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世界で一番美味いひとり宅めし

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                      梁恵王篇 「仁とは何か」  /  孟子 

  
                                                   

      ※ 建築と政治:孟子が宣王に謁見して言った。「大きな家を建てようと
        すれば、あなたは当然棟梁に大木を探しに行かせるでしょう。それを
        見つけて来れば、よく職責を果たしてくれたと満足される。しかしそ
        の木を大工たちが小さく切ってしまえば、職責の果たせぬ奴だと腹を
        お立てになる。ところで、幼少から先王の道を学び、学成っていよい
        よ実践したいと思っている者に対して、『その学識はしまっておけ、
        わたしの言うとおりにしろ』というのは、いかがなものでしょうか。
        ここに粗玉(あらたま)があるとします。それがたとえ万鎰(まんい
        つ:一説は金約二十両)に愉しようと、それを磨くときには玉の専門
        家にまかせるでしょう。ところがこと政治となると、『おまえの学識
        はしまっておけ、わしの言うとおりにしろ』とおっしゃる。まるで玉
        の専門家に向かって玉の磨き方を講釈するようなものではありません
        か」 

 

 

 

          砲弾の表面ざらりと触れるときよみがえりくる命のかるさ

           バスガイドばかりのツアー華やぎて赤い帽子はみんなお揃い

           みすずかる諏訪大社の巫女それぞれが鉄の輪っかの簪をする
        

                   青沼 ひろ子 『鉄輪(てつかぎ)の簪(かんざし』 


わけがあって(定休日と知らず)、一週間遅れていつもの理髪店へいくと、折り悪く自動車の接触事
故直後で、店の駐車場の車の止め方が悪く、同じように車でとめようとしてたら「ニッサンノート」
で来店してきた元上司のNさんが別の場所に駐車することで落着することがあったが。高宮町周辺の
が宅地化が進み様変わりしてきているののこういったトラブルが頻繁するのでは予感。店内で近況を
語り合い店をでて、帰り道に本とレンタルビデオを手に入れ、さっそく、『歌壇』11月号に目を通
し、特集「旅の途次を詠む」の上の三首が目にとまる。作者の添え書がある。、


 仏法僧を聴きに行こうと誘われてその電車に一本遅れた私は、鳳来寺まで一人旅をすることにな
 ってしまった。飯田線で落雷にあい目的の駅に降りたときには既にあたりは暗い。駅前でタクシ
 ーに乗ったのだが甲府から来た。と言うと敵方だな、と運転手さんが言う。ここがあの長篠なの
 かと思いながら心配して山門の前で待っていてくれた同級生に足元を照らされ暗い石段を上った。
 翌朝、録音のテープから流れる仏法僧の声を聴いて帰って来た。


まず、いきなり第一首めに突き放されたかのような違和感が漂う。これは「反戦歌」あるいは「反安
部」「右翼竜アベノサウルス」(同雑誌の高野公彦の『空狐』――”くうこ”とは日本に伝わる神獣
または妖狐。狐が年を経たものであると考えられている。江戸時代に、天狐に次ぐ狐として名が挙げ
られている――と関係あるのかと頭を一瞬過ぎるものの、そもそも、砲表面ざらりと触れるときよみ
がえりくる弾」とは、「鳳来寺」に保存されているものか、それとも、「長篠の戦い」のメタファな
のか、1935年に、日本放送協会(NHK名古屋放送局)が愛知県南設楽郡鳳来寺村(現在の新城市)
の鳳来寺山で「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥の鳴き声の実況中継をし、鳴き声の主を探した者が、山
梨県神座山で「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥(実歳は、コノハズク)打ち落とした話しの鉄砲弾のこ
とか迷う。 



第二首は、一転カラフルで艶やかやかな印象画を見せられる。あるいは" 仏法僧”のメタダファとし
て詠われる。第三首”のみすずかる諏訪大社”の水篶刈る・三篶刈るの意で、”篶”のすずは篠竹(
すずたけ)のこととで篠竹の産地であるところから「信濃(しなの)」にかかる(枕詞)、であり、
現在では「みこもかる」と読む『万葉集』の「水(三)薦刈」の表記を、近世の国学者が「みすずか
る」と読んだことから慣用化した語。「み」は接頭語である。るいは「長篠」にかかる「ダブルメタ
ファ」かもしれない。また、”鉄の輪っかの簪”というものを実物を目にしたことはない。あるは、
見過ごしているのかもしれないが、「カチューシャ簪」かもしれない。このように歌の舞台の「鳳来
寺山」は紅葉の名所として名高い、“声の仏法僧”とも呼ばれる愛知県の県鳥・コノハズクが棲息し
ていることでも知られ、山全体が国の名勝・天然記念物に指定されている自然の宝庫。1300年前
に利修仙人の開山と伝わる霊山で、中腹には古刹・鳳来寺が位置。麓から1425段の石段が続く長
い鳳来寺の参道には、樹齢800年、現存するものとしては日本一となる高さ60メートルを誇る傘
杉などの見どころ。石段を上るごとに広がりを見せる奥三河の自然の風景は癒し効果絶大。徳川家光
公によって1654年に建立された仁王門は国の重要文化財である。

この他、命を狙われた井伊直虎と虎松は、城を出て龍潭寺に身を寄せるが、龍潭寺にも危険が及び、
直虎は、南渓和尚の進言もあり虎松を鳳来寺に預ける。鳳来寺は、古くから「殺生禁断の地」として
知られており、平安末期には源頼朝が3年間匿われた場所でもある。こうして8歳から14歳まで鳳
来寺で過ごした虎松は、寺の僧侶達によって武将として必要な教養を学んでいる。また、シンセサイ
ザーの世界的権威、冨田勲(故人)が“幻の鳥ブッポウソウ”の声を、少年時代に愛知県鳳来寺山で
聴いた体験を持つ。“、今その声は全く聴くことができなくなlる。ブッポウソウ”の復活を願って
、合唱団の美しい二部合唱のNHKが制作した「みんなのうた」でも70年代より20作品以上手が
けてきたコンピューター・グラフィックスの匠、大井文雄担当して放映されている。  

     石笛を吹き鳴らしていた夢のなか鏡のように水溜りあり

歌を忘れた鳥が 、救いを求め手にした青沼ひろ子の三首。彼女サンクチュアリーに足を踏み入れ、
トリニーティ(秘められたトリプルメタファ:安寧、共生、尊厳)の言葉の珠玉を手にする。歌はか
くあるべしと。

   No.85

【エネルギータイリング事業篇:ソーラーファサードの風 Ⅲ】

● 積水ハウス ネット・ゼロ・エネルギー・高級分譲マンション

積水ハウスは名古屋で、3階建て12戸規模の邸宅型マンションを2017年夏に着工し、2019年春に完
成させる。戸建住宅におけるZEH化が進みつつある中、住宅着工戸数の約半数を占め、住宅の二酸化
炭素CO2排出量の約3割を排出している集合住宅において、ZEH化の動きが求められている。時代を先
取りし、いち早くこれに取り組む。同社分譲マンション「グランドメゾン」は、単なる建物としての
「集合住宅」ではなく、住まい手一人ひとりのライフスタイルを重視し、住まいが集まめたタイプの
「住宅集合」というコンセプトとする。また、地域の生態系再生を目指す「5本の樹」計画に基づく
緑豊かな植栽帯を配し、年月を経るごとにより魅力的な住まいとなる「経年美化」を象徴する住環境
づくりとして、外構には自然石による石積みを施し、住まいのみならず周辺環境との調和にも寄与し
する。本計画では、都心に近い利便性や居住環境に優れた住宅街に「グランドメゾン」の基本思想に
加え、国内で初めてZEH基準を達成する快適性を備えた環境配慮型の分譲マンションを目指す。

本マンション計画では、「省エネ」の観点からLED照明等の各種省エネ設備を採用し、また窓のアル
ミ・樹脂複合サッシにアルゴンガス封入複層ガラスの採用等によって開口部の断熱性能を従来比2倍
に高め、住戸単位の断熱性能を1.3倍~1.6倍まで高める。また、「創エネ」では全住戸において、
平均4kWの太陽光発電システムと、燃料電池「エネファーム」を搭載。これらにより全住戸でネット・
ゼロ・エネルギーを達成。さらに停電時には太陽光発電システムとエネファームの停電時発電機能(
発電継続)による電力供給や、共用部に備える防災備蓄倉庫などの防災対策、エレベーターのフロア
制御などの防犯対策により、安全・安心にも配慮した住まいを目指す。これまでも、業界をリードす
る取り組みを環境大臣に約束する「エコ・ファースト企業」として、「グリーンファースト」ブラン
ドで戸建や賃貸住宅での環境対策を推進してきました。高級分譲マンションの「グランドメゾン」ブ
ランドにおいても、今後可能な物件のZEH化をはじめ、環境対策のレベルアップをより一層推進する。

 ● 2025年度の住宅太陽光14.4%増の23.8万戸 富士経済



10月18日、富士経済は、2016年度の太陽光発電設置住宅数は20.8万戸だったとの調査結果を発表。
うち、新築戸建住宅は44.7%の9.3万戸、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)は2.8万戸で新
築戸建住宅の30.1%を占めた。2025年度は、2016年度比14.4%増の23.8万戸、うち新築戸建住宅は
同44.1%増の13.4万戸、ZEHは同2.5倍の7.1万戸に拡大すると予測する。固定価格買取制度(FIT)の
買取価格低下により2013年度をピークに減少が続いていたが、今後ハウスメーカーやビルダーのZEH
への取り組みが本格化する。

また、全国規模で事業展開する大手ハウスメーカー8社の2016年度のZEH販売個数は1.7万戸で、ZEH
市場全体の60.7%を占める。同年度のZEH補助金交付件数の約2倍となり、補助金交付を受けずにZEH
基準をクリアする住宅が販売されている。一方で、ZEH採用率はハウスメーカーによって1~58%
と開きがある。さらに、大手ハウスメーカーにおける太陽光発電システムの採用率は3~8割を占め、
HEMS(住宅エネルギー管理システム)を標準搭載とする事業者が増加しているいるという。今後は、
ZEH販売戸数の拡大に向けて太陽光設置率の向上が課題とする事業者が増加している。また、LPガス
エリアではZEH熱源機器として、電気駆動のヒートポンプとガスを使う「ハイブリッド給湯器」を提
案するメーカーも見られると報告している。

ZEHの熱源選択においては、一次エネルギーの削減目標は設定されているものの、高効率機器である
こと以外の条件はない。大手以外のビルダーでは、販売価格が100万円を超える燃料電池コージェネ
レーション(熱電併給)システム「エネファーム」を提案するのは一般的ではなく、ヒートポンプ式
給湯機「エコキュート」を採用するケースが多いと予想している。


● 今夜の寸評:自公政権下で日本の武器輸出ビジネス拡大?!

9月13日、スイスの調査機関「スモール・アームズ・サーベイ」は、書を発表、2014年の取引
額は少なくとも60億ドル(約6千6百億円)に上り、13年より約2億ドル増加。日本は輸出額約
1億2百万ドル(約112億円)で国別順位で15位。また、北朝鮮が国連などの武器禁輸下、アフ
リカや中東諸国にロケット砲などの小火器の密輸を続けているとみられると指摘。小火器は拳銃や機
関銃など一人で操作できるものを指し、携帯用のロケット砲なども含まれる。輸出国のトップは米国
で輸出額は約11億ドル。イタリア、ブラジル、ドイツ、韓国と続いた。日本は14年4月に安倍政
権が「防衛装備移転三原則」を閣議決定、「武器輸出三原則」に基づいたそれまでの禁輸路線から輸
出拡大へかじを切っている。 北朝鮮の武器取引は第三国を仲介するなどしており実態は不明だが、
スモール・アームズ・サーベイの担当者は「輸出先には従来のウガンダ、リビアなどに加え、シリア
も入っているようだ」とした。市場価格より安く提供しているのが特徴で、サハラ砂漠以南のアフリ
カ諸国では小火器の製造を支援しているとみられるいう。日本は拳銃やライフル銃などを輸出してお
り、最大の輸出先は米国で60%を占め、次いでベルギー、カナダ(東京新聞、2017.09.14)。

※ 今夜のところ、裏付けデーターがとれなかったの壇件扱い。

 

  ● 今夜の一枚の絵

「発見!ナチス略奪絵画 執念のスクープの舞台裏」2012年、ドイツのマンションの一室で、ナ
チスによって強奪された1200点もの絵画が発見された!中にはピカソ、ルノワール、マティスな
ど世界的巨匠の名画が!世紀の発見のきっかけはある老人のささいな疑惑。これは大変面白かった。

   Oct. 10, 2017

【世界で一番美味いひとり宅めし】

体調も復調したのはいいのだが、やたらと腹が空く。暴飲(酒)暴食を避けながら、めんどくさがらずおいしい
ランチを作れないかと本を買って帰ってきた。『世界一美味い煮卵の作り方』(光文社で著者ははらぺこグリ
ズリーとペンネーム。曰く「人気レシピブログを運営する著者が行き着いた哲学は、「適当で楽で安く済んで、
でも美味しい料理こそ、本当に必要な料理じゃないだろうか?」ということだった。「ひとりぶん」レシピで、材料
はスーパーで手に入るもの、かつ一円単位で値段も明記。「適量」や「少々」という表記I切なし!簡単で美味
しいからこそ、料理のモチベーションが湧いてくる。「ひとりで食事をする時間」を最高に楽しくて美味しい時間
にするための最高の一冊、ここに誕生!」とあり、だまされてもともとと実践することに。このように第一弾は、
煮卵のつくりかた。①中米6分にて(個数は3個となっているが1個で調理する)。氷水につける流水で殻を剥
き、密封用事にゆで卵と麺つゆ百ミリミリを入れる。卵にキッチンペーパーのせ麺つゆ50ミリりっトルかけ、容
器を冷蔵庫半日つけ込む。(3個分費用は54円かかると前提でかかれている。これは面白そうだ。

 

 

 


死が二人を分かつまでは

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                      梁恵王篇 「仁とは何か」  /  孟子  

                                                    

      ※ 最上の防衛策:斉が燕を併合したので、諸侯たちは燕の救援を計画した。斉の宣
                王は孟子に相談をもちかけた。

        「諸侯のなかに、わたしを討とうと計画する者が多いが、どんな対策を講じた
        ものだろう」孟子が宣王に謁見して言った。

        「七十里目方しかない小国の君主でありながら、天下に号令した人があるのです。
        湯王(殷の王)です。千里四大きな家を建てようと方もある大国の君主でありな
        がら、他国の侵攻におびえるお方があろうとは。書経に、『湯王は、葛(かつ)
        から征伐を始め給う』と、あります。そのころ天下の人民は湯玉に非常な信頼を
        寄せておりました。征伐軍が東へ進めば、西の蛮族が残念がり、南へ進めば、北
        の蛮族が残念がり、『なぜ、わたしたちのほうをあとまわしになさるのか』と、
        旱天に慈雨を祈る気持で湯王を待ち望んだものです。湯王は、人民の日々の仕事
        を妨げることなく、暴君を殺して、人民を苦しみから款いました。まるで慈雨で
        も降ったように、人民は喜びあったものです。書経には、『君のおいでを待ちわ
        びる おいでになればよみがえる』と歌っています。

        いまあなたは、人民を虐げていた燕を征伐なさった。燕の人民は、これこそ水火
        の苦しみから救ってくださるお方だ、と思い、食べ物、飲み物を用意してあなた
        の軍隊をもてなしたのです。それなのにかれらの父兄を殺し、若者を捕え、宗廟
        を壊し、財宝を奪うようなことがどうして許されましょう。
        いうまでもなく、天下の諸侯はお国の強大化を恐れています。そこへあなたは領
        土を二倍にされ仁。しかも仁政を行なおうともなさらぬ。天下の諸侯があなたに
        兵を向ける原因はこれです。
        王よ、いますぐ命令を出し、年寄り子供を国に帰し、財宝をもとへもどしなさい。
        燕の人々と協議のうえ、君主を立てて、こちらの軍を撒退させなさい。そうすれ
        ばいまからでも危機が回避できます」

      ※ 土井淑平著『小国と連邦の思想-スイスの歴史に学ぶ-』(The Thought of Small 
                               State and  Federation)にも引用されている。また、殷の湯王の精神は二千五百年後
        の『日本国平和憲法』にも活きている。 




【世界で一番美味いひとり宅めし Ⅰ】

昨日は、気がつけば正午過ぎで、めんどくささと、食欲も全面回復しておらず、ご飯に卵かけとふり
かけは花鰹と生醤油でなく、普段はおにぎりに使う丸美屋食品工業株式会社の『混ぜ込みわかめ海じ
そ』振りかけ頂く、これが、小食とはいえ、たった40円たらずで絶妙の美味しい超特急の宅飯とな
る。お米、生卵、ふりかけ、生醤油、そして象印の炊飯器と、美まし国「日本の誰でも極旨ランチ」
である。ただし、加工食品を構成する材料が純国産かどうかは不詳。

 ● 今夜のアラカルト
牛角風温玉やっこ 
トロトロの半熟卵とピリ辛のちょっと前ブームとなった食べるラー油をマッチさせた癖となる。
①器に豆腐1/2丁(17円)を入れて電子レンジ(500W)で1分加熱する。②別の器に水大さ
じ1を入れて卵1個(18円)を割り入れ、電子レンジで30秒ほど加熱したら、大さじで卵を押さ
えながら器に残った水を捨てる。③卵をのせやすくするためJの豆腐の上部中央をスプーンで一口分
すくう.へこんだ部分に食べるラー浦小さじ2と②の卵をのせる。

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

   第58章 火星の美しい運河の話を聞いているみたいだ

  「いいですよ。会って話をしましょう」と私は言った。「それで、ぼくはどこにうかがえばい
 いのでしょう?」
 「いいえ、いつものように私たちがおたくにうかがいます。その方がいいと思うんです。もちろ
 ん先生の方がそれでよるしければということですが」
 「けっこうです」と私は言った。「ぼくの方にはとくに予定はありません。いつでもご都合のい
 いときにいらしてください」
 「今これからでもかまいませんか? 今日ほとりあえず学校を休ませていますから。もちろん、
 もしまりえがそちらに行くことを承知すればですが」
 「君は何もしやべらなくていい。ぼくの方から話したと伝えてください」と私は言った。

 「承知しました。正確にそのように伝えます。いろいろとご迷惑をおかけします」とその美しい
 叔母は言った。そして静かに電話が切れた。
 二十分後にまた電話のベルが鴫った。秋川笙子だった。
 「今日の午後三時頃にそちらにうかがわせていただきます」と彼女は言った。「まりえもそのこ
 とを承知しました。といっても、いことがいくつかあるんだと、彼女にそう一度小さく肯いただ
 けですが」

  三時に待っていると私は言った。

 「ありがとうございます」と彼女は言った。「いったい何か起こっているのか、これからどうす
 ればいいのか、何もわからなくて、ただ途方に暮れているんです」
 ぼくだってそれは同じだと言いたかったが、言わなかった。彼女が求めているのはそういう返
 事ではないはずだ。
 「できるだけのことはやってみます。うまくいくかどうか自信はありませんが」と私は言った。
 そして電話を切った。

  受話器を置いてから私はまわりをそっと見回した。どこかに騎士団長の姿が見えないものかと
 思って。しかしどこにもその姿は見えなかった。私は騎士団長のことを懐かしく思った。その姿
 や、その風変わりなしゃべり方のことを。しかしもう二度と彼の姿を見ることはあるまい。私が
 この手でその小ぷりな心臓を刺し貫いて殺害したのだ。雨田政彦がうちに持ってきた鋭い出刃包
 丁を使って。秋川まりえをどこかから救出するために。その場所がどこであったのかを、私は知
 らなくてはならない。

 Nov. 4, 2013


   第59章 死が二人を分かつまでは 

  秋川まりえがやってくる前に、私はもう少しで完成するはずの彼女の肖像画をあらためて眺め
 た。それが完成したときどのような画面になるかを、私は鮮やかに思い浮かべることができた。
 しかしその画面が完成させられることはない。それは残念ではあるが、やむを得ないことだった。
  なぜその肖像画を描き上げてはならないのか、私にはまだ正確に説明することはできなかった。
 もちろん論理立てて証明なんてできない。ただそうしなくてはならないと感じるだけだ。でもそ
 の理由はおいおいわかってくるだろう。とにかく私は大きな危険を含んだものを相手にしている
 のだ、どこまでも注意深くならなくてはならない。

  私はそれからテラスに出て、デッキチェアに座り、向かいにある免色の白い屋敷をあてもなく
 眺めた。色を免れた白髪のハンサムな免色さん。「少し玄関で話をしただけだが、なかなか興味
 深い人物のようだ」と政彦は言った。「とても興味深い人物だよ」と私は控えめに訂正した。と
 い人物だよ、と私は今、あらためて言い直した。 
  三時少し前に、見慣れたブルーのトヨタ・プリウスが坂道を登ってきて、家の前のいつもと同
 じ場所に停止した。エンジンが止まり、運転席のドアが間いて秋川笙子が降りてきた。両膝を揃
 えて、身体をくるりと回すようにして優雅に。それから少し時間をおいて、助手席から秋川まり
 えが降りてきた。いかにも面倒くさそうにのっそりとした動作で。朝までは空を覆っていた雲は
 とこかに吹き払われ、あとにはきっぱりとした初冬の青空が広がっていた。冷ややかさを含んだ
 山からの風が二人の女性の柔らかな髪を不規則に握らせていた。秋川まりえは額に落ちた前髪を
 煩わしげに手で払った。

  まりえは珍しくスカートをはいていた。膝までの長さの紺のウールのスカートだった。その下
 にくすんだブルーのタイツをはいている。そして白いブラウスの上にVネックのカシミアのセー
 ターを着ていた。セーターの色は深い葡萄色だった。靴は焦げ茶のローファー。そういう格好を
 していると彼女は、上品な家庭で大事に育てられた、ごく当たり前の健全で美しい少女のように
 見えた。エキセントリックなところはうかがえない。ただしやはり胸の膨らみはほとんどなかっ
 た。

  秋川笙子は今日は、淡いグレーのぴったりとしたパンツをはいていた。良く磨かれた黒いロー
 ヒブールの靴。そして丈の長い白のカーディガンを着ていた。腰のところにベルトがついている。
 そしてしっかりとしたその胸の膨らみは、カーディガンの上からも明らかにうかがえた。手には
 黒いエナメルのパースのようなものを持っていた。女性はいつも何かしらそういうものを手にし
 ている。中にどんなものが入っているのか、見当もつかないけれど。まりえは何も手にしていな
 かった。いつものように両手を突っ込むポケットがないので、手持ちぶさたのように見えた。

   若い叔母と姪の少女、年齢の違い、成熟の度合いの差こそあれ、どちらも美しい女性だった。
 私は彼女たちの姿を窓のカーテンの隙間から観察していた。二人が並ぶと、世界が少しだけ明る
 さを増したような気配があった。クリスマスと新年がいつも連れだってやってくるみたいに。
  玄関のベルが鳴り、私はドアを開けた。秋川里子が私に丁寧に挨拶をした。私は二人を中に入
 れた。まりえはまっすぐ唇を結んだまま、ひとことも目をきかなかった。誰かに上下の唇をしっ
 かり縫い合わされてしまったみたいに。意志の堅い少女なのだ。一度こうと決めたらあとに引か
 ない。
  私は二人をいつものように居間に案内した。秋川里子は今回のことではいろいろとご迷惑をお
 かけして、と長々しく詫びかけたので、私はそれを止めた。社交的な会話を交わしているような
 時間の余裕はない。

 「もしよるしければ、しばらくまりえさんと二人だけにしていただけますか?」と私は単刀直入
 に言った。「その方がいいと思うんです。二時間ほどしたら、ここに迎えに来てください。それ
 でかまいませんか?」
 「ええ、もちろん」と若い叔母は少し戸惑ったように言った。「まりちゃんがそれでかまわなけ
 れば、私の方はもちろんかまいません」

  まりえはとても小さく一度肯いた。それでかまわないということだ。
  秋川笙子は小さな銀色の腕時計に目をやった。
 「五時前にまたここにおうかがいします。そのあいだ自宅に待機しておりますので、もし何かご
 用がありましたらお電話をください」  

   何か用事があったら電話をする、と私は言った。

  何か心にかかることがあるように、秋川笙子は黒いエナメルのパースを手に握ったまましばら
 くそこに無言で立っていた。それから思い直したように息をつき、にっこりと微笑み、玄関に向
 かった。プリウスのエンジンがかかり(音はよく聞き取れなかったが、たぶんかかったのだろ
 う)、車は坂道の方に消えていった。そして家の中にいるのは、秋川まりえと私の二人だけにな
 った。

  少女はソファに腰掛け、唇をまっすぐに結び、自分の膝をじっと見ていた。タイツに包まれた
 膝はひとつにしっかりと合わされていた。ひだのついた白いブラウスはとてもきれいにアイロン
 がかけられていた。





  しばらくのあいだ深い沈黙が続いた。それから私は言った。「ねえ、君は何も話さなくていい。
 黙っていたいのなら、好きなだけ黙っていればいい。だからそんなに緊張することはない。ぼく
 がI人でしやべるから、君はただそれを関いていればいいんだ。わかった?」

  まりえは顔を上げて私を見た。しかし何も言わなかった。肯きもしなかったし、首を横に振り
 もしなかった。ただじっと私を見ていた。そこにはどのような感情も浮かんでいなかった。彼女
 の顔を見ていると、大きくて真っ白な冬の月を見ているみたいな気がした。彼女はたぶん自分の
 心を一時的に月のようにしているのだろう。空に浮かぶ堅い岩のかたまりのように。
 「まず鍛初に君に手伝ってもらいたいことかあるんだ」と私は言った。「スタジオに来てくれな
 いか?」

  私か椅子から起ち上がってスタジオに入って行くと、少女も少ししてソファから起ち上がり、
 私のあとをついてきた。スタジオの中はひやりとしていた。私はまず石油ストーブをつけた。窓
 のカーテンを開けると、明るい午後の陽光が山肌を照らしているのが見えた。イーゼルの士には
 描きかけの彼女の肖像画が置かれていた。それはほぼ完成に近づいていた。まりえはその絵にち
 らりと目をやり、それから見るべきではないものを見たように、すぐに視線を逸らせた。
  私は床に屈み込んで、雨田典彦の『騎士団長殺し』をくるんでいた布をはがし、その線を壁に
 かけた。そして秋川まりえをスツールに座らせ、その絵をまっすぐ正面から見せた。

 「この絵は前に見たことがあるね?」

  まりえは小さく肯いた。

 「この絵のタイトルは『騎士団長殺し』っていうんだ。少なくとも包みの名札にはそう書かれて
 いた。雨田典彦さんが描いた絵で、いつ描かれたのかはわからないが、完成度はきわめて高い。
 構図右京晴らしいし、技法も完璧だ。とりわけ一人ひとりの人物の描き方がリアルで、強い説得
 力を待っている」

  私はそこで少し間を置いた。私の言ったことがまりえの意識に落ち着くのを待った。それから
 続けた。

 「でもこの絵はこれまでずっと、この家の屋根裏に隠されていた。人目につかないように紙にく
 るまれたまま、おそらくは長い年月そこで埃をかぶっていた。で右ぼくがたまたま見つけて、運
 び下ろしてここに待ってきた。作者以外にこの絵を目にしたことがあるのは、たぶんぼくと君だ
 けだろう。君の叔母さんも最初の日にこの絵を見たはずだが、なぜかまったく興味を惹かれなか
 ったようだ。雨田典彦がどうしてこの絵を屋根裏に隠していたのか、その理由はわからない。こ 
 んなに見事な絵なのに、彼の作品の中でも傑作の部類に属する作品なのに、なぜわざわざ人目に
 触れないようにしておいたのだろう?」

  まりえは何も言わず、スツールに腰掛けて、『騎士団長殺し』を真剣な目でただじっと見つめ
 ていた。
  私は言った。「そしてぼくがこの絵を発見してから、それが何かの合図であったかのように、
 いろんなことが次々に起こり始めた。いろんな不思議なことが。まず免色さんという人物がぼく
 に積極的に接近してきた。谷の向こう側に往む免色さんだ。君は彼の家に行ったことがあるよ
 ね」

  まりえは小さく肯いた。

 「その穴を開くと、中から出てきたのは騎士団長だった。この絵の中にあるのと同じ人だよ」
  私は絵の前に行って、そこに描かれた騎士団長の姿を指さした。まりえはその姿をじっと見て
 いた。しかし表情に変化はなかった。
 「これとそっくり同じ顔をして、同じ服装をしている。ただし体長は六十センチほどしかない。
 とてもコンバクトなんだ。そしてちょっと風変わりなしゃべり方をする。でも彼の姿はどうやら、
 ぼく以外の人の目には見えないらしい。彼は自分のことをイデアだと言う。そして自分はあの穴
 の中に閉じこめられていたんだと言った。つまりぼくと免色さんが彼を、穴の中から解放したわ
 けだ。君はイデアというのが何か知っているかな?」

  彼女は首を振った。

 「イデアというのは、要するに観念のことなんだ。でもすべての観念がイデアというわけじゃな
 い。たとえば愛そのものはイデアではないかもしれない。しかし愛を成り立たせているものは間
 違いなくイデアだ。イデアなくして愛は存在しえない。でも、そんな話を始めるときりがなくな
 る。そして正直言って、ぼくにも正確な定義みたいなものはわからない。でもとにかくイデアは
 観念であり、観念は姿かたちを持だない。ただの抽象的なものだ。でもそれでは人の目には見え
 ないから、そのイデアはこの絵の中の騎士団長の姿かたちをとりあえずとって、いわば借用して、
 ぼくの前にあらわれたんだよ。そこまではわかるかな?」

 「だいたいわかる」とまりえは初めて目を間いた。「その人には前に会ったことがあるから」
 「会ったことがある?」、私はびっくりして、まりえの顔を正面から見た。しばらくのおいた言
 葉が出てこなかった。それから騎士団長が伊豆高原の療養所で私に言ったことをはっと思い出し
 た。 

 少し前に会っできたところだ、と彼は言っていた。短く話もしてきたと。

 「君は騎士団長に会ったことかあるんだね?」

  まりえは肯いた。

 「いつ、どこで?」
 「メンシキさんのうちで」と彼女は言った。
 「彼は君に何を言ったんだろう?」

  まりえは再び唇をまっすぐ合わせた。今はそれ以上話したくないという意思表示のようだった。
 だから私は彼女から何かを聞き出すことをあきらめた。
 
 「この絵からは、ほかにもいろんな人物が現れて出てきた」と私は言った。「両面の左下のとこ
 ろに、型もじやの変な顔をした男の姿が見えるだろう。これだよ」

  私はそう言って、顔ながを指さした。

 「ぼくはこいつのことを仮に〈顔なが〉と呼んでいるんだけど、とにかく異形のものだ。大きさ
 はやはりコンパクトで、体長七十センチほどだった。彼もやはり両面から抜け出すようにしてぼ
 くの前に現れ、絵と同じように蓋を持ち上げて穴を開き、ぼくをそこから地底の国に導いてくれ
 た。とはいっても、手荒く無理強いして案内させたようなものだけど」

  まりえは長いあいだ顔ながの姿を見ていた。しかしやはり何も言わなかった。
  私は続けた。「それからぼくはその薄暗い地底の国を歩いて抜け、丘を越え、流れの速い川を
 渡り、そしてここにいる若くて綺麗な女性に出会った。この人だ。モーツァルトの歌劇『ドン・
 ジョバンニ』の彼にあわせて、彼女をドンナ・アンナと呼ぶことにする。やはり背丈は小さい。

 彼女はぼくを洞窟の中の横穴に導き入れてくれた。そして死んだ妹と一緒に、ぼくがそこをくぐ
 り抜けるのを励まし、肋けてくれた。もし彼女たちがいなかったら、ぼくはあの横穴をくぐり抜
 けることができず、そのまま地底の国に閉じこめられていたかもしれない。そしてひょっとした
 ら(もちろんこれは推測に過ぎないわけだけど)、ドンナ・アンナは雨田典彦さんが若くしてウ
 ィーンに留学していたときの恋人だったかもしれない。彼女は七十年近く前に、政治犯として処
 刑された」

  まりえは絵の中のドンナ・アンナを見ていた。まりえの眼差しはやはり白い冬の月のように表
 情を欠いていた。
  あるいはドンナ・アンナはスズメバチに刺されて亡くなった、秋川まりえの母親であるかもし
 れない。彼女がまりえの身を護ろうとしていたのかもしれない。ドンナ・アンナは同時にいろん
 なものを表象しているのかもしれない。でももちろん私はそのことは口に出さなかった。

 「それからここにもう一人の男がいる」と私は言った。そして床に裏返しに置かれていたもう一
 枚の緒を表向きにした。そしてそれを壁に立てかけた。描きかけの「白いスバル・フォレスター
 の男」の肖像画だ。普通に見れば、キャンバスがただ三色の緒の典で塗りつぶされているように
 しか見えない。しかしその厚い緒の典の奥には、白いスバル・フォレスターの男の姿が描かれて
 いる。私にはその姿が見える。しかしほかの人の目には映らない。

 「この緒は前にも見たね?」

  秋川まりえは何も言わずにこっくりと肯いた。

 「君はこの絵 はもう完成していて、このままでいいと言った」

  まりえはも一度肯いた。

 「ここに描かれているのは、あるいはここにこれから描かれなくてはならないものは、〈白いス
 バル・フォレスターの男〉と呼ばれる人物だ。ぼくはこの男に宮城県の小さな海岸の町で出会っ
 た。二度出会った。とても謎めいた、意味ありげな出会いだった。彼がどういう人物なのかぼく
 は知らない。名前も知らない。でもぼくはあるときその男の肖像画を描かなくてはと思った。と
 ても強くそう思った。それで彼の姿かたちを思い出しながら描き始めたんだけど、どうしても描
 き終えることができなかった。だからこうして終の色で塗りつぶされたままになっている」
 まりえの唇は相変わらず一直線に結ばれていた。

  それからまりえは首を横に振った。

 「その人はやはり怖い」とまりえは言った。
 「その人?」と私は言った。そして彼女の視線を追った。まりえは私の描いた『白いスバル・フ
 ォレスターの男』を見つめていた。
 「それはこの絵のこと? 白いスバル・フォレスターの男のこと?」

  まりえはこっくりと肯いた。彼女は怯えながらも、その終から視線をそらせることができない
 ように見えた。

 「君にはその男の姿が見えるんだ?」
  まりえは骨いた。「塗られた結の其の奥にその人がいるのが見える。そこに立ってわたしのこ
 とを見ている。黒い帽子をかぶって」

  私はその絵を床から取り上げ、もう一度裏返しにした。「君にはこの絵の中の、白いスバル・
 フォレスターの男の姿が見える。普通の人には見えないはずのものが」と私は言った。「でもも
 うこれ以上彼のことは見ない方がいい。君にはたぶん、まだ見る必要のないものだと思うから」
 まりえは同意するように肯いた。
  <白いスバル・フォレスターの男〉がこの世界に本当に存在するものなのかどうか、それもぼ
 くにはわからない。あるいは誰かが、何かが、この男の姿かたちを一時的に借用しているだけか
 もしれない。イデアが騎士団長の姿かたちを借りたのと同じように。あるいはぼくはそこに、自
 分白身の投影を見ているだけなのかもしれない。でも本当の暗闇の中ではそれはただの投影なん
 かじやなかった。それは確かな触感を持つ、生きて動いている何かだった。その土地の人々はそ
 れを〈二重メタファー〉という名で呼んだ。ぼくはいつかその絵を完成させたいと思っている。
 でも今はまだ早すぎる。今はまだ危険すぎる。この世界には簡単に明るみに引き出してはならな
 いものがあるんだ。しかしぼくはあるいは……」

  まりえは何も言わず、じっと私の顔を見ていた。私はそのあとをうまく続けることができなか
 った。

 「……とにかくいろんな人の手助けを受けて、ぼくはその地底の国を横断し、挟くて真っ暗な横
 穴を抜けて、この現実の世界になんとか帰り着いた。そしてそれとほぼ同時に、それと並行して、
 君もどこかから解放されて戻ってきた。その巡り合わせはただの偶然とは思えないんだ。君は金
 曜日からおおよそ四日間どこかに消えていた。ぼくも士曜日から三日間どこかに消えていた。二
 人とも火曜日に戻ってきた。その二つの出来事はとこかできっと結びついているはずだ。そして
 騎士団長がそのいねば継ぎ目のような役目を果たしていた。しかし彼はもうこの世界にはいない。
 彼はもう役目を終えてどこかに去ってしまったんだ。あとはぼくと君と、二人だけでこの環を閉
 じるしかない。ぼくの言ってることを信じてくれる?」

  まりえは肯いた。

 「それが今ここでぼくの話したかったことだ。そのために君と二人だけにしてもらったんだ」
 
  まりえは私の顔をじっと見ていた。私は言った。

 「本当のことを話しても、ほかの誰にも理解してはもらえないと思った。たぶん頭がおかしくな
 ったと思われるだけだろう。なにしろ筋の通らない、現実離れした話だからね。でもきっと君に
 なら受け入れてもらえると思ったんだ。そしてまたこの話をするからには、相手にこの『騎士団
 長殺し』の終を見せなくてはならない。そうしないと話が成立しないからね。でもぼくとしては
 君以外のほかの誰にも、この終を見せたくなかった」

  まりえは黙って私の顔を見ていた。その瞳には少しずつ生命の光が戻ってきたようだった。

  「これは雨田典彦さんが精魂を傾けて描いた絵だ。そこには彼の様々な深い思いが詰まってい
 る。役は自ら血を流し、肉を削るようにしてこの終を描いたんだ。おそらく一生に一度しか描け
 ない種類の絵だ。これは彼が自分自身のために、そしてまたもうこの世界にはいない人々のため
 に描いた終であり、言うなれば鎮魂のための絵なんだ。流されてきた多くの血を浄めるための作
 品だ」

 「チンコン?」
 「魂を鎮め、落ち着かせ、傷を癒すための作品だ。だから世間のつまらない批評や賞賛は、ある 
 いは経済的報酬は、彼にとってはまったく意味を持たないものだった。むしろあってはならない
 ものだった。この経が描かれ、この世界のどこかに存在しているというだけで、彼にはもう十分
 だったんだ。たとえ紙にくるまれて、屋根裏に隠され、他の誰に見られなかったとしてもね。そ
 してぼくは彼のそういう気持ちを大事にしたいと思う」

  しばらく深い沈黙が続いた。

 「君は昔からよくこのあたりに遊びに来ていた。秘密の通路を通って。そうだね?」

  秋川まりえは肯いた。

 「そのときに雨田典彦さんに会ったことはある?」
 「要を目にしたことはある。でも会って話をしたことはない。こっそり隠れて遠くから眺めてい
 ただけ。そのおじいさんが経を描いていたところを。わたしはひとの土地に勝手にシンニュウし
 ていたわけだから」

  私は肯いた。その光景をありありと思い浮かべることができた。植え込みの陰に隠れて、まり
 えがこっそりとスタジオの中を覗いている。雨田典彦がスツールに腰掛け、意識を集中して絵筆
 をふるっている。誰かが自分を眺めているかもしれないというような考えは彼の頭をよぎりもし
 ない。

 「わたしに手伝ってほしいことかあると、先生はさっき言った」と秋川まりえが言った。
 「そうだった。そのとおりだ。君にひとつ手伝ってもらいたいことがあるんだ」と私は言った。
 「この二枚の経をしっかり包装して、人目に触れないように屋坦畏に隠してしまいたい。『騎士
 団長殺し』と『白いスバル・フオレスターの男』を。ぼくらはもうこれらの経を必要とはしない
 いは経済的報酬は、彼にとってはまったく意味を持たないものだった。むしろあってはならない
 ものだった。この経が描かれ、この世界のどこかに存在しているというだけで、彼にはもう十分
 だったんだ。たとえ紙にくるまれて、屋根裏に隠され、他の誰に見られなかったとしてもね。そ
 してぼくは彼のそういう気持ちを大事にしたいと思う」

  しばらく深い沈黙が続いた。

 「君は昔からよくこのあたりに遊びに来ていた。秘密の通路を通って。そうだね?」

  秋川まりえは肯いた。

 「そのときに雨田典彦さんに会ったことはある?」
 「要を目にしたことはある。でも会って話をしたことはない。こっそり隠れて遠くから眺めてい
 ただけ。そのおじいさんが経を描いていたところを。わたしはひとの土地に勝手にシンニュウし
 ていたわけだから」



In pictures: Germany begins publishing list of works found in Nazi art stash

 
それにしても秋川まりこは白いスバル・フォレスターの男>の何におびえたのだろうか。このにきて
この作品のコアを予感させるものである。

                                      この項つづく
 

 ● 今夜の一曲

プロ薬も悲願の日本シリーズ優勝に王手をかけ熾烈な戦いが繰り広げられている。『涙の敗戦投手』 
楽天の則本昂大投手が泣き崩れている写真が飛び込む。と、同時に舟木一夫の『涙の敗戦投手』が
よみがいる。

  ∮ みんなの期待 背にうけて
    力のかぎり 投げた球
    汗にまみれた ユニフォーム

 

    だけど敗れた 敗戦投手
    落ちる涙は うそじゃない

    味方と敵に 別れても
    斗いすめば 友と友
    勝つも負けるも 時の運
    肩をたたいて 手に手をとろう
    いっか笑顔で また逢おう ♪

                      作詞 丘 灯至夫  作曲 戸塚三博 

 

最新テンプルモータ技術

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                      梁恵王篇 「仁とは何か」  /  孟子  

                                                    

      ※ なんじの行ないは、なんじにかえる上の防衛策:鄒(すう)と魯(ろ)が戦
        ったときのこと、鄒の穆公が孟子にたずねた。「「こんどの戦でわが軍の部
        将が三十三人も戦死した。だが、人民はだれひとり部将のために命を投げ出
        さなかった。いっそ殺してやりたいくらいだが、全部を殺すわけにはゆかな
        い。といって捨てておけば、これからも平気で上官を見殺しにするだろう。
        一体、どうしたものであろう」「飢饉の年にあなたの国では、多くの年寄り
        や子供がのたれ死にし、何千とも知れない若者が逃げ出しました。しかも、
        王室の穀倉、金倉には五穀財宝が満ちあふれていました。部将たちはそれを
        見て見ぬふりをしていました。自分の職務を怠けて、人民を見殺しにしたの
        です。曽子(孔子の弟子)が言っています。
        『心せよ、心せよ。なんじの行ないは、なんじにかえる』、いま人民はよう
        やく怨みを晴らしたのです。その人民をとがめるのは筋違いというものです。
        あなたが仁政を行なえば、当然、人民は上官のために一命を投げ出すでしょ
        う」

       〈鄒〉 現在の山東省都県にあった小国。孟子の出生地。
       〈穆公〉古書には、孟子の進言をいれて仁政を行ない、人民の信望を得たとい
           う伝記がみられる。 

【ベアリングレス最新テンプルモータ技術】

❏  特開2017-192295  電磁回転駆動装置及び回転装置

                  レヴィトロニクス ゲーエムベーハー 社

【概要】

テンプルモータ(temple motor)の構成された電磁回転駆動装置が知られている。本発明は、この実施
例に関する。テンプルモータは、図1及び図2の斜視図にそれぞれ示すように、2つの実施例が従来
知られている。より良く理解するため、図2のテンプルモータの軸線方向の断面を図3に示す。図1
~図3が先行技術の装置を図示。ここでは、符号にそれぞれ逆コンマ/ダッシュを付す。テンプルモ
タは、全体として、符号1’で特徴付けられる。テンプルモータの特徴として、ステータ2’が、軸
線方向A’と平行に延在する棒形状の長手方向リム41’をそれぞれ備える複数のコイルコア4’を
有する。なお、その方向は、ロータ3’の所望の回転軸線、つまり、ロータ3’が、軸線方向に直交
配設された径方向面で、ステータ2’に対して中心且つ傾斜しない位置条件の動作状態の回転軸線に
より定義される軸線方向A’を意味する。図1~図3では、のロータ3’の円盤状の永久磁石でそれ
ぞれ構成した、ロータ3’の各磁気有効コア31’のみを示す。永久磁石の磁化は、それぞれ、符号
なし矢印で示す。


さらに、電磁回転駆動装置は、ベアリングレスモータの原理に従い構成/動作する。なお、ベアリン
グレスモータという用語は、磁気ベアリングが別途設けられることなく、ロータがステータに対し完
全に磁気支持される電磁回転駆動装置をさす。このため、ステータ(固定子)は、ベアリング駆動ス
テータとして構成され、電気駆動のステータ(固定子)と磁気支持のステータとの両方を兼ね備える。
回転磁場は、電気巻線を用い作り、一方では、ロータにその回転を生じさせるトルクを与え、他方
では、ロータの径方向位置を能動的に制御/調整が可能となるようロータに要望通りに設定可能な、
せん断力を与える。ロータの完全な磁気支持を伴う別個の磁気ベアリングの不在が、ベアリングレス
モータの名付けられる特性を有す。

機械ベアリングレスモータは、例えば血液循環ポンプ等の敏感な物質を搬送する装置、または、例え
ば製薬業界やバイオテクノロジー業界のごとく高純度要求が課される装置、または例えば半導体産業
向けのスラリーポンプやミキサ等の、機械ベアリングを短期間で破壊する研磨物質を搬送する装置と
いった、ポンプ装置、混合装置、撹拌装置に適し、また、半導体製造において、例えばフォトレジス
トや他の物質でコーティング処理を行う際に、ウェハの支持回転にも用いられる。圧送、撹拌、混合
用途のベアリングレスモータの原理の利点は、電磁駆動装置のロータと、ポンプ、攪拌機、ミキサロ
ータを兼ね備えた統合ロータの設計に由来し、非接触磁気支持に加えて、ここでは、非常にコンパク
トで場所を取らない構成による利点もある。

また、ベアリングレスモータの原理は、ロータをステータから容易に分離できる。例えばロータを1
回きりの使用のための使い捨て部分として設計できる。使い捨ての適用は、高い純度要求から、処理
中に取り扱う物質と接触する全ての部品を、例えば蒸気滅菌による複雑で高負担費用法で事前に洗浄・
殺菌作業をなくし、1回きりの構成で使い捨て可能である。ここでは、例として製薬業界/バイオテ
クノロジー業界向けに適し、溶液及び懸濁液の調製が行われ、物質の配合/搬送には注意を要する。
図1~図3に示すテンプルモータ1’の実施例において、コイルコア4’、ここでは例えば6個のコ
イルコア4’は、棒形状の長手方向リム41’と共に、ロータ3’(内部ロータ)の周りに円状/等
距離に配置され、外部ロータとしての実施例において、リング形状を有し、コイルコアは、ロータに
対して内向きに配設され、軸線方向A’に延在し、寺院の柱を連想させる複数の棒形状の長手方向リ
ム41’が、テンプルモータの名前の由来である。

棒形状の長手方向リム41’は、それぞれ、図示の下部における第1端部から図示の上部における第
2端部まで、軸線方向A’に延在する。第1端部は、隣接する2つのコイルコア4’間にそれぞれ配
置された複数のセグメントを備えるリフラックス5’により、径方向に互いに接続される。永久磁石
ロータ3’は、長手方向リム41’の第2端部間に配置され、動作状態において軸線方向A’を中心
に回転する。ロータ3’は、ステータ2’に対して非接触に磁気駆動され、非接触に磁気支持され、
ロータ3’の径方向位置は、長手方向リム41’の第2端部間の中心位置に位置付調節する。

長手方向リム41’は、ロータ3’の磁気駆動や磁気支持に必要な電磁回転磁場を発生させる巻線
を有する。図1~図3に示す実施例では、巻線は、個別のコイル61’が各長手方向リム41’に巻
き付けられるように、つまり各コイル61’のコイル軸線がそれぞれ軸線方向A’に延在するように
構成される。なお、テンプルモータは、コイル61’のコイル軸線が所望の回転軸線と平行に延在し
ていたり、コイル61’又は巻線が磁気ロータ面C’内に配置されていなかったりする。磁気ロー
タ面C’は、ロータ3’の磁気有効コア31’の磁気中心面である。この、軸線方向A’に直交する
面において、ロータ3’又はロータ3’の磁気有効コア31’が動作状態に支持。原則的に、図1~
図3に示す円盤としてのロータ3’の磁気有効コア31’の実施例において、磁気ロータ面C’は、
軸線方向A’に直交するロータ3’の磁気有効コア31’の幾何学的中心面である。図1~図3に示
すように、コイル61’は、磁気ロータ面C’の下、好ましくは、ロータ3’の磁気有効コア31’
の下に配置。

よく実施されるテンプルモータの実施例を図2及び図3に示す。この実施例において、各コイルコア4
’は、長手方向リム41’に加えて、長手方向リム41’の第2端部にそれぞれ設けられ、長手方向
リム41’に略直角の径方向に延在する横リム42’を備えている。この実施例では、各コイルコア
4’はL字形状を有し、横リム42’がそのL字形の短いリムを形成している。ロータ3’は、横リ
ム42’の間に配置される。テンプルモータとしてのこの実施例の利点の1つは、磁気ロータ面C’
に、ステータの巻線又は巻線ヘッドが存在しないことである。これにより、例えば遠心ポンプにテン
プルモータを適用する場合に、ステータの巻線による干渉なしに、遠心ポンプの出口をポンプロータ
のインペラが回転する面内に設けることができる。出口を軸線方向A’に対してポンプロータの羽根
と同じ高さに設けることが可能となる。このようにポンプ出口を中心/中央に配置することは、流体
力学的に、傾斜に対するロータの受動的支持及び安定化にも好ましい。

下図5のように、非接触に磁気駆動可能であり、コイルフリー且つ永久磁石フリーに構成された、磁
気有効コア31を有するロータ3と、動作状態でロータ3を所望の回転軸線の周りで非接触式に磁気
駆動可能にするステータ2とを有するテンプルモータとして構成された電磁回転駆動装置が提供され
る。ステータ2は、所望の回転軸線に平行な方向に第1端部43から第2端部44まで延びる棒形状
の長手方向リム41をそれぞれ有する複数のコイルコア4を有し、全ての第1端部43がリフラック
ス5によって接続されている。電磁回転磁場を発生させるための複数の巻線6,61が設けられ、各
巻線が長手方向リム41の1つを包囲する。複数のコイルコア4は、予磁化永久磁束を生成可能な複
数の永久磁石45,46を有する。


【図1】従来技術に係るテンプルモータの斜視図
【図2】従来技術に係る他のテンプルモータの斜視図
【図3】図2のテンプルモータの軸線方向の断面
【図4】本発明に係る電磁回転駆動装置の第1実施例の斜視図
【図5】本発明に係る電磁回転駆動装置の第2実施例の斜視図
【図51】混合装置図50の第2実施例の軸線方向の断面
【図52】使い捨て装置と再利用可能装置とを備える、本発明に係る回転装置の第3実施例の軸線方
     向の断面
【図53】使い捨て装置と再利用可能装置とを備える、本発明に係る回転装置の第4実施例の軸線方
     向の断面

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   


   第59章 死が二人を分かつまでは   

  私は肯いた。その光景をありありと思い浮かべることができた。植え込みの陰に隠れて、まり
 えがこっそりとスタジオの中を覗いている。雨田典彦がスツールに腰掛け、意識を集中して絵筆
 をふるっている。誰かが自分を眺めているかもしれないというような考えは彼の頭をよぎりもし
 ない。

 「わたしに手伝ってほしいことがあると、先生はさっき言った」と秋川まりえが言った。
 「そうだった。そのとおりだ。君にひとつ手伝ってもらいたいことがあるんだ」と私は言った。
 「この二枚の絵をしっかり包装して、人目に触れないように屋根裏に隠してしまいたい。『騎士
 団長殺し』と『白いスバル・フオレスターの男』を。ぼくらはもうこれらの絵を必要とはしない
 と思うから。できれば君にその作業を手伝ってもらいたい」

  まりえは黙って肯いた。実のところ、私は一人だけでその作業を行いたくなかった。作業を実
 際に手伝ってもらうというだけではなく、私は目撃者と立会人を必要としていた。秘密を分かち
 あえる、口の堅い誰かを。
  台所から紙紐とカッターナイフを持ってきた。そして私とまりえは二人で『騎士団長殺し』を
 しっかりと梱包した。もとあった茶色の和紙で丁寧に包み、組紐をかけ、その上から白い布をか
 ぶせ、その上からもまた紐をかけた。簡単にははがされないよう、とても厳重に。『白いスバ
 ル・フオレスターの男』はまだ絵の具が乾ききっていなかったので、簡単に包装するだけにとど
 めた。そしてそれらを抱えて、客用寝室のクローゼットに入った。私は脚立に乗って天井の蓋を
 開け(考えてみれば、それは顔ながが押し開いていた四角い蓋によく似ていた)、屋根裏に上が
 った。屋根裏の空気はひやりとしていたが、むしろ心地の良い冷ややかさだった。まりえが下か
 ら絵を差し出し、私はそれを受け取った。まず『騎士団長殺し』を受け取り、次に『白いスバ
 ル・フオレスターの男』を受け取った。そしてその二つを壁に並べて立てかけた。

  そのときに私ははっと気がついた。その屋根裏にいるのが私一人だけではないことに。そこに
 は誰かの気配があった。私は思わず息を呑んだ。誰かがここにいる。でもそれはみみずくだった。
 最初にここに上がったときに見たのとおそらく同じみみずくだ。その夜の鳥は、前と同じ梁の上
 で、同じようにひっそりと身体を休めていた。私か近くに寄っても、とくに気にはしないようだ
 った。それも前と同じだった。

 「ねえ、ここに来てごらん」と私は下にいるまりえに小さく声をかけた。「素敵なものを見せて
 あげる。音を立てないようにそっとあ加ってきて」

  彼女はなんだろうという領で脚立に乗り、開口部から屋根裏に上がってきた。私は両手で彼女
 を上に引っ張り上げた。屋根裏の床にはうっすらと白く埃が積もっていたから、ウールの新しい
 スカートが汚れるはずだったが、彼女はそんなことは気にもかけなかった。私はそこに腰を下ろ
 し、みみずくのとまっている梁を指さして示した。まりえは私の隣に膝をついて、魅入られたよ
 うにその姿を眺めた。その鳥はとても美しいかたちをしていた。まるで翼のはえた描のようだ。

 「このみみずくは、ずっとここに往み着いているんだ」と私は小さな声で彼女に言った。「夜は
 森に出て行って餌をとり、朝になるとここに帰ってきて体む。あそこに出入り口がある」

