
べている――紀伊国屋書店から村上春樹の新著『職業としての小説家』が届いた。
早速、読み始めた。 


  だからこそ小説家は、異なった専門領域の人かやってきて、ロープをくぐり、
 小説家としてデ

ビューすることに対して、基本的に寛容で鷹揚であるのではな
 いでしょうか。「さあ、来るんならいらっしゃい」という態度を多くの作家は
 とっています。あるいは誰か新たにやってきたとしても、とくに気には留めま
 せん。もし新参者がそのうちにリングから振るい落とされれば、あるいは自分
 から降りていけば(そのどちらかか大半のケースなのですか)、「お気の毒に」
 とか「お元気で」とかいうことになりますし、もし彼なり彼女なりかかんぱっ
 てリングにしっかり残ったとすれば、それはもちろん敬意に値することです。

  そして敬意はおおむね公正に、正当に払われることでしょう(というか、払
 われることを願っています)。
  小説家が寛容であることには、文学業界かゼロサム社会ではないということ
 も、いくぶん関係しているかもしれません。つまり新人作家が一人登場したか
 らといって、その代わりに前からいた作家が一人職を失うということは(まず)
 ないということです。少なくともあからさまなかたちでは起こりません。プロ・
 スポーツの世界とは、そうしうところか決定的に違います。新人選手か一人チ
 ームに入ったからオールドタイマーや、なかなか目のでない新人が一人自由契
 約になる、枠外に去る、というようなことは文学の世界にはまず見受けられま
 せん。またある小説か十万部売れたから、ほかの小説の売り上げか十万部落ち
 てしまった、というようなこともありません。むしろ新しい作家の本か売れる
 ことによって小説全体が活況を呈し、業界全体が潤うという場合だってあるの
 です。

  しかし、にもかかわらす、長い時間軸をとってみれば、ある極の自然淘汰は
 適宜おこなわれているようです。いくら広々としているとはいえ、そのリング
 にはおそらく適正人数というものかあるのでしょう。あたりをぐるりと見渡し
 て、そういう印象を持ちます。僕はもうこれでなんのかんの、三十五年以上に
 わたって小説を書き続け、専業作家として生計を立てています。つまり「文芸
 世界」というリングの上になんとか三十数年留まっている、昔風に表現すれば
 「筆一本で食べている」ということになります。まあ狭い意味あいにおいては
 ひとつの達成と言っていいかもしれません。

  その三十数年のあいだに、ずいぶん多くの人々か新人作家としてデビューす
 るのを目にしてきました。少なからざる数の人々は、あるいはその作品は、そ
 の時点でかなり高い評価を受けました。評論家の賞賛を受け、様々な文学賞を
 とり、世間の話題にもなり、本も売れました。将来を嘱望されもしました。つ
 まり脚光を浴び、壮麗なテーマ・ミュージックつきで、リングに上ってきたの
 です。

  しかし二十年前、三十年前にデビューした中で、いうたいどれくらいの人が
 現在もアクチュアルな現役小説家として活動しているかといえば、その数は正
 直言ってあまり多くありません。というか、実際にはかなり少数です。多くの
 「新進作家」たちか知らない問に静かにどこかに消えていきました。あるいは
 ――むしろこちらの方かケースとしては多いのかもしれませんか――小説を書
 くことに飽きて、あるいは小説を書き続けることが面倒になって、よその分野
 に移っていきました。そして彼らの書いた作品の多くは-当時はそれなりに話
 題になり、脚光を浴びたものですが――今ではおそらく一般書店で入手するこ
 とかむずかしいかもしれません,小説家の定員数は限られていませんが、書店
 のスペースは限られているからです。

  僕は思うのですか、小説を書くというのは、あまり頭の切れる人に向いた作
 業ではないようです。もちろんある程度の知性や教養や知識は、小説を書く上
 で必要とされます。この僕にだって最低限の知性や知識は備わっていると思い
 ます。おそらくというか、たぶん。本当に間違いなくそうなのかと正面切って
 尋ねられると、もうひとつ自信はありませんか。

  しかしあまりに頭の回転の素速い人は、あるいは人並み外れて豊富な知識を
 有している人は、小説を書くことには向かないのではないかと、僕は常々考え
 ています。小説を書く――あるいは物語を語る――という行為はかなりの低速
 ロー・ギアでおこなわれる作業だからです。実感的に言えば、歩くよりはいく
 らか速いかもしれないけど、自転車で行くよりは遅い、というくらいのスピー
 ドです。意識の基本的な動きがそのような速度に適している人もいるし、適し
 ていない人もいます。

  小説家は多くの場合、自分の意識の中にあるものを「物語」というかたちに
 置き換えて、これを表現しようとします。もともとあったかたちと、そこから
 生じた新しいかたちの間の「落差」を通して、その落差のダイナミズムの梃子
 のように利用して、何かを語ろうとするわけです。これはかなりまわりくどい、
 手間のかかる作業です。

  自分の頭の中にある程度、鮮明な輪郭を有するメッセージを持っている人な
 ら、それをいちいち物語に置き換える必要なんてありません。その輪郭をその
 ままストレートに言語化した方か話は遥かに早いし、また一般の人にも理解し
 やすいはずです。小説というかたちに転換するには半年くらいかかるかもしれ
 ないメッセージや概念も、そのままのかたちで直接表現すれば、たった三日で
 言語化できてしまうかもしれません。あるいはマイクに向かって思いつくかま
 まにしゃべれば、十分足らずで済んじゃうかもしれません。頭の回転の速い人
 にはもちろんそういうことかでぎます。聞いている人も「なるほどそういうこ
 とか」と膝を打つことかできる。要するに、それか頭かいいということなので
 すから。

  また知識の豊富な人なら、わざわざ物語というようなファジーな、あるいは
 よく得体の知れない「容れ物」を持ち出す必要もありません。あるいはゼロか
 ら架空の設定を立ち上げる必要もありません。手持ちの知識を5まく論理的に
 組み合わせ言語化すれば、人々はすんなり納得し、感心することでしょう。

  少なくない数の文芸評論家か、ある種の小説なり物語なりを理解できない―
 あるいは理解できたとしても、その理解を有効に言語化・論理化できない――
 理由はおそらくそのへんにあるのかもLれません。彼らは一般的に言って、小
 説家に比べて頭か良すぎるし、頭の回転が速すぎるのです。往々にして物語と
 いうスローペースなヴィークル(乗り物)に、うまく身体性を合わせていくこ
 とができないのです。だから往々にして、テキストの物語のペースを自分のペ
 ースにいったん翻訳し、その翻訳されたテキストに沿って論を興していくこと
 になります。そういう作業か適切である場合もあれば、あまり適切ではない場
 合もあります。うまくいく場合もあれば、あまりうまくいかない場合もありま
 す。とくにそのテキストのペースかただのろいだけではなく、のろい上に重層
 的・複合的である場合には、その翻訳作業はますます困難なものになり、翻訳
 されたテキストは歪んだものになってしまいます。

  それはともかく、頭の回転の連い人々、聡明な人々か――その多くは異業種
 の人々ですが――小説をひとつかふたつ書き、そのままどこかに移動していっ
 てしまった様子を僕は何度となく、この目で目撃してきました。彼らの書いた
 作品は多くの場合「よく書けた」才気のある小説でした。いくつかの作品には
 新鮮な驚きもありました。しかし彼らか小説家としてリングに長く留まること
 は、ごく少数の例外を別にして、ほとんどありませんでした。「ちょっと見学
 してそのまま出ていった」というような印象すら受けました。

  あるいは小説というのは、多少文才のある人なら、一生に一冊くらいはわり
 にすらっと書けちゃうものなのかもしれません。またそれと同時に聡明な人た
 ちはおそらく小説を書くという作業に、期待したほどメリットを発見できなか
 ったのでしょう。ひとつかふたつ小説を書いて、「ああ、なるほど、こういう
 ものなのか」と納得して、そのままよそに移っていったのだと推測します。

  これならほかのことをやった方か効率かいいじゃないか、と思って。

  僕にもその気持ちは理解できます。小説を書くというのは、とにかく実に効
 率の悪い作業なのです。それは「たとえば」を繰り返す作業です。ひとつの個
 人的なテーマがここにあります。小説家はそれを別の文脈に置き換えます。

 「それはね、たとえばこういうことなんですよ」という話をします。ところか
 その置き換えの中に不明瞭なところ、ファジーな部分かあれば、またそれにつ
 いて「それはね、たとえばこういうことなんですよ」という話が始まります。
 その「モれはたとえばこういうことなんですよ」というのがどこまでも延々と
 続いていくわけです。限りのないパーフフレーズの連鎖です。開けても開けて
 も、中からより小さな人形か出てくるロシアの人形みたいなものです。これほ
 ど効率の悪い、回りくどい作業はほかにあまりないんじゃないかという気さえ
 します。最初のテーマかそのまますんなりと、明確に知的に言語化できてしま
 えれば、「たとえば」というような置き換え作業はまったく不必要になってし
 まうわけですから。極端な言い方をするなら、「小説家とは、不必要なことを
 あえて必要とする人種である」と定義できるかもしれません。

  しかし小説家に言わせれば、そういう不必要なところ、回りくどいところに
 こそ真実・真理かしっかり潜んでいるのだということになります。なんだか強
 弁しているみたいですが、小説家はおおむねそう感じて自分の仕事をしている
 ものです。だから「世の中にとって小説なんてなくたてかまわない」という意
 見かあっても当然ですし、それと同時に「世の中にはどうしても小説か必要な
 のだ」という意見もあって当然なのです。それは念頭に置く時間のスパンの取
 り方にもよりますし、世界を見る視野の枠の取り方にもよります。より正確に
 表現するなら、効率の良くない回りくどいものと、効率の良い機敏なものとか
 裏表になって、我々の住むこの世界が重層的に成り立っているわけです。どち
 らが欠けても(あるいは圧倒的劣勢になっても)、世界はおそらくいびつなも
 のになってしまいます。

  あくまで僕の個人的な意見ではありますが、小説を書くというのは、基本的
 にはずいぶん「鈍臭い」作業です。そこにはスマートな要素はほとんど見当た
 りません。一人きりで部屋にこもって「ああでもない、こうでもない」とひた
 すら文章をいじっています。机の前で懸命に頭をひねり、丸一日かけて、ある
 一行の文章的精度を少しばかり上げたからといって、それに対して誰か拍手を
 してくれるわけでもありません。誰か[よくやぅた」と肩を叩いてくれるわけ
 でもありません。自分一人で納得し、「うんうん」と黙って頷くだけです。本
 になったとき、その一行の文章的精度に注目してくれる人なんて、世間にはた
 だの一人もいないかもしれません。小説を書くというのはまさにそういう作業
 なのです。やたら手間がかかって、どこまでも辛気くさい仕事なのです。

  世の中には一年くらいかけて、長いビンセットを使って、瓶の中で細密な船
 の模型を作る人がいますが、小説を書くのは作業としてはそれに似ているかも
 しれません。僕は手先が不器用だしとてもそんなややこしいことはできません
 か、それでも本質の部分では共通するところがあるかもしれないと思います。
 長編小説ともなれば、そういう細かい密室での仕事か来る日も来る日も続きま
 す。ほとんど果てしなく続きます。そういう作業かもともと性にあった人でな
 いと、あるいはそれほど苦にしない人でないと、とても長く続けられるもので
 はありません。




「小説家とは、不必要なことをあえて必要とする人種である」と定義できるかもし
れません――の件で、こんなことは、わたしも感じながら仕事していたことがある
ぞと思いったが、反復仕事、やっつけ仕事、ルーチンワークの繰り返しの仕事以外
だけではないかと。つまり、「不必要なことをあえて必要とする」とは"高級"な行
為を行う人たちのことだと考えたわけだが、さて今夜はこの辺で切り上げよう。


                             この項つづく 

 

アドホックなキルケゴール

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  自分に同情するな。自分に同情するのは、下劣な人間のやることだ。

                                                              村上 春樹 / 『ノルウェイの森』

 

 

 


【バイオマス発電事業の正否】

2千キロボルト未満のバイオマス発電は、FIT価格単価=40円の値がついている。
また、雇用も割出し地方創生とも親和性が高い。しかし、時間がない中で明確な戦
略性を持たなければ大きな成功をつかむことは難しいと岸波宗洋事業構想大教授は
危機感をあらわにする(「地方剤生には、時間がない」環境ビジネス 2015年秋季号)。
現自公政権の掲げた「地方創生論」は、"財源移譲なき地方分権主義"への援用と早
々と見抜いたわたし(たち)の予想と著者の見識とどのようにクロスオーバーする
のかみてみよう。

 ● 戦略と優先順位、そして「構想」を

 地方創生は、観光、6次化産業等多様な切り□で語られているものの、真のベ
 ンチマークはなかなか現れない。市町村単位での経常収支比率が高まり、既に
 危険水域を越えた自治体では、未だにローカルキャラクターやアンテナショッ
 プ等、およそギャンブルに近い取り組みで一攫千金を狙い、イノベーションに
 必須の「継続性」や地域の「DNA」に対時することがない。これでは、いくら時
 間を費やしたところで本来的な成功はおろか、マーケティング事象としての売
 上の山を築くことすら叶わない。あえて否定から始めたのは、それだけ地方創
 生には時間がない、ということである。

 コンサルティング的に言うなら、本質的課題を見極め、それに基づいた戦略と
 優先順位、ひいては構想を定義づけることを早急に行わなければならず、それ
 が石破地方創生大臣の発する「総合戦略」であるべきだと考える。以下は、バイ
 オマスを前提としたエネルギー政策について、自治体が取るべき戦略と優先順
 位を列挙したものである。なお、ここでは紙面の関係上、そのDNAを「地域資
 源」と定義した。

  ①キャッシュフローを確保する戦略

 2千キロワット未満の設備において1キロワット時単価=40円の値がついて
 おり、再生可能エネルギーとしては最高値で取引されていることに注目する。
 さらに20年の買取期間が設定され、同価格でのインカムを保証されることに
 なる。

  ②雇用の継続性を確保する戦略

 地方創生=雇用であることは論を待たないが、「継続性を確保した雇用」をど
 れほどいるのだろうか。企業誘致と域ブランチ、特に小売等を多く誘致すれば
 労働生産性の低い人をいたずらに増やしてしまい、いずれは賃金の高い都市型
 企業への羨望と移行を促進してしまうことになりかねない。バイオマスは、 資
 源調達に組合や関係諸団体、物流、ペレット化加工、 発電プラントの保守等様
 に雇用を生み出し、しかもFITにおいて20年の継続性が担保されている。

  ③地産地消による永続性を確保する戦略

 20年を前提とした場合、そのうち10年程度はBEP(損益分岐点)を超えない
 ため、本来的な収益期間はおよそ半分程度である(プラント規模等により異な
 る)。だった10年を前提にリスクを負うことは本意ではなく、あくまで永続
 性を求めるべきだ。だとすると、電カシステム改革に基づく小売自由化を前提
 として、小売参入も当然見据えなければならない。ただし、巷を賑わせている
 ソフトバンク等大手企業の小売参入によってその参入戦略を明確にしなければ
 リスクが増えるばかりである。

 要は、地方でつくった電力は地方で消費する=明確な地域需要家便益を如何に
 保証するか、という課題を解決することで、真の地方創生にリーチするのだ。
 地域振興券やふるさと納税での電力購入も想定可能だし、既に地域でエネルギ
 ー市場を持っているLPガス事業者等は、新規参入の障壁=「信頼財としての
 エネルギー供給」を担保できている既存顧客の囲い込みからスタートすべきで
 ある。さらには17年からのガス自由化に際して、電力・ガスの併売事業を地
 域において実践することで、地域小売企業の収益性も併せて検討することが望
 ましい。ここまでの時系列的な戦略性をもつことが、すなわち「構想」であり、
 近視眼的・画一的思考では成し得ない効果を期待するものである。 


以上から要約すると(1)小売等を誘致すると、労働生産性の低い人を増える→賃
金の高い都市型企業へ移行促進する、(2)20年の買取期間と"安定価格"設定で
インカムを保証すること、(3)地方でつくった電力は地方で消費する→明確な地
域需要家便益を保証することの3つを踏まえた「構想」が重要だと指摘する。ここ
で、「①キャッシュフローを確保する戦略」に関連して、潤沢なキャッシュフロー
を担保するのは、中央政府の援用金(補助金)に期待依存では駄目で、応益税であ
る消費税を地方自治体に完全移譲の法整備を実現が先決であることを指摘しておき
たい。

現在の最大の危機は、人為的地球温暖化による大規模気象変動――例えば、世界の
平均気温が1℃上昇で、大気中の水蒸気成分は4%増加し、乾燥地帯ではより大き
な干魃が、湿潤地帯では大規模洪水が多発する(ノーベル平和賞受賞者・元米副大
統領のアル・ゴア)――時代であり、そのための持続可能な社会への移行政策のそ
の一部の、再生可能エネルギーの「バイオマス発電の普及」であることを踏まえ、
「地方再生には、時間がない」と、とらえ直す必要がある。
 
  

 
※ ルテニウム-カルボキシラートを触媒の原型とするカルボン酸の自己誘導型水素化)

【世界最強のカルボン酸のアルコール変換触媒】

カルボン酸をアルコールに変換する反応は難しく、副生成物が多いという問題を抱
えていたが、斎藤進名古屋大学教授らの研究グループが開発した、カルボン酸を副
生成物が少なく、多くの種類のカルボン酸をアルコールに変換する水素化触媒(ル
テニウム錯体)――水素化反応をしやすくする触媒構造を発見――で、(1)水素
化できるカルボン酸の種類が大幅に増えた。(2)カルボン酸と類似構造を持つエ
ステルやアミドが共存しても、カルボン酸のみ反応する特徴を利用することで(3)
バイオマス資源に含まれるカルボン酸をアルコール変換でき、(4)さらに、二酸
化炭素から合成したカルボン酸をアルコール変換でき、資源利用に貢献できるもの
と期待される。

 

 

 

特開2015-124156 
カルボン酸化合物及びエステル化合物の水素化によるアルコールの製造方法

【発明の効果】 

カルボン酸化合物に対し、高温高圧を必要とせず、緩和な条件ても、効率的に水素
化を進行させ、アルコールを得られ実用性及び利便性が高い。また、基質、錯体及
びアルカリ金属塩の選択により、非常に高収率にアルコールを得られる。この場合、
アルコールの選択性も高いので、省エネ法になる可能性が高い。さらに、室温及び
空気中での取り扱いが容易で、合成が容易な触媒を使用しているので経済的・実用
的で利便性が高い。

