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政策システム工学

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● 植物で組織ごとに異なる体内時計が働く

植物は組織ごとに異なる生物時計が働いていることを京都大のチームが発見し、29日付の
英科学誌ネイチャー電子版に発表した。水や養分を運ぶ管が集まる「維管束」の時計機能
を阻害すると花が遅れて咲くことも判明。チームの京大の遠藤求助教(植物生理学)は「
遺伝子を組み換えずに、花の咲くタイミングを自由にコントロールできる成長調節剤の開
発につながる可能性がある」と話す。チームはシロイヌナズナの葉に光を当て、葉全体と
葉肉、維管束それぞれの時計遺伝子の働きを測定。その結果、時計遺伝子の働くリズムや
量が、葉全体や葉肉と、維管束の間で大きく異なったという("植物、組織ごとに異なる生
物時計 成長調節に応用も" 2014.10.30「東京新聞」)。この手の話は少し専門知識があ
り、ブログ(『亜鉛シグナルと概日時計―24時間リズムを生み出す 遺伝子発現調節機構
―』)でも掲載してきたので詳細は割愛するが(上図クリック)、今回の研究成果のポイ
ントは以下の3つだと報告している。

(1)植物ではこれまで困難――植物は動物の脳に当たる中枢機能がないため、組織ごと
  の体内時計はこれまで解析事例がなく、細胞同士が固く接着しているため、時間の経
  過とともに発現量が変化する時計遺伝子の測定は難しかったが、遠藤助教らは超音波
  と酵素の処理を組み合わせてシロイヌナズナからの組織単離を30分以内に短縮――で
  あった組織単位での「時計遺伝子」発現の定量解析に初めて成功。
(2)維管束の時計遺伝子の機能を阻害するだけで花の咲くタイミングを遅らせることが
  できた。
(3)植物組織の体内時計機能は、植物の精密な生長調節法開発のターゲットとして期待
  される。

具体的には、(1)組織単離時間を従来法の1/3以下に短縮、(2)時計遺伝子の発現
を非侵襲で測定できる「TSLA法」を世界で初めて開発、(3)維管束に存在する時計
遺伝子の性質が他の織と大きく異なり、隣接する葉肉組織の時計遺伝子の発現に影響して
いることを解明、(4)維管束の時計機能を阻害するだけで植物の花の咲くタイミングを
遅らせることに成功している。



● Tissue-specific luciferase assay(TSLA)法とは?

ルシフェラーゼ(LUC)を断片化したもの(nLUCとcLUC)を、それぞれJun遺伝子とFos遺伝子
の部分断片を改変したもの(c-Jun b-ZIPとA-Fos)と融合させる。その後、一方を目的の組
特異的プロモーター、もう一方を時計プロモーターで発現させる。たんぱく質に翻訳された両者は
JunとFosを介して特異的に結合し(Junたんぱく質とFosたんぱく質は結合することが知られて
いる)、断片化されていたルシフェラーゼが再構築される。2つの発現が重なる時間・空間のみで
ルシフェラーゼを再構成させることで、目的の組織で目的の時計遺伝子の発現が発光リズムとし
て検出できるというもの(下図参照)。

 

この方法で安全に「概日リズム」を制御できれば、『真菰筍解体新書』で記載している、
果実ではなく根元に出来る肥大した茎だけれど、マコモダケの収穫期をずらすことができ
れば、極端な話、通年安定して収穫できるかも知れない。これは大変面白い話となる。

 




 

 

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く


ここで記載されている財務省の「歳出権拡大」は官僚機関のコア権力であり、国土交通
省などでの「許認可権拡大」と置き換えて良いものだ。資本があるいは欲望と置き換え
ても良いが、最後には目的そのものを転倒させて限なく自己増殖を続けるという特徴を
――植木等が歌い流行した「分かっちゃいるけで止められない」と喩えられそうなもの
もつ。例えば、景気動向が財務省や日銀、あるいは経産省、内閣府などから報告される
がこれなど、各省が調査の外部監査作業などを含めてたワークフローを政策行政のアル
ゴリズム――ノーベル賞受賞級の宇宙物理学者などシステムエンジニアリングをに依頼
し、 "官僚作文のデジタル化"に、政策システム工学変換し、民間の調査機関に依頼し、
内閣府などで一本化し定期的報告するようにすれば、二重行政や重複行政をなくせて、
随分とスリム化するのではないかと考えたりしてきたが、そのことはさておき、今夜も
昨夜に引き続き官邸内の体験を語ってもらおう。

 

                      ■ 予算編成の数字に見る増税の虚妄 

  国の一般会計は、夏に各省庁からの概算要求があり、それを12月末までに財務省主
 計局が削って予算の「政府原案」を作る。その政府原案は、翌年1月から国会で審議
 され、3月末までに成立して予算となって、4月から予算執行される。 
  2014年度予算は、まず8月の概算要求段階で事実上、シーリング(概算要求基
 準。財務省が省庁ごとに示す限度額の基準)がなく、青天井になっている。これは概
 算要求としては異例のことである。青天井になったので、一般会計概算要求の総額は
 99・3兆円にまで膨らんだ。
  その後、財務省と各省との予算折衝を経て政府当初予算案が決まるのだが、両者に
 は安定的な経験則がある。2001年度から2013年度まで、リーマンショックに
 対応せざるを得なかった2009年度を除き、当初予算は概算要求を4%程度カット

 した水準で決まっている(下図のグラフ①と②)。


  2014年度の当初予算は95・9兆円だ。概算要求総額99・3兆円を4%カットする
 と、《99・3×(100-4)÷100=95.328》で、みごとにこれまでの経験則どおりの
 数字である。要するに、4月からの消費税増税が見えていたので、青天井で要求させ
 ておき、その水準からお決まりの「4%カット」をしただけなのである。
  これでやはり「増税は財政再建ではなく歳出権拡大のため」なのが分かるだろう。
  さらにグラフから分かることがある。以前の自公政権と政権交代後の民主党政権(
 2009年9月から2012年12月まで)では、歳出規模の水準で民主党政権のほう
 が、リーマンショック、東日本大震災という特殊要因を除いても大きい。だが、ふた
 たび自公政権になっても、同様の歳出規模を踏襲したということである。
  なお、「4%のカット」は当初予算の見せかけのためでしかないことを付言してお
 きたい。当初予算はしばしば補正予算で修正される。その場合の歳出総額は、リーマ
 ンショックに対応せざるを得なかった2009年度と、東日本大震災(2011年3
 月11日)で予算規模を膨らませざるを得なかった2011年度を除き、5%程度の
 追加補正が組まれている。結果として、もともとの概算要求を1%程度上回る水準に
 本予算が決まるのである(下図・グラフ③)。




                           ■ 官僚は手段を選ばない

  財務省はマスコミを龍絡して、"何とかのひとつ覚え"のように「財政再建のための
 消費増税」をアナウンスする大キャンペーンを張った。龍絡の餌は「軽減税率」であ
 る。特定品目の消費税率を標準税率よりも低く設定することだが、これを新聞に適用
 し、「あなたのところは負けてあげるから」と唆した。
  それに乗ってしまう新聞社もどうかと思うが、官僚のやり方はえげつない。
  財務省もなかなかしぶとく、餌として軽減税率をちらつかせながら、最後までカー
 ドを切らない。するとマスコミのほうは、餌にありつくまで、ずっと「財政再建のた
 めの消費増税」を連呼することになる。
  とにかく手段を選ばない。それが官僚の習性のひとつである。
  そんな財務省の増税路線に"乗ってしまった"という点においては、8%への消費増
 税を断行した安倍総理も同様であり、これはいかんともしがたい。
  ただ消費増税の法案自体は、民主党政権時代に法案が通ってしまっている(201
 2年8月改正「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための
 消費税法等の一部を改正する等の法律」)。安倍氏自身、「法案が通っているから、
 それをひっくり返すのはなかなか大変なんだ」という趣旨のことを言っていた。
  ここで繰り返すが、財務省官僚の言う「財政再建」は表向きの建前であって、本音
 は歳出権を増やしたいだけの話なのだ。歳出権を握った官僚がお金を配る。
  増税をすれば、実勢経済の歳入とは関係なく、予算上の歳入が増える。予算上の歳
 入が膨らむと、予算上の配分するお金の金額も膨らむ。その膨らんだ金額を各所に配
 分したいから財務省は増税を言う。この単純なロジックを、日本国民は知っておくべ
 きだ。


                ■ 過去2回の消費増税から2014年を予測する 

    「金融緩和しながら消費税を増税するということは、プラスとマイナスを一緒に行
 なうようなもの」であると前述した。せっかく「第1の矢」効果でプラスの方向へ動
 き出した日本経済なのに、増税がマイナス方向に効いてくる。私は4月の消費増税実
 施前から、そう懸念していた。
  黒田日銀総裁の就任1年後の時点で、日銀政策委員による「2014年度実質GD
 P見通し」は、1・O%~1・5%(中央値1・4%)だった。実質GDPが下振れ
 している状況下で、消費税増税に耐えうるのだろうかという懸念である。



  消費税のマイナス効果を考えてみよう。今回を別にすると、消費税はこれまで19
 89年4月(3%へ)、1997年4月(3%から5%へ)の2回、増税されている。
  増税前後を比較すれば、どちらも成長率が低下していることが分かる。それはGD
 Pの大きな構成要素である「消費」が低下するからである。
  増税前後2年間の平均で見ると、実質GDPでは、1989年の増税前に6・2%
 だったのが、増税後には5・3%に低下した。それから1997年の増税の前には
 2・5%だったのが、増税後に▲(マイナス)O・8%へと、こちらも低下。低下幅
 はそれぞれO・9%と3・3%である(上図のグラフ)。
  1989年はバブル景気、1997年は「失われた20年」の中でのしばしの景気回
 復だった。それぞれ消費税率の上げ幅は3%と2%である。今回の引き上げ幅は3%
 であり、そのマイナス効果は1989年のときと同じである。
  現在はまだ増税から4ヵ月で、データを取るには期間的に短い。そこで1989年
 と1997年のそれぞれのショックと同じものに、今回も見舞われるという機械計算
 をしてみよう。
  2014年度の実質GDP成長率がどうなるかを見ると、実力は2%だが、駆け込
 み需要の反動減で1・4%。1989年並みならO・5%、1997年並みなら▲1・
 9%になる。



  1989年と1997年とで、どちらが今と似ているかといえば、1997年のほ
 うだろう。唯一の救いは、今のほうがまともな金融政策が行なわれていることだ。ま
 ともな金融政策(第1の矢)のおかげで、1997年の再来ということは避けられる
 と思う。しかし、かといって、1989年並みのマイナス効果ですむとも思えない。
  というわけで、財政政策なしで消費税のマイナス効果だけを見ると、実質GDPは
 ▲O・1%程度まで落ち込むと頭の中では予測できる。実際の経済成長がどうなるか
 といえば、これに補正予算などの財政政策で上乗せするのだが、2014年度の実質
 GDPは、日銀見通しの下限である1・O%まで達しないだろう。なお、この数字は
 2014年度について、対前年同期比で見たときの平均であることをお断わりしてお
 く。
 


       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                               この項つづく

   ● たのんます メッセンジャー

 


歳入庁再論

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● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く


ここでは、中央政府の会計とその源泉である租税額に決定のプロセスとその社会背景が、
具体的に語られているが理解しかねる。例えば、「個人課税か世帯課税課」の問いかけに
「(税制の中立性を担保するには)課税一辺倒ではなく、各種控除で対応するほうが簡素
になるので望ましい」との高橋の主張にしても、"増税意図"は理解しえても、それは、軽
減税論と同様に「税制の簡素化」と矛盾していると考えたりするし、それ以上に "リーマ
ンショック"のように、デフレ不況下では、消費税(=間接税)は脆弱であることを学んだ
し、新自由主義政策下での行き過ぎた格差拡大社会では、所得税(直接税)にシフトさせ
るべきであることも学んだ以上、しっかりとした「税制システム工学」の練り上げが必要
だと考えている。そこで、この項では、高橋が主張する《歳入庁創設論》が再俎上する。

 

                       第1章「三本の矢」は、そろわない

                           ■「所得税改革」にも罠が

  それにしても困った政府の"増税体質"である。消費税の他にも、この体質を象徴す
  るかのような動きも出ている。所得税改革だ。そのポイントは、①「個人課税」から
  「世帯課税」への移行と、②配偶者控除の廃止の2点。改革の理由として、「第3の
   矢」の「成長戦略」で大きく掲げる「女性の社会進出促進」を挙げている。
  では、世界の状況はどうなのか。税制の比較が容易なOECDの主要24カ国を見て
 みよう。

 ・個人課税 日本、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマー
       ク、フィンランド、ギリシャ、アイスランド、イタリア、韓国、オラ
       ンダ、ニュージーランド、スウェーデン、イギリス (15力国)
 ・個人課税と世帯課税の選択 ドイツ、アイルランド、ノルウェー、スペイン、ア
       メリカ(5カ国)
  ・世帯課税 フランス、ルクセンブルク、ポルトガル、スイス(4カ国)

  以上のようになっている。

  また1970年代以降で制度移行の状況を見ると、「世帯課税」から「個人課税」
 へは9カ国、「世帯課税」から「選択」へは2カ国、「選択」から「世帯課税」は
 1カ国となっており、世界の趨勢は「世帯課税」から「個人課税」へという流れなの
 である。

  その理由は、「個人課税」のほうが課税の中立性があるからだ。たとえば専業主婦
 が働こうとするとき、「世帯課税」では累進税率が効いて不利になるが、「個人課税」
 ならば中立的。結婚についても同様で、「世帯課税」は共働きの場合、合算して2分
 割するので有利(結婚ボーナス)に働くが、「個人課税」では中立的となる。
  経済政策としては、税制ですべてに対応するのではなく、他の政策も活用して、税
 制はできるだけ中立性を保たせる。それが「常識」である。仮に税制で対応するとし
 ても、課税一辺倒ではなく各種控除で対応するほうが簡素になるので望ましい。

  すなわち個人課税が基本であって、もし政策対応が必要なときには、他の政策また
 は税制内での控除措置で対応するのが世界の常識になっているのだ。日本政府が示す
 「個人課税から世帯課税へ」「配偶者控除の廃止」という方向は、こうした世界の常
 識にまったく反するものである。
  今回の日本の「改革」は、前述したように「女性の社会進出を促進させること」が
 ひとつの狙いとされている。しかし、本当にそれを実現させたいのであれば、政府方
 針とはまったく逆に、①所得税の基本は中立的な「個人課税」のまま、②配偶者控除
 を拡充すればいい。配偶者控除の拡充で多少は税収が落ちるが、女性に働いてもらっ
 てその所得に課税し、税収を増やすという「損して得取れ」方式で対応すればいいか
 らである。
  ところが、目先のことしか考えられない財務官僚は、とにかく配偶者控除をなくし
 て「増税したい」の一心である。ただ、それだけでは増税がミエミエなので、世帯課
 税にして、少しばかりの減税を大きく見せたい。

  とはいえ、今回のような所得税改革案が実施されれば、結局は増税になって、女性
 の社会進出を「後ろからスカートを踏む」かたちになってしまう。
  狡猾な財務官僚は、安倍政権の取り巻きが"右寄り"であり、そうした人たちは個人
  単位より家族単位のほうを尊重すると睨んだ。それをいいことに、「個人課税から世
  帯課税へ」を吹き込んでいるのではないか。
   しかし世界の趨勢は、そうしたイデオロギーよりも税制の中立性を選んでいる。そ
 の意味でも日本は逆行していると言わざるを得ない。
  いずれにしても、「女性の社会進出」という目的は達成できずに、最終的には増税
 になるような所得税「改悪」である。そして世帯課税の国では、所得税の持つ累進課
 税の効果が薄れて、所得格差に対応できなくなっていることも忘れてはいけない。
 
  政府(財務省)は、世帯課税と配偶者控除の廃案廃止を一緒にすることで、批判が
 出そうな世帯課税は潰れても、配偶者控除の廃止だけは生き残るというシナリオを描
 いているのかもしれない。官僚から出てくる考えは、いつも増税指向である。油断も   
 隙もあったものではない。


                       第2章 「第三の矢」成長戦略の罠

                                     ■「日本再興戦略」改訂版の官僚レトリック

  前章の初めに掲げたように、首相官邸は「成長戦略」を「アベノミクスの本丸」と
 公言して憚らない(16ページ)。
  その戦略の具体的プランを網羅したのが、2014年6月に閣議決定した《「日本
 再興戦略」改訂2014》である。副題に「未来への挑戦」と銘打ち、全130ぺー
 ジにおよぶ"力作"だ。
  まずはその文書の冒頭「第一 総論 Ⅰ.日本再興戦略改訂の基本的な考え方」か
 ら主要部分を抜き書きしてみよう。

  《日本経済は、この1年間で、大きく、かつ確実な変化を遂げた》
  《デフレ・マインドを一掃するための大胆な金融政策という第一の矢、そして湿っ
  た経済を発火させるための機動的な財政政策という第二の矢を放つとともに、第三
  の矢として「日本再興戦略」を策定し、大胆かつスピードを持った成長戦略を実施
  してきた》

  《これまでできるはずがないと言われていた大胆な制度改革を断行し「産業競争力
  強化法」や「国家戦略特別区域法」をはじめとする、成長戦略を推進するための40
  本近くの法律を成立させるなど、異次元のスピードで構造改革に取り組んできた》
  《本年4月には、17年ぶりに消費税率を引き上げ、経済成長と財政再建の両立に向
  けた第一歩を踏み出すことにも成功した。人々の将来への「期待」に灯がともり、
  澱んでいたヒト・モノ・カネが成長に向かって動き始めたのである》
  《この1年間の変化を一過性のものに終わらせず、経済の好循環を引き続き回転さ
  せていくためには、日本人や日本企業が本来有している潜在力を覚醒し、日本経済
  全体としての生産性を向上させ、「稼ぐ力(=収益力)」を強化していくことが不
  可欠である》
  《デフレ状況からようやく脱却しつつある今こそ、成長戦略のギアを一段階シフト
  アップし、日本企業の体質や制度・慣行を一変させる気概で、日本の「稼ぐ力」を
  取り戻すための大胆な施策を講ずる好機であり、またラストチャンスでもあること
  を覚悟すべきである》
  《今回の改訂では、この1年間でKPI(注:Key Performance lndicator/政策項
  目ごとの成果指標のこと)達成に向けてどれだけ前進しているのかを可能な限り具
  体的な数字で明らかにすることとしたほか、KPIの確実な達成のためにどのよう
  な政策を追加的に講ずるのかについても明確にした)
                        (振り仮名、注、傍点は引用者)

  のっけから。お手盛り感の漂う「霞が関文学」の世界である。
  もちろん、この「日本再興戦略」は民間議員11名を含む政府の審議会「産業競争力
 会議」(「日本経済再生本部」が開催する会議という位置づけ)での議論を取りまと
 めたものだ。
  しかし、会議の運営からペーパー作成までの実務を。"事務方"すなわち官僚(10人
 から20人いる)が仕切っているのだから、130ページの文書が官僚特有の文章術
 「霞が関文学」となって表出するのも当然であろう。

               (※全文は首相官邸のHPからダウンロードできる。
        http://www.kantei.gojp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbunJP.pdf



                   ■ 4つの戦略と「鍵となる施策」とは?

  では、"戦略"の具体的な設計はどうなっているのか。《「日本再興戦略」改訂201
  4》では「第一 総論」の「H.」として、「基本的な考え方」に続けて「改訂戦略に
  おける鍵となる施策」を記している。ここで言う「改訂戦略」は以下の4項であり、そ
 れぞれに「鍵となる施策」が箇条書きで付されているのだ。

  《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す》
  《2.担い手を生み出す~女性の活躍促進と働き方改革》
  《3.新たな成長エンジンと地域の支え手となる産業の育成》
  《4.地域活性化と中堅・中小企業・小規模事業者の革新》

  そこで4項目の戦略ごとに「鍵となる施策」を列挙してみよう(「1.」のみ、なぜ
 か(1)と(2)に分けられている)。

 《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す (1)企業が変わる

  ①企業統治(コーポレートガバナンス)の強化
  ②公的・準公的資金の運用等の見直し
  ③産業の新陳代謝とベンチヤーの加速化、成長資金の供給促進》

 《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す (2)国を変える

  ①成長志向型の法人税改革八
  ②イノづIションの推進と社会的課題解決へのロボット革命》

 《2.担い手を生み出す~女性の活躍促進と働き方改革

  ①女性活躍のための環境整備(放課後児童クラブ等の拡充等)
  ②柔軟で多様な働き方の実現(成果で評価する労働時間制度の創設B等)
  ③外国人が日本で活躍できる社会へ。(技能実習制度の拡充等)》

 《3.新たな成長エンジンと地域の支え手となる産業の育成

  ①攻めの農林水産業への転換。(農業委員会・農業生産法人・農業協同組合の一体
   的改革等)
  ②健康産業の活性化と質の高いヘルスケアサービスの提供(非営利ホールディング
   カンパニー型法人制度(仮称)の創設/保論外併用療養費制度の大幅拡大E等)》

 《4.地域活性化と中堅・中小企業・小規模事業者の革新
 
  ①地域活性化関連施策をワンパッケLンで実現する伴走支援プラットフォームの構
   築
  ②地域の中小企業・小規模事業者が中心となった「ふるさと名物応援」と地域の中
   堅企業等を核とした戦略産業の育成
  ③地域ぐるみの農林水産業の6次産業化、酪農家の創意工夫
  ④世界に通用する魅力ある観光地域づくり
  ⑤PFI/PPPを活用した民間によるインフラ運営の実現
  ⑥地域の経済構造改革に向けた総合的な政策推進体制の整備》
                               (傍線は引用者)


                            ■ 見えてこない具体策

  以上、引用が長くなったが、「総論」では全部で16の「鍵となる施策」を挙げてい
 る。この「日本再興戦略改訂版」をどう見るべきか。先に私の「総論」を述べてしま
 おう。
  「改訂版」では、「法人税引き下げ」(傍線A)、「労働時間規制改革」(同B)、
 「外国人の受け入れ拡大」(同C)、「農業改革」(同D)「混合診療」(同E)な
 ど、難題にも一定程度は手が付けられた。
  とはいえ、実施にあたっての詳細は今後に委ねられている部分が多い。

  たとえば法人税である。「数年で20%台へ減税」という方向だが、具体的な税率は
 どうなるのか。
  現状では日本の法人税率は35%である。それに対し、日本を除くOECD諸国の平
 均は25%だ。近隣諸国を見ても、香港16.5%、シンガポール17%、韓国24%と、大き
 な差が歴然としている。税率でこれだけの違いがあれば、グローバルに活動する企業
 が事業拠点を海外に移すのも無理はない状態である。
  内外の投資を呼び込めるような措置を迅速に講じることが求められているが、具体
 論はこれからだ。

  そんななか、福岡や関西からは、後述する「国家戦略特区」との関連で、国全体で
 の減税よりも一歩踏み込み、よりスピーディかつ大胆な減税を求める声も上がってい
 る。こうした可能性も含め、法人税についてはさらに検討されるべきだろう。
  ただし、法人税減税は賛成なのだが、今の政府の「国際競争力」のためというロジ
 ックは適切でない。法人税減税のための正しいロジックとは「二重課税の排除」であ
 る。これはノーベル経済学貧受貧者のフリードマン教授が主張しているもので、法人
 は個人の集合体であるため、個人ベースで完全に課税が行なわれれば、法人税自体が
 不要となる。各国で法人税の減税をしているのは、個人の所得・資産の捕捉が十分に
 なった=二重課税の排除の結果なのである。
  日本の法人税率が高いのは、納税者番号が先進国の中では徹底しておらず、個人の
 資産・所得把握が不十分な結果とも言える。この観点から見ると、納税者番号の導入
 や、国税庁と社会保険料徴収機関を統合する「歳入庁」をつくることが先決と言えよ
 う。しかし、そのための努力をしていない。それなのに増税では、経済をダメにして
 しまう。情けないことだ。

  労働時間規制も、いい線まで行ったが、最後の詰めが甘い。一部マスコミや労組が
 "残業代ゼロ制度"と問題視した、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」で
 ある。今回、「年収1000万円以上」という一定の水準を示し(当初は年収700
 0万円以上の人に絞るなどという議論があった)、パフォーマンスに応じた働き方を
 認める方向となった。このこと自体は評価してよい。
  ところが具体的な制度設計は、今後、労働政策審議会で議論されることになってい
 る。しかも「年収1000万円以上」を明記した各論部分を見てみると……。

  《時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、
  一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲
  が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調
  和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した「新たな労働時間制度
  」を創設することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会
  を目途に所要の法的措置を講ずる》
              (改訂版文書中「第二3つのアクションプラン」にある
          「新たに講ずべき具体的施策」のうちのひとつ。傍点は引用者)

  年収1000万円ではなく年収1000万円「以上」、それに「労働政策審議会で
 検討」とか、「結論を得た上」とか、ここでも「霞が関文学」がちりばめられ、多数
 のハードルが課されているではないか。だから制度設計がまったく見えない。
  詳細部分、具体策がどうなってゆくのか判然としないので、やはり進捗状況をしっ
 かりとフォローし、注視してゆく必要がある。

 
       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』


   

● 歳入庁再論

この歳入庁創設は、民主党の政権公約(マニフェスト)に掲げられていた――政府の平成
22年度税制改正大綱にも掲げられている項目で、歳入庁を創設した場合の効果は、(1)
税と保険料を一体的に徴収し、未納・未加入をなくす。(2)所得の把握を確実に行うために、
税と社会保障制度共通の番号制度を導入する。(3)国税庁のもつ所得情報やノウハウを活用
して適正な徴収と記録管理を実現する(民主党「政策集INDEX2009」)と述べられている。

 

また、高橋は『歳入庁創設』を前提として、マイナンバー制度のありように――マイナン
バー制度だけでは十分とはいえない。悪質な会社が社員の年金を横領していたという事件
はよく聞く話だが、それは当時の社会保険庁が源泉徴収をきちんとチェックしていないか
らだ。実際に「消えた年金」の5000万人分の7~8割は厚生年金で、結局その責任は
誰にも問われず、個人の年金が減額されることになる。社会保険庁がきちんと会社を訪問
してチェックしていれば、こういった事件は未然に防げたはずだ。もし会社訪問が難しく
ても法人税調査と源泉徴収の給料天引きを照らし合わせれば、不正をしているかどうかは
簡単にわかる。実際に税務署は法人税や所得税の調査の時に企業が年金を払っているかど
うかは大体わかっているのだが、所管外のため何も言わないでいる。そのような状況を打
破するためにも、国税庁と現日本年金機構を合併して歳入庁を設立し、マイナンバー制度
を作れば、約10兆円の社会保険料の徴収漏れが入ってくることも可能だろう。政府は社
会保険料が足りないから消費税を増税すると言っているが、10兆円が入ってくれば、今
回の消費税増税の必要はない筈だ。こういったことを、先ずやるべきだと思う――と、発
言している(「消費税導入より歳入庁の創設を」 2013.11.08 FN HOLDING)。

 

さらに、日本には歳入庁がなく、マイナンバー制度が徹底していないため、どんぶり勘定
になっている」との質問に――どんぶりなら入るだけまだマシだ。今の状態はザルで、取
りこぼしてしまっている。社会保険料の法的な位置づけは税金と同じで、支払わなければ、
正確に言えば脱税になる訳だ。さらに、そもそも一度税金として吸い上げた保険料を、個
人に代わって国が運用するということもおかしな話だ。例えば、厚生労働省が現在の年金
運用先として選んでいる信託銀行のリストの中から、国民個人が自分の年金を預ける信託
銀行、保険会社、投資顧問を選ぶという仕組みがあっても良いと思う。受け取りの段階で
は厚生労働省によるきちんとした管理が必要だが、配分については必ずしも厚生労働省が
行う必要はない。国民が保険料を納入する際に運用する金融機関に番号をつけて、国民が
それを選べば、それは十分可能であり、かつ、合理的だ――と応えているがこれも至極正
論だと考える。また、日本年金機構をなくして借金をすべて返済し、ゼロから始めた方が
良いのではないかとの質問に――ただ、高齢化の時に多少積立金があったほうがよいとい
う議論もある。そう考えると、今の制度を維持したまま、日本年金機構の代わりに国民が
信託銀行、保険会社、投資顧問を選べるようにした方が簡単だと思う。増税を未来永劫し
ない方がいいと言っている訳ではないが、現在のロジックのように消費税を上げるのが社
会保障のためだというのであれば、歳入庁をつくってきちんと徴収した方が良い。徴収漏
れをそのままにしていれば、「消えた年金」のような問題が再び起きる可能性もあるだろ
う――と応えている。このように、増税前に、税制システムの堅牢性あるいは信頼性の品
質的側面の強化が前提となることに論をまたない。


 

                                                               この項つづく

 

脱ロスト・スコア論

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● 素敵な選TAXI

主人の枝分(竹野内豊)が、乗客自らが望む過去まで連れていくことができる「選TAX
I(せんタクシー)」の運転手で、様々な人生の選択の失敗に苦しむ乗客(毎回のゲスト
主人公)が、その人生経験を聞きながら、アドバイスをしながら、人生の再生へ向かわせ
乗客本人の生きることの大切さ、本当の自分に忘れていたものを思い出させるというスト
ーリ(単話完結)のSFヒューマンドラマ――『素敵な選TAXI』2014年10月14日から
毎週火曜日に、関西テレビ制作フジテレビ系の「火曜22時枠」で放送されだが、バカリズ
ム(マセキ芸能社所属の升野英知)が「世にも奇妙な物語」に書いた脚本が評価されてた
ためと言われている――をたまたま観る機会があり、その斬新さに感心しそのまま嵌り込
んだ。ところでタイムスリップしている時間は長くて数時間程度だが、料金は数万円単位
で請求されているが、ストーリーは全てハッピーエンドで完結している。この先どうなる
か?分からずにいるが、映画『バック・ツゥー・ザ・フューチャー』がヒントになってい
るのか分からないが、ともかく斬新だ。 

 

  

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」


ここでは、著者は成長戦略そのもを否定せず、そのやり方を、小泉政権運営での経験――
個別の産業育成など、国=官僚にできるわけがないのだから、成長戦略などつくらずに、
民営化と規制緩和だけを行なった――から、「第3の矢」も民営化と規制緩和に特化すべ
きだと言い切るが、それが、"高橋イズム"ある種の原理主義であるのかどうか、あるいは
それが有効なのかどうなのか判断するために、いましばらく読み進めて行き、"脱ロスト・
スコア論”を考察する。 

                                             第2章 「第3の矢」成長戦略の罠

                            ■もうひとつの"問題点"


  今回の「成長戦略」改訂では、さらに問題が顕在化した。それは関係会議が分断状
 態であるということだ。
  たとえば農業改革については、産業競争力会議の農業分科会、規制改革会議のWG
 (ワーキンググループ)国家戦略特区の関係会議などで議論がなされた。 また、外国
 人労働者問題は経済財政諮問会議などでも議論された経緯がある。こうした会議体の
 相互連携が、必ずしも十分とは言えないのである。
  そのうえ、議論自体の深度が甘い。規制改革ひとつを見ても、かつての構造改革特
 区では当然になされていたような「全国ベースの規制改革か、特区での実験的な規制
 改革の選択を迫る」といった議論さえ十分に行なわれた形跡が窺えないのだ。
  ここで整理しておく。「成長戦略」は産業競争力会議が、「骨太の方針」は経済財
  政諮問会議が、「規制改革」は規制改革会議が、それぞれ議論を経たうえで取りまと
  めることになっている。どの会議体も政府の審議会であり、議長職の総理や官房長官
  を除けば構成員も異なる別個の組織である。
   ちなみに産業競争力会議の分科会は「雇用・人材」「農業」「医療・介護等」「フ
  ォローアップ」の4分野で構成され、さらに「フォローアップ分科会」が「新陳代謝」
 「科学技術」「IT」「子不ルギー」「立地競争力等」「国際展開戦略等」の6部門
 に分かれている(64ページ以降に政府が主催する主要な会議の一覧を掲載するので、
 参考にされたい)。

  合同会議などを開催してはいるものの、やはり連携は不十分だ。にもかかわらず、
 上記3つの会議体は妙に足並みがそろっているから、活かややこしくなる。
 《経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレから好循環拡大へ~》(これが通
 称「骨太の方針」)と《規制改革実施計画》は(「日本再興戦略」改訂2014》と
 同日、2014年6月24日に閣議決定された。要するに政府の3つの審議会が、「せ
 1の」でまとめて答申を出した格好である。答申資料文書の総ページ数は、実に190
 (「成長戦略」130「骨太の方針」40、「規制改革」20)。
 「骨太の方針」では、農業、電力、法人税など、何十年ぶりの改正などを「骨太」な
 政策課題として頭出ししている。また「規制改革実施計画」も農協の見直しなど多数
 の項目を列挙した。そこに、これまで述べてきた「成長戦略」が加わるのだから、政
 策課題という「項目」の数たるや膨大なものになる。
  メニュー満載のレストラン……なら喜ばしいけれども、審議会の出す「お品書き」
 は、お客(国民)にとって数が多いうえに、分かりにくいから困ったものだ。「骨太
 の方針」の本文を読んでも一般的な文言ばかりで、総花的である。