  私は金網が破れた過風口を示した。まりえは肯いた。彼女の浅く静かな息づ加いが私の耳に届
 いた。

  私たちはそのまま何も言わずにじっとみみずくを眺めていた。みみずくは私たちのことをとく
 に気にも加けず、そこで静かに思慮深く身体を休めていた。私たちは暗黙のうちにこの家を分か
 ち合っているのだ。昼に活動するものと夜に活動するものとして、そこにある意識の領域を半分
 ずつ分かち合っている。
  まりえの小さな手加私の手を握った。そして彼女の頭が私の肩に載せられた。私は手をそっと
 握り加えした。私は妹のコミとも、このようにして一緒に長い時間を過ごしたものだった。私た
 ちは仲の良い兄と妹だった。いつも自然に気持ちを通い合わせることができた。死が二人を分か
 つまでは。
  まりえの身体から緊張が抜けていくのがわかった。彼女の中で堅くこわばっていたものが、少
 しずつ続んでいった。私は私の肩に載せられた彼女の頭を撫でた。まっすぐな柔らかい髪たった。
 頬に手を触れると、彼女が涙をこぼしているのがわかった。まるで心臓から溢れ出る血のように
 温かい涙だった。私はそのままの姿勢でしばらく彼女を抱いていた。その少女は涙を流すことを
 必要としていたのだ。でもうまく泣くことができなかった。おそらくはずいぶん前から。私とみ
 みずくは、そんな彼女の姿を何も言わずに見守っていた。

  金網の破れた通風口からは午後の光が斜めに射し込んでいた。私たちのまわりにあるのは、沈
 黙と白い埃だけだった。遥か古代から送り込まれてきたような沈黙と埃だった。風の音も聞こえ
 ない。そしてみみずくは梁の上で、森の叡智を無言のうちに保持していた。その叡智もまた遠く
 古代から引き継がれてきたものだった。
  秋川まりえは長いあいだまったく声を出さずに泣いていた。でも彼女が泣き続けていることは
 身体の細かい震えでわかった。私はその髪を優しく撫で続けた。時間の川を上の方まで遡ってい
 くみたいに。

    第60章 もしその人物がかなり長い手を持っていれば

  「わたしは免色さんのうちにいたの。四日のあいだずっと」と秋川まりえは言った。ひとしきり
 涙を流したあとで、彼女はようやく口をきくことができるようになっていた。
  私と彼女はスタジオの中にいた。まりえは作業用の丸いスツールに腰掛け、スカートからのぞ
 いている両膝をぴたりとあわせていた。私は窓の敷居にもたれて立っていた。彼女はとてもきれ
 いな脚をしていた。厚いタイツの上からでもそれはわかった。もう少し成熟すれば、その脚はお
 そらく多くの男たちの目を惹きつけるに違いない。その頃には胸もある程度膨らんでいることだ
 ろう。しかし今のところ、彼女はまだ人生の入り口で戸惑っている一人の不安定な少女に過ぎな
 かった。

 「免色さんのうちにいた?」と私は尋ねた。「よくわからないな。もう少し詳しく説明してくれ
 ないか」
 「わたしが免色さんの家に行ったのは、彼のことをもっと知らなくてはならなかったから。まず
 だいいちに、あの人がなぜ毎晩わたしの家を双眼鏡でのぞいているのか、そのわけを知りたかっ
 た。彼はそのためだけにわざわざあの大きな家を買ったのだと思う。谷の向かいにあるわたした
 ちの家を見るために。でもどうしてそんなことをしなくてはならないのか、わたしにはとても理
 解できなかった。だってあまりにも普通ではないことだから。そこには何か深いわけがあるはず
 だと思った」

 「だから免色さんの家を訪ねていったの?」

  まりえは首を振った。「訪ねていったわけじゃない。忍び込んだの。こっそりと。でもそこを
 出られなくなってしまった」
 「忍び込んだ?」
 「そう、泥棒みたいに。そんなことをするつもりはなかったのだけど」

  金曜日の午前中の授業が終了すると、彼女は裏口から学校を抜けだした。朝から連終もなしに
 学校を休むと、すぐに家に連絡が行く。しかし昼休みのあと、こっそり抜け出して午後の授業を
 すっぽかしても、家には連絡は行かない。なぜかはわからないが、そういう仕組みになっている。
 これまでそんなことをしたことは一度もないから、あとで先生から注意を受けても、なんとでも
 言い逃れられる。バスに乗って家の近くまで戻った。しかし家には帰らず、自宅があるのとは反
 対側の山を登って免色の家の前まで行った。

  まりえにはもともとその屋敷に黙って忍び込もうというようなつもりはなかった。そんな考え
 はちらりとも頭をよぎらなかった。でもだからといって、玄関のベルを押して彼に正式に面会を
 申し込むつもりもなかった。どんな計画も持だなかった。彼女はただ鉄片が強力な磁石に吸い寄
 せられるように、その白い屋敷に惹きつけられたのだ。塀の外側から家を見たところで、免色に
 聞する謎が解き明かされるわけではない。それくらいのことはわかっていた。でもどうしても好
 奇心を抑えることができなかった。足が勝手にそちらに向いてしまった。

  その屋敷に着くまでには、ずいぶん長い坂道を上らなくてはならなかった。振り返ると、山と
 山とのあいだに海がまぶしく光っているのが見えた。屋敷のまわりには高い塀がめぐらされ、入
 り口には電動式の頑丈な門扉がついていた。その両側に防犯用の監視カメラがついていた。警備
 会社のステッカーが門柱に貼ってあった。下手に近づくことはできない。彼女は門の近くの茂み
 に身を隠し、しばらく様子をうかがっていた。でも屋敷の中にも周囲にも、動きはまったく見ら
 れなかった。入の出入りもなかったし、中から何かの物音が聞こえるというようなこともなかっ
 た。

  三十分ほどそこであてもなく時間をつぷし、そろそろあきらめて引き上げようと思っていたと
 きに、一台のヴァンが坂道をゆっくりと上ってきた。宅配使会社の小型ヴァンたった。ヴァンは
 門の前で停まり、ドアが間いて、クリップボードを持った若い制服姿の男が中から降りてきた。
 彼は門の前に行って、門柱についたベルを押した。そして中にいる誰かとインターフォンで短く
 話をしていた。しばらくしてから大きな本の扉がゆっくりと内側に開き、男は急いでヴァンに乗
 り込み、車を運転して門の中に入っていった。

  細かいことを考えている余裕はなかった。車が中に入るとすぐに彼女は茂みを飛び出し、閉ま
 りかけた門扉の中に全速力で走り込んだ。ぎりぎりのタイミングだったが、門が閉じる前になん
 とかうまく中に入り込むことができた。監視カメラには写されたかもしれない。でも見とがめら
 れることはなかった。それよりは彼女は大を恐れた。塀の中には番犬が放し飼いになっているか
 もしれない。走り込んだときにはそんなことは考えもしなかった。塀の中に入って門が閉まった
 あとで、はっとそのことに思い当たった。これくらいの大きな家なら、庭にドーベルマンかシェ
 パードを放し飼いにしていても不思議はない。もし大型大がいたら、とても困ったことになる。

 彼女は大が苦手だった。しかしありかたいことに大はやってこなかった。鴫き声も聞こえなかっ
 た。前にここに来たときにもたしか大の話は出なかったと思う。
 彼女は塀の内側にある植え込みの陰に隠れて様子をうかがった。喉の奥がひどくかさかさして
 いた。私は泥棒のようにこの家に忍び込んだのだ。住居侵入――私は間違いなく法律に反したこ
 とをしている。カメラの映像がその動かぬ証拠になるだろう。

  自分のとった行動が適切なものだったかどうか、今となっては確信が持てなかった。宅配使会
 社のヴァンが門扉の中に入っていくのを見て、彼女はほとんど反射的にその中に走り込んだのだ。
 それがどんな結果をもたらすことになるのか、いちいち考えている余裕もなかった。こんなチャ
 ンスはまたとない、やるなら今しかない、彼女はそう思って瞬時に行動を起こしたのだ。筋道立
 てて考えるより先に身体が動いてしまった。でもなぜか後悔の念は湧いてこなかった。

  植え込みの陰に隠れていると、やがて宅配使のヴァンがドライブウェイの坂道を上ってきた。
 門扉がもうコ皮ゆっくりと内側に向けて開き、ヴァンは外に出て行った。退出するなら今しかな
 い。その門扉が閉まりきらないうちに走り出ていくのだ。そうすればもとの安全な世界に戻るこ
 とができる。犯罪者になることもない。しかしそうはしなかった。ただ植え込みの陰に身を隠し、
 門扉がゆっくりと閉まるのを内側から眺めていた。唇をじっと噛みながら。



  それから十分待った。腕にはめたカシオの小型サイズのGショックで正確に十分を計り、それ
 から植え込みの陰から出た。カメラに写りにくいように姿勢を低くして、玄関に通じる緩やかな
 坂道を足早に降りていった。時刻は二時半になっていた。
  免色に見つかったときにはどうすればいいのだろう? 彼女はそれについて考えた。でももし
 そうなっても、なんとかうまくその場を切り抜けられるという自信が彼女にはあった。免色は彼
 女に対して何かしら深い関心(あるいはそれに似たもの)を抱いているようだった。自分はここ
 に一人で遊びに来た、でもたまたま門が関いていたからそのまま中に入ってきた。あくまでゲー
 ムみたいな感じで。いかにも子供っぽい顔をしてそう言えば、きっと免色は信じてくれるに違い
 ない。あの人は何かを信じたがっているのだ、私が言うことならきっとそのまま信じてくれるは
 ずだ。彼女に判断できないのは、その「深い関心」がどのような成り立ちのものなのか――彼女
 にとって善きものなのか悪しきものなのか――ということだった。

  カーブしたドライブウェイの坂道を下ったところに、屋敷の玄関があった。ドアの脇にはベル
 がついていた。しかしもちろんそれを押すわけにはいかない。彼女は玄関前の車寄せのサークル
 を避けるように大きく回り込み、あちこちの木立や植え込みに身を隠しながら、屋敷のコンクリ
 ートの側壁に沿って時計回りに進んだ。玄関のわきには車二台分のガレージがあった。ガレージ
 のシャッターは閉じられていた。少し進むと、家から少し離れたところにコテージのような洒落
 た建物があった。それは客用の別棟のように見えた。その向こうにはテニスコートがあった。テ
 ニスコートがついている家を見るのは彼女にとって初めてだった。免色さんはここでいったい誰
 とテニスをするのだろう? しかしそのテニスコートはどうやらもう長いあいだ使用されていな
 いように見えた。ネちていたし、引かれた白線もすっかり色あせていた。

  屋敷の山側の窓は小さく、どれもぴたりとブラインドかおるされていた。だから窓から家の中
 をうかがうことはできなかった。相変わらず家の中からはどのような音も聞こえなかった。犬の
 鳴き声も聞こえなかった。ときおり高い彼の上から鳥のさえずりが聞こえてくるだけだった。し
 ばらく遊むと、家の裏手にもうひとつ別のガレージがあった。それも二台分のガレージだった。
 あとがら建て増したものらしい。たくさんの自動車を保管できるようになっている。

  家の裏手は由の斜面を利用した広い日本風の庭園になっていた。階段があり、大きな石が配さ
 れ、遊歩道がそのあいだを縫うように続いていた。つつじの植え込みもやはり美しく剪定され、
 明るい色合いの松の本が頭上に彼を伸ばしていた。その先には四阿のようなものもあった。四阿
 にはリクライニング式の寝椅子が置かれ、そこに休んで読書ができるようになっていた。コーヒ
 ーテーブルも置いてあった。あちこちに灯龍があり、庭園灯があった。
  それからまりえは家屋をぐるりとまわり込むようにして、谷利に出た。屋敷の谷側は広いテラ
 スになっていた。前にこの家を訪れたとき、彼女はそのテラスに出た。そこから免色は彼女の家
 を観察しているのだ。テラスに立った瞬間に、彼女にはそれがわかった。その気配をはっきり感
 じ取ることができた。

  まりえは目をこらして自分の家のある方を眺めた。彼女の家は谷を隔ててすぐそこにあった。
 空中に手を伸ばせば(そしてもしその人物がかなり長い手を持っていれば)、ほとんど届いてし
 まいそうなところに。こちらから見ると、彼女の家はいかにも無防備に見えた。彼女の家が建て
 られた当時は、谷のこちら利には家なんて一軒も建っていなかった。建築規制がいくらか緩和さ
 れ、谷のこちら側の造成が始まったのはかなり鍛近になってからだ(といってももう十年以上前
 のことだが)。だから彼女の往んでいる家には、谷のこちら側からの視線を防ごうというような
 工夫はまったくなされていない。ほとんど開けっぴろげだ。高性能の望遠鏡や双眼鏡を使えば、
 家の内部がそっくり見て取れることだろう。彼女の部屋の窓だって、そうしようと思えばかなり
 はっきりと見えるはずだ。彼女はもちろん用心深い少女だった。だから服を着替えるようなとき
 は、必ず窓のカーテンを閉めるようにしている。しかしうっかりすることだってまったくないと
 は言えない。免色はこれまでにいったいどんなものを目にしてきたのだろう?

  彼女は斜面についた階段を降りて、書斎のある下の階に行ったが、その階の窓はすべてしっか
 りとブラインドが降りていた。中をうかがうことはできない。だから彼女はそのまた下の階に降
 りた。その階は主にユーティリティー室になっていた。洗濯室があり、アイロンをかけるための
 スペースかおり、往み込みのメイドのための居室らしきものがあり、その反対側がかなり広いジ
 ムになっていた。筋肉を鍛えるためのマシンが五つか六つ並んでいる。こちらの方はテニスコー
 トとは遠って、どうやらかなり頻繁に利用されているようだった。機械はどれもきれいに磨かれ
 油を差されているみたいに見える。ボクシング用の大きなサンドバッグも吊されていた。その階
 の側面は見たところ、ほかの階の側面ほど厳しく警戒はされていないようだ。多くの窓にはカー
 テンがかかっておらず、外から中をそのままうかがうことができた。しかしそれでもすべてのド
 アやガラス戸は内側からしっかりロックされていて、中に入ることはできなかった。ドアにはや
 はり警備会社のステッカーが貼られていた。泥棒に侵入をあきらめさせるためのものだ。無理に
 ドアを開けると警備会社に警報が入るようになっている。

  ずいぶん大きな家屋だった。こんな広いスペースに人がたった一人で住んでいるなんて、彼女
 にはとても信じられなかった。その生活はきっと孤独なものであるに違いない。家屋はコンクリ
 ートでとても頑丈に作られており、あらゆる装置を用いて厳重にブロックされていた。大型犬こ
 そ見当たらないが(あるいは大があまり好きではないのかもしれない)、侵入を防ぐための、手
 に入るすべての防犯手段が用いられている。

                                     この項つづく


 

 ● 今夜のアラカルト
 

【世界で一番美味いひとり宅めし Ⅲ】

● タダごとではない旨さのアボカドの食べ方

夕食は彼女が奮起し、グリンピースと山芋の真薯と獣肉と水菜和えを頂くが、味も見栄えも良かった
ので、デジカメしようとしたところバッテリー切れで(携帯電話では撮らない主義)、そのまま食べ
てしまうが、胃腸の調子も良くなったとのの牛肉を除き胃腸にやさしいものとなっていた。ところで
「アボガドの宅めし」のレシピの話。アボガボの料理方法かなり奥行きが深いと考えられるの、時間
があれば、考えつかないような食品としてみようと思いつき一旦残件扱いとする。 ①まず、アボカ
ド1個に縦に包丁を入れて1周し切リロを軸にして両手でアボカドの左右それぞれを逆方向にひねる
。スプーンで種をくりぬき、手で丁寧に皮を剥く。②アボカドを崩さないように優しく一ロ大に切っ
てボウルに入れる。③、②に、にんにくチューブー㎝、ごま油大さじ1、醤油大さじ1、砂糖大さじ
1を加えて混ぜる――1人分の材料:アボカド1個(150円)、ごま油…大さじ1、醤油…大さじ
1、砂糖…大さじ1、にんにくチューブ…1cm――簡単に言えば「醤油-バター」うまくないはずが
ない。よく考えている。一色150円程度、やはりアボガドは値が高い。

 Salmon Avocado Stack

 STM-304

● 今夜の寸評:AI時代と言うけれど

中長期のフィルター洗浄や台所の油汚れ落とし、浴室の殺菌を目的に、アイリスオーヤマ株式会社製
のスチームクリーナWP二週間前に通販で買ったものっだが、タイミング悪く絶不調中、それじゃ日
曜にと考えたが、選挙と台風で潰れてしまうが問題ないだろう。ところで、例の『コンピューターゲ
ームのトライアスロン』だが、囲碁。将棋は最高レベルでも連勝できるようになっているが、チェス
だけは、駒がなくなって行くほど緻密な駆け引きの勝負となり肝・腧がつまめていない(押しと引き
の駆け引き=フェイクがポイントということはわかってきたが)。今日の将棋勝負は、後手ではじめ
15、6手の早々とコンピュータが負けを認めたが、こちらは少し有利にあることを感じていたが、
その理由がわからない(こういうことは初めての経験)。わたしがAIを仕事で初めてセミナ受講し
たのは1984年ごろでCIM(computer integrated manufacturing)構築のためだったのだが、中途半
端に終わってしまうが、優れた宇宙物理学者や純粋数学者などのシステムエンジニアを中心にして金
と時間をかければなんとかなったが事業機会的に総合的に判断の結果であるが、当然、技術には光と
陰があるわけで「深刻な倫理問題」が必ず待ちかまえている。

 

 

新電気二輪車工学

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                      梁恵王篇 「仁とは何か」  /  孟子  

                                                    

      ※  二つに一つ:滕(とう)の文公が孟子にたずねた。「滕はちっぽけな国です。
         大国には精いっぱいご機嫌をとってはいるのですが、いつ侵略されるかわか
         りません。なにかよい方法はないものだろうか」「むかし大王が邠(せん)
         に住んでいたころ、蛮族の侵略を受けました。毛皮や絹を貢いでも侵略はや
         まず、犬や馬、さらに珠玉を貢いでも効き目がない。そこで大王は国中の長
         老を集めて、『やつらの欲しいのはこの土地だ。わたしは、土地は人間が生
         きるためのもの、その土地のために肝心の人間を犠牲にしてはならぬと信じ
         ている。領主かいなくとも心配はない。わたしはここを去ろうと思う』大王
         は邠をあとにして梁山を越え、岐山(き)のふもとに新しい国を建てた。
         邠の人々は、『情深い王だ。離れるわけにはいかない』と、市に出かけると
         きのように、ぞろぞろとつき従ったといいます。こうするのも一法です。ま
         た、先祖伝来の土地だ。かってに捨てられるものではない。命をかけても守
         れ』と、主張する人もあります。こうするのもまた一法です。この二つのう
         ち、いずれかをお選びください」

         【解説】「人を養うゆえんのものをもって人を害せず」――手段と目的をは
         きちがえてはならない。機械文明は人間の生活を向上するためのものである。
         しかしオートメーションは、ややもすれば人間の生活を破壊しがちである。
         原子力は人類の幸福のために役立てるべきもの。それが大量虐殺に使われる
         とすれば、これほど大きな矛盾はない。
 

  No.87

 
【電気二輪車篇:高性能なEBホンダモンキーの登場する ?!】

Jun. 22, 2017

 Sep. 28, 2017

50年前、ミッドナイトの心斎橋筋のアーケードをホンダのモンキーで走り抜けするのが洒落ていた
”僕たちの時代”  勿論、そのことろは、今と違って三角公園周辺にはアメリカ村など存在しなかっ
たのだが、「環境リスク本位制時代」に入り本田宗一郎の開発した原付バイクが消えるという。二輪
車を含めたその市場規模は、約5~6兆円、年間生産台数5~6千万台(超概算)のなか、電動スク
ータ/バイクが急速に代替普及していく。折しも、台湾で電動スクーターのシェアリングサービスを
手がけるGogoro社が、日本での同サービス参入を発表している。サービス名称は『GoShare』。2017
年中に沖縄県の石垣島でパイロット展開を行ない、2018年には他の都市などにも広げる予定。合わせ
て同社は、住友商事と提携、2017年度内に沖縄県石垣島でシェアリングの実証実験を開始する。これ
を足がかりとして、日本市場に合わせた車両や運用の仕組みづくりを急ぐ。約6秒で電池の交換が完
了させ、約110キロメートル走行できる。これで落ち込む2輪市場の“起爆剤”となるのか注目され
ている。


  

同社が開発したEVバイクは2種類。モーター出力が高く、アルミニウム(Al)ボディーの「Gogoro1」
と、コストを下げて普及を狙った「Gogoro2」である。日本での実証実験で使うのは普及モデルのGo-
goro2とみられている。両車両は、座席下に交換式のリチウムイオン電池を2個搭載。電池残量の減少
をインストルメントパネル(インパネ)の表示で確認したら、電池交換ステーションに向かい満充電
の電池と交換する仕組。台湾ではすでに400カ所以上に電池交換ステーションの設置が進み、同仕
組みを採用したEVバイクの累計販売台数は3万4千台以上に達する。競争力の源泉は、搭載する車載
電池と使いやすさを高めた電池交換ステーションである。2個搭載車載電池の1個あたりの電池容量
は約1.3キロワットアワー。パナソニック製の「18650」電池セルを数〜数10個組み合わせて電池
モジュールとし、これを12個繋げ電池パックに仕上げている。このように、ゼロエネルギーハウス
とドッキングすることで、下図のバッテリーの高性能化により便利/温暖化ガスゼロ/セフティ・フ
ァーストな電気二輪車がさらに廉価な、長距離運転社会が実現しそうだ。。


Jul. 17, 2016    

❏ 特開2017-191662  ソニー株式会社
  二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具及び電子機器

【概要】

優れた電池特性を有する二次電池の提供すにあたり、正極活物質を少なくとも含む正極と、負極活物
質を少なくとも含む負極と、を備え、正極活物質が、少なくとも、リチウムコバルト複合酸化物と、
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とを含有し、1サイクル目で充電した後の、リチウム
ニッケルコバルトマンガン複合酸化物のリチウム基準極に対する1サイクル目の放電時の開路電圧曲
線において、3.5Vの放電容量と3.8Vの放電容量との差が30mAh/g以上であり、負極活
物質が、少なくとも、SiOX(0.2<X<1.4)またはSi合金を含有する、二次電池を提供す
る(詳細は下図クリック) 。


【符号の説明】

11…電池缶、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,
33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活
物質層、23,35…セパレータ、36…電解質層、40…外装部材。

【特許請求の範囲】  

正極活物質を少なくとも含む正極と、  負極活物質を少なくとも含む負極と、を備え、該正極
活物質が、少なくとも、リチウムコバルト複合酸化物と、リチウムニッケルコバルトマンガン
複合酸化物とを含有し、1サイクル目で充電した後の、該リチウムニッケルコバルトマンガン
複合酸化物のリチウム基準極に対する1サイクル目の放電時の開路電圧曲線において、3.5
Vの放電容量と3.8Vの放電容量との差が30mAh/g以上であり、 該負極活物質が、
少なくとも、SiOX(0.2<X<1.4)又はSi合金を含有する、二次電池。 前記リチウムコバルト複合酸化物が、下記式(1)で表される平均組成を有する化合物である、
請求項1に記載の二次電池。

  LimCo1-nMnO2      (1)

 (該式(1)中、mは0.9<m<1.1であり、nは0≦n<0.1であり、Mは、Ni、
Mn、Al、Mg、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、W、
Bi、Nb、及びBaから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。) 前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が、下記式(2)で表される平均組成を有
する化合物である、請求項1に記載の二次電池。

  LixNi1-y-zCoyMnzO2      (2) 

(該式(2)中、xは0.9<x<1.1であり、yは0.1<y<0.4であり、zは0.
15<z<0.4)である。) 前記リチウムコバルト複合酸化物と前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物との混
合比率(質量比)が、70:30~95:5である、請求項1に記載の二次電池。 前記負極活物質が炭素材料を更に含有し、前記SiOX(0.2<X<1.4)又は前記Si
合金と該炭素材料との混合比率(質量比)が、5:95~30:70である、請求項1に記載
の二次電池。 正極活物質を少なくとも含む正極と、負極活物質を少なくとも含む負極と、を備え、該正極活
物質が、少なくとも、リチウムコバルト複合酸化物と、下記式(3)で表される平均組成を有
するリチウム含有化合物とを含有し、リチウム基準極に対して1サイクル目を4.5V以上で充
電した後の、該リチウム含有化合物のリチウム基準極に対する1サイクル目の放電時の開路電
圧曲線において、3、5Vの放電容量と3.8Vの放電容量との差が30mAh/g以上であ
り、該負極活物質が、少なくともSiOX(0.2<X<1.4)又はSi合金を含有する、
二次電池。

  Li1+a(CobNicMd Mne)1-aO2-f      (3)

 (該式(3)中、Mは、マンガン(Mn),コバルト(Co)およびニッケル(Ni)のい
ずれとも異なる1種以上の金属元素である。aは0.05<a<0.2であり、bは0.45≦
b<0.7であり、cは0<c≦0.1であり、dは0≦d≦0.1であり、e≦bを満たし、
b+c+d+e=1を満たし、fは-0.1≦f≦0.2である。) 前記リチウムコバルト複合酸化物が、下記式(1)で表される平均組成を有する化合物である、
請求項6に記載の二次電池。

  LimCo1-n MnO2      (1)

 (該式(1)中、mは0.9<m<1.1であり、nは0≦n<0.1であり、  Mは、Ni、
Mn、Al、Mg、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、W、
Bi、Nb、及びBaから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。) 前記リチウムコバルト複合酸化物と前記リチウム含有化合物との混合比率(質量比)が、70:
30~95:5である、請求項6に記載の二次電池。 前記負極活物質が炭素材料を更に含有し、前記SiOX(0.2<X<1.4)又は前記Si
合金と該炭素材料との混合比率(質量比)が、5:95~30:70である、請求項6に記載
の二次電池。

 

 

    第60章 もしその人物がかなり長い手を持っていれば

  さて、これからどうすればいいのだろう? 彼女にはまったく考えが浮かばなかった。家の中
 に入ることはできないし、かといって塀の外に出ることもできない。免色が今現在、この家の中
 にいることは間違いない。彼がスイッチを押して門を開け、宅配使の品物を受け取ったのだから。
 彼以外にこの家に仕んでいる人間はいない。週一回ハウス・クリーニングが入る以外は、原則的
 に家の中に他人は入ってこない。前にこの家を訪れたとき、免色はそう言っていた。

  家の中に入る手立てがない以上、どこか外に隠れ場所を見つける必要がある。家のまわりをう
 ろうろしていたら、いつその姿を見られてしまうかもしれない。あちこち探しているうちに、裏
 手の庭園の隅に、資材をしまっておくための小屋のようなものが見つかった。扉には健はかかっ
 ていなかった。中には庭仕事をするための器具やホースが置かれ、肥料の袋が積み上げられてい
 た。彼女はその中に入り、肥料の袋の上に腰を下ろした。居心地の良い場所とはもちろん言えな
 い。でもとにかくここにじっとしていれば、姿をカメラに写されるようなこともない。誰かがこ
 こまで様子を見に来るようなこともあるまい。そのうちにきっと何か動きがあるはずだ。それを
 待つしかない。

  身動きのとれない状況ではあったけれど、それでも彼女はむしろ健全な高揚感のようなものを
 身のうちに感じていた。その朝、シャワーを浴びたあと裸で鏡の前に立って、乳房がほんの少し
 だけ盛り上がっていることに気がついたのだ。そのことも高揚感に少しは寄与していたかもしれ
 ない。もちろんそれはただの錯覚かもしれなかった。そうであってほしいという気持ちが生んだ
 思い違いかもしれない。でもいろんな角度からずいぶん公平に眺めてみても、手で触ってみても、
 これまではなかった柔らかな膨らみがそこに生まれているように彼女には感じられた。乳首はま
 だまだ小さかったが(オリーブの種を思わせる叔母さんのそれとは比べようもない)、そこには
 萌芽の兆しらしきものが漂っていた。

  彼女は胸の小さな膨らみのことを考えながら、資材小屋で時間を潰した。その膨らみがどんど
 ん大きくなっていく様子を彼女は頭の中で想像した。豊かに膨らんだ乳房を持って暮らすという
 のはどんな気持ちのするものなのだろう? 叔母さんがつけているような、しっかりとした本物
 のブラジャーを自分がつけるところを想像した。でもそれはまだかなり先のことになるだろう。
 何しろ生理だって、今年の春に始まったばかりなのだから。

  少し喉が渇いたような気がしたが、まだしばらくは我慢できそうだった。彼女は分厚い腕時計
 に目をやった。Gショックは三時五分過ぎを指していた。今日は金曜日で絵画教室のある日だが、
 それは最初から休むつもりでいた。画材を入れたバッグも持ってきていない。としても、このま
 ま夕食までに家仁房れなかったら、きっと叔母さんは心配することだろう。あとでそれらしい言
 い訳を考えなくてはならない。少し眠ったかもしれない。こんな場所でこんな状況で、自分がた
 とえ僅かでも眠れるなんて、 彼女にはとても信じられなかった。でもどうやら知らないうちに
 眠り込んでしまったようだった。

 短い眠りだ。十分か十五分、そんなものだろう。もっと短いかもしれない。でもそれなりに深い
 眠りだ。はっと目が覚めたとき、意識が分断されていた。自分か今どこにいるのか、何をしてい
 るところなのか、一瞬わからなくなった。そのとき彼女は何かとりとめのない夢を見ていたよう
 だった。豊かな乳房とミルク・チョコレートが関係した夢だった。目の中に唾が溜まっていた。
 それから彼女はすぐに思い出した。私は免色の家に忍び込んで、庭の資材小屋の中に身を隠して
 いるのだ。

  何かの音が彼女を目覚めさせたのだ。それは継続的な機械音だった。もっと正確に言えば、ガ
 レージのドアが関きつつある音だった。玄関の脇にあるガレージのシャッターががらがらという
 音を立てて上がっているのだ。免色が車に乗って、これからどこかに出て行こうとしているのか
 もしれない。彼女はすぐに資材小屋を出て、足音を忍ばせて家の表側に向かった。シャッターが
 上がりきって、モーター音が停まった。それから車のエンジンがかかり、銀色のジャガーがゆっ
 くりとそのノーズを先に突き出した。運転席には免色が座っていた。運転席の窓ガラスは下ろさ
 れ、真っ白な髪が午後の陽光を受けて鮮やかに光っていた。まりえはその様子を植え込みの陰か
 らうかがっていた。

  もし免色が右手の植え込みに顔を向ければ、その陰に潜んでいるまりえの姿がちらりと見えた
 かもしれない。それは完全に身を隠すには小さすぎる植栽だったから。しかし免色はまっすぐ正
 面に顔を向けたままたった。彼はハンドルを握りながら、何ごとかを真剣に考えているように見
 えた。ジャガーはそのまま前に進み、ドライブウェイのカーブを曲がって見えなくなった。ガレ
 一ジの金属シャッターはリモコン操作で再びゆっくり下に降り始めていた。彼女は植え込みの陰
 から駆けだし、そのほとんど閉まりかけたシャッターの隙間に素早く身体を滑り込ませた。映画
 『レイダース』でインディアナ・ジョーンズがやっていたみたいに。それもまた一瞬の反射的な
 行動たった。ガレージに入り込むことができれば、そこからきっと中に入れるはずたというとっ
 さの判断のようなものが彼女にはあった。ガレージのセンサーは何かを感じて一瞬戸惑ったが、
 シャッターは再び下降を始め、やがてぴたりと閉まった。

 
 Raiders of the Lost Ark (1981)

  ガレージの中にはもう一台の車が置いてあった。ベージュの幌のついたスマートな紺色のスポ
 ーツカー、このあいだ叔母さんが感心して見とれていた車だ。彼女は車には興味がないので、そ
 のときはほとんど目もくれなかった。ノーズがひどく長く、やはりジャガーのマークがついてい
 る。それが高価なものであることは、車の知識を待たないまりえにも容易に想像がついた。おそ
 らく貴重なものでもあるのだろう。

  ガレージの奥に、家の中に通じるドアがあった。おそるおそるノブを回してみると、鍵がかか
 っていないことがわかった。彼女はほっと▽息ついた。少くとも昼間のうち、人はガレージ内か
 ら家に通じるドアの鍵はまずかけないものだが、なにしろ免色は用心深く慎重な人間だ。だから
 彼女はそこまで期待していなかった。よほど何か大事な考えごとがあったのだろう。幸運としか
 言いようがない。

  彼女はそのドアから家の中に足を踏み入れた。靴をどうしたものかと迷ったが、結局脱いで于
 に待っていくことにした。ここに残していくわけにはいかない。家の中はしんと静まりかえって
 いた。すべての事物が息を殺しているみたいに。免色がどこかに出かけてしまった今、この家の
 中には誰もいないという確信が彼女にはあった。今この屋敷の中にいるのは私一人きりなのだ。
 しばらくのあいだは、どこに行くのも何をするのも私の自由だ。

  彼女はこの前ここに来たとき、免色に家の中を簡単に案内された。そのときのことをよく覚え
 ていた。家の中の位置間係はだいたい順に入っている。彼女はまず一階の大半を占めている大き
 な居間に行った。そこから広々としたテラスに出られる。テラスにはスライド式の大きなガラス
 戸がついていた。そのガラス戸を開けていいものかどうか、ひとしきり迷った。免色は出て行く
 ときに警報装置のスイッチを入れていったかもしれない。もしそうなら、ガラス戸を開けたとた
 んにベルが鳴り出すだろう。そして警備会社の警報ランプが点滅を始めることだろう。警備会社
 はこちらにまず電話をかけてきて状況を確かめる。そのときには相手にパスコードを教えなくて
 はならない。まりえは黒いスリッポン・シューズを手にしたまま思案した。



  でも、おそらく免色は警報装置のスイッチを入れていないだろうという結論にまりえは達した。
 ガレージの奥のドアの鍵を掛けなかったくらいだから、遠出をするつもりはないはずだ。たぶん
 近くに買い物に行ったか、そんなところだ。まりえは思いきってガラス戸のロックを外し、中か
 ら開けた。そのまま少し待ったが、ベルは鳴らなかったし、警備会社からの電話もかかってこな
 かった。彼女は胸を撫で下ろし(警備会社の人々が車で駆けつけてきたら冗談ごとではすまなく
 なる)、テラスに出た。そして靴を床に置き、プラスチックのケースに入っていた大型の双眼鏡
 を取り出した。双眼鏡は彼女の手には大きすぎたので、テラスの手すりを台がわりにしてみたが、
 あまりうまくいかなかった。あたりを見回すと、双眼鏡の専用台らしきものが壁に立てかけてあ
 るのが見つかった。カメラの三脚に似ており、色は双眼鏡と同じくすんだオリーブ・グリーンだ。



  そこに双眼鏡をねじでとめるようになっている。彼女はその専用台に双眼鏡を固定しその近く
 にあった低い金属製のスツールに座って、そこから双眼鏡を覗いた。それで楽に視界が確保でき
 た。向こうからはこちらの姿が見えないようになっている。おそらく免色はいつもそうやって谷
 の向かい側を見ているのに違いない。

  彼女の家の内部の様子が驚くほどありありと見えた。レンズを通した視野には、すべての光景
 が実際よりも一段明るく、クリアに浮かびあがっていた。双眼鏡にはたぶんそういうことを可能
 にする特殊な光学的機能が具わっているのだろう。谷間に而したいくつかの部屋のカーテンは引
 かれていなかったので、すべてが細かいところまで手に取るようにうかがえた。テーブルの上に
 置かれた花瓶や雑詰まで見てとることができた。今、家には叔母さんがいるはずだ。でも彼女の
 姿はとこにも見えなかった。

  遠い距離を隔てたところから自宅の内側を細かく眺めるというのはずいぶん不思議な気持ちの
 するものだった。まるで自分がもう死んでしまっていて(事情はよくわからないのだが、気がつ
 いたらいつの間にか死者の仲間入りをしていて)、あの世からかつて自分の往んでいた家を眺め
 ているような気持ちだった。そこは自分か長いあいだ属してきた場所なのだが、もうそこに自分
 の居場所はない。よく知っている親密な場所なのに、そこ仁戻れる可能性は失われてしまってい
 る。そんな奇妙な乖離の感覚があった。

  それから彼女は自分の部屋を見た。部屋の窓はこちら側に而しているが、窓にはカーテンが引
 かれている。ぴたりと隙間なく。見慣れた柄のオレンジ色のカーテンだ。日焼けしてオレンジ色
 はかなり穏せてしまっている。そのカーテンの奥は見えなかった。しかし夜になって明かりを灯
 せば、中にいる人の影くらいはぼんやり見えるかもしれない。どれほど見えるものか、実際に夜
 にここにやってきて、双眼鏡で見てみないことにはわからない。まりえは双眼鏡をゆっくり回転
 させてみた。その家のどこかに叔母さんがいるはずだ。しかし彼女の姿はとこにも見えなかった。
 奥の台所で夕食の支度をしているのかもしれない。あるいは自室で休んでいるのかもしれない。
 いずれにせよ、家のその部分はこちらからは見えない。

  その家に今すぐ戻りたいと彼女は思った。そういう気持ちが彼女の中に急に激しくわき起こっ
 てきた。そこに戻って、座り馴れた食堂の椅子に座り、いつものティーカップで熱い紅茶を飲み
 たい。そして叔母さんが台所に立って、食事の支度をしているところをぼんやり眺めていたいそ
 うできたらどんなに素晴らしいだろう。彼女はそう思った。自分かいつかその家を懐かしく思う
 ことかあるうなんて、それまで一瞬たりとも考えたことはなかった。彼女はずっと、自分の家を
 がらんとした、醜い家だと思っていた。そんな家に暮らしていることが嫌でたまらなかった。

 早く大人になって家を出て、自分の好みにあった住居に一人で住みたいと願っていた。でもこの
 今、谷間を隔てた向かい側から、双眼鏡の鮮明なレンズを通して内部を眺めながら、なんとして
 もその家に戻りたいと彼女は願った。そこはなんといっても私の場所なのだから。そして私が護
 られている場所なのだから。




  そのとき軽い唸りのようなものが耳元に聞こえたので、彼女は双眼鏡から目を離した。そして
 空中を何か黒いものが飛んでいるのを目にした。蜂だった。大型の体長が長い蜂、たぶんスズメ
 バチだ。彼女の母親を死なせた攻撃的な蜂、とても鋭い針を持っている。まりえはあわてて家の
 中に駆け込み、ガラス戸をぴたりと閉め、ロックした。スズメバチはそれからもしばらくのあい
 だ、彼女を牽制するようにガラス戸の外を飛び回っていた。何度かガラスに体あたりさえした。

 それからやっとあきらめたのか、どこかに飛んで行ってしまった。まりえはほっと胸を撫で下ろ
 した。まだ呼吸が荒く、胸がどきどきしていた。スズメバチは彼女がこの世界でもっとも恐れる
 もののひとつたった。スズメバチがどれほど恐ろしいものか、父親から何度も話を聞かされてい
 た。図鑑で何度もその姿かたちを確かめた。そして自分の母親と同じように、いつかスズメバチ
 に剌されて死ぬのではないかという恐怖を、彼女はいつしか抱くようになった。自分の母親から
 同じ、蜂の毒に対するアレルギー体質を受け継いでいるかもしれない。いつか死ぬのは仕方ない
 にしても、それはもっとずっと先のことであるべきだ。豊かな乳房と、しっかりとした乳首を持
 つというのがどういうことなのか、彼女はその気持ちをコ皮でいいから昧わってみたかった。そ
 の前に蜂に刺されて死んでしまうのは、いくらなんでも惨めすぎる。

  Invention 9 Bach

  どうやらしばらく外には出ない方がよさそうだとまりえは思った。あの凶暴な蜂はまだこのあ
 たりを飛び回っているに違いない。そして蜂はまるで彼女に個人的に標的を定めているみたいに
 見えた。だから外に出るのはあきらめて、家の中をもっと詳しく調べてみることにした。
  彼女はまず広い居間を一周して点検した。その部屋は、前に見たときととくに変わりはなかっ
 た。大きなスタインウェイのグランド・ピアノがあった。ピアノの上には楽譜がいくつか載って
 いた。バッハのインヴェンション、モーツアルトのソナタ、ショパンの小品、そんなものだ。技
 術的にはそれほどむずかしいものでもなさそうだった。でもそれだけ弾けるというのは大したも
 のだ。その程度のことはまりえにもわかった。彼女も以前ピアノを習っていたことがあった(あ
 まり上達はしなかった。音楽よりは絵画の方に心を惹かれていたから)。

 Chopin Etude Op.25 No.12 "Ocean"


  大理石のトップがついたコーヒーテーブルの上には、封冊かの本が積んであった。読みかけの
 本だ。ページのあいだに栞が挟んである。哲学舎が一冊、歴史の本が一冊、そして小説が二冊(
 そのうちの一冊は英語の本だった)。彼女はどの本のタイトルも目にしたことがなかったし、著
 者の名前を間いたこともなかった。そっとページをめくってみたが、彼女が興味を持てそうな内
 容の本ではなかった。この家の主人は難解な本を読み、古典音楽を愛好している。そしてその合
 間に、高性能の双眼鏡を使って谷間の向こう側にある彼女の家をこっそり覗いている。

  彼はただの変質者なのだろうか? それともそこには何か筋の通った理由なり目的のようなも
 のがあるのだろうか? 彼は叔母さんに興味を持っているのだろうか? それとも私に? ある
 いは両方に(そんなことかあり得るだろうか)?

  彼女は次に階下の部屋を探ってみることにした。階段を下りてまず彼の書斎に行った。書斎に
 は彼の肖像画がかかっていた。まりえは部屋の真ん中に立って、その絵をしばらく眺めていた。
 その絵は前にも見たことがあった(その絵を見るためにここにやってきたのだ)。しかしあらた
 めてじっと眺めていると、まるで免色がその部屋に実際にいるような気持ちにだんだんなってき
 た。だから絵を眺めるのをやめた。できるだけそちらに目をやらないように努めながら、彼のデ
 スクの上にあるものをひとつひとつ点検した。アップルの高性能のデスクトップコンピュータが
 あったが、スイッチは入れなかった。厳重なブロックがかかっていることはわかりきっていたか
 らだ。彼女にそれが突破できるはずはない。机の上にはほかにそれほど多くのものは置かれてい
 なかった。日めくり式の予定表があった。しかしそこにはほとんど何も書き込まれていなかった。
 よくわからない記号と数字がところどころに記入されているだけだ。おそらく本格的なスケジュ
 ールはコンピュータに打ち込まれて、いくつかの機器に共有されているのだろう。もちろんすべ
 てにしっかりセキュリティーがかけられているはずだ。免色さんはとても用心深い人物だ。簡単
 には痕跡を残したりはしない。
  
  デスクの上にはそのほかには、普通どこの書斎の机の上にもあるような、ごく当たり前の文房
 具が置かれているだけだった。鉛筆はどれもほとんど同じ長さで、先端はとても美しく尖ってい
 る。ペーパークリップはサイズごとに細かく仕分けられている。純白のメモ用紙は何かを書き込
 まれるのをじっと待ち受けている。卓上ディジタル時計は律儀に時を刻んでいる。とにかく何も
 かもが恐ろしいほど整然と保たれていた。「もしよくできた人造人間でないのだとしたら」とま
 りえは心の中で思った。「免色さんという人には、間違いなく何かしらおかしなところがある」
 机の抽斗にはもちろんすべて鍵がかかっていた。当たり前だ。彼が机の抽斗に鍵をかけておか
 ないわけがないのだ。ほかに書斎にはとくに見るべきものはなかった。ずらりと本が並んだ書棚
 もCDの棚も、いかにも高価そうな最新のオーディオ装置も、ほとんど彼女の注意を引かなかっ
 た。それらはただ彼の嗜好の傾向を示しているに過ぎない。彼という人間を知る助けにはならな
 い。彼の(おそらく)抱えている秘密には結びつかない。


いまさら、気づいたといのも変だけれど、ピース又吉の『火花』のような「猥雑な雑踏」が彼の小説
にはなく、透明で理性的で緻密で、まるでドイツ人気質(あるいは北欧気質)に似た淡々とした描写
の文体に驚く。「免色の秘密」とは何か? さて、この続きは次回に。
                                       この項つづく

 Oct. 18, 2017
【石英脈の形成が地震の発生周期に関係】

10月18日、産業技術総合研究所らの研究グループは、プレート境界付近の巨大分岐断層沿いに形
成される岩石の亀裂内で石英析出時間を算出する新しい計算モデルを開発し、岩石の亀裂を埋める石
英の析出反応が巨大分岐断層の活動に影響を与える可能性を提唱している。このことで、地下で岩石
亀裂が閉じる現象は、岩石中の水の分布や圧力上昇に寄与し、地震を引き起こす断層周辺での水の圧
力上昇は地震につながと推測されている。地下の熱と水を源とする地熱エネルギーの持続的な利用は、
岩石中の熱水溜りや量を知ることで、❶石英析出反応による地下深部環境の時間変化の見積もりが可
能になる。この成果は、❷地震の活動周期の予測や❸地熱エネルギーの持続的利用につながる。



Title : Silica precipitation potentially controls earthquake recurrence in seismogenic zones,
doi:10.1038/s41598-017-13597-5

  ● 今夜のアラカルト

【世界で一番美味いひとり宅めし Ⅳ】

● 安らぎとパワーをつけるミルクセーキ

牛乳に甘味料などを加えて作る乳飲料の種類のミルクセーキ(milk shake)には、シェイカー、ミキサ
ー、泡立て器とボウルによる3つの製法から分類する方法と、牛乳、卵黄、砂糖、バニラ・エッセン
スを混ぜるフレンチスタイル、牛乳、アイスクリーム、砂糖、バニラエッセンスを混ぜるアメリカン
スタイル、これにはチョコレートシロップや果物のシロップを混ぜるシェーキ(シェーク、シェイク)
の3種類あるがそのほかに、加熱する、ホットミルクセーキや、チョコレートやストロベリーの固形
物をくわえるもの、あるいは、などがある。卵、砂糖、練乳にかき氷を入れてシャーベットでつくる
長崎県のミルクセーキなどがある。作り方は、①マグカッブに牛乳200㍑、バター10g、砂糖小さ
じ山盛り2を入れてスプーンで混ぜる。②電子レンジ(500W}で3分ほど加熱、③加熱後拡販す
る。材料費約40円。



滋養強壮にターメリックミルクセーキ

ココナッツミルク1缶、アーモンドミルク1/2カップ、冷凍バナナ1本、ウコン茶さじ2杯、アー
アーモンドバター大さじ1、ココナッツ1/4カップ、バニラのエキス小さじ2、シナモン適量、黒コ
ショウ適量。

 

大還暦時代

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                公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子 
 

                                                    

      ※ 斉の都淄。あふれる人波をぬって車馬が行きかう街路。闘鶏に興ずる人の輪。
        賑やかな楽器の音。天下第一の繁華を誇るこの都会はまた、稷下(しょくか)
        に集まった学者たちの華やかな論戦の舞台でもあった。ここでの生活は、孟
        子にとって生涯で最も希望にみちたものであった。弟子、王、家臣だちとの
        対話の中にも、有名な「浩然の気」「四端の心」の弁論があり、確信と希望
        から生まれる一種の明るさがにじみ出ている。やがてそれも空しくなるが。 

        【ことば】

        「自ら反みて縮ければ、千万人といえどもわれ往かん」
        「力をもって人を服する者は、心服せしむるにあらざるなり」
               「禍福はおのれよりこれを求めざるものなし」
           「天の時は珀の利にしかず。地の利は人の和にしかず」
        「まさに大いになすあらんとする君は、必ず召さざるの臣あり」

 如何養浩然之氣



   No.88

 【オールソーラーシステム篇:海水淡水化と光触媒による水素製造技術】

● カタールで高温排海水を用いた海水淡水化実証事業

省エネ・低環境負荷型の造水システム確立

10月19日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、カタール電力・水公社と共同で、
高温排海水を用いた海水淡水化実証事業を実施することに合意し、基本協定を締結した。それによる
と、そてによると、現在、カタール北部に位置するラスラファン工業都市では、1カ所の共通取水設
備から海水を取水し、各プラントに配水して設備の冷却用水として利用している。この冷却に活用さ
れた海水は最高45℃程度で共通放水路により海に放出しているが、この最高45℃程度の排海水を
水資源として逆浸透(RO)膜法による海水淡水化の原水に用い、省エネ・低環境負荷型の海水淡水化
システムとして実証。得られた淡水については、飲料水基準への適合を検証とする。今後、カタール
電力・水公社との連携のもと実証設備の建設・運転を行い、現地での商用化に必要なデータの取得お
よび周辺国への普及展開を含めたビジネスモデルについて検討を進める。カタールをはじめとするペ
ルシャ湾岸地域では、工場プラント設備冷却水として海水を利用するケースが多数あり、同地域にお
いて今後も増加し続ける水需要に対し、高温排海水を利用した海水淡水化技術を広く普及することが
期待されている。

 

【事業の詳細】  委 託 先:三菱重工業株式会社、三菱商事株式会社
実商規模:1,500立方メートル/日(造水量)
実商場所:カタール、ラスラファン工業都市

 【技術の優位性】 

RO膜法にて最高45℃程度の原水においても適正な脱塩性能を発揮(蒸発法と比較し80%省エネ) RO膜法の前処理を無薬注処理とし、薬品使用量およびプラント建設費を低減 造水コストの低減(蒸発法と比較し40%以上削減) 新たな取水口などの建設が不要(既存のRO膜法と比較し建設コスト10%以上削減) 新たな取水口建設などの海洋環境破壊がない(建設許可取得も容易) 

  Sep. 26, 2017

● 可視光・近赤外光源で 水から水素を高効率生成する非金属光触媒

太陽光による水素製造の実現

9月26日、大阪大学の研究グループは、黒リンとグラファイト状窒化炭素(g-C3N4)の二つの材料からなる複
合体を合成し、この複合体は、環境に好ましい、完全金属フリーの光触媒となることを発見。これまで可視光・
近赤外光を利用して、水から水素を高効率生成できる光触媒はなかったが、黒リンとg-C3N4の二成分からな
る複合体は、太陽光広帯域応答型光触媒で水から水素の高効率生成に成功したことを公表。従来の光触媒で
は、太陽光に4%程度しか含まれない紫外光を利用するため、水から水素への太陽光エネルギー変換効
※4は低く実用からは遠かった。今回、紫外・可視光のみならず近赤外光にも強い吸収をもつ層状の
黒リン※5と、数層からなるg-C3N4との二成分からなる複合体を合成。

 Aug. 31, 2017
Title:Metal-Free Photocatalyst for H2 Evolution in Visible to Near-Infrared Region: Black Phosphorus/Graphitic 
 Carbon Nitride

❏ 関連特許:株式会社豊田中央研究所

  特開2017-052915  樹脂複合材料及びその製造方法


【概要】

窒化ホウ素ナノシートの添加による熱伝導性の向上効果及び耐熱性の向上効果を十分に得ることがで
き、更に表面外観にも優れた樹脂複合材料の提供にあたっては、窒化ホウ素ナノシート及びイオン液
体が樹脂中に分散している樹脂複合材料。前記窒化ホウ素ナノシート及び前記イオン液体のそれぞれ
少なくとも一部が、窒化ホウ素ナノシートと、該ホウ素ナノシートに吸着している液体とを備える窒
化ホウ素ナノシート複合体となっている樹脂複合材料。前記窒化ホウ素ナノシートが、層数が20層
以下の窒化ホウ素ナノシートを数基準で60%以上含む樹脂複合材料構成とする。

 


以上のように海水の淡水化と光波超領域対応光触媒による水素製造がドッキングするエネルギーフリ
ー堺のの実現する日がまた一歩近づいている。

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

  

    第60章 もしその人物がかなり長い手を持っていれば

   まりえは書斎をあとにして仄暗い長い廊下を歩き、いくつかの部屋のドアを間いた。どのドア
 にも鍵はかかっていなかった。この前ここに来たときには、それらの部屋は見せてもらえなかっ
 た。彼女たちが案内されたのは、一階の居間と、階下にある書斎と食堂と台所だけだった(そし
 て彼女は一階の客用洗面所を使わせてもらった)。まりえはそれらの未知の部屋のドアを次々に
 開けていった。ひとつめは免色の寝室だった。いわゆる主寝室で、とても広い。ウォークイン・
 クローゼットとバスルームがついている。大きなダブルベッドかおり、ベッドはとてもきれいに
 メイクされていた。上にはキルトのベッドカバーがかけられていた。往み込みのメイドはいない
 のだから、あるいは免色が自分でベッドメイクしたのかもしれない。もしそうであったとしても、
 とくに驚きはしない。枕元には焦げ茶色の無地のパジャマがきれいに畳まれて置いてあった。寝
 室の壁には小さな版画がいくつかかかっていた。同じ作者によるセットのものらしかった。ベッ
 ドの枕元にも読みかけの本が置かれていた。あちこちでこまめに本を読む人なのだ。窓は谷に向
 いていたが、それほど大きな窓ではなく、ブラインドが下ろされていた。

  ウォークイン・クローゼットの扉を開けると、広いスペースに服がずらりと並んでいた。スー
 ツは少なく、ジャケットやブレザーコートがほとんどだった。ネクタイの数も多くはなかった。
 フォーマルな格好をする必要があまりないのだろう。シャツはどれもクリーニングから戻ってき
 たばかりらしく、ビニールでパックされていた。たくさんの革靴とスニーカーが棚に並べられて
 いた。少し離れたところに、様々な厚さのコートが並んでいた。趣味の良い服が丁寧に集められ、
 よく手入れされていた。そのまま服飾雑誌に載せられそうだ。服の量は多すぎもせず、また少な
 すぎもしない。すべてにほどよく節度が保たれていた。

  タンスの抽斗には、靴下やハンカチや下着やアンダーシャツが詰まっていた。どれも皺ひとつ
 なく折り畳まれ、美しく整頓されていた。ジーンズやポロシャツやスエットシャツが収められた
 抽斗もあった。セーターのためには専用の大きな抽斗があった。いろんな色合いの美しいセータ
 ーが集められていた。すべてが無地のセーターだった。しかしどの抽斗にも免色の秘密を解き明
 かしてくれるものはなにひとつとして見つからなかった。何もかも見事の清潔で、どこまでも機
 能的に仕分けられていた。床には塵ひとつ落ちておらず、壁にかかった額はすべてまっすぐに揃
 えられていた。

  免色に関して、ひとつだけまりえに明確に理解できた事実があった。それは「この人と生活を
 共にすることはとてもできそうにない」ということだった。普通の生身の人間にはそんなことは
 まず不可能だろう。うちの叔母さんもかなり整頓好きな人ではあるけれど、ここまで完璧にはで
 きない。
  次の部屋はどうやら客用の寝室であるらしかった。メイクされたダブルベッドがひとつ用意さ
 れていた。窓際には書き物机と事務椅子があった。小さなテレビもあった。しかし見たところ、
 実際にそこに客が泊まったような痕跡や気配は見受けられなかった。それはどちらかといえば、
 永遠に見捨てられた部屋のように見えた。どうやら免色さんはあまり客を歓迎しない入らしい。
 ただ何か非常の場合のために(どんな場合なのか想像もつかないが)、客用の寝室がいちおう確
 保してあるだけなのだ。

  その隣の部屋はほとんど物置のようになっていた。家具はひとつも置かれておらず、緑色のカ
 ーペットが敷かれた床には、十個ばかりの段ボール箱が積み重ねてあった。重さからすると、中
 には書類が詰まっているようだった。貼られたラベルには、ボールペンで記号のようなメモが記
 されていた。そしてどの箱もガムテープで厳重に封がされていた。たぶん仕事上の書類なのだろ
 うと、まりえは想像した。それらの箱の中には何かしら大事な秘密が潜んでいるのかもしれない。
 しかしそれはたぶん私には関係のない、彼のビジネス上の秘密に違いない。

  どの部屋にも錠はかかっていなかった。どの部屋の窓も谷間に向いており、やはりしっかりと
 ブラインドが下ろされていた。明るい陽光や優れた眺望をそこに求めるものは、今のところ誰ひ
 とりいないようだった。部屋は薄暗く、打ち捨てられた匂いがした。

  四番目の部屋が彼女にはもっとも興味深かった。部屋そのものがとくに興味深かったわけでは
 ない。部屋にはやはり家具はほとんど置かれていなかった。食堂椅子が一脚と、特徴のない小さ
 な木製のテーブルがひとつ置かれているだけだ。壁もむき出しで、一枚の絵もかかっていない。
 とてもがらんとしている。装飾的なものは何もない。普段は使われていない空き部屋のようだっ
 た。でもためしにウォークイン・クローゼットの扉を間いてみると、そこには女性の衣服が並ん
 でいた。それほどたくさんの量ではない。でも普通の成人女性が、数日そこで生活するために必
 要としそうな衣服が、ひととおり揃えられていた。たぶん定期的にこの家に泊まりに来る女性が
 いて、その人が使う服がここに常備されているのだろうとまりえは想像した。彼女は思わず顔を
 しかめた。免色にそういう女性がいることを叔母さんは知っているのだろうか?