 

【時代は太陽道を渡る 11】

● 日本の切り紙で 高効率太陽電池

米国のミシガン大学の研究グループは、日本の切り紙細工で七夕飾りの「網」をヒ
ントに、ガリウム・砒素(GaAs)半導体化合物系薄膜太陽電池を開発。従来の太
陽追尾型とはことなり、太陽の動きに合わせこの太陽電池を引っ張り、太陽光を効
率よく集光する。前者の追跡システムは、複雑な機構を要し、このため馬鹿でかく
重く、従って高コストとなるが、後者は屋根に設置しておくだけで、切り紙の網状
の薄膜太陽電池の片側をわずかの力で伸縮させるだけで受光角度を変化させること
で、太陽の動きを約120度にわたって追跡できる(下図クリック)。 



上図(a)は平面太陽電池パネルの仰角(φ)に対する結合効率(ηC)。パネル
投影面積はcosφに伴って減少する。(b)は、延伸時、同時にシート仰角を変化
させる切り紙追尾構造。この構造に薄膜太陽電池を組み込み、従来の単軸パネルの
追尾機構の代替に使用できる。(c)は、傾斜方向(時計回りまたは反時計回り)
ひずみ処理前から、シートの一端を持ち上げるか(ステップ1)、下げるか(ステ
ップ2)で制御する。

具体的には、切り紙形状(カットパターン)は、傾斜面を±1度以内に制御する。
従来の太陽電池モジュールは、太陽仰角の余弦に比例し、投影面積の減少により光
変換をロスする(上図a)。これらのロスを軽減し、最大電力出力を得るため、平
坦な太陽電池パネルは、日・月・年にわたり太陽追跡できるよう傾斜でき、従来の
太陽光パネルより30%多くエネルギーを集めることができるが、その反面、設置
面積は伸縮可動のため約2倍広くなる。

上図(a)は、カプトン(ポリイミドテープ)切り紙構造の軸方向の延伸(εA)
に応じたサンプル幅の減少(εT)と特徴角度(θ)変化を伴う。また無次元パラ
メータ、R1及びR2で表す切り紙構造、横方向(X)および軸(Y)方向の切り込みの
間のカット長さ(LC)との間隔を規定する幾何学的パラメータを示す。
(b)は、4つの切り紙構造の概略図。ここで、R1= R2=3、5、10、20 に対応す
る単位セルは同一。
(c)は、(b)の種々の切り紙構造の R1= R2=3、5、10、20に対応する軸方向
の延伸量εA、特徴角度θ、サンプル幅εTの関係図。式あたりの理論的予測値(1)
と(2)の実線で図示。塗り潰し記号は、厚さ50μmのポリイミド(カプトン)試料
形状の実験データを図示。R1とR2が大きくなると、より大きな横方向歪みを増加す
るが、特徴角の変化は、切り紙形状とは無関係である。

上図(a)は、試験用のポリイミド(カプトン)基板上に冷間接着の実装集積型薄
膜Gガリウムヒ素結晶太陽電池。ここでは、LC=15 mm、X = 5mm、Y== 5 mm(R1=
R2= 3)。 
(b)は、二つのサンプルの正規化された太陽電池の短絡電流密度JSC(φ)/ JSC
(φ= 0)(塗り潰し記号)。ただし、R1= R2= 3、R1= R2 = 5の場合。また、
図示の式(4)(実線、白抜きの記号)から得られる結合効率(ηC)がシミュレー
トされたデータ。
(c)は、アリゾナ州フェニックス(33.45°N、112.07°W)の夏至の一日の平面
パネル、種々の切り紙構造固定パネルと、単軸追尾システムパネルのそれぞれの太
陽電池の電力密度変動図。なお、挿入図は、各パネルの曲線積分値。切り紙型追尾
システムは、従来の単軸追尾型のエネルギー密度の実積に漸近している。



Max Shtein
University of Michigan
chemical engineering, materials science, lighting, solar cells, OLEDs

ここまで、”アドホックなキルケーゴール” な研究に敬意を禁じ得ないが、25
年間に渡る材料など耐久性、極端な高温や低温への耐候性、システムの堅牢性とい
った問題はクリアできるだろうかというクエスチョンは残る。研究担当したマック
ス・シュタイン自身(上写真)、太陽電池パネルを引っ張るのに必要なエネルギー
は非常に小さいが、実用化にはさらなる研究が必要だと認めた上で、紙幣の半分ほ
どの大きさだった今回の実験から、もっと大きい装置での検証を考えている。また
切り紙式太陽電池のアイデアは、長期的には屋根の上の太陽電池の効率を大きく向
上させる可能性があるが、航空宇宙向け小型太陽電池を優先させたいという。

このようなダイナミックなソーラパネルの研究に対し、日本では下図のようなスタ
スティクな高効率な集光技術(東芝のW採光両面受光セル方式)の改良が主流であ
る。ミシガン大学の「切り紙式セル」あるいは「傾斜リボン式セル」をパネルにサ
ンドウィチする非追尾式太陽電池パネルも考えられないこともない。ここは思案の
しどころかもしれない。この件は残件扱いとして、今夜はこの辺で切り上げよう。

 

  

最新黄身返し卵工学

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   強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。

                                                                     村上 春樹 / 『風の歌を聴け』




 



【再エネ百パーセント達成:人口10万人地区の米国で】

 9月11日、米国の再生可能エネルギー開発会社であるSunEdison社が。米メリーランド州
コロンビア地区の電力網で、再生可能エネルギーの使用比率百%相当を実現したと発表。
コロンビア地区は、複数の「自己完結型ビレッジ」(このブログで「スマートキャンティ
構想」として掲載しとものに似ている?)により構成された特別区域。約10万人が住ん
でおり(彦根市の人口とほぼ同じ)、非営利法人のコロンビア協会(Columbia Association)
が管理。同地区の電源の75%は、風力発電によって生じる「再生可能エネルギークレジ
ット(renewable energy credits:RECs)」の対象となり、残りの25%は、新たに導入した
2メガワットのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「Nixon Farm solar project」。

 

メリーランド州のウエスト・フレンドシップ(West Friendship)に位置する。SunEdison社
と、米国の太陽光発電開発会社であるBithenergy 社が共同で導入し、O&M(運用・保守)
も、SunEdison 社が担当。同社は、コロンビア協会に、20年間の電力購入契約に基づき
太陽光発電電力を売電する。メガソーラーは、コロンビア地区の外に立地しているため、
仮想的な「ネットメータリングクレジット」(virtual net metering credit)で、地区内に設
置しなくても、太陽光発電電力の利用に相当する仕組みを適用した。

 

 

 

電力会社が住宅用太陽光の増加に警戒、ネットグメータリン廃止へ
2015.04.20 日経テクノロジー

既成勢力(既得権益階層)は、つねに変革に反対するようだが、それでも、ソーラーで再
エネ百パーセントを実現するなどは、流石、米国。『デジタル革命渦論』は、もはや誰も
とめることはできない。ここは「無知が栄えたためしなし」と観念し次に進もうではない
か。^^;!

 

 

【黄身返し卵工学:『万宝料理秘密箱』を紐解く】

ハードなベジタリヤン?でなれば、いまや、わたしたち日本人とって鶏卵は欠かせない、
価格も安定した優良食品のひとつだろう。ところが、ハードボイルドにしてもソフトボイ
ルドにしても、卵黄のゴワゴワとしたざらつき感が嫌やだ、口にべっとりへばりつくのは
どうも好きになれないという子供や大人が洋の東西を問わず多いという。そこでそれを解
決しようとする動きが日本をはじめ欧米でもでてきている。それが1785年の『万宝料
理秘密箱』にある料理の一つである「黄身返し卵」という手法。

通常のゆで卵と異なり、白身が内側で、黄身が外側になったゆで卵のことをさすのだが、
作り方は、産み落とされて3日ほど経過した有精卵の気室側に穴を開け、3日間孵化温度
(38℃)で置いておく――書物は糠味噌に漬けておくが、その後洗い、茹でるというも
の。長らく再現できずにいたが、八田京都女子大学教授が、卵に穴を開けずに3日間孵卵
器で温めたのち、手で激しく振ってから茹でることで成功する。この方法では、通常販売
されている無精卵だと白身が多すぎて逆転しないため、有精卵を使う必要があるが、高速
回転――卵を伸縮性の高い袋状の布に入れ回転させ、卵黄膜が破れ、卵黄と水様性卵白が
混じり合うが、高粘度の卵白は混ざらが。偏らないように転がしながら茹でると、周囲の
卵黄・水様性卵白混合液が先に固まり、重い卵白が中心に残り達成できるという。

※ 卵黄の比重は約1.029/卵白の比重は約1.040/全卵の比重は約1.036。

ところが、昨年タカラトミーアーツ「おかしなたまご まわしてまわしてまるごとプリン」
が発売(上図クリック)。ホイルをハンドルで高速回転させ、卵白と卵黄を混合し加熱し
カラメルシロップをかけプリンができあがるというものだが、すでに、全国に普及しタカ
ラトミー以外でも作られ食されている。欧米でも同様な試みがなさ、イスラエル国のエグ
ノロギー社(Eggnology Ltd.) から「エグザー:eggxer 卵を割らずに黄身と白身をかき
混ぜるツール/金の卵ゴールデンエッグを作ろう!茹でても割れにくい」という、うたい文句で、販
売(製造国が中国。口にするものだから品質に不安が残る?)、日本の通販会社を通し売
られている。プリン、ハードボイルド、ソフトボイルドだけではない、新しい食品素材と
して加工応用に広がりがあるのが楽しみだが、課題もある。茹でる後工程の改良。できる
なら、高価になるが一体形が好いのだが、これも考えようだ(下図クリック)。

 



【手動式生卵スクランブラー概説】

図1は(下図2をクリックし表示)卵の保持部分が、調整可能な複数のチャックを含む
スクランブラの断面図。スクランブラは、制御装置と、卵の最端部近くの位置する光源
とセンサで構成。この図示では、卵保持要素(46)は、任意のサイズの卵(10)または
その内部を挟むように調整することができるいくつかの調整可能な顎部(50A)を有する
チャックを含み。また、回転部(38)を制御する制御装置(55)を有す。コントローラ
(55)が方向、速度、および/または持続時間に応じ保持部(46)を回転するようにプ
ログラムでき、及び/またはセンサ(57)が認識すると、保持部(46)を停止させる。セ
ンサー(57)は卵(10)を介し送信された光源(56)の光に応じてスクランブル状態を
認識。その透過度の変化合わせ透過光の色も変化する。

手動でスクランブラー(下図)を回転引く紐を繰り返しり引き、発生させた高トルクで、
2方向に回転させる。メインシャフト(116)は、加速ホイール(109)に挿入し、上部
ブッシング(107)と下部ブッシング(108)により、支持ホイール(110)がメインシャ
フト(106)に締結され組合わされる。引き紐(113)は、加速ホイール(109)に接続さ
れ、ストリングリーダー(114)を介し本体の外で、引っ張りリング(115)に接続。電
池室(119)が電線により配線されている。


An improved in-shell-egg scrambler
WO 2015071896 A1

さて、生卵をスクランブルする卵保持部は、スクランブルを卵の長軸に沿い垂直に設置。
繰り返し同じ方向に、所定時間回転させたあと停止させるが、所定速度で静かに回転加
速させることで、生卵を破壊せずにスクランブルする。回転パルス立上がり時間を百ミ
リ秒未満で、低トルク時のパルス系列の合計時間は3秒未満とし、全体のプロセスは2
分未満。卵殻の近くの照明光源と光センサ構成され、透過度の変化を感知。次に、所定
ルーチンに従い回転ユニット作動し、センサが卵がスクランブルされていることを認識
し、あらかじめティーチングした条件に従いコントローラが回転ユニットを停止。尚、
回転速度は、1500~4500 rpmである。

尚、卵の気室の空気が卵殻から放出されたこを認識するエアセルセンサを含むとも記載
されているが意味不詳。それにしてもキッチン用品も機能が高度化していることに驚く、
まさに『デジタル革命渦論』である。

  

【超高齢社会論 17: 下流老人とはなにか】   

    【目次】

  はじめに
  第1章 下流老人とは何か
  第2章 下流老人の現実
  第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
  第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
  第5章  制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
  第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
  おわりに   


   第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな
                    老後を迎えられるのか


                            生活の一部をまかなうものとしての生活保護

  そして、多くの生活相談を受けていて感じるのは、本書でもたびたび述べたが、今
 よりももっと生活保護制度を使いやすくできないかということだ。
  じつは、生活保護制度は、①生活扶助、②住宅扶助、③住宅扶助、④教育扶助、⑤
 介護扶助、⑥葬祭扶助、⑦生業扶助助、⑧出産扶助の、8つの扶助をセットで提供す
 る救貧制度である。原則として、家賃だけ補助してほしい、医療費だけ、補助してほ
 しいという性質の制度ではない。

  実際の給付方法としては、先ほど第6章で説明したとおり、毎月9万円を自分で稼
 ぎ、足りない4万円分だけをもらうというケースももちろんあるが、問題なのは生活
 保護が「救貧措置」であり、「防貧]的観点が欠落しているという点だ。つまり現在
 生活費の一部を貯蓄からまかなっていて、あと数年で資産が"確実に"失われるとわか
 っている状態であっても、「資産がまだある」という理由で生活保護を受給できない。
 だから究極的には、資産がすべてなくなるまで我慢して、最終的にすっからかんにな
 った状態で生活保護申請窓口に現れることになる。

  下流老人をきめた多くの相談者は、生活保護のうち、一部でも別枠で補助してくれ
 たら生活がかなり改善すると話す。生活保護を利用することもなく、生活を営むこと
 ができるという。
  たとえば、国民年金6万円程度の収入であっても、家賃や医療費がかからなければ
 どうだろうか。あるいは光熱費や水道代、米代がかからなければどうだろうか。携帯
 代やパソコン代、交通費がかからなければどうだろうか。これら一部だけでも補助を
 受けられるだけで、資産のすべてを失うといった高リスクの状態は避けられるはずだ,

  わたしは、賃金や年金などの収入を上げていくことも大事だが、それだけでは限界
 があると思っている。支出を最低限仰えても暮らせるようなモデルをつくらなければ
 ならない。
  そして収入を上げる政策だけではなく、支出を減らす政策を実行していくほうが現
 実的だろうとも考えている。
  そのひとつが生活保護制度の分解であり、より受給しやすいように「社会手当化」
 していくことだ。なかでも生活保護の住宅扶助は、利用しやすくしていきたい。国家
 公務員用の宿舎や大企業が提供する社宅などが明らかに生計を助けるように、家賃の
 全部か.部でも公的に負担してくれたら、生活が安定していくことだろう。日本の家
 賃負担は、他の先進諸国と比べても、重たいことで有名なのだから。


                        住まいの貧困をなくすこと

  実際、下流老人にとって、住宅費は想像以上に負担が大きい。住宅ローンを払い終
 えた後、補修することなく、ボロボロの家屋に住んでいる人もいる。また、家賃が高
 いために、年金のほとんどが住宅費に消える人もいる。
  総務省統計局の「平成25年度住宅・土地統計調査結果の概要」によると、高齢単身
 世帯の33・9%が借家に住んでいるとされる。家賃は固定費であるため、高齢にな
 るほど負担が重くのしかかってくる。

  たとえばフランスなどでは、「家賃補助制度」によって民間賃貸住宅に住んでいる
 低所得の人々の家賃負担を軽くする政策が実施されている。一方、日本では、公営住
 宅などの社会住宅が極めて少なく、安くて安心して住める住宅インフラが整備されて
 こなかった。
  日本の住宅政策は、社会生活を営むうえで必要な最低限の社会権として見られるこ
 となく、無計画に、あるいは大手建築会社や不動産業者、いわゆるゼネコンの意向や
 ニーズのままに開発されてきた。多くの人々に住宅ローンを組ませ、住宅を消費財の
 対象とすることで、経済成長率を高めてきた歴史的な背景もある。

  そのためわたしたちも、住宅を消費財として見る傾向が強く、民間賃貸住宅を整備
 するよりも、「どう家を購入しやすくするか」という政策を重視しがちだ。実際、持
 ち家取得のための優遇政策(住宅ローン減税など)は充実してきた一方で、低所得者
 が民間賃貸住宅を借りるための支援や軽減措置がとられることはなかった。

  下流老人が増える社会を見据えて、そろそろ住宅政策の転換を図る必要があるだろ
 う。具体的には、低額でも構わないから、まずは日本でも家賃補助制度を導入してい
 きたい。住宅政策を研究する神戸大学の平山洋介氏も「民間借家の入居者に対する家
 賃補助は、住宅保障の不公平さを緩和する有効な選択肢である。公営住宅に入居でき
 る/できない世帯の双方に政府援助が届くからである」と、その必要性を述べている
 (平山洋介「住宅政策のどこが問題か」光文社、2009)。

  すでにヨーロッパ各国では、少子化や人口減少対策として、民間借家への家賃補助
 制度の導入をはじめとする住宅政策の転換に成功した。大きな経済成長が望めない成
 熟社会では、雇用の流動化や不安定化が進み、若者が住宅ローンを組んで高額な住宅
 を購入できない。そのため家賃補助を進めることで、若者が家庭を持ちやすい環境を
 つくったわけだ。実際にフランスでは少子化対策に効果があり、合計特殊出生率に大
 きなプラスの変化があることが示されている。

  一方日本では、住宅ローンが組みにくい若者や単身者、非正規雇用の人々に対して
 も、いまだに持ち家取得の優遇政策を優先させる。というよりも、民間賃貸住宅に住
 んでいる人々への支援策はほぼ皆無である。ヨーロッパ各国で住宅政策が転換したの
 は1970年代ごろだが、日本は40年経った今も舵を切れないでいる。

  家賃補助制度によって、年金の支給水準の低さを捕えれば、下流老人や路上生活者
 にならなくて済む人も増えるだろう。今後は、低所得でも誰もが住まいを失うことが
 ないような、新しい住宅政策を打ち出す必要もあるだろう。