 

 ※首相官邸「総理、副総理または官房長官を構成員とする会議」から作成。太字(アミ部
   分)は本章で言及する「成長戦略」関係の会議体。ただし「規制改革会議」は議長以下15
   名の委員全員が民間人であるため、この表には反映されていない。


  一応、「骨太」で謳う"目玉政策"が産業競争力会議、規制改革会議ヘアウトソーシ
  ングされるかたちになっているが、前述したように会議の連携が不十分なため、その
  有用性はクエスチョンだ。だいいち、これだけ「項目」(政策課題)が多いと、何か
  目玉なのかも分からなくなる。
  かつて小泉政権時代の「骨太の方針」では、各省庁から出てくる。"タマ"(政策提
 案)に筋のいいものが少なかった。そこで箸にも棒にもかからないものは「その他」
 (通称「ガラクタコーナー」)に納めてしまい、政権としてどうしてもやりたいもの
 だけをトップダウンで決め、優先順位を付けて、目玉として出していた。今回とは状
 況がだいぶ異なる。

  繰り返すが、今回の「成長戦略」「骨太の方針」「規制改革」は、連携不十分なが
 ら3つがワンセットで構成されていると考えたほうがよい。
 今回のやり方は、よく言えば網羅的だが、あえて言うなら「どんな矢が当たるか分か
 らないから、とりあえずたくさん放ってみた」ということだろう。従来型の官僚主導
 の「産業政策」でなく、民営化や規制緩和であれば、「百に三つ」ほどは当たるから、
 たくさん放ってみるのはいいことだ。もっとも、規制緩和は少しあるものの、民営化
 はほとんどなく、矢を放っていない。これは大いに気にかかるところだ。
  しかし、政策の優先順位はよく分からない。しかも、政策の項目はたくさん出てい
 るのに、それらを今後、どのような手順で進めてゆくのかが見えてこない。項目はず
 らりと並んでいる。しかし制度設計図が不在なのだ。

  テレビや新聞などマスコミの報道を見ると、豊富な"メニュー"を紹介しつつ、それ
 らの政策に即時的な効果を期待するような論調である。「景気が悪いのは、第3の矢
 である成長戦略が具体化しないからだ」というわけだ。ただし、こうした構造改革的
 な政策の常であるが、「即効性」という点は期待しないほうがよい。
  1章で述べたマクロ経済政策とは違って、成長戦略なり規制改革なりは、5年程度
 経過しなければ成果を判定できない。制度整備に2年、実際のビジネスに影響が現わ
 れるのはそれから3年程度かかるからだ。しかも肯定的な効果が出るのは、大げさに
 言えば先述のように「百に三つ」なのである。遂に結果が分かるくらいなら、成長な
  んて簡単で、世界の貧困問題さえ解決できるものだ。それを発見できればノーベル賞
  間違いなしである。

  なぜマスコミが、こぞって「成長戦略」を報道したのか。その背景を簡単に説明しよ
 う。

  金融政策と財政政策は、何度も言うように抽象度の高いマクロ経済政策なので、経
 済学の教育をまともに受けていない記者諸氏にとっては苦手な対象である。それに引
 き替え、成長戦略は全般的にミクロ経済政策が多く、素人でも分かりやすい。しかも
 記事にできる小ネタが多い。そのうえ成功する確率も低いので、批判する記事も簡単
 に書ける。つまり、「持ち上げておいて、こき下ろす」というマスコミの常套的手法
 にはもってこいなのだ。

 
                 ■ 日本でしか通じない「産業政策」という言葉

  効果を発揮するまでに5年を要し、しかも成功確率が3%(百に三つ)だからとい
 って、「第3の矢」が不要ということではない。将来の成長のためには実行しなけれ
 ばいけないものだ。ただ、その根本的な考え方と実行方法に誤りがあれば成長など望
 めようもない。成長戦略と言うからには、しかるべき「戦略」と「戦術」が必要な成
 長戦略の罠だろう。すなわち官僚主導の政策を恃みにしてはならないのである。

  実は私が小泉政権で政権運営に携わっていたときには、成長戦略などつくらずに、
 民営化と規制緩和だけを行なった。結論を先に書いてしまうと、今回の「第3の矢」
 も民営化と規制緩和に特化するべきだ。個別の産業育成など、国=官僚にできるわけ
 がないのだから、放っておけばよい。

  旧通産省(通商産業省)時代からの悪弊で、「成長戦略として政策提案せよ」と言
 うと、経済産業省の官僚は決まって「産業ターゲティング・ポリシー」(産業政策)
 や「官民ファンド」ばかりを官邸に持ち込んでくる。前者は経済理論として正当化で
 きないし、後者は税金無駄遺いの温床になりうる代物だ。

  かつて、「通産省による産業政策(特定産業の成長促進や保護)が日本の高度成長
 をもたらした」という嘘のような"神話"がまかり通っていた。このことについては、
 『官愚の国』で紙数を割いたので、同書をお読みいただきたい。ここで述べるべきは、
 「産業政策」なるものは日本だけでしか通用しない、特殊きわまりない政策だという
 ことであろう。
  そもそも「産業ターゲティング・ポリシー」も「産業政策」も、英語では説明不可
  能な概念なのだ。
 industrial targeting policy とか industrial policy と英訳しても、先進国の外国人にはさっ
  ぱり通じない。この場合、頭に必ず Japanese をつけるのがお約束だ。つまり日本固有
  の、ドメスティックな概念なのである。
  しかも「ジャパニーズ・インダストリアル・ポリシー」を用いて、成長戦略を英語
 で説明したところで、外国人だちからは「ビジネス経験のない官僚に、なぜ成長戦略
 が分かるのか。分かるはずがないだろう」との一言で片づけられるのが関の山だ。加
 えて彼らはこうも言う。
 
 「日本の『産業政策』というのは、政治家と役人への利益誘導ではないか」
  それに比べれば「民営化」(privatization)、「規制緩和」(deregulation)は世界中
 で共有できる概念だ(ただし英語の「プライバタイゼーション」は「民有民営」を意
 味しているが、日本では国有でも会社形態のものを「民営化」と呼ぶなど、国際的な
 意味とずれている。また「デレギュレーション」は、本来「規制撤廃」を意味する。
 ところが和訳するときに「緩和」とされ、骨抜きになってしまった)。


                   ■ 霞が関に残る、産業政策失敗の「伝説」

  私も財務省(正確に言えば大蔵省)時代、産業ターゲティング・ポリシー(産業政
 策)の失敗を目の当たりにしてきた。今でも「失敗の象徴」として霞が開の語り草に
 なっている「キバセン」について説明しよう。

 「キバセン」とは運動会の種目「騎馬戦」ではない。特殊法人「基盤技術研究促進セ
 ンター」の略称というか通称である。情報通信や新素材、バイオテクノロジーなど、
 当時"成長産業"と目された分野の基礎的な研究に対する投資(出資、融資)を目的と
 して、1985年に設立された経済産業省(当時は通産省)と総務省(郵政省)共管
 の特別認可法人だ。
  原資は政府が保有するNTT株式の配当金などの産業投資特別会計(産技特会)で
 あり、これらの資金で基盤技術研究促進センターは投資事業を行なった。つまり国民
 のお金が「キバセン」を通じて、出資・融資対象の研究開発機関や民間企業に流れて
 いたのである。

  1995年ごろのことだと記憶している。私は財務省で財政投融資の担当補佐をし
 ていた。そこで経産省の「キバセン」担当者に「投資の成功例を出してほしい」と要
 求したところ、返ってきた答えがこれである。
 「高橋さんの要望に沿えるようなデータは、持ち合わせていない」
 「今はまだ投資の成果が出ていませんが、これから急速に伸びるはず(の分野)です。
 だから大丈夫、期待してください」

 まるで根拠がない。

  私は「そんなに儲かるビジネスなら、あなたが経産省を辞めてそこに行けば?」と
 ご提案申し上げたのだが、転職した官僚は誰一人いない。要するに彼らには「成長産
 業への投資」を成功させる気などなかったのだ。
  とはいえ、基盤技術研究促進センターは基盤技術研究円滑化法という法律に基づい
 てできた特殊法人なので、私のような一介の財務官僚が潰すことはできない。経産省
 のほうも「キバセン」の存続に必死であった。
  5年後の2000年、「キバセン」に会計検査院の検査が入った。その報告書「平
 成12年度 特定検査対象に関する検査状況 基盤技術研究促進センターにおける出資
 事業について」を見てみよう。

 《検査対象  基盤技術研究促進センター
  出資の概要 新規に設立する研究開発プロジェクト会社に対して、基盤技術研究
  の促進を目的として研究開発に必要な資金を出資するもの
  調査した会社 74社  うち 研究開発中の会社 11社
                成果管理会社   47社
                解散した会社   16社

  上記に対する出資金の総額 279ぴ億円(昭和60年度~平成12年度)》 
 《出資金の回収状況 研究開発プロジェクト会社74礼に対しては、12年度末まで
 に、民間からの出資金と合わせて4000値円を超える出資が投下されている
 が、特許収入等の総額はわずか30値4627万余円である》

 会計検査院は報告書の最後に(本院の所見)として、次のように断定した。

 《現実にはこのスキームによる出資金の回収は困難であることが明らかになってきて
  いる》
                        
  そして2003年4月、投資資金2684億円が回収不能として出資金償却計上さ
 れ、基盤技術研究促進センターは解散した。国民のお金は海の藻屑となって消えてし
 まったのである。

                      ■ 国会でも追及された「キバセン」

  この「キバセン」事件は、失敗が確定した後、当時の国会でも取り上げられた。基
 盤技術研究促進センター解散翌月の2003年5月12日、参議院決算委員会(第15
 6回通常国会)。質問に立ったのは社会民主党の又市征治氏である。議事録から抜粋
 してみよう(読みやすさを考慮して、一部省略した)。

  又市委員 財務大臣にお伺いをいたしますが、大臣お預かりになっているお金が2
  770億円(注・又市氏は「時点の捉え方の違いで、損失額は2684億円ではな
  く2770億円と経済産業省が認めた」としている)あなたの目の前で雲散霧消し
  たわけであります。総務省や経済産業省は、これは特許権が陳腐化をして特許利用
  材を稼げなかったとか技術が蓄積されたからいいんだとかという、こういう弁明が
  あるようですけれども、国民の資産を預かる財務当局としてはそれでは済まないん
  じゃないですか。

  塩川正十郎財務大臣 この種の産業振興あるいは技術研修とかいうのは、出資金
  の形と基金という格好でやっておるのもございますが、要するにこの出資金という
  のは、民間で言いますところの資本金、配当を期待した資本金という、そういう感
  覚とちょっと違うのでございます。
   極端な言い方で恐縮でございますけれども、出資金、基金というのは、要するに
  その金を「必要があれば使ってやったらよろしいよ」という、そういう意味のお金
  なんでございます。技術開発とかいうのは、その起こってくるところの成果という
  ものが国民に還元されていけばいいという性質のものでございますから、そこから
  配当を期待するということはなかなか難しい。
   現に、経産省関係と思いますけれども、技術関係で、もうほとんど出資金を食っ
  てしまって、マイナスのところがたくさんある。けれども、それじゃ、そのセンタ
  ーなり技術研究所は何も国民に寄与していないのかと言えば、いやそうじゃない。
  大変な寄与をしておるものがあって、その技術は民間企業に波及しておって、それ
  がために国際競争力に役立っておるものもたくさんあるんです。

 "塩爺"こと塩川財務相(当時)は、こうして「数字上はマイナスでも(特殊法人から)
  派生した技術が民間で役立っている」と庇ってみせたが、この答弁に又市氏は「大臣、
 それはおかしい!」と噛みついている。もっともな反応だろう。

  この問題は翌年にも尾を引き、今度は衆議院経済産業委員会で取り上げられた。2
  004年5月28日(第159回通常国会)での質疑で、質問者は民主党(当時。そ
 の後、離党)の計屋圭宏氏。政府参考人として計屋氏に答えるのは、経済産業省産業
 技術環境局長の小川洋氏だ。以下はそのダイジェストである。

  計屋委員 昭和部年から平成12年度までの毎年、80位円から250位円の出資金が
 (注・基盤技術研究促進センターに)出た。出資金は産業投資特別会計産業投資勘
  定から行なわれた。財源はNTT株保有による配当金を充てていた。出資の残高が
  平成12年度末で3055位9059万円に達したわけでございますけれども、この
  数字は間違いないですね。
  小川政府参考人 末尾の数字がちょっと違うかもしれませんが、私の持っておる数
  字では3055位9100万円でございます。
  
  計屋委員 それで、平成13年6月に同センターは解散する法律が成立しているわけ
  ですね。平成15年4月1日で解散。この解散によって、産業投資特別会計の産業投
  資勘定は、15年度に2861位円の出資金償却損を計上した。したがって、305
  6億円の出資金のうち、回収できたのは195億円にすぎなかった。回収率が6・
  4%ということでございますけれども、この数字で間違いないですね。

  小川政府参考人 そうでございます。
  
  計屋委員 それでは、このセンターが出資した各会社の特許出頭数が6471件と
  いうことでございますけれども、特許を取得できたのは何件なのか。

  小川政府参考人 出願件数はご指摘の6471件で、そのうち、特許権として成立
  いたしましたのが2664件でございます。

  計屋委員 たとえば取得特許の現在の所有権者が誰になっているのか。これは、も
  う会社を解散して、特許を2664件取得しているわけですね。その所有権という
  のはどこにあるのかということですね。
 
  小川政府参考人 基盤センターでございますけれども、先生ご指摘のとおり、13年
  に法律改正が行なわれまして、清算手続に入って、15年の4月1日に解散というこ
  とになってございます。したがいまして13年から15年のセンター解散までの間、法
  が通って解散までの間、各社の研究開発会社の清算手続中に特許権は売却をされま
  して、現在は、その特許の所有者は、売却されたものを購入した人たちが持ってい
  るということでございます。     

  計屋委員 それで、解散前の当時の役員は再就職されているのかどうか、その辺も
  お聞かせいただきたいと思うんで小川政府参考人 センターの出資先となりました
  研究開発会社各社につきましては、民間企業からの出向者の方々がそれを担ってお
  られることが多うございましときに、それぞれの会社の人事の中で新しい職を得ておら
   れるというふうに理解をしております。

   計屋委員 これは民間の企業から出向ということじゃなくて、役員の中にはそれぞれ官僚
   から天下りで行った人がいるんじゃないですか。民間でみんなやったはずじゃないと思いま
   すよ。公益法人である以上は、そういったようなことはないはずだと思います。

   小川政府参考人 私どもの持っております資料によりますと、センターが出資をいたしまし
   た研究開発会社の役員につきましては、公務員のOB等は勤めていなかったというふうに
   承知しております。

   計屋委員 では、兼務でやったのかね。それで、そのとき、民間の役員の皆さんについて
   は退職金は払っているのか、あるいは、兼務で役員をやっておられても、退職金そのもの
   を払っているのかどうかということですね。 

   小川政府参考人 それぞれの研究開発会社の解散手続の中で、それぞれの会社が決め
   ております退職金のルールに従って民間の方に支払われたというふうに理解をしておりま
   す。

                                          
       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                               この項つづく

 

 

窓なし旅客ジェット

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● 窓なし旅客ジェットって ?
 
フレキシブルエレクトロニクス関連の製造技術を開発する英国のCentre for Process Innovation (CPI)
は、フレキシブルで大面積の有機エレクトロルミネッセンス・スクリーン技術を複数のメーカーと
共同で開発していることを公表したという。それによると、下図のような、旅客用航空機の床以外
の内壁全面に同スクリーンを壁紙のように貼り、窓の代わりに外部の映像を映すという想もの。
CPI社によれば、旅客機の窓をなくすことで、強度を保ちながら、あるいは強度を高めながら機体を
より薄く、軽くできるとする。その結果として燃料を大幅に低減することを狙うものだという。窓
をなくすことで乗客に閉塞感を与えないようにするため、CPI社は旅客機の内装に大面積の有機エレ
クトロルミネッセンス・スクリーンを貼り、そこに飛行中の外部の景色やさまざまな情報を映し出
すことを想定。CPI社が公開イメージビデオでは、あたかも、壁のない飛行機に乗っているかのよう
な体験ができるとアピールしている。映像の代わりに白色光を点けることで照明代わりにもなると
いう。CPI社などが開発している有機エレクトロルミネッセンス・スクリーンは、輝度は、100cd/m2
でやや暗く、一方、映像の解像度は150dpiで、2万時間の寿命を見込む。現在、ロール・ツー・ロ
ールによる量産技術を開発中で、向こう約5年で本格的な量産が可能になるという。 



これに似たアイデアはかつてブログ掲載したことを思い出す(『瞬間空間移動システム』)。この
ニュースを見たとき、”いよいよ、有機エレクトロルミネッセンス・スクリーン時代に突入しつつ
あるのだ!?”とチョットした興奮を憶えた。これは面白い。 

 

 

【オールソーラーシステム完結論 27】 

● 水素で再生可能エネルギーの出力変動を吸収
 
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2014年度中に「水素社会構築技術開発事業(水
素エネルギーシステム技術開発)」を開始する。このプロジェクトで開発する水素関連技術には、
(1)水素を利用し再生可能エネルギーの出力変動を吸収するシステム――太陽光や風力による発
電設備は天候の影響を受けて出力が変動するが、電力の安定供給の面で大きな課題である。出力の
変動により生まれる余剰電力を電気分解して、水素を製造する(下図参照)。欧米では「Power to
Gas」と呼ばれていて、電力を水素ガスに変換して貯蔵する方法として各国で技術開発が進められ
ている。

(2)もう1つは、水素発電システムである。水素を燃料に使って発電できるガスタービンなどを
開発し、二酸化炭素を排出しない水素発電の実用化を推進し、水素発電は再生可能エネルギーから
変換した水素を再び電力として再利用するための重要な技術となる。この2つの開発テーマと市場
調査を合わせて、2017年度までの33年強をかけてプロジェクトを進めていくとする。事業者との
共同研究か委託方式で実施するために、10月24日から公募を開始。2015年1月までに共同研究・委
託先を決定して、2月から開発に着手する方針という(下図参照/水素発電のロードマップ)。

尚、この計画はできるだけ前倒しにした方が良いと考えている。


 

 



● ソーラー・マイクロインバーターがインバージョン ?!

日本国内では全くといってよいほど導入が進んでいない太陽光発電向けのマイクロインバーター。
欧米では同技術の優位性が評価されており、パワーコンディショナーを追い込むほど導入数が増え
ている。パワーコンディショナーは使わない。直流を交流に変換する20cm角程度の装置「マイクロ
インバーター」を太陽電池モジュールごとに接続し、太陽電池モジュールからその場で交流を取り
出すという方式(上図)。従来のパワーコンディショナーを集中制御だと考えれば、マイクロイン
バーターは分散制御に相当する。パワーコンディショナーもマイクロインバーターも直流を交流に
変換するという意味では同じ機能を備えている。パワーコンディショナーは複数の太陽電池モジュ
ールを直列に接続したストリング単位で、得られる電力を最大化しようと動作することに対し、マ
イクロインバーターは1枚の太陽電池モジュールだけを最適化する。



上図のシステムには次のような4つの特徴(利点)がある。

(1)もう少し電力が欲しい」という場合、太陽電池モジュールを1枚単位で増設できる。1枚だ
  け大出力のモジュールを追加することも可能だ。モジュールの特性を合わせる必要がないから
  だ。このため、パワーコンディショナーを用いた場合よりも、一般には得られる電力の量が多
  くなる。
(2)太陽電池モジュールの故障や、影にも強い。故障したモジュール、影が当たったモジュール
  の出力だけが下がり、隣のモジュールは正常に動作し続ける。システム全体への影響が小さい。
(3)設置工事も楽になる。もともと交流を通している宅内配線と接続しやすく、システム拡張が
  たやすい。マイクロインバーターにコンセントプラグが付いており、これを家庭用コンセント
  に差し込むだけで動作する製品もある。「プラグインソーラー」と呼ぶ。
(4)設置スペースでも有利だ。パワーコンディショナーの専用スペースを用意する必要がないた
  めだ。小ぶりな家屋ではありがたい。(5)ただし、マイクロインバーターにも「欠点」はあ
  り、太陽電池モジュールの数だけ装置を用意しなければならず、モジュールの枚数が多いと、
  パワーコンディショナーよりも割高になるのだが、パワー・コンデョショナと比べて0.2~0.3
  米ドル/Wほど割高になるが、出力の最大化や設置コストの削減、メンテナンス費用の削減によ
  って、初期コストの高さを回収でき問題ないといわれている。


米国の調査会社であるIHSが2013年8月に発表した資料によれば、マイクロインバーター市場は米
国に集中しており、2012年には世界市場のうち、72%のシェアを占めたという。2013年には米国の
住宅市場の40%がマイクロインバーターを採用し、パワーコンディショナーが少数派に転落する可
能性が高いと予測する。2017年のマイクロインバーターの世界市場は2.1ギガワットまで成長する
見込みであるという。これは2013年の約5百メガワットと比較すると4倍の成長に相当する。

こうした状況の中、マイクロインバーターの考え方を蓄電池にまで拡張しようとしている企業があ
る。米国はEnphase Energy社(エンフェイズ エナジー インコーポレイテッド)。同社はマイクロ
インバーターを採用した太陽電池モジュールを、「双方向」マイクロインバーターを用いた蓄電池
と組み合わせる(上図参照)。ここで、双方向とあるのは、蓄電池には充電と放電の逆向きの電流
の流れがあることによる。同社が世界で初めて開発した技術であると主張しているが、双方向マイ
クロインバーターを備えた蓄電池を「Enphase AC Battery」と呼ぶ(下図参照)。



また、同社は2015年下期にも図2のようなシステムを市場に投入する予定である。全てを交流で接続
する「オールACアプローチ」を採る。マイクロインバーターを備えた太陽電池モジュールと、双方
向マイクロインバーター、蓄電池をパッケージ化した「分散型電力貯蔵システム」として提供する
ことで、住宅内のエネルギーマネジメントを最適化できるという。制御にはEnphase Energy Manage-
ment System
を利用する。


ところで、エンフェイズ エナジー社は、マイクロインバーターの開発・製造・販売に強みのある企
業だが、蓄電池技術はないため日本で蓄電池を開発・製造・販売するエリーパワーと戦略的提携の
覚書を締結した(2014.10.22)。長期的かつグローバルな提携である。「覚書の詳細な内容は公表
できないものの例えば1年という短期間ではない。エンフェイズ エナジー社は世界市場に販売網を
構築しているため、当社の蓄電池を組み込まれる。

*エリーパワーの発表資料によると、リン酸鉄リチウムを正極材に使用しており、安全性と性能に最
も優れており、長寿命であること。蓄電池を高い品質基準の全自動ラインで製造していることが挙げ
られている。


このように俯瞰してみると、ソーラー・マイクロインバータの方が『デジタル革命』の基本特性に沿っているよう
にみえる。当面、住宅用との棲み分けが考えられるが、将来的にはソーラー・マイクロインバータに集約され
ると考える。

 

赤い海賊

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● 赤い海賊

世界自然遺産に登録されている小笠原諸島(東京都)沖に中国船とみられる不審船が押し
寄せているという。目的は高級サンゴの密漁とみられ、その数は日を追うごとに増加。夜
間には水平線に不審船の明かりが並び、島の近くまで接近する船もあるという。突然の「
赤い海賊」の出現に地元漁業にも影響が出ており、国境の島では不安が広がっているとい
う。これが政治的な意図をもつ行動なら即、国際紛争となる。それとも、一獲千金の「海
のゴールドラッシュ」ならぬ、「コーラルラッシュ」なる経済行為なら、国内法・国際法
を遵法するまでのこと。中国政府による無用な引きの延ばしは、自らを貶めるだけだ。

 

  

【脱ロスト・スコア論Ⅰ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」


「民営化」「規制緩和」を巡って新旧(保革)勢力の対立が起きることは世の常であるが
痛みをともなわない社会政治の体制シフト策が見いだせればそれは上策だが、それも難し
そうだ。そのことをこの項で垣間見ていこう。  

                        第2章 「第3の矢」成長戦略の罠

                        ■ 失敗の責任を取らすに天下り

  国会の場で追及されたとはいえ、結局「キバセン」問題の責任を行政側が取ること
 はなかった。民間企業なら考えられないことである。
  特殊法人が法律によって解散し、清算手続きをしたということは、民間企業の倒産
 に等しい。会社が倒産すれば、経営者は負債を返済しなければならない。あるいは株
 主から損害賠償請求される。しかし、基盤技術研究促進センターも、経産省も総務省
 も、当時の首脳は何の責任も取らなかった。それどころか、別章で論じる「天下り」
 を堂々とやってのける御仁までいたのである。
  前に掲げた議事録で、計屋氏は「解散時の(センターの)役員は再就職したのかど
 うか」「センターの出資先である会社の役員に天下りがいたのではないか」と質した
 が、小川政府参考人は「(出資先の)研究各社の役員に公務員OBはいなかった」「
 再就職も退職金も(民間なのだから)各社の手続きに従った」と巧みに答弁している。
  しかし「キバセン」の最後に理事長を務めた人物は国土庁(現 国土交通省)審議
 官からの天下りであり、センター解散後は財団法人日本品質保証機構の理事長に就い
 た。その後、リース事業協会副会長も務めている。これを天下りと言わずに何と言え
 ばよいのか。
  ちなみに政府参考人として国会に出席した小川洋氏は福岡県出身で、京都大学法学
 部卒業後、1973年に旧通産省に人省したバリバリのキャリア官僚である。特許庁
 長官を最後に退官し(2005年)、三井住友海上火災保険の顧問に。天下り〃した
 かと思うと、その1年後には内閣官房に返り咲き、知的財産戦略推進事務局長や内閣
 広報官を歴任。そして今や、出身地・福岡の県知事である(2011年当選)。見事
 にキャリア官僚を絵に描いたような人生を送られている。


                     ■ だから官僚の"産業投資"は失敗する

  「キバセン」以外にも、私が見聞した産業政策の失敗事例を挙げてみよう。
  まず「第5世代コンピュータ」だ。通産省(当時)が1982年に立ち上げ、10年
 の歳月をかけて行なわれた国家プロジェクトで、570億円が投入された。しかしア
 プリケーションのないマシンしかできなかった。
  日本独白のコンピュータ開発を標榜し、「述語論理による推論を高速実行する並列
 推論マシンとそのオペレーティングシステムを構築する」というのが目標としてのお
 題目だったが、結果は明らかな失敗である。にもかかわらず、政府は「当初の目標を
 達成した」とか言ってのけた。
  このような言い方には注意が必要である。そもそも当初の目標がはっきりせず、後
 で言い訳している場合が多いからだ。公的資金が投入され、誰かの人件費になったの
 は当然であるが、その成果が社会に有用でなければならない。
  次に「シグマプロジェクト」である。ソフトウェア技術者の不足に対応することを
 名目に、1985年に策定されたものだ。やはり主導したのは通産省で、外郭団体の
 情報処理振興事業協会(IPA)が音頭をとり、1990年4月にコンピュータメー
 カーやソフト会社50社が出資して事業会社「シグマシステム」を設立した。しかし、
 わずか5年後の1995年には解散してしまった。方向性を見誤ってプロジェクトは
 失敗し、最終的に役人された公的資金は250億円と言われている。
  この手の話は、霞が関では氷山の一角でしかない。ここまでひどい例はそうないか
 もしれないが、会計検査院が本腰を入れて調べても、すでにプロジェクトは終了した
 後だ。「キバセン」の事例などはよくあるが、会計検査院が事後的に調べたものとし
 てはレアケースなのである。

  失敗が明らかなとき、官僚がどういうオペレー・ションをするかというと、前述し
 たように「まだ成果が出ていません」という言い訳をする。そして責任者が表舞台か
 らいなくなるのを待つ。予算査定や会計検査する側も官僚だから、怪しいと思いつつ
 も、決定的な証拠がないこともあって、そのあたりは阿吽の呼吸で深く追及できない。
  こうして、いよいよどうしようもなくなったときに処理される。しかし担当者はす
 でにいなくなっているから、責任の所在はうやむやのままだ。もちろん検証されて反
 省材料とすることもない。だから自分のお金で投資を行なわない役所に、責任を伴う
 投資は無理なのだ。
 「キバセン」も「第5世代コンピュータ」も「シグマプロジェクト」も、税金の壮大
 な無駄遣いだった。
  私の役人時代には、そうした話がたくさんあった。あるとき、プラズマテレビに補
 助金をつけるという話が出たが、当時でも液晶テレビは猛烈なコストダウンの最中で
 あったので、プラズマテレビを政策的に支援する理由を担当者に質問したところ、明
 快な返事はなかった。「補助金をつけないと担当者の仕事がなくなる」ということだ
 けを言っていたようだ。その後、プラズマテレビは、液晶テレビの大型化の前に衰退
 している。技術の動向を官僚が読めないという典型的な事例である。




                  ■ ネット関連の規制緩和に抵抗する官僚たち

  見てきたように、第3の矢=成長戦略は「産業政策」(産業ターゲティング・ポリ
 シー)ではなく、「民営化」や「規制緩和」に徹すべきなのである。なお「民営化」
 は究極的な「規制緩和」とも言えるので、以下では「規制緩和」は「民営化」も含め
 た意味で用いたい。もっとも、今の成長戦略に「民営化」が含まれていないので、
 「規制緩和」とだけ言っても間違いではない。私としては、「規制緩和」(含め民営
 化)とは皮肉の意味も込めている。
  現政権には、相変わらず産業政策が好きな人が多いようで気になるところだ。私は
 改訂前の「成長戦略」(日本再興戦略)をチェックしていて、このことに気づいた。
  今では産業政策もそれなりに進化している、という意見もあるだろう。一例として
  ベンチャー支援事業を挙げよう。

  独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、研究開発型ベ
 ンチャーについて、人件費650万円や活動費1500万円を支給する起業家支援プ
 ログラムが話題となっている。7月下旬から8月上旬まで全国各地で聞かれた説明会
 は盛況だった。
  このプログラムは、①事業構想を有する起業家候補(スタートアップイノベーター
 )を公募し、そのビジネスプランの構築等の事業化可能性調査を行なうこと、②起業
 家候補に対し、事業化支援人材(事業カタライザー)が必要な助言・指導等の支援を
 行なうことから構成されている。
  誰が起業家候補を選ぶのかがポイントであるが、それはNEDOである。一応、形
 ばかりに外部の意見を聞き、事業化可能性調査は外注するし、事業カタライザーも外
 部化しているが、あくまで起業家候補を決める主体はNEDO、つまり事実上官僚で
 ある。
 「起業家支援」という政策目的は理解できるとしても、その手段において官僚が補助
 対象を選定し、補助金を交付するという方法がふさわしいだろうか。当然、官僚に起
 業家支援をする目利きなど、できるはずがない――と言うと、「そのために事業化可
 能性調査や助言は部化している」と反論されるだろうが、そうした重要部分で外部化
 するくらいなら、もっと別の方法で起業家支援は可能だ。
 
  たとえば起業家支援で資金拠出した場合、その一定割合(8割など)を税額控除す
 るという方法がある。この場合、税額控除は一定割合なので、一部は自己負担となる。
 つまり事業化が失敗したら、資金拠出者には損失が生じるのだ。事業化可能性調査や
 助言は外部化するとしても、失敗の責任が自分にかかるわけなので、支援対象を選択
 し判断する責任は、官僚よりも重くなるだろう。
  つまり、こうしたメカニズムを使えば、官僚の選定よりもまともな者を選びうるわ
 けだ。税額控除というのも公的資金の使い道であることには変わりない。ただし、責
 任をとらない官僚による補助対象の選定や補助金の交付よりも、一部であれ自己負担
 する民間によるほうが、国民にとって納得できるのではないだろうか。

  こうした発想は、今の官僚にはあり得ない。というか、お金を国民から税金として
 集め、それを国民に配分するのが官の役割と信じて疑わないから発想できない。税額
 控除のように、官をぶI抜き・して民から民へ資金配分するのは官の否定になってし
 まう。
  ただし先進国では、税額控除も「租税歳出」という名称で、立派に政策になってい
 る。官による配分はいつも正しいとは限らず、むしろ不正や無駄遣いの温床にもなり
 得る。そうした官による資金配分の独占を打ち破るためにも、新しい発想が必要だ。
 民間に研究開発型ベンチヤーを求めているが、むしろ斬新な発想が必要なのは、古い
 タイプの産業政策に依存している政府のほうではないだろうか。

  こうした今の産業政策例をみると、やはり規制緩和のほうがまともだ。
  今の政権で行なわれている規制緩和の一例として、まず医薬品のインターネット販
 売を取り上げてみよう。こうした「新しいもの」は、官僚の抵抗がいかはどなのかを
 見るにはいい例である。
  インターネットを使ったサービスや制度を実現するための規制緩和、およびweb
 がなかった時代の古い規制を新しい時代に合わせることについての賛否によって、進
 取度が分かるというものだ。具体例としても、インター不ットでの医薬品販売に限ら
 ず、遠隔医療、行政への届け出、インターーネット選挙、遠隔教育などいろいろある。
  インターネット関係のものを。受け入れがたいもの〃とするために、官僚がよく使
 うのが「対面」という概念だ。