  しかし彼女はすぐに自分の考えが間違っていることに気づいた。ハンガーにかけられて並んで
 いる服はどれも一昔前のデザインのものだったからだ。ワンピースもスカートもブラウスも、み
 んな名のあるブランドのものだし、ファッショナブルだし、いかにも高価そうに見えたが、今の
 時代にこういった服を着る女性はまずいないだろう。まりえは決してファッションに詳しい方で
 はないが、それくらいはわかる。おそらく彼女が生まれる前の時代に流行った服だ。そしてどの
 服にも防虫剤の匂いがしっかり染みついている。長いあいだここに吊されっぱなしになっていた
 らしい。しかしたぶん保管が良かったためだろう。虫に食われたあとは見受けられなかった。ま
 た季節ごとに加湿除湿が通切に行われていたらしく、変色も見られない。ドレスのサイズは5。
 身長はおそらく百五十五センチ前後だろう。スカートのサイズを見る限り、スタイルはかなりよ
 さそうだ。靴のサイズは二十三センチ。

  何段かある抽斗には下着と靴下とナイトウェアが入っていた。どれも埃をかぷらないようにビ
 ニールの袋に入れられていた。彼女は袋から下着をいくつか取り出してみた。ブラのサイズは65
 のCたった。まりえはそのカップのかたちから、女性の乳房のかたちを想像してみた。おそらく
 叔母さんより少し小さいくらいだろう(もちろん乳首のかたちまではわからないが)。そこにあ
 る下着はどれも上品で優雅なものだった。あるいは心持ちセクシーな方向に傾いたものだった。
 経済的に余裕のある成人女性が、好意を持つ男性と肌を重ねる状況を念頭に置いて専門店で購入
 しそうな、上等な下着だった。繊細な絹やレース、どれもぬるま湯の手洗いを要求している。庭
 の草刈りをするときに身につけるようなものではない。そしてどれにも防虫剤の匂いがしっかり
 しみこんでいた。彼女はそれを注意深く畳んで、前と同じようにビニール袋に入れ、クローゼッ
 トの抽斗を閉めた。

  これらの服は免色がかつて――たぶん十五年か二十年前に――親しく交際していた女性が身に
 纏っていた衣服なのだ。それが少女かたどり着いた結論だった。そして何らかの事情があって、
 そのサイズ5の服を着て、二十三センチの靴を履き、65Cのブラをつけていた女性は、それらの
 趣味の良い衣服を、ひとまとめあとに置いていった。そしても亘戻ってこなかった。しかし彼女
 はなぜこれだけのかなり贅沢な衣服を残していったのだろう? もし何らかの事情があって別れ
 たのだとしたら、普通は引き上げていくものだろう。その理由はもちろんまりえにはわからなか
 った。いずれにせよ、免色さんは残された少ない衣服をとても大事に保管している。ライン川の
 こびとたちが、伝説の黄金を後生大事に護っているみたいに。そして彼はときどきこの部屋にや
 ってきて、その衣服をしげしげ眺めたり、手に取ったりしているのだろう。そして季節ごとに防
 虫剤を入れ替えているのだろう(彼がその作業をほかの人の手にまかせるわけはない)。

  その女性は今はどこでどうしているのだろう? 誰か別の人の奥さんになっているのかもしれ
 ない。あるいは病を得たか、事故にあったかして亡くなってしまったのかもしれない。でも彼は
 いまだに彼女の面影を追い求めているのだ(もちろんまりえは、その相手の女性が彼女自身の母
 親であることを知らなかったし、この私もその事実を彼女に告げなくてはならない理由を思いつ
 けなかった。それを告げる資格を持っているのはおそらく免色だけだ)。

  まりえは考え込んでしまった。そのことで自分は免色さんにもっと好感を抱くべきなのだろう
 か――ひとりの女性を長い歳月にわたってそれほど深く想い続けることに対して? それともい
 ささか気味悪いと感じるべきなのだろうか――これほどまで大事に完璧にその女性の衣服を保管
 これほどまで大事に完璧にその女性の衣服を保管そこまで考えたとき、ガレージのシャッターが
 上がる音が突然耳に届いた。免色が帰宅したのだ。衣服に意識を集中していたせいで、門が開い
 て車がやってくる音に気がつかなかった。早くここから逃げ出さなくてはならない。どこか安全
 なところに身を隠さなくてはならない。でもそこで彼女は、はっとひとつの事実に思い当たった。

  おそろしく重大な事実に。そしてパ二ックが彼女の全身をとらえた。

  テラスの床に靴を置きっぱなしにしてきた。そして双眼鏡もケースから出して、専用台に取り
 付けたままの状態になっている。スズメバチを目にしたせいで恐怖に駆られ、何もかも放り出し
 て家の中に逃げ込んだのだ。すべてがそのままあとに残されている。もし免色がテラスに出てそ
 れを目にしたら(遅かれ早かれ目にするはずだ)、自分の留守中に誰かが家の中に侵入したこと
 にすぐ気づくはずだ。黒いスリッポン・シューズのサイズを見れば、それが少女のものであるこ
 とは一目でわかる。免色は頭の切れる男だ。それがまりえのものだと思い当たるのにそれはどの
 時間はかかるまい。おそらく彼は家の中を隈無く探し回るだろう。そしてここに隠れている私を
 簡単に見つけ出すに違いない。

  今からテラスに走って行って、靴を回収し、双眼鏡を元に戻すだけの時間の余裕はない。そん
 なことをしていたら、きっと途中で免色と鉢合わせしてしまう。どうすればいいのか、彼女には
 見当もつかなかった。息が詰まり、心臓の鼓動が遠くなり、手足がうまく動かなくなった。
  車のエンジンが止まり、それからシャッターが降りる音が聞こえた。まもなく免色が家の中に
 入ってくるはずだ。いったいどうすればいいのだろう? いったいどうすれば……。彼女の頭の
 中は空白になった。彼女は床に腰を下ろしたまま目を閉じ、両手で顔を覆った。

 「そこでじっとしておればよろしい」と誰かが言った。

  彼女はそれを幻聴だと思った。しかし幻聴ではなかった。彼女が思い切って目を開けると、目
 の前に体長六十センチほどの老人がいた。その男は丈の低いタンスの上にちょこんと腰を下ろし
 ていた。白髪のまじった髪を頭の上で結い、古風な白い装束に身を包み、腰には小ぷりな剣を差
 していた。彼女は当然のことながら、最初のうちそれを幻覚だと思った。激しいパニックに陥っ
 たせいで、自分は実際にはありもしないものを見ているのだ。

 「いや、あたしは幻覚なんかではあらない」とその男は小さいけれど良く通る声で言った。「あ
 たしの名前は騎士団長という。あたしが諸君を肋けてあげよう」

秋川まりえのには免色渉と殺されたはず(?)の騎士団長の二人(あるいは、ひとりとひとつ)が同時
に登場する。どうするまりえ!? このつづき(第61章)は次回に。 
                                       この項つづく

  
Adler Berriman "Barry" Seal (July 16, 1939 – February 19, 1986)

【映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』】 

台風21号と衆議院選挙でくちゃくちゃになった22日は、テレビを離れ久しぶりに映画『トップ・
ガン』を観て過ごす(雨漏りと強風で睡眠不足となる、常態化する洪水対策で疲弊する地域経済をど
うするつもりなんだろうね政府は)。火曜日のTVで、今年に米国公開さたダグ・リーマン監督、主
演はトム・クルーズが務める実在した麻薬搬送人の天才パイロット、バリー・シールの伝記映画『バ
リー・シール/アメリカをはめた男』(原題:American Made)の来日インタービューが放映されていた
ので、日本公演の映画鑑賞を予定に入れる。前評判をザックリみるも。「トップ・ガン」や「ミッシ
ョンインポサブル」などと比較してシリアスな仕上がりとなっていることを期待しブッキング。とこ
ろで、選挙は?というと、台風支度くもあり、朝8時過ぎに投票をすませる。我が家は受け皿不在下
で小選挙区は田島一成、比例区は、希望の党の家内と辯舌さわやかな幸男の立憲民主党と分かれたが
立憲民主党に統一し息子たちにも伝えている(ひとりは仕事で棄権)。ところが、同時に最高裁々判
長審判の事前調査忘れるという失態、白紙委任投票となった。反自公政権に傾いたの、外交政策の保
守反動の暴走を止めるため(創憲派であるが180度異なることはブログ掲載済み)。結果、選挙が
自己目的化した自公政権に大敗。

 

 


 

  Mar. 1, 2017

 ● 今夜の寸評:大還暦時代の肝

リンダ・グラットンとアンドリュー・スコット著の『Life Shift 100年時代の人生戦略』が話題になる
ほど、平均寿命が伸びている。このブログのテーマフレーズ「豊饒なセカンドライフを求め大還暦ま
での旅日記」としたためてあるが、極楽とんぼと揶揄するのは彼女だけではなかった。そこで、リア
リティーをもって考えてみようとなった。真ん中をへし折って、日本の場合は、引退年齢を引き上げ
るだけでなく、現状では低い女性の就業率(高齢者層は特に低い)を引き上げようという意見がある
(「人生100年時代」への対応の遅れは大問題だ、若者のための経済学。 東洋経済オンライン 2017.02.
17)。「マルチステージ」化が進めば、高齢者の就業率も上昇する。日本人が「3ステージ」の人生
設計を行う状態から抜け出せていないとすれば、引退期に資金計画の破綻する可能性が高いという結
論になり、高齢者の生活保護の受給者数は著しく増加し、財政への負担も懸念されると予測する。



そうか、雨漏り対策の抜本対策も考えなくちゃいけなし(これは明日から準備作業に入る)、稼ぐ作業もしなけれ
ば迷惑をかけてしまうしね。とらえず、今日の宅トレで決めたが11月から本格的に「英会話」の勉強をやり直
すことにした。 

 

 

 

勇気のある賢い女の子

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                公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子 
 

                                                    

      ※ 真の勇気を養うには: 弟子の公孫丑がたずねた。「先生ほどのお方が斉の
        宰相となり、存分に腕を振われたとします。そうなれば、斉が天下の王者に
        のしあがったとしても、別に不思議ではありません。ですが、実際そのよう
        な重職におつきになれば、やはり動揺されるのではありませんか」
        「いや、わたしは四十をすぎてから何事にも動揺しなくなった」
        「それなら孟賁(もうほん✻)よりはるかに上ですね」
        「そうむずかしいことではない。告子は、もっと若いときから動揺しなくな
        った」
        「どうすればそうなるのでしょう」
        「うむ。北宮黝(ほくきゅうゆ✻)はこうやった。
        身体を刺されてもみじろぎせず、目を突かれてもまばたきしない。毛筋ほど
        の侮辱でも、公衆の面前でむち打たれたほどに感じる。相手が賤民であろう
        と王侯であろうと、侮辱は一切許さない。王侯が刺殺されても、賎民が殺さ
        れたぐらいにしか思わない。悪口を聞けば、たとい相手が諸侯でもかならず
        復啓した。また、孟施舎(もうししゃ✻)はこう言っている。『たとい勝て
        ない相手でも、のんでかかれ。敵の力をはかり、勝てる見こみが立ってから
        戦うのは、優勢な敵を恐れているのだ。自分が必ず勝てるとは限らない。し
        かし、ひるまないで戦うのだ』、孟施舎のやり方は曽子(そし✻)に似てい
        る。北宮黝のやり方は子夏(しか✻)に似ている。どちらがすぐれていると
        はいえないが、〈気〉を重視した孟施舎が一枚上だ。曽子は弟子の子襄(し
        じょう)にこう言った。『おまえは勇者になりたいか。いつかわたしの先生
        (孔子)から大勇についてうかがったことがある。それによると、わが身を
        反省して、やましいことがあれば、たとい相手が賎民でもひるんでしまう。
        しかし正しいと確信できれば、相手が千万人であろうと、ぶつかってゆく。
        これが本当の勇気だ』、曽子は内心の正しさを重視している。これは気を重
        視した孟施舎よりすぐれている」

        「告子も動揺しなくなったとおっしゃいましたが、先生とのちがいは?」
        「かれはこう言っている。『人の話が判断できないとき、心の中でむりやり
        納得しようとするな。心の中で判断できないとき、気によってむりやり納得
        しようとするな』、さて、"心の中で判断できないとき、気によってむりやり
        納得しようとするな" というのは正しいが、”人の話が判断できないとき、
        心の中でむりやり納得しようとするな〃 というのは間違っている。意志は
        気を左右する。気は肉体をつかさどる。意志の向かうところに気は従う。そ
        こでわたしはいうのだ。意志を固く守り、気を乱してはならぬ、と」

        「ちょっと待ってください。”意志の向かうところに気は従う”とおっしゃ
        った。それなのに”意志を固く守って気を乱さぬように”といわれるのは?」
        「意志が集中すれば、気を動かす。しかし、”気が集中すれば、逆に意志を
        動かすこともあるのだ。たとえば、物につまずくと、思わずトントンとたた
        らを踏む(=よろめいた勢いで、数歩ほど歩み進んでしまうしまうこと)。
        これは気の仕業だ。つまり気が意志をを動かしたのだ」
        「では、告子に較べて、先生はどこがすぐれているのですか」
        「人の話を理解する、浩然の気を養っている、この二つだ」
        「浩然の気といいますと?」
        「一口にはいえない。このうえなく広大で、このうえなく剛健なもの、すな
        おに正しく養えば、天地の間に充満する。それが浩然の気だ。しかし、それ
        は道と義とに伴われてこそ存在するものだ。さもなければ消える。義をくり
        かえし行なっている間におのずから得られるものなのだ。たまに義を行なっ
        たからといって得られるものではない。また心にやましいところがあっても
        消えてしまう。いつか。”告子は義を理解していない”と言ったのは、かれ
        が義を心の外に存在するものとみなしているからだ。浩然の気を養うには、
        よくよく心がけなければならぬ。しかしそれを目的として意識してはいけな
        い。忘れてしまっては、もちろんいけないが、むりに””助長”✻してもい
        けない。宋の国のある百姓は、苗の成長を早めたい一心から苗を引っぱって
        しまった。疲れきって家に帰り、こう言った。『ああ、今日はくたびれた。
        苗を伸ばして来たのだから』、息子があわてて畑にかけつけると、苗はすで
        に枯れていた。世間にはこんな人間が少なくない。浩然の気を養うのを無益
        だときめつけるのは、畑の草とりもやらない人間だ。”助長”しようとせっ
        かちになるのは、苗を引っぱる人間だ。これは無益なばかりか、有害でさえ
        ある」

        〈孟賁 北宮黝 孟施舎〉 いずれもむかしの斉の勇者。
        〈告子〉 孟子の論敵で、性善説に反対して性には善も不善もないと主張し
        た(告子篇261項参照)。
        〈曽子〉 孔子の弟子。内省的な人物で常に自分の心を正しく守ることに意
        を用いた。
        〈子夏〉 孔子の弟子。外面的な規範を忠実に守ることを心がけた。
        〈かれが義を心の外に存在するものとみなしている〉 孟子が仁、義の二つ
        ともみずからの心に根ざした徳とみているのに対し、告子は、義は外的事実
        によって生ずる徳であるとみている。したがって義の徳を積む修養は不要だ
        とした(告子篇二六四頁参照)。
        〈助長〉 来国の百姓の寓話にあるように、本来の意味は。”長ずるを助け
        る”で、性急に伸ばそうとするあまり、逆にダメにしてしまうことである。

 

 【量子ドット工学講座 No.46】

    No.89

【量子ドットディスプレイ篇:省エネで高品質の高精細カラー表示器】


10月16、17日 「Display Innovation CHINA 2017」でサムソンディスプレイ社の量子ドット液晶
ディスプレーの技術と戦略が話題となっている。量子ドット液晶は有機ELよりも鮮やかな色を表現
できるだけでなく、焼き付きも起こらない。消費電力も低い。(課題とされる)視野角は改善可能で
あり、輝度も向上できる。同社は環境負荷物質のカドニウムを使わない量子ドット材料を使用してお
り環境にも優しいと優位性を強調し、量子ドット液晶テレビの製品戦略として、現在のバックライト
上に量子ドットシートを置く方式から、来年(2018年)は液晶用ガラス基板の中に量子ドットの機能
を取り込んだ形にしてディスプレー全体の薄型化を図る。2019年には8Kの量子ドット液晶テレビも
製品化を計画。さらに、同社はこの技術をテレビだけでなく、モニターディスプレーにも展開する方
針を打ち出している。

携帯電話、PDA(personal digital assistant)、コンピュータ、大型TV(television)といった各種電
子機器の発展につれ、それらに適用される平板表示装置への要求がだんだんと増大している。平板表
示装置のうち、液晶表示装置(LCD:liquid crystal display)は、低い電力消耗、容易な動画表示及び
高いコントラスト比などの長所をもつ。 液晶表示装置は、2枚の表示基板の間に配置された液晶層を
含み、液晶層に電場を印加して液晶分子の配列方向を変化させ、入射光の偏光を変化させるのであり、
それを偏光子と連動させて、画素別に入射光の透過いかんを制御することによって映像を表示する。
具体的にその最新工学事例を下記の特許公開事例で俯瞰する。尚、ここでは量子ドットと量子ロット
が含まれる。

❏ 特開2017-161884  液晶表示装置及びその製造方法 三星ディスプレイ株式會社

【概要】

下図3のように、液晶表示装置及びその製造方法を提供にあっては、第1副画素領域、第2副画素領
域及び第3副画素領域を含む下部基板と、下部基板上に配置された液晶層と、液晶層上に、下部基板
と対向するように配置されたカラーフィルタ基板と、を含み、カラーフィルタ基板は、下部基板に対
向する上部基板と、上部基板の下部基板に対向する面上に配置された電極パターンと、電極パターン
上にあって、第1副画素領域、第2副画素領域及び第3副画素領域にそれぞれ対応するように配置さ
れた、第1量子ロッドを含む第1光変換部、第2量子ロッドを含む第2光変換部、及び第3光変換部
と、を含む液晶表示装置構成/構造とする(詳細は下図をクリック参照)。

Sep. 14, 2017

 

【符号の説明】

  1,2                                         液晶表示装置
  1100,2100,3100,4100          カラーフィルタ基板
  1110,2110,3110,4110          上部基板
  1120,2120,3120,4120          電極パターン
  1130,2130,3130,4130          配向膜
  1141,2141,3141,4141          第1光変換部
  1142,2142,3142,4142          第2光変換部
  1143,2143,3143,4143          第3光変換部
  1141a,2141a,3141a,4141a   第1量子ロッド
  1142a,2142a,3142a,4141b   第2量子ロッド
  1143a,2143a,3143a               異方性物質
  1141b,1142b,1143b,2141b,2142b,2143b,3141b,3142b,3143b,4141b,4142b,
  4143b    液晶
  1150,2150,3150,4150          隔壁
  1160,2160,3160,4160          平坦化層
  2141c,3141c,4141c               高分子化合物
  2170,3170,4170                    ノッチフィルタ
  2200,4200                             下部基板
  2300,4300                              共通電極
  2400,4400                              液晶層
  2500,4500                              偏光子
  2600,4600                              バックライトユニット
  4143a                                      第3量子ロッド
  Sub1                                        第1副画素領域
  Sub2                                        第2副画素領域
  Sub3                                        第3副画素領域

【図面の簡単な説明】

【図1】一実施形態によるカラーフィルタ基板を概略的に示した断面図
【図2】他の実施形態によるカラーフィルタ基板を概略的に示した断面図
【図3】図2のカラーフィルタ基板を含む一実施形態による液晶表示装置を概略的に示した断面図
図4H】図3の液晶表示装置を製造する方法を順次に示した断面図
【図4I】図3の液晶表示装置を製造する方法を順次に示した断面図

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』    

   

    第61章 勇気のある賢い女の子にならなくてはならない

  「あたしは幻覚ではあらない」と騎士団長は繰り返した。「あたしが実在しているかどうかはい
 ささか議論の分かれるところであるが、とにかくもって幻覚ではあらない。そしてあたしはここ
 に諸君を助けにやってきたのだ。おそらく諸君は助けを求めているのではないだろうか?」

 〈諸君〉というのはどうやら自分のことらしいと、まりえは推測した。彼女は肯いた。しゃべり
 方はかなり奇妙だが、たしかにこの人の言うとおりだ。私はもちろん助けを求めている。

 「今さらテラスまで行って靴を持ってくることはかなわない」と騎士団長は言った。「双眼鏡の
 こともあきらめよう。でも心配はあらないよ。あたしが全力を尽くして、免色くんがテラスに出
 ないようにしよう。少なくともしばらくのあいだは。しかしいったん日が暮れたらそれもかなわ
 なくなる。あたりが暗くなれば彼はテラスに出て、谷の向かいの諸君の家の様子を双眼鏡で見る
 だろう。それが日々の習慣だ。それまでに問題を解消しなくてはならない。あたしの言わんとす
 ることは理解できておるね?」

  まりえはただ肯いた。なんとか理解できる。 

 「諸君はしばらくのあいだこのクローゼットの中に隠れているのだ」と騎士団長は言った。「気
 配を殺して身を潜めている。それしか道はあらない。うまい時期が来たら教えてあげよう。それ
 まではここから勣いてはならないよ。たとえ何かあっても、声を発してはならない。わかったか
 ね?」
  まりえはもう一度肯いた。私は夢を見ているのだろうか? それともこの人は妖精か何かなの
 だろうか?
 「あたしは夢でもあらないし、妖精でもあらない」と騎士団長は彼女の心を読んで言った。「あ
 たしはイデアというもので、本来は姿を持っておらない。しかしそれでは諸君の目には見えない
 し、何かと不便であるので、こうしてとりあえず騎士団長の姿かたちをとっておるのだ」
  イデア、きしだんちょう……とまりえは声には出さず頭の中でその言葉を繰り返した。この人
 には私の考えが読めるのだ。それから彼女ははっと思い出した。この人は雨田典彦の家で見た、
 横に細長い日本画の中に描かれていた人物だ。この人はきっとあの絵からそのまま抜け出してき
 たのだ。だからこそ身体も小さいのだろう。

  騎士団長は言った。「そのとおりだ。あたしはあの絵の中の人物の姿を借用している。騎士団
 長――それが何を意味するのか、それはあたしもよく知らない。しかしあたしは今のところその
 名前で呼ばれている。ここで静かに待っていなさい。時がきたら、迎えに来てあげよう。怖がる
 ことはあらない。ここにある衣服が諸君を護ってくれる」

  イフクが護ってくれる? 彼の言っていることの意味がよく理解できなかった。しかしその疑
 問に対する答えは返ってこなかった。そして次の瞬間、騎士団長は彼女の前から姿を消した。水
 蒸気が空中に吸い込まれるみたいに。 

  まりえはクローゼットの中で息を潜めていた。騎士団長に言われたようにできるだけ動かない
 ように、音を立てないようにしていた。免色は帰宅して、家の中に入ってきた。どうやら買い物
 をしてきたらしく、紙袋をいくつか抱えるかさかさという音が聞こえた。部屋履きを雁いた彼の
 柔らかな足音が、彼女の隠れている部屋の前をゆっくりと通り過ぎるとき、彼女の息は詰まった。
  クローゼットのドアはベネシアン・ブラインドで、その下向きの隙間から優かに光が入ってき
 た。それほど明るい光ではない。夕方が近づくにつれて、部屋はますます暗くなっていくだろう。
 ブラインドの隙間からはカーペットの敷かれた床が見えるだけだった。クローゼットの中は挟く、
 防虫剤のきつい匂いが満ちていた。そしてまわりを壁に囲まれ、どこにも逃げ場はなかった。逃
 げ場がないことが、少女を何よりも怯えさせた。



  時がきたら、迎えに来てあげよう、と騎士団長は言った。彼女はその言葉を信じて待つしかな
 かった。そして彼はまた「イフクが諸君を護ってくれる」と言った。たぶんここにある衣服のこ
 となのだろう。知らないとこかの女性が、おそらくは私の生まれる前に身につけていた古い衣服。
 それがどうして私の身を護ってくれるのだろう? 彼女は手を伸ばして、目の前にある花柄のワ
 ンピースの裾にさわった。ピンク色の生地は柔らかく、指に優しかった。彼女はしばらくのあい
 だそれをそっと握っていた。その服に手を触れていると、どうしてかはわからないけれど、少し
 だけ心が休まるようだった。

  もしそうしようと思えば、私はこのワンピースを着ることができるかもしれない、とまりえは
 と思った。その女性と私の身長はそれはどかおりないだろう。サイズ5なら私が着てもおかしく
 はない。もちろん胸の膨らみがないから、そのところはなんとか工夫しなくてはならない。でも
 その気になれば、あるいは何かの理由でそうしなくてはならないとなったら、私はここにある服
 に着替えることもできるのだ。そう考えると、なぜか胸がときめいた。

  時間が経過した。部屋は少しずつ暗さを増していった。夕方が刻々と近づいている。彼女は腕
 時計に目をやった。暗くて字がよく見えない。彼女はボタンを押して文字盤の明かりをつけた。
 時刻は四時半に近くなっていた。もう日は暮れかけているはずだ。今はどんどん日が短くなって
 いる。そして暗くなったら免色はテラスに出て行く。そしてすぐさま、彼の家に誰かが侵入した
 ことを発見するだろう。そうなる前にテラスに出て、靴と双眼鏡を始末しなくてはならない。

  まりえほどきどきしながら、騎士団長が自分を迎えに来るのを待っていた。しかし騎士団長は
 いつまでたっても姿を見せなかった。ものごとがうまく運んでいないのかもしれない。免色はつ
 けいる隙を彼に与えてくれないのかもしれない。そして騎士団長という人物に―――「イデア」
 というものに――あるいは「イどれはどの実際的な力が具わっているものか、彼のことをどこま
 で頼りにしていいものか、彼女には見当がつかなかった。しかし今のところ騎士団長を頼りにす
 る以外に方法はなかった。まりえはクローゼットの床に腰を下ろし、両手で膝を抱え、クローゼ
 ットの扉の隙間から床のカーペットを眺めていた。そしてときどき手を伸ばして、ワンピースの
 裾をそっと握った。それが彼女にとっての大切な命綱であるみたいに。

  部屋の中がずいぶん暗さを増した頃、廊下に再び足音が聞こえた。やはりゆっくりとした柔ら
 かな足音だ。その足音は彼女の潜んでいる部屋の前あたりまで来て、急に立ち止まった。まるで
 何かの匂いをかぎつけたみたいに。少し間があり、それからドアが開けられる音がした。この部
 屋のドアだ。間違いない。心臓が凍りついて、そのまま止まってしまいそうだった。そしてその
 誰か(おそらく免色だろう。それ以外にこの家の中には誰もいないはずだから)は部屋の中に足
 を踏み入れ、後ろ手にゆっくりとドアを閉めた。かちやりという音がした。部屋の中にはその男
 がいる。間違いない。その人物も彼女と同じようにやはり息を殺し、耳を澄ませ、気配を探って
 いる。彼女にはそれがわかった。男は部屋の明かりをつけなかった。薄暗い部屋の中でじっと目
 をこらしていた。なぜ明かりをつけないのだろう? 普通はまず明かりをつけるものではないか。
 彼女にはその理由がわからなかった。

  まりえは扉のブラインドの隙間から床をにらんでいた。誰かがここに近づいてくれば、その足
 先が見えるはずだ。まだ何も見えない。しかしその部屋の中にははっきりとした人の気配があっ
 た。男の気配だ。そしてその男は――おそらく免色は(免色以外の誰が今この屋敷の中にいるだ
 ろう)――暗がりの中でこのクローゼットの扉をじっと見つめているようだった。彼はそこに何
 かを感じ取っているのだ。このクローゼットの中にいつもとは違う何かが持ち上がっていること
 を。その人物が次にするのは、このクローゼットの扉を開けることだ。それ以外にはあり得ない。
 この扉にはもちろん鎚なんてかかっていないから、開けるのは簡単なことだ。手を伸ばしてノブ
 を手前に引きさえすればいい。

  彼の足音がこちらに近づいてきた。激しい恐怖がまりえの全身を捕らえた。腋の下を冷たい汗
 が筋になって流れ落ちた。私はこんなところに来るべきではなかったのだ。私は自分の家におと
 なしく留まっているべきだったのだ、と彼女は思った。向かい側の山の上にある、あの懐かしい
 自分の家に。ここには何か恐ろしいものがある。そしてそれは私がうっかり近づいてはならない
 ものだ。ここには何かのイシキが働いている。そしてたぶんスズメバチもそのイシキの一部なの
 だろう。そしてその何かは今、私にその手をじかに伸ばそうとしている。ブラインドの隙間から
 足の先が見えた。茶色の革の部屋履きらしきものを雁いた足たった。でも暗すぎて、そのほかに
 は何も見えない。

  まりえは本能的に手を伸ばし、そこに吊されたワンピースの据を思い切り握りしめた。サイズ
 5の花柄のワンピース。そして念じた。私を助けてください、どうか私を護ってください、と。
  男はクローゼットの両開きの扉の前に、長いあいだじっと立っていた。何ひとつ物音を立てな
 かった。息づかいさえ聞こえない。男はまるで石でできた彫像のように身勤きもせず、ただそこ
 に立って様子をうかがっていた。重い沈黙と深まりつつある間がそこにあった。床の上に丸まっ
 ている彼女の身体が細かく震えた。歯と歯がぶつかってかたかたという小さな音を立てた。まり
 えは目をつより、耳を塞いでしまいたかった。考えを丸ごとどこかよそにやってしまいたかった。
 しかしそうはしなかった。そうしてはならないと彼女は感じたのだ。どんなに恐ろしくても、恐
 怖に自分を支配させてはならない。無感覚になってはならない。考えを失ってはならない。だか
 ら彼女は目を見開き耳を澄ませ、その足先を睨みながら、ピンクのワンピースの柔らかな生地を
 すがるように強く握りしめていた。

  イフクが私を護ってくれるのだ、と彼女は強く信じた。ここにあるイフクたちが私の味方なの
 だ。サイズ5の、二十三センチの、そして65Cのひと揃いのイフクたちが私をくるむようにして
 護り、私の存在を透明なものにしてくれるのだ。私はここにいない。私はここにいない。
  どれはどの時間が経過したのかわからない。そこでは時間は均一ではなかったし、順序だって
 もいなかった。しかしそれでも一定の時間は経過したようだった。男はある時点で、手を前に伸
 ばしてクローゼットの扉を開けようとした。そういう確かな気配をまりえは感じた。彼女は覚悟
 を決めた。扉は開かれ、男は彼女の姿を目にするだろう。そして彼女はその男の姿を目にするだ
 ろう。それから何か起こるのか、彼女にはわからない。見当もつかない。この男は免色ではない
 のかもしれない、そういう思いが一瞬彼女の頭に浮かんだ。じやあそれは誰なのだ?

  しかし結局、男が扉を開けることはなかった。しばらくためらってから手を引いて、そのまま
 扉の前から去っていった。どうして男が最後の瞬間に思い直したのか、まりえにはわからない。
 たぶん何かが彼がそうするのを押しとどめたのだ。そして男は部屋のドアを開け、廊下に出て、
 それからドアを閉めた。再び部屋は無人になった。間違いない。それはトリックなんかではない。
 この部屋の中にはもう私ひとりしかいないのだ。彼女はそれを確信した。まりえはようやく目を
 閉じ、身体中にため込んでいた空気を大きく吐き出した。

  心臓はまだ速い鼓動を刻んでいる。早鐘を打っている――小説ならそう表現するところだろう。
 早鐘というのがどんなものなのか彼女にはわからないけれど。本当に危ういところだった。でも
 何かが最後の最後に私を護ってくれたのだ。とはいえこの場所はあまりに危険すぎる。その誰か
 はこの部屋の中に私の気配を感じたのだ。間違いなく。いつまでもここに身を隠しているわけに
 はいかない。今回はなんとかうまくやり過ごすことができた。しかしこれから先いつもうまくい
 くとは限らないだろう。

  彼女はなおも待った。部屋の中はますます暗さを増していった。しかし彼女はそこでじっと待
 った。ただ沈黙を守り、不安と恐怖に耐えた。騎士団長は決して彼女のことを忘れたりはしない
 はずだ。まりえは彼の言葉を信じた。というか、その奇妙なしゃべり方をする小さな人物をあて
 にするしか、彼女に選択肢は残されていなかった。

  気がついたとき、そこには騎士団長がいた。

 「諸君はここを出るのだ」と騎士団長は囁くような声で言った。「今がまさにそのときだ。さあ、
 立ち上がりなさい」
  まりえは戸惑った。床に座り込んだままうまく腰を上げることができなかった。いざそのクロ
 ーゼットを出るとなると、新たな恐怖が彼女を襲った。この外の世界にはもっと恐ろしいことが
 待ち受けているかもしれない。

 「免色くんは今、シャワーを浴びておる」と騎士団長は言った。「彼は見ての通り清潔好きな男
 だ。シャワー室の中にいる時間はうんと長い。しかしむろん永遠にそこにいるわけではあらない。
 チャンスは今しかあらない。さあ、急がねば」

  まりえは力を振り絞って、なんとか床から腰を上げた。そしてクローゼットの扉を外に押して
 開けた。部屋は暗く無人だった。彼女は出て行く前に後ろを振り返り、もうコ茨そこに吊された
 衣服に目をやった。空気を吸い込み、防虫剤の匂いを嗅いだ。それらの衣服を彼女が目にするの
 は、これがもう最後になるかもしれない。それらの衣服はなぜか彼女にとって、とても懐かしい
 もの、近しいものとして感じられた。

 「さあ、急ぎなさい」と騎士団長が声をかけた。「時間の余裕はあらない。廊下に出て、左に向
 かうのだ」
  まりえはショルダーバッグを肩にかけ、ドアを開けて外に出て、廊下を左に向かった。そして
 階段を駆け上って居間に入り、その広いフロアを横切り、テラスに面したガラス戸を開けた。ま
 だスズメバチがそのへんにいるかもしれない。あたりはすっかり暗くなったから、蜂はもう活動
 をやめたかもしれない。いや、それは暗闇を苦にしない蜂かもしれない。でもそんなことを考え
 ている余裕はなかった。彼女はテラスに出ると、ねじをまわして双眼鏡を専用台からはずし、も
 とあったプラスチックのケースにしまった。そして専用台を畳み、前と同じように壁に立てかけ
 た。緊張して指がうまく動かなかったから、思ったより長い時間がかかった。それから彼女は床
 に置いてあった黒いスリッポン・シューズを拾い上げた。騎士団長はスツールに腰掛けて、その
 様子を見ていた。スズメバチはどこにもいなかった。そのことにまりえはほっとした。

 「それでよし」と騎士団長は肯いて言った。「ガラス戸を閉めて、中に入りなさい。それから廊
 下に出て、階段を二階ぶん下に降りるのだ」
  階段を二階ぷん降りる? それではますますこの屋敷の奥に入り込んでいくことになる。私は
 ここから逃げ出さなくてはならないのではないのか?
 「今ここから逃げ出すことはかなわない」と騎士団長は彼女の心を読んで、首を振りながら言っ
 た。「出目は堅く閉ざされている。諸君はしばらくのあいだこの中に身を隠すしかあらない。こ
 このところは、あたしの言うとおりにするのがよろしい」
  まりえは騎士団長の言葉を信じるしかなかった。だから居間を出て、足音を忍ばせて階段を二
 階ぷん下りた。

                                      この項つづく

 

  

【DIY日誌:台風21号の残件】

この間の21号で、停電になりエクセルの蛍光灯(パール金属株式会社/下写真)2つだけが点灯せ
ず修理を行うも、乾電池の水素ガス発生封止破壊による電極接点腐食とわかり修理充電し1つ分だけ
復元、残りは電池陰極側スプリング脱離1箇所(代用品は自前で作れるがアルカリマンガン単一電池
(8本/組)を購入し修理する。不良品はすべて国外製、パナソニック制覇はすべて充電再利用(メー
カーサイドは安全面から禁止扱い)。やはり、メイドインジャパン神話は生きていた。もう一件、雨
漏り修理は、先ず天井裏に入り調査から始めることに(スズメバチ巣除去と同じ)。電動式マルチツ
ールの購入準備を行う。後者は調査後方針決定する、以上。 

  ● 今夜の一曲

Ain't That a Shame | Fats Domino

ロックンロールの創始者のファッツ・ドミノ(1928年2月26日 - 2017年10月24日、ルイジアナ州ニュ
ーオーリンズ生)が他界。ビートルズもリスペクトし、ジョン・レノンは「ロックン・ロール」、ポ
ール・マッカートニーは「バック・イン・ザ・USSR」この極「エイント・ザット・シェイム」をカバ
ーしている。 
                                          合唱

 

 

夕暮れの秋を楽しむ一人鍋

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                公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子 

                                                      

     ※ 聖 人 論:「人の話を判断するとはどういう意味でしょうか」、「妥当でない
       話を聞けば、相手がどの辺に暗いかを判断する。でたらめな話を閲けば、どこに
       惑わされているかを判断する。よこしまな話を問けば、どこで道理をはずれたか
       を判断する。言い逃れの話を聞けば、どこで行きづまっているかを判断する。こ
       れらの話に心が惑わされれば、行為が毒され、さらには政治が毒される。聖人が
       いま現われたとしても、わたしの言葉に賛成されよう」、「宰我(さいが)や子
       貢(しこう)は言説にすぐれ、冉生(ぜんぎゅう、閔子(びんし)、顔淵(五人
       とも孔子の門弟)は徳行にすぐれていました。孔子はどちらにもすぐれていなが
       ら、自分では『話すことは不得手だ』と言っています。してみると、先生はもは
       や聖人の域に達しておられるわけですね」 

       「なんということを言うのか。むかし、子貢が孔子に『先生はむろん聖人でしょ
              うね』とたずねると、孔子は『聖人までにはとてもとても。たゆまず学び、あき
              ることなく教えるだけだ』と答えた。すると子貢は『たゆまず学ぶ、それは智だ。
              あることなく教える、それは仁だ。智仁兼備の先生は、もはや聖人だ』と感心し
              た。孔子でさえ聖人を自認されなかったのだ。ましてこのわたしを・・・・とんでも
              ないことを言うものだ」、「いつでし仁か、こんな話を聞きました。子夏、子游、
       子張(孔子の門弟)は聖人としての一面を備えている。冉生、閔子、顔淵はその
       全面を備えていた。が、ただスケールが小さかったということです。先生はどの
       人ぐらいにあたりますか」、「その話は、やめておこう」「では伯夷(殷、周時
       代の聖人)や伊尹(夏、殷ごろの聖人)とは、どうでしょう」「わたしは、この
       二人とは行き方がちがう。伯実は、しかるべき君主であれば仕え、しかるべき人
       民であれば指導し仁。治まった世の中であれば政治をあずかり、乱れた世の中で
       あれば隠遁した。伊尹は、だれに仕えても君主は君主、だれを指導しても人民は
       人民、と割り切って、治まった世の中でも、乱世でも出仕した。これに対して孔
       子は仕えるべき君主には仕え、やめるべきときにはやめ、長くとどまるべきとき
       はとどまり、早く去るべきときにはさっさと去った。この三人は、いずれも聖人
       だ。わたしにはとてもその上うな真似はできない。しかし希望としては孔子に学
       びたい」「伯夷も伊尹も、孔子と同様にみなしてよいのですか」、「いやいや。
       これまでに、孔子ほど偉大な人間はなかった」

       「では三者に共通したところは?」「それはある。かりに小国でも、君主として
       腕を振えばたちまち諸侯を朝見させ、天下を平和にするだろう。また天下を統一
       するさい、不正を行なったり、無実の人を殺したりは、絶対にしない。この点で
       三人は一致している」「では相違したところは?」「そうだな。宰我、子貢、百
       若(孔子の門弟)は聖人を理解するだけの見識を備えていた。また、尊敬する人
       物に対してお世辞を使うような人柄ではなかった。そのかれらが孔子についてこ
       う評価している。まず宰我は、『亮、舜よりはるかにすぐれている』、子貢は、
       『君主の施政ぶりをうかがうには、その国の礼制を見ればよい。君主の徳をうか
       がうには、その人の好んだ音楽を聞けばよい。この方法で歴代の王を品定めして
       みれば、この世が始まって以来、孔先生の上をいく人物はない』、有若は、『獣
       類でいえば麒麟、鳥類でいえば鳳凰、山では泰山、河海では黄河や大海、これら
       は同類のなかでもぬきんでている。人類における聖人は、つまりこれである。そ
       のなかでも群を披いているのが孔先生である。人類あってこのかた、孔先生より
       輝かしい人物はない』と言っている」

       【解説】 動揺しない心にはじまって、❶勇気を養う方法、❷浩然の気、❸言説
       の判断、❹聖人論と、めまぐるしく話題が変わってゆく。外面に恐れの気配を表
       わさない北宮黝、必勝の信念の確立を心がけた孟施舎、それらも勇気にはちがい
       ないが、真の勇気は、道義とともにあることの確信から生まれるのだ。浩然の気
       とは、この確信にもとづいた泰然自若たる心境に外ならない。「忘れてもいけな
       いし、《助長》してもいけない」という言葉は、浩然の気の涵養にかぎらず、何
       事においても戒めとなるだろう。「気」は原文のままであるが、一種のエネルギ
       ーと解することによって、いっそう判然としよう。意志とエネルギーの相関関係
       を説くこの一章は、孟子独特の。行動の哲学‘である。と本書で解説される、こ
       れは人格形成には欠かせないものだと思いつつ、今読み進めている村上春樹の『
       騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』に通ずるところあり、と感嘆する。 

    No.90 

【エネルギータイリング事業篇:モジュール一体型屋根材「CRESTROOF」】 

10月16日、カナディアン・ソーラー・ジャパン株式会社は、住宅向け太陽光発電システムの新製
品として、太陽光発電モジュール一体型屋根材「CRESTROOF(クレストルーフ)」を今年11月6
日(月)より受注開始、12月4日(月)より出荷開始することを公表。それによると下写真のよう
に、5本バスバーおよびPERC単結晶セルを採用したモジュール変換効率18.4%の「CS6V-250MS」
を採用。太陽光発電モジュールと金属屋根材が一体化することで、シンプルで美しい外観を持ちなが
ら、様々な高い機能を実現し。「CRESTROOF(クレストルーフ)」は、同社の自社施工部門による
材料から施工までの材工一括管理で、高い施工品質が提供できるとのこと 

 Oct.16, 201 

屋根材との段差がなく、一体感のあるフラットなデザインに仕上。屋根周囲の役物部材を供給。案件
ごとに設計し、幅広い屋根サイズへの対応ができる。また、国内屋根材メーカーが考案した設置構造
により、設置の際に使用するビスが雨水に触れることを可能な限り減らし、屋根の重なり部分では毛
細管現象も防ぎます。高い防水性能を活かし、傾斜(勾配)が低い屋根にも設置可能です。本製品に
は、10年雨漏補償が付属。最低勾配1.5寸(約4.5センチメートル)、低勾配用タイプ使用時に
限る。また、製品納入日起算にて10年間の期限で「CRESTROOF(クレストルーフ)設置部の破損
を原因とした雨漏りに対して、補償上限額内において雨漏修繕費用を補償。太陽の熱により暖められ
た太陽光発電モジュール裏の空気は、モジュールと屋根材の通気層により自然換気されるため、モジ
ュール温度の上昇を抑制できる。 

 



❏ 関連特許事例:特許5632197 屋根上設置物の取付具 

 【概要】 

下図2のように、礎部材をスレート葺き屋根に安定させて配設することができるようになる屋根上設
置物の取付具を提供にあっては、取付具10は、スレート葺き屋根を形成しているスレート2の上面
に配設される基礎部材20を含んで構成されており、屋根上設置物となっているソーラーパネル3が
固定される基礎部材20は、一部同士が上下に重なり合っている上側のスレート2Aと下側のスレー
ト2Bとに跨って配置され、取付具10は、基礎部材20と下側のスレート2Bとの間に挿入される
部材となっていて、上側のスレート2Aの厚さT2分と対応する厚さT1を有する段差解消部材21
を含んで構成されており、上側のスレート2Aと下側のスレート2Bとの段差が段差解消部材21に
より解消される構造/構造を特徴とする。 

【符号の説明】

1  スレート葺き屋根 2  スレート 2A  上側のスレート 2B  下側のスレート 10  取付
具 20  基礎部材 21  段差解消部材 21B  はみ出し部 24,124,224,324 
高さ位置調整部材 35  止着具 37  基礎部材の孔 40  段差解消部材の孔 41  基礎部材
の孔の位置を示すマーク 42  段差解消部材の孔の位置を示すマーク 51  高さ位置調整部材の
凸部 52  高さ位置調整部材の凹部 T1  上側のスレートの厚さ寸法 T2  段差解消部材の厚
さ寸法

【図1】本発明の一実施形態に係る取付具が適用されているスレート葺き屋根と屋根上設置物を示す
    平面図
【図2】図1のS2-S2線断面図
【図3】図1のS3-S3線断面図

【特許請求の範囲】 

スレート葺き屋根を形成しているスレートの上面に配設される基礎部材を含んで構成され、こ
の基礎部材に屋根上設置物が固定される屋根上設置物の取付具において、前記基礎部材は、一
部同士が上下に重なり合っている上側のスレートと下側のスレートとに跨って配置されるもの
となっており、この基礎部材と前記下側のスレートとの間に挿入される部材となっていて、前
記上側のスレートの厚さ分と対応する厚さを有する段差解消部材を含んで構成されていること
を特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項4に記載の屋根上設置物の取付具において、前記段差解消部材は、この段差解消部材を
前記基礎部材と前記下側のスレートとの間に挿入したときに前記基礎部材からはみ出すことに
なるはみ出し部を有しており、前記段差解消部材の前記マークは、段差解消部材のうち、少な
くともこのはみ出し部に設けられていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項1~5のいずれかに記載の屋根上設置物の取付具において、前記基礎部材の上に、この
基礎部材に対する前記屋根上設置物の高さ位置を調整するために配置される高さ位置調整部材
を含んで構成され、この高さ位置調整部材の下面には、前記基礎部材に対する前記高さ位置調
整部材のずれ防止用の凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項6に記載の屋根上設置物の取付具において、前記高さ位置調整部材は、複数個が上下に
重ねられて前記基礎部材の上に配置され、下側の高さ位置調整部材の上面と上側の高さ位置調
整部材の下面とのうち、一方には凹部が、他方には凸部がそれぞれ設けられ、これらの凹部と
凸部は、前記下側の高さ位置調整部材に対する前記上側の高さ位置調整部材のずれ防止のため
に嵌合可能となっていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項4に記載の屋根上設置物の取付具において、前記段差解消部材は、この段差解消部材を
前記基礎部材と前記下側のスレートとの間に挿入したときに前記基礎部材からはみ出すことに
なるはみ出し部を有しており、前記段差解消部材の前記マークは、段差解消部材のうち、少な
くともこのはみ出し部に設けられていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項1~5のいずれかに記載の屋根上設置物の取付具において、前記基礎部材の上に、この
基礎部材に対する前記屋根上設置物の高さ位置を調整するために配置される高さ位置調整部材
を含んで構成され、この高さ位置調整部材の下面には、前記基礎部材に対する前記高さ位置調
整部材のずれ防止用の凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。 請求項6に記載の屋根上設置物の取付具において、前記高さ位置調整部材は、複数個が上下に
重ねられて前記基礎部材の上に配置され、下側の高さ位置調整部材の上面と上側の高さ位置調
整部材の下面とのうち、一方には凹部が、他方には凸部がそれぞれ設けられ、これらの凹部と
凸部は、前記下側の高さ位置調整部材に対する前記上側の高さ位置調整部材のずれ防止のため
に嵌合可能となっていることを特徴とする屋根上設置物の取付具。

 Oct. 10, 2017

【燃料電池篇:燃料電車30ミリメートル精度でバス停に自動幅寄せ】

トヨタ自動車は燃料電池車の路線バス「SORA」を「第45回 東京モーターショー2017」(東京
ビッグサイト、一般公開:10月28日~11月5日)で公開した(図1、2)。車両周囲に搭載する8
個のカメラで路面の誘導線を検出。操舵と減速を自動で担い、バス停との隙間を30〜60mmの精度で幅
寄せ停車できるようにしたとのこと(トヨタのFCVバス、30mm精度でバス停に自動幅寄せ、日経テクノ
ロジーオンライン、2017.10.27)。それによると、同車両は2018年春の発売を予定する。2020年開催
の「東京オリンピック・パラリンピック」に向けて、東京都を中心に100台以上の車両を導入する計画
だ。2017年3月に東京都が運用を始めた先代モデルのFCVバスと比べて外観や内装を大きく変更し、燃
料電池システムの性能を向上させている。公開した車両が搭載するFCスタックの出力は228kW(114kW
×2)、駆動用モーターの最高出力は226kW(113kW×2)、最大トルクは670N・m(335N・m×2)。電池
容量235kWhのニッケル水素電池を搭載する。充填圧力70MPaの水素タンクを10本搭載し、タンクの合計
内容積は600Lとする。20k~25kgの質量の水素を充填可能で、約200kmの航続可能距離を実現。150km走
ればバスとしての需要は満たせるとの話である。

尚、車両寸法は全長1万525×全幅2490×全高3340mmで、乗車定員は座席や立席、乗務員を合わせて79
人。現段階では路線バスとしての運用にとどまり、観光バスとしての導入は検討中。

 Oct. 21, 2017

  Oct. 26, 2017
デンソー、「電動化」と「自動運転」の2分野へ投資を増やし技術革新を加速

【パワー半導体篇:デンソー電動/自動運転向け炭化硅素半導体量産】 

10月26日、同上第45回 東京モーターショーで、デンソーは、電動化に向けた取り組みとして、
SiCパワー素子を用いたインバーターを2020年ごろに5千億円投資し量産すると発表。SiCを用いると、
損失を1/3に抑えられ特徴。同社hはSiCの材料から開発を進め、その結晶品質は大幅に向上してお
り、他社品に比べて、結晶欠陥(転位密度)を約1/10にできる。 自動運転では、自動運転車の認
知と判断を担う技術を紹介。同社は自動運転の判断を支える「データフロープロセッサー(DFP)」
の開発を進めており、短時間処理で消費電力1/10を実現。

 Oct. 26, 2017

【関連特許】

・特開2017-174957  半導体装置の製造方法 トヨタ自動車株式会社    2017年09月28日
・特開2017-152486  半導体装置およびその製造方法 株式会社デンソー 2017年08月31日 
・特開2017-152486  半導体装置およびその製造方法 株式会社デンソー 2017年08月31日 

❏ 関連特許事例: 
  特開2017-109912   SiCシード、SiCインゴット、SiCウェハ、半導体デバイス及び半
                    導体デバイスの製造方法

【概要】

炭化珪素は、シリコンに比べて絶縁破壊電界が1桁大きい、バンドギャップが3倍大きい、また、熱
伝導率が3倍程度高いという優れた特性を有する。そのためSiCは、パワーデバイス、高周波デバ
イス、高温動作デバイス等への応用が期待されてSiCウェハが用いられている。SiCエピタキシ
ャルウェハは、SiCエピタキシャル膜基板はSiCインゴットから加工したSiCウェハを用い、
通常、この上に化学的気相成長法(CVD)でSiC半導体デバイス活性領域となるSiCエピタキ
シャル膜を成長させ製造し、このインゴットはSiCシードを成長させる。このインゴットは、欠陥
や異種多形の少ない高品質なものが求めら、その成長起点となるこのシードは、欠陥や異種多形を制
御できるものが求められている。以前は、貫通螺旋転位、貫通刃状転位、基底面転位等の転位は104
個/cm2以上と無数に存在。またキラー欠陥となるこれらのマイクロパイプを無くしていくことが
主な課題であったが、近年の技術向上でマイクロパイプはほぼ存在せず、転位についても104個/
cm2以下のこのウェハを作製することが可能となってきた。特に螺旋転位については、a面成長を
繰り返すRAF法(repeated a-face method)等の手法で作製したシードを用いて結晶成長を行うことで、
螺旋転位密度が10個/cm2以下のこのウェハが得られることも確認されているが、螺旋転位密度が
極めて小さくなり、異種多形発生という別の問題が生じる。 多形とは、この結晶構造の違いを意味す
る。これは3C-SiC、4H-SiC、6H-SiC等の多形を有し、これらの多形はc面方向(
<0001>方向)から見た際の最表面構造としては違いがないため、c面方向に結晶成長する際に
異なる多形(異種多形)に変化するという問題がある。

