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ロシア疑惑と異常気象

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『李衞公問対』 (りえいこうもんたい)

七世紀唐の将軍事情の説を記したものとされる。「問対」とは「問答」のこと。

『李衛公問対』は、唐の太宗と名将李靖の対話の形で構成されている・古代の兵法が成立して
から千年近い歳月を経ているだけに、強烈な主張はないが、各兵法書のエキスをとりいれてい
る。



管理体制か人心の掌握か
太宗がたずねた。
「『管理体制を厳しくすれば、兵士たちは、君主を畏れて命令に従い、敵を畏れず戦うように
なる』と、昔の兵法家がいっているが、どうも疑問に思う。漢の光武皇帝は、桜草もなく孤立
した軍勢で、王萍のひきいる百万の大軍を打ち破った。当時、法律や刑罰などの管理体制が整
っていたわけでもないのに、兵士たちは敵の大軍をおそれもせず戦った。これはどういうわけ
であろうか」
李靖(りせい)はこたえた。
「軍の勝敗の形態は千差万別であり、単純ではありません。かつて、秦の圧制に反抗して決起
した陣勝と呉広が、秦の軍に勝利したのは、かれらの法律や刑罰が秦よりすぐれていたためで
はありますまい。また、おたずねの光武皇帝が王翼を撃って後漢王朝を創建したのは、人心が
王萍から離反している情勢に即応したからです。まして、王萍の下で将として草をひきいた王
将・王邑は兵法に通ぜず、ただ兵力さえ多ければよいと考えておりました。大軍を擁しながら
自滅したのはそのためです。

孫子は、こういっております。『まだ部下がよくなじんでいないうちに、わずかの過失があっ
たからといって、これを罰するならば、その部下は心服しない。心服しない者は使いにくい。
逆に、すっかりなじんでいて、過失があっても罰しないならば、押れてしまう。押れてしまっ
た者は役に立たない』。思いますに、この孫子のことばは、部下に対してはまず愛情によって
人間関係を強化し、そのうえで、過失があれば厳しく処罰すべきであることを示しているので
す。もし、愛情を按きにして、厳しく管理するだけであったならば、うまくゆくはずがありま
せん」
太宗が聞き返した。
「だが、『尚書』には、『愛情より賊しさが勝っている場合は成果が上がり、厳しさより愛情
が勝っている場合は失敗する』と記されているではないか。これはどうか」
李靖はこたえた。
「まず愛情をもって部下を信頼させ、そのうえで、まちがったことをしたら厳しく罰するので
す。この順序をとりちがえてはなりません。先に厳しくしておいて、あとがら愛情で接しよう
としても、うまくゆきません。『尚書』は、結果について注意をうながしているのでありまし
て、前後の関係をいっているのではありません。『孫子』のいうところは、永遠の真理です」

〈太宗〉  唐帝国の二代皇帝
〈光武皇帝〉後漢帝国の創始者(在位、西歴紀元25~57)。前漢帝国を賊はした王莽の大
軍を打ち破り、漢帝国を再興し、その後三百年にわたる繁栄の基をきずいた。
〈王藻〉  西歴八年、前漢帝国を滅ぼし、「新」という国号のもとに改革を行なおうとした
が失敗し、約15年で、劉秀(後の光武帝)のため滅ぼされた。劉秀は、わずかの兵をひきい、
玉藻の部将である王将・王邑のひきいる百万の大軍を破ったのである。
〈李靖〉  太宗に仕えた名将。衛国公に封ぜられたため李衛公と尊称された。『李衛公問対
』は、太宗と李靖の問答集という形をとっている(解題参照)。
〈師勝と呉広〉秦末、農民軍をひきいて反乱をおこし、一時は天下を制約した。
〈孫子のことば〉→『孫子』行軍笥(96頁)。
〈『尚書』〉『書経』ともいう。中国古代の歴史、伝説を素材にした儒教の書。 