                                           藤田 孝典 著『下流老人』


前節の「生活保護を保険化してしまう!?」(【超高齢社会論 16:下流老人とはなに
か】 )で「生活保護制度のごく一部保険化」というのは奇策と述べているように、社会
保障は勤労国民の―― いわゆる、法人所得や不労所得も含めた所得から汲み揚げた応能
税での担保する基本からはずれる。従って、年金が「生活するための限界」に漸近してい
るなら、生活保護支援の「最低所得額」を引き上げ、不足分を保証すればよい。老人の住
宅環境の改善というなら、地方自治体ベースの「公営住宅」(民間からの買取り、借上げ
-住民の土地住宅所有放棄手続き・跡地の運用移譲――も含め)住み替え制度の促進を行
えばよい。蛇足だが、若年層がローンが組めないの「デフレ社会」のためでこれからの脱
却政策(参照:成長戦略『双頭の狗鷲』)を実行すればよいと考える。さて、次節は、若
年者の下流老人化を防ぐ方法が説かれる。

                                                   この項つづく

 

 

 

最新非石英系レンズ工学

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   目に見えるものが、ほんとうのものとは限らない。 

                                                               村上 春樹

 

 

 

【最新非石英系レンズ工学: 新素材積層成形レンズ】 

徒労とはこう言うことなのかという経験をする。おおよそ10時間費やしても整理でき
ずにいる。ことの発端は、ニコンは石英ガラスと同等の光学特性を持ちつつ、削り出し
をせずに一度で好きな形を作れる、新素材のレンズを開発した。ガラス原料を常温で液
状化し積層によって成形する。従来はガラスの塊から切削や研磨をして形を整える必要
があった。加工コストを削減でき、石英ガラスを機械加工した場合に比べて価格を10
分の1にできる。16年4月からレンズの販売をはじめるという記事にある(ニコン、
積層方式で成形する形状自在の新素材レンズ開発-石英ガラスと同等の光学特性 日刊
工業新聞 2015.09.18)。

つまり、この新素材レンズは成形後の後加工なしで、切削・研磨によって加工した石英
ガラスレンズと同等の透過性を持つ。製造装置も自社で開発した。レーザーの透過性に
優れ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)や自動車向けLEDといった、透過性と
耐熱性の両立が必要な用途への展開を見込んでいる。積層方式で成形するため、これま
で削り出しではできなかった複雑な形状の部品にも対応できる。従来の樹脂製レンズか
らの置き換えも狙う。

成形できるレンズの大きさは直径数ミリ―50ミリメートル程度で、加工精度はプラス
マイナス0・1ミリメートル。大きさや形状によって異なるが、価格は数百―数千円に
なる見通しだ。現状の生産能力は直径約10ミリメートルで年産1万個。受注状況によ
り順次、生産能力を引き上げるといものだが、このニュースに食いついた理由は、その
インパクトともさることながら、「時代は太陽道を渡る:日本の切り紙で 高効率太陽
電池」(『アドホックなキルケゴール』2015.09.17)で、スタスティクな高集光ソーラ
ーパネル開発の残件があったから。例えば、非ガラス系透明・半透明・半反射粒子の孔
径の2百ナノメートルの単層膜を、あるいは最適パターン膜を所要の部位に配置するこ
とで日照時間をオールラウンドで効率的に集光するというアイデアが動機として働いた。



早速、ネット上で下調べしたもののそれらしき特許をヒットするも、その素材をつかっ
た応用事例、例えば、非石英ガラス系レンズの成形法や量産方法に関する事例が極端に
少なく(これはある程度想像できるものの)、触媒工学の領域に属すものだか、もうこ
れは大変。上下図の「許5322438 光学材料用組成物、光学材料および眼鏡レンズ」を例
示すると、こうだ。


 表2に示される光学材料用組成物を60℃で混合、溶解させて触媒を添加した後に
 20℃まで冷却しても成分(B)が再結晶により析出しなくなるまで予備反応を行
 った。この溶液を所定のレンズ成形用ガラスモールド中に常温環境下(20℃)で
 注入し、20℃から35時間かけて100℃まで昇温、100℃で5時間硬化させ
 た後、ガラスモールドから硬化レンズを離型して120℃で30分間アニーリング
 を行い、レンズ基材を得た(レンズ基材)。


 上で得られたレンズ基材の上に、以下のようにして、プライマー組成物を塗布硬化
 して、プライマー層を形成した。ポリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイ
 ソシアネート(和光純薬工業株式会社製)120.6gをシクロヘキサノン718
 gに溶解させ、40℃で攪拌しながらジブチル錫ジラウレートを少量添加した。次
 にブタノンオキシムをIR検査でイソシアネート基の吸収ピークが無くなるまで少
 量ずつ添加した。さらに1,10-デカンジチオール(和光純薬工業株式会社製)
 148gおよびシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製L7604)0.
 5gを添加し、充分に攪拌を行いプライマー組成物とした。このプライマー組成物
 を、レンズ基材上に浸漬法にて引き上げ速度20cm/minで塗布し、120℃
 で60分間加熱硬化処理し、膜厚約2.5μmのプライマー層を形成させた(プラ
 イマー層)。

                  -中略-

 表2に示される光学材料用組成物を20℃で混合、溶解させて触媒を添加した後に
 この溶液を所定のレンズ成形用ガラスモールド中に常温環境下(20℃)で注入し、
 20℃から35時間かけて100℃まで昇温、100℃で5時間硬化させた後、ガ
 ラスモールドから硬化レンズを離型して120℃で30分間アニーリングを行い、
 レンズ基材を得た。得られたレンズについて各評価を行い、結果を表2に示した(
 比較例2)。 

 表2より明らかなように、本発明の光学材料用組成物を用いた光学材料は、高屈折
 率、高アッベ数のレンズであり、靭性に優れる。一方、靭性改良剤(D)を添加し
 ない組成物を用いると靭性は劣る(比較例1および2)。


ここで、原料の成分(A)(エピスルフィド系化合物)は上図の構造式をもつ。また、
成分(B)(無機化合物)は硫黄単体であり、成分(C)は、ポリチオール系化合物、、
成分(D)(靭性改良剤)はポリチオカーボネートジチオールで、(5)紫外線吸収剤
は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤:Seesorb 709(シプロ化成社製)だと開示
し、光学材料用組成物を60℃で混合、溶解させて触媒を添加した後に20℃まで冷却
しても成分(B)が再結晶により析出しなくなるまで予備反応を行い、この溶液を所定
のレンズ成形用ガラスモールド中に常温環境下(20℃)で注入し、20℃から35
時間かけて100℃まで昇温、100℃で5時間硬化させた後、ガラスモールドから硬
化レンズを離型して120℃で30分間アニーリングを行い得ると説明されている。

以上を一例としてあれやこれや考察をすすめていくが、この事案を整理するに至らず脳
疲労は頂点に達しまったということになる。しかし、考えてみてもわかるように、25
%の変換効率をもつソーラーパネルの集光性能が仮に30%向上したとしたら 32.5
%となる。これは魅力的な数字である。

ということで、昼からシャーレまで車でレイクサイド・ロードを疾走させる。滋賀県は
東西南北どこを切っても絵になる。実に楽しいことだ。
 

 

 ● 折々の読書 『花火』4

  神谷さんは大阪の大手事務所に所属していたので、東京で活動している僕はなか
 なか会う機会がなかった。それでも、神谷さんは頻繁に連絡をくれた。誰とも話し
 ていない一日の終り、携帯電話が振動し、液晶に神谷才蔵という文字が表示される
 と妙に心が躍った。神谷さんは、いつも最酌は声帯が裏返ったような不審な声で「
 どこにいてんの?」と所在を確認する。僕が東京にいることを伝えると、ひとしき
 り残念そうにして、少しずつ自分の近況を報告した。神谷さんの声が弾みだしテン
 ポが上がりきった所で、唐突に電話は切れる。そして、数分後に「充電切れてもう
 た。またな」というメールが届く一連の流れが恒例となった。

  神谷さんの淀みなく流れるような喋りを聞いていると、自分が早く話せないこと
 に苛立つ時があった。頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り
 出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。複数人で
 の会話になると更に症状は顕著だった。人の数が増えると言葉の数も増える。一つ
 言葉が耳に入ると、そこから派生した別個の流れが生まれ、頭の中でいくつものイ
 メージが交錯して、どこから手をつければいいのかわからなくなるのだ。

  神谷さんは、そんな僕を面白がってくれた。「早いテンポで話した方が情報を沢
 山伝えることが出来んねん。多く打席に立てた方がいいに決まってるやん。だから、
 絶対に早く話した方がいいのは確かやねん。でも、お前はそれが出来へんねやろ? 
 そんなお前やからこそ、人と違う表現が出来るんやんけ。ええな。俺の実家な全然
 貧乏じゃなかってん。子供の頃な、ゲームとか玩具とか普通にあったからな、それ
 で遊んでてんけど、よく中年が、俺等の頃は遊び道具なんてなかった、とか言うや
 ん。あれ聞くたびにな、俺、わくわくすんねん。こんなん言うたらあかんねやろう
 けどほんまに羨ましいねん。だって、ないなら自分で作ったり、考えたり出来るや
 ん。そんなん、めっちゃ楽しいやん。作らなあかん状況が強制的にあんねんで。お
 前やったらわかるやろ? お前の家めっちゃ貧乏そうやな」と神谷さんは淡々と失
 礼な発言をするが、そこに悪意は感じられなかった。

  実際に僕の家は裕福ではなかった。玩具の類はI切なかった。一日中、紙に絵を
 描いて過ごす日もあった。父親の将棋盤を拡げ、独自の駒の動かし方を考案して全
 ての駒を使い、誰に攻め込まれても崩れない布陣で王将を守り、誰も攻めてこない
 ことに気づくまで待ち続けたこともあった。神谷さんは僕がそういう話をすると酷
 く羨ましがった。姉が紙のピアノで「ねこふんじやった]の練習をしていた話を何
 度も繰り返し僕に話させた。

  姉は、家にピアノやエレクトーンがある友達に遅れを取らないように必死だった。
 しかし、ある目、「頑張ってるお姉ちやん、昆に行こう」と、僕を保育所まで迎え
 にきた母に連れられ、姉の通うヤマハの教室を覗きに行くと、他の生徒達は演奏し
 ているのに、姉だけエレクトーンの前の椅子に座った状態で、落ち着きなく周りを
 うかがい、エレクトーンの裏を手で触ったりしていた。なぜ弾かないのだろう?母
 も不安そうに姉を見ていた,ようやく異変に気づいた先生が姉の側に寄って行くと、
 姉は「音が出ない」と言った。すると先生が当たり前のように、エレクトーンの電
 源を入れて、姉も途中から演奏に加わった。姉は緊張で身体が強張り、異常に両肩
 が上がっていて無様だった。

  いつもは優しくて頼りがいのある姉のこんな姿を見ていると、なぜか僕は胸が苦
 しくなり、眼から涙が溢れた。「なんで、あんたが泣いてるの? お姉ちやん頑張
 ってるで」と言った母の眼も赤かった,その夜、家に帰ってからも姉は無言で紙の
 ピアノを懸命に弾き続けていた。僕は姉の隣に座り、全力で姉が演奏する曲を唄っ
 た,酒に酔った父が「やかましいんじや」と怒声を上げても僕達はやめなかった。
 数日後、狭い文化住宅に小さいけれど立派なピアノが届いた。父は母を激しく罵っ
 た。母が姉のために独断で買ったのだ。この話をすると、神谷さんは鼻を啜りなが
 ら、「ええな。そんなお前にしか作られへん笑いが絶対あるんやで」と優しい声で
 言うのだった。 

  神谷さんも僕も、大きくは仕彰の内容に変化がないまま、熱海の花火大会から.
 年が過ぎた。テレピでは同世代の芸人達の一部が活躍しはじめていた。彼等はとて
 も華やかで達者に昆えた,僕は自分の不遇を時代のせいに出来るほど鈍感ではなか
 った。僕と彼等の問には歴然とした能力の差があった。僕達の主戦場は依然小さな
 劇場で、そこに出演するためには、月に一度のネタ見せと呼ばれるオーディション
 を受ける必要があった。

  夜中に大勢の若手芸人が集められる,狭い待合室に詰めこまれ、汚ない服を身に
 纏った若者達は皆一様に腹を減らし、眼だけを鈍く光らせていた,その光景は華や
 かさとは無縁の有象無象が、泥滓に頭まで浸かる奇怪な絵図のようだった。一組ず
 つ部屋に呼ばれ、ライブを担当する構成作家の前で漫才やコントを見せる。長時間
 にわたり、審査する方は更に疲弊していて不惘だったが、彼等が正確にネタの善し
 悪しを判断出来ていたかには些か不安もあった。

  肉体はぶっ倒れれば、そこが限界だとわかるが、審査する方の思考が正常に機能
 しているかどうかは、側で見ていてもわからなかった。それでも不平を訴えるもの
 は皆無だった,自分達が人前で何かを表現する権利を得るためのオーディションな
 のだから、そこで自分の価値を証明出来ないうちは自らの考えを述べることは許さ
 れないという気分が全体に横たわっていたのだ。それは錯覚に過ぎないし、思考の
 強制もなかったのにもかかわらず。僕達は表現の場を得るために、発一.昌の権利
 を得るために、あるいは貧困から脱するために、それぞれのやり方で格闘していた
 のだ,
  スパークスは、ネタ見せを経て、劇場の出番が増えていくに伴い、他事務所のラ
 イブにも呼ばれ、お笑い雑誌の新人紹介コーナーで小さく取り上げられたりもした,
 劇場に足を運んでくれる人達にも徐々にではあるが、名前を覚えて吋ほえるように
 なった。

  その頃、仲谷さんから拠点を東京に移すことになったと連絡がきた。大阪での活
 動に限界を感じたようだった。芸歴六年目を迎えた神谷さんの同期達は、頻度に差
 はあれど、少なからずテレビに出演する機会を得ていた。それ以外の人達は芸人を
 辞めてしまったらしい。神谷さんは後輩だらけの劇場で気を使われるのが嫌になっ
 たと言った。芸人の世界では、まず大阪で売れてから東京に出てくるのが理想的で
 はあったが、劇場のシステムから零れ落ちた人達は新たな環境を目指して東京に出
 てくることも珍しくなかった。東京も若手芸人にとっては過酷な状況ではあったが、
 それでも、新天地で頭角を現したコンビも少なくない。ただ、どこでも結果が出せ
 てしまう一部の選ばれた人間が存在することも、事実だった。


  どの事務所でも、芸歴を重ね手垢のついた芸人よりも、言うことを聞く若者の方
 が好まれるようだった,神谷さんの芸人的なセンスは、師弟関係にある自分でさえ
 も晶眉目なしで不安になるほど突出していた。その反面、人間関係の不器用さも際
 たっていた。それは、あほんだらの両人に言えることだった。あほんだらは、世間
 的には全くの無名だったが、芸人の問では悪名が高く、東京の楽屋でも素行の悪さ
 が度々話題に上がった。神谷さんの相方の大林さんは、隣町に住んでいた僕が名前
 を知っているほど、地元では有名な不良だった。だが喧嘩が強い多くの男がそうで
 あるように、大林さんは情け深い男でもあった。ただ、陰険な悪意に対抗する術を
 眼力しか持っていない人でもあったので、誤解されるのは仕方がなかった。

  一方の神谷さんも周囲と上手く関係を築くのが不得意のようだった。聞こえてく
 る神谷さんと、僕の知っている神谷さんの間には大きな隔たりがあったが、熱海で
 の一件を思い出すと、それらの噂も想像がつかないことはなかった。社会規範で論
 ずるのであれば、両人共に果てしなくあほんだらであった,神谷さんが東京に来る
 と知ってからこの胸を占める感情が希望的なものなのか、不安から押し寄せるもの
 なのか自分でも判然としなかった。

                             又吉直樹『火花』 


吉本興業の隆盛は、上方漫才・落語あるいはそれを品質展開した話法を担う芸人の集客
力あるいは視聴者延べ人数に依存し、芸人と聴衆とでやりとりされる付加価値の創出に、
それは、瞬間的に偶発的に爆発的に、あるいは地味ではあるが長時間をかけ芸人の"アジ"
として醸成されてきた。「その光景は華やかさとは無縁の有象無象が、泥滓に頭まで浸
かる奇怪な絵図のようだった」と、ここでは、その生産現場がリアルに、パーソナルに
描かれている。そこではよりハードな商品の生産現場でも、よりソフトな生産現場でも
基本的に変わらぬ、ボードリヤール風の「記号」の生産現場のリアリティーとして、こ
の作品の上質さが顕れているように思える。

  


                               この項つづく

 

 

 

● ペロブスカイト系シリコン太陽電池の実力

17日付、EU PVSECが開催されているが、IMTがペロブスカイト系シリコン
薄膜太陽電池で変換効率22.8%(0.25平方センチメートルセル)を達成したこと
が報告されているが、25年間の耐久性などに疑問視する専門家の意見などもある。
(EU PVSEC: Stable efficiency remains major hurdle for perovskite cells, PVTECH 2015.09.18)
日本では、瀬川研で、鉛ペロブスカイトの熱膨張率は酸化チタンよりも5.6倍大きいこ
とが明らかにされているから、これらの意見を裏付けるような形になる。安いことにこ
したことはないが、実用性に耐えるためにはハードルはまだ高い。ここ1、2年で勝負
は決するようにみえるが、どううだろう?