  私は税務の電子申告を利用している。この実現に関して10年以上前の企画当時に若
 干関わった経緯があるのだが、一歩ずつ、ゆっくりではあるが着実に進んできたと思
 う。まだまだ改善の余地はあるが、今では前より税務申告は格段に楽になった。
  税務の電子申告では本人確認を住基カードで行なうが、これは3年で更新しなけれ
 ばならない。わざわざ更新期間を設けているのは「対面」を要求する一例である。最
 初に住基カードを作製する際の「対面」は理解できる。しかし、住所など基本情報に
 一切変更がなくても、私の住む地域では更新時にも「対面」が要求される。そこで更
 新手続きのために役所に行ってみると、必要事項を職員が再人力するだけだった。と
 ても「対面」が必要なこととは思えなかった。
  役人が「対面」を求めるのは行政手続きだけではない。審議会はその典型だ。しか
 し、最近はいろいろな動きがあり、たとえば産業競争力会議と規制改革会議で、テレ
 ビ・電話会議の扱いが違っている。
  産業競争力会議では、産業競争力会議運営要領に(議長は、必要があると認めると
 きは、会議の開催場所とは別の場所にいる構成員に対し、情報通信機器を活用して会
 議に出席させることができる》と明記されている。現実の会議運営としてもテレビ・
 電話会議がまったく支障なく行なわれている。
  一方、規制改革会議では、運営規則では特に明記されていない。もっとも2013
 年1月24日の第1回会議には、長谷川幸洋委員が電話会議で参加したところが、続く
 2月15日の第2回、岡素之議長(住友商事株式会社相談役)から、《規制改革会議で
 は対面での議論を重視し、出張先等からの電話会議方式によるライブ参加は今後実施
 しないこととし、御欠席の場合は事前に意見を書面で提出いただき、他の委員の発言
 は後日公表する議事概要を御参照願う形とする》(議事録)という発言があった。若
 干の質疑があり、電話会議方式は排除こそしないものの、原則として実施しないこと
 が決まった。そして実際に2回目以降、欠席者は紙で意見を出している。

   医薬品については、対面販売なら年齢、妊婦、病気の重篤感など、購入者の適合
 性も現場のやり取りで判断はつくが、ネット販売では適応年齢以下の者が商品を購入
 した事例もあり、圧倒的に危険性が高い――というロジックである。
  しかし、一般用医薬品のネット販売を禁止する省令は、2013年1月に最高裁が
 違憲判決を出している。さらにネット販売では「トレーサビリティ」も高く、購入者
 が誰かを把握できるため、購入者に何か不具合が生じれば服用を中止させることが可
 能になるという、「対面」にはないメリットもある。しかも、基本的に医薬品のネッ
 ト販売は諸外国で認められている。

  以上の経緯を経て、結果として2013年6月から、医薬品のインターネット販売
 解禁が実現した……ということになっているが、実際には、「一部解禁」だ。
  処方薬から大衆薬にスイッチした直後の品目など28品目については、引き続きイン
 ターネット販売は禁止。さらに処方薬のインターネット販売も(スイッチ直後品目で
 さえ禁止なのだから当然に)禁止とされた。
  引き続き禁止されている理由は、合理的なものとは思われない。
  リスクの高い医薬品については、薬剤師が「対面」で接して注意事項の確認などを
 しないと危ない――ということなのだが、数多くの注意事項の確認は、本来、店先よ
 りもインターネットで行なうほうが確実である。
 「五感を用いた判断が必要だから」という議論も出てくる。だが具体的に「五感」で
 何を判断するというのか、突き詰めていくと何だかよく分からない。
  結局、明確な理由を欠いたまま、昔ながらの薬局が守られたのでないか、と考えざ
 るを得ないのだ。

                      ■ 電力の自由化はどこまで進んだか

 
  次に、規制緩和の目玉である電力自由化はどうなのか。
  安倍総理は「岩盤規制に切り込むドリルになる」との決意表明を何度も繰り返して
 いる。総論で規制改革を唱えることは、そう難しくはないが、問題は各論である。
  電力自由化は以下の3段階のうち、本書執筆時点では「第2弾」の段階だ。

  ●第1弾(2013年法案成立)
  ・広域的運営推進機関の設立(2015年目処)
  ・第2弾以降のプログラムを定める。
  ●第2弾(2014年法案提出)
  ・小売事業参入の全面自由化(2016年目処)
  ●第3弾(2015年法案提出予定)
  ・小売料金の全面自由化、発送電の法的分離(2018年~2020年目処)

  第2弾の改正電気事業法は、これまで大口のみに限られていた小売自由化を、家庭
 などを含めすべての小売市場に広げようというものだが、2014年6月11日に成立
 した。
  この方針自体は、まったくそのとおりだ。問題は、その効果がきちんと発現される
 ようになっているかどうかである。
  小売市場では、これまですでに電力量の62%が自由化済みだ。ところが、その自由
 化の結果として競争状態が生じているかというと、まるでそんなことはない。
  電カシステム改革専門委員会報告書(2013年2月)でも認められているとおり、
 一連の改革の後、一般電気事業者による事実上の独占という市場構造は基本的に変わ
 っていない」のが実情だ。新規参入後のシェアは、自由化された需要の3・6%(2
 011年度時点)。地域を超えて他社管内で小売供給を行なった事例は1件である。

  理由としては「送電網の開放」が不十分であることが大きい。
  一般電気事業者が発電部門をほぽ独占的に支配し、同時に送電網も所有している状
 態では、新規参入者に対して託送(たくそう)条件の制約などが課されがちだ。
 
 「30分同時同量」に基づくペナルティといった、新規参入者に対して差別的に課され
 る制約もある。これは電力の需要と供給を絶えず一致させるように、瞬間的な需要と
 供給がずれても30分間の総量(kWh)で需給の辻棲を合わせるという、新規参入者に
 対する規制だ。需給ギャップが3%以上になった場合には、電力会社にペナルティ料
 金を払って調整してもらう必要があり、新電力にとっては事業を拡大するうえで障壁
 になっている。
  このように「送電網の開放」を十分行なわないまま自由化を進めても、これまでの
 二の舞になりかねない。

  だからこそ、発送電分離の議論が重要なのだが、これは次の課題として先送りされ
 たままで、十分な分離がなされるのかどうかも不明である。逆に言えば、発送電分離
 こそが、岩盤規制のキモになっていて、そこにドリルで穴を開けられるかどうかがポ
 イントになっている。

  なお電力自由化は、「脱原発」と「成長」をどのように両立させるかという命題の
 カギでもある。原発コストが高いのは明らかなのだから、電力自由化で自ずと脱原発
 になる。これは経済界でも受け入れられるロジックだ。しかも、電力自由化によって
 エネルギーコストの低下となり、経済成長に寄与する。
  ただし、電力自由化の結果、自然エネルギーが必然ではなく、環境を含めたコスト
 の安いエネルギー源が選択されることもありえる。その場合、自然エネルギー指向は
 電力自由化では必須アイテムでない。こうした意味から、電力自由化は単なる経済問
 題を超えて、社会の仕組みをも変える潜在力を持っているのだ。


       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

なお、蛇足ながら、電力自由化を巡る抗争の項における「持続可能な自然エネルギーのコ
ストが高いという高橋の主張(先入観)だけは意見を異にすることは、このブログを読ん
でいただければ理解していただけるだろう。

                                                                この項つづく

 


  ● 今夜の一曲

    でたらめな時代に立ち向かえ
   正しさを間違えてしまう前に

         強すぎる弱さとの戦いで
   手も足も出なくても歌があるぜ 

   あれたち二人の瞳いくつでも未来が映る 

   行き着<場所は同じさ生き方が違うとしても
   いつかのどこかじゃなくて聞いてくれここで命の声を 

   レールをつなぎルーツをたどリ生命線でワルツを踊れ


                          " 生命のワルツ "
                                                           作詞/作曲 菅原卓郎/滝善充

                                9mm Parabellum Bullet


 ※ " Bellum omnium contra omnes  "   / 万人の万人に対する戦い

トーマス.ホッブズの言葉。自然状態において自然権を行使することにより,「人は人に対
して狼となる」ので、自然状態は「万人の万人に対する戦い」の場にほかならないと考え
た。これを克服するために、社会契約によって各人が同時に自然権を放棄し、国家を形成
し、この保護のもとに平和と安全を達成するしかないとの社会契約説が展開される。

※ " Si vis pacem, para bellum "  / 汝平和を欲さば、戦への備えをせよ

ラテン語の警句である(未詳)。通常、「peace through strength」つまり、「敵に攻撃され
る可能性の少ない強い社会」を意味すると解釈される。

※ "9mm Parabellum Bullet" は日本のロックバンド。2004年に結成。2007年よりUNIVERSAL
MUSIC JAPAN傘下のEMI RECORDSに所属。メンバーは菅原卓郎、滝善充、中村和彦、か
みじょうちひろの4人。バンド名の由来は「9mmパラベラム弾」より。

 

 

脱ロスト・スコア論Ⅱ

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【オールソーラーシステム完結論 28】 

● 分散型電力貯蔵システム 

先回、【オールソーラーシステム完結論 27】に掲載したエンフェイズ エナジー社とエ
リーパワー社によるマイクロインバーターを備えた太陽電池モジュールと、双方向マイクロ
インバーター、蓄電池をパッケージ化した「分散型電力貯蔵システム」(上図)に関わる特許の掲載
が抜けていたので改めて掲載しておく。


発電・蓄電モジュール自動化システムの概略図


発電・蓄電モジュール自動化システム初期起動の流れ図


発電・蓄電モジュール自動化システム安定化の流れ図



●  ソーラー兼業農家

天気次第で出力が大きく変動する太陽光発電が扱いにくい側面を持つのは確かだが、メガ
ソーラーだけではない。出力が10キロワット以上50キロワット未満で低圧扱いの太陽
光発電もある。今、注目を集めるのは農地に太陽電池を設置し、農業を続けながらFIT
(全量固定価格買取制)で売電する「営農発電」だという(日本経済新聞-1つの畑で野
菜も発電も「ソーラー
兼業農家」に注目 2014.11.04)。

農地は農業以外で収益を得ることが禁じられているが、農林水産省が昨年3月末、再生エ
ネの普及を目指して規制緩和したが――植物の光合成は太陽光をすべて使い切っているわ
けでなく、光が十分に強くなると、それ以上いくら光を当てても光合成量が増えなくなる
「光飽和点」があり、この光飽和点の分を確保し、余った光を発電に回せば、影ができて
も作物の収量には影響しない。これが、「ソーラー営農法」の特徴――千葉県の例では、
売電で年220万円の収入 初期投資8年で回収できるある。また、農機販売子会社のヤ
ンマーアグリジャパンを通じて営農発電システムの販売に乗り出したことも掲載されてい
る。

勿論、同上の情報では蓄電池による出力の平準化についても紹介しているが(下図参照)
この分野の技術革新による品質向上とコスト逓減が急ピッチに進めば、近い将来、農業も
大変貌することになる。

  

【脱ロスト・スコア論Ⅱ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」


先回につづき、「民営化」「規制緩和」を巡る話。ところで、「規制緩和」に対するわ
たしの立場は「産業政策」と同様に、「是々非々」である。それでは、読み進めていこ
う。

                         第2章 「第3の矢」成長戦略の罠

                   ■ 対立する「産業政策派」と「規制緩和波」

  1年ほど時間を戻す。
  2013年10月15日に招集された第185回臨時国会は、”ねじれ”が解消されて
 初めての本格的な論戦となったが、私は与野党の対立ではなく、与党内の対立に興味 
 を移していた。それは「産業競争力強化法案」(2013年12月4日成立)と「国家
 戦略特区法案」(2013年12月7日成立)が、与党内の「産業政策」vs「規制緩和」
 の構図となっていたからである。
  産業競争力強化法案は、アベノミクスの成長戦略を具体化しようと目論む産業支援
  策である。前述した官主導の「産業政策」の色合いが強いが、表向き「企業版特区」
  という"規制緩和"盛り込まれている。
   もっとも、企業板特区というが、農業、医療、教育、労働など、いわゆる「岩盤規
  制」には手をつけていない。企業への優遇が中心で、経産省の言うことを聞けば優遇
  措置が得られるという類の施策である。何しろ具体的なメニューが出ていなかった。
   一方、国家戦略特区法案は地域限定で「規制緩和」をするものだ。全面的な「規制
  緩和」では既得権の抵抗がある。そこで地域限定で行なおうというのだから、現実的
  なアプローチだ。しかも具体的なメニューが出ており、当初の15項目のうち10項目で
  成果が出ていた。すなわち、

  ①病床規制
  ②保険外併用診療
  ③医学部新設
  ④公設民営教育
  ⑤容積率緩和
  ⑥都市のエリアマネジメント
  ⑦賃貸マンション宿泊利用
  ⑧農業信用保険制度
  ⑨農地の利用拡大
  ⑩歴史的建造物

  以上の項目では「規制緩和」の成果があるだろうと、1年前に私は踏んでいた。外
 国医師の診察や雇用条件明確化、有期雇用でも一定の成果がある。
  この2つの法案-産業競争力強化法案と国家戦略特区法案だが、マスコミの取り扱
 いでも大きな差があった。
  産業競争力強化法案は、礼賛の記事ばかりだった。経産省のレクチャーどおりであ
 る。その一方、国家戦略特区法案の労働関係部分で、マスコミは「解雇特区」という
 名称をつけた。この表現はひどいと思う。内容は「雇用ルールの明確化」にすぎず、
 一定の人を対象として外資系企業を誘致するためのものである。

 「解雇特区」を記事や見出しに掲げさせた。"抵抗勢力"は厚生労働省だった。「特区
 の内外で労働規制に差をつけるのがまずい」というのが言い分である。ならば、全国
 で雇用ルールを明確化すべきだろう。
  日本の新聞は「たとえば、遅刻をすれば解雇と約束し、実際に遅刻したら解雇でき
 る」などと書いていたが、公序良俗に反するし、特区ガイドラインにも反する話であ
 る。外国紙では、労働の特区が正規と非正規雇用という労働の二重性を打破する可能
 性などに触れていて、正確な理解をしていたのだが。
  日本ではマスコミが役所のポチになっている。2つの法案をめぐる報道は、それが
 露骨に表に出ていた代表的なケースである。



 
                  ■「岩盤規制」にドリルで穴を開けられるのか

   それでも国家戦略特区法案は、産業政策を推進するような産業競争力強化法案より
 もまともであった。国会審議では、野党の一部から「今回の国家戦略特区法案の規制
 改革項目は、小粒すぎて法案に値しない」という批判が出たが、「国家戦略特別区域
  法」として成立を見た。
  前述したように外国医師による診療、病床規制、医学部新設、雇用ルールの明確化、
 公設民営学校、容積率規制の転換、農業委員会、農業信用保証など、いわゆる「岩盤
 規制」で穴が開いた。これまでまったく前進できなかった分野であるから、一定の成
 果である。
 
  もちろん、こうした一定の成果に対して、漏れ落ちたり抜けたりしている点を探す
 のは容易である。ただ1回の国会会期で、すべての岩盤規制を解決しきることはでき
 るわけもなく、当然多くの課題が積み残された。安倍総理白身、規制緩和の追加項目
 があることを認め、国家戦略特区諮問会議で「法改正を要しないものは遅くても20 
 14年の年内実施。法改正を伴うものは次期国会(秋の国会)に法案を提出する。ド
 リルのスピードを一層増していきたい」と発言している(6月17日)。

 整理しておくと、国家戦略特区に指定されたのは次の6エリアである。

  ①東京圈(東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大
   田区、渋谷区と、神奈川県、千葉県成田市)
  ②関西圈(大阪府、兵庫県、京都府)
  ③新潟県新潟市
  ④兵庫県養父市
  ⑤福岡県福岡市
  ⑥沖縄県

  これらの地域が、3月に「岩盤規制の突破口」として選ばれ、下表に掲げた規制緩
 和(規制改革)項目を先行することになる(表は規制緩和の項目ごとに、「国家
 戦略特区法」を○、△、×で評価したもの)。





                          ■ 「第8条」が曲者だった

  私は、規制は一気に解決しきれないという観点から、「岩盤規制」の穴が開いたか
 どうかという「分野」に着目するよりも、まずは国家戦略特区法案に書かれた規制緩
 和の「スキーム」を精査してみた。そのスキームやその運用次第で、今後の規制緩和
  のさらなる拡大などが決まってくるからだ。
   何度も述べたように規制緩和は、法律の取り組みで2年間、その成果が出るのに3
 年間の合計5年くらいかかることが多い。つまり規制緩和は懐妊期間が長く、必ずし
 も成果がすぐ出ないものばかりなので、永続的に取り組まないといけないのだが、今
 回の国家戦略特区法では、一定分野について少なくとも最初の2年間はスキップでき
 る。
 
  そこで法案を精査すると、特区実現のためのスキームとして3つの仕組みがあるこ
 とが分かる。[特区担当大臣」「特別区域会議」「特区諮問会議」である。
  第一の特区担当大臣では、大臣のリーダーシップが期待されている。かつての構造
 改革特区の初期には、たとえば農業へのりIス方式での企業参入など、大きな成果が
 上がった。その時期には特区担当。ほぼ"専任"の大臣が置かれており、その成果が如
 実に表われたのだろう。
  ところが、その後、専任大臣ではなくなってしまった。そのため構造改革特区の成
 果が鈍ってきたように思われる。それで特区担当大臣を専任にすべく、新たに創設し
 たのである。
  第二に特区会議だ。これは特区ごとに国・地方・民間の三者が一体となった。" 統
 合推進本部"を設けることで、それを特区内におけるず "独立政府" にする効果があ
 る。従来の規制改革や特区の運用では、現場レベルの規制改革ニーズが抑え込まれて
 しまい、なかなか表に浮かび上がってこないということもあった。これを防ぐため、
 特区担当大臣、首長、民間代表で構成する統合本部を設け、これまでの弊害を防いで
 いる。
  第三に、特区諮問会議。
  過去の歴史を振り返れば、規制改革における最大の難関は、やはり規制を所管する
 省庁の壁をどう突破するかという一点である。
  そのため特区諮問会議は、特区担当大臣と規制担当大臣、および民間有識者も交え
 て議論し、そのうえで最後は総理が決定する、という経済財政諮問会議スタイルを可
 能にしている。
 
  以上のスキームは、よい。

  しかし法案の細部には、このスキームを台無しにしかねない"気がかりな条項"も合
 まれていた。それがそのまま可決したのである。「国家戦略特別区域法」第8条(区
 域計画の認定)から、2点を指摘する。まずは第6項だ。

  《6 区域計画は、国家戦略特別区域会議の構成員が相互に密接な連携の下に協議
  した上で、国家戦略特別区域担当大臣、関係地方公共団体の長及び前条第二項に規
  定する構成員(注・政令に基づき選ばれた特区会議の構成員のこと)の全員の合意
  により作成するものとする》

  特区会議において、計画作成は「特区担当大臣、関係地方自治体(地方公共団体)
 の長など構成員の全員の合意」とされているが、関係地方自治体とはどこまで含むの
 か。あまり関係のない人まで構成員となると、迅速な意思決定ができなくなる恐れが
 ある。

  次に気がかりなのは第9項。

  《9 内閣総理大臣は、認定(注・計画の適合認定)をしようとするときは、区域
  計画に定められた特定事業に関する事項について、当該特定事業に係る関係行政機
  関の長の同意を得なければならない》

  特区諮問会議での審議を経て、総理が意思決定を行なう際、関係大臣(関係行政機
 関の長)の同意を得なければならないとされている。
  もちろん、総理大臣の意向で関係大臣は罷免することもできるので、私はさほど心
 配していないが、"抵抗勢力が関係大臣に反対させて、規制緩和を進めない"という事
 態が出てこないとも限らない。そのとき責任を負うのは、言うまでもなく総理である。
  ここで言う「抵抗勢力」とは、ズバリ官僚のことだ。各種の規制イコール役所によ
 る許認可事項だから、規制が緩和(撤廃)されれば官僚の仕事がなくなる。規制は官
 僚の権力の源泉なのである。だからこそ、特区担当大臣や特区諮問会議の人選が重要
 になってくる。官僚に丸め込まれない人を選ばなくてはならない。人なくして重要政
 策なし、である。特に特区諮同会議の役割は大きい(メンバーは下覧を参照)。




                                      ■ なぜ東京が特区の "問題児" なのか

  その特区諮問会議が槍玉に挙げ、 "問題児扱い" している特区があると「日本経済
 新聞」が記事にした。問題児とは、6ヵ所ある国家戦略特区のうち、他ならぬ首都・
  東京のことである。ようやくこのような報道が出てきたかと私は感心したものだ。
   編集委員の瀬能繁氏による署名記事で、見出しは「小粒すぎる東京特区、霞が関も
 驚く都官僚の逃げ腰」。官僚(ここでは霞が関の官僚ではなく都の官僚だが、その性
 質においては同根である)に丸め込まれると、政策がうまく実現できないということ
 が如実に表われている。
  記事は特区諮問会議民間議員であるハ田達夫氏(大阪大学招聘教授)の「東京都は
 あんまりだから、これは外したほうがいいのではないかという議論さえありました」
 との発言を紹介し、以下のように続く。

  《東京都の提案が不十分だった理由とは何か。
  1つは「外国企業・投資家も注目する雇用・労働分野を含めての提案が全くなかっ
   た」(八田氏)ことだ》
  《もう一つは、入院ベッド数などを基準にした「病床規制」の緩和だ。特区法に盛
  り込んだ。ところが、都が提案したのは、「都内高度専門医療機関の治験共同実施
  における規制の適用除外」。国の医療保険がきかない自由診療(保険外診療)の場
  合は病床規制の対象から外してほしいという内容だが、国の関係者は「いまでも自
  由診療なら病床規制の対象外のはず。これは規制緩和でも何でもないのでは」と首
  をかしげる》
  《話はこれで終わらない。
  「特区にするのは都内23区のうち8区か9区にとどめたい」。3月中旬には都から
  政府にこんな意向が伝えられていた。東京圈のうち東京都は23区だけでなく多摩地
  域を含めた全域を対象にしようとしていた政府は「そんなバカな!」と焦った》
  《「特区法で用意した初期メニューを使い切らないばかりか、特区の場所すら限定
  しようとする。質的ふ囲的に特区を楼小化しようとする動きだ」。舞台裏を知るあ
  る霞が関の官僚は都の姿勢に憤る》
       (「日本経済新聞」2014年4月28目付。振り仮名と傍点は引用者)

  霞が問の官僚も都の官僚に呆れ、怒っていると書いてあるが、私に言わせればどっ
 ちもどっちである。それはともかく、この東京都の対応はお粗末だ。いや「お粗末」
 の一言よりも、英語表現のシャビー(多芸邱古臭い、みすぼらしい、汚らしい、卑劣
 な)という形容詞がぴったり来る。
  そもそも国家戦略特区法の下で指定された「東京圏」で、なぜ東京23区全域ではな
 く、千代田、中央、港、新宿、文京、江東、晶川、大田、渋谷の9区しか特区に定め
 られなかったのか、疑問を持つ向きも少なくなかっただろう。そのカラクリは「アジ
 アヘッドクォーター特区」という東京都の政策で解ける。
  アジアヘッドクォーター特区とは、東京都が政府の国家戦略特区に先行して進めて
 いたプロジェクトで、グローバル企業の誘致を目的に2011年、野田伸彦民主党内
 閣時代の国に申請し、「国際戦略総合特別区域」として指定されたものだ。この指定
 区域が前述の9区から文京区を除いた8区だったのである。つまり今回の国家戦略特
 区は追い風になるはずなのに、文京区I区を加えただけに終わった。だから政府が
 「そんなバカな!」「特区を楼小化しようとする動きだ」と憤慨したというわけであ
 る。

  23区はおろか、多摩地区も含めた東京都全域を国家戦略特区に指定しようとしてい
 たという政府に対し、なぜ東京都は逆行するような挙に出たのか。「日本経済新聞」
 の記事は《都議会や23区、業界団体との調整に時間がかかることで二の足を踏んだの
 だろうか。あるいは「国の官僚よりフットワークが重い」といわれる都官僚の癖が出
 ただけ、なのだろうか。真相はいまひとつはっきりしない》としているが、そんなと
 ころだろう。要は都知事が官僚に「丸め込まれた」のだ。
  猪瀬直樹氏の辞職を受けて新都知事に就任した舛添要一氏は、 "収革派" のように 
 目されているが、白身が東大法学部卒ということもあり、官僚へのシンパシーは抜き
 がたいものがあると言われる。そのため、都の政策の最終承認者として「(手続きが
 面倒だから)従来の8区プラスー区で行きましょう」とする都官僚に乗ってしまった
 のではないか。

  2020年には東京オリンピックが開催されるのだから、国家戦略特区の指定を生
 かそうと思えばオプションはいくらでもあるはずだ。しかし、そのオプションはきわ
 めて限定的なものになりかねない。舛添氏にとっては格好のチャンスであるはずなの
 に、このまま官僚任せでは寂しいかぎりだと言わざるを得ない。
  ここは、労働者(連合東京)の応援を受け、都官僚の天下り問題も後ろ向き(詳し
 くは後述)……といった舛添知事への批判はひとまず控えておこう。
  舛添知事は「東京都を金融特区にしたい」と言った。そのために、もっとも有効な
 手段を講じてもらえれば、知事のやる気が評価される。それは東京都が保有する莫大
 な都財産の証券化である。
  東京都の平成24年度一般会計の貸借対照表を見ると、資産が29兆8809億円、
 負債が7兆8389僚円。国が債務超過であるのに対して、22兆420億円の資産
 超過となって「超」優良財政である。この資産の一部でも証券化すれば、東京が世界
 の金融ビジネスの中心になることは間違いない。と同時に、東京都の資産を都民のた
 めに有効活用することもできるので、一石二鳥である。この政策を行なえば、舛添知
 事が都官僚の天下り問題に消極的であるとの一部の批判も回避できる。
 

       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』


それにしても、東京都の優良財政ぶりには驚かされるが、この"一極集中の謎"?の解析結
果を知りたいと思うとともに、「本社機能と事業税負担の分離(公正化)」による是正と
いう "仮説 テーマ"が閃いた。これについては残件扱いとしておく。 


                                                                この項つづく

 

石蕗にティファーレ

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             秋日和 季節外れの 簾下 石蕗の花 悲しみ拭う

 

 




法事などの急な来客に差し出すお茶で、あたふたふたする失敗があり、T-fal 電気ケトル
( アントワネット プラス/ 0.6L)を急遽買いそろえが、ことのほか便利が良く、朝の
インスタントコーヒーや午後と夜のパウダー緑茶、ホットウィスキー用に重宝し、自室で
の缶詰作業環境がさらに強まった――快適で、エコで、ウォームビズに少しは貢献してい
るとは思うが。 

 
なお、上図の新規考案によると、ケトル(1)は、容器(3)と、リッド(5)と、ロッ
クするためのロック装置で、容器に配設された第1ロック手段(11)とリッドに取り付
けられた第2ロック手段(12)を含め、第2ロック手段が第1ロック手段に係合するリ
ッドのロック位置と、リッドが解放されるロック解除位置との間で、リッドに対し可動の
この装置で構成し、さらに、リッドに配設した第2ロック手段を制御する部材(20)を
含め、制御部材は、第2ロック手段がロック位置にあるときにリッド内に組み込まれ、第
2ロック手段がロック解除位置にあるときにリッド上に突出しグリップすることで、容器
にリッドをロックするための装置を具え、リッドの美的魅力を向上した電気ケトルを提供
できるとある。



欲を言えば、吹き溢れ防止(内圧上昇で加熱を自動停止する)の完成度を上げることと、
もう少しだけ軽くしてもらえればという感想をもった。

 



  

【脱ロスト・スコア論 Ⅲ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」


ここでは、日本の成長戦略で最大の欠陥は、『産業政策』にある。個別産業をターゲット
にする産業政策は、成功した例がなかった――例えば、官制の財テク事業の最終的な収支
尻は、2000年までの累積損失は約2兆円――と指摘し例示されていくことになるが、
読み手にとってはわくわくする件でもある。


                         第2章 「第3の矢」成長戦略の罠

                     ■ 「公的資金の運用見直し」の落とし穴

  政治家が、事務方であるはずの官僚に丸め込まれる、あるいはお任せしてしまうの
 は、前章でも触れたが、この国に根強くはびこる「官僚の無謬性」という神話による
 ところが大きい。日本の役人は優秀だから間違わない、間違うはずがないと、政治家
 も国民もなかば洗脳されている。それが、"間違い"の元なのだ。
  ふたたび成長戦略(「日本再興戦略」改訂版)を見てみよう。56、57ページに引用
 した冒頭部分「鍵となる施策」から、官僚無謬性による「まやかし」を指摘しておき
 たい。

  《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す (1)企業が変わる

    ①企業統治(コーーポレートガバナンス)の強化
    ②公的・準公的資金の運用等の見直し》

  とある。

  傍線部分の主役が、「世界最大の機関投資家」とマスコミでもしばしば取り上げら
 れたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。「公的年金の運用見直し」
 ということで、厚生労働省所管のGPTIFでの運用強化(積極運用)がなされよう
 としているのだ。
  総額129兆円とされるGPIFの運用資産は、国民の年金である。にもかかわら
 ず、「運用見直し」ではGPIFとそれを取り巻く金融機関の利害だけが議論されて
 いる。まったくもって国民不在である。
  公的年金の運用はどうあるべきか。過去の例と海外の事例から考えてみよう。
  まず、過去の経緯から検証する。GPIFは、サラリーマンの公的年金である厚生
 年金の運用事業を行なう独立行政法人として2006年4月に設立された。その前身
 は年金福祉事業団(年福事業団)という特殊法人だ。運用事業は「官の財テク」とし
 て1986年度からスタートされ、2000年度まで財政投融資の中で行なわれてい
 た。



  1986年と言えば、NTT株が上場後に3倍の値をつけるなど、日本中が財テク
 に走ってゆく時代相であった。この財テクブームに乗じて、政府も年金資金の有利運
 用へと転じ、国会では厚生省(当時)年金局長が「1・5%利差稼ぎ」と豪語したほ
 どである。2001年度から、現在のように厚生労働省の責任で資金運用される方式
 になっているが、「官の財テク」としての性格は変わっていない。
  スタート当時、年金資金を運用していた年金福祉事業団は、略称を「年福事業団」
 と言って、厚生次官の天下り指定席だった。あり余るほどの巨額な資金を使うことか
 ら「満腹事業団」と揶揄されていたことを、今でも私は覚えている。ちなみに、巨額
 の年金資金をつぎ込み、各地でリゾート施設を建設しては不良債権化させた「グリー
 ンピア事業」も、年福事業団の仕事だった。
  2000年度までの財テク事業の最終的な収支尻は、累積損失約2兆円。「官の財
 テク」では肝心の運用実績は上がらなかった。しかし、この失敗の責任については、
 グリーンピア事業と同じで誰も取っていない。前述した「キバセン」(基盤技術研究
 促進センター)の顛末と、構図はまったく同じである。

  一方、海外における公的年金運用の実態はどうなっているのか。
  そもそも、一般国民に対する公的年金を国として運用しているケースはあまり多な
 い。2008年の経済財政諮問会議で、当時の舛添要一厚労相が世界の公的年金運用
 について調査資料を提出したが、それによれば「積立金が多い国」の中でカナダ、ス
 ウェーデンが「株式投資比率の高い国」として挙げられており、日本とアメリカは「
 そうでない国」、イギリス、フランス、ドイツは「そもそも積立金が少ない国」とさ
 れていた。
  このとき、GPIFの積極運用を推進する有識者から、横槍のような声が出た。上 
 記の国々のほかに市場運用を行なっている国として、ノルウェー政府年金基金、オラ
 ンダ公務員総合年金基金、アイルランド国民年金積立基金が挙げられたのだ。
  アイルランド国民年金積立基金は規模が小さいが、ノルウェー政府年金基金とオラ
 ンダ公務員総合年金基金はそれぞれ30兆円台とそれなりの規模である。もっとも、ノ
 ルウェーは石油収入があり、そのための市場運用である。またオランダは公務員の年
 金であり、一般国民の年金ではない。
  さらに積極運用を推進する民間金融機関から、アメリカのカリフォルニア州職員退
 職年金基金(カルパース)などの例が出された。カルパースは自主運用を行なってい
 る。しかしその受給対象者の範囲は国ではなく州であり、その中でも州公務員の年金
 である。


※ 出展:海外投資データバンク




                           ■ GPIFは不要である

  結論を述べる。国が行なう事業として市場運用ほど不適切なものはない。サラリー
 マンの公的年金を運用するGPIFだけの議論も胡散臭い。なぜなら、公務員の共済
 年金では積極運用の話が出ないことと辻棲が合わないからだ。
  ここで、私がかつて第一次安倍政権で内閣参事官を務めていたときに、具体的に考
 えた代替案を示そう。大別すると、以下のA、B、2つのパターンに分けられる。