これに対し、a面方向(<11-20>方向)から見た際の最表面構造として、多形は違いがあるた
めa面方向への成長では、このような多形の違いを引き継ぐことができ、a面方向への成長では異種
多形が発生しにくい。そこで、成長面をc面からわずかにずれた面とし、異種多形の発生を抑制する
ことが行われ、成長面をc面からずらすことにより、原子ステップ(原子面の段差)からの横方向の
成長(ステップフロー成長)が起こり、多形が保存されるが、結晶成長を進めるにつれ、結晶の最表
面の一部に、必ずc面と平行な面が表出する。c面と平行で、成長面に表出した部分をc面ファセッ
トと言う。c面ファセットは、c面と平行なため結晶成長の様式が異なる。成長後のSiC単結晶内
において、異なる成長様式で成長した部分をファセット成長領域という。このように  c面ファセッ
トの結晶成長は、c面方向への結晶成長であるため、上述のように螺旋転位密度が極めて少ないSi
C単結晶上に結晶成長を行うことで島状成長が起こり、多形を引き継ぐことができずに異種多形が発
生してしまう。
 
一方で、c面ファセットに螺旋転位が存在する、または成長直後に螺旋転位に変換される螺旋転位発
生起点が存在すると、螺旋転位を起点とした螺旋成長が生じる。螺旋成長では、螺旋部がステップを
形成するため、a面方向への成長を可能とし、多形を引き継ぐことができ、多形を維持するためにc
面ファセットにはある程度の螺旋転位又は螺旋転位発生起点が必要であり、そのための手法が求めら
れている。 例えば、{0001}面よりオフセット角度60度以内の面を成長面として有し、成長面
上に螺旋転位発生可能領域をもつ転位制御種結晶で、成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法は、螺
旋転位発生領域を有する転位制御種結晶を用いた炭化ケイ素単結晶の製造方法を用いて、c面ファセ
ット内に螺旋転位を確実に形成でき、異種多形や異方位結晶の生成を抑制できる。また、種結晶の成
長端面が所定の曲率を持つ凸形状をもつことで、成長過程において渦巻き成長を行うc面ファセッ
ト領域が形成する。

しかし、❶第1の問題は「極めて螺旋転位密度が小さいシードを用いて結晶成長させる場合に、異種
多形の発生を十分抑制できない、❷第2の問題は、導入した螺旋転位が、最終製品の半導体デバイス
の品質劣化の原因となる、❸第3の問題は、低コスト化を目指して長尺成長させた際に、異種多形を
十分抑制できないという問題がある。また、成長の初期段階に形成されるファセット成長領域内に螺
旋転位を確実にきないと考え、異種多形が発生しうるファセット成長領域の面積をできるだけ小さく
すること(点、または線)で、成長初期の異種多形防止を試みているが、ファセット成長領域が徐々
に広がり螺旋転位が導入されるまでの間に異種多形が発生しなければ、異種多形のない成長するが、
成長の極初期段階で異種多形はどうしてもある確率で発生し、上述の第1の問題を解決することがで
きない。

第1の問題に対する対策として、極めて高密度(数千個/cm2~)に螺旋転位をファセット成長領
域内に導入が考えられる。高密度の螺旋転位が導入されれば、成長初期における異種多形発生確率を
減らすことができるが、高密度な螺旋転位を導入すると、転位がオフセット下流方向に流出し、多数
の欠陥を生み出し上述の第2の問題が生じる。 また第1の問題と第2の問題を同時に解決に、c面
ファセットに導入する螺旋転位の最適密度を見出すことも考えられるが、最適密度を見出したとして
も、インゴットの長尺化に対応しないという第3の問題がある。螺旋転位は、結晶成長が進むにつれ
て異符号の螺旋転位が互いに引き合い結合して消滅したり、基底面の欠陥に変換するため、結晶成長
と共に螺旋転位密度が少なくなり、成長初期の螺旋転位密度が最適であっても、成長後半には螺旋転
位密度が充分でなく異種多形が生じるという問題が生じる。これと反対に、成長後半に最適条件とな
るように螺旋転位密度に設定すると、成長初期の螺旋転位密度が高すぎて、第2の問題が生じてしま
う。このようにこれら3つの問題は、互いにトレードオフの関係にあり、すべてを同時に満たすこと
ができない。

この3つの問題を同時に解決するにあたり、下図のようにチップ化された領域内における結晶転位及
び結晶欠陥の存在比率を低減り、炭化ケイ素シードは、{0001}面に対する傾斜角θが何れの方
向にも2°未満である初期ファセット形成面を備え、初期ファセット形成面は、第1の方向に延在す
る第1の螺旋転位発生ラインを有ものである(詳細は下図クリック参照)。


【図1】本発明の一態様に係るSiCシードの一部を平面視した模式図。
【図2】図1のSiCシードの一部をA-A’面で切断した切断面
【図3】本発明の一態様に係るSiCシードの一部を拡大して平面視し、主面と初期ファセット形成
    面の{0001}面に対する傾き方向と傾斜角θを示した模式図

【符号の説明】

10…主面、20,20A,20B,20C,20D…初期ファセット形成面、21…螺旋転位発生
ライン、21a…第1の螺旋転位発生ライン、21b…第2の螺旋転位発生ライン、22…螺旋転位
発生起点、23…螺旋転位、30…副成長面

 Oct. 25, 2017


【エネルギーフリー社会篇:富山市に「ゼロエネ街区」完成】 

10月25日、富山市が推進する「ネット・ゼロ・エネルギー」を実現する環境配慮型街区「セーフ
&環境スマートモデル街区」が完成し、10月25日に完成式典が開催された。富山市のPPP(官民連携)
事業で、公募型プロポーザルで選ばれた大和ハウス工業が工事を手掛けていた。 富山市立豊田小学校
の跡地約8500m2に、宅地21区画と公共施設を建設した。宅地に建設する戸建住宅は、すべてに太陽光
発電システムと家庭用Liイオン蓄電池、家庭用燃料電池コージェネレーション(熱電併給)システム
を搭載した「3電池搭載住宅」となる。9棟が建売住宅、12棟が注文住宅で、現在はモデルルーム1棟
が建設済み。 太陽光発電とLiイオン蓄電池を連係制御するハイブリッドシステム「POWER iE 6 HYB
RID(パワーイエ・シックス・ハイブリッド)」(6.2kWh・太陽光発電システムと合わせて出力5.5kW
)を全戸に設置する。太陽光発電システムとLiイオン蓄電池のパワーコンディショナー(PCS)を一
体化することで、エネルギー制御を効率的に行う。PCSとLiイオン蓄電池ユニットはエリーパワー製。
公共施設は、地区センターや公民館、図書館分館の機能を持つ。また、太陽光発電とLiイオン蓄電池、
天然ガスによるマイクロコージェネシステムを搭載し、非常時には地域の防災拠点となる。地区セン
ターは10月23日から、公民館と図書館分館は10月26日から業務を開始。 尚、住宅販売は、大和ハウス
工業富山支店が担当する。宅地は平均201m2(約61坪)で、土地を含めた1戸3500万円程度に
なる見込み。第1期として11区画を販売。



以上、毎日沢山の関連記事を整理(と言っても、目が通せなく没にしているのが実情)しきれず。そ
れほどの変革期である(もう、ヘロヘロですわ!?)。”もろびとこぞりて(Joy to the World! the Lord
is come)!流れは来ませり~(The time there has been a change.)”である。

● 今宵もほっとウィスキーとひとり鍋:さつまいもと鶏手羽の豆乳スープ



体調をくずし酒は立っていたがそれも二週間で徐々に口にするようになるが、ビール、ウィスキーは
口に合わず、唯一日本酒だけ口にするようにになり、徐々にビールも口にする。そして、気温も下が
り、ほっとウィスキーが恋しくなり、ひとり鍋の季節がやってきた。今夜は彼女の手作り夕食だった
が、食べたい鍋はないか考えていると、移動販売でさつまのバイブレット(レーズンがサツマイモに
変わったイメージだが、徳島の「鳴門金時」の開発栽培の苦労話や最近のちょっとしたブームについ
てマスターと話していたのを思い出す。そこでネットサーフし、鶏手羽元に切り込みを入れておくと
火の通りも味もよくなり、豆乳を加えたら沸騰しないように火加減すれば『さつまいもと鶏手羽の豆
乳スープ』が醤油メーカのレシピに記載されていたので、彼女と相談してみることに。

  Funa Chese

Sweetfish Cavia

   

第4次産業とエネルギー革命

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                公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子 

                                                      

     ※ 覇者と王者:仁政を表だてながら、武力で威圧するのが、覇者である。したがっ
       て覇者になるには、大国を持たねばならない。徳を施し仁政を行なうのが王者で
       ある。王者になるには大国を必要としない。湯王は七十里四方、文王は百里四方
       の小さな国を持つだけで天下の王者となっている。武力で人民を従わせるのは心
       から従わせるのではない。人民は抵抗できずにいるだけだ。しかし徳で人民を従
       わせるのは、心の底から従わせるのだ。七十人の門人が孔子に心服したように。
       『詩経』に「西より東より 南より北より やって来て心服しない者はない」と
       あるのは、このことをいったものである。

       【解説】癩者とは、諸侯の旗頭のこと。春秋時代の斉の桓公、晋の文公らをいう。
       戦国時代には、各諸侯がたがいに覇を競い、武力による政策を進めていた。孟子
       はその力による政策を否定し、最も重要なことは人民を心服させることではない
       かと説き、王者の徳による仁政こそ人民を心服させることができると主張する。

 

【抗癌最終戦観戦記 11:】

 

 

 【量子ドット工学講座 No.47】

    No.91

 

れた、第1量子ロッドを含む第1光変換部、第2量子ロッドを含む第2光変換部、及び第3光変換部

 

 


エネルギー革命ど真ん中 Ⅲ

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                    梁恵王篇 「仁とは何か」  /  孟子 
  
                                       

       ※ 民の声に聞け:孟子が宣王に謁見して言った。「由緒ある国というのは、
                  大木があることを意味するのではない。譜代の臣がいることを意味する
         のです。ところがあなたには、信頼のおける臣下さえありません。登用
         したばかりの臣下が、次の日には知らない間にいなくなっております」
         「では人物を見抜くには、どうすればよいというのか」
         「人材の登用には、万全を期さねばなりません。身分の賤しい音を抜擢
         したり、血縁の薄い人間を重用したりする場合もあるのですから、よほ
         どの慎重さが必要です。
          側近全部の推薦があったとしても不十分、大臣の推薦があってもまだ
         不十分です。人民がこぞって推薦する人物で、ご自分でもよく見きわめ、
         この人物なら大丈夫と思えば登用することです。
         しりぞける場合も同じこと、側近全部が進言したからといってすぐ取り
         あげてはなりません。大臣の進言があってもまだ取りあげてはなりませ
         ん。人民が異口同音によくないと認め、ご自分でもよく調べて、これは
         よくないと思ったとき、はじめてしりぞけるのです。死刑の場合も同様
         です。側近がすすめ、大臣がすすめたからといっても間きいれてはなり
         ません。人民がこぞって賛成し、ご自分でもよく調べて、死刑にするの
         が当然だと確信したとき、はじめて刑を執行するのです。『人民が処刑
         する』とはこれをいうのです。以上のようにすれば、人民はあなたを父
         母のように慕うことでしょう」

         【解説】 側近政治は権力者の陥りやすい弊害である。民衆の総意、こ
              の無形の意志を正しく汲みとることが真の意味の政治性であ
              る。自己の権力を、この無形の意志でチェックできるか否か
              が、政治屋と政治家とを区別する最大の要件である。これは
              民主主義の現代でも変わりはない。のです。

    No.84

● エネルギー革命ど真ん中 Ⅲ

Feb. 23, 2017

【オールバイオマス事業篇:原料処理とエネルギ変換工学課題と技術事例】


ここでは、バイオマス政策あるいはバイオマス事業のプラットフォーム(=政策/戦略)については上下
の図表をダブクリし出典資料を参照していただき割愛し、再生可能エネルギーの現時点の普及著しい風力
発電及び太陽光発電#top比較して国内のバイオマス発電あるいはバイオマスボイラーの普及が進まないこ
とに焦点を当て小考してみる。例えば太陽光エネルギーもしくは太陽光発電はは、太陽光(人工光)さえ
あれば直ちに熱/電気エネルギーに変換でき、後者は「デジタル革命基本則」に従って、分散自律、ダウ
ンサイジング、デフレーション効果が働き変換効率に至っては変換効率30%超パネルの実用化や、フレ
キシブル薄膜型ソーラーはモバイル/ウエアブル器機の実用化段階に入りつつある。そこで。今夜は、❶
バイオマス発電/ボイラー原料の伐採/切り出し搬送/前処理の煩雑さそのにかかる費用効果/エネルギ
ー消費の大きさ/設備プラントの巨大化――もっとも、大規模風力発電も巨大であるがーさらには、工期
の長さなどの課題があり、❷バイオマスボイラーは構造も簡単で設備コストも燃料のペレット搬送/貯蔵
の嵩張りと給湯/蓄熱液等の熱媒体配管の引き回しがあるが、電線の引き回しと比べても大きい問題はな
さそうであるが、その他のエネルギ変換方式、①熱電変換素子(=サーマルタイリング事業)、②一酸化
炭素水蒸気反応ガスを用いた、ガスタービン/内燃機関式発電、③一酸化炭素水蒸気反応ガスを用いた燃
料電池などあるが、①対費用効果(=発電コスト)はいまだ試用段階で不詳、②は装置規模と保全性の悪
さが発電コスト逓減の隘路となる。これ意外に❸バイオマスをメタン発酵させ、燃料電池/ボイラーもあ
るが実用化が進んでおり、ガス配管の引き回し/ボンベ搬送の流通負荷が地上電線比べさほど問題はない
ものと思える(要試算/出典)。以上のことを踏まえ、最新の特許事例を小考してみよう。 

  Jan. 15, 2015

 

 Mar. 3, 2017


❏ 特開2017-169526  リグニンを分解する方法   国立研究開発法人理化学研究所

本件は、"シンデレラのカボチャのワゴン"のように切り出したバイオマスを放置保管しておくだけで”燃
料原料”に加工されているアプローチ法のヒントとして取り上げる。

【概要】

リグニンを分解する方法に関する。特に、本発明は、針葉樹材のような木本系バイオマス材料に含有され
るリグニンを分解する方法について取り上げる。リグニンに関しては「80℃以下でリサイクル可能なヒ
イドロトロープ酸にによる木質リグニンの迅速溶解」( Rapid and near-complete dissolution of wood lignin at
80°C by a recyclable acid hydrotrope, DOI: 10.1126/sciadv.1701735)(「美しすぎる直虎」2017.09.17|オー
ルバイオマスシステム篇:木質リグニン)で有喜酸による分画分離(≒パルプ産業での叩解工程)で紹介
したものではなく、リグニンは、その構造的特徴から、植物の細胞壁の主要な構成成分であるセルロース
を分解する条件では容易に分解されない。このため、植物系バイオマスに含有されるリグニンを効率的に
分解する手段が必要とされた。リグニンは、植物によって基本骨格となるフェニルプロパノイド単位の構
造が異なることが知られている。リグニンを構成するフェニルプロパノイド単位としては、通常、3-メト
キシ-4-ヒドロキシフェニル基を有するグアイアシル型(以下、「G型」と記載)、3,5-ジメトキシ-4-ヒ
ドロキシフェニル基を有するシリンギル型(以下、「S型」とも記載する)、及び4-ヒドロキシフェニル
基を有する4-ヒドロキシフェニル型(以下、「H型」とも記載する)が存在する。例えば、広葉樹リグニ
ンの場合、G型及びS型のフェニルプロパノイド単位を主要な構成成分として含む。これに対し、針葉樹リ
グニンの場合、G型のフェニルプロパノイド単位のみを主要な構成成分として含む。

 Sep. 28, 2017

※ リグニンは、植物の細胞壁の構成成分の一つであって、芳香環及びC3脂肪族炭化水素鎖を有するフェ
ニルプロパノイドの酸化重合体である。リグニンは、植物系バイオマスの約20~30%を占めており、立木
の伐採時に生じる枝葉若しくは梢端、又は間伐材のような林地残材においては、その約30%を占める。



植物系バイオマスにおいて、リグニンは、セルロースと並ぶ主要な構成成分。植物系バイオマスに含有さ
れるセルロース利用には、リグニン分解法は、セルロース利用効率向上する前処理工程が重要。また、リ
グニンは、フェニルプロパノイド単位の構成成分が含まれ、芳香族モノマー原料に利用できる可能性があ
る。このように、微生物を用いるリグニン分解法の微生物中でも、白色腐朽菌は、細菌等に比べリグニン
分解能力が高いが、針葉樹リグニンは容易に分解されない。この分解特性の違いは、リグニンの構造的な
違いに起因と推測されている。このように、針葉樹材のような植物系バイオマス材料のリグニンを、微生
物を用いて効率的に分解する手段の提供にあっては、リグニンを含有する材料と、マツノタバコウロコタ
ケ(ヒメノケーテ・ヤスダイ)、シワタケ(フレビア・トレメローザ若しくはフレビア属VL297)、コフ
キサルノコシカケ(ガノデルマ・アウストラーレ若しくはガノデルマ・ギボサム)、チャカワタケ(ファ
ネロケーテ・ベルチーナ)、マスイロカワタケ(ファネロケーテ・サングイネア若しくはファネロケーテ・
シトリノサングイネア)、マゴジャクシ(ガノデルマ・ネオジャポニカム)、ササクレコメバタケ(フィ
フォドンチーナ・ブレビセタ若しくはシゾポーラ cf. ラデュラ)、シックイタケ(アントロディエラ・ジ
プシ若しくはディプロミトポーラス・リモサス)、イボコメバタケ(スクボルゾビア・フルフレーラ若し
くはヒメノケータレス属KUC20131001-10)、ヘテロバシジオン・エクルストサム(若しくはヘテロバシジ
オン・アラウカリアエ)、ツリガネタケ(ホメス・ホメンタリス)、スギノハヒメホウライタケ(マラス
ミウス・クリプトメリアエ若しくはストロビルラス・エスクレンタス)、フミヅキタケ(アグロチベ・プ
ラエコックス)、及びサケツバタケ(ストロファリア・ルゴソアヌラータ)からなる群より選択される少
なくとも1種の微生物とを接触させる工程を含むことを前提とする。

【リグニン分解物進行度の測定結果】

リグニン分解物のバニリン生成量を計測し評価――抽出物の低磁場領域のスペクトルで――するとバニリ
ン以外のリグニン分解物に由来するシグナルが新たに観測された。また、バニリンに由来するシグナルの
相対強度割合は、いずれの抽出物の場合も対照の場合と比較して有意に減少した。この結果から、本実験
に使用したリグニン分解微生物により、バニリンだけでなく、様々な芳香族低分子化合物がリグニン分解
物として生成したことが示唆されている。



※ このように徐々に成果は上がっているようではあるが実用化にはまだ遠い。


❏ 特開2017-113719  部分酸化触媒及びそれを用いた一酸化炭素の製造方法
                           国立大学法人北海道大学他 

従来であれば山林より未利用材として切り出されて廃棄処分されていた廃木材や間伐材等の木質系バイオ
マスをチップ化処理し、これをバイオマス燃料としてボイラで燃焼させ、それによって発生させた高圧蒸
気でもって蒸気タービンを回転させて発電を行うバイオマス発電システムに木質系バイオマスを還元雰囲
気下で間接加熱することにより炭化処理する。

【概要】

従来装置では、炭化処理対象物が食品廃棄物や下水汚泥等の湿潤系バイオマスでは、高含水状態のままで
炭化処理し、また従来一般的に行われていた比較的高温域で炭化処理すると発生するタール量が乏しく、
それを全て燃焼分解させて熱風を生じさせても炭化炉の間接加熱源として利用するには熱量的に不足する。

その不足分の是正に好気性発酵し乾燥処理しつつ、低温域炭化処理でタール成分を多く発生させる一方、
炭化処理対象物が木質系バイオマスには、バイオマス中のタール含有量が元々く、炭化処理温度域等に関
係なくタール成分が多量発生しやいために熱量不足が起きにくいが、多量のタール成分を燃焼炉で燃焼分
解させると熱量過多のため、炭化炉へ間接加熱源供給用木質系バイオマスの炭化処理温度が高くなり過ぎ、
結果的にタール成分の揮発により残らず炭化物回収――例えば比較的高い着火性を求められるバーナ用の
木炭燃料等としてはあまり適さない――用途が限られてしまう。なお、燃焼炉から炭化炉へ供給される熱
風中へ、例えば外気等を導入して強制的に冷却することにより熱風温度を所望の炭化物を炭化処理できる
が、熱エネルギー的に見れば無駄である。

このように、木質系バイオマスの炭化処理に伴って発生するタール成分を熱風発生炉にて燃焼分解させ、
その際に生じる熱風を炭化炉の間接加熱源として有効利用しつつ、熱風発生炉に供給されるタール成分か
ら余剰熱量分を分離回収してタール燃焼量を調整し、所望性状の炭化物を炭化処理に適合する熱風温度に
コントロール可能とした木質系バイオマス炭化処理装置の提供するにあって 下図1のように炭化炉2と熱
風発生炉3との間に空冷熱交換器31を備え、炭化炉2には炭化物温度センサ43を、熱風発生炉3の下
流には熱風温度センサ47を備え、前記各温度センサ43、47にて検出される炭化物温度または熱風温
度が予め設定されるそれぞれの上限温度よりも高ければ、外気供給ファン35を稼働させて空冷熱交換器
31に外気を供給し、木ガスからタール成分の一部を分離回収して熱風発生炉3でのタール燃焼量を減じ
るように調整制御するタール燃焼量制御器49を配置する。


【符号の説明】

1…木質系バイオマスの炭化処理装置 2…炭化炉  3…熱風発生炉 4…木ガス導出ダクト 5…熱風
供給ダクト 6…排気ダクト  7…乾燥炉(砂ドライヤ) 13…内筒  25…外筒 31…空冷熱交換
器  33…鋼管 35…外気供給ファン   36…回収タンク 40…燃焼用空気供給ダクト  41…外気
導入口 42…開閉ダンパー  43…炭化物温度センサ 47…熱風温度センサ 48…酸素濃度センサ
49…タール燃焼量制御器

❏ 特開2017-132969 バイオマス発電システムおよび熱分解炉のリターンシステム
                                       株式会社高橋製作所 

本件はバイオマス(廃木材等有機廃棄物)を熱分解・ガス化し、得られた水性ガスを用いてガスエンジン
等で効率よく発電するバイオマス発電システム及び熱分解炉のリターンシステムの考案である。

【概要】

木質系材料を熱分解ガス化するには、原料となる木質バイオマスを炭化炉温度1000~1200℃で、
炭化物を回収し、次に炭化物を熱分解炉にて高温加熱して高温水蒸気と水性反応させ水性ガスを生成する。
また、バイオマスや廃棄物から熱化学的手法によってエネルギーを回収する方法が注目されボイラー設備
を用いたスチームタービン発電の他に生成ガスを燃料ガスとして発電効率の高いガスエンジンで発電し
35%を超える発電効率が得られる。また、ガス化で得られる合成ガスはメタノールや合成軽油、混合ア
ルコールといった液体燃料の原料ともなることから石油代替燃化技術の一つとしてガス化技術が注目され
ている。

バイオマス発電においては、ガスエンジン、ガスタービンエンジン、スチームタービンエンジン等が用い
られる。中でもガスエンジンはエンジンの構造がガソリンエンジンと同様であり、他のエンジンに比較し
てコンパクト(50~4000kW程度)で発電効率が高くバイオマス発電に適する。しかし、熱分解ガ
ス(水性ガス)はガス中の可燃ガス(CO、H2)の含有割合によって発熱量が決まる。即ち、水性ガス
中の水素(H2)、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO2)の組成比にブレがあると発熱量が変化し、
発電機を回転するエンジンの回転数に影響するために安定した電力が得られないばかりでなくオーバーヒ
ート等で故障原因ともなり問題である。また、従来のボイラーで発生した水蒸気を直接熱分解ガス化装置
に供給することも考えられるが、熱量過不足によりガス化領域の温度分布にブレが生じ或いはメタンガス
等余分なガスが発生する可能性が生じる問題がある。

バイオマスの燃焼効率を安定ろ改善を行い、熱分解を実現する。また、燃焼ガスの流出等を防ぎ、下流側
の装置へ供給する水性のスとして組成比率の変動のない、安全で効率の良いバイオマス発電システムの提
供にあたり、下図のように、バイオマスを炭化する炭化炉と、炭化炉で得られた炭化物および燃焼排ガス
により熱分解ガスを発生させる熱分解炉と、熱分解ガスを洗浄し得られた水性ガスを用いて電力を得る発
電装置とを備え、炭化炉に供給する空気の供給量を制御する空気供給制御部を設け、この空気の供給量に
より温度制御された燃焼ガスを熱分解炉に供給を特徴とするバイオマス発電構成とする。


【図3】実施形態に係る炭化炉の縦断面図

【符号の説明】

20a…間隙  21…本体部  22…円筒部  23…有機廃棄物投入部  24…炭化物排出部 25…1
次空気供給部  26…2次空気供給部  27…燃焼ガス排出部  28a、28b、28c…温度センサ(
温度検出部)28d…レベルセンサ(堆積量検出部)29…炭化炉制御部(制御部)

※ 関連特許 特開2017-132676  水素供給システム 株式会社高橋製作所 2017年08月03日


❏ 特開2016-150890 エネルギー貯蔵輸送方法およびエネルギーキャリアシステム
                                   国立大学法人岐阜大学 

本件は窒素酸化物から硝酸を製造し、製造した硝酸からアンモニアを製造し、さらにそのアンモニアを原
料として水素を製造することを特徴とするエネルギー貯蔵輸送方法およびエネルギーキャリアシステムの
技術事例。

【概要】

エネルギーキャリアシステムを具現化する技術として、①太陽光で発電した電力で水素を製造する方法が
ある。②また、水素と窒素からアンモニアを合成するための方法。③また、Pt,Rh,Pd,Ruなど
の貴金属触媒を用いて400℃以上の加熱条件で、アンモニアから水素を製造する技術がある。①の方法
と②の方法と③の方法を組み合わせることによって、太陽光で発電した電力を水素に変換し、その水素を
原料としてアンモニアを合成して液化アンモニアとして貯留し、液化アンモニアをエネルギー消費地に輸
送し、エネルギー消費地で液化アンモニアから水素に転換して、燃料電池車に供給したり、燃料電池発電
システムに供給することができる。しかしながら、これらの3つの技術を組み合わせた場合、再生可能エ
ネルギーから水素への総合変換効率は7パーセント程度である。そこで、より総合変換効率の高いエネル
ギーキャリアシステムが求められている。

このように、水素キャリアの一つであるアンモニアから水素を製造技術の検討を行っている(④⑤)。④
の水素製造方法は、アンモニアガスを含有する水素源ガスに、常温で波長200nm以下の光を含む紫外
線を照射して水素ガスを発生させる。また、⑤の水素製造装置は、プラズマ反応器と、高電圧電極と、接
地電極とを備えており、常温大気圧の条件下で高電圧電極と接地電極との間で放電を行ってアンモニアを
プラズマとし、水素を生成する。これらの水素製造方法は、従来よりも高効率に水素を生成可能であり、
最適なアンモニア製造方法と組み合わせエネルギー貯蔵輸送方法とエネルギーキャリアシステムを実現で
きる。

下図のように、アンモニアを高効率に製造し、最終的にはアンモニアから水素を製造してエネルギーとし
て用いるエネルギーキャリアシステムとそれを用いたエネルギー貯蔵輸送方法の提供にあたり、エネルギ
ーキャリアシステムは、硝酸製造手段と、アンモニア製造手段と、水素製造手段とを備えている。硝酸製
造手段は、光反応器と、光反応器に窒素酸化物と水と酸素とを含む被処理ガスを供給する被処理ガス供給
手段と、光反応器内に配置されており175nmよりも短い波長の紫外線を含む光を発生させる光源とを
備えている。このエネルギー貯蔵輸送法は、窒素酸化物から硝酸を製造する硝酸製造工程と、硝酸を還元
してアンモニアを製造するアンモニア製造工程と、アンモニアを分解して水素を製造する水素製造工程と
で製造される。

 

【関連特許】 

① 特開2014-203274 水素製造手段を備えた太陽光発電システム   

【概要】 

太陽光発電エネルギを有効に利用して高効率の電力供給が可能な太陽光発電システムの提供にあって、下
図のように太陽光発電装置1と、太陽光発電装置1からの直流電力を交流電力に変換し且つ最大電力を得
るための出力制御機能を有する電力変換制御器3と、太陽光発電装置1からの直流電力を用いて水素を製
造する水素製造手段2と、太陽光発電装置1と電力変換制御器3および水素製造手段2の電気的な接続構
成を切替える切替手段4と、切替手段4に制御信号を伝達する制御部6とを備え、太陽光発電装置1の定
格出力電力が電力変換制御器3の定格出力電力よりも大きく、制御部6は太陽光発電装置1で発電可能な
発電予測電力W0と出力電力W1または出力電力W2との比較結果、及び、電力変換制御器3の変換効率特性
に応じて切替手段を制御することを特徴とする太陽光発電システムである。

 

② 特開2013-209685 アンモニア製造用電気化学セル及びこれを用いたアンモニア合成方法

本件は、アンモニア製造用の電気化学セルであり、カソード支持型電気化学セル(カソードサポート型電気化学セ
ル,CSC)である。さらに、このセルを用いたアンモニア合成法である。

【概要】 

アンモニア合成は、従来、ハーバーボッシュ法が確立され、肥料の原料となり化学工業/農業発展の原動力とな
った」。ハーバーボッシュ法は、鉄を主成分とする触媒を用いて水素と窒素とを400~600℃、20~40MPaの高
圧条件で反応しアンモニアを得るものである。工業触媒としては、鉄にアルミナと酸化カリウムとを加えることで鉄
の触媒性能を向上させた触媒が用いられる。また、他の技術として、Ru系の触媒を用いることが提案されている例
もある)。最近ては資源枯渇、地球温暖化を防止する技術が求められハーバーボッシュ法は、原料として化石資源
を用いる、また、高温高圧のプロセスで、その製造工程でも多くのエネルギーを消費し、多量の資源を用い地球温
暖化ガスを多量に排出する。この技術に代えて、限られた資源を有効活用し、より持続的技術が望まれている。

 この様な背景から、アンモニアの新規合成法の一つとして、プロトン導電性酸化物を固体電解質に使用し、水素と
窒素あるいは水蒸気と窒素を供給し、更にセルに電圧を印加することにより、アンモニアを合成する方法が提案さ
れている。事例のアンモニアの電解合成法は、水蒸気と窒素からアンモニアを合成する方法であり、ハーバーボッ
シュ法の様に炭化水素を用いて水素ガスを製造するひつようがないため、多量の炭酸ガスを排出する問題はない。
下図のようにプロトン導電性酸化物を電解質に用いたカソード支持型電気化学セルに、電圧を印加で、従
来の電解質支持型電気化学セルより効率的にアンモニアを合成できる構造/構成の提案にあって、プロト
ン導電性固体電解質の一面にアノードを配し他面にカソード配し、かつカソードにより支持されたている
特徴をもつ水素含有ガスまたは水蒸気含有ガスと窒素含有ガスからアンモニアを得るために用いる電気化
学セルである。


【符号の説明】

1:アノード 2:固体電解質(プロトン導電性電解質) 3:カソード支持体 4:カソード触媒


③ 特開2003-040602  燃料電池用水素製造   

本事例は燃料電池へ供給される水素を製造する装置で、燃料電池自動車用に最適な水素製造装置の新機構案である。

【概要】 

自動車用の燃料電池は、燃料水素の供給手段が課題となる。例えば水素ガス自体を供給には、水素を圧縮
/液化して搭載する必要があるが、現在のガソリンタンクの内容積に相当する内容積50Lの圧力容器に 2
百気圧で充填した場合の水素量は僅か 0.4kgであり、内容積50Lの断熱圧力容器に液化水素充填しても水
素量は 3.5kgである。したがって長距離の移動の場合などには頻繁に水素を補給せざるを得ず、水素スタ
ンドなどインフラの整備が課題になる。またシクロヘキサンを分解して水素生成法は1モルの分解により
3モルの水素が生成し、内容積50Lの容器に充填された液体シクロヘキサンからは 2.8kgの水素を生成。
またシクロヘキサンは、室温で液体であるので自動車への搭載が容易である。しかしシクロヘキサンの分
解反応では、有害なベンゼンが副生するという問題があり、シクロヘキサンとベンゼンとの沸点が近接し
ているために分解ガスから両者を分離することも困難である。

また、水素吸蔵合金を用いる方法でも合金の単位重量当たり 1.5~2%の水素を吸蔵できるだけであり、
水素化ホウ素ナトリウムや金属ナトリウムと水を反応させても水素を生成できるものの、副生物のリサイ
クルが困難であるという問題がある。そこでアンモニアを分解して水素を生成する方法が注目されている。
アンモニア1モルの分解により、 1.5モルの水素が生成する。またアンモニアは室温において液化状態で
貯蔵することが可能であるので、断熱圧力容器が不要となるという利点もある。そして内容積50Lの圧力
容器に充填された液化アンモニアからは 7.2kgの水素を生成することができ、体積当たり及び重量当たり
最も多くの水素生成するので、水素源として有望である。

このように、アンモニアなどの水素源を分解して生成した水素を燃料電池に供給するとともに、燃料電池
からの排ガスをさらに利用することで有害物質の排出も防止することができるため、下図のごとく、水素
源を窒素と水素とに分解して燃料電池に供給する分解器2と、触媒反応により燃料電池4からの排ガスを
燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3に燃焼用空気を供給する空気供給手段5と、燃焼器3からの排ガス中の
酸素濃度を検出する酸素センサ34と、検出された酸素濃度値に応じて空気供給手段5を制御する制御装置
6と、から構成した。燃料電池からの排ガスに含まれるアンモニアなどの有害物質は燃焼器3で燃焼除去
されるため、有害物質の排出を防止することができる。また燃焼器3の熱を分解器2に供給すれば、分解
器2を加熱するための熱源が不要となりエネルギー効率が向上する新規技術が提供されている。

 【符号の説明】

1:アンモニアボンベ  2:分解器 3:燃焼器 4:燃料電池  5:空気供給手段  6:制御装置
10:供給器   34:温度センサ   41:触媒

【図1】本発明の一実施例の水素製造装置のブロック図
【図2】本発明の一実施例の水素製造装置に用いた分解器と燃焼器の模式的断面図

 

 

     

 

第4次産業とエネルギー革命

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                公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子 

                                                      

     ※ 覇者と王者:仁政を表だてながら、武力で威圧するのが、覇者である。したがっ
       て覇者になるには、大国を持たねばならない。徳を施し仁政を行なうのが王者で
       ある。王者になるには大国を必要としない。湯王は七十里四方、文王は百里四方
       の小さな国を持つだけで天下の王者となっている。武力で人民を従わせるのは心
       から従わせるのではない。人民は抵抗できずにいるだけだ。しかし徳で人民を従
       わせるのは、心の底から従わせるのだ。七十人の門人が孔子に心服したように。
       『詩経』に「西より東より 南より北より やって来て心服しない者はない」と
       あるのは、このことをいったものである。

       【解説】癩者とは、諸侯の旗頭のこと。春秋時代の斉の桓公、晋の文公らをいう。
       戦国時代には、各諸侯がたがいに覇を競い、武力による政策を進めていた。孟子
       はその力による政策を否定し、最も重要なことは人民を心服させることではない
       かと説き、王者の徳による仁政こそ人民を心服させることができると主張する。

 

  Oct. 30, 2017

【抗癌最終観戦記 11:人工知能支援早期癌検出時代】

Artificial intelligence: Is this the future of early cancer detection?

 10月 29日、ペインバルセロナで開催された第25回欧州合同胃腸病学会で、人工知能(AI)に
より駆動する新しい内視鏡システムで結腸直腸腺腫を自動的に特定できることが公表されている。日
本で開発されたこのシステムは、狭帯域撮像(NBI)モード適用後、メチレンブルーで染色したポリ
ープの約300個の特徴解析に、結腸直腸ポリープの500倍拡大をエンドサイトーシス(endocyto-
sis)――細胞が異物を内部に取り込む作用。取り込まれる物質が固体の場合は食作用、液体の場合は
飲作用として区別される――画像を使用する。このシステムは、各ポリープの特徴を機械学習に使用
された3万以上のエンドサイトーシス画像と比較し、1秒未満で病変病理を予測できる特徴をもつ。

森雄一昭和大教授らの研究グループでは、内視鏡検査で結腸直腸ポリープが検出された男女250人
を被験者とし  AI支援システムを用いて各ポリープの病理を予測し、それらの予測を最終的な切除標
本から得られた病理学的報告と比較したところ、AI支援システムで、306個のポリープをリアルタ
イム評価で、94%の感度、79%の特異性検出、86%の精度で79%および93%の陽性/陰性
のそれぞれの予測値で新生物の変化を同定する。オープニングプレナリー講演で森教授で、このシス
テムでは、人工知能が内視鏡専門医のスキルに関係なく結腸直腸ポリープのリアルタイム検査を実現、
したことで非腫瘍性ポリープの不必要切除を未然に防止できると同時に、結腸直腸癌以外の癌関連死
のリスク低下できると話す。

❏ 特開2017-070609 画像処理装置及び画像処理方法

 【概要】

画像処理を行うことによって、病理診断を行う発明が提案されている。しかし、食道、胃、小腸、大
腸などの消化管の病理診断は、専門的な知識と経験を要するため、消化管の一部組織を切除し、体外
にて顕微鏡による診断を行っている。一方で、近年、超拡大機能(380倍~450倍)の高倍率機
能により、リアルタイムに体内(消化管内)で病理組織を予測できる内視鏡 endocytoscopy  が開発さ
れ、病理診断の代替になることが期待されているが、画像解読に専門的トレーニングが必要である。。
そのため、先行研究により endocytoscopy 画像に対するコンピュータ診断支援システムが開発され非
腫瘍・腺腫・癌の鑑別に有用性があることがわかった。このように上図1のごとく、病変の診断をコ
ンピュータ診断支援システムを用いて客観的に行うことで、専門的な知識と経験を有する者でなくと
も、病変の診断を可能にすることが可能となるが、かかる画像処理装置は、血管が撮像されている撮
像画像の全体の濃淡についてテクスチャ解析を行う解析部111と、テクスチャ解析の結果を用いて、
病理診断に対応した分類を行う分類部112と、を備えることで実現提供されるものである(詳細は
上図クリック参照)。

【非特許文献1】Kudo  S,  Wakamura  K,  Ikehara  N,  Mori  Y,  Inoue  H,  Hamatani  S.  Diagnosis  of  colorec-
tal  lesions  with  a  novel  endocytoscopic  classification-a  pilot  study-.  Endoscopy  2011;43:869-875
【非特許文献2】Mori  Y,Kudo  SE,Wakamura  K,“Novel  computer-aided  diagnostic  system  for  colorectal  le-
sions  by  using  endocytoscopy  (with  videos).",Gastrointestinal  Endosc.  2014  Epub
【非特許文献3】Sato,  Y.  et.  al.;“Tissue  classification  based  on  3D  local  intensity  structures  for  volume 
rendering",Visualization  and  Computer  Graphics,  IEEE  Transactions  on  ,Vol.6,No.2,2000
【非特許文献4】T.  Schultz,  “Topological  Features  in  2D  Symmetric  Higher-Order  Tensor  Fields",Comput-
er  Graphics  Forum,Vol.30,No.3,2011
【非特許文献5】RM  Haralick,“Textural  Features  for  Image  Classification",IEEE  TRANSACTIONS  ON  
SYSTEMS,  MAN  AND  CYBERNETICS.  Vol.SMC-3,No.6,1973

Oct. 27, 2017

【細胞周期の間期を3色で識別する技術の開発】

細胞周期可視化技術Fucciの多様化で再生医療などに貢献

また、 10月27日、理化学研究所開発チームは、細胞周期をより細かく色分けする新しい蛍光プ
ローブ「Fucci(CA)」の開発したことを公表している。それによると、これまで、細胞は、細胞周期[
に沿って成長と分裂を実行することで増殖するが、細胞周期の進行の制御はあらゆる生命科学におい
て注目され、生物個体や細胞・組織培養系の個々の細胞が細胞周期のどの位相にあるか調べる技術が
求められてきた。そこで理研では細胞周期をリアルタイムに可視化する蛍光プローブ「Fucci(フーチ
は、世界中の研究者に利用されている。Fucciは細胞周期のG1期を赤の蛍光色に、S/G2/M期を緑の蛍
光色に標識する蛍光プローブだが、S期とG2期を色分けられなかった、G1期標識の反応にはある程度
の時間を必要とし、高速に増殖する細胞種の短いG1期は検出できなかった。

今回、同グループは、Fucci技術の作動原理である「細胞周期依存的ユビキチン介在タンパク質分解」
を多様に改変し、Fucci(CA)を新たに開発。Fucci(CA)は、細胞周期の間期であるG1期・S期・G2期
をそれぞれ赤・緑・黄の3色で識別。通常の光学顕微鏡で蛍光シグナル分布を併せて観察すればM期
も識別できる、すなわち4つの細胞周期全てを光学的に分離できる技術である。実際にFucci(CA)
を用い、培養細胞の紫外線に対する感受性がS期に最も高いことを明らかにする。さらに、Fucci(CA
)は分裂直後からG1期を標識できるため、高速に増殖する未分化性マウスES細胞(胚性幹細胞の細
胞周期でも、極端に短いG1期を含めて確実に検出に成功。

Fucci(CA)は哺乳類動物を扱うあらゆる生命科学分野で応用でき、癌、発生・再生研究だけでなく、
動物脳における神経新生の検出、宇宙空間における細胞増殖の観察などにも適用を予定されている。
今後は、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療および薬剤
スクリーニングにおいての応用できる。

  Oct. 26, 2017

 "Genetically-Encoded Tools for Optical Dissection of the Mammalian Cell Cycle.", Molecular Cell,
doi: 10.1016/j.molcel.2017.10.001

以上、2つの記事を記載。かって吉本隆明は、新しい第4次産業は『画像処理技術産業』だと発言し
ていたことを思い出しながら「抗癌最終戦記」シリーズを掲載し彼の彗眼を再認識する。


 【量子ドット工学講座 No.47】

    No.91

 Oct. 27, 2017

 【ソーラータイル事業篇:最新薄膜量子ドット太陽電池技術】

10月27日、ワイントン大学らの研究グーループは、ペロブスカイト型量子ドット薄膜太陽電池を
カチオンハライド塩(A-S)で均一で緻密なコーティングする――このことは他の研究報告でも指摘
されてきたことだが――研究グループは、Aサイトカチオンハライド塩(A-S)で化学的に表面積層し
たハロゲン化ペロブスカイト量子ドット(QD)薄膜を開発。量子ドット型ペロブスカイトを粒子成長
させた積層膜分離し、従来のペロブスカイト薄膜より大きな開回路電圧(Voc)を起電する、工業的
に優しい溶媒を用いたコロイド合成と処理方法を開。1.75~2.13eVの可変バンドギャップを有するCs
PbI3量子ドットは、Vocの狭い赤外光を吸収し、オールペロブスカイト型多接合太陽電池の理想的な
トップセルとなりうる。ペロブスカイト型QD膜内の電荷キャリア移動度は、QD-QD接合部の化学的条
件に依存し、AX処理によりペロブスカイトQD間結合調整方法を提供。これにより高品質QD薄膜デバイ
ス構造で電荷移動性を改良する。本件のAX処理により、膜の移動度が倍増し、光電流が増加し記録的
な量子ドット太陽電池の変換効率を13.43%まで高めることに成功している。

コロイド量子ドット材料は、オプトエレクトロニクスおよび他の用途の従来の薄膜によって与えら
れるものに独特の特性を付与する。コロイド状QDシステムは、材料のバンドギャップ、電子状態の
活発な位置、および表面化学において巨大な調整可能性の提供が知られているが、特異な特徴が発
見されてきた。光励起では、コロイド状QDは効率的な多重励起子生成を示し、太陽スペクトル内で
1を超える外部量子効率(EQE)をもつ最初の光励起(吸収)と光電気化学電池につながる。さらに、
コロイド状CsPbI3のQD材料は、立方晶ペロブスカイト結晶相を安定化するのに対し、薄膜CsPbI3材料
は、周囲温度で斜方晶相に緩和する。CsPbI3の立体方体対称性は、光励起用の全無機鉛ハライドペロ
ブスカイト材料の中で最も低いバンドギャップ(Eg = 1.73eV)を示している。しかしながら、室温に
おいて、塩化鉛(Ⅱ)型構造空間群対称性(Eg = 2.82eV)をもつ斜方晶相が熱力学的に好ましい。こ
の相の不安定性の克服に、臭化物(CsPbI3-xBrx)の添加は相転移温度を300℃以上から110℃ま
で低下できることが報告されている。しかし、光起電用途では、この温度低下は十分に低くはなく、
合金化はCsPbI2Brのバンドギャップを約1.9eVに増加させるという犠牲を払う。

別の方法では、QDの表面エネルギーを利用することにより、立体相を室温以下で安定ができ、効率が
10%を超えるPVデバイスが得られることを以前に実証している。高い開回路電圧(Voc)(所与の
バンドギャップに対するShockley-Queisser分析から最大電圧の約85%)を計測、短絡電流密度(Jsc)
は輸送により制限された。これは、量子ドット太陽電池(QDSC)の一般的なトレードオフであり、
厚い吸収層での光吸収の増加は、輸送制限QDフィルムにおける電荷抽出効率を低下させる。ここでは、
最初に、Aβ後処理(A =ホルムアミジニウム(FA +)、メチルアンモニウム(MA +)、またはセシウ
ム(Cs +)およびX = I-/Br-)を表示し、キャリア移動度を向上させる。得られたCsPbI3量子ドット
薄膜の構造的、光学的、および電気的特性を特徴づけ、その製造プロセスにより、薄膜が量子閉じ
込め性の保持のナノ結晶特性をもち、AX塩類が合金化まや誘起よりもアレイ量子ドットを被覆でき
る(これらのAX後処理されたCsPbI3QDフィルムは、以後、AXコーティング処理と呼称)。

【結果】

光励起デバイス構造と実証効率

QD結合を改善し、表面を不動態化し、デバイスのエネルギーを調整し、より成熟したPb-カルコゲニ
ドQDSC技術の安定性を向上させるために、CdCl2およびPbI2およびハロゲン化金属などの金属ハロゲ
ン化物塩が使用されている。 CsPbI3とPbSeまたはPbSとの間の表面化学における潜在的な類似性を
考慮して、CsPbI3 QDにおける電子結合を改善に様々なAX塩を調べる。図1は、AX処理剤としてヨ
ウ化ホルムアミジニウム(FAI)を使用して実験室で行われたより優れた装置の1つを詳述する。使
用されたデバイス構造(図1A)の模式図は、スタックに使用されている様々な層の輪郭を描くために
適用された疑似色が付いた走査型電子顕微鏡(SEM)断面画像(図1B)図1(C~E)は、Voc、Jscなど
の標準的な光励起特性の決定すに電流密度 - 電圧(JV)スキャン(図1C)を含む国立再生可能エネ
ルギー研究所(NREL)最大電力点を図示する。このデバイスを0.95Vの電圧に保持し、出力電流
対時間の測定値を記録し、図1Dに図示。ペロブスカイト太陽電池のヒステリシス特性に設定された
電圧でのこの安定化された電流出力を使用して、スペクトルミスマッチ後の認定されたAM1.5G効率
を決定する(部分的には図4に示すEQEから計算される)。(図1E)およびデバイス活性領域を決定。
0.95Vで安定化された電流は、図1Cに示される逆J-Vスキャンとよく一致し、その結果は、現在ま
でに報告された最高効率のコロイド状QDSCである13.43%の総合効率を図示。

図1高効率FAI被覆CsPbI3 QDSCs:(A)太陽電池の概略断面図。 FTO、フッ素ドープ酸化スズ(B)
デバイス断面のSEM画像。 NREL認定(C)順バイアスから逆バイアスまでのJ-V特性、(D)0.95Vの
定電圧での安定電流、および(E)EQE。

AXコーティングCsPbI3 QDSCおよび薄膜特性

様々なAX塩が、QDアレイを修飾する潜在的な治療法として研究されてきた。この仕事にCsPbI3 QD膜
を製造するために、CsPbI3 QDを前述のように合成し、オクタンからのスピンコーティングによって
層ごとに堆積させた。既存の層を再分散させることなく、ネイティブリガンドを部分的に除去し、
さらに堆積するため各QD層の後に酢酸メチル(MeOAc)中の飽和鉛(Ⅱ)鉛[Pb(NO 3)2] (4)十分
に厚いCsPbI3 QD膜(3~4回の堆積サイクル、200~400nmの厚さの膜に至る)を構築した後、この膜
を酢酸エチル(EtOAc)中飽和AX塩溶液中に約10秒間浸漬した。 図2Aは、フィルム組立のこのプロ
セスを示す流れ図示。

図2 CsPbI3 QD膜へのAX塩の影響とPV性能:(A)膜堆積プロセスおよびAX塩の後処理の略図、(B)
FAI(ピンク)、ヨウ化メチルアンモニウム(緑)、臭化ホルムアミジニウム(FABr)(黄色)、メチ
ルアンモニウムブロミド(MABr)(グレー)、ヨウ化セシウム(CsI)(暗 青色)、および純粋な
EtOAc対照(青色)。 (CおよびD)FAI後処理なしの(C)および(D)CsPbI3 QD膜のToF-SIMS深さプ
ロファイル。 強度は、各データポイントにおける合計カウントに対して正規化される。薄膜全体にわ
たる積分されたToF-SIMS信号強度から計算されたCs / Pb、Cs/Pb, I/Pb, and FA/Pb およびFA / Pbの比率。

AX塩の後処理の組成が変化する一連の太陽電池ならびに純粋なEtOAcのみが使??用される制御装置を製
作し、種々のAおよびX成分の役割ならびに得られた薄膜。図2Bは、デバイスのJ-Vスキャンと様々な
AX塩処理を比較。対照と比較して、すべてのAXS塩後処理はCsPbI3 QDSCの性能を著しく増加させ、こ
の表面処理スキームの一般性および有効性を実証。このシリーズで検討された様々なAX塩の後処理の
中で、最も高い電力変換効率(PCE)は13.4%であり、14.37mA / cm 2のJscを用いてFAI処理から得
られ、これはPCEによる純粋なEtOAc対照よりも著しく良好であり、 Jscはそれぞれ8.5%および9.
22mA / cm 2であった。図2Bに見られるように、後処理はVOCまたはフィルファクタ(FF)にほとんど
影響を与えず、PCEの改善はほぼ完全にJscの増加に起因する(表1参照)。

これは、異なるAX塩処理が様々な程度でQDカップリングに影響を与え、QDフィルムの電子特性を調
整するために使用できることを示唆している。FAIで処理したチャンピオンデバイスと純粋なEtOAcで
処理したチャンバーデバイスを比較することにより(図S1※上表クリック参照)、JSCの~60%の改
善を測定し、JVスキャンから得られたPCEを8.5~13.8%に改善し、6.1~13.5%に上げた。 この光電流
の増加は、バンドギャップの変化を示すEQEオンセットの変化ではなく、全体的なEQEにおけるブロー
ドバンドの改善のために生じます(図S1)。 さらに、純粋なEtOAcおよびFAI処理を用いた膜の吸光度
スペクトルは~700nmで同様のオンセットを示し、EQEスペクトルと一致するが、同様の全体的な光吸
収を示す(図S2※)。 JSCは光吸収の改善から生じる。 このAX後処理スキームは、CsPbI3 QDフィルム
の電荷担体回収効率を向上させる一般的な方法であることを示唆しています(図S3※)。 FAIの事例を
詳細に調査した。しかし、最適化後の他のAXソルト後処理は、さらに高い性能をもたらす可能性があ
る。 PCEの改善に加えて、フォワード(つまりJSCからVOCへ)と逆方向(すなわちVOCからJSCへ)JV
スキャンのヒステリシスの顕著な減少、ならびにSPOとFAI後処理後の逆JVスキャン(図S1※)。この
FAI後処理で製造された78個のデバイスのPCE、VOC、JSC、およびFFのヒストグラムが図4に示されてい
る。これらの高効率(>12%)、高電圧(> 1.15V)QDSCの再現性を実証する。

                     ――― 中略 ―――

考察

QDは、バンドギャップおよびエネルギー位置が広く調整可能であるという利点を有し、CsPbI3の場合
相安定性の付加的利点を提供するが、QDSCは従来、バンドギャップに対する低VOCおよびキャリア収
集効率の低下の両方から苦しんでいた。QDSCのこれらの両方欠点が、CsPbI3 QD膜のカップリングに
よって大部分が克服され得ることを示す。この研究で開発されたAX処理戦略は、CsPbI3 QD膜の電子
特性を調整するための一般的な方法を提供する。より具体的には、FAIコーティングは、CsPbI3 QD膜
の高い移動度を倍増させ、記録されたPCEが13.43%となり、QDSCが色素増感太陽電池、有機PV、
CZTSSe PV技術。 さらに、Shockley-Queisser限界の80%を超える高VOC、およびバンドギャップの
調整可能性により、これらのデバイスは高効率タンデム太陽電池構造用途に適す。

紙面の都合で、部分的に割愛掲載したが、「耐久性」の問題を残すもののほぼの量子ドット型太陽電
池(+α)の変換効率30%超の実用化の道筋がほぼ立ったとわたし(たち)は考えている。この続
編は適時掲載していく。