 ● 秋風に闇酒も好し

そういえば40年前?花見のころ、数人の仲間と城登り、火を囲みながら日本酒を楽しく呑んで
騒いだころを思い出す。たしか、警備の人に咎められ急いで下城したことも思いだした。みんな
命知らずな若者だったんだねぇ~っと。 

 

 

 

本日好日なり。

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   『グレート・ギャツビイ』を三回読む男なら俺と友だちになれそうだな。 

                                                                              村上 春樹

 

 

【超高齢社会論 18: 下流老人とはなにか】    

  はじめに
  第1章 下流老人とは何か
  第2章 下流老人の現実
  第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
  第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
  第5章  制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
  第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
  第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
  おわりに   

秋葉原通り魔事件が "ワーキングプアー" に 象徴される、過剰競争と自己責任の原理が
もたらす格差拡大社会の歪みとして発生したように、まもなく、日本の高齢者の9割が下
流化する。本書でいう下流老人とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐
れがある高齢者」である。そして今、日本に「下流老人」が大量に生まれている。この存
在が、日本に与えるインパクトは計り知れないと指摘したように、神奈川県小田原市を走
行中の東海道新幹線で焼身自殺した事件――71歳の林崎春生容疑者による「下流老人の
反デフレテロ」ではないかとブログ掲載(極東極楽2015.07.02 )。『下流老人』の著者
である藤田孝典は、「東京都杉並区の生活保護基準は、144,430円(生活扶助費7
4,630円+住宅扶助費69,800円 【特別基準における家賃上限】)である。資産の
状況やその他の要素も検討しなければならないが、報道が事実だとすれば、年金支給額だ
けでは暮らしが成り立たないことが明白だといえる。要するに、生活保護を福祉課で申請
すれば、支給決定がされて、足りない生活保護費と各種減免が受けられた可能性がある。
月額2万円程度、生活費が足りない(家賃や医療費などの支出の内訳にもよる)。生活に
不安を抱えどうしたらいいか途方に暮れる男性の姿が思い浮かぶ」と語っている(YAHO
O!ニュース「新幹線火災事件と高齢者の貧困問題ー再発防止策は 「貧困対策」ではないか
!?」2015.07.02)を受け、藤田 孝典著『下流老人』の感想を掲載してきたが、今回で
最後となる。読み終えた結論はきわめてシンプルで、スケールの大きいものになった。そ
れでは・・・・・・
   

   第7章 一億総老後崩壊を防ぐために 

             未来の下流老人をなくす-若者の貧困に介入せよ

   高齢者は若者の延長線上の姿だ。したがってこの本でも、両者が抱える問題をリン
 クさせながら述べてきた。
  すでにご承知のとおり、若者の雇用や生活環境は急速に劣化した,ワーキングブア、
 非正規雇用が蔓延し、一向に減る気配がない。厚生年金に加入できず、国民年金の未
 納率も約4割と高い。もはや年金すらかけていない若者も珍しくなくなった。

  国民皆年金制度は、雇用の不安定化によって、緩やかに終焉を告げている。これに
 代わる社会保障を構築しなければ、若者の老後が「時限爆弾」のように、社会ヘコス
 ト増を求めてくることだろう。これが1人や2人であれば、特異な事例として本人に
 責任を問えばいいかもしれないが、その数たるや全国で凄まじいものがある。ブラッ
 ク企業がはびこり、普通に商ける職場が減っているのだから、老後の不安定化は必然
 と言ええる。

  だから、現役時代の報酬に関係なく、最低限の老後の生活資金を保障するシステム
 が必要だ。今ここで手を打っておかなければ、若者が老後を迎えるときに大きな代償
 を払わされることになる。最低保障年金の議論は今も続いているが、税を投入して老
 後を保障する議論がより広がっていくことを願う。

   これまでにも説明してきたが、国民年金の場合40年間保険料を支払っても、ひと
 月あたりの支給額は現在の水準で6万6000円弱である。生活保護の生活扶助費よ
 り低いか同水準であることは、明らかな事実だ。さらにこの水準は、今後下げられる
 可能性が大きい。もはや現状の制度設計では、超高齢化社会に対応できないだろう,
  それならばいっそ国民年金制度を廃止し、生活保護制度の生活扶助に一元化するこ
 とも今後の議論としてあり得るのではないか。

  今も国民年金が最低生活費に満たない高齢者は、「年金+生活保護」で暮らしてい
 る,それを考えると、国民年金保険料を真面目に支払ったとしても、それに見合うイ
 ンセンティブは何ら感じられない。
  だから、現在の低年金の高齢者と同じように、生活保護制度で補完するというので
 あれば、給与が低くて苦しい生活をしている若者から、国民年金保険料を奪わないで
 ほしい。

  このままいけば、明らかに将来生活保護で救済することになるであろう若者から、
 "掛金"を取る意味は薄い。とくに非正規雇用やワーキングプア状態にある若者には、
 早い段階で「もう年金保険料など払わなくてよい」と伝えることが重要だろう。
  もちろん、払えるなら払ったほうがいいのは当たり前だが、その年金保険料を自身
 の奨学金の返済や現在の生活費結婚資金や子育て支援に費やし普通の生活を実現して
 ほしい。

  国民年金には減免措置がある。保険料を支払えない場合は減免申請しておくことで、
 障害を受けた際に、障害年金(1級は月額8万円程度、2級は月額6万円程度)の受
 給権を得られる,さらに減免期間は、その期間すべてが年金加入期間に算入されるメ
 リットもある,そのため現段階では、単に支払いをやめるのではなく、この減免申請
 を活用してほしい。
  しかし、この情報も十分に告知されていないため、無理しはないか。
  今も国民年金が最低生活費に満たない高齢者は、「年金+生活保護」で暮らしてい
 る。それを考えると、国民年金保険料を真面目に支払ったとしても、それに見合うイ
 ンセンティブは何ら感じられない。

  だから、現在の低年金の高齢者と同じように、生活保護制度で補完するというので
 あれば、給与が低くて苦しい生活をしている若者から、国民年金保険料を奪わないで
 ほしい。
  このままいけば、明らかに将来生活保護で救済することになるであろう若者から"
 掛け金" を取る意味は薄い。とくに非正規雇用やワーキングプア状態にある若者には、
 早い段階で「もう年金保険料など払わなくてよい」と伝えることが直要だろう。
  もちろん、払えるなら払ったほうがいいのは当たり前だが、その年金保険料を自身
 の奨学金の返済や現在の生活費結婚資金や子育て支援に費やし普通の生活を実現して
 ほしい。

  国民年金には減免措置がある。保険料を支払えない場合は、減免申請しておくこと
 で、障害を受けた際に、障害年金(1級は月額8万円程度、2級は月額6万円程度)
 の受給権を得られる,さらに減免期問は、その期間すべてが年金加人期間に算入され
 るメリットもある。そのため現段階では、単に支払いをやめるのではなく、この減免
 申請を活用してほしい。

  しかし、この情報も十分に告知されていないため、無理して国民年金保険料を支払
 う若者は多い。生活を切り詰めてまで保険料を支払うのは、(なかば妄信的な)年金
 制度に対する信頼と、老後に対する大きな不安感が背景にあることは疑いようがない。
 そのためこのような若者からも国民年金保険料を搾り取るのであれば、せめて老後の
 生活は最低限の保障を約束できる年金制度を構築すべきであろう。
 

      下流老人の問題に希望はある――貧困・格差と不平等の是正
 
  ここまで読んでいただいた多くの読者は気づいていると思うが、現在の若者の多く
 は下流老人と化す,非常に残念ではあるが、これは現状避けようがない。非正規雇用
 がこんなに増えると誰も思わなかったし、婚姻率も下がり、老後を助けてくれる子ど
 もも生まない、生めない人々が増えてきた。家族の支えあいがこんなになくなるなん
 て、誰も予測していなかった,まさに国家単位での「想定外」だ。
 
  若者は老後に対する不安から、貯蓄を優先し、消費を控える傾向が顕著に表れてい
 る。収入に頼りすぎず、支出を減らしていく方法で、生活を見直している。
  若者のこれらの行動が、すでに実体経済に大きな影響を与え始めているのは周知の
 事実だ。もう大量生産・大量消費の時代は終わりを迎えたのだと思う。まさに成熟社
 会の到来であり、これまで獲得してきた資産や資源をどのように分配利用するか、ま
 た少ない雇用や収入源をどのように分けあい、再分配していくかが問われるようにな
 った。これは昨年(2014年)からの格差論争における、いわゆる「ピケティブー
 ム」が物語っていることでもある。

  持つ者と持たざる者が常にいるのは仕方がない。しかし、それがあまりにも不均衡
 で、容認しがたい格差なのであれば、不平等として是正すべきだろう。税をどこから
 とり、どこに再分配するかを決めるのは政治であり、政治の意思決定を促しているの
 は主権者たるわれわれ国民である。わたしたちがどのような社会をこれから築いてい
 くのかは自由だが、はたして今の社会が大多数の人が望んだ結果になっていると言え
 るだろうか。

  下流老人とその膨大な数の予備軍を放置するのか、それともここで政府に対して対
 策を求めていくのか、今まさに岐路にをたされている。現在の社会保障や社会福祉は、
 先人たちが「それは無理だろう」と言われながらも粘り強く合意形成し、議論を積み
 上げながら、少しずつ獲得してきた権利なのだ,そしてこの権利を再構築して求めて
 いく時代が、今だ。

  生存権が保障する、健康で文化的な最低限度の暮らしができない人々が増えている
 現在の社会状況は、予断を許さない。
  わたしは、この問題に多くの人が気づき、行動してくれることを願っている。


        人間が暮らす社会システムをつくるのはわたしたちである

  わたしたちがあきらめず に声をあげることで、「暮らしにくさ」を変えられる可
 能性があることは、過去の例が証明してくれる。
  たとえばこれまでも、障害者が自分たちに対する支援や法律が専門家だけで決めら
 れようとしたことに対し、「わたしたち抜きにわたしたちのことを決めないで」とい
 う強いメッセージを出しながら、一歩一歩、普通の暮らしを嫂得してきた歴史がある。
 近年の社会保障費削減の流れにも、批判を恐れずに声を上げている。

  また女性は、1960年代以降、「個人的なことは政治的なこと」というスローガ
 ンを掲げ、家事労働や育児全般、家父長制、男性からの支配に対して、社会参加や多
 様な生き方を着実に勝ち取ってきた。戦前は女性に選挙権すら与えられていなかった
 ことからすれば、現在の女性の躍進は、まさに抑ぼの歴史を少しずつ克服してきた結
 果と言えよう。

  生活保護受給者であった朝日茂氏が起こした朝日訴訟については前述したとおりだ。
 彼は「権利は闘う者の手のなかにある」と語り、人間裁判と呼ばれる大きなインパク
 トを社会に残した。これはいまだに多くの生活保護受給者らを励まし続けている。
  非正規雇用者についても黙ってはいない。近年では、リーマンショック後の200
 8年末から、日比谷公園でいわゆる「年越し派遣村」が開設された。「派遣切り」と
 称するリストラにより不安定労働者が大量にホームレス化するなかで、彼らはその改
 善策を政府に要請してきた。これにより世論は大きく動き、若年層や稼働年齢層の貧
 困問題が可視化されることになった。

  また、ブラック企業、ブラックバイトなども、現在進行形で闘っている問題だろう。
 人種差別撤廃に尽力したマルティン・ルーサー・キング牧師は、「I Have a Dream(わ
  たしには夢がある)という有名な言葉を残した。最後には凶弾に倒れたが、彼が命が
 けで追い求めた人種差別のない、すべての国民が手を取りあって暮らすという社会構
 想は、実現に向けて今もその歩みを止めていない。当初、同人種の人々や仲間からも
 「そんなことは不可能である一と反対意見があったが、力強いリーダーシッブをもと
 に、多くの人々の理解を得ていった。

  それぞれの領域、それぞれの社会における「住みにくさ」に対する改善要求は、歴
 史的にどの地域でも繰り返されてきている。これらの社会運動は、「ソーシャルアク
 ション」と呼ばれ、政府に社会変革を求める活動だ。昔から理論的にもその必要性が
 指摘され、実践されてきた。すべてに共通することは、ただひとつ。「住みにくい社
 会をつくるのは、彼らを抑圧する社会システムである]ということだ。

  どのような社会的弱者であっても、個人的な問題のみに終始しない。そこには偏っ
 た社会構造の生み出す歪みが必ずあり、先人たちはこれを理解したうえで改善活動に
 取り組んできている,「住みにくいな」と思ったら、自分と同じような境遇の人もそ
 う思っているはずだ。その共通意識でつながりながら、すべての人にとって住みやす
 い社会を目指して活動を続けてきた。

  下流老人の問題も同様に、声を上げるか否かは、当事者や市民次第である。相当数
 の高齢者が声なき声で助けを求めているし、これからも下流老人は増えていくだろう。
  これらの歴史を踏まえて、真に住みやすい社会を構築するために、わたしたちは何
 を選択し、何を訴えていくべきか共に考え、想像し、行動していくことを、わたしは
 願いたい。



  おわりに

  日本では高齢者に限らず、貧困が広がり続けている。下流老人の問題は、その一部
 分を表しているに過ぎない。予どもの貧困や若者の貧困、女性やシングルマザーの貧
 困も看過できるようなレベルにもはやない。
  それにもかかわらず、貧困は必ず、本人の問題として理解されたり、処理されてし
 まい、社会問題として議題に上がりにくい。「努力が足りなかったから」「計画性が
 なかったから」など、貧困に至った人々を一面的に見て理解した気になってしまう人
 々があまりに多い。そして、そうなった以上は本人の責任だから、自業自得だと言わ
 んばかりだし、実際に救済が十分にされるような制度上のシステムも整備されていな
 い。

  わたしが本書で執拗に強調したのは、「下流老人を生んでいるのは社会である]と
 いうことだ。下流老人になるのは、その高齢者本人や家族だけが悪いわけではない。
 そろそろ貧困に苦しむ当頃者やわたしたちは、この自虐的な貧困咬から脱却し、社会
 的解決策を模索するべき時代に入っているのではないか。その道筋は困難ではあるが、
 多くの人々が議論してな案していくことで、改善は決して不可能ではないと信じてい
 る,

  わたしたちは、必ず年老いていく。そのときに年老いた人々を社会がどのような眼
 差しで見ていくのか、これからも問われていくだろう。また、年老いた人々がどのよ
 うな考えや意識で余生を過ごしていくのかは、若い世代にとっても将来の人生のモデ
 ルとして、検証されていくことになる。残念ながら、今の下流老人をめぐる状況と問
 題意識の低さを見る限り、老後に明るい希望は少ないように思う。

  このような老人になり、こんな余生を過ごしたいと、老後に希望をもてるような人
 々を増やしていかなければならないと思っている。
  そのためにわたしができることは、問題提起を行い、高齢者の貧困を解消するため
 の議論を巻き起こしていくことだ。
  本書は下流老人や高齢者の貧困を示す一部分でしかない。これに続き、さまざまな
 視点から貧困改善に向けた多様な動きが派生していくことを期待している。
  最後に、朝日新聞出版書籍編集部の高橋和記氏、フリー編集者の深田憲氏には企画
 立案から網かい修正に至るまで、手とり足とり大変お世話になった。お二方を含めた
 3人の協働による「三位一体」の取り組みがなければ、本書は発刊に至らなかっただ
 ろう。改めてお二方との出会いと献身的な態度に感謝中し上げたい,

  そして、早稲田大学大学院生の小坂陽くんには、資料集めや統計データの読み込み
 を協力いただいた,彼のサポートには大いに助けられた。またわたしが所属するNP
 O法人ほっとプラスの仲間や家族による献身的なサポート、事務作業の協力抜きにも
 仕上がらなかったことだろう。また、ここには載せきれない多くの人々の協力によっ
 て本書が完成したことを、忘れずに記しておきたいと思う。
  本書が深刻な日本の貧困問題を少しでも好転させるきっかけとなり、政策や制度が
 変わっていくことを願っている。そして、何よりも生活困窮の真っ只中で苦しまれて
 いる方々の希望に、本書が少しでもなれれば幸いである。

                         藤田 孝典 著『下流老人』


「貧困・格差と不平等の是正」という集約につきるので、この章は読み飛ばしても好いだ
ろう。結論から言えば、現政権の経済政策も霞ヶ関の抵抗や株式偏重(=欧米流金融資本
主義追随)に毒され、前政権よりましなものの期待を裏切る。ここで、敢えて屋上屋を架
すが、(1)インフレーターゲット設定、(2)目標雇用率ターゲット設定、(3)税制
の抜本的是正=①消費税に地方自治体に完全移譲+②所得・法人・不労所得の社会福祉税
化の3点である。蛇足だが、(3)-①は「大阪都構想」実現の基礎的制度であり、地方
のキャッシュ・フローが改善すれば、地方独自の起債の自由度も増す。これが真の構造改
革で、その他は”地方創生の空騒ぎ"。宜しくご再考を! ^^;。


                                   この項了

 

【世界最強の耐熱性磁石】

現在、最高の性能をもつ磁石材料であるNd-Fe-B 系磁石は、ジスプロシウム:Dy を添加す
ることとで、保磁力を高めている。このDyは重希土類元素であり、地殻埋蔵量が少ない上
に、採掘できる地域が限られているため、輸入価格が高騰。国内で生産されるNd-Fe-B 系
磁石に含まれるDy はすべて輸入されているため、価格高騰による影響が少なくない。そこ
で Dyを使用しない高性能磁石の開発が求められていた。2009年から 新エネルギー・産業
技術総合開発機構 (NEDO) が代替する新規永久磁石を開発していたが、サマリウム-鉄-
窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末の磁石性能の低下を防ぐため、4百 ℃程度の低温焼結で、高
い相対密度の焼結磁石を作製するパルス電流による焼結するパルス通電焼結法(下図左/
下)――粉末の入った金型に電流パルスを流して焼結を行い短時間昇温で結晶の構造変化
を防ぎ、粉体の温度を上げず粉末の界面結合が促進し、粉末特性の低下を防ぎ焼結できる
ようになった(2011年7月6日産総研プレス発表)。

 

しかし、異方性磁石粉末の焼結に対し、保磁力が低下してしまうため、保磁力を低下させ
ない焼結磁石作製技術の開発に取り組んでいたが、このほど、通常、サマリウム-鉄-窒素
(Sm-Fe-N)系磁石粉末を焼結すると保磁力が激減するが、今回その原因が粉末表面の酸
素にあることを実証し、粉末作製から焼結までの一連のプロセスを低酸素化した焼結磁石
のプロセスを新たに開発(下図クリック)。これにより、保磁力を保ったまま、異方性焼
結磁石を作製。この焼結磁石は耐熱性に優れることから、これまでのハイブリッド自動車
用駆動モータなどの高温環境下ではネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B) 焼結磁石を超える磁
石性能を発揮できると期待されている。 

  

しかし課題もある。現在、(1)焼結磁石の配向度が低いことや(2)焼結密度が十分で
ないといった原因により、磁石特性の指標の一つである最大エネルギー積(BH(max))が
190 J/m3(16 MGOe)程度にとどまり、今後(3)粉末の粒度分布制御や(4)焼結プロセ
スの最適化により焼結密度や配向度を高め、最大エネルギー積の向上。(5)さらには、
焼結界面の制御などによりSm-Fe-N  磁石本来の潜在的な高保磁力を発揮させ、Nd-Fe-B 焼
結磁石を超える高性能・高耐熱性焼結磁石の開発を目指す。

 



尚、今回もこの開発成果に食いついた理由は『小型水力発電』の事業構想のため。

 



昨日に引きつづき、朝から、長浜市の神照寺の萩は見頃を終えハズレだったが、天気良し、
景色も好し、運転手も同乗者もすべて佳しの好日なり。 

 