  ・A案一GPIFなし/金融機関なし
  ・B案一GPIFなし/金融機関あり

  A案は、アメリカの公的年金で実際に行なわれているものだ。アメリカには「オス
 ディ」(OASDI  Old‐Age ,Survivors,and Disability Insurance)という制度があり、公的
 年金の資産は全額、非市場性国債(物価連動債)の購入に充てられる。こうすると、
 市場運用するためのGPIFのような組織は必要ではなく、担当者が万人いて、財務
 省に非市場性国債の発行を依頼するだけで済む。
  B案は、さらに選択肢が分かれる。払い込み保険料の一部(積立部分)を、

  (1)全額国債運用
  (2)半分国債/半分株式
  (3)全額株式運用

 
  の3コースに分け、それぞれ受託金融機関の組み合わせの中から、各国民にどれか
 を選択させるものだ。
  現状でもGPIFは運用を金融機関に丸投げしている。去る4月、7年ぶりに国内
 株式の運用委託先を見直したそうだが、アクティブ運用(市場平均を上回る運用実績
 を目指す運用)で新たに始める「スマートベータ型」という投資では、ゴールドマン・
  サックス・アセット・マネジメント、野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロ
 ジー、野村アセットマネジメントの3社を委託先に選定した。

  したがってGPIFを "中抜き" して、Bのパターンをつくることは可能なのであ
 る。GPIFを廃止して、多様な方法でやればよいだけの話だ。
  現在、議論されている公的年金運用の改革案は、GPIFという官僚機構の全知全
 能(無謬)を前提としている。それが「官僚無謬性神話によるまやかし」なのだ。

  前に紹介したアメリカのOASDIは、1937年にスタートした。「老齢・遺族・
 障害保険」と訳され、一定所得以上のサラリーマンや自営業者が加入する。前述した
 ように物価連動債を買うだけで、運用=投資行為は行なわない。もし運用しようとし
 たら、国民から文句が出るだろう。アメリカ人は「運用するくらいなら強制徴収をや
 めてくれ。自分たちで運用する」と言う。日本のように、民に代わってお上がやって
 あげる、などという論理は通らないのである。

  そこで、かねて「官僚の無謬性」に否定的だった私は、政権内部にいたときに、G
 PIFなしで済ませられるA、Bの2案を考えたのだ。まったく運用しないか、国民
 が運用金融機関を選ぶか、の二者択一である。
  しかし私が提示したこの案は、当時、猛反対に遭ってしまい、日の目を見ることは
 なかった。「俺たち(官僚)の仕事がなくなってしまう」という愚にもつかない理由
 からである。
  一方、同じころ「GPIF拡充案」というのもあったのだが、私はそれに反対する
 論陣を張り、結果的にこの拡充案は潰れた。喧嘩両成敗ではないけれども、私の「G
 PIF不要案」が通らなかった代わりに「GPIF拡充案」も消えたのである。
  ただGPIFそのものが消えたわけではなく、ご承知のように現在も成長戦略の一
 つの柱として改革案が議論されている。恐ろしいのは、かつて「拡充案」を主張して
 いたある人物が、今も「公的年金の運用見直し」の議論に深く関与していることだ。
 この御仁は官僚ではないが、頭の中身が官僚なのだろう。


 


                ■ これまでの成長戦略で日本は「成長」したのか

  本章の終わりに、「官僚による成長戦略」が、いかに虚妄にすぎないかを再度、述
 べよう。 
   私は大恐慌研究の世界的な権威であるバリー・アイケングリーン(カリフォルニア
 大学教授)のツイッターをフォローしているが、その中で注目した記述がある。
 “Japan Rising? Shinzo Abe's Excellent Adventure"とあった。
  アメリカの詩人、ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローの一節「矢を空中に放
 った。地面に落ちた。どこだか分からなかった」を引用しながら、「第3の矢」の難
 しさを強調しつつも、成功を期待している。しかも、第3の矢では、不利になるのは
 今の既得権者であると言っている。
  アイケングリーン教授は、明らかに、第3の矢は「規制緩和」のことだと思い込ん
 でいる。アベノミクスの第3の矢には「産業政策」と「規制緩和」の2種類があり、
 産業政策で利益を得るのは既得権者、規制緩和で利益を失うのは既得権者であるとは
 思いもしないのだろう。アメリカ人の彼には、「産業政策」は概念として存在しない
 のではないか。
 
  2001年以降を見てみると、日本ではどの政権も自らの政策方針を出している。

   ①小泉内閣 「骨太の方針」(2002年6月)
   ②安倍内閣 「成長力加速プログラム」(2007年4月)
   ③福田康夫内閣 「経済成長戦略」(2008年6月)
   ④麻生太郎内閣 「未来開拓戦略」(2009年4月)
   ⑤鳩山由紀夫内閣 「新成長戦略~輝きのある日本へ~」(2009年19一月)
   ⑥菅直人内閣 「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」(2010年6月)
   ⑦野田内閣 「日本再生戦略」(2012年7月)
   ⑧第二次安倍内閣 「日本再興戦略」(2013年6月)

  このうち、1回目の小泉政権では「成長戦略」を強調していないが、その後は「成
 長戦略」を標榜する政策が、実に7回も打ち出されてきた。まさに「成長戦略」のオ
 ンパレードである。これで日本が「成長」できたのか。「未来を開拓」したり「元気
 な日本が復活」したり「再生」したのだろうか。答えは言わずもがな、であろう。
  むしろ成長戦略を強調しなかった小泉政権のほうが、他の政権より長期に成長した。
  それは皮肉なものである。

  成長戦略が策定されるたびに、マスコミでは淡い期待をにじませながら、日本の各
 産業の将来が豊富なデータとともに描かれてきた。数字が並ぶから記事にするのは簡
 単だ。しかし実際に成長をさせるのは難しい。私は、ノーベル経済学賞を受賞したポ
 ール・クルーグマン教授(プリンストン大学)に、かつてこう言われたことがある。
  「経済成長を確実にできる方法を発見すれば、ノーベル賞受賞は確実だね。だって、
 世界中から貧困問題がなくなるじゃないか。経済学なんて学問もいらなくなってしま
 うよ」

  それでは経済学はまったく無力かというと、そうでもない。経済成長に資すること
 は、およそ分かっているのだ。経済学上、大雑把にコンセンサスができているところ
 では、競争政策、規制緩和(含む「民営化」。これは強調しておきたい!)、貿易自
 由化、教育投資、技術開発、マクロ経済の安定などが成長に重要だということだろう。
 もちろん、これをやれば確実に成長するというわけではないが、けっこう「打率」が
 高いのだ。




  日本の成長戦略で最大の欠陥は、何度も述べてきたように「産業政策」にある。個
 別産業をターゲットにする産業政策は、成功した例がなかった。かつて高度成長時代
 の産業政策が成功したというのも、神話にすぎないことは明らかになっている。
  前著でも触れたが、竹内弘高教授(一橋大学)の研究によれば、日本の20の成功産
 業について、政府の果たした役割は皆無だった。また、三輪芳朗教授(東京大学・当
 時)の一連の研究では、高度成長期でさえ産業政策は有効でなかったとされている。

  私は1986年から1988年まで公正取引委員会事務局に勤務し、当時の通産省
 などの産業政策を、競争政策の観点から見ていた。そのとき、産業政策を分析し公正
 取引委員会に説明した資料の一部を学術誌に公表するように上司から勧められた。
  表題は「日本的産業政策はもはや過去の遺物だ」とした。相手の通産省などに配慮
 して穏やかな表現になっているが、その当時、すでに産業政策が機能しなくなってい
 ることをデータ分析から示したものだ。

  今も強烈に印象に残っていることがある。通産省などの官僚とともにいくつかの業
 界の人にヒアリングをしたり、実態調査をしたが、「業界の人」だと思っていたら、
 実は通産省などの天下りOBだった。いわゆる「専務理事政策」である。
  業界には事業者団体という「○○協会」がある。その理事長や理事は、たいてい業
 界の人が非常勤で務めている。常勤の専務理事は、その業界の監督官庁からの天下り
 なのだ。産業政策をするときには、「専務理事」が業界と役所との連絡調整などで活
 躍するのである。



 
  役所としては、産業政策が有効でなくても、専務理事ポストさえ確保できればいい
 という印象を受けた。
  この経験は経済学の分析とも一致していた。産業政策が有効でないのは、第一の理
 由として政府が有望産業を選べるほど賢くないのである。
  もし官僚に有望産業が本当に分かる能力があるのなら、役所の斡旋など受けず、そ
 の "将来有望の業界" に自ら転職する人が多いはずだ。しかし、官僚のほとんどは天
 下り斡旋を受けている。
  第二の理由は、産業政策に伴う利権を求めて、民間企業がレントシーキング(特殊
 利益追求)を行なうからだ。こうした活動は資源の浪費でしかない。
  産業政策では、税制上措置や補助金だけが恩典ではない。事業者団体はしばしばカ
 ルテル的行為の温床になっている。そうした競争制限的な行為も業者にとってはメリ
 ットとなる。一方、そこに前述の「専務理事政策」が付け入る隙が生まれる。
  霞が関が主導権を握り、さらに「専務理事政策」が堂々と行なえ、天下りもできる
 のだから、官僚はほくそ笑んでいるに違いない。官僚は賢くはないが、ずる賢い。

       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』



 


● 消費税増税の是非の議論をしている場合ではない?!

この項を、エコノミストの三橋貴明の動画(音声)を聴きながら記載していたが、今回の
コメントで、アベノミクスとは、"唯日本株価主義 だと言った見識に触れ、これは蓋し名
言だと感心していたが、それにしても、民主党政権も経済音痴だったが、やはり、自民党
政権も変わらないと思っていた矢先でもあり、ズバッと切り込んだ発言に清涼感を抱いた。
この先どのように展開して、感想が変わり、どのように結論するのか自分自身でもわから
ぬが、高橋洋一と三橋貴明(プラスα)との差異を注意深く確認し読み進めていくことに。

                                                                この項つづく

 



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【脱ロスト・スコア論 Ⅳ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年

 

 

 

       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                              この項つづく

 


パウダー水素エネルギー工学

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● こんなものあったら欲しい ?

 

 

 

 



● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

一週間ほど前に『成長戦略・規制緩和は経済成長に寄与するか 』(ダイヤモンド・オンラ
イン 高橋洋一の「俗論を撃つ 」No.104 2014.10.16)を目を通してみていたが、景況回復
には遠く及ばない――「第一の矢」の金融政策は功を奏しているが、「第二の矢」は相変わ
らず緊縮財政で、「第三の矢」は官僚主導である限り成功しない――と主張している。つま
り、金融政策は、経済成長するとマネーの需要が増えるという逆方向の因果関係があり、マ
ネーはすべての財・サービス交換の裏側にあり、マネーの増減は経済活動に重要な説明因子
であり、「人口減少が経済成長を妨げている」という説は、世界を見る限りまったく説得力
がない――下図表4のグラフが示すように、人口減少でも成長している国は多いし、一人当
たりGDPの成長率は人口増減率と相関はないとも指摘している。

141027


アベノミクスの三番目の矢である成長戦略は、官僚=霞が関主導の〝産業政策〟なので、期
待できないということだ(→現実にビジネス経験もない官僚が、戦略を描けるはずがないこ
とにつきる。だから、世界中で〝産業政策〟なるものは〝日本独自の〟と形容詞が付けられ
るのがおちだ。と、言い切る反面、規制緩和や民営化であれば、世界中に実例があり、百に
3つ当たればいいくらいの確率で効果がでるものの、成果が出るまでに数年を要する――だ
からこそ、長期的な成長には重要で、下手な〝矢〟でも打ち続けなければいけないと述べて
いる。下の4つの図表は参考になったので掲載しておく。因みに、彼は 「実質GDP成長
率」(実質GDP成長率 =資本分配率*(資本ストック伸び率+稼働率変動) +(1-資
本分配率)*(労働力人口伸び率+就業変動+労働時間変動) +技術進歩率)を重要指標
とし掲載していた。



これはこれで理解はできるものの、彼と私とに横たわる「差異の此岸」がイマイチ明確でな
く、ここは熟っくりと彼の近著(『成長戦略の罠』)を取り寄せ、「まえがき」より読み始
める。

 

                          「3本目の矢」が放たれた。

  日本政府は2014年6月24日、産業競争力会議による「成長戦略」改訂版を
 「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)と同時に閣議決定。これでアベノミクス
 「3本の矢」、すなわち①金融政策(大胆な金融政策)、②財政政策(機動的な財政
 政策)、③成長戦略(民間投資を喚起する成長戦略)がすべて出そろったことになる。
  私は①の金融政策を高く評価しつつ、②の財政政策については消費増税の悪影響を
 予測し、その効果のほどに疑問符をつけた。この2本の矢は抽象度が高く、一般には
 難解なマクロ経済政策なのだが、実施後1年ないし2年で効果が検証できる性質のも
  のだ。はたして私の予測と分析どおりの結果がデータに現われはじめている。本文で
  詳述してゆく。
  そこで3本目の矢、③の成長戦略を見てみると、こちらのほうはミクロ経済政策で
 素人目にも分かりやすい。しかしマクロ経済政策である2本の矢に比べ、成果の検証
 に時間がかかるうえ、「効果に疑問符がつく」どころか、実行効果はほとんど期待で
 きないと言ってよい。そこには大いなる欠陥と落とし穴が潜んでいる。理由はただひ
 とつ、官僚=霞が間主導のよ戦略゛であるからだ。
  もともとアベノミクスの「成長戦略」は、すでに放たれた2本の矢に対し、大幅な
 後れをとっていた。今回の閣議決定は、2013年6月に「日本再興戦略」として一
 度、閣議決定していた政策群に、さらに改訂を施したものである。この間、部分的に
 関連法も成立している。安倍音三内閣(第二次)発足と時を同じくして立ち上げた成
 長戦略だが、本格的に「矢を放つ」までに1年半も要した格好だ。
  やや強引な喩えをお許し願おう。W 杯の日本代表は残念な結果に終わったが、
 成長戦略(今回の改訂版。2013年の「日本再興戦略」を踏まえ「新成長戦略」と
 するマスコミもある)は、サッカーの戦術で言えば3枚目のカード、3入ある交代枠
 を監督が使い切ったようなものだ。
  劣勢のゲーム展開(デフレで低迷する日本経済)を打開すべく、2人の攻撃的な選
 手(金融政策と財政政策)を早めに投入した。その甲斐あってチームは持ち直し、つ
 いに最後の交代選手(成長戦略)がピッチに入る。この選手はウオームアップする時
 間が長かった(改訂版ができた)せいか、運動量が豊富でサポーターを沸かせた(分
 かりやすい政策)。ところがドリブル突破も効果的なクロスを上げることもできず、
 かえってパスミスでチームの足を引っ張る始末。なぜなら、彼を送り出したベンチス
 タッフに、ピッチに立った経験のある者が誰一人いなかったから……。
  私は前著『官愚の国』(2011年3月刊。現在は祥伝社黄金文庫)で、かつて
 「産業政策」と呼ばれていた官僚主導のよ成長戦略゛は過去の遺物であり、無用の長
 物であることを論証した。実技経験がなければサッカーの指導もできないように、ビ
 ジネスの現場に身を置いたことのない官僚に産業を成長させることはできない。しか
 し産業政策の悪しきDNAは「成長戦略」と名を変えて生き残り、現在に至っている。
 本書は『官愚の国』の続編として、日本の官僚ならびに官僚制の不備を指摘し、彼ら
 霞が関が主導する成長戦略の欠陥を衝くものである。
  あえて言おう。これはW杯ではないので、成長戦略の選手交代はまだできる。民営
 化・規制緩和という世界でも通用する選手を入れて、世界で通じない霞が関主導を変
 えるべきだ。


          高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                この項つづく

 

 
【オールソーラーシステム完結論 26】 

● パウダー水素エネルギー工学


東京理科大学理工学部電気電子情報工学科 星研究室のグループは、水素を燃料として発電し、水のみを排出して走行す
る燃料電池自動車(FCV)を研究開発している。次世代エコカーの大本命として期待されている。FCVの水素積載法の主流
は70MPaの高圧水素タンクであり、2015年末を皮切りに各自動車会社が市販を開始するが、FCV普及のためには大きな壁―
(1)まず、水素タンクに水素を充填するための「水素ステーション」に巨額投資が必要(2)また、気体水素のエネル
ギー密度は非常に低く、輸送・貯蔵においても高圧化・液体化した特殊インフラが必要で、運営維持費にも莫大なコスト
がかかる――これらの要因がFCV普及の足かせとなると言われている。特に普及初期段階は、FCV販売に先立ち水素イン
フラの先行整備が不可欠だが、普及初期段階で広く消費者に受け入れられなければ、普及政策自体が断念されるリスクが
ある。そこで星研究室では、加水分解により水素を生成する粉末状の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4、Sodium Tetrahydro-
borate)に着目。この粉は"高エネルギー密度"、"取扱い容易性"、"リサイクル可能"といった長所を持ち、これを燃料電池
車の水素源とすることでFCV普及に貢献出来るというもの。 

 

もつとも、この技術―NaBH4燃料のFCVは、米国の自動車会社(ダイムラー・クライスラー)等が研究していたが、当時
の開発コンセプトは"水溶液方式"であったため体積エネルギー密度は低く、水素生成 に高価な触媒と大掛かりな装置が必
要であり、強アルカリ性であったため取扱い安全性にも問題があった。その結果、実用化には至らなかったという過去が
あり、基本的な技術知財は出そろっていた。ここで少しお復習いすると、燃料電池は、反応の化学エネルギを直接に電気
エネルギに変換する電気化学デバイス。燃料電池の物理的構造は、多孔質アノード及び多孔質カソードに接触する電解質
層から構成される。一般的な燃料電池において、燃料は、アノード(負極)に連続的に給送され、酸化剤(酸素/空気)
は、カソード(正極)に連続的に給送される。燃料電池は、ポリマー電解質膜型燃料電池(PEM)、直接型メタノール
燃料電池(DMFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MC
FC)、及び固体酸化物型燃料電池(SOFC)のような6グループに分類される。

燃料電池は、携帯式電子機器、車両、電力/熱生成プラント、並びに軍用及び民間施設のような様々な用途をもつ。この
点で、水素貯蔵が重要な問題であることを強調すべきで、前出の星研究室の研究グループは「タンクレス」と呼んでいる
――この目的のために、ホウ素鉱物から製造される水素化ホウ素ナトリウムが、最も重要な水素貯蔵薬剤の1つとして公
知である。(1)水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ性水溶液は、接触的に分解して貯蔵された水素を放出する。(2)
水素化ホウ素ナトリウムは、水素20%(重量で)までを貯蔵することができ、(3)また易燃性あるいは爆発性ではな
い。(4)水素発生速度は、容易に制御することができる。(5)出現水素の半分は水素化物に由来し、他の半分は水に
由来する。(6)触媒とメタホウ酸ナトリウムは、回収されて再使用することができる。燃料電池においては、水素が最
初に原位置で生成されてそれ自体が使用されるか、また水素化ホウ素ナトリウムを燃料として直接に使用することができ
るかのいずれかである。

訂正(2014.11.06)

特に、携帯式燃料電池用途においては、直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池(DSBHC)は、直接型メタノール燃
料電池(DMFC)の良好な代替物である。直接型メタノール燃料電池と直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池と比較
した時、電圧、理論比容量、及びエネルギー密度は、直接型メタノール燃料電池1.24V、5030アンペア時/kg、
及び6200ワット時/kgだが、他方、直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池は、1.64V、5667アンペア時
/kg、及び9285ワット時/kgである。さらに、DMFCは、低いアノード反応速度、メタノールの有毒性、及び
アノードからカソードへのクロスオーバーなどの欠点をもつ。なお、トルコは、最高品質の世界のホウ素埋蔵量の70%
を保有する産出国である。直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池(DSBHC)は、電極触媒層(アノード及びカソー
ド)、電解質(膜)(膜と電極の組合せはMEAと呼ばれる)、バイポーラ板、集電板、ガスケット、及び他の接合要素
から構成される。燃料電池スタックは、電力要件を満足させるための十分な数のセルを結合することで製造されている。

 

この研究グループでは、NaBH4を「粉体で車載」することで、NaBH4が持つ高いエネルギー密度を最大限生かしつつ、さ
らに高効率に水素を生成する" STEPシステム"(Sodium TEtrahydroborate Power system)を開発し、前述した長所の創出が可
能にした。 下図に示すように、水素リアクターで加水分解することにより高密度な水素を発生さる。 この時にNaBH4だ
けでなく、水からも純水素を取り出すことができる。 また燃料電池から出た水を加水分解に再利用できるので、水の補給
が必要なく、システムをコンパクトに設計可能で、STEPシステムを車載したFCV(=STEP-FCV)の試験走行に、2012年末、
世界で初めて成功する。 現状は、システムにおける水素生成速度は毎分100L、発電量は最大5kW、車両走行性能は最大
20km/hを達成している。2015年からは、STEPシステムの高性能化・小型化を目標に取り組んでいきたいとのこと。

 

また、システムの将来像として、下図に示すように、自動車以外にもあらゆる電源用途への適用を考えられている。 例え
ば、今日、東日本大震災を機に、巨大発電所への依存はリスクが顕著化するため、「分散型電源」を増やすべきとの考え
が広がっているが、STEPシステムによる発電は、粉体NaBH4がハンドリング・長期貯蓄に優れるため、 家庭用定置型電源
などの分散電源や非常用電源用途として非常に有効となる。そこで星研究室では自動車への使用だけでなく、スマートハ
ウスの定置型電源としての使用も応用の一例として研究しているのだ。





また、それと同時に工業化に耐える低コストな水素化ホウ素ナトリウムの製造方法(実用化)も着々と準備(下図参照)さ
れつつある。このように考えていけば、安定化させた水素化ホウ素ナトリウムの粉体(個体)利用技術でコスト逓減と高
効率に、「ダウンサイジング」(第2則)が工学的課題として俎上する。

  JP 2014-181174 A 2014.9.29

【符号の説明】

1 高温高圧反応容器 2 メタホウ酸ナトリウム 3 乾燥器 4 無水メタホウ酸ナトリウム 5 アルミ微粉末 6 高
圧水素 7 副生物 8 サンプル

 

 

 

太陽光励起レーザ工学

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【オールソーラーシステム完結論 29】 


● 太陽光励起レーザー工学

水素ガスは、酸化剤により酸化し水を生成するので、燃料電池の燃料などクリーンな燃焼
であり、化石燃焼の枯渇や、地球温暖化対策からエネルギー・インフラ基盤を、化石燃料
からクリーンなエネルギーへ切換える必要があり盛んに研究開発されている燃料である。
これまで、水素は、水の電気分解反応により生成され、高圧容器に充填された後、各所に
運搬されて使用されているが、運搬重量が大きく、可燃・爆発の危険性があり取り扱いに
注意を要し、長期保存からも充分なものでない。その弱点を克服する方法として『パウダ
ー水素エネルギー工学
』で取り上げた、水素化ホウ素ナトリウムから水素を取り出す方式
を掲載したが、それ以外の既存方法には以下のようなものがある。

 



例えば、苛性ソーダーの電解製造方法から水素を取り出す従来法にもくみ取るべきものが
あるが、多くは地下化石燃料依存型であり、持続可能社会指向型の、いやこの"オールソー
ラーシステムにはなじまないが、水電解法は再生エネ型は出力の不安定の弱点は蓄電シス
テムの整備で解決できるものの「コストが高い」との一点が問題とされる(ここでは、水
電解法の技術課題についてまた別の機会に掲載したい)。そこで、「マグネシウムと太陽
光励起レーザを用いたエネルギー循環システム」の新規考案「特開2007-145686 水素生成
装置、レーザ還元装置、エネルギー変換装置、水素生成方法および発電システム」を取り
上げた(下図参照)。




この提案は、水素生成装置、レーザ還元装置、エネルギー変換装置、水素生成方法と発電
システムに関わるもので、水素生成装置10は、金属元素を保持する反応容器12と、反応容
器に水を供給する貯水槽16と、金属元素と水との反応により生成した水素ガスを回収する
水素取出管14とを含み、回収された水素ガスを貯蔵する水素貯蔵装置26を含むもので、水
素ガスを還元し生成した金属元素の酸化物や水酸化物をレーザ還元し、金属元素を再生す
る。レーザ還元では、太陽光励起レーザを使用することができる。また、レーザ還元の際
に形成する荷電粒子を使用し電流を生成する、エネルギー変換装置と水素発生システム
を使用する発電システムである。

 

この方法は、パウダー水素エネルギーの「水素化ホウ素ナトリウム循環システム」と異な
り、マグネシウムはペレット状あるいは豆粒状であり、エネルギー効率でみると、太陽光
励起レーザは数パーセント(2%とも)言われている。これは、太陽光発電の水電解法と
比べ――太陽光の変換効率を25%として電解効率を80%、それ以外のエネルギーロス
をα%=10としたとき、20α%(=80×0.25×(1-0.1)α)となる――9分の1と効率
が悪いことになる。因みに、水素化ホウ素ナトリウム循環システムの概念図を下に掲載。

なお、メタホウ酸ナトリウムと水素および還元性金属の反応メタホウ酸ナトリウムを還元
性金属と水素雰囲気下で加熱することで、NaBH4を合成する方法の式、

NaBO2 + 2H2 + 2Mg  → NaBH4 + 2MgO  △G0(298K) = -342 [kJ/mol-NaBH4]

金属の表面にH- (プロタイド)が生成する金属では特に効率よくNaBH4を合成することがで
きる。この方法でも NaBH4の加水分解により水素を発生した後に回収される、NaBO2を含
む"使用済み燃料"からNaBH4 を再生できる。

このように、マグネシウム法は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、
カルシウム、亜鉛などの元素から反応エネルギーを回収すると共に、水素ガスを発生させ
る技術――金属を用いて水を水素に還元する水素生成装置と生成された金属酸化物または
化学物質を、レーザで還元するレーザ還元、エネルギー変換方法、水素生成および発電シ
ステムであるが、従来、含マグネシウム酸化物(酸化マグネシウム、ドロマイト)などの
酸化物資源を約千℃の高温のアーク放電で還元し、水を添加しても水素ガスを得ることが
できるが、環境負荷を増大させる原因となる。

(1)また、水素生成装置およびそのための方法が種々提案されている.特開2003-313001
    号公報では、密閉可能な本体容器内で、水素化物を加水分解させて水素を発生させる
  水素発生方法で、水素化物と水とを、少なくとも一部が水蒸気透過性を有する撥水性
  水蒸気透過材により隔離すると共に、この撥水性水蒸気透過材を透過する水分子と水
  素化物と反応させて水素を発生させる水素発生方法がある(下図参照)。

 
(2)アルミニウムとアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属からなる水素発生用燃料を
  収容する容器と、この容器に収容された水素発生用燃料を加熱溶融して合金化する加
  熱手段と、容器内の水素発生用燃料に水を供給する水供給手段とを備え、水素回収手
  段で発生した水素を回収する水素発生装置である(下図参照)。

(3)また、アルミニウムとアルカリ金属もしくはしくはアルカリ土類金属との合金の水
  素発生用燃料を使用し、容器の内部を冷却する冷却手段を備える水素発生装置とこの
  装置を用いる水素発生方法(特開2002-69558)。

(4)反応金属体を熱源を介して溶融し、溶融反応金属体を容器底部に貯め、溶融反応金
  属体に水を供給し熱化学反応を発生、得られた水素を外部に導出し、酸化金属体を排
  出手段を介して容器外に排出する水素発生方法(特開平8-109001)。

(5)容器内に設けられ水と電熱化学反応する反応金属体とを用い、反応金属体の上部か
  ら水を供給し、反応金属体と水とによる電熱化学反応により水素ガスを発生する水素
  発生方法とその装置(特開平8-59201)。

(6)水素を水から生成させるためにアルミニウム粉末と酸化カルシウム粉末とを含み、
  アルミニウム粉末の配合比が85質量%以下である水素発生材料とこの材料を使用す
  る水素発生方法と装置(特開平7-109102)。



(7)また、特開2004-231466では、水素を水から生成させるためにアルミニウム粉末と
    酸化カルシウム粉末とを含み、アルミニウム粉末の配合比が85質量%以下である水
    素発生材料およびこの材料を使用する水素発生方法と装置。



上記した水素発生装置と水素発生方法は、金属を使用して水を還元する高温状態で水素発
生材料を混合物し、混合物を加熱する電気炉、電気化学反応、または高水素原子含有物質
を使用し水素ガスを生成するが、金属元素は、水素を発生させた後、酸化された金属酸化
物を廃棄すると、際限なく金属元素――例えばアルミニウムを使用する場合、電力消費と
化石燃料の使用などを含めたトータルな環境コストが必ずしも低いものではない。と、そ
う記載している。実はここのところの大まかな計算値が欲しいところだが、この労力は膨
大になるだろう。

一方、金属元素の酸化および還元は、湿式の電気化学的方法以外に、いずれも高温下で進
行する。この場合、最小の装置コストで金属酸化させ水素を生成し、同時に処理対象を変
更し、最小の装置構成の変更で金属酸化物を還元し、金属生成する水素発生装置が提供で
きれば、トータルな環境コストを逓減できると指摘している。


● 太陽光励起レーザとは

一方、レーザ装置は、主に電気エネルギーを光(ランプ点灯)や放電の形態に変換し、レー
ザ媒体を励起することによりレーザ光を発生している。この手法には、複数段のエネルギ
ー変換過程が含まれており、エネルギー効率が低い(効率は2%?)ことが知られている。
この理由は、もともと品質の良い電気エネルギーを、低効率エネルギー変換を経て光に変
換して利用するためで、この点を改良したものに、半導体レーザ励起の固体レーザが提案
されいるが、光電変換効率は、約50%程度まで得られるようになり、その汎用性も向上
すると考えられる。

そこで、太陽光を使用する太陽光励起レーザがある。太陽光を励起光源として使用すれは、
化石燃料に依存した電気を直接使用した電気-光変換プロセスを使用せず、レーザ発振光
源にでき、レーザ還元装置として、汎用レーザ装置をより容易、かつ低コスト、さらに低
い環境負荷で使用できると考えられる。加えて、風力発電、潮力発電、地熱発電など化石
燃料に依存しない発電方式も実用化されつつある。ピーク発電量では、2千kWhを超え
る電力を提供することが可能で、この電力で発振するレーザを使用しマグネシウムの形で
エネルギーを蓄えることができれば、環境負荷を低減したエネルギーの供給できる。

さらに、レーザ還元を行う場合、金属酸化物などの分解の初期プロセスで、金属イオンが
生成することが見出され、レーザ還元より発生する金属イオンは、局所的なプラズマを形
成し、既存の磁気閉じこめ装置を使用することにより制御可能となり、磁場方向に垂直な
方向に金属イオンと負イオンは互いに逆方向に運動するため、系外に電流として取り出す
ことで、光電変換が可能となる。金属元素を用いて水から水素を製造する場合、酸化物が
副生物として得られ、高いアルカリ性の故に、その処理・廃棄などが困難であった。さら
に、金属元素の酸化物は、高温分解すれば、再度、アルカリ金属またはアルカリ土類金属
に変換でき、再生可能エネルギーを使用し高温環境を生成できれば、環境に対して最も負
荷の少ない方法で水素ガスを生成できる。

また、従来の汎用レーザは、電力を消費し、また電気-光エネルギー変換効率が低く、一
方、太陽光励起レーザは、大学・研究機関などにおける実験的研究がなされるにすぎず、
工業用途に適用することができない。

そこで、特許文献(下図/下)に記載されているようなテーパー状の反射面による集光方
法では、太陽光がレーザー媒体の出力端部付近に集中して集光され、レーザー媒体が吸収
する太陽光のエネルギーがその部分だけ大幅に大きくなる結果その出力端部付近でのレー
ザー媒体の歪みが大きくなり破損するおそれがあったが、下図(上)の、太陽光励起レー
ザー装置1のように、太陽光に励起されてレーザー光を出力する棒状のレーザー媒質31
と、レーザー媒質の長手方向の軸Xに対してレーザー媒質の側方に位置し軸Xに対してそ
れぞれ異なる傾斜角を有し太陽光を反射する第1反射面22a及び第2反射面22bと、
を備え、第1反射面は、レーザー媒質の出力端部側の位置から、レーザー媒質の出力端部
と反対側の端部側の位置へ向かうにれて、軸Xから離れるように、軸Xに対して傾斜する
構造により、太陽光からレーザー光への変換効率及びレーザー媒体の耐久性を向上させる
ことが可能な太陽光励起レーザー発振装置に改良したものである。

下図は、酸化マグネシウムと、一酸化ケイ素または二酸化ケイ素のような非金属酸化物と
の混合物又は化合物に対してレーザを照射することにで、非金属酸化物から酸素を脱離さ
せることで、一酸化ケイ素または二酸化ケイ素のような非金属酸化物から高純度のケイ素
を収集する。