 

昇龍不可抗論

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                 公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは  /  孟子  

                                                      

     ※ 禍福はみすがら招くもの:仁は宋誉のもとであり、不仁は屈辱のもとである。屈辱
       を避けたいと思いながら、仁政を行なわないのは、濡れたくないと思いながら水溜
       りにつかっているようなものである。屈辱を避けるには、まず道徳を重んじ、有能
       な人材を詐取することだ。賢人が重要な地位につき、有能贈が官位を将れば、国の
       泰平は保たれる。そのうえで、政治と刑罰を明確にすれば、大国からも畏敬される。
       『詩経』に、「くもり雨ふるその前に 桑の根っこの皮をとり 巣の出入口を固め
       よう 木の下にいる人間どもが小鳥のわたしをいじめぬよう」とある。孔子は「こ
       の読の作者は道理をわきまえている」と言った。つまり国の政治がよければ、侮辱
       を加える者はない、というわけだ。泰平無事の時、それをよいことに安逸をむさぼ
       るのは、災禍を招いていろのも同然だ。禍にせよ、福にせよ、すべてみすがら招く
       ものだ。『詩経』に、末ながく天命とともにあり みずから幸せを求めよ」『書経』
       の太甲篇に、「天が降した災難は逃れることもできよう。だが、みずから招いた災
       難はけっして逃れられない」とあるのは、つまりこの意味である。
 
       【解説】「治にいて乱を忘れず」(『易経』繋辞伝)。泰平無事の時にも、常に非
       常事態に備えてねかねばならない。非常事態は突然飽ってくるものではない。泰平
       ムードのなかにその”胎児”がすでに生まれ育っているのだ。

  易経と十翼   

 

 Oct. 17, 2017

 

  

 

 

 

【昇龍不可抗論 Ⅰ】

● 帝國のロングマーチと強かな国家解体論の狭間

かって、ブログでも掲載したように、富国強兵をめざし突進していった戦前の日本のように『坂の上
の雲』(司馬遼太郎著)のように中国も帝國主義的覇権行動(=「帝國のロングマーチ」)をとめる
ことはできないだろう。かって、カールマルクスや吉本隆明がイメージしていた宗教としての最終形
態の緩やかな解体(国家の解放)に向かうことなく、多くの先進諸国の酷か構造の三権分立はおろか
国民によるリコール権(=自由民権)も付与することなく、少なくとも後、五十年、百年を維持し続
けていくだろうとの考えを書いている。また、このような現代中国の政治体制批判はたやすい。そこ
で、週刊エコノミストの『まるわかり中国』(毎日新聞社)に眼を通し、、下記のように『習近平の
中国百年の夢と現実』(林望著、岩波書店)に眼を通してみる。

  日本や欧米列強による侵略、そして国民党との内戦で味わった屈辱と苦難を再び繰り進さない
 という思いは、政治的な立場や貧富の差と関係なく、多くの中国人に共通する。政治や社会への
 不安や不満は少なくないけれども、改革開放の結果、衣食足り、贅沢もできるようになった今の
 暮らしを大事にしたいという思いも強い。個人としての自由や権利、尊厳への願いは消えていな
 いが、それらは中国かたどり着いた現状の上積みとして探求されるものであり、それを危うくす
 るためのものではないという意識の広がりも私は感じてきた。中国が空中分解することなく、よ
 りよい方向に前進することが今の中国に生きる人々の最大公約数的な願いであるとすれば、その
 ために最適な改革のテンポとはどういうものかということが重要になる,

  習はしばしば「我々は川底の石を探りながら、慎重に川を渡らなければならない」という言葉
 を口にする,2014年2月のロシア訪問を前にしたロシアメディアとのインタビューでは、「
 中国の改革は、始まって30年が過ぎ、深くて危険な水域に入っている。皆に熹ばれる改革はほ
 とんどやり、軟らかい肉はもう全部食べつくしてしまっている。残ったのはかみ砕くのに苦労す
 る硬い骨ばかりだ」と述べ、「たとえそうであっても我々は気持ちを強く持って前に進まねばな
 らないが、一歩一歩、危なげなく、正しい方向に進み続けなければならない。取り進しのつかな
 い間違いを犯すわけにはいかないのだ」と語った。彼らにとっても国家のかじ取りが手探りであ
 ることを示す言葉であり、表向きの「自信」の裏側にある深い危機感の吐露でもあろう。

  習近平の手腕は中国と世界を眩目させているが、その政策の多くは、共産党政権が積み上げて
 きた大きな流れの中にある。毛沢東の時代も郎小平の時代もすべて共産党の歴史であるとして肯
 定しようとする習は、その巨大な振り子が刻む長い時間を意識し、その流れの中で自分の仕事が
 評価されることを深く自覚しているように見える。
 「中国の夢」とは、そうした習の使命感を凝縮したスローガンだが、今後、厳しく問われていか
 なくてはならないのは、それがいったい誰のための夢なのかということだ。十三億人の夢ではな
 く、共産党政権の、あるいは習自身の夢でしかないのであれば、これほど危うい話はない,中国
 の行方にいや応なく影響を受ける私たちは、彼らが目指す 「百年の夢」がどのような像を結ん
 でいくのかを、予断や偏見にとらわれず、曇りのない目で見つめていく必要かおるように思う。
      
                             終章「形さだまらぬ夢」より

                      林 望 著『習近平の中国 百年の夢と現実』


とは言え、経済規模においては後数年もせずうちに、米国を抜き世界一になることになんの疑問もも
たないでいる。つまり、『昇り龍『』の勢いは止めることができないと考えるが、そのときにそれに
ふさわし『美徳』を携えた国であるのかどうかは定かでないとも考えている。また、それ以上の想像
についてはほとんどこれから中国で生じる必然性のため書かずにおいておく。



【中国初無軌道電車の登場!】

今年6月、中国のCRRC社が非軌道電気トラックが登場し、社会実験を開始している。このことはブ
ログでも掲載しているが中国で開始されたことになる。Autonomous Rail Rapid Transit(ART:自律型高
速鉄道/無軌道電車)は地下鉄や路面電車のシステム構築コストのほんの一部で、温暖化ガスの排出
や交通量を減らすことができきることが唱い文句である。百パーセントの電車は時速70キロメート
ルで乗客3百人を目的地まで運送する。この自律型高速鉄道は、湖南省株洲市で実証実験が行われて
いる。走行原理は、従来の軌道ではなく路面上に描かれている案内点線を自動検出し百パーセント電
気で走行する。Channel NewsAsia 社は、この自律型高速鉄道で公共交通機関のスピードアップが図れる
と報じている。この新交通システムは10分間充電した後、時速24キロ以上で走行する。同列車に
はリチウムチタン電池とフラッシュ充電装置で充電する。新列車全長は31メートル以上で車輪の代
わりにゴムタイヤを装備、ツイン・ヘッド・システムにより、電車は非Uターン運行・非軌道電車、
寿命は約25年。人民日報オンラインは、自律型高速鉄道は、中国では4億~~7億元、キロメートル
当たり約6010万~1億330万ドルの従来の地下鉄よりも安価であると報じている。新型列車は
1億5千万~2億元、または1キロメートルあたり約2250万~3千万ドルの電車に比べ、投資額
のわずか5分の1。列車は2018年に一般に公開する前に珠洲市で実験に入っている。

 

  CNN Oct. 30, 2017
 
【2016年 大気中の二酸化炭素濃度過去最高を記録】

 昨年は記録を破る年となった。2016年の最初の6ヶ月間は、現代の気温記録で最も暖かい記録を
更新。新しい大気汚染地帯のC二酸化炭素レベルが80万年のうちに最高点を記録。「世界気象機関
(WMO)が発表した報告書によると、過去770年の間に目撃された大気の急激な変化には、前例は
ない。この組織は、毎年、年間温室効果ガス報告書のデータを収集、2016年のデータを見直しな
がら、二酸化炭素レベルが急激に上昇した原因を「人間活動」と「強いエルニーニョ現象」の複合に
よると表明している。

また、CNN社は、地球が大気中の二酸化炭素濃度の経験は、気温が2~3℃上昇し、現在の海面水位
が10~20センチメートル上昇した3~5百万年前。二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出量
を急速に削減しなければ、パリの気候変動に関する協定の目標をはるかに上回り、今世紀末までに危
機的な気温上昇に向かうだろうと、Petteri Taalas WMO事務局長は語り、未来の世代ははるかに不快な
惑星を継承するだろうと結ぶ。。2015年には1195カ国がパリ気候協定に調印し、気候変動が
悪化するのを防止するために各国が満たす必要のある排出目標の概要を説明している。トランプ大統
領は、米国は唯一の先進国でありながらパリ合意から離脱。その結果、いくつかの米国州が反発しパ
リ条約に沿った排出目標を合意設定している。10月に、国連環境計画は別個の排出ギャップ報告を
発表する予定のWMOレポートでは、各国が温室効果ガス排出量を削減するために行った政策コミッ
トメントを追跡。また、現在の政策がどのように2030年目標を達成するかを分析している。数字
は嘘でなく、いまだ大量の温暖化ガスを放出している。いずれこれを反転する必要がある関係者は述
べている。また、ここ数年は再生可能エネルギーの莫大な恩恵を受けてあいるが、これらの新しい低
炭素技術が普及するように努力しなければならず、すでにこの課題に取り組むためのソリューション
の多くを持っているとし、グローバルな政治意志と新たな緊急性の必要性を強調している。

  Oct. 1, 2017

 【気候変動と火山噴火は、夏のない年を招来させるかも】

科学者たちは、気候変動が現在のペースで継続すれば、海洋が過去に行ったように火山性硫黄やエア
ロゾルによる大気の影響を減らす能力(=吸収能力)を失う可能性があると警告している。これは、
インドネシアのタンボラ山の今年4月噴火したように、1815年の火山噴火のように「夏のない年」
につながる可能性があると。米国の大気研究センター(NCAR)が主導した新しい研究は、地球の気
候を変える際の特定の噴火の役割と、海氷の融解や地球規模での上昇により影響を受け続けた場合、
気温変動に影響する<だろうと予測している。それによると、海洋は、暖かい水が表面に上がってい
る間に、海のより寒い水が沈み、周囲の土地や大気を暖かくするプロセスを通じ、気候を相対的な正
常に戻す重要な役割を果たしているが、気候変動に起因する海洋温度の変化で、2085年にタンボ
ラ山に似た噴火が起きた場合、海洋は気候の安定化をもたらさない可能性が高いと危惧する。同研究
者(Otto-Bliesner)は、インドネシアのタンボラ山地の1815年噴火に対する気候システムの反応は、
将来の潜在的な異変の視点を与えるが、気候システムがはるかに異なった対応をするかもしれないと
いう。「夏のない季節」それはわたしたちには考えられないことだが。


doi:10.1038/s41467-017-01302-z Nature Communications 8,  Published online:31 October 2017



  ● 今夜の一品


習近平の「虎も叩くが蠅も叩く」ではないが金星社のアイフォーンK7iは超音波を発信し「蚊も叩
く」機能がついてマラリアの予防に役立つとしてインドなどの亜熱帯圏に同機種の拡販中とか。これ
は面白いと注目。 

 

エネルギーフリー社会を語ろう!No.92

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                 公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                                

     ※ 天下に敵なし:賢人や有能な人材を重用し、すぐれた人物が国政にあたれば、あら
              ゆる人材はその国に仕官することを願うだろう。商店からは店舗税は徴収するが、
              商品税は免除する。あるいは収り締まりだけにとどめて店舗税も免除する。そうす
              れば商人という商人は、その国で商いすることを願うだろう。関所では、取り調べ
       だけを行なって、通行税はとらない。そうすれば旅人はみな、その国を通ることを
       願うだろう。農民には、賦役として公田を耕させるだけで、私田には課税しない。
       そうすれば他国の農民も、その国で耕すことを願うだろう。住宅については、付加
       税をとらなければ、天下の人民はみな、その国に住むことを願うだろう。この五つ
       の政策を完全に実行すれば、その君主は隣国の人民からも父母のように慕われる。
       隣国が人民をひきいて侵略して来たとしても、息子が父母を攻めるようなものだ。
       歴史はじまって以来、こんな侵略が成功したためしはない。このような君主には天
       下に敵がなくなる。天下無敵の君主は、天の使徒である。天の使徒でありながら、
       王者になれなかった例はかつてなかった。

     〈公田を耕させる〉周の井田法による公田を共同耕作して、収指物を祖税にすること。
     〈付加税〉原文は「夫里之布」。周代には、働かない者や宅地に桑や麻を植えない者に
          対する罰として課した税。しかし戦国時代には悪用され、付加税として一律
          に課した。

     【解説】孟子の持論である王道政治の経済政策であるが、五つのうち四つまでが減税政
         策とは興昧深い。 

 

    No.92

 【高性能回転電動機篇:熾烈な競争に勝つ方法】

 

11月2日、日経新聞社は、日本の革新力低下しているとしてその克服法を掲載(「大企業に眠れる
知 解はすぐそばにある (ニッポンの革新力)」 2017/11/2 日本経済新聞 電子版)。それによる
と、日本企業は1980年代に半導体や家電で世界を制したが、その後は米国などに後れを取る。研究開
発(R&D)が生むリターン(利益)、いわば「ROR(リターン・オン・R&D)」の低迷が止ま
らない。デロイトトーマツコンサルティングは主要国の企業が生んだ5年間の付加価値の平均を、そ
の前の5年間の研究開発費の平均で割ってR&Dの効率を算出。日本が製造業で競合する国では16
年はフランスが49倍、ドイツが42倍、米国が39倍と高く、日本と韓国は32倍で最下位に並ぶ。
つまり、日本企業の研究所は事業化という出口を見据え、技術の種をどう組み合わせるかを考えられ
ていない(福永泰日本電産中央モーター基礎技術研究所長)。変化が緩やかな時代には、知をためこ
む日本型経営が通用したが、変化が激しいデジタルの時代には、自前主義を克服する経営の知恵が革
新力を左右すると指摘する。

2010年まで東芝の技術者だった堺和人東洋大学教授は、会社に残っていれば、電気自動車(EV)
用のモーターの勢力図は変わっていたかもしれないと思いで研究を続ける。 手がけるのは永久磁石
の磁力を自由に変えることで、モーターの効率を大幅に高める技術。洗濯機で実用化し大型のハイテ
ク機器への活用を考えたが、リーマン・ショック後の業績悪化を背景に、応用は足踏みに。堺教授は
研究環境を求めて東芝を去る。EV時代が近づき、堺教授のもとにはLG電子など韓国メーカーから
共同研究の打診もあったが、東芝は将来の成長を担うかもしれないEV用モーターの技術の種を失う。

 ❏ 関連特許事例: 特開2017-063518 回転電機システム

ところで、世界のエネルギー総消費量のおよそ50%がモータによる。そのため、モータおよびドラ
イブシステムの省エネルギー化・高効率化が求められている。従来、モータや発電機のような回転電
機では、3相の交流電流が流れる3相のコイルを固定子に設けて相毎のコイルを接続して3相巻線を
構成。この3相巻線を持つ回転電機ではその3相の巻線それぞれの端子に外部の3相電力変換装置を
接続しエネルギー変換、回転子を回転させて回転力を取出し、あるいは回転子の回転により固定子側
から出力される電力を取り出す。

このような3相の回転電機では、❶トルク脈動や出力脈動を小さくするためにコイルの数や配置を最
適化して起磁力を正弦波に近づける設計を行うが、スロット数を限りなく増やすことはできないので、
高調波の低減量には限界がある。❷また巻線電流による電磁力で発生する振動や騒音を低減するのに
電気的にスロット数や鉄心形状などで最適化しても、ある程度までしか低減できない。❸またハイブ
リッド自動車や鉄道等の可変速モータや風力用可変速発電機では、低速から高速まで低損失が性能上
最も重要となるが、機器設計上で固定された極数では、極数によって良好な出力性能が得られる回転
数範囲があるので、低速域から高速域まで広範囲で高効率にすることは困難である。

そこで、前述のことを踏まえ、下図1のように、複数のコイル各々に流れる電流の大きさと位相とを
変化できる電力変換回路30a~30i、複数のコイル各々で成る巻線を有する固定子10たコイル
または永久磁石または磁気的突極鉄心を有する回転子20から構成される回転電機システムにおいて、
電力変換回路30a~30iは複数のコイル各々に流れる電流の大きさと位相とを個々に変化できる
回転電機システムとすることで、省エネルギーや発電量の増加、トルクや出力脈動の低減、振動や騒
音の低減が図れる回転電機システムを実現する。



【図1】本発明の第1の実施の形態の回転電機システムの説明図
【図2】第1の実施の形態の回転電機システムの回路図



【図3】第1の実施の形態の回転電機システムの動作説明図
【図4】上記第1の実施の形態の回転電機システムにおける9相電圧波形図
【図8】第2の実施の形態の回転電機システムによる4極運転時の回転磁界の分布図
【図9】第2の実施の形態の回転電機システムによる8極運転時の回転磁界の分布図
【図18C】上記第3の実施の形態の回転電機システムのモータの負荷時トルク特性図

 【量子ドット工学講座 No.48】

❏ 最新ペロブスカイト応用技術:関連事例
             
● ペロブスカイト型薄膜太陽電池、エネ変換効率18%達成

先回はワシントン大学の研究グループのAサイトカチオンハライド塩コーティング処理法で化学的に
表面積層した変換効率13.4%のハロゲン化ペロブスカイト量子ドット薄膜の開発したことを掲載し
たが(下表クリック)、今度は、桐蔭横浜大学医用工学部の宮坂力特任教授らは、薄いフィルム型にし
た「ペロブスカイト太陽電池」のエネルギー変換効率で18%を達成した。フィルム型では世界最高
性能だという情報が飛びKんできた(「フィルム型ペロブスカイト太陽電池、エネ変換効率18%達成!
桐蔭横浜大」日刊工業新聞 電子版 2017.11.01
)。

それによると、厚さ約126マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、折り曲げても高い
変換効率と安定性を維持する。安価かつ軽量でフレキシブルな太陽電池が実用化できれば、無線機器
の自立電源、ウェアラブル機器のほか、医療分野にも活用範囲が広がると期待される。ペロブスカイ
ト太陽電池は、ペロブスカイトという結晶構造を持つ太陽電池。製造コストが低いため、次世代太陽
電池として実用化が期待されている。同研究グループは、樹脂フィルム基板に対し電子輸送層、セシ
ウムやメチルアンモニウムなどの混合カチオンからなるペロブスカイト層、正孔輸送材料と金電極を
120度以下の低温で製膜し、製作した。フレームなどを除く太陽電池フィルムの重量は1平方メー
トル当たり約250グラムと軽量。また、1000回の繰り返しの曲げ試験後にも、効率を83%維
持できることを確認した。現在、変換効率20%を超えるペロブスカイト太陽電池はガラス基板を使
用。フィルム型では15~16%程度が最高だった。また、世界最高効率の22・1%の同電池など
は400度以上で製膜している。今回製作したものは低温で製膜できるため、生産コストを抑えられ
るということだ。

毎度掲載していることではあるが、安定性と耐久性がハードとして残るもののタンデム化(多層化)
で高効率化が実用段階の射程に入り、薄膜化による人工光(室内照明)など発電できウェアブル化/
モバイル器機の電源化の実用化も射程入ってきている。ここでは、太陽電池または太陽電池以外の燃
料電池、セラミックコンデンサー、特殊ガラス材としての新規技術事例をピックアップしてみた。

 

❏ 関連特許事例:特開2017-195374 配向膜基板の製造方法、スパッタリング装置
                           及びマルチチャンバー装置



【符号の説明】

1 ロードロック室  2 搬送室  3 搬送ロボット  4 YSZスパッタ室  5 磁性を持つ物質の
スパッタ室5  6 特定の格子定数を持つ物質のスパッタ室6  7 PZTスパッタ室  8 ゾルゲル
スピンコート式PZT製膜装置(誘電体膜成膜装置) 10 グリッド電源(第2の電源) 11 フ
ィラメント 12 フィラメント電源(第3の電源) 13 放電ガス導入機構 14 反応ガス導入
機構 15 集光型反射部材(集光リフレクター) 17,18 ランプ光がSiウエハの下面の外側
に漏れる量 21 第1のチャンバー(プロセスチャンバー) 22 保持機構 23 Siウエハ(
Si基板) 24 ランプヒーター 25 スパッタ電極 26 スパッタリングターゲット 27 ロ
ータリーマグネット 28 スパッタ電源(第1の電源) 29 グリッド電極 29a 貫通孔 31
YSZ膜 31a ZrO2膜 31b Y2O3膜 32 磁性を有する導電膜 33 PZT膜 
34 ペロブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層 35 ペロブスカイト構造物質を含む第2のバ
ッファ層 51 ゲートバルブ 52 第1の空間 53 第2の空間 54 バルブ

【概要】

従来のPb(Zr,Ti)O3(以下、「PZT」という。)ペロブスカイト型強誘電体セラミックスの製造方法は、4
インチSiウエハ上に膜厚300nmのSiO2膜を形成し、このSiO2膜上に膜厚5nmのTiOX膜を形成する。次
にこのTiOX膜上に例えば(111)に配向した膜厚150nmのPt(白金)膜を形成し、このPt膜上にスピンコー
ターによってPZTゾルゲル溶液を回転塗布する。この際のスピン条件は、1500rpmの回転速度で30秒間
回転させ、4000rpmの回転速度で10秒間回転させる条件である。次に、この塗布されたPZTゾルゲル溶
液を250℃のホットプレート上で30秒間加熱保持して乾燥させ、水分を除去した後、さらに500℃の高
温に保持したホットプレート上で60秒間加熱保持して仮焼成を行う。これを複数回繰り返すことで膜
厚150nmのPZTアモルファス薄膜を生成する。


次いで、このPZTアモルファス薄膜に加圧式ランプアニール装置(RTA: rapidly thermal anneal)を用い
て700℃のアニール処理を行ってPZT結晶化を行う。このようにして結晶化されたPZT膜はペロブスカイ
ト構造からなる。この従来技術では、(111)に配向したPt膜が必要となり、Ptが高価であるため、製造
コストが高くなるという課題と製造コストを低減することを課題である。本発明の種々の態様につい
て説明すると、

[1](100)の結晶面を有するSi基板と、前記Si基板上にエピタキシャル成長により形成さ
れた(100)の配向膜と、配向膜上にエピタキシャル成長により形成された磁性を有する導電膜と
、を具備することを特徴とする配向膜基板。[1]において、導電膜は金属を含むことを特徴とする
配向膜基板。[1]または[2]において、導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれ
ていることを特徴とする配向膜基板。[4]上記[1]乃至[3]のいずれか一項において、導電膜
は、Ni、Fe、Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少な
くとも一つの金属または少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなることを特徴とする配向
膜基板。[5]上記[1]乃至[4]のいずれか一項において、 導電膜は電極であることを特徴と
する配向膜基板。[6]上記[1]乃至[5]のいずれか一項において、配向膜及び導電膜は500
℃の耐熱性を有することを特徴とする配向膜基板。[7]上記[1]乃至[6]のいずれか一項にお
いて、配向膜は、ZrO2膜とY2O3膜を積層した積層膜またはYSZ膜であることを特徴とする
配向膜基板。[8]上記[1]乃至[7]のいずれか一項において、配向膜と前記導電膜との間に形
成されたペロブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層を有することを特徴とする配向膜基板。
[9]上記[1]乃至[8]のいずれか一項において、 前記導電膜上に形成され、(100)に配向
した誘電体膜を有することを特徴とする配向膜基板。[10]上記[9]において、 前記誘電体膜は
PZT膜であることを特徴とする配向膜基板。[11]上記[9]または[10]において、導電膜
と前記誘電体膜との間に形成されたペロブスカイト構造物質を含む第2のバッファ層を有することを
特徴とする配向膜基板。[12]上記[8]または[11]において、ペロブスカイト構造物質は、一般式
ABO3で表され、Aは、Al、Y、Na、K、Rb、Cs、La、Sr、Cr、Ag、Ca、Pr、
Nd、Biおよび周期表のランタン系列の元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含
んでなり、Bは、Al、Ga、In、Nb、Sn、Ti、Ru、Rh、Pd、Re、Os、IrPt、
U、Co、Fe、Ni、Mn、Cr、Cu、Mg、V、Nb、Ta、MoおよびWからなる群から選
択される少なくとも一つの元素を含んでなるペロブスカイト物質、または、酸化ビスマス層と、ペロ
ブスカイト型構造ブロックとが交互に積層された構造を有するビスマス層状構造強誘電体結晶であり、
ペロブスカイト型構造ブロックは、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Y、Bi、Pbおよび希土
類元素から選ばれる少なくとも1つの元素Lと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Mo、Mn、
Fe、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1つの元素Rと、酸素とによって構成されることを特
徴とする配向膜基板[13](100)の結晶面を有するSi基板を用意し、Si基板上にエピタキ
シャル成長によりZrO2膜とY2O3膜を積層した積層膜またはYSZ膜を形成し、積層膜または
YSZ膜上にエピタキシャル成長により磁性を有する導電膜を形成する配向膜基板の製造方法であり、
積層膜は(100)に配向しており、YSZ膜は(100)に配向しており、導電膜は、Ni、Fe、
Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少なくとも一つの金属
または前記少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなることを特徴とする配向膜基板の製造
方法。[14]上記[13]において、 前記導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれ
ていることを特徴とする配向膜基板の製造方法。[15]上記[13]または[14]において、積
層膜またはYSZ膜を形成した後で且つ前記導電膜を形成する前に、積層膜またはYSZ膜上にペロ
ブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層を形成することを特徴とする配向膜基板の製造方法。

[16]上記[13]乃至[15]のいずれか一項において、導電膜を形成した後に、前記導電膜上
に(100)に配向した誘電体膜を形成することを特徴とする配向膜基板の製造方法。[17]上記
[16]において、誘電体膜はPZT膜であることを特徴とする配向膜基板の製造方法。[18]上
記[16]または[17]において、前記導電膜を形成した後で且つ前記誘電体膜を形成する前に、
前記導電膜上にペロブスカイト構造物質を含む第2のバッファ層を形成することを特徴とする配向膜
基板の製造方法。[19]上記[15]または[18]において、ペロブスカイト構造物質は、一般
式ABO3で表され、Aは、Al、Y、Na、K、Rb、Cs、La、Sr、Cr、Ag、Ca、Pr、
Nd、Biおよび周期表のランタン系列の元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含
んでなり、Bは、Al、Ga、In、Nb、Sn、Ti、Ru、Rh、Pd、Re、Os、IrPt、
U、Co、Fe、Ni、Mn、Cr、Cu、Mg、V、Nb、Ta、MoおよびWからなる群から選
択される少なくとも一つの元素を含んでなるペロブスカイト物質、または、酸化ビスマス層と、ペロ
ブスカイト型構造ブロックとが交互に積層された構造を有するビスマス層状構造強誘電体結晶であり、
ペロブスカイト型構造ブロックは、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Y、Bi、Pbおよび希土
類元素から選ばれる少なくとも1つの元素Lと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Mo、Mn、
Fe、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1つの元素Rと、酸素とによって構成されることを特徴
とする配向膜基板の製造方法。

[20]第1のチャンバーと、第1のチャンバー内に配置された、基板を保持する保持機構と、保持
機構に設けられ、前記基板の下面にランプ光を照射して前記基板を800℃以上に加熱するランプヒ
ーターと、第1のチャンバー内に配置され、前記保持機構に保持された前記基板の上面と対向するス
パッタリングターゲットと、スパッタリングターゲットに電気的に接続されたスパッタ電極と、スパ
ッタ電極に電気的に接続された第1の電源と、保持機構に保持された前記基板と前記スパッタリング
ターゲットとの間に配置されたグリッド電極と、 グリッド電極に設けられた複数の貫通孔と、グリッ
ド電極に電気的に接続された第2の電源と、保持機構に保持された前記基板と前記グリッド電極との
間の第1の空間から真空排気する排気機構と、を具備し、グリッド電極によって前記第1のチャンバ
ーは、第1の空間と、前記グリッド電極とパッタリングターゲットとの間の第2の空間に二分割され
ていることを特徴とするスパッタリング装置。

[21]上記[20]において、保持機構に設けられ、前記ランプヒーターから照射されるランプ光
が前記基板の下面の外側に漏れるのを遮る遮光部材を有することを特徴とするスパッタリング装置。
[22]上記[21]において、遮光部材は、前記ランプ光を前記基板の下面に集光させる集光リフ
レクターであることを特徴とするスパッタリング装置。[23]上記[22]において、集光リフレ
クターはAl製であり、前記集光リフレクターにはAuメッキが施されていることを特徴とするスパ
ッタリング装置。[24]上記[20]乃至[23]のいずれか一項において、スパッタリングター
ゲットの近傍にはマグネットが配置されていることを特徴とするスパッタリング装置。[25]上記
[20]乃至[24]のいずれか一項において、第2の空間に不活性ガスを導入し、前記第1の空間
に酸素ガスを導入するガス導入機構を有することを特徴とするスパッタリング装置。[26]上記
[25]において、スパッタリングターゲットは、YとZrを含有するものであり、基板は、(10
0)の結晶面を有するSi基板であることを特徴とするスパッタリング装置。27]上記[25]に
おいて、スパッタリングターゲットは、Zrからなり、基板は、(100)の結晶面を有するSi基
板であることを特徴とするスパッタリング装置。

[28]上記[25]において、スパッタリングターゲットは、Yからなり、基板は、(100)の
結晶面を有するSi基板上にZrO2膜が形成されたものであることを特徴とするスパッタリング装
置。[29]上記[20]乃至[28]のいずれか一項において、保持機構に保持された前記基板と
前記グリッド電極との間に配置されたフィラメントと、フィラメントに電気的に接続された第3の電
源とを有することを特徴とするスパッタリング装置。[30]上記[29]において、第1の電源は、
高周波電源または直流電源であり、第2の電源は、直流電源または前記第1の電源の周波数より低い
周波数の高周波電源であり、 前記第3の電源は、直流電源または交流電源であることを特徴とするス
パッタリング装置。[31]上記[20]乃至[30]のいずれか一項において、グリッド電極は、
カーボンで形成されていることを特徴とするスパッタリング装置。[32]上記[26]に記載のス
パッタリング装置と、第1のチャンバーに第1のゲートバルブを介して接続された搬送室と、搬送室
内に配置された、前記基板を搬送する搬送機構と、 搬送室に第2のゲートバルブを介して接続され
た第2のチャンバーと、第2のチャンバー内で磁性を有する導電膜を成膜するスパッタリング装置と
、を具備することを特徴とするマルチチャンバー装置。

[33]上記[27]に記載のスパッタリング装置と、請求項28に記載のスパッタリング装置と、
前記第1のチャンバーに第1のゲートバルブを介して接続された搬送室と、搬送室内に配置された、
前記基板を搬送する搬送機構と、搬送室に第2のゲートバルブを介して接続された第2のチャンバー
と、第2のチャンバー内で磁性を有する導電膜を成膜するスパッタリング装置と、を具備することを
特徴とするマルチチャンバー装置。[34]上記[32]または[33]において、搬送室に第3の
ゲートバルブを介して接続された第3のチャンバーと第3のチャンバー内で誘電体膜を成膜するスパ
ッタリング装置と、具備することを特徴とするマルチチャンバー装置。[35]上記[32]または
[33]において、搬送室に第4のゲートバルブを介して接続された第4のチャンバーと、第4のチ
ャンバーを有する誘電体膜製膜装置と、を具備し、誘電体膜製膜装置は、ゾルゲル溶液をスピンコー
トにより塗布して誘電体膜を製膜する装置であることを特徴とするマルチチャンバー装置であり、結
晶面を有するSi基板23と、Si基板上にエピタキシャル成長により形成された配向膜31と、配
向膜上にエピタキシャル成長により形成された磁性を有する導電膜32と、を具備する配向膜基板で
ある。導電膜は金属を含む。導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれている。導電膜は、
Ni、Fe、Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少なくと
も一つの金属または少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなる(【選択図】図4)ことで、
本件の一態様を適用することで、製造コストを低減することができる。

※ 詳細は上図クリック 

❏ 関連特許事例:特開2011-014543 光電変換素子の製造方法および光電変換素子、
                                    光電池 【概要】

多孔質半導体微粒子層と電荷輸送層および対極を含む積層構造からなり、該多孔質半導体微粒子層が、
半導体微粒子と分散溶媒を除く添加剤の含量が分散液の1質量%以下の粒子分散液を塗布し加熱する
工程によって製造されることを特徴とする光電変換素子の製造方法により、エネルギー変換効率とコ
ストパーフォーマンスに優れた色素増感型の光電変換素子ならびに光電気化学電池が得られる。

【符号の説明】

1 導電性ガラス  2 導電剤層  3 TiO2電極  4 色素層  5 電解液  6 白金層  7 ガ
ラス  10 導電層  10a 透明導電層  11 金属リード 20 感光層  21 半導体微粒子  22 色素 
23 電荷輸送材料  30 電荷移動層  40 対極導電層  40a 透明対極導電層  50 基板  50a 透明
基板  60 下塗り層


❏ 関連特許事例:特開2017-199859 積層セラミックコンデンサおよびその製造方法 【概要】 

積層セラミックコンデンサ10は、誘電体層12と内部電極13とが交互に複数積層された積層体11
を備える。誘電体層12は、Ba、Sr、Ti、Ca、Zr、Mg、およびR(ただし、Rは、Y、
La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbのうちの少なくとも1種の元
素)を含み、Tiを100モル部とすると、Srは0.5モル部以上3.0モル部以下、Caは3モ
ル部以上15モル部以下、Zrは0.05モル部以上3.0モル部以下、Mgは0.01モル部以上
0.09モル部以下、Rは2.5モル部以上8.4モル部以下である。積層体11の長さ方向の寸法
は1.0mmより大きく3.2mm以下、幅方向の寸法は0.5mmより大きく2.5mm以下、厚
み方向の寸法は0.5mmより大きく2.5mm以下で、誘電体層12の厚み方向の寸法は0.4μ
m以上3.0μm以下であることで、 積層セラミックコンデンサは、上述の構成を備えることにより、
高温負荷試験における寿命ばらつきの小さい積層セラミックコンデンサを得ることができ、 また、こ
の製造方法は、上述の構成を備えることにより、高温負荷試験における寿命ばらつきの小さい積層セ
ラミックコンデンサを製造することができる。【選択図】図2

尚、 誘電体層12は、Ba、Sr、Ti、Ca、Zr、Mg、およびRを含むペロブスカイト型化合
物である。Caは、誘電体層12を構成する結晶粒子の中心付近に存在している。また、Rは、希土
類元素であるY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbのうちの少
なくとも1種類であってもよいし、複数種類が含まれるものであってもよい。
さらに、誘電体層12は、BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物と、他の副成分を含むセラ
ミック層である。BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物としては、チタン酸バリウム系セラ
ミックであり、一般式AmBO3で表されるペロブスカイト型化合物などが挙げられる。AサイトはBa
であって、Ba以外にSrおよびCaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
BサイトはTiであって、Ti以外にZrを含んでいてもよい。Oは酸素である。また、mは、Aサ
イトとBサイトとのモル比である。また、積層体11のXRD構造解析を行ったところ、誘電体層12
の主成分がチタン酸バリウム系のペロブスカイト型構造を有することが明らかとなった。副成分とし
ては、RやMgが含まれる。誘電体層12内における副成分の存在形はどのようなものであってもよ
い。例えば、副成分は、ペロブスカイト型化合物の結晶粒子内に存在していてもよい。具体的には、
BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物からなるコア部と、コア部の周囲に副成分としての
元素が固溶して形成されるシェル部とからなる粒子がより好ましい。また、副成分は、酸化物などの
形態で結晶粒界や三重点に存在していてもよい。 


【符号の説明】

10 積層セラミックコンデンサ 11 積層体 12 誘電体層 13 内部電極 14 外部電極 
15a 第1の端面 15b 第2の端面 16a 第1の主面 16b 第2の主面  17a 第1
の側面  17b 第2の側面

 

 

秋晴れさわやかな恒例のひこねの城まつりのメインイベント「ひこねの城まつりパレード」。子ども
大名行列、子ども時代風俗行列や、彦根らしさを組み入れた彦根町火消し列、一文字笠列、井伊の赤
鬼家臣団列など総勢千名による華やかな時代絵巻を約2時間にわたり繰り広げた。わたしたちは午前
中に墓参りを済ませ、場内を一週旧西郷屋敷長屋門でパレード用の騎馬が七頭毛並みをそろえ繫がれ
ていたのでデジカメを撮り帰宅、途中湖岸に台風21号の影響で大量の流木が打ち寄せられていたの
で車を降り近くを散策しここでも被害のデジカメ撮影する。仮に1メートル幅あたり1万円として、
およそ全長2百キロメートルとして、20億円処理費用が毎年1回の頻度で10年間繰り返すと2百
億円の費用が発生すれば、経済的にも、精神衛生的にも悪化していくのではと心配することとなった。

 

蕪の柚のマリネの季節

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                 公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                                

     ※ 四つの芽:あわれみの心は、人間ならだれでも持っている。むかしの聖人が血の
       通った政治を行ない得だのは、この心をもっていたからである。いまもし、あわ
       れみの心で、血の通った政治を行なうなら、天下はたやすく治まるのだ。
       あわれみの心はだれにもある、というわけはこうだ。
       幼い子供がヨチヨチと井戸に近づいて行くのを見かけたとする。だれでもハッと
       して、かわいそうだ、款ってやろう、と思う。それはべつに、子供を款った縁で
       その親と近づきになりたいと思ったためではない。村人や友人にほめてもらうた
       めでもない。また款わなければ非難される、それがこわいためでもない。

       してみると、かわいそうだと思う心は、人間だれしも備えているものだ。さらに、
       悪を恥じ憎む心、譲りあいの心、善悪を判断する心も、人間ならだれにも備わっ
       ているものだ。かわいそうだと思う心は、仁の芽生えである。悪を恥じ憎む心は、
       義の芽生えである。譲りあいの心は、礼の芽生えである。善悪を判断する心は、
       智の芽生えである。人間は生まれながら手足を四本持っているように、この四つ
       の芽生えを備えている。それなのに、自分は仁義礼智など実行できぬときめこむ
       のは、自分を傷つけるものである。君主に対しても、同じようにきめつけるのは、
       君主を傷つけるものである。

       自分に備わっているこの四つの芽生えを、育てようと思い立てば、火が燃え出し、
       泉が湧き出るように、それは限りなく大きくなっていく。これを育ててゆけば、
       天下を安定することができる。しかし育てなければ、父母を良うことすらできな
       い。
 
      【解説】有名な四端説の章。性善説の根拠をなす議論である。人間の本性は善きも
       のだ、これは孟子のゆるぎない信念である。告子篇では、人間の本性をめぐる告
       子との論戦が展開されているが、孟子はこの信念を断乎として守り、一歩も退か
       ぬ気脈を見せている。性善説にくみするか否かは別として、社会の機構が複雑化
       し、人間の自己疎外が進行して「人間」が日ごとに見失われてゆく今日、われわ
       れはいま一度問うてみる必要がありはしないか。人間とは何か、と。


【本日は蕪と柚の立冬】

 

                 いたつきも 久しくなりぬ 柚は黄に   /   夏目漱石

 
何年か前にホームセンタで買って植えた5月は白い花を咲かせていた花柚の実が約二百五十も結実。毎
晩柚風呂に入り楽しむ季節である。南堀江の実家のころは、内風呂はひのき風呂だったから、入浴には
恵まれていたような気がする。さて、柚だけでなく今年の大きなニュースは檸檬の結実も多く、こちら
はまだ青いものの収穫が楽しみで、あとは、オリーブの実の収穫だけは経験できていないだねと彼女と
言葉を交わし。余談だがマンゴーもブラットオレンジも北限の厳しさを知らず彼女は寒風に植木鉢をさ
らし枯れさせているが、「あなたって雑ね!」と誹るわりには、整理・整頓の潔癖症?もその意味では
五十歩百歩だとエピソードを思いだし、「そんなもんだ!}」と付け加えた。

ところで、ミカン属の常緑小高木。柑橘類の1つ。ホンユズとも呼ばれる。消費・生産ともに日本が最大
である本柚(ゆず:Citrus junos:シトラス・ジュノ)と花柚(Citrus hanayu:シトラス・ハナユ)はザボンやブンタ
ンの仲間であり果実が小形で早熟性は別種とか。また、本柚は成長が遅く、「桃栗3年柿8年、ユズの大
馬鹿18年」などと呼ばれ。栽培に当たり、種子から育てる実生栽培では、結実まで10数年掛かり、
結実までの期間短縮にカラタチへの接ぎ木により、数年で収穫可能にすることが多いが、現在の日本で
栽培されるユズには主に3系統あり、本ユズとして「木頭系」・早期結実品種として「山根系」・無核
(種なし)ユズとして「多田錦]」がある。「多田錦」は本ユズと比較して果実がやや小さく、香りが僅
かに劣るとされているが、トゲが少なくて種もほとんどなく、果汁が多いので、本ユズよりも多田錦の
方が栽培しやすい面がある(長いトゲは強風で果実を傷つけ、商品価値を下げる)。

ユズは、ジャム、ゆべしなどシトラス・タルト(BBC Food - Recipes - Tarte au citron/Anna Olson's Tarte
au Citron Recipes | Food Network Canada)などジュースやスイーツをはじめ、柚子呼称・柚子ぼん酢など
の香辛料、薬味、冬至の季節料理にかかせない「近江の蕪の柚マリネ」ばどゆずのレシピは3万超のレ
シピ@cookpadが存在する。勿論、料理、食品、食品添加物だけでなく医療薬品、あるいは保湿剤、香水、
香料、畜産・養魚用食餌、肥料、土質改良、除草剤と応用展開されている。



● 事例研究:最新安全なユズで健康増進

2012年5月10日、高知大学医学部と馬路村農業協同組合(高知県馬路村、東谷望史組合長)は、
ユズの種子オイルがアトピー性皮膚炎に効果があるとする共同研究を発表。ユズ種子オイルをアトピー
性皮膚炎のマウスに塗布したところ、かゆみの原因となるヒスタミン量が抑制されている。同村特産の
ユズを使用した加工食品を製造する馬路村農協と高知大学が2009年に共同研究契約を締結。溝渕俊
二教授の研究グループが、同農協が製造するユズの種子オイルの効能の研究に取り組んできた。実験で
はダニでアトピー性皮膚炎を発症させたマウスを使い、ユズ種子オイルとオリーブオイルを塗布して比
較。精製したユズ種子オイルを塗布したマウスはアトピー性皮膚炎の所見はほとんど認められなかった。
 マウスの皮膚の出血、ただれ、浮腫などの症状をスコア化(点数が多いほど症状がある)したところ、
オリーブは6点、未精製のユズ種子オイルは3.6点、精製したユズ種子オイルは2.8点で、オリーブオイ
ルよりも効果があるという報告がされている(日本経済新聞、電子版 2012.05.11)。

 ❏ 特許6112702  抗酸化剤

【概要】

抗酸化性物質としては、いわゆる合成化合物も開発されているが、活性酸素は生活習慣病の原因の一つ
であり、抗酸化性物質としては、症状が顕在化する前に、予防的、また、恒常的に投与できるものが好
ましい。このため抗酸化作用を有する合成化合物は副作用問題が大きく、予防的な投与や恒常的な投与
に適さない。そこで、食品としても使用可能な天然物から抗酸化物質が探索――βカロチン、ビタミン
C、ビタミンE、ポリフェノールなどを含む柑橘類から抗酸化物質が見出されている。従来、抗酸化作
用を有するフラボノイドなどを含むことから柑橘類の果実などから抗酸化物質の探索が進められてきた
が、フラボノイドを含まない/ほとんど含まないユズ種子のオイルが優れた抗酸化作用を有することを
実験的に突き止める(上/下図参照)。JP 6112702 B

❏  特開2008-184454  葉面散布型の硝酸低減剤

【概要】

ほとんどの植物は、根から窒素源の硝酸を吸引、葉から空気中の二酸化炭素を取り込む。根から吸い込
まれた硝酸は、亜硝酸、アンモニアと代謝され、光合成で二酸化炭素を基に得られた糖由来の炭素源と
結合。このように植物は、「空気中からの炭素」と、「土壌からの窒素」を結合させ、生命活動に不可
欠なアミノ酸「炭素と窒素の化合物」を得て、健全な生育には、常時、一定濃度の硝酸が体液中に存在
し、硝酸濃度をゼロにはできない。

食用植物の残留硝酸イオンは、その量が多ければ、ヒトにとっては食味が優れないだけでなく、バクテ
リアなどにより亜硝酸に還元されるとニトロソ系の発がん剤となり、さらに、ヘム鉄と結び付きチアノ
ーゼ症状を引き起こす。また、微生物の増殖にとっても活用されるため、収穫後の野菜の腐敗が速い。
これにも関わらず、農作物の効果的な増収のために多肥栽培が実施され、高濃度の残留硝酸を含む野菜
が市場流通している実状がある。食の安心を求める市場からは、農作物中の残留硝酸を可能な限り低く
する事が切実に求められている。実際、EUでは葉野菜に含まれる硝酸濃度の許容基準値が定められて
いる。ここで、植物体内での代謝による硝酸の減少を「作用D」とし、根からの硝酸吸収を「作用U」
と定義すると、従来の硝酸低減剤は、作用Dの強化に軸足を置いた「生育促進剤+α」形で開発され、
作用Uの制限を追求する「生育抑制剤+α」の開発思想では全く実施されていない。

さて、植物の生長停止ホルモンのアブシジン酸誘導体は、アブシジン酸の気孔を閉じる作用が蒸散抑制
となり、切り花などの日持ち向上に使用される。アブシジン酸は全ての植物に含まれるが、ユズなどの
柑橘果皮には多く含まれ、、いくつかの植物の発芽、伸長が抑制される確認されている。また、ワイン
の渋味のもとでもあるタンニン型ポリフェノール誘導体も植物の生育を抑制する事が示されて、樹皮中
のタンニン誘導体に着目した雑草生育抑制剤などに使用されている。これらのタンニンは、水溶性で、
タンパク質、アルカロイド、金属イオンと強く結合し、還元(抗酸化)性を持つ。これらの特性が生育
抑制効果と相関すると推測されている。酸化防止剤として食品添加に利用されている没食子酸(gallic
acid, 3,4,5-trihydroxybenzoic acid)は、加水分解性タンニンの基本骨格をなし、実際、タンニン類の合成
原料として使用されている。

具体的には、まず、(1) 「生育抑制剤」による生育の緩慢化を、根からの養分吸収の制限につなげる。
この、根から硝酸が吸引されにくい状態で、(2) 体内に残存する硝酸濃度を二つ目の鍵物質(細胞内代
謝を促進剤)により低減させる方法での硝酸低減剤の開発であり、強力な生育抑制剤の作用に、細胞内
代謝促進剤の持つ硝酸低減効果を、有機的に相乗させ初めて発現すさせる「生育抑制剤+α」の設計指
針、これまでの硝酸低減剤の開発方法とは正反対という特徴をもつ葉面散布型の硝酸削減剤は、出荷直
前の大きさまで育てる農産物の葉の硝酸濃度を、一回の葉面散布処理により、2割から7割低減させ、
低硝酸状態が2-6日間維持(=農作物生産者に十分な有効収穫作業期間)し、優しく効果的な葉面散
布型の硝酸低減剤の提供効果、また、柑橘果皮や、抗酸化剤としての機能も合わせ持つタンニン誘導体
で植物体内に残存しても健康に問題なもので、下図のように、ユズ果皮成分やタンニン誘導体など植物
の生育抑制剤に、細胞内の代謝を活性化させる所謂育成促進剤としてマグネシウム塩や糖蜜発酵液を所
定量組み合わせもつ葉面散布型の硝酸低減剤の提供にある。

JP 2008-184454 A 2008.8.14

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第61章 勇気のある賢い女の子にならなくてはならない

   階段を下りたところは地下二階で、そこにはメイド用の部屋があった。それに隣接して洗濯室
  があり、その隣に貯蔵庫があった。つきあたりには運動機械の並んだジムがあった。騎士団長は
 メイド用の部屋を示した。

 「諸君はしばらくその部屋に身を隠しているのだ」と騎士団長は言った。「そこを免色くんが訪
 れることはまずあらない。一目にコ茨は洗濯をしたり、運動するためにここに下りてくるが、メ
 イド用の部屋まではいちいちのぞかない。だからそこでおとなしくしておれば、見つかることは
 まずあらない。部屋には洗面所もついておるし、冷蔵庫もある。地震に備えてミネラル・ウオー
 ターと食品が貯蔵庫に十分ストックされている。だから飢えることもあらない。諸君はここで比
 較的安心して日にちを送ることができる」

  ヒニチを送る? とまりえはスリッポン・シューズを手にさげたまま、驚いて(でも声には出
 さず)尋ねた。ヒニチを送る? つまり、私は何日もここにいるということなのかしら?

 「気の毒ではあるが、諸君はすぐにここを出ることはかなわない」と騎士団長は小さな首を振り
 ながら言った。「ここは警戒の厳しい場所なのだ。いろいろな意味合いで、しっかり見張られて
 いる。そればかりは、あたしにもなんともならない。イデアに与えられた能力にも残念ながら限
 りがある」
 「どれくらい長くなるのでしょう?」とまりえは小さく声に出して尋ねてみた。「早く家に帰ら
 なくちやなりません。そうしないと叔母が心配します。行方不明になったとして、警察に連絡し
 たりするかもしれません。そうするととても面倒なことになります」

  騎士団長は首を振った。「残念ではあるが、あたしにはいかんともしがたい。ここでじっと待
 つしかあらないのだ」

 「免色さんは危険な人なのですか?」
 「それは説明のむずかしい問題だ」と騎士団長は言った。そしていかにもむずかしそうな顔をし
 た。「免色くん白身はべつに邪悪な人間というわけではあらない。むしろひとより高い能力を持
 つ、まっとうな人物といってもよろしい。そこには高潔な部分さえうかがえなくはない。しかし
 それと同時に、彼の心の中にはとくべつなスペースのようなものがあって、それが結果的に、普
 通ではないもの、危険なものを呼び込む可能性を持っている。それが問題になる」

  それがどういうことを意味するのか、まりえにはもちろん理解できなかった。普通ではないも
 の?

