『司 馬 法』(しばほう)
斉の司馬(軍事長官)だった田穣苴の説を記したものといわれる。5~6世紀ごろの成立。
『司馬法』は、仁本、天千之義、定爵、眠位、用衆の五笥(篇名に格段の意味はない)一貫した論理
性は稀薄だが、言句的なおもしろさをもったことばが少なくない。
目的と手段
古来、仁義による政治こそ正道とされてきた。だが、正道によって目的が達せられないときは、力に
訴えるほかない。それが戦争という非常手段なのであり、なまなかな人間のできることではない。つ
まり、人を殺すことによって人々の生活を安定させることができるならば人を殺してもよい。敵国を
攻めることによってその国民を幸福にできるならば攻めてもよい。戦争によって戦争をなくすことが
できるならば戦ってもよいのである。(仁本)
戦争と平和
どんな大国でも、好戦的な国はかならず滅びる。逆にまた、どんなに平和な時代でも、戦争に備えて
いない国はかならず危うくなる。(仁本)
必要なもの
戦うには正当な理由が必要である・行動をおこすにはタイミングが必要である。人を使うには感情が
必要である。(定爵)
逆
敵に会ったときこそ平静さを失うな。混乱したときこそ余裕をもて。困難にぶつかったときこそ部下
のことを忘れるな。(定爵)
知っていることは、はっきり見える
敵状をよく把捉していればヽその動きがはっきり見える。作戦がしっかりできていれば、どんな事態
にもビクともしない。(定爵)
へたな考え
進退にさいしてはたじろぐな。敵に遭遇してから作戦を考えるな。
見るということ
敵がまだ巡くにいるときは、じっくり観察せよ。そうすれば敵がおそろしくなくなるであろう。敵が近づいたら、む
しろあれこれ観察しないことだ。そのほうが迷いが生じない。(娠位)
観察と実行 この場合の遠近は、時間的な遠近におきかえることもできる。将来のことは十分に展望
し、観察し、あれこれ考えることがよろしい。だが、実行段階に入ったら右顧左阿することなくひた
すらぶつかることだ。長期計画と実施計画、知識と行動、理論と実践など、さまざまな場合の「遠近
と視」についてあてはまることばであろう。
【リサイクル蓄電池事業篇:25年に第2世代EV用電池市場は42億ドル】
ロンドンに本拠を置くリサーチ&コンサルティンググループのサーキュラー・エネルギー・ストレー
ジ(Circular Energy Storage)社は、エネルギー貯蔵用途向けに再構成電気車用バッテリーのビジネ市
場規模を公表。電動車用蓄電池および定置型蓄電池市場が急成長による相乗効果は継続的なコスト最
適化の有用なツールとなる。同研究グループによる最近の報告によると、長寿命リチウムイオン電池
の世界市場は、今年13億ドルと見込んでいる。
材料回収費は11億ドル規模で、残りの2億3000万ドルは修理、改装等の部門に分科する。中国
の電動車販売台数の増加に伴い、第2次電池市場規模の70%が全米で生まれる。この報告では16
%のシェアを持つ韓国が市場2番目の規模となる。蓄電池リサイクル市場は35億ドルに拡大、第2
次電池の市場は25年には42億ドルに達する。リサイクル蓄電池はポータブル機器では一般的だが、
エネルギー貯蔵システムなどの用途では、電動車用蓄電池の部品取りなどで長寿命化を図る。同社に
よると、電動車用は、その容量と残存寿命は、住宅用定置型貯蔵システムとして再利用できる。
● 電動自動車メーカーの新たな収益の流れ
日産、ルノー、BMWなどの電動車メーカとしては新たな収益源となる可能性があり25年までにエ
ネルギー貯蔵システム向け2次電池用途は、中国の蓄電池容量の半分を満たす42ギガワッアワーに
達するす。また、標準/共通化で製造プロセスの改善により、低コストで達成でき、収益が増加する
す。この分析で、英国の第2代電動車用蓄電池の事例研究では、数メガワット級蓄電池システムの予
備容量供給事業者は、1メガワット当たり約6万ポンド(年間6万5千ドル)の収益が得れると試算