ところで、理論的には、一酸化ケイ素又は二酸化ケイ素などの酸化物に対して、所定条件
下において、レーザなどを用いて沸点以上の温度をかけると、二酸化ケイ素等を構成する
ケイ素と酸素との結合が切断されつつ噴出し、加熱場所から分離することができる。した
がって、半導体材料などに用いることができるケイ素を収集することができ、例えば、二
酸化炭素でも、所定条件下で、レーザなどを用いて沸点以上の温度をかけると、炭素と酸
素との結合が切断されつつ噴出し、加熱場所から分離でき、地球温暖化の一因とも考えら
れている二酸化炭素量が削減できるが、「所定条件」を選定することが困難であり、理論
的にはともかく、現実的に、高純度のケイ素を収集するとか、二酸化炭素量を効果的に削
減させることは非常に困難である。この還元装置は、第1の酸化物(例えば、酸化マグネ
シウム、酸化カリウム又は酸化カルシウム)と第2の酸化物(例えば、二酸化炭素や一酸
化ケイ素)との混合物や化合物に対しレーザを照射することで、第1と第2の酸化物から
酸素を脱理させている。太陽光を含むエネルギー源を利用する固体レーザ、気体レーザ、
あるいは半導体レーザとすることもでき、太陽光や自然エネルギーから生成したレーザの
実現で、化石燃料に由来する電源を使用することなく、地球環境に配慮dした新たな還元
処理ができる。

 

以上、マグネシウムと太陽光励起レーザーを用いたエネルギー循環システム技術を大急ぎ
で俯瞰してみたが、商用化までのハードルはかなり高そうにも見える。今後の動向を注視
したい。 

 

楽市楽座再論

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【脱ロスト・スコア論 Ⅳ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」』



                          第3章  この国を蝕む「官愚」

                      ■ なぜ公務員制度改革は進まないのか

 「官愚」とは、「衆愚」(多くの愚かな人々)の対義語のつもりで編み出した私の造語
 である。「衆愚政治」は辞書に載っているが、「官愚政治」はない。霞が間で28年間を
 過ごした身としては、これではあまりに公平を欠くと思い、" 無能の集団" である官僚
 が支配する日本を指して「官愚の国」と呼んだ次第である。
  安倍総理が明言した「岩盤規制にドリルで穴を開ける」ためには、この官僚支配の構
 造を壊さなければならない。すなわち、日本が成長してゆくには公務員制度改革が不可
 欠なのだ。しかし前章で官僚の天下りについて言及したように、つねに批判の的とされ
 てきた天下りは今もなお堂々とまかり通っている。つまり公務員制度改革は前進してい
 ないに等しい。
  なぜ公務員制度改革が進まないのか。その歩みを別表(下表)に示したが、直近の動
 きを検証しながら述べることにする。
  毎年、7月はキャリア官僚の人事の季節である。それに先駆けて2014年5月30
 日、内閣人事局が発足した。これは4月11日の参院本会議で成立した公務員制度改革
 関連法の柱であり、従来の "慣例" を彼って、審議官紙以上の幹部官僚人事(約600
 人)を官邸主導で決める制度だ。

 

  内閣人事局のスタートにあたり、新聞各紙では「政治家による公務員人事に対する
 過度な介入」など、新制度への懸念がアナウンスされた。ただしこの「懸念」は、マ
 スコミを使った現役官僚側によるネガティブ・プロパガンダだろう。上司である政治
 家に思うような人事をさせず、。慣例〃どおり自分たちだけで人事を進めようとする
 魂胆が見え見えだった。サラリーマンと同じで、上司や人事部ではなく、自分で勝手
 に人事ができればうれしいに決まっている。
  一方、内閣人事局の設置根拠となっている公務員制度改革法案は、昨年閣議決定さ
 れたものだが、このとき現役官僚たちとは違った「懸念」を抱く人たちもいた。それ
 は公務員制度改革に取り組んできた改革派の元官僚たちで、彼らの懸念は「政治家の
 人事介入」ではなく、別のところにあった。
  その懸念の中で、特に大きかったのは次の3点である。

  ①人事院の焼け太り
  ②幹部公務員の身分保障が過保護すぎること
  ③天下り禁止の骨抜き

  結論を言うと、彼らの懸念は現実のものとなった。
  まず①の「人事院の焼け太り」について見てみよう。
  本来であれば内閣人事局は、人事院、総務省などに分散された人事関連の機能を統
 合し、内閣主導の幹部人事を支える体制づくりを目指していた。2008年の基本法
 や、2009年のいわゆる「甘利法案」である。
  2013年9月時点で政府が示した法案骨子では、「甘利法案」の内閣人事局関連
 部分どおり、とされていた。ところが、政府の法案を見ると、

  (1)任用、採用その他の事務につき、内閣人事局と人事院との間でそれぞれ "焼
    け太り" のための業務分担を設定
  (2)幹部職員の級別定数の設定につき、内閣人事局の権限としつつも「人事院の
    意見を尊重」との規定を追加

  となっている。
  つまり、内閣人事局への人事機能一元化ではなく、人事院の機能を温存したまま内
 閣人事局も発足することにすり替わったのだ。実際、人事院は「お取り潰し」に遭わ
 なかった。これでは新しい組織をつくるという「焼け太り」であり、人事機能が分散
 した無責任体制をさらに悪化させるだけになる。過去の改革プランでは焼け太りは許
 さなかったのだから、大甘な措置と言える。

  次に②「幹部公務員の過保護」だが、これも手つかずで今までどおりだ。
  現行の公務員制度では、次官・局長などの幹部公務員も係員レベルの職員と同じ身
 分保障の対象であり、よほどのことがないかぎり免職も降格もされない。その結果、
 民間人や若手を幹部に起用しようとしても、幹部ポストにある職員の身分保障に阻ま
 れる。だから結局、年功序列型の順送り人事によるしかない――以上が実態だ。
  かつて自民党が野党の時代には、「幹部公務員法案」を提出したこともあったが、
 今回は「幹部公務員法」がない。これでは不十分だ。やはり大甘な結果となっている。

  最後の③「天下り禁止の骨抜き」も懸念していたとおりで、天下りについては "抜
 け穴゛だらけである。
  2010年に、民主党政権の下で公務員の「退職管理基本方針」が決定され、「現
 役出向」という天下りの抜け穴がっくり出されたが、今回はそれを改めるどころか、
 逆に抜け穴の拡大が行なわれている。それは政府案に盛り込まれた「人事交流の対象
 となる法人の拡大、手続の簡素化」という規定だ。
  この規定は「退職管理基本方針」に沿って現役出向を拡大するためのものでしかな
 いだろう。退職管理基本方針は、かつて野党時代の自民党から批判があったとおり、
  「天下り禁止」という第一次安倍内閣以来の方針を覆そうとするものだ。それを踏
 襲するどころか運用拡大するのだから、「天下り禁止」に逆行することになる。
  129ページに掲げた表にあるとおり、公務員制度改革は「廃案の歴史」である。
 麻生政権時代の2009年、民主党政権時の2010年と2011年に提出された改
 革関連法案は、いずれも "ねじれ国会" の中で成立しなかった。そして今回、衆参で
 過半数を持つ安倍政権でようやく実現したわけだが、蓋を開けてみたら、内容が大き
 く後退していた。
 
  人事院の焼け大り、幹部公務員の過保護な身分保障、天下りの3点については前述
 したとおりだが、欠陥はまだある。
  ひとつは「国家戦略スタッフ」と「政務スタッフ」の問題だ。かつての改革プラン
 では、官邸に国家戦略スタッフ、各大臣のもとに政務スタッフを置き、重要政策の企
 画立案をサポートすることとしていた。また、人数にも制限を設けず、政権の判断で
 実効性のあるチームを形成できることとしていた。
  しかし今回の政府案では、①国家戦略スタッフは既存の総理補佐官をもって置き換
 えることとし(増員なし)、②政務スタッフは各省1人の大臣補佐官としている。政
 策の企画立案サポートは一定規模のチームで行なうことが不可欠であり、不十分と言
 わざるを得ない。
 
  次に「公募制度」である。かつての改革プランでは、公募制度の導入が重要な柱の
 ひとつと位置づけられ、具体的な数値目標を定めるなどの規定を設けていた。しかし
 今回の政府案では、これらの規定が削除されている。これでは、公募導入の推進は期
 待できない。
   公務員人事の実質的な最高責任者は官房長官だ。菅義偉官房長官は公務員人事にか
  なり厳しいので、右記のような制度の欠陥もあまり目立たない。しかし、菅氏に代わ
  って「官僚に甘め」の政治家が官房長官になったときには、官僚天国になるだろう。
  つまり、政治家の人事介入を許さず官僚の官僚による官僚のための人事になる。
  そのうえ人事院などの役所組織は温存されたままなので、官僚が自由に活動できる
 揚が確保されている。また幹部公務員の身分も従来どおり保障されるから、政治家も
 おいそれと手出しができなくなり、官僚が守られる聖域になる。これだけでも現役官
 僚には居心地がいいだろう。しかも、天下りも抜け穴が多くなって、退職後も官僚天
 国を満喫できるというわけだ。
  おそらく官僚は、今の菅官房長官後のところまで読んでいる。今はそっと息を潜め
 ておこう、そのうちに自分たちの天下の時代が来る……と。


                        ■ 消えた「制度改革推進本部」

  時間を少し戻そう。2013年7月10日に国家公務員制度改革推進本部と、事務局
 がなくなった。その5年前の2008年6月B日に国家公務員制度改革基本法が施行
 され、7月11日、同法に基づき国家公務員制度改革推進本部が設置されたのだが、そ
 の措置には5年間という時限があり、期日が到来したのである。
  この法律と推進本部で国家公務員改革は進むはずだった。ところが、5年経っても
 何も変わらなかったに等しい。しかも、国家公務員制度改革基本法が事実上、消滅し
 た。霞が関官僚にとって、これがどれほど喜ばしいことか目に浮かぶようであった。
  今一度、129ページの表を参照していただきたい。最近の政権における国家公務
 員改革の経緯をおさえておこう。
  第一次安倍内閣では、国家公務員法改正によって天下り規制、能力実績主義が盛り
 込まれた。私が関与していたから言うわけではないが、特に天下り規制は「天下り斡
 旋の禁止」という国家公務員改革の歴史の中でも画期的なものだった。もっとも、こ
 れで霞が関の官僚すべてを敵に回したため、政権内で官僚との関係がギクシャクし、
 結果として第∵次安倍内閣は崩壊してしまった。



  続く福田政権では、第一次安倍政権のときに検討された国家公務員制度の総合的改
 革が法制化され、国家公務員制度改革基本法が制定された。この法律は政策の枠組み
 や進め方を定める「プログラム法」と言って、実定法をあとで改正しなければならな
 いが、国家公務員制度改革の全体を眺望できる法律である。それに従って国家公務員
 改革は進むはずだったのだ。
  当初のスケジュール(工程表)では、内閣人事局の設置は1年以内、それ以外の法
 制の措置(国家戦略スタッフ、幹部職員制、キャリア制度の廃止など)は3年以内、
 その他の借着を合わせて5年以内で、国家公務員制度改革基本法に沿った改革は終了
 するはずだった。

   麻生政権では、国家公務員法改正案(これが通称「甘利法案」)が提出されたが、
 廃案になっている。
  そこで政権交代だ。民主党政権下でも、国家公務員法改正案(通称「民主党法案」)
 が提出されたが、廃案となった。このときは、野党の自民党・みんなの党で幹部公務
 員法案(通称「自・みんな法案」)を共同提出したが、これも廃案となった。
  麻生政権以降、国家公務員改革の勢いはますます低下していった。脱官僚を掲げて
 いた民主党があっさり官僚依存に転向したので、さらに国家公務員改革は進まなくな
 った。公務員改革を断行しようとすれば当然、官僚の抵抗がある。だから大きな政治
 パワーが必要なのだが、麻生政権以降は官僚との融和を重視し、結局のところ、改革
 は何もできていない。
 
  この間に廃案となった法案(麻生政権以降に提出された改革関連法案)を比較する
 と、「自・みんな法案」が国家公務員制度改革基本法に最も忠実である。甘利法案も
 民主党法案も、幹部公務員に甘く、天下り規制も抜け穴だらけだ(上表)。
  この5年間、霞が関官僚たちにとって、国家公務員制度改革基本法は目の上のたん
 こぶだった。それが事実上なくなったのだから、各省で「祝砲」が打ち上げられてい
 たらしい。
  私は小泉政権において、各省庁事務次官の天下り先であった政策金融機関の改革を
 担当した。その後、各省は時間をかけてその骨抜き、すなわち私の改革案を "なかっ
 たもの" にすることに汲々としていたが、ようやく完成したようである。詳細は省く
  が、商工中金も政策投資銀行も天下り先として確保されている。役人の天下りにかけ
 る執念深さには、皮肉をこめて感心する。
  稲田朋美行政改革担当相∴国家公務員制度担当相は、「甘利法案をベースに公務員
 改革を行なう」と言っていたが(5月24日)、あまりに「甘い」のではないだろう
 か。官僚の掌の上に載せられているようで、不安感が拭えない。国家公務員制度改革
 を達成しなければ、成長戦略の障害である「岩盤規制」は破れないのだ。


                      ■ 霞が関だけではない天下りの利権

   この国の天下りが性質が悪いのは、霞が関の官僚に限ったことではなく、いたると
 ころで見られることだろう。実は東京都も天下り天国なのだ。私も役員に名を連ねる
  NPO法人「万年野党」が独自に調査した結果を次ページ以下に掲げる。これは課長
  級以上の東京都職員が、過去4年間にどれだけ都の外郭団体に「再就職」したかをま
 とめたもので、天下り利権の実相を端的に表わしている。
  右記の調査発表は都知事選投祭日の直前、2014年2月3日のことだった。東京
 都職員の再就職は合計249人。この数字は比率(全職員に対する天下り先確保職員
 の比率)で言うと、国家公務員よりも高い。
  国家公務員に関しては2007年に国家公務員法の改正が行なわれ、一定の規制が
 なされたが、地方公務員のほうは事情が違う。同じ2007年に出された地方公務員
 法改正案が廃案になったままなのだ。つまり地方公務員法での天下り規制は行なわれ
 ていないため、東京都職員による外郭団体への再就職が多いのだろう。
  ただし249人という数字は氷山の一角かもしれない。というのは、天下り問題に
 取り組んだ大阪市の例と比べても、人数が少ないように思えるからだ。

  私の知人は橋下徹大阪市長に委嘱され、2012年6月から2013年秋まで、大
 阪市の人事監察委員会委員を務めた。同時期に大阪府の人事監察委員も務めている。
  人事監察委員会とは、簡単に言えば再就職の適否を個別に審査したり、問題があっ
 た職員の分限懲戒処分を決めたりする委員会である。私が会長をしている株式会社政
 策工房が関わったのは前者の「退職管理部会」だ。大阪市は2012年5月に職員基
 本条例を定め、地方自治体としては初めての厳しい天下り規制を導入した。
  たとえば、勤続20年以上の職員および職員OBは、原則として条例に基づく外郭団
 体や職員を派遣している公益的法人、あるいは市が負担金や補助金、交付金など財政
 的援助をしている法人には再就職できない。例外は市長が人事監察委員会の意見を聴
 いて承認した場合に限っている(職員基本条例第47菜)。
 
  そんな制度の下で、人事監察委員会が本格的な個別審査に乗り出す前の2012年
 度は、天下りの実態がどうだったか。外郭団体および外郭団体の子法人に課長代理級
 以上の職員が再就職した人数は108人に上っていた。
  この108人を東京都の数字、249人と比べると半分弱になる。大阪市が予算規
 模で3・8兆円であるのに対して、東京都は12兆円と3倍以上だ(2014年度)。
  しかも都の数字は課長級である。大阪市のように課長代理級を含めれば、相当な数に
 なるはずだ。

 
 
  大阪市の実態は人事監察委員会の中の退職管理部会が2012年9月から翌年6月
 まで断続的に部会を開き、延べ221件の再就職案件について個別に審査して判明し
 た。その結果、再就職を承認した案件が201件たった。
  201という承認数は多く見えるかもしれないが、実はほとんどが比較的、待遇条
 件が低く、ハローワークや対象法人のホームページでも民間から求人するなど、雇用
 機会の均等が保たれていた案件だった。局長板で承認した場合も、一般公募で適任者
 が見つからないケースなどである。
  規制の重要な成果は、具体的な人名を秘匿しつつ、こうした再就職案件の結果がす
 べて市のホームページで公開されている点にある。審査に当たった委員の名前も公表
 されている。
 
  こうした透明性を確保した結果、何か起きたか。
  まず職員の問に「いい加減な『密室の天下り』はもうできない」という抑止効果が
 生まれた。これが最も大きい。次に人事監察委員会の審査をパスしたとしても、民間
 からの募集も前提になっているから、結果的に採用されなかったケースもある。
  実際、2013年度の外郭団体および外郭団体の子法人への再就職は、先に示した
 前年度の108人から34入に激減したのである。さらに再就職した34入に対し、実は
 審査で承認された数は56入に上っている。つまり、差し引き22入は再就職を希望して
 事前の人事監察委員会審査もパスしたが、肝心の採用試験・面接で果たせなかったわ
 けだ。すなわち就職活動の舞台裏で、公務員と民間人の競争原理が働いたのである。
  密室の天下りが続いていたら、とても考えられなかった事態だろう。
  もっとも、こうした人事の荒療治は、時として摩擦も多い。長期的には望ましいこ
 とでも、短期的に見れば失敗もある。特に、退職ではなく採用の場合を見ると、民間
 人が不祥事を起こすこともあり得る。公募区長や公募校長では、残念ながらそうだっ
 た。取り組みの方向はよいが、密室天下りの解消などの「いいこと」は報道されず、
 マイナス面ばかりがフレームアップされるのは残念である。 

       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

 

 

   

平成版「楽市楽座」ともいえる「行政改革」が遅々として進まないと高橋ならではの指
摘は、納税国民の内なるを告発するかのようだと感じるのは過剰反応な
のだろうか・・・。ところで、「新経済成長戦略『双頭の狗鷲』とは」(『梅もどきと
双頭の狗鷲
』2009.12.02)で「小泉改革が破綻したが、在任中彼は、財政規律優先と経
済成長の両立は難しいから、財政規律優先→経済成長という路線をとったのは旧福田派
(旧大蔵官僚閥)であったことも影響しているのだろうが、結果、小泉が成功している
ように見えたのは「アメリカのバブル経済によってもたらされた外需拡大に完全に依存
したものだったからです」という萱野稔人(『トベラと消えた成長モデル』)の指摘通
りだ。財政規律ばかりに目を奪われていると、経済成長ばかりに目を奪われているとそ
の双方とも現実とのギャップが深まるということに帰着する」と記載している。つまり、
「潜在的国民生産力」×「行政の効率化」積和政策を構想し、後に政策評価の数値化(
=見える化)重視を構想し、「デジタル・ケインズ主義」と呼称し、新しい政策設計を
イメージした経緯があることを今夜再確認する。その意味で先回の「是々非々主義」と
合致していることも点検した。     


                                                この項つづく

 

 

 

エアバック工学

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【エアバック工学】

タカタが北米子会社が製造した助手席用エアバッグに不具合があるとして、各自動車会社
がリコールを実施していた問題で、2014年7月18日、市場回収処置を行い、特別損失450
億円程度を計上すると発表。エアバッグが作動した際にエアバッグを膨らませるガス発生
剤の金属容器が壊れ、破片がエアバッグの外に飛び出したり出火したりする恐れがあると
いう。2014年6月11日にトヨタ自動車は国内外で約227万台、6月23日にはホンダ、日産、
マツダが世界で計294万台、6月27日には米GMが約3万3千台、7月8日には富士重工が
米国で8557台をリコールすると発表。また、2014年10月20日、高速道路交通安全局(NHTS
A)はリコール対象車に対して早急に修理するよう警告。対象車数を約474万台と発表。そ
の後約780万台に拡大。10月27日には米国の消費者がフロリダ州の連邦地裁に集団提訴し
ているという(投資情報総合サイト)。

 

ただ、タカタは13年3月期にリコール費用300億円を特別損失で計上。15年3月期第1四
半期にも447億円を引当金に繰り入れた。この巨額特損で15年3月期は240億円の最終赤字
に転落する見込みだが、想定される範囲の修理費用の引き当て処理を済ませたことで、リ
コール問題は一段落したと思われていた。にもかかわらず、次々とリコールが発表された
ため、株式市場でタカタ株は連日大幅に売り込まれた。20日の2186円から24日には1538円
へと下落。4日間で500億円以上の時価総額が失われた。(中略)これまでのリコールは、
00年から02年9月にタカタのメキシコ工場で作られた部品が対象だった。03年から07年製
造の部品でも、高温多湿な地域で長期間使用された場合に不具合が発生している。この問
題では従来、メキシコ湾岸の一部地域に限って自主回収やリコールが行われていたが、対
象地域がジリジリと拡大しているのだ。「特別に高温多湿な地域だけの問題」とタカタは
主張するが、本来、自由に移動できる自動車で地域限定のリコールはほとんど例を見ない。
危険性が高ければ、地域に関わらずリコールするのが筋だ。であるならば、全米、全世界
でリコールとなる可能性は無視できない。一番の問題は、タカタに対する不信感の広がり
だ。すでに米メディアの批判報道は過熱しており、米議会でも取り上げられた。集団訴訟
の動きもある。米国で報じられているタカタ製エアバッグによる事故が、すべてタカタ製
部品の欠陥が原因かはまだわからない。トヨタの品質問題では“意図せぬ急発進”のほと
んどは後にアクセルの誤操作と結論づけられた。だが、いったん、危ないというレッテル
を張られてしまえば、それを払しょくするのは難しい。タカタが窮地に追い込まれている
という厳し見方も報じられている(「広がるリコール。タカタの甘い認識」-欠陥エアバ
ックは政治問題化」東洋経済、2014.10.27)。

 

● 自動車用エアバッグ作動の流れ

ところで、一口にエアバックといっても、車椅子のような低速移動体の転倒障害防止装置
や、各種スタント行為の障害防止用クッション、さらには惑星間移動体の着陸衝撃の緩和
装置や二輪車などのと広範に利用されているが、自動車用エアバッグの動作フローをお復
習いしてみよう。

(1)まず、クルマが衝突すると加速度センサーが反応。センサーからエアバッグ ECU
(Electrical Control Unit)に加速度の情報が送られ、(2)エアバッグ ECU は内部でも持っ
ている加速度センサーの情報も加味してエアバッグの展開・不展開を決定。(3)展開と
の決定が下された場合、エアバッグECUはエアバッグモジュールに展開の指示。(4)イ
ンフレーター(エアポンプによる膨張装置)にて火薬を爆発させガスを発生させ、エアバ
ッグを0.01秒の単位で瞬時に膨らませる。この際、収納部(通常、運転席ではステアリン
グホイールの中央部、助手席ではダッシュボード上部)を押し破ることでバッグが出る。
(5)完全に膨張したら、バッグの背後に設けられている穴よりただちにガスが抜けエア
バッグが収縮―という一連の動作フローの流れとなる。

Honda Fact Book/二輪車用エアバッグシステム


これまでの不具合の原因として、タカタとホンダは、米国のモーゼス・レイク工場とメキ
シコのモンクローバ工場で2000~02年、インフレーター(エアバッグを膨張させる
ガス発生装置)の中に用いる火薬の製造工程や管理に問題があったと米当局に説明してい
るが、これは、「高温多湿な地域で長期間使用された場合に不具合が発生」してきたとい
うタカタなどメーカ側の見解と符合させると「火薬が湿り劣化し、衝突試験の合格基準を
下回った」と言うことになることが考えられるが、劣化させない方法を考えると、(1)
火薬の耐久性を向上させる、(2)劣化しないようなケーシリングを考案する、(2)製
造過程で起因する不具合事項の一掃(ゼロ欠陥運動:ZDM)などが考えられる。



【要約】ステアリングホイール用エアーバッグモジュールに関する。エアーバッグモジュ
ールは乗員に面するカバーを有する。この発明によれば、カバー(15)は、それが正面
位置に配置されているときには、ステアリングホイールの下方に位置する領域(18)に
おいてのみ完全に開かれる。アウトオブポジションに着座している乗員に加わる負荷はス
テアリングホイールリムの下部の方向へガスバッグが展開することによって軽減される。
さらに、負荷は二次衝突に際しても軽減される。これは、カバーの中央領域及び上側領域
がガスバッグが展開するする以前の位置に実質的には留まっており、その結果、ガスバッ
グがつぶれた後にカバーのエネルギー吸収部材の有効性が維持することで、ステアリング
ホイール用エアーバッグモジュールにおいて、乗員の保護特性を改善する。


 特開2013-212831

【要約】点火信号に応じてガス発生器(1)を点火するための点火器(3)を備えたエア
ーバッグモジュールのガス発生器(1)用の点火装置であって、熱供給の間、点火信号と
は独立に、ガス発生器(1)を点火するための早期点火セット(4)を備え;早期点火セ
ット(4)を受容する収容部(25)、及び、ボリューム調整手段(5)を備え、それら
は収容部(25)の中に早期点火セット(4)と共に配置される。それに関して、ボリュ
ーム調整手段(5)は電導性材料からなるファブリックを含む構成により、点火信号に応
じてガス発生器を点火するための点火器を備えたエアーバッグモジュールのガス発生器用
の点火装置を供給する。




● ブラックペッパーの家庭内菜園

法事の準備などで忙しいのはいいのが、二人とも疲労からくるのか注意散漫状態。こんな
ときは別ののこと――趣味などのこと考えてみても良いのではということで、来年春のハ
ーブの家庭内菜園(計画)に、さらに、黒胡椒をもう1つ追加することにした。黒コショ
ウはインド原産であり、高温多湿の気候で栽培される――因みに、栽培地はインド、イン
ドネシア、マレーシア、ブラジルなどブドウの房のように小さな果実がなり、実が熟する
直前につみ取り乾燥させたもが黒コショウ。完熟した実の皮をむいて乾燥させたものが白
コショウ――が、自然な気候の中で、30メートルの高さまで成長する。黒コショウを乾
燥し、粉砕することができるが、粉末はペッパーミルやグラインダーを用いる。黒コショ
ウは屋内で温室管理――熱帯性植物のため、温度は最低15℃以上にキープ。水はけのよい
土壌を好み、日光を好むが、直射日光のあたる場所は避け、半日陰になる場所での管理し、
冬の間は水遣りを少なくし、乾かしぎみに――すれば栽培できる。また、昼夜の適度な温
度差で栽培することで、香りが高く辛みも増すといわれている。

家庭菜園の作業フローを記載すると、(1)まず、腐葉土とパーライト、木炭で作られた
土に植える。(2)土壌表面から1/4インチの深さに種子を蒔くき、培土を湿らせる。
プラスチック製のラップでプランターの上部を覆う。 このときプランターのリップの周り
にラップをバンドを締め付け固定する。23~30℃の温度で管理。(3)12インチ径のポ
ットに苗を移す。 スプレーミストと水差しで頻繁に湿らせ注水。 部分的な日陰を形成し
ポットを置く(東側の窓辺が適当)。(4) 苗の近くに土壌中に小さな金属製のトレリス
(格子垣)を立てる。(5)夏の間は毎週受粉作業を行い、開花しは21℃以上に室温をキ
ープ。温度が24℃以上になれば屋外に移すが、12月~1月の温度が降下すれば室内(温室)
に戻し、夏の終わり次の種子が花咲く。 




                                                                       

 

  

血中アミノ酸分析工学

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【血中アミノ酸分析工学】 

抗癌最終戦観戦記Ⅰ』シリーズで掲載したように、癌の早期発見が血中アミノ酸濃度を測
定することができそうであるという。この検査法の特徴は、(1)わずか5mlの採血のみで
癌のリスクを測定する事が出来る。(2)ある程度進行しないと変化が見られない腫瘍マー
カーと違い早期がんに対する感度が高く、がんの組織型にも左右されない。
(3)アミノイ
ンデックス®は少量の血液サンプルで短時間に健康状態を調べられるというメリットがある。
これで、がん以外の疾患についても研究が進み、データー蓄積が進み、"ビックX解析法"

たくさんの説明変数を元に目的因変数との相関を高度な電算機で数理解析する)と、採血し
た資料を高速で検査するコンパクトな測定装置、あるいは、"マルチアミノ酸標準液"を用い
て迅速に比較検査(S/N比判別)することで予防でき、膨大な医療費スリム化に寄与でき
ると期待される。

このような血中アミノ酸分析検査法は、世界で初めて日本の神奈川県立がんセンター臨床研
究所(宮城洋平部長)らと味の素株式会社などの民間企業の共同開発で確立されたものであ
る。これらの技術が進展してきた背景として、例えば膵臓癌がある(下図参照)――日本で
は、膵臓癌による2009年の死亡者数は男14,094人・女12,697人で、男性では癌による死亡の
第五位、女性では癌による死亡の第四位である。膵臓癌の生涯罹患率は2%である。膵臓癌
は、癌の部位によっては症状が乏しく、進行してから発見されることが多く、膵臓癌は、画
像診断を用いて2センチメートル以下で発見されても膵臓外の隣接組織への転移がある場合
が多く、予後が極めて不良である。膵臓癌については、手術可能なより早期の発見が望まれ
来たが、膵臓癌の診断には腹部超音波エコー、CT、MRIが用いられ、いずれも膵臓癌の発見率は
高くなく、血清癌マーカーとしてはCA19−9、CEA、SPan−1、DUPAN−2等が
あるが、これらのマーカーは、進行癌には比較的高い感度と特異度を有するが、初期癌にお
ける陽性率は低く、また膵臓癌以外の癌でも陽性になる場合があるといった問題をもつ――
この新規技術では、評価対象から採取した血液中のアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度
データ(Asn,His,Thr,Ala,Cit,Arg,Tyr,Val,Met,L-
ys,Trp,Gly,Pro,Orn,Ile,Leu,Phe,Ser,Glnで構成
される19種のアミノ酸のうちの少なくとも2つのアミノ酸の濃度値が含まれているもの)を
取得し、取得した評価対象のアミノ酸濃度データ、及び、アミノ酸の濃度値が代入される変
数を含む予め設定された、膵臓癌リスク疾患の状態を評価するための式(19種のアミノ酸の
うち少なくとも2つのアミノ酸の濃度値が代入される少なくとも2つの変数が含まれている
もの)を用いて、式の値を算出することで、評価対象における膵臓癌リスク疾患の状態を評
価する。これにより、膵臓癌リスク疾患の状態を知る上で参考となり得る信頼性の高い情報
を提供できる、という効果を奏する。また、この情報の信頼性向上と、利用者に掛かる様々
な負担(例えば、精神的負担、身体的負担、時間的負担、又は金銭的負担など)の軽減とを
両立して実現することができる――という効果がある。

特開2014-106114


また、下図の新規考案は、連続して細胞をマイクロ流路の特定の領域に連続配置する機能と、
画像ベースで1細胞単位でその細胞の集団状態の有無と蛍光の発光を同時認識する機能と、
その形状と蛍光の発光の情報に基づいて認識を行って、細胞集団あるいは細胞塊を選択的に
分離精製する機能を有する細胞濃縮精製装置を提供することで、集団化あるいは塊化した細
胞を選択的に回収する細胞精製装置を提供することができる装置である。このことで、体液
(例:血液、リンパ液、唾液、尿)中の微量な被検対象の細胞が、クラスター化しているか
否か(孤立一細胞であるか否か)を識別することができ、対象細胞のうち細胞集団あるいは
細胞塊となっているものを選択的に回収し精製して、その対象細胞の正確な遺伝子情報、発
現情報の解析が実現でき、血液中に細胞集団または細胞塊が存在する場合は、それが癌細胞
である可能性が高いことから、この装置システムおよび方法は、癌の診断、癌患者に対する
薬物投与計画策定等のために用いることができるという。 

 

  Redspotted grouper

● 幻の高級魚キジハタ復活

かつては魚介類が豊かで「魚庭(なにわ)の海」と呼ばれた大阪湾の水産業再生へ、大阪府が本格的
に取り組んでいる。「汚い」というイメージを払う切り札は、最近まで「幻」とされた高級魚のキジ
ハタだ。孵化(ふか)させた稚魚の育成に成功して5年目を迎え、ブランド化も視野に入ってきたと
いう(朝日新聞デジタル 2014.11.10) 。滋賀県でいえば、琵琶湖のビワマスだ!

 Poached Fillet of Redspotted Grouper

キジハタの旬は春から夏。白身で身が締まっていて硬いが、旨みがあって、食感がよく、粗(あら)
などから良質のだしがとれる。関西では夏に薄造りにして楽しむ。「アコウ-石茂魚の薄造り(刺身
)」。この場合、活けでなければうまくない。ポン酢や柑橘類を落とした醤油が合う。 粗(あら)
は潮汁にするとうまい。鍋物、しゃぶしゃぶ、煮つけも美味。ムニエル、フライ、グリルも美味いと
いう。因みに、定置網、刺し網で獲る。これは美味そうだ。



● "カップヌードルしお" にひと工夫  

そういえば、深まる秋に食欲が増し、ついつい昼食を取ることになる――これで、ルームウォーキン
グの効果が半減するが――カップラーメンしお(下図)に、ニンニクを電子レンジでチンしトッピン
グしていたが、チンの折、ニンニクから「アリシン」などが揮発してしまうので、バターなどの油脂
でコーティング、薄切りのチーズで巻きつける、あるいは竹輪に詰め込んでチンしてみたが今ひとつ
そこで、大きめの豚肉で皮を剥いたにんにくを完全に包み隠すように巻きチンし、これをトッピング
し、お湯を注いだカップをラップし輪ゴムで締め、さらに2分程度チンし、しばらく蒸らしておく。

 




こうすれば、ニンニクの有効成分を逃がさず、素早くエコに、精力増進の一品をトッピングし美味し
く頂けることに。これはチョットした工夫だと、自己満足している。

 

脱ロスト・スコア論 Ⅴ

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● 電動式水上バイク

4つの水中翼を備える水上バイク。電気で推進するので、軽量を実現して、水の抵抗をほ
とんど受けずに推進。1度の充電で航続距離は約百キロメートルとなり、最高時速37キロ
メートルの速度が出ていて、水中のスポーツカーのように見える。来年180万ドルで発売
予定とか。スタイリッシュで、電動式だから静粛性は抜群。琵琶湖でのプレジャ・ボート
(ウォータバイクあるいは、ウォータスクータ)に打って付けだ。これは面白い!