アイム・ベンチャーズ。

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   人々は闇の中から出てくる何かを見つける
        ことで、闇の中から救われることができる。 

                                                      村上 春樹

 

  

  

【1965年 学園祭の2つのBGM】

ここ2、3日は気圧配置も安定した秋日和がつづいている。無理から筋の法案騒動に
自民党と永遠にさよならした、折しもその日、ラグビーW杯 で「ジャーパン」の大
合唱が世界を席巻すると、言葉と裏腹に申し訳なさそうに(それはないっか?!)ケ
リー米国務長官が、欧州の危機緩和に難民受入れ枠を10万人に拡大したいと表明す
る。異常気象も、国際紛争もその原因を元から絶たなきゃと再確認し、1965年の
あの秋日和をたどる。学園祭は部活動の晴れの日、不純な動機?で女子校などを訪問
し取材(新聞部に所属)すると、ほとんどといって「十番街の殺人」「ヘルプ」が校
内が流れいたように記憶している。リズムギター担当の唯一旧メンバーのドン・ウィ
ルソンは今年で引退する(現在日本ツアー中)。ビートルズはポールとリンゴの二人
は存命で活動を続けている。もっともリングは活動らしきことは行っていないが、ベ
ンチャーズのその名前の冒険者達・投機者達との意味をあらため考えることになる。
ドンは82才、ポールは73才、リンゴは75才。このわたしは?「あなたはいくつ
?」と昭和天皇と平成天皇の諱(いなみ)も混乱している彼女が問うので、「46才
!」と言い放つと、すかさず「あなたは若いね~ぇ」と彼女が突っ込みを入れ二人で
大笑いする。


さて、話はつづく "アイム・ベンチャーズ" の話だ。複数形はわたしのアドリブ造語。
ポールは活動を続けていくからというわけでないが、今抱えている仕事量は減ること
だけはないだろう。そこで残件を処理する。

 

 

【世界最高効率の水素製造に成功 変換効率24.4%】


東京大学の杉山正和准教授らの研究グループは、高効率太陽電池の電力で水電気分解
するシステムを構築し、太陽光エネルギーの24.4%を水素に蓄えることに成功する。
水素は自動車などのクリーンな燃料として今後の需要増大が見込まれるが、現在は化
石燃料から製造され、低コストで水素を生成する技術が求められている。光触媒を用
いた太陽光からの水素製造方法は、太陽光から水素へのエネルギー変換効率は15.3
%(『大阪都構想にエールを。』2015.05.02)。同教授らは、レーザーやLEDなどに用
いられる高品質な半導体を、レンズで集めた強い光のもとに置いて発電する集光型太
陽電池(発電効率31%)を用い、水の電気分解装置との電気的接続法を改良すること
でエネルギー損失を低減、水素へのエネルギー変換効率24%以上を実際の太陽光の
もとで実現。このシステムに用いられる太陽電池と電気分解装置はすでに市販されて
おり、設置条件に合わせたシステム設計により太陽光由来の水素を高効率に製造する
ことが現在の技術で実現可能。集光型太陽電池は通常の太陽電池に比べ高価だが、海
外の高照度地域では発電効率が高い分発電コストを低減でき、米国エネルギー省が目
標とする水素コスト1キログラムあたり4ドル以下へのコスト低減が見込まれている
――と述べている。しかし、少し付け加えておくと、わたしの事業構想「オールソー
ラーシステム」では、海洋筏方式での発電-水素製造-貯蔵搬送、マイクロ波電送、
洋上風力発電を含め日本近海での生産が有利だと考えている。

 

 
※ A 24.4% solar to hydrogen energy conversion efficiency by combining concentrator photo-
   v-oltaic modules and electrochemical cells, The Japan Society of Applied Physics •Applied
      Physics Express,  Volume 8,


【リチウムイオンの輸送性能7倍 有機系固体電解質材料開発】

北陸先端科学技術大学の松見紀佳教授らは、リチウムイオンの輸送性能に優れる有機
系固体電解質材料を開発。これは、有機ホウ素結晶とリチウム塩の固体を混合した材
料で、溶解後に混合する従来法に比べ、イオン輸送性能が最大で7倍に広がることを
突とめた。自動車用リチウムイオン二次電池や高容量定置電源の性能向上につながる
可能性がある。

松見教授らは、材料の安定性を高めるため、針状結晶物が環状に連なったホウ素化合
を合成。さらにホウ素化合物とリチウム塩を固体のまま粉砕して混合、ペレット状に
した。このペレットは溶解後に混合した材料に比べ、ホウ素と陰イオンの相互作用に
よるリチウムイオン伝導性向上率が高まったと考えられる。

説明のように、イオン伝導性を高める→イオンが電極に接触しやすくなり→蓄電能力
の向上する。このため、(1)固体材料を用いれば電池の安全性が高くなり、(2)
高分子ポリマー(高分子固体電解質――フィルム形成能や電極との接触面積が大きい)
と(3)セラミックス(無機系固体電解質――有機系固体電解質より大幅に優れたイ
オン伝導特性を示す)の長所を融合させた新型固体電解質(全固体型リチウムイオン
電池)を作製するに至る。具体的にはイオン伝導特性(イオンや電荷の流れが高速化)
が増し、イオンが電極に接触しやすくなり蓄電能力の向上し、安全性が高まる電解質
を作製する。

ここでは、有機ホウ素系結晶を足場としてホウ素―アニオン相互作用により、イオン
伝導パスに秩序を与えることを試みる。その結果、系へのリチウムイオンの導入方法
により、イオン伝導度が大きく異なるという特異的な挙動を観測。評価は、(手法1)
有機ホウ素結晶とリチウム塩とを固体のまま粉砕、混合しペレット状に処理。サンプ
ルは、(手法2)有機ホウ素結晶とリチウム塩とを共溶媒に溶解させ混合した後、溶
媒を減圧留去、乾燥し、サンプルと比較――大幅に高いイオン伝導度を示す。

これは、前者の系における結晶構造がホウ素―アニオン相互作用を通し、イオン伝導
パスに秩序を与えた結果と考えられ、実際に前者の系では後者と比較し、VFT(Vogel-
Fulcher-Tammann)式から算出されたイオン輸送の活性化エネルギーの顕著な低下が明
らかされた。

※  A crystalline low molecular weight cyclic organoboron compound for efficient solid state
   lithium ion transport((結晶性低分子環状有機ホウ素化合物による効果的な固体状態
   におけるリチウムイオン輸送),  Chem. Commun., 2015, Advance Article DOI:  10.1039
   /C5CC04753F

※ もう少し時間をかける必要あり、残件とする。

やれ、やれ、処理すれど、また新たな仕事が発生する。たまらないね。

                                                  
 

 

 

 


電力疾走!全力疾走!

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   小説家にとって「落ち着くべき場所にすんなり落ち着く」というのは、
        率直に言わせていただければ、「創造力が減退する」のとほとんど同
        義なのです。小説家はある種の魚と同じです。水中で常に前に向かっ
        て移動していなければ、死んでしまいます。

                                                                                 村上 春樹

 



 ● 折々の読書 『職業としての小説家』4

  子供の頃何かの本で、富士山を見物に出かけた二人の男についての話を注んだことがあります。
 二人ともそれまで富士山というものを目にしたこともありません。順の良い方の男は富士山を置
 のいくつかの角度から見ただけで、「ああ、富士山というのはこういうものなんだ。なるほど、
 こういうところが素晴らしいんだ」と納得してそのまま帰って行きます。とても効率かいい。話
 が早い、ところかあまり頭の良くない方の男は、そんなに簡単には富士山を理解できませんから、
 一人であとに残って、実際に自分の足で頂上まで登ってみます。そうするには時間もかかるし、
 手間もかかります。体力を消耗して、へとへとになります。そしてモの末にようやく「モうか、
 これが富士山というものなのか」と思います。理解するというか、いちおう暗に落ちます。

  小説家という種族は(少なくともその大半は)どちらかといえば後者の、つまり、こう言って
 はなんですが、頭のあまり良くない男の側に属しています。実際に自分の足を使って頂上まで登
 ってみなければ、富士山がどんなものか理解できないタイプです。というか、それどころか、何
 度登ってみてもまだよくわからない、あるいは登れぼ登るほどますますわからなくなっていく、
 というのが小説家のネイチャーなのかもしれません。モうなるとこれはもう「効率以前』の問題
 ですね。どう転んでも、頭の切れる人にはできモうにないことです。
 
  だから小説家は、異業種の才人かある日ふらりとやってきて小説を吉き、それが評論家や世間
 の人々の注目を浴び、ベストセラーになったとしても、さして驚きはしません。脅威を感じたり
 することもまずありません。ましてや腹を立てたりもしません(と思います)。なぜならそのよ
 うな人々か、小説を長期問におたって書き続けるのは稀なケースであることを、小説家は承知し
 ているからです。才人には才人のペースがあり、知識人には知識人のペースがあり、学者には学
 者のベースがあります。そしてそういう人たちのペースはおおかたの場合、長いスパソをとって
 みれば、小説の執筆には向いていないみたいです。

  もちろん職業的小説家の中にだって才人と呼ぱれる人はいます。頭の切れる人もいます。ただ
 世間的に頭が切れるというだけではなく、小説的にも頭の切れる人です。しかし伎の見たところ、
 そのような頭の切れだけでやっていける年月は――わかりやすく「小説家としての賞味期限」と
 言っていいかもしれませんが――せいぜい十年くらいのものではないでしょうか。それを過ぎれ
 ば、頭の切れに代わる、より大ぷりで永続的な資質か必要とされてきます。言い換えるなら、あ
 る時点で「剃刀の切れ味」を「鉈の切れ味」に転換することか求められるのです。

  そして更には「鉈の切れ味」を「斧の切れ味」へと転換していくことが求められています。そ
 のようないくつかの転換ボイントをうまく乗り越えられた人は、作家として一段階大柄になり、
 おそらく時代を超えて生ぎ残っていきます。乗り越えられなかった人は多かれ少なかれ、途中で
 姿を消して――あるいは存在感を薄めて――いくことになります。あるいは頭の切れる人か落ち
 着くべき場所にすんなりと落ち着いていきます。

  そして小説家にとって「落ち着くべき場所にすんなり落ち着く」というのは、率直に言わせて
 いただければ、「想像力が減退する」のとほとんど同義なのです。小説家はある種の魚と同じで
 す。水中で常に前に向かって移動していなければ、死んでしまいます。 

  というわけで僕は、長い年月飽きもせずに(というか)小説を書き続けている作家たちに対し
 て――つまり僕の同僚たちに対して、ということになりますが――  一様に敬意を抱いています。
 当然のことなから、彼らの両く作品のひとつひとつについては個人的な好き嫌いはあります。で
 もそれはそれとして、二十年、三十年にもわたって職業的小説 家として活躍し続け、あるいは生
 き延び、それぞれに一定数の読者を獲得している人たちには、小説家としての、何かしら優れた
 強い核のようなものが備わっているはずだと考えるからです。小説を書かずにはいられない内的
 なドライブ。長期間にわたる孤独な作業を支える強靭な忍耐力。それは小説家という職業人とし
 ての資質、資格、と言ってしまっていいかもしれません。

  小説をひとつ書くのはそれほどむすかしくない。優れた小説をひとつ書くのも、人によっては
 それほどむずかしくない。簡単だとまでは言いませんか、できないことではありません。しかし
 小説をずっと書き続けるというのはずいぶんむずかしい。誰にもでぎることではない。そうする
 には、さっきも中し上げましたように、特別な資格のようなものか必要になってくるからです。
 これはおそらく「才能」とはちょっと別のところにあるものでしょう。

  じゃあ、その資格があるかどうか、それを見分けるにはどうすればいいか? 答えはただひと
 り、実際に水に放り込んでみて、浮かぶか沈むかで見定めるしかありません。乱暴な言い方です
 か、まあ人生というのは本来そういう風にでぎているみたいです。それにだいたい小説なんか害
 かなくても(あるいはむしろ書かないでいる方か)、人生は聡明に有効に生きられます。それで
 も鳶きたい、書かずにはいられない、という人が小説を書きます。そしてまた、小説を書き続け
 ます。そういう人を僕はもちろん一人の作家として、心を開いて歓迎します。
  リングにようこそ。 

                         『第一回 小説家は寛容な人種なのか』

                                                        この項つづく

● リヨンに太陽光発電量リッチなポジティブ・エナジー「ヒカリビル」が完成

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、フランスのリヨンで太陽光発電の発電量がエ
ネルギー消費量を上回るポジティブ・エナジー・ビルディング「ヒカリビル=写真」を完成した。蓄
電池や蓄熱材、LED照明、ビルエネルギー管理システムを導入して省エネを徹底した。ビルを実証
運転し、スマートコミュニティー実証事業の成果として海外に訴求する。東芝などに委託し、日本の
エネルギー関連技術を搭載して建設した。同国では公共施設をポジティブ・エナジー・ビルディング
にすることを目標に掲げており、実証成果は実際のビジネスに展開できる。

今回のスマートコミュニティ実証はリヨン都市共同体(グランリヨン)が進めている都市再開発事業
とタイアップしたもので、20年までに20%の省エネ、20%の再生可能エネルギーの導入をEU
の政策目標に配慮。TASK1に続くTASK2ではPVを活用したEV管理システムとカーシェア
リングシステムの導入。TASK3はHEMSによる住民の省エネ行動の促進、TASK4では地域
全体のエネルギーを最適化するCEMSを構築する計画だ。NEDOのTASK1~4までの総事業費は
約50億円。日本からは東芝、東芝ソリューションが参加している。ヒカリビルのオープンは15年
初旬、プロジェクトの終了は16年秋ごろの予定。

 


● 水害の予測に応用可能 76GHz帯のミリ波発振器

日本電波工業は、「センサエキスポジャパン2015」(東京ビッグサイト)で76GHz帯のミリ波発
振器を展示。このミリ波発振器は、ガンダイオードとバラクタダイオードを同一平面に収納したプレ
ーナー構造。寸法は13×14×3ミリメートルと小型だが、20ミリワット(10デシベル以上)の高
出力を実現。位相雑音も百デシベル搬送波(1MHz時)と低くなっている。雨や雪など天候が悪か
ったとしても、検知できるのがミリ波の特長。

なお、同社は、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC:Monolithic Microwave Integrated Circuits)と
比べ、半導体素子の開発費用が少なく、発振器としても、部品構成の簡素化が可能ろなり、高い周波
数を選択しているのでアンテナが小型化でき、センサ全体をコンパクト設計可能といった利点がある。


自然災害発生予測に応用が可能

76GHz帯ミリ波発振器を用いたセンサとして、検波器やドップラーセンサ、FMCW(Frequency Modulated
Continuous Wave)センサが紹介されている。FMCWセンサは、物体の距離と速度を検知できるため、河
川や海などの水位が検知可能。このため、河川の氾濫や津波などの自然災害発生の予測に応用でき、現行
の可視レーザ距離計では、水を透過してしまい距離を誤認識する場合があるが、ミリ波は水を透過しないため
誤認識をすることがない。ミリ波発振器は既にサンプル出荷を開始。1個からの少量受注対応も考え
ているとか。同社は、警備や見守りなどに応用ができ、多種多様な展開が可能だと意気込んでいる。

 特許4772255
【符号の説明】

1  MSL共振回路、2  ガンダイオード、3  基板、4  接地導体、5  整合線、6  出力線、7  SL、8  内側導
体、9  外側導体、10  SLスタッブ、11  ワイヤ、12  キャパシタ、13  バラクタダイオード、14  CPW、15
 MSLスタッブ、16  バンプ.

● ルームランニング記 Ⅲ: ローイングマシーンで疾走 

 

 


時間を惜しんで、いまは、ローイングマシーンに切り替えがんばっている家内ビジネスマンです。

 

 

メタセコイヤと彼岸花

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   月の裏側に一人残されていたような恐怖を自分のことのよ
               うに想像しながら、その状況の意味を何年も考え続けた。 
                                                                                                
                                                                               村上 春樹 

  

朝、いつものように作業をしていると、朝刊の一面をみせ、「高島の桂浜園地」の彼岸花が見事に咲
いているとみせるので、二言、三言を話し、それじゃこれがおわったら見に行こうと約束し、八時半
過ぎに家をでて、昼前に帰ってくる。国道335号から湖岸道路の54号にはいるとメタセコイヤと
百日紅の並木道を疾走すると、めざす今津町桂の一万本もの彼岸花が群生する地に到着。天候もよく
群生地には沢山の人がめいめい写真を撮ったりし花を鑑賞している。もう少しするとそばの花が咲き
紅白のコントラストが楽しめる。帰りに「あぢかまの里」に立ち寄り栗御飯と古漬け、そして、清酒「
深坂地蔵」を買い、お昼御飯に頂く。



         塩津山うち越え行けば我が乗れる 馬そ爪づく家恋ふらしも

         ますらをの弓末ふり起し射つる矢を後見む人は語り継ぐがね  


                               笠朝臣金村


この「深坂地蔵」のラベルにかかれている一首は、金村が近江の塩津山で作った歌のひとつされ、塩
津山がどこを指すかさだかでないが、近江塩津から角鹿(敦賀)へ向かう道の途中であることはほぼ
確かだとされるが、この短歌も現代では符号化した「商品」の記号の価値形態の援用として消費され
ている。また、北陸新幹線の岐点となるであろう敦賀から大阪と名古屋の太平洋側の二都市を結ぶこ
とになれば、これほどの誉れはないと、美し国の蒼氓の"げんざいのかさのあそんかなむら"は塩津山
(しおつやま)――現在の滋賀県長浜市西浅井町塩津浜と福井県敦賀市追分との間の山。琵琶湖北岸
から敦賀へ出る険路――を望みそう思っているのではないかと韻を惹く。

 

深坂峠は、深坂古道は古来、「深坂越え」と言われ標高370メートル深坂峠を越える交通の難所。
しかし「深坂越え」は、越前の国(敦賀)と近江国(塩津)を結ぶ最短経路であり、難所であるにも
かかわらず利用される。千年の昔、紫式部が父(藤原為時)に連れられ通った道で、平清盛が息子、
重盛に、琵琶湖-敦賀間の運河の開削を命じる。近世には、秀吉により高低差の少ない「新道野越え」
が東に開かれると「深坂越え」の道は衰退する。現在では東の「新道野越え」は国道8号に西の「西
近江路」は国道161号に姿を変える。