  Wikipedia
Russian interference in the 2016 United States elections

【トランプ政権のロシア疑惑Ⅰ】

7月13日、米首都ワシントンに隣接するメリーランド州で、州選管の票集計や有権者登録シ
ステムの運営を請け負う地元のソフトウエア企業が、ロシアの投資会社に買収されていたとい
有権者を驚愕させる出来事が発覚したことが報じられた。州都アナポリスで緊急記者会見を開
いたトーマス・ミラー州上院議長とマイケル・ブッシュ州下院議長によると、問題の投資会社
は「アルトポイント」という名称で、2015年に地元ソフト企業「バイトグリッド」を買収
されるが、その投資会社の最大出資者がウラジーミル・ポターニンというロシアの大富豪であ
ることが最近になって分かった。選管関係者によると、ポターニンはプーチン露大統領と「親
密な関係」にある。アルトポイントの業務執行役員もジェラルド・バンクス(旧名ゲルマン・
アリエフ)という、姓名を米国風に変えた露大富豪。同2人は連邦捜査局(FBI)に通報し捜査
を依頼。ミラーは、ロシアが投資会社を通じて州選管に不正行為を仕掛けた証拠は現時点で見
つかっていないが、米露の冷戦は現在も続いている。ロシアは悪の帝国だ。私たちの選挙プロ
セスをカネで買い、玄関先まで押し寄せている(=選挙干渉/主権侵害/内政干渉)と話す(
下写真参照)。

 Jul. 13, 2018

また、アナポリスでの記者会見と同じ日、連邦大陪審は16年の大統領選で民主党候補だった
クリントン元国務長官の陣営幹部らのメールをハッキングで入手してネット上で暴露する「選
挙干渉」に関与したとして、露軍情報機関「参謀本部情報総局」(GRU)要員だった12人
を起訴。米情報機関は、ロシアが16年の大統領選で、結果を人為的に左右し、有権者の対立
をあおり民主制度への信任を低下させることを狙った、サイバー攻撃などによる「選挙干渉」
を実行したと断定した。これに対し、情報機関は、一連の干渉は選挙結果に影響を与えなかっ
ものの、トランプ政権の安全保障関連省庁や連邦議会、現場の選挙を取り仕切る州政府に、ロ
シアが18年の中間選挙、20年の大統領選でも干渉行為を仕掛けてくることは必至とし、対
策強化を急ぐ。

このメリーランド州の一件をめぐっては7月下旬、同州選出の連邦下院議員らが連邦選挙シス
テム処理業者を米国人所有/米企業限定を義務づけた法案を超党派で提出。上院では今月初旬、
ロシアの選挙干渉が判明した場合、さらに厳格な対露制裁を科すことを盛り込んだ超党派法案
も提出しているが、民主党のマカスキル上院議員の事務所がロシアにハッキングされるなど、
複数の候補に対するサイバー攻撃が早くも表面化しており具体的対策の遅れが目立っている。
ロシアの狙いは、電子投票システムへの侵入による投票結果の書き換えだが、電子投票導入州
のうち、デラウェアやジョージアなど5州は投票集計を紙に印字し記録として残しておらず、
外部から書き換え操作されても分からず「最も脆弱な州」にある。



尚、上院では7月中旬、電子投票を次の大統領選までに廃止して紙による投票を全面採用する
ことを定めた法案を民主党議員5人が提出するも、費用面などの問題で消極的な州も多く、最
大の懸念材料は、トランプ大統領が7月16日の米露首脳会談での記者会見でプーチン露大統
領に干渉をやめるよう強く要請しないなど「対露融和」言動を繰り返していることにある。ロ
シアの干渉が「あったとは思えない」と述べて非難を浴びたトランプ発言の失地を挽回するか
のように、最近のトランプ政権は厳しい対露政策を次々と打ち出しているが、同大統領からは、
露の干渉を否定する(8月3日のペンシルベニア州での集会)かののような発言がいまなお飛
び出している(米中間選挙 忍び寄る露の干渉、産経新聞、 2018.08.07)。