 

   

【脱ロスト・スコア論 Ⅴ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」』



ここでは、高橋は重要なことを語っている、「三権分立ではなく、まるで行政府が立法府
と司法の上に君臨しているかのようだが、そうすれば官僚に好都合である」(内閣法制局
の「権威」の正体)と。つまり「官僚内閣制」だと。だとすれば、"そのこと"を意識的に
あれ、無意識的にあれ放置してきたことは歴代の政権与党の責任に帰するところ大なので
あろう。それはさておき、時代が大きく変化しようとする時、例えば、「失われし20年」
の歴史的学習から学び現状をを変革していこうとするドーパント(異質分子)をアクセプ
タ(受容体:国家・地方官僚あるいは独占企業体など)が排除しようとする特徴を、この
世界(史)から学ぶことができる(例えば、ロシアのスターリン主義体制、中国の一党独
裁、米国の軍産複合体(=縁故資本主義)、そして日本の官僚内閣制!?)。そのことは
念頭に置き具体的事例をみていこう。 

                         第3章  この国を蝕む「官愚」

                         ■ 天下り斡旋の恐るべき実態

  「天下り」という日本語は英訳できない。"descend form heaven"(天から下りる)
 と直訳したところで通じるわけもない。前章で述べた「産業政策」と同じで、外国に
 はない概念なのだ(例外としてフランス語には似た概念の単語がある)。逆に言う
 と、天下りは実に日本らしい"風習"なのかもしれない。
  また誤解を恐れずに言えば、サラリーマン的思考をする人(サラリーマンであると
 は限らない)は官僚制に擁護的だ。話は簡単で、サラリーマンが会社を定年退職した
 あと、関係会社に再就職を斡旋してもらえたらうれしく思うだろう。その分、老後の
 心配がなくなるのだから。
  ここには組織の論理が働いている。官僚は霞が関という組織の、サラリーマンは会
 社という組織の中で、一単位として奉公する。再就職先斡旋は、その恩典である。恩
 典なのだから、みな「ありかたいなあ」と思うのは当然だ。
  官僚であれサラリーマンであれ、この再就職先斡旋=天下りを断わる人を、私は知
 らない。ありかたい語を断わる人は、もっと前に辞めている。

  実は天下りを断わって、定年を待たずに辞めたのは他ならぬ私である。私は財務省
 から官邸に出向し、政策立案に係わっていたから、役所の枠からはみ出た役人と見な
 されていた。だからだろう、財務省は私に天下り先をすごく斡旋してきたものだ。
  斡旋の第一段階は、財務省の秘書課長(一般の組織の人事課長)や官房長など幹部
 からの電話である。そこで面会の日時を決める。幹部のパターンはこうだ。幹部室の
 隣に個室があるのだが、その部屋へ行くと……。

  幹部 高橋くん、どう、最近?
  高橋 はあ、忙しいですよ。
  幹部 どんなことやってるの、最近?
  高橋 これこれ、こういうこと(仕事の中身)をやっています。
  幹部 そうか。君もそろそろアレだよね、定年が近くなるよね。
  高橋 そうですね。
  幹部 あのさ―、こういうところ(天下り先)があるんだけど、関心ある?

 ここで多くの官僚は「お願いします」となる。だが、私は「お願い」しなかった。

  幹部 どう? 君に向いているんじゃないの。
  高橋 お気持ちはありかたく存じますが、私は自分でやりますから。

 この返事に、幹部は内心「コノヤロー」と思っただろう。


                      ■ 日本郵政に居座った財務官僚OB

  私の場合、こうして「お断わり」したのはI回や2回ではない。斡旋の話は次から
 次へとやってきた。それが官房長や秘書課長の仕事なのだから仕方ない。彼らが「こ
 ういうところがあるんだけど」と言って紹介する天下り先は、民間企業の顧開戦もあ
 れば、大学教授というポストも用意されていた。
  私は日ごろ、財務官僚を辞めたら大学で研究の仕事をしたいと思っていたから、役
 所で雑談の祈にそんな話を□にしたこともあっただろう。それが漏れ伝わったのか、
  「高橋くん、××大学(私立)とか△△大学(国立)なんてどうだろう」と、先回り
  されたことがある。私は「え~っ」という感じである。それでも「自分でやりますか
 ら」とお断わりしたが。

  こうして、キャリアの官僚には必ず天下りの声がかかる。私のようにそれを断わる
 官僚はまずいない。例外中の例外として、家業を継ぐ人がいるだけである。「実家を
 継ぎます」と言われれば、人事担当も容認せざるを得ない。私の場合は実家の関係で
 も何でもなく、役所の世話にはならない、再就職先は独力で探すと言ってのけたわけ
 だから、官僚の世界では空前絶後の出来事だったろう。おまけに大学教授職は正当な
 手続きでゲットしたのだから、我ながら無茶苦茶だと思う。

  それにしても、キャリアとして国家公務員になれば一生、食うに困らないというの
 は本当で、それを天下りというシステムが支えているのである。基本的に天下りは2
 回できることになっていて、―回が5~6年だから、役所を辞めてもその後の10年か
 ら12年は保障されているのだ。高齢化社会とはいえ、まさに死ぬまでの永久就職同然
 ではないか。 公務員制度改革が前進しないなか、第二次安倍政権誕生後も官僚の天
 下りは後を絶だない。文庫版『官愚の国』の「まえがき」で触れたが、特に政策金融
 機関で顕著である。元経済産業次官の杉山秀二氏が商工組合中央金庫社長に、元財務
 次官の細川興一氏が日本政策金融公庫総裁に、そして著名な財務官だった渡辺博史氏
 が国際協力銀行総裁のポストに就いた。

  安倍政権が官僚の天下りで抵抗したのは日本郵政くらいだろう。大蔵省OBで内閣
 官房副長官補まで務めた坂篤郎氏は2009年に日本郵政の副社長に就任、3年後の
 2012年12月には社長に昇格したが、安倍政権誕生後の2013年5月には社長退
 任となった(6月の株主総会で正式承認)。当時は「官邸による更迭人事」と騒がれ
 たものだ。
  ところが坂氏は社長の座を追われてからも、ちやっかり「顧問」の肩書でロ本郵政
 に残っており、これが2014年3月に発覚すると(それまでは、なぜか秘密だった
 ということだ。このことを憂慮した何者かが官邸に。ご注進〃したのだろう)菅義偉
 官房長官たちの逆鱗に触れ、またしても退任に追い込まれたのである。

  菅官房長官は記者会見で、次のように述べた。

 「坂氏が(日本郵政の)社長を退任したのは事実上の更迭だった。しかし監督官庁の
 責任者である総務相も知らないところで顧問に復帰し、報酬も支払われていた。あぜ
 んとした。坂氏の年間報酬は1000万円、勤務実態は週2日以下だ。国民から理解
 されないようなことはすべきではない」




                   ■ 渡辺喜美氏辞任劇を法律面から検証する

  ところで公務員制度改革といえば、思い出すのは渡辺喜美氏である。渡辺氏は第一
 次安倍政権(改造内閣)および福田政権で、行政改革担当相として制度改革の前線に
 立っていた。
  その渡辺氏が2014年4月7日、みんなの党代表を辞任した。化粧品会社、デイ
 ーエイチシー(DHC)の吉田嘉明会長から8億円を借り入れていたという週刊誌報
 道が発端だった。ここでは本件を法律面からクールに見てみたい。
  8億円の資金は銀行振り込みされている。吉田氏は、そのお金は選挙資金であると
 明言し、政治資金収支報告書などへの記載がないため問題とされていた。ここでのポ
 イントは、8億円という巨額な資金であり、貸し付けた吉田氏が「選挙目的」と言っ
 ていることだ。猪瀬直樹前東京都知事の借り入れ(5000万円)より巨額なだけに
 悪質だと論じるところもあった。
  これに対して渡辺氏は、借り入れていた事実は認めたうえで「自分個人で借り入れ
 て、みんなの党に貸し付けたものであり、党の政治資金収支報告書には渡辺喜美個人
 からの借り入れや資金使途が記載されているため法的な問題はない」というスタンス
 だった。

※いわゆる「8億円借入金問題」(Wikipedia

 
  両者の主張の違いは、誰の選挙資金なのか(渡辺氏かみんなの党か)ということで
 ある。

  マスコミは、この点を明示的に書いていない。おそらく渡辺氏個人とみんなの党を
 同一視し、両者一体と考えてしまった。渡辺氏個人とみんなの党の関係をはっきり書
 かずに、あたかも渡辺氏が裏金的に使ったような記述も散見された。
  一方、渡辺氏の主張は、誰の選挙資金であるかについて明確だった。渡辺氏の言い
 分は、渡辺氏個人で借りて自分の選挙には使わなかったので、渡辺氏の選挙資金では
  ない。また、みんなの党に貸し付けたので、みんなの党の選挙資金となる、というこ
 とだろう。したがって(渡辺氏個人の選挙資金ではないため)、渡辺氏の収支報告書
 には記載されていない。みんなの党の選挙資金だったので、みんなの党の政治資金収
 支報告書には記載がある、としている。
 
  猪瀬氏の5000万円借り入れとの違いについても、猪瀬氏は自分の選挙資金とし
 て借り入れていたが、渡辺氏は党の選挙資金として借り入れたという点で異なると言
 っていた。
  現行制度では、政治資金、選挙資金ともに受け入れの主体のところで収支報告書を
 作成し、その使途を明らかにするという仕組みになっている。最終段階の資金の受け
 入れで報告書に記載されていれば、資金の流れが分かるので、重複して報告書に記載
 する仕組みにはなっていない。
  簡単に言えば、選挙資金として受け入れた人物・団体に報告義務があり、自分の選
 挙資金として借り入れていない場合、自分の報告書には書かなくてよい。渡辺氏の主
 張は「党に貸し付けた」であるから、そのとおりなら8億円はみんなの党の政治資金
 になる。もちろん、みんなの党の政治資金収支報告書に記載がなければ大問題だが、
 こちらのほうには書いてある。なお、吉田氏が直接みんなの党に振り込んでいれば、
 何の問題もなかったはずだ。
 
  私は渡辺氏を擁護するつもりはない。また渡辺氏のロジックについて、借り入れ金
 額の数字の整合性などをチェックしているわけでもない。あくまでクールに考えるた
 めに、法律論に絞ってみた次第である。


                                                   ■ 官側の"圧力"が働いた!?

 
  マスコミからはぶ涙叩き〃状態の渡辺氏だが、彼の「8億円問題」と辞任劇につい
 て、訝しく見る向きも実は少なくなかった。
  なぜ突然、週刊誌のスキャンダル報道が出てきたのか、その背景はどうなっている
 のか、意図的なりIクがあったのではないか、このことで得をするのは誰か……さま
 ざまな観測が私の周辺でもなされていた。そうしたなかで、さる訳知りの人物の見立
 てを紹介しよう。ただし、あくまでも可能性としての話であることをお断わりしてお
 く。その人d物は「渡辺さんは官僚にやられたね」と言うのだ。 

  まず、近い将来の内閣改造で、渡辺氏が公務員制度改革担当初として入閣するかも
 しれない、という情報が流れた。ご承知のとおり渡辺氏は安倍総理と親しく、かつて
 は二人三脚で公務員制度改革に取り組んだことがある。改革のキモは年功序列の廃止
 と天下り斡旋の廃止であった。
  渡辺公務員制度改革担当初の再登板―――この情報に接した霞が閣は「それは大変
 だ」と色めきたった。
  霞が関の官僚たちにとって、忘れがたい出来事がある。以前、渡辺氏が行政改革担
 当相・公務員制度改革担当相だったころのこと、各省の事務次官を呼び、天下りの斡
 旋をしているかどうか、一人ひとりヒアリングを行なったのだ。
  かなり厳しい聞き取り調査で、事務次官たちは答えに窮したが、結局は嘘をつくし
 かなかった。しかもその場所(個室)には透明性を確保するためカメラが入れられ、
 渡辺氏と事務次官のやり取りが生々しく記録された。それがプライド高い官僚たちに
 大きな屈辱感を与え、トラウマとなって残ったのである。
  渡辺氏はその後、金融担当大臣も兼務することになったが(2007年8月)、乗
  ちなみに渡辺氏はスキャンダル記事が出る直前にも、官僚への。攻撃‘を行なって
 いた。先に述べた(150ページ)大蔵OB・坂篤郎氏の、日本郵政顧問退任の一幕
 にキーパーソンとして登場する。「産経新聞」がそれを記事にしたので引用しよう。
 
   《郵政顧問・坂氏の退任劇 渡辺代表が菅長官に「通報」きっかけ
    日本郵政顧問に就任していた坂篤部首社長の退任劇は、みんなの党の渡辺喜美
   代表が菅義偉官房長官に「通報」したのがきっかけだった。集団的自衛権の行使
   容認などで野党との連携を進めたい菅氏と、安倍音三政権との距離を縮めたい渡
   辺氏の思惑が一致した形ではあるが、第1次安倍政権でも政権中枢にいた菅、渡
   辺両氏と坂氏は対立を繰り広げており、因縁の対決が繰り返されたともいえる》
   
                     (「産経新聞」2014年3月7日付)

  前述したように、2012年12月に日本郵政の社長に昇格した坂氏は、翌年3月に
 退任したものの、顧問として残っていた。これに官邸が不快感を示し、2014年3
 月に更迭した。

  坂氏が日本郵政顧問の職にあったことは、公にされておらず、私は150ぺージで
 《それまでは、なぜか秘密だったということだ。このことを憂慮した何者かが官邸に
 "ご注進"したのだろう》と注釈を加えたが、新聞報道によれば、この「何者か」こそ
 渡辺氏だったのである。


                        ■ 霞が関は「三権」をも支配する

   これまで見てきたように、この国は官僚たちにいいようにされている。牛耳られて
  いる、と言ってもよい。私がたびたび指摘することだが、日本は議院内閣制であるは
 ずなのに、「官僚内閣制」と呼んだほうが実態に近いのだ。すなわち「官」が行政を
 支配している。
  それどころか、官僚は立法も司法も膝下に置こうとしている。そう、三権すべての
 支配が官僚の宿願なのだ。
  立法支配についてはお分かりだろう。国会法は、法案を提出できるのは内閣または
 国会議員と定めている。内閣が提出する法案を「開法」、国会議員の提出なら「議員
 立法」と呼ぶが、法律として成立する約8割が開法である。そしてこの閣法をつくる
 のが官僚たち(内閣は限られた時間で法案をチェックするだけ。そのため見落としも
 ある)なのだから、官が立法を支配していることになる。
 では、司法はどうか。読者は面食らうかもしれない。だが最近、「官僚の司法支配」
 を如実に示す事例があった。巷間かまびすしい集団的自衛権をめぐる議論に、それを
 見出すことができる。

  時間を少し戻す。2014年2月13日、「東京新聞」が朝刊1面トップで《首相、
 立憲主義を否定 解釈改憲「最高責任者は私」》と大見出しを掲げた。
 護憲派の同紙が、安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認に拒否反応を示すのは
 理解できる。多様な言論があって当然だ。しかし「集団的自衛権の行使容認に反対」
 する前提として、内閣法制局の仕組みなどについて正しい認識をしていなかったのは
 いかがなものか。

  集団的自衛権について、従来の政府見解は以下のようになっていた。

   《我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家
   である以上、当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行
   使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解
   しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲
   法上許されないと考えている》
     
           (1981年5月29日、鈴木善幸内閣の閣議決定。原文ママ)

  この政府見解を、安倍政権が変更しようとした。2014年7月1日の閣議決定か
 ら抜粋する。

    《我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然である
   が、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容され
   る上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。
   この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするも
   のが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、
   すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の指教として初めて許容さ
   れるものである》

  さて、これまでの「集団的自衛権の行使は違憲」という政府見解に大きな役割を果
 たしていたのが内閣法制局である。この内閣法制局に対して、この国では誤った認識
 が流布している。

  政府内の一機関である内閣法制局は、法律上の建てつけとしては、総理に助言する
 機能しか持だない。つまり内閣法制局長官は、企業で言えば法務部長か法律顧問とい
 ったところである。にもかかわらず、世間一般では「憲法を解釈する法の番人」のよ
 うに言われ、ステータスを非常に嵩上げされている。あたかも最高裁を凌駕するかの
 ごとくである。集団的自衛権の行使を違憲とする政府見解に。お墨付き〃を与えたの
 が内閣法制局であり、法制局長官は政府にとって敬うべき "先生" のような存在に見
 られている。

  ただし歴史的に見ると、官僚の中でも多少ステータスが高いのは事実だ。給料も高
 い。役人の「格」は給料に反映しており、「特別職の職員の給与に関する法律」にあ
 る「別表」を見ればすぐに分かる。内閣法制局長官は、総理、大臣に次いで、官房副
 長官、副大臣、宮内庁長官らと並ぶ3番目の高ランクなのである。ちなみに月給(俸
 給月額)は143万4000円(2014年7月現在)だ。
 
  内閣法制局長官は内閣が任命するだけの役人であり、官房副長官らのような認証官
 (任免にあたって天皇による認証が必要)ではない。もっとも、常時閣議への陪席が 
 認められており、官僚の感覚からすると、官房副長官の次くらいにエラい。これを象
 徴するのが、池田山(東京都品川区)にある旧長官公邸だ。小泉元首相が「旧首相公
 邸より官僚の公邸のほうがいい」と言って話題になったものである。
  なぜ、このようにステータスが&Prime;"アップグレード"されてきたのか。そのメカニズ
 ムにこそ「官僚の司法支配」が潜んでいる。


                                               ■ 内閣法制局の「権威」の正体

   政府内の一部局に過ぎない内閣法制局が、なぜ権威を持つのだろうか。あらためて
 法的な位置づけを確認しておこう。 
  内閣法制局は「内閣法制局設置法」第3条で所掌事務が規定されている。次の4つ
 の事務だ。

  《①閣議に恥される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び
    所要の修正を加えて、内閣に上申すること
   ②法律案及び政令案を立案し、内閣に上申すること
   ③法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること
   ④内外及び国際法制並びにその運用に関する調査研究を行うこと)
    
  新聞報道で暗黙の前提になっている「憲法解釈の権限」というものは、内閣法制局
 の所掌事務の中にはどこにもない。そもそも、そうした解釈をする最終的な権限が行
 政府にあるはずはなく、行政府の一部である内閣法制局にも当然ない。
  もちろん、もし政府が法律を解釈する場合、法律の専門家である内閣法制局の意見
 を聞くのはいい。それを尊重するのもいいだろう。大臣が代わるたびに、政府の法解
 釈がコロコロと変わっては問題にもなるだろう。

  法解釈の変更といっても、一定の合理性は必要だ。国際情勢などの変化で従来の解
 釈が通用しないような事態が起きた場合には、政府が責任を持って法解釈を変えない
 とまずいことになる。変える責任は政府にある。この意味で、安倍総理が「最高責任
 者は私」と言ったのは、内閣法制局を取り巻く仕組みから当然であり、正しい認識で
 ある。
 
  ここで私の考えを述べよう。

  政府の一部門であって、総理に意見具申するだけの役割に過ぎない内閣法制局が権
 威を持つのは、霞が関の官僚が法学部出身者で主要ポストを占める「法学部社会」だ
 からである。理系出身で元官僚の身として、私はそう思っている。
  官僚の醍醐味は、法案を起案して、国会を通し、その法律を解釈して権限を得るこ
 とにある。三権分立ではなく、まるで行政府が立法府と司法の上に君臨しているかの
 ようだが、そうすれば官僚に好都合である。
  官僚は立法府の国会議員を、予算を餌に操ることもあるが、立法府である国会が国
 権の最高機関であることは否定できない。そこで官僚は法律案の内閣提案を行ない、
 法案のドラフトを書く。立法府の代行をして、事実上、立法府を形骸化させるのだ。

  前述したように法律の8割程度(重要法案のほとんど)は閣法である。
  さらに官僚は、しばしば「有権解釈」(権威のある機関が法解釈をすること)を行
 なう。法律の解釈について、最終的に問題にできるのは司法であり、行政府であるは
 ずがないのに、あたかも行政府が司法を超える存在であるかのように官僚が振る舞う
 のだ。
  こうして、行政府が事実上、立法府、司法の上に立ち、行政府の内部では、政治家
 である総理、閣僚を手玉にとって「官僚内閣制」ができあがっている。法律のドラフ
 トからその解釈までを官僚が握っているので、政治家も官僚に対抗するのが並大抵の
 ことでないのだ。

       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

 

                                               この項つづく

脱ロスト・スコア論 Ⅵ

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【脱ロスト・スコア論 Ⅵ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」』


ここでは「失われた20年」の原因をズバリと言い切る。それでは読み進めていこう。
 

                          第3章 この国を蝕む「官愚」

                   ■ 法制局の幹部は他省からの出向者ばかり

  このような「霞が関文化」の中で、法律面で頂点に立つのが内閣法制局である。
  "官庁中の官庁"を自認する財務省でも、内閣法制局にはなかなか頭が上がらない。
 予算案のほうは完全に自前でコントロールできるが、法律案はそうもいかない。閣法
 を出す場合、内閣法制局審査を受けなければいけないのである(「内閣法制局設脱法」
 第3条)。

  係長、課長補佐クラスの若手が実際に審査を受けるのだが、課長クラスの内閣法制
 局の参事官が彼らを猛烈にしごく。その審査も10時間、徹夜などざらのことだ。財務
 省の幹部も、内閣法制局の参事官や部長へ挨拶に出向く。私の官僚時代、場合によっ
 ては「接待」まであった。これはどの省庁も同じだろう。何しろ内閣法制局の審査を
 パスしなければ開法が提出できず、官僚が権限を振るう前に入り口で頓挫してしまう
 からだ。

  そのうえ内閣法制局が憲法解釈する「法の番人」ということに祭り上げられれば、
 各省官僚が日常行なっている「有権解釈」もそれなりの権威が出てくる。
  こうしてご罹威づけ〃のメカニズムを見てくると、内閣法制局のプロパー職員が最 
 高権威者になると思うだろう。しかし内閣法制局には、プロパーの幹部職員はまず存
 在しない。参事官クラスは各省庁からの出向者である。部長などの幹部になるのは、
 原則として法務、財務、総務、経産、農水の5省出身者に限られ、そのうち長官にな
 るのは農水省を除く4省庁という不文律がある。 
  
  安倍政権で任命された故小松一郎長官は外務省出身であり、きわめて異例の人事だ
 った。言ってみれば官僚の不文律を打ち破ったわけである。こうなると官僚の結束力
 が高まり、安倍政権批判が霞が閣内部から出てきても不思議ではない。実際、私が官
 邸にいた第一次安倍政権では、公務員制度改革を行なうときに、官僚サイドから「倒
 閣運動」が出てきたくらいである。

  集団的自衛権の容認について、政策論としていろいろな議論があるのは当然だ。し
 かしその一方で、小松氏就任以前の内閣法制局が「集団的自衛権の行使は違憲」のス
 タンスを墨守し、「一切の解釈変更は許さない」とするのは行き過ぎだろう。なぜな
 ら官僚主導を全面的に肯定することとなってしまうからである。安倍政権による7月
 の閣議決定以後、大森政輔氏(元法務省参事官)、阪田雅裕氏(元大蔵省審議官)ら
 歴代の内閣法制局長官が批判の声を上げている。
  では集団的自衛権は、国際法でどのように位置づけられているのか。予備知識を簡
 単に記しておこう。
 
  多少なりとも国際法を勉強した者なら、集団的自衛権が国連憲章51条に規定されて
 いることを知っている。

   《この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合
   には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの
   間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない》(原文ママ)
 
  つまり「安保理が行動するまでの間、個別的自衛権と集団的自衛権で凌げ」という
 わけだ。
  さらに個別的自衛権も集団的自衛権も、ともに個人の正当防衛を想定すると理解し
 やすい。欧米ではしばしば、そうしたアナロジー(類比、比論)で個別的・集団的自
 衛権が語られるが、日本でも正当防衛について、刑法36条1項で(急迫不正の侵害に
 対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない》
 (原文ママ。傍線は引用者)とされている。

  もちろん、何でも正当防衛に該当するわけではない。侵害に「急迫性」があり、そ
 の防衛行為がやむを得ないものと言えるために、「必要性」と同時に、限度内の行為
 である「相当性」が求められている。
  ここでのポイントは、正当防衛は自分だけでなく、右記傍線部分にあるように「他
 人」を防衛するためにも許されていることだ。たとえば、自分の家族を助けるための
 正当防衛もある。これを国家に置き換えると、どうなるか。

  個別的・集団的自衛権は国家の正当防衛に近いものとされる。正当防衛と同様に、
 相手国の攻撃が差し迫った「急迫性」があり、防衛そのものが「必要性」と限度内の
 ものである「相当性」(「均衡性」ともいう)がなければならないとされている。
  集団的自衛権は、他の国家を防衛するために許されるものなのだ。もちろん「他の
 国家」といっても、同盟関係のように近い関係であることは言うまでもない。そして
 「急迫性」「必要性」「相当性」に加え、他の国家は武力攻撃を受けている旨を表明
 し、第三国に援助要請することが必要とされている。


                        ■ お役所の「庭先掃除」とは?

  つまり、自己の防衛のための権利が個別的自衛権であり、他人のための権利が集団
 的自衛権――これだけのシンプルな話なのだ。もし集団的自衛権を否定すれば、正当
 防衛を否定することになる。それではノーマルな考え方とは言えない。
  国際標準のコモンセンスに照らせば、「集団的自衛権の行使は制約されている」な
 どと言ったとたん、驚かれる。そして非常にセルフィッシュ(利己的、自分勝手)だ
 と思われてしまう。
  防衛行動としての武力行使は正当防衛と同義だ。前述のとおり正当防衛は「自己ま
 たは他人」を守るための行為なのだから、同盟関係にある他国が攻撃を受けた際、敵
 国に武力行使=正当防衛をしないのは、家族が襲われたときに放っておくのと同じと
 見なされる。それは国際常識からかけ離れた感覚なのだ。


※ここでは、国家間の関係を家族関係と喩えているが、そのような喩えが「正当性」をも
 つものか注意深く精査していかなければならないと、わたしは考えている。


  実はこうした利己的な考え方が、霞が関官僚の仕事ぶりと瓜二つなのである。
  よく日本の役所は「縦割り行政」と呼ばれ、管轄外の仕事を一切しないことで批判
 にさらされてきた。これを霞が関文学の世界では、別名「庭先掃除」と言う。読んで
 字のごとく、自分の家の庭だけ掃除すればよい、それ以外は知ったことではない、と
 する考え方だ。官僚たちは平気で「庭先掃除」という霞が関用語を使う。
  庭先掃除が仕事上の命題であるがゆえに、国内では「案件のたらい回し」や「省益
 (だけ)追求」がまかり通り、世界に対しては「集団的自衛権は行使しない」とする
 内向きなロジックを打ち立ててしまうことになる。
  
  自宅の庭はせっせと掃除する。ところが、仲良しのお隣さん宅に不審者が侵入して
 庭を荒らそうとしても、「ダメ」とさえ言わずに知らん顔。それでは本来的な正当防 
 衛と言えないし、世界諸国から「なんて利己的なのだ」と非難されるだけなのだが、
 日本の官僚は「庭先掃除」が大好きなのだ。いや、庭先掃除以外できないのである。
  内閣法制局が集団的自衛権の行使を違憲とし、解釈変更を許さないのは、やはり庭
 先掃除にしか興味がない官僚の悪弊によるものと私は推測する。
  繰り返すが、官僚は行政・立法・司法の三権をすべて支配したがっている。そのた
 めに "権限" と "権威" を掌中に収めようとする。内閣法制局が「法の番人」という
 箔づけを施し、集団的自衛権についての憲法解釈で最高裁を超越するかのように振る
 舞うのは、その一例だ。

  ここは三権分立の原点に戻るべきである。合理的な範囲で行政府が憲法解釈するの
 はいいが、それには当然、政治の責任が伴う。もし国民が、そうした行為を憲法に違
 反すると思うのなら、選挙で政治家に審判を下すとともに、選挙における「一票の格
 差問題」のように裁判で訴えればよい。違憲立法審査権は憲法81条により、最高裁に
 あるからだ。

※ここで著者は重要なことを述べている。「三権分立の原点に戻るべきである」と。原点
 回帰できないものそのものが「官制」の”悪しき伝統的な業”であると―そう指摘して
 いるのだろうと。

    
                           第4章 成長できない国会     

                  ■  「失われた20年」を産み出したのは日銀だ

  日本経済を指して「失われた20年」と呼んだのは、2010年ごろのことだったと
 記憶する。それから4年あまりが経過し、もはや「20年」どころではなくなった。
  アベノミクスの「第1の矢」効果で2013年度(2013年4月~2014年3
 月)は改善状況を示したものの、消費税増税という愚作がマイナス効果をもたらすこ
 とは1章で述べたとおりである。「失われた20年」が、さらに30年、40年と "アディ
 ショナル・タイム"(あるいは "延長戦"を重ねないとも限らない。
  なぜ、1990年以降の20年が「失われた」のか。それを検証するためには、「失
 われる」前のバブル期まで遡らなければならない。
  1980年代後半のバブル景気については、地価高騰やバブル紳士の暗躍など、負
 の歴史のように振り返られることが多い。現在でも市況が過熱気味になると「バブル
 再来」という言葉が批判的に使われ、反経済成長的な心理が広がる要因にもなってい
 るようだ。

  バブル期とは、一般的には1987年から1990年までを言う。

  この期間、株価は上昇を続けた。1万5000円台だった日経平均は、1989年
 12月29日(大納会の日)に3万8915円にまで上昇した。
  マクロ経済を見てみると、名目経済成長率が5%~8%、実質経済成長率が4%~
 5%。失業率が2%~2・7%程度、インフレ率がO・5%~3・3%と、今からは
 想像できないほどの好調ぶりである。
  ただし多くの人は、バブル期の対応で致命的な間違いがあったことを知らない。私
 はここで「政策失敗でバブルの後遺症が大きくなった」ということを述べたい。
  そもそも、バブルは金融緩和が原因で、 "バブル潰し" のために日銀の金融引き締
 めは正しかったとされている。だが、はたしてそうだろうか。

  私は当時、大蔵省証券局にいてバブルを目の当たりにした。バブル是正のために証
 券規制を実施した担当官だった。現場感覚から言えば、バブルは証券・土地規制の抜
 け穴によって、証券・土地のみで起こったことであり、その是正には証券・土地規制
 の適正化で十分だった。金融引き締めは余計なことだったのだ。  
  私は当時、大蔵省証券局にいてバブルを目の当たりにした。バブル是正のために証
 券規制を実施した担当官だった。現場感覚から言えば、バブルは証券・土地規制の抜
 け穴によって、証券・土地のみで起こったことであり、その是正には証券・土地規制
 の適正化で十分だった。金融引き締めは余計なことだったのだ。
  バブル期、株や土地の価格は上がっていたが、一般物価(普通の財とサービスの価
 格)はそうではなかった。

  通達の効果は抜群だった。1989年末に史上最高値をつけた日経平均株価は、そ
 の直後に急落した。
  ただし、株式規制だけを適正化してもバブルの是正にはつながらない。株式投資と
 いう行方を失った資金が土地(不動産)に流れ込む。それを抑止するために、199
 0年3月には大蔵省銀行局長通達《土地関連融資の抑制について》を出し、不動産向
 け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える措置をとった。これで株式と土地のバ
 ブルは消えた。

  検査などで私が見た光景――それはほとんど違法と言えるような、証券会社の営業
 である。顧客に対して損失補填を約束しながら株式の購入を勧めていた。その購入資
 金を顧客の自己資金で賄うのではなく、銀行が融資するというパターンも横行してい
 た。これは何も株式に限らず、土地の購入でもよく見られたケースだ。
  そこで大蔵省内で検討した結果、大蔵省証券局通達《証券会社の営業姿勢の適正化
 及び証券事故の未然防止について》を出し、証券会社が損失補償する。"財テク"を営
 業自粛、事実上禁止した。1989年12月26日のことだが、この通達の起案者は私で
 ある。  