       
       知りぬらむ ゆききにならす 塩津山 世にふる道は からきものぞと     

                                   紫式部


深坂古道は古来、「深坂越え」と言われ標高370mの深坂峠を越える交通の難所。「深坂越え」は、
越前の国(敦賀)と近江国(塩津)を結ぶ最短経路であり、難所であるにもかかわらず利用されてい
く。千年の昔、紫式部が父(藤原為時)に連れられて通った道であり、平清盛が息子、重盛に、琵琶
湖-敦賀間の運河の開削を命じたところ。また、秀吉により高低差の少ない「新道野越え」が東に開か
れると難所とされてきた「深坂越え」の道は衰退する。現在では東の「新道野越え」は国道8号に、
西の「西近江路」は国道161号線に姿を変る。峠の手前に、深坂地蔵堂――堀止(ほりどめ)地蔵
とも――があるが、近江・塩津から越前・敦賀を結ぶ運河を平重盛が塩津側から掘削を開始するが峠
付近にさしかかった時、大きな岩に突き当たり頓挫する。石工が岩を割ろうとクサビを打ち込むと、
突然石工は腹痛を訴えて倒れこみ、別の石工が試みても同じように腹痛がおこり工事は中断。不思議
に思いこの岩を掘り起こすと、立派なお地蔵のお姿を見つけ、運河計画を中止するが、その場にその
お地蔵様を安置したと言い伝えられていくが、現在は子供の守り神として信仰される。

また、運河の起点となる塩津港があった「塩津港遺跡」で8年前、誓約書のルーツである起請文が書
かれた大きな木簡が多数出土するが、ほとんど12世紀後半のも。まさに平清盛が活躍した時代と一
致するが、このことが「清盛の知られざる野望 琵琶湖運河計画が眠る峠」、つまり、日宋貿易が平
清盛の父・忠盛が越前守だった時代に敦賀で行われ、瀬戸内海の海賊と戦い海運航路を確保し、博多
に日本初の人工港をつくり瀬戸内海ルートを使い日宋貿易を活性化、航路が狭く難所とされた広島県の
音戸(おんど)の瀬戸を開削伝説を生み、この貿易で財を築いた平清盛が、当然のごとく、日本海~琵琶
湖ルートの重要性を教えらたと推測される所以である。


※塩津~敦賀間運河計画年表 http://www.koti.jp/marco/unga_hyou.htm

 
 



【中古太陽発電市場が本格化】

固定価格買取制度も4年目に入り、建設工事が終わって売電を開始した太陽光発電所が増えてきた。
資源エネルギー庁の発表によると14年1月現在で13.6ギガワット超の太陽光発電所が運転を開
始――9月22日現在の全国の太陽光発電所一覧地図:2418箇所で5,736メガワット――し
ている。原発13基分に相当する出力となる。1メガワットあたりの建設費用を3億円とすると、3
億円×13ギガワット=3.9兆円分の運転開始した太陽光発電所が存在することになる。短期間に
これだけの投資を誘発した投資促進制度は非常に稀で、固定価格買取制度の威力を見せ付けるものと
なっている。従来は開発途上の太陽光発電所の3点セット(①設備認定、②電力会社への接続申込の
地位、③土地利用権)をメガワットあたり数千万円で取引するいわゆる「権利売買」取引が行われてい
たが、これからはそれに加えて完成しえている太陽光発電所を売買するセカンダリー取引が活発にな
る予想されている(「中古太陽発電市場が本格化」江口直明 環境ビジネス 2015年秋季号)。

太陽光発電所を買い取る海外ファンドも日本に上陸し、太陽光発電所を買い始めている。また、東京
証券取引所の太陽光発電所等の再生可能エネルギー向けインフラリート(インフラ施設を対象とした
不動産投資信託(リート))制度も始まり、今後設立されるインフラリート投資法人も有力な買い手
となりうる。さらに完成した太陽光発電所に投資するファンドも日本で立ち上げる動きがあり、買主
の顔ぶれが出そろいつつある。15年3月31日で終了した太陽光発電設備の即時償却メリットを享
受した税効果目的投資家は、継続保有するインセンティブはなく、今後維持管理費がかかる太陽光発
電所を売却に動くかもしれない。また、海外投資家は開発型投資家が多く、完成後は売却することを
前提に開発を進めている。これらの海外投資家の太陽光発電所の資金調達のためのファイナンスが今
佳境を迎えているので、海外投資家が完成した太陽光発電所を売りに出すケースも間もなくやってこ
よう。まさに機は熟しつつあると言える。 

発電所情報の開示

太陽光発電所の売買をスムーズに進めるためには、売主側でも十分な準備が必要となる。買主が売買
の可否を判断するのに必要な情報は売主側から積極的に開示し、買主のデューディリジェンス(法務
監査、技術監査――不動産取引等において対象不動産の適正な市場価値やリスクを明確にするために
実施する詳細かつ多面的な調査――を容易にする努力が必要となる。不動産売買の際に行われている
重要事項説明書のような書面を作成し情報を開示するのが望ましい。売主の開示情報が整っていれば、
買主の法務デューディリジェンスの期間は短くなり、その費用も安くなるので、迅速に売買契約書の
交渉へ手続きを進めることができる。売主側として、法務監査に時間がかかり売却の機会を逸すると
いう不都合を避けることができる。開示資料不足と時間不足で法務監査が十分にできなければ、積み
残した事項についてはリスク原因として買主は発電所の購入値段に織り込まざるを得ず、価格の低下
要因になる。



売主が太陽光発電所を購入又は開発する際に弁護士やその他の専門家にデューディリジェンスレポー
トを作成させていた場合には、通常下記のような事項について予め調査がされていることが多い.そ
の場合には、このデューディリジェンスレポートを買主に開示すれば、買主の
デューディリジェンスを容易にすることができる。売主の担当弁護士等は、依頼人以外の者が担当弁
護士等の作成したデュディリジェンスレポ-トに依拠することを望まない場合もある。その場合には
「ノン・リライアンスベース/非依拠ベース」で開示を許諾してもらうように当担当弁護士等に依頼
することになる。開示資料では例えば次のような記載が必要になろう。合同会社の持分を売却するこ
とを前提とする。

1.基本情報

①太陽光発電所設備名称、完工した発電所の実際の発電出力MW数、買取価格(40/36円)
②設備所在地、発電事業者名、設備ID番号、設備認定通知言上の発電出力、設備認定日(設備認定通知
 書/変更届の写しを添付)
③売主名(合同会社の持分保有者)(会社や一般社団法人の場合は商業登記簿謄本を添付)
④発電事業を行う合同会社名(商業登記簿謄本及び定款を添付)

【発電事業を行う合同会社名と設備認定通知の発電車業者名が異なる場合は、設備認定通知の発電事
業者から現在の発電事業を行う合同会社に設備認定の名義変更が行われたことを示す軽微変更届出写
し及び権利譲渡に関する契約書の写しを添付】

⑤実質売主名(売主がSPC)の場合(商業登記簿謄本を添付)
⑥売電先会社名
⑦土地所有方式/土地賃貸方式
⑧プロジェフトストラクチャー図(当事指名を含む参考例有)

2.設備認定・接続契約

①設備認定について報告書徴収があった場合の報告書、回答書
②速系接続検討結束
③系低速系承諾通知書年月日
④速系工事期間と工事負担金支払領収 書
⑤特定契約・接続契約(売電契約書)/電力受給に関する契約要綱の写し

3.土地情報

3.1 発電所用地

①発電所建設時のデューディリジェンスの有無、DDレポート開示の可否
②発電所用地の詳細図
③発電用地の筆数と地積合計面積
④発電用地の不動産物件目録(参考例 有)
⑤発電用地の公図をつなぎ合わせて一つの地図としたもの
⑥不動産登記簿騰本の写し
⑦発電用地利用権の種類(所有/地上権/登記付賃借権)
⑧土地利用契約書名、当事者名、調印 年月日、年間地代合計額(賃貸方式の場合)/固定資産税合計
 額(所有方式の場合)、利用権の期間
⑨測量図、筆界確認
⑩許認可取得の有無と許可書の写し(農地転用許可、林地開発許可、条例による環境影響評価等)
⑪用途地域
⑫都市計画道路の有無

3.2送電線用地

上記3.1の①から⑩と同様 但し③は地積合計面積は不要、⑦は送電線用地の利用権として、空中地
上権、地役権、道路占用許可等

4.契約書

①エ事請負契約書出力保証の有無と内容
②発電所の試運転情報/エンジニアリンブレポート/TUV等の認証の有無
③運転維持管理契約書出力保証の有 無と内容
④パネル供給契約書出力保証の有無と内容
⑤保険検証証券保険の概要、パネルメーカ―倒産保険の有無
⑥融資契約売買時全額返済の可否、担保の有無
⑦その他(開発契約、仲介契約等もしあれば)

5.その他報

6.技術情報

これらは法務監査のための資料開示ではなく、技術監査のための資料開示となる。発電所の設計図書、
地盤データ、配線図、発電実績、発電効率、試運転の記録、系統の出力抑制事由の有無、瑕疵修補の
記録、スペアーパーツ状況等技術監査に必要な情報は技術監査専門家から開示要求されることになる。
開示要求に迅速に対応できるように、予め開示資料を整えておくことが望まれる。




太陽光発電所のデューディリジェンス

買主の法務デューディリジェンスは、関示された発電所情報を基にして、不明点をさらに調べる追加
的審査となる。法務監査は書面の確認、売主のインタビュー関係行政機関や契約相手方へのヒヤリング
の手順を踏み、関係行政機関に買主の弁護士がいきなり連絡を取ると、関連行政機関の担当者には寝耳
に水となり、十分な協力が得られないこともある。売主から予め関連行政機関に買主側法律事務所の
名前を告げて、ヒヤリングの要請があることを伝えて、協力のお願いをしておくことが望ましい。デ
ューディリジェンスは、数週間を要し、最終的にデューディリジェンスレポートを作成。このデュー
ディリジェンスレポートは買主が将来この当該太陽光発電所を売却する際にも開示資料の役割を果た
す。

太陽光発電所合同会社の持分売買契約

買主がデューディリジェンス結果に満足すると、次に太陽光発電所合同会社の持分売買契約の交渉と
調印へ進む。発電所事業の売買には、(1)会社譲渡方式と(2)資産譲渡方式の2種類があるが、
通常は発電所施設、関連契約、許認可を有している発電所合同会社の持分を譲渡することにより、個
々の資産譲渡、契約上の地位の移転、許認可の移転を避けて、一括して会社ごと発電所事業を譲渡する。
但し持分譲渡方式では買手側で営業権の認識ができず、税務上の理由から資産譲渡方式を買主が求め
る場合もあり、譲渡のストラクチャリングにあたっては税理士への相談が不可欠となる。譲渡を実行
してから、税務上の理由から一旦譲渡を解除は空振りとなる。契約の相手方は資産を有する当事者と
するか、契約の相手方は特別目的会社でやむを得ないとしても、資産を有する親会社、または関連会
社から契約の履行について保証を得ておく。 

売買契約の記載事項としては、契約日から売買実行日までの間に売主が行うべき事項及び売買を妨げ
てはいけない事項を列挙する。また、売主及び買主がそれぞれ売買実行日までに充足しなければならな
い売買実行前ジェンスの結果、発電所に不具合が見つかった場合には、売買実行日までにその部分を修
補することが条件になったりする。

売買契約の重要な項目として売主の表明保証がある。売主自身に関する事項、発電所に関する事項、
許認可に関する事項等について売主は表明保証を行い、万が一表明保証が誤っていた場合には損害賠
償義務を負うことを約束する。デューディリジェンスで十分調査ができなかった事項については、売
主に表明保証してもらうことにより、調査に代替する場合もある。売買契約上の履行義務の重大な違
反や重大な表明保証違反があった場合、売買契約は解除され、損害賠償を請求することになる。売買
契約には損害賠償の免責額及び損害賠償の上限額を記載することがある。 

以上のように、固定価格買取制のプレミアム期間終了を控え、中古(セカンダリー)太陽光発電所の
売買にかかわる法務デューディリジェンスについて、ベーカー&マッケンジー法律事務所の江口直明
弁護士の日本市場の動向について学ぶ。                                         

  

最終観戦記 アルツハイマー病

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   「そういうのってなんや? なんか俺、変な奴みたいにな
           ってんのかな?」と神谷さんは不安そうな目で僕を見た。

                                                          又吉直樹  /『火花』 



 

 ● 折々の読書 『花火』5


  姿の見えない金木犀を探しながら近所の中通り商店街を歩いていた。昨夜、確かに、この辺
 りで金木犀の香りがして、起きたら探しに行こうと楽しみにしていたのだ。いつもピンサロの
 前になっている呼び込みのお兄さんが、自転車で僕の横を通り過ぎて行った,こんな駅前では
 なかったはずだ。もう一度、アパートまで戻りながら探さなくてはと引き返そうとした時、神
 谷さんから、「吉祥寺に住む。どこおる? 夥しい数の桃」というメールが入った。僕は、「
 高円寺です。今から吉祥寺向かいます。泣き喚く金木犀」と返信し、駅まで急ぎ、ホームヘの
 階段を駆け上がり、総武線に飛び乗ると、ようやく気持ちが落ち着いた,車窓から色づきはじ
 めた街の景色を見下ろしながら、吉祥寺まで揺られた。

  土曜日の吉祥寺駅北口は学生や家族連れで酷く混雑していた。それぞれが目的を持ち軽やか
 に流れて行く人々の中で、周辺の重力を一人で請け負ったかのように、重たい空気を身に纏っ
 た男が真顔で突っ立っていた。日常の風景の中で目にする神谷さんは違和感の塊だった。
  僕に気づくと神谷さんは嬉しそうに微笑み、「前から変な妖怪歩いてきたと思ったら徳永や
 ないか」と言った。
 「こっちの台詞ですよ。今すぐ大阪帰ってください。早く早く早く帰って下さいよ」と僕は言
 った。 

  神谷さんと一緒に吉祥寺の街を歩くのは、不思議な感覚だった。神谷さんは、なぜ秋は憂鬱
 な気配を孕んでいるのかということについて己の見解を熱心に聞かせてくれた。昔は人間も動
 物と同様に冬を越えるのは命懸けだった。多くの生物が冬の問に死んだ,その名残りで冬の入
 口に対する恐怖があるのだということだった,その説明は理に適うのかもしれないが、一年を
 通して慢性的に憂僻な状態にある僕は話の導入部分から上手く入って行くことが出来なかった。

 「凄いですね。とかないんかい」と言う神谷さんの声を聞いて我に返った。
 「すみません」
 「謝んなや。大阪で高速バスが走り始めた時から、お前にこの話して尊敬されようと楽しみに
 してたのに」

 臆面もなく自分の欲望を晒せるのは神谷さんの美点だと思う。

 「いや僕はね、一年通して憂僻な状態なんですよ。先祖が慢性的に危機的な状況に置かれてた
 んですかね?」
 「せやな。もしかしたら一切危険のない環境やったから、自分達で別種の緊張状態を生み出し
 てもうたんかもな」と神谷さんは早口で捲し立てた。
 「だとしたら、結構阿呆ですね」
 「どうやろな」

  適当に歩いていたはずが、いつの間にか、井の頭公園に向かう人達の列に並んでいた。公園
 に続く階段を降りて行くと、色づいた草木の間を通り抜けた風が頬を撫で、後方へと流れて行
 った。公園は駅前よりも時間が緩やかに進んでいて、目的を持たない様々な種類の人達がいた
 ので、神谷さんも馴染んだ,僕は、この公園のタ景に惚れていて、神谷さんを連れてこられた
 ことを嬉しく思った。

  池のほとりに腰を降ろし、太鼓のような長細い楽器を叩いている若者が平凡な無表情を浮か
 べていて、僕も確かに気にはなったのだが、神谷さんは周りを憚ることなく、男の前で露骨に
 立ちどまると、首を傾げて不思議そうに男の顔と楽器を交互に見比べた。なぜ数多くある楽器
 の中から、この男はそれを選んだのか。しかし、神谷さんにしても、更に複雑な形状の、いか
 なる音が出るのか想像もつかないような楽器を選びかねない人種であることは間違いなかった。
  楽器の男は注目されるのが不快だったのか眉間に皺を寄せて、気怠そうに演奏をとめた。
 
 「ちゃんと、やれや!」

  突然、神谷さんが叫んだ,僕は驚きのあまり動けなかった,神谷さんは、両眼を見開き男を
 睨みつけていた,男は一瞬とまった後、自分の披る赤い帽子のつばに触れ、怒嗚られたことを
 恥じるようにうつむいた。その所作が、怒鳴られたのは自分ではなかったと信じたいように見
 えた。
 
 「お前に言うとんねん!」

  神谷さんは男を逃がさなかった。やはり、この人は頭がおかしいのかもしれない。とめるべ
 きだろうか。でも僕は、なぜ神谷さんが感情を露わにするのか理由が知りたかった。
 「お前がやってんのは、表現やろ。家で誰にも見られへんようにやってるんやったら、それで
 いいねん。でも、外でやろうと思ったんやろ?俺は、そんな楽器初めて見た。めっちや格好良
 いと思った。だから、どんな音すんのか聴きたかったんや。せやのに、なんで、そんな愈地悪
 すんねん。聴かせろや!」

  男は神谷さんを見上げて、「いや、そういうんじやないから」と鬱陶しそうに答えた。

 「そういうのってなんや? なんか俺、変な奴みたいになってんのかな?」と神谷さんは不安
 そうな目で僕を見た。
  僕は、「完全に変な奴ですよ]と神谷さんに教えて差し上げたが、神谷さんは、なぜ僕が笑
 っているのかわからないようだった。
  僕は男に謝った上で、すぐに立ち去るので少しだけ楽器の音を聴かせて欲しいと頼んだ,男
 は渋々、太鼓らしきものを叩きはじめた,神谷さんは眼を瞑り、腕組みしながら右足でリズム
 を取っている。男も神谷さんの様子を見て安心したのか、テンポを上げだした。夕暮れの公園
 を歩く人達が珍しそうに僕達を見ていた。男が楽器を激しく叩く。益々テンポが上がり連打に
 入った。すると神谷さんは右足でリズムを刻んだまま、右手を前に出して、空気を押すように
 二度ほど手の平を動かした。それに気づいた男が少しずつテンポを落とし、適度なところで神
 谷さんは右手を戻した。男はテンポをそこで固定して再び演奏に没頭しだした。いつの問にか、
 僕達の周りに若い女性が何人か集まっていた。ますます乗ってきた男が、今までになかったよ
 うな斬新な打ち方を始めると、神谷さんは右足でリズムを刻んだまま、再び右手を出してそれ
 を制した。男は斬新な打ち方をやめて、元の打ち方に戻した。ほとんど仲谷さんは指揮者だっ
 た。男の額からは汗が流れ、更に足をとめる人が増えた。僕も無意識のうちに、音にに合わせ
 て首を動かしていた。音と音の余韻が連鎖して旋律になった。そして、神谷さんもその一部だ
 った。男は赤い帽子から出た長い手を振り乱して楽器を烈しく叩いた。