する。日産リーフ電池生産(7千台=百メガワット)工場では、リサイクルにより年間収入は370
万ドルとなる。
● バッテリの再利用でコスト削減
ドイツでは、周波数規制価格がかなり高く、市場規模の増長に拍車がかかる。ドイツの同じ規模の生
産設備(年間1,800万ドル売上げ)では、第2次世代による5年長寿命化効果は約14,130ドルの収益
達成。この調査結果では、製品を回収し、処分またはリサイクルの管理を必要とする多くの電動車蓄
電池メーカにとって、長寿命化でリサイクル電池の数が減少するため有利に働く。さまざまな自動車
メーカが、蓄電池メーカと共同し蓄電池を供給することを公表。バッテリは元の容量の60%維持す
ることで、エネルギー放電サイクルが通常数分間影響するだけで1時間以上にならない。さらに、ブ
ルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(Bloomberg New Energy Finance)は、30年までに
世界のエネルギー貯蔵市場は、去年の6.25GWhをわずかに上回る305GWh以上に達すると予測している。
【定置用Liイオン蓄電池、43%増の5万台、2017年度の出荷量】
Jul. 27, 2018
第19章 酸化トマト「ブラックインク」をよみがえらせる最新研究
第7節 ガーナ、アシャンティ州クマシアクラ
雑踏のなか、あちこちでクラクションが鳴りひびく。老朽化した車両のガソリン気が漂う。
三輪トラック、ピックアッブトラック、ライトバンが次々と行き交う。なんという混沌とした風景だ
ろう。ひどい暑さだ。埃が舞うなかを、女たちは頭上に荷物を乗せてうまくバランスを取って歩いて
いる。男たちはタンクやダンボール箱を乗せた年代もののカートを押していろ。
たくさんの商品が次々と途切れることなく運ばれていく。
ここでは、すべての仕事が流れるように素早く行なわれる。男たちが一列に並んできびきびと手を勤
かしながら、バケツリレーの要領でトラックにコメ袋を積みこんでいる。植物油の売買交渉はものの
数分で終了したようだ。三輪トラックの運転手はさっさと支払いをすませ、中国産トマトペースト缶
が入ったダンボール箱数十個をてきぱきと単に積みこむと、あっという間に出発した。行き先は、ガ
ーナ国内のほかの市場、そして隣国のトーゴやブルキナファソだろう
ガーナ南西部の都市、クマシには、大量の農産物が集まる屋外市場かおる。西アフリカ最大のこの市
場は、かかしながらのにぎわいに満ちている。雑然としているがわくわくさせられる雰囲気だ。だが
その裏には、一握りの富裕層が多くの労働者を支配している現実がある。そしてそこには、加工トマ
ト産業の新しい勢力図が表れている。
ここではあらゆる商取引が行なわれる。外国からガーナを介してアフリカに輸入された商品が、ここ
を中紺地にしてあちこちの村へ輸送されていく。中国産濃縮トマトもそのひとつだ。
クマシは、加エトマト産業の歴史に刻まれる町のひとつとなったのだ。
「油、コメ、そしてトマトペースト缶が、クマシでは一番たくさん売れているんだ」と、クイントン・
リウが言う。わたしたちは、市場の細い路地を奥へ向かって進んでいく。クイントンには、ガーナ入
の営業担当者とふたりの中国人従業員が随伴している。営業担当者は、クマシ周辺のことば、トウ
ィ語のアサンテ方言を話す。中国入たちはクイントンより年上だが、クイントンの命令に従って勅い
ている.、
さまざまなものが空中を揺れながら進んでいく。女たちが頭上に荷物を乗せて歩いているからだ。高
いところに商品が並ぶ様子は圧巻だ。まるで宙に浮かぶ巨大コンベアのようだ。卸売業者は、車が渋
滞する大通り沿いに店を構えている。一般客向けの商店や屋台は、小さな掘っ建て小屋や、老朽化し
たピルの上限に並んでいる。上限から見下ろすと、掘っ建て小屋のトタン屋根がまるで大海のように
広がっていた。階段では子どもたちが所在なさげにうろうろしいる。屋根のない通路では、みすぼら