※この当時、1990年3月当時「総量規制」が大蔵省から金融機関に対し行政指導が行われ
 れている―1991年12月に解除されるまで、1年9ヶ月続いた。バブル崩壊後に金融機関
 の破綻処理を行った、元大蔵省銀行局長西村吉正によると、総量規制が出された当時は、
 なぜもっと早く実施しなかったとの批判はあっても、なぜ実施したとの批判は、あのこ
 ろの状況を知るものからすると理解しがたいとしている。新聞論調でも「景気に配慮、
 尻抜けも」(日経)、「地価抑制の効果は疑問」(東京)など、手ぬるいとの批判はあ
 ったが、厳しすぎるとの批判は無かったと思う、発言している。


  一方、日銀も動いていた。当時の日銀の金融政策は、公定歩合(日銀から民間銀行
 への貸出基準金利。2006年8月から、この呼称は使われていない)の操作であ
 る。公定歩合を上げることを、日銀官僚は「勝ち」と言い、下げると「負け」という
 言い方をしていた。すなわち金融引き締めが「勝ち」で、緩和が「負け」である。
  この表現を使えば、1980年8月に公定歩合を9%から8.25%に引き下げて以
 来、1987年2月に3%から2・5%に引き下げるまで、日銀は「10連敗」を記録
 していた。これをバブルがピークを迎える1989年5月、2・5%から3・25%に
 引き上げて、11連敗するのを食い止めたのである。
 
  その年の12月、それまで副総裁だった三重野康氏が第26代日銀総裁に就任した。彼
 は「勝ち」を続けたかったのかもしれない。就任直後の1989年12月、そして19
 90年3月、8月と「勝ち」が続き5連勝、公定歩合は6%にまで上昇した。このと
 き三重野氏はマスコミなどから「平成の鬼平」と称賛された。

  私は大蔵省から日銀を見ていて、この金融引き締めには奇妙な違和感を覚えた。日
 銀は「物価の番人」と言うが、その「物価」には株や土地の価格は含まれていない。
 であれば、株や土地の値上がりは、大蔵省や国土庁がまず対応すべきだろう――こう
 した思いが違和感の正体である。
  
  そんな疑問を抱いたまま、私は客員研究員としてプリンストン大学へ留学した(1
 998年~2001年)のだが、プリンストンで当時、経済学部長だったベン・バー
 ナンキ(前FRB議長)と会って話したとき、私の疑問は氷解した。「インフレ目標
 の "物価" には株や土地の資産価格が含まれるのか」と問いたところ、バーナンキは
 言下に「含まれない」と答えたのだ。
  
  そこで、ひとつの思考実験をしてみよう。それは「もし、バブル時にアベノミクス
 のようなインフレ目標2%があったら」というものである。
  インフレ目標2%では、上下1%の誤差は許される。ということは、バブル時には
 物価は安定していた(インフレ率0・5%~3・3%)のだから、特に金融政策での
 対応は不要となる。この意味で日銀の金融引き締めは間違いである。

  たしかに金融緩和は資産価格に影響を与えるが、バブルになった場合には、その要
 因を見きわめる必要がある。1980年代後半の日本のバブルについて、政策担当者
 としての私の現場感覚では、前述したように証券会社や金融機関の違法まがいの取引
 が発生要因であった。金融緩和ではない。それを勘違いした日銀が金融引き締めを行
 なったとしか思えない。


2010.11.12 日本経済新聞



 
  そして日本のバブルは崩壊した。

  黒田東彦氏が総裁に就任するまで、日銀はインフレ目標の導入を毛嫌いしてきたわ
 けだが、それはバブル時のミスを糊塗するためだったのかもしれない。
  日銀の失敗は、その後の日本経済にとって大きかった。バブル崩壊の損失を大きく
 しただけでなく、「バブル潰しは正しかった」と言い張り、その後の金融引き締めを
 すべて正当化してきたからである。1990年代以降の20年を「失われた時代」にし
 た張本人は、日銀であると私は考えている。
  日銀に限らず、官僚は自らのミスを認めない。「私が間違っていました」とは、口
 が裂けても言わない習性を持っている。そう、私が繰り返し指摘してきた「官僚の無
 謀性」だ。間違いを犯さない人間などいないのに、官僚は自己正当化を図る。これは
 一度間違えると、無謬性にこだわるあまり、その後はずっと間違えつづけるというこ
 とを意味している。国民はたまったものではない。
  金融引き締め下で、「お金の量をちょっと増やしてみなさい」と日銀に提言しても、
 「いや、引き締めは正しかったし、今も正しい。お金(の量)を増やすなんて、とん
 でもない」と反論する。その間違った反論が20年(以上)、続いてきてしまった。上
 のグラフで一目瞭然だが、お金の量(マネーストック)の伸び率は1990年を境に
 急降下したままである。
  官僚の間違いを正すのは政治家の役目だ。ようやく安倍総理が正したのが、アベノ
  ミクスの「第1の矢」だったというわけである。バブル崩壊以降、是認されてきた日
  銀の金融引き締めを、安倍総理は「そうではないだろう」と言って否定した。すなわ
  ちアベノミクスとは、官僚制との戦いという側面を持ち合わせているのだ。

                                                  ■ 「絶対確実」しか求めない

   官僚が自分の間違いを認めない(百歩譲って「認めたがらない」)のは、裏返すと、
 つねに100%の確実性を求めるということでもある。
  成長戦略の"キバセン"(基盤技術研究促進センターノ2章)でも「まだ成果は出て
 いないが、こうすれば大丈夫」と大見得を切った官僚のことを紹介した。しかし、そ
 の「大丈夫」は当人が思い込んでいるだけで、実際のところは分からない。
  特に基盤技術のような科学の分野では、科学的な発見などを工業化してビジネスに
 生かすのが目的だが、それには長い期間がかかるし、産業化できるかどうかは未知数
 だ。「100%大丈夫」という判定などできるはずがない。ただし、そこに誠実さと
 合理性を求めるなら、100%は論外だが「パーセンテージ」、すなわち確率を持ち
 込めばよいのではないか。
  
  私は財務官僚時代、正確を期すために、よく確率的な話をした。しかし、である。
 私が数字としての確率を織り込んでしゃべると「高橋はいい加減だ」「曖昧だ」と返
 されてしまうのだ。
  ひとつの事例を紹介しよう。財務省は地方公共団体に財政融資として貸付を行なっ
 ていた。その貸付金(地方公共団体にとっては借入金)の返済にあたり、旧大蔵省の
 省令で[繰上償還」(投資信託などで言う繰上償還とは異なる)という制度があるの
 だが、ここで確率が重要な意味を持つ。
  一般の住宅ローンに置き換えると分かりやすいだろう。住宅ローンを金融機関から
 借りて住宅を購入(新築も)するとき、その金利は変動型と固定型に大別できるが、 
 固定を希望する人のほうが多い。

  現在の実勢状況は措いて、たとえば景気のよいときに4%の固定金利で住宅ローン
 を組んだAさんがいたとする。その後、不景気で金利が下がると、目先の利くAさん
 は他の銀行から2%で借りて一括返済しようと考えた。金利負担が楽になる。これが
  ローンの元金返済分を前倒しする「繰上返済」(繰上弁済とも言う)で、財政融資に
 おける繰上償還も本質は同じだ。
 もちろん、ローーンの利用者がそのように考えるのは普通のことだから、金融機関の 
 ほうも工夫を怠らない。かつては繰上返済を認めないようなパターンも見られた。だ
 が、それでは利用者も離れるので、ローン契約時の金利をちょっと高く設定するよう
 にしたのだ。本来は4%のところを、繰上返済を想定して5%とか6%にする。なぜ
 なら、そうしておかないと、繰上返済を受けるときに金融機関が損失を被ってしまう
 からである。
 
  このとき、金融機関は確率で考える。景況による金利の動向を予測し、金利の変動
 に応じた繰上返済の規模を想定する。「金利が何%になったら、どれくらいの繰上返
 済が来るか」と確率を織り込み、そのうえで最初の貸付金利を決めるのだ。そうすれ
 ば利用者からの繰上返済を受けても、金融機関としては初めに高い金利を頂戴して
 いるから、懐は痛まない。これが合理的かつ世界的な手法なのだ。
  ただし、いくら合理的だと言っても確率の世界であるから、金融機関が取りっぱぐ
 れてしまう確率もある。いくら最初に高い金利を設定していても、繰上返済のほうが
 多くて金融機関が損をするという確率は「ゼロ」ではない。
  それでも確率的にはそこそこになるような金利をつけて、顧客満足度との均衡を図
 るのである。「繰上返済、オッケーでーす」とセールスするほうが、金融ビジネスと
 して成立しやすいのは当然だ。ちなみに金利の計算には「オプション理論」という数
 理ファイナンスを用いる。

※ブラック・ショールズ・モデル:ブラックショールズモデルとは、金融工学におけるオ
 プションの価格決定の際に必要な計算モデルのこと。 




                  ■ 「リスク」と「不確実性」を嫌う文系思考

  財務省による地方公共団体への財政融資に戻ると、繰上償還(繰上返済)の要望は
 やはり多い。私が財務省にいた当時もそうだった。そのとき私は省内でこう話した。
 「要望があるのだから、繰上償還を認めないわけにはいかない。計算式に基づいて金
 利を設定し、最初から高めの金利(割増金利)をつければ損得はない」

  しかし賛同を得るのは難しかった。数学的な話が難解だったせいかもしれないが、
 前述のように確率論だから、「ひょっとしたら財務省が損をするケースもあるのか」
 と聞かれる。当然、私は「少しはその可能性もあります」と答えた。すると「そんな
 曖昧な話じゃダメだ」「100%確実でなければいけない」などと、非難言々である。
  役人はリスクを冒さない。つねに「絶対確実」を要求する。すると、先はどの住宅
 ローン金利(繰上返済可)で言えば、4%を6%にするのではなく、8%程度にまで
 高くしなければならないことになる。過剰を通り越して無謀な金利だ。
  いくら私が「オプション理論で算出した金利は、95%の確率で大丈夫です」と主張
 しても、聞く耳を持だない。「なぜ995でよしとするんだ。100になるまでやれ」
 とこうである。
 
  彼ら官僚にとっては「確率」も「リスク」も「不確実性」も、すべていい加減なも
 のに映るのだろう。理系出身の私としては、こうした思考は東大法学部に象徴される
 文系由来だと思えてならない。失敗を極度に恐れ、責任を負わない習性が、官僚には
 染みついている。
  ところが、絶対確実な高金利でなければ繰上償還を実施しないとする一方で、低金
 利でも繰上償還を受けてしまうという財務省の驚くべき現実があったのだ。それには
 「政治」が絡んでいる。お察しのとおり、政治家の「口利き」によって、低い金利で
 の繰上償還を認められる地方公共団体がけっこう存在したのである。 

  有力な政治家が「よろしく頼むよ」とばかりに介在してきたとき、財務省は「今回
 はあの先生に貸しをつくれるから」と言ってオーケーサインを出した。「先生」を担
 ぎ出した地方公共団体は、低金利だから大喜びしただろうが、財務省の行為はきわめ
 て選別的かつ恣意的、依怯聶叙の塊で、とんでもないことである。
  民間金融機関にたとえるなら、有力顧客だけは繰上返済を認め、他の客は門前払い
 ということだ。そんな商売が発覚すれば、その金融機関は潰れるだろう。しかし財務
 省の場合、すべて役所の中で完結してしまうから、国民には知らされない。本書で初
 めて公然化するのだ。
  私は、そうした非合理きわまりない政治的案件を非難して、しょっちゅう「もっと
 合理的にやったらどうですか」と担当課長に進言していたのだが、彼は私に怒るだけ
 だった。まあ、その課は後年、結果的に "お取り潰し" になったのだが。

                               高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

 

                                               この項つづく

 

 


脱ロスト・スコア論 Ⅶ

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● ワイルドパワー

エナジーハーベスト(環境発電)は熱電変換素子とコントロールチップを経由し、再生可
能エネルギーを供給する。写真のデバイスは、オブジェクト間の温度差――例えば、自動
車のフェンダーやビルの壁と外気間)――を利用し発電・充電できるという優れもの。利
用シーンは野外や都市と無限にありそうだ。

 

   

【脱ロスト・スコア論 Ⅶ】

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」』


                                                   第4章 成長できない国会 

              ■ 官も民も「身内の論理」――日本経済の先行きは暗い

  成長戦略(「日本再興戦略」改訂版)の副題には「未来への挑戦」とあるが、日銀
 にしろ財務省にしろ、霞が関官僚たちが「無謀性の神話」に支配されている限り、こ
 の国に明るい未来はない。

  話は飛ぶが、2014年6月20日、改正会社法が政府案どおり可決・成立した。2
 015年4月から施行される。報道では「社外取締役の選任を促す法律」や「社外取
 締役の起用を促進」などと持て囃されていたが、問題点がある。肝心の「社外取締役
 の義稗づけ」が見送られたのである。
  私は世界の情勢に鑑み、「独立した」社外取締役は当然と考えている。そのため法
 案成立前の段階から、政府案に歯がゆい思いをしていた。結局、経済界でも「身内の
 論理」に閉じこもる文化を打ち破れないのか、と残念で仕方がない。
  公務員制度改革法でも、公募をできるだけ排除しつつ、しっかり天下りは確保する
 という「身内の論理」で凝り固まっている。幹部公務員に外部者を入れにくいのは、
 先進国で日本だけだ。

  経済界でも官界でも、こうした「身内の論理」が横行したら、日本経済の先行きは
 危ないだろう。
  改正会社法公務員制度改革法、一見すると別物で無関係な事象であるが、その根
 っこには日本社会独特の「身内の論理」が横たわっている。「身内の論理」は家族の
 間だけで通用すればいい。経済・社会に持ち込むことはないだろう。「身内の論理」
 は、多様性の拒否であり、外部との競争もしたくないということにつながる。そうし
 た保身根性からは、ろくなものが生まれないと私は信じている。

  会社法改正議論の経緯を振り返ってみよう。ことの発端は民主党である。
  民主党に政権交代した直後の2010年、当時の千葉景子法務大臣が法制審議会に
 会社法改正を諮問し、《会社法制について、会社が社会的、経済的に重要な役割を果
 たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保
 する観点から、企業統治のあり方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思
 われるので、その要綱を示されたい》とした。
  この「幅広い利害関係者」とは、労働組合が念頭にあると思うが、「独立」した人
 にコーポレートガバナンスを任せるという世界の流れとは無縁だ。労働組合は企業に
 とって「身内」なのか、民主党も「身内の論理」から抜け出られそうにない。


  法制審議会会社法部会は2011年12月に「中間試案」を公表し「社外取締役の
 1人以上の義稗づけ」を盛り込んだ。しかしその後、民主党政権最後の2012年9
 月に出された答申からは「義務づけ」が除外された。
  もちろん、これには民主党の体質だけでなく、経済界の反対があったことは言うま
 でもない。
  ただし、義務づけを主張する声もあり、《社外取締役が存しない場合には、社外取
 締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とするものとする》という規定が
 盛り込まれた。また、導入を促すルールを証券取引所の規則に盛り込むよう要請する
 ものとされた。
  そして2012年末に自民党に政権交代すると、この問題は精力的に議論されるよ
 うになる。


             ■ なぜ「社外取締役選任の義務づけ」が見送られたのか

  自民党は野党時代の政策集で、社外取締役の導入促進、上場会社における複数独立
 取締役義務化を合む「企業統治改革の推進」を掲げている。
 2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」(改定前の「成長戦略」)に
 も、《会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督
 できる社外取締役の導入を促進する(次期国会に提出)》と明記された。
  ところが、2014年4月の国会に提出された改正案(「会社法の一部を改正する
 法律案」)は、民主党時代の答申とほぼ同じ内容であった。社外取締役選任の義務づ
 けが見送られ、《社外取締役が存しない場合には、社外取締役を置くことが相当でな
 い理由を事業報告の内容とするものとする》という規定が残されたままである。
  政権交代しても、民主党と同じ内容とはどういうことなのか。
 「企業は労働組合を合めた関係者のもの」という位置づけの民主党と、「企業は経済
 成長のエンジン」という自民党では、思想がまったく違うはずなのに。
  こうした批判を想定してか、"言い訳”も用意されている。

  ①社外取締役を置かない場合は、株主総会での理由説明を義務づける。これはヨー
   ロッパで採用されている“comply or explain"(従うか、さもなければ説明せよ) 
   ルールでもあるから問題ない
  ②監査役の代わりに「監査等委員会」を設置できる制度を新設した。委員会は3人
   以上の取締役で構成し、その過半数を社外取締役とするので、社外取締役選任の
   追い風になる
  ③社外取締役を置いても外国人投資家が増えるとは限らない
  ④日本では社外監査役が、諸外国における社外取締役の機能を一部果たしている


  他にもあるが、私にはどれも"付け焼刃”にしか見えない。いずれも一面の事実で
 はあるのだろう。それでも結局、日本企業の「身内の論理」を代弁したにすぎないか
 らである。

  ①の「社外取締役を置かない場合の説明」は、証券取引所ルールでなされる。だが
 取引所ルールは自主規制なので、厳格な意昧での「義務づけ」にはならない。会社法
 で少なくとも1名の社外取締役選任を義務づける。そのうえで、取引所ルールは会社
 法に加重し、複数の独立した社外取締役を求めることに使うべきだ。
  ヨーロッパ諸国よりも株式市場のウエイトの高いイギリスとアメリカでは、独立し
 た社外取締役がいるのは常識である。しかも、イギリスでは社外取締役の役員比率は
 50%、アメリカは70%、韓国でも30%という。
  日本取引所グループ(JPX。東京証券取引所グループと大阪証券取引所が合併し
 て発足)の調査では、日本でも社外取締役がいる会社のほうが、利益率が高くなって
 いる。

  また④「社外監査役が、諸外国における社外取締役の機能を一部果たしている」と
 いう理屈には、思わず吹き出してしまう。
  取締役と監査役はともに役員だが、役割が違うではないか。たしかに最近は、監査
 役の重要性が増してきたが、それでも限界がある。もちろん監査役にも取締役会への
 出席義務があるのだが、成立要件にはなっていない。


                             ■ なぜ "みすほスキャンダル"は防げなかったのか

  こうした話は具体的に見ていったほうがよく分かる。 
  卑近な例として、みずほ銀行の暴力団融資問題を挙げよう。このスキャンダルは2
 013年9月27日、金融庁がみずほ銀行に対して業務改善命令を出したことで発覚し
 た。みずほ銀行はグループ傘下の信販会社オリコ(オリエントコーポレーション)を
 通じ、暴力団員ら反社会的勢力に総額約2億円を融資していたが、2年もの間、何の
 対策も講じずにいたというものである。
  業務改善命令を受けた当初、みずほ銀行は「問題の情報は担当役員止まりでトップ
 には届いていない」としていたが、10月8日に記者会見を開き、歴代頭取が知りなが
 ら放置していたことを認めた。取締役会にも何回にもわたって関係資料が提出されて
 いたという。
  結果として、みずほ銀行は業務の一部停止など行政処分を受けることになり、持ち
 株会社であるみずほフィナンシャルグループ(FG)の塚本隆史会長が引責辞任する
 に至った。
 
  この暴力団融資問題が露見した当時、みずほ銀行には2人の社外監査役がいた。1
 人は元最高裁判事で、もう1人は弁護士出身である。


  司法出身のその方々が、暴力団融資関係の資料が提出された取締役会に出席してい
 たのかどうか。資料は何回も取締役会に提出されていたというのだから、まさか「見
 なかった」というわけではないだろう。監査役であるがゆえ、経営には口出ししなか
 ったのかもしれない。
  なお余談だが、みずほ銀行は、みずほコーポレート銀行との合併後、元財務官僚を
 社外監査役として受け入れている。それは金融庁から出された業務改善命令への対応
 の一環だったのだろうが、期待された責務を全うできただろうか。
  いずれにしても、社外監査役が経営の歯止めになっていなかった例である。みずほ
 銀行の問題は、社外取締役の役割を再認識させてくれる。
  やはり問題発覚時点での比較だが、3大メガバンク(三菱東京UFJ銀行、三井住
 友銀行、みずほ銀行)のうち、社外取締役がいなかったのはみずほ銀行だけだ。

  ・三菱東京UFTJ銀行 社外3人(取締役17人)
  ・三井住友銀行     社外3人(取締役16人)
  ・みずほ銀行      社外0人(取締役8人)

                         ※いずれも2013年10月時点

  もっとも三井住友銀行の社外取締役3人は、それぞれ公認会計士、企業コンサル、
 弁護士出身だから、全員が「独立した社外取締役」と言ってもいいだろうが、三菱東
 京UFJ銀行のほうは、3人の出身が三菱信託銀行、東京海上火災、公認会計士。し
 たがって「独立」と言えるのはI人だけである(東京海上火災は三菱グループ)。
  念のため書き添えておくと、2014年6月25日現在で、みずほ銀行には取締役13
 人中、2人の社外取締役がいる。また監査役5人中、3人は社外監査役だ。


               ■ 大企業の「系列」は官僚の「庭先掃除」に通じる

   日本で「社外取締役」と言うと、おしなべてブ切成り名を遂げたし筒齢の方々ばか
  りだ。これは日本の大企業の特徴である。社外取締役は仕方なく置くが、外部者から
  は意見を求めない-やはり「身内の論理」が通っている。
   もし、みずほ銀行に「身内」ではない独立した社外取締役が複数いれば、暴力団融
  資についておそらく誰かが何らかの対応を促したであろう。
 社外取締役に期待される機能は2つある。
  まず、取締役会に外部の目が入ることで経営者らの不正を未然に防ぐ「ブレーキ役」
  だ。もうひとつは、不採算事業の温存など経営判断の先送りを防ぎ、収益性を向上さ
  せる「アクセル役」である。

  ともに「身内の論理」の排除が求められる。

  社外取締役の設置義務は、アベノミクス「第3の矢」のシンボルのひとつとして見
 る向きもあったので、改正会社法で見送られたことは残念である。「第3の矢」は
 「身内の論理」ではなく「オープン」がカギだからだ。
  171ぺージで「庭先掃除」という霞が関用語を挙げ、官僚の "内向き" ぶりを指
 摘した。これが「身内の論理」に通底する。すなわちクローズドであり、ドメスティ
 ックであって、まるでグローバルでもオープンでもないのである。組織の保全が第一
 義となるから、外部から"異物"を入れない。
  日本の官僚制に接して外国人が驚くのは、事務次官になる人物がすべて生え抜きで
 あるということだ。普通の先進国ではありえない。たとえばアメリカでは政権が替わ
 れば公務員の顔ぶれも替わるし、企業でも社外取締役どころか、CEOなどトップで
 さえ外部から連れてくる。他の先進国でも、事務次官の半分くらいは外部登用が当た
 り前である。

  官と民(財界)、双方に「身内の論理」という文化がある日本では、公務員の公募
 制度や社外取締役など、とんでもない話になるのだろう。そして「身内の論理」は、
 官と民の利害を一致させる機能さえある。それが天下りだ。
  関連会社を従えた大企業は、「系列」という企業グループを形成し、取締役も系列
 から選任する。そこに外部が入り込む余地はない。霞が関の "生え抜き人事" と同じ
  である。自分たちの価値観と方法論を守るから、知らない人に来てもらいたくない。
 何か文句を言われそうで嫌なのだ。
  霞が関からの天下りが取締役にいる会社なら、そうした傾向はますます強まるに違
 いない。もし純然たる社外取締役がやって来て、取締役会などで天下りと顔を合わせ
 でもすれば、「なんであんな人(天下りのこと)がこの会社にいるの?」と必ず言わ
 れる。 

  それはそうだろう。天下り(の取締役)は、その会社の業務について専門的な知見
 があるわけではなく、役所とのパイプ役に過ぎない。そのうえ、さしたる勤務実態も
 ない(週に2日の出勤など)のに高給を食み、専用単に乗っている……。「なぜ、こ
 こにいるのですか」の世界だ。
  ところが改正会社法により、「義務づけ」は見送られはしたものの、社外取締役設
 置の "圧力" だけは生まれた。ここで、ある企業がひねり出した苦肉の策がすごい。

  天下りを社外取締役にしてしまう――。
   本来は "異物 "で、経営にズケズケ物言う存在であるはずの社外取締役に、「身内
 の論理」でつながる元官僚を据えつけてしまえば、ひとつも文句は言わない。社外取
 締役と天下りの合体とは、よく考えたものだ。
  日本では公務員改革が停滞するとともに、「身内の論理」がまだ蔓延っている。そ
 れがこの国の「成長」を阻害する。成長戦略を声高に唱えても、その成長には期待し
  にくい。



                       ■ STAP細胞論文騒動と官僚制

  天下りに言及したついでに、今なお沈静化しない "騒動" を振り返ってみることに
 する。小保方晴子氏(研究ユニットリーダー)のSTAP細胞論文と、理化学研究所
 (理研)にまつわる一連の騒動だ。
  そもそも理研とはどのようなところか。理研は、長岡半太郎、鈴木梅太郎、本多光
 太郎、寺田寅彦、仁科芳雄、朝永振一郎、湯川秀樹などを輩出した日本屈指の研究機
 関である。
  設立は1917年と歴史も古く、1966年まで文京区駒込に研究所があり、その
 後、埼玉県和光市に移転した。実は、私の出身校である都立小石川高校の隣だったの
 で、理研研究所の移転跡を毎日見ており、理研の立派さを何度も聞かされた。
  戦前、研究の商業化に成功して理研コンツェルンを形成し、大きな収益を上げ、そ
 こから潤沢な研究資金を捻出できた。このため理研は「科学者たちの楽園」とも呼ば
 れたのだ。戦後、一時は民間株式会社化もされたが、1958年に特殊法人化され、
 2003年に独立行政法人になっている。

  総務省の『特殊法人総覧』(平成24年度版)によれば、予算900僚円、職員数4
 663人(常勤職員3409人、非常勤職員1254人)である。
  2009年の民主党政権当時、理研はスパコンで問題視された。蓮筋氏の「一番で
 なければダメですか」で有名になった事件だ。その当時、役員8人のうち4人が天下
 り官僚であった。具体的には理事2人が科学技術庁、監事2人が農本省と財務省の出
 身である。

  今では、監事2人は民間出身者になったが、常勤理事2人は相変わらず科学技術庁
 (現文部科学省)の官僚OBである。うち1人は、今回の騒動に対する理研の対応で
 相当な役割を担ったと見られるコンプライアンス担当だ。
  しかも、2人の官僚OBは「役員出向」と書かれている。これは国家公務員の「退
 職管理基本方針
」によって行なわれた「現役出向」のことで、別名「ウラ下り」と呼
 ばれる。民主党の菅直人政権下で閣議決定された制度だ。官僚が退職して再就職する
 とき、役所の斡旋がつくと「天下り」となって規制の対象になるが、「退職せずに現
 役で出向」ならばお咎めなしという抜け穴である。
 
  理研の官僚OBは、形式的には役所をいったん退職している。プロフィールを載せ
 た理研のホームページに(退職(役員出向)》と書かれている。しかし、本当に退職
 して退職金をもらうときには、「出向」している期間も通算されるのだ。だから形式
 的な退職には意味がない。
  理研の役員は、形式的には「天下り」ゼロである。しかし「現役出向」が2人いる
 わけだ。役員に官僚の天下りがある場合、課長クラスにも同じように天下りや出向者
 がいることが多い。私の知る限り、理研には文部科学省だけで三十数名の出向者がい
 たはずだ。
  官僚の世界では "上"を天下りポストにできると、その組織の中に官僚OBだけの
 ミニ組織ができる。これが組織内でがん細胞のように増殖し、しばしば組織を内側か
 ら蝕むのだ。

                            ■ 「第4の矢」があった?!

   さて「日本再興戦略」改訂版の閣議決定で「3本の矢」が出そろったはずのアベノ
 ミクスだが、もう1本の矢があることをご存じだろうか。

  閣議決定の直前、2014年5月28日の経済財政諮問会議でのことだ。甘利明経
 済財政・再生相が「第3の矢」である成長戦略に続き、財政健全化を「第4の矢」と
 位置づけたのである。私はこのことを知ったとき、とんでもない「矢」を放ってしま
 ったものだと思った。
  成長戦略は甘利経済財政相の分野だが、経産省の政策は「あまり」海外の評判がよ
 ろしくない。
  海外では「成長戦略」となると、デレギュレーション(規制緩和・撤廃)、プライ
 バタイゼーション(民営化)、フリートレード(自由貿易)という英語にもある概念
 で説明される。
  しかし経産省お得意の「産業政策」=「産業ターゲティング・ポリシー」は「産業
 選別」という意味で、なかなか海外では通用しにくい。このことは繰り返し述べてき
 た。
  特定産業の選別は依怯聶叙になるし、そもそも政府に成長産業を選び出す能力がな
 いからである。英語で説明する際には、頭にわざわざ「ジャパニーズ」と形容詞をつ
 ける。つまり揶揄されているのだ。
 
  そこで出てきたのが「第4の矢」――財政健全化というわけである。
  この裏側には、もちろん財務省がいる。財政制度等審議会がまとめる報告書の原案
 について、各メディアが先行して報じた。財務官僚によるリスクである。 
 財政健全化の達成手法は、大別すると3つある。

  ①経済成長
  ②歳出カット
  ③増税

  以上だが、財務省の言う「財政健全化」は、明らかに増税である。
  まず財務官僚には、予算査定において官僚特有の「無謬性」があるので、歳出に無
 駄があるとは認めない。このため、②の歳出カットはできないというのが基本的立場
 である。

  となると、①の経済成長か、③の増税のどちらかが選択肢だ。しかし以下の理由に
 より、財政健全化の達成手法として、③増税になる。
  ①経済成長では、結果として増収になるのは分かっているはずだ。しかし予算をつ
 くる過程では歳入増を見込みにくいので、まずは②歳出カットが求められる。それが
 できないと財務官僚の責任になるが、回避したいのだ。
  その点、③増税は、その是非と責任について、選挙があれば政治家に取らせること
 ができるので、官僚としてはOKだ。しかも、予算の裁量粋が広がり、財務官僚の権
 益が拡大する。

  ここで注意すべきは、あくまで予算上の歳入が増えるだけで、実際の税収が増える
 わけでないという点である。増税は経済活動を抑制し、その結果、税収は減少するこ
 とが多い。直近のデータが物語っている。
  しかし増税すれば、予算上の歳入は増える。マクロ経済の動きとは別に、形式計算
 によって、増税(税率アップ)がそのまま歳入の税収増になっているからだ。
 というわけで、財務省の財政健全化は増税になるしかない。

  一応、経済財政諮問会議では、財政健全化を「第4の矢」としてぶち上げておきつ
 つ、財政客報告書で「財政の健全化は増税」となる路線を敷いたわけである。この意
 味で、経済財政諮問会議は、財務省の増税路線の走狗になっている。もっとも、財務
 省の150年間の歴史を見ると、「財政の健全化は増税」という主張はほとんどない。
 多くのときには「財政の健全化は経済成長」という、まともな主張をしている。
 今の執行部が、歴史的に見ておかしな主張をしていることを指摘しておきたい。


                      ■ なぜ「4本目の矢」は不要なのか

  財政健全化を、わざわざ「第4の矢」として掲げるのは、まったくおかしい。首相
 官邸を筆頭に「アベノミクスの3本の矢」と連呼しているのに、もう1本加わったら
 国民も混乱するだろう。
  「オッカムの剃刀」という言葉をご存じだろうか。「前提や仮定は、なるべく少な
  くする」という考え方である。私は数学科出身なので、前提や仮定は相互に矛盾せず
 最少にすることが当たり前だ。しかし経済財政諮問会議の議員は、経済の相互関係を
 よく知らずに余計な「矢」を放っている。


 
  どういうことか説明しよう。

  実は「第4の矢」とされる財政健全化は、「第1の矢」である金融政策から導かれ
 るのだ。この意味で、4本目は不要な「矢」である。また、財務省の目論む「増税」
 なら、「オッカムの剃刀」によれば矛盾するものとして排除されなければいけない。
  まず財政健全化を定義してみる。これは「債務残高対GDP比が、将来において発
 散しないこと」と考えていい。その条件は前ページ上段の式のとおりである。
  条件式の意味をおおざっぱに言うと――『基礎的財政収支について、成長率が金利
 (国債金利)より高ければ多少の赤字でもよく、成長率と金利が等しければ均衡して
 いること、成長率が金利より低ければ一定の黒字が必要になる。

  そこで、成長率と金利の関係であるが、理論的にどちらが大きいとは言えない。2
 000年以降のOECD35カ国のデータを見ると、平均はほぼゼロであり、プラスで
 もマイナスでもほとんどがゼロの近辺になっている(上グラフ1)。
  要するに、データから見れば成長率と金利が等しいと考えてよい。であれば、財政
 の健全化のためには基礎的財政収支を均衡させればいいのだ。




   バブル後の1991年からのデータを見ると、基礎的財政収支対GDP比は、1年
  前の名目GDP成長率でほとんど決まってくる(上のグラフ2)。ちなみに両者の相
 関係数は0.92と高い。1年のズレがあることから、因果関係と考えていいだろう。