  彼女は尋ねた。「さっきクローゼットの前にじっと立っていた人は、免色さんだったのです
 か?」
 「それは免色くんであると同時に、免色くんではないものだ」
 「免色さん自身はそのことに気づいているのですか?」
 「おそらく」と騎士団長は言った。「おそらくは。しかし彼にもそれはいかんともしがたいこと
 であるのだ」

  危険で普通ではないもの? あるいは彼女の見かけたスズメバチもその形のひとつなのかもし
 れない、とまりえは思った。

 「そのとおり。スズメバチにはくれぐれも気をつけた方がいい。それはどこまでも致死的な生き
 物であるから」と騎士団長は彼女の心を読んで言った。 
 「チシテキ?」
 「死をもたらしかねないもの、ということだ」と騎士団長は説明した。「今は諸君はここにじっ
 としているしかあらない。今、外に出るとやっかいなことになる」

 「チシテキ」とまりえは心の中で繰り返した。その言葉にはとても不吉な響きが感じられた。

  まりえはメイド室のドアを開けて中に入った。そこは免色の寝室のクローゼットよりも少し広
 いくらいのスペースだった。簡易キッチンが付属してあり、冷蔵庫と電気のコンロがあり、コン
 パクトな電子レンジがあり、蛇口と流し台があった。小さなバスルームがあり、ベッドがあった。
 ベッドはむき出しだったが、戸棚には毛布と布団と枕が用意されていた。ささやかに食事ができ
 る簡便な食卓と椅子のセットが置かれていた。椅子はひとつしかない。谷間に向けて小さな窓が
 ひとつあった。カーテンの隙間からは谷開か見渡せた。

 「もし誰にもみつかりたくなかったら、ここでおとなしくして、できるだけ音を立てないように
 するのだよ」と騎士団長は言った。「わかったかね?」

  まりえは肯いた。

 「諸君は勇気のある女の子だ」と騎士団長は言った。「いくぶん無謀なところはあるけれども、
 とにかくも勇気はある。そしてそれは基本的によろしいことだ。しかしここにいる限り、しこた
 ま注意をしなくてはならない。くれぐれも油断してはならないよ。ここはそんじょそこらの普通
 の場所ではあらないのだから。やっかいなものが徘徊しているのだから」

 「ハイカイ?」
 「うろつきまわっているということだ」

  まりえは肯いた。ここがどのように「そんじょそこらの普通の場所」ではないのか、いったい
 どんなやっかいなものがここをハイカイしているのか、それについてもっと知りたかったが、う
 まく質問をすることができなかった。あまりにわからないことが多すぎて、いったいどこから手
 をつければいいものかわからない。

 「あたしはもうここに来ることがかなわないかもしれない」と騎士団長は秘密を打ち明けるよう
 に言った。「これからほかに行かなくてはならない場所があるし、ほかにやらなくてはならない
 ことがある。それはとても大事な用件なのだ。だからまことに申し訳あらないが、この先もう諸
 君を手伝ってあげることはできそうにない。あとは諸君がなんとか自分の力で切り抜けるしかあ
 らないのだ」
 「でも、わたしひとりだけの力で、どうやってこの場所から抜け出せるかしら?」



 騎士団長は目を細めてまりえを見た。「よく耳を澄ませ、よく目をこらし、心をなるたけ鋭く
 しておく。それしか道はあらない。そしてそのときが来れば、諸君は知るはずだ。おお、今がま
 さにそのときなのだ、と。諸君は勇気のある、質い女の子だ。注意さえ怠らねば、それは知れ亘
 る」

  まりえは肯いた。私は勇気のある、質い女の子でいなくてはならない。

 「元気でおりなさい」と騎士団長は励ますように言った。それからふと思いついて付け加えた。
 「心配しなくてよろしい。諸君のその胸はやがてもっと大きくなるであろうから」
 「65のCくらいまで?」

  騎士団長は困ったように首をひねった。「そう言われても、あたしはなにしろ▽弁のイデアに
 過ぎない。ご婦人の下着のサイズのことまではよく知識を持だない。でもとにかくも、今よりは
 もっとずっと大きくなることは間違いあらない。心配することはあらない。時がすべてを解決し
 てくれるであろう。かたちあるものにとって、時とは偉大なものだ。時はいつまでもあるという
 ものではあらないが、あるかぎりにおいてはなかなかに効果を発揮する。だからずいぶん楽しみ
 にしておりなさい」
 「ありがとう」とまりえは礼を言った。それは間違いなくひとつの明るいニュースだった。そし
 て彼女はそういう自分を勇気づけてくれるものを、ひとつでも多く必要としていた。

  それから騎士団長はふっと姿を消した。やはり水蒸気が空中に吸い込まれるみたいに。騎士団
 長が目の前から消えてしまうと、あたりの沈黙がいっそう重くなった。騎士団長にもう二度と会
 えないかもしれないと思うと、寂しい気持ちがした。私にはもう頼れるものもないのだ。まりえ
 はメイクをしていない裸のベッドに横になり、天井を見つめた。天井は低く、白い石膏ボードが
 貼られていた。その真ん中に蛍光灯の照明がついていた。しかしもちろん彼女はそれをつけなか
 った。明かりをつけるわけにはいかない。

  あとどれくらい長くここにいなくてはならないのだろう? そろそろ夕食の時刻が近づいてい
 る。七時半までに帰宅しなければ、叔母はきっと絵画教室に電話をかけるだろう。そして私か今
 日教室を欠席したことを知るだろう。そのことを考えるとまりえの胸は痛んだ。叔母はずいぶん
 心配するに違いない。私の身にいったい何か起こったのだろうと。なんとか叔母に自分か無事で
 あることを知らせなくてはならない。それから上着のポケットに携帯電話が入っていることには
 っと気がついた。でもスイッチは切ったままにしてある。

  まりえは携帯電話をポケットから引っ張り出し、スイッチを入れた。両面には「バッテリーが
 不足しています」という表示が浮かび上がった。電池の残量はきれいに空白だった。そして間を
 置かずに両面が消滅した。彼女はもう長いあいだそれを充電するのを忘れていたから(彼女は日
 常的に携帯電話をほとんど必要としなかったし、その機械に対してとくに好意も関心も抱いてい
 なかった)、バッテリーが枯渇してしまっていてもとくに不思議はないし、また文句も言えなか
 った。



  彼女は深いため息をついた。少なくともときどき充電くらいはしておくべきだった。何か起こ
 るかわからないのだから。しかし今さらそんなことを言い出してもしかたない。彼女は息を引き
 取ってしまったその携帯電話を、またブレザーコートのポケットに突っ込んだ。しかし何かがふ
 と気になってそれをまた引っ張り出した。そこにいつもつけているペンギンのフィギュアが見当
 たらない。それは彼女がドーナッツ・ショップでポイントを貯め、景品としてもらって、ずっと
 お守り代わりにしていたものだった。たぶんストラップが切れたのだろう。しかしいったいどこ
 で落としたのだろう? 彼女にはそんな心当たりがなかった。なにしろ電話をポケットから出し
 たこともほとんどなかったのだから。

  その小さなお守りをなくしたことは、彼女を不安な気持ちにさせた。しかし少し考えて思い直
 した。ペンギンのお守りはとこかでうっかりなくしたのかもしれない。でもその代わり、あのク
 ローゼットの中のイフクが、新しいお守りとなって私を助けてくれたのだ。そしてあの奇妙なし
 ゃべり方をする小さな騎士団長が、私をここまで導いてくれた。私はまだちゃんと何かに護られ
 ている。あのお守りがなくなったことを気にするのはやめよう。

  彼女がそれ以外に身につけているものといえば、財布と、ハンカチと、小銭入れと、家の鍵、
 半分残ったクールミントのチューインガム、それくらいだ。ショルダーバッグの中には筆記具と
 ノートと教科書が何冊か入っている。彼に立ちそうなものは何も見当たらない。
  まりえはそっとメイド室を出て、貯蔵庫の中身を点検してみた。そこには騎士団長の言ったと
 おり、地震に備えた非常食がたっぷり蓄えられていた。小田原のこの山間部は地盤が比較的しっ
 かりしているので、地震の被害はそれほど多くないはずだ。一丸二三年の関東大震災のときにも
 小田原市内は大きな被害を受けたものの、このあた.りの被害は比較的軽微なものにとどまった
 (彼女は小学校のときに夏休みの研究課題として、関東大震災のときの小田原近辺の被害状況を
 調査したことがあった)。しかし地震の直後には食料と水を手に入れるのがむずかしくなる。と
 くにこのような山の上では。だから免包は災害に備えて、その二つを怠りなく保管しているのだ
 ろう。どこまでも用心深い人だ。

  彼女はその貯蔵庫からミネラル・ウォーターのボトルを二本と、クラッカーの包みをひとつと、
 チョコレートを一枚取り、それを持って部屋に戻った。それくらいの量なら持ち出しても、きっ
 と気づかれないはずだ。いくら綿密な免包でもミネラル・ウオーターのボトルの数まで数えては
 いないだろう。彼女がミネラル・ウオーターのボトルを持ってきたのは、できれば水道を使いた
 くなかったからだった。水道はどんな音を立てるかしれない。できるだけ音を立てないようにす
 るのだよと騎士団長は言った。注意しなくてはならない。 

  まりえは部屋の中に入ると、内側からドアをロックした。もちろんどれだけドアをロックして
 も、免色はこのドアの鍵を持っているだろう。しかしすこしくらい時間は稼げるかもしれない。
 少なくともひとつの気休めにはなる。
  食欲はなかったが、彼女は試しにクラッカーを何枚か啜り、水を欲んだ。ごく普通のクラッカ
 ーと、ごく普通の水だった。念のために表示を確かめてみたが、どちらもまだ賞味期限内だった。
 大丈夫、私がここで飢えるようなことはない。



  外はもうすっかり暗くなっていた。まりえは窓のカーテンを小さく開けて、谷間の向かい側に
 目をやった。そこには彼女の家が見えた。双眼鏡がなかったから、家の内部まではうかがえなか
 ったが、いくつかの部屋に明かりがついているのが見えた。目を凝らせば人影も見えそうだった。
 そこには叔母さんがいて、いつもの時刻になっても私が帰宅しないことで、きっとやきもきして
 いるはずだ。どこかから電話がかけられないものだろうか? どこかにきっと固定の電話機があ
 るはずだ。「私は無事だから心配しないでいい」、短くそれだけ言って電話を切ればいい。短く
 済ませればおそらく、免色さんに気づかれることもないだろう。しかしその部屋の中にも、また
 近辺のどこにも、電話機は見当たらなかった。

  夜のあいだに、開に紛れてここを抜け出せないものだろうか? どこかで梯子を見つけ、塀を
 乗りこえて外に出るのだ。庭の資材小屋で折りたたみ式の梯子を見かけたような記憶があった。                                                                              
  しかし彼女は騎士団長の言ったことを思い出した。ここは警戒の厳しい場所なのだ。いろい
 ろな意味合いで、しっかり見張られている。そして「警戒が厳しい」と言うとき、彼はセキュリ
 ティー会社のアラーム・システムのことだけを言っているのではないはずだ。
  騎士団長の言うことを信じた方がいいだろう。まりえはそう思った。ここは普通の場所ではな
 いのだ。いろんなものがハイカイしている場所なのだ。私は用心深くならなくてはいけない。ず
 いぷん我慢強くならなくてはならない。軽率に強引にものごとを運ばない方がいい。騎士団長に
 言われたとおり、しばらくのあいだはここに留まって、おとなしく様子をうかがっていることに
 しよう。そして機会が訪れるのを待つのだ。

  そのときが来れば、諸君にはわかるはずだ。今がまさにそのときなのだと。諸君は勇気のあ
 る、賢い女の子だ、それは知れる。
  そうだ、私は勇気のある賢い女の子にならなくてはならない。そしてしっかりと生き延びて、
 この胸がもっと大きくなるのを見届けるのだ。
 彼女は裸のベッドに横になったままそう思った。あたりはどんどん暗くなっていった。そして
 より深い暗闇が訪れようとしていた。

 


この章も摩訶不思議な彼の世界だ! 異能者たちとはどのようなものか?謎が続く、さて、次は――
なんと言う”不思議の国のアリス”なんだろう――第62章へと移る。

  
                                          この項つづく

● 

今夜まで、ひどく体調が崩れた3週間を過ごしている。どうなることやら。どうにもならないことだが
予定は大きく狂ってしまった、これはフェイクでなくファクトだが。

 ● 今夜の一曲

「ANNIVERSARY」

   なぜこんなこと気づかないでいたの
   探し続けた愛がここにあるの
   木漏れ日がライスシャワーのように
   手をつなぐ二人の上に降り注いでる
   あなたを信じてる瞳を見上げてる
   ひとり残されてもあなたを思ってる

   今はわかるの苦い日々の意昧も
   ひたむきならばやさしいきのうになる
   いつの日かかけがえのないあなたの
   同じだけかけがえのない私になるの
   明日を信じてるあなたと歩いてる
   ありふれた朝でも私には記念日

   今朝の光は無限に届く気がする
   いつかは会えなくなると
   知っていても

                            作詞/作曲 松任谷由実

 

 

不都合な進歩

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

    ※ 精神的奴隷:矢を作る人が鎧を作る人より不仁であるとはいえない。しかし矢を
            作る人は、ひたすら矢が人を傷つけることを願い、鎧を作る人々は、鎧が人を死
            から守ることを願う。葬儀屋と医者の場合も同じである。職業の選択はよほど慎
            重にせねばならないわけだ。あわれみの心は、人間ならだれでも持っている。む
            かしの聖人が血の孔子は言った。「仁の世界はすばらしい。すすんでそこに住も
            うとしないのは、知恵ある人とはいえない」、仁は天与の尊い爵位である。安住
      できる家である。そこに住もうと思えば住めるのに、不仁のままでいるのは愚者
      である。仁の心がなく、智に欠け、礼を忘れ、義を知らぬ人は、奴隷でしかない。
      奴隷でありながら、人に使われるのを恥ずかしいと考えるのは、弓を作る人が弓
      を作るのを恥じ、矢を作る人が矢を作るのを恥じるようなものだ。恥ずかしいと
      思えば、仁に志して、奴隷の身から脱却するにこし仁ことはない。仁に志す人は、
      弓を射るようなものだ。まず姿勢を正して矢を放つ。自分の矢が的中しないとい
      って、的中させ仁人を怨むのでなく、失敗の原囚を自分白身に求めなければなら
      ない。

     〈仁の世界……〉 原文「仁に里(お)るを美となす……」(『論語』里仁篇)。

     【解説】家庭では慈愛ぶかい父親も、武遊興遺脱売を業とするとなると、戦乱の勃
         発を待ち望む死の商人となりはてることがある。職業という決い伜からだ
                 け世界を眺めることの危険さはここにある。人類普遍の立場を常に一方に
                 意識すること、これが精神の奇形化を防ぐ一つの手段である。

 

    No.93

 Nov. 8, 2017

【エネルギータイリング事業:壁紙バイオソーラーパネルの登場】

11月6日、インペリア・カレッジ・ロンドの研究グループは、シアノバクテリアをインクとして
使用し、精密パターンをインクジェットプリンで紙に印刷した導電性カーボンナノチューブ回路を
使いバイオソーラーパネル作製成功したことを公表。同グループは、印刷したシアノバクテリアの
光合成反応で百時間にわたり微量発電できることを実証した。作製されたバイオソーラーパネルは、
iPadの面責の大きさで、簡単なデジタル時計や発光ダイオード電球に電力供給できる。同グループ
の研究成果は、使い捨て可能な紙に印刷し光合成細菌から作られた新しいタイプの電気装置ににつ
ながり、糖尿病患者のバイタルセンサや室内空気の濃度センサなどに応用できる。同グループのマ
リーン・サワ博士は、この技術は、環境内のセンサとしての役割など、幅広い用途に使用できる。
家庭の空調を監視する使い捨ての装飾壁紙などのもその一例で、使い捨てた壁紙は環境に影響を与
えず生分解されると話す。バイオソーラー電池は、世界的に微生物バイオフォトトランジスタ(BP
V)と呼ばれ、新しいタイプの再生可能エネルギー技術の研究が進行中である(技術論文の詳細は、
下図をクリック参照:Electricity generation from digitally printed cyanobacteria、doi:10.1038/s41467-017-
01084-4、Nature Communications 8, Article number: 1327 (2017) )。

   Nov. 6, 2017

尚、シアノバクテリア細胞からエネルギーを得るためにBPVを使用する利点の1つは、昼光中で少
量の電気を生成し、暗所で生成された分子から生成することができる。その製造コストが安価で環
境負荷小さいことが特徴で、紙ベースのBPVは、従来の太陽電池技術を大規模な電力生産に置き換
えるものではなく、使い捨てと同時に生分解の両方を実現するもので、その低出力出力は、環境感
知やバイオセンサなど、エネルギーが小さくて有限であるデバイスやアプリケーションに適してい
る。印刷されたエレクトロニクスとバイオセンサ技術と統合された紙ベースのBPVは、糖尿病患者
の血糖値などの健康指標を監視する使い捨て紙ベースセンサの時代に入る。一旦測定が行われると
装置は環境への影響が少ない状態で容易に処分できる上、使い易さと非常に経済的である。今後は 
現在の紙ベースのBPVユニットは手のひらサイズだが。A4サイズにスケールアップして、より大
規模な電気出力させ、さらに、より強力で、長持ちし、堅牢なパネルを作ることが架台であると話
す。

  

 

 



【ハリケーンに耐えた太陽光パネル用バラスト式架台】

9月20日、カテゴリー5の大型ハリケーン「マリア」が米自治領プエルトリコを直撃し、大規模
な被害が発生した。被害から1カ月以上が経過したが、いまだに需要家の約8割が停電したままだ。
そのうち11月15日までには50%、12月115日までには95%の電力供給を復旧させるとリ
カルド・ロッセロプエルトリコ知事が発表している。今回のプエルトリコの停電は、米国歴史上で
最も大規模だとみられるなか風速180メートル/病の強風でビクともしなかった「バラスト("安
定用重り"の意味)式ハイブリッド架台」を使用した645キロワットの太陽光発電システムに注目
が集まっている。同システムは9階建ての建物の屋根に設置されたものだが、まったく損害もなく
百%の発電を持続している。


● ナイロン製一体成形の架台とは

プエルトリコのサンホアンにある同太陽光発電システムは、米退役軍人管理局の運営するメディカ
ルセンタに設置され、2015年に稼働開始。この病院はプエルトリコとヴァージン諸島に在住す
る15万人を超える米退役軍人が主に利用しており、プエルトリコとカリビアン諸島における最大
規模の連邦政府による医療施設。「バラスト式架台」を提供したのは、カリフォルニア州サンフラ
ンシスコに本社を持つソレガ社(Sollega)。同社は商業用フラットルーフ(陸屋根)用架台に特化
している。この架台は、プラスチック製で「ファーストラック510(FastRack510)」 と呼ばれる
もの。プラスチックの種類は、ナイロン6「ウルトラミッ(Ultramid)」(独BASF製)である。この
材料は強度、剛性、熱安定性に優れ、柔軟性が高いため、太陽光アレイ(パネルの設置単位)を壊
すことなく、複数の方向に曲げられる。さらに、紫外線吸収剤が添加されているので、耐光性、耐
久性に優れるという。一体成形により1つ部品からできているために現場での組み立てを必要とせ
ず重ねられるため、運搬や設置が容易という利点もあるという。システムの施工時間は、モジュー
ル(パネル)1枚当たり約5分。同架台は、カリフォルニア州の射出成形業者が製造している。射
出成型機には、金型交換が容易な機構が組み込まれていて、150~270ワット/枚までどのメ
ーカーの太陽光パネルにも対応できる「ユニバーサルデザイン」となっている。さらに、パネルの
横、縦置き両方に対応できる。



「バラスト式ハイブリッド」とは、バラスト(重し)用ブロックと太陽光アレイを屋根に強固に固
定させるためのアンカー(固定金具)の両方を使用する架台方式である。アンカーは屋根に穴を開
ける貫通設置方式ではないので、水漏れの心配はない。ソレガ社の最高経営責任者 (CEO) と営業
部長を務めるエリイ・ロスチルド氏によると、屋根に熱可塑性ポリオレフィン (TPO)系プラスチ
ック製の 塗膜防水材からなるルーフイングシートを覆い、そこにアンカーを熱融着により接合する。
同システムはバラストとアンカーのハイブリッドだが、百%バラストのみのシステムも提供できる
という。バラストはコンクリート製で一つの重さは30パウンド(13.6キログラム)である。



今回のメディカルセンターに設置された太陽光発電システムは、米サンパワー社(SunPower)製の
327キロワット/枚のパネル2,529枚を使用。パネルと同架台の設置比率は1:1.34で3,
004個の架台が使われた。モジュールの設置角度は10度。風速170メートル/秒に耐えるよ
うに施工され、9階建ての高さ百フィート(30.3メートル)の建物の屋根上に設置され、今回
の大規模なハリケーンにも耐える。従来の陸屋根向け設置方法では、アルミニウム合金製の押出レ
ールなどで太陽光パネルを施工したため 構造が堅固で風圧に耐えるのが難しい難点があったという。
これに対し、ソレガ社のシステムは、太陽光パネルを架台「ファーストラック510」で「チェー
ン」のように連結するために、強風でも壊れることなく、柔軟に対応するとしている。同社は他に
も自然災害が多いハワイのメガソーラー(大規模太陽光発電所)などにも同バラスト式ハイブリッ
ド架台を提供する。このように、ソレガ社保有の技術というよりアルミサッシ建材などの加工技術
以外のメカニズム技術や素材選定技術は外から持ってきて耐久/堅牢/靱性を実現した企業という
印象である。参考までに関連米国特許技術を掲載しておく。

❏ US 8850754 B2 Molded solar panel racking assembly


❏ US 9057544 B2 Solar panel mounting system


・US D801,915S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D801,914S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D801,913S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D799,420S End-clamp for roof mounted photovoltaic modules 
・US D792,342S   Mid-clamp for roof mounted photovoltaic modules 
・US 9,494,342 B2 Methods and devices for coupling solar panel support structures and/or securing solar panel
support  structures to a roof 
・ US 95,103 B2  System and method for mounting photovoltaic modules  

【蓄電池篇:EV電池開発競合加速】

韓国サムスン電子は現行製品の2世代先となる電気自動車(EV)向け充電池を開発する。1回の
フル充電で走行可能な距離をEVに使われているリチウムイオン電池の2倍近くに増やし、現行の
1世代先にあたる製品開発で先行するトヨタ自動車に対抗する。各国当局と自動車メーカーのEV
シフトを受け、基幹部品である電池の開発競争が激しくなりそうだという(日本経済新聞 2017.17.
07)。それによると、サムスン電子は電機業界で究極の充電池と呼ばれる「リチウム空気電池」を
開発する。中央研究所にあたるサムスン総合技術院で、電池1キログラムあたりの蓄電容量が52
0ワット時の試作品を製作した。トヨタが2020年代前半に実用化を目指す「全固体電池」の次
の世代での世界標準を狙う。代表的なEVである日産自動車の新型「リーフ」はフル充電時の走行
可能距離が400キロメートル。サムスンの試作品を自動車用に製造すると理論上700キロメー
トルを超える。主要部材の絶縁膜(セパレーター)の厚さを20マイクロ(マイクロは(百万分の1)
メートルと従来の1割以下に改良。薄型化により電池セルの使用量を増やせるため蓄電容量が高ま
った。30年までの実用化を目指すもようだが道のりは長い。試作品では充放電を20回繰り返す
と性能が大幅に劣化する。数千回とされるEVに求められる充放電の基準を満たせず、1回のフル
充電に数時間かかる問題も残る。主要部材である正極や負極の素材や形状を改良し電池寿命や利便
性を高められるかが課題となる。サムスンはグループのサムスンSDIが自動車用のリチウムイオ
ン電池事業を広げている。トヨタが実用化を目指し、次世代品として有力視される全固体電池につ
いても研究開発を続ける一方、その次の世代を見込むリチウム空気電池の実用化も先行させるとい
う。


通常のリチウムイオン電池はイオンを伝達する電解質に液体材料を使う。これを固体化した電池が
全固体電池だ。正極と負極の間にある固体の電解質がイオンをやり取りする。電解質が劣化しにく
いため長寿命で液漏れや発火などの危険が少ない。充電時間の短縮や大容量化が期待できる。トヨ
タは全固体電池の開発に既に技術者2百人の態勢を整える。「試作品は既にあり、次の段階は量産
への準備だ。この技術は今後『ゲームチェンジャー』になりうると考えている。トヨタやサムスン
だけでなく多業種の大手が全固体電池の研究を進める。自動車部品の独ボッシュは全固体電池を開
発する米シーオを買収し。米アップルも16年に関連技術者の公募を始めた。大阪府立大学の辰巳
砂昌弘教授は自動車向け全固体電池の実用化の時期を23年ごろと見込む。一方、リチウム空気電
池は正極の触媒で空気中の酸素を取り込む。その上で負極のリチウムと化学反応させて電気を起こ
す。理論的には従来の電池より高いエネルギー容量を実現できる。材料を減らせるので小型軽量化
やコスト削減が期待される。サムスンのほかに日本の物質・材料研究機構や東北大、トヨタなどが
研究開発を進める。これにともない、電池の市場も急拡大する。調査会社、富士経済によると16
年に1兆4千億円だったEVなど環境対応車向けの世界の電池市場は25年に6兆6千億円になる見
通し。素材など関連産業への波及効果も大きい。各国当局の動きを受け、独フォルクスワーゲンを
筆頭に米ゼネラル・モーターズ(GM)、日産自動車と世界の自動車メーカーは次々にEV戦略を
明らかにしている。急激なEVシフトは緩やかに進んでいたリチウムイオン電池の技術革新の背中
を押すだけでなく、その次の電池にステップする時期を前倒しするよう促している。

❏ 事例研究:三星電子株式会社
   特開2017-199678 リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池

【概要】

リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池を提供する。リチウム金属またはリチウム金
属合金を含むリチウム金属電極と、リチウム金属電極の少なくとも一部分に配置された保護膜とを含み、
保護膜のヤング率は、106Pa以上であり、1μmを超えて100μm以下のサイズを有する有機粒子、
無機粒子及び有無機粒子のうちから選択された1以上の粒子を含むリチウム金属電池用負極、及びそれを
含んだリチウム金属電池の提供により、リチウム金属電池用負極は、機械的物性が改善された保護膜を具
備している。このような負極を利用すれば、充電時、体積変化が効果的に抑制され、サイクル寿命及び放
電容量が改善されたリチウム金属電池を製作することができる(詳細は下図クリック)。


【符号の説明】

10,40,50  集電体 11リチウム電極  12,23,42  保護膜 13,13a,13b
13c 粒子  13a’,13b’,43  マイクロスフィア  14,44  イオン伝導性高分子 
15,46 SEI 16 リチウム電着層  21,31  正極  22,32  負極  24  電解質 
24a  液体電解質 24b   個体電解質  24c セパレータ  30 リチウム金属電池  34 ケ
ース  41,51 リチウム金属電極 52 リチウムデントライト



● 今夜の寸評:不都合な進歩

体調が優れないというのに、山のような情報は相変わらず。それでも、腰痛で具合が悪いが宅トレ
は気分転換に好都合で3キロメートル/時に減速、英会話は3時間/日を1時間半に短縮。記事の
消化というとこれは好調時の1/3がやっと。日本でも『不都合な真実Ⅱ』が17日(金)より放
映されるという。オゾン層破壊ガスは全世界的な取り組みの成果で徐々に集束しつつあるようだ。
もとはといえばソーダーの電解生産の副産物塩素ガスのように自然界に存在しない化合物の発明か
らはじまり、塩化ビニル(水俣病など)、枯れ葉剤(ベトナム戦争など)・農薬(世界中)にはじ
まり熱冷媒の発明による(ハロゲンでも、塩素とフッ素の違いはあるが)。『デジタル革命渦論』
(第5産業革命)をベースに、エネルギー革命・電気自動車革命・AI革命・再生医療革命と、次
々と連鎖誕生している。そんな世の中にあって既得権益に守株する階層にとっては『不都合な進歩』
でもあると映画の公演を前に思う。十年もすれば今ある商品は機能・品質・生産性向上させながら
百分の一程度に下落していく時代にある。ゼロ金利政策と聞いて、わたし(たち)は大手金融会社
は本社を売り払い小さなビルに移るのかと連想したほど、経済運営は未踏の時代に入ると考えてい
たが、このようにわたし(たち)が20数年前に考えていたことがすべて現実のものになつている。
いや、それ以上の早さで進行しているものもあるのだが、それでいて怖くもあり、面白くもあるこ
とが妙であると感嘆す。

       

エリンギのポーク・ロールアップス

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ ひとに学ぶ:子路(孔子の弟子)は、過失を指摘されると喜んだ。禹は戒めの言
       葉を聞くと感謝した。舜は、この二人より偉大であった。すなわち、人々ととも
       に善を行ない、自分の及ばぬ点は謙虚に人から学びとって実行にうつした。耕作
       し、陶器を作り、漁をしていたころも、帝王となってからも、他人から学びとる
       ことを常に忘れなかった。他人から善を学びとっては実行にうつす、これは人々
       とともに善を行なうことである。君子にとって、これほど有意義なことはない。

 

    No.94

  Nov.8, 2017 
【蓄電池篇:世界初 全固体ナトリウムイオン二次電池の室温駆動】

今月8日、日本電気硝子は、結晶化ガラスを正極材に用いた全固体ナトリウムイオン二次電池を試
作し、室温駆動に成功したと発表した。正極材に同社が開発した結晶化ガラスを活用し、結晶化ガ
ラスを正極材に用いた成功例としては世界初。高性能二次電池として主流のリチウムイオン電池は
、電解質に可燃性の有機電解液を用いており、異常発熱や発火などの事例が多発しているため、安
全性の高い二次電池が求められている。そこで、電解質に可燃物を利用しない全固体リチウムイオ
ン二次電池に注目が集まっているが、電極と電解質間のイオン伝導性の改善と、レアメタルに分類
されるリチウムの利用による供給不確実性が課題。導電イオン種にNa+を用いるナトリウムイオン二
次電池は、リチウムと比較して資源量が多いため電池材料の供給面では有利となる。また、NAS電
池などのナトリウム硫黄電池は、大型電力貯蔵用の蓄電池として既に実用化されているが、①正極
のナトリウムと負極の硫黄を溶融状態にする。②βアルミナ固体電解質のイオン伝導性を高めるた
めに電池を加熱する必要があり、電池が複雑、大型化となり電子機器に利用できる、小型かつ安全
性の高い全固体ナトリウムイオン二次電池の開発が望まれていた。

特殊ガラスメーカーとして蓄積してきた技術を持つ同社は、ガラスの軟化流動性を利用し、電池の
固体電解質と一体化を図ったNa系の結晶化ガラスを開発。この結晶化ガラスは高いイオン伝導性を
持つことから、電池が室温で駆動可能になる。電池に関する機構や結晶化ガラス構造の概要は、今
月14日から開催される第58回電池討論会で発表する。今後は、正極材の結晶化ガラスの開発を進
めていき、次世代の二次電池実現に向けて注力してしていく方針である。 

 ❏ 事例研究:日本電気硝子株式会社  特開2017-037769  固体電解質シート及びそ
     の製造方法、並びにナトリウムイオン全固体二次電池   

【概要】 

リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源として
普及しているが、現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に
用いられているため、発火等の危険性が懸念され、有機系電解液に代えて固体電解質を使用したリ
チウムイオン全固体電池開発が進められている。しかし、リチウムは世界的な原材料の高騰の懸念
がある。そこで、リチウムに代わる材料としてナトリウムが注目されており、固体電解質としてN
ASICON型のNa3Zr2Si2PO12からなるナトリウムイオン伝導性結晶を使用したナトリウ
ムイオン全固体電池が提案されている。その他、β-アルミナやβ''-アルミナといったベータア
ルミナ系固体電解質も高いナトリウムイオン伝導性を示しこれらの固体電解質はナトリウム-硫黄
電池用固体電解質としても使用されている。

このように、シート化した固体電解質は、例えば原料粉末をスラリー化してグリーンシートを得た
後、焼成する方法(グリーンシート法)により製造されるが、ベータアルミナ系固体電解質シート
を上記の方法により製造した場合、イオン伝導値が低下しやすいという問題がある。従って、イオ
ン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シート及びそれを用いたナトリウムイオン全固体電池
を開発している。このように固体電解質シートは、β-アルミナ及び/またはβ''-アルミナを含
有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下であることを特徴として、固体電解質シ
ートは、厚みが1mm以下と小さいため、固体電解質中のイオン伝導に要する距離が短かく、空隙
率が20%以下と小さい。固体電解質シート中のβ-アルミナ及び/またはβ''-アルミナの各粒
子の緻密性が高い。以上によりこの固体電解質シートはイオン伝導性に優れる。また、固体電解質
シートは、イオン伝導値が1S以上であることが好ましく、「イオン伝導値」は、固体電解質シー
トのイオン伝導度(S/cm)に厚みを乗じた値を指すが、このシートは、β-アルミナ及び/ま
たはβ''-アルミナを含有し厚みが1mm以下で、イオン伝導値が1S以上であることを特徴とする。

この固体電解質シートは、モル%で、Al2O3  65~98%、Na2O  2~20%、MgO+
Li2O  0.3~15%を含有することが好ましい。なお、「MgO+Li2O」は、MgOとL
i2Oの含有量の合量を意味する。さらに、ZrO2を1~15%含有することが好ましく、さらに、
Y2O3を0.01~5%含有することが好ましく、ナトリウムイオン全固体二次電池用として好適
であり、ナトリウムイオン全固体二次電池は、上記の固体電解質シートの一方の面に正極層、他方
の面に負極層が形成された構造を特徴とし、β-アルミナ及び/またはβ''-アルミナを含有する
厚み1mm以下の固体電解質シートを製造するための方法であって、(a)主成分としてAl2O3
を含有する原料粉末をスラリー化する工程、(b)スラリーを基材上に塗布、乾燥してグリーンシ
ートを得る工程、(c)グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β-アルミ
ナ及び/またはβ''-アルミナを生成する工程、を含むことを特徴とする.下図のように、β-ア
ルミナ及び/またはβ''-アルミナを含有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下
であることを特徴とする固体電解質シートにより、イオン伝導値が高い薄型のベータアルミナ系固
体電解質シートを提供することでイオン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シートを製造を
可能となる。

  ❏ 事例研究:特開2017-199688  ナトリウムイオン二次電池用負極活物質および
                                                               その製造方法   

【概要】 

携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と
小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、電池の小サイズ化も
容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。リチウムイオン二
次電池やナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイス用負極活物質には、一般に黒鉛質炭素材料、
ハードカーボンなどの炭素材料が用いられている。さらに、リチウムイオンやナトリウムイオンを
吸蔵および放出することが可能な負極活物質として、層状ナトリウムチタン酸化物Na2Ti3O7
が提案されている。しかし、層状ナトリウムチタン酸化物Na2Ti3O7負極活物質は、放電容量維
持率(サイクル特性)が低いという問題があったが、蓄電デバイス用負極活物質がTiO2、Na2
O、及び網目形成酸化物を含有することを特徴とした。放電容量維持率が高い蓄電デバイス用負極
活物質およびその製造方法を提供する。

【実施例】

実施例1、2の負極活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(Na2CO3)、酸化チタン
(TiO2)、及び無水ホウ酸(B2O3)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調
合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラ
スを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製。得られた溶融固
化体をボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの溶融固化体粉
末を得る。得られた溶融固化体粉末を、大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行うことにより
、負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折
線が確認された。実施例1の負極活物質のX線回折パターンを下図1に示す。

実施例3の負活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(Na2CO3)、酸化チタン(Ti
O2)、及び無水ホウ酸(B2O3)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、
1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流
し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製。得られた溶融固化体を
ボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの負極活物質を得る。
粉末X線回折パターンを確認したところ、結晶に由来する回折線が確認されず、非晶質である。

比較例1の負極活物質は、次のように作製した。炭酸ナトリウム(Na2CO3)、及び酸化チタン
(TiO2)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、ボールミルで粉砕混合
してペレット化した後、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応させた。その後、ボールミルに
よる粉砕、ペレット化、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応の各処理を再度行うことにより
負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折線
が確認される。

蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤としてPVDF、導電助剤としてケッチェンブラックを
負極活物質:結着剤:導電助剤=80:15:5(質量比)となるように秤量し、これらをN-メ
チルピロリドン(NMP)に分散したあと、自転・公転ミキサーで十分に攪拌してスラリー化。次
に、隙間100μmのドクターブレードを用いて、負極集電体である厚さ20μmの銅箔上に、得
られたスラリーをコートし、乾燥機にて80℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/c
m2でプレスすることにより、電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに
打ち抜き、140℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得る。次に、コインセルの下蓋に、得られ
た作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリ
プロピレン多孔質膜からなるセパレータ(ヘキストセラニーズ社製  セルガード#2400)およ
び対極である金属ナトリウムを積層し、ナトリウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、
1M  NaPF6溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:
1(体積比)を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下の環境で行った。得ら
れた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持率を測定した。結果を表
1に示す。なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)は、2V
から0VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出
)は、0Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。ナトリウムイオン二
次電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する20サイクル目の放電容量の比率をいう。
また、コインセルの下蓋に、得られた作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8
時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータおよび対極である金
属リチウムを積層し、リチウムイオン二次電池も作製した。電解液としては、1M  LiPF6溶
液/EC:DEC=1:1(体積比)を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度-40℃以
下の環境で行った。得られた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持
率を測定した。結果を表1に示す。

なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)は、2.5Vから1.
2VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出)は、
1.2Vから2.5VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。リチウムイオン二
次電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する10サイクル目の放電容量の比率をいう。

以上のように、実施例1~3において作製された負極活物質は、網目形成酸化物であるB2O3を含
有するため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は87~122mAhg-1と高く、放電
容量維持率も72~92%と高かった。また、リチウムイオン二次電池における放電容量は48~
51mAhg-1であり、放電容量維持率は96~98%と高かった。一方、比較例1において作製
された負極活物質は、B2O3を含有しないため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は、
112mAhg-1と高かったものの、放電容量維持率が25%と低かった。また、リチウムイオン
二次電池における放電容量は45mAhg-1であり、放電容量維持率は75%でありいずれも低い。 

Nov.7 ,2017
【地熱発電篇:岐阜高山で温泉熱発電所】

今月6日、高山市奥飛騨温泉郷一重ケ根に、温泉熱を利用した「奥飛騨第1バイナリー発電所」が
完成し、起動式が行われている。奥飛騨宝温泉協同組合が掘り直した源泉の湯を利用し、熱交換機
で発生させた蒸気でタービンを回して発電する。源泉は地下300メートル地点で約160度、地
表で120℃あり、組合加盟者には70℃ほどに下げて給湯。発電所は同組合と洸陽電機(神戸市)
が設置。年間約37万キロワット時(一般家庭110世帯分)発電し、約1500万円の売電収入
を想定している。同組合の田中君明代表理事は収益により、組合員への給湯利用料の減額になる。
約2割ほど下げられればとのこと。来春には2基目の発電所の稼働を予定する一方、同組合など4
つの源泉温泉組合と洸陽電機は「奥飛騨自然エネルギー合同会社」を設立し、エネルギーの「地産
地消」を目指す。

Jun. 27, 2016

 ❏ 事例研究:株式会社洸陽電機
   特開2016-148508  熱交換器およびそれを用いた地熱利用システム

【概要】

地熱熱水を用いた地熱発電は、年間を通じて安定した電力を得られるという利点を持ち、ベースロ
ード電源としても利用できる。また、二酸化炭素排出量が極めて少ないため、環境に優しい発電方
式である。地熱発電の方式としては、バイナリー発電方式が知られている。地熱熱水のエネルギー
は、熱エネルギーとして、直接あるいは熱交換した他の流体を介して間接的に用いる場合もあるが、
地熱熱水には、炭酸カルシウム(CaCO3)やシリカ(SiO2)などのスケール成分が溶解し、
熱熱水の圧力および温度が低下して炭酸カルシウムやシリカなどが過飽和の状態などになった場合
には、スケールが析出、熱交換器や配管などの地熱熱水の流路に付着し流路が閉塞するリスクをと
もなう。地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制にあって、下
図のようにバイナリー発電システムなどの地熱利用システムに、熱交換器30と、バイナリー発電
機12とを備える。バイナリー発電機12は、熱交換器30で温められて真水配管24を通じて供
給される真水の熱を利用する。熱交換器30には、一次側流路と二次側流路とが形成されている。
一次側流路は、一次側入口から、その一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる。二次側流路
には、一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる。地熱熱水を供給する熱水供給配管22
は、地下から延びて、熱交換器30の一次側入口41に直接接続されている。
JP 2016-148508 A 2016.8.18

【符号の説明】

10…バイナリー発電装置、12…バイナリー発電機、14…冷却水配管、16…冷却水ポンプ、
20…熱交換装置、22…熱水供給配管、24…真水配管、26…排出配管、28…ポンプ、30
…熱交換器、41…一次側入口、42…一次側出口、43…二次側入口、44…二次側出口、50
…地面


【図1】本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態のブロック図。
【図3】地熱利用システムの20日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例
【図4】地熱利用システムの100日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例
【図5】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例
【図6】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管





          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる

  時間は彼女の意思とはかかおりなく、それ白身の原理に従って経過していった。彼女はその小
 さな部屋で裸のベッドに横になり、時が緩慢な足取りで目の前を行進し、通り過ぎていく様子を
 ただ見守っていた。ほかにとくにするべきこともなかったから。何か本を読むことができればな
 と彼女は思った。しかし手元に本はなかったし、もしあったとしても、明かりをつけるわけには
 いかなかった。暗い中でただじっとしているしかない。彼女は貯蔵庫の中に懐中電灯と予備の電
 池を見つけたが、それもできるだけつけないようにした。

  やがて夜が深まって、彼女は眠った。知らない場所で眠り込んでしまうのは不安だったし、で
 きることならずっと目覚めていたかったが、ある時点でとても我慢できないほど眠くなった。も
 うそれ以上目を開けていることができなくなった。剥き出しのベッドではさすがに寒かったから、
 戸棚から毛布と布団を引っ張り出して、それにロールケーキのようにぴったりとくるまって目を
 閉じた。暖房器具は置いてなかったし、エアコンをつけるわけにはいかなかった(ここで時間経
 過に関する私の註が入る。おそらくまりえがそこで眠り込んでいるあいだに免色は家を出て私
 のところにやってきたのだろう。そして彼はうちに泊まって翌朝帰っていった。従って免色は
 その夜は自宅にはいなかった。家は無人であったはずだ。しかしまりえはそのことを知らない)。

  夜中に一度目が覚めて便所に入ったが、そのときも水は流さなかった。昼間はともかく、しん
 と静まりかえった真夜中に水洗の水を流したりしたら、その音を間きつけられる可能性が大きい。
 免色は言うまでもなく注意深く綿密な人間だった。ちょっとした変化にも気づきそうだ。そんな
 危険を冒すわけにはいかない。

  そのとき腕時計を見ると、針は午前二時前を指していた。土曜日の午前二時だ。金曜日はもう
 終わってしまった。窓のカーテンの隙間から、谷間を隔てた自分のうちの方に目をやると、応接
 間にはまだ煌々と明かりがともっていた。真夜中を過ぎても私か帰ってこないので、人々は――
 といっても夜中の家には父親と叔母しかいないはずだが――きっと眠れないでいるのだろう。悪
 いことをしてしまったとまりえは思った。父親に対してさえ申し訳ないと感じた(それはきわめ
 て珍しいことだった)。自分はここまで無謀なことをするべきではなかったのだ。もともとそん
 なつもりはなかったのだけれど、その場で感じるままに行動をとっているうちに、こんな結果に
 なってしまった。

  でもどれだけ後悔したところで、自らを責めたところで、谷間を飛び越えてうち仁現れるわけ
 ではない。彼女の身体はカラスたちのそれとは違う。空中を飛ぶようにはできていない。また騎
 士団長のように自由に消えたりどこかに現れたりすることもできない。彼女はまだ発育途中の身
 体に閉じ込められ、時間と空間によって行動の自由を厳しく制限された、不器用な存在に過ぎな
 いのだ。乳房だってほとんど膨らんではいない。まるで失敗したパンケーキみたいに。

  暗闇の中で独りぼっちで、秋川まりえはもちろん怯えていた。そして自分の無力さを痛感しな
 いわけにはいかなかった。騎士団長がそばにいてくれたなら、と彼女は思った。彼には尋ねたい
 ことがたくさんあった。質問に対する答えが返ってくるかどうかはわからないが、少なくとも誰
 かと話をすることはできる。彼の話し方は現代の日本語としてはかなり奇妙なものだったが、趣
 旨を理解するのに支障はない。しかし騎士団長はもう二度と彼女の前に姿を見せないかもしれな
 い。

 「これからほかに行かなくてはならない場所があるし、ほかにやらなくてはならないことがある」
 と騎士団長は彼女に告げた。まりえはそのことを寂しく思った。

  窓の外から夜の鳥の深い声が聞こえた。たぶんフクロウかみみずくだ。彼らは暗い森の中に身
 を潜め、智恵を働かせているのだ。私も負けずに智恵を働かせなくてはならない。賢くて勇気の
 ある女の子にならなくてはならない。しかし再び眠気が彼女を襲い、それ以上目を開けているこ
 とができなくなった。彼女はまた毛布と布団にくるまり、ベッドに横になって目を閉じた。夢も
 ない深い眠りだった。次に目が覚めたとき、夜は徐々に明け始めていた。時計の針は六時半をま
 わっていた。

  世界は土曜日の夜明けを迎えたのだ。

  まりえは土曜日いちにちをそのメイド用の居室の中で静かに送った。朝食代わりにまたクラッ
 カーを宿り・、チョコレートをいくつか食べ、ミネラル・ウオーターを飲んだ。部屋を出てこっ
 そりとジムに行って、そこに山のように積まれていた日本語版「ナショナル・ジオグラフィック」
 のバックナンバーを何冊か素早く持ち帰り(免色はどうやらバイクマシンを漕ぎながら、あるい
 はステップマシンを踏みながら、それらの雑誌を読むらしく、ところどころに汗のあとがついて
 いた)、それを何度も繰り返し読んだ。そこにはシベリア・オオカミの生息状況や、月の満ち欠
 けに関する神秘や、イヌイットの生活や、年々縮小していくアマゾンの熟帯雨林なんかについて
 の記事が掲載されていた。まりえは普段ならそんな記事を読むことはまずないのだが、ほかに読
 むものもないということもあって、暗記してしまうまでそれらの雑誌を熟読した。写真も穴が間
 くほど詳しく眺めた。

  雑誌を読かのに疲れると、ときどき横になって短く眠った。そして窓のカーテンの隙間から谷
 間の向かい側にある自分の家を眺めた。ここにあの双眼鏡があればなと彼女は思った。その家の
 中をもっと細かく観察することができて、人が勣いているのを目にすることができたらな、と。
 そしてオレンジ色のカーテンのかかった自分の部屋に戻りたいと思った。熱い風呂に入って身体
 を隅々まで丁寧に洗い、新しい服に着替え、それから飼っている描と一緒に暖かいベッドに潜り
 込みたい。

  午前九時過ぎに誰かがゆっくりと階段を下りてくる音が聞こえた。室内履きを履いた男の足音
 だった。たぶん見仏だ。歩き方に特徴がある。ドアの緯穴から外を見たかったが、ドアに鍵穴は
 ついていなかった。彼女は身体を硬くし、部屋の隅の床に身を丸めて座り込んだ。もしこのドア
 を開けられたら、どこにも逃げ場所はない。免色がこの部屋を覗くようなことはないはずだ、と
 騎士団長は言っていた。彼の言葉を信じるしかない。しかしもちろん何か起こるか、そんなこと
 は誰にもわからない。この世界には百パーセント確実なことなんて何ひとつないのだから。彼女
 は気配を殺し、クローゼットの中のイフクのことを思い浮かべ、何も起こらないでくださいと念
 じた。喉の奥がからからに謁いた。 

                                      この項つづく

 ● 今宵だけのアラカルト

先日、彼女が、エリンギのポークロールアップスを夕食に出してくれたが、この写真では檸檬だが、自
家製の柚子ボン酢でいただいたが、育成の進化でエリンギが太くなってきて見た目も美しく絶妙の美味
さに仕上がっていたのでデジカメすることも忘れ口に放り込んでしまい後悔するほど「仕合わせな一時」
を味わった。美し国の暖かき庵である。
 

     

 


かりそめのスイング2017

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ 天の時は地の利にしかず。地の利は人の和にしかず: 天与の好機よりも地の利、
              地の利よりも人の和が大切である。小さな城を包囲攻撃しても、容易には陥落し
              ない場合がある。攻撃している以上、当然天与の好機をとらえているはずだ。そ
              れでも勝てないのは、天与の好機も地の利にはかなわないからである。城壁も高
              い。濠も深い。装備もすぐれ、兵糧も十分にある。それでいて、城を捨てて敗走
              する場合がある。地の利も人の和には及ばないからだ。むかしの言葉にもある。
              「人民の逃亡を防ぐには、国境の警固に仁よるな。国を守るには、地形の険阻に
              仁よるな。天下を威服するには、軍備に仁よるな」

              道にかなっ仁人には味方が多い。極端な場合には、天下の人民がみな味方とな
              る。道にはずれたには味方が少ない。極端な場合には、親戚までがそっぽをむく。
             天下を味方につけた者が、親戚にまでそっぽをむかれた者を攻めるなら、勝敗の
              数はおのずから明らかだ。君子は戦わずして勝つか、戦ってもかならず勝つ。

       【解説】"天の時"はタイミングであり、チャンスである。"地の利"は周囲の好条
       件だ。この両者がそなわっていることは、ことをなすに当たり、きわめて有利で
       ある。それにもまして重大なものがチーム・ワークだという。そして、結束をも
       たらすものは、道-正しい原則だと強調するのである。 


    No.95

【ソーラータイル篇:系統不用のマイクロインバーター】 



米国のエンフェイズ・エネルギー(Enphase Energy)社は、第4四半期に最新のソーラーインバータ
(=マイクロインバータ)が電力網や蓄電池がなくても、太陽光発電を発電できると報告。従来の住
宅用ソーラーインバータが電力網が安全と技術上の理由で遮断され保護されるが、新ソーラー技術で
は、遮断の懸念はなくなる。IQ8マイクロインバータの目標の1つは、インバータの価格をストリン
グインバータと同じ価格(11.3円/ワット)。同社は、マイクロインバータのコストを50%削
減して競争力を維持しようとする試みにおいて、ASICゲートを増やし、最大出力を増やし、サイズ/
重量を減らすこととで、マイクロインバータ設計を改善しているす。具体的には、2017年6月
19日に発表され、2019年第1四半期に市場に出る予定の「Ensemble」は、1.0キロパッケー
ジは、現行の重量より40%重い2倍500万個のASICゲートを予定。



● エンフェイズ・エネルギーの第3四半期の業績報告

  ------------------------------------------------------------------------------------
 今日のソーラー技術では、ほとんどのお客様がこの制限(自動シャットオフ)を認識していま
 せん。そこで、この制限に対処するために、完全にグリッドに依存しないマイクロインバータ
 ー技術を発明しました。つまり、グリッドが故障して十分な日光があれば、Enphaseシステム
 は引き続きエネルギーを生産し、家庭やビジネスの要求を満たします。Ensemble技術が当社の
 交流蓄電池装置組み込まれると、Enphaseマイクロインバータシステムの性能はさらに向上し
 ます。
  ------------------------------------------------------------------------------------

これを行うために、アンサンブルは、電力網を60Hzに保つような、より幅広い電力網が一般的に太
陽系を提供する電気サービスを提供する必要がある。夏のプレゼンテーションの下のスライドは、こ
の機能を間違いなく暗示。ファーストソーラーとカリフォルニア州は、インバータ技術が実際に大規
模なエネルギー貯蔵なしでこれらのグリッドサービスを提供できることを確認する。

 同社は、このハードウェアは、最近のハリケーンの後にプエルトリコの人々にとって貴重なもので
あると特に言及したが、開発途上国の人々、特に12億人の人々にとって、電力網にアクセスできな
い人にとって特に価値があったことを示す。 

【特許事例】

❏ US 9812859 B2 Distributed maximum power point tracking system, structure and process  
                                                                        分散最大電力点追跡システム、構造およびプロセス
【概要】 

分散型最大電力点追跡システム、構造、およびプロセスは、太陽電池アレイなどの発電構造用に提供
されるが、これに限定されない。 例示的なソーラーパネルストリング構造では、分散型最大電力点
追跡(DMPPT)モジュールが提供され、例えば、各ソーラーパネルに組み込まれるか、または改造さ
れる。  DMPPTモジュールは、起動、動作、監視、およびシャットダウンのためのパネルレベルの制
御を提供し、さらに複数のパネルのストリングに対して柔軟な設計と動作を提供します。 これらの
ストリングは、典型的にはコンバイナボックスに並列に接続され、次に電力網に通常接続されるイ
ンバータモジュールに向けて接続される。 強化されたインバータは、ローカルまたはリモートのい
ずれかで制御可能であり、システム状態が容易に決定され、システムの1つまたは複数のセクション
の動作が容易に制御される。 このシステムは、広範囲の動作条件にわたって、増加した動作時間お
よび増加した電力生産および効率を提供する(詳細は下図)。
Nov. 7, 2017

❏ US 9685904 B2 Photovoltaic system with improved DC connections and method of making same   
                                                されたDC接続を有する太陽光発電システムおよびその製造方法

【概要】

マイクロインバータアセンブリは、その底面に形成された開口を有するハウジングと、開口に隣接す
る位置でハウジング内に配置された直流(DC)交流(AC)マイクロインバータとを含む。 マイクロ
インバータアセンブリはさらに、DC-AC交流インバータに電気的に結合され、ハウジングの開口内に
配置されたマイクロインバータDCコネクタを含み、マイクロインバータDCコネクタは、複数の露出
した電気接点を有する。
  



 

           
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる 

  免色はどうやら洗濯物を持参したようだった。たぶん毎朝この時刻に一目分の洗濯をするのだ
 ろう。彼は洗濯機に洗濯物を放り込んで、洗剤を入れ、ダイヤルをまわしてモードを設定し、開
 始のスイッチを押した。手慣れた作業だった。まりえはその一連の音に耳を鐙ませていた。それ
 らの音は驚くほどくっきりと聞こえた。そして洗濯機のドラムがゆっくりと回転を始めた。それ
 だけの作業を済ませると、彼はジムのエリアに移って、マシンを使って運動を始めた。洗濯機が
 まわっているあいだに運動をするというのがどうやら彼の朝の日課であるらしかった。運動をし
 ながら、彼はクラシック音楽を聴いた。天井に取り付けられたスピーカーからバロック音楽が聞
 こえてきた。バッハかヘンデルかヴィブァルディ、そんな音楽だ。まりえはクラシック音楽にそ
 れほど詳しいわけではない。バッハとヘンデルとヴィブァルディの区別まではつかない。

  彼女は洗濯機の機械音と、運動マシンの立てる規則的な音と、バッハかヘンデルかヴィヴァル
 ディの音楽に耳を澄ませながらその二時間ばかりを送った。落ち着かない一時間だった。たぶん
 免包は雑誌の山の中から「ナショナル・ジオグラフィック」が何冊かなくなり、ミネラル・ウオ
 ーターのボトルと、クラッカーの包みと、チョコレートが貯蔵庫から少しずつ滅っていることに
 気づいたりはしないだろう。全休量からして、それはとても些細な変化だから。しかし何か起こ
 るか、そんなことは誰にもわからないのだ。油断はできない。注意を怠ってはならない。

  やがて洗濯機が大きなブザーの音と共に停止した。免色がゆっくりとした足取りでランドリー
 ルームにやってきて、洗濯機から洗催物を取り出し、今度はそれを乾燥機に移し、スイッチを入
 れた。乾燥機のドラムが音を立てて回転を始めた。それを見届けてから、免色はゆっくりと階段
 を上っていった。朝のエクササイズの時間は終了したようだった。たぶんこれからまた時間をか
 けてシャワーを浴びるのだろう。

  まりえは目を閉じ、大きく安堵のため息をついた。おそらく一時間ほど後に免色はまたここに
 やってくるだろう。乾いた洗濯物を回収するために。しかしいちばん危ういところはもう過ぎ去
 ったのだ。そういう気がした。彼は私がこの部屋に潜んでいることに気づかなかった。私の気配
 を感じ取ることはなかったのだ。そのことが彼女をほっとさせた。

  じゃあ、あのクローゼットの扉の前にいたのはいったい誰だったのだろう? それはメンシキ
 くんであると同時にメンシキくんではないものだ、と騎士団長は言っていた。それはいったいど
 ういう意昧なのだろう? 彼女には彼の言おうとしたことがうまく理解できなかった。私には話
 がむずかしすぎる。でもとにかくその誰かは、クローゼットの中に彼女がいることを(あるいは
 誰かがいることを)ちゃんと知っていた。少なくともその気配をしっかり感じとっていた。しか
 しその誰かは、何らかの理由があってクローゼットの扉を間くことはできなかった。それはいっ
 たいどんな理由だったのだろう? 本当にあそこにある一群の美しい古いイフクが、私を護って
 くれたのだろうか?

  もっと騎士団長の説明を詳しく聞きたかった。しかし騎士団長はとこかに行ってしまった。私
 に説明してくれる相手はもうどこにもいない。
  その日、土曜日いちにち、免色は一歩も家の外には出なかったようだった。彼女の知る限りガ
 レージの閉く音も聞こえなかったし.車のエンジンがかかる音も聞こえなかった。彼は階下に
 乾燥した洗濯物を回収しにやってきて、それを持ってゆっくり階段を上っていった。それだけだ
 った。道路の行き止まりにあるその山頂の家を訪れるものは誰もいなかった。宅配使も書留の速
 達も配達されなかった。玄関のベルはじっと沈黙していた。電話のベルが鴫る音が二度聞こえた。

 遠くから聞こえる微かな音だったが、彼女はそれを耳にすることができた。一度目は二回目のコ
 ールで、次は三回目のコールで受話器が取られた(だから家の中のどこかに免色がいることがわ
 かった)。市のゴミ収集車が「アニー・ローリー」のメロディーを流しながら坂道をゆっくり上
 ってやってきて、そしてゆっくりと去っていった(土曜日は普通ゴミを回収する日だ)。そのほ
 かにはどんな音も聞こえなかった。家はおおむねしんと静まりかえっていた。

  土曜日の昼が過ぎ、午後になり、夕方が近づいてきた(ここで再び時間経過に関する私の註が
 入る。まりえがその狭い部屋で息をひそめているあいだに、私は伊豆高原の療養施設の部屋で騎
 士団長を刺殺し、地底から顔を出している「顔なが」をつかまえ、地底の世界に降りていったわ
 けだ)。しかしその家を逃げ出すタイミングを見つけることが彼女にはできなかった。ここから
 逃げ出すためには、我慢強く「そのとき」を精力なくてはならない、と騎士団長は彼女に告げた。

 「そのときがくれば、諸君にはわかるはずだ。おお、今がまさにそのときなのだ」と彼は言った。
  しかしそのときはなかなかやってこなかった。そしてまりえはだんだん精つことにくたびれて
 いった。じっとおとなしく何かを精つことは、彼女の性格にはあまり向いていない。私はいつま
 でこんなところで息を潜めて精たなくてはならないのだろう?