 Aug. 7, 2018

● ミュラーの「ロシア選挙関与調査報告」を話半分に受け取るトランプ支持者

トランプ大統領へのミュラーのロシア選挙関与調査による批判が激化しても支持率変わらない
と言う(上写真参照)。同大統領は特別顧問の捜査の中心であるトランプタワーでの16年の
選挙対策会議――大統領の長男、ドナルド・ジュニアが選挙期間中の16年6月、ヒラリー・
クリントンの不利な情報を持つロシア人弁護士に面会していた。陣営の外交顧問だったジョー
ジ・パパドプロス被告が、ロシア関係者との接触と面会の仲介についてFBIに嘘をついたと認
めたこと――の話を変えてきているが(AP, 2018.08.06)、ジョアネ・ムジアルは、ウラジミー
ル・プーチンとは特別な関心はなく同大統領を信頼しており、ロシアの選挙関与には否定的で
あるとする。また、ペンシルバニア州カナデンシスの66歳の退職者も同し意見でだと話す。
トランプ支持は、ホワイトハウスでの激動する18ヵ月間を通じ大統領の政治的優位を認めて
いる。 支持者の3分の2は16年の選挙関与したことを認めるが調査報告は誇張されたものと
して受け止めている。このように同調査が強化されるにつれて、どのようトンプル大統領が裁
かれるかが有権者の関心事となるが、特に脅威と感じないとと話す(以降、有権者のトランプ
に対する評価をレポート USA TODAY 2018.08.07)。このように、トランプ支持は堅調である
ことが伝わってくるが、その背景には、新自由主義(英米流金融資本主義)による格差分断の
拡大と不況感に対する疎外と反発がトランプ支持のエネルギーとして横たわっていることが読
み取れる。これは面白い情報だったので別件扱いに。

                                    この項つづく

           

【守る会日誌:暑気払いで気炎を上げる】  

7月6日、午後6時から居酒屋「伝五郎ベルロード店」で暑気払いの宴を張る。吉田さんの小
学校の特別支援活動の体験報告の独演会状態で四人衆の近況を話し合った。この内私だけがデ
スクワークで他の三人衆はそれぞれの職場で汗を流している。私の方から、❶世界的な異常気
象下での猛暑による作物の不作と灌漑水温度の上昇対策、❷墓守と墓仕舞いへの心構え(終活)、
❸彦根での脱原発運動の今後の展開の確認を話し合う。❸については、地域運動体ての連携と
該当団体への新規加入(三名)することを決める。❶は、水都施工を経営する辻さんに地下水
くみ上げ工事費用の概算(手動/自動)を訊く。今後琵琶湖の水温は上昇を続けていくので、
RE100型家庭/事業向け廉価な地下水揚水システム導入保守管理の必要性を痛感しているが、
訊くと水温は20℃程度だと言うので、想定していた15℃以下を上回り見直しが必要となる。
下図のように関連特許技術を参考掲載しておく。                   

 



【読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』No.7】  

 

第1部 第2章

「だめですよ、アクセル、二人で等しく分かち白わなくては。わたしね、下のあそこのどの道
を通ればいいか思い出したの。だから、道が雨で流されていなければ、これまでの道のりより
だいぶ楽になるはずよ。でも、一箇所だけ注意が必要なところがあって……聞いてくれている
の、アクセル?それはね、道が巨人の埋葬塚を通るとき。知らない人にはただの丘に見える
でしょうけど、わたしが白図したら、そのときは道を外れてついてきてくださいね。丘の縁を
ぐるりと回って、また道に戻るまでですよ。いくら真昼でも、わざわざお墓を踏みつけて通る
なんて、すべきことじゃないと思うから。いいこと、アクセル?」
「心配いらないよ、お姫様。よくわかった」
「念のために言っておきますね。路上に人を見かけたり近くから呼ばれたりしても、話したり
速度を緩めたりしてはだめ。罠にかかったり溝にはまったりして怪我をしているかわいそうな
動物を見かけても、そのほか何か注意を引くようなものに出会っても同じですよ」
「わたしだってばかではないよ、お姫様」
「では、行きましようか、アクセル」

ベアトリスが言ったとおり、太平野を歩く距離はほんの少しですんだ。道はところどころぬか
るんでいたが、道の体裁をきちんと保っていたし、日陰になる場所もなかった。最初は下り、
やがてまた徐々に上りはじめて、高い尾根に出た。右にも左にも荒れ地が広がっている。
猛烈な風が吹いていたが、真昼の太陽が照りつけている時刻には、かえってありかたかったと
言えなくもない。地面は膝ほどの高さのヘザーとハリエニシダで覆われていて、高木はまばら
だ。たまに視野に入ってくる木は、どれも一本だけひょろりと生え、吹きやむことのない強風
のために老人の腰のように折れ曲がっていた。やがて右手に谷が現れ、二人は太平野の秘める
力と神秘を思い出して、自分たちはいまそのほんの一部を横切っているのだという思いを新た
にした。