しい格好をした男たちが日陰に敷いたダンボール紙の上に座りこんでいる。
「この市場では、およそ五〇種類のトマトペースト缶が売られている。その90パーセントが中国企
業の商品だ。中国の缶詰メーカーは、大手企業のプライベートブランド商品と自社ブランド商品の両
方を手がけているからね」
そう言うクイントンの左前腕に、大きなタトゥーが彫られていた。高速で進む船が描かれている。経
済戦争を勝ちぬくための戦闘用ガレオン船だろう。
「アフリカに濃縮トマトを輸出することは、中国にとってどうしても必要だった。新疆ウイグル自治
区にはたくさんトマト加工工場かおるから、商品の供給先を増やさなくてはならなかったんだ。アフ
リカはそのひとつで、かなりの売上が期待できる。今、ガーナで父とぼくが行なっているビジネスは、
天津のプロヅァンス社でやっていたやりかたとは全然違う。ここでのぼくの仕事は、市場がどうなっ
ているかを細かくチェックし、ライバル会社の戦略を把握することなんだ」
わたしたちは五時間かけて市場を歩きまわり、輸入トマトペースト缶を専門とする卸売業者を一軒ず
つ訪ねてまわった。店めぐりのルートマップは、クマシにある中国系ホテル、ロイヤル・パーク・ホ
テルのテラスで、クイントンの随伴昔たちによってあらかじめ作成されていた。クイントンは卸売業
者にさまざまな質問をした。商品の販売価格、ライバル会社のライン
ナップ、売上高、在庫状況、顧客の反応………リウー族はガーナの大手流通業者に商品を供給してい
た。こうした流通業者はほかのメーカーの商品も仕人れているので、それらがいくらで販売されてい
るかを確認して、自社商品の価格を調整しようとしているのだろう。
ある卸売業者の倉庫を見学した。トマトペースト缶のダンボール箱が天井までぎっしりと積まれてい
るなかを、迷路のように曲がりくねった通路を歩く。まるで洞穴にいるようだ。積みあげられた箱は
建物二階分の高さになっていた。かなり危険な保管方法だ。何百という缶詰の重みで下のほうの缶詰
がつぶれてしまう可能性かおる。もし缶に穴が開けば、中身は変質して食用に適さなくなる。トマト
ペーストが入ったブリキ缶は、見た目は頑丈そうに見えて、意外と取り扱いに注意が必要なのだ。だ
が、天津やガーナの生産現場を見てきたかぎり、食品産業における基本的なルールを気にしている業
界関係者はあまりいないらしい。
トマトペースト缶の洞穴のような光景はかなり衝撃的だった。ほかの卸売業者でもたいてい同じよう
な状況らしい。それを知って、濃縮トマトに関してガーナは完全に中国の植民地化していると陪った。
ガーナのトマトペースト缶市場の五大ブランドは次のとおりだ。ワタンマルのプライベートブランド
である「ホモ」と「ジーノ」、オーラム・インターナショナルのブライベートブランドのIテイステ
ィ・トム」、リウー族のブランドの「ラ・ヅオンス」と「タム・タム」。いずれも中国産濃縮トマト
に添加物を混ぜた製品だが、消費者に正しい情報を呈示さえすれば違法行為ではない。そこでタムー
タムは、製品名称を「トマトペースト」から「トマトミックス」に変更した。添加物についても巧妙
な宣伝文句を見いだし、2016年11月に公開されたポスターにこう明記した。「栄養強化トマト
ミックス。ビタミン豊富。食物繊維添加。おいしくてヘルシーな食事のために」。食物繊維が健康に
よいことをアピールしはじめたのだ。同様に、ポモも製品名称を変更し、原材料をラベルに明記する
ようになった。
現在、リウー族のラ‘ヴオンスとタム・タムがシェアを仲ばしつつある。広告宣伝を大々的に行なっ
ている効果が表れているのだ。 「もし中国で、消費者に知られていないトマトペースト缶についてスーパー
マーケットで4億ドルの売上をたてるなら、広告宣伝費は7000万ドル必要なんだ」
クイントンはそう言うと、いかにもおかしそうに笑いだした。中国に比べるとガーナでの広告宣伝費はバカみた