  その時、唐突に神谷さんが「太鼓の太鼓のお兄さん!太鼓の太鼓のお兄さん!真っ赤な帽子
 のお兄さん!龍よ目覚めよ!太鼓の音で!」と幼稚な詩を大声で唄い出した。僕がとめても、
 しばらく神谷さんは唄うことをやめなかった。

  辺りが紫色に暮れ出すと雨粒が僕の肩を濡らし、次第にシャツを濡らした。それを合図に人
 垣は散り散りとなったが、男はそれでも楽器を叩き続けていた。混沌の様相を呈す場を、主謀
 者の神谷さんと共に後にした。「武蔵野珈琲店」という看板が眼に人った時には、雨粒は激し
 く路面に弾かれていたので、僕達は迷わず階段を昇り店の扉をひいた。
 
                                又吉直樹 著『火花』 

師匠と呼ばれる神谷のひととひとなりが劇的な発露として一瞬読み手を緊張に導出すると同時に、
作者のエネルギーを感じ取ることができるシーンとなっている。

                                     この項つづく

 

 

【環境配慮型太陽電池研究 Ⅰ】

韓国の大学の研究グループが、薄膜ハイブリッド型の太陽電池の試作に成功したと発表し話題とな
っている。上/下図のように、太陽光をすべてエネルギーに変えてしまうアイデアの延長にあるも
の。まず、(1)紫外光域は、光吸収の優れた色素増感型変換層で電気エネルギーに変換、(2)
可視光域はは有機型変換層で電気エネルギーに変換、(3)さらに、近赤外域は熱電変換層で電気
エネルギーに変換する構造(尚、PT/PEは電極とフィルム樹脂、PVDF-TrFEはフィル
ム樹脂)。

太陽電池は進化加速している。降り注ぐ太陽光を百パーセント電気変換できるまでは至っていない
が、このハイブリッド・ソーラー電池は、従来のソーラー電池より20%変換効率を向上させた。
構造自体は目新しいものではないが、電圧が従来のものより、5倍というのが最大の特徴で、可撓
性も保て、新しい構造によるコストアップ分は変換及び集電効率の性能でアップ十分カバーできる。
これは面白い。

 



【釣り革命: ドローンで釣りも五月蠅くなるが】

これから、海や川、池の釣り場でドローンのフィッシャーマンが接見するかもしれない。勿論、現
時点では魚影を探知、追跡し鶴というものまでには至っていないが、かなりの大物を釣れている。
また、釣り糸を通電できるように、LEDの集魚灯を浮きに付け釣ることも試されている。これは
「釣り革命」に違いないが、これまでの自然にとけ込んで釣りを楽しむ伝統的な釣り人は、はた迷
惑なもの。このようにドローンが市民権を得るには「静粛性」「安全性」「非兵器性」「人権保護
性」などのをクリアが大前提となる。

 

 

【最終観戦記  アルツハイマー病Ⅰ】


●その1:カマンベールチーズで予防できるか

高齢者の増加に伴い、認知症は大きな社会問題。残念ながら認知症の本質的な治療方法は、未だ明
らかでない。そこで、日常生活の中で認知症を予防できる方法の開発が注目を集めている。これま
で、チーズ等の発酵乳製品を摂取することで認知機能の低下が予防されるという疫学的な報告があ
ったものの、詳細な機序やその有効成分は不明のまま。東京大学の中山裕之教授らの研究グループ
は、カマンベールチーズに含まれる成分が、認知症の一種であるアルツハイマー病の症状を再現し
たマウスで、その原因物質であるアミロイドβの沈着を抑える効果があることを見出したことを発
表。アルツハイマー病の症状を再現したマウス(5xFAD)に市販のカマンベールチーズから調製した
飼料を摂取させると、この成分を含まない飼料を摂取させたマウス群に比べ、(1)アミロイドβ
の脳内沈着が減少し、脳内の炎症が緩和されること見出す。(2)また、脳内で異物の排除を担う
ミクログリアがアミロイドβを除去する機能(貪食活性)と(3)抗炎症活性を促進するはたらき
のある物質を、(4)カマンベールチーズの製造時に用いられる白カビで発酵させた乳から探索。
その結果、(5)オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールを同定する。これらの成分は白カ
ビによる発酵工程で生成された可能性がある。この成果により、発酵乳製品の認知症予防について、
カマンベールチーズによるアルツハイマー病への予防効果が有効である可能性が高まり、特定され
た有効成分の検証など、今後のさらなる研究が期待されている。

 

 

 

● アルツハイマー病の進行抑制に成功するするか

京都工芸繊維大学の和久友則助教らの研究グループは、アルツハイマー病発症の原因である脳内の
蛋白質異常凝集を抑制するナノファイバー型ペプチド医薬を新たに開発したことを発表。アルツハ
イマー病疾患モデルマウスに、このペプチド医薬を投与すると、アルツハイマー病の進行を抑制。
このペプチドは人体内に含まれるタンパク質由来の無害なアミノ酸配列を利用、今後新たなアルツ
ハイマー病治療薬として応用できる見込み。

アルツハイマー病は、細胞外におけるアミロイドβの異常凝集と、細胎内においてリン酸化を受け電
荷が変化したタウ蛋白質の異常凝集が誘導する神経細胞死により起こる。現在アルツハイマー病の
薬剤として、抗アミロイドβ薬である(1)酵素阻害剤や(2)免疫療法、さらに抗タウタンパク
質凝集薬としてダウの(3)リン酸化阻害剤などの研究が行われている。

しかし、アルツハイマー病をより効率的に制御するためには、アミロイドβとタウタンパク質の異
常凝集を同時に抑制する薬剤の開発が望まれている。これもでの熱ショック蛋白質αクリスタリン
由来のペプチドをアルツハイマー病治療薬として利用する研究が同グループで行ってきた。αクリ
スタリンは水晶体内でタンパク質凝集を防ぐことで、白内障を抑制する機能を有し、その基質結合
部位 αAC(71-88):FVIFLDVKHFSPEDLTVKは、アミロイドβの異常凝集を抑制することが報告され
ていた。我々はこの αAC(71-88)が自己会合しナノファイバー化することで、蛋白質凝集抑制機能を
増幅することを明らかできた。
 
さらに、ナノファイバーは(1)疎水性相互作用により、蛋白質凝集体を表面に吸着することって
アミロイドβの凝集が抑制されることを見出す一方、(2)この機能が、ナノファイバーの表面電
荷に強く影響を受け、標的タンパク質と静電的に結合すると、表面電荷を喪失して蛋白質凝集を逆
に促進することを見つける。これにより酸性のアミロイドβと塩基性のタウタンパク質の双方の凝
集を抑制には、塩基性配列を導入したペプチド用いて表面電荷が中和したナノファイバーの設計が
必要となる。

そこで、塩基性細胞膜透過性配列アンテナペディア:RQIKIWFQNRRMKWKKをαAC(71-88)の末端
に結合させたペプチドを利用し、表面電荷がゼロの中性ナノファイバーを調製。このナノファイバ
ーをマウスの静脈に投与し、細胞膜透過機能により脳内へ移行することが蛍光顕微鏡により確認。
さらにアルツハイマー病疾患モデルマウスにナノファイバーを投与すると、アルツハイマー病の症
状の進行が抑制されることがY字迷路試験で確認。また、投与の際の患者への負担が少ない鼻粘膜
投与した疾患モデルマウスでも、Y字迷路試験により効果確認され、現在脳内移行性の確認実験を
行っている。

癌・アレルギーとこの認知症はこのブログでも重要なテーマでもあり、アルツハイマー型認知症も 
この他の2つの病症と同様に、原因を突き止め、罹患率を抑制できるのも間近だと確信している。
尚、このシリーズで取り上げていく。

   

時代は太陽道を渡る 12

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   英語に streetwise という言葉があります。「都会を生き抜くための実際的な
                        知恵を持った」というような意味ですが、僕には結局のところ、学術的なもの
                        よりも、そういう地べたっぽいものの方が性に合っていたようです。

                                                                   村上春樹 『職業としての小説家』 

 

【マイホビー奮戦記:3Dプリンタではじめるデジタルモノづくり】

デアゴスティーニの「週刊 マイ3Dプリンター」37号に入り、いよいよ心臓部のマイコン取付
けの段階――組立てペースは遅過ぎることはないが――に入ったのはいいが、上図のなべネジ(L
=16ミリ)が黒ネジじゃなく白ネジでそれも1本足らないことに気付き、メールでクレームを入
れる。梱包での様子がイメージできそうな出来事が起きた――急げば、コスト削減を優先すればか
ならずこのようなミスは起きるものだと思った。「この度は37号パーツ不足及び不良にて、お客様
には多大なご迷惑をお掛け致しました事、深くお詫び申し上げます。つきましては急ぎ代替品を手
配致します」と返事が戻ってきた。

小さな商品でも、消費者から不信を抱かれ、そっぽを向かれれば、ことの経緯や背景を抜きにして
企業生命が絶たれる。近くでは、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン車違法ソフトウエア搭
載、エアバック世界シェアは2位を誇るシートベルトのタカタ製インフレーター事故、東芝の不正
経理などの事例がそれだろう。ディーゼルエンジンの事件は、自動車の研究開発と産業界の再編に
まで波及しそうだ。クリーンディーゼルの落ち込みは、ポスト・ハイブリッドから電気自動車と燃
料電池車の熾烈な競争を導出しそうだ。いまのところ電気自動車が太陽光発電と蓄電池技術進展で
後者より有利ではないかと思える。話はそれたが、3Dプリンタの将来は? その答えは明確だ。

  

 





【再エネ百パーセント時代: 時代は太陽道を渡る 12 】

● 小指サイズの素子で水素製造 高効率14%達成

というわけで今夜も、「時代は太陽道を渡る」シリーズに移ってしまいましたが、まず、最初は、
イルメナウ工科大学らの研究グループは、太陽光により直接水を電気分解する技術で、化合物半導
体を使ったタンデム型太陽電池。超小型で太陽光から水素を製造し、エネルギー変換効率14%を
達成(2つの上図クリック)。太陽光発電から水素を生成する技術は現在、数多くの研究機関で開
発が進められ、15年8月にはオーストラリアのモナシュ大学が22.4%達成(『再エネ ステー
ジアップ
』2015.08.30)、同年9月18日には東京大学と宮崎大学が集光型太陽電池で24.4%を
(『アイム・ベンチャーズ。』2015.09.21)相次いで達成するなど加熱している。

でも考えてみれば、超小型で光さえあれば水素が発生するなら、水素水製造デバイスを健康商品と
販売する事業を先行させても好いはず。免疫性を高める効果があるなら、リサイクルをセットにし
た事業を世界展開できるはずである。これはチョッとでかい山になる。きみならこのヤマを見逃さ
ないだろう!?

 

● ミサワと京セラ、「太陽光だけの生活」を実験

ミサワホームと京セラは、奈良県内に建設したモデル住宅を活用し、自家発電した再生可能エネル
ギーを優先的に使用する「エネルギー自家消費型住宅」の実証実験を10月から共同実施する。京
セラ製の太陽光発電システム(6.6キロワット)とLiイオン蓄電池システム(7.2キロワット)
を搭載し、相互連係することでエネルギーを最適に利用。蓄電システムは、太陽電池で発電した直
流電流で直接、充電する「マルチDCリンクタイプ」を採用(上図クリック)。直流から交流への
変換を不要にすることで電力ロスを抑え、充電効率を従来品に比べて約6%――この差は大きい!
――高めている。

停電時には自動で自立出力に切り替わり、太陽光発電システムから蓄電システムに最大3kWの充電を
行い、自立出力を最大3kW使用できる。なお、モデル住宅は、ミサワホームが標準化している高性能
断熱材仕様に樹脂サッシを採用することで建物の断熱性を高め、地窓・高窓の開閉やシーリングフ
ァン・エアコンのオンオフを自動制御して排熱と涼風を取り込む涼風制御システムや、室内の風通
しを良くする南北通風設計、西日を遮る日よけスクリーンなどの省エネ設備を導入。今回の実証デ
ータを基に、自家発電したエネルギーを使用して災害時にも自宅生活を継続できる住まい方や仕様
を提案していくと語る。また、太陽光では、発電コストが既存の系統電力の電力価格と同等になる
「グリッドパリティ」の達成が間近なことから、来年以降、平常時にも極力、エネルギーを買わな
い住まい方について、実証実験を進めていく。

 



● 折々の読書 『職業としての小説家』5

  僕が文芸誌「群像」の新入賞を取り、作家としてデビューしたのは三十歳のときですが、そ
 の頃にはいちおう、もちろん十分とは言えないまでも、それなりの人生経験を積んでいました。
 それは普通の人、平均的な人とはいささか趣を異にする種類の人生経験でした。普通の人はま
 ず学校を卒業し、それから職に就き、そのあと少し問を置いて、一段落してから結婚するよう
 です。そういうわけで、とにかく最初に結婚したんですが(どうして結婚なんかしたのか、説
 明するとずいぶん長くなるので省きます)、会社に就職するのがいやだったので(どうして就
 職するのがいやだったのか、これも説明するとずいぶん長くなるので省きます)、自分の店を
 始めることにしました。ジャズのレコードをかけて、コーヒーやお酒や料理を出す店です。

  僕は当時ジャズにどっぷりのめり込んでいたので(今でもよく聴いていますが)、とにかく
 朝から晩まで好きな音楽を聴いていられればいいや、というとても単純な、ある意味気楽な発
 想でした。でも学生結婚している身だから、もちろん資本金なんてありません。だから奥さん
 と二人で、三年ばかり仕事をいくつかかけもちでやって、なにしろ懸命にお金を貯めました。
 そしてあらゆるところからお金を借りまくった。そうやってかき集めたお金で、国分寺の駅の
 南口に店を開きました。それが一九七四年のことです。

  ありかたいことに、その頃は若い人が一軒の店を開くのに、今みたいに大層なお金はかかり
 ませんでした。だから僕と同じように「会社に就職したくない」「システムに尻尾を振りたく
 ない」みたいな考え方をする人たちが、あちこちに小さな店を開いていました。喫茶店やレス
 トランや雑貨店、書店。うちの店のまわりにも、僕らと同じくらいの世代の人がやっている店
 がいくつもありました。学生運動崩れ風の血の気の多い連中も、そこらへんにうろうろしてい
 ました。世の中全体にまだ「隙間」みたいなものがけっこう残っていたんだと思います。そし
 て自分に合った隙間をうまく見つければ、それでなんとか生き延びていくことができた。なに
 かと荒っぽくはあったけれど、それなりに面白い時代でした。



  僕が昔うちで使っていたアップライト・ピアノを持ってきて、週末にはライブをやりました。
 武蔵野近辺にはジャズ・ミュージシャンがたくさん住んでいたから、安いギャラでもみんな(
 たぶん)快く演奏してくれた。向井滋春さんとか、高瀬アキさんとか、杉本喜代志さんとか、
 大友義雄さんとか、植松孝夫さんとか、古潭良治郎さんとか、渡辺文男さんとか、これは楽し
 かったですね。彼らの方も僕の方も、みんな若くてやる気まんまんだったし。まあお互い、残
 念ながらほとんどお金にはなりませんでしたが。
 
  好きなことをしているとはいえ、ずいぶん借金を抱えていたので、モれを返済していくのが
 大変でした。銀行からも借りていたし、友だちからも借りていた。でも友だちから借りたぶん
 はすべて、数年できちんと利子を付けて返済しました。毎日朝から晩まで働き、食べるものも
 ろくに食べないでちゃんと返した。当たり前のことですけど。当時は僕らは、僕らというのは
 僕と奥さんのことですが ずいぶんつつましい、スバルタンな生活を送っていました。家には
 テレビもラジオもなく、目覚まし時計すらなかった。暖房器具もほとんどなく、寒い夜には飼
 っていた何匹かの猫をしっかり抱いて寝るしかありませんでした。猫の方もけっこう必死にし
 がみついていました。



  銀行に月々返済するお金がどうしても工面できなくて、夫婦でうつむきながら深夜の道を歩
 いていて、くちゃくちゃになったむき出しのお金を拾ったことがあります。シンクロニシティ
 ーと言えばいいのか、何かの導きと言えばいいのか、不思議なことにきっちり必要としている
 額のお金でした。その翌日までに入金しないと不渡りを出すことになっていたので、まったく
 命拾いをしたようなものです(僕の人生にはなぜかときどきこういう不可思議なことが起こり
 ます)。本当は警察に届けなくてはいけなかったんだけど、そのときはきれいごとを言ってい
 るような余裕はとてもありませんでした。すみません……と今から謝ってもしょうがないんで
 すが。まあ、別のかたちで、できるだけ社会に還元したいと思っています。

  苦労話をするつもりはないんですが、要するに二十代を通して、僕はかなり厳しい生活を送
 っていたんだということです。もちろん僕なんかよりもっときつい目にあっていた方は、世の
 中にいっぱいおられると思うんです。そういう人からすれば、僕の置かれた境遇なんて「ふん
 そんなの厳しいうちに入らないよ」ということになるだろうし、また間違いなくそのとおりだ
 と思います。しかしそれはそれとして、僕としては僕なりに十分きつかった。そういうことで
 す。

  でも楽しかった。それもまた確かなことです。若かったし、いたって健康だったし、なんと
 いっても一日好きな音楽を聴いていられたし、小さいとはいえ一国一城の主だった。満員電車
 に乗って通勤する必要もないし、退屈な会議に出る必要もないし、気にくわないボスに頭を下
 げる必要もない。そしてまたいろんな面白い人、興味深い人に巡り合うこともできました。