                               ■  「成長」への道

  ところが、増税は明らかに経済成長にマイナスである。消費税率3%の増税で経済
 成長率は1%程度低下する。消費税は予算上の増収になるかもしれないが、所得税や
 法人税が減少するのだ。その結果、税全体で増収になるのか減収になるのか分からな
 い。
  他方、金融緩和は名目GDPを伸ばす。2年前のマネーストック増加率は名目GD
 P成長率と強い相関がある。ということは、金融緩和すると2年後の名目GDPは高
 まるのだ。
  この実証データは、2年間金融緩和して、その間には増税を行なわないほうが、名
 目GDPを伸ばし、結果として財政再建の近道になることを示している。
  ちなみに、財政健全化を達成するためには、8%程度のマネーストック増加率を維
 持するように金融政策を行なえばよい、となる。
  もちろん、個々の状況ではいろいろとファインチューニングが必要なこともあるが、
 基本的には適切な金融政策によって安定成長路線を目指したほうがよいのである。

  イギリスは財政再建のために、2011年から消費税を増税した。だが、景気は低
 迷している。世界的に緊縮財政が見直されているが、日本の財務省だけは増税に固執
 している。

 「第1の矢」を放った日銀は、まともな金融政策をしたと世界から評価された。今度
 は財務省の番だ。しかし「第4の矢」などとぶち上げないでもらいたい。10%へのさ
 らなる消費税増税のアナウンスが流れるなか、私はあえて言う。急がは回れ、と。財
 政健全化のためには増税ではなく経済成長が先だ。

  なお、読者の中には「財政再建すら不要だ」という人もいるかもしれない。日頃の
 財務省の増税主義を見ていると、そういった極論も発してみたくなるのかもしれない。
  しかし、私は財政再建という目標は悪くないと思っている。いつものように世界各
 国を見ても、財政再建は英語で説明可能で’“fiscal consolidation”と言う。しばしば
 “No growth,no fiscal consolidation.”(成長なくして、財政再建なし)とも言われる。

  日本では、財政再建=増税と思い込んでいるのが間違いなのだ。
  もっとはっきり言えば、財政再建のためには、消費税増税をやめるのがいい。その
 うえで法人税を減税するのがいい。このときのロジックは、前にも指摘したが、今の
 政府の「国際競争力」のためではなく「二重課税の排除」だ。
  これは税の理論にも合致している。そのために行なうべきことは、国民番号制と歳
 入庁である。それらをきちんと整備すれば、負担を公平にしたうえで、実は税と社会
 保険料で10兆円以上の歳入増があると試算されているのだ。そうであれば、今の法人
 税を20%台、すなわち29%へ6%程度の減税などというシャビーな改正ではなく、10
 %台にまで引き下げられる。

  これは超バラマキだが、そうすれば必ずどこかの業界が伸びてくる。成長戦略でも
 そうだ。あらかじめ特定の産業を選別するのではなく、バラマキの結果、伸びてきた
 芽を見つける。その芽は、すでに「成長力」を持っていることになる。
  成長のための「選択と集中」を断行できるのは、民間の企業経営者である。しかし
 それでも失敗することが多い。まして官僚には、「選択と集中」をする能力など備わ
 っていない。何か成長するのか、誰にも分からないのだ。
  誰にも分からないものを、官僚に分かるはずなどない。官僚が賢くて全知全能とい
 うのは嘘である。
  国民にとって、アベノミクス「第3の矢」である成長戦略最大の陥介は、その嘘を
 見破れないことだろう。

      高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

さて、今夜で上がりとなるが、高橋の "成長論”は――これは超バラマキだが、そうすれ
ば必ずどこかの業界が伸びてくる。成長戦略でも そうだ。あらかじめ特定の産業を選別
するのではなく、バラマキの結果、伸びてきた芽を見つける。その芽は、すでに「成長力」
を持っていることになる――という。これはブログでも取り上げた『僕なら言うぞ』の故
吉本隆明と同じだ。これはわたしなり補足すれば、政府は、官僚介入をできる限り抑制し、
民間に開放し、インフレーターゲットなどの主要な指標を基準に市場調整を行なえば良い
ということになるが、新産業・事業育成で必要なものは積極的に産助すべしと考えている。
 


                                   この項了

                   

           

 

 

解散風に冬将軍 

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● 国会解散風 読むに読まれぬ錦旗

GDPが伸びず(予定通り?!)が12月14日投票という情報が入ってきたが、消費税を1年
半延期するというが、「凍結」「引き下げ」ではない。したがって、大義名分がなく、投票
率は50%より低くなる可能性もある。また、「4月1日の増税の意味は何だったのか?」が
問われるから「三党合意が間違っていた、だから、ごめんなさい」解散ならインパクトがあ
り、さらに「内需拡大のため切れ目なく投資します」となら堂々と解散できる・・・と三橋
貴明経済評論家がそうコメントしている(上・下図クリック)。
 

 

 

【オールソーラーシステム完結論 30】 


● 東芝-川崎市 究極のエネルギーステーション

東芝は13日、水と再生可能エネルギーで無尽蔵に水素をつくり出す“究極のエネルギーステ
ーション”の実用化を目指した実証実験を川崎市と始めると発表。実証システムを市内臨海
部に設置し、2015年4月から運転。水素をガスや電力に頼らずに“二酸化炭素フリー”で作
る世界でも例のない取り組みだというが(下図参照)、国内的には本田技研工業などでも研
究開発されてきたが、やっと、目に見えるかたちになってきた。

 

なお、実証システムは太陽光パネル、水を電気分解して水素を製造する装置、燃料電池、蓄
電池で構成。太陽光パネルが発電すると電解装置が稼働して水素をつくり、タンクに貯蔵。
燃料電池に水素を送って発電し、排熱で給湯もできる。計画では、川崎市臨海部の「港湾振
興会館(川崎マリエン)」に設置し、2020年までに実証を終える計画――太陽光パネルは出
力25キロワット。タンクには 275ニュートン立方メートルの水素を貯蔵。燃料電池と蓄電池
は出力30キロワットで発電し、温水を毎時60リットル供給できる。太陽光パネルが発電しな
い雨天や夜間は蓄電池から電力を供給する。 太陽光パネル以外の機器はすべてコンテナに収め、
災害時に必要な場所にトラック輸送――である。東芝の田中久雄社長によれば、今回はあく
まで災害時対応のシステム。理論的には大規模化して水素ステーションにできる、とのこと。
説明。実証を通して電気分解の効率化やコストダウンなどの技術課題を解決し、大規模化を
目指すという。

実証システムは(1)太陽光パネル、水を電気分解して水素を製造する装置(2)燃料電池
(3)蓄電池で構成。太陽光パネルが発電すると電解装置が稼働して水素をつくり、タンク
に貯蔵。燃料電池に水素を送って発電し、排熱で給湯もできる。再生エネの発電が増えて余
剰電力が発生したタイミングで水素製造を始めれば電力需給をバランスできる。再生エネの
発電が低下したら燃料電池から電力供給して需給を安定化することができる。実証システム
も技術的には系統安定化への貢献が可能だ。また、東芝は災害対応として実証システムを、
2015年に製品化する予定という。



● 熱暴走のないリチウムイオン電池

それでは、いつものごとく関連新規考案をみてみよう。


※ 4a:電流遮断部

二酸化炭素の排出量が少ない電気自動車が注目を集めているが、高エネルギー密度を有する
リチウムイオン電池。特に電気自動車などの応用には、更なる高エネルギー密度と耐久性が
要求され、それに伴い安全性の確保が課題になっている。特に電池が曝される危険な状態の
1つが過充電で、この状態が進むと最悪の場合、電池は熱暴走し、破裂・発火を引き起こす。
そこで、対策に過充電の進行を阻止する方策がいくつかなされている。過充電時に起きる発
熱やセルの膨張等を利用した(1)CID(電流遮断装置)が、その差を検地するのは難し
く、誤作動を起こす可能性がある。(2)また、過充電防止に添加剤を電池の電解質に加え
過充電の防止法もあるが、過充電の進行を阻止する事は可能だが、添加剤によって電池性能
が低下し電池の充放電サイクル寿命が短くなるという問題がある。

上の東芝のリチウムイオン電池の新規考案は、第1の二次電池Aと、第2の二次電池Bと、
電流遮断装置とを含む電池パック1が提供される。第1の二次電池Aと第2の二次電池Bは、
並列接続されている。電流遮断装置は、第2の二次電池Bの過充電時の膨張により作動し、
過充電が防止され、かつ充放電サイクル寿命の長い電池パックの提供――第1の二次電池A
と、第2の二次電池Bと、電流遮断装置とを含む電池パック1が提供される。第1の二次電
池Aと第2の二次電池Bは、並列接続されている。電流遮断装置は、第2の二次電池Bの過
充電時の膨張により作動――である。

JP 2014-122399 A 2014.7.3

● 水素電力供給システム

上図の東芝の水素電力供給システムは、再生可能エネルギー発電ユニット13、蓄電ユニッ
ト14、水供給ユニット16、水電解ユニット15、水素貯蔵ユニット17、酸素貯蔵ユニ
ット18、水素発電ユニット19、水回収ユニット20、蓄熱ユニット21、電力供給ユニ
ット11、水素供給ユニット12、管理ユニット24を備える。管理ユニット24は各ユニ
ットにおける電力、水素、熱の需給状況を監視し、監視した需給状況に基づき今後の不足分
を補うよう各ユニットの運転を制御するシステムで、水素自動車および燃料電池自動車に対
し、再生可能エネルギーを利用して安定的にかつ高効率に自立してエネルギーを供給する方
法が提案されている。

● 水素電力貯蔵 

下図の新規考案(特開2014-095118 水素電力貯蔵システムおよび方法)は、今回取り上げた
システムではなく別の方法である。時間帯によって生成電力又は消費電力に変動があるので、
発電の際は、電力に余剰がある時に余剰電力を貯蔵し、電力の不足する時に放電する電力貯
蔵のシステムが求められているが、余剰電力で分解用水を電気分解して水素を生成し、電力
の不足時は生成した水素を酸化して電力を取り出す水素電力貯蔵システムとして、電気分解
とび発電を可逆的に実行する反応部の電解質に、固体酸化物を用いるものが知られているが、
この固体酸化物は、メタン燃料の燃料電池等と比べて電力の貯蔵効率が低く、よって、シス
テムには、発電の際の反応熱を蓄熱する蓄熱部が設けられるなどして、貯蔵効率を高める種
々の工夫がされているが、これはその1つである。





特開2014-095118

【要約】

水素電力貯蔵システム10は、発電所で得られる電力Ein(供給電力Ein)を用いて分解用
水を酸素および水素に電気分解する反応部11と、水素を貯蔵する水素貯蔵部12と反応部
11を接続して水素を送る貯蔵系統13と、反応部11に送られる分解用水を熱源28との
熱交換により昇温させる第1熱交換部14と、酸素を反応部11の外部へ排出する排出系統
15に接続されて酸素の余熱を第1熱交換部14に返還する返還系統16と、を備えること
で、エネルギ効率を向上させた水素電力貯蔵技術である。

 


● 満中陰と御霊供膳

機能は忌明け法要を滞りなく済ませた。会食は近くの日本料理の『水幸亭』で行った。慣行
上、御霊供膳(おりょうぐぜん)は店側で準備していただいたが、今日になって遺影写真を
忘れてしまったことに気付く。なにか1つや2つ手違いが起こってしまうのだと二人で話し
あう。

                                                                             合掌
                                  


 

柿と舗装の工学

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          御仏に供へあまりの柿十五  
                        
          御仏にそなへし柿のあまりつらん  我にぞたびし十あまりいつゝ 

                                                   
                                             正岡子規

 

● 最新の柿育種工学

古の万葉集に歌われることはなかった柿は渋柿だが、時を経て甘柿に育種され、いまでは、
甘くて上品な西吉野からの柿が届くようになっている。奈良と言えば柿と思っていた。いま
は岐阜県が生産量でトップだろいう。さて、農研機構は、良食味で、種なし果の生産が可能
な晩生の完全甘ガキ1)新品種「太豊」を育成に成功した(上図クリック)。「太豊」の果実
は「富有」並みかそれ以上に大きく、「富有」とほぼ同時期の11月中下旬頃収穫する。果肉
は柔軟で多汁、サクサクとした食感をもち、雌花が多く、受粉樹2)を周囲に混植しなくても
早期落果が少なく、後期落果もしないため、種なし果の安定生産が可能。さらに、「太豊」
は夏秋期の気温が高い地域に適応し、「富有」の栽培地域で栽培が可能だという優れた特徴
をもついう。 

 

【オールバイオマスシステム完結論 Ⅲ】 

● バイオマス産業都市構想の推進

バイオマス活用推進を背景とした、バイオマス産業都市構想が動き出した。

バイオマスの活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とした「バ
イオマス活用推進基本法(2009年法律第52号)」が2009年9月12日に施行され、2010年12月17
日に同法20条に基づく「バイオマス活用推進基本計画」が閣議決定。この基本計画に基づき
関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省
)の連携の下、バイオマスの活用を推進されることになっていたが、今月10日、農林水産省
は、新たに6地域のバイオマスを活用した地域づくりを支援すると発表。 新たに6地域を
選定。今回バイオマス産業都市に選定されたのは、バイオマス産業都市構想を有する、富山
県射水市、兵庫県洲本市、島根県隠岐の島町、福岡県みやま市、佐賀県佐賀市、大分県佐伯
市の6地域。

 

このプロジェクトが成功に終わるかどうかわからないが、ブログで掲載している『オールバ
イオマスシステム完結論』の具体的な計画展開である以上、これらの動きを看ながら、先行
する『オールソーラーシステム完結論』の後追いを加速させていく方法を考え展開させてい
こう。





● 電気代を「60%削減」したローソンの省エネ工学

ローソンは2014年11月12日、愛知県に新店舗「ローソン豊橋明海工業団地店」を開店。最大
の特徴は電気使用量が2010年比で約60%削減できる。これは同社の店舗として最大の削減率
同社は最新の省エネルギー技術を導入した環境配慮型の実験店舗を2008年から各地で展開し
てきた。今回は7店舗目(上図に新店舗内に配置したエネルギー関連技術の位置を示す―導
入した技術は大きく3種類に分かれ、3種類の技術を色分けし明示。建物の断熱・遮熱性能
向上(赤)、自然エネルギーの活用(緑)、機器性能の向上(青)。図では左上側が南。導
入した15種類の技術のうち、最も効果が高いものは2つ。『CO2冷媒冷蔵ケース』と『LED照
明』。CO2冷媒冷蔵ケースは冷媒にフロンではなく二酸化炭素を利用した機器。同社が2013年
に立ち上げた環境配慮型の実験店舗でも効果を発揮した技術だ。扉付きのショーケースとす
ることで冷気漏れを防ぐなど、効率向上策を講じている。

また、店舗の照明は一様であることが多いだろう。今回の新店舗ではセンサーを利用して(
直管型LEDを)調光するため、例えば日光が入りやすい店舗の入口側の明るさを抑えることが
たやすい。天候(日照)の変化に応じた制御もできる。上図で赤く示した建物の断熱・遮熱
性能向上に役立つ技術は5つあり、店舗前面ガラスの二重化(ダブルスキン)し、店舗入口
側にペアガラスフロントサッシを設け、さらに2重。その間に店舗内で暖まった(または冷
やされた)空気を通し、断熱性をより高める。テントによる外壁面の二重化は、店舗の南外
壁に施された工夫だ(下図)。外壁の外側に白色のテントを張ることで直射日光を遮り、店
舗内への熱の侵入を防ぐ効果がある。この他、太陽電池モジュール設置し屋根の二重化や壁
面緑化、断熱性能の向上などを導入し実現した。それにしても、60”削減とは恐れ入やの鬼子母
神ですねぇ~。

 

  地中熱利用空調システムの原理と仕組み


 

【オールソーラーシステム完結論 31】 




● 舗装工学 オランダが先行『サンロード』

無線給電舗装工学』で掲載していたことが、オランダ(SolaRoad)で実現され始めている。
そう、2014年11月12日、オランダで世界初の道路「SolaRoad」が完成、開通式が開催された。
太陽電池セルを組み込んだ部材を利用して作られたという意味で世界初である。アムステル
ダムの北西約15キロメートルに位置し、長さは百メートル。3年間の実証実験の形で運用さ
れることになっている。この実験では、実証実験の計画では、発電能力は道路の長さ百メー
トル当たり一般家庭3世帯分。実験開始時は発電した電力を系統にそのまま接続している。
設置前の見積もりによれば、寿命(20年)以内に投資を回収できるという。現在は投資回収
期間を15年以内に短縮する。

オランダは大都市における交通システムに革命を起こそうとしている。首都アムステルダム
市は2040年までに段階的に私有車を全て電気自動車化計画を打ち出し、その電力を生み出す
のに最も自然な方法として、車両の下に長く伸びる道路だ。道路を「無駄に」照らしている
太陽光を利用――この考え方は既に2009年以前に控訴していて社内提案もしていた――する。

SolaRoadにつながるアイデアを2009年に打ち出したのは、オランダ応用科学研究機関(TNO)
である。オランダの年間総消費電力は約1200億キロワットアワー。発電に適した建物の屋根
全てに太陽電池を設置すると、総量だけを考えた議論ではあるものの、このうち4分の1が
を賄える。さらに太陽電池を増やそうとすると、道路が適切であるという。オランダの道路
総延長距離は約14キロメートル。面積に換算すると450平方メートルになる。これは屋根の
総面積よりも広い。

 

とことで、道路から取り出した電力を(無線で)電気自動車に送り込む。これはSolaRoadに
とっての最終的な目標だ。そこに至る前の段階では、系統に接続する、道路照明に利用する
道路に隣接する家屋に供給するといったさまざまな用途がある。実証実験では一般道路では
なく、自転車専用道路を対象としている。自転車専用道路は一般道路と比較して加重負荷が
少ない他、路面を取り外して実証実験中に改良を加えやすいためだという。なお、オランダ
は自転車保有率が世界一(約110%)であり、自転車専用道路が約1万5000キロメートルも延
びている。一般道路に展開する前に、実証された技術を展開する場が広がる。

 

SolaRoladの基本単位は3.5m×2.5mのコンクリートパネルだ。厚さははっきりと公表されてい
ないものの、写真から20センチメートル前後だと分かる(上図)。コンクリートパネルの表
面は端面付近を除き、厚さ1センチメートルの強化ガラスで覆われている。その内部に結晶
シリコン太陽電池セルが配置されており、下面の強化ガラスとの間に挟まれている。つまり
一般的な太陽電池モジュールをコンクリートとガラスで作り上げた形だ。SolaRoadによれば、
現時点では道路用の特別な太陽電池セルを開発する必要はないという。上図では、中央の人
物の前後で表面の様子が違う。SolaRoadでは「2車線」のうち、図手前の1線のみに太陽電
池を組み込んでいる。同じ道路で従来と似た路面と、新しい路面の影響を比較しやすい。実
証実験のコストも低くなる。このような「モジュール」に求められる性能は何だろうか。

SolaRoadによれば4つある。(1)まずは光を通しやすいこと(光を反射しにくいこと)
(2)次に可能な限り汚れをはじくこと。(3)残る2つは道路用の部材としての性質であ
る。強度が高いことと、車両が横滑りを起こさないの4点。強度の高さとは、車両の重量は
もちろん、落下物の衝撃に耐えること、寒暖の差に耐えること、塩害を受けないことが前提
条件である。また、横滑りに対する対応策は、ガラス表面のコーティングだ。歩行者、車両
ともグリップが効くようなコーティング材料を用いる。SolaRoadによれば一般的な自転車用
道路と比較して、横滑り抵抗力は平均以上。この他、モジュールを組み合わせたときに要求
される性質が1つあり、走り心地だ。モジュール同士に高低差があると、わずかな差であっ
ても車両内部に響く。そこで、モジュール同士が相互に連結して高低差が生じない構造を採
った(上図)。下地の土壌が完全に平たんでなくてもよい。さらに温度変化による収縮・膨
張の影響も受けにくいということであはある。

以上、今夜はてんこ盛りなってしまったが。『デジタル革命渦論』を理解する上にはこれほ
どわかりやすい事例はないと考える。実に面白く楽しいニュースだ。

円弧動エンジン工学

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季節外れの向日葵が満開だと言うことで、車を走らせることに。目的地の東近江市妹町の道
の駅「あいとうマーガレットステーション」の花畑は、季節外れのヒマワリが一面に咲き、
魅了。約5千平方メートルの畑に1万5千本のヒマワリが大輪の花を咲かせ秋風に揺れる。
紅葉の時季にも花をめでてもらおうと、同ステーションが12年前から取り組んでいる。9
月に種をまき、今月5日から咲き始めた。紅葉狩りの帰り客にも楽しんでもらえるよう、夜
にはライトアップもしている。明太子の押し寿司を二人で食べ、帰りは、湖東三山スマート
インターチェンジに入り彦根インターチェンジを経て爽快なドライブのひとときを楽しんだ。

 

 



● 円弧動エンジン工学

日本ソフトウェアアプローチは、「次世代自動車エンジン(円弧動エンジン)」を共同開発
する連携企業を募集。開発するエンジンは、排気量1080ccで重量13.9キログラム、2017年3
月の完成を目指す。円弧動エンジンは、軽量でコンパクトな設計により、エンジンや車体の
軽量化で燃費が良くなり、車体コストも低減にもつながる。小型から超大型まで制作可能な
ので、用途はバイク、乗用車から小型船舶や飛行機など多様だという(環境ビジネス 2014.
11.14
)。それによると、同社は埼玉県産業労働部産業支援課の協力を受け、次世代自動車
支援センター(埼玉県)に同エンジンの動作試験機(排気量250ccで重量2キログラム)の常
設展示を開始した。同センターでは新エンジンに実際に触れ、その動作や軽量さ・コンパク
トさを体感することができるとのこと。
 

そんなにエネルギー効率や静粛性にすぐれているのなら、石油・天然ガスなどの地下化石燃
料だけでなく、水素の直燃やバイオマス由来燃料にも使えるのではないかとネット検索して
みることに。関連新規考案による2000年に公開されているものの、技術開発の追随がみられ
ないようだ。

ピストン機関の代表例として往復動内燃機関を例にとると、シリンダ内を直線的に往復動す
る円筒形ピストンとピストンピンを介して一端が円筒形ピストンに回動自在に取り付けられ
るコネクティングロッド(コンロッド)と、コンロッドの他端に回動自在に取り付けられる
クランクシャフトにより、すべり子クランク機構として構成、コンロッドを介して伝わる円
筒形ピストンの直線的な往復運動を回転運動に変換する従来のピストン機関(レシプロ)の
場合、円筒形ピストンを上下動させるに際しコンロッドが円筒形ピストンの往復直線運動方
向に対し傾斜するために、円筒形ピストンに加わる力により、円筒形ピストンとシリンダの
衝突ならびに摩擦(ピストンスラップ)が発生し、振動及び騒音と摩擦損失の大きな要因と
なる。

 

あるいは、円筒形ピストン,ピストンピン,コンロッドといった往復運動部分からの不釣り
合い慣性力により、振動及び騒音が発生する。そして、多気筒往復動内燃機関では、燃焼,
排気,吸入,圧縮の各行程による回転トルクの変動により、クランクシャフトのねじり振動
及び騒音が発生し、円筒形ピストン,ピストンピン,コンロッド,クランクシャフト等の慣
性偶力により、クランクシャフトの偶力振動及び騒音が発生する。このような欠点は、往復
動内燃機関に限らず、往復動外燃機関、往復動圧縮機関、並びに、各種アクチュエータにつ
いても指摘されることである。振動及び騒音がほとんど発生せず、摩擦損失が少なくて機械
効率がよく、しかも小型、軽量に構成できる往復動ピストン機関に利用できるのが円弧状ピ
ストン機関である。

ただし、開発にあたっては高熱発生するため、摺動・回転部品が多く熱による膨張・収縮に
よる変動に対する構成部品材料の体積膨張率の抑制や堅牢性の設計が重要になり、その場合
のコスト積算が割高、あるいは、もっと基本的な燃焼条件の最適化などのハードルが待ち受
けている。革新を生み出す現場は、常にリスク満載!飛躍できるか?!。


● 消費増税政策は失敗それとも ?

消費税増税の大きな判断材料とされる数値が発表された。7月から9月のGDP(=国内総
生産)の成長率は、事前の予測を大きく下回り、年率で-1.6%となりチョットしたショッ
ク騒ぎとなっているが、これは、”ネット消費税ブレーキ”と予測通りの数値。それでも、
"アベノミクスの第1の矢"効果を含めての話だから、浜田宏一東大・イェール大名誉教授の
アドバイス通り1%づつゆっくりと逐次増税にすればよかったのだから、「三党合意」は事
実上無用であったことを公に晒したことになる。



このことについて、嘉悦大学教授で株式会社政策工房 代表取締役会長の高橋洋一は 「せっ
かくアベノミクスの成果で上昇気流に乗り始めた日本経済。だが、平成26年(2014)4月の
消費税増税で、あたかも離陸中の飛行機が急にエンジンを逆噴射して失速してしまうような
結果を招いてしまった。だがこの先、平成27年(2015)10月に8%から10%へ、さらなる税
率Upが予定されている。はたして今、日本経済は「いかなる政策」を選択すべきなのか。そ
れを妨げる「世迷言」を声高に主張するのは誰なのか。そして、その誤謬の核心はどこにあ
るのか」という(『アベノミクスの逆襲』@上図クリック)。

因みに、アベノミクスは、第一の矢「大胆な金融政策――金融緩和で流通するお金の量を増
やし、デフレマインドを払拭」、第二の矢「機動的な財政政策――約10兆円規模の経済対策
予算によって、政府自ら率先して需要を創出、第三の矢「「民間投資を喚起する成長戦略―
―規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ」の3つから構成さ
れる。
 

※ 参考『もう止められない! 「解散風」に大義はある またぞろ出て来た消費増税派の信
  じら れないロジック 』 2014.11.13 (高橋洋一の俗論を撃つ!「ダイヤモンドオンラ
   イン」)。


 

スマートビーコン工学

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● 今夜もハイテクな話題がてんこ盛り 



● ナノ計測工学

 

ニコンが開発した独自の目盛読取り方式による誤差低減技術と、産総研が開発したレーザー干
渉を利用した正確な目盛の誤差の評価技術とを組み合わせることによって、このリニアエンコ
ーダでは、1ナノメートル以下の誤差を実現。今後、半導体素子や光学素子の加工精度の向上
への貢献が期待できると公表(上図クリック)。今回の研究開発成果は、地味なものではある
が、(1)目盛の誤差が1ナノメートル以下の「超高精度なものさし」を実現、(2)光の干
渉を利用し目盛の微小な誤差を評価、(3)精密・微細加工技術の精度を向上させ半導体素子
の高集積化などに貢献できるため、現代世界経済に多大な寄与し、革新のコアである『デジタ
ル革命渦論』の基盤的産助に貢献するものと期待している(下図、ニコンの参照新規考案)。

 

● 深紫外線防御工学

もう1つ、光学系技術開発のニュース。富士フイルム株式会社が、地上に届く紫外線UVAの
約50%を占める最長波領域「Deep UVA」(波長370~400nm)の肌内部への到達状況を、世界
初で可視化計測に成功(上図クリック)。

2011年に、世界に先駆けて開発した富士フィルム独自の「Deep UVA」紫外線防御剤の「D-U
Vガード」―― 紫外線防御剤には、紫外線吸収剤と散乱剤を組み合わせて配合することが一般
的だが単に両者を併用するだけのこれまでの技術では「Deep UVA」を防御でずできたが、紫外
線吸収剤と散乱剤を独自工程でハイブリット化し今まで防ぐことのできなかった「Deep UVA」
を90%以上防御できる(下図参照)――を開発。

 

 

【オールソーラーシステム完結論 32】 

● 隅々に浸透する環境配慮発電デバイス スマートビーコン工学

大日本印刷は、位置情報を基にしたスマートフォン利用者向け自動情報配信で、エナジーハーベステ
ィング(環境配慮発電)技術を使った新システムを、米スパンションと共同で構築。利用者を検知する装
置「ビーコン」の電源に太陽光発電を採用し、電池を不要にしたことが特徴。同システムでエナジーハ
ーベスティング技術を活用するのは業界初。位置情報を基にしたスマホ利用者向け情報配信では、商
店の前を通った人にセール情報を送信したり、駅利用者に運行最新情報を送信したりするサービスな
ど想定している。実用化に向け、問題になるのがビーコンの電源確保。課題解決のため大日印は、ス
パンション社がエナジーハーベスティング技術を使って開発したビーコンを採用した。太陽光を効率よ
く電力に変換し、電池不要で搭載の通信モジュールを稼働できる。米アップルの近距離無線通信技術「
アイビーコン」に対応する。試験サービスは、イオンの「レイクタウン」(埼玉県越谷市)で行う。利用者の
スマホに現在地を表示するなどの機能を提供する。年末まで実施し、ビーコンの太陽光パネルの性能
などを確認する(下図クリック)。

「ビーコン」とは、無線(光)を常に発し、その無線が届く範囲の機器などに情報を伝えるも
ののことを指し、無線標識とも呼ばれる。ビーコンと聞いて、渋滞情報などの交通情報を自動
車に伝えるために道路上に設置されているビーコンを思い浮かべる人も多い。そのビーコンが
現在、新たなマーケティングツール「Beacon」として、幅広い注目を集めている。Beaconへの
注目が高まった最大の契機は、アップルが2013年9月にリリースしたスマートフォン/タブレ
ット端末など向けOS「iOS7」で、Bluetooth Low Energy(Bluetooth Smart)を使用したビー
コンから情報を受信する機能「iBeacon」をサポートしたことだ。なお、iOS7搭載端末だけで
なくAndroid OS搭載スマートフォンでもBluetooth Smart機能の搭載が標準化し、iBeacon同様
のBluetooth Smartによるビーコンに対応できるようになっている。そのため、より多くのス
マートフォンに、情報を伝達できる新手法として、Bluetooth Smartによるビーコンが注目を
集めている。

 

 


● GSユアサエネルギー量3倍のLiB放電に成功

GSユアサ、エネルギー量3倍のLiB放電に成功-多孔性カーボン均一穴に硫黄を充填。ジ
ーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)は17日、硫黄(S)―多孔性カーボン複合体
の正極材とシリコン(Si)系負極材を組み合わせたリチウムイオン二次電池(LiB)の放
電に成功したと発表した。ナノサイズの細孔を持つ多孔性カーボンの穴を均一に制御して、そ
の穴に硫黄を充填。既存のLiBの3倍のエネルギー量があるという。硫黄は絶縁体であるた
めに、高いエネルギー容量を得にくい。GSユアサは、従来難しかった数ナノメートル程度の
多孔性カーボンの穴をそろえて整えられる条件を見いだし、そこに硫黄を充填して複合体を合
成できた。LiBは酸化物系の正極材と炭素系の負極材で構成されるが、価格の安い硫黄は次
世代LiBの正極材として期待されている。現時点でシリコン系負極材の耐久性能がまだ低い
ため、実用化をにらんだ開発を進め、電気自動車(EV)への搭載につなげたいという(下図
クリック)。 

 

 

  ● 今夜のこの一曲

 

 

   義理と人情を秤にかけりゃ
   義理が重たい男の世界
   幼なじみの観音様にゃ
   俺の心はお見通し
   背中で吠えてる唐獅子牡丹

 

   親の意見を承知ですねて
   曲がり<ねった六区の風よ
   つもり重ねた不幸のかずを
   なんと詫(わ)びよかおふくろに
   背中で泣いてる唐獅子牡丹

 

   おぼろ月でも隅田の水に
   昔ながらの濁らぬ光
   やがて夜明けの来るそれまでは
   維持でささえる夢ひとつ
   背中で乎んでる唐獅子牡丹

 


                   
                         『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』

                          作詞 : 矢野亮・水城一狼  
                          作曲 :       水城一狼

『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』は、1966年1月13日に公開された日本の任侠映画。監督は佐伯清主
演は高倉健、製作は東映である。昭和残侠伝シリーズの第2作。主演の高倉健(1931年2月16
日 - 2014年11月10日)は、日本の俳優・歌手、愛称、健さん。福岡県中間市出身、身長180cm、
血液型B型。高倉プロモーション所属。戦後の日本を代表する映画スター。半世紀以上活躍。
代表作は映画『網走番外地』シリーズ、『日本侠客伝』シリーズ 『昭和残侠伝』シリーズ『新
幹線大爆破』『幸福の黄色いハンカチ』『八甲田山』『南極物語』『鉄道員(ぽっぽや)』な
どいずれも邦画史上に残るヒットを記録。2006年度文化功労者。2013年には文化勲章を受章し
ている。印象に残っている映画は、『唐獅子牡丹』『八甲田山』『君よ憤怒の河を渡れ』『野
生の証明』の四本。今月10日に他界、今日、テレビ報道で知る。


                                       合掌 

 

  


● 消費税先送り解散   

安倍晋三首相は、首相官邸で記者会見し、来年10月に予定していた消費税率10%への引き上げ
を2017年4月に1年半先送りすることと、衆院を21日に解散し衆院選を断行すると表明。「
アベノミクス」はよほどのことがなければ、世界的な垂範となろう。それ以外の基本政策は?
"縮原発派"で反対の立場だし、その他は甚だ懐疑的だ。どの党に投票するか? 難しいね~ぇ。
 

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