いに安いのだという。宣伝キャンペーン1回につき数万ドルしかかからなかったそうだ。いまやこの
国では、ラジオCMや雨中の広告パネルで、リウー族のトマトペースト缶の宣伝を聞いたり見たりし
ない日はない。晨新商品の「ラ・ヴォンス」には混ぜものをした中国産濃縮トマトしか使われていな
いが、巨大広告パネルには堂々と「伝統の品質」と書かれている。もちろん、イタリア国旗の緑・白・
赤のトリコローレに彩られている。
アフリカでは多くの食品ブランドが、ブランドカラーを配したエプロンを小売業者に配布している。
世界的に有名なソフトキャンディ、メントスの版促方法を真似たらしい。リウー族もこれにならい、
小売業者にトマトペースト缶ブランドのロゴ入りTシャツを配布した。ちなみに、アフリカでシェア
ナンバーワンのトマト缶、ジーノは、過去十年間で、西アフリカの各地に壁面広告を展開している。
その数の多さはアメリカの某有名炭酸飲料に匹敵するほどだという。
クマシの市場を歩きながら、クイントンはライバル会社のすべてのトマトペースト缶を順々に購入し
ていった。随伴するふたりの中国人のうちのひとりが、それをビニール袋に入れて持ち歩いている。
「これはすべてうちの科学者に調べてもらうんだ」と、クイントンは言った。
ガーナ、アクラ
その日の夜、わたしはアクラのリウー族の邸宅を再び訪れた。クイントンとわたしがクマシにいる間
、父親のリウ将官はガーナの通商産業省を訪れていたらしい。息子は、市場で購入したライバル会社
のトマトペースト缶を父親に見せ、広いテーブルの上にそれらを並べはじめた。そのとき、応接室に
ひとりの男性が入ってきた。分厚いレンズのメガネをかけ、遠慮がちにおとなしくしている。クイン
トンは男性の肩に右腕を回し、わたしに向かってこう言った。
「見てくれよ、こいつには数百万ドルの価値があるんだ。うちの科学者だ。ぼくたちのビジネスでも
っとも優秀な人間さ。かつては天津のブロヴアンス社の工場で働いてたんだが、今はここにいる。こ
いつは奇跡を起こしてくれるんだよ」
奇跡とは何だろう?クイントンが説明してくれる。この男性に、世界でもっとも安く売買されている
三倍濃縮トマト、ブラックインクを渡し、完成品のトマトペースト缶に濃縮トマトを何パーセント使
いたいかを伝える。それだけで、このリウー族専属の科学者が最良のレシピを考えてくれる。商品と
して販売するのに最適な添加物の分量を敦えてくれるのだ。
一見簡単なことに思われるかもしれないが、しつけそうではない。ブラックインクに水をたっぷり入
れたら、とろみをつけるためにデンプンや食物繊維を加えなくてはならない。だが多く入れすぎると
色が薄くなるので、今度は着色料を加えなくてはならない。だが入れすぎると粘り気がなくなり、ト
マトペーストとは似ても似つかないものになるおそれがある。ここにいる利学者は、それぞれの添加
物のちょうどいい割合を見つけられる唯一の人物なのだ。では、彼の最新のレシピとは?濃縮トマト
ご28パーセントに対し、添加物六69パーセントだという。
「ほら、これが今日の缶詰だ」
クイントンはそう言って、ライバル会社の缶詰を和学者に手渡した。彼はそれらを持って応接室から
出ていった。さっそく研究室で分析を始めるのだろう。他社のトマトベースト缶にどれくらい濃縮ト
マトが含まれているか、正確な割合を調べるのが彼の任務だ。リウ親子は、ほかの商品にどれくらい
の割合で添加物が入れられているか知りたいのだ。リウ将官は息子に向かって言った。
「今ここで値段の話をするのはやめよう。明日、分析の結果を待ってからだ。結果さえわかれば、コ
スト計算もできるし、戦略も立てられる」
リウ将官は、わたしと握手を交わして別れの挨拶をすると、応接室から出ていった。玄関まではクイ
ントンが見送りにきてくれた。番犬のジャーマンシェパードもいっしょだ。クイントンによると、通
商産業省での父親の会見はうまくいったのだそうだ。「ここの土地は本当に安いんだ。だから、数カ