  Feb. 17, 2011

大平野を渡る間、二人はできるだけ離れまいとし、アクセルの爪先とベアトリスの腫が触れ合
うほどにくっつき白って歩いた。五、六歩行くごとに、「いるの、アクセル?」とベアトリス
が呼び、「いるよ、お姫様」とアクセルが答える。まるで儀式のようなそんな掛け白いをつづ
け、それ以外には一言もしやべらず、二人は先を急いだ。不意にベアトリスが白図をした。巨
人の埋葬塚が近くなったようだ。二人は道からわきのヘザーに逸れたが、そちらを歩く間も同
じ調子で掛け合いをつづけた。聞き耳を立てている悪魔に、なんとしても心の内を探らせまい
とする努力のように見えた。アクセル自身もまた、ベアトリス主導のこの掛け合いに応じる。
一方で、四方に気を配りつづけた。霧の動きが異様に速くないか。空か急に曇ってきはしない
か………幸いどちらの兆候もないまま、無事、大平野を抜けて森に入った。口では何も言わな
いものの、鳥の鳴き声の中を進むベアトリスの後ろ姿からは、いかにもほっとした様子が見て
とれた。儀式のような掛け白いも終わった。



小川のわきで一休みした。足を洗い、パンを食べ、水筒を満たした。ここから先は、ローマ人
が残した長い道をたどる。道は周囲より少し窪んでいて、両側にオークや楡の木が立ち並び、
これまで歩いてきた野の道よりずっと歩きやすい。だが、当然、人通りも多くなるから、やは
り警戒はたれない。実際、歩きはじめてから一時間も経たないうちに、母と子の三人連れ、驢
馬追いの少年、一座に追いつこうと急ぐ旅の役者二人に出くわした。どのときもアクセルとベ
アトリスは挨拶のために立ち止まり、当り障りのない言葉を交わした。一度、向こうから車輪
と馬蹄の音が響いてきたことがあって、このときは急いで溝に隠れたが、結局、サクソン人の
農夫が荷馬車に薪を山と積んで通りかかっただけで、危ないことは何もなかった。

午後の中頃になると空か曇り、嵐の気配が漂いはじめた。二人はオークの大木の陰にすわり、
通行人から身を隠すようにして休んでいた。道に背を向け、眼前は何もない大地だったから、
天候の変化にはすぐに気づいた。

「心配ないよ、お姫様」とアクセルが言った。「この木の下なら、お天道様が戻るまで濡れず
に待てるさ」 だが、ベアトリスは立ち上がり、上体を前に傾けて、額に手をかぎした。「あ
の先、道が曲がっていくのが見えるでしょう、アクセル?とすると、ここからあまり遠くない
ところに古いお屋敷があるはず。女だちと来たとき、そこで雨宿りしたことがあるの。ぼろ家
だけど、屋根はちゃんとしていましたよ」
「嵐の前に着けるだろうか、お姫様」
「いますぐ出れば」
「では、急ごう。わざわざびしょ濡れになって命を落とす必要はないからな。それにこの木は、
こうやって見ると葉が隙間だらけだ。空の大部分が透けて見える」



                     ※

廃屋は、ベアトリスが記憶していたより道から離れたところにあった。頭上が暗くなり、雨の
最初の数滴が落ちはじめたとき、二人はローマ人の道から枝分かれした脇道で悪戦苦闘してい
た。腰までもある緑麻が生い茂り、進むにはこれを杖で叩き、掻き分けていかねばならない。
それに、本道からはあれほどはっきり見えていた廃屋が、脇道に入ったとたん木々や葉に隠さ
れて見えなくなった。だから、不意に目の前にそれが現れたとき、二人の旅人はほっとすると
同時に、むしろとても驚いた。

ローマ時代にはさぞかし豪壮な屋敷だったのだろうが、いまはほんの一部しか残っていない。
目を見張るようだったはずの床も風雨にさらされ、あちこちによどんだ水溜りができて、色あ
せたタイルの隙間から雑草が伸びている。壁も崩壊が進み、低いところではくるぶしの高さほ
どしか残っていないが、それでも七日の部屋の形状や配置がその壁跡から見てとれた。石のア
ーチがあって、そこをくぐると建物の残存部分に入れる。二人は注意深くアーチに近づき、敷
居で立ち止まって聞き耳を立てた。やがてアクセルが大きな声で「どなたかいますか」と呼ん
だ。笞えはなかったが、さらに「ブリトン人の年寄り二人です。雨宿りをお願いします。他意
はありません」とつづけた。