  夕方前に免色はピアノの練習を始めた。居間の窓を開けているらしく、その音は彼女が身を潜
 めている場所にまで届いた。たぶんモーツァルトのソナタだ。長調のソナタ。ピアノの上にその
 楽譜が置いてあったのを覚えている。彼はそのゆっくりとした楽章をざっと過して弾いてから、
 いくつかの部分を繰り返し練習した。納得のいくまで指使いを調整した。指使いがむずかしく、
 音が均等に鳴りにくい部分があって、彼の耳にはそれが気になる上うだった。モーツアルトのソ
 ナタの多くは、一般的に言えば決して難曲ではないが、納得がいく上うに弾こうとすると、往々
 にして深い迷路のような趣を帯びてくる。そして免色はそのような迷路にあえて足を踏み入れる
 ことを厭わない人間だった。まりえは彼がその迷路を我慢強く行きつ戻りつする足取りに耳を澄
 ませていた。練習は一時間ばかり続いた。それからグランド・ピアノの蓋を閉めるばたんという
 音が耳に届いた。彼女はそこに苛立ちの響きを聞き取ることができた。しかしそれほど強い苛立
 ちではない。適度にして上品な苛立ちだ。免色氏は、たとえ広い屋敷の中に一人きりでいても
 二人きりだと本人が思っていても)、抑制を忘れることがない人物なのだ。


  あとは昨日と同じことの繰り返したった。目が暮れてあたりが暗くなり、カラスたちが鳴きな
 がら山のねぐら仁戻ってきた。谷間の向かい側に見えるいくつかの家々に次第に明かりがともっ
 ていった。秋川家の明かりは真夜中を過ぎても消えなかった。その明かりには、人々が彼女のこ
 とを案じている気配がうかがえた。少なくともまりえにはそう感じられた。そこで心を痛めてい
 るはずの人々に対して、自分に何ひとつできないことが彼女にはつらかった。 

  それとほとんど 対照的に、やはり谷間の向かい側にある雨田典彦の家(つまり、この私が往
 んでいる家だ)には 明かりがまったく見えなかった。その家にはもう誰も住んでいないみたい
 だった。日が暮れても、ただひとつの明かりも点らないのだ。人が中にいる気配がまるでうかが
 えない。不思議だ、とまりえは首をひねった。先生はいったいどこに行ったのだろう? 私が家
 からいなくなったことを先生は知っているのだろうか?

  夜中のある時刻になると、まりえはまたひどく脹くなった。激しい睡魔が彼女を襲った。彼女
 は制服のブレザーコートを着たまま、毛布と布団にくるまって、言えながら脹った。猫がここに
 いると少しは暖かくなるのにと彼女は脹雀前にふと思った。彼女が家で飼っている雌描はなぜか、
 ほとんど声を出すことがなかった。ただごろごろと喉を鳴らすだけだ。だからここに二人でひっ
 そりと身を隠していることはできる。でももちろん猫はいない。彼女はとこまでも独りぼっちだ
 った。真っ暗な小さな部屋に閉じ込められ、どこに逃げ出すこともできないでいる。
 
  そして日曜日の夜が明けた。まりえが目を覚ましたとき、部屋の中はまだ薄暗かった。腕時計
 の針は六持前を指していた。日がどんどん短くなっているみたいだ。外では雨が降っていた。音
 を立てないひっそりとした冬の雨だ。樹本の枝から水滴がしたたり落ちていることで、雨が降っ
 ているのがようやくわかるくらいだ。部屋の空気は冷たく湿っていた。セーターがあるといいの
 だけど、とまりえは思った。彼女がツーールのブレザーコートの下に着ているのは薄いニットの
 ヴェストと、コットンのブラウスだけだ。ブラウスの下には半袖のTシャツ。暖かい昼間のため
 の格好だ。ウールのセーターが一枚あればありかたいのだが。

  あの部屋のクローゼットにセーターがあったことを彼女は思い出した。暖かそうなオフホワイ
 トのカシミアのセーターだった。上に行ってあれをとってくることができたらな、と彼女は思っ
 た。それをブレザーコートの下に着込めばずいぶん暖かくなるだろう。しかしここを抜けだし、
 階段を上って上の階に行くのはあまりに危険すぎた。とくにあの部屋には。だから今身につけて
 いるもので我慢するしかない。もちろん我慢できないような厳しい寒さではない。イヌイットた
 ちが生活しているような冷気の厳しい土地にいるわけではないのだ。ここは小田原郊外で、まだ
 十二月に入ったばかりだ。

  しかし冬の雨の朝は、じわじわと肌身に染みて寒かった。骨の芯まで冷え込んでしまいそうだ。
 彼女は目を閉じてハワイのことを考えた。まだ小さい頃に叔母さんと、叔母さんの学校時代の女
 友だちと一緒にハワイに遊びに行ったことがあった。ワイキキのビーチで小さなボードを借りて
 波遊びをして、それに疲れると白い砂浜に寝転んで日光浴をした。とても暖かく、何もかもが平
 和で心地よかった。ずっと高いところで、郷子の葉が貿易風にさらさらと揺れていた。白い雲が
 海の沖の方に吹き流されていった。それを眺めながら冷たいレモネードを飲んだ。あまりに冷た
 くてこめかみがずきずきした。彼女はそのときのことを細部までとても具体的に思い出した。い
 つかもうコ院、あんなところに行くことができるのだろうか? もし行けるのなら、かわりに何
 を差し出してもいいとまりえは思った。

                                      この項つづく

 

 ● 今夜の超絶内ランチ


パスタは冷凍物で十分に美味いので電子レンジで済ませているが、材料さえ揃っていれば簡単につく
れるのでお勧めだ。まず材料、➀リングイネ・パスタ百グラム、➁牛乳2百ミリ㍑、➂ベーコン20
㌘、➃ニンニク1片、➄卵1個、⑥オリーブオイル大さじ1、⑦黒胡椒適量、⑧顆粒コンソメ小さじ
1、⑨粉チーズ大さじ2。手順、①にんにく1かけをスライスし、ベーコン20㌘を一ロ大の長方形
に切り、②フライパンにオリーブオイル大さじ1を引いて温め、①のにんにくとベーコンを入れて中
火で焦げ目がつくまで1分半ほど炒め、③牛乳2百ミリ㍑、顆粒コンソメ小さじ1、粉チーズ大さじ
2を加えて、中火で小さな泡が出る状態になるまで2分半ほど煮詰め、④パスタ百㌘をゆぜ茹で※、
水をきる。⑤④のパスタを③に加え、⑥器に⑤を盛りつけ、卵の卵黄だけスプーンで取り出しトッピ
ングし、黒胡椒をふるかけ、黄金のカルボナーラの完成(出典:「世界一美味しい煮卵の作り方」)。

※①まずパスタを1時間浸けておくことで1~2分で茹で上がり、②水2㍑に対し塩35㌘で茹で、
 ③尚、パスタはソースが完成した後に行う(一人分150~160円)。 

   ● 今夜の一曲

  甲斐バンド バス通り


   ♛   

   二人で泣いた夜を覚えているかい
   わかち合った夢も虹のように消えたけど
   おまえのもとに今帰るうとして
   今夜 俺は旅を始める
   クリスマス・ツリーに灯リがともり
   みんなの笑い声が聞える頃

   安奈おまえに会いたい
   燃えつきたろうそくに
   もう一度二人だけの愛の灯をともしたい
   安奈クリスマス・キャンドルの灯はゆれているかい
   安奈おまえの愛の灯はまだ燃えているかい


                                    唄 /  安奈 

                                    作詞/作曲 甲斐よしひろ

 Nov. 12, 2017


● 今夜の寸評:貧相な税逃れ族

「追跡 パラダイスペーパー 疑惑の資産隠しを暴け」をたまたまテレビを視る。この
間女性ジャーナリストが殺害されたし、エリザベス女王の名を連ねていたし、トランプ
大統領の閣僚もロシア疑惑がらみで名前が挙がっていたが、いずれにしても「貧相な精
神」をもつポンコツ納税者にうんざりする。、

 Nov.6, 017

     

 

大銀杏と生命兆候

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ ″呼びつけできない臣下″を持て:孟子が斉の宣王を訪ねようとした矢先、宣王
       が使者をよこし、「こちらからお伺いするつもりでしたが、風邪をひいて、外出
       できません。もしおいで願えるなら政庁には出ますが、そこでお目にかからせて
       いただけましょうか」孟子は答えた。「残念なことに病気しております。参内は
       できません」、ところが翌日になると、孟子は東郭氏(斉の大臣)を弔問しよう
       としった。公孫丑がこれを諌めて、「きのう、病気を理由に参内をお断わりにな
       ったばかりでしょう。お出かけになるのはどうかと思いますが」。「きのうは病
       気だったが、今日はもう治った。吊問に出かけてもかまうまい」、孟子が出たあ
       とへ、宮王の使者が医者をつれて見舞いに来た。弟子の孟仲子が応対に出て、

       「きのうはご下命がありながら、病気のため参内できませんでした。今日はいく
       ぶんよくなりましたので、さっそく参内いたしましたが、さて無事に参内いたし
       ましたかどうか……」 と言っておき、散人の者をやって孟子を道で特ちうけさ
       せ、「お帰りにならず、そのまま参内してください」と言わせた。孟子はしかた
       なく景丑(けいちゅう)氏(斉の大臣)のところへ行って宿を借りた。景計氏は、
       「父と子、君主と匝下との関係は、人として非常に重要なものです。さらに父子
       の間では愛し合うことが第一、君臣の間では尊敬し合うことが第一です。見受け
       ますところ、王のほうでは先生を尊敬しています。しかし、先生のほうはどうも
       王を尊敬されていないごようすですが」、「これは心外。この国には、王に対し
       て仁義を説く人がいない。それは、仁政を馬鹿にしているからではなく、あの王
       に仁義を説いたところではじまらぬ、と思っているからです。王に対してこれほ
       どの不敬がありますか。わたしは王の前では宛・舜の道しか申しません。という
       ことは、この国にわたしほど王を尊敬している者はいないというわけです」

       「いや、そういう意味ではありません。礼記には、『父に呼ばれればハイと答え
       てすぐ立ちあがり、君命があれば馬車の仕度も待たずにかけつけよ』とあります。
       もともと先生は参内なさる矢先でもあったのに、王命を聞いて、わざと取りやめ
       られた。どうも礼に合わないように思えるのですが」、「そんなことは問題にな
       りません。曽子は、「晋や楚の富にはかなわない。だが相手が富を誇るなら、こ
       ちらは仁を誇りにする。相手が爵位を諮るなら、こちらは義を誇りにする。何の
       ひけめを感じよう」と、言った。まったくそのとおりです。これには道理がある
       のです。世の中で尊ばれているものといえば、爵位と年齢と徳です。朝廷では爵
       位、世間では年長者が尊ばれますが、救世済民には徳が最も尊いものです。爵位
       があるからといって、他の二つを馬鹿にすることはできません。

       将末大事業をなしとげようとする君主には、呼びつけできない臣下がかならずあ
       るものです。相談ごとがあれば、君主のほうから出向かねばなりません。それほ
       ど理解のある君主であればこそ、臣下としてともに事業を行なう気になるという
       ものです。湯玉は、伊尹にいろいろ教えを請い、それから臣下に迎えました。湯
       王が労せずして玉者になれたのはそのためです。桓公も管仲に教えを請い、その
       後に臣下として迎えました。ですから労せずして覇者になれたのです。いま天下
       の諸侯は、領土、徳、ともに大同小異、とくに傑出した国がありません。それは、
       ほかでもない、国王が自分以下の人間を臣下にしたがり、教えを受けられる人材
       を臣下にしたがらないからです。湯王は伊尹に対し、桓公は管仲に対し、けっし
       て呼びつけたりはしなかった。管仲ごとき者さえ呼びつけにできないのです。管
       仲の真似などしたくないと思っている者にはなおさらではありませんか」

        〈湯王 伊尹〉 湯王は殷王朝を開いた聖王、伊尹はそれを助けた宰相。
        〈桓公 管仲〉 桓公は斉の君主、春秋時代の霜者。管仲はその猫業達成に力
                を尽くした名宰相。 
       
       孟子は、覇道に反対する立場から、桓公を名君とみなしていないし、管伸を。大
       人物ともみていないことは、他の章で明らかにされているが、桓公の管伸に対す
       る処遇には賛意を示している。

       【解説】 仮病を使ってことさらに東部氏のもとを訪れたのは、仮病であること
       を王に知らせるのが目的である。それは、論客たちが競いあう中にあって、みず
       からを高くする孟子のジェスチュアであったかも知れない。しかしそれだけでは
       あるまい。権勢に屈せぬ権威がなければ、政治顧問として王を導くことはできぬ。
       孟子にはそれだけのプライドと自信があったのだ。さて、支配者は、部下に。有
       能な人物を求めるが、同時にそれが自分の権威をおかすことをおそれる。師とす
       るに足る人物を部下に持ち得るには、よほどの自信が必要だ。


【地球のバイタルサインに赤信号 二酸化炭素排出量2%増加】

 

今月13日、ドイツのボンで行われている気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)で、
科学者チームが今年の世界の二酸化炭素排出量は前年比2%増加し、過去最高の370億トンになる
との見通しを発表。二酸化炭素排出量は2014~16年にはほぼ横ばいだったが、主に中国の排出
量が2年間の減少後増加に転じ、今年は拡大するとみる。今年の中国の二酸化炭素排出量は経済成長
に伴う石炭需要の増加で3.5%押し上げられるとの予想を示した。中国は、米国を上回る世界最大
の二酸化炭素排出国で、世界全体の排出量の約30%を占める。一方、米国の排出量は0.4%減で、
石炭消費の増加で減少幅が近年より縮小する見込み。米国の石炭消費増加は、トランプ大統領の石炭
推進政策よりも天然ガス価格の上昇が要因と担当者は説明している。





【農業の6次産業化を支える土壌センサ】

11月14日、ロームグループのラピスセミコンダクタの中の環境をセンシングする土壌センサーユ
ニット「MJ1011」を製品化し、2018年1月末からサンプル出荷を開始すると発表。リアルタイムで土
壌のpH(水素イオン濃度指数)や肥沃(ひよく)度、温度、含水率を計測できる。2015年10月に開発。
同センサーは半導体技術を用い1チップでpHや肥沃度、温度、含水率を検知できるセンサーで、「世
界で初めて、土の中に直接埋め込むことのできるセンサー」(同社)として開発された。その後、ラ
ピスセミコンダクタでは、さまざまな農業事業者などと連携し、農地でテストしてきた。製品化に際
し、ラピスセミコンダクタでは、土壌センサーに加え、低消費電力を特長にする16ビットマイコン「
ML620Q504H」やアナログフロントエンド(AFE)チップなどラピスセミコンダクタ独自の半導体製品
と組み合わせたセンサーユニットに仕上げる。なお、ラピスセミコンダクタでは、センサーユニット
と接続するエンドポイントやコンセントレーター、ゲートウェイなども開発し、無線を利用した農地
監視システム(フィールドスキャンシステム)を構築できる製品ラインアップも整えていく方針。

 ❏ 特開2017-096712 センサモジュール、測定システム、及び測定方法

【概要】

土壌中の水の流路について考察すると、水は土壌中の空気が存在する間隔部を通り地中深くに流れる
が、その際にどの個所でも流れるわけではなく、疎水性の高い部分、言い換えると保水力の低い部分
を通って流れている。また、一度流路が形成されると後続の水も当該流路を通過するために、センサの
電極部周辺に流路が形成されないと、単に給水手段を設けただけでは、電気伝導度等を正確に測定す
ることができない。土壌中の水分状態の測定精度を向上させることができるセンサモジュール、測定
システム、及び測定方法を提供にあたり。下図のように、センサモジュール10は、測定対象である
土壌に接触する接触面が親水性を有する筐体12と、筐体12の接触面に設けられ、土壌中の水分状態
を測定するセンサチップ16とを備え、測定対象と前記センサチップ16との密着性が均等になるよう
に、制御部24は前記センサチップ毎に突出量を調整することで、測定精度を向上できる。 


 【符号の説明】

1  測定システム 10  センサモジュール 12  筐体 16  センサチップ 20  制御装置 
50  可動部

【図1】本実施形態の測定システムの一例の概略構成図
【図2】本実施形態のセンサモジュールの一例の概略構成を示す断面図

     No.95

【電池篇:米各州で助成金プロテラー社製電気バス購入総額31億円】 

尚、詳細は上写真参照。

【RE100篇:千葉商科大学は、日本初「自然エネルギー百%大学」に】

11月13日、千葉商科大学は、「自然エネルギー100%大学」を目指すと発表した。同大が所有す
るメガソーラー「野田発電所」で発電する電力と、同大市川キャンパスのエネルギー消費量をネット
で同量とする取り組みで、発電所の増設と学内設備の省エネ化、学生による省エネ活動により、2020
年度までに達成を目指す。千葉県市川市に所在する千葉商科大学は、学生定員数5900人と教職員数
765人を擁する社会科学系総合大学だ。同大は、今回発表した環境目標の設定にあたり、自然エネル
ギー100%の実現を提唱する世界的なイニシアチブである「自然エネルギー100%プラットフォーム」
に登録。2018年までに同大の創出する再生可能エネルギーと消費電力を同量にし、さらに2020年まで
にガスを含めた全ての消費エネルギーと同量にすることで「自然エネルギー100%大学」を達成する
予定(スマートジャパン、2017.11.14)。同大は、千葉県野田市に保有している旧野球場の敷地に、大
学が保有する太陽光発電所としては日本一の規模となる野田発電所を2013年より導入。野田発電所の
出力規模は2.45MWで、2014年度の年間発電量実績値は336.5万kWhにもなり、同大市川キャンパスにお
ける消費電力の77%に相当するという。今後は自然エネルギー100%大学の実現に向けて再生可能エ
ネルギー創出量を増やすべく、野田発電所のレイアウトを変更し、新たに約1600枚のパネルを増設す
る予定。

 
【単極子の超固体とはなにか】

11月14日、理化学研究所は、磁性体中では、電子スピンが極めて小さな磁石として作用し、磁性
体を低温にすると通常、スピンが互いに同じ向きにそろった強磁性、または交互に反対方向を向いて
打ち消し合う反強磁性など、ある磁気秩序を持つ状態になる。一方、「量子スピンアイス」と呼ばれ
る磁性体を冷却すると、スピンが秩序化しない「量子スピン液体」という状態を示す。量子スピン液
体では、スピンのN極・S極が分化し、粒子のように振る舞う「単極子」が出現する。絶対零度(約
-273℃)で単極子は自由に零点運動、そのときのN極・S極の極性は中性に保たれ、デバイス構築の上
で、単極子の振る舞いを外部から制御する可能性が期待できるが、そのため、磁場中での量子スピン
アイスの性質の理解が必要。今回、理研の研究チームは厳密な数値シミュレーションで、量子スピン
アイスが磁場中で磁気を帯びる(磁化)する過程を解明できたという。下図のように、①量子スピン
アイスに磁場を加えないで冷却していくと、量子スピン液体状態になります(図の0)。②量子スピ
ン液体に磁場を加えると、そのまま磁化し始め(図の0~B1)。③しかし、磁化が飽和磁化の2/3に達
すると磁化プラトーに至り、単極子の零点運動が局在します(図のB1~B2)。④さらに磁場を強くす
ると、単極子は一様かつ中性な空間分布から「不均一な空間分布」へと転移し、同時に「超流動」を
示す(図のB2~B3)。超流動とは、極低温において液体ヘリウム4が粘性を失い、抵抗なしに容器の
壁面をよじ登って外へこぼれ出す現象。ヘリウム4原子が、空間的に不均一に分布すると同時に超流
動性を示す状態を「超固体」と呼びます。④の状態は「単極子の超固体」として理解できる。今回の
成果により、今後、単極子の自由度の制御を実現できれば、低消費電力で駆動するデバイスを構築で
きるという。これは面白い。

単極子の超固体-磁性体における磁化の単極子を制御する-

Quantum spin ice under a [111] magnetic field: from pyrochlore to kagome、Troels Arnfred Bojesen, Shigeki
Onoda, ", Physical Review Letters

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる  

  九時過ぎに再び室内履きの音が聞こえ、免色が下に降りてきた。洗濯機のスイッチが押され、
 クラシック音楽がかかり(今回はおそらくブラームスのシンフォニーだ)、マシンの運動が一時
 間ばかり続いた。同じことの繰り返したった。かかる音楽が違うだけで、あとは寸分の狂いもな
 く。この家の主人は疑いの余地なく習慣の人であるようだった。洗濯物は洗濯機から乾燥機に移
 され、それはまた一時間後に回収された。そのあと免色さんが階下に降りてくることはなかった
 し、彼はメイド部屋には一切の関心を抱いていないようだった(ここで再び私の註が入る。免色
 はその日の午後に私の家を訪問し、たまたま様子を見に訪れていた雨田政彦と会って短く話をし
 ている。しかしなぜかはわからないが、このときもまりえはやはり彼が外出したことに気づかな
 かったようだ)。

  彼が習慣通りに規則正しく行動してくれることは、まりえにとっては何よりありかたいことだ
 った。彼女もその習倶にあわせて心の準備をし、行動の予定を立てることができるからだ。いち
 ばん神経が消耗させられるのは、思いも寄らぬ出来事が次々に持ち上がることだ。彼女は免色の
 生活パタjンを記憶し、それに自分を同化させていった。彼はほとんどどこにも出かけない(少
 なくとも彼女の知る限りどこにも出かけなかった)。書斎で仕事をし、自分で洗濯をし、自分で
 食事を作り、夕方になると居間のスタインウェイに向かってピアノの練習をする。ときどき電話
 がかかってくるが、それほど多くではない。一日にせいぜい数本だ。彼はどうやら電話というも
 のがあまり好きではないようだった・おそらく仕事の上で必要な連絡は――それがどの程度ある
 のかはわからないが――斎のコンピュータを通して行っているようだった。

  免色は基本的に自分で家の中を掃除するが、クリーニング・サービスを週に一度家に入れてい
 る。そういう話を、この前ここを訪問したときに本人の目から耳にした記憶があった。掃除をす
 るのは決してきらいではない。それは料理をするのと同じように、よい気分転換になる、と免色
 氏は言った。しかし披∵八だけでこの広い家の清掃をこなすのは、実際的にまず不可能だ。だか
 らどうしてもプロの力を借りざるを得ない。そのサービスが入るときには、彼は半日ばかり家を
 留守にするということだった。それは何頃日なのだろう? もしそのような日が巡って来れば、
 私はそのときにここからうまく逃げ出せるかもしれない。たぶん何人かの人たちが清掃用具を手
 に、車で屋敷の中に入ってくるだろうし、そのあいだ門は何度か開け閉めされるはずだ。そして
 免色はしばらく家からいなくなる。この屋敷から抜け出すのは決してむずかしいことではないは
 ずだ。あるいはそのとき以外に、私がここを脱出できるチャンスはないかもしれない。

  しかしクリーニング・サービスが入る気配はなかった。日曜日と同じように月曜日が何ごとも
 なく過ぎ去っていった。免色の弾くモーツアルトは日々少しずつより正確になり、そして音楽と
 してよりまとまりのあるものになっていた。注意深く、そして我慢強い人なのだ。目標をいった
 ん設定したら、そこに向かってたゆむことなく進んでいく。感心しないわけにはいかない。しか
 し彼の弾くモーツアルトは、もしそれが破綻なくまとまりのあるものになったとしても、音楽と
 してどれくらい心愉しいものになり得るだろう? まりえは階上から聞こえてくる音楽に耳を澄
 ませながら、そのことを疑問に思った。

  彼女はクラッカーとチョコレートとミネラル・ウォーターで生き延びた。ナッツの入ったエナ
 ージーバーも食べた。ツナの缶詰も少し食べてみた。歯ブラシはどくこにもなかったので指をう
 まく使ってミネラル・ウォーターで歯を磨いた。ジムに積んであった日本語版「ナショナル・ジ
 オグラフィック」を片端から読んでいった。ベンガル地方の人食い虎や、マダガスカルの珍しい
 猿たちや、グランドキャニオンの地形の変遷や、シベリアの天然ガス採掘状況や、南極のペンギ
 ンたちの平均寿命や、アフガニスタンの高地に住む遊牧民の生活や、ニューギェアの奥地の若者
 たちがくぐり抜けなくてはならない厳しいイニシエー・ションについて彼女は多くの知識を得た。
 エイズやエボラ熱についての基礎的な知識も身につけた。そういう自然に開する雑多な知識がい
 つか何かの役に立つかもしれない。あるいはまったく何の役にも立たないかもしれない。しかし
 いずれにせよ、ほかに手に取れる本もないのだ。彼女は日本語販「ナショナル・ジオグラフィッ
 ク」のバックナンバーを食い入るように読み続けた。

  そしてときどきTシャツの下から手を入れて、乳房の膨らみ具合を確かめた。でもそれはなか
 なか大きくはなってくれなかった。かえって前より小さくなっているような気さえした。それか
 ら彼女は生理のことを考えた。計算してみると、次の生理期間まではまだ十日ほどあった。生理
 用品はどこにもないから(地賞用のストックの中には、トイレットペーパーはあったものの、生
 理用ナプキンもタンポンも見当たらなかった。おそらく女性の存在はこの家の主人の考慮の範囲
 には入っていないのだろう)、もしここに隠れているあいだに生理が始まってしまうと、ちょっ
 と困ったことになるかもしれない。でもそれまでにはたぶん、なんとかここから抜け出せるはず
 だ。たぶん。十日もこんなところにいるわけにはいかない。

  火曜日の朝の十時前にようやくクリーニング・サービスの車がやってきた。清掃用具を荷台か
 らおろす女性たちのにぎやかな声が上の庭の方から聞こえてきた。その日の朝、免色は洗濯もし
 なかったし、エクササイズもしなかった。まったく階下に降りてこなかった。だからひょっとし
 て、とまりえは期待していかのだが(免色が日常の習慣を変更するからには、それなりの明確な
 理由がなくてはならない)、やはり彼女の予測したとおりだった。クリーニング会社の大型のヴ
 ァンがやってくると、それと入れ違いに免色はジャガーに乗ってどこかに出かけていったようだ
 った。

  彼女は急いでメイド用の部屋を片付け、水のボトルや、クラッカーの紙包みを集め、それをゴ
 ミ袋にまとめた。そのゴミ袋を目につきやすいところに出しておいた。たぶんクリーニング・サ
 -ビスの人が処理してくれるはずだ。毛布と布団は元通りきれいに畳んで、戸棚にしまった。
 誰かがそこで数日間生活していた痕跡をすっかり消した。とても用心深く,それからショルダー
 バッグを肩にかけ、足音を忍ばせて階上に上がった。そしてクリーニング・サービスの人たちに
 見つからないように、タイミングをほかって廊下をそっと抜けた。あの部屋のことを考えると胸
 がどきどきした。そして、またそれと同時に、そのクローゼットの中にある衣服のことを懐かし
 く思った。それらの衣服をもう一度ゆっくり眺めてみたかった。手を触れてもみたかった。
 しかしそんな時間の余裕はない。急がなくてはならない。

  人目につかないように玄関からうまく外に出て、カーブしたドライブウェイの坂道を走って上
 がった。思ったとおり入り目のゲートは開けっ放しになっていた。作業をする人々は出入9のた
 びにいちいちゲートを開け閉めしたりはしないのだ。彼女は何気ない顔をしてそこから外の通り
 に出た。

  私はほんとうにこんな風に簡単にあっさり、この場所から出て行ってしまっていいのだろうか、
 彼女はそのゲートを抜けるときにふとそう思った。そこにはもっと何か重く厳しいものがあるべ
 きではないのか? たとえば「ナショナル・ジオグラフィック」に出ていた、ニューギュアの部
 族の若者たちに課せられる激しい痛みを伴うイニシエーション(通過儀礼)のようなものが? 
 そういうものがしるしとして必要とされるのではないか? でもそんな思いは彼女の脳裏を一瞬
 よぎっただけだった。それよりは、そこから抜け出すことができた解放感の方が圧倒的に大きか
 った。

  空はどんよりと曇って、低く垂れ込めた厚い雲から今にも冷たい雨が降り出しそうだった。し
 かし彼女は空を仰いで何度も大きく深呼吸をし、どこまでも幸福な気持ちになることができた。
 まるでワイキキのビーチで、風にそよぐ祥子の木を見上げているときのように。自分は自由なの
 だ。この足で歩いてどこにでも行けるのだ。もう暗闇の中で縮こまって震えている必要はないの
 だ。生きていることが、それだけでとても嬉しく、ありかたく思えた。たった四日間のことなの
 だが、久しぶりに目にする外の世界は瑞々しく鮮やかに見えた。草本のひとつひとつが生き生き
 として、活力に満ちているように見’えた。風の匂いが彼女の胸をどきどきさせた。

  でもここでいつまでもぐずぐずしているわけにはいかない。免色が何か忘れ物を思い出して戻
 ってくるかもしれない。早くこの場所から立ち去らなくては。彼女は誰かに見られてもおかしく
 思われないように、制服についたしわをできるだけきれいに仲ばし(彼女はその制服を着たまま
 何日も布団にくるまって眠ったのだ)、両手で髪を整え、何ごともなかったような涼しい顔をし
 て足早に山を下りた。
  まりえは山を下り.谷間の道路をはさんだ向かい側の山を上った。しかし自分の家には向かわ
 ず、まず私の家にやってきた。彼女にはちょっとした心づもりがあったのだ。しかし家には誰も
 いなかった。どれだけ玄関のベルを押しても返事はなかった。

  まりえはあきらめて裏の雑木林に人9、祠の裏手にある穴に寄ってみた。しかし穴にはぴった
 りと青いビニールシートがかぶせられていた。それは前にはなかったものだ。ビニールシートは
 地面に打たれた何本かの杭に紐でしっかり結ばれていた。そしてその上に重しの石が並べられて
 いた。簡単には中を覗くことができないようになっている。知らないあいだに誰かが――誰かは
 わからないが――その穴を塞いでしまったのだ。たぶん穴が開けっ放しになっていると危ないと
 思ったのだろう。彼女はその穴の前に立って、しばらく耳を澄ませてみた。しかし中からはどん 
 な音も聞こえなかった(私の註・鈴の音が聞こえなかったところをみると、そのとき私はまだ穴
 の底に辿り着いてはいなかったのだろう。あるいはたまたま眠り込んでいたのかもしれない)。

  ぼつぽっと冷ややかな雨が降り出していた。家に帰らなくてはと彼女は思った。家族が心配し
 ているはずだ。しかし家に帰れば、自分かこの四目間どこにいたのか、みんなに説明しなくては
 ならない。免色さんの家に忍び込んで隠れていたと正直に打ち明けるわけにはいかない。そんな
 ことを言ったら大変なことになる。私が行方不明になっていることは、たぶん警察にも届け出ら
 れているだろう。免色さんの家に不法侵入していたと警察にわかれば、私はきっと何かしらの罰
 を受けることになるだろう。

  そこで彼女は自分がこの穴の中に誤まって落ちて、四目間そこから出ることができなかったと
 いう言い訳を考えついた。でも先生が――つまりこの私が――彼女がそこにいることをたまたま
 見つけて助け出してくれた。彼女はそういうシナリオをこしらえて、それに私が協力して口裏を
 合わせてくれることを期待していたのだ。しかし私はそのとき家にいなかったし、穴は既にビニ
 ールシートで塞がれて簡単には出入りできないようになっていた。だから彼女の描いたシナリオ
 は実現不可能なものになってしまったわけだ(もしそのシナリオ通りにことが進められていたら
 重機まで持ち出してその穴をわざわざ暴いた理由を、私は警察に説明しなくてはならなかっただ
 ろうし、それはそれでけらこう厄介な事態をもたらしたかもしれない)。

  あと彼女に思いつけるのは、記憶喪失を装うことくらいだった。それ以外に方法は思いつけな
 かった。その四日間に自分の身に起こったことは何ひとつ覚えていない。記憶がまったくからっ
 ぼになっている。気がついたときには一人きりで裏の山の中にいた。そう言い張るしかない。そ
 ういう記憶喪失がらみのドラマを、以前にテレビで見たことがあった。そんな言い分か人々に受
 け入れられるかどうか、そこまでは彼女にはわからない。家の人からも警察からも、たぶんあれ
 これ細かい質問をされることだろう。精神科医みたいなところにも連れて行かれるかもしれない。
 でもここは何ひとつ覚えていないと言い張るしかない。髪をくしやくしやにして、手足を泥だら
 けにして、ところどころにかすり傷をつけて、いかにもずっと山の中にいたみたいに見せかける
 のだ。そういう演技をがんばってやりとおすしかない。

  そして彼女はそれを実行した。お世辞にも上手な演技とは言えなかったが、それ以外に選べる
 道もなかっ.た。
  それが秋川まりえが私に打ち明けてくれた話たった。彼女がちょうどその一部始終を話し終え
 たころに、秋川笙子が戻ってきた。彼女の運転するトヨタ・プリウスがうちの前に停まる音が聞
 こえた。

 「実際に君の身に起こったことについては、口を閉ざしていた方がいい。ぼく以外の誰にも話さ
 ない方がいい。ぼくと君とのあいだの秘密にしておくんだ」と私はまりえに言った。
 「もちろん」とまりえは言った。「もちろん誰にも絶対に話さない。それに話しても誰にも信じ
 てもらえないだろうし」
 「ぼくは信じるよ」
 「それで環は閉じるの?」
 「わからない」と私は言った。「たぶんまだ環は閉じきっていない。でもあとはなんとかできる
 と思う。ほんとうに危険な部分はもう過ぎ去ったと思う」
 「チシテキな部分は」
 私は肯いた。「そう、致死的な部分は」

  まりえは十秒ばかり私の顔をじっと見ていた。そして小さな声言言った。「騎士団長はほんと
 うにいる」
 「そうだ、騎士団長はほんとうにいる」と私は言った。そして私はその騎士団長をこの手で刺し
 殺したのだ。ほんとうに。でもそんなことはもちろん口に出せない。
  まりえは一度だけこっくりと肯いた。きっと彼女はいつまでも秘密を守り続けるだろう。それ
 は彼女と私とのあいだだけの大事な秘密になる。
  まりえを何かから護ってくれたクローゼットの中のひと揃いの衣服が、彼女の亡くなった母親
 がかつて独身時代に身につけていたものであったという事実を、できることなら敦えてやりたか
 った。しかし払には、まりえにそれを敦えることはできなかった。私にはそんな権利はない。騎
 士団長もまたその権利を特たなかったはずだ。その権利を手にしているのは、この世界において
 おそらく免色ひとりだけだ。しかし免色がその権利を行使することはまずあるまい。
  我々はそれぞれに明かすことのできない秘密を抱えて生きているのだ。


この章はここで終わる、結末の第64章まで後2章となる。ところで、2の6乗が64である64と
いう数字になにか意味があるのか考える。昭和64年の1989年は昭和天皇が崩御し、北京ではは
天安門事件が起き、ベルリンの壁崩壊、チョコソロバキアでビロード革命、冷戦終結(マルタ会談)
ロマ・プリータ地震など起きている。または、癌細胞は体の中で、ある一個の正常細胞の遺伝子が立
て続けに傷を受けて癌化し、1センチから4センチ(直径が4倍 体積は4の3乗=64倍)64倍
になるには2の6乗=6回の分裂ということは6ヵ月に6回の分裂=1ヶ月に一度の分裂する増殖を
イメージし、やはり反戦平和のテーマと関係あるのか想像してみた。さて、次回は第63章「でもあ
なたがかんがえているようなこよじゃない」に移る。

                                      この項つづく
健康DIY顛末記:急性膀胱炎篇

● 冬に負けない対策:急性膀胱炎になりやすい体質

毎年ではないが、昨年12月から膀胱炎になったが、ことしも11月に入りその前兆のようなものを
感じる。そこで、ウォーシュレットの洗浄水に逆止弁を咬ませ肛門の殺菌剤を自動添加できるように
すればと考案(殺菌剤の参考例:特開2014-156612  配合組成物 小林製薬株式会社 2014年08月28日)
する。季節に関係なく大腸菌などが繁殖し炎症を起こすのだが、冬場は、①排尿回数が多くなり、②
風邪・インフルエンザなどや気温低下により抵抗力/免疫力が低下、③あるいは、寒さからトイレに
行くことが億劫で排尿を我慢して長時間膀胱に尿を溜めることで、ますます膀胱内で細菌が繁殖、感
染しやすくなる。イメージでいうと尿管に大腸菌がビッシリ付着している状態。対策は、①暖かくす
る(適度な運動)、②尿をためない、③清潔にする(今回の考案はこれに入る)、④抵抗力を浸ける
(現在、家で簡単に作れる自家製ドリンク剤を開発中)となる。

とはいえ、進行中の腰痛対策は芳しくない。ぶら下がり機を考案しようとは考えていますが。                  




 

海水系生分解プラスチック

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ 餞別とわいろ:門人の陣臻(ちんしん)が孟子にたずねた。「このまえ、斉から
       金百鎰(いつ✻)を贈られたとき、先生はお受け取りになりませんでした。しか
       しこのたびは宋から七十鎰を贈られてお受け取りになり、薛(せつ)からも五十
       鎰を贈られてお受け取りになりました。このまえお受けにならなかったのが正し
       いとすれば、このたびお受けになったのはまちがっています。このたびお受けに
       なったのが正しいとすれば、このまえお受けにならなかったのはまちがいという
       ことになります。いったいどちらが正しいとお考えですか」、「どちらも正しい
       のだよ。宋ではわたしは遠方へ向かうところだった。旅立つ特に餞別を贈るのは
       礼儀だ。だから宋王も『餞別です。お収めください』と言って渡してくれた。受
       け取って当然だろう。薛では、身に危険がせまっていた。領主も『物騒なようで
       すから、警護の費用にでも』と言って贈ってくれた。これも受け取って当然だろ
       う。しかし斉での場合は受け取る理由がなかった。正当な理由もないのに大金を
       贈るのは、買収しようとの魂胆だ。君子はそのようなものは受け取らない」

       〈金百鎰〉 原文は「兼金」で、良質の金のこと。一鎰は二〇両、約八OO匁。
       諸国遊説には、諸侯からこのような献金があったようで、当時の遊説家の生態が
       しのばれる。

      No.96

【ゼロウエスト篇:海水系生分解プラスチックの開発】 

11月15日、 株式会社カネカは、本年9月に開発商品のポリエステル系生分解性プラスチック(
商品名:カネカ生分解性ポリマー PHBH)で、海水中で生分解するとの認証「OK Biodegradable MAR
INE」を取得したことを公表。積極的にバイオプラスチックの採用を進める欧州で最も認知されている
認証機関VINÇOTTEによるもの、同社が開発した生分解性に優れた百%植物由来のバイオプラスチッ
クであり、現在欧州地域のプラスチック袋用途を中心に市場開拓を進めている。近年では、プラスチ
ックによる陸上の汚染に加え海洋汚染、特にマイクロプラスチックによる生態系への影響に関する懸
念が高まっている。今回、海水中でのPHBHの生分解性が認められたことから、海洋への投棄・漂流
の多い漁具・釣具や浮き、藻場再生などの海洋資材*5への用途拡大に取り組んでいる。同グループは、
この様なバイオマス由来で生分解性機能を併せ持つ新製品開発などにより、地球環境の問題に対して
ソリューションの提供を方針としている。



尚、ベルギーの認証機関「ヴァンソット」が認めたのは、原料が植物油脂など百%植物由来のプラス
チック「PHBH」。カネカによると、30℃の海水中で6カ月以内に90%以上が水と二酸化炭素
に分解。カネカはPHBH2011年から、土中で分解されるプラスチックとして高砂工業所で生産
し、食品用の袋や農業用のシート向けに販売している。だが、価格が一般のプラスチックに比べて2
~3倍と高いこともあり、国内では普及していない。欧米の一部では、生分解性プラスチック以外の
レジ袋を禁止するなど、規制が強まりつつあり、カネカは国際認証を得たことで、欧米での販売を増
やす方針にある。ところで、近年、大きさが5ミリ以下のプラスチックごみ(マイクロプラスチック
)が世界各地の海で見つかっている。汚染物質などを吸着して魚や鳥の体内に取り込まれており、人
体への悪影響が懸念されている。

❏ 特許5941729 分解速度が調節された生分解性プラスチック製品
                           並びに当該製品の製造方法
                  
【概要】

農林水産業などの環境中で使用される生分解性プラスチック、特にはポリヒドロキシアルカン酸の分
解速度を調節する方法を提供にあたり、ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックであ
って、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の
少なくとも1つ含有することを特徴とする、生分解性プラスチック。ポリヒドロキシアルカン酸は、
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)またはポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co
-3-ヒドロキシヘキサン酸)が好ましく、環境中で使用される生分解性プラスチックの分解速度を
調節することができる(詳細は下表クリック)。                                             



【ソーラータイル事業篇:瓦一体型太陽電池VISOLAが「みらいのたね賞」】

 カネカはさらに、瓦一体型太陽電池VISOLA(ヴィソラ)が一般財団法人日本能率協会より「みらいのた
ね賞」――優れた建築を生みだすことに貢献しうる、優れた製品、未来への布石となる製品を表彰す
る彰するもの―――を受賞。授賞式は、下記の「みらいのたね賞シンポジウム」にて行われる予定(
下図参照)。


❏ 特許5608386 屋根構造
                  
【概要】

太陽電池モジュールと屋根構造を形成する他の部材が、一体感を有していて見栄えが良く、防水性が
高い屋根構造を提供にあたり、下図46のように屋根部材の一部が隣接する屋根部材と重なって、屋
根部材の一部が露出する状態で屋根下地上に平面的な広がりをもって並べて載置され、断面構造に2
枚の屋根部材が重なった2重部位と、3枚の屋根部材が重なった3重部位がある基礎屋根構造を有し
、太陽電池モジュールは電力を取り出す端子ボックスを裏面側に備え、端子ボックスが2重部位の上
に位置すると共に、太陽電池モジュールが基礎屋根構造上に平面的な広がりをもって並べて載置され
ることを特徴とする屋根構造の特徴で信頼性の高い防水性能を確保しつつ、一体感があって美しい屋
根構造を実現することができる。


 

【符号の説明】

1 屋根構造 2 スレート瓦(屋根部材) 3 基礎屋根構造 6 軒先取付け金具(軒先取付け具)
6  中間取付け金具(取付け具) 10 太陽電池モジュール 50固定片51 接続部 52 下板部 
53 第1正面立ち上げ部 55 上板部  56 裏面立ち上げ部 57  支持台部 58 第2正面立
ち上げ部 60 正面部 61 覆い板構成部 64 屋根部材保持凹部 65 モジュール保持凹部 
70  固定部構成部材 71 中間板部材 72 下板部材 73 上板部材 74 押さえ板部材 75
立ち上げ部 

 


 

 【世界初、日本のデジタル内服錠剤の認証】

11月14日、大塚製薬株式会社とプロテウス・デジタル・ヘルス社は、世界初のデジタルメディス
ン「エビリファイ マイサイト」の承認を米国FDAから取得したことを公表。「エビリファイ マイサ
イト」は、エビリファイの錠剤に摂取可能な極小センサーを組み込んだもので、同剤の適応である成
人の統合失調症、双極性Ⅰ型障害の躁病および混合型症状の急性期、大うつ病性障害の補助療法にお
いて使用される。この錠剤を服用すると胃液に反応してセンサーが胃内でシグナルを発し、患者の身
体に貼り付けたシグナル検出器「マイサイト パッチ」がそれを検出。この検出器は、患者服薬デー
タだけでなく、活動状況などのデータを記録し専用の「マイサイトアプリ」に送信。アプリには、睡
眠や気分などを患者さんが入力できる。これらのデータはスマートフォンなどのモバイル端末に転送
され、患者の同意があれば医療従事者や介護者との情報共有も可能にとなる。



尚、米国内の試算では、処方通りに薬を飲まなかったことで病気が悪化したり、別の治療が必要にな
ったりして年間に計1千億ドル(約11兆円)のコストがかかっているという。この錠剤がうまくい
けば、薬を飲み忘れやすいほかの病気のお年寄りらにも応用できると関係者は期待を寄せる。一方、
患者のデータ管理や利用には、より慎重さを求める声が上がる。患者の様子を遠くから監視すること
にもつながりかねないとの懸念がある(朝日新聞デジタル 2017.11.15)。プロテウス社の社長はこの
システムにより、それぞれの患者の治療計画に役立つ情報を新しい方法で収集できるとコメント。大
塚製薬などはまず、米国の少数の患者を対象に、製品の価値を確認するという。日本での販売は現在
予定していない。

※約3ミリのセンサーを組み込んだ錠剤と、貼り付け型の検出器。大塚製薬によると、このような医
 薬品と医療機器を一体化した製品の承認は世界初。

❏ US9681842B2  Pharma-informatics system :医薬情報システム

【概要】

ユーザによって取り込まれた組成物の関連信号を受信するように構成されたコイルと、これにに動作する結合
されたデータ記憶素子とを含む装置であって、このデータ記憶要素が、関連信号に基づき、時間情報、 日付
情報、またはユーザ情報を含む(詳細下図クリック)。





          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

   第63章 でもそれはあなたが考えているようなことじゃない 

  私と秋川まりえは秘密を共有した。それはこの世界でおそらく私たち二人だけが共有している
 大事な秘密だった。私は自分が地底の世界で経験したことをすべてありのままに彼女に語り、彼
 女は自分が見仏の屋敷の中で経験したことをすべてありのままに私に語った。私たちはまた、
 『騎士団長殺し』と『白いスバル・フオレスターの男』という二枚の絵が堅く梱包され、雨田具
 彦の家の屋根裏に隠されていることを知フている、この世界でただ二人の人間だった。もちろん
 みみずくは知っているが、みみずくは何も語らない。沈黙の中に秘密を呑み込んでいくだけだ。
  まりえはときどき私の家に遊びにやってきた(叔母さんには言わずに、秘密の通路をとおって
 こっそりと)。そして我々は額を寄せ合うようにして、同時進行するその二つの体験談のあいだ
 に何かしらの共通項が見いだせないものかと、時系列を辿って隅々まで細かく検討した。

  まりえが失踪していた四日間と、私か「遠くに旅行に出ていた」三日聞か一致していることに
 ついて、秋川里子が何か疑念を抱かないかと心配だったのだが、そんなことはまったく彼女の順
 に浮かばないようだった。そしてもちろん警察もその事実には注意を向けなかった。彼らは〈秘
 密の通路〉の存在を知らないし、私の往んでいる家はあくまで「尾根ひとつあちら側」というこ
 とになってしまう。私は「近所の人間」とは見なされなかったし、したがって警察官がうちに事
 情を聴きに訪れたりするようなこともなかった。彼女が私の絵のモデルをつとめていたことを、
 秋川笙子は警察には言わなかったようだ。たぶんそれを必要な情報だと彼女は思わなかったのだ
 ろう。もし警察がまりえの行方不明の時期と、私が姿を消していた時期とを重ねあわせていたら、
 私はいささか微妙な立場に立だされていたかもしれない。

  私は結局、秋川まりえの肖像画を完成させなかった。ほとんど完成に近い状態にあったから、
 最後の仕上げさえすればよかったのだが、その絵を完成させたときに持ち上がるであろう事態を
 私は危惧した。それをいったん完成させてしまえば、免色はきっとあらゆる手を尽くしてその結
 を手に入れようとするに違いない。免色がたとえどう言おうと、私にはそのことが予測できた。
 そして私としては、秋川まりえの肖像画を免色の手に渡したくはなかった。それを彼の〈神殿〉
 に送り込むわけにはいかなかった。そこには危険なものが含まれているかもしれない。だから結
 局その結は未完成のまま終わることになった。しかしまりえはその絵をとても気に入っていたの
 で(「この結は今の私の考えをとてもよく表している」と彼女は言った)できればそれを自分の
 手元に置きたいと言った。私はその完成していない肖像画を喜んで彼女に進呈した(約束通り下
 絵の三枚のデッサンもつけて)。絵が未完成であるところがかえっていいのだと彼女は言った。
 「絵が未完成だと、わたし白身がいつまでも未完成のままでいるみたいで素敵じゃない」とまり
 えは言った。

 「完成した人生を持つ人なんてどこにもいないよ。すべての人はいつまでも未完成なものだ」
 「免色さんもそうなの?」とまりえは尋ねた。「あの人はとても完成されているみたいに見える
 けど」
 「免色さんだっておそらく未完成だ」と私は言った。

  免色は決して完成された人間なんかじやない。それが私の考えだった。だからこそ彼は夜ごと
 に高性能の双眼鏡で、秋川まりえの姿を谷間の向かい側に求め続けている。そうしないわけには
 いかないのだ。その秘密を抱えることによって彼は、この世界における自分の存在のバランスを
 うまくコントロールしている。それはおそらく免色にとっては、サーカスの綱渡り芸人の持つ長
 い棒のようなものなのだ。

  もちろんまりえは免色が双眼鏡を使って自分の家の内部を観察していることを知っていた。し
 かしそのことは(私以外の)誰にも明かさなかった。叔母にも打ち明けなかった。なぜ彼がそん
 なことをしなくてはならないのか、その理由はまだ不明のままだ。しかしどうしてかはわからな
 いが、その理由を追求したいという気持ちになれなかった。彼女はただ自分の部屋の窓のカーテ
 ンを決して開けようとしなかっただけだ。その目焼けしたオレンジ色のカーテンは常にぴたりと
 閉じられていた。そして夜に服を着替えるときは、いつも部屋の明かりを消すように注意してい
 た。しかしそれ以外の家の部分に関して言えば、日常的に盗み見られていたとしても、彼女はそ
 れほど気にはしなかった。むしろ自分か観察されていることを意識して、それを楽しむことさえ
 あった。あるいは自分しかそれを知らないということが、まりえにとっては意味を持っていたの
 かもしれない。

  まりえによれば、秋川笙子は免色との交際を続けているようだった。週に一度か二度、彼女は
 車に乗って免色の家を訪ねた。そしてそのたびに彼と性的な関わりを持っているようだった(ま
 りえは遠回しにそれを表現した)。彼女はとこに出かけるとも告げなかったが、まりえにはもち
 ろん叔母の行き先はわかった。帰宅したとき、若い叔母の顔はいつもより血色がよくなっていた。
 いずれにせよ――免色の中にどのような種類の特殊なスペースが存在しているにせよ秋川笙子と
 免臨が続けている交際を、まりえが阻止する手立てはなかった。二人には二人の道を好きに進ま
 せるしかなかった。まりえが望んでいるのは、その二人の関係ができるだけ自分を巻き込まずに
 進行してくれることだった。そして自分が、その渦から離れたところに自立した位置を係ってい
 られることだった。

  しかしそれはまずむずかしいだろう、というのが私の考えだった。遅かれ早かれ、多かれ少な
 かれ、まりえは自分でも気がつかないうちに、その渦に巻き込まれていくに違いない。違い周縁
 から、やがては紛れもない中心へと。免色はまりえの存在を念頭に置いた上で、秋川里子との関
 係を進行させているはずだ。そもそもの企みがあるにせよないにせよ、彼はそうしないわけには
 いかないのだ。それが彼という人間なのだ。そして、そんなつもりはなかったにせよ、結果的に
 二人を引き合わせたのは私たった。彼と秋川里子はこの家で最初に顔を合わせた。それは光臨が
 求めたことだった。そして免臨は自分の求めるものを手に入れることにどこまでも手馴れた人物
 なのだ。
  光臨がクローゼットの中にある一群のサイズ5のドレスや靴をこれからどうするつもりなのか、
 まりえにはわからない。しかしそれらの過去の恋人の衣服は、おそらく永遠にそこに――あるい
 はとこかほかの場所に――大事に隠匿され、保管されることになるだろうというのがまりえの推
 測だった。彼と秋川笙子がたとえこの先どのような関係に発展していくにせよ、免色にはそれら
 の衣服を棄てたり燃やしたりすることはできないはずだ。なぜならその一群の衣服は既に彼の
 精神の一部になってしまっているから。それは彼の〈神殿〉に永遠に祀られるべきもののひとつ
 なのだ。

  私は小田原駅前の絵画教室に教えにいくことをやめた。教室の主宰者には「申し訳ないが、そ
 ろそろ自分の創作に集中したいので」と説明した。彼はなんとかその説明を受け入れてくれた。
 「あなたの先生としての評判はとてもよかったのですが」と彼は言ってくれた。そしてそれはま
 ったくのお世辞というわけでもなさそうだった。私は丁寧にお礼を言った。その年の終わりまで
 教室で教え、そのあいだに彼は私の代わりをつとめる新しい先生を見つけてくれた。六十代半ば
 の高校の元美術教師たった。象のような目をした性格のよさそうな女性だった。

  免色はときどき私のところに電話をかけてきた。とくに何か用件があるわけではなく、私たち
 はただ軽い世間話をした。祠の裏手の穴に変わりはないかとそのたびに彼は尋ね、そのたぴにと
 くに変わりはないと私は答えた。実際に穴の様子には変わりはなかった。青いビニールシートで
 ぴったり覆われたままになっている。私は散歩の途中ときどきその様子を見に行ったが、誰かが
 シートを剥がした形跡はなかった。重しの石は変わりなく載せられていた。そしてその穴に関し
 て、不思議なことや不審なことはもう二度と起こらなかった。夜中に鈴の音が聞こえてくること
 もなかったし、騎士団長も(ほかの何ものも)姿を見せなかった。その穴はただひっそりと雑木
 林の中に存在しているだけだった。重機のキャタピラに空しくなぎ倒されていたススキも徐々に
 もとの元気を取り戻し、穴の周りは再びその茂みに隠されつつあった。

  彼は私か行方不明になっていた期間、ずっとあの穴の中にいたものと思っていた。どのように
 して私がそこに入れたのか、それは彼にも説明かつかない。しかし私がその穴の底にいたという
 のは紛れもない事実だったし、それを否定することはできなかった。だから彼が私の失踪と、秋
 川まりえの失踪とを結びつけることもなかった。彼にとって、その二つの出来事はあくまで偶然
 の一致だった。

  誰かが彼の家の中に四日間こっそり隠れていたことを、免色が何らかのかたちで感づいている
 かどうか、私は慎重に探りを入れてみた。しかしそんな気配はまったく見受けられなかった。そ
 んなことがあったとは、免仏はまったく気づいていないのだ。だとすれば、「開かずの部屋」の
 クローゼットの前に立っていたのは、おそらく彼本人ではなかったのだろう。では、いったい誰
 だったのだろう?