月以内にはガーナに自社工場を建てて、天津の生産ラインを丸ごと持ってくるつもりだ。それから、
カジノも開こうと思ってる」
わたしは、邸宅を取り囲む高い塀の上の電気柵に目をやった。電気柵はかすかに青白く定っている。
署い夜たった。星は見えない。
「カジノですって?」
わたしが驚いて尋ねると、クイントンは犬の頭をなでながら答えた。
「そうさ、賭博場だよ」
著者注:ローマからトゥウーロンまで。
本書は2014年6月から2017年まての取材に基づく。
訳者あとがき
本書『トマト缶の里一い真実』L'Empire de l'or rouge : Enquéte mondiale sur la tomate d'industrieは、フ
ランス入ジャーナリスト、ジャン=パティスト・マレの第三作だ。わたしたちに身近な食品のトマト
缶、とくにトマトベースト缶の生産と流通の裏側を暴いた、他に類を見ないルポルタージュである。
ジャン=バティストーマレは、1987年生まれの30歳(2017年時点)。《ルーモンド・ディ
プロマティーク》《シャルリー・エブド》《リュマニテ》など、有名誌に寄稿する新進気鋭のジャー
リストとして、フランス国内で注目を集めている。2014年に発表した第二作、『アマゾン世界最
良の企業潜入記』En Amazonie, Infiltre dans le meilleur des mondes (未訳)は、世界的なネットー通販
サイト、アマゾンの配送センターに臨時スタッフとして潜入取材したルポルタージュで、ブラック企
業並みの過酷な労働条件を告発した問題作としてベストセラーになった。同年の「高校生が選ぶ経済
・社会学図書賞」を受賞し、ヨーロッパ各国語に翻訳されている。
『アマゾン』は、多くのフランス入に「サイトの購入ボタンをクリックするのをためらうようになっ
た」と言わせるほど社会問題になったが、その一方で「たった数週間勤務しただけで何かわかるのか」
「物流や製造業毀では当たり前の話。取材不足では?」という批判の声も上がった。だが本作のIト
マト缶』は、前作に厳しい目を向けた読者も手放しで賞賛するほど、徹底した取材に基づいて書かれ
ている。実際、著者は「アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカを、何万キロメートルも移動し(
中略)、業界のトップ経営者のほか、無名の労働者、破産したトマト生産者、移民キャンプで暮らす
日雇い収穫労働者たちの話を関いた」(本書より抜粋)のだから。
本書は2017年5月の出版と同時に大きな話題になり、前作に引き続いてベストセラーになった。
多くの新聞・雑誌が書評を掲載し、著者本人にはメディア出演の依頼が殺到した。大手経済紙《レゼ
コー》は「これはルポルタージュであると同時に、冒険小説、サスベンス、ディストピア小説でもあ
る。身近な食材であるトマトを通じて読者をグローバル経済の恐怖に陥れる。とてもおもしろく、素
晴らしいが、恐ろしい本だ」と、的確な表現で賛辞を贈っている。
本書の取材・執筆には、2014年6月から2017年4月まで、3年近い年月が費やされた。19
世紀のイタリアで誕生し、ファシスト政権下で発展し、アメリカでグローバル化された加エトマト産
業の歴史を詳しく紹介しつつ、中国・アフリカ・南イタリアの収穫・生産現場の過酷な労働、マフィ
アとトマト缶の関わり、中国産ドラム缶入り濃縮トマトにまつわる秘密などの驚くべき事実を、自ら
の体験と関係者の証言によって次々と暴露していく。
界の食品産業の危機、資本主義と自由競争のマイナス面、移民問題など、重要な社会問題をテーマに
したノンフィクションだが、決して無味乾燥でも堅苦しくもなく、文芸作品のような叙情性を感じさ
せる点け、本書の大きな魅力のひとつだろう。ほぼすべての章の冒頭に、まるで映画のワンシーンの
ように豊かな情景描写がなされ、その世界にぐいぐい引きこまれていく。とりわけ、第1章の冒頭の