依然、物音はせず、二人はアーチをくぐって、その先にある構造物の影の中に入った。これは、
昔、廊下だったのだろう。少し行くと、広々とした部屋の灰色の光の中に出た。ここでも四方
の壁のうち一枚が完全に崩れ落ち、隣の部屋は部屋そのものが消失して、険悪な様相の常緑植
物が床の端まで押し寄せてきていた。ただ、残る三枚の壁に囲まれた部分は、ちゃんとした天
井もあって、十分に雨風をしのげる空間になっている。昔は漆喰が白く塗られていただろうに、
いまは黒く薄汚れているだけの煉瓦壁の前に、二つの暗い人影があった。一つは立ち、もう一
つはずっと離れてすわっていた。

転がった煉瓦に腰かけているのは、鳥を思わせる小さな老婆だった。黒いマントをまとって、
アクセルやベアトリスより高齢に見えた。フードが後ろに押しやられ、なめし革のような皮膚
をした顔がよく見えるが、目は深く窪んでいて、どんな目かわからない。曲がった背中がすぐ
後ろの壁に触れそうでいて、触れてはいない。その膝の上で何かが動いた。アクセルが目をこ
らすと、老婆の手に一匹の蒐がしっかりとつかまれていた。

同じ壁の一番奥まったところに、痩せて異様に背の高い男がいた。様子からすると、同じ天井
の下にはいたいが、老婆からはできるだけ距離をとりたいといったところだろうか。着ている
厚手の長い外套は、寒い夜に張り番につく羊飼いが着そうな代物だが、その割に、裾の下から
突き出している脛は剥き出しのままだ。足にはちやんと靴をはいている。アクセルの目には
漁師の靴のように映った。頭のてっぺんが見事に禿げているが、耳の周りからは黒い毛の房が
突き出していて、おそらくまだ若いと思われる。壁を向き、その壁に片手を突いて、身を硬く
して立っている。なんだか、壁の向こう側で起こっていることをじっと感じ取ろうとしている
かのようだ。アクセルとベアトリスが部屋に入ったとき、男は肩越しに振り返りはしたが、何
も言わなかった。老婆もまた、二人を見ても何も言わなかった。一御身に平穏あれ」アクセル
がそう挨拶すると、二人の態度が少しだけ緩んだように見えた。背の高い男がIもっと奥へど
うぞ、お二人。そこでは濡れますよ」と言った。

確かに、いま雨は土砂降りとなり、壊れた屋根のところどころから雨水が流れ落ちて、新客二
人が立つ床の近くでしぶきをあげていた。アクセルは男に礼を言い、ベアトリスを促して壁ま
で進むと、先客二人の中間あたりの場所を選んだ。妻が荷物を下ろすのを手伝ってから、自分
の荷物も床に置いた。

                        カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』

                                    この項つづく

 

 ● 今夜の一曲

” Between The Devil And The Deep Blue Sea” George Harrison

「悪魔と深い青い海の間」(日本語タイトル:絶対絶命)は、1932年に出版された米国ヒット
曲で、作曲:Harold Arle/作詞:Ted Koehlerので、1931年にCab Callowayにより録音される。
1931年のCotton Clubで発表されたリズムマニア(Rhythmania)である。 

Brainwashed

  The Making Of "Brainwashed"

 



【安坊峠/焼岳弾丸登山Ⅲ】

昨年果たせなかった五坐登山の第二坐目の焼岳を何とか登るも乗鞍岳・霧ヶ峰・仙丈ヶ岳の三
山が残っているが、日程的には9月中旬以降しか予定が立てられないから残り1坐(乗鞍岳か
仙丈ヶ岳)を候補とし無理のないスケジュールに限定する。ところで、焼岳の帰りのロングド
ライブで妙な体験をする。意識が飛びそうな疲れの中の「インディ500の疑似体験」という
もの。先天的なのか後天的なのかわからないが手先の神経が人より過敏にあり、例えば鉛筆硬
度が変われば筆跡が変化し、手の表面に触れる微細な異物に敏感なる癖があり、マウス操作が
妨げられる。今回は車のハンドルを握った途端、タイヤから伝わる微妙な振動に刺激され、そ
れまでの疲れ吹っ飛び、高速疾走でのアップ&ダウンフォースのコントロールがアクセルとハ
ンドル操作で可能になることに初めて実感。ロードスターの性能もあるのだろうが、若いとき
に体験しておれば佐藤琢磨越えも可能だったと妄想する。その反動でからか、昨日から疲れが
どっと吹き出し調子を崩す。
                                       

  


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