  電話はかかってきたものの、もう見仏がうちをふらりと訪れることはなくなった。彼はおそら
 く秋川笙子を手に入れてしまったことで、それ以上私と個人的に関わり合う必要性を感じなくな
 ったのかもしれない。あるいは私という人間に対する好奇心を失ってしまったのかもしれない。
 その両方かもしれない。しかしそれは私にとってべつにどちらでもいいことだった(ジャガーの
 V8エンジンの排気音がもう聞けなくなったことをときどき淋しくは思ったが)。

  とはいえ、ときどき電話をかけてくるところをみると(電話がかかってくるのはいつも夜のハ
 持前だった)、免色はまだ私とのあいだに何らかの繋がりを維持することを必要としているよう
 だった。あるいは、秋川まりえが彼の実の娘かもしれないという秘密を私に打ち明けてしまった
 ことが、少しは心にかかっていたかもしれない。しかし私がそのことを誰かに――秋川笙子かあ
 るいはまりえに――どこかで洩らすのではないかと、彼が心配していたとは思わない。私の口が
 固いことをもちろん彼は知っていた。彼はそれくらいの人を見る目は持ち合わせている。しかし
 たとえ相手が誰であるにせよ、そのような個人的な深い秘密を他人に打ち明けるというのは、と
 ても免色らしくない行為だった。たとえ彼のような意志強固な人間であっても、秘密を終始一人
 で抱え続けることにくたびれることもあるのかもしれない。あるいはそのときの彼は、それだけ
 切実に私の協力を必要としていたということかもしれない。そして私は比較的無害そうに見えた
 のだろう。

  でも彼が最初から意図して私を利用していたにせよ、していなかったにせよ、いずれにしても
 私は免色に感謝し続けなくてはならないだろう。私をあの穴の中から救出してくれたのは、なん
 といっても彼だったのだから。もし彼がやってこなかったら、そして梯子を下ろしてこの地上に
 引っ張り上げてくれなかったら、私はあの暗い穴の中でなすすべもなく朽ち果てていたかもしれ
 ない。私たちはある意味ではお互いを助け合ったわけだし、これで貸し借りはゼロということに
 なるのかもしれない。
 『秋川まりえの肖像』を未完成のまままりえに進呈したことを免色に告げると、彼は何も言わず
 ただ肯いた。その絵を依頼したのは免色だったが、彼はもうその絵をそれほど必要とはしなくな
 ったのかもしれない。あるいは完成していない絵には意味はないと思ったのかもしれない。それ
 とも何かべつのことを考えていたのかもしれない。 

  その話をした数日後に私は『雑木林の中の穴』を自分で簡単に額装し、免色に贈呈した。私は
 その絵をカローラの荷台に載せて免色の家まで持っていった(それが免色と実際に顔を合わせた
 最後になった)。
 「これはあなたに命を肋けていただいたことへのお礼です。よかったら受け取ってください」と
 私は言った。
  彼はその絵がとても気に入ったようだった(絵としての出来は決して悪くないと私自身も思っ
 た)。ぜひ謝礼を受け取ってほしいと言われたが、私はきっぱり断った。彼からは既に過分の報
 酬をもらっていたし、それ以上何かを受け取るつもりはなかった。私は免色とのあいだにこれ以
 上の貸し借りをつくりたくなかった。我々は今では決い谷間を隔てて住むただの隣人に過ぎなか
 ったし、できることならその関係をずっと保っておきたかった。 

                                     この項つづく



 ● 今夜の一曲

ボブ アクリー(Robert R. "Bob" Acri )イリノイ州シカゴ生まれのイタリア系米国人(1918年10月1日
~2013年7月25日) は米国のジャズピアニス。ボブはシカゴのオースティン高校卒業し、オースティ
ン・ハイでDave Garroway Radio ShowのNBC Orchestraでキャリア積んだ。古典的に訓練されたピアニ
ストであり、 Rudolph GanzとFred Euingとともに学習。 またカレル・ジラク博士とビル・ルッソ博士
のもとで学ぶ。シカゴのナイトクラブ・ミスター・ケリーのハウスバンドと NBCとABCのラジオ・オ
ーケストラで演奏。 ハリー・ジェームスとともにツアーを行い、レナ・ホーン、マイク・ダグラス、
エラ・フィッツジェラルド、バーブラ・ストライサンド、バディ・リッチ、ウッディ・ハーマンに同
行した。ルーズベルト大学で 70年代後半に音楽学士号と音楽修士号を取得。コンチネンタル・プラ
ザ・ホテルのカンティーナルームでハウスバンドのリーダーとしてのキャリア積み終える。2001年と
2004年に2つのソロアルバムをリリース。2004年のセルフタイトルアルバムに登場した "Sleep Away"
は、Windows 7 のコンピュータオペレーティングシステム用のサンプル音楽として使用された。

 Bob Acri - Timeless

 

最新金属空気電池技術

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

 

                                          

      ※ 政治家の自覚:斉の平陸(へいりく)へ行ったとき、孟子はその地の長官、孔距
       心(こうきょうしん)に言った。「警護兵が一日に三回持場を離れたら、処罰し
       ますか」「三回といわず・・・・・・」、「あなたはそれに似たことをたびたびやって
       いますね。災害の年、飢饉の年ともなれば、ご領内では老人や子供がのたれ死に
       するし、何千とも知れない若者が逃げ出しています」、「わたしの力ではどうに
       もならないことです」、「たとえば、牛と羊の飼育を頼まれた人がいるとします。
       その人は当然、放校地や牧草を探すでしょう。しかし万一見つからなかった場合、
       牛も羊も持ち主に返すべきでしょうか。それとも餓死するのを見殺しにすべきで
       しょうか」、「なるほど、人民の苦しむのはわたしの責任です」、その後、孟子
       は宣王に会ったとき、「あなたの国を冶めている長官を五人知っていますが、そ
       のうち責任を自覚している人は、孔距心だけです」 と言ってくだんの話をした。
       すると宣王は言った。「それはわたしの責任だ」

       【解説】さりげない質問で言質をとってから相手の痛いところを衝いてゆく、孟
               子得意の論法である。

     No.97

Wikipedia

 【蓄電池篇:最新金属空気電池技術】 

Nov. 5, 2012

● 安全で高エネルギー密度の蓄電池

電力貯蔵用途や電動車両用途など多岐にわたって、リチウムイオン電池よりもはるかに大きいエネル
ギー密度をもつ空気電池が注目されている。空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に使用する。こ
のような空気電池として、負極活物質に金属リチウム、リチウムを主成分とする合金やリチウムを主
成分とする化合物を使用するリチウム空気電池で、リチウム空気電池は、負極、電解質及び正極(空
気極)から構成、電解質としては、①水系電解質や②非水系電解質が用いられる。これらのうち、①
は、一般的には、負極と正極との間に固体電解質が配置され、固体電解質と正極との間に第1電解質
(水系電解質)が充填され、負極と固体電解質との間に第2電解質(緩衝層)が配置されて構成され
ている。このような水系電解質のリチウム空気電池は、②のリチウム空気電池に比べて、⑴空気中の
水分の影響を受けず、⑵電解質が安価であり、⑶不燃性である等の長所があり、リチウム空気電池は
正極でリチウムイオンと酸素が反応し、LiOHを生成する(放電)ことで電気を得るメカニズムで
ある。また、生成したLiOHをLiと酸素に分解する(充電)ことで再放電が可能となる。一方、
電極の交換が可能な金属空気電池も開示されているが、リチウム空気電池の負極にスラッジが形成さ
れた場合に、負極を交換すれば再生が可能になると考えられるが、リチウムは空気との反応性が高く、
燃焼する場合もあり、リチウムを含む負極の交換は容易ではない(特開2017-204350)。

正極活物質として空気中の酸素を用いるリチウム空気二次電池は、電池外部から常に酸素が供給され
電池内に大量の負極活物質である金属リチウムを充填することができる。このため、電池の単位体積
・単位重量当たりの放電容量を非常に大きくできる。正極であるガス拡散型空気極に種々の触媒を添
加することなどにより、放電容量やサイクル特性などの電池性能を改善する試みがなされている。例
えば、電解液として1mol/リットルのLiPF6 /炭酸プロピレン(PC)を用い、空気極触媒
としMnO2,Pt,Ru,RuO2などの貴金属や金属酸化物を用いた場合の電池特性を報告してい
る。最も優れた特性は、触媒としてMnO2を用いた時に得られ、具体的には、初回放電容量800m
Ah/gの大きな値を示し、16サイクル後においても放電容量600mAh/gを維持している。
しかし、約200mAh/gの容量低下が確認された。また、電解液としてLiClO4/テトラエチ
レングリコールジメチルエーテル(TEGDME)を用い、空気極触媒としてCo3O4を用いた場合
について報告しているが充放電容量0.4mAh/cm2でサイクルした時に、初回放電電圧が約2.
75Vを示すのに対し、67サイクル後には約2.5Vまで電圧が低下している。このように、従
来のリチウム空気二次電池は、充放電を繰り返すと放電容量が低下するという問題がある(特開2017
-204395)。

リチウム二次電池の負極にリチウム金属薄膜を利用するる場合、リチウムの高い反応性により、充放
電時、液体電解質との反応性が高く、リチウム負極薄膜上に、デンドライトが形成され、リチウム金
属薄膜を採用したリチウム二次電池の寿命及び安定性が低下する問題がある(特開2017-204468 )。

低温焼結が可能であり高いイオン伝導度を有する、高密度回路基板に適した結着用バインダーガラス
やリチウムイオン伝導性ガラスに好適なガラスおよびガラスを含有する複合体、ならびに該ガラスや
複合体を含む固体電解質がカチオン%表記で、Li+を62%超80%以下、Zr4+を0%超7%
以下、ならびに、Si4+、B3+およびGe4+からなる群から選ばれる1種以上を合計で13%以上
33.3%以下、かつB3+およびGe4+からなる群から選ばれる1種以上を合計で0%超33.3%
以下、含有し、Li+/(Si4++B3++Ge4+)で示されるSi4+、B3+およびGe4+の合計含
有量に対するLi+の含有量の割合が2.0超であるとともに、アニオン%表記で、O2-を100%
含有することを特徴とするガラスである。リチウムを多量に含有するガラスは、一方で、イオン伝導
性が高い固体電解質として機能することも期待できる。例えば、従来から、リチウムイオン二次電池
用の電解質には、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのような有機溶媒系の液体電解質
が使用されている。しかし、これら有機溶媒系の液体電解質は、可燃性で発火するおそれがある。ま
た、有機溶媒系の液体電解質は、高電圧が印加されると分解または変質しやすいという問題がある。

そこで、次世代のリチウムイオン二次電池用の電解質として、不燃性で、電圧印加に対して高い安定
性を有する無機固体電解質が期待されている。そして、無機固体電解質として、酸化物系のガラスま
たはガラスセラミックスからなる固体電解質が提案されているが、このガラスは、低温焼結が可能で
あり、積層セラミックスコンデンサや低温同時焼成セラミックス多層基板等の高密度回路基板を作製
する際の結着用バインダーガラスとして有用である。また、リチウムイオン二次電池の固体電解質に
有用で金属空気電池または全固体電池の固体電解質に適用できる(特開2017-197415)。
以上のことを踏まえリチウム空気電池の最新特許事例を掲載する。

Nov.5, 2017


❏ 特開2017-204468  リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池
                             
【概要】

リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池にあたり、下図(詳細クリック)のよう
にリチウム金属またはリチウム金属合金を含むリチウム金属電極と、リチウム金属電極の少なくとも一
部分に配置された保護膜と、を含み、該保護膜のヤング率は、106Pa以上であり、該保護膜は、
1μmを超過して100μm以下サイズの有機粒子、無機粒子及び有機-無機粒子のうちから選択さ
れた1以上の粒子を含み、該保護膜において、粒子間に存在する重合性オリゴマーの架橋体を含むリ
チウム金属電池用負極、及びそれを含んだリチウム金属電池で、一実施形態によるリチウム金属電池
用負極は、粒子間に重合性オリゴマーの架橋体が存在する保護膜を具備し強度のような機械的物性が
改善され、保護膜を具備した負極を利用すれば、電池の充放電時、体積変化が効果的に抑制され、サ
イクル寿命及び放電容量が改善されたリチウム金属電池が製作できる。

【符号の説明】

10  集電体  11 リチウム金属電極 12 保護膜 13,13a,13b,13c,43 粒子
13a’,13b  マイクロスフィア 14 イオン伝導性高分子 15,45 重合性オリゴマーの
架橋体 16,46 リチウム電着層 17 SEI 21,31 正極  22,32 負極 23,42
保護膜  24  電解質  24a 液体電解質  24b  個体電解質  24c セパレータ 30 リチウ
ム金属電池< 34 ケース 40,50 負極集電体 41,51 リチウム金属 52 リチウムデンド
ライト

❏ 特開2017-204350  リチウム空気電池及びリチウム空気電池の負極構造体
                             
【概要】

リチウム空気電池の充放電時に生成されるスラッジで負極が失活した場合、スラッジを除去し且つ負
極が空気に触れずに復活させてリチウム空気電池の繰返し使用が可能なリチウム空気電池及びこの負
極構造体を、下図3(詳細クリック参照)のように、リチウム空気電池は、負極と、負極に対して間
隔を有し配置された正極と、負極及び正極間に配置された固体電解質と、固体電解質及び正極間に充
填された第1電解質が電池ケース内に設け、負極は、負極集電体と、負極集電体に電気的に接続され
たリチウム負極体とを有し、リチウム空気電池が、負極と、リチウム負極体に対し隙間を有して配置
されリチウム負極体及び第1電解質間でリチウムイオンの伝導が可能な固体電解質と、リチウム負極
体及び固体電解質間でリチウムイオンの伝導が可能な第2電解質とを収容する負極部ケースを備える。
負極部ケースは電池ケースに対して挿脱可能に構成することで、リチウム空気電池の繰り返しの充放
電で、リチウムデントライトが形成されリチウム金属負極が失活した場合、リチウム金属負極を復活
させてリチウム空気電池の繰り返し使用を可能な状態を可能にするリチウム空気電池及びリチウム空
気電池の負極構造体を提供する。

【図3】図1のI-I矢視に相当する部分のリチウム空気電池の断面図
【図4】負極部ケースの正面側斜視図

【符号の説明】

1 リチウム空気電池 10、10A  負極部ケース 10a、62 上面 10b 側面  11  負極
12、12A  負極集電体  12a  集電体本体部  12b  接続部  12b1  第1接続部
12b2  第2接続部  13 負極端子  15 リチウム負極体  17 第1開口部  17a 開口部分
19、60a  空間部  21  仕切部材 22  挿入孔部 25、71 隙間  29 第2電解質  40
正極  41 正極集電体  42 正極端子  43 撥水層  44  触媒  50、50A  固体電解質 
53  第1電解質  60  電池ケース  61 側面  61a  孔部  62a 正極孔部 62b  負極
孔部  65  案内ガイド  66  ガイド部材  70  第2開口部  72  絶縁部材

✪リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する電解液

  July 31, 2017

✪リチウムイオン電池の15倍 !  電気自動車でガソリン車並みの走行距離実現へ

 Apr. 5, 2017
【その他関連特許】

・特開2017-197424  多孔質体およびその製造方法並びに電極 国立大学法人東北大学
・特開2017-199545  金属空気電池における水素ガス処理装置 夏目 伸一 他

ざっと、俯瞰しただけでも、リチウム空気蓄電池技術の進展していることが理解できる。結構はやい
テンポで「エネルギーフリー社会は」がやってくるかもしれない、この世界に大異変が起こらない限
り。わたし(たち)にはそう革新(あるいは確信/予感)させるものが胸のうちにある。

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

      第63章 でもそれはあなたが考えているようなことじゃない 

   私が穴の中から救い出された週の土曜日に、雨田典彦は息を引き取ったということだ。木曜日
 から三日閲読いた昏睡状態の中で心臓がその動きを停止した。機関車が終着駅に到着して、ゆっ
 くりその動きを止めるみたいに、静かにとても自然に。政彦はずっとそのそばに付き添っていた。
 父親が亡くなると、彼はうちに電話をかけてきた。

 「とても安らかな死に方だった」と彼は言った。「おれも死ぬときにはああいう具合に静かに死
 にたいものだ。目もとには微笑みのようなものさえ浮かんでいた」
 「微笑み?」と私は聞き返した。
 「正確には微笑みではないかもしれない。しかしそれはとにかく、何か微笑みに似たものだった。
 おれにはそう見えたよ」

  私は言葉を選んで言った。「亡くなったのはもちろん残念だけど、お父さんが穏やかに息を引
 き取ることができて、それはよかったかもしれない」
 「週の半ばまでは少し意識もあったんだが、とくに言い遠したいこともないようだった。九十い
 くつまで生きたし、さんざん好きなことをして生きた人だから、きっと思い残すこともなかった
 んだろうな」と政彦は言った。
  いや、披には思い残すことがあったのだ。とても重い何かを彼は心に抱え込んでいた。でもそ
 れが具体的にどんなことだったのか、それは披にしかわからない。そして今となっては、もう誰
 にも永遠にわからなくなってしまっている。
  政彦は言った。「これからしばらく忙しくなるかもしれない。父はいちおう有名人だったし、
 亡くなればいろいろと用件も出てくる。おれは跡取り息子ということで、そういうのを引き受け
 なくちやならない。少しして落ち着いたらまたゆっくり話そう」

  私は父親の死をわざわざ知らせてくれた礼を言って、電話を切った。
  雨田典彦の死は、家の中により深い沈黙をもたらしたようだった。まあそれも当然だろう。な
 にしろそこは雨田典彦が長い歳月を過ごした家だったのだから。私はその沈黙と共に数日を送っ
 た。それは濃密な、しかしいやな感じのしない沈黙だった。どこにも繋がっていかない、いねば
 純粋な静けさだった。とにかくこれで一連の出来事は終了したのだろう。そういう感触があった。
 そこにあるのは大きな案件がいちおう収束を見せたあとに訪れる種類の静寂だった。

  雨田典彦の死から二週間ほど経った夜、秋川まりえが用心深い描のようにこっそりとうちを訪
 れ、しばらく私と話をして帰って行った。それほど長い時間ではない。家族の監視の目が厳しく
 なり、彼女は以前ほど自由に家を抜け出すことができなくなっていた。
 「胸がだんだん大きくなってきたみたい」と彼女は言った。「それで叔母さんと一緒にこのおい
 たブラを買いに行った。初心者用のブラってのがあるの。知ってた?」
  知らないと私は言った。彼女の胸を見たが、緑色のシェトランド・セーターの上からは、とく
 に膨らみらしきものはうかがえなかった。

 「違いがまだわからないな」と私は言った。
 「薄いバッドしか入ってないから。だって最初から急に盛り上がっていると、何か詰め物をして
 いると、みんなにすぐにわかっちやうじやない。だからいちばん薄いのから始めて、だんだん少
 しずつ大きくしていくの。細工がこまかいっていうか」

  四日間どこにいたのか、女性の警官にずいぷん細かく質問をされた。女性の警官はおおむね優
 しく接してくれたが、何度か強く脅されることもあった。いずれにせよまりえは、山の中をうろ
 ついていたことのほかは何も覚えていない、途中で道に迷って、アクマが空白になってしまった
 ということで押し通した。鞄の中にいつもチョコバーとミネラル・ウォーターのボトルを入れて
 いるので、それを目にしたんだと思う。それ以外、余計なことは何ひとつ言わなかった。防火金
 庫のように強固に目を閉ざしていた。そういうのはもともと彼女の得意とするところだ。身代金
 をとるための誘拐事件ではないらしいことがわかると、次に警察の指定した病院に連れていかれ
 身体の怪我の具合を調べられた。彼らが知りたかったのは、彼女が性的な暴行を受けていないか
 ということだった。そういう形跡がないことがはっきりすると、警察は職業的興味を失ったよう
 だった。ただローティーンの女の子が数日間家に帰らず、外をふらふらしていたというだけのこ
 とだ。世間ではとくに珍しい出来事ではない。

  彼女はそのときに身につけていた衣服をそっくり処分した。紺色のブレザーコートもチェック
 のスカートも白いブラウスもニットのヴェストもスリッボン・シューズも、すべて。そして新し
 い制服一式を買い直した。気分を一新するためだ。それから何ごともなかったように、今までど
 おりの生活を続けた。しかし絵画教室にはもう通わなくなった(いずれにせよ、彼女はもう子供
 向けの教室にいる歳ではなくなっていた)。彼女は私の描いた彼女の肖像画(未完成のもの)を
 自分の部屋にかけた。

  まりえがこれからどういう女性に育っていくのか、私にはうまく想像できなかった。この年代
 の女の子は外見も心も、あっという間に様変わりしてしまう。数年経って会ったら、もう誰だか
 わからなくなってしまっているかもしれない。だから私は十三歳のまりえの肖像をひとつのかた
 ちとして残せたことを(たとえそれが未完成のまま終わっていたとしても)嬉しく思った。この
 現実の世界にそのまま永続する姿かたちなんて何ひとつないのだから。
  私は以前仕事をしていた東京のエージェントに電話をかけ、また肖像画を描く仕事を始めたい
 のだがと言った。彼は私の申し出を喜んでくれた。彼らは常に腕の確かな両家を必要としていた
 からだ。

 「でも、営業用の肖像画はもう描かないって言ってましたよね?」と彼は言った。
 「考え方を少し変えたんです」と私は言った。でもどのように考え方を変えたのかは説明しなか
 った。相手もとくに尋ねなかった。
  私はこれからしばらくのあいだは、何も考えずにただ自動的に手を動かしていたかった。そし
 て通常の「営業用」の肖像画を次から次へと量産していたかった。その作業はまた私に経済的な
 安定をもたらしてくれるはずだった。そんな生活をいつまで続けられるものか、私自身にもわか
 らない。先の予側かつかない。しかしとにかく今のところ、それが私のやりたいことだった。た
 だ無心に慣れた技術を駆使し、余計な要素を何ひとつ自分の内に呼び込まないこと。イデアやメ
 タフアーなんかと関わり合いにならないこと。谷間の向かい側に住む、とても裕福な謎の人物の
 ややこしい個人的な事情に巻き込まれたりしないこと。隠された名画を白日のもとに晒し、その
 結果挟くて暗い地底の横穴に引きずり込まれたりしないこと。それが現在の私か何より求めてい
 ることだった。

  私はユズに会って話をした。彼女の会社の近くにある喫茶店でコーヒーとペリエを飲みながら
 語り合った。彼女のおなかは私が思い描いていたほど大きくはなかった。
 「その相手の人と結婚するつもりはないの?」、私は最初にそう尋ねた。
  彼女は首を振った。「今のところ、そのづもりはない」
 「どうして?」
 「ただそうしない方がいいと感じるだけ」
 「でも子供は産むつもりなんだね?」

  彼女は小さく短く肯いた。「もちろん。もう後戻りはできない」
 「今はその人と一緒に暮らしているの?」
 コ緒に暮らしてはいない。あなたが出て行ったあと、ずっと一人で暮らしている」
 「どうして?」
 「まずだいいちに、私はまだあなたと離婚していないから」
 「でもぼくはこのあいだ送られてきた離婚届に著名し、印鑑も捺した。だから当然もう離婚は成
 立しているものと思っていたけど」

  ユズは少し黙って考え込んでから、目を開いた。「実を言うと、離婚届はまだ提出してはいな
 いの。なぜかそういう気持ちになれなくて、そのままにしてある。だから法律的に言えば、私と
 あなたは何ごともなくずっと夫婦のままなの。そして離婚しても、しなくても、生まれてくる子
 供は法的にはあなたの子供ということになる。もちろんあなたはそのことについて、何の責任を
 負う必要もないわけだけれど」
  私にはよくわけがわからなかった。「しかし君がこれから産もうとしているのは、その相手の
 人の子供なんだろう、生物学的に言えば」
  ユズは目を閉ざしたままじっと私の顔を見ていた。そして言った。「話はそれほど簡単じやな
 いの」
 「どんな風に?」
 「どう言えばいいのかしら、彼がその子供の父親だという確信が私には今ひとつ持てないから」
  今度は私か彼女の顔をしげしげと見る番だった。「誰が君を妊娠させたのか、それが君にはわ
 からないということこ?」

  彼女は肯いた。それがわからないということだ。

 「でもそれはあなたが考えているようなことじゃないの。私はそのへんの男と誰彼とかく寝てま
 わったりはしない。ひとつの時期に一人としかセックスはしない。だからあなたとも、ある時点
 からはそういうことをしなくなった。そうよね?}

  私は肯いた。

 「申し訳ないとは思ったけど」
  私はもう一度肯いた。
  ユズは言った。「そして私はその人とのあいだでも注意深く避妊していた。子供をつくるつも
 りはなかったから。あなたも知っていると思うけど、私はそういうことにはすごく慎重な性格な
 の。でも気がついたらしっかり妊娠していた」
 「どんなに用心しても失敗することはあるだろう」
  彼女はまた首を横に振った。「もしそういうことがあったら、女の人にはなんとなくわかるも
 のなの。勘のようなものが働くから。男の人にはそういう感覚ってわからないと思うけど」

  もちろん私にはそんなことはわからない。

 「そしてとにかく、君はその子供を産もうとしている」と私は言った。
  ユズは肯いた。
 「でも君は子供をつくることをずっと望んではいなかった。少なくともぼくとのあいだには」
  彼女は言った。「ええ、私はずっと子供を求めてはいなかった。あなたとのあいだにも、誰と
 のあいだにも」
 「でも今、君は父親が誰だか確信の持てない子供を、進んでこの世に送り出そうとしている。も
 しそうしようと思えば、もっと早いうちに中絶もできたはずなのに」
 「もちろんそのことも考えたし、迷いもした」
 「でもそうはしなかった」
 「最近になって思うようになったの」とユズは言った。「私が生きているのはもちろん私の人生
 であるわけだけど、でもそこで起こることのほとんどすべては、私とは関係のない場所で勝手に
 決められて、勝手に進められているのかもしれないって。つまり、私はこうして自由意志みたい
 なものを持って生きているようだけれど、結局のところ私自身は大事なことは何ひとつ選んでい
 ないのかもしれない。そして私か妊娠してしまったのも、そういうひとつの顕れじやないかって
 考えたの」

  私は何も言わずに彼女の話を聞いて

 「こういうのって、よくある運命論みたいに聞こえるかもしれないけど、でも本当にそう感じた
 の。とても率直に、とてもひしひしと。そして思ったの。こうなったのなら、何かあっても私一
 人で子供を産んで育ててみようって。そして私にこれから何か起こるのかを見届けてみようって。
 それがすごく大事なことであるように思えた」
 「ひとつ君に訊きたいことがあるんだけど」と私は思い切って言った。
 「どんなこと?」
 「簡単な質問だから、ただイエスかノーで答えてくれればいい。それ以上ぼくは何も言わない」 
 「いいわよ。訊いてみて」
 「もう一度君のところに戻ってかまわないだろうか?」
  彼女は眉を僅かに寄せた。そしてしばらく礼の顔をじっと見ていた。「それはつまり、もう一
 座礼と一緒に夫婦として暮らしたいということなの?」
 「もしそうできるなら」
 「いいわよ」とユズは静かな声で、とくに迷いもせずに言った。「あなたはまだ礼の夫だし、あ
 なたの部屋は出て行ったときのままにしてある。戻るうと思えばいつでも戻ってこられる」
 言きあっていた相手の人とはまだ関係が続いているの?」と私は尋ねた。

  ユズは静かに首を振った。「いいえ。もう関係は終わっている」
 「どうして?」
 「だいいちに礼は生まれてくる子供の親権を彼に与えたくなかった」

  私は黙っていた。

 「そう言われて、彼にはずいぶんショツクだったみたいね。まあ、当たり前のことかもしれない
 けれど」と彼女は言った。そして両手で頬を何度かこすった。
 「ぼくならかまわないということなのかな?」

  彼女は両手をテーブルの上に置き、もう一度礼の顔をしげしげと眺めた。

 「あなたは少し変わったのかしら? 顔つきとかそういうものが?」
 「顔つきのことはよくわからないけど、ぼくはいくつかのことを学んだんだと思う」
 「礼もいくつかのことを学んだかもしれない」

  私はカップを手にとって、残っていたコーヒーを飲んだ。そして言った。

 「父親が亡くなって、政彦もいろいろと大変そうだし、いろんなものごとが落ち着くまでにしば
 らく時聞かかかると思う。でもそれが一段落したら、たぶん年が明けて少ししたら、荷物を整理
 してあの家を出て、広尾のマンションに戻れると思う。ぼくがそうしても、君の方はかまわない
 かな?」

  彼女はとても長いあいだ私の顔を見ていた。しばらく離れていた懐かしい風景を久しぷりに目
 にしているみたいに。それから于を伸ばして、テーブルの上にあった私の手にそっと重ねた。

 「できれば、もう一度あなたとやり直してみたいと思う」とユズは言った。「実はそのことはず
 っと考えていた」
 「ぼくもそれを考えていた」と私は言った。
 「それでうまくいくかどうか、私にはよくわからないけれど」
 「ぼくにもよくわからない。でも試してみる価値はある」
 「私は近いうちに父親のはっきりしない子供を産み、その子を育てていくことになる。それでも
 かまわないの?」
 「ぼくはかまわない」と私は言った。「そして、こんなことを言うとあるいは頭がおかしくなっ
 たと思われるかもしれないけど、ひょっとしたらこのぼくが、君の産もうとしている子供の潜在
 的な父親であるかもしれない。そういう気がするんだ。ぼくの思いが遠く離れたところから君を
 妊娠させたのかもしれない。ひとつの観念として、とくべつの通路をつたって」
 「ひとつの観念として?」 
 「つまりひとつの仮説として」



  ユズはそのことについてしばらく考えていた。それから言った。「もしそうであれば、それは
 なかなか素敵な仮説だと思う」
 「この世界には確かなことなんて何ひとつないかもしれない」と私は言った。「でも少くとも何
 かを信じることはできる」
  彼女は微笑んだ。それがその日の我々の会話の終わりだった。彼女は地下鉄に乗って帰宅し、
 私は埃まみれのカローラ・ワゴンを運転して山の上の家に戻った。 

さて、次回は最終章。                                                        

                                      この項つづく

  

STM-304

 【DIY日誌:スチームクリーナを使ってみる】

アイリスオオヤマのスチームクリーナーのパッケージを開封し風呂場、トイレ、台所、空調機の掃除
に使ってみる。4週間目にしてやっと使ってみた。掃除・殺菌など対象により使い方を工夫がいるよ
うだが、効果/評価は 具体的な作業で確認していくことにする。次は、振動式工具という予定。

      

エネルギーフリー事業始動

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             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

 

                                          

      ※ 職務と職責:孟子が蚳鼃(ちあ:蚳斉の大臣)に言った。「霊丘の長官を
       やめて、司法長官になったとは、みあげたことです。司法長官ともなれば
       王を諫めるのにうってつけですからね。で、就任して伺カ月にもなります
       が、まだ諫める機会はないのですか」。蚳鼃はさっそく王を諌めたが、聞
       き入れられなかった。かれは国を去った。そこで斉の人々は、「蚳鼃に忠
       告したのはよいが、孟子自身はどうなのか」と非難した。公都子(孟子の
       弟子)がこの話を伝えると、孟子は言った。「職務のある者は、職務を果
       たせなければ、国を去るべきだ。諌言の責任のある者は諌言して聞き入れ
       られなければ、国を去るべきだ。わたしには、職務がない。諌言の責任も
       ない。のんびりしたものだよ」 

 

ISBN Print: 978-92-64-28205-6 / PDF: 978-92-64-28230-8

    No.98

 【太陽光発電40年までに最安値のエネルギーに】

 

11月14日 国際エネルギー機関(IEA)は、太陽光発電が2040年までに多くの国や地域で最
も低コストのエネルギー源となり、低炭素型電源の設備容量として最大になるとの見通しを発表(
「World Energy Outlook: WEO 2017」。によるもの現在のエネルギー政策、および「パリ協定」以降
に発表された政策を前提とした「新政策シナリオ」において、全世界のエネルギー需要は以前よりも
緩やかに増加するものの、2040年までに現在の全世界の需要に中国とインドの需要を加えた量の
30%まで拡大する。年平均成長率3.4%のグローバル経済――現在の74億人から40年に90
億人以上へ増加するとの見通しに試算されている。現在、エネルギー需要の伸び率が最も大きいのイ
ンドが約30%――全世界のエネルギー消費にインドが占める割合は、40年までに11%上昇する。
インドに次ぐのが東南アジアで、中国の2倍のペースで需要拡大。再エネ全体は、全発電容量の40
%――中でも中国とインドが加速導入――と拡大、再エネの中で最大の電源になる(下図)、一方、
欧州では30年代初頭に風力が最大のエネルギー源の主要技術になり、40年までの関連電源向け投
資の3分の2を占めると予測。

また、省エネルギーのさらなる向上が、エネルギー供給側の負担軽減に大きな役割を果たす。省エネ
で改善がなければ、最終需要家のエネルギー消費は2倍以上になり、再エネ電源がエネルギーの一次
需要の増加分の40%を満たし、電力分野で急成長により大規模な二酸化炭素回収利用・貯留(CCUS)
が活用されない限り石炭が盛況だった時代が終わる。今後25年間、世界のエネルギー需要の成長は、
第一に再エネ、次に天然ガスによって賄われ、急速下落するコストにより、太陽光が最も安い電源と
なる。これらのトレンドシフトと同時に、エネルギーの生産者と消費者を隔てていた従来の区分が次
第にボーダーレスト化し、主要新興国がエネルギー分野の中心に移動することなども指摘している。

● 安い太陽光発電が2040年までに世界の石炭産業を駆逐 

  Dec. 26, 2017

6月17日、米国雑誌フォーチュン社は、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの調査
によると、米国における総石炭発電量は2040年に半減すると予測、欧州の予測される低下は87
%、ドイツとブラジルの電力生産量全体石炭発電プロジェクトがキャンセルされると予測、太陽エネ
ルギーが2021年までに世界のほとんどの地域で石炭よりも電気を発電する安価な方法であると結
論づけている。その交差点は、以前よりも早く到着すると予測され、大規模な市場シフトを引き起こ
す。太陽光発電コスト低下は、20年までに66%減少し石炭火力を下回る、また、風力発電のコス
トは、海上風力発電が47%減少する間に71%下落する(上/下グラフクリック参照)。

 Jun. 15, 2017

Aug 15, 2016 

 



【蓄電池篇:フィスカ社の電気自動車用エネルギー高密度固体蓄電池】

11月13日、フィスカ(Fisker)社の研究グループは、全固体型蓄電池――Sakti3(以前のダイソ
ン社買収)を含め、高密度エネルギーの全固体型蓄電池の特許――電気自動車の普及に必要とされる
要求されるエネルギー密度、電力およびコスト目標達成に重要な新規材料および製造プロセスに関す
る請求を含む――を非公開(?)で提出。フィスカ社の固体電池は、リチウムイオン電池のエネルギ
ー密度の2.5倍の三次元電極を特徴とする。この技術により、1回の充電で500マイル(約80
5キロメートル)以上の走行を可能にしガソリンタンクを充填するよりも1分早く充電できる。この
技術は2023年以降の自動車仕様として搭載される予定。全固体化技術の課題は、①電極電流密度
の低下、②温度範囲の制限、③材料の利用可能性の限界、④高コスト、⑤および非スケーラブル(非
大規模性)な製造プロセスが含まれる。⑥初期の結果よりこのフレキシブルな固体化技術は、従来の
平板な薄膜固体電極よりも25倍の表面積を持つ三次元バルク固体電極と、極めて高電子/イオン伝
導度を、急速充電/低温化を実現できる。その結果、典型的なリチウムイオンバッテリーのエネルギ
ー密度の2.5倍の性能もつが、材料/製造進歩により、2020年想定価格の3分の1に引き下げ
る必要があり。⑥また、苛酷試験上の課題解決、⑦さらに、充放電プロセス中の体積変化および残留
応力による剥離問題。⑧デンドライトの浸透および安定性対金属リチウム電極の固体状態の材料の制
約上の課題、⑨特に、低温の気候における低イオン拡散障害があるが、以上のボトルネック技術課題
の解決を行っている。このことにより、フレキシブルな固体電極構造は、❶多様な電圧と❷形状因子
を持つ電池を実現する。電圧出力の高い円筒形セルに巻きつき、セル・ツー・セル接続、熱管理、安
全性の要件に加え、現在のツーリングやバッテリパック用器機使用を実現しバッテリシステムのコス
トがさらに削減できる。



また、技術が2023年以降の自動車用途向けに準備されると予測しているが、このような長いリー
ドタイムは、特定の原材料と適切な製造ツールを備えたサプライチェーンが欠如としており、材料の
再現性上に確立された品質手順を構築できているとフィスカ社々長、自動車以外のパートナーシップ
の可能性がある様々な産業グループとの積極的な議論を進め、2023年より早く製品化が可能とな
る可能性があると語っている。

【関連特許】

❏ US9761847B2 Packaging and termination structure for a solid state battery :
                                     固体電池用のパッケージングおよび終端構造

 【要約】固体電池装置の製造方法。 この装置は、電気化学的に活性な層と、ポスト終端されたリー
ド構造で構成されたインターデジテート層構造を有するオーバーレイバリア材料とを含むことができ
る。 この方法は、マルチスタック構成で形成された複数のバッテリデバイスセル領域(1-N)を形成
することを含むことができ、各バッテリデバイスセル領域は、第1の電流コレクタおよび第2の電流
コレクタを含む。この方法はまた、第1および第2のリード材料の厚さを形成して、複数のバッテリ
デバイスセル領域のそれぞれに関連する第1および第2の電流コレクタのそれぞれを相互接続するた
めの第1および第2のリード構造を形成し、第1および第2の孤立領域内で電池素子セル領域の空間
的に外側に延在する第2の集電体のうちの1つを含む。

❏ US9631269B2 Thermal evaporation process for manufacture of solid state battery devices :
                                            固体電池装置の製造のための熱蒸発プロセス

【要約】固体電池装置の製造方法。この方法は、装置のプロセス領域内に基板を設けることを含むこ
とができる。陰極源及び陽極源は、1つ以上のエネルギー源に供されて熱エネルギーを原料の一部に
移動させて蒸発させて蒸気相にすることができる。イオン源からのイオン種を導入することができ、
複数の電子およびイオン種に由来する気体種を相互作用させることによって、表面領域の上に固体電
池材料の厚さを形成することができる。 固体電池材料の厚さの形成中、表面領域は、約10 -6~10 -4
Torrの真空環境に維持することができる。非反応性種を有するカソード、電解質、およびアノードを
含む活性材料は、修飾されたモジュラス層、例えば空隙または空隙のような多孔質材料の形成のため
に堆積させることができる。

❏ US962727B2 Embedded solid-stateB2:内蔵固体電池

【要約】エンドツーエンドプロセスを使用する電気化学セルの要素。 この方法は、セルの埋め込み
導体を製造する平坦化層を堆積させることを含み、最適化された電気的性能およびエネルギー密度の
堆積された終端を可能にする。本発明は、PMLまたは他の材料の平坦化されたマトリックスに導体お
よび活性層を埋め込み、それらを別個の電池に切断し、平坦化材料をエッチングして集電体を露出さ
せ、ポスト真空堆積工程で終わらせる技術を対象とする。



 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

 

      第64章 恩寵のひとつのかたちとして 

    私が妻のもと仁戻り、再び生活を共にするようになってから数年後、三月十一目に東日本一帯
 に大きな地震が起こった。私はテレビの前に座り、岩手県から宮城県にかけての海岸沿いの町が
 次々に壊滅していく様子を日にしていた。そこは私かかつて古いプジョー205に乗って、あて
 もなく旅をしてまわった地域だった。そしてそれらの町のうちのひとつは、あの「白いスバル・
 フオレスターの男」と出会った町であるはずだった。しかし私かテレビの画面で目にしたのは、
 巨大な径物のような津波によってなぎ倒され、ほとんどばらばらに解体されてしまったいくつも
 の町の残骸だった。私かかつて通り過ぎたあの町に繋がるものは、そこには何ひとつ見当たらな
 かった。そして私はその町の名前すら覚えていなかったから、そこが震災によってどのような被
 害を受け、どう変わってしまったのか確かめるすべもなかった。

  何をすることもできず、言葉を失ったまま、私はテレビの画面を何日もただ眺めていた。テレ
 ビの前を離れることができなかった。私はその画面の中から、自分の記憶に結びつく光景をひと
 つでもいいから見つけ出したいと願った。そうしなければ、自分の中にある何か大事な蓄積が、
 どこか知らない遠いところに巡ばれていって、そのまま消滅してしまいそうな気がしたからだ。
 今すぐ車に乗って、その場所に行ってみたいと思った。そしてそこに何か残されているのかを自
 分の目で確かめてみたかった。しかしそんなことはもちろんできっこない。幹線道路はずたずた
 に寸断されていたし、町や村は孤立していた。電気もガスも水道も、ライフラインは根こそぎ破
 壊され、失われてしまっていた。そして南側の福島県では(私が死んだプジョーを残してきたあ
 たりだ)、海岸沿いのいくつかの原子力発電所がメルトダウン状態に陥っていた。とても私か近
 づけるような状態にはなかった。



  それらの地域を旅してまわっていたとき、私は決して幸福ではなかった。どこまでも孤独で、
 切ない割り切れない思いを身のうちに抱えていた。多くの意味あいにおいて、私は失われていた
 と思う。しかしそれでも私は旅を続けながら、見知らぬ多くの人々のあいだに身を置き、彼らの
 送っている生活の諸相を通り抜けてきた。そしてそれはそのとき私が考えていたよりは、ずっと
 大事な意味を持つことだったのかもしれない。私はその途中で――多くの場合は無意識のうちに
 ――いくつかのものごとを棄て、いくつかのものごとを拾い上げることになった。それらの場所
 を通り通ぎたあとでは、私はそのまえと少しだけ違う人間になっていた。

  小田原の家の屋根裏に隠した『白いスバル・フォレスターの男』の絵を私は思った。あの男は
 ――それが現実の人間であれ何であれI今もまだあの町に暮らしていたのだろうか? そして、
 私と不思議なコ枚を共にした痩せた女は、まだあの町にいたのだろうか? 彼らはうまく地震や
 津波を逃れ、生き延びることができただろうか? あの町にあったラブホテルやファミリー・レ
 ストランはいったいどうなったのだろう?

  夕方の五時になると、私は保育園に子供を迎えに行った。それが私の日々の習慣だった(妻は
 また建築事務所の仕事に復帰していた)。うちから人人の足で歩いて十分ほどの距離のところに
 保育園はあった。そして私は娘の手を引いて、うちまでゆっくり帰り道を歩いた。雨が降ってい
 なければ、途中で小さな公園に寄ってベンチで休み、散歩している近所の犬たちを見物した。娘
 は小型犬を欲しがったが、私の住んでいるマンションではペツトを飼うことが禁止されていた。
 だから彼女は公園で犬たちを眺めることで我慢しなくてはならなかった。ときどき小さなおとな
 しい犬を触らせてもらえることもあった。

  娘の名前は「室」(むろ)といった。ユズがその名前をつけた。彼女は出産予定日の少し前に、
 夢の中でその名前を目にした。彼女は広い日本間に▽人でいた。美しい広い庭園に面した部屋だ
 った。
 そこには古風な文机がひとつあり、机の上には一枚の白い紙が置かれていた。紙には「室」とい
 う宇がひとつだけ大きく、黒い墨で鮮やかに書かれていた。誰がそれを書いたのかはわからない
 が、とても立派な字たった。そういう夢だった。彼女は目覚めたとき、その光景をはっきり思い
 出すことができた。それが生まれてくる子供の名前であるべきだと彼女は主張した。私にはもち
 ろん異存はなかった。なんといってもそれは彼女の産む子供なのだ。その宇を書いたのはあるい
 は雨田典彦であったかもしれない。私はふとそう思った。でもただ思っただけだ。結局のところ、
 それは夢の中の出来事に過ぎないのだから。

  生まれてきた子供が女の子であったことを私は嬉しく思った。私は妹のコミとともに子供時代
 を送ってきたせいで、身近に小さな女の子がいるとなんとなく気持ちが落ち着いた。それは私に
 とってどこまでも自然なことだった。そしてその子供が迷う余地のない確かな名前を持ってこの
 世界に生まれてきたことも、私にとっては喜ばしいことだった。名前というのはなんといっても
 大事なものなのだから。

  むろは家に帰ると、私と一緒にテレビのニュースを見た。私は津波の押し寄せてくる光景を彼
 女にできるだけ見せないようにした。幼い子供にはあまりに刺激が強すぎるからだ。津波の映像
 が映ると、私はすぐに手を伸ばして娘の両目を塞いだ。

 「なんで?」 とむろは尋ねた。
 「きみは見ない方がいい。まだ早すぎる」
 「でもほんとのことだよね」
 「そうだよ。遠くでほんとうに起こっていることだ。でもほんとうに起こっていることをみんな、
 きみが見なくてはならないというわけじゃないんだ」

  むろは私の言ったことについてしばらくひとりで考えていた。でもそれがどういうことなのか
 もちろん理解はできなかった。彼女には津波や地震というような出来事も理解できなかったし、
 死というものの持つ意味も理解できなかった。でもとにかく私は彼女の目を手でしっかりと塞い
 で、津波の映像を見せないようにした。何かを理解することと、何かを見ることとは、またべつ
 のことなのだ。
  あるとき、私はテレビの画面の隅に「白いスバル・フォレスターの男」をちらりと見かけた。
 あるいは見かけたような気がした。カメラは津波で内陸の丘の上まで運ばれ、そこに取り残され
 た大型漁船を映していたが、そのそばにその男が立っていたのだ。もう役目を果たせなくなった
 象と、その象使いのようなかっこうで。でもその映像はすぐに別のものに切り替わった。だから
 それが本当に「白いスバル・フォレスターの男」であったのかどうか、確信は持てない。しかし
 黒い革ジャンパーを着て、ヨネックスのロゴのついた黒いキャップをかぶっているその長身の姿
 は、私には「白いスバル・フォレスターの男」としか見えなかった。
  しかし男の姿はそれっきり画面に現れなかった。私が彼の要を目にしたのはほんの一瞬のこと
 だった。カメラはすぐに別のアングルに切り替わった。

  地震のニュースを見るかたわら、私は日々生活のために「営業用」の肖像画を描き続けた。何
 を考えることもなく、キャンバスに向かって半ば自動的に手を動かし続けた。それが私の求めて
 いた生活だった。そしてまたそれが人々が私に求めているものだった。そしてその仕事は私に確
 実な収入をもたらしてくれた。それもまた私の必要としているものだった。私には養うべき家族
 がいるのだ。

  東北の地震のニケ月後に、私がかつて往んでいた小田原の家が火事で焼け落ちた。雨田典彦が
 その半生を送った山頂の家だ。政彦が電話でそれを伝えてくれた。そこは私が出たあと長いあい
 だ住むものもなく、空き家のままになっており、政彦はその管理について心を痛めていたのだが、
 その不安がまさに的中して火事が起きたのだ。五月の連休明けの未明に火が出て、消防車が通報
 を受けてかけつけたが、そのときにはもうその古い木造家屋はほとんど焼け落ちてしまっていた
(挟く曲がりくねった急な坂道は大型消防車のアクセスをきわめて困難なものにしていた)。幸い
 なことに前夜から雨が降っていたせいもあって、近辺の山林への類焼はなかった。消防署が調査
 をしたが、出火の原因は結局のところ不明だった。漏電かもしれないし、あるいは不審火かもし
 れないということだ。

  その知らせを間いて、私の頭にまず浮かんだのは『騎士団長殺し』のことだった。おそらくあ
 の絵も家と共に焼けてしまったのだろう。そして私の描いた『白いスバル・フオレスターの男』
 も。また大量のレコード・コレクションも。あの屋根裏のみみずくは無事に逃げ出すことができ
 たのだろうか?
  絵画『騎士団長殺し』は疑いの余地なく雨田典彦の残した鍛高傑作のひとつであり、それが火
 事によって失われてしまったことは、日本の美術界にとって手痛い損失であるはずだった。その
 絵を目にしたことがある人間は、ごく少数に限られていた(私と秋川まりえがそこに含まれてい
 る。秋川笙子もちらりとではあるが見ている。そしてもちろん作者である雨田具彦。そのほかに
 はたぶん一人もいないのではないだろうか)。そんな責重な未発表絵画が火事の炎に焼かれ、こ
 の世界から永遠に消え失せてしまったのだ。私はそのことに責任を感じないではなかった。それ
 は「雨田具彦の隠された傑作」として世間に広く公開されるべきではなかったのか? でもそう
 するかわりに、私はその絵を再びしっかり包装して屋根裏に戻した。そしてその素晴らしい結は
 おそらく灰値に帰してしまったのだ(私はスケッチブックにその絵の登場人物一人一人の姿を詳
 細にスケッチしていたが、『騎士団長殺し』という作品に関してあとに残されているものは、今
 となってはそれだけだ)。そう思うと、絵描きのはしくれとして胸が痛んだ。あんなに素晴らし
 い作品だっだのに、と私は思った。私かおこたったことは、あるいは芸術に対する背信行為だっ
 たかもしれない。

  しかしそれと同時に私は、それはおそらく失われなくてはならなかった作品だったのかもしれ
 ないとも思った。私の見るところ、その絵にはあまりに強く、あまりに深く雨田典彦の魂が往ぎ
 込まれていた。それはもちろん優れた絵ではあったけれど、同時に何かを招き寄せる力を有した
 絵だった。「危うい力」と言っていいかもしれない。事実、私はその絵を発見することによって
 ひとつの環を間いてしまったのだ。そんなものを明るいところに出して公衆の目に咽すのは、あ
 るいは適切なことではなかったのかもしれない。少なくとも作者である雨田典彦白身はそう感じ
 ていたのではあるまいか? だからこそ彼はその絵をあえて公表することなく、屋根裏にしまい
 込んだのではないだろうか? もしそうだとしたら、私は雨田典彦の意思を尊重したことになる。
 いずれにせよ、それはもう炎の中に失われてしまったのだし、誰にも時間を巻き戻すことはでき
 ない。

 『白いスバル・フォレスターの男』が失われたことについては、私はとくに残念だとは思わなか
 った。私はいつかもうコ皮、その肖像画に挑戦することになるだろう。しかしそのためには私は
 自分をより確固とした人間として、より大柄な画家として立ち上げなくてはならない。もうコ皮
 私か「自分の絵を描きたい」という気持ちになったとき、私はまったく違うフォルムで、まった
 く遺う角度から「白いスバル・フォレスターの男」の肖像を描き直すことになるはずだ。そして
 それはあるいは、私にとっての『騎士団長殺し』になるかもしれない。そしてもしそんなことが
 実際に起こったなら、おそらく私は雨田典彦から貴重な遺産を受け継いだということになるだろ。

  秋川まりえが火事のすぐあとにうちに電話をかけてきて、私たちはその焼け落ちた家屋につい
 て半時間ばかり話しあった。彼女はその小さな古い家を心から大事に思っていたのだ。あるいは
 その家屋が含まれていた風景を、そしてまたそのような風景が彼女の生活の中に根付いていた
 日々を。そこにはまた在りし日の雨田典彦の姿も含まれていた。彼女の見た両家はいつも一人で
 スタジオにこもって絵の制作に集中していた。ガラス窓の奥にそんな姿が見えた。そういう風景
 が永遠に失われてしまったことは、まりえを心から悲しませたようだった。そして彼女の感じて
 いる悲しみは私にも共有できた。その家は――住んだ期間こそ八ケ月足らずだったけれど――私
 にとってもずいぶん深い意味を持っていたからだ。

  そしてその電話での会話の最後に、まりえは自分の胸が前よりずっと大きくなったことを教え
 てくれた。彼女はそのときもう高校の二年生かそれくらいになっていた。その家を出て以来、私
 は彼女とは一度も顔を合わせていなかった。ときどき電話で話をするくらいだった。私はその家
 をもう一度訪れたいという気持ちにあまりなれなかったし、またとくに行かなくてはならない用
 件もなかったからだ。電話をかけてくるのはいつも彼女の方だった。

 「まだまだボリュームはじゆうぶんじやないけど、それなりに大きくはなった」とまりえはこっ
 そり秘密を打ち明けるように言った。彼女は自分の胸の大きさについて語っているのだと理解す
 るまでに、少し時間がかかった。

 「騎士団長が予言したとおり」と彼女は言った。

  それはよかった、と私は言った。ボーイフレンドはできたかと尋ねてみようかと思ったが、思
 い直してやめた。

突然の東日本大震災(→福島第一原発事故)の展開に驚き、また、また、「白いスバル・フォレスタ
ーの男」のメタファとは、あるいは秋川まりえの絵画に感じた「おぞましさ」とはこのことだったの
かと思い、さらに、住んでいた家が焼失した原因は何だっただろうという思いが後に引きずられこと
となった。この続きは次回(完結?)へ。


                                      この項つづく

● 今夜の寸評:エネルギーフリー事業始動

ブログテーマの重要課題も具体的な事業イメージできあがり、あとはプロジェクト各論が残るのみと
なり、ホームページの更新作業をしながらステージシフトということで、アートや音楽の方に気移り
している変化が生まれている(大作を一枚残したい、こころに残る曲を数曲作りたいと考えたりして
いるが、大きな変化の波が押し寄せていることもまた確かで、今以上に作業量が増えるが迷った(眼
精疲労が重篤化しているようで思いと裏腹に落ち込むことも数多く経験するようになった)。ここが
第二正念場、どうする、エネルギーフリー事業、大作よ!と。

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