ドラマティックな幕開け、第8章の冒頭の緊迫る、第17章ラストの崇高なまでの悲壮さは、読んで
いて鳥肌が立つほどだ。
もうひとつの本書の魅力は、まるでミステリーのように展開する独特の構成だ。時系列・エリア別に
進行するのではなく、さまざまな時代や国や人物が一見順不同に登場し、消えたかと思えば再び現れ
る。さらりと語られたことばが実は伏線たったことに後で気づかされたり、謎かけが徐々に解明され
ていったりする。まるでパズルのピースをひとつずつはめこんでいくように、一章ずつ読み進めるこ
とで全体像が少しずつ明らかになっていくのだ。
最終章、すべてのパーツがようやくあるべき場所におさまったとき、著者はただ空を見上げて沈黙す
る。多くの情報を呈示し、わたしたちが今どういう世界にいるのかを教え、警鐘を鳴らしつつも、具
体的な解決策は示さない。今後どうすべきかは、読者の熟考、良心、行動に委ねられている。だが、
本書に示された真実を知った後は、誰もが深く考え、自らの良心に問いかけ、何らかの行動に移さず
にはいられないだろう。それこそが本書の役割なのだ。本書はさまざまな読み方を可能にするが、自
由」が重要なキーワードのひとつになっているように訳者には思われる。ぜひともあちこちに散りば
められた「自由」ということぼ(完全自由主義、自由貿易、選択の自由など)に注目し、「自由」と
は何か、一部の人間の「自由」のために大きな犠牲が強いられていないか、もう一度考えてみたい。
前述したように、本書は独特な構成のため、読みづらさを感じる読者もいるかもしれない。あとがき
の最後に、主な出来事を時系列に並べてみたので、参考にしていただければ幸甚だ。最後にひとつ補
足を。最終章で紹介されるガーナの五大トマトベースト缶ブランドのうち、「ジーノ」「ホモ」「テ
イスティ・トム」は今も人気が高いようだが、リウー族のブランドである。
「ラ・ヴオンス」と「タム・タム」に開する情報は見つからなかった。いったい彼らは今どこで何を
しているのか。おそらく、会社や工場を次々と設立・解体しながら、世界の加エトマト業毀のどこか
で生き延びているのだろう。新疆ウイグル自治区で今も大量に生産される濃縮トマトを、いかなる手
段を使ってでも売りさばくために。
と、本書を訳しながら思っていたところ、このあとがきを書いている2018年1月、あるニュース
記事を見つけた。ガーナのアクラ近郊で「ラ・ヴオンス」というトマトペースト缶を生産する中国人
経営企業の工場が、公害と騒音のために環境保全局から操業停止・退去命令を受けたにもかかわらず、
違法に操業を再開したというのだ。この会社はもしかして………ぜひ著者に追加取材をしてほしいと
ころだ。
本書は、翻訳家の郷奈緒子、中市和孝、宮地明子、吉野さやか(敬称略、五十音順)の四氏の多大な
る協力に支えられて完成した。心から御礼申し上げたい。また、本書のコーディネートをしてくださ
った訳者の恩師である翻訳家の高野優氏、訳者の作業を温かく見守りながら根気よく指導してくださ
った編集者の川上純子氏の両氏にも、この場を借りて深謝申し上げる。
ジャン=バティスト・マレ著 『トマト缶の黒い真実』
濃縮トマトにまつわるのグローバル経済、あるいはトマト栽培/食品加工史と文化的背景の啓蒙に大
いに役立ったが、「腐ったトマトのブラックインク」などのリスクや安全性に関する情報が乏しいこ
とが消化不良として残る。とは言え、そのたの食品加工品と同様に多くの多国籍のトレーサビリティ
ーの貧弱を考えれば大変難しい。その問題解決のプロジェクト構想もわたしなりに考えてもみた。ま
た、昨日に掲載した「腐ったトマトをメタン発酵させエネルギー変換する技術」のように「ゼロ・ウ
エスト事業」や「持続可能な社会化事業」も考えさせられたが、著者や訳者の多大な労力に敬意を表
したい。多くの課題をまた残すこととなったが今後の作品の上梓を楽しみとしたい。
自家製健康トマトソースレシピ
この項了