    もうひとつ大事なことは、僕がそのあいだに社会勉強をしたということです。「社会勉強」
 というと、ストレートすぎてなんだか馬鹿みたいですが、要するに大人になったということで
 す。度も固い壁に頭をぶっつけ、危ういところをやっとの思いで切り抜けました。ひどいこと
 を言われたり、ひどいことをされたりしたし、悔しい思いをしたこともありました。当時は「
 水商売」というだけでけっこう社会的に差別されたものです。身体を酷使しなくてはならなか
 ったし、たいていのことは黙って耐えるしかなかった。たちの悪い酔っ払いを、店から蹴り出
 さなくてはならないようなこともあったし、強い風が吹いたらじっと首をすくめているしかあ
 りませんでした。
  とにかく店を維持し、借金を返していくということのほかには、ほとんど何も考えられなか
 った。

  でもそういう苦しい歳月を無我夢中でくぐり抜け、大怪我することもなくなんとか無事に生
 き延び、少しばかり開けた平らな場所に出ることができました。一息ついてあたりをぐるりと
 見回してみると、そこには以前には目にしたことのなかった新しい風景が広がり、その風景の
 中に新しい自分が立っていた――ごく簡単に言えばそういうことになります。気がつくと、僕
 は前よりはいくぶんタフになり、前よりはいくぶん(ほんの少しだけですが)知恵がついてい
 るようでした。

  何も「人生でできるだけ苦労をしろ」と言うようなつもりはありません。正直言って、もし
 苦労しないで済むのなら、そりゃ苦労しない方がずっといいだろうと思います。当たり前のこ
 とですが、苦労なんてぜんぜん楽しいことではないし、人によってはそれですっかり挫けてし
 まって、そのまま立ち直れないケースだってあるかもしれません。でも、もし今あなたが何ら
 かの苦境の中にあって、そのことですいぶんきつい思いをなさっているのだとしたら、僕とし
 ては「今はまあ大変でしょうが、先になってそれが実を結ぶことになるかもしれませんよ」と
 言いたいです。

  慰めになるかどうかはわかりませんが、そう思ってがんばって前に進んでいってください。
  今から思えば、仕事を始めるまでの僕は、ただの「普通の男の子」でした。阪神間の静かな
 郊外住宅地に育って、とくに何か問題を抱えるでもなく、問題を起こすでもなく、あまり勉強
 をしなかったわりには、学業成績もまずまずというあたりでした。ただ本を読むのは昔から好
 きで、ずいぶん熱心に本を手に取っていました。中学・高校を通じて僕くらい大量の本を読む
 人間はまわりにいなかったと思います。それから音楽も好きで、浴びるようにいろんな音楽を
 聴いていました。当然のことながら、なかなか学校の勉強をする時間まではとれなかった。一
 人っ子で、基本的にぱ大事にされて(要するに甘やかされて)育ち、痛い目にあったことはほ
 とんどありませんでした。早い話、救いがたいまでに世間知らずであったわけです。

  僕が早稲田大学に入学し、東京に出てきたのは一九六〇年代の末期、ちょうど学園紛争の嵐
 が吹きまくっていた頃で、大学は長期にわたって封鎖されていました。最初は学生ストライキ
 のせいで、あとの方は大学側によるロックアウトのせいで。そのあいだ授業はほとんどおこな
 われずおかけで(というか)僕はかなり出鱈目な学生生活を送ることになりました。
  僕はもともとグループに入って、みんなと一緒に何かをするのが不得意で、そのせいでセク
 トには加わりませんでしたが、基本的には学生運動を支持していたし、個人的な範囲でできる
 限りの行動はとりました。でも反体制セクト間の対立が深まり、いわゆる「内ゲバ」で人の命
 があっさりと奪われるようになってからは(僕らがいつも使っていた文学部の教室でも、ノン
 ポリの学生が一人殺害されました)、多くの学生と同じように、モの運動のあり方に幻滅を感
 じるようになりました。

  そこには何か間違ったもの、正しくないものが含まれている。健全な想像力が失われてしま
 っている。そういう気がしました。そして結局のところ、その激しい嵐が吹き去ったあと、僕
 らの心に残されたのは、後味の悪い失望感だけでした。どれだけそこに正しいスローガンがあ
 り、美しいメッセージがあっても、その正しさや美しさを支えきるだけ の魂の力が、モラル
 の力がなければ、すべては空虚な言葉の羅列に過ぎない。僕がそのときに身をもって学んだの
 は、そして今でも確信し続けているのは、そういうことです。言葉には確かな力がある。しか
 しその力は正しいものでなくてはならない。少なくとも公正なものでなくてはならない。言葉
 が一人歩きをしてしまってはならない。

  それで僕はもう一度、より個人的な領域に歩を進め、そこに身を置くことになりました。本
 や音楽や映画や、そういう領域にです。当時、新宿の歌舞伎町で長いあいだ終夜営業のアルバ
 イトをしていて、そこでいろんな人と巡り合いました。今はどうか知りませんが、当時の深夜
 の歌舞伎町近辺には興味深い、正体のわからない人々がずいぶんうろうろしていたものです。
 面白いこともあり、楽しいこともあり、けっこう危ないこと、きついこともありました。

  いずれにせよ僕は、大学の教室よりも、あるいは同質の人々が集まるサークルのような場所
 よりも、むしろそのような生き生きとした雑多な、あるときにはいかがわしい、荒っぽい場所
 で、人生に関わる様々な現象を学び、それなりに知恵を身につけていったような気がします。
 英語に streetwiseという言葉があります。「都会を生き抜くための実際的な知恵を持った」と
 いうような意味ですが、僕には結局のところ、学術的なものよりも、そういう地べたっぽいも
 のの方が性に合っていたようです。正直言って、大学の勉強にはほとんど興味が持てませんで
 した。

                                                「第二回 小説家になった頃」
                                 村上春樹 『職業としての小説家』

                                    この項つづく

 

  ● 今夜の一曲

 

 


  

 

 

蓄電池パリティ時代

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   それを境に僕の人生の様相はがらりと変わってしまったのです。
                       ディブ・ヒルトンがトップ・バッターとして、神宮球場で美しく鋭い
                       二塁打を打った その瞬間に。

                                              村上春樹 / 『職業としての小説家』 



【再エネ百パーセント時代: 時代は太陽道を渡る 13 】

● 世界は蓄電池パリティへ

15年6月10-12日にかけミュンヘンで開催された太陽光発電技術関連の展示会「lntersolar
Europe」太陽光発電業界では世界最大級の展示会。ここ数年は規模の縮小に歯止めが掛けられず出
展企業は数年前の半分程度まで落ち込んでいる。原因は太陽光発電パネルと架台関連企業の減少。
太陽光発電パネルメーカーの話では、中国など海外の太陽光発電パネルメーカーの乱立も一段落し
太陽光発電パネルや架台の技術も成熟期を迎えて落ち着いた印象が強い。かわりにパワコンメーカ
ーや蓄電池、太陽熱など関連業種が相反し伸長。新たに設けられたオフグリッド・プラットフォー
ムや、イノベーティブ・モビリティ、スマート・エネルギー・テクノロジー・ソリューションなどのフ
ォーラムのプレゼンスが特徴で、どうすれば効率よく太陽光発電を施工・運営できるかから、太陽
光発電で発電した電力をいかに行き渡らせ、いかに使うかという下流へ移りつつあるという(「世
界は。蓄電パリティへ」環境ビジネス 2015年秋季号)。

蓄電技術関連企業のここ数年の発展は目覚ましい。数年前にわずか数社だった出展企業数は昨年か
ら蓄電技術関連展示会「ees Europe」として独立するほどに増え、15年の出展企業三百社以上と
なる。今後も十分な蓄電関連の技術発展、市場の成長が見込める。全体的には太陽光発電市場が次
の段階に移行している。

● グリッドパリティと蓄電池パリティ

ドイツでは太陽光発電の発電単価が、平均電力小売価格を下回るグリッドパリティをすでに達成し
ている。そして、パネル+蓄電池の発電コストが小売価格を下回る蓄電池パリティに間もなく到達
すると考えられている。様々な機関が蓄電池パリティに至る時期を予想しているが、15年中から
遅くとも16年前半という予測で一致しているという。蓄電池パリティの損益分岐点については例
えば、Germany Trade &lnvestは1充電サイクルあたり15~20セント(18~24円)あたりと
予想しており、PV+蓄電池システム全体では30~35セント(36~42円)とみている。

蓄電システムの普及動向

グリッドパリティになれば太陽光で発電している時間帯は自家消費をしたほうが経済的となる。そ
して、蓄電池パリティになれば、昼間に太陽光で発電した電力を電池に蓄え、夜間の電力需要も自
家消費としたほうが経済的。蓄電池パリティ到達後は原則的にはエネルギー自立が最も経済的な手
段となり、16年以降蓄電池が爆発的に普及する可能性がでてくる。ドイツ政府は太陽光発電に接
続する蓄電池を家庭が設置する場合に、蓄電池に対する支出の最大30%までをカバーする補助金を
支給。それも蓄電池の普及を後押ししている。補助金が開始された13年5月から15年4月まで
の支援件数は合計で1万余件を超え、支援を受けていない設備も含めればすでに2万台を超える蓄
電池がドイツの家庭に設置されている(同上社、予測)。20年ころには家庭用定置型蓄電池の設
置台数が年間で4万5千件程度となる(予測)。

蓄電池といえば、アメリカのテスラ社が家庭用蓄電池を2モデル販売する。これはすでに掲載した
(『ステラ旋風』2015.09.14)。このように、太陽光や風力などの再生可能エネルギーなどと組み
合わせ、蓄電池を設置することで、蓄電池を社会インフラとし、蓄電池や次世代自動車間の電力融通
等も活用し、非常時に中央からの給電が停止しても、一定期間、一定の地域で自立的に電力供給を可
能とする社会がスタートする。IEA(国際エネルギー機関)による電力系統用の大型蓄電池導入ポ
テンシャル予測(08年)では、世界の蓄電池需要としては、欧州における需要増等に牽引され 20
年に約50ギガワットまで拡大するという。

 

蓄電池産業・技術の現状 蓄電池の果たす役割・必要性

再生可能エネルギー導入拡大との関係について、政府は新たなエネルギーの長期需給見通しの策定
作が行われているが、長期的には、再生可能エネルギーの大幅導入拡大は不可欠と見込まれている。
短中期的にも、自家消費型の太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの拡大が想定され
る。このような導入拡大を現状のままで進めた場合、蓄電池を設置・活用して、余剰電力を無駄な
く活用することが加速する。これを踏まえ、現時点から蓄電池の導入を促進することで、早い段階
で蓄電設備網を構築するとともに、人為的にマーケットを創造し、蓄電池のコスト低減化を進めて
いくことが可能となる。このことによって将来における再生可能エネルギーの円滑な活用、ひいて
は二酸化炭素の排出削減を着実に進めていくことが可能となると、経産省はその市場推移を描いて
いる。

ピークカット・ピークシフト・停電時バックアップ対策

大震災以降、真夏・真冬のピーク時間 帯における電力需給逼迫問題が顕在化した。ピークカット、
ピークシフト対策及び停電時のバックアップ対策が大きな課題となる。ピークカット、ピークシフ
ト対策には、現在は、揚水発電という安価な手段に頼っているが、コスト面さえ解決されれば、技
術的にはよ立地制約が、少なく、建設のリードタイムがより短いという点で蓄電池――NAS電池
などに優位性がある。たとえば、揚水発電の建設リ ードタイムは約15~20年であるのに対 し、
蓄電池は約1年で稼働可能である。これに加え、停電時バックアップ対策としては、現在は、ガス
タービン、ディーゼルエンジン等といった手段に頼っているが、燃料価格に依存しない、化石燃料
を焚く必要がない、ランニングコストで赤字にならない、インフラ整備の制約を受けないという点
で蓄電池(リチ ウムイオン電池など――に優位性がある。

大震災以降、真夏・真冬のピーク時間帯における電力需給逼迫問題が顕在化。このため、ピークカ
ット、ピークシフト対策及び停電時のバックアップ対策が大きな課題になっている。ピークカット、
ピークシフト対策のためには、現在は、揚水発電という安価な手段に頼っているが、コスト面さえ
解決されれば、技術的には、より立地制約が少なく、建設のリードタイムがより短いという点で蓄
電池(NAS電池など)に優位性がある。たとえば、揚水発電の建設リードタイムは約15~20
年に対し、蓄電池は約1年で稼働可能である。



これに加えて、停電時バックアップ対策としては、現在は、ガスタービン、ディーゼルエンジン等
といった手段に頼っているが、燃料価格に依存しない。化石燃料を焚く必要がない、ランニングコ
ストで赤字にならない、インフラ整備の制約を受けないという点で蓄電池(リチウムイオン電池な
ど)に優位性がある。このため、電力会社、再生可能エネルギー発電事業者、蓄電池メーカー等の参
画により、蓄電池のこれらの点の実証に取組み、市場創造を加速する。



以上が、蓄電池パリティの世界動向を俯瞰してみた。しかしながら、日本の動きは鈍い。それはな
ぜか? このことはまた改めて考察するとして、欧米の本気度がよく伝わってきた。




● 折々の読書 『職業としての小説家』6

   結婚していましたし、仕事も始めていたし、今さら大学の卒業証書をもらっても役にも立ち
 ません。でも当時の早稲田大学はとった講義の単位分だけ授業料を払えばいいという制度で、
 残した単位もそれほど多くなかったので、仕事をしながら暇を見つけて講義に出て、七年かけ
 てなんとか卒業しました。最後の年、安堂信也先生のラシーヌの講義をとっていたんですが、
 出席日数が足りず、また単位を落としそうになったので、先生のオフィスまで行って「実はこ
 ういう事情で、もう結婚して、毎日仕事をしておりまして、なかなか大学に行くことができず
 ……」と説明したら、わざわざ僕の経営していた国分寺の店まで足を運んでくださって、「君
 もいろいろ大変ねえ」と言って帰って行かれました。おかげで単位もちゃんともらえました。

  親切な方だったですね。当時の大学には(今は知りませんが)そういう柄の大きな先生がけ
 っこうおられたみたいです。講義の内容はほとんど覚えていませんが(すみません)。
  国分寺南口にあるビルの地下で、三年ばかり営業しました。それなりにお客もついて、借金
 もいちおう順調に返していけたんですが、ビルの持ち主が急に「建物を増築したいから出て行
 ってくれ」と言い出して、しょうがないので(というような簡単なことでもなく、いろいろと
 大変だったのですが、これも話し出すと実にキリがないので……)国分寺を離れ、都内の千駄
 ヶ谷に移ることになりました。店も前より広くなり、明るくなり、ライブのためのグランド・
 ピアノも置けるようになって、それはよかったのですが、そのぶんまた新たに借金を抱え込ん
 でしまいました。なかなかゆっくりと落ち着けません(こうして来し方を振り返ってみると、
 「なかなかゆっくりと落ち着けない」というのが、どうやら僕の人生のライトモチーフになっ
 ているみたいです)。

  僕にはとくに経営の才能があるとも思えないし、もともと愛想がない非社交的な性格なので、
 客商売をするのには明らかに向いていないんですが、でも「好きなことならとにかく、文句も
 言わずに一生懸命やる」というのが取り柄です。だからこそ店の経営もそこそこうまくいった
 んだと思います。なにしろ音楽が好きなもので、音楽に関わる仕事をしていれば基本的に幸福
 でした。
  でも気がつくと僕はそろそろ三十歳に近づいていました。僕にとっての青年時代ともいうべ
 き時期はもう終わろうとしています。それでいくらか不思議な気がしたことを覚えています。
 「そうか、人生ってこんな風にするすると過ぎていくんだな」と。



  一九七八年四月のよく晴れた日の午後に、僕は神宮球場に野球を見に行きました。その年の
 セントラル・リーグの開幕戦で、ヤクルト・スワローズ対広島カープの対戦でした。午後一時
 から始まるデー・ゲームです。僕は当時からヤクルト・ファンで、神宮球場から近いところに
 住んでいたので(千駄ケ谷の鳩森八幡神社のそばです)、よく散歩がてらふらりと試合を見に
 行っていました。

  その頃のヤクルトはなにしろ弱いチームで、万年Bクラス、球団も貧乏、派手なスター選手
 もいない。当然ながら人気もあまりありません。開幕戦とはいえ、外野席はがらがらです。一
 人で外野席に寝転んで、ビールを飲みながら試合を見ていました。当時の神宮の外野は椅子席
 ではなく、芝生のスロープがあるだけでした。とても良い気分だったことを覚えています。空
 はきれいに晴れ渡り、生ビールはあくまで冷たく、久しぶりに目にする緑の芝生に、白いボー
 ルがくっきりと映えています。野球というのはやっぱり球場に行って見るべきものですよね。
 つくづくそう思います。

  ヤクルトの先頭打者はアメリカからやってきたデイブ・ヒルトソという、ほっそりとした無
 名の選手でした。彼が打順の一番に入っていました。四番はチヤーリー・マニエルです。後に
 フィリーズの監督として有名になりましたが、その当時の彼は実にパワフルな、精悍なバッタ
 ーで、日本の野球ファンには「赤鬼」と呼ばれていました。
  広島の先発ピッチャーはたぶん高橋(里)だったと思います。ヤクルトの先発は安田でした。
 一回の裏、高橋(里)が第一球を投げると、ヒルトンはそれをレフトにきれいにはじき返し、
 二塁打にしました。バットがボールに当たる小気味の良い音が、神宮球場に響き渡りました。
 ぱらぱらというまばらな拍手がまわりから起こりました。僕はそのときに、何の脈絡もなく何
 の根拠もなく、ふとこう思ったのです。「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と。


 


  そのときの感覚を、僕はまだはっきり覚えています。それは空から何かがひらひらとゆっく
 り落ちてきて、それを両手でうまく受け止められたような気分でした。どうしてそれがたまた
 ま僕の手のひらに落ちてきたのか、そのわけはよくわかりません。そのときもわからなかった
 し、今でもわかりません。しかし理由はともあれ、とにかくそれが起こったのです。それは、
 なんといえばいいのか、ひとつの啓示のような出来事でした。英語にエピファニー(epiphany)
  という言葉があります。日本語に訳せば「本質の突然の顕現」「直感的な真実把握」というよ
 うなむずかしいことになります。平たく言えば、「ある日突然何かが目の前にさっと現れて、
 それによってものごとの様相が一変してしまう」という感じです。それがまさに、その日の午
 後に、僕の身に起こったことでした。それを境に僕の人生の様相はがらりと変わってしまった
 のです。ディブ・ヒルトンがトップ・バッターとして、神宮球場で美しく鋭い二塁打を打った
 その瞬間に。

                                                「第二回 小説家になった頃」
                                 村上春樹 『職業としての小説家』

                                    この項つづく


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